説明

車両用流体伝動装置

【課題】環状セット部材の内周側の環状空間に水が溜まらない車両用流体伝動装置を提供する。
【解決手段】ポンプシェル12c(フロントシェル12a)には、エンジン21からのトルクを入力するドリブンプレート38(入力部材)を固定する複数本のセットボルト52が螺合される円環状の環状セット部材35が固定され、その環状セット部材35には、径方向に貫通してその環状セット部材の内周面と外周面とを相互に連通させる連通溝(連通路)58が形成されていることから、環状セット部材35の内周面に溜まった水がその連通溝58を通して外周面へ導かれるので、環状セット部材35の内周側の環状空間SSに水が溜まらず、錆の発生や他の部品たとえばベアリング40への影響が好適に解消される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に備えられる流体伝動装置に関し、特にその流体伝動装置に備えられるダンパ装置をポンプシェルの外側に設ける構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の動力源と自動変速機との間の動力伝達経路に設けられ、その動力源により発生させられたトルクを流体を介して上記自動変速機の入力軸へ伝達する車両用流体伝動装置が知られている。たとえば、エンジン等の駆動源によって一軸心まわりに回転駆動させられるポンプ翼車と、そのポンプ翼車によって送り出された作動流体によって上記一軸心まわりに回転させられるタービン翼車とを備えたフルードカップリングや、たとえば特許文献1に記載されている上記ポンプ翼車とタービン翼車との間で上記一軸心まわりに回転可能に配置されているステータ翼車をさらに備えたトルクコンバータがそれである。
【0003】
上記のような車両用流体伝動装置においては、車両の駆動力源であるエンジンからのトルクをポンプ翼車へ入力させるドライブプレートやダンパ装置などの入力部材は、そのポンプ翼車のポンプシェルにおいて溶接などにより一円周上に所定間隔で突設された複数個の突起を嵌め入れる孔を備え、その孔に突起が嵌め入れられた状態で溶接される。或いは、その入力部材は、ポンプ翼車のポンプシェルにおいて溶接などにより一円周上に所定間隔で固定された複数個のセットブロックにそれぞれ螺合される複数本のセットボルトによりそのポンプシェルに固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平06−006796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記入力部材を固定する複数個の突起や複数個のセットブロックに替えて、部品点数の削減や組み立て工数の節減等のためにポンプシェルに固定した1個の円環状の環状セット部材が用いることが考えられる。しかし、このような環状セット部材を用いる場合には、その環状セット部材の内周面に水が溜まり易く、その水による錆の発生や性能低下のおそれがあった。
【0006】
たとえば、上記特許文献1に記載のように、流体伝動装置のポンプ翼車のフロントシェルとエンジンとの間にダンパ装置を配設する場合は、ダンパ装置のドリブンプレートは、フロントシェルに溶接などにより固定されたセット部材に螺合するセットポルトにより、ポンプ翼車のフロントシェルに固定される。しかし、ダンパカバーに保持されるコイルスプリングのコイル径および全長を大きく設定してダンパ装置の脈動吸収性能を高めるようとすると、そのコイルスプリングを可及的に外周側位置で保持させるとともに、フロントシェルへの固定スペースは内周側位置に設けられる。このため、ダンパ装置のドリブンプレートの内周部を固定するセットボルトを螺合させるセット部材は、フロントシェルのうち比較的内周側に位置させられる。また、上記ダンパ装置のダンパカバーを心出しすることが望まれており、セット部材を環状に形成するとともにそのダンパカバーの内周部に嵌合された環状のベアリングをそのセット部材の内周部に装着することが考えられる。しかしながら、そのようにして、環状のセット部材をフロントシェルのうち比較的内周側に位置させ、そのセット部材の内周部に環状のベアリングを装着すると、環状のセット部材の内周側に水が溜まる空間が形成されることになり、錆が発生したり、環状のベアリングに影響を与えるおそれがあった。
