車両の側部車体構造
【課題】重量増加やコストアップ等の弊害を未然に防止した上で、側突時に入力される荷重をセンタピラーや前後ドア等に分散して負担させ、もって十分な衝撃吸収作用を発揮して車体全体の被害を軽減できる車両の側部車体構造を提供する。
【解決手段】サイドシル1の上面1aに対してセンタピラー3の下部の前部フランジ6a及び後部フランジを車幅方向に延設されたスロット孔7を介してボルト8により締結し、側突時の荷重によりサイドシル1とセンタピラー3との間に滑りを生じさせながら、センタピラー3の下部を車内側に変位させて破断を防止する。
【解決手段】サイドシル1の上面1aに対してセンタピラー3の下部の前部フランジ6a及び後部フランジを車幅方向に延設されたスロット孔7を介してボルト8により締結し、側突時の荷重によりサイドシル1とセンタピラー3との間に滑りを生じさせながら、センタピラー3の下部を車内側に変位させて破断を防止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の側部車体構造に係り、詳しくは相手車両が側突したときの荷重をサイドシルやセンタピラーで効率的に吸収する側部車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように自動車の車体は衝突時の衝撃吸収性を考慮して種々の補強対策が実施されている(例えば、特許文献1参照)。当該特許文献1の技術は、車体フロアの剛性向上を目的として、トンネル部の下部を下部トンネルメンバにより閉じて閉断面化している。
一方、これとは別に自車両に相手車両が側突したときの衝撃吸収を目的とした対策も実施されている。側突時の荷重はサイドシルやセンタピラーに入力され、これらの部材が変形しながら荷重に抗することにより衝撃吸収作用を奏することから、一般的にサイドシルやセンタピラーを補強する対策が講じられている。
【特許文献1】特開2004−338581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、本発明者が衝突試験を実施した結果では、上記のように単にサイドシルやセンタピラーを補強するだけの場合、衝撃吸収作用の点で改善の余地があることを確認した。
即ち、相手車両(例えば、フロントバンパ等)が自車両のセンタピラーと重なる前後位置で側突したとき、相手車両は自車両の前後ドア等を変形させながら、これらの部材を介して車体構造材であるサイドシル及びセンタピラーに衝突することになる。このときの相手車両はサイドシルやセンタピラーに真っ向から衝突して各部材に均等に荷重を入力することなく、サイドシルを乗上げながら衝突することにより、本来サイドシルに入力されるべき荷重の一部が上側に逸らされてセンタピラーに入力される。
【0004】
このため、剛性面で余裕のあるサイドシルへの荷重は幾分軽減される反面、それほど剛性に余裕を有さないセンタピラーの荷重負担が予想外に増大してしまい、サイドシルの剛性を衝撃吸収に有効に活用できないと共に、センタピラーが早期に破断して衝撃吸収に十分に貢献しなくなる。結果として側突時の衝撃吸収の点で改善の余地があるが、例えばセンタピラーをさらに頑強に補強する対策では、重量増加やコストアップ等の別の問題が生じてしまうため、より抜本的な対策が望まれていた。
【0005】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、重量増加やコストアップ等の弊害を未然に防止した上で十分な衝撃吸収作用を発揮でき、もって車体全体の被害を軽減することができる車両の側部車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、車両前後方向に延設されたサイドシルの上面に対しセンタピラーの下部に形成した第1のフランジ部を重ね合わせ、サイドシルの上面または第1のフランジ部の何れか一方にスロット孔を貫設し、スロット孔を介してサイドシルの上面または第1のフランジ部の他方にボルトを螺合してサイドシル上にセンタピラーの下部を締結し、スロット孔を車幅方向に延設してスロット孔内でボルトの軸部を移動可能とし、センタピラーへの側方からの荷重により、ボルトによる締結力に抗してサイドシルの上面と第1のフランジ部との間で滑りを生じながら、センタピラーの下部を車内側に変位可能としたものである。
【0007】
従って、自車両への側突時において、相手車両は自車両の前後ドアを変形させながらセンタピラーの下部に衝突し、センタピラーは車内側に変形して衝撃吸収作用を奏する。センタピラーに作用する車内側への荷重がボルトの締結力を上回った時点で、サイドシルの上面と第1のフランジ部との間に滑りを生じながら、センタピラーの下部が車内側に変位し始める。これによりセンタピラーに入力される荷重が軽減されるため、センタピラーの変形がほぼ中断されて破断が防止され、ボルトの軸部がスロット孔内の反対端に到達した時点で、センタピラーは変形を再開して衝撃吸収する。
【0008】
一方、センタピラーの車内への変位中には、センタピラー自体の衝撃吸収作用は減少するものの、前後ドアが変形することにより衝撃吸収作用が奏される。即ち、センタピラーを車内側に変位させることによりセンタピラーの破断が防止、或いは破断のタイミングが遅延されて、側突時の遅いタイミングまで衝撃吸収に貢献すると共に、その間に前後ドア等が変形して衝撃吸収することにより、全体としての衝撃吸収作用が向上する。
【0009】
また、センタピラーの下部が車内側に変位することから、側突時のセンタピラーの変形に伴う車内への侵入量は、運転者とは関係ないシート高さ近傍で大となる代わりに、乗員の腰部或いは胸部に相当する高さで抑制され、車内に侵入したセンタピラーによる直接的な乗員への影響が軽減される。
そして、この作用効果を得るための構成として、サイドシルに対してスロット孔を介してボルト締結するだけのため、例えばセンタピラーを補強する従来技術のような重量増加やコストアップ等の問題が未然に回避される。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1において、センタピラーの下部にサイドシルの外側面に重なる第2のフランジ部を形成したものである。
従って、側突時の室内側への荷重が第2のフランジ部の剛性及びボルトの締結力を上回った時点で、第2のフランジを変形させると共に、サイドシルの上面と第1のフランジ部との間に滑りを生じながら、センタピラーの下部が車内側に変位し始める。よって、第2のフランジの形状や厚さを調整してその剛性を最適設定することにより、側突時のセンタピラーの車内への変位を最適なタイミングで開始可能となる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または2において、スロット孔の前後幅をボルトの軸径より狭く設定したものである。
従って、センタピラーの下部が車内側に変位する過程では、ボルトの軸部がスロット孔内の両側を圧壊させながら反対端まで移動し、これによる衝撃吸収作用が前後ドア等の変形による衝撃吸収作用に加算される。
【0012】
請求項4の発明は、車両前後方向に延設されたサイドシルの上面に対しセンタピラーの下部を接合し、サイドシルの外側面の少なくともセンタピラーの下部近傍に、車外側に向けて突出する断面形状をなして車両前後方向に延びる乗上げ防止リブを設けたものである。
従って、自車両への側突時において、相手車両は自車両の前後ドアを変形させながらサイドシル及びセンタピラーに衝突し、次の瞬間にサイドシルに乗上げてセンタピラーの下部に荷重を集中させる。本発明では、サイドシルへの衝突の時点で相手車両が乗上げ防止リブに衝突し、バンパ等の前部を乗上げ防止リブの形状に対応させて変形させる。よって、その直後に相手車両にサイドシルを乗上げる方向、即ち斜め上方への力が生じても、前部を乗上げ防止リブに対して係合変形させた相手車両はサイドシルへの乗上げが防止される。これにより剛性面で余裕のあるサイドシルへの荷重負担が増大する一方、それほど剛性に余裕を有さないセンタピラーの荷重負担が軽減されるため、サイドシルの剛性が有効に活用されると共に、センタピラーの早期破断が防止される。
【0013】
そして、この作用効果を得るための構成として、サイドシルの外側面に乗上げ防止リブを形成するだけのため、例えばセンタピラーを補強する従来技術のような重量増加やコストアップ等の問題が未然に回避される。
請求項5の発明は、請求項4において、センタピラーがアルミダイカスト成型により製作され、成型時にサイドシルの外側面に重なったセンタピラーの下部に乗上げ防止リブが一体形成されたものである。
【0014】
従って、相手車両のセンタピラーへの衝突を防止すべく、乗上げ防止リブは前後方向でセンタピラーに対応して設けることが望ましいが、センタピラーの下部に乗上げ防止リブを形成することにより、必然的に適切な前後位置に乗上げ防止リブが配置される。
請求項6の発明は、請求項4において、サイドシルがアルミ押出し成型により製作され、成型時にサイドシルの外側面の前後方向全体に亘って乗上げ防止リブが一体形成されたものである。
