説明

複合キャパシタ負極板の製造法、複合キャパシタ負極板及び鉛蓄電池

【課題】 負極板の表面を被覆するキャパシタ層として作用するカーボン合剤被覆層の亀裂や該負極板からの脱落が防止され、鉛蓄電池の負極板として用いた場合に充放電サイクル寿命を延長した複合キャパシタ負極板の製造法を提供する。
【解決手段】 負極板の表面に固定化剤溶液により固定化剤層を形成し、次いで、該負極板の表面に、少なくとも該固定化剤層の上面に、導電性を有する第1カーボン材料とキャパシタ機能を有する第2カーボン材料から成る2種類のカーボン材料と少なくとも結着剤を含有するペースト状のカーボン合剤の被覆層を形成し、次いで、乾燥により該固定化剤層を固化すると共に、該カーボン合剤被覆層をポーラスなカーボン合剤被覆層に形成すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合キャパシタ負極板の製造法、複合キャパシタ負極板及び鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に用いられ、現行の蓄電池に比べて改善された寿命及び/又は改善された総合性能を有する鉛蓄電池に関する発明が、特表2007-506230号公報に提案されている。その発明に係る鉛蓄電池の実施例として鉛合金から成る、例えば、集電用格子基板に一方の面から鉛含有ペースト組成物、即ち、ペースト状の負極活物質の塗布層を形成し、その表面に導電性とキャパシタ機能を有するカーボン材料を主体として含有ペーストの被覆層を形成した後、乾燥することにより負極板の表面にカーボン電極、即ち、キャパシタ電極が該格子基板の各格子孔を通じ互いに密着状態の2重層から成る図5に示す複合キャパシタ負極を製造し、この複合キャパシタ負極板と通常の二酸化鉛正極板とをセパレータを介し交互に図6に示すように積層して組み込んで成る鉛蓄電池が開示されている。
而して、この場合の好ましいキャパシタ電極を構成する炭素材料の例として、表面積60〜1000m2/gのカーボンブラック、1000〜2500m2/gの活性炭、非晶質炭素、カーボンナノ粒子、カーボンナノチューブ、炭素繊維及びこれらの混合物であること、更に、キャパシタ電極を構成するためのカーボン材料を主体として含有する被覆層の好ましい配合組成物としては、特に導電性の優れたカーボンブラック5〜20重量%と、特にキャパシタ機能を有する活性炭40〜80重量%と、炭素繊維0〜10重量%と、結合剤5〜25重量%から成ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007-506230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし乍ら、上記の複合キャパシタ負極板は、該多孔基板の各格子孔内における該負極面と該キャパシタ電極面との界面の密着状態が、ところどころにおいて失われ、その結果、鉛蓄電池の生産効率の低下やサイクル寿命の短命化を生ずる課題を有することが判明した。
また、集電用多孔基板に鉛含有ペースト組成物を充填し、その充填したペースト状負極活物質の両表面に高表面積炭素キャパシタ電極材料含有ペーストを一定の厚さに塗布した後、乾燥して負極の両面にキャパシタ電極で被覆して成る複合キャパシタ負極板を製造し、これを用い正極板と共にセパレータを介し積層して成る鉛蓄電池を組み立てたり、更にこれをハイブリッド電気自動車に用いた場合にも、キャパシタ電極と負極との界面の密着性が失われ、該キャパシタ電極が部分的に負極面から剥離したり、該負極面から脱落する傾向がしばしば見られ、その結果、鉛蓄電池の生産効率の低下や鉛蓄電池の充放電サイクル寿命の低下などの課題を有することが確認された。
そこで、本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、負極とキャパシタ電極との界面の密着性の向上をもたらし、生産効率の向上した鉛蓄電池用の複合キャパシタ負極板の製造方法を提供すると共に、その複合キャパシタ負極板を用いて充放電サイクル寿命の延長をもたらす鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、請求項1に記載の通り、負極板の表面に全面的に固定化剤層を形成し、次いで、少なくとも該固定化剤層の上面に、導電性を有する第1カーボン材料とキャパシタ機能を有する第2カーボン材料から成る2種類のカーボン材料と少なくとも結着剤を含有するペースト状のカーボン合剤の被覆層を形成し、次いで、乾燥により該固定化剤層を固化すると共に、該カーボン合剤被覆層をポーラスなカーボン合剤被覆層に形成することを特徴とする複合キャパシタ負極板の製造方法に存する。
更に本発明は、請求項2に記載の通り、請求項1に記載の発明において、該負極板の表面に該固定化剤層を全面的に形成し、次いで、その上面に該カーボン合剤被覆層を全面的に形成することを特徴とする。
更に本発明は、請求項3に記載の通り、請求項1に記載の発明において、該負極板の表面に該固定化剤層を全面的に形成し、次いで、その上面に該カーボン合剤被覆層を部分的に形成することを特徴とする。
更に本発明は、請求項4に記載の通り、請求項1に記載の発明において、該負極板の表面に該固定化剤層を部分的に形成し、次いで、その上面に該カーボン合剤被覆層を全面的に形成することを特徴とする。
