貯水池の止水工法
【課題】吸込箇所の吸込強度を考慮して目詰め材の最適な再投入までの時間間隔が決定でき、目詰めの効率化及びコスト低減につながる貯水池の止水工法を提供する。
【解決手段】地山の亀裂2に水が吸い込まれて流出する貯水池1に対して前記亀裂2に目詰め材3を吸い込ませて目詰まりさせる貯水池の止水工法において、予め、貯水池1の水が吸い込まれる吸込箇所4について吸い込まれる水の流速に応じた吸込強度を把握しておくとともに、前記吸込強度毎に亀裂2の目詰まりに有効な目詰め材3の粒径範囲と、この粒径範囲の目詰め材3が吸込箇所4から吸い込まれる量の経時変化とを実験的に得ておき、前記経時変化の関係から、目詰め材3の投入開始から吸込箇所4に吸い込まれる、亀裂の目詰まりに有効な粒径範囲の目詰め材3の量が投入開始直後の量と同等以下となるまでの時間間隔を目詰め材3を再投入する時間間隔として設定する。
【解決手段】地山の亀裂2に水が吸い込まれて流出する貯水池1に対して前記亀裂2に目詰め材3を吸い込ませて目詰まりさせる貯水池の止水工法において、予め、貯水池1の水が吸い込まれる吸込箇所4について吸い込まれる水の流速に応じた吸込強度を把握しておくとともに、前記吸込強度毎に亀裂2の目詰まりに有効な目詰め材3の粒径範囲と、この粒径範囲の目詰め材3が吸込箇所4から吸い込まれる量の経時変化とを実験的に得ておき、前記経時変化の関係から、目詰め材3の投入開始から吸込箇所4に吸い込まれる、亀裂の目詰まりに有効な粒径範囲の目詰め材3の量が投入開始直後の量と同等以下となるまでの時間間隔を目詰め材3を再投入する時間間隔として設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山の亀裂に水が吸い込まれて流出するダム湖や調整池等の貯水池に対して、前記亀裂に目詰め材を吸い込ませて目詰まりさせる貯水池の止水工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ダム湖や調整池等の貯水池からの漏水を防止するため、目詰め材を水面に散布して自然沈降させ、貯水池の水が吸い込まれる吸込箇所から前記目詰め材を地山の亀裂内に水とともに吸い込ませることにより、前記亀裂を目詰まりさせ閉塞する目詰め工法が知られている。
【0003】
例えば下記特許文献1では、ベントナイトと、粒径の異なる複数の骨材からなる混合骨材と、ゲル化材とを混合した止水剤を、漏水箇所近傍の水面へ所定の日数を通じて散布を行うことにより、割れ目を完全に塞ぐことができるようにした実施例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−36245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1記載の実施例では、漏水個所近傍の水面へ3日間又は4日間を通じての止水剤の散布を行った、と記載されるだけで、どの程度の時間間隔で投入するのかが開示されるものではない。
【0006】
従って、目詰め材の再投入までの時間間隔を長く設定した場合、投入された目詰め材は自然沈降して所定の時間経過後に池底に堆積するため目詰めに全く寄与しなくなる。一方、目詰め材の再投入までの時間間隔を短く設定した場合、亀裂の目詰まりは生じやすくなるが、目詰め材にかかるコストや作業コストが嵩む結果となる。このため、目詰め材の再投入までの最適な時間間隔を設定することが重要となる。
【0007】
また、亀裂の開口幅などによって吸込箇所から吸い込まれる水の流速が異なるため、吸込箇所から吸い込まれる水の流速に応じた段階的な指標値として吸込強度を設定したとき、この吸込強度に応じて吸い込まれる目詰め材の粒径分布も相違する。例えば、図4(A)に示されるように、吸込強度1のように吸込強度が小さい(吸込箇所から吸い込まれる水の流速が小さい)場合、目詰め材が吸込箇所に吸い込まれる範囲が狭く、この狭い範囲を沈降する目詰め材しか吸い込むことができない。また、吸込強度が小さいため、大きな粒径の目詰め材を吸い込むことができない。これに対し、図4(B)に示されるように、吸込強度6のように吸込強度が大きい(吸込箇所から吸い込まれる水の流速が大きい)場合、目詰め材が吸込箇所に吸い込まれる範囲が広くなり、且つ大きな粒径の目詰め材も吸い込むことができるようになる。このように、吸込強度毎に吸い込まれる目詰め材の粒径範囲が異なるため、目詰めに有効な目詰め材の粒径範囲も相違する。
【0008】
そこで本発明の主たる課題は、吸込箇所の吸込強度を考慮して目詰め材の最適な再投入までの時間間隔が決定でき、目詰めの効率化及びコスト低減につながる貯水池の止水工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、地山の亀裂に水が吸い込まれて流出する貯水池に対して前記亀裂に目詰め材を吸い込ませて目詰まりさせる貯水池の止水工法において、
予め、貯水池の水が吸い込まれる吸込箇所について吸い込まれる水の流速に応じた吸込強度を把握しておくとともに、前記吸込強度毎に前記亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の粒径範囲と、この粒径範囲の目詰め材が前記吸込箇所から吸い込まれる量の経時変化とを実験的に得ておき、
前記経時変化の関係から、前記目詰め材の投入開始から前記吸込箇所に吸い込まれる、亀裂の目詰まりに有効な粒径範囲の目詰め材の量が投入開始直後の量と同等以下となるまでの時間間隔を前記目詰め材を再投入する時間間隔として設定することを特徴とする貯水池の止水工法が提供される。
【0010】
上記請求項1記載の発明では、目詰め材の再投入までの最適な時間間隔を求めるため、予め、貯水池の水が吸い込まれる吸込箇所について吸い込まれる水の流速に応じた吸込強度を把握しておくとともに、前記吸込強度毎に前記亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の粒径範囲と、この粒径範囲の目詰め材が前記吸込箇所から吸い込まれる量の経時変化とを実験的に得ておき、
前記経時変化の関係から、前記目詰め材の投入開始から前記吸込箇所に吸い込まれる、亀裂の目詰まりに有効な粒径範囲の目詰め材の量が投入開始直後の量と同等以下となるまでの時間を前記目詰め材を再投入する時間間隔として設定している。
