説明

触媒によるカーボンナノチューブの製造方法、電界放出電子源の製造方法、電界放出電子源及び電界放出型ディスプレイ

【課題】電界放出電子源ないしFEDの製造に好適な電界放出用カーボンナノチューブの成長条件を正確に制御することのできるカーボンナノチューブの製造方法、電界放出電子源の製造方法、電界放出電子源及び電界放出型ディスプレイの提供を目的とする。
【解決手段】本発明に係るCo/Ti触媒又はFe/Al触媒によるカーボンナノチューブの製造方法においては、触媒膜の膜厚を調整する条件、触媒膜自体の膜厚を調整する条件、原料ガスが触媒膜に接触する前の段階で原料ガスが予熱される有無の条件、反応室の炉壁温度条件、原料ガスの触媒接触時間や原料ガスの流量を調整する条件を、カーボンナノチューブの成長を制御する制御条件群として使用して、カーボンナノチューブをガラス軟化点以下の低温で成長させ、その成長を高精度に制御することが可能となり高性能FED等の生産に寄与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの製造方法、カーボンナノチューブを用いた電界放出電子源の製造方法、電界放出電子源及び電界放出型ディスプレイに関し、更に詳細には、ガラス基板などのように軟化温度や融点の低い基体に触媒を保持し、基体を軟化させない程度の低温度で触媒上にカーボンナノチューブを効率的に成長させることができる触媒によるカーボンナノチューブの製造方法、それを用いた電界放出電子源の製造方法、同製造方法により製造される電界放出電子源及び電界放出型ディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
1991年に炭素のアーク放電堆積物の中にカーボンナノチューブが発見され、この発見に触発されて、カーボンナノチューブの量産研究が開始された。アーク放電ではカーボンナノチューブ以外にカーボンパーティクルなどの不純物が生成され、しかも大量合成は困難であることが認識されつつある。
【0003】
1994年にアメリンクス等(Amelinckx, X.B.Zhang,D. Bernaerts, X. F. Zhang,V. Ivanov and J. B. Nagy, SCIENCE, 265(1994)635:非特許文献1)が、触媒を用いてカーボンナノチューブの合成に成功した。彼らの製造方法は、Co、F e、Niのような金属触媒を微小粉に形成し、この触媒近傍を700℃以上に加熱し、この触媒に接触するようにアセチレンやベンゼンのような有機ガスを流通させ、これらの有機分子を分解する方法である。しかし、生成されたカーボンナノチューブの形状は様々で、直線状、曲線状、平面スパイラル状、コイル状などのカーボンナノチューブが混在していた。
【0004】
一方、直線状のカーボンナノチューブの生成効率を向上させる研究が行われた。1994年にセラフィン等(Supapan Seraphin and Dan Zhou, Applied Physics Letters, Vol.64(1994)pp.2087-2089:非特許文献2)は、混合触媒を用いてカーボンナノチューブの生成実験を行った。彼らの混合触媒は、Fe/Ni、Ni/Mg、Ni/Ti、Co/Ni、Co/Cuの5種類である。製造されたカーボンナノチューブは主として単層カーボンナノチューブであり、生成効率はそれ程上昇しないことが分かった。
【0005】
これらの研究以後、触媒CVD法を用いてカーボンナノチューブの大量合成の研究が行われている。これらの研究の殆どは、アセチレンなどの原料ガスを700℃以上に加熱された触媒で分解し、触媒上にカーボンナノチューブを生成させる方法である。従って、触媒を保持する基体は700℃以上の耐熱性を有することが前提になっている。
【0006】
ところで、カーボンナノチューブの利用法は各種検討されているが、その中でもカーボンナノチューブの電界放出特性を利用した電界放出型ディスプレイ(以後FEDという。Field Emission Display)が有力視されている。電界放出は、固体表面に強い電界がかかると、固体表面に閉じ込められていた電子が、表面のポテンシャル障壁が低くなるためにトンネル効果により真空中に飛び出しやすくなる現象をいう。このFEDはガラス基板にナノチューブを立設させ、電界放出により放出された電子を蛍光体に衝突させて画像表示するものである。
【0007】
ガラス基板にカーボンナノチューブを立設する技術として、ガラス基板上にカーボンナノチューブ製造用触媒を固定し、この触媒を種にして熱化学気相成長法(以下、熱化学気相成長法を熱CVD法という。)により触媒上にカーボンナノチューブを垂直成長させる方法が考えられている。
【非特許文献1】Amelinckx, X.B.Zhang,D. Bernaerts, X. F. Zhang,V. Ivanov and J. B. Nagy, SCIENCE, 265(1994)635
【非特許文献2】Supapan Seraphin and Dan Zhou, Applied Physics Letters, Vol.64(1994)pp.2087-2089
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
熱CVD法によりガラス基板上にカーボンナノチューブを形成する場合、ガラス基板の軟化点(軟化温度)以下でカーボンナノチューブを成長させることが必要になる。
一方、ガラスの軟化点はガラスの種類により変化するが、例えば耐熱ガラスでも690℃、745℃、900℃などである。非耐熱ガラスになると、軟化点は更に低下し、570℃などの例がある。従って、低い軟化点を有するガラス基板に触媒を固定して、700℃以上の炉壁温度でカーボンナノチューブを成長させると、カーボンナノチューブが成長してもガラスが軟化するため、とてもFED用に用いることができないという問題を生じている。つまり、ガラスを軟化させないでカーボンナノチューブを製造するためには、ガラスを軟化させない臨界温度として550℃を設定し、この臨界温度以下でカーボンナノチューブを成長させる方法を発見する必要がある。
【0009】
また、カーボンナノチューブを用いてFEDを製造する場合、約数10〜数100μmの間隔おいて形成される、一対のアノード電極とカソード電極の電極間に電界放出用カーボンナノチューブを立設した電界放出電子源を多数形成する必要がある。各電界放出電子源においては、上記の一対の電極間に設けられる電界放出調整用ゲート電極の位置より低い位置に電界放出用ナノチューブの先端を配置する必要がある。したがって、高性能の電界放出電子源ないしFEDをカーボンナノチューブを用いて製造するためには、電界放出用ナノチューブの品質、長さ、さらに形成密度等の成長条件を正確に制御して成長させる必要があるといった課題があった。殊に、品質上の問題としては、熱CVD法によりカーボンナノチューブを形成する場合にアモルファス成分も形成され、カーボンナノチューブの純度を低下させるが、純度を高めるためには、加熱処理を再度行う酸化処理によりアモルファス成分を低減させる工程を必要とし、FED生産プロセスの効率低下を招いてしまう問題がある。
