超音波モータ
【課題】この発明は、振動振幅の増加を図り得るようにして、製作・加工の簡略化と共に、省電力化の促進を図ったうえで、モータ特性の向上を実現した超音波モータを提供することにある。
【解決手段】、縦一次振動及び屈曲二次振動が同時に励起されると、楕円振動を発生する圧電素子10の屈曲二次振動による歪み量が最大となる腹を含む近傍に、剛性低減部である移動方向と直交する複数の溝を所定の間隔に並設した溝部11を設けて構成した。
【解決手段】、縦一次振動及び屈曲二次振動が同時に励起されると、楕円振動を発生する圧電素子10の屈曲二次振動による歪み量が最大となる腹を含む近傍に、剛性低減部である移動方向と直交する複数の溝を所定の間隔に並設した溝部11を設けて構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばデジタルカメラの手振れ補正ユニットやAFレンズ等のアクチュエータとして用いられている超音波モータに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種の超音波モータは、圧電素子に電圧を印加して縦振動と屈曲振動を励起させて楕円振動を発生させ、この楕円振動を、駆動子を介して被駆動体に伝達し、該被駆動体を摩擦駆動するように構成されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このような超音波モータに用いる圧電素子は、例えば板状の電極体を、セラミックで板状に形成して、この電極体が、多層に積層されて矩形状(四角柱形状)をした多層構造に形成される。そして、この矩形状をした圧電素子には、駆動子や押圧部材等の振動部品が組付けられてモータ構造に製作されている。
【特許文献1】特開2005−218243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示される超音波モータでは、モータ特性を向上させる場合、モータ駆動電力を増やしたり、被駆動体の表面加工精度を高めたりして、振動振幅を増加させなければならないという問題を有する。
【0005】
この発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、簡易な構成で、振動振幅の増加を図り得るようにして、製作・加工の簡略化と共に、省電力化の促進を図ったうえで、モータ特性の向上を実現した超音波モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、縦振動及び屈曲振動を同時に励起して楕円振動を発生させ、前記楕円振動により駆動力を得て被駆動体を駆動する超音波モータであって、圧電素子と、前記圧電素子に設けられ、前記駆動力を前記被駆動体に伝達する駆動子と、前記圧電素子を位置決め保持して、前記駆動子を前記被駆動体に摩擦駆動可能に押圧する押圧手段と、前記圧電素子の歪み量が最大となる位置に対応して設けられた変形量を増加させる剛性低減部とを備えて構成した。
【0007】
上記構成によれば、圧電素子は、縦一次振動及び屈曲二次振動を同時に励起されると、その歪み量が、剛性低減部で増加されることにより、発生する楕円振動の振動振幅が増加されて、その増加分だけ移動方向に対して垂直な方向の浮力が増加される。これにより、駆動電力の低電圧化が図れて省電力化の促進が図れ、しかも、被駆動体の表面粗さの許容量の範囲を広くとることが可能となり、その製作・加工の簡易化を図ることができて、容易にモータ特性の向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
以上述べたように、この発明によれば、簡易な構成で、振動振幅の増加を図り得るようにして、製作・加工の簡略化と共に、省電力化の促進を図ったうえで、モータ特性の向上を実現した超音波モータを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
図1は、この発明の一実施の形態に係る超音波モータを示すもので、圧電素子10は、例えばセラミック製の複数の電極板が積層されて矩形状(四角柱形状)に形成され、各電極板に電圧が印加されると、縦一次振動及び屈曲二次振動が同時に励起されて楕円振動を発生させる。
【0011】
この圧電素子10には、その屈曲二次振動の歪み量が最大となる、上下面の屈曲二次振動の腹を含む近傍の複数箇所、例えば4箇所に剛性低減部を構成する溝部11がそれぞれ設けられる。この4箇所の溝部11には、例えば移動方向と直交する複数の溝が所定間隔に並設されている(図2参照)。即ち、この溝部11は、圧電素子10の下面における2箇所の屈曲二次振動の腹及び上面における2箇所の屈曲二次振動の腹を含む近傍の計4箇所に設けられ、圧電素子10の他の部位より剛性を低減させる。
