説明

表示構造体及び表示構造体に記録し読出す方法

【課題】ナノ粒子を配列させた構成の表示構造体において、任意の画像パターンを表示構造体に形成することが容易で、オンデマンドによる画像表示を行うことが可能な表示構造体とその作製方法を提供する。
【解決手段】ナノ粒子を基材中に所定間隔で層状に配列させた表示構造体であって、当該表示構造体に放射線をビーム状に照射し、前記ナノ粒子に対して、相変化、格子欠陥発生による構造変化、あるいは化学反応による化学構造変化の少なくとも1つの変化を生起可能な表示構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示構造体及び表示構造体に記録し読出す方法に関し、特に、ナノ粒子を層状に配列した構造体にビームを照射することにより、情報を表示できる情報表示構造体を有する装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、図8に示すように、光反射機能を有する構造体として屈折率の互いに異なる構成体と複数の微小構成体を備え、構成体は光透過性を有し複数の微小構成体は構成体により取り囲まれて、回折・散乱作用による光の反射機能を発現するように規則性をもって配置される表示用の構造体が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
さらに他の従来技術においては、有機、無機のポリマーの単分散ナノオーダー球状粒子で形成されている粒子状積層物で、白色光の照射に対して、垂直反射光が構造色として有彩色を呈する発光部材としての粒子状積層物が開示されている(例えば特許文献2参照)。
【0004】
また、さらに他の従来技術においては、下地シートに規則的あるいは不規則的に深堀区分けを配列した下地シートの深堀区分け部分に前記特許文献2の構造を作成し、下地の深堀区分けはフォトリソグラフィ等の手法で形成するカラーシートが開示されている(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2004−151271号公報
【特許文献2】特開2004−269922号公報
【特許文献3】特開2004−276492号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの表示構造体においては、任意の画像パターンを表示構造体に形成する目的に対しては作製上パターンの変更が難しく、このためには手間や工程が多くかかりコスト高になってオンデマンドによる表示を行うことが難しいという問題がある。
【0006】
本発明は、上述した実情を考慮してなされたもので、任意の画像パターンを表示構造体に形成することが容易で、オンデマンドによる画像表示を行うことが可能な表示構造体とその作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1記載の発明は、ナノ粒子を基材中に所定間隔で層状に配列させた表示構造体であって、当該表示構造体に放射線をビーム状に照射し、前記ナノ粒子に相変化、格子欠陥発生による構造変化、あるいは化学反応による化学構造変化の少なくとも1つの変化を生起可能なことを特徴とする。
【0008】
また、請求項2記載の発明は、請求項1に記載の表示構造体において、前記ナノ粒子は、透明で略均等な大きさを有することを特徴とする。
【0009】
また、請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載の表示構造体において、前記変化は、ナノ粒子の欠落による点欠陥、1次元、2次元あるいは3次元欠陥のいずれかにより生じることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載の表示構造体において、前記変化は、屈折率の変化であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載の表示構造体において、前記表示構造体は、前記ナノ粒子を複数層に配列させた多層構造とし、当該多層構造は、前記放射線が選択的に照射されて前記変化を生起させ、当該変化した表示構造体は照射される白色光を構成する各波長の光の少なくとも一部を光学的に変化させることを特徴とする。
【0012】
