説明

薄膜層の膜厚良否判別方法

【課題】表面にパターンのある基板上に形成した薄膜層の膜厚が許容範囲内か否かの判別を、高額な膜厚測定器を使わずに短時間で容易に行える方法を提供する。
【解決手段】表面にパターンのある基板上に設けられた薄膜層の膜厚が許容範囲内か否かを判別する方法であって、所定口径を有する光ビームで薄膜層形成前の基板の平均分光反射率(V(λ))を測定し、膜厚が許容範囲内の薄膜層形成後該層の平均分光反射率(V(λ))を測定し、縦軸がV(λ)/V(λ)で横軸が波長の反射比曲線を形成し、該曲線の山や谷の波長W1iをi個算出して基準値として保存し、別の基板上に薄膜層を形成した後反射比曲線を形成し、かつ波長W2iをi個算出し、i個のW1iとW2iから演算した値を判別基準値と比較して膜厚の良否判別を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に所定のパターンを有する基板上に半導体膜等の薄膜層を形成した基板にあって、前記薄膜層の膜厚が所望値に対して許容範囲に入っているか否かの判別を行う薄膜層の膜厚良否判別方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、基板上に半導体膜等の薄膜層を形成した場合、この薄膜層の膜厚を分光干渉計やエリプソメーターを用いて測定していた(特許文献1)。
特許文献1に開示されている方法は、被測定物である基板上の薄膜層表面に斜めから測定光を照射させ、前記薄膜層の表面及び内部からの各反射光の干渉光から薄膜層の膜厚を算出するものである。
【0003】
【特許文献1】特開2007−3456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで前記特許文献1に記載されているように、分光干渉計等の光学測定器を用いて薄膜層の膜厚を測定する場合には、その測定面積は直径20μm程度と極めて狭く、しかもその測定位置については1〜5μmという極めて高い位置決め精度が要求される。
この測定方法において基板表面になんらパターンがなく表面平滑の場合には、薄膜層の任意の位置に測定場所を求めればよいが、基板表面に、例えば、回路パターン等のパターンが存在していて、基板表面が平滑でない場合には、測定精度を上げるためには前記回路パターンに掛からない位置を測定場所に選定しなければならない、という問題がある。
【0005】
しかも昨今においては、基板表面に形成されているパターンは極めて微細で、かつ高密度で描かれていることが多い。それ故、これらパターンに掛からないように測定場所を見つけ出すのは至難の技である。
また仮に、そのような測定場所を見つけ出すことができたとしても、その極めて狭い測定場所に、常に測定用の光ビームを当てるためには、極めて高い精度で位置決め制御を行う必要がある。
このような条件を満たす膜厚測定器として、例えば1000万円以上の高額な分光干渉計やエリプソメーターを用意したとしても、実際にはその測定はほとんど不可能である。
その理由は、これら高額の膜厚測定器を用いたとしても、前述したように測定場所の選定や、その位置決めに高い精度が要求される等、依然として測定誤差に繋がる問題を抱えているからである。
【0006】
加えて、これらの膜厚測定器を用いた場合でも、その測定精度を上げるためには測定時間を数分〜30分程度掛ける必要がある場合もある。そのため製造現場で次々に薄膜層付き基板が製造されても、各基板の膜厚測定に時間が掛かるため生産性が向上しない、という問題があった。
【0007】
上記問題に鑑み本発明の目的は、表面に所定のパターンを有する基板上に形成した薄膜層であっても、その膜厚が所望する厚さに対して許容範囲内に形成されているかどうかの判別を、高額な膜厚測定器を使わずとも、短時間で、しかも容易に行える薄膜層の膜厚良否判別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく本発明の請求項1記載の薄膜層の膜厚良否判別方法は、表面に所定のパターンを有する基板上に設けられた薄膜層の膜厚が許容範囲内にあるか否かを判別する薄膜層の膜厚良否判別方法において、前記薄膜層の膜厚良否判別方法は、
