説明

貴金属触媒

表面上に改質剤を有する担持または非担持の遷移金属触媒からなる触媒系。改質剤は硫黄含有官能基(G0)を有する。加えて、改質剤は、介在基(Sp)およびブレンステッド塩基性、ブレンステッド酸性またはルイス塩基性の基(G1)を有していてよい。触媒系は、水素化、還元的アルキル化および還元的アミノ化に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一定量の有機改質剤で表面が改質された担持または非担持の遷移金属触媒からなる触媒系、その製造方法、およびその使用に関する。
【0002】
不均一触媒は、容易に再利用ができ、連続工程で使用可能なので、基礎化学品、化学中間物、ファインケミカル製品、および医薬品の製造に広く使用されている。ファインケミカルおよび医薬の触媒工程は高い基質特異性を有する。すなわち、多官能性有機基質中の特定の官能基が変換されなければならない。一般に、周知の不均一触媒では、均一触媒と比べて触媒反応の選択性が低くなる。
【0003】
有機出発分子の特定の官能基に関連した選択性は、不均一触媒を少量の有機または無機化合物で改質することによって向上させることができることが知られている。不均一触媒のこうした改質により、市販の固体触媒の応用範囲が広がる可能性が生まれてくる。それは、改質剤の量および化学構造を、特定の化学反応の必要条件に合わせて制御された方法で調節できるからである。
【0004】
触媒表面を改質するのに用いられる化合物は、技術文献において種々の用語(例えば、改質剤、助触媒、添加剤、調整剤、選択的触媒毒または共触媒)で呼ばれている。
【0005】
以下、「改質剤」という用語を使用するが、この用語は他の名称とまったく同義であると理解すべきである。
【0006】
改質剤は、触媒表面との吸着相互作用が生じるような性質を有し、こうして,以下のようにして触媒の活性および選択性に所望の変化を引き起こす。
a)触媒表面上の活性サイトの数を変えるか、または
b)触媒表面上の活性サイトの電子物性を変えるか、または
c)有機触媒官能基を取り込む、すなわち、たとえ金属が存在しなくても高度に選択的な方法でさまざまな反応を触媒することができる小さくて単純な、おそらくキラルの有機分子を用いる(図1)。
【0007】
不均一触媒用の改質剤は、触媒表面への改質剤の付着(吸着)を可能にする構造単位からなる。
【0008】
さらに、c)の場合の改質剤(図1cを参照)は、有機触媒活性を有する構造単位を持つことができる。当該の構造単位は、例えば、アミノ酸またはペプチドの構造あるいは有機金属錯体の配位子であってよく、これは、更なる金属が存在しない場合でさえ、高度に選択的な方法で化学反応を触媒できるi
【0009】
有機触媒官能基は、改質剤と反応基質との相互作用によって基質の一部でキラル誘導を引き起こすことができるように、キラル中心を有していてもよい。
【0010】
改質剤によって触媒の活性サイトの数および性質を変える(活性サイトの作用を部分的に損なわせる)周知の例として、アルキンからアルケンへの部分水素化(この場合、もっとも頻繁に使用される改質剤はキノリンであるが、ジアミンも使用される)がある。この触媒系は、いわゆるリンドラー触媒の形で使用されるii。基質の吸着、生成物の吸着および改質剤の吸着の競合があると考えられる。
【0011】
窒素塩基をPd/C触媒に加えることにより、オレフィン基、ベンジルエステル基、ニトロ基など他の還元官能基の存在下でベンジルエーテルの水素化分解を選択的に抑制することができるiii。しかし、芳香族のN−Cbz(ベンジルオキシカルボニル)およびハロ芳香族基は水素化される。N塩基が存在しない場合、それぞれの場合に完全な水素化分解が起こるiv
【0012】
硫化ジフェニルを触媒毒として使用すると、Pd/C触媒の応用範囲はさらに広がる。例えば、このようにして改質された触媒系では、オレフィン基およびアセチレン基を水素化できると同時に、芳香族カルボニル基ならびにハロゲン基、ベンジルエステル基およびN−Cbz基の水素化分解が抑制されたv。研究したさらなるS含有改質剤は、チオフェノール、ジフェニルスルホン、ジフェニルスルホキシドおよび二硫化ジフェニルであった。