更に本発明は、請求項5に記載の通り、請求項1に記載の発明において、該負極板の表面に該固定化剤層を部分的に形成し、次いで、その上面に該カーボン合剤被覆層を部分的に形成することを特徴とする。
更に本発明は、請求項6に記載の通り、請求項1〜5に記載の製造法で製造した複合キャパシタ負極板に存する。
更に本発明は、請求項7に記載の通り、請求項6に記載の複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池に存する。
【発明の効果】
【0006】
請求項1乃至5に係る発明によれば、該固定化剤層の介在により、該負極板の表面と該カーボン合剤被覆層との界面の密着性を向上させることができるので、鉛蓄電池の組立時や鉛蓄電池の負極として使用した時における該カーボン合剤被覆層の該負極面からの剥離や脱落が著しく少なくなった複合キャパシタ負極板が高能率に製造できる。
請求項6に係る発明によれば、該負極板と該ポーラスなカーボン合剤被覆層との密着性が長期に亘り安定良好に維持された複合キャパシタ負極板をもたらす。
請求項7に係る発明によれば、上記従来の鉛蓄電池に比し、充放電サイクル寿命の延長した鉛蓄電池をもたらす。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の複合キャパシタ負極板の製造法の実施形態例を以下に詳述する。
制御弁式鉛蓄電池などの鉛蓄電池に用いる負極板に充放電サイクル寿命を向上せしめ、且つキャパシタ容量又は/及び擬似キャパシタ容量を有する、即ち、キャパシタ機能をもたらすためには、上記従来のように、常法により製造した負極板の表面に、キャパシタ層として作用する導電性を確保する第1カーボン材料とキャパシタ機能を確保する第2カーボン材料から成る2種類のカーボン材料を含むペースト状のカーボン合剤によりカーボン合剤被覆層を形成することが必要であるが、本発明は、該負極板の表面に該カーボン合剤被覆層を形成する前に、後記する固定化剤により固定化剤層を形成し、次いで、少なくとも該固定化剤層の上面に該カーボン合剤被覆層を形成し、次いで、乾燥により該固定化剤層を固化すると共に、該カーボン合剤被覆層をポーラスなカーボン合剤被覆層に形成することにより本発明の複合キャパシタ負極板を製造することを特徴とする。
【0008】
該負極板としては、常法により、鉛又はPb-Caなどの鉛合金から成る無孔又は多孔の集電用基板に、鉛ベースの負極活物質含有ペーストを付着させ、均一な厚さの負極活物質層を具備せしめたものを作製し用意する。
前記の固定化剤層を形成するための固定化剤としては、水性溶剤や有機溶剤に溶解し粘性を付与し乾燥固化時に結着性を発揮するものが好ましい。該固定化剤層を負極板の表面とカーボン合剤被覆層との間に介在させたとき、その夫々の界面を強固に密着させることが可能な材料であれば限定されるものでない。例えば、固定化剤を水性のペーストとするには、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)などのセルロース類、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)の合成樹脂類、エチレンプロピレンゴムなどのゴム類などの水性増粘剤が好ましく、有機系のペーストとするには、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機性の増粘剤が好ましい。これらの固定化剤から任意選択した少なくとも1種を水又は有機溶剤に溶解しその溶液とし、これを負極板の表面に、即ち、負極活物質層の両面に、全面的又は部分的に付着させ、その固定化剤層を形成する。その形成方法としては、負極板を、該固定化剤の溶液に一旦浸漬して該負極板の両面に全面的に又は部分的に固定化剤層を形成するか、該固定化剤の溶液を該負極板の両面に全面的又は部分的に塗布又は噴霧により付着せしめ該負極板の両面に全面的に又は部分的に該固定化剤層を形成する。次いで、該負極板の表面に、少なくとも該固定化剤層を介して全面的に或いは部分的に前記の第1カーボン材料と第2カーボン材料の少なくとも2種類のカーボン材料と少なくとも結着剤とから成るカーボン合剤に水を添加混練して成るペースト状のカーボン合剤を塗布し、カーボン合剤の被覆層を形成する。次いで、乾燥することにより、該固定化剤層に含有する水分は蒸発し、固定化剤は固化し、イオンの通過を許容する多孔性の固定化剤層が形成されると同時に、その上面に密着したキャパシタ機能を有するポーラスなカーボン合剤被覆層が形成された本発明の複合キャパシタ負極板が得られる。
尚、該固定化剤層を負極板の表面に部分的に形成した場合は、負極板の表面全面を被覆するカーボン合剤被覆層は、該固定化剤層に密着した部分と負極板の表面に密着した部分とから成る本発明の複合キャパシタ負極板が得られる。この場合、部分的な該固定化剤層は、負極板の全面域(耳部を除く)に対し、少なくとも10%以上の面域で負極板に密着せしめることが好ましい。
【0009】
該カーボン合剤の主成分であるカーボン材料は、特許文献1に開示したものと同じ材料で、高表面積を有するものを使用する。導電性を有する第1カーボン材料としては、表面積60〜1000m2/gのアセチレンブラックやファーネスブラックなどのカーボンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛などである。
該カーボン合剤の主成分であるキャパシタ機能を有する第2カーボン材料としては、1000〜2500m2/gの活性炭、カーボンブラック、黒鉛などであり、特に、活性炭が好ましい。
上記の導電性とキャパシタ機能を有する2種類のカーボン材料に添加し、これらカーボン材料を結着する結着剤としては、ポリクロロプレン、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)など任意の材料を使用する。
【0010】
カーボン合剤の組成成分の配合割合については、第1カーボン材料は5〜70重量部である。5重量部未満では導電性が充分に確保できず、キャパシタ容量、即ち、キャパシタ機能の低下を招き、70重量部を超えると導電効果が飽和し、不経済となる。第2カーボン材料の配合量は20〜80重量部である。20重量部未満ではキャパシタ容量が不足し、80重量部を超えると相対的に第1カーボン材料の割合が不足し、キャパシタ容量、即ち、キャパシタ機能が低下する。
該結着剤は、第1カーボン材料及び第2カーボン材料相互の結合と共に、該カーボン合剤被覆層の該固定化剤層との結合、密着性を確保するに役立つ。その配合量は、1〜20重量部であり、1重量部未満では上記の結合が不充分となり、20重量部を超えると該カーボン合剤被覆層の導電性を低下させ、サイクル寿命が低下する。
【0011】
上記の該カーボン合剤を水性溶媒又は有機溶剤を添加し、湿潤状態で負極板に該固定化剤層を介し展延塗布するか、展延塗布を容易にするため増粘剤を適量混合してペースト状に調製した後展延塗布する。該カーボン合剤を水性のペースト状に調整するには、例えば、水性溶剤として水とカルボキシメチルセルロース(CMC)やメチルセルロース(MC)などのセルロース誘導体、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコールなどから選択した1種又は2種以上の増粘剤を添加混合することにより得られる。この場合、水性溶剤の添加量は、カーボン合剤に対し約10重量%とし、カーボン合剤を展延塗布し乾燥後はその乾固物約10重量部以下残存するようにすることが一般であり、これにより、カーボン合剤の良好なキャパシタ機能と導電性を維持する。
更に、該カーボン合剤の組成成分として、所望により、短繊維状補強材を少量配合しても良い。短繊維補強材は、カーボン合剤にクラックを作ることでガスの透過性を良くし、ガス発生に伴う剥離を抑制するのに有用である。その配合量は性能を損なわず、且つ導電性やキャパシタ機能を低下させない約10重量%以下が良い。短繊維状補強材としては、炭素繊維、ガラス繊維、ポリエステル繊維など硫酸電解液の酸性に対し安定であれば良い。また、その太さは直径1〜30μm、長さは0.05〜4.0mmが望ましい。
【0012】
上記のように、該負極板の表面に該固定化剤を部分的に又は全面的に付着し固定化剤層を形成した後、その上から、ペースト状のカーボン合剤を塗布し、乾燥することにより、該負極板、即ち、負極活物質層の表面に強固に密着した該固定化剤層と該固定化剤層の上面に強固に密着した導電性で且つキャパシタ機能を有するポーラスなカーボン合剤被覆層の2重層から成る本発明の複合キャパシタ負極板を製造することができる。このように製造した複合キャパシタ負極板を周知の任意の正極板と共にセパレータを介し積層して成る極板群を電槽に組み込んで成る制御弁式などの鉛蓄電池を製造し、これをその急速充放電サイクルを繰り返すハイブリッド電気自動車やアイドルストップ車、その他の通信、電力、防災などのバックアップ電源などとして使用した場合に、カーボン合剤被覆層の剥離や脱落の防止効果が向上し、従って、充放電サイクル寿命が延長した鉛蓄電池をもたらす。また、この場合、該多孔性の固定化剤層は、負極板からカーボン合剤層へのイオン透過を良好に維持し、ポーラスなカーボン合剤被覆層と協働して高い出力の鉛蓄電池を維持する。
【0013】
尚、負極板の表面に施されるポーラスなカーボン合剤の配合量は、負極板に含有する負極活物質100重量部に対し1〜15重量部が適当であり、3〜10重量部が好ましい。後記に明らかにするように、カーボン合剤被覆層の耐剥離性及び充放電サイクル寿命の観点から、該固定化剤層の厚みは1〜220μm程度の範囲が好ましく、更に好ましくは約10〜120μmであることが判った。
【0014】
次に、更に詳細な実施例につき詳述する。
実施例1〜7
先ず、公知の方法を用いて、鉛粉を希硫酸水溶液で混練して成る負極ペーストをPb-Ca-Sn合金製の格子基板に充填塗布し、両面平坦で且つ均一な厚さに塗着せしめた後、熟成を施して負極板を作製した。
一方、該負極板の両表面に固定化剤層を形成するための固定化剤として、エーテル化度0.6のCMCを用い、その固定化剤水溶液として、表1に示すように0.01〜2.00%の範囲で濃度を変えた7種類のCMCの固定化剤水溶液から成る固定化剤を作製し用意した。