【0011】
このように目詰め材投入間隔を決定することで、目詰め材の再投入までの最適な時間間隔が設定できるため、余分な目詰め材を使用することなく、効率よく亀裂を目詰まりさせることができる。従って、目詰め材にかかるコストや目詰め材散布の作業コストが軽減できるようになる。且つ前記時間間隔は吸込箇所に吸い込まれる水の流速(吸込強度)を考慮して定められているため、より効率的な目詰めが可能となっている。
【0012】
請求項2に係る本発明として、前記亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の粒径範囲を実験的に得るには、前記亀裂を模擬したスリット状の流路に、水とともに前記目詰め材を流通させ、このスリット状流路に目詰まりした前記目詰め材の粒度分布を測定することにより行われる請求項1記載の貯水池の止水工法が提供される。
【0013】
上記請求項2記載の発明は、亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の粒径範囲を実験的に得るための具体的な手段を規定したものであり、実験装置として亀裂を模擬したスリット状の流路が形成されたものを使用し、このスリット状流路に水とともに前記目詰め材を流通させ、目詰まりした目詰め材の粒度分布を測定することにより行うものである。
【0014】
請求項3に係る本発明として、前記吸込箇所から吸い込まれる、亀裂の目詰まりに有効な粒径範囲の目詰め材の量は、吸込箇所から吸い込まれる、亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の粒径範囲に対応する目詰め材の体積比率と、吸込箇所から吸い込まれる濁水の濁度との積として定義される亀裂内有効目詰め材含有量比を指標値として算定する請求項1、2いずれかに記載の貯水池の止水工法が提供される。
【0015】
上記請求項3記載の発明は、吸込箇所から吸い込まれる、亀裂の目詰まりに有効な粒径範囲の目詰め材の量を試験的に得るための具体的手段を規定したものである。すなわち、吸込箇所から吸い込まれる、亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の量を求めることは実際上困難であるため、この指標値として”亀裂内有効目詰め材含有量比”を採用するものである。濁度は粒子数を直接的に表すものではないが、粒子数と比例関係にあると仮定した上で、吸込箇所から吸い込まれる亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の粒径範囲の目詰め材の体積比率(%)と、吸込箇所から吸い込まれる濁水の濁度との積として定義される”亀裂内有効目詰め材含有量比”を用いれば、相対的に吸込箇所から吸い込まれる亀裂の目詰まりに有効な粒径範囲の目詰め材の量が算定できることに着眼したものである。
【0016】
請求項4に係る本発明として、前記目詰め材は鹿沼土であり、目詰め材を再投入する時間間隔が4〜6時間程度に設定されている請求項1〜3いずれかに記載の貯水池の止水工法が提供される。
【0017】
上記請求項4記載の発明では、実験の結果、目詰め材として鹿沼土を採用した場合は、目詰め材を再投入する時間間隔が5時間程度と求められたため、作業時の時間ズレ、現地での余裕度や作業性などを考慮して、4〜6時間程度としたものである。なお、目詰め材を変更した場合には、本検討フローにより再投入する時間間隔が新たに設定される。
【発明の効果】
【0018】
以上詳説のとおり本発明によれば、吸込箇所の吸込強度を考慮して目詰め材の最適な再投入までの時間間隔が決定でき、目詰めの効率化及びコスト低減につながる貯水池の止水工法が提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】貯水池1の断面図である。
【図2】実験装置の外形図である。
【図3】亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の粒径範囲をあらわす粒度分布曲線である。
【図4】目詰め材が吸込箇所に吸い込まれるイメージ図である。
【図5】ケースAの吸い込まれた目詰め材の粒度分布曲線である。
【図6】ケースBの吸い込まれた目詰め材の粒度分布曲線である。
【図7】5分経過時の吸い込まれた目詰め材の粒度分布曲線である。
【図8】30分経過時の吸い込まれた目詰め材の粒度分布曲線である。
【図9】1時間経過時の吸い込まれた目詰め材の粒度分布曲線である。
【図10】3時間経過時の吸い込まれた目詰め材の粒度分布曲線である。
【図11】5時間経過時の吸い込まれた目詰め材の粒度分布曲線である。
【図12】8時間経過時の吸い込まれた目詰め材の粒度分布曲線である。
【図13】24時間経過時の吸い込まれた目詰め材の粒度分布曲線である。
【図14】亀裂内有効目詰め材含有量比の経時変化を示すグラフである。
【図15】本発明に係る貯水池の止水工法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0021】
本発明に係る貯水池の止水工法は、図1に示されるように、地山の亀裂2に水が吸い込まれて流出するダム湖や調整池等の貯水池1に対して、該貯水池1の水面に目詰め材3を散布して自然沈降させ、貯水池1の水が吸い込まれる吸込箇所4から前記亀裂2内に目詰め材3を吸い込ませて目詰まりさせることにより亀裂2を閉塞する目詰め工法である。
【0022】
本止水工法では、目詰め材3の再投入までの最適な時間間隔を設定することにより、目詰めの効率化及びコスト低減が図られている。
【0023】
前記目詰め材3としては、水より比重の重い、土、砂、ベントナイト、粘土、セメント、またはコンクリート、軽石、岩石などの粉粒状にしたものが広く使用できる。かかる目詰め材3は、所定の割合で水と混合してスラリー状にして貯水池1に投入する。特に、本実施例では、入手が容易で施工性に優れ、比較的粒径範囲が広い鹿沼土を使用した。この鹿沼土と水とを1:2の割合で練り混ぜ、スラリー状にして使用した(図3の粒径分布参照)。
【0024】
前記目詰め材3の再投入までの最適な時間間隔を求めるには、図15のフロー図に示されるように、以下の手順で行う。具体的な実施例とともに以下に説明する。
