説明

軌道位置データ付与システム及び軌道位置データ付与方法

【課題】軌道上を走行する車両に設置されたセンサから時系列的に出力される検査値データを、軌道位置データと対応付ける際に、車両上での測定中における人為的な作業を低減することができるようにする。
【解決手段】検査値データと同期して、または検査値データとして、車両上に設置された角速度センサ及び加速度センサにより少なくとも1軸の角速度データと少なくとも1軸の加速度データを順次取得し、時系列的に保存し、保存した角速度データが一定値から所定範囲内及び加速度データが一定値から所定範囲内にあるデータを車両停止位置にあるときのデータとして決定し、2つの車両停止位置間にある検査値データに対して、一方の車両停車位置からの走行距離を求め、求めた走行距離から、停車場の位置と軌道位置データとの対応付けがなされたテーブルを参照して軌道位置データを求めて、検査値データとの対応付けを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道上を走行する車両に設置されたセンサから時系列的に出力される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与システム及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軌道上を走行する車両においては、その軌道保守を行うために、軌道の状態を検査することが行われており、検査として、例えば、車両の動揺の検査などが、各種センサを用いて行われる。
【0003】
これらの検査を行う場合、センサを用いて取得される検査値データは、その検査値データがどこの軌道位置のデータであるかを表す軌道位置データとの対応付けがなされて、格納される必要がある。
【0004】
従来、軌道検測車のような検査専用車両では、軌道位置データを得るために車輪の回転から距離を計測するエンコーダや、地上子からの軌道位置データを受信可能な車上受信装置が装備されており、検査値データと軌道位置データとの対応付けが行えるようになっている。
【0005】
しかしながら、検査専用車両を用いずに、通常の営業車で検査値データを取得しようとすると、上記軌道位置データを取得するための装置が装備されていないために、軌道位置の決定が困難になる、という問題がある。
【0006】
このような問題を解決するためのものとして、特許文献1に示すものが知られている。
【0007】
特許文献1の車両走行動揺解析システム及び方法では、GPSアンテナ及びGPS受信機を有し、GPSアンテナによりGPS受信機が受信するGPS信号により取得される位置情報に基づいて車両の位置情報を補正するとともに、車両が駅に停止しているときに作業者により入力される駅停止信号および車両が構造物を通過するときに作業者により入力される構造物信号により車両の走行距離を補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3993222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、かかる従来のシステムまたは方法では、走行距離の補正のため、車両が駅に停止しているときに駅停止信号の入力を計測者に課しているために、操作が煩わしく、また、入力をし忘れたり、誤って駅以外の位置で入力したりする、といった人為的ミスが発生するおそれがあり、正しく入力されているか否かを、別途、人の判断により行う必要がある。
【0010】
本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたもので、車両上での測定中における人為的な作業を軽減することができる軌道位置データ付与システム及びその方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1記載の発明は、軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与システムであって、
前記検査値データと同期して、または検査値データとして、車両上に設置された角速度センサ及び加速度センサにより少なくとも1軸の角速度データと少なくとも1軸の加速度データを順次取得し、時系列的に保存するデータ記録装置と、
前記データ記録装置で記録されたデータを解析するデータ解析装置とを備え、前記データ解析装置は、
停車場の位置と軌道位置データとの対応付けがなされたテーブルと、
前記保存した角速度データまたは角速度データの変化量が一定値から所定範囲内にあり、且つ前記保存した加速度データまたは加速度データの変化量が一定値から所定範囲内にあるデータを車両停止位置にあるときのデータとして決定する停車位置決定手段と、
2つの車両停止位置間にある検査値データに対して、一方の車両停止位置からの走行距離を求める走行距離算出手段と、