また、請求項6記載の発明は、請求項5に記載の表示構造体において、前記ナノ粒子は、吸収波長あるいは吸収率の異なるナノ粒子を複数使用し、部分的に前記照射された白色光を構成する各波長光の光の少なくとも一部を光学的に変化させて発色あるいは発色状態を変化させることを特徴とする。
【0013】
また、請求項7記載の発明は、請求項1から6のいずれか1項に記載の表示構造体において、前記変化を生起する放射線は、高光出力パルスレーザ光であることを特徴とする。
【0014】
また、請求項8記載の発明は、請求項1から7のいずれか1項に記載の表示構造体に記録し読出す方法であって、高光出力パルスレーザ光を用いて前記表示構造体にレーザ光を照射して形成した前記表示構造体に前記変化を生起させて記録させ、当該変化を光学的に検知して読み出すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、任意の画像パターンを表示構造体に形成することが容易で、オンデマンドによる画像表示を行うことが可能な表示構造体とその作製方法が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明を実施形態により、詳細に説明する。
【0017】
<実施形態1>
図1を用いて第1の実施形態を説明する。図1は、本実施形態の表示構造体を示した構成図である。表示構造体1は、ナノ粒子2を基材4中に分散させ、かつ一定の層状に配列してある。このような構成の表示構造体1の片側から入射ビーム3を照射し、表示構造体1の内部に集光させ、構造変化部分5を形成する。ここで表示構造体1の基材4としては、無機系では、ガラスやアモルファス誘電体材料等の透光材料からなる。有機系では、有機ポリマー、樹脂その他の透光材料が適用できる。また、ナノ粒子2は、大きさが数nm〜数百nm程度の金属、半導体、絶縁体のアモルファス粒子や微結晶、また有機のポリマー材料等の基材4とは別の屈折率が異なる材料からなる。
【0018】
構造変化部分5は、ナノ粒子2あるいは基材4またはその両方が入射ビーム3のエネルギーを吸収し、発熱による変形、相変化、格子欠陥発生、ディスロケーション、変質、融解、蒸発、酸化等の現象を生じて物理的あるいは化学的に状態が変化する。この際に、ナノ粒子2あるいは基材4が変形あるいは変質し、ナノ粒子2の層状の配列が乱れるか、ナノ粒子2そのものが上記した変形、相変化、格子欠陥発生、ディスロケーション、変質、融解、蒸発、酸化等の現象を生じて凝集、融解、蒸発等で変形あるいは変質することにより、ナノ粒子2の層状の構造が部分的に破壊あるいは変形(変質)される。特に、図1〜図7に示したような、層間隔をビーム照射によってナノ粒子2の層状配列により生じる少なくとも一部が連続なスペクトルを持つ光を照射するとその干渉によって、部分的にそれを弱めたり、消したりすることができる。
【0019】
ここで構造変化部分5は、ナノ粒子2の多層構造を、空間的に限定して他の部分から切り離すようなやり方で形成する必要がある。変形のエネルギー源となる入射ビーム3は、高出力レーザ光、例えばCO2レーザ、チタンサファイアレーザ、YAGレーザ、紫外域のエキシマレーザ、各種半導体レーザ等が適用できる。また、電子ビームや紫外線、X線、各種イオンビームその他のビームも適用可能である。必要なエネルギーは、ナノ粒子の材料とそのエネルギー吸収率に依存する。また、入射ビーム3の光源として高出力パルスレーザを用いて光源波長に対して吸収率の小さいナノ粒子2や基材4に構造変化部分5を形成することもできる。
【0020】
<実施形態2>
第2の実施形態について図2を用いて説明する。図2は、図1で説明した実施形態と異なり、表示構造体1がナノ粒子2の層状構造のみで構成されている。また、入射ビーム3のエネルギーを吸収して表示構造体1の内部に構造変化部分5が形成されている。ここで構造変化部分5は、ナノ粒子2が蒸発等で除去され空間が出来た状態の例を示している。これ以外の構成、動作は実施形態1と同様である。
【0021】
<実施形態3>
図3を用いて第3の実施形態を説明する。図3は、実施形態2とほぼ同様の構成であるが、構造変化部分5を表示構造体1の表面から入射ビーム3の焦点を内部に移動していくことにより、溝状の空隙を形成した構造である。これ以外の構成、動作は実施形態2と同様である。
【0022】
<実施形態4>