【0013】
不均一触媒の改質に関して述べた例の場合、表面の作用を部分的に損なわせることによって化学的選択性に影響を与えるという目的がある。有機分子による不均一触媒の周知の改質は、準備が簡単であり安価である。特に、図la)およびb)に従った活性サイトの数または性質が、単純な窒素含有塩基および硫黄化合物の吸着によって影響される触媒的応用の場合、成功した触媒系は数多く知られている。
【0014】
しかし、触媒改質の目的が立体選択性、ジアステレオ選択性およびエナチオ選択性を制御することであるときには、選択的に触媒表面に吸着される単純な分子では不十分である。
【0015】
この場合、改質剤の分子ならびに触媒表面への吸着を可能にする基は、触媒表面おいて反応基質の官能基との制御された相互作用を生じる付加的な有機触媒的官能基を必要とする。
【0016】
図lc)に従った有機触媒的官能基を有する触媒を必要とする立体選択的、ジアステレオ選択的およびエナンチオ選択的な反応の場合、成功した改質触媒の応用例の数はまだ非常に限られている。
【0017】
このタイプの反応でのアミンの重要性は、Pd/Al23の存在下での1−メチルインデン−2−カルボン酸(1−MICA)の水素化に関連して明らかになってきているvi(図2)。
【0018】
Pd表面に吸着された2個の水素原子のsyn付加の場合、主にシス生成物が生じる。
【0019】
改質剤(シンコニジンおよびキヌクリジン)を加えた場合、トランス/シスの比率は2倍を超える。第三アミン改質剤の影響は、1−MICAと改質剤(「逆さまの」状態での1−MICAの吸着および水素化を促進する)との間の酸塩基相互作用によって説明される。
【0020】
エナンチオ選択的触媒反応の場合、貴金属担持触媒をキラル改質剤と組み合わせると、特定の基質の基にキラル情報を直接伝えることができる。
【0021】
Pt/Al23/キナアルカロイドの組合せの場合、α−ケトカルボン酸エステルを85〜98%のエナチオ選択率で水素化することが可能であるvii(図3)。
【0022】
触媒としてラネーニッケル、キラル改質剤として酒石酸、さらに助触媒としてNaBrを用いて、β−ケトカルボン酸エステルの立体選択的水素化viiiを行うと、ヒドロキシルエステルの立体的選択率がおよそ80〜98%になる。更なる好適な基質には、他のβ−官能基化ケトンおよび立体要求性メチルケトンがあるix
【0023】
パラジウムを、非置換キナアルカロイドまたは一部のビンカアルカロイドと組み合わせると、α,β−不飽和カルボン酸(eeが最高74%まで)およびヒドロキシメチルピロン(eeが最高94%まで)のためのエナンチオ選択的触媒が得られるx
【0024】
キラル改質剤(例えば、アミノアルコール、アミノ酸)を有する他の幾つかの担持Pd触媒が報告されているが、達成されるエナチオ選択率はおよそ20〜25%に過ぎない。
【0025】
立体選択的、ジアステレオ選択的およびエナンチオ選択的な反応の分野に応用してうまくゆくのは、穏やかな反応条件(低いH2の圧力(水素化の場合)、低い温度)の下で変換される活性化の容易な基質に限られるというのが、全体的な印象である。
【0026】
この原因の1つは、十分に不活性ではなく、触媒反応時に望ましくないキラル改質剤の劣化が起こることにあると考えられる。
【0027】
例えば、Pt触媒とともにエナンチオ選択的な水素化に使用されるキナ改質剤は、その芳香族環系と触媒表面との間の相互作用の結果として吸着されることが知られている。しかし、この芳香族基は反応時に水素化される。このため改質剤が触媒から脱離することになり、それゆえに選択性の減少または完全な消失につながる。
【0028】
さらに、いっそう不安定な吸着相互作用を生じる吸着基の場合、こうした分子の吸着では特定の金属表面または吸着サイトが必要とされるという不利な点がある。それゆえに、対応する改質剤の有用性は、特定の金属粒子構造、キャリヤー物質および狭い範囲に限られた不均一触媒の製造方法によって制約を受ける。
