説明

苗移植機

【課題】 苗載台を横方向に移動させるための摺動部材において、メンテナンスの容易化、コストダウン、摺動抵抗の低減及び摩耗の低減を図ることを課題とする。
【解決手段】 苗載台(80)を機体に対して横方向に移動させて苗を所定の苗取出位置へ一株分づつ供給し、前記苗取出位置へ供給された苗を取り出して圃場に移植する構成の苗移植機において、機体と苗載台(80)との間に、ポリエチレン系樹脂で形成された摺動部材(124)を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苗移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
苗移植機の一例である乗用型田植機において、苗載台を機体に対して横方向に移動させて苗を所定の苗取出位置へ一株分づつ供給し、苗植付装置により前記苗取出位置へ供給された苗を取り出して圃場に移植する構成とし、機体側に固定された横枠と苗載台との間に、摺動部材を設けたものが知られている。この乗用型田植機は、前記摺動部材を苗載台に固定して取り付けており、横枠との接触面となる摺動部材の擦動面に潤滑油を供給して摺動部材の摺動抵抗の低減と該摺動部材の摩耗の低減とを図り、苗載台を円滑に横移動させることにより植付精度の向上を図っている。(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平7−289019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記背景技術によると、摺動部材の摺動面に潤滑油を供給するメンテナンスを要すると共に、潤滑油を適宜必要とするためにコストアップとなっている。また、摺動部材の摺動面にグリスやオイル等の粘性のある潤滑油を供給するので、前記摺動面に圃場の土や水が付着しやすく、反って摺動抵抗を増大させたり摺動部材の摩耗を促したりするおそれがある。
【0004】
そこで、本発明は、苗載台を横方向に移動させるための摺動部材において、メンテナンスの容易化、コストダウン、摺動抵抗の低減及び摩耗の低減を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記課題を解決するべく次のような技術的手段を講じた。
すなわち、請求項1に係る発明は、苗載台(80)を機体に対して横方向に移動させて苗を所定の苗取出位置(78)へ一株分づつ供給し、前記苗取出位置(78)へ供給された苗を取り出して圃場に移植する構成の苗移植機において、機体と苗載台(80)との間に、ポリエチレン系樹脂で形成された摺動部材(122、124)を設けた苗移植機とした。
【0006】
従って、請求項1に記載の苗移植機は、苗載台(80)上に苗を搭載した状態で、該苗載台(80)を機体に対して横方向に移動させて苗を所定の苗取出位置(78)へ一株分づつ供給し、前記苗取出位置(78)へ供給された苗を取り出して圃場に移植する。苗載台(80)を横方向に移動させるための摺動部材(122、124)は、ポリエチレン系樹脂で形成されているので、摺動面に潤滑油を供給しなくても摺動抵抗が小さく、耐摩耗性が高い。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、摺動部材(124)の摺動面に泥や水等の異物の排出を促す排出溝(124c)を設け、該排出溝(124c)は苗載台(80)の移動方向に対して斜めに形成される斜め溝(124f)を複数備えた請求項1に記載の苗移植機とした。
【0008】
従って、請求項2に記載の苗移植機は、請求項1に記載の苗移植機の作用に加えて、摺動部に侵入した泥や水等の異物を複数の斜め溝(124f)によりスクレープして掻き出し、効率良く排出することができる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の苗移植機によると、摺動部材の摺動抵抗が小さいので、苗載台(80)を円滑に横移動させることができ、植付精度の向上を図ることができる。また、摺動部材(122、124)は、耐摩耗性が高いため、使用による摩耗が少なく、交換が不要あるいは交換の頻度が少なく、メンテナンス性が向上すると共にコストダウンが図れる。更に、摺動面に潤滑油を供給する必要がないので、潤滑油を供給しないことで摺動面に圃場の土や水が付着しにくくなり、付着した土や水で摺動抵抗を増大させたり摺動部材の摩耗を促したりするようなことを抑えることができると共に、潤滑油の供給が不要となってメンテナンス性の向上及びコストダウンが図れる。
【0010】