第4の実施形態を図4により説明する。本実施形態は、実施形態1において、表示構造体1としてナノ粒子2の層構造の代わりに高屈折率層12を用い、一定の層間隔で基材4中に積層配置している。また、図4では、表示構造体の表面に対して高屈折率層が角度をなして形成されている。さらに、入射ビーム3により、表示構造体1中に構造変化部分5を含む溝状の空隙が形成されている。高屈折率層2の材質は、図4では基材4より大きく設定している。しかし、これに限らず高屈折率層2の屈折率が基材4と異なればよく、高屈折率層2に関しては、屈折率が基材4より小さい材料でも適用が可能である。これ以外の構成、動作は実施形態1と同様である。
【0023】
<実施形態5>
第5の実施形態を、図5を用いて説明する。本実施形態は、実施形態1において、表示構造体1が層状に配列してあるナノ粒子2の層の間隔が部分的に変化させてあり、数種類の等しい層間隔の構造を積層した構造になっている。この状態では、白色光源の照射により、異なる層間隔に対応した干渉により異なる発色が生じ、表示構造体1の外側から観察すると、異なる発色が重なって別の色に観測される(すなわち、層間隔に相当する波長の光のみが影響を受け、構造変化部分ではその他の構造変化していない部分とは異なる作用を白色光に対してする。これによって、構造変化した部分に照射された白色光はその部分の層間隔に相当する光は吸収され、残った白色光はあたかも発色した光としての作用を発揮することになる。)。
【0024】
図5に示したように、入射ビーム3により、構造変化部分5を所望の場所に形成することができるため、構造変化部分5の形成場所により発色を部分的に変化させ、所望の発色を選択することができる。例えば、赤、緑、青の3色を発色するようにしておけば、広い色範囲を表示することができる。本実施形態では、これ以外の構成、動作は実施形態1と同様である。
【0025】
なお、本実施形態では、白色光を形成する光の少なくとも1部を構造変化部分5が吸収し、透過した白色光の残りの成分が色づいて見える透過光を読み出し光として用いることもできる。また、吸収される光の波長をλ1とし、これと異なる波長λ2光を発光するとし、λ2>λ1の関係があるとする。白色光は、このいずれの波長λ1及びλ2を含んでいれば、λ1光は減少し、λ2光は増加するように作用することになる。また、λ1光とλ2光とを同時に吸収し、λ3光を発光することもできる。特に、λ3-1=2π(λ1-1+λ2-1)の関係が成立するような2光子吸収−発光過程も含むナノ粒子表示構造体も本実施形態では含む場合がある。
【0026】
<実施形態6>
第6の実施形態を、図6を用いて説明する。本実施形態は、実施形態2において、表示構造体1が層状に配列してある複数種類のナノ粒子2a、2b、・・・の層で構成されている。図6では、ナノ粒子2の大きさが等しいものを積層した構造になっているが、異なる大きさのものでもよい。図6に示したように、同じビーム径の入射ビーム3により、ナノ微粒子2aの構造部分中に構造変化部分5a及びナノ粒子2bの構造部分中に構造変化部分5bを形成している。ここでナノ粒子2a、2bは入射ビーム3に対する吸収率が異なり、図6の場合では、ナノ粒子2aが吸収率を大きく設定してある。このとき、同じ入射ビーム3により、発生する熱量が異なり、構造変化部分5aと5bで異なる体積の空隙が形成される。これにより、同じ入射ビーム3で同じように走査して作製しても発色を部分的に変化させることができ、所望の発色をより細かく制御することができる。本実施形態では、これ以外の構成、動作は実施形態1あるいは実施形態5と同様である。
【0027】
<実施形態7>
第7の実施形態を、図7を用いて説明する。本実施形態は、実施形態2において、表示構造体1が層状に配列してある複数種類のナノ微粒子2a、2b、・・・の層で構成されている。図7では、ナノ粒子2の大きさが等しいものを積層した構造になっているが、異なる大きさのものでもよい。図7に示したように、同じビーム径の入射ビーム3により、ナノ粒子2aの構造部分中にナノ粒子2bの層を形成している。ここでナノ粒子2a、2bは入射ビーム3に対する吸収率が異なり、図7の場合はナノ粒子2bが2aに比べて吸収率を大きく設定してある。このとき、入射ビーム3の集束スポットより小さい構造変化部分5を形成することができる。このように、所望の構造変化部部分5を形成できるため、表示構造体1の発色をより細かく制御することができる。本実施形態では、これ以外の構成、動作は実施形態1あるいは実施形態5と同様である。