【0029】
機能するエナンチオ選択的なPt−キナアルカロイド系は、例えば、キャリヤー物質としてのAl23に基づいている。それに対して、活性炭担持触媒は低い選択率しか示さない。
【0030】
したがって本発明の目的は、触媒表面への強い非特異吸着を可能にする吸着基と有機触媒的官能基との両方を持つ強固な有機改質剤を有する触媒系を開発することである。こうした本発明の触媒系は、比較的厳しい反応条件(高温、高圧)の下で比較的非反応性の基質を活性化することができ、しかもそうした基質を化学選択的、立体選択的、ジアステレオ選択的および/またはエナンチオ選択的に変換できる。
【0031】
本発明は、一定量の有機改質剤で表面が改質された担持または非担持の遷移金属触媒からなる触媒系であって、改質剤が硫黄含有基(G0)を有することを特徴とする触媒系を提供する。
【0032】
先行技術によれば、硫黄含有分子は触媒の毒作用で主に知られているが、硫黄化合物で処理された本発明の触媒の場合には、驚くべきことに非改質触媒と比べて活性および選択性の両方が増大しうることが見いだされた。
【0033】
本発明の触媒系は、非担持触媒または担持触媒および有機改質剤から構成することができ、改質剤が硫黄含有基(G0)としてチオール基、(ポリ)スルファン基、チオフェン基またはチオピラン基を有することを特徴としうる。
【0034】
本発明の触媒系は、改質剤が、ブレンステッド塩基性、ブレンステッド酸性、ルイス塩基性またはルイス酸性を有する少なくとも1個の更なる官能基(G1)を有することを特徴としうる。
【0035】
本発明の触媒系は、改質剤が、硫黄含有官能基(G0)と、ブレンステッド塩基性、ブレンステッド酸性またはルイス塩基性の官能基(G1)との間に介在基(Sp)を有することを特徴としうる。
【0036】
本発明の触媒系は、非担持触媒または担持触媒が、1種以上の触媒活性成分を含むことを特徴としうるものであり、ここで、こうした成分は、周期律表の遷移族I、II、VIIおよびVIIIの元素の化合物、好ましくは元素であるPt、Pd、Rh、Ru、Re、Ir、Au、Ag、Ni、Co、CuおよびFeの化合物であってよい。
【0037】
本発明の触媒系は、改質剤が、金属または担持金属触媒の製造時またはその直後に触媒表面に吸着され、そのような触媒系として触媒工程段階に投入されることを特徴としうる。
【0038】
本発明の触媒系は、触媒工程段階へ投入される直前に、改質剤が触媒表面に吸着されることを特徴としうる。
【0039】
本発明の触媒系は、改質剤および不均一触媒が触媒工程段階に投入され、その場で改質剤が触媒表面に吸着されることを特徴としうる。
【0040】
本発明の触媒系は、改質剤が、硫黄含有基(G0)として、アルキルチオールまたはアルキルスルファンまたはアルキルジスルファンまたはアルキルトリスルファンまたはアルキル−ポリスルファン基、あるいはアリールチオールまたはアリールスルファンまたはアリールジスルファンまたはアリールトリスルファンまたはアリールポリスルファン基、あるいはアルキルアリールチオールまたはアルキルアリールスルファンまたはアルキルアリールジスルファンまたはアルキルアルキルトリスルファンまたはアルキルアリールポリスルファン基を有することを特徴としうる。
【0041】
本発明の触媒系は、改質剤が、好ましくは硫黄含有基(G0)として、フェニルチオールまたはフェニルスルファン基あるいはベンジルチオールまたはベンジルスルファン基を有することを特徴としうる。
【0042】
本発明の触媒系は、改質剤:触媒の質量比が、10000:1〜1:10000、好ましくは10:1〜1:1000の範囲であることを特徴としうる。
【0043】
本発明の触媒系は、改質剤が、
アミノおよび/または
カルボン酸および/または
カルボン酸エステルおよび/または
カルボキサミドおよび/または
アミノカルボン酸および/または
アミノカルボン酸エステルおよび/または
