説明

評価試験方法およびその装置

【課題】水冷孔の内部で発生する損傷等の評価を、試験体を用いて簡易かつ短時間で行なう。
【解決手段】評価試験装置10は、試験体12に冷却水を供給する冷却水供給装置14と、試験体12を加熱する加熱装置16とを備える。試験体12には水冷孔が形成されると共に、水冷孔の内部にノッチが形成される。試験体12の水冷孔に、冷却水供給装置14で温度制御された冷却水を常時流通して水冷状態としたもとで、加熱装置16で試験体12を加熱して上限温度まで昇温する加熱工程を行なう。次に、試験体12が水冷により温度低下するのを許容する熱量での加熱装置16による加熱を所定の保持時間だけ継続する保持工程を行なった後、加熱装置16による加熱を停止して下限温度まで冷却する冷却工程を行なう。加熱工程−保持工程−冷却工程を所定回数繰り返した後、試験体12の損傷を確認する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型の内部に形成された水冷孔の内部で発生する割れ等の損傷評価を、試験体を用いて実際の操業状態を擬似的に再現して行なう評価試験方法と、これに用いられる評価試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車部品等を鋳造する金型として、良好な寸法精度、高生産性、ニアネットシェイプによる後加工の削減等の点で優れているダイカスト金型が好適に用いられている。このダイカスト金型では、溶湯の凝固プロセスを効率的に行なうために、金型内部に水冷孔を形成して金型内部を水冷する構造が採用される。
【0003】
この場合に、溶湯を鋳造する一方で金型内部を水冷することにより、金型表面から内部にかけて急激な温度勾配が発生し、水冷孔には使用中に過大な熱応力が発生し、水冷孔の表層部で割れが発生して操業の安定化の阻害要因となっている。そこで、水冷孔の表層部に焼鈍等の軟化熱処理を施して硬度を下げることで、割れの発生を抑制する提案がなされている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−285608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記水冷孔の内部で発生する割れ等の損傷の原因としては、金型外部表面の加熱−冷却による熱疲労の他に、冷却水による腐食、材料そのものの機能(強度、靭性、疲労強度等)等が考えられ、前述した軟化熱処理が、どの原因に有効かは明らかでない。しかも、軟化熱処理を施した金型を実際に使用してみなければ、水冷孔の内部における損傷の発生の有無を検証することはできなかった。しかるに、金型は高価であるため、金型の損傷評価を事前に行なうことが希求されているが、簡易かつ短時間で行ない得る評価試験方法や試験装置は存在していないのが実状である。
【0005】
すなわち本発明は、前述した従来の技術に内在している前記課題に鑑み、これを好適に解決するべく提案されたものであって、水冷孔の内部で発生する損傷等の評価を、試験体を用いて簡易かつ短時間で行ない得る評価試験方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決し、所期の目的を達成するため、請求項1の発明に係る評価試験方法は、
水冷孔が形成されると共に、該水冷孔の内部に応力集中部を形成した試験体を用い、前記水冷孔に温度制御された冷却水を常時流通して試験体を水冷状態としたもとで、
前記試験体を外部から加熱装置により上限温度まで加熱する加熱工程と、該加熱装置による加熱を停止して下限温度まで冷却する冷却工程とを繰り返すことを特徴とする。
【0007】
請求項1に係る発明によれば、水冷孔の内部に応力集中部を形成した試験体を用いることで、短時間で割れ等の損傷を発生させる状況を再現することができ、短時間で損傷評価を行ない得る。
【0008】
請求項2の発明は、前記加熱工程と冷却工程との間に、前記試験体が水冷により温度低下するのを許容する熱量での加熱装置による加熱を所定の保持時間だけ継続する保持工程を行なうようにした。
請求項2に係る発明によれば、加熱工程と冷却工程との間に保持工程を行なうことで、金型を用いた実際の鋳造に際して実施される型開き時の状況を再現でき、評価精度が向上する。
【0009】
また前述した課題を解決し、所期の目的を達成するため、請求項3の発明に係る評価試験装置は、
水冷孔が形成されると共に、該水冷孔の内部に応力集中部を形成した試験体と、
前記試験体の水冷孔に、温度制御した冷却水を流通させる冷却水供給装置と、
前記試験体を外部から加熱可能な加熱装置とから構成したことを特徴とする。