また、請求項2に記載の苗移植機によると、請求項1に記載の苗移植機の発明の効果に加えて、摺動部に侵入した泥や水等の異物を効率良く排出することができるので、摺動部材(124)の摩耗を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の実施の一形態を、以下に説明する。
図1及び図2は、施肥装置付きの乗用型の田植機1を示すものであり、この乗用型の田植機1は、走行車体2の後側に昇降リンク装置3を介して苗植付部4が昇降可能に装着され、走行車体2の後部上側に施肥装置5の本体部分が設けられている。
【0012】
走行車体2は、駆動輪である各左右一対の前輪6及び後輪7を備えた四輪駆動車両であって、機体の前部にミッションケース8が配置され、そのミッションケース8の左右側方に前輪ファイナルケース9が設けられ、該前輪ファイナルケース9の変向可能な前輪支持部9aから外向きに突出する前輪車軸に前輪6が取り付けられている。また、ミッションケース8の背面部にメインフレーム10の前端部が固着されており、そのメインフレーム10の後端左右中央部に前後水平に設けた後輪ローリング軸11を支点にして後輪ギヤケース12がローリング自在に支持され、その後輪ギヤケース12から外向きに突出する後輪車軸に後輪7が取り付けられている。
【0013】
原動機となるエンジン13はメインフレーム10の上に搭載されており、該エンジン13の回転動力が、第一ベルト伝動装置14を介して正逆転切替可能な伝動装置となる油圧式の前後進無段変速装置(HST)15へ入力される。そして、該前後進無段変速装置(HST)15からの出力が第二ベルト伝動装置16を介してミッションケース8に伝達される。ミッションケース8に伝達された回転動力は、該ケース8内の伝動分岐部8aで走行用伝動経路と植付用伝動経路とに分岐して伝動され、走行動力と外部取出動力に分離して取り出される。そして、走行動力は、一部が前輪ファイナルケース9に伝達されて前輪6を駆動すると共に、残りが後輪ギヤケース12に伝達されて後輪7を駆動する。また、外部取出動力は、取出伝動軸17を介して走行車体2の後部に設けた植付クラッチケース18に伝達され、それから植付伝動軸19によって苗植付部4へ伝動されるとともに、施肥伝動機構(図示せず)によって施肥装置5へ伝動される。
【0014】
エンジン13の上部はエンジンカバー20で覆われており、その上に座席21が設置されている。座席21の前方には各種操作機構を内蔵するボンネット22があり、その上方に前輪6を操向操作するハンドル23が設けられている。座席21の右側には、前記前後
進無段変速装置(HST)15を操作する前後進変速レバー24が設けられている。また、ハンドル23の近傍には、苗植付部4の昇降操作及び作動の入切操作がおこなえる植付昇降操作レバー25が設けられている。エンジンカバー20及びボンネット22の下端左右両側は水平状のフロアステップ26になっている。また、走行車体2の前部左右両側には、補給用の苗を載せておく予備苗載台27が設けられている。
【0015】
昇降リンク装置3は、1本の上リンク70と左右一対の下リンク71を備えている。これらリンク70,71は、その基部側がメインフレーム10の後端部に立設した背面視門形のリンクベースフレーム72に回動自在に取り付けられ、その先端側に縦リンク73が連結されている。そして、縦リンク73の下端部に苗植付部4に回転自在に支承された連結軸74が挿入連結され、連結軸74を中心として苗植付部4がローリング自在に連結されている。メインフレーム10に固着した支持部材と上リンク70に一体形成したスイングアーム75の先端部との間に昇降油圧シリンダ76が設けられており、該シリンダ76を油圧で伸縮させることにより、上リンク70が上下に回動し、苗植付部4がほぼ一定姿勢のまま昇降する。
【0016】
苗植付部4は8条植の構成で、フレームを兼ねる伝動ケース77、マット苗を載せて左右往復動し苗を一株分づつ各条の苗取出口78に供給するとともに横一列分の苗を全て苗取出口78に供給すると苗送りベルト79により苗を下方に移送する苗載台80、苗取出口78に供給された苗を苗植付具37aで圃場に植付ける苗植付装置37等を備えている。
【0017】
苗載台80は、苗載面の裏側でその裏面側下部に左右方向に設けた横枠81に沿って左右動自在に支持されている。尚、前記横枠81に8条分の前記苗取出口78が設けられている。伝動ケース77の左右両側から突出して該伝動ケース77内の動力で横方向に左右往復移動する横移動棒82が設けられ、該横移動棒82の両端部に固着した連結部材83と苗載台80とが連結されていて、横移動棒82が左右往復動することにより苗載台80が左右往復動するようにしている。尚、伝動ケース77内には、リードカムと該リードカムに螺合する該リードカム軸が設けられている。従って、横移動棒82は、その中間部が伝動ケース77内で前記リードカムに固着され、前記リードカム軸の駆動回転により左右往復移動する構成となっている。