【0015】
従って、前後方向全体に亘って乗上げ防止リブが一体成型されることでサイドシルの曲げ剛性が向上され、乗上げ現象の防止に伴って増大した荷重負担に対しサイドシルを対抗させることができ、これによる衝撃吸収作用が一層向上される。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように請求項1の発明の車両の側部車体構造によれば、重量増加やコストアップ等の弊害を未然に防止した上で、側突時に入力される荷重をセンタピラーや前後ドア等に分散して負担させ、もって十分な衝撃吸収作用を発揮して車体全体の被害を軽減することができる。
請求項2の発明の車両の側部車体構造によれば、請求項1に加えて、第2のフランジの剛性を最適設定することにより、側突時のセンタピラーの車内への変位を最適なタイミングで開始でき、もって設計時に想定したセンタピラーの車内への侵入状況や衝撃吸収作用を達成することができる。
【0017】
請求項3の発明の車両の側部車体構造によれば、請求項1または2に加えて、ボルトの軸部によりスロット孔内の両側を圧壊させることにより一段と高い衝撃吸収作用を得て、車体全体への被害を一層軽減することができる。
請求項4の発明の車両の側部車体構造によれば、重量増加やコストアップ等の弊害を未然に防止した上で、相手車両のサイドシルへの乗上げ現象を防止することでサイドシルの剛性を有効に活用できると共に、センタピラーの早期破断を防止でき、もって十分な衝撃吸収作用を発揮して車体全体の被害を軽減することができる。
【0018】
請求項5の発明の車両の側部車体構造によれば、請求項4に加えて、アルミダイカスト成型時にセンタピラーの下部に乗上げ防止リブを一体形成することにより、適切な前後位置に乗上げ防止リブを配置して製造工程を合理化することができる。
請求項6の発明の車両の側部車体構造によれば、請求項4に加えて、乗上げ防止リブを一体形成することでサイドシルの曲げ剛性を増加させて、衝撃吸収作用を一層向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[第1実施形態]
以下、本発明をアルミスペースフレーム構造の車両の側部車体構造に具体化した第1実施形態を説明する。
図1は第1実施形態の側部車体構造が適用された車両の左側サイドシル及びセンタピラーを示す部分斜視図である。
【0020】
車両側面の下部にはサイドシル1が前後方向に延設され、上部にはルーフサイドレール2が前後方向に延設されている。サイドシル1及びルーフサイドレール2は、車両の前側においてフロントピラーを介して相互に連結され、後側においてリアピラー及びホイールハウスを介して相互に連結され、前後中間部においてセンタピラー3を介して相互に連結されている。これにより車両側面のフレームが構成され、サイドシル1やセンタピラー3の車外側はサイドアウタパネル4(図4に示す)により被覆され、センタピラー3を挟んだ前後に開口する乗降口は前後のドア5(図4に示す)により閉鎖されている。
【0021】
サイドシル1及びルーフサイドレール2はアルミ押出し成型により製作され、長手方向に略同一断面形状の閉断面構造をなしている。これに対してセンタピラー3はアルミダイカスト成型により製作され、長手方向に断面形状を変化させると共に、例えばリアドア5のヒンジ取付部等が一体形成されている。アルミスペースフレーム構造では各構造材を溶接接合する手法が一般的であり、例えばセンタピラー3の上部とルーフサイドレール2との接合箇所についても溶接が適用されるが、センタピラー3の下部とサイドシル1との接合箇所は、側突時の衝撃吸収作用を得る目的でボルトによる締結が適用されており、以下、この接合箇所の構成を詳述する。
【0022】
図2はサイドシル1とセンタピラー3との結合箇所を示す部分斜視図、図3は同じくサイドシル1とセンタピラー3との結合箇所を示す図2のIII−III線断面図、図4は同じくサイドシル1とセンタピラー3との結合箇所を示す図2のIV−IV線断面図である。
センタピラー3は車内側に開口する略コ字状の断面形状をなし、車両前方に面した前面3a、車両後方に面した後面3b、及び車外側に面した側面3cから構成されている。センタピラー3の下部において前面3aは前方に向けて湾曲してサイドシル1の上面1aに重なり、この箇所を前部フランジ6a(第1のフランジ部)としている。同様に後面3bは後方に向けて湾曲してサイドシル1の上面1aに重なり、この箇所を後部フランジ6b(第1のフランジ部)としている。また、これらの前面3a及び後面3bの湾曲により側面3cはセンタピラー3の下部ほど幅広に形成され、側面3cの下部はサイドシル1の外側面1bに重なった側部フランジ6c(第2のフランジ部)を形成している。
【0023】
前部フランジ6a及び後部フランジ6bにはそれぞれスロット孔7が貫設され、各スロット孔7を介してサイドシル1の上面1aにはボルト8が螺合し、サイドシル1の上面1aとボルト8の頭部との間にはワッシャ9が介装されている。なお、本実施形態では、図4に示すように、サイドシル1の上面1aの裏面側(閉断面内)にアルミナット10を溶接してボルト8を螺合させているが、その手法はこれに限ることはなく、例えばサイドシル1の上面1aが十分な板厚を有しているときには、上面1aに直接的にボルト8を螺合させてもよい。
【0024】
ボルト8により前部フランジ6a及び後部フランジ6bはサイドシル1の上面1aに締結され、これによりセンタピラー3の下部とサイドシル1とが接合されている。図3に示すようにスロット孔7は、ボルト8の軸部8aが挿入された幅広部7aと、この幅広部7aから車外側に直線状に延びる幅狭部7bとから構成されている。幅広部7aの左右幅はボルト8の軸径Dと略等しく、幅広部7aの前後幅はボルト8の軸径Dより若干広く設定され、その範囲内でボルト8の軸部8aの前後方向への移動、即ちサイドシル1に対するセンタピラー3の前後方向への位置調整を許容している。この幅広部7aの設定は、車体に対するセンタピラー3の建付け性を考慮したものであり、車体の各部に多少の寸法誤差が生じている場合であってもセンタピラー3の組付けに支障を生じることはない。
【0025】
また、幅狭部7bの左右幅はボルト8の軸径Dより十分に長く、幅狭部7bの前後幅Hはボルト8の軸径Dより若干狭く設定されている。従って、通常時には幅狭部7b内でのボルト8の軸部8aの移動が規制されるが、後述するように側突時の荷重を受けてセンタピラー3の下部が車内側に変位したときには、幅狭部7bの両縁を圧壊させることを条件としてボルト8の軸部8aが幅狭部7bの反対端(車外側の端)まで移動し得る。本実施形態では、幅広部7a内から幅狭部7b内の反対端までのボルト8の移動距離Lが50〜60mmに設定されており、この寸法は側突時のセンタピラー3下部の車内側への変位量と相関するものであるが、その設定は車両の仕様等に応じて任意に変更可能である。また、側突時の荷重によりセンタピラー3の下部が車内側に変位を開始するタイミングは、ボルト8の締結力により変動するため、最適タイミングでセンタピラー3の変位が開始されるように、センタピラー3の組付時にはボルト8の締結トルクが管理されている。
【0026】
次に、以上のように構成された本実施形態の車両の側部車体構造による作用を説明する。
[発明が解決しようとする課題]でも述べたように、自車両に対して相手車両が側突したとき、相手車両のバンパ等は自車両の前後ドア5やサイドアウタパネル4を変形させながら、サイドシル1に乗上げてセンタピラー3の下部に衝突する。これにより先行技術では、センタピラー3に過大な荷重が側方より入力され、特にアルミダイカスト製のセンタピラー3では靭性の不足により早期に破断して衝撃吸収作用を奏さなくなることが懸念される一方、センタピラー3に補強対策を施した従来技術では、重量増加やコストアップ等の弊害を免れない。
【0027】
これに対して本実施形態では以下の過程で衝撃吸収作用が奏され、これにより従来技術の技術が抱える問題を解消している。
図5は車両側突時のセンタピラー3の変位状況を示す図4に対応する断面図である。まず、実線の矢印で示すように、側突時の相手車両Aは自車両のサイドシル1を乗上げながらセンタピラー3に衝突し、サイドシル1の変形と共にセンタピラー3は車内側への変形を開始する。このときセンタピラー3の下部は、サイドシル1の外側面1bに重なった側部フランジ6cの剛性、及びサイドシル1の上面1aと前部フランジ6a及び後部フランジ6bとに作用するボルト8の締結力により車内側への荷重に抗するが、この車内側への荷重が側部フランジ6cの剛性及びボルト8の締結力を上回った時点で、側部フランジ6cを変形させると共に、サイドシル1の上面1aと前部フランジ6a及び後部フランジ6bとの間に滑りを生じながら、センタピラー3の下部が車内側に変位し始める。これによりセンタピラー3に入力される荷重が軽減されるため、センタピラー3の変形がほぼ中断されて破断が防止される。