【0010】
従って、本発明の目的は、基板として使用されるガラスなどを軟化させずにカーボンナノチューブを550℃以下の温度で成長させる触媒を用いて高効率に垂直成長させることができると共に、電界放出電子源ないしFEDの製造に用いる電界放出用カーボンナノチューブの品質、長さ及び形成密度等の成長条件を正確に制御することのできる、カーボンナノチューブの製造方法、電界放出電子源の製造方法、電界放出電子源及び電界放出型ディスプレイを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の第1の形態は、基体上に少なくともCo元素とTi元素を含有するCo/Ti触媒膜又は少なくともFe元素とAl元素を含有するFe/Al触媒膜を成膜し、反応室に前記触媒膜を配置して原料ガスを加熱下で接触させてカーボンナノチューブを製造する方法であって、前記触媒膜の膜厚を調整する条件、原料ガスが前記触媒膜に接触する前の段階で原料ガスが予熱される有無の条件及び前記反応室の温度を調整する条件からなる条件群のうち、少なくとも一つの条件を採用して、カーボンナノチューブの成長を制御する触媒によるカーボンナノチューブの製造方法である。
【0012】
本発明の第2の形態は、前記第1の形態において、前記原料ガスが前記触媒膜に接触する時間を調整する条件及び/又は前記原料ガスの流量を調整する条件が、前記条件群に加えられる触媒によるカーボンナノチューブの製造方法である。
【0013】
本発明の第3の形態は、前記第1又は第2の形態において、前記触媒膜は前記各元素の金属膜を積層して構成され、前記各金属膜の膜厚を調整することにより、前記触媒膜の膜厚を調整する触媒によるカーボンナノチューブの製造方法である。
【0014】
本発明の第4の形態は、前記第3の形態において、前記各金属膜の膜厚を略同一に設定し、前記各膜厚を調整する触媒によるカーボンナノチューブの製造方法である。
【0015】
本発明の第5の形態は、前記第1又は第2の形態において、前記原料ガスの予熱温度が炉壁温度として200℃〜1000℃の範囲から調整される触媒によるカーボンナノチューブの製造方法である。
【0016】
本発明の第6の形態は、前記第1又は第2の形態において、前記反応室の温度が炉壁温度としてガラス軟化点以下の範囲に調整される触媒によるカーボンナノチューブの製造方法である。
【0017】
本発明の第7の形態は、前記第1又は第2の形態において、前記触媒膜は前記各元素が合金として含有される請求項1又は2に記載の触媒によるカーボンナノチューブの製造方法。
【0018】
本発明の第8の形態は、前記第1又は第2の形態において、前記触媒膜は前記各元素が金属化合物として含有される触媒によるカーボンナノチューブの製造方法である。
【0019】
本発明の第9の形態は、前記第1〜8の形態において、前記触媒膜が炭化されて配置される触媒によるカーボンナノチューブの製造方法である。
【0020】
本発明の第10の形態は、ガラス層上にカソード電極膜を形成し、このカソード電極膜上に透孔を所要部に形成した絶縁層を配置し、前記透孔内に電界放出用のカーボンナノチューブを配置し、前記絶縁層上にゲート電極膜を形成した電界放出電子源において、前記透孔内の電極膜上に少なくともCo元素とTi元素を含有するCo/Ti触媒又は少なくともFe元素とAl元素を含有するFe/Al触媒を配置し、この触媒によりカーボンナノチューブを前記透孔内に形成し、カーボンナノチューブの先端を前記透孔内に存在させる電界放出電子源である。
【0021】
本発明の第11の形態は、ガラス層上にカソード電極膜を形成し、このカソード電極膜上に透孔を所要部に形成した絶縁層を配置し、前記透孔内に電界放出用のカーボンナノチューブを配置し、前記絶縁層上にゲート電極膜を形成した電界放出電子源において、前記透孔内の電極膜上に少なくともCo元素とTi元素を含有するCo/Ti触媒膜又は少なくともFe元素とAl元素を含有するFe/Al触媒膜を配置し、反応室内に前記触媒膜を曝露させ原料ガスと加熱下で接触させてカーボンナノチューブを成長させる方法であって、前記Co/Ti触媒膜の膜厚を調整する条件、原料ガスが前記触媒膜に接触する前の段階で原料ガスが予熱される有無の条件及び前記反応室の温度を調整する条件からなる条件群のうち、少なくとも一つの条件を採用して、成長後のカーボンナノチューブの先端を前記透孔内に存在させる電界放出電子源の製造方法である。
【0022】
本発明の第12の形態は、前記第10形態の電界放出電子源を配置し、このゲート電極膜に対向してアノード電極を配置し、このアノード電極側に蛍光物質層を形成し、前記カーボンナノチューブにより放出された電子が前記蛍光物質層に衝突して発光する電界放出型ディスプレイ(FED)である。
【発明の効果】
【0023】
本発明者らは、高性能カーボンナノチューブ合成用にCo/Ti又はFe/Alの二元素形触媒を用いて、従来よりも低温でカーボンナノチューブを生成することを見出した。これについては既に特許出願を行っている(出願番号:特願2004−127395)。
【0024】
更に、本発明者らは、Co/Ti又はFe/Alの二元素形触媒を用いて形成されるカーボンナノチューブの、FED用電子源の製造への適応可能性を検証した。その検証の結果、触媒の膜厚、成長条件を制御することにより、さらに反応ガスの予熱効果を利用し、垂直配向した高品質のカーボンナノチューブを合成できると同時に、その膜厚を制御できることを見出した。この知見はガラス基板が変形することなく規定の長さをもつ高品質カーボンナノチューブを基板上に生成させ、高性能FED用電子源の製造を実現可能とするものである。
【0025】
本発明の第1の形態によれば、Co元素とTi元素又はFe元素とAl元素を含有するカーボンナノナノチューブ製造用触媒を用いるため、炉壁温度が550℃以下の反応室でこの触媒上にカーボンナノチューブを略垂直に高効率に成長させることができる。Co元素とTi元素、Fe元素とAl元素の組み合わせ触媒は本発明者等によって初めて発見されたものであり、この組み合わせにより初めてカーボンナノチューブを低温合成することに成功した。本発明における触媒膜用の基体がガラス基板の場合には、基板温度は550℃以下に調整され、ガラス基板が軟化することは無い。従って、この方法によって製造されたカーボンナノチューブが成長したガラス基板は、そのままFED用の電子源として利用することができる。勿論、基体が耐熱性基板の場合には、550℃以上の所望温度に調整されてもよく、カーボンナノチューブを高効率に成長させることができる。