【0018】
苗載台80の裏面側の上下には、左右方向に長い左右移動用案内部材120、121がそれぞれ固着して設けられている。上側の左右移動用案内部材120は、側面視で下側が切り欠かれた門型の断面形状に形成されており、下側から支持される回転自在の支持ローラ122が係合している。この支持ローラ122は、上側の左右移動用案内部材120に沿う適宜位置(4か所)に複数個(4個)設けられ、伝動ケース77の上側に固着された苗載台支持フレーム123の上部に取り付けられている。下側の左右移動用案内部材121は、側面視で下側が切り欠かれた門型の断面形状部分121aとその直上の四角形の断面形状部分121bとを備え、門型の断面形状部分121aにスライダ124が固着されている。このスライダ124は、上部に設けた突起124aを下側の左右移動用案内部材121に設けた取付孔に挿入して固着する構成となっており、下側の左右移動用案内部材121に沿う適宜位置(4か所)に複数個(4個)設けられ、横枠81の上部に備えるレール部分81aに上側から係合する。従って、苗載台80は、支持ローラ122と横枠81とにより左右方向に移動可能に支持されている。また、支持ローラ122とスライダ124とは、ポリエチレン系樹脂(超高分子量ポリエチレン)で形成された摺動部材となっている。
【0019】
尚、前記スライダ124は、側面視で下側が切り欠かれた門型すなわちコの字型の断面形状となっており、内部に3平面からなる側面視コの字型の摺動面を備える。側面視コの字型の摺動面の中央に前記3平面のうち最も面積の広い主摺動面124bが構成され、前記3平面の中でこの主摺動面124bの法線方向が最も鉛直方向に近く、主摺動面124bの接触面の面圧が最も高くなる。また、スライダ124の摺動面には、泥や水等の異物の排出を促す排出溝124cが設けられている。この排出溝124cは、側面視コの字型の摺動面の下側の隅部124dで左右に伸びる主溝124eと、スライダ124の左右中央で前記主溝124eと連通し左右両側にいくにつれて主溝124eから離れるように主摺動面124b上に斜めに形成される斜め溝124fとを備える。尚、斜め溝124fの左右両端は、主溝124eが形成される隅部124dとは反対側(上側)の隅部124gに達している。従って、スライダ124の左右移動により、主摺動面124bと横枠81のレール部分81aとの間に侵入した泥や水を斜め溝124fが主溝124e側へスクレープして掻き出し、主溝124eによりスライダ124の左右へ効率良く排出することができる。これにより、スライダ124又は横枠81のレール部分81aの摩耗を防ぐことができると共に、排水性が向上するので、摺動面に水を供給して洗浄することもできる。
【0020】
また、苗載台80の上部からスライダ124の摺動面124bの上側の隅部124gに至る給液路125を設けており、この給液路125を介してスライダ124の摺動面124bに水を供給することにより、摺動部を水で潤滑することができる構成となっている。これにより、潤滑油が不要となるので、潤滑油が圃場に流出するようなことがなく、潤滑油により環境が汚染されるようなことがない。また、水によりスライダ124やレール部分81aに付着した土等の異物を洗い落とすことができ、摺動性を向上させることができると共に、スライダ124やレール部分81aの摩耗を防止できる。尚、給液路125を構成するため、下側の左右移動用案内部材121及びスライダ124には孔が形成されている。尚、前記給液路125は、スライダ124の摺動面の最上位置に臨む構成としたので、潤滑剤となる水をコの字型の摺動面全体にいきわたらせることができ、潤滑性が向上する。尚、この潤滑剤の摺動部への供給は、潤滑剤を貯留する液体タンクから電動式等の吐出ポンプを介して行われるようにしてもよい。
【0021】
苗送りベルト79は、駆動ローラ84と従動ローラ85とに張架されている。駆動ローラ84は左右方向の苗送り駆動軸86と一体回転するように設けられている。苗送り駆動軸86は、ラチェット機構87により、苗送りベルト79が苗送りする方向にだけ回転を伝達するようになっている。
【0022】
苗送りベルト79の駆動機構は下記の構成となっている。すなわち、伝動ケース77の左右両側からそれぞれ突出して回転駆動する駆動側アーム88が設けられている。また、苗送り駆動軸86の上側には左右方向の中継軸89が設けられ、それに従動側アーム90が取り付けられている。中継軸89と苗送り駆動軸86とは、アーム91,92及びリンク93とからなるリンク機構94により伝動連結されている。