【0028】
このセンタピラー3の下部が車内側に変位する過程では、前部フランジ6a及び後部フランジ6bのスロット孔7において、ボルト8の軸部8aが幅広部7a内から幅狭部7b内の両側を圧壊させながら反対端まで移動する現象が発生する。よって、センタピラー3は破断に至ることなく、且つ入力された荷重に対して所定の抵抗力を発揮しながら車内側に変位することになり、この変位中においてもある程度の衝撃吸収作用を奏する。
【0029】
ボルト8の軸部8aが上記移動距離L相当だけ移動して幅狭部7bの反対端に到達した時点でセンタピラー3の変形が再開されるが、その間のセンタピラー3はほとんど変形することなく下部を車内側に変位させるため、結果として車内への侵入量はセンタピラー3の下部、即ちシート(座面)高さ近傍が最も大きくなり、それより上側の乗員の腰部或いは胸部に相当する高さでは小さな侵入量に抑制される。従って、側突により車内に侵入したセンタピラー3による直接的な乗員への影響が大幅に軽減される。なお、図5では、センタピラー3の車内への変位状況を二点鎖線の矢印で示している。
【0030】
一方、以上のセンタピラー3の車内への変位中において、センタピラー3自体の衝撃吸収作用は従来技術等と比較して減少するものの、側突時の相手車両Aはセンタピラー3だけでなく前後のドア5等にも衝突しているため、これらのドア5が変形することにより衝撃吸収作用が奏される。即ち、センタピラー3を車内側に変位させることでセンタピラー3の早期の破断が防止されると共に、センタピラー3の変位中には前後のドア5等により効率的に衝撃吸収作用が奏される。
【0031】
そして、スロット孔7の幅狭部7b内の反対端にボルト8の軸部8aが到達した時点で、センタピラー3は車内側への変形を再開して衝撃吸収に貢献する。最終的にセンタピラー3は側突荷重が小さいときには破断に至らず、側突荷重が大きいときには破断に至るが、破断したとしてもそのタイミングが従来技術等と比較して大きく遅延され、その時点までセンタピラー3が衝撃吸収作用を発揮すると共に、これと並行して前後ドア5等の変形による衝撃吸収作用も発揮される。
【0032】
以上のように本実施形態の車両の側部車体構造によれば、サイドシル1の上面1aに対してセンタピラー3の下部をスロット孔7を介してボルト8により締結し、側突時の荷重によりセンタピラー3の下部を車内側に変位させるようにしたため、側突時のセンタピラー3の変形に伴う車内への侵入量を、運転者とは関係ないシート高さ近傍で大とする代わりに、乗員の腰部或いは胸部に相当する高さで抑制でき、もって側突により車内に侵入したセンタピラー3による直接的な乗員への影響を大幅に軽減することができる。
【0033】
また、センタピラー3の下部を車内側に変位させることによりセンタピラー3の破断を防止、或いは破断のタイミングを遅延させて、側突時の遅いタイミングまで衝撃吸収に貢献させると共に、その間に前後ドア5等を変形させて衝撃吸収させることにより、全体としての衝撃吸収作用を向上でき、もって側突により車体全体に及ぶ被害を大幅に軽減することができる。
【0034】
そして、この作用効果を得るための構成として、サイドシル1に対するセンタピラー3の接合を溶接からボルト8締結に変更しただけのため、例えばセンタピラー3を補強する従来技術のような重量増加やコストアップ等の問題を未然に回避することができる。
しかも、センタピラー3の車内側への変位中においても、スロット孔7の幅狭部7bの両側がボルト8の軸部8aにより圧壊されることである程度の衝撃吸収作用が得られるため、これによる衝撃吸収作用が前後ドア5等の変形による衝撃吸収作用に加算され、結果として一段と高い衝撃吸収作用により車体全体への被害を一層軽減することができる。勿論、スロット孔7の形状を工夫しただけのため、この対策を実施しても重量増加やコストアップに繋がらないことは言うまでもない。
【0035】
なお、幅狭部7bの前後幅Hは必ずしもこのように設定する必要はなく、例えば幅狭部7bの前後幅Hをボルト8の軸径Dより広く設定してもよい。この場合には、車内への変位中においてセンタピラー3はほとんど衝撃吸収しないが、前後ドア5等の変形によるものを含めた全体としての衝撃吸収作用に不足が生じることはなく、車両全体への被害を十分に軽減することができる。
【0036】
また、以上の説明から明らかなように、側突に伴ってセンタピラー3が車内への変位を開始するタイミングは、センタピラー3の車内への侵入状況や衝撃吸収作用に大きな影響を及ぼすため、適切なタイミング、例えばセンタピラー3を衝撃吸収にある程度貢献させ、且つ破断に至るより先行したタイミングで、センタピラー3を車内側に変位させ始めることが望ましい。このタイミングはサイドシル1に対してセンタピラー3の下部をボルト締結する際のトルク管理により調整可能であるが、本実施形態ではセンタピラー3の側部フランジ6cに関する設定によっても調整可能である。
【0037】
即ち、側部フランジ6cの剛性が低い場合には、側突時の荷重に対して側部フランジ6cがそれほど抗することなく容易に変形するため、センタピラー3が車内に変位し始めるタイミングが早まるのに対し、側部フランジ6cの剛性が高い場合には、側突時の荷重に対して側部フランジ6cが変形せずに抗するため、センタピラー3が車内に変位し始めるタイミングが遅くなる。従って、本実施形態では、ボルト締結の際のトルク管理に加えて、側部フランジ6cの形状や厚さを調整してその剛性を最適設定することにより、側突時のセンタピラー3の車内への変位を最適なタイミングで開始でき、もって設計時に想定したセンタピラー3の車内への侵入状況や衝撃吸収作用を確実に達成して、これによる上記各効果を得ることができる。
【0038】
なお、センタピラー3の車内への変位開始タイミングを調整する手法は上記に限ることはない。例えばセンタピラー3の側部フランジ6cを廃止してもよく、この場合には、側部フランジ6cを有する場合に比較すれば変位開始タイミングに関する自由度は制限されるものの、ボルト締結の際のトルク管理により、所望のタイミングでセンタピラー3の変位を開始させることができる。また、例えば側部フランジ6c代えて、前部フランジ6a及び後部フランジ6bを締結するためのボルト8を1本から2本に増やしたり、ボルトサイズを変更したりしてもよく、この場合でも側部フランジ6cと同様の作用効果を得ることができる。
[第2実施形態]
次に、本発明を別の車両の側部車体構造に具体化した第2実施形態を説明する。
【0039】
第1実施形態と同じく本実施形態も、側突時に相手車両Aがサイドシル1に乗上げることによりセンタピラー3の荷重負担が増大する不具合に着目したものであるが、第1実施形態が相手車両Aのサイドシル1への乗上げ現象を前提として、その場合でも十分な衝撃吸収作用が得られるように対策を講じたものであるのに対し、本実施形態では、サイドシル1への乗上げ現象自体を防止する対策を講じたものである。基本的な構成は第1実施形態と同様のため、共通箇所は同一部材番号を付して説明を省略し、相違点を重点的に述べる。
【0040】
図6は第2実施形態の側部車体構造が適用された車両の左側サイドシル1及びセンタピラー3を示す部分斜視図、図7は同じくセンタピラー3に設けた乗上げ防止リブを示す図6のVII−VII線断面図である。
第1実施形態と同じく本実施形態の車両もアルミスペースフレーム構造として構成されており、サイドシル1、ルーフサイドレール2、センタピラー3等の製法についても同様で、サイドシル1及びルーフサイドレール2はアルミ押出し成型により製作され、センタピラー3はアルミダイカスト成型により製作されている。本実施形態ではサイドシル1とセンタピラー3との接合箇所にボルト締結に代えて一般的な溶接が適用されており、センタピラー3の下部に形成された前部フランジ6a、後部フランジ6b及び側部フランジ6cの周囲全体が、サイドシル1の上面1a及び外側面1bに対して溶接されている。
【0041】
そして、本実施形態では、側部フランジ6cの下縁より若干上方位置に、側部フランジ6cの前後方向全体に亘って乗上げ防止リブ21が一体成型されている。乗上げ防止リブ21は略水平に車外側に向けて突出して長手方向に同一断面形状をなし、サイドシル1の衝突した相手車両Aの前部を変形させながら係合する程度の突出高さを有し、且つ、相手車両Aとの変形係合の際に折損しない程度の厚みを有している。
【0042】
次に、以上のように構成された本実施形態の車両の側部車体構造による作用を説明する。
図8は車両側突時の乗上げ防止リブ21の作用を示す図7に対応する断面図である。自車両に側突した相手車両Aは、自車両の前後ドア5やサイドアウタパネル4を変形させながらサイドシル1及びセンタピラー3に衝突し、次の瞬間にサイドシル1に乗上げてセンタピラー3の下部に荷重を集中させる。この説明のように、相手車両Aはサイドシル1に一旦衝突した後に乗上げており、本実施形態では、この衝突の時点でサイドアウタパネル4を挟み込んだ状態で相手車両Aが乗上げ防止リブ21に衝突し、バンパ等の前部を乗上げ防止リブ21の形状に対応させて変形させる。