請求項3に係る発明によれば、水冷孔の内部に応力集中部を形成した試験体を用いることで、短時間で割れ等の損傷を発生させる状況を再現することができ、短時間で損傷評価を行ない得る。また評価試験装置は、試験体に冷却水を供給する冷却水供給装置と加熱装置とから基本的に構成されるから、構成は極めて簡単であり、設備コストを低廉に抑えることができる。
【0010】
請求項4の発明は、前記応力集中部を、周方向に延在するよう形成されたノッチとした。
請求項4に係る発明によれば、応力集中部としてのノッチの形成は容易であるから、試験体の製造が簡単となる。
【0011】
請求項5の発明は、前記加熱装置は、試験体を囲繞するよう非接触で配置した誘導加熱コイルに高周波電流を通電することで、試験体を誘導加熱するよう構成される。
請求項5に係る発明によれば、試験体の加熱を誘導加熱方式としたから、短時間で高温に効率的に加熱することができ、かつ温度制御が容易である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る評価試験方法およびその装置によれば、水冷孔の内部で発生する割れ等の損傷評価を簡易かつ短時間で行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明に係る評価試験方法およびその装置につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら以下説明する。
【実施例】
【0014】
図1は、実施例に係る評価試験装置の概略構成を示すものであって、該試験装置10は、試験体12に冷却水を循環供給する冷却水供給装置14と、試験体12を外部から加熱する加熱装置16とから基本的に構成される。前記試験体12は、図2に示す如く、軸方向に貫通する所要内径の水冷孔12aが形成されると共に、該水冷孔12aの内部(表層部)に、周方向に延在するノッチ18が形成されたものであって、該ノッチ18が応力集中部として機能するよう構成される。実施例のノッチ18は、水冷孔12aにおける軸方向の略中央に形成されて、径方向内側に開放する断面V字状を呈している。また試験体12には、その軸方向の両端部に、水冷孔12aに連通する通孔20a,22aが形成された連結部20,22が夫々形成され、この連結部20,22に、後述する冷却水供給用の連結管34,38が水密状態で着脱自在に連結されるようになっている。なお、試験体12の材質は、評価する実際の金型と同材質で、同等の熱処理等が施され、また水冷孔12aの試験体外表面からの位置は、金型の形状に応じて設計される実際の水冷孔の形成位置に対応するよう設定される。
【0015】
前記冷却水供給装置14は、図1に示す如く、工業用水等の冷却水を所定量貯留可能な冷却水タンク24と、該タンク24に貯留されている冷却水を前記試験体12に供給するポンプ26と、冷却水タンク24に貯留されている冷却水を冷却する冷却装置28とから基本的に構成される。すなわち、冷却水タンク24から導出する導出管30が、ポンプ26の吸込口に接続されると共に、ポンプ26の吐出口から導出する供給管32が、前記試験体12における入口側の連結部20に連結される入口側連結管34に連通状態で接続され、該ポンプ26の運転により冷却水を試験体12の水冷孔12aに供給するよう構成してある。なお、実施例では、供給管32と入口側連結管34とは、後述する昇降装置58による試験体12の上下動を許容するために、可撓性を有する供給用ホース36を介して連通接続されている。
【0016】
また、前記試験体12における出口側の連結部22に連結される出口側連結管38に、可撓性を有する戻し用ホース40が連通接続され、該ホース40が冷却水タンク24に連通するよう構成され、試験体12の水冷孔12aを流通した冷却水を、出口側連結管38および戻し用ホース40を介して冷却水タンク24に回収するようになっている。なお、戻し用ホース40は、前記供給用ホース36と同様に、試験体12の上下動を許容するべく機能する。前記供給管32には、流量制御用のバルブ42および流量計44が配設され、バルブ42を開閉調節することで、冷却水の流量を可変し得ると共に流量計44で確認し得るよう構成してある。また入口側連結管34および出口側連結管38は、試験体12の対応する連結部20,22に対して着脱自在に連結されるよう構成され、試験体12のみの交換が可能とされている。
【0017】
