説明

車両用エアコンシステムの制御装置

【課題】電池を充放電に支障のない状態にする温度管理と車室内用エアコンに対する出力要求への対応とを両立させることができるようにした、車両用エアコンシステムの制御装置を提供する。
【解決手段】車室内用エアコンユニット30と、車載の走行用電池を冷却する電池冷却ユニット20と、車室内用エアコンユニット30及び電池冷却ユニット20に冷媒を供給する冷媒循環回路40とを備えた、車両用エアコンシステム1の制御装置であって、冷媒循環回路40に設けられ、車室内用エアコンユニット30への冷媒供給を遮断可能な電磁弁34と、電池の温度を検出する温度検出手段12と、車室内用エアコンユニット33及び電池冷却ユニット23が共に作動しているときに、温度検出手段12により検出された電池温度が、常用温度域よりも一定以上高い温度として規定された上限温度以上に上昇したら、電磁弁34を閉鎖する制御手段50と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された走行用電池を車室内用エアコンの冷媒を用いて冷却するシステムの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンとモータとを駆動源とするハイブリッド車(HEV)やモータを駆動源とする電気自動車(EV)は、モータにより回生充電できる二次電池(以下、単に電池ともいう)を搭載し、モータ走行時には、電池を放電することでモータに電力を供給する。この電池には、高出力の走行用モータを駆動するため、高電圧で大容量なものが適用される。
この電池の充放電は、化学反応により行なわれ、この化学反応が発熱を伴う。車両の走行中は充放電が繰り返され、発熱量も大きいため冷却する必要がある。一般的な電池の特性として、電池の温度が過剰に高い状態で充放電を行なうと電池の劣化が進み、また、電池の温度が過剰に低い状態で充放電を行なっても電池の劣化が進む。通常、電池の温度が過剰に高くなったり過剰に低くなったりすると、充放電量を規制したり充放電を禁止したりして、電池の保護を図らなければならず、車両の走行に支障をきたす。このため、車両に搭載された電池に関する温度管理が必要となる。
【0003】
上述のように充放電時の発熱を考えると、電池の温度管理において、電池の温度が過剰に高くならないように管理することが重要となる。
そこで、このような車載の電池を冷却する技術が開発されているが、電池を冷却するための装置のコストを抑えて、車両価格の高騰を抑えることが必要であり、種々の技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、車室内用のエアコンから送風される冷気を電池等の蓄電機構に導入して冷却する技術が開示されている。また、電池の温度と外気温と車室内エアコンの設定温度とが、それぞれ所定の温度以上である場合には、電池を冷却するブロアの回転数を上昇させて、車室内エアコンの冷却風を電池に導入して冷却することも開示されている。
【0005】
一方、特許文献2には、走行用電池を冷却する電池冷却ユニットと車室内を空調する車室内用エアコンユニットとを並列に配置して共通の冷媒を用いるようにした装置が開示されている。
特許文献1の技術では、電池を冷却する冷却風は、車室内温度に依存しており、車室内エアコン制御と電池の冷却制御とを独立して制御することができないが、特許文献2の技術では、室内エアコンと電池の冷却とに冷媒を共用しているが、それぞれの冷却風は個別に制御できるので、車室内用エアコン制御と電池の冷却制御とを独立して制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許2007−171098号公報
【特許文献2】特許2003−279180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、電池冷却ユニットと車室内用エアコンユニットとで冷媒を共用する構成では、例えば、外気温が高温の場合などに、電池冷却ユニットの冷媒供給要求と車室内用エアコンユニットの冷媒供給要求とが共に大きくなると、両ユニットの要求に対応できなくなることが考えられる。
もちろん、冷媒循環回路の圧縮機,コンデンサ,冷却ファン等を十分な容量のものにすれば、常に両ユニットの要求に対応できるが、冷媒循環回路系統にかかる装置コストや装置重量の増加を招くほか、車両の場合、設置スペースが限られるため冷媒循環回路の設計自由度が下がり、重量増による燃費悪化も招いてしまう。したがって、限られた冷媒供給能力であっても、電池冷却ユニットと車室内用エアコンユニットとに効果的に冷媒を共用する制御が要求される。