【0043】
次の瞬間に相手車両Aにはサイドシル1に乗上げる方向、即ち斜め上方への力が生じるが、その前部を乗上げ防止リブ21に対して係合変形させていることから、発生した力に乗上げ防止リブ21が対抗することによりサイドシル1への相手車両Aの乗上げが未然に防止される。これにより相手車両Aはサイドシル1に対して側方より荷重を作用し続け、この荷重にサイドシル1が変形しながら抗して衝撃吸収作用を奏する。
【0044】
[発明が解決しようとする課題]でも述べたように、従来技術では、相手車両Aのサイドシル1への乗上げ現象に起因して、サイドシル1への荷重が軽減されてその剛性を有効に活用できない反面、センタピラー3の荷重負担が増大して早期に破断する問題が生じる。これに対して本実施形態では乗上げ現象を防止することにより、剛性面で余裕のあるサイドシル1への荷重負担が増大する一方、それほど剛性に余裕を有さないセンタピラー3の荷重負担が軽減されるため、サイドシル1の剛性を有効に活用できると共に、センタピラー3の早期破断を防止でき、これにより全体としての衝撃吸収作用を向上でき、もって側突により車体全体に及ぶ被害を大幅に軽減することができる。
【0045】
そして、この作用効果を得るための構成として、センタピラー3の下部の側部フランジ6cに乗上げ防止リブ21を形成しただけであり、しかも乗上げ防止リブ21はセンタピラー3のアルミダイカスト成型の際に同時に形成可能なため、例えばセンタピラー3を補強する従来技術のような重量増加やコストアップ等の問題を未然に回避することができる。
【0046】
一方、以上の説明から明らかなように、相手車両Aのセンタピラー3への衝突を防止すべく、乗上げ防止リブ21は前後方向でセンタピラー3に対応して設けることが望ましいが、この別例では、センタピラー3の側部フランジ6cに乗上げ防止リブ21を形成することにより、必然的に適切な前後位置に乗上げ防止リブ21を配置できる。よって、製造工程を合理化できるという利点も得られる。
【0047】
なお、乗上げ防止リブ21はセンタピラー3の下部に設ける代わりにサイドシル1の外側面1bに設けてもよく、以下、この別例を説明する。
図9は乗上げ防止リブ31をサイドシル1に設けた第2実施形態の別例を示す図6に対応する部分斜視図、図10は同じく第2実施形態の別例を示す図7に対応する断面図である。
【0048】
乗上げ防止リブ31は、サイドシル1の外側面1bに前後方向全体に亘って一体成型され、略水平に車外側に向けて突出して長手方向に同一断面形状をなしている。この別例においてもサイドシル1のアルミ押出し成型時に同時に乗上げ防止リブ31を形成でき、衝撃吸収作用に関しても、重複する説明はしないが第2実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0049】
また、前後方向全体に亘って乗上げ防止リブ31が一体形成されることでサイドシル1の曲げ剛性が一般的なサイドシルに比較して増加するため、乗上げ現象の防止に伴って増大した荷重負担に対しサイドシル1は容易に屈曲することなく側方からの荷重に対抗し、この要因も衝撃吸収作用の向上に貢献する。
なお、この別例の乗上げ防止リブ21を上記第2実施形態のものと同様にセンタピラー3に近傍のみに配置する場合には、サイドシル1の押出し成型後に乗上げ防止リブ31の不要箇所を切削或いは溶断すればよい。
【0050】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記第1及び第2実施形態ではアルミスペースフレーム構造の車両に適用したが、これは、靭性不足に起因して側突時に早期破断の傾向のあるアルミ製センタピラー3では、本発明の適用により顕著な改善効果が期待できるためであるが、本発明の適用対象は必ずしもアルミスペースフレーム構造に限定されるものではない。
【0051】
例えば、一般的なスチールモノコック構造の車両に具体化してもよく、この場合であっても各実施形態で説明した構成とすることにより、それぞれ対応する作用効果を得ることができる。具体的には、第1実施形態の場合には、サイドシル1及びセンタピラー3を鋼板よりプレス成型して、両部材1,3を第1実施形態で述べたボルト締結構造とすればよい。また、第2実施形態の場合には、図11に示すように、厚みを有する鋼板を断面L字状に折曲形成して乗上げ防止リブ41を製作し、鋼板をプレス成型したサイドシル1の外側面1bにスポット溶接或いはボルト固定すればよい。
【0052】
また、上記第1及び第2実施形態では異なる発想に基づく対策を個別に実施したが、第1実施形態のボルト8による締結構造と第2実施形態による乗上げ防止リブ21とを共に適用してもよく、この場合には双方の実施形態で述べた作用効果が同時に得られる。
また、上記第1実施形態では、センタピラー3の前部フランジ6a及び後部フランジ6bにスロット孔7を形成して、センタピラー3の下部の変位を許容したが、逆にサイドシル1の上面1aにスロット孔を形成することにより、センタピラー3の下部の変位を許容するようにしてもよい。
【0053】
また、上記第2実施形態では、車外側に向けて略水平に突出する一条の乗上げ防止リブ21を形成したが、乗上げ防止リブ21の形状はこれに限定されることはなく、例えば上下に2条または3条の乗上げ防止リブ21を併設してもよいし、乗上げ防止リブ21を斜め下方に向けて突出形成してもよい。さらに、乗上げ防止リブ21を前後方向に分断して複数の乗上げ防止リブ21としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】第1実施形態の側部車体構造が適用された車両の左側サイドシル及びセンタピラーを示す部分斜視図である。
【図2】同じくサイドシルとセンタピラーとの結合箇所を示す部分斜視図である。
【図3】同じくサイドシルとセンタピラーとの結合箇所を示す図2のIII−III線断面図である。
【図4】同じくサイドシルとセンタピラーとの結合箇所を示す図2のIV−IV線断面図である。
【図5】車両側突時のセンタピラーの変位状況を示す図4に対応する断面図である。
【図6】第2実施形態の側部車体構造が適用された車両の左側サイドシル及びセンタピラーを示す部分斜視図である。
【図7】同じくセンタピラーに設けた乗上げ防止リブを示す図6のVII−VII線断面図である。
【図8】車両側突時の乗上げ防止リブの作用を示す図7に対応する断面図である。
【図9】乗上げ防止リブをサイドシルに設けた第2実施形態の別例を示す図6に対応する部分斜視図である。
【図10】同じく第2実施形態の別例を示す図7に対応する断面図である。
【図11】第2実施形態の構成をスチールモノコック構造の車両に適用した別例を示す図7に対応する断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 サイドシル
1a 上面
1b 外側面
3 センタピラー
6a 前部フランジ(第1のフランジ部)
6b 後部フランジ(第1のフランジ部)
6c 側部フランジ(第2のフランジ部)
7 スロット孔
8 ボルト
8a 軸部
21,31,41 乗上げ防止リブ
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の側部車体構造に係り、詳しくは相手車両が側突したときの荷重をサイドシルやセンタピラーで効率的に吸収する側部車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように自動車の車体は衝突時の衝撃吸収性を考慮して種々の補強対策が実施されている(例えば、特許文献1参照)。当該特許文献1の技術は、車体フロアの剛性向上を目的として、トンネル部の下部を下部トンネルメンバにより閉じて閉断面化している。
一方、これとは別に自車両に相手車両が側突したときの衝撃吸収を目的とした対策も実施されている。側突時の荷重はサイドシルやセンタピラーに入力され、これらの部材が変形しながら荷重に抗することにより衝撃吸収作用を奏することから、一般的にサイドシルやセンタピラーを補強する対策が講じられている。
【特許文献1】特開2004−338581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、本発明者が衝突試験を実施した結果では、上記のように単にサイドシルやセンタピラーを補強するだけの場合、衝撃吸収作用の点で改善の余地があることを確認した。
即ち、相手車両(例えば、フロントバンパ等)が自車両のセンタピラーと重なる前後位置で側突したとき、相手車両は自車両の前後ドア等を変形させながら、これらの部材を介して車体構造材であるサイドシル及びセンタピラーに衝突することになる。このときの相手車両はサイドシルやセンタピラーに真っ向から衝突して各部材に均等に荷重を入力することなく、サイドシルを乗上げながら衝突することにより、本来サイドシルに入力されるべき荷重の一部が上側に逸らされてセンタピラーに入力される。
