説明

車両用シートバック

【課題】 簡単な構成で厚さを低減できる車両用シートバックを提供する。
【解決手段】
車両用シートバック1は、シートバックフレーム10と、シートバックフレーム10の前側に配置された弾性を有する前側パッド20と、シートバックフレーム10の後側に配置された弾性を有する後側パッド30とを備えている。後側パッド30は、ポリプロピレンビーズの発泡成形品からなり、その発泡倍率は15〜30倍である。後側パッド30は、前側パッド20より遥かに硬く、両パッド20,30は前後に対峙している。この車両用シートバック1にSばねは装備されていない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートバックの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用シートバックは、例えば特許文献1に示すように、シートバックフレームと、このシートバックフレームの前側に配置されたウレタンフォームからなるパッドとを備えている。シートバックフレームの左右のサイドフレーム部間には複数のS字ばねが掛け渡されている。乗員からの荷重がシートバックに掛かると、この荷重をパッドを介してS字ばねで受け止めるようになっている。
【特許文献1】特開2004−66931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来構造では、乗員からの荷重が大きい場合にS字ばねが後方へ大きく撓むため、この撓み代を考慮してシートバックの厚さが決定されることになり、シートバックの厚さが大となる欠点があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、シートバックフレームと、このシートバックフレームの前側に配置された弾性を有する前側パッドとを備えた車両用シートバックにおいて、上記シートバックフレームの後側に、弾性を有し上記前側パッドより硬い後側パッドが設けられ、上記前側パッドと後側パッドが対峙していることを要旨とする。上記構成によれば、乗員からの後方への荷重が大きい場合に、この荷重を前側パッドを介して後側パッドで受け止める。従来のシートバックのようなS字ばねを設けていないので、シートバックの厚さを減少させることができる。後側パッドは弾性を有しているので、乗員に大きな負担をかけない。また、この後側パッドは前側パッドより硬いので、形状保持性を確保できるとともに、荷重負担能力を高めることができる。
【0005】
好ましくは、上記前側パッドと後側パッドにおける乗員からの荷重を受ける領域間には、空隙が形成されている。これにより、通常時には乗員からの荷重を前側パッドだけで受け止めることができ、乗員に快適性を与えることができる。
【0006】
好ましくは、上記前側パッドと後側パッドのほぼ全周縁部が互いに接しており、その内側に上記シートバックフレームが配置されている。これによれば、シートバックフレームの露出を無くすことができ、しかも前側パッドと後側パッドのシートバックフレームへの組み込み作業を簡単にすることができる。
【0007】
好ましくは、上記後側パッドがポリプロピレンビーズの発泡成形品からなり、このポリプロピレンビーズの発泡倍率が15〜30倍である。発泡倍率が15倍以上であるので、乗員に苦痛を与えない程度の弾性を得ることができ、しかも発泡倍率が30倍以下であるので、形状保持性,荷重負担能力を確保できる。
【0008】
好ましくは、上記前側パッドはカバーにより前面を覆われており、このカバーは、前側パッドと後側パッドの上縁部および左右縁部を回りこんで、後側パッドの背面に形成された固定溝に挿入固定されている。これによりカバーの端末処理を簡単に行なうことができる。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明によれば、シートバックを簡単かつ安価な構成にすることができ、しかも厚さを減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態をなす車両用シートバックについて図面を参照しながら説明する。図1に示すように、シートバック1は、シートバックフレーム10(以下、単にフレームと称す)と、フレーム10の前側に配置された前側パッド20と、フレーム10の後側に配置されて後側パッド30と、カバー40(図4,図5にのみ示す)と、トレイ50(補強板)を備えている。
【0011】
図1,図2に示すように、上記フレーム10は、起立した細長い板形状をなす左右のサイドフレーム部11と、逆U字状のパイプからなり両脚部が左右サイドフレーム部11の上端部に固定されたアッパーフレーム部12と、真っ直ぐに水平に延びるパイプからなり左右のサイドフレーム部11の下端部間に掛け渡されたロアフレーム部13とを有している。