【0012】
そして、圧電素子10の下面側には、その屈曲二次振動の腹に対応する2箇所の溝部11上に、駆動子12が接着剤を用いて所定の間隔に固着され、この駆動子12は、被駆動体13に接触される。この被駆動体13は、ボール等の転動部材14を介して筐体15に矢印方向に移動自在に設けられる。
【0013】
また、上記圧電素子10には、その縦振動の節に対応する上面側に押圧手段を構成する押圧部材16が設けられている。この押圧部材16には、その両端部に係合突部161が設けられ、この係合突部161が上記筐体15に位置決め保持される(図1では、図の都合上、図示せず)。この押圧部材16には、図示しない押圧機構が係合され、その係合突部161が上記筐体15に位置決め保持された状態で、上記押圧機構(図示せず)を介して押圧されて上記駆動子12が被駆動体13に押圧される。
【0014】
さらに、上記圧電素子10の上面側には、外部電極17が上記押圧部材16を挟んで例えば導電性接着材を用いて固着され、この外部電極17を介して図示しない駆動回路と配線接続されている。そして、圧電素子10は、上記駆動回路(図示せず)を介して電圧が外部電極17に印加されると、これに応動して縦一次振動及び屈曲二次振動が励起されて、楕円振動を発生させ、駆動力を得て駆動子12を介して被駆動体13に伝達する。
【0015】
上記構成により、圧電素子10は、上記駆動回路(図示せず)を介して外部電極17に電圧が印加されると、縦振動及び屈曲振動を同時に励起して楕円振動を発生させ、この楕円振動により駆動子12が駆動力を得て、その駆動力を被駆動体13に伝達し、該被駆動体13が、上記筐体15に対して矢印方向に摩擦駆動される。
【0016】
この際、この圧電素子10は、図3に示すように屈曲二次振動が励起されると、その4箇所の溝部11の部位が、図3に示すようにその他の部位に比して剛性が低減されることで、歪みが最大となる位置が、さらに大きく変位され、その歪み量が増加される。ここで、圧電素子10は、歪み量が増加された屈曲二次振動と縦一次振動とに基づいて振動振幅が増加された楕円振動を発生して、この発生した楕円振動が、駆動子12に伝達される。この駆動子12は、楕円振動により駆動力を得て被駆動体13を、転動部材14を介して筐体15に対して矢印方向に移動制御させる。
【0017】
この楕円振動の振動振幅が増加されることにより、駆動子12を含む圧電素子10は、移動方向に垂直な方向のいわゆる浮力が増加され、その駆動電圧を維持した状態で、安定した駆動に供する加工表面粗さの許容値の低減が可能となる。つまり、一定の入力値で接触面の摩擦係数が大きく(接触面の凹凸が大きく)、駆動が困難な場合にも、屈曲二次振動の振幅が大きくなることで、駆動が可能となる。この結果、製作・加工の簡易化を図ることができる。
【0018】
また、加工表面粗さを低減できることにより、モータ構造の静止摩擦力を大きく採ることが可能となることで、振動・衝撃等の外力に対する被駆動体の高精度な位置制御が可能となる。
【0019】
他方、楕円振動の振動振幅が増加されることにより、駆動電圧の低電圧化を図ることが可能となり、省電力化の促進も図ることが可能となる。
【0020】
このように、上記超音波モータは、縦一次振動及び屈曲二次振動が同時に励起されると、楕円振動を発生する圧電素子10の屈曲二次振動による歪み量が最大となる腹を含む近傍に、剛性低減部である移動方向と直交する複数の溝を所定の間隔に並設した溝部11を設けて構成した。
【0021】
これによれば、圧電素子10は、縦一次振動及び屈曲二次振動が同時に励起されると、その屈曲二次振動により溝部が大きく変位して歪み量が増加され、発生される楕円振動の振動振幅が増加されることにより、この振動振幅の増加分だけ移動方向に対して垂直な方向の浮力の増加が図れる。
【0022】
この結果、駆動電力の低電圧化が図れて省電力化の促進が図れ、且つ、被駆動体13の表面粗さの許容量の範囲を広くとることが可能となり、その製作・加工の簡易化を図ることができて、モータ特性の向上を図ることが可能となる。
【0023】
また、この発明は、上記実施の形態に限ることなく、その他、例えば図4、図5及び図6、図7及び図8、図9及び図10、図11、図12、図13、図14に示すように構成してもよく、同様に有効な効果を期待することができる。但し、この図4乃至図14の説明においては、上記図1乃至図3に示す実施の形態と同一部分について同一符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0024】