さらに、本形態によれば、前記触媒膜の膜厚を調整する条件、原料ガスが触媒膜に接触する前の段階で原料ガスが予熱される有無の条件及び前記反応室の温度を調整する条件からなる条件群のうち、少なくとも一つの条件を採用してカーボンナノチューブの成長を制御するため、カーボンナノチューブの品質、長さ及び形成密度等の成長条件を正確に制御することができ、電界放出電子源ないしFEDの製造に好適な製造方法を提供することができる。
【0026】
本発明の第2の形態によれば、前記原料ガスが前記触媒膜に接触する時間を調整する条件及び/又は前記原料ガスの流量を調整する条件により、成長後のカーボンナノチューブの長さ(全長)制御とともにアモルファス成分の大幅な低減化も可能となり、電界放出電子源ないしFEDの量産化に好適な、触媒によるカーボンナノチューブの製造方法を提供することができる。
【0027】
本発明の第3の形態によれば、前記第1又は第2の形態において、前記触媒膜はCo膜とTi膜又はFe膜とAl膜を積層して構成され、各膜厚を調整することにより、前記触媒膜の膜厚を調整するので、Co/Ti又はFe/Alの金属膜形成処理において制御可能な積層形成と膜厚調整によりカーボンナノチューブの成長条件を高精度に制御することができる。また、前記金属膜の積層方法として、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法など各種のPVD法(物理的蒸着法)やCVD法(化学的蒸着法)が使用できる。
【0028】
本発明の第4の形態によれば、前記第3の形態において、前記Co膜厚と前記Ti膜厚又はFe膜とAl膜を略同一に設定し、各金属膜の膜厚を調整するので、Co/Ti又はFe/Alの金属膜形成処理において制御可能な膜厚値調整によりカーボンナノチューブの成長条件を高精度に制御することができる。
【0029】
本発明の第5の形態によれば、前記第1又は第2の形態において、前記原料ガスの予熱温度が炉壁温度として200℃〜1000℃の範囲から調整されるため、予熱温度が少なくとも100℃以上のガス温度に設定された前記原料ガスを前記反応室に供給して、前記触媒にカーボンナノチューブを効率的に成長させることができるとともに、触媒によるカーボンナノチューブの成長条件を前記炉壁温度により簡易に制御でき、電界放出電子源ないしFEDの工業的製造に好適なカーボンナノチューブの製造方法を提供することができる。
【0030】
本発明の第6の形態によれば、前記第1又は第2の形態において、前記反応室の温度が炉壁温度としてガラス軟化点以下の範囲に調整されるため、前記反応室に原料ガスを供給して、前記触媒にカーボンナノチューブを効率的に成長させることができるとともに、触媒によるカーボンナノチューブの成長条件を前記炉壁温度により簡易に制御でき、電界放出電子源ないしFEDの工業的製造に好適なカーボンナノチューブの製造方法を提供することができる。ガラス軟化点とは加熱によってガラスが軟化する温度であり、例えば550℃以下が好ましい。また、下限温度としては、触媒によりカーボンナノチューブが成長する温度であればよく、この範囲内で自在に設定される。
【0031】
本発明の第7の形態によれば、前記元素が合金として含有されるカーボンナノナノチューブ製造用触媒が提供されるから、FeとAl、またCoとTiが均一に混ざり合い、カーボンナノチューブを均一に高密度成長させることができる。
【0032】
本発明の第8の形態によれば、前記触媒の各元素が金属化合物として含有されるから、金属酸化物、金属窒化物、有機金属化合物など各種の化合物を利用できる。従って、目的触媒を公知の化学的処方により自在に調製できる利点がある。
【0033】
本発明の第9の形態によれば、触媒表面を炭化するから、粒子状の炭化物が形成され、この炭化物触媒によりカーボンナノチューブが効率的に成長できる。従って、550℃以下の低温合成を効率的に実現できる。
【0034】
本発明の第10の形態によれば、前記触媒によりカーボンナノチューブを前記透孔内に成長させ、カーボンナノチューブの先端を前記透孔内に存在させるように成長を停止させるだけで電界放出電子源を構成できる。前記カーボンナノチューブの先端がゲート電極膜より低い位置に存在するから、カーボンナノチューブ先端から電界放出された電子流(電流)をゲート電圧の可変により調整でき、有効な電界放出電子源を提供できる。特に、Co/Ti触媒及びFe/Al触媒はガラス層の軟化点以下の低温でカーボンナノチューブを成長させることができるから、ガラス層の構造変形が全く無い高性能の電界放出電子源を提供できる利点がある。
【0035】
本発明の第11の形態によれば、前記第10形態におけるカーボンナノチューブを成長させる前の電界放出電子源を反応室内に配置して反応室内に前記触媒膜を曝露させ、この触媒膜を原料ガスと加熱下で接触させてカーボンナノチューブを成長させる方法であって、前記触媒膜の膜厚を調整する条件、原料ガスが触媒膜に接触する前の段階で原料ガスが予熱される有無の条件及び前記反応室の温度を調整する条件からなる条件群のうち、少なくとも一つの条件を採用するだけで、成長後のカーボンナノチューブの先端を前記透孔内に存在させることが可能になる。従って、カーボンナノチューブ先端をゲート電極膜の位置より低い任意位置に存在させることが簡単に行え、電界放出された電子流の強度をゲート電圧により自在に調整することが可能になり、高性能の電界放出電子源を製造できる利点を有する。
【0036】
本発明の第12の形態によれば、前記第7形態の電界放出電子源を配置し、このゲート電極膜に対向してアノード電極を配置し、このアノード電極側に蛍光物質層を形成するだけで、高性能の電界放出型ディスプレイ(FED)を提供できる。前記触媒により高品質のカーボンナノチューブを形成できるだけでなく、成長したカーボンナノチューブの全長を自在に調整できるから、カーボンナノチューブ先端から電界放出される電子流強度をゲート電圧により自在に調整できる電界放出型ディスプレイを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下に、本発明に係るカーボンナノチューブの製造方法、それを用いたFED製造方法及びそれにより製造されたFEDの実施形態を図面に従って詳細に説明する。
【0038】
図1は、本発明に係るFe/Al触媒又はCo/Ti触媒の製造方法の一例を説明する工程図である。(1A)では、ガラス基板2の上面にマスク4を配置して、Al又はTiを蒸着する。その結果、開放面5にAl又はTiの金属膜が形成される。(1B)では、その上から、Fe又はCoを蒸着し、前記金属膜上に2層目の金属膜が形成される。本形態において、Fe/Alでは、下の金属膜はAlで、上の金属膜はFeである。また、Co/Tiでは、下の金属膜はTiで、上の金属膜はCoである。この上下は逆転しても構わない。
【0039】