次に、上記の7種類の固定化剤水溶液に、夫々上記の7枚の各負極板の両表面のうち、その一方の表面にマスキングテープでマスキングしておき、夫々の負極板を一旦浸漬してその各負極板の表面に、下記表1に示すように厚さ1.0μm〜220.0μmと厚さの異なる薄膜から成る固定化剤層を形成せしめた。次いで、その各負極板を順次、非接着性のフッ素樹脂などを塗布したコンベアベルトにより一方へ搬送し乍ら、その先方上方に設けたタンク内に収容した下記する組成物から成るペースト状のカーボン合剤をモーノポンプにより、該タンクの底部から延び、負極板の幅方向に等間隔で複数本配設された夫々の吐出ノズルから各負極板の上面に全面的に施されている該固定化剤層の上面に吐出させた後、吐出された平行する線状のペースト状カーボン合剤をその先方に位置する負極板と同じ幅のウレタンゴム製スキージを通し、これにより、これら線状のペースト状カーボン合剤を加圧し且つ相互に合体させ平坦面で厚さ500μmのカーボン合剤被覆層を該固定化剤層の上面に全面的に圧着形成し、次いで、加熱乾燥室内で加熱乾燥した。次いで、固定化剤層を形成していないもう一方の負極板の表面に上記方法と同様に固定化剤層を形成せしめた後、500μmの厚さのカーボン合剤被覆層、即ち、薄膜を該固定化剤層を介し該負極板に圧着形成し次いで、加熱乾燥室内で加熱乾燥した。かくして、その各負極板の両表面に、全面的に形成した多孔性の固定化剤層と全面的に形成したポーラスなカーボン合剤被覆層から成る表1に実施例1〜7として示す7種類の本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。
尚、上記のカーボン合剤は導電性を有する第1カーボン材料として表面積60〜1000m2/gのカーボンブラック45重量部と、キャパシタ機能を有する第2カーボン材料として表面積1000〜2000m2/gの活性炭40重量部と、結着剤としてSBR 10重量部と、増粘剤としてCMC 4重量部と、溶媒として水280重量部とを配合し、これらをミキサーで混合して調整したものを用いた。
【0015】
実施例8〜14
実施例1〜8で調製したと同じエーテル化度0.6のCMCの濃度の異なる7種類のCMC水溶液の夫々を含浸させたローラーにより夫々の負極板の上面全面に均一に塗布し、表1に示すように、濃度に応じて厚さの異なる7種類の固定化剤層を形成した後、7種類の固定化剤層を形成された夫々の負極板の固定化剤層の上面に、実施例1〜7において実施したと同じ方法でカーボン合剤被覆層を形成した。次いで、7種類の夫々の負極板につき、その表面を上下反転させ、その上面に、上記と同じ方法で固定化剤層を形成し、更に、その上面に、実施例1〜7において実施したと同じ方法でカーボン合剤被覆層を形成した。次いで、乾燥室内で加熱乾燥し、その各負極板の両表面に全面的に形成された多孔性の固定化剤層と全面的に形成されたポーラスなカーボン被覆層とから成る7種類の本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。これらを表1に実施例8〜14として示す。
【0016】
実施例15〜21
実施例1〜8で調製したと同じエーテル化度0.6のCMCの濃度の異なる7種類のCMC水溶液の夫々を噴霧器により夫々の負極板の上面全面に均一に吹き付け、表1に示すように、濃度に応じて厚さの異なる7種類の固定化剤層を形成した後、7種類の固定化剤層を形成された夫々の負極板の該固定化剤層の上面に実施例1〜7において実施したと同じ方法でカーボン合剤被覆層を形成した。次いで、7種類の夫々の負極板につき、その表面を上下反転させ、その上面に、上記第1工程と同じ方法で固定化剤層を形成し、更に、その上面にカーボン合剤被覆層を形成した。次いで、乾燥室内で加熱乾燥し、その各負極板の両表面に全面的に形成された多孔性の固定化剤層と全面的に形成されたポーラスなカーボン被覆層とから成る7種類の本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。これらを表1に実施例15〜21として示す。
【0017】
実施例22〜42
実施例1〜7、同8〜14、同15〜21と同様に、浸漬(実施例22〜28)、塗布(同29〜35)、噴霧(同36〜42)の各手段で、負極板の両表面の夫々に、固定化剤層を全面的に密着形成した後、該固定化剤層の上面に下記の要領でカーボン合剤被覆層を下記の要領で部分的に密着形成して成る7種類の本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。これらを表2に実施例22〜42として示す。
カーボン合剤被覆層の上記の部分的密着形成は下記のように行った。即ち、該カーボン合剤を収容した該タンクの底部に延び上記のように配設された複数本の吐出ノズルの数を実施例1〜7の場合より減らし、夫々の吐出ノズルから該ペースト状カーボン合剤を各負極板の上面に全面的に施されている固定化剤層の上面に吐出させた後、吐出された平行する線状のペースト状カーボン合剤をその前方上方に位置する該スキージを通し、これにより、各ペースト状合剤層を加圧し、平坦面で厚さ500μm、幅5mmの帯状のカーボン合剤被覆層が等間隔で複数本平行に並ぶ縞状のカーボン合剤被覆層を該固定化剤層の全面積に対する被覆率が50%となるように圧着形成した。
【0018】
実施例43〜63
各負極板の両表面の夫々に、下記の要領で固定化剤層を部分的に密着形成した後、該負極板の上面に該固定化剤層を介し、カーボン合剤被覆層を実施例1〜7、同8〜14、同15〜21と同様に全面的に密着形成して成る7種類の本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。これらを表3に実施例43〜63として示す。