図4に示す実施の形態では、剛性低減部として、上記実施の形態で説明した溝部11に代えて上記圧電素子10の上下面における屈曲二次振動の腹を含む近傍の4箇所に凹状の凹部21を、移動方向と直交する方向に形成して構成したものである。
【0025】
図5及び図6に示す実施の形態では、圧電素子10の上下面における屈曲二次振動の腹を含む近傍に、剛性低減部として移動方向と直交する方向に複数の溝を並設した溝部11aを設ける。そして、この圧電素子10の下面の溝部11a上には、同様に剛性低減部を構成する移動方向と直交する方向に複数の溝を並設した溝部11bを設けた駆動子12が接着剤を用いて固着される(図5参照)。
【0026】
上記構成によれば、圧電素子の駆動時における屈曲二次振動が励起されると、圧電素子10の溝部11aと駆動子12の溝部11bとの相乗作用により(図6参照)、圧電素子10の屈曲二次振動の腹における歪み量が、さらに増加され、楕円振動の振動振幅の増加を図ることが可能となる。この結果、さらに有効な効果が期待される。
【0027】
図7及び図8に示す実施の形態では、圧電素子10の下面の屈曲二次振動の腹を含む近傍に駆動子12aを一体的に形成し、この圧電素子10の上面及び下面における駆動子12aを含む屈曲二次振動の腹に対応して、剛性低減部として移動方向と直交する方向に複数の溝を並設した溝部11cを設けるように構成したものである。
【0028】
この実施の形態においては、圧電素子10の駆動時における屈曲二次振動が励起されると、圧電素子10の上面の2箇所の溝部11cと、下面の駆動子12aから下面に至って設けた2箇所の溝部11cの作用により(図8参照)、圧電素子10の屈曲二次振動の腹における歪み量が増加され、楕円振動の振動振幅の増加を図ることが可能となる。これにより、さらに有効な効果が期待される。
【0029】
また、上記各実施の形態では、圧電素子10の屈曲二次振動の腹に対応して剛性低減部を設けるように構成した場合について説明したが、これに限ることなく、その他、図9乃至図12に示すように構成しても同様の効果が期待される。但し、この図9乃至図12の説明においては、上記図1乃至図3に示す実施の形態と同一部分について同一符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0030】
図9に示す実施の形態では、剛性低減部として、圧電素子の上下面における縦一次振動における最も歪み量の大きい位置である節を含む近傍の2箇所に移動方向と直交する方向に複数の溝を所定間隔に並設した溝部11dを形成して構成したものである。
【0031】
この実施の形態では、圧電素子10の縦一次振動が励起されると、その溝部11dが、圧電素子10の他の部位に比して剛性が低減されることで、該溝部11dの作用により歪みが最大となる位置が、さらに大きく変位され、その歪み量が増加される。ここで、圧電素子10は、歪み量が増加された縦一次振動と、屈曲二次振動とが合成されて、振動振幅が増加された楕円振動が発生され、この発生した楕円振動が、駆動子12(図中では、図示せず)に伝達されて上記被駆動体13を矢印方向に駆動させる。
【0032】
図10に示す実施の形態では、上記図9の実施の形態で説明した溝部11dに代えて上記圧電素子10の上下面における縦一次振動の節を含む近傍の2箇所に凹状の凹部21aを、移動方向と直交する方向に形成するように構成したもので、同様に有効な効果が期待される。
【0033】
図11に示す実施の形態では、剛性低減部として、圧電素子10の上下面における縦一次振動の節を含む近傍及び屈曲二次振動の腹を含む近傍に移動方向と直交する方向に複数の溝を所定間隔に並設した溝部11eをそれぞれ形成して構成したものである。
【0034】
この実施の形態では、圧電素子10に縦一次振動及び屈曲二次振動が励起されると、その各溝部11eが、圧電素子10の他の部位に比して剛性が低減されることで、該各溝部11eの作用により歪みが最大となる位置が、さらに大きく変位され、その歪み量が増加される。ここで、圧電素子10は、歪み量が増加された縦一次振動と、歪み量が増加された屈曲二次振動とに基づいて、振動振幅が増加された楕円振動を発生して、この発生した楕円振動が、駆動子12に伝達されて被駆動体13を矢印方向に駆動させる。
【0035】
なお、この実施の形態においては、上記図5及び図6と同様に駆動子12に溝部11eを形成するように構成したり、あるいは上記図7及び図8の実施の形態と同様に駆動子12aを圧電素子10と一体的に形成し、この駆動子12aから圧電素子10の下面に至って溝部11eを形成するように構成することも可能である。