前記冷却装置28は、内部で冷却した冷却液が循環するチラー管28aを、前記冷却水タンク24の内部において冷却水に浸漬する状態で収納配置し(図3参照)、該チラー管28a内を循環する冷却液と冷却水とを熱交換させることで、冷却水を冷却するよう構成される。なお、冷却装置28は、制御装置46に接続する冷却用温調器48を備え(図4参照)、該冷却用温調器48を制御することで、冷却液の温度を一定に保持し得ると共に、必要に応じて可変し得るよう構成される。
【0018】
なお、実施例の冷却水供給装置14は、図3に示す如く、冷却水タンク24の内部にヒータ50が配設され、寒冷地等、冷却水として使用される工業用水等の温度自体が低温の場合に、必要に応じて適切な温度に昇温し得るよう構成してある。またヒータ50には、前記制御装置46に接続する昇温用温調器52が接続され、該昇温用温調器52を制御することで、冷却水の温度を一定に保持し得ると共に、必要に応じて可変し得るよう構成される。更に、冷却水タンク24には、制御装置46に接続されて冷却水の温度を検出する第1温度検出器54が配設され、該第1温度検出器54での検出温度に基づいて、制御装置46が冷却装置28およびヒータ50の両方を制御、あるいは冷却装置28のみを制御することで、温度制御された冷却水を前記試験体12の水冷孔12aに供給し得るようになっている。但し、ヒータ50は必要に応じて設ければよく、省略可能である。図3において符号56は、第1温度検出器54での検出温度を表示する温度表示器を示す。
【0019】
前記試験体12は、昇降装置58に保持されて上下動可能に構成される。この昇降装置58は、シリンダあるいはモータとラック−ピニオンやネジ軸等の組合わせからなる昇降手段(図示せず)により上下動する支持部材60を備え、該支持部材60を構成する上下に離間する一対の保持アーム60a,60bに、対応する前記連結管34,38が保持されている。すなわち、一方の保持アーム60aに入口側連結管34が保持され、他方の保持アーム60bに出口側連結管38が保持される。そして、昇降手段により支持部材60を上下動することで、試験体12が一体的に上下動し、後述する誘導加熱コイル68の内部に位置する加熱位置と、該加熱コイル68から離間する非加熱位置との間を上下動するよう構成される。
【0020】
前記昇降装置58には、試験体12を加熱位置に臨ませる支持部材60の位置を検出する上限位置センサ62と、試験体12を非加熱位置に臨ませる支持部材60の位置を検出する下限位置センサ64とが配設され、両位置センサ62,64は制御装置46に接続されている。そして、両位置センサ62,64からの検出信号によって制御装置46が昇降手段を運転制御して、試験体12を加熱位置と非加熱位置に位置決めするよう設定される。また昇降装置58には、制御装置46に接続されて支持部材60の上下動の回数をカウントするカウンタ66が配設され、制御装置46は、カウンタ66が予め設定された設定値をカウントしたときに、評価試験装置10の運転を停止するよう設定されている。なお昇降装置58は、手動スイッチ等により昇降手段を作動して支持部材60を上下動し得るよう構成してある。
【0021】
前記加熱装置16は、前記加熱位置に臨む試験体12を囲繞するよう非接触で配置される誘導加熱コイル68と、該コイル68に高周波電流を通電する加熱駆動装置70とを備え、誘導加熱コイル68に高周波電流を通電することで、試験体12を誘導加熱するよう構成される。この加熱駆動装置70は前記制御装置46に接続され、予め設定されたヒートパターン(図5参照)で試験体12を加熱するように、制御装置46により制御される。また試験体12の評価試験に際しては、該試験体12の表面に第2温度検出器72が取付けられ、該第2温度検出器72での検出温度が制御装置46に入力されて、該検出温度に基づいて制御装置46が加熱駆動装置70を運転制御するよう構成される。
【0022】
ここで、試験体12を短時間で高温に加熱するために高出力の加熱駆動装置70を用いた場合、誘導加熱コイル68に対する高周波電流の通電を完全に停止させることができず、引続き弱い高周波電流が誘導加熱コイル68に流れてしまい、試験体12を誘導加熱するおそれがある。そこで、実施例では前記昇降装置58により試験体12を非加熱位置に待避させることで、通電停止後に誘導加熱されるのを防止し、実際の操業状態に近い状況を再現するようにしてある。なお、誘導加熱コイル68に対する高周波電流の通電を停止した後に誘導加熱コイル68に流れる高周波電流による誘導加熱が、試験体12に与える影響が小さい場合は、昇降装置58を省略して、試験体12と誘導加熱コイル68との相対位置を変えない構成を採用することが可能である。
【0023】
