説明

超硬質複合材料及びその製造方法

【課題】十分に高密度で一様な構造を有し超高圧容器なしで製造できるダイヤモンド含有超硬質複合材料を提供する。
【解決手段】炭化物、窒化物等の硬質粉末、0〜10重量%鉄族金属と平均粒径10〜1000μmのダイヤモンド粒子とを混合し、この混合物を0〜200MPaの範囲の加圧下、通電加熱により、900℃以上での加熱速度を100〜10000℃/分とし、1900℃を超えない温度で30秒未満保持し焼結し相対密度85%以上を有する超硬質複合材料を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタングステンカーバイド(バインダはあってもなくても良い)あるいはそれに類するものとその中に分散して複合材を形成するダイヤモンド粒子との焼結体を含む超硬質複合材(superhard composite material)料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは非常に硬度が高いことから、耐摩耗性材料の要素として大きな関心を集めてきた。タイヤモンドをマトリクス中に取り入れて緻密な材料を得るため多くの技術が試された。しかしながら、大きな問題は、高温かつ常圧においてダイヤモンドの熱安定性が不十分なことである。良好な結果を得るためには高圧による方法が必要であると今まで考えられてきた。特許文献6、7、8及び10に開示された諸方法では、高圧高温の装置が必要とされる。超高圧容器を使用して、1400℃〜2400℃で5.5GPa〜10GPaという高温かつ高圧の条件で人造ダイヤモンドが開発された。その結果、地球上でもっとも硬い材料として超硬合金(cemented carbide)よりも良好な耐摩耗性を持つダイヤモンド成形体(diamond compact)が開発された。しかしながら、これらのダイヤモンド材料を製造するには、超高圧容器のような高価な設備が必要となる。
【0003】
多くの特許に、固相のダイヤモンドにとって熱力学的に不安定な圧力及び温度条件下で材料を焼結して、これによって超高圧容器を採用することなくダイヤモンド複合部材を作製する技術が開示されている。
【0004】
超硬合金マトリクス中に入っている被覆されていないダイヤモンドからなる材料が多数の過去の特許に開示されている。例えば、特許文献2には1体積分量のダイヤモンド粒子を、Co(コバルト)含有量が3%〜25%のタングステンカーバイド−コバルト3〜4体積分量に埋め込んだ材料が開示されている。特許文献4には、焼結組成に加熱と加圧を同時に行うことによって、すなわちホットプレス法により、物品を製造する方法が開示されている。
【0005】
特許文献5では、ダイヤモンド超硬合金混合物を抵抗法によって、すなわち混合物への通電を高周波電流によるプレス型の加熱と同時に行うことによって、1800℃までの焼結温度まで3000℃〜10000℃/分のレートで加熱する。一方、特許文献9では、浸潤により、バインダ相中に金属被覆されたダイヤモンドあるいはCBN(立方晶窒化ホウ素)の超硬粒子を含む複合部材を作製する技術が開示されている。
【0006】
更には、特許文献11では、ダイヤモンド・タングステンカーバイド−コバルト複合材が、直接抵抗加熱及び加圧焼結によって得られる。ここで焼結は液相で行われて短時間の加熱で作製され、またコバルト成分は10体積%よりも多い。特許文献11に示される従来技術は、本発明とは異なり、ダイヤモンド複合体を志向していない、つまりバインダなしのダイヤモンド・タングステンカーバイド複合体の製造でも低コバルト含有量超硬質複合材料の製造でもない。従来技術である特許文献11とは反対に、本発明ではダイヤモンドのグラファイト化を防止し粉末の密度を高くするためのダイヤモンドへの被覆は何も必要とされない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、超高圧容器を使用せずに製造できる充分に緻密かつ一様な構造を有する超硬質複合材料及びそのような材料を製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によれば、以下の(ア)及び(イ)を含み、(ウ)から(オ)の条件を満たす超硬質材料が与えられる。
(ア)WC、TiC、TiN、SiC及びTi(C,N)からなる群から選択された少なくとも一つの要素を含む材料からなる硬質相。