【0025】
(吸込箇所の調査)
先ず第1の手順として、予め、潜水調査や水中ロボットなどにより、貯水池1の水が吸い込まれる吸込箇所4の位置を把握するとともに、各吸込箇所4について吸い込まれる水の流速に応じた吸込強度を把握しておく。
【0026】
前記吸込箇所4は、池底や斜面などに堆積した堆積物がクレーター状に凹んだ部分のことであり、地山の亀裂2に通じる開口部のことである。その大きさは1cm〜10cm程度であり、目視で容易に識別することができるものである。
【0027】
前記吸込強度は、吸込箇所4に吸い込まれる水の流速に応じて段階的に区分けしたものである。また前記吸込強度は、吸込箇所4近傍に着色水を散布したときの着色水の動きや、吸込箇所4に手を当てたときの吸い込みの感覚などに基づいて段階的に区分けすることもできる。この区分けは、例えば、表1に示されるように吸込強度1〜8までの8段階などとすることができる。
【表1】
【0028】
(目詰め材の選定)
吸込箇所の調査結果などから、目詰め材3として好ましいものを選定する。本実施例では、上述の通り、入手が容易で施工性に優れ、比較的粒径範囲が広い鹿沼土を使用した。
【0029】
(模擬実験)
次に、亀裂2が形成された貯水池1を模擬した実験装置を製作し、吸込強度毎に亀裂2の目詰まりに有効な目詰め材3の粒径範囲と、この粒径範囲の目詰め材3が吸込箇所から吸い込まれる量の経時変化とを実験的に求める。
【0030】
実験装置は、図2に示されるように、貯水池1を模擬したアクリル円筒10の下部の周面に、吸込箇所4に相当する開孔11を形成するとともに、この開孔11と亀裂2を模擬した平行平板モデル12とをチューブ13で接続して構成したものである。
【0031】
前記アクリル円筒10の上部の周面には、アクリル円筒10内の水位を一定に保持するため、水位一定装置14がホースで接続されている。前記水位一定装置14に常時越流するように水を供給することにより、アクリル円筒10内の水位が水位一定装置14の上縁と常に一致するように制御されている。
【0032】
前記アクリル円筒10の上端は開放され、スラリー状の目詰め材3の投入口として利用されている。また、アクリル円筒10の下部の開孔11には濁水採取口が設けられ、この開孔11(吸込箇所4)から吸い込まれた目詰め材3を含む濁水がいつでも任意に採取できるようになっている。
【0033】
前記平行平板モデル12は、2枚のアクリル板15、15間にスペーサー16を介在させるとともに、上流側縁と両側縁の3方にそれぞれ止水用ゴム板を介在させ、前記アクリル板15、15の上下からL型アングルを介して複数箇所をクランプなどによって挟持して構成されたものである。また、上流側の上面アクリル板15に前記アクリル円筒10の開孔11に接続されたチューブ13が接続され、アクリル円筒10内の水が2枚のアクリル板15、15間に供給され、下流側の開放端から外部に排出されるようになっている。前記スペーサー16は、上流側の約半分が中央部を中空状にした中空部16aとされ、地山の亀裂部分が模擬されている。また下流側の約半分には、流路方向に沿って所定の断面積で所定の本数のスリットが並列的に形成されるようにしたスリット部16bとされ、貯水池周辺からの地山の亀裂幅が狭くなった箇所やグラウト充填部分が模擬されている。
【0034】
前記平行平板モデル12には、流路に沿って所定の間隔を空けて複数のピエゾメーター17、17…が接続されている。このピエゾメーター17は、平行平板モデル12の流路内に連通して設けられ、チューブ内の水頭の高さによって各部の圧力を計測するためのものである。
【0035】
なお、本実験装置の具体的な寸法は、アクリル円筒10の外形がφ14.5cm、開孔11の直径がφ18mm、水面から開孔11までの高さを130cmで一定とした。また、平行平板モデル12の流路幅は12cm、流路全長120cm、中空部16a及びスリット部16bの流路長はそれぞれ60cmである。
【0036】
以上の実験装置を使用して、まず最初に、亀裂2の目詰まりに有効な目詰め材3の粒径範囲を実験的に求める方法について説明する。この粒径範囲の求め方は、アクリル円筒10の上端から目詰め材3を投入したとき、平行平板モデル12のスリット部16bに目詰まりした目詰め材3を回収し、粒度分布測定機により粒度分布を測定する。
【0037】
具体的に本実験では、次表2に示されるケースA、ケースBについて行った。なお、現地における潜水調査の結果、吸込箇所4の吸込強度は主として吸込強度1〜6の範囲であったので、吸込強度が最小と最大の吸込強度1、6について実験を行った。
【表2】
【0038】
なお、「スリット」とは前記スペーサー16のスリット部16bの高さ×幅(断面積)及び本数を示したものであり、「吸込箇所流速」とはアクリル円筒10下部の開孔11に吸い込まれる水の流速のことである。
【0039】
本実施例では、各ケースA、Bについて、1回当たり10.3gのスラリー状の目詰め材3を150時間の間に合計126回投入した後、前記スリット部16bに目詰まりした目詰め材3の粒径分布を粒度分布測定機(株式会社セイシン企業社製、LMS-2000e)により測定した。
【0040】
実験により得られた粒度分布曲線(粒子径と粒径加積との関係)を図3に示す。この結果、粒子径と粒径加積との関係が直線的に変化する範囲が最も目詰まりに有効であると考えられる。ケースAでは10μm〜30μm、ケースBでは10μm〜50μmであった。
【0041】
ここで、吸込強度と目詰めに有効な粒子径との関係について図4に基づいて考察すると、図4(A)に示されるように、吸込強度1(ケースA)の場合、吸込強度が小さいため(吸込箇所4から吸い込まれる水の流速が小さいため)、目詰め材3が吸込箇所に吸い込み可能な範囲(図中の一点鎖線で示した範囲)が相対的に狭く、この狭い範囲を沈降する目詰め材しか吸い込むことができない。また、吸込強度が小さいため、大きな粒径の目詰め材が前記吸い込み可能な範囲に進入したとしても吸い込むことができずに沈降してしまう場合がある。これに対し、図4(B)に示されるように、吸込強度6(ケースB)の場合、吸込強度が大きいため(吸込箇所4から吸い込まれる水の流速が大きいため)、目詰め材3が吸込箇所4に吸い込み可能な範囲(図中の一点鎖線で示した範囲)が相対的に広くなり、且つ大きな粒径の目詰め材3も吸い込むことができるようになる。このため、吸込強度が小さいケースAでは目詰めに有効な粒径範囲が小さく、吸込強度が大きいケースBでは目詰めに有効な粒径範囲が大きくなっていると考えられる。
