説明

車両用流体伝動装置

【課題】ダンパ装置がポンプシェルの外側に設けられる場合に、ポンプシェルの膨張の抑制をすることができる車両用流体伝動装置を提供する。
【解決手段】トルクコンバータ10において、ドリブンプレート(ダンパ出力部材)38を連結するための円環状の環状セット部材35が、その径方向の幅W内に、フロントシェル12a上においてそのフロントシェル12aの外径D1と円筒軸12fの径D2との中間径D3が含まれる位置に同心円状に固定されていることから、そのフロントシェル12aに固定された環状セット部材35によるリブと同様の補強効果によってフロントシェル12aの剛性が高められるので、ポンプシェル12c内の作動油の加圧時や、ポンプシェル12cの回転による遠心力の発生時のポンプシェル12cの変形が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に備えられる流体伝動装置に関し、特にその流体伝動装置に備えられるダンパ装置をポンプシェルの外側に設けた構造を有するダンパ前置型流体伝送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の動力源と自動変速機との間の動力伝達経路に設けられ、その動力源により発生させられたトルクを流体を介して上記自動変速機の入力軸へ伝達する車両用流体伝動装置が知られている。たとえば、エンジン等の駆動源によって一軸心まわりに回転駆動させられるポンプ翼車と、そのポンプ翼車によって送り出された作動流体によって上記一軸心まわりに回転させられるタービン翼車とを備えたフルードカップリングや、たとえば特許文献1に記載されている上記ポンプ翼車とタービン翼車との間で上記一軸心まわりに回転可能に配置されているステータ翼車をさらに備えたトルクコンバータがそれである。
【0003】
上記のような車両用流体伝動装置においては、車両の駆動力源であるエンジンからのトルクをポンプ翼車へ入力させるドライブプレートやダンパ装置などの入力装置は、そのポンプ翼車のポンプシェルにおいて溶接などにより一円周上に所定間隔で突設された複数個の突起を備え、その突起に螺合される複数本のナット等によりポンプシェルに固定される。或いは、その入力装置は、ポンプ翼車のポンプシェルにおいて溶接などにより一円周上に所定間隔で固定された複数個のセットブロックにそれぞれ螺合される複数本のセットボルトによりそのポンプシェルに固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平05−050202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の流体伝動装置においては、ポンプシェルの外周部に固定されたセットブロックとエンジンのクランク軸との間にダンパ装置が設けられているので、ダンパ装置のスプリングがセットブロックよりも内周側に位置しているため、ダンパ性能が十分に得られなかった。これに対して、セットブロックをポンプシェルの内周側に移動させ、そのセットブロックとエンジンのクランク軸との間に設けたダンパ装置のスプリングをセットブロックの外周側に位置させることが考えられる。
【0006】
しかし、クランク軸の軸端に固定されたドライブプレートとの間に比較的大きなスペースを形成してそこにダンパ装置を介在させるようにポンプシェルのフロント側を曲成していることから、特に、ポンプシェル内の作動油が加圧されたり、ポンプシェルの回転時に遠心力が加えられたりすると、ポンプシェルのフロント側の内周側が支点となるリヤ側への変形量が大きくなる。このため、その膨張変形量を抑制するためにポンプシェルを構成する板厚を大きくする必要があり、成形性が低下するとともに製造コストが上昇するという不都合があった。