前記ヒートパターンは、金型による実際の鋳造工程を模擬して、加熱工程−保持工程−冷却工程から構成される。すなわち、実際の鋳造工程では、基本的に、金型のキャビティへの溶湯の充填から固化までの第1状態、型開きして製品押出しまでの第2状態、次の溶湯の充填までの第3状態に分けられ、第1状態が加熱工程、第2状態が保持工程、第3状態が冷却工程に対応する。また、第1状態において加熱される金型が達する温度を上限温度とし、鋳造が繰り返されることで金型が一定温度(例えば100℃)に保持されることから、このときの温度を下限温度とする。そして、評価試験装置10では、加熱工程においては、加熱駆動装置70を所定電力(加熱出力)で運転して、下限温度から上限温度まで予め設定された加熱時間(例えば10秒)で加熱する。また前記第2状態は、製品の余熱により金型が加熱されることから、評価試験装置10では、保持工程において、前記試験体12を、水冷により温度低下するのを許容する熱量で加熱するべく、加熱駆動装置70を最低電力(加熱時出力の35%程度)で予め設定された保持時間(例えば5秒)だけ運転する。更に、評価試験装置10では、冷却工程においては、昇降装置58により試験体12を非加熱位置に移動して、該試験体12が下限温度に冷却されるまで保持する。そして、このような加熱工程−保持工程−冷却工程からなるヒートパターンを1サイクルとして、前記制御装置46で各装置14,16,58を制御して試験を行なうようになっている。
【0024】
なお、前記上限温度、下限温度、加熱時間、保持時間等の各種の試験条件は、制御装置46に接続する入力手段74により設定変更可能に構成される。また、加熱工程における加熱駆動装置70の加熱出力に関しては、下限温度と上限温度および加熱時間の関係から予め求められる。
【0025】
ここで、実施例の評価試験装置10には、試験を安全に行なうための各種の安全装置が配設されているので、図3を参照して簡単に説明する。すなわち、前記冷却水タンク24に、冷却水の水位を検出する第1水面センサ76が配設されている。また、前記昇降装置58で保持される試験体12の下方に、該試験体12から漏れる冷却水を受容する漏水受け78が配置され、該漏水受け78に、漏水の水位を検出する第2水面センサ80が配設されている。第1水面センサ76および第2水面センサ80は前記制御装置46に夫々接続されており、該制御装置46は、管路系等からの冷却水の漏れ等に起因して冷却水タンク内の水位が低下したことを第1水面センサ76が検出したとき、および試験体12からの冷却水の漏れ等に起因して漏水受け内の水位が高くなったことを第2水面センサ80が検出したときに、評価試験装置10の運転を停止するよう設定されている。また制御装置46は、冷却装置28やヒータ50の故障等により冷却水の温度が、予め設定した異常温度を越えて高くなったことを前記第1温度検出器54が検出したとき、および冷却水の循環不良等に起因して試験体12の温度が、上限温度より高い異常温度となったことを前記第2温度検出器72が検出したときにも評価試験装置10の運転を停止するよう設定してある。
【0026】
〔実施例の作用〕
次に、実施例に係る評価試験装置の作用につき、評価試験方法との関係で説明する。先ず、前記昇降装置58の支持部材60に保持されている連結管34,38に、評価する金型と同材質で同じ熱処理等を施した試験体12を連通接続し、この支持部材60を移動して該試験体12を加熱位置に位置決めする。そして、前記ポンプ26を駆動して、前記冷却装置28やヒータ50により温度制御された冷却水を、試験体12の水冷孔12aに一定流量で流通することで該試験体12を水冷状態としたもとで、前記加熱装置16の誘導加熱コイル68に高周波電流を通電し、試験体12を誘導加熱する加熱工程を開始する。なお、加熱工程を開始する前に、試験体12を予め下限温度まで加熱しておく。また加熱工程における加熱駆動装置70の加熱出力は、予め設定された加熱時間の間に、試験体12の表面温度を下限温度から上限温度まで昇温させ得る値を求めて設定される。
【0027】
前記加熱時間の経過後、前記制御装置46は、加熱装置16の加熱駆動装置70を最低電力で運転する保持工程に移行させる。そして、所定の保持時間の経過後、前記昇降装置58を作動して試験体12を非加熱位置まで下降させて冷却工程に移行する。このとき、昇降装置58の支持部材60に保持されている連結管34,38に接続するホース36,40により試験体12の下降は許容され、水冷孔12aには冷却水が流通した状態が継続する。これにより試験体12は、内部からの水冷および自然放冷により冷却される。
【0028】