【0042】
続いて、上述のようにして得られた目詰まりに有効な粒径範囲の目詰め材が吸込箇所から吸い込まれる量の経時変化を実験的に求める方法について説明する。
【0043】
アクリル円筒10の上端から目詰め材3を投入し、投入した時点から所定の経過時間毎にアクリル円筒10下部の開孔11に吸い込まれる濁水を採取し、粒度分布測定機及び濁度計により粒度分布及び濁度を測定する。そして、各経過時間における目詰めに有効な粒径範囲の含有量(体積比率:%)と各経過時間の濁度(濁度は粒子数を直接表すものではないが、粒子数と比例関係にあると仮定した)との積を亀裂内有効目詰め材含有量比と定義し、この亀裂内有効目詰め材含有量比の経時変化から、目詰め材の投入開始から吸込箇所に吸い込まれる亀裂の目詰まりに有効な粒径範囲の目詰め材の量が投入開始直後の量と同等以下となるまでの時間間隔を目詰め材を再投入する時間間隔として設定する。なお、前記濁度の測定は、統一されていれば、種々の計測方法を採用することができる。従って、計測方法に応じて、濁度の単位は、例えばNTU[ホルマジンを標準液として、散乱光を測定した場合の測定単位。精製水1リットルに1mgのホルマジンを溶かしたものが1度(ホルマジン濁度)]、FTU[ホルマジン標準液と比較して測定した場合の濁度。(比濁計濁度単位)]、ppm[濃度を百万分の1で表したもの]とすることができる。また、濁度の測定は、図2に示されるように、吸込箇所に対応する開孔11又はその近傍から採取した濁水で行うようにする。
【0044】
具体的に上記実施例に基づいて説明すると、上記ケースA、Bのそれぞれについて、アクリル円筒10の上端から10.3gのスラリー状の目詰め材を投入し、投入した時点から5分、30分、1時間、3時間、5時間、8時間、24時間経過時に、それぞれアクリル円筒10下部の開孔11に吸い込まれる水(濁水)を濁水採取口から採取する。採取した濁水は粒度分布測定機(同前)及び濁度計(米国ハック(HACH)社製、ポータブル濁度計2100P)により粒度分布及び濁度を測定する。
【0045】
前記粒度分布の測定結果から、粒度分布曲線(粒子径と粒径加積との関係)を、各ケース毎に示したものを図5及び図6に、経過時間毎に示したものを図7〜図13に示す。なお、これらはそれぞれ、3回ずつ測定した平均値である。また、この粒度分布曲線から、各ケースA、Bについて亀裂の目詰めに有効な粒径範囲の下限側と上限側の粒径加積を求めたものを表3及び表4に示す。また、表3及び表4には、開孔11(吸込箇所4)に吸い込まれる濁水の濁度の測定結果も示してある。
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
表3及び表4に示されるように、目詰めに有効な粒径範囲の上限値及び下限値の粒径加積の差分を求めることにより、各経過時間における目詰めに有効な粒径範囲の含有量(体積%)が得られる。この差分と濁度との積を「亀裂内有効目詰め材含有量比」と定義し、ケースA(表3)の経過時間5分の値を1とした時の比で表してある。なお、ケースB(表4)についても、ケースA(表3)の経過時間5分の値を1とした時の比で表したが、ケースB(表4)の経過時間5分の値を1とした値で整理してもよい。
【0049】
このようにして得られた亀裂内有効目詰め材含有量比の経時変化を示したものを図14に示す。この結果、亀裂内有効目詰め材含有量比が、目詰め材投入時の亀裂内有効目詰め材含有量比(ケースAでは1.00、ケースBでは1.62)と同等以下となるまでの時間は、ケースA、Bともに5時間程度であることから、目詰め材3を再投入する時間間隔は5時間程度にすることが望ましい。このように、吸込強度1、6ではそれぞれ目詰め材3の再投入までの時間間隔が5時間程度となったが、図14に示されるグラフの形状から、その中間の吸込強度2〜5においても、5時間程度となることが推定でき、これ以上の吸込強度7、8についても5時間程度であると予測できる。
【0050】
以上の結果から、目詰め材3を再投入する時間間隔としては、5時間程度とすることが望ましい。実際には、作業時の時間ズレ、現地での余裕度や作業性などを考慮すると、前後に30分程度の余裕を見込んで4.5〜5.5時間、或いは前後に1時間程度の余裕を見込んで4時間〜6時間程度とするのが好ましい。
【0051】
〔他の形態例〕
上記形態例では、ダム湖や調整池等の地山で囲まれた貯水池を対象としているが、貯水槽やプールなどコンクリートで囲まれた貯水池についても同様に適用できる。
【符号の説明】
【0052】
1…貯水池、2…亀裂、3…目詰め材、4…吸込箇所
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山の亀裂に水が吸い込まれて流出するダム湖や調整池等の貯水池に対して、前記亀裂に目詰め材を吸い込ませて目詰まりさせる貯水池の止水工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ダム湖や調整池等の貯水池からの漏水を防止するため、目詰め材を水面に散布して自然沈降させ、貯水池の水が吸い込まれる吸込箇所から前記目詰め材を地山の亀裂内に水とともに吸い込ませることにより、前記亀裂を目詰まりさせ閉塞する目詰め工法が知られている。
【0003】
例えば下記特許文献1では、ベントナイトと、粒径の異なる複数の骨材からなる混合骨材と、ゲル化材とを混合した止水剤を、漏水箇所近傍の水面へ所定の日数を通じて散布を行うことにより、割れ目を完全に塞ぐことができるようにした実施例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−36245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1記載の実施例では、漏水個所近傍の水面へ3日間又は4日間を通じての止水剤の散布を行った、と記載されるだけで、どの程度の時間間隔で投入するのかが開示されるものではない。