【0007】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、ダンパ装置がポンプシェルの外側に設けられる場合に、ポンプシェルの膨張の抑制をすることができる車両用流体伝動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その要旨とするところは、(a) 駆動源からのトルクが入力されるポンプシェル内に設けられた複数の羽根とを有するポンプ翼車と、該ポンプ翼車の羽根に対向する位置に設けられた複数の羽根と該羽根を支持するハブ部と有して出力軸の軸端部に支持され、該ポンプ翼車の羽根から送り出される作動流体を受けて回転させられるタービン翼車と、軸心方向において前記駆動源と前記ポンプシェルとの間に設けられ、該駆動源に連結されたダンパ入力部材と第ダンパ入力部材から弾性部材を介して伝達されたトルクを前記ポンプシェルへ伝達するダンパ出力部材とを有するダンパ装置とを備える車両用流体伝動装置であって、(b)前記ポンプシェルは、前記複数の羽根を外周部に有し且つ前記駆動源から離れる方向に突き出す円筒軸を内周部に有するリヤシェルと、該リヤシェルに連結されたフロントシェルとから構成され、(c)前記ダンパ出力部材を連結するための円環状の環状セット部材が、その径方向の幅内に前記フロントシェル上において該フロントシェルの外径と前記円筒軸の径との中間径が含まれる位置に同心円状に固定されていることにある。
【発明の効果】
【0009】
このように構成された車両用流体伝動装置によれば、前記ダンパ出力部材を連結するための円環状の環状セット部材が、その径方向の幅内に、前記フロントシェル上において該フロントシェルの外径と前記円筒軸の径との中間径が含まれる位置に同心円状に固定されていることから、そのフロントシェルに固定された環状セット部材によるリブと同様の補強効果によってフロントシェルの剛性が高められるので、ポンプシェル内の作動油の加圧時や、ポンプシェルの回転による遠心力の発生時のポンプシェルの変形が抑制される。
【0010】
ここで、好適には、前記環状セット部材は、前記ダンパ装置の出力部材を締結する螺合締結ボルトが螺合される雌ねじ穴を前記駆動源側の端面に有し、該環状セット部材の径方向寸法は、該雌ねじ穴の径の2乃至3倍である。このようにすれば、フロントシェルに固定された環状セット部材に十分な剛性が得られ、その環状セット部材の補強効果によりフロントシェルの剛性が高められるので、ポンプシェルの変形が抑制される。
【0011】
また、好適には、前記環状セット部材の軸心方向の厚み寸法は、該環状セット部材が固定されたフロントシェルの板厚の2倍以上である。このようにすれば、フロントシェルに固定された環状セット部材に十分な剛性が得られ、その環状セット部材の補強効果によりフロントシェルの剛性が高められる。
【0012】
また、好適には、前記環状セット部材は、少なくともその外周側が前記フロントシェルに対して溶接されることにより固定されている。このようにすれば、環状セット部材がフロントシェルの剛性を高めるためのリブとして確実に機能することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例である車両用トルクコンバータの構成を説明する断面図である。
【図2】図1の車両用トルクコンバータを拡大してハウジング内に示す図である。
【図3】図1の車両用トルクコンバータのポンプシェルに固定されている環状セット部材の構成を説明する、半分を切り欠いた正面図である。
【図4】環状セット部材に形成された貫通溝を説明する図2のIII-III視断面図である。
【図5】フロントシェルに補強リブLを環状セット部材に代えて形成したポンプシェルの試料を示す断面図である。
【図6】試料No.4において環状セット部材の構成を説明する断面図である。
【図7】試料No.1〜No.4を用いた車両用トルクコンバータについて変形量解析結果を示すグラフである。
【図8】実施例2に係る車両用トルクコンバータのポンプシェルに固定されている環状セット部材の構成を説明する、半分を切り欠いた正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は本発明の一実施例の車両用流体伝動装置であるトルクコンバータ10の構成を説明する断面図であり、図2はトルクコンバータ10が車両の円筒状ハウジング8内に収容された状態を示している。トルクコンバータ10は、ポンプ翼車( ポンプインペラ) 12、タービン翼車( タービンランナ) 14、ロックアップクラッチ16、一方向クラッチ18、およびステータ翼車20を備え、駆動源として機能するエンジン21のクランク軸22から入力されるトルクを増幅し、トルクコンバータ10の出力軸として機能する変速機24の入力軸26から出力する。
【0016】