【0023】
苗載台80が左右移動行程の端部に到達すると、駆動側アーム88が従動側アーム90にその下側から当接して、中継軸89を所定角度回転させる。その回転がリンク機構94及びラチェット機構87を介して苗送り駆動軸86に伝達される。これにより、苗送りベルト79が所定量だけ作動する。尚、苗載台80が左右移動両端部でそれぞれ苗送り動力
を伝達できるように、1個の駆動側アーム88に対して左右に2個の従動側アーム90が同一の中継軸89上に設けられている。駆動側アーム88が従動側アーム90から離れると、後述する揺動支点軸95に係止したスプリング96の張力によって中継軸89及び従動側アーム90は駆動前の位置に戻る。尚、中継軸89及び従動側アーム90は、スプリング96の張力で、中継軸89の端部に設けたストッパ97が苗載台80本体側の規制部材98に当接する位置まで戻る構成となっている。
【0024】
ところで、苗送り駆動軸86は、左側4条部分と右側4条部分とに分割されている。また、中継軸89も左側中継軸と右側中継軸とに分割されている。そして、左右の苗送り駆動軸86及び中継軸89に対応して、駆動側アーム88、リンク機構94及び左右2個の従動側アーム90も左右にそれぞれ設けられた構成となっている。
【0025】
従動側アーム90は、回動中心近くの基部分90aと駆動側アーム88が当接する回動先端側部分90bとが別体で構成され、両部分90a,90bがアーム90中途部に設けた左右方向の揺動支点軸95で連結されている。尚、前記基部分90aが中継軸89と一体回転する構成となっており、前記回動先端側部分90bは、揺動支点軸95に設けたトルクスプリング(図示せず)により揺動支点軸95回りに上側(苗送りベルト79への伝動において当接する側とは反対側)へ回動する方向へ付勢され、常態ではそれ以上上側へ回動しないように中継軸89に当接している。従って、駆動側アーム88が従動側アーム90にその下側から当接する通常の苗送り伝動時には、従動側アーム90の基部分90aと回動先端側部分90bとが一体的に中継軸89回りに上側へ回動する。一方、駆動側アーム88が逆転して従動側アーム90にその上側から当接するときは、基部分90aに対して回動先端側部分90bだけが下側(苗送りベルト79への伝動において当接する側)へトルクスプリングに抗して揺動するのである。
【0026】
苗植付部4の下部には、中央2条分の苗植付位置を整地するセンターフロート100、左右それぞれ最外2条分の苗植付位置を整地するサイドフロート101及びセンターフロート100とサイドフロート101との間で残り1条分の苗植付位置を整地するミッドフロート102が設けられている。これらフロート100,101,102を圃場の泥面に接地させた状態で機体を進行させると、フロート100,101,102が泥面を整地しつつ滑走し、その整地跡に苗植付装置37により苗が植付けられる。各フロート100,101,102は圃場表土面の凹凸に応じて前端側が上下動するように回動自在に取り付けられており、植付作業時にはセンターフロート100の前部の上下動が上下動検出機構103により検出され、その検出結果に応じ前記昇降油圧シリンダ76を制御する油圧バルブ(図示せず)を切り替えて苗植付部4を昇降させることにより、苗の植付深さを常に一定に維持する。
【0027】
施肥装置5は、肥料貯留タンク(粉粒体貯留タンク)110に貯留されている肥料(粉
粒体)を各条の肥料繰出部(粉粒体繰出部)63によって一定量づつ繰り出し、その肥料を肥料移送ホース(粉粒体移送ホース)111でフロート100,101,102に取り付けた施肥ガイド112まで導き、施肥ガイド112の前側に設けた作溝体113によって苗植付条の側部近傍に形成される施肥溝内に吐出するようになっている。モータ114で駆動のブロア115で発生させた圧力風を左右方向に長いエアチャンバ116を経由して肥料移送ホース111内に吹き込み、肥料移送ホース111内の肥料を苗植付部4側の肥料吐出口(施肥ガイド112)へ強制的に移送するようになっている。施肥溝内に供給された肥料は、施肥ガイド112及び作溝体113の後方でフロート100,101,102に取り付けた覆土板117により覆土される。
【0028】
各条の施肥ガイド112及び作溝体113は、対応する苗植付装置37との位置関係(距離)を均一にして各条の肥効を均一化することが望ましいので、それぞれ前後方向において同じ位置(機体側面視で同じ位置)に配置される。同様に、各条の覆土板117も対応する施肥ガイド112、作溝体113及び苗植付装置37との位置関係を(距離)を均一にすることが望ましい。何故ならば、覆土板を前寄りに位置させて施肥ガイドに近づけ過ぎると、覆土板で押し寄せられる泥が施肥ガイド内に供給されて該施肥ガイドに泥が詰まるおそれがあり、覆土板を後寄りに位置させて施肥ガイドから離し過ぎると、覆土板で覆土するまでに圃場内の水等により施肥溝の底から肥料が若干浮き上がって、その結果覆土量が少なくなり、適切な肥効が得られなくなるおそれがあるからである。