(イ)前記硬質相を含む構造中に分散された複数のダイヤモンド粒子。
(ウ)前記硬質相及び前記ダイヤモンド粒子は、ダイヤモンドが熱力学的に準安定でありダイヤモンドが全くまたはごくわずかしか黒鉛化を被らない条件下で直接抵抗加熱及び加圧焼結によって焼結される。
(エ)ダイヤモンドはマトリクスと強固な結合をなす。
(オ)前記複合材料は85%よりも大きな相対密度を有する。
【0009】
前記超硬質複合材料は主に主結晶系としてfcc構造を有するCo等の鉄族の金属からなる0重量%〜10重量%の金属バインダ相を含み、前記金属バインダ相は前記硬質相及び前記ダイヤモンド粒子とともに焼結され、前記構造は更に前記金属バインダ相を含んでよい。
【0010】
前記ダイヤモンド粒子は10μm〜1000μmの範囲の平均粒子サイズを有し、前記ダイヤモンド粒子の含有量は5体積%〜50体積%であってよい。
【0011】
前記超硬質複合材料は立方晶窒化ホウ素とウルツァイト窒化ホウ素の少なくとも一方を更に含んでよい。
【0012】
本発明の他の側面によれば、以下の(ア)から(ウ)のステップを設けた、超硬質複合材料の製造方法が与えられる。
(ア)ダイヤモンド粒子及び硬質合金マトリクス材料の混合物を、前記ダイヤモンド粒子が前記硬質合金マトリクス材料全体に均等に分散するようにしてプレス型に充填する。
(イ)前記混合物を、0〜200MPaの圧力を印加しながら、それと同時に電流を前記混合物に流すことによって、900〜1200℃から開始して100〜10000℃/分の加熱レートで加熱する。
(ウ)前記混合物を、0〜200MPaの圧力下で、1900℃を超えない焼結温度に30秒未満保持する。
【0013】
前記プレス型は前記プレス型の周囲の熱源によって加熱してよい。
【発明の効果】
【0014】
上記した本発明によれば、十分に高密度でありまた一様な構造を有する新規な超硬質複合材料が得られる。更に、この超硬質複合材料は、非常に短時間でまた超高圧容器を使用せずに製造可能とする新規な方法によって得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例による焼結プロセスの電圧/温度/変位プロファイル。
【図2】本発明の実施例による焼結複合体の破断面の低倍率(a)及び高倍率(b)で得られたSEM像。
【図3】SiCボールを3×10回回転させた後の本発明の複合体の実施例による焼結体表面の低倍率SEM像。
【図4】SiCボールを3×10回回転させた後の本発明の複合体の実施例による焼結体表面の高倍率SEM像。
【図5】SiCボールを3×10回回転させた後のWCバインダなし表面の光学像。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明によれば、高密度で耐研磨性の成形体材料を作製する方法は以下のステップを含む。
(a)結合材粉体とダイヤモンド粒子との導電性混合物を提供する。
(b)この導電性混合物を圧縮する。
(c)この圧縮された導電性混合物に放電焼結を施して、成形体を形成する。
【0017】
この複合体はWC、TiC、TiN及びTi(C,N)のうちから少なくとも一種類の硬質相とダイヤモンド粒子とを含む。この複合体はまた鉄族の金属のバインダ相を含んでも良い。換言すれば、本発明の複合材は焼結体であって、バインダ入りまたはバインダ無しのタングステンカーバイドマトリクス中にダイヤモンド粒子を保持し、この焼結体は直接抵抗加熱加圧焼結(direct resistance heating and pressurized sintering)によって得られる。バインダ相は、好ましくはCo、Ni、CrまたはFeのような鉄族の金属から作られる。
【0018】
直接抵抗加熱加圧焼結は10分以内の短時間で完了させることができる。それは、抵抗加熱により、焼結される材料を急速に加熱し、加圧し、そして冷却できるからである。従って、焼結される材料を高温に晒す時間を低減でき、その結果、ダイヤモンドからグラファイトへの転換を起こすことなく焼結を終了することができる。
【0019】
上述した条件に加えて、本発明の複合部材は、好ましくは、以下の追加の条件を互いに独立してあるいは組み合わせた形で満たす。
(1)抵抗加熱加圧焼結は、液相が現れても現れなくても良い、ダイヤモンドが熱力学的に準安定な条件下で行われる。
(2)バインダ相はCoを含み、このCoの主結晶系はfccである。