アミノカルボキサミドおよび/または
ヒドロキシカルボン酸および/または
ヒドロキシカルボン酸エステルおよび/または
ヒドロキシカルボキサミドおよび/または
アミノアルコールおよび/または
ジオールおよび/または
尿素および/または
チオ尿素
の群からの1つ以上の基を、官能基(G1)として有することを特徴としうる。
【0044】
本発明による硫黄含有基(G0)を有する好ましい改質剤は、チオール、(ポリ)スルファン、チオフェンまたはチオピラン基を含み、さらにブレンステッド塩基性、ブレンステッド酸性、またはルイス塩基性を有する更なる官能基(G1)(例えば、アミノ基、アミノ酸基、ヒドロキシカルボン酸基、アミノアルコール基、ジオール基、ビフェノール基、尿素基またはチオ尿素基)も少なくとも1個有する有機分子であってよい。
【0045】
本発明の触媒の改質剤は、官能基G0とG1との間に配置される介在基(Sp)を有していてよい。介在基は、例えば、第1表に列挙されている構造を有していてよい。
【0046】
そのような改質剤の例を図4および第1表にまとめる。
【0047】
本発明の改質剤の官能基Sp、G0およびG1の例
【表1】

【0048】
図4に示す本発明の触媒系の改質剤のS含有官能基G0は、金属表面へ改質剤が強力に吸着するのに役立ちうる。その強力な吸着は、反応温度が高く、反応基質の濃度が高い場合でさえ維持される。
【0049】
本発明の触媒の改質剤は、少なくとも1個のキラル中心を有していてよい。
【0050】
本発明の触媒系は、触媒系が以下の反応クラスの反応:
1つ以上のカルボニル基および/または
1つ以上のC=C二重結合および/または
1つ以上の芳香族基および/または複素環式芳香族基および/または
1つ以上のニトロ基および/または
1つ以上のニトリル基および/または
1つ以上のイミン基および/または
1つ以上のヒドロキシルアミン基および/または
1つ以上のアルキン基
を含む基質の、化学選択的、立体選択的、ジアステレオ選択的および/またはエナンチオ選択的な水素化、
第一または第二アミンの、化学選択的、立体選択的、ジアステレオ選択的、またはエナンチオ選択的な還元的アルキル化、あるいは
アンモニウム塩またはアミンによるアルデヒドまたはケトンの、化学選択的、立体選択的、ジアステレオ選択的またはエナンチオ選択的な還元的アミノ化
を触媒することができることを特徴としうる。
【0051】
本発明の触媒を触媒として使用する場合の温度範囲は、−70〜220℃、好ましくは−10〜200℃、特に20〜140℃であってよい。
【0052】
本発明の触媒を触媒として使用する場合の圧力範囲(H2の分圧)は、0.1〜300バール、好ましくは0.5〜100バールであってよい。
【0053】
本発明の触媒における触媒:改質剤の質量比は、1:1〜10000:1、好ましくは10:1〜1000:1であってよい。
【0054】
1基の官能基Z1およびZ2を変えることにより(第1表および図4参照)、種々の反応クラスおよび基質クラスの触媒反応の化学選択性、立体選択性、ジアステレオ選択性および/またはエナチオ選択性を制御することが可能である。
【0055】
本発明の触媒系は、以下の反応クラス:
1つ以上のカルボニル基、
1つ以上のC=C二重結合、
1つ以上芳香族基および/または複素環式芳香族基、
1つ以上のニトロ基、
1つ以上のニトリル基、
1つ以上のイミン基、
1つ以上のヒドロキシルアミン基、
1つ以上のアルキン基
の群からの少なくとも1種の官能基または複数種の官能基を有する基質の、化学選択的、立体選択的、ジアステレオ選択的および/またはエナンチオ選択的な水素化
を触媒するのに使用できる。
【0056】
本発明の触媒系は、第一または第二アミンの、化学選択的、立体選択的、ジアステレオ選択的またはエナンチオ選択的な還元的アルキル化にも使用できる。
【0057】
本発明の触媒系は、アモニウム塩またはアミンによるアルデヒドまたはケトンの、化学選択的、立体選択的、ジアステレオ選択的またはエナンチオ選択的な還元的アミノ化にも使用できる。