【0029】
以上により、この乗用型の田植機1は、苗載台80を機体に対して横方向(左右方向)に移動させて苗を所定の苗取出位置となる苗取出口78へ一株分づつ供給し、前記苗取出口78へ供給された苗を苗植付装置37により取り出して圃場に移植する構成とし、機体と苗載台80との間に、ポリエチレン系樹脂で形成された摺動部材となる支持ローラ122とスライダ124とを設けている。
【0030】
従って、この乗用型の田植機1は、苗載台80上に苗を搭載した状態で、該苗載台80を機体に対して左右方向に移動させて苗を苗取出口78へ一株分づつ供給し、苗植付装置37により苗取出口78へ供給された苗を取り出して圃場に移植する。苗載台80を横方向に移動させるための支持ローラ122とスライダ124とは、ポリエチレン系樹脂で形成されているので、摺動面に潤滑油を供給しなくても摺動抵抗が小さく、耐摩耗性が高い。
【0031】
よって、支持ローラ122とスライダ124との摺動抵抗が小さいので、苗載台80を円滑に横移動させることができ、苗植付装置37が取り出すべき一株分の苗を苗取出口78へ適正に供給できて、植付精度の向上を図ることができる。また、支持ローラ122とスライダ124とは、耐摩耗性が高いため、使用による摩耗が少なく、交換が不要あるいは交換の頻度が少なく、メンテナンス性が向上すると共にコストダウンが図れる。更に、支持ローラ122及びスライダ124の摺動面に潤滑油を供給する必要がないので、潤滑油を供給しないことで摺動面に圃場の土や水が付着しにくくなり、付着した土や水で摺動抵抗を増大させたり摺動部材の摩耗を促したりするようなことを抑えることができると共に、潤滑油の供給が不要となってメンテナンス性の向上及びコストダウンが図れる。尚、従来はスライダの摺動面に潤滑油を供給する給油装置を設けており、この給油装置のコストが約600円/台であるが、給油装置を無くせば、その分コストダウンとなる。しかも、上記のように潤滑油を必要としないので、潤滑油が摺動面から溢れたり潤滑用の給油管に残った潤滑油が吐出したりして圃場に潤滑油が流出するようなことがなく、圃場が汚染されるようなことを防止でき、苗の栽培に悪影響を与えるようなことを防止できる。
【0032】
また、従来の摺動部材は摺動特性を向上させるために有害物質の二硫化モリブデンが添加されているが、本発明の摺動部材は、摺動特性が高いので二硫化モリブデンを添加しておらず、環境負荷の低減が図れる。
【0033】
また、従来はスライダの摺動面と横枠81のレール部分81aとの間に潤滑油を溜めるための若干の隙間(空間)を設けていたので、その隙間に土や水等の異物が入り易く、ひいては摺動抵抗を増大させたり摺動部材の摩耗を促したりするおそれがあったが、スライダ124を摺動抵抗の小さいポリエチレン系樹脂で形成することにより、スライダ124の摺動面と横枠81のレール部分81aとの間の隙間を無くすあるいは小さくすることができるため、スライダ124の摺動面と横枠81のレール部分81aとの間に土や水等の異物が入るのを抑えることができる。
【0034】
尚、上述では支持ローラ122とスライダ124との双方をポリエチレン系樹脂で形成したが、一方のみをポリエチレン系樹脂で形成してもよい。
次に、摺動部材としてポリエチレン系樹脂が優れる根拠について説明する。
【0035】
摺動部材の摺動試験を行うにあたり、スライダとして、従来品のPA6(6ナイロン)、すべり摩耗に優れるPOM(ジュラコン)、ざらつき摩耗に優れる超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)の3種類の試験片を準備した。また、スライダの摺動相手材となる横枠81のレール部分として、SUS304のステンレスの試験片を準備した。そして、摺動面の面圧を0.7MPa、摺動速度を3m/minに設定した。摺動条件として摺動面にグリスを塗布した状態で泥水を滴下し、動摩擦係数を計測した。従来品のPA6(6ナイロン)では、摺動回数の増加につれて動摩擦係数が大きくなり、動摩擦係数が0.5付近で収束した。POMでは、動摩擦係数が0.2付近で収束した。超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)では、0.1付近で収束した。
【0036】