所定の口径を有する光ビームで前記薄膜層形成前の前記基板表面の平均分光反射信号値V(λ)を測定する工程1と、
前記基板上に許容範囲の膜厚を有する薄膜層形成後、前記薄膜層表面を前記工程1と同じ位置でその平均分光反射信号値V(λ)を測定する工程2と、
一方の軸にV(λ)とV(λ)の比V(λ)/V(λ)を、他方の軸に波長(λ)を配した反射比曲線Ra(λ)を形成する工程3と、
前記反射比曲線Ra(λ)の任意の山または谷の波長W1iをi(i≧2)個算出しこれらを基準波長値として保存する工程4と、
前記基板とその表面に同じパターンを有する別の基板上に薄膜層を形成し前記工程2、工程3と同様にして反射比曲線Rb(λ)を形成し、前記工程4の各波長W1iに対応する山または谷の波長W2iをi個算出する工程5と、
前記工程4と工程5とで算出した各々i個のW1iとW2iから下記式1の値(但し、i=1〜n)を求め、
(式1)

この値と予め決定してある判別基準値とを比較してその大小により基板上に形成した薄膜層の膜厚の良否の判別を行う工程6、
とを有することを特徴としている。
【0009】
また請求項2記載の薄膜層の膜厚良否判別方法は、表面に所定のパターンを有する基板上に設けられた薄膜層の膜厚が許容範囲内にあるか否かを判別する薄膜層の膜厚良否判別方法において、前記薄膜層の膜厚良否判別方法は、
所定の口径を有する光ビームで前記薄膜層形成前の前記基板表面の平均分光反射信号値V(λ)を測定する工程1と、
前記基板上に許容範囲の膜厚を有する薄膜層形成後、前記薄膜層表面を前記工程1と同じ位置でその平均分光反射信号値V(λ)を測定する工程2と、
一方の軸にV(λ)とV(λ)の比V(λ)/V(λ)を、他方の軸に波長(λ)を配した反射比曲線Ra(λ)を形成する工程3と、
前記基板とその表面に同じパターンを有する別の基板上に薄膜層を形成し前記工程2、工程3と同様にして反射比曲線Rb(λ)を形成する工程と、
前記Ra(λ)とRb(λ)について任意の波長λからλまでの範囲内で下記式2の値を求め、
(式2)

この値と予め決定してある判別基準値とを比較してその大小により基板上に形成した薄膜層の膜厚の良否の判別を行う工程、
とを有することを特徴とするものである。
【0010】
このようにしてなる請求項1及び請求項2記載の薄膜層の膜厚良否判別方法にあって、前者は前記工程4と工程5とで算出した各々i個のW1iとW2iから、前記式1の値を求め、この値と予め決定してある判別基準値とを比較してその大小により基板上に形成した薄膜層の膜厚の良否の判別するものであり、後者は反射比曲線Ra(λ)と反射比曲線Rb(λ)について任意の波長λからλまでの範囲内で前記式2の値を求め、この値と予め決定してある判別基準値とを比較してその大小により基板上に形成した薄膜層の膜厚の良否の判別を行う、との相違があるものの、いずれの方法においても共に所定の口径を有する光ビームで前記薄膜層形成前の前記基板表面や、薄膜層形成後の表面を測定することにより、従来の測定方法と異なり、その測定範囲はピンポイント的な極めて狭い測定範囲ではなく、所定の測定面積を有するより広い測定面積内の平均分光反射信号値V(λ)を測定するようにしている。
【0011】
しかもその膜厚が許容範囲内にある薄膜層について、その表面の平均分光反射信号値V(λ)を測定した後、単にこの薄膜層の平均分光反射信号値V(λ)そのものを使うのではなく、薄膜層形成前の基板表面の平均分光反射信号値V(λ)との比を算出し、これと波長(λ)とで判別基準となる反射比曲線R(λ)を形成している。
このように従来の測定方法に比して、より広い測定面積内で平均分光反射信号値を採取していること、しかも単に薄膜層の平均分光反射信号値V(λ)そのものを用いるのではなく、薄膜層形成前の基板表面の平均分光反射信号値V(λ)とこの薄膜層表面の平均分光反射信号値V(λ)の比をとり、これと波長(λ)とで判別基準となる反射比曲線R(λ)を得ていること、の2点から基板表面に予め形成されている回路パターン等のパターンの影響による測定誤差を排除できるようになっている。
そのため従来のように基板上で、パターンの存在しないまるでピンポイントのような測定箇所に測定点を求める必要もなければ、そのための位置決め精度も不要になる。