【0008】
この場合、特に、電池の温度が適正に管理されないと、電池の充放電量を規制したり充放電を禁止したりして電池の保護を図らなければならず、車両の走行に支障をきたし、車両の走行ができなくなるおそれがあるので、電池冷却ユニットについては、電池の温度を常に充放電に支障のない状態に管理することが重要である。逆に、電池が適切に温度管理される限りは、車両の乗員の車室内用エアコンユニットへの作動要求に対して、可能な限り対応できるようにしたい。
【0009】
本発明は、上述の課題を鑑み創案されたもので、電池冷却ユニットと車室内用エアコンユニットとで冷媒を共用しながら、限られた冷媒供給能力であっても電池を充放電に支障のない状態にする温度管理と車室内用エアコンに対する出力要求への対応とを両立させることができるようにした、車両用エアコンシステムの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の車両用エアコンシステムの制御装置は、車室内用エアコンユニットと、車載の走行用電池を冷却する電池冷却ユニットと、前記車室内用エアコンユニット及び前記電池冷却ユニットに冷媒を供給する冷媒循環回路とを備えた、車両用エアコンシステムを制御する制御装置であって、前記冷媒循環回路に設けられ、前記車室内用エアコンユニットへの冷媒供給を遮断可能な電磁弁と、前記電池の温度を検出する温度検出手段と、前記車室内用エアコンユニット及び前記電池冷却ユニットが共に作動しているときに、前記温度検出手段により検出された電池温度が、常用温度域よりも一定以上高い温度として規定された上限温度以上に上昇したら、前記電磁弁を閉鎖する制御手段と、を備えていることを特徴している。
【0011】
また、前記電池冷却ユニットは、電池冷却用エバポレータと、電池冷却用ブロアとを備えると共に、前記車室内用エアコンユニットに、急速冷房要求をする急冷要求手段が備えられ、前記制御手段は、前記温度検出手段により検出された電池温度が、前記常用温度域にある場合には、前記急冷要求手段が前記急速冷房要求を行なっていれば、前記電池冷却用ブロアの作動を制限することが好ましい。
【0012】
また、前記車室内用エアコンユニットは、エアコン用エバポレータと、エアコン用ブロアとを備えると共に、前記車室内用エアコンユニットによる冷気の取入れを内気モードと外気モードとに切り換える内外気モード切替手段を備え、前記制御手段は、前記温度検出手段により検出された電池温度が、前記常用温度域よりも高く前記上限温度未満にある場合には、前記内外気モード切替手段を前記内気モードに設定すると共に、前記エアコン用ブロアの作動を制限することが好ましい。
【0013】
また、前記冷媒循環回路に設けられ、前記電池冷却ユニットへの冷媒供給を遮断可能な第2電磁弁をさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車両用エアコンシステムの制御装置によれば、冷媒をすべて電池冷却ユニットに供給することができ、最大限電池を冷却することができ、電池の温度管理を適切に行なって電池の充放電を何ら規制せずに行なうことができる。
つまり、電池は、その温度が過剰に高くなると充放電を規制しなくては劣化が進んでしまうので、充放電を規制せずに使用できるように温度を管理したい。通常は、充放電を規制しなくてはならない温度よりも十分に低い温度域を常用温度域として設定し、この温度域であれば、車室内用エアコンユニットを規制することは不要であるが、規制開始温度に接近したら、電池の冷却を優先する必要が生じる。
【0015】
そこで、電池温度について上限温度を設定し、電池温度が上限温度以上に上昇したら、電磁弁を閉鎖し、冷媒をすべて電池冷却ユニットに供給して、最大限電池を冷却することができるようにして、電池温度を規制開始温度に上昇しないようにすれば、充放電を規制する必要は生じない。これにより、電池の電力を用いた車両の走行や、電池への充電を何ら規制せずに行なうことができる。
【0016】
また、温度検出手段により検出された電池温度が、常用温度域にある場合には、急冷要求手段が急速冷房要求を行なっていれば、電池冷却用ブロアの作動を制限することにより、車室内を優先して冷却することができる。この車室内を優先して冷却している場合でも、電池温度は常用温度域にあるため、支障なく電池を充放電できる。