(3)超硬合金を含むマトリクスの場合、焼結の間に液相が現れても現れなくても良い。本発明による直接抵抗加熱加圧焼結により急速な昇温と短時間の焼結が可能となり、これによりダイヤモンドがグラファイトへ転換するのを抑制しつつ、卓越した複合部材を製造することができる。
(4)ダイヤモンド粒子の各々は外側のコーティングを持たない。
(5)WCの平均粒子サイズは0.05〜100μmである。
(6)ダイヤモンド粒子の平均粒子サイズは10〜1000μmである。
(7)ダイヤモンド粒子の含有量は5〜50体積%である。
(8)バインダ相含有量は0〜50体積%である。
(9)ダイヤモンド粒子の少なくとも一部が立方晶窒化ホウ素あるいはウルツァイト窒化ホウ素で置換される。
(10)WC粉末の少なくとも一部がTiC、TiN、及びTi(C,N)のうちの一つで置換される。
【実施例】
【0020】
粒子サイズが0.1μm未満の市販のWCを粒子サイズが約60μmのダイヤモンド粒子と混合した。22体積%のダイヤモンドとWC粉末の混合物を水平ミル中で24時間乾式混合した。この粉末混合物を円筒状で中空のグラファイト製の型に満たした。実験は電流制御モード(CCm)で動作させた100kN SPS−1050装置(SPSシンテックス株式会社)で行われた。型表面温度が1575℃のときに電流を停止した。焼結プロセスは2ステップで行った。最初のステップでは1000Aの電流を印加し、次いで、温度が900℃に到達したとき電流を急に4000Aに上昇させ、30秒間一定に維持した。120MPaの一定の圧力を焼結プロセスの全期間印加した。焼結条件を図1に示す。
【0021】
焼結体の相対密度は94%に達した。X線回折(XRD)及びマイクロラマン分光計によって解析した研磨された表面はグラファイトの徴候を全く示さなかった。図2は焼結複合体破断面の小倍率(a)及び大倍率(b)でのSEM像を示す。ダイヤモンド粒子はマトリクスに強く結合されている。なぜなら、どのダイヤモンド粒子もマトリクスから剥れていないが粒子は全て破断面上で結晶を横切るようにして切り裂かれているからである。
【0022】
上述したように製造された超硬質複合材料(以下、WCダイヤモンド材料と称する)の耐摩耗性を調べるため、上述の材料、更には比較の目的で従来技術によるWCバインダ無し材料についても耐摩耗性試験を行った。
【0023】
具体的には、乾燥条件下でのこれらのサンプルの摩擦学的挙動を、JIS R 1613磨耗試験規格に従って、CSM Instrument SA(スイス)製のボール・オン・ディスク構成摩擦計(ball on disc configuration tribometer)を使用して評価した。本試験は6mmSiCボールを磨き上げたサンプルに対して10Nの負荷をかけながら0.10m/sの一定の線速度で摺動させることにより行った。試験痕の半径は3mmであり、本試験は30000回転(565m)行った。全ての試験は25℃、ほぼ22%の相対湿度の下で行った。ボール・オン・ディスク実験の後、バルクサンプルの摺動磨耗率を磨耗トラック領域の計測結果から計算した。
【0024】
図3は30000回転後のWCダイヤモンド材料表面のSEM像を示し、図4は図3中の白い長方形で示される領域の拡大像である。図4の拡大像においてさえも、ごくわずかの擦り傷しか観察されない。これはWCダイヤモンドと同じ条件の試験の後のWCダイヤモンド材料表面の、SiCボールの多数のくっきりしたトラックが刻まれている光学像とは対照的である。上述の磨耗試験の数値上の結果を以下の表1から表3に示す。
【0025】
表1
比磨耗量(m(N m)−1
WCバインダ無し材料 7.470×10−17
WCダイヤモンド材料 測定不能(小さすぎて測定できず)
【0026】
表2
比磨耗量 SiCボール(m(N m)−1)側
WCバインダ無し材料 1.16×10−15
WCダイヤモンド材料 43.73×10−15
【0027】
表3
摩擦係数
WCバインダ無し材料 0.328±0.022
WCダイヤモンド材料 0.117±0.019
【産業上の利用可能性】
【0028】
非常に硬度及び耐磨耗性が高いことにより、製造に当たっての要件が比較的緩やかであることとあいまって、本発明の超硬質材料が既存の材料の代替として切削工具及び類似の用途に使用できることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】米国特許第1904049号