【0036】
図12に示す実施の形態では、上記図11の実施の形態で説明した溝部11eに代えて圧電素子10の上下面における縦一次振動の節及び屈曲二次振動の腹の近傍に凹状の凹部21bを、移動方向と直交する方向に形成するように構成したもので、同様の効果が期待される。
【0037】
なお、上記図4、図10、図12の実施の形態においては、剛性低減部を構成する凹部21,21a,21bに対して圧電素子自体の剛性より低い剛性を有する樹脂等の変形し易い材料を充填するように構成してもよい。この場合には、駆動子12や押圧部材26の圧電素子10への取付け配置の容易化が図れると共に、凹部の破損防止を図ることが可能となる。
【0038】
よって、この発明は、上記実施の形態に限ることなく、その他、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得ることが可能である。さらに、上記実施の形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合せにより種々の発明が抽出され得る。
【0039】
例えば実施の形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】この発明の一実施の形態に係る超音波モータの概略構成を説明するために示した斜視図である。
【図2】図1の圧電素子を取出して正面から見た状態を示した平面図である。
【図3】図1の圧電素子の屈曲二次振動の励振状態を正面から見た状態を示した平面図である。
【図4】この発明の他の実施の形態に係る超音波モータの要部を取出して示した平面図である。
【図5】この発明の他の実施の形態に係る超音波モータの要部を取出して示した平面図で、(a)は、全体構成を示し、(b)は、(a)のA部を拡大して示したものである。
【図6】図5の圧電素子の屈曲二次振動が励振された状態における駆動子の状態を示した平面図である。
【図7】この発明の他の実施の形態に係る超音波モータの要部を取出して示した平面図で、(a)は、全体構成を示し、(b)は、(a)のB部を拡大して示したものである。
【図8】図7の圧電素子の屈曲二次振動が励起された状態を示した平面図で、(a)は、全体構成を示し、(b)は、(a)のC部を拡大して示し、(c)は、(a)のD部を拡大して示したものである。
【図9】この発明の他の実施の形態に係る超音波モータの要部構成を説明するために示した平面図である。
【図10】この発明の他の実施の形態に係る超音波モータの要部構成を説明するために示した平面図である。
【図11】この発明の他の実施の形態に係る超音波モータの要部構成を説明するために示した平面図である。
【図12】この発明の他の実施の形態に係る超音波モータの要部構成を説明するために示した平面図である。
【符号の説明】
【0041】
10…圧電素子、11,11a,11b,11c,11d,11e…溝部、12,12a…駆動子、13…被駆動体、14…転動部材、15…筐体、16…押圧部材、161…係合突部、17…外部電極、21,21a,21b…凹部。
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばデジタルカメラの手振れ補正ユニットやAFレンズ等のアクチュエータとして用いられている超音波モータに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種の超音波モータは、圧電素子に電圧を印加して縦振動と屈曲振動を励起させて楕円振動を発生させ、この楕円振動を、駆動子を介して被駆動体に伝達し、該被駆動体を摩擦駆動するように構成されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このような超音波モータに用いる圧電素子は、例えば板状の電極体を、セラミックで板状に形成して、この電極体が、多層に積層されて矩形状(四角柱形状)をした多層構造に形成される。そして、この矩形状をした圧電素子には、駆動子や押圧部材等の振動部品が組付けられてモータ構造に製作されている。
【特許文献1】特開2005−218243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示される超音波モータでは、モータ特性を向上させる場合、モータ駆動電力を増やしたり、被駆動体の表面加工精度を高めたりして、振動振幅を増加させなければならないという問題を有する。
【0005】