ポンプ翼車12は、溶接により相互の外周縁が油密に接合された一対の円盤状のフロントシェル12aおよびリヤシェル12bから成り、エンジン21のクランク軸22とドライブプレート32およびダンパ装置34を介して連結されてそのクランク軸22と同じ回転数で軸心Cまわりに回転させられるポンプシェル12cと、リヤシェル12bの外周部内側に周方向に重なるように複数枚配設されているポンプブレード12dと、ポンプシェル12cの内周部から変速機24側へ突き出す円筒軸12fとを備えている。タービン翼車14は、入力軸26の軸端部にスプライン嵌合され且つ摺動リング12eを介してフロントシェル12aに相対回転可能に当接させられた円盤状のハブ部14aと、ハブ部14aの中央から突設されて入力軸26の軸端部にスプライン嵌合された円筒軸部14bと、ハブ部14aの外周部においてポンプブレード12dに対向するように周方向に重なるように複数枚固定されたタービンブレード14dとを備え、入力軸26と共に軸心Cまわりに回転するように設けられている。ステータ翼車20は、ポンプ翼車12のポンプブレード12dとタービン翼車14のタービンブレード14dとの間に位置するステータブレード20dが外周部に形成された円板部20aと、円板部20aの内周部に形成され、一方向クラッチ18が嵌め入れられた円筒部20bとを備え、ハウジング8に固定された非回転部材である円筒状固定軸28により、一方向クラッチ18を介して軸心Cまわりに回転可能に支持されている。フロント側の第1スラフトベアリング44がステータ翼車20とタービン翼車14のハブ部14aとの間に介在させられるとともに、リヤ側の第2スラフトベアリング46がステータ翼車20とリヤシェル12bとの間に介在させられているため、ステータ翼車20の軸心C方向の位置が定められている。
【0017】
ハウジング8内には、変速機24を収容する空間とトルクコンバータ10を収容する空間とを隔てるための隔壁24aが設けられており、その隔壁24aには、油圧ポンプ30が設けられている。油圧ポンプ30は、隔壁24aに固定されたポンプボデー30aとそれに固定されたポンプカバー30bと、それらの間に形成された空間内に回転可能に収容されて互いにかみ合うインナーリングギヤ30cおよびアウタリングギヤ30dとを備え、そのインナーリングギヤ30cには、ポンプ翼車12のリヤシェル12bの内周部から突設された円筒軸12fの軸端に相対回転不能に嵌合されることにより、油圧ポンプ30がエンジン21によって回転駆動されるようになっている。上記油圧ポンプ30すなわちポンプボデー30aは、隔壁24aからトルクコンバータ10側すなわちエンジン21側又は入力側へ円錐状に突き出している。入力軸26は、図示しないベアリングを介して隔壁24aにより回転可能に支持された状態で、トルクコンバータ10を収容する空間内へ突き出されており、トルクコンバータ10を支持している。
【0018】
ポンプ翼車12のポンプシェル12cの出力側すなわち変速機24側を構成するリヤシェル12bの外周部および入力側すなわちエンジン21側を構成するフロントシェル12aの外周部は、その出力側すなわち変速機24側へ突き出すようにオフセットさせられている。このため、リヤシェル12bの内周部は入力側へ凹んだ凹状とされており、ポンプボデー30aの先端部を受け入れている。すなわち、ポンプボデー30aの先端部は、リヤシェル12bの外周部と径方向において重なっている。これにより、スペース効率が高められ、トルクコンバータ10の軸心C方向の寸法が短縮されている。
【0019】
このため、変速機24側へ突き出すリヤシェル12bの外周部の内壁面に配設されているポンプ翼車12のポンプブレード12dも出力側へオフセットさせられているため、ステータ翼車20のステータブレード20dおよびタービン翼車14のタービンブレード14dも、ポンプ翼車12のポンプブレード12dと一定の相対位置関係を維持しつつ、同様に出力側すなわち変速機24側へオフセットさせられている。本実施例では、ステータ翼車20の円板部20aがその外周部が円筒部20bよりも変速機24側に位置する円錐形状に形成されることにより、ステータ翼車20のステータブレード20dが、一方向クラッチ18に対して径方向において重ならないように出力側へオフセットさせられている。また、タービン翼車14のハブ部14aは、その外周部が一方向クラッチ18と径方向に重なる円錐形状に形成されることにより、タービン翼車14のタービンブレード14dが一方向クラッチ18に対して径方向において一部は重ならないが一部重なるように、出力側へオフセットさせられている。