【0006】
従って、目詰め材の再投入までの時間間隔を長く設定した場合、投入された目詰め材は自然沈降して所定の時間経過後に池底に堆積するため目詰めに全く寄与しなくなる。一方、目詰め材の再投入までの時間間隔を短く設定した場合、亀裂の目詰まりは生じやすくなるが、目詰め材にかかるコストや作業コストが嵩む結果となる。このため、目詰め材の再投入までの最適な時間間隔を設定することが重要となる。
【0007】
また、亀裂の開口幅などによって吸込箇所から吸い込まれる水の流速が異なるため、吸込箇所から吸い込まれる水の流速に応じた段階的な指標値として吸込強度を設定したとき、この吸込強度に応じて吸い込まれる目詰め材の粒径分布も相違する。例えば、図4(A)に示されるように、吸込強度1のように吸込強度が小さい(吸込箇所から吸い込まれる水の流速が小さい)場合、目詰め材が吸込箇所に吸い込まれる範囲が狭く、この狭い範囲を沈降する目詰め材しか吸い込むことができない。また、吸込強度が小さいため、大きな粒径の目詰め材を吸い込むことができない。これに対し、図4(B)に示されるように、吸込強度6のように吸込強度が大きい(吸込箇所から吸い込まれる水の流速が大きい)場合、目詰め材が吸込箇所に吸い込まれる範囲が広くなり、且つ大きな粒径の目詰め材も吸い込むことができるようになる。このように、吸込強度毎に吸い込まれる目詰め材の粒径範囲が異なるため、目詰めに有効な目詰め材の粒径範囲も相違する。
【0008】
そこで本発明の主たる課題は、吸込箇所の吸込強度を考慮して目詰め材の最適な再投入までの時間間隔が決定でき、目詰めの効率化及びコスト低減につながる貯水池の止水工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、地山の亀裂に水が吸い込まれて流出する貯水池に対して前記亀裂に目詰め材を吸い込ませて目詰まりさせる貯水池の止水工法において、
予め、貯水池の水が吸い込まれる吸込箇所について吸い込まれる水の流速に応じた吸込強度を把握しておくとともに、前記吸込強度毎に前記亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の粒径範囲と、この粒径範囲の目詰め材が前記吸込箇所から吸い込まれる量の経時変化とを実験的に得ておき、
前記経時変化の関係から、前記目詰め材の投入開始から前記吸込箇所に吸い込まれる、亀裂の目詰まりに有効な粒径範囲の目詰め材の量が投入開始直後の量と同等以下となるまでの時間間隔を前記目詰め材を再投入する時間間隔として設定することを特徴とする貯水池の止水工法が提供される。
【0010】
上記請求項1記載の発明では、目詰め材の再投入までの最適な時間間隔を求めるため、予め、貯水池の水が吸い込まれる吸込箇所について吸い込まれる水の流速に応じた吸込強度を把握しておくとともに、前記吸込強度毎に前記亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の粒径範囲と、この粒径範囲の目詰め材が前記吸込箇所から吸い込まれる量の経時変化とを実験的に得ておき、
前記経時変化の関係から、前記目詰め材の投入開始から前記吸込箇所に吸い込まれる、亀裂の目詰まりに有効な粒径範囲の目詰め材の量が投入開始直後の量と同等以下となるまでの時間を前記目詰め材を再投入する時間間隔として設定している。
【0011】
このように目詰め材投入間隔を決定することで、目詰め材の再投入までの最適な時間間隔が設定できるため、余分な目詰め材を使用することなく、効率よく亀裂を目詰まりさせることができる。従って、目詰め材にかかるコストや目詰め材散布の作業コストが軽減できるようになる。且つ前記時間間隔は吸込箇所に吸い込まれる水の流速(吸込強度)を考慮して定められているため、より効率的な目詰めが可能となっている。
【0012】
請求項2に係る本発明として、前記亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の粒径範囲を実験的に得るには、前記亀裂を模擬したスリット状の流路に、水とともに前記目詰め材を流通させ、このスリット状流路に目詰まりした前記目詰め材の粒度分布を測定することにより行われる請求項1記載の貯水池の止水工法が提供される。
【0013】
上記請求項2記載の発明は、亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の粒径範囲を実験的に得るための具体的な手段を規定したものであり、実験装置として亀裂を模擬したスリット状の流路が形成されたものを使用し、このスリット状流路に水とともに前記目詰め材を流通させ、目詰まりした目詰め材の粒度分布を測定することにより行うものである。
【0014】
請求項3に係る本発明として、前記吸込箇所から吸い込まれる、亀裂の目詰まりに有効な粒径範囲の目詰め材の量は、吸込箇所から吸い込まれる、亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の粒径範囲に対応する目詰め材の体積比率と、吸込箇所から吸い込まれる濁水の濁度との積として定義される亀裂内有効目詰め材含有量比を指標値として算定する請求項1、2いずれかに記載の貯水池の止水工法が提供される。
【0015】
上記請求項3記載の発明は、吸込箇所から吸い込まれる、亀裂の目詰まりに有効な粒径範囲の目詰め材の量を試験的に得るための具体的手段を規定したものである。すなわち、吸込箇所から吸い込まれる、亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の量を求めることは実際上困難であるため、この指標値として”亀裂内有効目詰め材含有量比”を採用するものである。濁度は粒子数を直接的に表すものではないが、粒子数と比例関係にあると仮定した上で、吸込箇所から吸い込まれる亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の粒径範囲の目詰め材の体積比率(%)と、吸込箇所から吸い込まれる濁水の濁度との積として定義される”亀裂内有効目詰め材含有量比”を用いれば、相対的に吸込箇所から吸い込まれる亀裂の目詰まりに有効な粒径範囲の目詰め材の量が算定できることに着眼したものである。
【0016】