各負極板の上面に該固定化剤層を部分的に密着形成するには、各負極板の各表面に、負極板の幅方向に等間隔を存してその長さ方向に幅5mmの帯状の開孔を穿設したマスキングテープを貼着した状態としたものを、実施例43〜49では、実施例1〜7と同様に各固定化剤水溶液に浸漬することにより、実施例50〜56では、実施例8〜14と同様に各固定化剤水溶液を塗布することにより、実施例57〜63では、実施例15〜21と同様に各固定化剤水溶液を噴霧することにより、該負極板に5mm幅の帯状の固定化剤層が負極板の幅方向に等間隔を存し複数本平行に並ぶ全体として縞状の固定化剤層を該負極板の全面積(耳部を除く)に対し被覆率が50%となるように密着形成した。
【0019】
実施例64〜84
各負極板の両表面の夫々に、表4に示す濃度の異なる7種類のCMCから成る固定化剤水溶液を用い、下記の要領で帯状の固定化剤層を部分的に密着形成した後、該各帯状の固定化剤層の上面に帯状のカーボン合剤層を密着形成して成る7種類の本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。これらを表4に実施例64〜84として示す。
各負極板の上面に該固定化剤層を部分的に密着形成するには、該負極板の表面に、実施例43〜63で実施したと同様に、幅5mmの帯状のスリットを複数本穿設したマスキングテープを貼着した状態としたものを、実施例64〜70では、実施例1〜7と同様に各固定化剤水溶液に浸漬することにより、実施例71〜77では、実施例8〜14と同様に各固定化剤水溶液を塗布することにより、実施例78〜84では、実施例15〜21と同様に各固定化剤水溶液を噴霧することにより、夫々該負極板の表面に5mm幅の帯状の固定化剤層が該負極板の幅方向に間隔を存し複数本平行に並ぶ全体として縞状の固定化剤層を該負極板の全面積(耳を除く)に対し被覆率が50%となるように密着形成した。次いで、このように実施例64〜70、実施例71〜77、実施例78〜84で浸漬、塗布、噴霧により負極板に固定化剤層が部分的に密着形成された各7種類の負極板の夫々につき、各負極板において、前記の縞状の固定化剤層を構成する帯状の固定化剤層の上面に、実施例22〜42で実施したと同じ手段で、吐出ノズルからカーボン合剤を吐出させ、スキージを通し、平坦面で厚さ500μm、幅5mmの帯状のカーボン合剤被覆層を形成し、全体として縞状のカーボン合剤被覆層を密着形成した。従って、縞状のカーボン合剤層被覆層も、該固定化剤層と同様に該負極板の全面積に対する被覆率は50%となるように圧着形成した。
【0020】
従来例1
負極板の両面全面に、固定化剤層を形成することなしに、上記実施例で使用したと同じカーボン合剤を用い、実施例1〜21で行ったと同様に500μm厚さの該カーボン合剤被覆層を密着形成して成る従来の複合キャパシタ負極板を製造した。これを従来例1として、本発明の複合キャパシタ負極板と後記する密着性とサイクル寿命を比較するため、表1〜表4の各表に併記した。
【0021】
従来例2
負極板の両面に、固定化剤層を形成することなしに、上記実施例で使用したと同じカーボン合剤を用い、実施例64〜84で行ったと同様に平坦面で厚さ500μm、幅5mmの帯状のカーボン合剤被覆層を全長に亘り、負極板の幅方向に等間隔を存し、平行に並ぶ全体として縞状のカーボン合剤被覆層を該負極板の全面積に対する被覆率が略50%となるように圧着形成して複合キャパシタ負極板を製造した。これを従来例2として、表2〜表4の各表に併記した。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
密着性試験1:
実施例1〜7、同8〜14及び同15〜21で製造した本発明の複合キャパシタ負極板及び従来例1で製造した従来の複合キャパシタ負極板につき、複合キャパシタ負極板面に対するカーボン合剤被覆層の密着性を測定するため、碁盤目テープ試験を次のように行った。即ち、各複合キャパシタ負極板の片面に形成されたカーボン合剤被覆層を、ナイフにより、負極板の表面に達する深さの切り込み線で5mm×5mmの正四角の碁盤目を無作為に100個刻成し、そのマス目毎に5mm×5mm角のクラフトテープ片を貼り付け、この状態から、ピンセットにより各マス目のクラフトテープ片と共にその下の方形のカーボン合剤被覆層片を挟み引っ張り上げたとき、マス目のカーボン合剤被覆層片が剥離するか否かを試験し、剥離したカーボン合剤被覆層片の数を数え、その剥離量を100個のマス目に対する百分率で求めた。その結果は、表1に示す通りであった。
同表から明らかなように、実施例1〜21の全ての本発明の複合キャパシタ負極板のカーボン合剤被覆層の剥離量は、浸漬、塗布、噴霧による固定化剤層の形成手段に関係なく、該固定化剤層の介在により、従来例1,2の複合キャパシタ負極板に比し著しく減少すること、即ち、密着性が向上することが確認された。
尚、本実施例ではカーボン合剤に増粘剤を配合したものを示したが、カーボン合剤に増粘剤を適量混合することでペースト状に調製し展延塗布を容易にしたものであるが、カーボン合剤をペースト状に調製しない場合には、増粘剤は必ずしも必要ではない。