【0058】
本発明の触媒系の活性金属成分は、1種以上の貴金属(Pd、Pt、Ag、Au、Rh、Ru、Irなど)および/または更なる遷移金属(Ni、Cu、Co、Moなど)から構成されていてよい。
【0059】
触媒は、更なる元素、例えば、アルカリ金属およびアルカリ土類金属、主族元素3、4および5および/または遷移族元素1〜8を含んでよい。
【0060】
触媒の金属成分をキャリヤーに施すことができるが、その場合、使用するキャリヤーは、活性炭、カーボンブラック、および酸化物質(Al23、SiO2、TiO2、ZrO2、アルミノケイ酸塩、MgO、CaO、SrO、BaO、または既述の酸化物からなる混合酸化物など)であってよい。
【0061】
本発明の新規の強力な有機改質剤は、種々の担持金属触媒を効果的に改質することができ、狭い範囲のキャリヤーおよび金属粒子特性の制約を受けることはもはやない。
【0062】
結果として得られる本発明の触媒系により、数多くの化学選択的、立体選択的、ジアステレオ選択的およびエナンチオ選択的な化学反応を行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、改質剤が、触媒の活性および選択性に所望の変化を引き起こす場合a)〜c)を図示している。
【図2】図2は、Pd/Al23の存在下での1−メチルインデン−2−カルボン酸(1−MICA)の水素化を図示している。
【図3】図3は、Pt/Al23/キナアルカロイドの組合せで、α−ケトカルボン酸エステルを水素化することを図示している。
【図4】図4は、官能基G0とG1との間に配置される介在基(Sp)を有する改質剤を図示している。
【図5a】図5aは、α−アミノ酸基本構造に基づいた改質剤を図示している。
【図5b】図5bは、系統的に変わる置換基G0、G1および、G1基の中の官能基Z1およびZ2を図示している。
【0064】
実施例
実施例では、高い反応温度および水素分圧が基質の活性化に必要とされる反応への本発明の改質触媒の使用に的を絞っており、そのような反応においては、本発明の触媒系は先行技術と比べて著しく向上している。
【0065】
実施例1
アミノ酸スルファン/チオール誘導体で改質されたPt触媒の存在下での、不均一触媒されるエナンチオ選択的な還元的アミノ化
36種類の改質剤のライブラリーを作った。このライブラリーは、図5aに示すα−アミノ酸基本構造に基づいたものである。置換基G0、G1および、G1基の中の官能基Z1およびZ2(第1表も参照)を、図5bに従って系統的に変えた。
【0066】
図5に従った物質ライブラリーの代表的なものを種々のPt触媒の改質に用いた。これらの触媒はそれぞれ、Al23キャリヤー上に5質量%のPt(第1a表および第1b表中のCatasium F214に相当する)を含むか、または活性炭キャリヤー上に3質量%のPt(第1a表および第1b表中のF1082QHA/W3%に相当する)を含んでいた。改質したPt触媒を、エチルフェニルケトンからプロピルフェニルアミンへの還元的アミノ化に使用した。
【0067】
【化1】

【0068】
加圧反応器の中で、H2の分圧30バール、反応温度50℃〜80℃においてメタノール溶媒中で反応を行わせた。触媒は3mlの溶媒中に懸濁させた。その後、溶媒中に改質剤を含んだ溶液1mlを加え、その混合物を室温で30分間攪拌した。その後、基質の溶液1mlおよびアンモニウム塩の溶液1mlを加えた。反応器は、最初に窒素で洗浄し、次いで所期の反応圧力になるまで水素を充填し、反応温度を設定した。反応の開始時に、エチルフェニルケトン:NH4OHのモル比は、1:3であった。基質と改質剤とのモル比は、1:1〜10000:1の範囲内で変化させた。第2a)表および第2b)表は、こうしたさまざまな値での選択された実験におけるプロピルフェニルアミンの収率ならびにee値を含んでいる。特に本発明の触媒/改質剤の系であるNo.8、ll、12、14、15、16、17、18、29、30、32、35、36(第2a表、第2b表)では、硫黄を含まない改質剤の類似物(N−アセチルフェニルアラニン)のee値、および改質剤を用いないで得られたee値のどちらよりも大きいエナチオ選択性が実現されることが分かる。