請求項4に係る本発明として、前記目詰め材は鹿沼土であり、目詰め材を再投入する時間間隔が4〜6時間程度に設定されている請求項1〜3いずれかに記載の貯水池の止水工法が提供される。
【0017】
上記請求項4記載の発明では、実験の結果、目詰め材として鹿沼土を採用した場合は、目詰め材を再投入する時間間隔が5時間程度と求められたため、作業時の時間ズレ、現地での余裕度や作業性などを考慮して、4〜6時間程度としたものである。なお、目詰め材を変更した場合には、本検討フローにより再投入する時間間隔が新たに設定される。
【発明の効果】
【0018】
以上詳説のとおり本発明によれば、吸込箇所の吸込強度を考慮して目詰め材の最適な再投入までの時間間隔が決定でき、目詰めの効率化及びコスト低減につながる貯水池の止水工法が提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】貯水池1の断面図である。
【図2】実験装置の外形図である。
【図3】亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の粒径範囲をあらわす粒度分布曲線である。
【図4】目詰め材が吸込箇所に吸い込まれるイメージ図である。
【図5】ケースAの吸い込まれた目詰め材の粒度分布曲線である。
【図6】ケースBの吸い込まれた目詰め材の粒度分布曲線である。
【図7】5分経過時の吸い込まれた目詰め材の粒度分布曲線である。
【図8】30分経過時の吸い込まれた目詰め材の粒度分布曲線である。
【図9】1時間経過時の吸い込まれた目詰め材の粒度分布曲線である。
【図10】3時間経過時の吸い込まれた目詰め材の粒度分布曲線である。
【図11】5時間経過時の吸い込まれた目詰め材の粒度分布曲線である。
【図12】8時間経過時の吸い込まれた目詰め材の粒度分布曲線である。
【図13】24時間経過時の吸い込まれた目詰め材の粒度分布曲線である。
【図14】亀裂内有効目詰め材含有量比の経時変化を示すグラフである。
【図15】本発明に係る貯水池の止水工法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0021】
本発明に係る貯水池の止水工法は、図1に示されるように、地山の亀裂2に水が吸い込まれて流出するダム湖や調整池等の貯水池1に対して、該貯水池1の水面に目詰め材3を散布して自然沈降させ、貯水池1の水が吸い込まれる吸込箇所4から前記亀裂2内に目詰め材3を吸い込ませて目詰まりさせることにより亀裂2を閉塞する目詰め工法である。
【0022】
本止水工法では、目詰め材3の再投入までの最適な時間間隔を設定することにより、目詰めの効率化及びコスト低減が図られている。
【0023】
前記目詰め材3としては、水より比重の重い、土、砂、ベントナイト、粘土、セメント、またはコンクリート、軽石、岩石などの粉粒状にしたものが広く使用できる。かかる目詰め材3は、所定の割合で水と混合してスラリー状にして貯水池1に投入する。特に、本実施例では、入手が容易で施工性に優れ、比較的粒径範囲が広い鹿沼土を使用した。この鹿沼土と水とを1:2の割合で練り混ぜ、スラリー状にして使用した(図3の粒径分布参照)。
【0024】
前記目詰め材3の再投入までの最適な時間間隔を求めるには、図15のフロー図に示されるように、以下の手順で行う。具体的な実施例とともに以下に説明する。
【0025】
(吸込箇所の調査)
先ず第1の手順として、予め、潜水調査や水中ロボットなどにより、貯水池1の水が吸い込まれる吸込箇所4の位置を把握するとともに、各吸込箇所4について吸い込まれる水の流速に応じた吸込強度を把握しておく。
【0026】
前記吸込箇所4は、池底や斜面などに堆積した堆積物がクレーター状に凹んだ部分のことであり、地山の亀裂2に通じる開口部のことである。その大きさは1cm〜10cm程度であり、目視で容易に識別することができるものである。
【0027】
前記吸込強度は、吸込箇所4に吸い込まれる水の流速に応じて段階的に区分けしたものである。また前記吸込強度は、吸込箇所4近傍に着色水を散布したときの着色水の動きや、吸込箇所4に手を当てたときの吸い込みの感覚などに基づいて段階的に区分けすることもできる。この区分けは、例えば、表1に示されるように吸込強度1〜8までの8段階などとすることができる。
【表1】
【0028】
(目詰め材の選定)
吸込箇所の調査結果などから、目詰め材3として好ましいものを選定する。本実施例では、上述の通り、入手が容易で施工性に優れ、比較的粒径範囲が広い鹿沼土を使用した。
【0029】
(模擬実験)
次に、亀裂2が形成された貯水池1を模擬した実験装置を製作し、吸込強度毎に亀裂2の目詰まりに有効な目詰め材3の粒径範囲と、この粒径範囲の目詰め材3が吸込箇所から吸い込まれる量の経時変化とを実験的に求める。
【0030】
実験装置は、図2に示されるように、貯水池1を模擬したアクリル円筒10の下部の周面に、吸込箇所4に相当する開孔11を形成するとともに、この開孔11と亀裂2を模擬した平行平板モデル12とをチューブ13で接続して構成したものである。
【0031】
前記アクリル円筒10の上部の周面には、アクリル円筒10内の水位を一定に保持するため、水位一定装置14がホースで接続されている。前記水位一定装置14に常時越流するように水を供給することにより、アクリル円筒10内の水位が水位一定装置14の上縁と常に一致するように制御されている。
【0032】
前記アクリル円筒10の上端は開放され、スラリー状の目詰め材3の投入口として利用されている。また、アクリル円筒10の下部の開孔11には濁水採取口が設けられ、この開孔11(吸込箇所4)から吸い込まれた目詰め材3を含む濁水がいつでも任意に採取できるようになっている。
【0033】
前記平行平板モデル12は、2枚のアクリル板15、15間にスペーサー16を介在させるとともに、上流側縁と両側縁の3方にそれぞれ止水用ゴム板を介在させ、前記アクリル板15、15の上下からL型アングルを介して複数箇所をクランプなどによって挟持して構成されたものである。また、上流側の上面アクリル板15に前記アクリル円筒10の開孔11に接続されたチューブ13が接続され、アクリル円筒10内の水が2枚のアクリル板15、15間に供給され、下流側の開放端から外部に排出されるようになっている。前記スペーサー16は、上流側の約半分が中央部を中空状にした中空部16aとされ、地山の亀裂部分が模擬されている。また下流側の約半分には、流路方向に沿って所定の断面積で所定の本数のスリットが並列的に形成されるようにしたスリット部16bとされ、貯水池周辺からの地山の亀裂幅が狭くなった箇所やグラウト充填部分が模擬されている。