【0012】
加えて、薄膜層の膜厚の絶対値ではなく、基準値との比較により相対的にその差異をみて膜厚が所定の許容範囲内に入っているか否かの判別をしているため、より一層判別間違いの確率を少なくすることができる。
そしてこのように基準値との相対的な比較を行うだけであるから、測定時間も大幅に短縮することができる。
【0013】
また本発明の請求項3記載の薄膜層の膜厚良否判別方法は、請求項1または請求項2記載の薄膜層の膜厚良否判別方法において、表面に所定のパターンを有する前記基板は、既に1層または複数層の薄膜層を有していて、この薄膜層を有する基板上にさらに形成した薄膜層の膜厚が許容範囲内にあるか否かを判別することを特徴とするものである。
【0014】
このようにしてなる薄膜層の膜厚良否判別方法によれば、単に基板上に1層のみ形成した薄膜層の膜厚が許容範囲内に入っているかどうかの判別のみならず、基板上に既に1層または複数層の薄膜層が形成された基板に、新たに別の薄膜層が形成された基板においても、その新たに形成された最上層の薄膜層について、その膜厚が許容の範囲内に入っているか否かの判別も請求項1または請求項2と同様の方法で判別することができる。
【0015】
さらにまた本発明の請求項4記載の薄膜層の膜厚良否判別方法は、請求項1〜請求項3いずれかに記載の薄膜層の膜厚良否判別方法において、前記光ビームは、該光ビーム内で照明ムラが出ないようにケーラー照明を使用しており、分光反射光の再現性をよくするために受光NAを可変させることができるようになっていることを特徴としている。
【0016】
このようにしてなる請求項4記載の薄膜層の膜厚良否判別方法によれば、光ビーム内にあって照明ムラ出ないようケーラー照明を使用している。そして反射光の配光(ウエハ面の法線からの傾きに対する分光反射光の分布)をより再現性よく採取できるように受光NAを可変可能にしている。その結果、前記ウエハのパターンや膜に対して最適(再現の良くなる)条件を設定できるようになっている。
【発明の効果】
【0017】
以上のように本発明によれば、表面に所定のパターンを有する基板上に形成した薄膜層であっても、その膜厚が所望する値に対して許容範囲内に入っているか否かの判別を、高額な膜厚測定器を使わずとも短時間で、しかも容易に行える薄膜層の膜厚良否判別方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に図面を用いて本発明の薄膜層の膜厚良否判別方法の一実施例を詳細に説明する。
図1は、本発明の薄膜層の膜厚良否判別方法の最初の工程を示す概略図である。図1において、符号1は、その表面に所定の、例えば回路パターンを有するシリコンウエハ等の基板を示している。
符号2は、光出力ユニットで、例えば光源から光ファイバ等で導かれた光をレンズアセンブリ等を介して被測定物、ここでは基板1の表面等に所定の口径を有する光ビーム3を照射させるユニットである。また符号4は、光検出ユニットである。この光検出ユニット4は、前記光出力ユニット2から照射された光ビーム3が被測定物である基板1等に当って反射された干渉光5を受光するもので、レンズアセンブリやスペクトロメーター等を有している。
ここで前述した所定の口径を有する光ビーム3とは、例えば直径50mm〜150mm程度の口径を有する光ビームのことをいい、それ故、被測定物に対して従来の光学測定器に比して広い面積に光を照射している。すなわち、被測定面積が広くなっている。そのため言うまでもなく、この光ビームは基板1上のパターンに跨って照射されていることになる。
【0019】
ここで前記光ビーム内において照明ムラ出ないように、この実施例ではケーラー照明を使用している。そして反射光の配光(ウエハ面の法線からの傾きに対する分光反射光の分布)をより再現性よく採取できるように受光NAを可変可能にしている。その結果、前記ウエハのパターンや膜に対して最適(再現の良くなる)条件を設定できるようになっている。
具体的には、例えば、照明側のNAや受光NAを可変できる絞りやレンズ系を備えている。もちろん、このケーラー照明の使用が本発明における必須要件でないことは言うまでもない。
【0020】
