説明

車両用灯具

【課題】車両が加速中あるいは減速中などの場合でも車両の接近通報音などによって歩行者等へ車両の接近などを的確に知らせることができる。
【解決手段】車両に設けられて光源光を灯具前方へと出射する灯具本体と、与えられる電力の大きさに応じた振幅で前記車両の前後方向に振動するとともに当該振動を前記灯具本体の少なくとも一部に伝えることにより灯具外に所望の音を発生させる振動装置と、前記車両の加減速信号が入力されるとともに、前記加減速信号に基づいて、前記振動装置が慣性力を受けたときに生じる前記振動の変化を抑制するように前記電力の大きさを制御する制御装置と、を備えることを特徴とする車両用灯具を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具に関し、特に、灯具本体の少なくとも一部に振動を伝えることにより灯具外に所望の音を発生させる振動装置を備えた車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に設置されて車両の進行方向を歩いている歩行者などに車両の接近を知らせるための音を出す発音装置が知られている。例えば下記特許文献1に開示されている車両接近報知用発音装置は、駆動体を構成する打撃板を磁気回路の磁力によって駆動して車体の一部を打撃することによって車外に音を発生させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−79501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のような装置は、例えば打撃板の振動方向が車両の進行方向と略平行となるように車体に取り付けると、打撃板が車両の加減速に伴う慣性力を受けたときにその振動状態が慣性力を受けていないときと異なる状態となる。したがって、このような装置では、停止時や定速走行時に望ましい音が出るように設定すると、車両の加減速時に上記のような慣性力に起因する振動状態の変化により本来の望ましい音とは異なる音を発生してしまうことがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決することを目的として、本発明は、
車両に設けられて光源光を灯具前方へと出射する灯具本体と、
与えられる電力の大きさに応じた振幅で前記車両の前後方向に振動するとともに当該振動を前記灯具本体の少なくとも一部に伝えることにより灯具外に所望の音を発生させる振動装置と、
前記車両の加減速信号が入力されるとともに、前記加減速信号に基づいて、前記振動装置が慣性力を受けたときに生じる前記振動の変化を抑制するように前記電力の大きさを制御する制御装置と、
を備えることを特徴とする車両用灯具を提供する。
【0006】
このような車両用灯具によれば、車両の加減速時にも慣性力の影響により発生音が変化し難いので、車両が加速中あるいは減速中などの場合でも車両の接近通報音などによって歩行者等へ車両の接近などを的確に知らせることができる。
【0007】
また、上記車両用灯具において、
前記振動装置は、
与えられる交流電流の振幅に応じた強さの磁界を発生させるコイルと、
前記磁界の強さに応じて前記コイルに対して前記車両の前後方向に振動する振動部と、
を有し、
前記制御装置は、
前記振動装置が前記慣性力を受けたときに、前記交流電流の振幅を、前記振動部を前記車両の前方向へと移動させる力を発生させる正の振幅と、後方向へと移動させる力を発生させる負の振幅とが異なるように補正することが好ましい。
【0008】
これにより、車両の加減速時の慣性力に対する振動制御のための機械的構成を設けることなく、当該加減速時にも安定して所望の音を発生させることができる。
【0009】
また、上記車両用灯具において、
前記制御装置は、
前記加減速信号が前記車両の加速を示すものである場合に、前記交流電流の振幅を、前記正の振幅が前記負の振幅よりも大きくなるように補正することが好ましい。
【0010】
これにより、車両の加速時に振動部が慣性力によって車両の後方側へ押し付けられることによる振動への影響を緩和することで発生する音が変化するのを防ぐことができる。
【0011】
また、上記車両用灯具において、
前記制御装置は、
前記加減速信号が前記車両の減速を示すものである場合に、前記交流電流の振幅を、前記正の振幅が前記負の振幅よりも小さくなるように補正することが好ましい。