次に、摺動条件として、無潤滑条件、潤滑油切れで泥水がかかる状態を想定した泥水滴下条件、摺動面にグリスを塗布した状態で泥水を滴下した潤滑泥水滴下条件の3種に設定し、スライダの比摩耗量の測定した。無潤滑条件では、PA6(6ナイロン)で0.00003970(立方ミリメートル)/N・m、POMで0.00001520(立方ミリメートル)/N・m、超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)で0.00000130(立方ミリメートル)/N・mとなった。泥水滴下条件では、PA6(6ナイロン)で0.00003023(立方ミリメートル)/N・m、POMで0.00017377(立方ミリメートル)/N・m、超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)で0.00001130(立方ミリメートル)/N・mとなった。潤滑泥水滴下条件では、PA6(6ナイロン)で0.00006688(立方ミリメートル)/N・m、POMで0.00024065(立方ミリメートル)/N・m、超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)で0.00003084(立方ミリメートル)/N・mとなった。よって、POMは、泥水を滴下した状態で比摩耗量が大きくなるため、苗移植機の摺動部材として適さないことが判った。また、超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)は、何れの摺動条件でも比摩耗量が小さく、上記の動摩擦係数も小さいため、苗移植機の摺動部材として耐摩耗性があり摺動抵抗も小さいことが明確になった。
【0037】
また、スライダの摺動相手材となるSUS304のステンレスの試験片の摩耗深さを測定した。スライダをPA6(6ナイロン)としたとき、無潤滑条件で11μm、泥水滴下条件で13μm、潤滑泥水滴下条件で17μmとなった。一方、スライダを超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)としたとき、無潤滑条件で10μm、泥水滴下条件で9μm、潤滑泥水滴下条件で10μmとなった。従って、スライダを超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)とすると、摺動相手材の横枠81のレール部分の摩耗量も少なくなる
ことが判った。
【0038】
そこで、スライダを超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)に絞って設定し、摺動条件として無潤滑条件と摺動面にグリスを塗布した潤滑条件との2種に設定し、摩耗量及び摩耗速度を測定した。無潤滑条件では、摩耗量0.01〜0.02g、摩耗速度0.11〜0.22mg/hrとなった。潤滑条件では、摩耗量0.05〜0.16g、摩耗速度0.55〜1.75mg/hrとなった。従って、無潤滑の方が、摩耗量及び摩耗速度が共に小さくなることが判った。更に、摺動面の面圧設定の代わりに苗載台80に苗を満載した満載状態と苗載台80に苗を載置しない空状態とで、苗載台80の左右移動の荷重(摺動抵抗)を測定した。無潤滑条件では、満載状態で20.4kg、空状態で10.0kgとなった。潤滑条件では、満載状態で18.5kg、空状態で9.2kgとなった。従って、潤滑の有無によって摺動抵抗にはさほどの影響がないことが判った。よって、超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)をスライダ(摺動部材)としたときは、摺動面に潤滑油を供給する必要がないことが明確になった。
【0039】
尚、超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)の材料価格は従来のPA6(6ナイロン)の材料価格と略同等であるので、超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)を摺動部材としてもコストアップにならない。
【0040】
ところで、図8に示すように、スライダ124の摺動面に泥や水が侵入しないように、スライダ124の左右方向の両端にゴム等で形成されるシール材126を嵌めることができる。このシール材126は、スライダ124と横枠81のレール部分81aとの間に位置し、スライダ124又は横枠81のレール部分81aの摩耗を防ぐことができる。尚、前記シール材126として、泥や水を吸着するスポンジ等の吸着材を使用してもよい。
【0041】