【0020】
ロックアップクラッチ16は、入力軸26の軸端部に相対回転不能に嵌合されたタービン翼車14のハブ部14aの中央から突設された円筒軸部14bの外周面に中心部が摺動可能に嵌合され、且つタービン翼車14のタービンシェル14cから突設された係合突起14eと相対回転不能に係合した円板状のピストン16aと、そのピストン16aの外周部、または、フロントシェル12aの内側のうちその外周部に対向する部分に固着され、タービン翼車14とポンプ翼車12とを摩擦力によって直接的に相互に連結する環状の摩擦材16bとを備えている。前述のように、ポンプ翼車12のポンプシェル12cの入力側すなわちエンジン21側を構成するフロントシェル12aの外周部は、出力側すなわち変速機24側へ突き出すようにオフセットさせられているため、ピストン16aの外周部も同様に出力側すなわち変速機24側へ突き出すようにオフセットさせられて、フロントシェル12aやタービン翼車14との干渉が防止されるようになっている。このように、ロックアップクラッチ16のピストン16aおよびフロントシェル12aの外周部は、ロックアップクラッチ16のピストン16aの外周部およびそれに固着された摩擦材16bが一方向クラッチ18と径方向において重なるように、出力側へオフセットされている。
【0021】
エンジン21のクランク軸22の軸端に固定されたドライブプレート32は、円板状部32aと、図示しないスタータモータのピニオンと噛み合うために円板状部32aの外周部に固定されたリングギヤ32bとを備えている。ダンパ装置34は、そのドライブプレート32とポンプシェル12cの前部を構成するフロントシェル12aとの間に設けられている。
【0022】
ダンパ装置34は、軸心Cと同心の円環状の環状セット部材35を介してフロントシェル12aに内周部が固定され、ダンパ装置34の周方向に長手状となるようにコイル状に巻回され且つ相互に同心に構成された2種類の大径ダンパスプリング36aおよび小径ダンパスプリング36bを受け入れる外周側に開いた切欠38aが外周部の複数箇所に等間隔で形成された円板状のドリブンプレート38と、フロントシェル12aに固定された上記環状セット部材35により環状のベアリング40を介して軸心Cまわりに回転可能に支持されると共にドライブプレート32の円板状部32aに固定され、一対の大径ダンパスプリング36aおよび小径ダンパスプリング36bの外周を覆うようにして受け入れるための周方向に伸びる円柱状空間が周方向の複数箇所に等間隔で形成されたダンパカバー42とを備え、ドリブンプレート38とダンパカバー42との間の回転位相のずれに応じて大径ダンパスプリング36aおよび小径ダンパスプリング36bが周方向すなわちその長手方向に圧縮されることで、エンジン21から伝達されるトルクの脈動が吸収されるようになっている。
【0023】
ダンパカバー42は、上記複数の円柱状空間とそれら複数の円柱状空間を周方向に連通させる連通空間とから成るスプリング収容空間Sと、少なくとも大径ダンパスプリング36aの径よりも小さな軸心C方向の開口幅を有して連通空間が内周側に開口する内周側開口Kとを、備えている。ドリブンプレート38の外周部はその開口K内に差し入れられており、そのドリブンプレート38の両面においてリベット48によって固着された一対のばね鋼製のシール部材50が上記開口Kを封止している。上記スプリング収容空間S内には、たとえばグリスのような潤滑剤が封入されている。
【0024】
前述のように、ポンプ翼車12のポンプシェル12cの入力側すなわちエンジン21側を構成するフロントシェル12aの外周部は、出力側すなわち変速機24側へ突き出すようにオフセットさせられているため、フロントシェル12aの外周部の入力側すなわちエンジン21側には、ドライブプレート32との間に、環状空間Xが形成されており、上記ダンパ装置34はその環状空間X内に配置されている。ダンパ装置34は、その大径ダンパスプリング36aおよび小径ダンパスプリング36bの中心を通る軸心C方向の中心位置PDが入力軸26の軸端、タービン翼車14の内周部に位置する円筒軸部14bの入力側の端面、およびフロントシェル12aの内周部の入力側先端よりも出力側に位置していることから明らかなように、入力軸26の軸端部、およびタービン翼車14の内周部すなわち円筒軸部14b、およびフロントシェル12aの内周部と径方向において重なるように位置させられている。これにより、ポンプシェル12cの入力側を構成するフロントシェル12aの内周部は、外周部よりも入力側すなわちエンジン21側へ突き出しており、径方向においてダンパ装置34のほぼ全部と重なっている。