【0012】
これにより、車両の減速時に振動部が慣性力によって車両の前方側へ押し付けられることによる振動への影響を緩和することで発生する音が変化するのを防ぐことができる。
【0013】
また、上記課題を解決することを目的として、本発明は、
車両に設けられて光源光を灯具前方へと出射する灯具本体と、
与えられる電力の大きさに応じた振幅で前記車両の前後方向に振動するとともに当該振動を前記灯具本体の少なくとも一部に伝えることにより灯具外に所望の音を発生させる振動装置と、
前記車両の加減速信号が入力されるとともに、前記加減速信号に基づいて前記電力の大きさを制御する制御装置と、
を備えることを特徴とする車両用灯具を提供する。
【0014】
このような車両用灯具によれば、車両の加速時あるいは減速時などの状況に応じて所望の音を発生させることができるので、例えば車両の加速時や減速時に定速走行時よりも大きな警告音を出すことなどが可能となる。
【0015】
なお、本発明は、上記の各特徴を備えるものに限られず、これらの特徴のサブコンビネーションも本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用前照灯の縦断面図である。
【図2】車両用前照灯のカバーに取り付けられた振動装置の縦断面図である。
【図3】振動装置へ供給される電流の時間波形であり、(P)は車両の加速時または減速時以外の波形を、(Q)は車両の加速時の波形を、(R)は車両の減速時の波形を、それぞれ示す。
【図4】振動装置へ供給される電流の時間波形の他の例であり、(S)は車両が定速走行状態から加速したときの波形を、(T)は車両が定速走行状態から減速したときの波形を、それぞれ示す。
【図5】本発明の実施形態の他の例に係る車両用前照灯の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下において、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る車両用前照灯1の縦断面図である。
【0018】
本実施形態に係る車両用前照灯1は、本発明に係る車両用灯具の一例であり、図1に示すように、ランプハウジング12と、ランプハウジング12の前方側に設けられた開口を覆うようにランプハウジング12に取り付けられたカバー14で形成された灯室15内に、灯具ユニット10が収容されている。また、カバー14の下側の内面には、振動装置80が取り付けられている。また、ランプハウジング12の後面側には、灯具ユニット10の調整や交換作業などのための開口16が設けられている。この開口16は、車両用前照灯1の使用時には蓋部40によって塞がれている。
【0019】
灯具ユニット10は、ランプハウジング12にフレーム20を介して支持されている。そして、フレーム20は、不図示のエイミング機構を介して、ランプハウジング12に支持されている。また、フレーム20の上部前方側には、灯具ユニット10の上部に設けられた被支持軸32を回転自在に支持する軸受部22が設けられている。また、灯具ユニット10の下部に設けられた連結孔には、スイブルアクチュエータ70の回動軸が嵌合されている。
【0020】
スイブルアクチュエータ70は、ランプハウジング12の下部に配置された制御ユニット90における回路基板95とケーブル71を介して電気的に接続されている。スイブルアクチュエータ70は、このケーブル71経由で回路基板95から駆動電力およびステアリング操作に応じた駆動信号が与えられることにより、回動軸を介して灯具ユニット10を鉛直軸回りに回転駆動する。
【0021】
灯具ユニット10は、本例では、プロジェクタ型の灯具ユニットであり、車両前後方向に延びる光軸Ax上に配置された投影レンズ11と、バルブソケット60に取り付けられてケーブル61を介して供給される電力により発光する光源バルブ23と、この光源バルブ23からの光を前方に向けて光軸Ax寄りに反射させるリフレクタ25と、投影レンズ11と光源バルブ23との間に配置されてリフレクタ25からの反射光の一部及び光源バルブ23からの直射光の一部を遮蔽して主配光による配光パターンのカットオフラインを形成するシェード31と、投影レンズ11とリフレクタ25との間に介在して両者を連結する略円筒状のホルダ30とを備えている。これら灯具ユニット10の各構成の詳細については公知であることからその説明を省略する。
【0022】