(1C)では、ガラス基板2に触媒8が二重膜として形成された触媒体6が完成される。この例では、触媒の膜幅は2mm、奥行きは10mmに設計された。(1D)では、触媒体6の要部断面が示されている。ガラス基板2の上面に第1触媒8a(Al又はTi)と第2触媒(Fe又はCo)が積層されている。第1触媒厚hと第2触媒厚Hは、好ましくは0.1〜15nmの範囲に調整され、更に好ましくは0.3〜7nmに調整される。
【0040】
図2は本実施形態に用いる二元触媒の炭化処理装置の構成図である。ガス輸送管10は耐熱性のクオーツチューブからなり、その外周に炭化ヒータ12が配置され、内部に炭化室14が形成されている。炭化室14には触媒体6が配置され、触媒8が原料ガスに曝露されるように構成される。
【0041】
キャリアガスは原料ガスを送流するガスで、キャリアガスとしてはHe、Ar、Nなどの不活性ガスが使用される。原料ガスは、カーボンナノチューブを成長させる炭素供給用のガスで、炭化水素ガスが不要元素を含まない点から好適であり、C、CH、Cなどのアルカン、アルキン、アルケンなどが使用される。キャリアガスや原料ガスは上記に限定されず、カーボンナノチューブを成長させる機能を有する全てのガスが利用できる。炭化温度は550℃以下が好適であるが、炭化を効果的に生起する温度に自在に設定できる。本実施形態では、炭化温度は450℃、500℃、550℃に調整され、He流量は230sccm、C流量は30sccm、炭化時間は30分間に調整された。
【0042】
図3は、本発明に係るカーボンナノチューブ製造装置の概略構成図である。炭化処理された前記Co/Ti触媒又はFe/Al触媒を用いてカーボンナノチューブの合成試験が行われた。ガス輸送管20は前段の予熱室Aと後段の反応室Bに二分されている。予熱室Aは第1予熱ヒータ22aと第2予熱ヒータ22bにより加熱される。この実施形態では予熱室Aは二分割されているが、1段に構成してもよく、従って第1予熱ヒータ22aと第2予熱ヒータ22bを予熱ヒータ22でまとめることができる。
【0043】
反応室Bは反応ヒータ26により加熱され、この反応室Bに触媒体6が配置される。予熱室Aと反応室Bの炉壁温度は3個の温度センサ28により測定される。バルブ30を介して、矢印a方向に原料ガス(C)とキャリアガス(He)が供給される。Cの流量は60sccm、Heの流量は200sccmに設定された。
【0044】
予熱室Aの炉壁温度は700℃、反応室Bの炉壁温度は550℃に調整された。予熱室Aでは、原料ガスを高温化して、ガス活性が高められる。炉壁温度は700℃であるが、100℃以上になると、触媒との反応性が高まり、原料ガス分解が効率化するため、原料ガス自体のガス温度は100℃以上に到達していることが好ましく、そのような環境を形成するためには炉壁の熱伝導性に応じて200℃〜1000℃の炉壁温度の設定を行うといい。反応室Bは550℃の低温に設定され、ガラス基板2を軟化させずに、カーボンナノチューブの低温合成が実現されるように構成されている。原料ガスの供給時間は10分間に設定された。排気ガスは排気管32からオイル34の中にバブリングされ、矢印b方向に排出される。
【0045】
図4は、炭化処理を施さないCo/Ti触媒により550℃で成長したカーボンナノチューブのSEM像である。第1触媒厚h(Ti)は4nm、第2触媒厚H(Co)も4nmに設定された。図3の装置を用いてカーボンナノチューブが製造され、ガスを700℃で予熱している。Co/Ti触媒では、炭化処理を行わなくても、カーボンナノチューブを高密度に垂直成長させることができた。
【0046】
図5は500℃で炭化処理されたCo/Ti触媒のAFM像である。炭化処理により、Co/Ti触媒が粒子化していることが確認された。次に、この炭化されたCo/Ti触媒を用いて図3の装置でカーボンナノチューブの合成試験を行った。
【0047】
図6は500℃で炭化処理されたCo/Ti触媒により成長したカーボンナノチューブのSEM像である。成長条件は図4の説明と同様である。カーボンナノチューブの先端表面にアモルファスカーボンが堆積していることが分かった。しかし、カーボンナノチューブが高密度に垂直成長し、ブラシ状カーボンナノチューブが製造できることが実証された。
【0048】
前記したアモルファスカーボンを酸化するために、この触媒基板を、大気中で600℃で1分間熱酸化させた。その結果、アモルファスカーボンが除去され、高純度のカーボンナノチューブを製造できることが分かった。
【0049】
図7は450℃で炭化処理されたFe/Al触媒のFE−SEM像とAFM像である。(7A)に示すFE−SEM像は電界放射型の走査型電子顕微鏡像であり、AFM像は原子間力顕微鏡像である。炭化処理により触媒表面が微粒子化し、左図のFE−SEM像からその粒子状態が理解される。(7B)はAFM像で、直線部分の断面図が下側に示されている。Fe/Al触媒の実施形態は、第1触媒厚hと第2触媒厚Hの両者が4nmに設計されている。
【0050】
図8は500℃で炭化処理されたFe/Al触媒のFE−SEM像とAFM像である。炭化処理により触媒表面が微粒子化していることが明瞭に理解できる。(8A)はFE−SEM像、(8B)はAFM像で、直線部分の断面図が下側に示されている。図7と比較して、炭化処理温度が50℃だけ高いため、粒子の直径と高さが大きくなっていることが分かる。
【0051】
図9は、450℃と500℃の炭化処理を受けたFe/Al触媒の粒子分布図である。横軸は粒子の高さ(Size)を示し、縦軸は粒子の個数(Number)を示している。(9A)は450℃の粒子分布図で、12nmがその略中央値である。(9B)は500℃の粒子分布図で、18nmがその略中央値である。炭化温度が上昇すると、粒子高さが大きくなり、しかも粒度が均一化する傾向にあることが理解できる。
【0052】
図10は、炭化処理されたFe/Al触媒により550℃で成長したカーボンナノチューブのSEM像である。(10A)は合成直後の垂直成長したカーボンナノチューブを示している。カーボンナノチューブの表面及び先端の一部にアモルファスカーボンが堆積していることが分かる。垂直度はかなり高く、高密度に成長しており、本発明によりブラシ状カーボンナノチューブの製造が可能であることが実証された。
【0053】
(10B)は、600℃で大気中熱酸化された(10A)のカーボンナノチューブのSEM像である。カーボンナノチューブが成長した(10A)の触媒を大気中で600℃で1分間加熱すると、アモルファス成分が酸化されて除去され、高純度のカーボンナノチューブを実現できた。従って、アモルファス成分は熱酸化により除去できることが分かった。
【0054】
図11は、炭化処理を施さないFe/Al触媒により550℃で成長したカーボンナノチューブのSEM像である。図3の装置により製造しており、ガスを700℃で予熱している。しかし、カーボンナノチューブは成長しているが、あらゆる方向に成長し、垂直成長性が低いことが分かった。Fe/Al触媒では、炭化処理すると垂直成長性が格段に向上することが実証された。