また、カーボン合剤に短繊維補強材を添加することも可能である。カーボン合剤に短繊維補強材を適量添加混合することにより、カーボン合剤ペーストの加熱乾燥時のクラックの発生を防止すると共にガスの透過性を良くし、ガス発生に伴う剥離を抑制するのに有用である。
また、カーボン合剤に増粘剤や短繊維補強材の配合の有無によって、密着性等に差は見られなかった。
【0027】
密着性試験2:
実施例22〜42及び同64〜84で製造した本発明の複合キャパシタ負極板及び従来例2で製造した従来の複合キャパシタ負極板につき、全面被覆又は部分被覆の固定化剤層の上面に密着形成された各帯状のカーボン合剤被覆層の両側面に沿い、ナイフにより、該負極板面まで達する深さの切り込み線と、該帯状のカーボン合剤被覆層の長さ方向に5mmの間隔を存して該負極板面に達する切り込み線とにより、5mm×5mm角の方形のカーボン合剤被覆層片を無作為に全部で50個形成した後、その各片の上面に5mm×5mm角のクラフトテープ片を貼り付け、この状態から、密着性試験1と同様に、各カーボン合剤被覆片の剥離試験を行い、剥離したカーボン合剤被覆層片の数を数え、その剥離量を50個のマス目に対する剥離量を百分率で求めた。その結果は、表2及び表4に示す通りであった。同表から明らかなように、従来例1,2と対比し、該固定化剤層の介在によりカーボン合剤被覆層の密着性の向上が確認された。
【0028】
密着性試験3:
実施例43〜63で製造した本発明の複合キャパシタ負極板につき、負極板の表面に帯状の固定化剤層を介して全面被覆されたカーボン合剤被覆層に、各帯状の固定化剤層の両側に沿い負極板面に達する深さの切り込み線と、その両側の切り込み線により形成された5mm幅の帯状のカーボン合剤被覆層を横断してその長さ方向に5mmの間隔で切り込むことにより、5mm×5mm角の方形カーボン合剤被覆層片を50個無作為に形成した後、その各片の上面に5mm×5mm角のクラフトテープ片を貼り付け、この状態から、密着性試験1と同様に、各カーボン合剤被覆片の剥離試験を行った。その結果は、表3に示す通りであった。同表から明らかなように、従来例1,2と対比し、該固定化剤層の介在によりカーボン合剤被覆層の密着性の向上が確認された。
【0029】
実施例85〜96
CMCのエーテル化度を下記表5に示すように変え、且つその各CMC水溶液の濃度を0.50%に調製した4種類の固定化剤の夫々を、各負極板の表面に、上記の実施例1〜7、同8〜14、同15〜21の場合と同様に、浸漬、塗布、噴霧によりその固定化剤層を夫々設けた後は、実施例1〜7、同8〜14、同15〜21の場合と同様にしてカーボン合剤の被覆層を夫々形成し、乾燥して下記表5に実施例85〜88、同89〜92、同93〜96として示す各4種類の本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。
【0030】
上記の実施例85〜96で製造した複合キャパシタ負極板の夫々につき、密着性試験1と同じ方法で碁盤目テープ試験を行った。その試験結果を表5に示す。
表5から明らかなように、CMCのエーテル化度に関係なく、優れた密着性が得られることが確認された。
【0031】
【表5】

【0032】
実施例97〜114
固定化剤としてCMC以外の下記表6に示す6種類の固定化剤を用い、その夫々の固定化剤の濃度0.50%水溶液を調製したものを、夫々各負極板の表面に、各固定化剤水溶液を上記実施例1〜7、同8〜14、同15〜21の場合と同様に、浸漬、塗布、噴霧によりその固定化剤層を夫々設けた後は、実施例1〜7、同8〜14、同15〜21の場合と同様にして該カーボン合剤被覆層を形成し、乾燥して下記表6に実施例97〜102、同103〜108、同109〜114として示す各6種類の本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。
【0033】
密着性試験:
上記の実施例97〜114で製造した複合キャパシタ負極板の夫々につき、1〜7、同8〜14、同15〜21の場合と同じ方法で碁盤目テープ試験を行った。その試験結果を表6に示す。
表6の実施例97〜114の試験結果を表1及び表2の従来例1,2と対比し明らかなように、固定化剤の種類に関係なく、これらの固定化剤により形成された固定化剤層の介在によりカーボン合剤被覆層の負極板表面に対する密着性の向上した、換言すれば、耐剥離性の向上した複合キャパシタ負極板が得られることを確認した。
尚、実施例として例示しないが、固定化剤層カーボン合剤被覆層が全面-部分、部分-全面、部分-部分の場合も全面-全面と同様の耐剥離性の向上が認められた。
【0034】
【表6】

【0035】
実施例115〜121
エーテル化度0.6のCMCの濃度を0.50%に調製したCMC水溶液を含浸させたローラーにより夫々の負極板の上面全面に均一に塗布し、厚さ50.0μmの固定化剤層を形成した後、結着剤SBRの添加量を下記表7-1に示すように、1,5,15,20,25,40,60重量部と変えた以外は、実施例11で用いたと同じ段落0014に記載のカーボン合剤組成から成る7種類のカーボン合剤を夫々の負極板の固定化剤層の上面に、実施例1〜7において実施したと同じ方法で厚さ500μmカーボン合剤被覆層を形成した。次いで、7種類の夫々の負極板につき、その表面を上下反転させ、その上面に、上記と同じ方法で固定化剤層を形成し、更に、その上面に、実施例1〜7において実施したと同じ方法でカーボン合剤被覆層を形成した。次いで、乾燥室内で加熱乾燥し、その各負極板の両表面に全面的に形成された多孔性の固定化剤層と全面的に形成されたポーラスなカーボン被覆層とから成る7種類の本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。これらを下記表7-1に実施例115〜121として示す。