制御ユニット90は、本発明に係る車両用灯具における制御装置の一例であり、外周を覆うケース94と、ケース94の内部に配される回路基板95とを有し、ランプハウジング12の下部に設けられた開口17の下方に取り付けられている。回路基板95は、そのランプハウジング12側の面(上面)に、複数のコネクタ96,97,98が設けられている。これらのコネクタ96,97,98は、光源バルブ23の点灯制御回路、スイブルアクチュエータ70の駆動制御回路、および振動装置80の振動制御回路など、回路基板95に形成された各制御回路の出力端子として機能する。
【0023】
そして、光源バルブ23の点灯制御回路の出力端子であるコネクタ96は、バルブソケット60から延びるケーブル61の先端部に設けられたプラグ65と嵌合している。また、同様に、スイブルアクチュエータ70の駆動制御回路の出力端子であるコネクタ97は、スイブルアクチュエータ70から延びるケーブル71の先端部に設けられたプラグ75と嵌合しており、振動装置80の振動制御回路の出力端子であるコネクタ98は、振動装置80から延びるケーブル81の先端部に設けられたプラグ85と嵌合している。
【0024】
また、回路基板95は、下面にもコネクタ99が設けられている。このコネクタ99は、回路基板95の外部入力端子として機能し、車両用前照灯1の外部へと延びるケーブル501の先端部に設けられたプラグ505と嵌合している。回路基板95は、車速センサ、モータ回転数センサ、およびアクセル開度センサなどの各種センサと、ケーブル501を介して直接またはECUなどを介して電気的に接続している。そして、回路基板95には、これらの各種センサから車両の加減速を示す信号を含む車両の走行状態に関する各種の信号が入力される。なお、回路基板95は、車両の運転席に配置された車両用前照灯1の点灯制御に関するスイッチ類などとも電気的に接続しており、これらのスイッチ類の操作内容を示す信号も入力される。
【0025】
図2は、車両用前照灯1のカバー14に取り付けられた振動装置80の縦断面図である。振動装置80は、ケーブル81を介して与えられる電力の大きさに応じた振幅で車両の前後方向と略同一方向に振動するとともに当該振動をカバー14に伝えることにより灯具外に所望の音を発生させる装置であって、筐体82、蓋体83、巻芯84、コイル85、および磁石86を有する。なお、図2において左側が車両前方側であり、右側が車両後方側(灯室側)である。
【0026】
筐体82は、車両後方側が開放された略円筒形の中空部材であり、車両前方側の面がカバー14の灯具後方側の面(内面)に接着固定されている。この筐体82の材料は特に限定されないが、コイル85などからの漏電を避けるために絶縁材料が好ましく用いられる。
【0027】
蓋体83は、中央が開口した略円盤形状の弾性体部83aと弾性体部83aの上記開口を塞ぐように設けられた剛体部83bとで構成されている。この蓋体83は、筐体82の車両後方側の開口を塞ぐように配されており、弾性体部83aの一部が筐体82に固定されている。弾性体部83aは、磁石86が後述のように電磁力により車両前後方向に振動する際に弾性変形する。剛体部83bは、その車両前方側の面に磁石86が接着固定されており、磁石86が後述のように電磁力により車両前後方向に振動する際にもほとんど変形せずに磁石86とともに振動する。弾性体部83aおよび剛体部83bの各部に用いられる材料は、それぞれ上記機能を有する材料であれば特に限定されないが、さらに絶縁性を有する材料であることが好ましい。
【0028】
巻芯84は、略円筒形の中空部材であり、外側面にコイル85が巻きつけられている。この巻芯84には、例えば鉄などの磁性体が好ましく用いられる。磁石86は、略円筒形の永久磁石であり、蓋体83の中央部から車両前方側へ突出するように蓋体83に接着固定されている。この磁石86には、フェライト磁石が好ましく用いられるが、アルニコ磁石など他の永久磁石を用いてもよい。
【0029】
以上において構成を説明した振動装置80は、ケーブル81を介して与えられる電力によって、次のように振動することにより灯具外に所望の音を発生させる。すなわち、例えば図3の(P)に時間波形で示すような交流電流(振幅I)がケーブル81を介してコイル85に与えられると、コイル85の内側に発生する交番磁束によって磁石86が振動する。
【0030】