また、温度検出手段により検出された電池温度が、常用温度域よりも高く上限温度未満にある場合には、内外気モード切替手段を内気モードに設定すると共に、エアコン用ブロアの作動を制限することにより、車室内の冷却を可能としながら、電池を優先して冷却することができる。
【0017】
また、温度検出手段により検出された電池温度が常用温度域内にある場合には、急冷要求手段が急速冷房要求を行なっていれば、第2電磁弁を閉鎖し、冷媒をすべて車室内用エアコンユニットに供給して、最大限車室内を冷却することがきる。このとき、電池温度は常用温度域内にあるので、電池を冷却する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態にかかる車両用エアコンシステムを示す冷媒循環回路図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる車両用エアコンシステムの制御装置を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる車両用エアコンシステムの制御における電池冷却制御を示すサブルーチンを説明するフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態にかかる車両用エアコンシステムの制御を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。図1は車両用エアコンシステムを示す冷媒循環回路図、図2は、車両用エアコンシステムの制御装置を示すブロック図、図3は車両用エアコンシステムの制御における電池冷却制御を示すサブルーチンを説明するフローチャートである。図4は車両用エアコンシステムの制御装置の動作を説明するフローチャートである。
[構成]
本実施形態にかかる車両用エアコンシステムは、モータを駆動源とする電気自動車(EV)或いはエンジン(内燃機関)とモータ(電動機)とを駆動源とするハイブリッド車(HEV)に適用される。特に、電池冷却ユニットは、走行用のモータに電力を供給する二次電池(以下、単に電池ともいう)を冷却するために装備される。
【0020】
以下、本車両用エアコンシステムの構成、その制御装置の構成、その作用・効果について順に説明する。
(車両用エアコンシステムの構成)
まず、本実施形態にかかる車両用エアコン(エアーコンディショナ)システムの構成を説明する。
【0021】
図1に示すように、本車両用エアコンシステム1は、電池ケース10内に配設された電池冷却ユニット20と、車両の車室内を空調する車室内用エアコンユニット30と、これらのユニット20,30に冷媒を供給する冷媒循環回路40とを備えている。
冷媒循環回路40は、冷媒を流通する配管40a,40b,40cを備えている。
配管40aは、各ユニット20,30に共用され、この配管40aには、圧縮機41と、冷却ファン43を付設されたコンデンサ42とが介装されている。圧縮機41により冷媒を液化し、コンデンサ42により冷媒の液化を促進すると共に冷却して、電池冷却ユニット20および車室内用エアコンユニット30に供給するようになっている。
【0022】
配管40b,40cは互いに並列に配置され、いずれも配管40aに接続される。配管40bには、電池冷却ユニット20が介装され、配管40cには、車室内用エアコンユニット30が介装されている。
電池ケース10内には、力行時に走行用モータに給電して制動時に回生充電可能な高電圧二次電池(電池)11が密封収納されている。なお、本実施形態では、電池11は、低電圧の電池セル11a〜11nが複数直列に接続されて高電圧電池として構成されている。なお、本実施形態では、電池11は、低電圧の電池セル11a〜11nが複数直列に接続されて高電圧電池として構成されている。
【0023】
電池冷却ユニット20は、この電池11が密封収納された空間内に冷気を送り電池11を冷却する。この電池冷却ユニット20は、内部の冷媒の気化に伴う吸熱により雰囲気を冷却する電池冷却用エバポレータ21と、電池冷却用エバポレータ21に送風して冷却空気を電池11が密封収納された空間内に供給する電池冷却用ブロア23とを備えている。配管40bの電池冷却用エバポレータ21への冷媒流入部には減圧装置22が介装され、減圧された冷媒がエバポレータ21に導入されるようになっている。
【0024】