【0025】
この結果、ダンパ装置34は、従来のものに比較して、大径ダンパスプリング36aおよび小径ダンパスプリング36bを外周側に位置させることにより、コイル径が大きく且つコイル線径の大きいものとすることができ、トルク変化に対してねじれ角が大きく柔らかな、高いダンパ性能を備えている。ダンパ装置34がこのような高いダンパ性能を備えていることにより、トルク振動が効率的に低減されるので、燃焼効率の良い低回転且つ高負荷の運転領域でエンジン21を作動させることができる。また、ロックアップクラッチ16による直結状態での走行時において、トルクコンバータ10はピストン16aおよびタービン翼車14を介して入力軸26により支持されるが、ダンパ装置34と入力軸26とが重なっているので、振れなどの外乱が入力されたとき、ダンパ装置34の振れが抑制されてより安定的にダンパ装置34が支持される。また、上記のように、ダンパ装置34は、その軸心C方向の中心位置PDが入力軸26の軸端およびタービン翼車14の円筒軸部14bと径方向において重なるように位置させられているため、トルクコンバータ10を支持して一方向クラッチ18および入力軸26を嵌合する組み付け時において、高い作業性が得られる。
【0026】
図3は、溶接などによりフロントシェル12aに固着された環状セット部材35を、エンジン21側から見た正面図であり、図4は、環状セット部材35のフロントシェル12aに対する取付け位置を説明する図である。図3において、環状セット部材35には、ドリブンプレート38をフロントシェル12aに固着するために、そのドリブンプレート38を通したセットボルト52が螺合される複数の雌ねじ穴54が貫通して形成されており、前記リベット48との干渉を防止するための複数の干渉防止穴56が止り穴として形成されている。そして、環状セット部材35のフロントシェル12a側の面であって上記干渉防止穴56が設けられている位置には、径方向に貫通する貫通溝58がそれぞれ形成されている。この貫通溝58は、環状セット部材35の外周面と環状ベアリング40とフロントシェル12aとの間の内周側に開口する環状空間SSに貯留された水を、遠心力或いは重力により外周側へ排出する連通路として機能している。
【0027】
図4の溶接ビードBに示されるように、上記環状セット部材35は、その外周側および内周側が溶接されることで、ポンプシェル12cのエンジン21側を構成するフロントシェル12aに固定されている。環状セット部材35は、フロントシェル12aの5mm程度の板厚tよりも2〜3倍の範囲、好適には2.5倍程度の軸心C方向の厚みTを備えている。また、環状セット部材35は、フロントシェル12aの半径R1の0.15〜0.2倍程度の幅W、フロントシェル12aの半径R1と円筒軸12fの半径R2との間の中間半径R3(=(R1−R2)/2+R2)の0.25〜0.35倍程度の幅W、或いは、雌ねじ穴54の径dの2〜3倍程度の幅Wを備えている。そして、環状セット部材35は、その幅Wが中間半径R3或いは中間径D3(=2×R3)を含む位置、好適には、環状セット部材35の幅Wの中央が上記中間半径R3或いは中間径D3と略一致する位置となるように固定されている。
【0028】
以下において、フロントシェル12aに固定された環状セット部材35の補強効果を確認するために、本発明者等が行なった実験例を説明する。図5は、フロントシェルに補強リブLを環状セット部材35に代えて形成したポンプシェルの試料を示している。フロントシェルの板厚tが6mmである場合のポンプシェルを試料No.1とし、フロントシェルの板厚tが5mmである場合のポンプシェルを試料No.2とする。また、試料No.3はフロントシェルの板厚tが5mmである場合において前記実施例と同様の環状セット部材がその幅Wが中間半径R3或いは中間径D3(=2×R3)を含む位置に固定されたものであり、試料No.4は、フロントシェルの板厚tが5mmである場合において、図6に示すように、ダンパ装置34のドリブンプレート38が固定される環状セット部材が試料No.3よりも内周側に配置されたものである。