この発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、簡易な構成で、振動振幅の増加を図り得るようにして、製作・加工の簡略化と共に、省電力化の促進を図ったうえで、モータ特性の向上を実現した超音波モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、縦振動及び屈曲振動を同時に励起して楕円振動を発生させ、前記楕円振動により駆動力を得て被駆動体を駆動する超音波モータであって、圧電素子と、前記圧電素子に設けられ、前記駆動力を前記被駆動体に伝達する駆動子と、前記圧電素子を位置決め保持して、前記駆動子を前記被駆動体に摩擦駆動可能に押圧する押圧手段と、前記圧電素子の歪み量が最大となる位置に対応して設けられた変形量を増加させる剛性低減部とを備えて構成した。
【0007】
上記構成によれば、圧電素子は、縦一次振動及び屈曲二次振動を同時に励起されると、その歪み量が、剛性低減部で増加されることにより、発生する楕円振動の振動振幅が増加されて、その増加分だけ移動方向に対して垂直な方向の浮力が増加される。これにより、駆動電力の低電圧化が図れて省電力化の促進が図れ、しかも、被駆動体の表面粗さの許容量の範囲を広くとることが可能となり、その製作・加工の簡易化を図ることができて、容易にモータ特性の向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
以上述べたように、この発明によれば、簡易な構成で、振動振幅の増加を図り得るようにして、製作・加工の簡略化と共に、省電力化の促進を図ったうえで、モータ特性の向上を実現した超音波モータを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
図1は、この発明の一実施の形態に係る超音波モータを示すもので、圧電素子10は、例えばセラミック製の複数の電極板が積層されて矩形状(四角柱形状)に形成され、各電極板に電圧が印加されると、縦一次振動及び屈曲二次振動が同時に励起されて楕円振動を発生させる。
【0011】
この圧電素子10には、その屈曲二次振動の歪み量が最大となる、上下面の屈曲二次振動の腹を含む近傍の複数箇所、例えば4箇所に剛性低減部を構成する溝部11がそれぞれ設けられる。この4箇所の溝部11には、例えば移動方向と直交する複数の溝が所定間隔に並設されている(図2参照)。即ち、この溝部11は、圧電素子10の下面における2箇所の屈曲二次振動の腹及び上面における2箇所の屈曲二次振動の腹を含む近傍の計4箇所に設けられ、圧電素子10の他の部位より剛性を低減させる。
【0012】
そして、圧電素子10の下面側には、その屈曲二次振動の腹に対応する2箇所の溝部11上に、駆動子12が接着剤を用いて所定の間隔に固着され、この駆動子12は、被駆動体13に接触される。この被駆動体13は、ボール等の転動部材14を介して筐体15に矢印方向に移動自在に設けられる。
【0013】
また、上記圧電素子10には、その縦振動の節に対応する上面側に押圧手段を構成する押圧部材16が設けられている。この押圧部材16には、その両端部に係合突部161が設けられ、この係合突部161が上記筐体15に位置決め保持される(図1では、図の都合上、図示せず)。この押圧部材16には、図示しない押圧機構が係合され、その係合突部161が上記筐体15に位置決め保持された状態で、上記押圧機構(図示せず)を介して押圧されて上記駆動子12が被駆動体13に押圧される。
【0014】
さらに、上記圧電素子10の上面側には、外部電極17が上記押圧部材16を挟んで例えば導電性接着材を用いて固着され、この外部電極17を介して図示しない駆動回路と配線接続されている。そして、圧電素子10は、上記駆動回路(図示せず)を介して電圧が外部電極17に印加されると、これに応動して縦一次振動及び屈曲二次振動が励起されて、楕円振動を発生させ、駆動力を得て駆動子12を介して被駆動体13に伝達する。
【0015】
上記構成により、圧電素子10は、上記駆動回路(図示せず)を介して外部電極17に電圧が印加されると、縦振動及び屈曲振動を同時に励起して楕円振動を発生させ、この楕円振動により駆動子12が駆動力を得て、その駆動力を被駆動体13に伝達し、該被駆動体13が、上記筐体15に対して矢印方向に摩擦駆動される。
【0016】
この際、この圧電素子10は、図3に示すように屈曲二次振動が励起されると、その4箇所の溝部11の部位が、図3に示すようにその他の部位に比して剛性が低減されることで、歪みが最大となる位置が、さらに大きく変位され、その歪み量が増加される。ここで、圧電素子10は、歪み量が増加された屈曲二次振動と縦一次振動とに基づいて振動振幅が増加された楕円振動を発生して、この発生した楕円振動が、駆動子12に伝達される。この駆動子12は、楕円振動により駆動力を得て被駆動体13を、転動部材14を介して筐体15に対して矢印方向に移動制御させる。