また、図9に示すように、スライダ124の上部の左右に凸部124hを設け、該凸部124hが下側の左右移動用案内部材121に接触することにより、スライダ124の左右両端部が下側にたわむように構成することができる。これにより、スライダ124の左右両端部における横枠81のレール部分81aへの接触圧力が高まり、スライダ124の摺動面に泥や水が侵入するのを抑えることができる。尚、スライダ124の左右両端部の上下の厚みを左右中央部より大きくし、スライダ124の左右両端部における横枠81のレール部分81aへの接触圧力を高める構成としてもよい。また、このスライダ124の側面視コの字型の摺動面の上側の隅部124gで且つ主摺動面124bの左右中央に臨む位置に潤滑油の供給口123を設け、上側の隅部124gから下側の隅部124dにいくにつれて左右方向外側に斜めに延びる斜めの潤滑溝を主摺動面124bに設けている。尚、この斜めの潤滑溝124fは、供給口123の左右両側にそれぞれ複数本(2本)設けられている。これにより、主摺動面124bの略全域に供給口123からの潤滑油を行き渡らせることができて潤滑性が向上すると共に、潤滑油が左右外側へ向かって流れるので泥や水が混入した古い潤滑油を円滑にスライダ124の外部に排出することができ、スライダ124の摺動特性を良好に維持しながらスライダ124の摩耗を防止できる。尚、供給口123の左右各々の複数本の潤滑溝124fの角度を異ならせれば、更に潤滑作用を促進することができる。
【0042】
また、図10に示すように、スライダ124の主摺動面124bの中央にグリス等の潤滑油を供給する供給口123を設け、該供給口から主摺動面の四隅に延びる潤滑溝124iを主摺動面124bに設けることができる。これにより、主摺動面124bの略全域に潤滑油を行き渡らせることができて潤滑性が向上すると共に、潤滑油が左右外側へ向かって流れるので泥や水が混入した古い潤滑油を円滑にスライダ124の外部に排出することができ、スライダ124の摺動特性を良好に維持しながらスライダ124の摩耗を防止できる。
【0043】
また、図11に示すように、下側の左右移動用案内部材121において、スライダ124の左右両端部となる位置にスポンジ等の吸液材127を設け、該吸液材127の下端が横枠81のレール部分81aに接する構成とすると共に、吸液材127の上側に該吸液材127へ水を供給できる注液口128を設け、横枠81のレール部分81aの摺動面に吸液材127から水が供給されるようにして、摺動部を水で潤滑することができる。これにより、潤滑油が不要となるので、潤滑油が圃場に流出するようなことがなく、潤滑油により環境が汚染されるようなことがない。また、水によりスライダ124やレール部分81aに付着した土等の異物を洗い落とすことができ、摺動性を向上させることができると共に、スライダ124やレール部分81aの摩耗を防止できる。尚、この構成において、水に代えて潤滑油を供給するようにし、摺動部を潤滑油で潤滑することもできる。
【0044】
また、図12に示すように、スライダ124に電極を備える摩耗センサ129を埋め込み、該摩耗センサ129によりスライダ124の摺動面が所定量以上摩耗すると制御部130に信号を入力し、制御部130からの出力でモニタの告知ランプを点灯させる等の警報を発するようにしてもよい。これにより、スライダ124を交換する必要があることが簡単に判り、メンテナンス性が向上する。
【0045】
また、図13に示すように、スライダ124の主摺動面124bの左右中央に前後に延びるスリット孔124jを設け、該スリット孔124jから摺動部に侵入した泥等の異物を外部に排出する構成とすることができる。このとき、スリット孔124jの両側に傾斜面124kを構成すると、異物の排出が促進される。
【0046】
また、図14に示すように、洗浄用の水を貯留する液体タンク131を設け、該液体タンク131内の水を吐出する電動式の吐出ポンプ132を給液路125に設けると共に、機体に搭乗する作業者が操作できる洗浄操作具(洗浄ボタン)134を設け、該洗浄操作具134を操作したことが制御部130に入力されると、制御部130が吐出ポンプ132に出力して該吐出ポンプ132を所定時間のみ駆動して、スライダ124の摺動面に洗浄水を供給すると共に、植付クラッチケース18内の植付クラッチがアクチュエータにより操作されて吐出ポンプ132と同期して所定時間のみ伝動状態となって苗植付部4を駆動し、ひいては苗載台80が左右移動する構成とすることができる。これにより、スライダ124及びレール部分81aからなる摺動部の洗浄が容易に行え、メンテナンス性が向上する。尚、スライダ124は複数個(4個)設けられているので、各々のスライダ124に対応する給液路を吐出ポンプ132の下手側で分岐させ、共通の吐出ポンプ132の駆動により複数(4個)のスライダ124に水が同時に供給される構成とすればよい。尚、8条の苗植付装置37の駆動を2条ごとに入切して一部の苗植付装置37の駆動を入切できるユニットクラッチと、該ユニットクラッチを操作する各々のユニットクラッチレバー135と、該ユニットクラッチレバー135の操作位置を検出する各々のユニットクラッチレバーセンサ135aとを設け、該ユニットクラッチレバーセンサ135aにより全てのユニットクラッチが駆動を切りにしていることが制御部130に入力されたときのみ、上記の洗浄の作動が行われるようにしている。これにより、通常の植付作業時に誤って洗浄操作具(洗浄ボタン)134を操作することで、洗浄の作動が行われて植付作業に悪影響を与えるようなことを防止している。