車室内用エアコンユニット30は、内部の冷媒の気化の伴う吸熱により雰囲気を冷却する車室内用エバポレータ31と、車室内用エバポレータ31に送風して冷却空気を車室内に供給する車室内用ブロア33とを備えている。配管40cの車室内用エバポレータ31への冷媒流入部には、減圧装置32が介装され、減圧された冷媒がエバポレータ31に導入されるようになっている。
【0025】
なお、電池ケース10内には、電池温度センサ(温度検出手段)12が配備されている。また、配管40cの車室内用エバポレータ31への冷媒流入部で減圧装置32の上流には、電磁式の開閉弁である電磁弁34が介装されている。
この車両には、車室内用エアコンユニット30に急速冷房を要求するためのマックススイッチ(急冷要求手段)60が装備される。このマックススイッチ60は、車両乗員が車室内の急速冷房要求しうる車室内のコントロールパネル等に設けられた独立したスイッチである。なお、急冷要求手段としては、マックススイッチ60に限定されない。車室内温度や車両乗員により操作される車室内エアコンの設定温度,設定風量に基づいて所定の条件を満たした場合、急冷要求がされたものとして、前記の所定の条件を入力する手段(例えば車室内エアコンの設定ボタン,車室内温度を検出する温度センサと前記設定ボタンとの組み合わせ)を急冷要求手段としてもよい。この場合、前記の所定の条件が成立しているか否かが、後述するマックススイッチ60のオンオフ状態に対応する。
【0026】
さらに、車室内用エアコンユニット30の車室内用ブロア33の上流の導入ダクト71には、内気(車室内の循環空気)導入する内気モードと外気(車室外の空気)導入する外気モードとで切り替えるモードダンパ(内外気モード切替手段)70が装備されている。
これらの電池温度センサ12,電磁弁34,マックススイッチ60及びモードダンパ70は、本制御装置に関連する構成要素であるが、これらの詳細については、以下の制御装置の構成の説明で詳述する。
(制御装置の構成)
実施形態にかかる車両用エアコンシステムの制御装置は、図2に示すように、電池温度センサ12と、マックススイッチ60と、電池温度センサ12,マックススイッチ60からの情報に基づいて、電磁弁34,モードダンパ70,電池冷却用ブロア23,車室内用ブロア33を制御する制御用コンピュータ(制御手段)50と、から構成されている。
【0027】
制御用コンピュータ50は、CPU,ROM,RAM,入出力回路等からなるコンピュータであって、適宜の機器類が付設又は接続されている。
制御用コンピュータ50には、電池温度センサ12で検出された電池温度Tbrの検出信号が入力される。
電池温度センサ12により検出する電池温度Tbrとしては、各電池の内部温度を直接把握したいが、この検出は困難なため、各電池の内部温度に近い温度を検出するものとする。例えば、複数の電池セル11a〜11nのそれぞれについての表面温度であれば計測可能であり、この電池セルの表面温度を、電池温度Tbrとして扱うことができる。この場合、各電池セル11a〜11nのそれぞれの表面温度を電池温度Tbrとして検出し、何れの検出情報も制御用コンピュータ50に入力するように構成する。
【0028】
制御用コンピュータ50では、各電池セル11a〜11nの電池温度Tbrに基づいて、制御パラメータとしての代表電池温度Tbを設定する。この代表電池温度Tbの設定手法は、下記のようにいくつか考えられる。
(1)各電池温度Tbrの最高温度のものを代表電池温度Tbとする。
(2)各電池温度Tbrの平均を代表電池温度Tbとする。
(3)各電池温度Tbrの最高温度のものから上位所定数を平均したものを代表電池温度Tbとする。
【0029】
(1)の設定手法は、電池セル11xの配設位置による電池冷却用ブロア23の冷却風による冷却効果のばらつきや、電池セル11xの個体差による各電池温度Tbrにばらつきがある場合であっても、「各電池温度Tbrの最高温度のものを代表電池温度Tbとする」ため、何れの電池セル11xの充放電を規制せずに電池の劣化が進むのを防ぐことができる。
【0030】
(2)の設定手法は、電池温度Tbrにばらつきが少ない場合に、「各電池温度Tbrの平均を代表電池温度Tbとする」ため、一部の電池温度センサ12の故障により検知温度が過剰に高く検出された場合でも、電池冷却の過度な優先を抑制することができる。車室内用エアコンユニットに対する出力要求とを両立させることができる。