【0004】
このため、剛性面で余裕のあるサイドシルへの荷重は幾分軽減される反面、それほど剛性に余裕を有さないセンタピラーの荷重負担が予想外に増大してしまい、サイドシルの剛性を衝撃吸収に有効に活用できないと共に、センタピラーが早期に破断して衝撃吸収に十分に貢献しなくなる。結果として側突時の衝撃吸収の点で改善の余地があるが、例えばセンタピラーをさらに頑強に補強する対策では、重量増加やコストアップ等の別の問題が生じてしまうため、より抜本的な対策が望まれていた。
【0005】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、重量増加やコストアップ等の弊害を未然に防止した上で十分な衝撃吸収作用を発揮でき、もって車体全体の被害を軽減することができる車両の側部車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、車両前後方向に延設されたサイドシルの上面に対しセンタピラーの下部に形成した第1のフランジ部を重ね合わせ、サイドシルの上面または第1のフランジ部の何れか一方にスロット孔を貫設し、スロット孔を介してサイドシルの上面または第1のフランジ部の他方にボルトを螺合してサイドシル上にセンタピラーの下部を締結し、スロット孔を車幅方向に延設してスロット孔内でボルトの軸部を移動可能とし、センタピラーへの側方からの荷重により、ボルトによる締結力に抗してサイドシルの上面と第1のフランジ部との間で滑りを生じながら、センタピラーの下部を車内側に変位可能としたものである。
【0007】
従って、自車両への側突時において、相手車両は自車両の前後ドアを変形させながらセンタピラーの下部に衝突し、センタピラーは車内側に変形して衝撃吸収作用を奏する。センタピラーに作用する車内側への荷重がボルトの締結力を上回った時点で、サイドシルの上面と第1のフランジ部との間に滑りを生じながら、センタピラーの下部が車内側に変位し始める。これによりセンタピラーに入力される荷重が軽減されるため、センタピラーの変形がほぼ中断されて破断が防止され、ボルトの軸部がスロット孔内の反対端に到達した時点で、センタピラーは変形を再開して衝撃吸収する。
【0008】
一方、センタピラーの車内への変位中には、センタピラー自体の衝撃吸収作用は減少するものの、前後ドアが変形することにより衝撃吸収作用が奏される。即ち、センタピラーを車内側に変位させることによりセンタピラーの破断が防止、或いは破断のタイミングが遅延されて、側突時の遅いタイミングまで衝撃吸収に貢献すると共に、その間に前後ドア等が変形して衝撃吸収することにより、全体としての衝撃吸収作用が向上する。
【0009】
また、センタピラーの下部が車内側に変位することから、側突時のセンタピラーの変形に伴う車内への侵入量は、運転者とは関係ないシート高さ近傍で大となる代わりに、乗員の腰部或いは胸部に相当する高さで抑制され、車内に侵入したセンタピラーによる直接的な乗員への影響が軽減される。
そして、この作用効果を得るための構成として、サイドシルに対してスロット孔を介してボルト締結するだけのため、例えばセンタピラーを補強する従来技術のような重量増加やコストアップ等の問題が未然に回避される。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1において、センタピラーの下部にサイドシルの外側面に重なる第2のフランジ部を形成したものである。
従って、側突時の室内側への荷重が第2のフランジ部の剛性及びボルトの締結力を上回った時点で、第2のフランジを変形させると共に、サイドシルの上面と第1のフランジ部との間に滑りを生じながら、センタピラーの下部が車内側に変位し始める。よって、第2のフランジの形状や厚さを調整してその剛性を最適設定することにより、側突時のセンタピラーの車内への変位を最適なタイミングで開始可能となる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または2において、スロット孔の前後幅をボルトの軸径より狭く設定したものである。
従って、センタピラーの下部が車内側に変位する過程では、ボルトの軸部がスロット孔内の両側を圧壊させながら反対端まで移動し、これによる衝撃吸収作用が前後ドア等の変形による衝撃吸収作用に加算される。
【0012】
請求項4の発明は、車両前後方向に延設されたサイドシルの上面に対しセンタピラーの下部を接合し、サイドシルの外側面の少なくともセンタピラーの下部近傍に、車外側に向けて突出する断面形状をなして車両前後方向に延びる乗上げ防止リブを設けたものである。
従って、自車両への側突時において、相手車両は自車両の前後ドアを変形させながらサイドシル及びセンタピラーに衝突し、次の瞬間にサイドシルに乗上げてセンタピラーの下部に荷重を集中させる。本発明では、サイドシルへの衝突の時点で相手車両が乗上げ防止リブに衝突し、バンパ等の前部を乗上げ防止リブの形状に対応させて変形させる。よって、その直後に相手車両にサイドシルを乗上げる方向、即ち斜め上方への力が生じても、前部を乗上げ防止リブに対して係合変形させた相手車両はサイドシルへの乗上げが防止される。これにより剛性面で余裕のあるサイドシルへの荷重負担が増大する一方、それほど剛性に余裕を有さないセンタピラーの荷重負担が軽減されるため、サイドシルの剛性が有効に活用されると共に、センタピラーの早期破断が防止される。
【0013】
そして、この作用効果を得るための構成として、サイドシルの外側面に乗上げ防止リブを形成するだけのため、例えばセンタピラーを補強する従来技術のような重量増加やコストアップ等の問題が未然に回避される。
請求項5の発明は、請求項4において、センタピラーがアルミダイカスト成型により製作され、成型時にサイドシルの外側面に重なったセンタピラーの下部に乗上げ防止リブが一体形成されたものである。
【0014】
従って、相手車両のセンタピラーへの衝突を防止すべく、乗上げ防止リブは前後方向でセンタピラーに対応して設けることが望ましいが、センタピラーの下部に乗上げ防止リブを形成することにより、必然的に適切な前後位置に乗上げ防止リブが配置される。
請求項6の発明は、請求項4において、サイドシルがアルミ押出し成型により製作され、成型時にサイドシルの外側面の前後方向全体に亘って乗上げ防止リブが一体形成されたものである。
【0015】
従って、前後方向全体に亘って乗上げ防止リブが一体成型されることでサイドシルの曲げ剛性が向上され、乗上げ現象の防止に伴って増大した荷重負担に対しサイドシルを対抗させることができ、これによる衝撃吸収作用が一層向上される。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように請求項1の発明の車両の側部車体構造によれば、重量増加やコストアップ等の弊害を未然に防止した上で、側突時に入力される荷重をセンタピラーや前後ドア等に分散して負担させ、もって十分な衝撃吸収作用を発揮して車体全体の被害を軽減することができる。
請求項2の発明の車両の側部車体構造によれば、請求項1に加えて、第2のフランジの剛性を最適設定することにより、側突時のセンタピラーの車内への変位を最適なタイミングで開始でき、もって設計時に想定したセンタピラーの車内への侵入状況や衝撃吸収作用を達成することができる。
【0017】
請求項3の発明の車両の側部車体構造によれば、請求項1または2に加えて、ボルトの軸部によりスロット孔内の両側を圧壊させることにより一段と高い衝撃吸収作用を得て、車体全体への被害を一層軽減することができる。
請求項4の発明の車両の側部車体構造によれば、重量増加やコストアップ等の弊害を未然に防止した上で、相手車両のサイドシルへの乗上げ現象を防止することでサイドシルの剛性を有効に活用できると共に、センタピラーの早期破断を防止でき、もって十分な衝撃吸収作用を発揮して車体全体の被害を軽減することができる。
【0018】
請求項5の発明の車両の側部車体構造によれば、請求項4に加えて、アルミダイカスト成型時にセンタピラーの下部に乗上げ防止リブを一体形成することにより、適切な前後位置に乗上げ防止リブを配置して製造工程を合理化することができる。
請求項6の発明の車両の側部車体構造によれば、請求項4に加えて、乗上げ防止リブを一体形成することでサイドシルの曲げ剛性を増加させて、衝撃吸収作用を一層向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[第1実施形態]
以下、本発明をアルミスペースフレーム構造の車両の側部車体構造に具体化した第1実施形態を説明する。
図1は第1実施形態の側部車体構造が適用された車両の左側サイドシル及びセンタピラーを示す部分斜視図である。
【0020】