【0007】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、環状のセット部材の内周側の環状空間に水が溜まらない車両用流体伝動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その要旨とするところは、(a) 駆動源からのトルクが入力されるポンプシェルと該ポンプシェルの内側のうち出力側において周方向に連ねて設けられた複数の羽根とを有するポンプ翼車と、該ポンプ翼車の羽根に対向する位置に設けられた複数の羽根と該羽根を支持するハブ部と有して出力軸の軸端部に支持され、該ポンプ翼車の羽根から送り出される作動流体を受けて回転させられるタービン翼車とを備え、前記トルクを前記出力軸へ伝動する車両用流体伝動装置であって、(b)前記ポンプシェルには、前記駆動源からのトルクを入力する入力部材を固定する複数本のセットボルトが螺合される円環状の環状セット部材が固定され、(c)該環状セット部材には、径方向に貫通して該環状セット部材の内周面と外周面とを相互に連通させる連通路が形成されていることにある。
【発明の効果】
【0009】
このように構成された車両用流体伝動装置によれば、前記ポンプシェルには、前記駆動源からのトルクを入力する入力部材を固定する複数本のセットボルトが螺合される円環状の環状セット部材が固定され、その環状セット部材には、径方向に貫通してその環状セット部材の内周面と外周面とを相互に連通させる連通路が形成されていることから、環状セット部材の内周面に溜まった水がその連通路を通して外周面へ導かれるので、錆の発生が好適に解消される。
【0010】
ここで、好適には、(d)前記駆動源と前記ポンプシェルとの間に配設されて、該駆動源からのトルクを該ポンプシェルに入力するダンパ装置を含み、該ダンパ装置は、コイル状に巻回されて周方向に長手状を成すダンパスプリングと、該ダンパスプリングを収容し、該ダンパスプリングの径よりも小さい軸心方向の幅寸法を有して内周側に開く内周側開口を有する環状のダンパカバーと、該内周側開口から該ダンパカバー内に差し入れられて前記ダンパスプリングを介して前記ダンパカバーに入力されたトルクが伝達される円板状のドリブンプレートとを、備えるものであり、(e)前記ダンパカバーの前記駆動源側の内周部は、環状のベアリングを介して前記環状セット部材の内周部に回転可能に支持されており、(f)前記環状セット部材には、前記ドリブンプレートの内周部が前記複数本のセットボルトにより固定されている。このようにすれば、ダンパ装置を備える車両用流体伝動装置において、環状セット部材の内周側において環状のベアリングとポンプシェルとの間の空間に水が貯留されることが防止され、環状のベアリングに対する水の影響が好適に解消される。
【0011】
また、好適には、前記環状セット部材には、前記複数本のセットボルトが螺合される複数の雌ねじ穴が前記軸心方向において貫通して形成されており、
前記連通路は、該環状セット部材のうち該雌ねじ穴が形成されていない位置に形成されている。このようにすれば、環状セット部材の内周面に溜まった水が、セットボルトが螺合されている雌ねじ穴内に浸入することがないので、その水が雌ねじ穴を通してダンパカバー内へ浸入することが好適に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例である車両用トルクコンバータの構成を説明する断面図である。
【図2】図1の車両用トルクコンバータを拡大してハウジング内に示す図である。
【図3】図1の車両用トルクコンバータのポンプシェルに固定されている環状セット部材の構成を説明する、半分を切り欠いた正面図である。
【図4】環状セット部材に形成された貫通溝を説明する図2のIII-III視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明の一実施例の車両用流体伝動装置であるトルクコンバータ10の構成を説明する断面図であり、図2は、トルクコンバータ10が車両の円筒状ハウジング8内に収容された状態を示している。車両の円筒状のハウジング8内に設けられたトルクコンバータ10は、ポンプ翼車( ポンプインペラ) 12、タービン翼車( タービンランナ) 14、ロックアップクラッチ16、一方向クラッチ18、およびステータ翼車20を備え、駆動源として機能するエンジン21のクランク軸22から入力されるトルクを増幅し、トルクコンバータ10の出力軸として機能する変速機24の入力軸26から出力する。
【0015】