【0028】
上述した実施形態によれば、ナノ粒子を基材中に一定の層間隔で層状に配列させた構成の素材であって、当該素材に光を照射し、該照射光の周波数と前記層間隔との相互関係による干渉光が可視光である素材に、光、イオン、電子を含むビームを照射し、ナノ粒子に相変化、格子欠陥発生、を含む構造変化、及び/または、化学物質の反応による化学構造変化を起こさせることにより、前記ビームの照射部分に前記干渉光の変化を起こさせることを特徴とする表示構造体により、部分的に構造体中の層状配列構造を変化させ、干渉効果で発色している構造体の発色状態を選択的に変化させることが可能になる。
【0029】
なお、上述する実施形態は、本発明の好適な実施形態であり、上記実施形態のみに本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る表示構造体の構造変化を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る表示構造体の構造変化を示す模式図である。
【図3】本発明の実施形態に係る表示構造体の構造変化を示す模式図である。
【図4】本発明の実施形態に係る表示構造体の構造変化を示す模式図である。
【図5】本発明の実施形態に係る表示構造体の構造変化を示す模式図である。
【図6】本発明の実施形態に係る表示構造体の構造変化を示す模式図である。
【図7】本発明の実施形態に係る表示構造体の構造変化を示す模式図である。
【図8】従来の微小構成体を備えた表示構造体を示す構成図である。
【符号の説明】
【0031】
1 表示構造体
2,2a,2b ナノ粒子
3 入射ビーム
4 基材
5 構造変化部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子を基材中に所定間隔で層状に配列させた表示構造体であって、当該表示構造体に放射線をビーム状に照射し、前記ナノ粒子に相変化、格子欠陥発生による構造変化、あるいは化学反応による化学構造変化の少なくとも1つの変化を生起可能なことを特徴とする表示構造体。
【請求項2】
前記ナノ粒子は、透明で略均等な大きさを有することを特徴とする請求項1に記載の表示構造体。
【請求項3】
前記変化は、ナノ粒子の欠落による点欠陥、1次元、2次元あるいは3次元欠陥のいずれかにより生じることを特徴とする請求項1又は2に記載の表示構造体。
【請求項4】
前記変化は、屈折率の変化であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の表示構造体。
【請求項5】
前記表示構造体は、前記ナノ粒子を複数層に配列させた多層構造とし、当該多層構造は、前記放射線が選択的に照射されて前記変化を生起させ、当該変化した表示構造体は照射される白色光を構成する各波長の光の少なくとも一部を光学的に変化させることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の表示構造体。
【請求項6】
前記ナノ粒子は、吸収波長あるいは吸収率の異なるナノ粒子を複数使用し、部分的に前記照射された白色光を構成する各波長光の光の少なくとも一部を光学的に変化させて発色あるいは発色状態を変化させることを特徴とする請求項5に記載の表示構造体。
【請求項7】
前記変化を生起する放射線は、高光出力パルスレーザ光であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の表示構造体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の表示構造体に記録し読出す方法であって、高光出力パルスレーザ光を用いて前記表示構造体にレーザ光を照射して形成した前記表示構造体に前記変化を生起させて記録させ、当該変化を光学的に検知して読み出すことを特徴とする表示構造体に記録し読出す方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−250914(P2007−250914A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−73565(P2006−73565)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】