【0055】
以上の事実から次のことが分かった。Fe/Al触媒では、炭化処理された場合にブラシ状カーボンナノチューブが製造でき、炭化処理されない場合には、ブラシ状でないカーボンナノチューブが製造できる。Co/Ti触媒では、炭化処理されても、炭化処理されなくてもブラシ状カーボンナノチューブが製造できる。また、アモルファスカーボンが堆積した場合には、熱酸化することによりアモルファスカーボンが除去できる。
【0056】
図12は製造されたカーボンナノチューブのラマン分光図である。横軸はラマンシフト(Ramanshift)、縦軸は任意単位の強度(Intensity)である。実線は炭化処理されたFe/Al触媒により550℃予熱成長し、その後熱酸化されたカーボンナノチューブのラマン分光グラフ、長破線は炭化処理されないCo/Ti触媒により550℃予熱成長したカーボンナノチューブのラマン分光グラフ、短破線は比較のためにFe触媒により700℃で成長したカーボンナノチューブのラマン分光グラフである。
【0057】
グラファイトの結晶性を示すGband(約1600cm-)とアモルファスカーボンのピークであるDband(約1350cm-1)の比率(G/D比)は、実線で1.15、長破線で1.37、短破線で1.26であった。本発明触媒に係るカーボンナノチューブ(実線と長破線)は、通常のFe触媒によるカーボンナノチューブ(短破線)とあまり変わらず、本発明方法がブラシ状カーボンナノチューブの製造方法に有力であることが実証された。
【0058】
次に、本発明者達は上記のCo/Ti触媒によるカーボンナノチューブ製造方法における、生成カーボンナノチューブの長さ等に関する成長条件に対する制御容易性について図3のカーボンナノチューブ製造装置を用いて検証した。
【0059】
まず、Co/Ti触媒膜を成膜する場合の膜厚H(h)の依存性を検証するために、触媒体6におけるCo/Ti触媒膜の各膜厚(H/h)を4種類(0.5nm/0.5nm、1nm/1nm、2nm/2nm、4nm/4nm)設定した。カーボンナノチューブ製造装置の製造条件として、原料ガスのC流量は30sccm、キャリアガスのHe流量は230sccmとし、反応室Bの炉壁温度は550℃に調整され、予熱室Aによる予熱処理は炉壁温度700℃で実施された。この実験条件により反応室B内で原料ガスを5分間供給しカーボンナノチューブの合成を行った結果を図13〜図16に示す。図13〜図16はそれぞれ、Co/Ti触媒膜の各膜厚(H/h)が、0.5nm/0.5nm、1nm/1nm、2nm/2nm、4nm/4nmの設定条件に対応する、合成カーボンナノチューブのSEM像である。図13の設定条件では合成カーボンナノチューブの全長(高さ)を平均測定長さは約12μmであり、同様に図14、図15、図16の場合、それぞれ約7μm、約4μm、約3μmである。これらの結果から、触媒Co/Tiの膜厚H、hを4nmから、2nm、1nm、及び0.5nmに減少することにより、カーボンナノチューブの長さを数ミクロンから十数ミクロンに逓増させることができ、しかもアモルファス成分の低減も見られ、品質と垂直配向性が向上していく。したがって、Co/Ti触媒によるカーボンナノチューブ製造方法においては、図24の(24A)に示すように、合成カーボンナノチューブの平均全長Lは膜厚H(h)と依存性が認められ、これによりCo/Ti触媒膜の膜厚を調整する条件がカーボンナノチューブの成長を制御する制御ファクタとなり得ることが分かった。なお、この実験においてはCo膜厚HとTi膜厚hを同一に設定したが、略同一レベルであってもよい。
【0060】
なお、Co/Ti触媒膜の各膜の膜厚を変えた場合の依存性も検証した。成長条件は前記設定条件と同様で、Ti触媒の膜厚hを10nmとし、Co触媒の膜厚Hを2種類(1nm、4nm)に変化させた。予熱室Aの炉壁温度を700℃とした原料ガスの予熱処理も同様である。この実験条件結果を図17及び図18に示す。図17はCo膜厚が1nmの場合に成長したカーボンナノチューブのSEM像であり、図18は4nmの場合に成長したカーボンナノチューブのSEM像である。図17の場合、合成カーボンナノチューブの全長(高さ)を平均測定長さは約2μmであり、一方図18の場合、約3μmである。したがって、Co/Ti触媒によるカーボンナノチューブ製造方法においては、図24の(24C)に示すように、合成カーボンナノチューブの全長LはCo触媒膜厚Hとの依存性が認められ、これによりCo/Ti触媒膜自体の膜厚を調整する条件がカーボンナノチューブの成長を制御する制御ファクタとなり得ることも分かった。
【0061】
次に、原料ガス予熱の有無によるカーボンナノチューブの成長への影響について検証した。この実験においては、触媒体6におけるCo/Ti触媒膜の膜厚(H/h)は0.5nm/0.5nmと一定に設定し、予熱室Aによる予熱処理を実施する場合としない場合について行った。予熱処理は予熱室Aの炉壁温度を700℃とした。カーボンナノチューブ製造装置の製造条件として、原料ガスのC流量は30sccm、キャリアガスのHe流量は230sccmとし、反応室Bの炉壁温度を450℃、500℃、550℃に調整し、3種類について行った。
【0062】
この実験条件により反応室B内でカーボンナノチューブ合成を5分間行った結果を図19〜図23及び図13に示す。図19〜図21は予熱室Aによる予熱処理を実施しない場合であって、それぞれ、反応室Bの炉壁温度が450℃(図19)、500℃(図20)、550℃(図21)の設定条件に対応した合成カーボンナノチューブのSEM像である。図22、図23、図13は予熱室Aによる予熱処理を実施した場合であって、それぞれ、反応室Bの炉壁温度が450℃(図22)、500℃(図23)、550℃(図13)の設定条件に対応した合成カーボンナノチューブのSEM像である。図19の設定条件では合成カーボンナノチューブの全長(高さ)を平均測定長さは約0.8μmであり、同様に図20、図21の場合、それぞれ約2.6μm、約5.5μmである。また、図22、図23、図13ではそれぞれ約1.2μm、約4.2μm、約12μmである。これらの結果を図24の(24B)に示す。図中、白丸は予熱なしの場合(図19〜図21に対応する)、黒丸は予熱ありの場合(図22、図23、図13に対応する)である。
【0063】