車両側面の下部にはサイドシル1が前後方向に延設され、上部にはルーフサイドレール2が前後方向に延設されている。サイドシル1及びルーフサイドレール2は、車両の前側においてフロントピラーを介して相互に連結され、後側においてリアピラー及びホイールハウスを介して相互に連結され、前後中間部においてセンタピラー3を介して相互に連結されている。これにより車両側面のフレームが構成され、サイドシル1やセンタピラー3の車外側はサイドアウタパネル4(図4に示す)により被覆され、センタピラー3を挟んだ前後に開口する乗降口は前後のドア5(図4に示す)により閉鎖されている。
【0021】
サイドシル1及びルーフサイドレール2はアルミ押出し成型により製作され、長手方向に略同一断面形状の閉断面構造をなしている。これに対してセンタピラー3はアルミダイカスト成型により製作され、長手方向に断面形状を変化させると共に、例えばリアドア5のヒンジ取付部等が一体形成されている。アルミスペースフレーム構造では各構造材を溶接接合する手法が一般的であり、例えばセンタピラー3の上部とルーフサイドレール2との接合箇所についても溶接が適用されるが、センタピラー3の下部とサイドシル1との接合箇所は、側突時の衝撃吸収作用を得る目的でボルトによる締結が適用されており、以下、この接合箇所の構成を詳述する。
【0022】
図2はサイドシル1とセンタピラー3との結合箇所を示す部分斜視図、図3は同じくサイドシル1とセンタピラー3との結合箇所を示す図2のIII−III線断面図、図4は同じくサイドシル1とセンタピラー3との結合箇所を示す図2のIV−IV線断面図である。
センタピラー3は車内側に開口する略コ字状の断面形状をなし、車両前方に面した前面3a、車両後方に面した後面3b、及び車外側に面した側面3cから構成されている。センタピラー3の下部において前面3aは前方に向けて湾曲してサイドシル1の上面1aに重なり、この箇所を前部フランジ6a(第1のフランジ部)としている。同様に後面3bは後方に向けて湾曲してサイドシル1の上面1aに重なり、この箇所を後部フランジ6b(第1のフランジ部)としている。また、これらの前面3a及び後面3bの湾曲により側面3cはセンタピラー3の下部ほど幅広に形成され、側面3cの下部はサイドシル1の外側面1bに重なった側部フランジ6c(第2のフランジ部)を形成している。
【0023】
前部フランジ6a及び後部フランジ6bにはそれぞれスロット孔7が貫設され、各スロット孔7を介してサイドシル1の上面1aにはボルト8が螺合し、サイドシル1の上面1aとボルト8の頭部との間にはワッシャ9が介装されている。なお、本実施形態では、図4に示すように、サイドシル1の上面1aの裏面側(閉断面内)にアルミナット10を溶接してボルト8を螺合させているが、その手法はこれに限ることはなく、例えばサイドシル1の上面1aが十分な板厚を有しているときには、上面1aに直接的にボルト8を螺合させてもよい。
【0024】
ボルト8により前部フランジ6a及び後部フランジ6bはサイドシル1の上面1aに締結され、これによりセンタピラー3の下部とサイドシル1とが接合されている。図3に示すようにスロット孔7は、ボルト8の軸部8aが挿入された幅広部7aと、この幅広部7aから車外側に直線状に延びる幅狭部7bとから構成されている。幅広部7aの左右幅はボルト8の軸径Dと略等しく、幅広部7aの前後幅はボルト8の軸径Dより若干広く設定され、その範囲内でボルト8の軸部8aの前後方向への移動、即ちサイドシル1に対するセンタピラー3の前後方向への位置調整を許容している。この幅広部7aの設定は、車体に対するセンタピラー3の建付け性を考慮したものであり、車体の各部に多少の寸法誤差が生じている場合であってもセンタピラー3の組付けに支障を生じることはない。
【0025】
また、幅狭部7bの左右幅はボルト8の軸径Dより十分に長く、幅狭部7bの前後幅Hはボルト8の軸径Dより若干狭く設定されている。従って、通常時には幅狭部7b内でのボルト8の軸部8aの移動が規制されるが、後述するように側突時の荷重を受けてセンタピラー3の下部が車内側に変位したときには、幅狭部7bの両縁を圧壊させることを条件としてボルト8の軸部8aが幅狭部7bの反対端(車外側の端)まで移動し得る。本実施形態では、幅広部7a内から幅狭部7b内の反対端までのボルト8の移動距離Lが50〜60mmに設定されており、この寸法は側突時のセンタピラー3下部の車内側への変位量と相関するものであるが、その設定は車両の仕様等に応じて任意に変更可能である。また、側突時の荷重によりセンタピラー3の下部が車内側に変位を開始するタイミングは、ボルト8の締結力により変動するため、最適タイミングでセンタピラー3の変位が開始されるように、センタピラー3の組付時にはボルト8の締結トルクが管理されている。
【0026】
次に、以上のように構成された本実施形態の車両の側部車体構造による作用を説明する。
[発明が解決しようとする課題]でも述べたように、自車両に対して相手車両が側突したとき、相手車両のバンパ等は自車両の前後ドア5やサイドアウタパネル4を変形させながら、サイドシル1に乗上げてセンタピラー3の下部に衝突する。これにより先行技術では、センタピラー3に過大な荷重が側方より入力され、特にアルミダイカスト製のセンタピラー3では靭性の不足により早期に破断して衝撃吸収作用を奏さなくなることが懸念される一方、センタピラー3に補強対策を施した従来技術では、重量増加やコストアップ等の弊害を免れない。
【0027】
これに対して本実施形態では以下の過程で衝撃吸収作用が奏され、これにより従来技術の技術が抱える問題を解消している。
図5は車両側突時のセンタピラー3の変位状況を示す図4に対応する断面図である。まず、実線の矢印で示すように、側突時の相手車両Aは自車両のサイドシル1を乗上げながらセンタピラー3に衝突し、サイドシル1の変形と共にセンタピラー3は車内側への変形を開始する。このときセンタピラー3の下部は、サイドシル1の外側面1bに重なった側部フランジ6cの剛性、及びサイドシル1の上面1aと前部フランジ6a及び後部フランジ6bとに作用するボルト8の締結力により車内側への荷重に抗するが、この車内側への荷重が側部フランジ6cの剛性及びボルト8の締結力を上回った時点で、側部フランジ6cを変形させると共に、サイドシル1の上面1aと前部フランジ6a及び後部フランジ6bとの間に滑りを生じながら、センタピラー3の下部が車内側に変位し始める。これによりセンタピラー3に入力される荷重が軽減されるため、センタピラー3の変形がほぼ中断されて破断が防止される。
【0028】
このセンタピラー3の下部が車内側に変位する過程では、前部フランジ6a及び後部フランジ6bのスロット孔7において、ボルト8の軸部8aが幅広部7a内から幅狭部7b内の両側を圧壊させながら反対端まで移動する現象が発生する。よって、センタピラー3は破断に至ることなく、且つ入力された荷重に対して所定の抵抗力を発揮しながら車内側に変位することになり、この変位中においてもある程度の衝撃吸収作用を奏する。
【0029】
ボルト8の軸部8aが上記移動距離L相当だけ移動して幅狭部7bの反対端に到達した時点でセンタピラー3の変形が再開されるが、その間のセンタピラー3はほとんど変形することなく下部を車内側に変位させるため、結果として車内への侵入量はセンタピラー3の下部、即ちシート(座面)高さ近傍が最も大きくなり、それより上側の乗員の腰部或いは胸部に相当する高さでは小さな侵入量に抑制される。従って、側突により車内に侵入したセンタピラー3による直接的な乗員への影響が大幅に軽減される。なお、図5では、センタピラー3の車内への変位状況を二点鎖線の矢印で示している。
【0030】
一方、以上のセンタピラー3の車内への変位中において、センタピラー3自体の衝撃吸収作用は従来技術等と比較して減少するものの、側突時の相手車両Aはセンタピラー3だけでなく前後のドア5等にも衝突しているため、これらのドア5が変形することにより衝撃吸収作用が奏される。即ち、センタピラー3を車内側に変位させることでセンタピラー3の早期の破断が防止されると共に、センタピラー3の変位中には前後のドア5等により効率的に衝撃吸収作用が奏される。
【0031】
そして、スロット孔7の幅狭部7b内の反対端にボルト8の軸部8aが到達した時点で、センタピラー3は車内側への変形を再開して衝撃吸収に貢献する。最終的にセンタピラー3は側突荷重が小さいときには破断に至らず、側突荷重が大きいときには破断に至るが、破断したとしてもそのタイミングが従来技術等と比較して大きく遅延され、その時点までセンタピラー3が衝撃吸収作用を発揮すると共に、これと並行して前後ドア5等の変形による衝撃吸収作用も発揮される。
【0032】
以上のように本実施形態の車両の側部車体構造によれば、サイドシル1の上面1aに対してセンタピラー3の下部をスロット孔7を介してボルト8により締結し、側突時の荷重によりセンタピラー3の下部を車内側に変位させるようにしたため、側突時のセンタピラー3の変形に伴う車内への侵入量を、運転者とは関係ないシート高さ近傍で大とする代わりに、乗員の腰部或いは胸部に相当する高さで抑制でき、もって側突により車内に侵入したセンタピラー3による直接的な乗員への影響を大幅に軽減することができる。
【0033】