【0012】
上記サイドフレーム11の下端部は、ヒンジ機構を介してシートクッション(図示しない)に連結されており、これによりシートバック1は角度調節が可能となっている。
また、上記アッパーフレーム部12の水平部には、ヘッドレスト(図示しない)のステーを挿入支持するための一対の筒状サポート14が、左右に分かれて固定されている。
【0013】
上記前側パッド20は単一のポリウレタンフォームの成形品からなり、乗員A(図5にのみ示す)からの荷重を受ける中央の広い領域21(ほぼ左右サイドフレーム部11の内側の領域に相当する)と、上縁部22,下縁部23および左右縁部24を有している。上縁部22,左右縁部24は、受荷重領域21より前方へ突出している。
【0014】
上記後側パッド30は単一のポリプロピレンビーズの発泡成形品(樹脂発泡成形品)からなる。このポリプロピレンビーズの発泡倍率は15倍〜30倍であり、本実施形態では25倍である。後側パッド30は弾性を有しているが、上記ポリウレタンフォーム製の前側パッド20より遥かに硬い。発泡倍率が15倍の場合には、JIS K 6767による計測法で圧縮硬さが2.6Kg/cmであり、前側パッド20の約41倍の硬さである。発泡倍率が30倍の場合には圧縮硬さが1.3Kg/cmであり、前側パッド20の約21倍の硬さである。
【0015】
上記後側パッド30は、前側パッド20と同様に、中央の広い受荷重領域31(ほぼ左右サイドフレーム部11の内側の領域に相当する)と、上縁部32,下縁部33および左右縁部34を有している。図4に最も良く示されているように、上記受荷重領域31の前面は乗員の背中形状に合わせて湾曲凹面となっている。前側パッド20の受荷重領域の背面と後側パッド30の受荷重領域31の前面とは空隙60を介して前後に対峙している。この空隙60には、他の構成要素、例えばS字ばね等の弾性部材は配置されていない。
【0016】
図2に示されているように、上記後側パッド30の受荷重領域31と上縁部32との間の前面には凹部35が形成されている。この凹部35にはヘッドレストのステーの下端部が入り込むようになっている。
【0017】
図1,図4に示すように、前側パッド20の周縁部(すなわち上縁部22,下縁部23,左右縁部24)の背面と、後側パッド30の周縁部(すなわち上縁部32,下縁部33,左右縁部34の前面)は互いに接している。上記フレーム10は、パッド20、30の当接した周縁部より内側に配置されている。
【0018】
図4に示すように、パッド20,30の対向する面には左右縁部24,34に沿いかつ隣接して収容溝24a,34aが形成されており、これら収容溝24a,34aに、上記サイドフレーム部11が収容されている。
【0019】
図1,図2に示すように、上記パッド20、30の上縁部22,32には、断面半円形状の凹部22a,32aがそれぞれ一対形成されており、これら凹部22a,32aに、上記サポート14の上端部が嵌っている。
【0020】
図1〜図3に示すように、上記パッド20、30の下縁部23,33の左右端部は凹部23a,33aとなっており、これら凹部23a,33aには、ヒンジ機構が配置されるようになっている。
【0021】
上記パッド20、30の下縁部23,33の対向面には、下縁部23,33に沿って左右方向に直線的に延びる断面半円形状の凹部23b,33bが形成されており、これら凹部23b,33bに、ヒンジ機構のヒンジ軸が嵌るようになっている。
【0022】
図1に示すように、上記パッド20,30の周縁部は下縁部23,33の左右端近傍で局所的に離れており、これによりに小さな開口61が形成されている。この開口61を通るブラケット(図示しない)により、サイドフレーム部11とヒンジ機構が連結されている。
【0023】
図3,図4に示すように、後側パッド30の背面には広い領域にわたって縦長矩形をなす浅い凹部36が形成されており、この凹部36の上縁部および左右縁部には固定溝37が形成されている。
【0024】
上記カバー40は、前側パッド20の前面を覆い、パッド20、30の上縁部22,32および左右縁部24,34を回りこんで、後側パッド30の背面に至る。このカバー40の上縁および左右縁の端末は、断面矩形の棒状をなす圧入部材70と一緒に上記後側パッド30の固定溝37に圧入されることにより、固定されている。
【0025】