【0036】
【表7−1】

【0037】
実施例122〜129
上記実施例115〜121において調製した該カーボン合剤中の組成成分としての結着剤として用いたSBRに代え、PVDFを用いると共に、その添加量を1,5,10,15,20,25,40,60重量部と変えた8種類のカーボン合剤調製し、実施例122〜129と同じ要領で該負極板の両面にカーボン合剤被覆層を全面的に形成した8種類の本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。これらを下記表7-2に実施例122〜129として示す。
【0038】
【表7−2】

【0039】
従来例3〜10
前記の実施例115〜121と同じ7種類のカーボン合剤を用い、前記の従来例1と同じ製造法で7種類の複合キャパシタ負極板を製造した。これらを表8に従来例3〜10として示す。
【0040】
【表8】

【0041】
密着性試験:
上記の実施例115〜121で製造した複合キャパシタ負極板、上記の実施例122〜129で製造した複合キャパシタ負極板及び従来例3〜9で製造した複合キャパシタ負極板の夫々につき、実施例11及び従来例1の場合と同じ方法で碁盤目テープ試験を行った。その試験結果を夫々表7-1,7-2及び表8に夫々示す。
表7-1,7-2及び表8を比較し明らかなように、実施例115〜121の7種類の複合キャパシタ負極板及び実施例122〜129の8種類の複合キャパシタ負極板は、結着剤の増大に伴い耐剥離性の強度が増大し、且つカーボン合剤被覆層の剥離は殆ど乃至皆無となることが確認された。これに対し、従来例3〜9の複合キャパシタ負極板は、結着剤の増大に伴い剥離量は減少するが、固定化剤被覆層がないので、結着剤を増大しても、その剥離量は大きく、この剥離量と対比し、固定化剤被覆層介在による剥離防止効果は極めて顕著であることが判る。
また、実施例として示さないが、固定化剤層-カーボン合剤被覆層を全面-全面に代え、全面-部分、部分-全面、部分-部分としても、上記の全面-全面の場合と同様の傾向を示した。
【0042】
実施例130〜134
濃度0.01%のCMC水溶液を用い、その水溶液を各負極板の表面に部分マスキングにより等間隔に部分塗布し、該負極板の表面に、その全表面積(耳部を除く)に対する被覆率10%,30%,50%,70%,90%と夫々塗布面積が異なる厚さ1.0μmの5種類の固定化剤の部分被覆層を形成し、結着剤SBR 10重量部を含有する実施例1で用いたと同じ組成から成り且つ厚さ500μmのカーボン合剤層を各固定化剤の部分被覆層の上面とこれら被覆層間の負極板の表面全面に塗布し、密着形成して成る5種類の複合キャパシタ負極板を製造した。これらを下記表9-1に実施例130〜134として示す。
【0043】
【表9−1】

【0044】
実施例135〜139
濃度0.10%のCMC水溶液を用いたこと、各負極板の表面に密着形成した塗布面積が異なる5種類の固定化剤層の厚さを10.0μmとしたこと以外は、実施例122〜126と同じ要領で実施し、5種類の複合キャパシタ負極板を製造した。これらを下記表9-2に実施例135〜139として示す。
【0045】
【表9−2】

【0046】
実施例140〜144
濃度1.00%のCMC水溶液を用いたこと、各負極板の表面に密着形成した塗布面積が異なる5種類の固定化剤層の厚さを100.0μmとしたこと以外は、実施例130〜134と同じ要領で実施し、5種類の複合キャパシタ負極板を製造した。これらを下記表9-3に実施例140〜144として示す。
【0047】
【表9−3】

【0048】
実施例145〜149
濃度1.50%のCMC水溶液を用いたこと、各負極板の表面に密着形成した塗布面積が異なる5種類の固定化剤層の厚さを150μmとしたこと以外は、実施例130〜134と同じ要領で実施し、5種類の複合キャパシタ負極板を製造した。これらを下記表9-4に実施例145〜149として示す
【0049】
【表9−4】

【0050】
実施例150〜154
濃度2.00%のCMC水溶液を用いたこと、各負極板の表面に密着形成した塗布面積が異なる5種類の固定化剤層の厚さを200.0μmとしたこと以外は、実施例130〜134と同じ要領で実施し、5種類の複合キャパシタ負極板を製造した。これらを下記表9-5に実施例150〜154として示す
【0051】
【表9−5】

【0052】
密着性試験:
上記の実施例130〜134、同135〜139、同140〜144、同145〜149、同150〜154で夫々製造した複合キャパシタ負極板の夫々につき、実施例11の場合と同じ方法で碁盤目テープ試験を行った。その試験結果を夫々の実施例に対応する表9-1、同9-2、同9-3、同9-4及び表9-5に夫々示す。