ポンプ翼車12は、円盤状のフロントシェル12aおよびリヤシェル12bから成り、エンジン21のクランク軸22とドライブプレート32およびダンパ装置34を介して連結されてそのクランク軸22と同じ回転数で軸心Cまわりに回転させられるポンプシェル12cと、リヤシェル12bの外周部内側に周方向に重なるように複数枚配設されているポンプブレード12dとを備えている。タービン翼車14は、入力軸26の軸端部にスプライン嵌合され且つ摺動リング12eを介してフロントシェル12aに相対回転可能に当接させられた円盤状のハブ部14aと、ハブ部14aの中央から突設されて入力軸26の軸端部にスプライン嵌合された円筒軸部14bと、ハブ部14aの外周部においてポンプブレード12dに対向するように周方向に重なるように複数枚固定されたタービンブレード14dとを備え、入力軸26と共に軸心Cまわりに回転するように設けられている。ステータ翼車20は、ポンプ翼車12のポンプブレード12dとタービン翼車14のタービンブレード14dとの間に位置するステータブレード20dが外周部に形成された円板部20aと、円板部20aの内周部に形成され、一方向クラッチ18が嵌め入れられた円筒部20bとを備え、ハウジング8に固定された非回転部材である円筒状固定軸28により、一方向クラッチ18を介して軸心Cまわりに回転可能に支持されている。フロント側の第1スラフトベアリング44がステータ翼車20とタービン翼車14のハブ部14aとの間に介在させられるとともに、リヤ側の第2スラフトベアリング46がステータ翼車20とリヤシェル12bとの間に介在させられているため、ステータ翼車20の軸心方向Cの位置が定められている。
【0016】
ハウジング8内には、変速機24を収容する空間とトルクコンバータ10を収容する空間とを隔てるための隔壁24aが設けられており、その隔壁24aには、油圧ポンプ30が設けられている。油圧ポンプ30は、隔壁24aに固定されたポンプボデー30aとそれに固定されたポンプカバー30bと、それらの間に形成された空間内に回転可能に収容されて互いにかみ合うインナーリングギヤ30cおよびアウタリングギヤ30dとを備え、そのインナーリングギヤ30cには、ポンプ翼車12のリヤシェル12bの内周部から突設された円筒軸12fの軸端に相対回転不能に嵌合されることにより、油圧ポンプ30がエンジン21によって回転駆動されるようになっている。上記油圧ポンプ30すなわちポンプボデー30aは、隔壁24aからトルクコンバータ10側すなわちエンジン21側又は入力側へ円錐状に突き出している。入力軸26は、図示しないベアリングを介して隔壁24aにより回転可能に支持された状態で、トルクコンバータ10を収容する空間内へ突き出されており、トルクコンバータ10を支持している。
【0017】
ポンプ翼車12のポンプシェル12cの出力側すなわち変速機24側を構成するリヤシェル12bの外周部および入力側すなわちエンジン21側を構成するフロントシェル12aの外周部は、その出力側すなわち変速機24側へ突き出すようにオフセットさせられている。このため、リヤシェル12bの内周部は入力側へ凹んだ凹状とされており、ポンプボデー30aの先端部を受け入れている。すなわち、ポンプボデー30aの先端部は、リヤシェル12bの外周部と径方向において重なっている。これにより、スペース効率が高められ、トルクコンバータ10の軸心C方向の寸法が短縮されている。
【0018】
このため、変速機24側へ突き出すリヤシェル12bの外周部の内壁面に配設されているポンプ翼車12のポンプブレード12dも出力側へオフセットさせられているため、ステータ翼車20のステータブレード20dおよびタービン翼車14のタービンブレード14dも、ポンプ翼車12のポンプブレード12dと一定の相対位置関係を維持しつつ、同様に出力側すなわち変速機24側へオフセットさせられている。本実施例では、ステータ翼車20の円板部20aがその外周部が円筒部20bよりも変速機24側に位置する円錐形状に形成されることにより、ステータ翼車20のステータブレード20dが、一方向クラッチ18に対して径方向において重ならないように出力側へオフセットさせられている。また、タービン翼車14のハブ部14aは、その外周部が一方向クラッチ18と径方向に重なる円錐形状に形成されることにより、タービン翼車14のタービンブレード14dが一方向クラッチ18に対して径方向において一部は重ならないが一部重なるように、出力側へオフセットさせられている。
【0019】