ここで、前記試験体12の水冷孔12aを流通して冷却水タンク24に戻る冷却水は、試験体12との熱交換により温度上昇し、冷却水タンク24内の冷却水の温度は上昇するが、前記第1温度検出器54の検出温度に基づいて、前記制御装置46は冷却水の温度を予め設定された温度に維持するように前記冷却装置28を運転制御しており、試験体12に供給される冷却水の温度は略一定に保持される。また冷却水の流量についても、前記バルブ42により一定に保持されているから、安定した試験条件が保たれる。
【0029】
前記試験体12が、冷却水による冷却および自然放冷により予め設定された下限温度まで冷却されたことを前記第2温度検出器72が検出すると、前記制御装置46は、昇降装置58を作動して試験体12を加熱位置まで上昇すると共に、誘導加熱コイル68に所定の高周波電流を通電して試験体12を誘導加熱する加熱工程に移行させる。
【0030】
前述した加熱工程−保持工程−冷却工程からなるヒートパターンでのサイクルを繰り反し、前記カウンタ66が予め設定した設定値をカウントすると、制御装置46は評価試験装置10の運転を停止して試験を終了する。
【0031】
試験終了後、評価試験装置10から取外した試験体12を、内視鏡観察や超音波パルスエコー等により検査したり、あるいは試験体12を水冷孔12aの部分で切断し、水冷孔12aの内周面をカラーチェックすることで、割れや錆の発生状態を確認することができる。すなわち、実際の金型を用いることなく、試験体12を用いて実際の操業状態を擬似的に再現することで、金型の内部に形成された水冷孔の内部で発生する割れ等の損傷評価を簡単に行なうことができる。
【0032】
前記試験体12における水冷孔12aには、応力集中部としてのノッチ18を形成してあるから、該ノッチ18に作用する熱負荷は他の部位より大きく、短時間で割れや錆が発生する状態となる。すなわち、短時間で試験体12の損傷評価を行なうことができる。しかも、評価試験装置10の構成は簡単であるから、設備コストを低廉に抑えることもできる。また、上限温度、下限温度、加熱時間、保持時間、冷却水の温度や流量等の各試験条件は任意に設定変更可能であるので、求められる条件での損傷評価を行ない得る。更に、前記カウンタ66に設定した設定値だけヒートパターンを自動で繰り返すよう構成してあるから、作業者の負担は軽減される。しかも、前記制御装置46は、第1水面センサ76、第2水面センサ80、第1温度検出器54または第2温度検出器72が異常事態の発生を検出したときには評価試験装置10の運転を自動で停止するから、安全でかつ異常状態での試験が継続されることでの無駄を発生を防ぐことができる。更にまた、加熱装置16として高周波誘導加熱方式を採用しているから、試験体12を短時間で高温に効率的に加熱することができ、試験に要する時間を短縮し得ると共に、加熱温度の変更も簡単に行ない得る。
【0033】
なお、実施例では冷却水の温度を一定として試験を実施したが、加熱工程、保持工程、冷却工程の夫々の工程で冷却水の温度を変化させ、損傷の発生を抑制し得る最適な条件を検証することができる。更には、試験体(金型)の材質(鋼種、硬さ、組織等)に最適な水冷条件等も、実際の金型を用いることなく検証することが可能となる。
【0034】
〔実験例〕
SKD61を材質として、硬度がHRC46の材料から、直径60mmで長さ60mmの円柱状の試験体を製作し、この試験体に内径15mmの水冷孔を形成すると共に、内部に内角が120°のノッチを形成した。そして、実施例に係る評価試験装置を用い、実験例1として、100℃(下限温度)の試験体を450℃(上限温度)まで10秒で誘導加熱した後、加熱時出力の35%での運転を5秒維持し、次に試験体を非加熱位置に下降して100℃まで冷却するサイクル(図6参照)を、3000サイクル繰り返した。なお、冷却水としては、pH7.8の工業用水を用い、水温23℃、流量25.5l/分とした。また上限温度を550℃で、他の条件を同一とした実験例2も行なった。
【0035】
実験例1および2において、試験中におけるノッチの底部(角部)の温度を計った結果、図7に示す如く、試験中は常時70℃以上であり、また最高温度は160℃〜170℃に達した。すなわち、試験中における水冷孔内の腐食環境は充分であり、熱応力との相互作用により応力腐食割れが発生する条件を達成していることが確認された。
【0036】
またFE解析(有限要素法解析)により、ノッチ底部の応力を計算した結果、実験例1では、最大相当応力:1564MPa、最大静水圧応力:912MPaが発生し、実験例2では、最大相当応力:1714MPa、最大静水圧応力:1043MPaが発生した。しかも、最大静水圧応力/最大相当応力である大割れ値は、実験例1および2において、何れもノッチ底部で破壊臨界値以上であった。すなわち、実験例1および2において、ノッチ底部で亀裂の発生が可能な条件となることが確認された。