また、センタピラー3の下部を車内側に変位させることによりセンタピラー3の破断を防止、或いは破断のタイミングを遅延させて、側突時の遅いタイミングまで衝撃吸収に貢献させると共に、その間に前後ドア5等を変形させて衝撃吸収させることにより、全体としての衝撃吸収作用を向上でき、もって側突により車体全体に及ぶ被害を大幅に軽減することができる。
【0034】
そして、この作用効果を得るための構成として、サイドシル1に対するセンタピラー3の接合を溶接からボルト8締結に変更しただけのため、例えばセンタピラー3を補強する従来技術のような重量増加やコストアップ等の問題を未然に回避することができる。
しかも、センタピラー3の車内側への変位中においても、スロット孔7の幅狭部7bの両側がボルト8の軸部8aにより圧壊されることである程度の衝撃吸収作用が得られるため、これによる衝撃吸収作用が前後ドア5等の変形による衝撃吸収作用に加算され、結果として一段と高い衝撃吸収作用により車体全体への被害を一層軽減することができる。勿論、スロット孔7の形状を工夫しただけのため、この対策を実施しても重量増加やコストアップに繋がらないことは言うまでもない。
【0035】
なお、幅狭部7bの前後幅Hは必ずしもこのように設定する必要はなく、例えば幅狭部7bの前後幅Hをボルト8の軸径Dより広く設定してもよい。この場合には、車内への変位中においてセンタピラー3はほとんど衝撃吸収しないが、前後ドア5等の変形によるものを含めた全体としての衝撃吸収作用に不足が生じることはなく、車両全体への被害を十分に軽減することができる。
【0036】
また、以上の説明から明らかなように、側突に伴ってセンタピラー3が車内への変位を開始するタイミングは、センタピラー3の車内への侵入状況や衝撃吸収作用に大きな影響を及ぼすため、適切なタイミング、例えばセンタピラー3を衝撃吸収にある程度貢献させ、且つ破断に至るより先行したタイミングで、センタピラー3を車内側に変位させ始めることが望ましい。このタイミングはサイドシル1に対してセンタピラー3の下部をボルト締結する際のトルク管理により調整可能であるが、本実施形態ではセンタピラー3の側部フランジ6cに関する設定によっても調整可能である。
【0037】
即ち、側部フランジ6cの剛性が低い場合には、側突時の荷重に対して側部フランジ6cがそれほど抗することなく容易に変形するため、センタピラー3が車内に変位し始めるタイミングが早まるのに対し、側部フランジ6cの剛性が高い場合には、側突時の荷重に対して側部フランジ6cが変形せずに抗するため、センタピラー3が車内に変位し始めるタイミングが遅くなる。従って、本実施形態では、ボルト締結の際のトルク管理に加えて、側部フランジ6cの形状や厚さを調整してその剛性を最適設定することにより、側突時のセンタピラー3の車内への変位を最適なタイミングで開始でき、もって設計時に想定したセンタピラー3の車内への侵入状況や衝撃吸収作用を確実に達成して、これによる上記各効果を得ることができる。
【0038】
なお、センタピラー3の車内への変位開始タイミングを調整する手法は上記に限ることはない。例えばセンタピラー3の側部フランジ6cを廃止してもよく、この場合には、側部フランジ6cを有する場合に比較すれば変位開始タイミングに関する自由度は制限されるものの、ボルト締結の際のトルク管理により、所望のタイミングでセンタピラー3の変位を開始させることができる。また、例えば側部フランジ6c代えて、前部フランジ6a及び後部フランジ6bを締結するためのボルト8を1本から2本に増やしたり、ボルトサイズを変更したりしてもよく、この場合でも側部フランジ6cと同様の作用効果を得ることができる。
[第2実施形態]
次に、本発明を別の車両の側部車体構造に具体化した第2実施形態を説明する。
【0039】
第1実施形態と同じく本実施形態も、側突時に相手車両Aがサイドシル1に乗上げることによりセンタピラー3の荷重負担が増大する不具合に着目したものであるが、第1実施形態が相手車両Aのサイドシル1への乗上げ現象を前提として、その場合でも十分な衝撃吸収作用が得られるように対策を講じたものであるのに対し、本実施形態では、サイドシル1への乗上げ現象自体を防止する対策を講じたものである。基本的な構成は第1実施形態と同様のため、共通箇所は同一部材番号を付して説明を省略し、相違点を重点的に述べる。
【0040】
図6は第2実施形態の側部車体構造が適用された車両の左側サイドシル1及びセンタピラー3を示す部分斜視図、図7は同じくセンタピラー3に設けた乗上げ防止リブを示す図6のVII−VII線断面図である。
第1実施形態と同じく本実施形態の車両もアルミスペースフレーム構造として構成されており、サイドシル1、ルーフサイドレール2、センタピラー3等の製法についても同様で、サイドシル1及びルーフサイドレール2はアルミ押出し成型により製作され、センタピラー3はアルミダイカスト成型により製作されている。本実施形態ではサイドシル1とセンタピラー3との接合箇所にボルト締結に代えて一般的な溶接が適用されており、センタピラー3の下部に形成された前部フランジ6a、後部フランジ6b及び側部フランジ6cの周囲全体が、サイドシル1の上面1a及び外側面1bに対して溶接されている。
【0041】
そして、本実施形態では、側部フランジ6cの下縁より若干上方位置に、側部フランジ6cの前後方向全体に亘って乗上げ防止リブ21が一体成型されている。乗上げ防止リブ21は略水平に車外側に向けて突出して長手方向に同一断面形状をなし、サイドシル1の衝突した相手車両Aの前部を変形させながら係合する程度の突出高さを有し、且つ、相手車両Aとの変形係合の際に折損しない程度の厚みを有している。
【0042】
次に、以上のように構成された本実施形態の車両の側部車体構造による作用を説明する。
図8は車両側突時の乗上げ防止リブ21の作用を示す図7に対応する断面図である。自車両に側突した相手車両Aは、自車両の前後ドア5やサイドアウタパネル4を変形させながらサイドシル1及びセンタピラー3に衝突し、次の瞬間にサイドシル1に乗上げてセンタピラー3の下部に荷重を集中させる。この説明のように、相手車両Aはサイドシル1に一旦衝突した後に乗上げており、本実施形態では、この衝突の時点でサイドアウタパネル4を挟み込んだ状態で相手車両Aが乗上げ防止リブ21に衝突し、バンパ等の前部を乗上げ防止リブ21の形状に対応させて変形させる。
【0043】
次の瞬間に相手車両Aにはサイドシル1に乗上げる方向、即ち斜め上方への力が生じるが、その前部を乗上げ防止リブ21に対して係合変形させていることから、発生した力に乗上げ防止リブ21が対抗することによりサイドシル1への相手車両Aの乗上げが未然に防止される。これにより相手車両Aはサイドシル1に対して側方より荷重を作用し続け、この荷重にサイドシル1が変形しながら抗して衝撃吸収作用を奏する。
【0044】
[発明が解決しようとする課題]でも述べたように、従来技術では、相手車両Aのサイドシル1への乗上げ現象に起因して、サイドシル1への荷重が軽減されてその剛性を有効に活用できない反面、センタピラー3の荷重負担が増大して早期に破断する問題が生じる。これに対して本実施形態では乗上げ現象を防止することにより、剛性面で余裕のあるサイドシル1への荷重負担が増大する一方、それほど剛性に余裕を有さないセンタピラー3の荷重負担が軽減されるため、サイドシル1の剛性を有効に活用できると共に、センタピラー3の早期破断を防止でき、これにより全体としての衝撃吸収作用を向上でき、もって側突により車体全体に及ぶ被害を大幅に軽減することができる。
【0045】
そして、この作用効果を得るための構成として、センタピラー3の下部の側部フランジ6cに乗上げ防止リブ21を形成しただけであり、しかも乗上げ防止リブ21はセンタピラー3のアルミダイカスト成型の際に同時に形成可能なため、例えばセンタピラー3を補強する従来技術のような重量増加やコストアップ等の問題を未然に回避することができる。
【0046】
一方、以上の説明から明らかなように、相手車両Aのセンタピラー3への衝突を防止すべく、乗上げ防止リブ21は前後方向でセンタピラー3に対応して設けることが望ましいが、この別例では、センタピラー3の側部フランジ6cに乗上げ防止リブ21を形成することにより、必然的に適切な前後位置に乗上げ防止リブ21を配置できる。よって、製造工程を合理化できるという利点も得られる。
【0047】
なお、乗上げ防止リブ21はセンタピラー3の下部に設ける代わりにサイドシル1の外側面1bに設けてもよく、以下、この別例を説明する。
図9は乗上げ防止リブ31をサイドシル1に設けた第2実施形態の別例を示す図6に対応する部分斜視図、図10は同じく第2実施形態の別例を示す図7に対応する断面図である。
【0048】
乗上げ防止リブ31は、サイドシル1の外側面1bに前後方向全体に亘って一体成型され、略水平に車外側に向けて突出して長手方向に同一断面形状をなしている。この別例においてもサイドシル1のアルミ押出し成型時に同時に乗上げ防止リブ31を形成でき、衝撃吸収作用に関しても、重複する説明はしないが第2実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0049】