ロックアップクラッチ16は、入力軸26の軸端部に相対回転不能に嵌合されたタービン翼車14のハブ部14aの中央から突設された円筒軸部14bの外周面に中心部が摺動可能に嵌合され、且つタービン翼車14のタービンシェル14cから突設された係合突起14eと相対回転不能に係合した円板状のピストン16aと、そのピストン16aの外周部、または、フロントシェル12aの内側のうちその外周部に対向する部分に固着され、タービン翼車14とポンプ翼車12とを摩擦力によって直接的に相互に連結する環状の摩擦材16bとを備えている。前述のように、ポンプ翼車12のポンプシェル12cの入力側すなわちエンジン21側を構成するフロントシェル12aの外周部は、出力側すなわち変速機24側へ突き出すようにオフセットさせられているため、ピストン16aの外周部も同様に出力側すなわち変速機24側へ突き出すようにオフセットさせられて、フロントシェル12aやタービン翼車14との干渉が防止されるようになっている。このように、ロックアップクラッチ16のピストン16aおよびフロントシェル12aの外周部は、ロックアップクラッチ16のピストン16aの外周部およびそれに固着された摩擦材16bが一方向クラッチ18と径方向において重なるように、出力側へオフセットされている。
【0020】
エンジン21のクランク軸22の軸端に固定されたドライブプレート32は、円板状部32aと、図示しないスタータモータのピニオンと噛み合うために円板状部32aの外周部に固定されたリングギヤ32bとを備えている。ダンパ装置34は、そのドライブプレート32とポンプシェル12cの前部を構成するフロントシェル12aとの間に設けられている。
【0021】
ダンパ装置34は、軸心Cと同心の円環状の環状セット部材35を介してフロントシェル12aに内周部が固定され、ダンパ装置34の周方向に長手状となるようにコイル状に巻回され且つ相互に同心に構成された2種類の大径ダンパスプリング36aおよび小径ダンパスプリング36bを受け入れる外周側に開いた切欠38aが外周部の複数箇所に等間隔で形成された円板状のドリブンプレート38と、フロントシェル12aに固定された上記環状セット部材35により環状のベアリング40を介して軸心Cまわりに回転可能に支持されると共にドライブプレート32の円板状部32aに固定され、一対の大径ダンパスプリング36aおよび小径ダンパスプリング36bの外周を覆うようにして受け入れるための周方向に伸びる円柱状空間が周方向の複数箇所に等間隔で形成されたダンパカバー42とを備え、ドリブンプレート38とダンパカバー42との間の回転位相のずれに応じて大径ダンパスプリング36aおよび小径ダンパスプリング36bが周方向すなわちその長手方向に圧縮されることで、エンジン21から伝達されるトルクの脈動が吸収されるようになっている。
【0022】
ダンパカバー42は、上記複数の円柱状空間とそれら複数の円柱状空間を周方向に連通させる連通空間とから成るスプリング収容空間Sと、少なく大径ダンパスプリング36aの径よりも小さな軸心C方向の開口幅を有して連通空間が内周側に開口する内周側開口Kとを、備えている。ドリブンプレート38の外周部はその開口K内に差し入れられており、そのドリブンプレート38の両面においてリベット48によって固着された一対のばね鋼製のシール部材50が上記開口Kを封止している。上記スプリング収容空間S内には、たとえばグリスのような潤滑剤が封入されている。
【0023】
前述のように、ポンプ翼車12のポンプシェル12cの入力側すなわちエンジン21側を構成するフロントシェル12aの外周部は、出力側すなわち変速機24側へ突き出すようにオフセットさせられているため、フロントシェル12aの外周部の入力側すなわちエンジン21側には、ドライブプレート32との間に、環状空間Xが形成されており、上記ダンパ装置34はその環状空間X内に配置されている。ダンパ装置34は、その大径ダンパスプリング36aおよび小径ダンパスプリング36bの中心を通る軸心C方向の中心位置PDが入力軸26の軸端、タービン翼車14の内周部に位置する円筒軸部14bの入力側の端面、およびフロントシェル12aの内周部の入力側先端よりも出力側に位置していることから明らかなように、入力軸26の軸端部、およびタービン翼車14の内周部すなわち円筒軸部14b、およびフロントシェル12aの内周部と径方向において重なるように位置させられている。これにより、ポンプシェル12cの入力側を構成するフロントシェル12aの内周部は、外周部よりも入力側すなわちエンジン21側へ突き出しており、径方向においてダンパ装置34のほぼ全部と重なっている。
【0024】