これらの各表から明らかなように、各表に示す5種類の製品は、負極板全面に対する固定化剤層の面積が大きくなるに伴い、カーボン合剤被覆層の剥離量は小さくなる。10%の面積であっても、表8に示す固定化剤層を欠き、カーボン合剤被覆層が負極面に直接密着形成された従来型の複合キャパシタ負極板におけるカーボン合剤被覆層の剥離量に比し低減することが確認された。
上記の実施例130〜154は、各濃度のCMC水溶液を塗布により夫々の固定化剤を形成した場合を示したが、浸漬又は噴霧により同様の固定化剤層を形成した場合でも、夫々製造された複合キャパシタ負極板は、上記の実施例130〜154と同じ傾向の剥離試験結果を示した。
【0053】
鉛蓄電池の充放電サイクル寿命試験:
上記の実施例1〜154で製造した複合キャパシタ負極板を負極として下記のように本発明の鉛蓄電池を夫々製造し、その各電池の充放電サイクル寿命試験を下記のように行った。また、従来例1〜10で製造した各複合キャパシタ負極板を負極として下記のように従来の鉛蓄電池を夫々製造し、その各鉛電池の充放電サイクル試験を行った。
即ち、上記の各実施例及び各従来例で製造した未化成の複合キャパシタ負極板5枚と、公知の方法で作製した未化成の正極板4枚とを、AGMセパレータを介して交互に積層させ積層体とし、該積層体の同極性の極板同士をバーナー方式で溶接して極板群を得た。次いで、前記極板群の圧迫度が50kPaとなるようにスペーサを挿入して調整し、前記電槽に蓋をヒートシールし、前記蓋の液口から電槽内に希硫酸を注入し、所定の条件で電槽化成を行い、正極容量規制で公称容量10Ah/2Vの鉛蓄電池を夫々製造した。
このように製造した各鉛蓄電池のサイクル寿命試験として、RHOLAB試験を実施した。RHOLAB試験の条件は放電パターンでは放電5CA(67.5A)1秒、充電2.5CA(33.75A)1秒を648回繰り返した後、充電パターンへ移行する。充電パターンは2.5CA(33.75A)20秒、休止1秒を33回繰り返す。最後に200秒休止して1サイクルとする。而して、放電電圧が0.3Vに達した時点を寿命と判断した。尚、試験温度は気槽25℃で行い、SOC 80%から試験を開始した。
このようにして得られた本発明の各鉛蓄電池及び各従来理鉛蓄電池の充放電サイクル寿命試験結果を、実施例1〜154及び従来例1〜9の夫々に対応する各表に示す。
これらの表から明らかなように、本発明の複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池は全て、従来の複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池に比し充放電サイクル寿命は著しく寿命延長し得る結果をもたらすと共に、該固定化剤を負極板とカーボン合剤被覆層との間に全面的に或いは部分的に介在させることにより、カーボン合剤被覆層を負極板に直接形成せしめるに比し、カーボン合剤被覆層の負極板に対する密着性を向上し、サイクル寿命の延長をもたらすことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極板の表面に固定化剤溶液により固定化剤層を形成し、次いで、少なくとも該固定化剤層の上面に、導電性を有する第1カーボン材料とキャパシタ機能を有する第2カーボン材料から成る2種類のカーボン材料と少なくとも結着剤を含有するペースト状のカーボン合剤の被覆層を形成し、次いで、乾燥により該固定化剤層を固化すると共に、該カーボン合剤被覆層をポーラスなカーボン合剤被覆層に形成することを特徴とする複合キャパシタ負極板の製造方法。
【請求項2】
該負極板の表面に該固定化剤層を全面的に形成し、次いで、その上面に該カーボン合剤被覆層を全面的に形成することを特徴とする請求項1に記載の複合キャパシタ負極板の製造法。
【請求項3】
該負極板の表面に該固定化剤層を全面的に形成し、次いで、その上面に該カーボン合剤被覆層を部分的に形成することを特徴とする請求項1に記載の複合キャパシタ負極板の製造法。
【請求項4】
該負極板の表面に該固定化剤層を部分的に形成し、次いで、その上面に該カーボン合剤被覆層を全面的に形成することを特徴とする請求項1に記載の複合キャパシタ負極板の製造法。
【請求項5】
該負極板の表面に該固定化剤層を部分的に形成し、次いで、その上面に該カーボン合剤被覆層を部分的に形成することを特徴とする請求項1に記載の複合キャパシタ負極板の製造法。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の製造法で製造した複合キャパシタ負極板。
【請求項7】
請求項6に記載の複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池。

【公開番号】特開2011−175747(P2011−175747A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36903(P2010−36903)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【出願人】(305039998)コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガニゼイション (92)
【Fターム(参考)】