【0037】
このように、実施例の評価試験装置を用いることで、試験体における水冷孔の内部を、実際の金型を用いた操業時における状態と同様の、錆や割れ等が発生する状態とし得ることが確認された。
【0038】
また、試験終了後の試験体におけるノッチ底部の切断面におけるミクロ組織を観察した結果、亀裂の発生が確認された。しかも、亀裂の進展経路は結晶粒界に沿って進行しており、この亀裂の状態は、実際の金型に発生する亀裂の状態と一致することも確認された。
【0039】
以上の結果により、実際の操業により金型に発生する水冷孔内部の損傷を、試験体において短時間で再現することが可能で、かつ該試験体の損傷に基づいて、実際の金型の損傷を評価することが可能であることが確認された。
【0040】
〔変更例〕
本願は前述した実施例の構成に限定されるものでなく、その他の構成を適宜に採用することができる。
1.実施例では冷却水の流量制御は、バルブを手動で操作して行なっているが、流量制御可能な電磁弁等の流量制御装置を採用し、該流量制御装置を制御装置で自動調節および自動で設定変更可能に構成してもよい。
2.試験体における水冷孔に形成されるノッチの形状は、V字状に限らず、熱応力が集中し得る形状であればよい。またノッチを周方向に所定間隔で離間して形成したり、あるい軸方向に連続的あるいは所定間隔毎に延在するよう形成してもよい。
3.加熱装置として、実施例では高周波誘導加熱装置を用いたが、その他の加熱源により試験体を外部から加熱し得る装置を採用し得る。
4.実施例では、加熱工程において加熱時間の経過後に保持工程に移行するようにしたが、試験体の表面温度が上限温度に達したことを第2温度検出器が検出したときに保持工程に移行するよう制御してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の好適な実施例に係る評価試験装置を示す概略構成図である。
【図2】実施例に係る試験体を示す縦断面図である。
【図3】実施例に係る評価試験装置における安全装置等を示す概略構成図である。
【図4】実施例に係る評価試験装置における制御系を示すブロック図である。
【図5】実施例に係る評価試験装置で実施されるヒートパターンを示すグラフ図である。
【図6】実験例におけるヒートパターンを示すグラフ図である。
【図7】実験例におけるノッチ底部の温度変化を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0042】
12 試験体,12a 水冷孔,14 冷却水供給装置,16 加熱装置
18 ノッチ(応力集中部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水冷孔(12a)が形成されると共に、該水冷孔(12a)の内部に応力集中部(18)を形成した試験体(12)を用い、前記水冷孔(12a)に温度制御された冷却水を常時流通して試験体(12)を水冷状態としたもとで、
前記試験体(12)を外部から加熱装置(16)により上限温度まで加熱する加熱工程と、該加熱装置(16)による加熱を停止して下限温度まで冷却する冷却工程とを繰り返す
ことを特徴とする評価試験方法。
【請求項2】
前記加熱工程と冷却工程との間に、前記試験体(12)が水冷により温度低下するのを許容する熱量での加熱装置(16)による加熱を所定の保持時間だけ継続する保持工程を行なう請求項1記載の評価試験方法。
【請求項3】
水冷孔(12a)が形成されると共に、該水冷孔(12a)の内部に応力集中部(18)を形成した試験体(12)と、
前記試験体(13)の水冷孔(12a)に、温度制御した冷却水を流通させる冷却水供給装置(14)と、
前記試験体(12)を外部から加熱可能な加熱装置(16)とから構成した
ことを特徴とする評価試験装置。
【請求項4】
前記応力集中部は、周方向に延在するよう形成されたノッチ(18)である請求項3記載の評価試験装置。
【請求項5】
前記加熱装置(16)は、試験体(12)を囲繞するよう非接触で配置した誘導加熱コイル(68)に高周波電流を通電することで、試験体(12)を誘導加熱するよう構成される請求項3または4記載の評価試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−298467(P2007−298467A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128297(P2006−128297)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】