ここで、磁石86は、図2に示す基準位置から、車両前方側には図2に「L+」で示す振幅で、車両後方側には図2に「L−」で示す振幅で振動するが、例えば車両が停止または定速走行中であれば、振幅「L+」と「L−」とは略等しい。そして、このとき、磁石86の車両前方側の面86aと筐体82の車両後方側の面82aとが一定周期で衝突することにより筐体82が振動し、この振動がカバー14へと伝播する。
【0031】
そして、カバー14へと伝播した振動が車両用前照灯1の周囲に音波として伝わる。これにより、車両が近づいていることを示す警告音などの所望の音を車両の周囲にいる歩行者に対して伝えることができる。なお、振動装置80によって発生させる音の大きさや音色は、磁石86の振動の振幅や周期(振動周波数)によって決定され、ケーブル81を介してコイル85に与える電流の時間波形を変化させることにより調整することができる。
【0032】
ところで、車両の加速時には、磁石86には図2にFで示す方向(車両前方側から後方側へ向かう方向)の慣性力が作用する。すなわち、車両の加速時には、この慣性力によって磁石86が車両後方側へ押し付けられる。このような車両の加速時に、仮に、図3の(P)に示す時間波形の電流をコイル85に供給し続けた場合、振動装置80における磁石86の振動の振幅は上記慣性力によって変化する。
【0033】
具体的には、磁石86は、上記基準位置から車両後方側へずれた位置を新たな振動の基準位置として振動するとともに、車両前方側への振幅(L+)および車両後方側への振幅(L−)がともに小さくなる。そして、これに伴い、磁石86が筐体82に衝突する周期や磁石86が筐体82に与える力積が変化することとなり、その結果として振動装置80によって発生させている音の大きさや音色が変わってしまう。
【0034】
そこで、本例の車両用前照灯1では、車両の加速時には、制御ユニット90が、上記の各種センサから入力される車両の加速を示す信号に基づいて、振動装置80が上記慣性力を受けたときに生じる振動の変化を抑制するように、振動装置80へ供給する電流の大きさを制御する。具体的には、制御ユニット90の回路基板95は、車両の加速を示す信号が入力されると、図3の(Q)に示す時間波形の電流を振動装置80のコイル85へ供給する。
【0035】
この電流は、図3の(P)に示す時間波形の電流と比べて、振動装置80の磁石86を上記基準位置から車両前方側へ移動させる電磁力を生起する成分の振幅(正の振幅)が「+I」から「I」へとその絶対値が大きくなっており、車両後方側へ移動させる電磁力を生起する成分の振幅(負の振幅)が「−I」から「I’」へと絶対値が小さくなっている。したがって、図3の(P)に示す時間波形の電流では正の振幅と負の振幅とが絶対値において等しいのに対し、図3の(Q)に示す時間波形の電流では、正の振幅が負の振幅よりも大きい。なお、図3の(Q)に示す時間波形の電流は、図3の(P)に示す時間波形の電流と周期(周波数)は同じである。
【0036】
このように、車両の加速時に図3の(Q)に示す時間波形の電流を振動装置80のコイル85へ供給することにより、図3の(P)に示す時間波形の電流を供給しているときと比べて、上記基準位置から車両前方側へ移動する際に磁石86が受ける電磁力はより大きくなり、車両後方側へ移動する際に磁石86が受ける電磁力はより小さくなる。そして、磁石86は、これらの電磁力と車両の加速によって受けている上記慣性力(F)との合力の周期的な変化に応じて振動する。
【0037】
ここで、本例においては、上記電磁力と上記慣性力の合力の振幅は、図3の(P)に示す時間波形の電流を供給しているときに磁石86が受けている電磁力の振幅と略等しい。したがって、磁石86は、車両の加速の前後においてその振幅および周期(周波数)をほとんど変えることなく振動する。ゆえに、振動装置80によって車両用前照灯1から発生させている音の大きさや音色は車両が加速する前後でほとんど変化することがない。
【0038】
一方、車両の減速時には、磁石86には図2にFで示す方向(車両後方側から前方側へ向かう方向)の慣性力が作用する。すなわち、車両の減速時には、この慣性力によって磁石86が車両前方側へ押し付けられる。このような車両の減速時においても、仮に、図3の(P)に示す時間波形の電流をコイル85に供給し続けた場合、振動装置80における磁石86の振動の振幅は上記慣性力によって変化する。
【0039】