(3)の設定手法は、電池温度Tbrに多少のばらつきがある場合であっても、「各電池温度Tbrの最高温度のものから上位所定数を平均したものを代表電池温度Tbとする」ため、各電池セル11a〜11nの安全性の確保と、車室内用エアコンユニットに対する出力要求とを両立させることができる。
【0031】
この代表電池温度Tbの設定方法は、例えば、冷却風の届きにくい場所に配置される等で複数の電池セル11a〜11nのうち最も冷却効果の低い特定の電池セル11xの表面温度Tbrを代表電池温度Tbとしてもよい。このように特定の電池セル11xの表面温度Tbrを代表電池温度Tbとすると、電池温度センサ12を一つ配設すればよいので、製造コストを抑え、簡素な構成とすることができる。
【0032】
また、電池温度Tbrとしては、電池セル11a〜11nの表面温度に換えて、(1)電池11xの収容される空間の温度を適用してもよく、(2)電池ケース10内に予め設定された電池11の周辺温度として、電池ケースの端等の冷却風の届きにくい場所の温度をケース内温度Tbrとしてもよい。ケース内温度Tbrおよび周辺温度Tbrは、実際の電池温度Tbrと相関し対応するため、置換することができる。
【0033】
また、制御用コンピュータ50には、マックススイッチ60のオンオフ状態を示す操作信号が入力される。
制御用コンピュータ50のメモリ或いは制御用コンピュータ50に付設された外部メモリには、電池11の充放電が規制される規制開始温度Tb1と、充放電が規制される規制開始温度Tb1より十分に低い温度域の常用温度域(常用温度域上限温度Tb3と常用温度域下限温度Tb4とで規定される温度帯)と、規制開始温度Tb1と常用温度域上限温度Tb3との間の温度であって、電池11の冷却を優先する上限温度Tb2とが予め設定され記憶されている。すなわち、これらの温度Tb1〜Tb4の高低関係は、Tb1(規制開始温度)>Tb2(上限温度)>Tb3(常用温度域上限温度)>Tb4(常用温度域下限温度)となっている。
【0034】
制御用コンピュータ50は、電磁弁34については開閉制御し、モードダンパ70については外気導入モードと内気導入モードとの切替え制御をし、電池冷却用ブロア23及び車室内用ブロア33についてはそれぞれブロアの回転数を制御する。
電磁弁34は、電池温度Tbが上限温度Tb2以上である場合には、エアコン用エバポレータ31への冷媒を遮断するべく開閉弁である電磁弁34を閉じる。また、車室内用エアコン制御要求がされていない場合に電磁弁34を閉じる。
【0035】
モードダンパ70は、電池温度Tbが常用温度域上限温度Tb3以上であって上限温度Tb2未満の場合には、外気導入ダクト71bを封止して車室内の空気が循環するように内気導入ダクト71aの空気を流通させる。
電池冷却用ブロア23は、電池温度Tbが常用温度域上限温度Tb3未満であってマックススイッチ60がオン状態の場合には、冷却風の吐出量を抑制するために運転を抑制される。吐出量の抑制は、ブロアの回転数を低下させて制御される。この回転数の低下は、例えば、ブロア全開運転時の回転数の半分に設定する。
【0036】
なお、電池の冷却は、電池温度Tbが予め設定されたブロア運転開始温度Tb5以上になったら実施(オン)し、予め設定されたブロア運転停止温度Tb6未満になったら終了(オフ)するようになっている。この電池冷却のオンオフ制御は電池冷却用ブロア23のオンオフ制御によって行なう。ブロア運転開始温度Tb5及びブロア運転停止温度Tb6は、常用温度域(常用温度域下限温度Tb4と常用温度域上限温度Tb3とので規定される温度帯)内の値として予め設定される。ブロア運転停止温度Tb6はブロア運転開始温度Tb5よりも低く設定されており、このように制御閾値にヒステリシスを設けることにより制御を安定させている。したがって、これらの温度Tb3〜Tb6の高低関係は、Tb3(常用温度域上限温度)>Tb5(ブロア運転開始温度)>Tb6(ブロア運転停止温度)>Tb4(常用温度域下限温度)となっている。
【0037】
車室内用ブロア33の作動については、電池温度Tbが常用温度域上限温度Tb3以上かつ上限温度Tb2未満であって内気モードの場合には、ブロア回転数を低下する。例えば、車室内エアコン制御の操作スイッチ(設定風量)の操作量に対応するブロア回転数を半減させるか、または、ブロア全開運転時の回転数の半分に制限する。
[作用及び効果]
まず、本実施形態にかかる車両用エアコンシステムの制御装置の動作(作用)について説明する。
【0038】