したがって、Co/Ti触媒によるカーボンナノチューブ製造方法においては、図24の(24B)に示すように、反応室Bの炉壁温度Tが450℃、500℃、550℃と上昇するにつれて、予熱有無に関係なく、合成カーボンナノチューブの全長Lは伸びていくが、予熱有無でみれば、明らかに予熱ありの場合が予熱なしの場合より長く成長しており、合成カーボンナノチューブの全長Lは予熱有無による依存性が認められ、これにより原料ガスがCo/Ti触媒膜に接触する前の段階で原料ガスが予熱される有無の条件がカーボンナノチューブの成長を制御する制御ファクタとなり得ることが分かった。特に、予熱あり場合はカーボンナノチューブは長く成長し、配向性や品質も向上することが認められた。また、反応室Bの炉壁温度T、換言すれば、反応室B内温度に関しても、Co/Ti触媒の使用においてカーボンナノチューブの成長を制御する制御ファクタとなり得ることが確認された。
【0064】
また、図示しないが、Fe/Al触媒膜においても触媒膜の膜厚、予熱の有無及び反応室の温度がカーボンナノチューブの成長を制御する制御ファクタとなり得ることを示す実験結果が得られている。さらに、原料ガスの供給流量を変化させたり、供給時間を秒単位で変化させた実験によれば、原料ガスの流量を減少させることにより、また原料ガスの供給時間を短縮させることにより、アモルファス成分の少ない高品質のカーボンナノチューブが合成されることを確認した。殊に、原料ガス流量の逓減はアモルファス成分生成の低減化に寄与するところが大きい。したがって、原料ガスがCo/Ti触媒膜又はFe/Al触媒膜に接触する時間を秒単位で調整する条件や原料ガスの流量を調整する条件は、カーボンナノチューブの成長を制御する制御ファクタ群(条件群)の一つとなり得ることが確認された。
【0065】
以上の検証から、本発明にかかる触媒によるカーボンナノチューブの製造方法においては、触媒膜の膜厚を調整する条件、触媒膜自体の膜厚を調整する条件、原料ガスが触媒膜に接触する前の段階で原料ガスが予熱される有無の条件、反応室Bの炉壁温度T、換言すれば、反応室B内温度条件、原料ガスが触媒膜に接触する時間を調整する条件や原料ガスの流量を調整する条件は、カーボンナノチューブの成長を制御する制御条件群として使用でき、これらの条件群のうち、少なくとも一つの条件を採用して、カーボンナノチューブの成長を高精度に制御することが可能となる制御容易性を具備しており、FED等の生産に好適なカーボンナノチューブの製造方法である。
【0066】
上記のカーボンナノチューブの製造方法によるFED用電界放出電子源の製造方法を図20により説明する。
まず、ガラス基板50の表面層上に成膜装置(図示せず)によりアルミニウム等のカソード電極膜52を形成する。カソード電極膜52上に絶縁膜及びゲート電極膜を形成した後、絶縁膜及びゲート電極膜に対して透孔57を所要部に穿設して絶縁層54及びゲート電極55を形成する。ついで、透孔57内にCo/Ti触媒膜を施し、図3のカーボンナノチューブ製造装置の反応室Bに搬入してカーボンナノチューブをCo/Ti触媒膜を種として成長させる。これにより、垂直配向されたカーボンナノチューブ56を透孔57内に形成する。上述のように、本発明においては、Co/Tiの低温触媒を用いることにより、ガラス基板が変形することなく基板上に高品質のカーボンナノチューブの合成とその長さを数ミクロンに制御することができるため、電界放出用カーボンナノチューブ56の先端位置がゲート電極55より低い位置に正確に所定の高さの垂直カーボンナノチューブ56を立設することができる。以上のようにして、ガラス基板50上に、カソード電極膜52、絶縁層54、ゲート電極55、及び透孔57内の電界放出用カーボンナノチューブ56からなる電界放出電子源58を製造することができる。
【0067】
さらに、電界放出電子源58を用いてFEDを製造する場合には、まずガラス基板51に、アノード電極53と、アノード電極53表面に蛍光物質層53aを形成したアノードガラスシートを作成する。そして、蛍光物質層53a及びアノード電極53がカソード電極膜52及びゲート電極55に対向するように、数10ミクロンの間隔eを隔てて配置する。これにより、ゲート電極55とカーボンナノチューブ56により放出された電子fが蛍光物質層53aに衝突して可視光gを発光するFED59を得ることができる。本発明に係るカーボンナノチューブの製法を用いることにより、品質劣化を伴うことなく、数μmオーダーによるカーボンナノチューブ56成長の長さ制御を行うことができるため、超小型の電界放出電子源58を形成できる。そして、電界放出電子源58を用いて高密度発光を行なえる高性能なFEDを製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の第1の形態によれば、Co元素とTi元素又はFe元素とAl元素を含有するカーボンナノナノチューブ製造用触媒を用いるため、炉壁温度が550℃以下の反応室でこの触媒上にカーボンナノチューブを略垂直に高効率に成長させることができる。Co元素とTi元素、Fe元素とAl元素の組み合わせ触媒は本発明者等によって初めて発見されたものであり、この組み合わせにより初めてカーボンナノチューブを低温合成することに成功した。本発明における触媒膜用の基体がガラス基板の場合には、基板温度は550℃以下に調整され、ガラス基板が軟化することは無い。従って、この方法によって製造されたカーボンナノチューブが成長したガラス基板は、そのままFED用の電子源として利用することができる。勿論、基体が耐熱性基板の場合には、550℃以上の所望温度に調整されてもよく、カーボンナノチューブを高効率に成長させることができる。または、本形態によれば、前記触媒膜の膜厚を調整する条件、原料ガスが触媒膜に接触する前の段階で原料ガスが予熱される有無の条件及び前記反応室の温度を調整する条件からなる条件群のうち、少なくとも一つの条件を採用してカーボンナノチューブの成長を制御するため、カーボンナノチューブの品質、長さ及び形成密度等の成長条件を正確に制御することができ、電界放出電子源ないしFEDの製造に好適な製造方法を提供することができる。
【0069】
本発明の第2の形態によれば、前記原料ガスが前記触媒膜に接触する時間を調整する条件及び/又は前記原料ガスの流量を調整する条件により、成長後のカーボンナノチューブの長さ(全長)制御とともにアモルファス成分の大幅な低減化も可能となり、電界放出電子源ないしFEDの量産化に好適な、触媒によるカーボンナノチューブの製造方法を提供することができる。
【0070】
本発明の第3の形態によれば、前記第1又は第2の形態において、前記触媒膜はCo膜とTi膜又はFe膜とAl膜を積層して構成され、各膜厚を調整することにより、前記触媒膜の膜厚を調整するので、Co/Ti又はFe/Alの金属膜形成処理において制御可能な積層形成と膜厚調整によりカーボンナノチューブの成長条件を高精度に制御することができる。また、前記金属膜の積層方法として、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法など各種のPVD法(物理的蒸着法)やCVD法(化学的蒸着法)が使用できる。
【0071】