図1に示すように、本発明の薄膜層の膜厚良否判別方法の最初の工程は、薄膜層形成前であって、しかもその表面に所定のパターンを有する基板1上に、光出力ユニット2により所定の口径を有する光ビーム3を照射し、その反射光である干渉光5を光検出ユニット4を介して検出して、薄膜層形成前の基板1の表面の平均分光反射信号値V(λ)を測定する工程である。図3における符号10の曲線はこの測定結果を示している。
図3において、縦軸は平均分光反射信号値V(λ)の相対単位で、横軸は波長(λ)である。因みに、この工程を便宜的に工程1と呼ぶことにする。
ここで検出した基板1の表面の分光反射信号値を平均分光反射信号値と呼ぶ理由は、この測定値が所定の口径を有する光ビーム3で測定したある大きさを有する被測定面積内の反射信号値の平均値であるからである。
【0021】
次に図2に示すように基板1の表面に薄膜層6を形成後、図1と同様にして、薄膜層6の表面に光出力ユニット2により光ビーム3を照射し、反射した干渉光5を光検出ユニット4を介して検出し、薄膜層6の平均分光反射信号値V(λ)を測定する。図3における符号11の曲線はこの測定結果を示している。尚、この工程を、やはり便宜的に工程2と呼ぶことにする。
ここで図1と同様にして、という意味は、図1における基板1の測定位置や光ビーム3等の条件を変えることなく、条件をそのまま一定にした状態で基板1上の薄膜層6に光ビーム3を照射し、測定することをいうものとする。
【0022】
ところでこの工程2は、以降製造する薄膜層6の膜厚が薄膜層6の所望値、例えば設計値に対して許容範囲に入っているか否かを判断する基準を作成するための工程である。そしてこの作業が無駄にならないように、基板1上に薄膜層6を形成したら、その膜厚を本発明の測定装置とは別の方法で測定し、その値が所望値に対して許容範囲に入っていたら、前述したようにこの薄膜層6に図2に示す如く光ビーム2を照射し、その平均分光反射信号値V(λ)を測定するようにすればよい。換言すれば、予めその膜厚が許容範囲に入っていること、より好適には、ほぼ目標の膜厚であることを確認済みの薄膜層6付き基板1に対して前述した工程2を施すようにすればよい。そのような意味で図3における符号11(V)の曲線は、基板1上に形成した正常膜厚を有する薄膜層6の測定結果を示している。
【0023】
ところで図3には一点鎖線で示す符号12、二点鎖線で示す符号13の曲線も描かれているが、符号12(V)の曲線は薄膜層6の厚さが正常値の膜厚さよりも約5%薄いものを、符号13(V)の曲線は薄膜層6の厚さが正常値の膜厚よりも約5%厚いものを示している。
このように薄膜層6の厚さが異なると、平均分光反射信号値の値にはっきりした相違が見られる。
【0024】
次に工程1及び工程2で得られたV(λ)、V(λ)の値から、両者の比、例えばRa(λ)=V(λ)/V(λ)を算出し、これを例えば、縦軸にRa(λ)=V(λ)/V(λ)を、横軸に波長(λ)を配して、図4に符号21で示す反射比曲線Ra(λ)を描く。図4において横軸は波長(λ)である。そしてこの工程を工程3と呼ぶことにする。
図4には符号21で示す正常な膜厚を有するものの他に、符号22、23の曲線も示されているが、符号22の曲線はV(λ)/V(λ)を、符号23の曲線はV(λ)/V(λ)をそれぞれ示している。
【0025】
本発明は、このように薄膜層6の膜厚が±5%程度異なるだけ、その平均分光反射信号値V(λ)に明確な差が出ることを利用するものである。以下に図4を用いて膜厚良否判別方法の実施例1(請求項1に相当する実施例)の手順を詳細に説明する。
前述のようにして得られた正常膜厚を有する薄膜層6の反射比曲線21の任意の山または谷の波長W1iをi(i≧2)個、好ましくは2〜5個程度算出し、これらを基準波長値としてパソコン等に保存する。この工程を便宜的に工程4と呼ぶことにする。因みに、この実施例では図4に示すようにi=4とし、これらをW11、W12、W13、そしてW14とした。
このようにしてパソコン等の中に基準波長値となる薄膜層6に関する波長W11〜W14の値を記憶させたら、以後製造する薄膜層6の膜厚が所望する値の許容範囲に入っているか否かの判別を、この基準波長値を基礎として決定した判別基準値と比較して、その大小により膜厚の良否判別を下す。