【0017】
この楕円振動の振動振幅が増加されることにより、駆動子12を含む圧電素子10は、移動方向に垂直な方向のいわゆる浮力が増加され、その駆動電圧を維持した状態で、安定した駆動に供する加工表面粗さの許容値の低減が可能となる。つまり、一定の入力値で接触面の摩擦係数が大きく(接触面の凹凸が大きく)、駆動が困難な場合にも、屈曲二次振動の振幅が大きくなることで、駆動が可能となる。この結果、製作・加工の簡易化を図ることができる。
【0018】
また、加工表面粗さを低減できることにより、モータ構造の静止摩擦力を大きく採ることが可能となることで、振動・衝撃等の外力に対する被駆動体の高精度な位置制御が可能となる。
【0019】
他方、楕円振動の振動振幅が増加されることにより、駆動電圧の低電圧化を図ることが可能となり、省電力化の促進も図ることが可能となる。
【0020】
このように、上記超音波モータは、縦一次振動及び屈曲二次振動が同時に励起されると、楕円振動を発生する圧電素子10の屈曲二次振動による歪み量が最大となる腹を含む近傍に、剛性低減部である移動方向と直交する複数の溝を所定の間隔に並設した溝部11を設けて構成した。
【0021】
これによれば、圧電素子10は、縦一次振動及び屈曲二次振動が同時に励起されると、その屈曲二次振動により溝部が大きく変位して歪み量が増加され、発生される楕円振動の振動振幅が増加されることにより、この振動振幅の増加分だけ移動方向に対して垂直な方向の浮力の増加が図れる。
【0022】
この結果、駆動電力の低電圧化が図れて省電力化の促進が図れ、且つ、被駆動体13の表面粗さの許容量の範囲を広くとることが可能となり、その製作・加工の簡易化を図ることができて、モータ特性の向上を図ることが可能となる。
【0023】
また、この発明は、上記実施の形態に限ることなく、その他、例えば図4、図5及び図6、図7及び図8、図9及び図10、図11、図12、図13、図14に示すように構成してもよく、同様に有効な効果を期待することができる。但し、この図4乃至図14の説明においては、上記図1乃至図3に示す実施の形態と同一部分について同一符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0024】
図4に示す実施の形態では、剛性低減部として、上記実施の形態で説明した溝部11に代えて上記圧電素子10の上下面における屈曲二次振動の腹を含む近傍の4箇所に凹状の凹部21を、移動方向と直交する方向に形成して構成したものである。
【0025】
図5及び図6に示す実施の形態では、圧電素子10の上下面における屈曲二次振動の腹を含む近傍に、剛性低減部として移動方向と直交する方向に複数の溝を並設した溝部11aを設ける。そして、この圧電素子10の下面の溝部11a上には、同様に剛性低減部を構成する移動方向と直交する方向に複数の溝を並設した溝部11bを設けた駆動子12が接着剤を用いて固着される(図5参照)。
【0026】
上記構成によれば、圧電素子の駆動時における屈曲二次振動が励起されると、圧電素子10の溝部11aと駆動子12の溝部11bとの相乗作用により(図6参照)、圧電素子10の屈曲二次振動の腹における歪み量が、さらに増加され、楕円振動の振動振幅の増加を図ることが可能となる。この結果、さらに有効な効果が期待される。
【0027】
図7及び図8に示す実施の形態では、圧電素子10の下面の屈曲二次振動の腹を含む近傍に駆動子12aを一体的に形成し、この圧電素子10の上面及び下面における駆動子12aを含む屈曲二次振動の腹に対応して、剛性低減部として移動方向と直交する方向に複数の溝を並設した溝部11cを設けるように構成したものである。
【0028】
この実施の形態においては、圧電素子10の駆動時における屈曲二次振動が励起されると、圧電素子10の上面の2箇所の溝部11cと、下面の駆動子12aから下面に至って設けた2箇所の溝部11cの作用により(図8参照)、圧電素子10の屈曲二次振動の腹における歪み量が増加され、楕円振動の振動振幅の増加を図ることが可能となる。これにより、さらに有効な効果が期待される。
【0029】
また、上記各実施の形態では、圧電素子10の屈曲二次振動の腹に対応して剛性低減部を設けるように構成した場合について説明したが、これに限ることなく、その他、図9乃至図12に示すように構成しても同様の効果が期待される。但し、この図9乃至図12の説明においては、上記図1乃至図3に示す実施の形態と同一部分について同一符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0030】