【特許文献2】米国特許第1996598号
【特許文献3】米国特許第2074038号
【特許文献4】米国特許第2712988号
【特許文献5】米国特許第4097274号
【特許文献6】米国特許第4370149号
【特許文献7】米国特許第4505746号
【特許文献8】米国特許第5045092号
【特許文献9】米国特許第5096465号
【特許文献10】米国特許第5585175号
【特許文献11】米国特許第5889219号
【特許文献12】米国公開特許第2008/0168718号
【非特許文献】
【0030】
【非特許文献1】Moriguchi et al., "Sintering behavior and properties of diamond/cemented carbides", Int, Journal of Refractory Metals & Hard Materials, 25 237-243 (2007).
【非特許文献2】Michalski et al., "Sintering Diamond/Cemented Carbides by the Pulse Plasma Sintering Method", J. Am. Ceram. Soc., 91 3560-3565 (2008).
【非特許文献3】Shi et al., "The effect of tungsten buffer layer on the stability of diamond with tungsten carbide-cobalt nanocomposite powder during spark plasma sintering", Diamond & Related Materials, 15 1643-1649 (2006).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(ア)及び(イ)を含み、(ウ)から(オ)の条件を満たす超硬質材料。
(ア)WC、TiC、TiN、SiC及びTi(C,N)からなる群から選択された少なくとも一つの要素を含む材料からなる硬質相。
(イ)前記硬質相を含む構造中に分散された複数のダイヤモンド粒子。
(ウ)前記硬質相及び前記ダイヤモンド粒子は、ダイヤモンドが熱力学的に準安定でありダイヤモンドが全くまたはごくわずかしか黒鉛化を被らない条件下で直接抵抗加熱及び加圧焼結によって焼結される。
(エ)ダイヤモンドはマトリクスと強固な結合をなす。
(オ)前記複合材料は85%よりも大きな相対密度を有する。
【請求項2】
主に主結晶系としてfcc構造を有するCo等の鉄族の金属からなる0重量%〜10重量%の金属バインダ相を含み、前記金属バインダ相は前記硬質相及び前記ダイヤモンド粒子とともに焼結され、
前記構造は更に前記金属バインダ相を含む、
請求項1に記載の超硬質複合材料。
【請求項3】
前記ダイヤモンド粒子は10μm〜1000μmの範囲の平均粒子サイズを有し、前記ダイヤモンド粒子の含有量は5体積%〜50体積%である、請求項1に記載の超硬質複合材料。
【請求項4】
立方晶窒化ホウ素とウルツァイト窒化ホウ素の少なくとも一方を更に含む、請求項1に記載の超硬質複合材料。
【請求項5】
以下の(ア)から(ウ)のステップを設けた、超硬質複合材料の製造方法。
(ア)ダイヤモンド粒子及び硬質合金マトリクス材料の混合物を、前記ダイヤモンド粒子が前記硬質合金マトリクス材料全体に均等に分散するようにしてプレス型に充填する。
(イ)前記混合物を、0〜200MPaの圧力を印加しながら同時に電流を前記混合物に流すことによって、900〜1200℃から開始して100〜10000℃/分の加熱レートで加熱する。
(ウ)前記混合物を、0〜200MPaの圧力下で、1900℃を超えない焼結温度に30秒未満保持する。
【請求項6】
前記プレス型は前記プレス型の周囲の熱源によって加熱される、請求項5に記載の超硬質複合材料の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−241464(P2011−241464A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116823(P2010−116823)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】