具体的には、磁石86は、上記基準位置から車両前方側へずれた位置を新たな振動の基準位置として振動するとともに、車両前方側への振幅(L+)および車両後方側への振幅(L−)がともに小さくなる。これに伴い、車両の加速時と同様に、振動装置80によって発生させている音の大きさや音色が変わってしまう。そこで、本例の車両用前照灯1では、車両の減速時には、制御ユニット90の回路基板95が、上記の各種センサから入力される車両の減速を示す信号に基づいて、図3の(R)に示す時間波形の電流を振動装置80のコイル85へ供給する。
【0040】
この電流は、図3の(P)に示す時間波形の電流と比べて、振動装置80の磁石86を上記基準位置から車両前方側へ移動させる電磁力を生起する成分の振幅(正の振幅)が「+I」から「I」へとその絶対値が小さくなっており、車両後方側へ移動させる電磁力を生起する成分の振幅(負の振幅)が「−I」から「I’」へと絶対値が大きくなっている。したがって、図3の(R)に示す時間波形の電流では、負の振幅が正の振幅よりも大きい。なお、図3の(R)に示す時間波形の電流は、図3の(P)および(Q)に示す時間波形の電流と周期(周波数)は同じである。
【0041】
このように、車両の減速時に図3の(R)に示す時間波形の電流を振動装置80のコイル85へ供給することにより、図3の(P)に示す時間波形の電流を供給しているときと比べて、上記基準位置から車両前方側へ移動する際に磁石86が受ける電磁力はより小さくなり、車両後方側へ移動する際に磁石86が受ける電磁力はより大きくなる。そして、磁石86は、これらの電磁力と車両の減速によって受けている上記慣性力(F)との合力の周期的な変化に応じて振動する。
【0042】
ここで、上記電磁力と上記慣性力の合力の振幅は、図3の(P)に示す時間波形の電流を供給しているときに磁石86が受けている電磁力の振幅と略等しい。したがって、磁石86は、車両の減速の前後においてその振幅および周期(周波数)をほとんど変えることなく振動する。ゆえに、振動装置80によって車両用前照灯1から発生させている音の大きさや音色は車両が減速する前後でほとんど変化することがない。
【0043】
以上のように、本例の車両用前照灯1は、車両の加速動作あるいは減速動作時の各動作に応じた時間波形の電流が制御ユニット90から振動装置80に供給されるので、振動装置80によって車両用前照灯1から発生させている音の大きさや音色は車両の加減速によってもほとんど変化することがない。したがって、本実施形態に係る車両用前照灯1によれば、車両の接近通報音などによって歩行者等へ車両の接近などを的確に知らせることができる。
【0044】
なお、本例の車両用前照灯1では、制御ユニット90は、車両が加速または減速したことを示す信号が入力されたことに応じて加速または減速の動作毎に決められた時間波形の電流を振動装置80に供給しているが、当該各動作の際に振動装置80に供給する電流の時間波形は本例に限られない。例えば、車両の加速度および減速度の大きさを示す信号が制御ユニット90に入力されていれば、制御ユニット90は、例えば加速度および減速度の大きさに応じて振幅を変化させた周期電流を振動装置80に供給してもよい。これにより、振動装置80の振動制御をより精密に行うことができる。
【0045】
また、本例の車両用前照灯1では、車両が加速あるいは減速したときに、振動装置80における磁石86などの振動部に作用する慣性力の影響(発生音の変化)を緩和することを主たる目的として振動装置80に供給する電流の時間波形を変化させて振動装置80の振動を安定させている。しかしながら、本例の車両用灯具1は、これとは異なることを目的として、車両が加速あるいは減速したときに振動装置80に供給する電流の時間波形を変化させてもよい。
【0046】
具体的には、例えば車両が定速走行状態から加速したときには、そのまま定速走行を続けていた場合と比べて進行方向を歩いている歩行者などに接近する時間が短くなるため、当該歩行者などにいち早く車両の接近を知らせる必要がある。したがって、この場合には、図4の(S)に示すように、制御ユニット90は、車両が定速走行状態から加速を開始すると、図3の(Q)に示す電流の時間波形の振幅よりも大きな振幅の電流を振動装置80に供給する。
【0047】