電池冷却制御は、図3のフローチャートに示すようにステップS1〜S7により行なわれる。図示しない車両エンジンのイグニッションスイッチを入れるとスタートする。また、イグニッションスイッチが切られるまで所定の制御周期で周期的に以下のステップS1〜S7を実施する。電池冷却を行なっている場合にフラグFbc=1とし、電池冷却を行なっていない場合にフラグFbc=0とする。まず、Fbc=1であるかを判定する(ステップS1)。フラグFbc=1でない場合には、電池温度Tbがブロア運転開始温度Tb5以上であるかを判定する(ステップS2)、電池温度Tbがブロア運転開始温度Tb5以上の場合には、フラグFbc=1にする(ステップS3)。そして、電池冷却用ブロア23の運転を開始し電池冷却オンとする(ステップS4)。電池温度Tbがブロア運転開始温度Tb5未満の場合にはリターンする。フラグFbc=1である場合には、電池温度Tbがブロア運転停止温度Tb6未満であるかを判定する(ステップS5)、電池温度Tbがブロア運転停止温度Tb6未満の場合には、フラグFbc=0にする(ステップS6)。そして、電池冷却用ブロア23の運転を開始し電池冷却オフとする(ステップS7)。電池温度Tbがブロア運転停止温度Tb6以上の場合にはリターンする。
【0039】
次に、車両用エアコンシステムの制御は図4のフローチャートに示すように、図示しない車両エンジンのイグニッションスイッチを入れると車両用エアコンシステムの制御がスタートする。また、イグニッションスイッチが切られるまで周期的に以下のステップS10〜S410を実施する。まず、上述の電池冷却オン(作動中)か否かを判定する(ステップS10)。車室内エアコンがオン(作動中)か否かを判定する(ステップS20)。これらのステップS10およびステップS20の工程は、同時であっても前後逆であってもよい。次に、車室内エアコンがオン(作動中)の場合には、電池温度Tbが上限温度Tb2以上であるかを判定する(ステップS30)。電池温度Tbが上限温度Tb2以上の場合には、電磁弁34を遮断して、車室内用エアコンユニット30への冷媒供給を停止し(ステップS40)、電池冷却用ブロア23を全開運転させる(ステップS50)。なお、電磁弁34は制御を受けない場合には冷媒を流通させる常開式の開閉弁とする。
【0040】
電池温度Tbが上限温度Tb2未満の場合には、電磁弁34を開いて、車室内用エアコンユニットに冷媒を流通させ(ステップS100)、電池温度Tbが常用温度域上限温度Tb3以上であるかを判定する(ステップS110)。電池温度Tbが常用温度域上限温度Tb3以上の場合には、内気モードであるかを判定する(ステップS120)。内気モードでないと判定された場合には、モードダンパ70を作動させ、内気モードに切り替える(ステップS130)。そして、車室内用ブロア33の回転を低下させる(ステップS140)。
【0041】
電池温度Tbが常用温度域上限温度Tb3未満の場合には、マックススイッチ60がオン状態であるかを判定する(ステップS200)。マックススイッチ60がオン状態の場合には、電池冷却用ブロア23の運転を抑制する(ステップS210)。マックススイッチ60がオフ状態の場合には、電池冷却用ブロア23を全開運転させる(ステップS310)。
【0042】
電池冷却がオフ(非作動)の場合には、電磁弁34を開いて冷媒を車室内用エアコンユニットに冷媒を流通させ(ステップS400)、室内エアコン制御の操作スイッチ(設定温度、設定風量等)の操作量に応じて車室内用ブロア23を通常運転する(ステップS410)。
また、車室内エアコンがオフ(非作動)の場合には、電磁弁34を遮断して車室内用ユニット30への冷媒の供給を停止し(ステップS300)電池冷却用ブロア23を全開運転させる(ステップS310)。
【0043】
なお、図4に示す例では、各温度閾値を制御開始と終了とで同一にして説明したが、制御の安定性を考慮すると図3に示す例と同様に、電池温度Tbの上昇を判定する閾値に対して、電池温度Tbの下降を判定する閾値を微小量だけ低下させることも好ましい。
したがって、本実施形態にかかる車両用エアコンシステムの制御装置によれば、以下のような効果を奏する。
【0044】
本車両用エアコンシステムの制御装置によれば、電池温度Tbが上限温度Tb2以上の場合または車室内エアコン制御要求がされていない場合には、制御用コンピュータ50により電磁弁34を遮断して冷媒をすべて電池冷却ユニットに供給することができ、最大限電池を冷却することができ、電池11の温度管理を適切に行なって電池11の充放電を何ら規制せずに行なうことができる。