【0026】
続いて製造ラインにおいて前記工程1〜工程4で用いていた基板1と同種の基板上に工程2で測定した薄膜層6と同様にして薄膜層6を形成する。形成した薄膜層6付き基板1をインラインで、あるいは別の場所に運んで、前記工程2、工程3と同様にして反射比曲線22を形成し、前記工程4の各波長W1iに対応する山または谷の波長W2iを4個算出し、これをW21〜W24とする。この工程を工程5とする。
尚、反射比曲線22を描くに当って、基板1の表面の平均分光反射信号値V(λ)も測定しておく必要があるが、この基板1の平均分光反射信号値V(λ)は、表面のパターンが同じことから前記工程1で得た基板1の平均分光反射信号値V(λ)をそのまま用いても良いし、基板1毎に薄膜層6を形成する前に予め工程1と同じ手順で測定して得たものを用いてもよい。因みに前者の方が効率的であるが、精度の面からは後者の方が優れている。
【0027】
以上のようにして工程4と工程5とで算出した各々4個の基準波長値W1i(i=1〜4)と実測波長値W2i(i=1〜4)から下記式1の値を求める。ここで、i=1〜4である。
(式1)

そして求めた値と予め決定してある判別基準値とを比較し、その大小により膜厚の良否を判別する。この工程を工程6と称す。尚、前段の係数(1/i)すなわちこの例における係数(1/4)は、右辺の判別基準値に予めiを掛けておけば済むため、その場合には省略すればよい。
この判別基準値を決定する方法には種々の方法があるが、例えば±3%、±5%等の仮想対値差△で設定することもできる。このように上記式から得られた値と判別基準値とを比較して、上記式から得られた値が判別基準値よりも大きければ不良品と、判別基準値よりも小さければ良品と判別する。
【0028】
尚、前述したように工程1〜工程6における工程の文字の後の数字は、単に便宜上付与した数字に過ぎない。
【0029】
このようにしてなる請求項1記載の薄膜層の膜厚良否判別方法によれば、所定の口径を有する光ビーム3で薄膜層6形成前の基板1の表面や、薄膜層6形成後の表面の平均分光反射信号値を、測定箇所をピンポイントに絞る従来の測定方法と違って、かなり広い測定面積内の反射信号値を平均分光反射信号値V(λ)と言う形で測定している。
しかもその膜厚が許容範囲内にある薄膜層6について、その表面の平均分光反射信号値V(λ)を測定した後、単にこの薄膜層6の平均分光反射信号値V(λ)そのものを使うのではなく、薄膜層6形成前の基板表面の平均分光反射信号値V(λ)との比R(λ)を用いて、このR(λ)と波長(λ)との関係を示す反射比曲線を形成し、これを基準となる反射比曲線Ra(λ)としている。
このように従来より広い測定面積内の平均分光反射信号値V(λ)を採用していること、単に薄膜層6の平均分光反射信号値V(λ)そのものではなく、薄膜層6形成前の基板1表面の平均分光反射信号値V(λ)と薄膜層6表面の平均分光反射信号値V(λ)の比R(λ)を用いて、これと波長(λ)との反射比曲線Ra(λ)を形成し、これを基準の反射比曲線21としていることから、基板1の表面に予め形成されている回路パターン等のパターンの影響を大部分排除することができる。
【0030】
加えて、薄膜層6の膜厚の絶対値ではなく、基準値との比較により相対的にその差異をみて膜厚が所定の許容範囲内に入っているか否かの判別をしているため、より一層基板1表面のパターンに起因する判別誤差を少なくすることができる。
しかもこのように基準値との相対的な比較を行うだけであるから、この発明に用いる膜厚監視装置は、低価格で入手できる。このように高額な光学測定器も不要である。
加えて、従来のように基板1上にあって、回路パターン等のパターンに掛からない極めて希少な測定位置を探す必要もなく、また測定点における測定面積が大きいので、測定光のエネルギーが充分でS/N値が高いし、しかも位置決め精度も高い精度を必要としないことから、測定に必要な時間は0.1秒程度となり、測定時間を大幅に短縮することができる。それ故、薄膜層6付き基板1の生産性を高めることもできる。
【0031】