すなわち、この場合に制御ユニット90が振動装置80に供給する電流は、図3の(Q)に示す時間波形の電流と比べて、振動装置80の磁石86を上記基準位置から車両前方側へ移動させる電磁力を生起する成分の振幅(正の振幅)は「I」よりも絶対値の大きな「I」であり、車両後方側へ移動させる電磁力を生起する成分の振幅(負の振幅)は「I’」よりも絶対値の大きな「I’」である。これにより、振動装置80は、車両の加速に伴う上記慣性力を受けたときに生じる振動の変化が抑制されるだけでなく、定速走行時と比べてより大きな振幅で振動する。したがって、振動装置80によって車両用前照灯1から発生させている音の大きさは、車両が加速を始めるとともに大きくなる。ゆえに、進行方向を歩いている歩行者などに車両の接近をいち早く知らせることができる。
【0048】
一方、例えば車両が定速走行状態から減速したときには、そのまま定速走行を続けていた場合と比べて進行方向を歩いている歩行者などに接近する時間は長くなるが、車両を駐車する際や交差点を曲がる直前などに車両を減速することが多く、上記の加速の場合と同様に、車両の進行方向を歩いている歩行者などにいち早く車両の接近を知らせる必要がある。したがって、この場合には、図4の(T)に示すように、制御ユニット90は、車両が定速走行状態から減速を開始すると、図3の(R)に示す電流の時間波形の振幅よりも大きな振幅の電流を振動装置80に供給する。
【0049】
すなわち、この場合に制御ユニット90が振動装置80に供給する電流は、図3の(R)に示す時間波形の電流と比べて、振動装置80の磁石86を上記基準位置から車両前方側へ移動させる電磁力を生起する成分の振幅(正の振幅)は「I」よりも絶対値の大きな「I」であり、車両後方側へ移動させる電磁力を生起する成分の振幅(負の振幅)は「I’」よりも絶対値の大きな「I’」である。これにより、振動装置80は、車両の減速に伴う上記慣性力を受けたときに生じる振動の変化が抑制されるだけでなく、定速走行時と比べてより大きな振幅で振動する。したがって、振動装置80によって車両用前照灯1から発生させている音の大きさは、車両が減速を始めるとともに大きくなる。ゆえに、この場合でも、進行方向を歩いている歩行者などに車両の接近をいち早く知らせることができる。
【0050】
また、本例の車両用前照灯1は、車両用前照灯1が設けられている車両が電気自動車などのように加速あるいは減速の際にモータのみによって駆動する車両である場合に、車両の加速または減速の動作ごとに、振動装置80の振動によってエンジン駆動の車両のエンジン音と同様の音が発生するように、振動装置80に供給する電流の時間波形を変化させてもよい。これにより、運転者の速度誤認によるスピードの出し過ぎやブレーキ遅れなどが生じ難い。
【0051】
図5は、本発明の実施形態の他の例に係る車両用前照灯2の縦断面図である。本例の車両用前照灯2において、上記の車両用前照灯1と同様の構成については、同じ符号を付してその説明を省略する。
【0052】
図5に示すように、本例の車両用前照灯2は、上記の車両用前照灯1において制御ユニット90に設けられていた振動装置80の振動制御回路を車両側に振動制御回路510として設けられている点で上記の車両用前照灯1と異なる。なお、この振動制御回路510は、車速センサ、モータ回転数センサ、およびアクセル開度センサなどの各種センサと直接またはECUなどを介して電気的に接続している。
【0053】
また、本例の車両用前照灯2では、ランプハウジング12の後面側の開口16を塞ぐ蓋部40にブッシング42が設けられている。このブッシング42は、例えばクロロプレンゴムなどの弾性材料で形成されたチューブであり、灯室15の内外を連通する。そして、振動装置80から延びるケーブル81は、このブッシング42に水密に挿し通されて灯室15の外まで引き出されており、その先端部に設けられたプラグ85は、車両側の振動制御回路510から延びるケーブル502の先端部に設けられたコネクタ506と灯室外で嵌合している。
【0054】
このように、本例の車両用前照灯2は、振動装置80の振動制御回路を備えておらず、振動制御回路は車両側に設けられているので、例えば振動制御回路を制御ユニット90の回路基板95に設けた形態と比べて、回路基板95を小型化することができる。したがって、上記の車両用前照灯1などと比べて、灯具全体を小型化することができる。また、車両用前照灯2が事故等により破損した場合でも、車両側が破損していなければ振動制御回路は破損しない。したがって、このような場合における修理費用を抑えることができる。
【0055】