図9に示す実施の形態では、剛性低減部として、圧電素子の上下面における縦一次振動における最も歪み量の大きい位置である節を含む近傍の2箇所に移動方向と直交する方向に複数の溝を所定間隔に並設した溝部11dを形成して構成したものである。
【0031】
この実施の形態では、圧電素子10の縦一次振動が励起されると、その溝部11dが、圧電素子10の他の部位に比して剛性が低減されることで、該溝部11dの作用により歪みが最大となる位置が、さらに大きく変位され、その歪み量が増加される。ここで、圧電素子10は、歪み量が増加された縦一次振動と、屈曲二次振動とが合成されて、振動振幅が増加された楕円振動が発生され、この発生した楕円振動が、駆動子12(図中では、図示せず)に伝達されて上記被駆動体13を矢印方向に駆動させる。
【0032】
図10に示す実施の形態では、上記図9の実施の形態で説明した溝部11dに代えて上記圧電素子10の上下面における縦一次振動の節を含む近傍の2箇所に凹状の凹部21aを、移動方向と直交する方向に形成するように構成したもので、同様に有効な効果が期待される。
【0033】
図11に示す実施の形態では、剛性低減部として、圧電素子10の上下面における縦一次振動の節を含む近傍及び屈曲二次振動の腹を含む近傍に移動方向と直交する方向に複数の溝を所定間隔に並設した溝部11eをそれぞれ形成して構成したものである。
【0034】
この実施の形態では、圧電素子10に縦一次振動及び屈曲二次振動が励起されると、その各溝部11eが、圧電素子10の他の部位に比して剛性が低減されることで、該各溝部11eの作用により歪みが最大となる位置が、さらに大きく変位され、その歪み量が増加される。ここで、圧電素子10は、歪み量が増加された縦一次振動と、歪み量が増加された屈曲二次振動とに基づいて、振動振幅が増加された楕円振動を発生して、この発生した楕円振動が、駆動子12に伝達されて被駆動体13を矢印方向に駆動させる。
【0035】
なお、この実施の形態においては、上記図5及び図6と同様に駆動子12に溝部11eを形成するように構成したり、あるいは上記図7及び図8の実施の形態と同様に駆動子12aを圧電素子10と一体的に形成し、この駆動子12aから圧電素子10の下面に至って溝部11eを形成するように構成することも可能である。
【0036】
図12に示す実施の形態では、上記図11の実施の形態で説明した溝部11eに代えて圧電素子10の上下面における縦一次振動の節及び屈曲二次振動の腹の近傍に凹状の凹部21bを、移動方向と直交する方向に形成するように構成したもので、同様の効果が期待される。
【0037】
なお、上記図4、図10、図12の実施の形態においては、剛性低減部を構成する凹部21,21a,21bに対して圧電素子自体の剛性より低い剛性を有する樹脂等の変形し易い材料を充填するように構成してもよい。この場合には、駆動子12や押圧部材26の圧電素子10への取付け配置の容易化が図れると共に、凹部の破損防止を図ることが可能となる。
【0038】
よって、この発明は、上記実施の形態に限ることなく、その他、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得ることが可能である。さらに、上記実施の形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合せにより種々の発明が抽出され得る。
【0039】
例えば実施の形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】この発明の一実施の形態に係る超音波モータの概略構成を説明するために示した斜視図である。
【図2】図1の圧電素子を取出して正面から見た状態を示した平面図である。
【図3】図1の圧電素子の屈曲二次振動の励振状態を正面から見た状態を示した平面図である。
【図4】この発明の他の実施の形態に係る超音波モータの要部を取出して示した平面図である。
【図5】この発明の他の実施の形態に係る超音波モータの要部を取出して示した平面図で、(a)は、全体構成を示し、(b)は、(a)のA部を拡大して示したものである。
【図6】図5の圧電素子の屈曲二次振動が励振された状態における駆動子の状態を示した平面図である。
【図7】この発明の他の実施の形態に係る超音波モータの要部を取出して示した平面図で、(a)は、全体構成を示し、(b)は、(a)のB部を拡大して示したものである。