【0045】
つまり、電池11は、電池温度Tbが過剰に高くなると充放電を規制しなくては劣化が進んでしまうので、充放電を規制せずに使用できるように温度を管理したい。通常は、充放電を規制しなくてはならない温度よりも十分に低い温度域を常用温度域として設定し、この温度域であれば、車室内用エアコンユニットを規制することは不要であるが、規制開始温度Tb1に接近したら、電池11の冷却を優先する必要が生じる。
【0046】
本装置では、電池温度Tbについて上限温度Tb2を設定し、電池温度Tbが上限温度Tb2以上に上昇したら、電磁弁34を閉鎖し、冷媒をすべて電池冷却ユニット23に供給して、最大限電池を冷却することができるようにして、電池温度Tbを規制開始温度Tb1に上昇しないようにすれば、充放電を規制する必要は生じない。これにより、電池11の電力を用いた車両の走行や、電池11への充電を何ら規制せずに行なうことができる。
【0047】
また、電池温度センサ12により検出された電池温度Tbrに基づいて設定される電池温度Tbが、常用温度域にある場合には、マックススイッチ60がオン状態であれば、電池冷却用ブロア23の作動を制限する。このため、電池冷却用エバポレータ31における冷媒の気化に伴う吸熱を抑制することで、相対的に車室内エアコンユニット30の冷媒の吸熱効率を向上することで、車室内を優先して冷却することができる。この車室内を優先して冷却している場合、電池温度Tbは常用温度域にあるため、充放電を何ら規制することなく、支障なく電池11を充放電できる。電池温度Tbがブロア運転開始温度Tb5よりも高い場合には、作動が制限された電池冷却用ブロア23により電池11を冷却する。電池温度Tbがブロア運転停止温度Tb6よりも低い場合には、電池冷却ブロア23による電池11の冷却は行なわず、より相対的に車室内エアコンユニット30の冷媒の吸熱効率を向上して、車室内を優先して冷却することができる。限られた冷媒供給能力であっても、各ユニット20,30それぞれの冷媒の吸熱効率を制御することができ、電池を充放電に支障のない状態にする温度管理と車室内用エアコンに対する出力要求への対応とを両立できる。
【0048】
また、電池温度センサ12により検出された電池温度Tbrに基づいて設定される電池温度Tbが、常用温度域よりも高く上記上限温度Tb2未満にある場合には、モードダンパ70により内気モードに設定すると共に、車室内用ブロア33の作動を制限することにより、車室内の冷却を可能としながら、電池11を優先して冷却することができる。限られた冷媒供給能力であっても、各ユニット20,30それぞれの冷媒の吸熱効率を制御することができ、電池を充放電に支障のない状態にする温度管理と車室内用エアコンに対する出力要求への対応とを両立できる。
【0049】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0050】
車両用エアコンシステムの制御は、制御用コンピュータ50による一括制御ではなく、電池冷却用ユニット20および車室内用エアコンユニット30にそれぞれユニット制御するユニット制御用マイコン(マイクロコンピュータ)を備え、これらのユニット制御用マイコンを制御用コンピュータ50が統合制御してもよい。
例えば、電磁弁34は、開閉式の電磁弁に換えて、電磁比例流量制御弁等の開度調整可能な電磁弁34としてもよい。また、制御用コンピュータ50は、電池温度Tbが常用温度域上限温度Tb2から上限温度Tb3に近づくに従って電磁弁34の開度を徐々に絞る制御をするようにしてもよい。これらの構成によると、電池11の冷却優先を徐々に行なうため、車室内用エアコンユニットの冷却効果が急激に変化することを防ぐことができる。また、電池温度Tbが上限温度Tb2以上であれば、電磁弁34は遮断状態とされるため、冷媒をすべて電池冷却ユニット23に供給して、最大限電池を冷却することができるようにして、電池温度Tbを規制開始温度Tb1に上昇しないようにすれば、充放電を規制する必要は生じない。これにより、電池11の電力を用いた車両の走行や、電池11への充電を何ら規制せずに行なうことができる。
【0051】