また、前後方向全体に亘って乗上げ防止リブ31が一体形成されることでサイドシル1の曲げ剛性が一般的なサイドシルに比較して増加するため、乗上げ現象の防止に伴って増大した荷重負担に対しサイドシル1は容易に屈曲することなく側方からの荷重に対抗し、この要因も衝撃吸収作用の向上に貢献する。
なお、この別例の乗上げ防止リブ21を上記第2実施形態のものと同様にセンタピラー3に近傍のみに配置する場合には、サイドシル1の押出し成型後に乗上げ防止リブ31の不要箇所を切削或いは溶断すればよい。
【0050】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記第1及び第2実施形態ではアルミスペースフレーム構造の車両に適用したが、これは、靭性不足に起因して側突時に早期破断の傾向のあるアルミ製センタピラー3では、本発明の適用により顕著な改善効果が期待できるためであるが、本発明の適用対象は必ずしもアルミスペースフレーム構造に限定されるものではない。
【0051】
例えば、一般的なスチールモノコック構造の車両に具体化してもよく、この場合であっても各実施形態で説明した構成とすることにより、それぞれ対応する作用効果を得ることができる。具体的には、第1実施形態の場合には、サイドシル1及びセンタピラー3を鋼板よりプレス成型して、両部材1,3を第1実施形態で述べたボルト締結構造とすればよい。また、第2実施形態の場合には、図11に示すように、厚みを有する鋼板を断面L字状に折曲形成して乗上げ防止リブ41を製作し、鋼板をプレス成型したサイドシル1の外側面1bにスポット溶接或いはボルト固定すればよい。
【0052】
また、上記第1及び第2実施形態では異なる発想に基づく対策を個別に実施したが、第1実施形態のボルト8による締結構造と第2実施形態による乗上げ防止リブ21とを共に適用してもよく、この場合には双方の実施形態で述べた作用効果が同時に得られる。
また、上記第1実施形態では、センタピラー3の前部フランジ6a及び後部フランジ6bにスロット孔7を形成して、センタピラー3の下部の変位を許容したが、逆にサイドシル1の上面1aにスロット孔を形成することにより、センタピラー3の下部の変位を許容するようにしてもよい。
【0053】
また、上記第2実施形態では、車外側に向けて略水平に突出する一条の乗上げ防止リブ21を形成したが、乗上げ防止リブ21の形状はこれに限定されることはなく、例えば上下に2条または3条の乗上げ防止リブ21を併設してもよいし、乗上げ防止リブ21を斜め下方に向けて突出形成してもよい。さらに、乗上げ防止リブ21を前後方向に分断して複数の乗上げ防止リブ21としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】第1実施形態の側部車体構造が適用された車両の左側サイドシル及びセンタピラーを示す部分斜視図である。
【図2】同じくサイドシルとセンタピラーとの結合箇所を示す部分斜視図である。
【図3】同じくサイドシルとセンタピラーとの結合箇所を示す図2のIII−III線断面図である。
【図4】同じくサイドシルとセンタピラーとの結合箇所を示す図2のIV−IV線断面図である。
【図5】車両側突時のセンタピラーの変位状況を示す図4に対応する断面図である。
【図6】第2実施形態の側部車体構造が適用された車両の左側サイドシル及びセンタピラーを示す部分斜視図である。
【図7】同じくセンタピラーに設けた乗上げ防止リブを示す図6のVII−VII線断面図である。
【図8】車両側突時の乗上げ防止リブの作用を示す図7に対応する断面図である。
【図9】乗上げ防止リブをサイドシルに設けた第2実施形態の別例を示す図6に対応する部分斜視図である。
【図10】同じく第2実施形態の別例を示す図7に対応する断面図である。
【図11】第2実施形態の構成をスチールモノコック構造の車両に適用した別例を示す図7に対応する断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 サイドシル
1a 上面
1b 外側面
3 センタピラー
6a 前部フランジ(第1のフランジ部)
6b 後部フランジ(第1のフランジ部)
6c 側部フランジ(第2のフランジ部)
7 スロット孔
8 ボルト
8a 軸部
21,31,41 乗上げ防止リブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延設されたサイドシルの上面に対しセンタピラーの下部に形成した第1のフランジ部を重ね合わせ、該サイドシルの上面または第1のフランジ部の何れか一方にスロット孔を貫設し、該スロット孔を介して上記サイドシルの上面または第1のフランジ部の他方にボルトを螺合して上記サイドシル上に上記センタピラーの下部を締結し、上記スロット孔を車幅方向に延設して該スロット孔内で上記ボルトの軸部を移動可能とし、上記センタピラーへの側方からの荷重により、上記ボルトによる締結力に抗して上記サイドシルの上面と上記第1のフランジ部との間で滑りを生じながら、上記センタピラーの下部を車内側に変位可能としたことを特徴とする車両の側部車体構造。
【請求項2】
上記センタピラーの下部に上記サイドシルの外側面に重なる第2のフランジ部を形成したことを特徴とする請求項1記載の車両の側部車体構造。
【請求項3】
上記スロット孔の前後幅を上記ボルトの軸径より狭く設定したことを特徴とする請求項1または2記載の車両の側部車体構造。
【請求項4】
車両前後方向に延設されたサイドシルの上面に対しセンタピラーの下部を接合し、該サイドシルの外側面の少なくとも上記センタピラーの下部近傍に、車外側に向けて突出する断面形状をなして車両前後方向に延びる乗上げ防止リブを設けたことを特徴とする車両の側部車体構造。
【請求項5】
上記センタピラーはアルミダイカスト成型により製作され、該成型時に上記サイドシルの外側面に重なった上記センタピラーの下部に上記乗上げ防止リブが一体形成されたことを特徴とする請求項4記載の車両の側部車体構造。
【請求項6】
上記サイドシルはアルミ押出し成型により製作され、該成型時に上記サイドシルの外側面の前後方向全体に亘って上記乗上げ防止リブが一体形成されたことを特徴とする請求項4記載の車両の側部車体構造。
【請求項1】
車両前後方向に延設されたサイドシルの上面に対しセンタピラーの下部に形成した第1のフランジ部を重ね合わせ、該サイドシルの上面または第1のフランジ部の何れか一方にスロット孔を貫設し、該スロット孔を介して上記サイドシルの上面または第1のフランジ部の他方にボルトを螺合して上記サイドシル上に上記センタピラーの下部を締結し、上記スロット孔を車幅方向に延設して該スロット孔内で上記ボルトの軸部を移動可能とし、上記センタピラーへの側方からの荷重により、上記ボルトによる締結力に抗して上記サイドシルの上面と上記第1のフランジ部との間で滑りを生じながら、上記センタピラーの下部を車内側に変位可能としたことを特徴とする車両の側部車体構造。
【請求項2】
上記センタピラーの下部に上記サイドシルの外側面に重なる第2のフランジ部を形成したことを特徴とする請求項1記載の車両の側部車体構造。
【請求項3】
上記スロット孔の前後幅を上記ボルトの軸径より狭く設定したことを特徴とする請求項1または2記載の車両の側部車体構造。
【請求項4】
車両前後方向に延設されたサイドシルの上面に対しセンタピラーの下部を接合し、該サイドシルの外側面の少なくとも上記センタピラーの下部近傍に、車外側に向けて突出する断面形状をなして車両前後方向に延びる乗上げ防止リブを設けたことを特徴とする車両の側部車体構造。
【請求項5】
上記センタピラーはアルミダイカスト成型により製作され、該成型時に上記サイドシルの外側面に重なった上記センタピラーの下部に上記乗上げ防止リブが一体形成されたことを特徴とする請求項4記載の車両の側部車体構造。
【請求項6】
上記サイドシルはアルミ押出し成型により製作され、該成型時に上記サイドシルの外側面の前後方向全体に亘って上記乗上げ防止リブが一体形成されたことを特徴とする請求項4記載の車両の側部車体構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−51448(P2009−51448A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222175(P2007−222175)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【出願人】(000005256)株式会社アーレスティ (44)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【出願人】(000005256)株式会社アーレスティ (44)
【Fターム(参考)】
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