この結果、ダンパ装置34は、従来のものに比較して、大径ダンパスプリング36aおよび小径ダンパスプリング36bを外周側に位置させることにより、コイル径が大きく且つコイル径の大きいものとすることができ、トルク変化に対してねじれ角が大きく柔らかな、高いダンパ性能を備えている。ダンパ装置34がこのような高いダンパ性能を備えていることにより、トルク振動が効率的に低減されるので、燃焼効率の良い低回転且つ高負荷の運転領域でエンジン21を作動させることができる。また、ロックアップクラッチ16による直結状態での走行時において、トルクコンバータ10はピストン16aおよびタービン翼車14を介して入力軸26により支持されるが、ダンパ装置34と入力軸26とが重なっているので、振れなどの外乱が入力されたとき、ダンパ装置34の振れが抑制されてより安定的にダンパ装置34が支持される。また、上記のように、ダンパ装置34は、その軸心C方向の中心位置PDが入力軸26の軸端およびタービン翼車14の円筒軸部14bと径方向において重なるように位置させられているため、トルクコンバータ10を支持して一方向クラッチ18および入力軸26を嵌合する組み付け時において、高い作業性が得られる。
【0025】
図3は、溶接によりフロントシェル12aに固着された環状セット部材35を、エンジン21側から見た正面図であり、図4は、環状セット部材35の断面を示す図3のIII-III視断面図である。図3および図4において、環状セット部材35には、ドリブンプレート38をフロントシェル12aに固着するために、そのドリブンプレート38を通したセットボルト52が螺合される複数の雌ねじ穴54が貫通して形成されており、前記リベット48との干渉を防止しうるための複数の干渉防止穴56が止り穴として形成されている。そして、環状セット部材35のフロントシェル12a側の面であって上記干渉防止穴56が設けられている位置には、径方向に貫通する貫通溝58がそれぞれ形成されている。この貫通溝58は、環状セット部材35の外周面と環状ベアリング40とフロントシェル12aとの間の内周側に開口する環状空間SSに貯留された水を、遠心力或いは重力により外周側へ排出する連通路として機能している。
【0026】
上述のように、本実施例のトルクコンバータ10によれば、ポンプシェル12c(フロントシェル12a)には、エンジン21からのトルクを入力するドリブンプレート38(入力部材)を固定する複数本のセットボルト52が螺合される円環状の環状セット部材35が固定され、その環状セット部材35には、径方向に貫通してその環状セット部材の内周面と外周面とを相互に連通させる連通溝(連通路)58が形成されていることから、環状セット部材35の内周面に溜まった水がその連通溝58を通して外周面へ導かれるので、環状セット部材35の内周側の環状空間SSに水が溜まらず、錆の発生や性能低下のおそれが好適に解消される。
【0027】
また、本実施例によれば、エンジン21とポンプシェル12cとの間に配設されて、そのエンジン21からのトルクをポンプシェル12cに入力するダンパ装置34を含み、そのダンパ装置34は、コイル状に巻回されて周方向に長手状を成すダンパスプリング36a、36bと、そのダンパスプリング36a、36bを収容し、ダンパスプリング36a、36bの径よりも小さい軸心方向の幅寸法を有して内周側に開く内周側開口Kを有する環状のダンパカバー42と、その内周側開口Kからそのダンパカバー42内に差し入れられてダンパスプリング36a、36bを介してダンパカバー42に入力されたトルクが伝達される円板状のドリブンプレート38とを、備えるものであり、ダンパカバー42のエンジン21側の内周部に形成されたボス部42bは、環状のベアリング40を介して環状セット部材35の内周部に回転可能に支持されており、その環状セット部材35には、ドリブンプレート38の内周部が複数本のセットボルト52により固定されている。このようにすれば、ダンパ装置34を備えるトルクコンバータ10において、環状セット部材35の内周側において環状のベアリング40とポンプシェル12cとの間の環状空間SSに水が貯留されることが防止され、環状のベアリング40に対する水の影響が好適に解消される。
【0028】
また、本実施例のトルクコンバータ10によれば、環状セット部材35には、複数本のセットボルト52が螺合される複数の雌ねじ穴54が軸心方向において貫通して形成されており、貫通溝(連通路)58は、その環状セット部材35のうち雌ねじ穴54が形成されていない位置に形成されていることから、環状セット部材35の内周面に溜まった水が、セットボルト52が螺合されている雌ねじ穴54内に浸入することがないので、その水が雌ねじ穴54を通してダンパカバー42内へ浸入することが好適に防止される。
【0029】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0030】