【図8】図7の圧電素子の屈曲二次振動が励起された状態を示した平面図で、(a)は、全体構成を示し、(b)は、(a)のC部を拡大して示し、(c)は、(a)のD部を拡大して示したものである。
【図9】この発明の他の実施の形態に係る超音波モータの要部構成を説明するために示した平面図である。
【図10】この発明の他の実施の形態に係る超音波モータの要部構成を説明するために示した平面図である。
【図11】この発明の他の実施の形態に係る超音波モータの要部構成を説明するために示した平面図である。
【図12】この発明の他の実施の形態に係る超音波モータの要部構成を説明するために示した平面図である。
【符号の説明】
【0041】
10…圧電素子、11,11a,11b,11c,11d,11e…溝部、12,12a…駆動子、13…被駆動体、14…転動部材、15…筐体、16…押圧部材、161…係合突部、17…外部電極、21,21a,21b…凹部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦振動及び屈曲振動を同時に励起して楕円振動を発生させ、前記楕円振動により駆動力を得て被駆動体を駆動する超音波モータであって、
圧電素子と、
前記圧電素子に設けられ、前記駆動力を前記被駆動体に伝達する駆動子と、
前記圧電素子を位置決め保持して、前記駆動子を前記被駆動体に摩擦駆動可能に押圧する押圧手段と、
前記圧電素子の歪み量が最大となる位置に対応して設けられた変形量を増加させる剛性低減部と、
を具備することを特徴とする超音波モータ。
【請求項2】
前記剛性低減部は、前記圧電素子もしくは前記駆動子の少なくとも一方に設けられることを特徴とする請求項1記載の超音波モータ。
【請求項3】
前記剛性低減部は、前記圧電素子の屈曲二次振動の腹もしくは縦一次振動の節の少なくとも一方に設けられることを特徴とする請求項1記載の超音波モータ。
【請求項4】
前記剛性低減部は、前記被駆動体の移動方向と直交する方向に複数の溝が並設された溝部で構成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の超音波モータ。
【請求項5】
前記前記剛性低減部は、前記被駆動体の移動方向と直交する方向に形成した凹部で構成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の超音波モータ。
【請求項6】
前記凹部には、圧電素子に比して剛性の低い材料が充填されることを特徴とする請求項5記載の超音波モータ。
【請求項1】
縦振動及び屈曲振動を同時に励起して楕円振動を発生させ、前記楕円振動により駆動力を得て被駆動体を駆動する超音波モータであって、
圧電素子と、
前記圧電素子に設けられ、前記駆動力を前記被駆動体に伝達する駆動子と、
前記圧電素子を位置決め保持して、前記駆動子を前記被駆動体に摩擦駆動可能に押圧する押圧手段と、
前記圧電素子の歪み量が最大となる位置に対応して設けられた変形量を増加させる剛性低減部と、
を具備することを特徴とする超音波モータ。
【請求項2】
前記剛性低減部は、前記圧電素子もしくは前記駆動子の少なくとも一方に設けられることを特徴とする請求項1記載の超音波モータ。
【請求項3】
前記剛性低減部は、前記圧電素子の屈曲二次振動の腹もしくは縦一次振動の節の少なくとも一方に設けられることを特徴とする請求項1記載の超音波モータ。
【請求項4】
前記剛性低減部は、前記被駆動体の移動方向と直交する方向に複数の溝が並設された溝部で構成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の超音波モータ。
【請求項5】
前記前記剛性低減部は、前記被駆動体の移動方向と直交する方向に形成した凹部で構成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の超音波モータ。
【請求項6】
前記凹部には、圧電素子に比して剛性の低い材料が充填されることを特徴とする請求項5記載の超音波モータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−213260(P2009−213260A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53694(P2008−53694)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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