【0034】
前記平行平板モデル12には、流路に沿って所定の間隔を空けて複数のピエゾメーター17、17…が接続されている。このピエゾメーター17は、平行平板モデル12の流路内に連通して設けられ、チューブ内の水頭の高さによって各部の圧力を計測するためのものである。
【0035】
なお、本実験装置の具体的な寸法は、アクリル円筒10の外形がφ14.5cm、開孔11の直径がφ18mm、水面から開孔11までの高さを130cmで一定とした。また、平行平板モデル12の流路幅は12cm、流路全長120cm、中空部16a及びスリット部16bの流路長はそれぞれ60cmである。
【0036】
以上の実験装置を使用して、まず最初に、亀裂2の目詰まりに有効な目詰め材3の粒径範囲を実験的に求める方法について説明する。この粒径範囲の求め方は、アクリル円筒10の上端から目詰め材3を投入したとき、平行平板モデル12のスリット部16bに目詰まりした目詰め材3を回収し、粒度分布測定機により粒度分布を測定する。
【0037】
具体的に本実験では、次表2に示されるケースA、ケースBについて行った。なお、現地における潜水調査の結果、吸込箇所4の吸込強度は主として吸込強度1〜6の範囲であったので、吸込強度が最小と最大の吸込強度1、6について実験を行った。
【表2】
【0038】
なお、「スリット」とは前記スペーサー16のスリット部16bの高さ×幅(断面積)及び本数を示したものであり、「吸込箇所流速」とはアクリル円筒10下部の開孔11に吸い込まれる水の流速のことである。
【0039】
本実施例では、各ケースA、Bについて、1回当たり10.3gのスラリー状の目詰め材3を150時間の間に合計126回投入した後、前記スリット部16bに目詰まりした目詰め材3の粒径分布を粒度分布測定機(株式会社セイシン企業社製、LMS-2000e)により測定した。
【0040】
実験により得られた粒度分布曲線(粒子径と粒径加積との関係)を図3に示す。この結果、粒子径と粒径加積との関係が直線的に変化する範囲が最も目詰まりに有効であると考えられる。ケースAでは10μm〜30μm、ケースBでは10μm〜50μmであった。
【0041】
ここで、吸込強度と目詰めに有効な粒子径との関係について図4に基づいて考察すると、図4(A)に示されるように、吸込強度1(ケースA)の場合、吸込強度が小さいため(吸込箇所4から吸い込まれる水の流速が小さいため)、目詰め材3が吸込箇所に吸い込み可能な範囲(図中の一点鎖線で示した範囲)が相対的に狭く、この狭い範囲を沈降する目詰め材しか吸い込むことができない。また、吸込強度が小さいため、大きな粒径の目詰め材が前記吸い込み可能な範囲に進入したとしても吸い込むことができずに沈降してしまう場合がある。これに対し、図4(B)に示されるように、吸込強度6(ケースB)の場合、吸込強度が大きいため(吸込箇所4から吸い込まれる水の流速が大きいため)、目詰め材3が吸込箇所4に吸い込み可能な範囲(図中の一点鎖線で示した範囲)が相対的に広くなり、且つ大きな粒径の目詰め材3も吸い込むことができるようになる。このため、吸込強度が小さいケースAでは目詰めに有効な粒径範囲が小さく、吸込強度が大きいケースBでは目詰めに有効な粒径範囲が大きくなっていると考えられる。
【0042】
続いて、上述のようにして得られた目詰まりに有効な粒径範囲の目詰め材が吸込箇所から吸い込まれる量の経時変化を実験的に求める方法について説明する。
【0043】
アクリル円筒10の上端から目詰め材3を投入し、投入した時点から所定の経過時間毎にアクリル円筒10下部の開孔11に吸い込まれる濁水を採取し、粒度分布測定機及び濁度計により粒度分布及び濁度を測定する。そして、各経過時間における目詰めに有効な粒径範囲の含有量(体積比率:%)と各経過時間の濁度(濁度は粒子数を直接表すものではないが、粒子数と比例関係にあると仮定した)との積を亀裂内有効目詰め材含有量比と定義し、この亀裂内有効目詰め材含有量比の経時変化から、目詰め材の投入開始から吸込箇所に吸い込まれる亀裂の目詰まりに有効な粒径範囲の目詰め材の量が投入開始直後の量と同等以下となるまでの時間間隔を目詰め材を再投入する時間間隔として設定する。なお、前記濁度の測定は、統一されていれば、種々の計測方法を採用することができる。従って、計測方法に応じて、濁度の単位は、例えばNTU[ホルマジンを標準液として、散乱光を測定した場合の測定単位。精製水1リットルに1mgのホルマジンを溶かしたものが1度(ホルマジン濁度)]、FTU[ホルマジン標準液と比較して測定した場合の濁度。(比濁計濁度単位)]、ppm[濃度を百万分の1で表したもの]とすることができる。また、濁度の測定は、図2に示されるように、吸込箇所に対応する開孔11又はその近傍から採取した濁水で行うようにする。
【0044】
具体的に上記実施例に基づいて説明すると、上記ケースA、Bのそれぞれについて、アクリル円筒10の上端から10.3gのスラリー状の目詰め材を投入し、投入した時点から5分、30分、1時間、3時間、5時間、8時間、24時間経過時に、それぞれアクリル円筒10下部の開孔11に吸い込まれる水(濁水)を濁水採取口から採取する。採取した濁水は粒度分布測定機(同前)及び濁度計(米国ハック(HACH)社製、ポータブル濁度計2100P)により粒度分布及び濁度を測定する。
【0045】
前記粒度分布の測定結果から、粒度分布曲線(粒子径と粒径加積との関係)を、各ケース毎に示したものを図5及び図6に、経過時間毎に示したものを図7〜図13に示す。なお、これらはそれぞれ、3回ずつ測定した平均値である。また、この粒度分布曲線から、各ケースA、Bについて亀裂の目詰めに有効な粒径範囲の下限側と上限側の粒径加積を求めたものを表3及び表4に示す。また、表3及び表4には、開孔11(吸込箇所4)に吸い込まれる濁水の濁度の測定結果も示してある。
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