【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
【表5】

【0073】
【表6】

【0074】
実施例2
図5に従った物質ライブラリーの代表的なNo.8を、Pt触媒の改質に用いた(Al23上に5質量%のPtが担持される)。電磁撹拌機(50℃)を用いて15分間、3gの酸化アルミニウムを室温において40mlの2.5%炭酸ナトリウム溶液(Na2CO3)中に懸濁させて触媒を得た。400mgのヘキサクロロ白金酸六水和物(150mgのPtに相当するH2PtCl6*6H2O)を30mlの水に溶かしたものを、およそ30分間のうちにキャリヤー懸濁液中に滴加した。
【0075】
添加後、混合物をさらに15分間攪拌し、その後pHを10.5に調節した。50℃において、0.3gの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を30mlの水の中に加えて、還元を行った。還元が始まった後(触媒がすぐに黒ずむので判別できる)、混合物をさらに45分間攪拌してから、触媒をフリットで除去し、水で洗浄し、乾燥キャビネット中で約70℃において一晩乾燥させた。
【0076】
製造直後に、触媒を、0.4mmol/lの改質剤No.8(図5参照)を含んだメタノール溶液40ml中に懸濁させた。その後、固形分を再び濾過して取り除き、場合により水で洗浄し、真空キャビネット中において室温で乾燥させた。
【0077】
改質したPt触媒を、エチルフェニルケトンからプロピルフェニルアミンへの還元的アミノ化に使用した。
【0078】
加圧反応器の中で、H2の分圧30バール、反応温度50℃においてメタノール溶媒中で反応を行わせた。触媒は4mlの溶媒中に懸濁させた。その後、基質の溶液1mlおよびアンモニウム塩の溶液1mlを加えた。反応器は、最初に窒素で洗浄し、次いで所期の反応圧力になるまで水素を充填し、反応温度を設定した。反応の開始時に、エチルフェニルケトン:NH4OHのモル比は、1:3であった。
【0079】
第3表は、プロピルフェニルアミンの収率およびee値を示しており、それらは非改質触媒の値よりかなり高い(実施例1、第2b表参照)。
【0080】
【表7】

【0081】
実施例3
図5に従った物質ライブラリーの代表的なNo.8を、Pt触媒の改質に用いた(活性炭に3質量%のPtが担持されたもので、F1O82QHA/W3%で示されている)。
【0082】
Pt触媒をエチルフェニルケトンからプロピルフェニルアミンへの還元的アミノ化に使用し、その場でN−Ac−S−ベンジル−L−システインによって改質した。
【0083】
加圧反応器の中で、H2の分圧30バール、反応温度50℃〜80℃においてメタノール溶媒中で反応を行わせた。触媒は3mlの溶媒中に懸濁させた。反応器は、最初に窒素で洗浄し、次いで所期の反応圧力になるまで水素を充填し、反応温度を設定した。その後、改質剤のNH4OHおよび基質を含んだメタノール溶液3mlを、反応条件下で攪拌しながら触媒懸濁液に加えた。エチルフェニルケトン:NH4OHのモル比は、1:3であった。反応器中の基質:改質剤のモル比は、1:11であった。
【0084】
第4表は、プロピルフェニルアミンの収率およびee値を示しており、それらは非改質触媒の値よりかなり高い(実施例1、第2b表参照)。
【0085】
【表8】

【0086】
実施例4
α−ケトカルボン酸誘導体の、不均一触媒されるエナンチオ選択的水素化
ピルビン酸エチルのエナンチオ選択的水素化を行うために、Pt/Al23触媒(Ptが5質量%)を以下の化合物:
N−アセチルフェニルアラニン
N−Ac−S−フェニル−L−システインで改質した。
【0087】