【0029】
図7は、上記試料No.1〜No.4を用いたトルクコンバータについて、ポンプシェル12c内のロックアップクラッチ16よりもエンジン21側の油圧を高め、且つ所定の回転速度とした場合の変形量Δkを示している。この変形量Δkとは、リヤシェル12bの内周部から変速機24側に突き出す円筒軸12fの先端の軸心C方向の移動量である。この変形量Δkが小さい程、フロントシェル12aの剛性が高いと評価される。図7によれば、試料No.1はフロントシェル12aの板厚tが試料No.2よりも大きいため変形量Δkは試料No.2の2mmよりも小さく1.7mm程度である。これら試料No.1および試料No.2は、フロントシェル12aから突き出す補強リブLのスペースが比較的大きく、ドライブプレートとの間にダンパ装置を収容する空間が制約され、軸心C方向寸法が大きくなる。試料No.3は、環状セット部材35の補強効果によりフロントシェル12aの剛性が高められ、フロントシェル12aの板厚が同じ5mmである試料No.2よりも変形量Δkが小さくされている。これに対して、試料No.4では、ダンパ装置34のドリブンプレート38を固定する環状セット部材がフロントシェル12aの内周部に設けられているため、試料No.1、試料No.2、試料No.3に比較して、変形量Δkが大きくされ、50%以上増加している。
【0030】
上述のように、本実施例のトルクコンバータ10によれば、ドリブンプレート(ダンパ出力部材)38を連結するための円環状の環状セット部材35が、その径方向の幅W内に、フロントシェル12a上においてそのフロントシェル12aの外径D1と円筒軸12fの径D2との中間径D3が含まれる位置に同心円状に固定されていることから、そのフロントシェル12aに固定された環状セット部材35によるリブと同様の補強効果によってフロントシェル12aの剛性が高められるので、ポンプシェル12c内の作動油の加圧時や、ポンプシェル12cの回転による遠心力の発生時のポンプシェル12cの変形が抑制される。
【0031】
また、本実施例のトルクコンバータ10によれば、環状セット部材35は、ダンパ装置34のドリブンプレート(ダンパ出力部材)38を締結するセットボルト(締結ボルト)52が螺合される雌ねじ穴54をエンジン(駆動源)21側の端面に有し、環状セット部材35の径方向寸法である幅Wは、その雌ねじ穴54の径dの2乃至3倍である。このため、フロントシェル12aに固定された環状セット部材35に十分な剛性が得られ、その環状セット部材35の補強効果によりフロントシェル12aの剛性が高められるので、ポンプシェル12cの変形が抑制される。
【0032】
また、本実施例のトルクコンバータ10によれば、環状セット部材35の軸心C方向の厚み寸法である厚みTは、環状セット部材35が固定されたフロントシェル12aの板厚の2倍以上である。このため、フロントシェル12aに固定された環状セット部材35に十分な剛性が得られ、その環状セット部材35の補強効果によりフロントシェル12aの剛性が好適に高められる。
【0033】
また、本実施例のトルクコンバータ10によれば、環状セット部材35は、少なくともその外周縁がフロントシェル12aに対して溶接されることにより固定されている。このため、環状セット部材35がフロントシェル12aの剛性を高めるためのリブとして確実に機能することができる。
【実施例2】
【0034】
図8は、環状セット部材35の他の構成例を示している。本実施例の環状セット部材35は、円周方向において6分割された6個のセクタ35aが周方向に配列されることにより構成されている。この環状セット部材35の分割数は、少ないほどリブ効果が得られるが、環状セット部材35によるリブ効果が得られる範囲において可能である。本実施例の環状セット部材35によれば、複数個のセクタ35aから構成されるので、製造が容易となる。
【0035】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0036】