例えば、前述の実施例においては、環状空間SSに溜まった水を排出するための貫通溝58が環状セット部材35のポンプシェル12cへの接触面に径方向に貫通して形成されていたが、貫通溝58に替えて、連通路として機能する貫通穴が環状セット部材35の厚み方向の中央部に設けられていてもよい。
【0031】
また、前述の実施例においては、車両用流体伝動装置として、トルクコンバータ10が例示されていたが、フルードカップリングであってもよい。
【0032】
また、前述の実施例において、ダンパ装置34は、2種類の大径ダンパスプリング36aおよび小径ダンパスプリング36bを有するものであったが、1種類、或いは3種類のダンパスプリングを有したり、ダンパスプリングの大きさや位置の異なるものなど、他の構造或いは形式のものであってもよい。
【0033】
また、前述の実施例において、ポンプ翼車12の羽根12d、タービン翼車14の羽根14d、ステータ翼車20の羽根20dが出力側へオフセットされていたが、そのオフセット量は、必ずしも、ステータ翼車20の羽根20dが一方向クラッチ18と重ならない位置までオフセットさせられていなくてもよい。
【0034】
また、前述の管状セット部材34は、周方向に分割された複数の円弧状部材が組合せられることで構成されてもよい。この場合、連通路は、円弧状部材の間に形成される隙間により形成される。
【0035】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0036】
10:トルクコンバータ(車両用流体伝動装置)
12:ポンプ翼車
12c:ポンプシェル
14:タービン翼車
16:ロックアップクラッチ
20:ステータ翼車
21:エンジン( 駆動源)
34:ダンパ装置
35:環状セット部材
36a、36b:ダンパスプリング
38:ドリブンプレート(入力部材)
40:環状のベアリング
42:ダンパカバー
52:セットボルト
54:雌ねじ穴
58:貫通溝(連通路)
SS:環状空間
S:スプリング収容空間
K:内周側開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からのトルクが入力されるポンプシェルと該ポンプシェルの内側のうち出力側において周方向に連ねて設けられた複数の羽根とを有するポンプ翼車と、該ポンプ翼車の羽根に対向する位置に設けられた複数の羽根と該羽根を支持するハブ部と有して出力軸の軸端部に支持され、該ポンプ翼車の羽根から送り出される作動流体を受けて回転させられるタービン翼車とを備え、前記トルクを前記出力軸へ伝動する車両用流体伝動装置であって、
前記ポンプシェルには、前記駆動源からのトルクを入力する入力部材を固定する複数本のセットボルトが螺合される円環状の環状セット部材が固定され、
該環状セット部材には、径方向に貫通して該環状セット部材の内周面と外周面とを相互に連通させる連通路が形成されている
ことを特徴とする車両用流体伝動装置。
【請求項2】
前記駆動源と前記ポンプシェルとの間に配設されて、該駆動源からのトルクを該ポンプシェルに入力するダンパ装置を含み、
該ダンパ装置は、コイル状に巻回されて周方向に長手状を成すダンパスプリングと、該ダンパスプリングを収容し、該ダンパスプリングの径よりも小さい軸心方向の幅寸法を有して内周側に開く内周側開口を有する環状のダンパカバーと、該内周側開口から該ダンパカバー内に差し入れられて前記ダンパスプリングを介して前記ダンパカバーに入力されたトルクが伝達される円板状のドリブンプレートとを、備えるものであり、
前記ダンパカバーの前記駆動源側の内周部は、環状のベアリングを介して前記環状セット部材の内周部に回転可能に支持されており、
前記環状セット部材には、前記ドリブンプレートの内周部が前記複数本のセットボルトにより固定されている
ことを特徴とする請求項1の車両用流体伝動装置。
【請求項3】
前記環状セット部材には、前記複数本のセットボルトが螺合される複数の雌ねじ穴が前記軸心方向において貫通して形成されており、
前記連通路は、該環状セット部材のうち該雌ねじ穴が形成されていない位置に形成されている
ことを特徴とする請求項2の車両用流体伝動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−76416(P2013−76416A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214877(P2011−214877)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000149033)株式会社エクセディ (270)