なお、以上の各例においては、振動装置80に供給される電流の時間波形を変化させることで振動装置80の振動状態を変化させる形態について説明したが、振動装置80に印加される電圧の時間波形を変化させることで振動装置80の振動状態を変化させてもよい。
【0056】
また、本例の車両用前照灯1では、振動装置80は、コイル85に供給される周期電流によって磁石86を振動させる形態であるが、振動装置80の振動部の形態はこれに限られない。例えば、磁石86を筐体82側に固定するとともに、巻芯84およびコイル85を蓋体83の剛体部83bに固定する形態とし、巻芯84およびコイル85を振動させてもよい(この場合、コイル85は筐体82には衝突させずに巻芯84の一部を筐体82の車両後方側の面82aに衝突させる構成とすることが望ましい)。
【0057】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることができることは当業者に明らかである。
【符号の説明】
【0058】
1,2…車両用前照灯(車両用灯具)
10…灯具ユニット(灯具本体)
11…投影レンズ(灯具本体)
12…ランプハウジング(灯具本体)
13…エクステンション(灯具本体)
14…カバー(灯具本体)
15…灯室
16,17…開口
18…収納スペース
19…係合凹部
20…フレーム
22…軸受部
23…光源バルブ
25…リフレクタ
30…ホルダ
31…シェード
32…被支持軸
40…蓋部
42…ブッシング
60…バルブソケット
61…ケーブル
70…スイブルアクチュエータ
71…ケーブル
80…振動装置
81…ケーブル
82…筐体
83…蓋体(振動部)
83a…弾性体部
83b…剛体部
84…巻芯
85…コイル
86…磁石(振動部)
90…制御ユニット(制御装置)
94…ケース
95…回路基板
96,97,98,99…コネクタ
501,502…ケーブル
505,506…コネクタ
510…振動制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられて光源光を灯具前方へと出射する灯具本体と、
与えられる電力の大きさに応じた振幅で前記車両の前後方向に振動するとともに当該振動を前記灯具本体の少なくとも一部に伝えることにより灯具外に所望の音を発生させる振動装置と、
前記車両の加減速信号が入力されるとともに、前記加減速信号に基づいて、前記振動装置が慣性力を受けたときに生じる前記振動の変化を抑制するように前記電力の大きさを制御する制御装置と、
を備えることを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】
前記振動装置は、
与えられる交流電流の振幅に応じた強さの磁界を発生させるコイルと、
前記磁界の強さに応じて前記コイルに対して前記車両の前後方向に振動する振動部と、
を有し、
前記制御装置は、
前記振動装置が前記慣性力を受けたときに、前記交流電流の振幅を、前記振動部を前記車両の前方向へと移動させる力を発生させる正の振幅と、後方向へと移動させる力を発生させる負の振幅とが異なるように補正することを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記加減速信号が前記車両の加速を示すものである場合に、前記交流電流の振幅を、前記正の振幅が前記負の振幅よりも大きくなるように補正することを特徴とする請求項2に記載の車両用灯具。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記加減速信号が前記車両の減速を示すものである場合に、前記交流電流の振幅を、前記正の振幅が前記負の振幅よりも小さくなるように補正することを特徴とする請求項2または3に記載の車両用灯具。
【請求項5】
車両に設けられて光源光を灯具前方へと出射する灯具本体と、
与えられる電力の大きさに応じた振幅で前記車両の前後方向に振動するとともに当該振動を前記灯具本体の少なくとも一部に伝えることにより灯具外に所望の音を発生させる振動装置と、
前記車両の加減速信号が入力されるとともに、前記加減速信号に基づいて前記電力の大きさを制御する制御装置と、
を備えることを特徴とする車両用灯具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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