表3及び表4に示されるように、目詰めに有効な粒径範囲の上限値及び下限値の粒径加積の差分を求めることにより、各経過時間における目詰めに有効な粒径範囲の含有量(体積%)が得られる。この差分と濁度との積を「亀裂内有効目詰め材含有量比」と定義し、ケースA(表3)の経過時間5分の値を1とした時の比で表してある。なお、ケースB(表4)についても、ケースA(表3)の経過時間5分の値を1とした時の比で表したが、ケースB(表4)の経過時間5分の値を1とした値で整理してもよい。
【0049】
このようにして得られた亀裂内有効目詰め材含有量比の経時変化を示したものを図14に示す。この結果、亀裂内有効目詰め材含有量比が、目詰め材投入時の亀裂内有効目詰め材含有量比(ケースAでは1.00、ケースBでは1.62)と同等以下となるまでの時間は、ケースA、Bともに5時間程度であることから、目詰め材3を再投入する時間間隔は5時間程度にすることが望ましい。このように、吸込強度1、6ではそれぞれ目詰め材3の再投入までの時間間隔が5時間程度となったが、図14に示されるグラフの形状から、その中間の吸込強度2〜5においても、5時間程度となることが推定でき、これ以上の吸込強度7、8についても5時間程度であると予測できる。
【0050】
以上の結果から、目詰め材3を再投入する時間間隔としては、5時間程度とすることが望ましい。実際には、作業時の時間ズレ、現地での余裕度や作業性などを考慮すると、前後に30分程度の余裕を見込んで4.5〜5.5時間、或いは前後に1時間程度の余裕を見込んで4時間〜6時間程度とするのが好ましい。
【0051】
〔他の形態例〕
上記形態例では、ダム湖や調整池等の地山で囲まれた貯水池を対象としているが、貯水槽やプールなどコンクリートで囲まれた貯水池についても同様に適用できる。
【符号の説明】
【0052】
1…貯水池、2…亀裂、3…目詰め材、4…吸込箇所
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山の亀裂に水が吸い込まれて流出する貯水池に対して前記亀裂に目詰め材を吸い込ませて目詰まりさせる貯水池の止水工法において、
予め、貯水池の水が吸い込まれる吸込箇所について吸い込まれる水の流速に応じた吸込強度を把握しておくとともに、前記吸込強度毎に前記亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の粒径範囲と、この粒径範囲の目詰め材が前記吸込箇所から吸い込まれる量の経時変化とを実験的に得ておき、
前記経時変化の関係から、前記目詰め材の投入開始から前記吸込箇所に吸い込まれる、亀裂の目詰まりに有効な粒径範囲の目詰め材の量が投入開始直後の量と同等以下となるまでの時間間隔を前記目詰め材を再投入する時間間隔として設定することを特徴とする貯水池の止水工法。
【請求項2】
前記亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の粒径範囲を実験的に得るには、前記亀裂を模擬したスリット状の流路に、水とともに前記目詰め材を流通させ、このスリット状流路に目詰まりした前記目詰め材の粒度分布を測定することにより行われる請求項1記載の貯水池の止水工法。
【請求項3】
前記吸込箇所から吸い込まれる、亀裂の目詰まりに有効な粒径範囲の目詰め材の量は、吸込箇所から吸い込まれる、亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の粒径範囲に対応する目詰め材の体積比率と、吸込箇所から吸い込まれる濁水の濁度との積として定義される亀裂内有効目詰め材含有量比を指標値として算定する請求項1、2いずれかに記載の貯水池の止水工法。
【請求項4】
前記目詰め材は鹿沼土であり、目詰め材を再投入する時間間隔が4〜6時間程度に設定されている請求項1〜3いずれかに記載の貯水池の止水工法。
【請求項1】
地山の亀裂に水が吸い込まれて流出する貯水池に対して前記亀裂に目詰め材を吸い込ませて目詰まりさせる貯水池の止水工法において、
予め、貯水池の水が吸い込まれる吸込箇所について吸い込まれる水の流速に応じた吸込強度を把握しておくとともに、前記吸込強度毎に前記亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の粒径範囲と、この粒径範囲の目詰め材が前記吸込箇所から吸い込まれる量の経時変化とを実験的に得ておき、
前記経時変化の関係から、前記目詰め材の投入開始から前記吸込箇所に吸い込まれる、亀裂の目詰まりに有効な粒径範囲の目詰め材の量が投入開始直後の量と同等以下となるまでの時間間隔を前記目詰め材を再投入する時間間隔として設定することを特徴とする貯水池の止水工法。
【請求項2】
前記亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の粒径範囲を実験的に得るには、前記亀裂を模擬したスリット状の流路に、水とともに前記目詰め材を流通させ、このスリット状流路に目詰まりした前記目詰め材の粒度分布を測定することにより行われる請求項1記載の貯水池の止水工法。
【請求項3】
前記吸込箇所から吸い込まれる、亀裂の目詰まりに有効な粒径範囲の目詰め材の量は、吸込箇所から吸い込まれる、亀裂の目詰まりに有効な目詰め材の粒径範囲に対応する目詰め材の体積比率と、吸込箇所から吸い込まれる濁水の濁度との積として定義される亀裂内有効目詰め材含有量比を指標値として算定する請求項1、2いずれかに記載の貯水池の止水工法。
【請求項4】
前記目詰め材は鹿沼土であり、目詰め材を再投入する時間間隔が4〜6時間程度に設定されている請求項1〜3いずれかに記載の貯水池の止水工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−207386(P2012−207386A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71919(P2011−71919)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
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