電池冷却ブロア23の運転の抑制によるブロアの回転数低下制御は、ブロア全開運転時の回転数の全域に亘ってされてもよい。また、車室内用ブロア33の回転数の低下される制御は、ブロア全開運転時の回転数の全域に亘ってされてもよい。これらの制御によれば、より限られた冷媒供給能力であっても、各ユニット20,30それぞれの冷媒の吸熱効率を制御することができ、電池を充放電に支障のない状態にする温度管理と車室内用エアコンに対する出力要求への対応とを両立できる。
【0052】
さらに、図1に二点鎖線で示すように、電磁弁(第2電磁弁)24を配管40bに介装してもよい。電池温度Tbが常用温度域上限温度Tb3未満の場合であって、マックススイッチ60がオン状態の場合には、電池冷却用ブロア23の運転の抑制に替えて、電池温度Tbがブロア運転停止温度Tb6より小さくなった場合に、電池冷却用エバポレータ31への冷媒を遮断するべく電磁弁24を閉じてもよい。この構成によると、車室内冷却をより効率的に優先することができる。なお、この電磁弁24は、開度調整可能な電磁弁24として電池温度Tbがブロア運転停止温度Tb6に近づくに従って電磁弁24を絞ることとしてもよい。この構成によると、車室内冷却を徐々に効率的に優先することができ、車室内用エアコンユニットの冷却効果が急激に変化することを防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、エンジンとモータとを駆動源とするハイブリッド車両(HEV)やモータを駆動源とする電気自動車両(EV)に適用できる。
【符号の説明】
【0054】
1 車両用エアコンシステム
10 電池ケース
11 電池
12 電池温度センサ
20 電池冷却ユニット
21 電池冷却用エバポレータ
23 電池冷却用ブロア
24 電磁弁(第2電磁弁)
30 車室内用エアコンユニット
31 車室内用エバポレータ
33 車室内用ブロア
34 電磁弁
40 冷媒循環回路
41 圧縮機
42 コンデンサ
50 制御用コンピュータ(制御手段)
60 マックススイッチ(急冷要求手段)
70 モードダンパ(内外気モード切替手段)
71 導入ダクト
71a 内気導入ダクト
71b 外気導入ダクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内用エアコンユニットと、車載の走行用電池を冷却する電池冷却ユニットと、前記車室内用エアコンユニット及び前記電池冷却ユニットに冷媒を供給する冷媒循環回路とを備えた、車両用エアコンシステムの制御装置であって、
前記冷媒循環回路に設けられ、前記車室内用エアコンユニットへの冷媒供給を遮断可能な電磁弁と、
前記電池の温度を検出する温度検出手段と、
前記車室内用エアコンユニット及び前記電池冷却ユニットが共に作動しているときに、前記温度検出手段により検出された電池温度が、常用温度域よりも一定以上高い温度として規定された上限温度以上に上昇したら、前記電磁弁を閉鎖して前記車室内用エアコンユニットへの冷媒供給を遮断する制御手段と、を備えている
ことを特徴とする、車両用エアコンシステムの制御装置。
【請求項2】
前記電池冷却ユニットは、電池冷却用エバポレータと、電池冷却用ブロアとを備えると共に、
前記車室内用エアコンユニットに、急速冷房要求をする急冷要求手段が備えられ、
前記制御手段は、前記温度検出手段により検出された電池温度が、前記常用温度域にある場合には、前記急冷要求手段が前記急速冷房要求を行なっていれば、前記電池冷却用ブロアの作動を制限する
ことを特徴とする、請求項1記載の車両用エアコンシステムの制御装置。
【請求項3】
前記車室内用エアコンユニットは、エアコン用エバポレータと、エアコン用ブロアとを備えると共に、
前記車室内用エアコンユニットによる冷気の取入れを内気モードと外気モードとに切り替える内外気モード切替手段を備え、
前記制御手段は、前記温度検出手段により検出された電池温度が、前記常用温度域よりも高く前記上限温度未満にある場合には、前記内外気モード切替手段を前記内気モードに設定すると共に、前記エアコン用ブロアの作動を制限する
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の車両用エアコンシステムの制御装置。
【請求項4】
前記冷媒循環回路に設けられ、前記電池冷却ユニットへの冷媒供給を遮断可能な第2電磁弁をさらに備える
ことを特徴とする請求項1〜3記載の車両用エアコンシステムの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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