【0047】
尚、苗植付部4へ伝動する植付伝動軸19の駆動トルクを検出する負荷センサ136を設け、該負荷センサ136が苗植付部4の駆動負荷ひいては苗載台80の左右移動抵抗が大きいことを検出すると、上記の洗浄の作動が自動的に行われるように構成している。これにより、苗載台80の左右移動の円滑化を図ることができ、植付精度が向上すると共にメンテナンス性が向上する。また、下側の左右移動用案内部材121において、スライダ124の摺動面に対向する位置に該摺動面の水を検出する水検知センサ137を設け、該水検知センサ137が摺動面に水が無いことを検出すると、制御部130により上記の洗浄の作動が自動的に行われるように構成している。尚、前記水検知センサ137は、水の吸収帯である1.4μmの波長の電磁波を発信し、その反射波を受信することにより水の有無を検出する構成となっている。
【0048】
図15に示す給液路125は、苗載台80の後側から横枠81の下側を介して上側に屈曲し、横枠81のレール部分81aの上面すなわち摺動面に至るものである。尚、この給液路125を構成するため、横枠81のレール部分81aには孔が形成されている。これにより、苗載台80の後方から潤滑油又は水を供給することができ、メンテナンス性が向上する。また、スライダ124において、苗載台80の左右移動で前記給液路125と対向し得る位置には、主摺動面124bから外部に連通する圧抜き孔124lを設けており、この圧抜き孔124lにより給液路125からの流体の圧力をある程度逃がすことができる。尚、圧抜き孔124lの太さ(直径)は、給液路125の太さ(直径)より極めて小さくなっている。
【0049】
尚、給液路125に加圧空気を供給すれば、摺動部を空気洗浄することができ、異物の排出作用を増大させることができる。
尚、この発明の実施の形態は乗用型の田植機1について記述したが、本発明は乗用型の田植機に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】田植機の側面図
【図2】田植機の平面図
【図3】走行車体の要部を示す平面図
【図4】苗植付部を判りやすく示す展開平面図
【図5】苗載台の下部を示す断面側面図
【図6】スライダの周辺構造を示す断面側面図
【図7】スライダを示す図(a:側面図、b:底面図、c:bのS1−S1断面図)
【図8】異なるスライダを示す図(a:側面図、b:底面図)
【図9】異なるスライダを示す図(a:正面図、b:底面図、c:bのA−A断面図、d:側面図)
【図10】異なるスライダを示す底面図
【図11】吸液材を示す背面図
【図12】摩耗センサを備えるスライダを示す背面図
【図13】異なるスライダを示す斜視図
【図14】ブロック図
【図15】異なる給液路及びその周辺を示す断面側面図
【符号の説明】
【0051】
1:乗用型の田植機、78:苗取出口(苗取出位置)、80:苗載台、122:支持ローラ、124:スライダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
苗載台(80)を機体に対して横方向に移動させて苗を所定の苗取出位置(78)へ一株分づつ供給し、前記苗取出位置(78)へ供給された苗を取り出して圃場に移植する構成の苗移植機において、機体と苗載台(80)との間に、ポリエチレン系樹脂で形成された摺動部材(122、124)を設けた苗移植機。
【請求項2】
摺動部材(124)の摺動面に泥や水等の異物の排出を促す排出溝(124c)を設け、該排出溝(124c)は苗載台(80)の移動方向に対して斜めに形成される斜め溝(124f)を複数備えた請求項1に記載の苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−154535(P2008−154535A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348237(P2006−348237)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】