尚、図4において符号22の曲線は、基板1上に形成した薄膜層6の膜厚が正常の膜厚のものよりも約5%薄いものに対する反射比を、符号23の曲線は、逆に5%厚いものに対する反射比をそれぞれ示している。
符号23の基板についても前記式1の値を求めるのであれば、符号23の曲線において横軸に向けて降ろした線の先に矢印が付されている部分の波長を、それぞれ左から順にW21〜W24とすればよい。
【0032】
次に図5を用いて請求項2に記載の薄膜層の膜厚良否判別方法について説明する。
図5においては、縦軸に図4に示す曲線21(Ra)と曲線22(Rb)の反射比差の絶対値|Ra(λ)−Rb(λ)|を、横軸に波長(λ)を取ってある。
すなわち、基準値として正常な膜厚を有する基板の値である曲線21をRa(λ)とし、Rb(λ)としては、正常膜厚よりその膜厚が約5%薄い基板の反射比を示す曲線22を用いた。
前述した請求項1記載の発明との相違は、任意の波長、この実施例では波長380nm〜880nmで下記式2の値を求める。
(式2)

この値と予め決定してある判別基準値とを比較してその大小により基板上に形成した薄膜層の膜厚の良否の判別を行った点にある。
図5において、曲線の下側のドットで塗り潰した部分がこの|Ra(λ)−Rb(λ)|の値、すなわち面積差を示している。
因みに、図5に示すものはその膜厚が正常品の膜厚よりも5%薄い膜厚のものであるから、図5に示すドットで塗り潰した部分の面積の値を−5%以内の膜厚判定の基準にすることができる。
このようにしても判別対象製品の薄膜層6の膜厚の良否を判別することができる。因みに、判別基準値よりも前記式2の値が大きければ不良品、小さな値であれば良品と判別する。
【0033】
因みに、下限側の波長と上限側の波長を幾つにするかは、基板1上のパターンの種類や薄膜層6の膜厚の大きさ、あるいは薄膜層6の組成等によりその都度決定される。
また判別基準値を決定する方法については、図4に示す請求項1記載の発明の場合と同様に、例えば±3%、±5%等の仮想対値差△で設定することもできる。
【0034】
ところで前述した2つの実施例では、図2に示すように表面に所定のパターンを有する基板1上に1層の薄膜層6のみ形成したものについて、その膜厚が所望する膜厚に対して許容範囲内に入っているかどうかの判別をしているが、基板1上に既に1層または複数層の薄膜層6を有しているものに、さらに新たに別の薄膜層を形成した場合の、この別の薄膜層の膜厚の良否判別にも本発明の方法をそのまま適用することができる。
具体的には、前述した工程1に従って、既に何層か薄膜層を形成した状態の基板1の最上層の薄膜層の平均分光反射信号値をV(λ)、この薄膜層上に新たに形成する薄膜層の形成後の平均分光反射信号値をV(λ)とし、両者の比をR(λ)=V(λ)/V(λ)として、縦軸にR(λ)=V(λ)/V(λ)を、横軸に波長(λ)を配しておけば、以下図4、図5に示したと同様にして基準となる良品に対する判別対象品の判別方法をそのまま適用することができる。
【0035】
尚、前記各実施例では、工程2において既に薄膜層6の膜厚が許容範囲内にあるものを用いてその平均分光反射信号値を測定したり、反射比曲線を形成したりしているが、工程1を完了後、基板1上に薄膜層6を形成し、その膜厚を何らかの方法で測定し、膜厚の値が許容範囲内に入らないものは捨て、許容範囲内に入ったものを見つけたら、そのものについて工程2以降を実行してもよい。
それ故、工程2において、基板上に許容範囲の膜厚を有する薄膜層形成後、とは、基板1上に許容範囲内の膜厚を有する薄膜層6をどのような過程で得たかどうかは関係なく、最終的に許容範囲内の膜厚、より好適には目標値にほぼ等しい膜厚を有する薄膜層6を形成した後、という意味で用いている。
また前記実施例では、W1iとW2iを各々4個ずつ使っているが、iは2以上、好ましくは5個程度が好ましい。
【0036】
また、この判別に用いるコンピューター用ソフトウエアとして、いわゆる学習型のソフトウエアを用いておけば、判別を繰り返す毎に良品の基準値を自動更新して修正していくため、判別の精度を徐々に高めていくこともできる。
【0037】