例えば、前述の実施例においては、環状セット部材35が、その外周側および内周側が溶接されることによりフロントシェル12aに固設されていたが、少なくとも外周側が溶接されていればよい。また、その溶接により形成される溶接ビードBは、周方向において連続したものが望ましいが、必ずしも連続してなくてもよく、ポンプシェル12cの剛性が十分に得られる程度に、所定間隔で複数箇所設けられていてもよい。
【0037】
また、前述の実施例においては、車両用流体伝動装置として、トルクコンバータ10が例示されていたが、フルードカップリングであってもよい。
【0038】
また、前述の実施例において、ダンパ装置34は、2種類の大径ダンパスプリング36aおよび小径ダンパスプリング36bを有するものであったが、1種類、或いは3種類のダンパスプリングを有したり、ダンパスプリングの大きさや位置の異なるものなど、他の構造或いは形式のものであってもよい。
【0039】
また、前述の実施例において、ポンプ翼車12の羽根12d、タービン翼車14の羽根14d、ステータ翼車20の羽根20dが出力側へオフセットされていたが、そのオフセット量は、必ずしも、ステータ翼車20の羽根20dが一方向クラッチ18と重ならない位置までオフセットさせられていなくてもよい。
【0040】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0041】
10:トルクコンバータ(車両用流体伝動装置)
12:ポンプ翼車
12c:ポンプシェル
12f:円筒軸
14:タービン翼車
16:ロックアップクラッチ
20:ステータ翼車
21:エンジン( 駆動源)
34:ダンパ装置
35:環状セット部材
36a、36b:ダンパスプリング
38:ドリブンプレート(ダンパ出力部材)
40:環状のベアリング
42:ダンパカバー(ダンパ入力部材)
52:セットボルト
54:雌ねじ穴
58:貫通溝(連通路)
SS:環状空間
S:スプリング収容空間
K:内周側開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からのトルクが入力されるポンプシェル内に設けられた複数の羽根とを有するポンプ翼車と、該ポンプ翼車の羽根に対向する位置に設けられた複数の羽根と該羽根を支持するハブ部と有して出力軸の軸端部に支持され、該ポンプ翼車の羽根から送り出される作動流体を受けて回転させられるタービン翼車と、軸心方向において前記駆動源と前記ポンプシェルとの間に設けられ、該駆動源に連結されたダンパ入力部材と第ダンパ入力部材から弾性部材を介して伝達されたトルクを前記ポンプシェルへ伝達するダンパ出力部材とを有するダンパ装置とを備える車両用流体伝動装置であって、
前記ポンプシェルは、前記複数の羽根を外周部に有し且つ前記駆動源から離れる方向に突き出す円筒軸を内周部に有するリヤシェルと、該リヤシェルに連結されたフロントシェルとから構成され、
前記ダンパ出力部材を連結するための円環状の環状セット部材が、その径方向の幅内に前記フロントシェル上において該フロントシェルの外径と前記円筒軸の径との中間径が含まれる位置に同心円状に固定されていることにあることを特徴とする車両用流体伝動装置。
【請求項2】
前記環状セット部材は、前記ダンパ装置の出力部材を締結する螺合締結ボルトが螺合される雌ねじ穴を前記駆動源側の端面に有し、該環状セット部材の径方向寸法は、該雌ねじ穴の径の2乃至3倍であることを特徴とする請求項1の車両用流体伝動装置。
【請求項3】
前記環状セット部材の軸心方向の厚み寸法は、該環状セット部材が固定されたフロントシェルの板厚の2倍以上であることを特徴とする請求項1または2の車両用流体伝動装置。
【請求項4】
前記環状セット部材は、少なくともその外周側が前記フロントシェルに対して溶接されることにより固定されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1の車両用流体伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−76418(P2013−76418A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214879(P2011−214879)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000149033)株式会社エクセディ (270)