上記トレイ50は、上記後側パッド30の凹部36の全域を覆うようにして配置されている。本実施形態ではトレイ50にはクリップ部51が形成されており、このクリップ部51を後側パッド30の背面に形成された穴に圧入することにより、トレイ50が後側パッド30に固定されている。このトレイ50は、後側パッド30を補強するとともに、上記カバー40の端末固定部を隠す役割を担う。
【0026】
上記構成において、通常時すなわち乗員Aからの荷重が小さい時には、前側パッド20だけでその荷重を受け止める。荷重が大きくなると、前側パッド20の受荷重領域21が後方へ撓み、空隙60を減少させる。
上記のように、通常の使用状態では乗員Aからの荷重は主に前側パッド30で負担し、後側パッド30に依存することがないので、乗員が後側パッド30の硬さを感じることはない。特に本実施形態では、前側パッド20と後側パッド30との間に空隙60が形成されており、前側パッド20のみで負担する荷重領域があるので、より良好な乗り心地が得られる。
【0027】
より大きい荷重が前側パッド20に付与されると、空隙60が無くなり前側パッド20の受荷重領域21が後側パッド30の受荷重領域31に当たって圧縮され、後側パッド30で荷重が受け止められる。この受荷重領域31は凹曲面をなしているので、乗員の保持性は良好である。
【0028】
後側パッド30は弾性を有しているので、乗員が痛さを感じることはない。特に後側パッド30の発泡倍率を15倍以上にすることにより、この性能を確保することができる。
後側パッド30は前側パッド20より硬いので、形状保持性を確保できるとともに、大きな荷重を負担することができる。特に、後側パッド30の発泡倍率を30倍以下とすることにより、この性能を確保できる。
【0029】
シートバック1は荷重を受け止めるためのS字ばねを備えておらず、前後のパッド20、30で荷重を負担するため、S字ばねの撓み代が必要でなく、厚さを低減させることが可能である。
【0030】
本発明は上記実施形態に制約されず、種々の態様を採用可能である。例えば、前後のパッドの下縁部は接していなくてもよい。前後のパッドの材料は上記実施形態に制約されず、種々の材料を選択可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係わるシートバックを、カバーおよびヒンジ機構を省いて示す側面図である。
【図2】同シートバックのフレームと後側パッドとを示す斜視図である。
【図3】同後側パッドの背面図である。
【図4】同シートバックの左半分の拡大横断面図である。
【図5】同シートバックに乗員からの大きな荷重が加わった時の状態を示す図4相当図である。
【符号の説明】
【0032】
1 シートバック
10 フレーム
20 前側パッド
21 受荷重領域
22 上縁部
23 下縁部
24 左右縁部
30 後側パッド
31 受荷重領域
32 上縁部
33 下縁部
34 左右縁部
37 固定溝
40 カバー
60 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートバックフレームと、このシートバックフレームの前側に配置された弾性を有する前側パッドとを備えた車両用シートバックにおいて、
上記シートバックフレームの後側に、弾性を有し上記前側パッドより硬い後側パッドが設けられ、上記前側パッドと後側パッドが対峙していることを特徴とする車両用シートバック。
【請求項2】
上記前側パッドと後側パッドにおける乗員からの荷重を受ける領域間には、空隙が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用シートバック。
【請求項3】
上記前側パッドと後側パッドのほぼ全周縁部が互いに接しており、その内側に上記シートバックフレームが配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用シートバック。
【請求項4】
上記後側パッドがポリプロピレンビーズの発泡成形品からなり、このポリプロピレンビーズの発泡倍率が15〜30倍であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両用シートバック。
【請求項5】
上記前側パッドはカバーにより前面を覆われており、このカバーは、前側パッドと後側パッドの上縁部および左右縁部を回りこんで、後側パッドの背面に形成された固定溝に挿入固定されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の車両用シートバック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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