以上のように本発明によれば、表面に所定のパターンを有する基板上に形成した薄膜層であっても、その膜厚が所望する膜厚の値に対して許容範囲内に形成されているかどうかの判別を、高額な膜厚測定器を使わずとも短時間で、しかも容易に行える薄膜層の膜厚良否判別方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の薄膜層の膜厚良否判別方法の最初の工程を示す概略図である。
【図2】本発明の薄膜層の膜厚良否判別方法の2番目の工程を示す概略図である。
【図3】本発明に係わる平均分光反射信号値―波長の関係の一例を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施例を示すために用いた反射比曲線を示すグラフである。
【図5】本発明の別の実施例を示すために用いた反射比差の絶対値を示すグラフである
【符号の説明】
【0039】
1 基板
2 光出力ユニット
3 光ビーム
4 光検出ユニット
5 反射光
6 薄膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に所定のパターンを有する基板上に設けられた薄膜層の膜厚が許容範囲内にあるか否かを判別する薄膜層の膜厚良否判別方法において、前記薄膜層の膜厚良否判別方法は、
所定の口径を有する光ビームで前記薄膜層形成前の前記基板表面の平均分光反射信号値V(λ)を測定する工程1と、
前記基板上に許容範囲の膜厚を有する薄膜層形成後、前記薄膜層表面を前記工程1と同じ位置でその平均分光反射信号値V(λ)を測定する工程2と、
一方の軸にV(λ)とV(λ)の比V(λ)/V(λ)を、他方の軸に波長(λ)を配した反射比曲線Ra(λ)を形成する工程3と、
前記反射比曲線Ra(λ)の任意の山または谷の波長W1iをi(i≧2)個算出しこれらを基準波長値として保存する工程4と、
前記基板とその表面に同じパターンを有する別の基板上に薄膜層を形成し前記工程2、工程3と同様にして反射比曲線Rb(λ)を形成し、前記工程4の各波長W1iに対応する山または谷の波長W2iをi個算出する工程5と、
前記工程4と工程5とで算出した各々i個のW1iとW2iから下記式1の値(但し、i=1〜n)を求め、
(式1)

この値と予め決定してある判別基準値とを比較してその大小により基板上に形成した薄膜層の膜厚の良否の判別を行う工程6、
とを有することを特徴とする薄膜層の膜厚良否判別方法。
【請求項2】
表面に所定のパターンを有する基板上に設けられた薄膜層の膜厚が許容範囲内にあるか否かを判別する薄膜層の膜厚良否判別方法において、前記薄膜層の膜厚良否判別方法は、
所定の口径を有する光ビームで前記薄膜層形成前の前記基板表面の平均分光反射信号値V(λ)を測定する工程1と、
前記基板上に許容範囲の膜厚を有する薄膜層形成後、前記薄膜層表面を前記工程1と同じ位置でその平均分光反射信号値V(λ)を測定する工程2と、
一方の軸にV(λ)とV(λ)の比V(λ)/V(λ)を、他方の軸に波長(λ)を配した反射比曲線Ra(λ)を形成する工程3と、
前記基板とその表面に同じパターンを有する別の基板上に薄膜層を形成し前記工程2、工程3と同様にして反射比曲線Rb(λ)を形成する工程と、
前記Ra(λ)とRb(λ)について任意の波長λからλまでの範囲内で下記式2の値を求め、
(式2)

この値と予め決定してある判別基準値とを比較してその大小により基板上に形成した薄膜層の膜厚の良否の判別を行う工程、
とを有することを特徴とする薄膜層の膜厚良否判別方法。
【請求項3】
表面に所定のパターンを有する前記基板は、既に1層または複数層の薄膜層を有していて、この薄膜層を有する基板上にさらに形成した薄膜層の膜厚が許容範囲内にあるか否かを判別することを特徴とする請求項1または請求項2記載の薄膜層の膜厚良否判別方法。
【請求項4】
前記光ビームは、該光ビーム内で照明ムラが出ないようにケーラー照明を使用しており、分光反射光の再現性をよくするために受光NAを可変させることができるようになっていることを特徴とする請求項1〜請求項3いずれかに記載の薄膜層の膜厚良否判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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