本発明の第4の形態によれば、前記第3の形態において、前記Co膜厚と前記Ti膜厚又はFe膜とAl膜を略同一に設定し、各金属膜の膜厚を調整するので、Co/Ti又はFe/Alの金属膜形成処理において制御可能な膜厚値調整によりカーボンナノチューブの成長条件を高精度に制御することができる。
【0072】
本発明の第5の形態によれば、前記第1又は第2の形態において、前記原料ガスの予熱温度が炉壁温度として200℃〜1000℃の範囲から調整されるため、予熱温度が少なくとも100℃以上のガス温度に設定された前記原料ガスを前記反応室に供給して、前記触媒にカーボンナノチューブを効率的に成長させることができるとともに、触媒によるカーボンナノチューブの成長条件を前記炉壁温度により簡易に制御でき、電界放出電子源ないしFEDの工業的製造に好適なカーボンナノチューブの製造方法を提供することができる。
【0073】
本発明の第6の形態によれば、前記第1又は第2の形態において、前記反応室の温度が炉壁温度としてガラス軟化点以下の範囲に調整されるため、前記反応室に原料ガスを供給して、前記触媒にカーボンナノチューブを効率的に成長させることができるとともに、触媒によるカーボンナノチューブの成長条件を前記炉壁温度により簡易に制御でき、電界放出電子源ないしFEDの工業的製造に好適なカーボンナノチューブの製造方法を提供することができる。ガラス軟化点とは加熱によってガラスが軟化する温度であり、例えば550℃以下が好ましい。また、下限温度としては、触媒によりカーボンナノチューブが成長する温度であればよく、この範囲内で自在に設定される。
【0074】
本発明の第7の形態によれば、前記元素が合金として含有されるカーボンナノナノチューブ製造用触媒が提供されるから、FeとAl、またCoとTiが均一に混ざり合い、カーボンナノチューブを均一に高密度成長させることができる。
【0075】
本発明の第8の形態によれば、前記各元素が金属化合物として含有されるカーボンナノナノチューブ製造用触媒である。金属化合物としては、金属酸化物、金属窒化物、有機金属化合物など各種の化合物が利用できる。従って、目的触媒を公知の化学的処方により自在に調製できる利点がある。
【0076】
本発明の第9の形態によれば、第1〜第8形態において、前記触媒を炭化したカーボンナノナノチューブ製造用触媒である。触媒表面を炭化すると、粒子状の炭化物が形成され、この炭化物触媒によりカーボンナノチューブが効率的に成長できる。従って、550℃以下の低温合成を効率的に実現できる。
【0077】
本発明の第10の形態によれば、前記触媒によりカーボンナノチューブを前記透孔内に成長させ、カーボンナノチューブの先端を前記透孔内に存在させるように成長を停止させるだけで電界放出電子源を構成できる。前記カーボンナノチューブの先端がゲート電極膜より低い位置に存在するから、カーボンナノチューブ先端から電界放出された電子流(電流)をゲート電圧の可変により調整でき、有効な電界放出電子源を提供できる。特に、Co/Ti触媒及びFe/Al触媒はガラス層の軟化点以下の低温でカーボンナノチューブを成長させることができるから、ガラス層の構造変形が全く無い高性能の電界放出電子源を提供できる利点がある。
【0078】
本発明の第11の形態によれば、前記第10形態におけるカーボンナノチューブを成長させる前の電界放出電子源を反応室内に配置して反応室内に前記触媒膜を曝露させ、この触媒膜を原料ガスと加熱下で接触させてカーボンナノチューブを成長させる方法であって、前記触媒膜の膜厚を調整する条件、原料ガスが触媒膜に接触する前の段階で原料ガスが予熱される有無の条件及び前記反応室の温度を調整する条件からなる条件群のうち、少なくとも一つの条件を採用するだけで、成長後のカーボンナノチューブの先端を前記透孔内に存在させることが可能になる。従って、カーボンナノチューブ先端をゲート電極膜の位置より低い任意位置に存在させることが簡単に行え、電界放出された電子流の強度をゲート電圧により自在に調整することが可能になり、高性能の電界放出電子源を製造できる利点を有する。
【0079】
本発明の第12の形態によれば、前記第7形態の電界放出電子源を配置し、このゲート電極膜に対向してアノード電極を配置し、このアノード電極側に蛍光物質層を形成するだけで、高性能の電界放出型ディスプレイ(FED)を提供できる。前記触媒により高品質のカーボンナノチューブを形成できるだけでなく、成長したカーボンナノチューブの全長を自在に調整できるから、カーボンナノチューブ先端から電界放出される電子流強度をゲート電圧により自在に調整できる電界放出型ディスプレイを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係るFe/Al触媒又はCo/Ti触媒の製造方法の一例を説明する工程図である。
【図2】本発明に係る二元触媒の炭化処理装置の構成図である。
【図3】本発明に係るカーボンナノチューブ製造装置の概略構成図である。
【図4】炭化処理を施さないCo/Ti触媒により550℃で成長したカーボンナノチューブのSEM像である。
【図5】500℃で炭化処理されたCo/Ti触媒のAFM像である。
【図6】500℃で炭化処理されたCo/Ti触媒により成長したカーボンナノチューブのSEM像である。
【図7】450℃で炭化処理されたFe/Al触媒のFE−SEM像とAFM像である。
【図8】500℃で炭化処理されたFe/Al触媒のFE−SEM像とAFM像である。
【図9】450℃と500℃の炭化処理を受けたFe/Al触媒の粒子分布図である。
【図10】炭化処理されたFe/Al触媒により550℃で成長したカーボンナノチューブのSEM像である。
【図11】炭化処理を施さないFe/Al触媒により550℃で成長したカーボンナノチューブのSEM像である。
【図12】製造されたカーボンナノチューブのラマン分光図である。
【図13】Co/Ti触媒膜の膜厚が0.5nm/0.5nmの設定条件のときに成長したカーボンナノチューブのSEM像である。
【図14】Co/Ti触媒膜の膜厚が1nm/1nmの設定条件のときに成長したカーボンナノチューブのSEM像である。
【図15】Co/Ti触媒膜の膜厚が2nm/2nmの設定条件のときに成長したカーボンナノチューブのSEM像である。
【図16】Co/Ti触媒膜の膜厚が4nm/4nmの設定条件のときに成長したカーボンナノチューブのSEM像である。
【図17】予熱処理を実施し、Co/Ti触媒膜の膜厚が1nm/10nmかつ反応室Bの炉壁温度が550℃のときに成長したカーボンナノチューブのSEM像である。
【図18】予熱処理を実施し、Co/Ti触媒膜の膜厚が4nm/10nm、かつ反応室Bの炉壁温度が550℃のときに成長したカーボンナノチューブのSEM像である。
【図19】予熱処理を実施せず、Co/Ti触媒膜の膜厚が0.5nm/0.5nm、かつ反応室Bの炉壁温度が450℃のときに成長したカーボンナノチューブのSEM像である。