触媒は3mlの溶媒中に懸濁させた。その後、溶媒中に改質剤を含んだ溶液1mlを加え、その混合物を室温で30分間攪拌した。50℃およびH2の分圧5バールにおいて酢酸溶媒中で化学変換を行った。それぞれの場合に1つの反応バッチは、10mgの乾燥触媒および6mlの反応溶液(基質濃度が750mmol/lおよび改質剤濃度が0.2mmol/lであるもの)を含んでいた。
【0088】
【化2】

【0089】
収率およびee値を第5表に要約する。
【0090】
第5表
ピルビン酸エチルの変換の結果(40℃、5バール、基質濃度750mmol/l;改質剤濃度0.2mmol/l)
【表9】

【0091】
本発明の触媒/改質剤の系は、選択された反応条件下では、改質剤を含まない系および硫黄を含まない改質剤を含む系と比較して、エナンチオマーの濃縮度が最高になる。
【0092】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定量の有機改質剤で表面が改質された担持または非担持の遷移金属触媒からなる触媒系であって、前記改質剤が硫黄含有官能基(G0)を有することを特徴とする触媒系。
【請求項2】
前記改質剤が、ブレンステッド塩基性、ブレンステッド酸性、ルイス塩基性またはルイス酸性を有する少なくとも1個の更なる官能基(G1)を有することを特徴とする、請求項1に記載の触媒系。
【請求項3】
前記改質剤が、前記硫黄含有官能基(G0)と、ブレンステッド塩基性、ブレンステッド酸性、ルイス塩基性またはルイス酸性の官能基(G1)との間に介在基(Sp)を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の触媒系。
【請求項4】
前記非担持触媒または担持触媒が1種以上の触媒活性成分を含み、こうした成分が、周期律表の遷移族I、II、VIIおよびVIIIの元素の化合物、好ましくは元素Pt、Pd、Rh、Ru、Re、Ir、Au、Ag、Ni、Co、CuおよびFeの化合物であってよいことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の触媒系。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の触媒系を、
・ 1つ以上のカルボニル基、
・ 1つ以上のC=C二重結合、
・ 1つ以上の芳香族基および/または複素環式芳香族基、
・ 1つ以上のニトロ基、
・ 1つ以上のニトリル基、
・ 1つ以上のイミン基、
・ 1つ以上のヒドロキシルアミン基、
・ 1つ以上のアルキン基
の群からの少なくとも1種の官能基または複数種の官能基を有する基質の、化学選択的、立体選択的、ジアステレオ選択的および/またはエナンチオ選択的な水素化
という反応クラスの触媒反応へと用いる使用。
【請求項6】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の触媒系を、第一または第二アミンの、化学選択的、立体選択的、ジアステレオ選択的またはエナンチオ選択的な還元的アルキル化へと用いる使用。
【請求項7】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の触媒系を、アンモニウム塩またはアミンによるアルデヒドまたはケトンの、化学選択的、立体選択的、ジアステレオ選択的またはエナンチオ選択的な還元的アミノ化へと用いる使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【公表番号】特表2010−517766(P2010−517766A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549386(P2009−549386)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【国際出願番号】PCT/EP2008/050950
【国際公開番号】WO2008/098830
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】