【図20】予熱処理を実施せず、Co/Ti触媒膜の膜厚が0.5nm/0.5nm、かつ反応室Bの炉壁温度が500℃のときに成長したカーボンナノチューブのSEM像である。
【図21】予熱処理を実施せず、Co/Ti触媒膜の膜厚が0.5nm/0.5nm、かつ反応室Bの炉壁温度が550℃のときに成長したカーボンナノチューブのSEM像である。
【図22】予熱処理を実施し、Co/Ti触媒膜の膜厚が0.5nm/0.5nm、かつ反応室Bの炉壁温度が450℃のときに成長したカーボンナノチューブのSEM像である。
【図23】予熱処理を実施し、Co/Ti触媒膜の膜厚が0.5nm/0.5nm、かつ反応室Bの炉壁温度が500℃のときに成長したカーボンナノチューブのSEM像である。
【図24】本発明に係るCo/Ti触媒を用いたカーボンナノチューブ製造方法におけるカーボンナノチューブの成長特性を示す特性図である。
【図25】本発明に係るCo/Ti触媒を用いたカーボンナノチューブ製造方法による電界放出電子源及びFEDの製造工程を説明するための概略断面図である。
【符号の説明】
【0081】
2 ガラス基板
4 マスク
5 開放面
6 触媒体
8 触媒
8a 第1触媒
8b 第2触媒
10 ガス輸送管
12 炭化ヒータ
14 炭化室
20 ガス輸送管
22 予熱ヒータ
22a 第1予熱ヒータ
22b 第2予熱ヒータ
26 反応ヒータ
30 バルブ
32 排気管
34 オイル
50 ガラス基板
51 ガラス基板
52 カソード電極膜
53 アノード電極
53a 蛍光物質層
54 絶縁層
55 ゲート電極
56 カーボンナノチューブ
57 透孔
58 電界放出電子源
59 FED
h 第1触媒厚
H 第2触媒厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に少なくともCo元素とTi元素を含有するCo/Ti触媒膜又は少なくともFe元素とAl元素を含有するFe/Al触媒膜を成膜し、反応室に前記触媒膜を配置して原料ガスを加熱下で接触させてカーボンナノチューブを製造する方法であって、前記触媒膜の膜厚を調整する条件、原料ガスが前記触媒膜に接触する前の段階で原料ガスが予熱される有無の条件及び前記反応室の温度を調整する条件からなる条件群のうち、少なくとも一つの条件を採用して、カーボンナノチューブの成長を制御することを特徴とする触媒によるカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
前記原料ガスが前記触媒膜に接触する時間を調整する条件及び/又は前記原料ガスの流量を調整する条件が、前記条件群に加えられる請求項1に記載の触媒によるカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記触媒膜は前記各元素の金属膜を積層して構成され、前記各金属膜の膜厚を調整することにより、前記触媒膜の膜厚を調整する請求項1又は2に記載の触媒によるカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
前記各元素の膜厚を略同一に設定し、前記膜厚を調整する請求項3に記載の触媒によるカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項5】
前記原料ガスの予熱温度が炉壁温度として200℃〜1000℃の範囲から調整される請求項1又は2に記載の触媒によるカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項6】
前記反応室の温度が炉壁温度としてガラス軟化点以下の範囲に調整される請求項1又は2に記載の触媒によるカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項7】
前記触媒膜は前記各元素が合金として含有される請求項1又は2に記載の触媒によるカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項8】
前記触媒膜は前記各元素が金属化合物として含有される請求項1又は2に記載の触媒によるカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項9】
前記触媒膜が炭化されて配置される請求項1〜8のいずれかに記載の触媒によるカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項10】
ガラス層上にカソード電極膜を形成し、このカソード電極膜上に透孔を所要部に形成した絶縁層を配置し、前記透孔内に電界放出用のカーボンナノチューブを配置し、前記絶縁層上にゲート電極膜を形成した電界放出電子源において、前記透孔内の電極膜上に少なくともCo元素とTi元素を含有するCo/Ti触媒又は少なくともFe元素とAl元素を含有するFe/Al触媒を配置し、この触媒によりカーボンナノチューブを前記透孔内に形成し、カーボンナノチューブの先端を前記透孔内に存在させることを特徴とする電界放出電子源。
【請求項11】
ガラス層上にカソード電極膜を形成し、このカソード電極膜上に透孔を所要部に形成した絶縁層を配置し、前記透孔内に電界放出用のカーボンナノチューブを配置し、前記絶縁層上にゲート電極膜を形成した電界放出電子源において、前記透孔内の電極膜上に少なくともCo元素とTi元素を含有するCo/Ti触媒膜又は少なくともFe元素とAl元素を含有するFe/Al触媒膜を配置し、反応室内に前記触媒膜を曝露させ原料ガスと加熱下で接触させてカーボンナノチューブを成長させる方法であって、前記Co/Ti触媒膜の膜厚を調整する条件、原料ガスが前記触媒膜に接触する前の段階で原料ガスが予熱される有無の条件及び前記反応室の温度を調整する条件からなる条件群のうち、少なくとも一つの条件を採用して、成長後のカーボンナノチューブの先端を前記透孔内に存在させることを特徴とする電界放出電子源の製造方法。
【請求項12】
請求項10に記載の電界放出電子源を配置し、このゲート電極膜に対向してアノード電極を配置し、このアノード電極側に蛍光物質層を形成し、前記カーボンナノチューブにより放出された電子が前記蛍光物質層に衝突して発光することを特徴とする電界放出型ディスプレイ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図12】
image rotate

【図25】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate


【公開番号】特開2006−128064(P2006−128064A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−134362(P2005−134362)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】