求めた走行距離から前記テーブルを参照して車両停止位置が停車場の位置と一致するものとして軌道位置データを求めて、検査値データとの対応付けを行う軌道位置データ対応付け手段と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の軌道位置データ付与システムにおいて、前記走行距離算出手段は、時系列的に保存された進行方向の加速度データの二重時間積分を行って一方の車両停止位置からの走行距離を求めることを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の軌道位置データ付与システムにおいて、前記データ記録装置は、前記検査値データと同期して、車両上に設置されたGPS装置により位置データを順次取得し、時系列的に保存しており、
前記走行距離算出手段は、2つの車両停止位置間において、時系列的に保存されたGPS装置の位置データの変化量を順に求めて、その変化量を距離に換算して、距離を積算して一方の車両停止位置からの走行距離を求めることを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の発明は、軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与システムであって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置されたGPS装置により速度データを順次取得し、時系列的に保存するデータ記録装置と、
前記データ記録装置で記録されたデータを解析するデータ解析装置とを備え、前記データ解析装置は、
停車場の位置と軌道位置データとの対応付けがなされたテーブルと、
前記保存した速度データが所定値以下の範囲内にあるデータを車両停止位置にあるときのデータとして決定する停車位置決定手段と、
2つの車両停止位置間にある検査値データに対して、一方の車両停止位置からの走行距離を求める走行距離算出手段と、
求めた走行距離から前記テーブルを参照して車両停止位置が停車場の位置と一致するものとして軌道位置データを求めて、検査値データとの対応付けを行う軌道位置データ対応付け手段と、
を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の軌道位置データ付与システムにおいて、前記データ記録装置は、前記検査値データと同期して、または前記検査値データとして、車両上に設置された角速度センサ及び加速度センサにより少なくとも1軸の角速度データと少なくとも1軸の加速度データを順次取得し、時系列的に保存しており、
前記走行距離算出手段は、時系列的に保存された進行方向の加速度データの二重時間積分を行って一方の車両停止位置からの走行距離を求めることを特徴とする。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項4記載の軌道位置データ付与システムにおいて、前記データ記録装置は、併せてGPS装置からの位置データを時系列的に保存しており、
前記走行距離算出手段は、2つの車両停止位置間において、時系列的に保存されたGPS装置の位置データの変化量を順に求めて、その変化量を距離に換算して、距離を積算して一方の車両停止位置からの走行距離を求めることを特徴とする。
【0017】
請求項7記載の発明は、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の軌道位置データ付与システムにおいて、前記データ記録装置は、前記検査値データと同期して、軌道位置データと関連する軌道近傍の既定物の通過を表す既定物データを保存し、
前記走行距離算出手段は、2つの車両停止位置間、2つの既定物間、または既定物と車両停止位置との間で、一方の車両停止位置または既定物からの走行距離を求めることを特徴とする。
【0018】
請求項8記載の発明は、軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与方法であって、
前記検査値データと同期して、または検査値データとして、車両上に設置された角速度センサ及び加速度センサにより少なくとも1軸の角速度データと少なくとも1軸の加速度データを順次取得し、時系列的に保存する工程と、
前記保存した角速度データまたは角速度データの変化量が一定値から所定範囲内にあり、且つ前記保存した加速度データまたは加速度データの変化量が一定値から所定範囲内にあるデータを車両停止位置にあるときのデータとして決定する工程と、
2つの車両停止位置間にある検査値データに対して、一方の車両停止位置からの走行距離を求める工程と、
求めた走行距離から、停車場の位置と軌道位置データとの対応付けがなされたテーブルを参照して車両停止位置が停車場の位置と一致するものとして軌道位置データを求めて、検査値データとの対応付けを行う工程と、
を備えることを特徴とする。
【0019】
請求項9記載の発明は、軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与方法であって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置されたGPS装置により速度データを順次取得し、時系列的に保存する工程と、
前記保存した速度データが所定値以下の範囲内にあるデータを車両停止位置にあるときのデータとして決定する工程と、
2つの車両停止位置間にある検査値データに対して、一方の車両停止位置からの走行距離を求める工程と、
求めた走行距離から、停車場の位置と軌道位置データとの対応付けがなされたテーブルを参照して車両停止位置が停車場の位置と一致するものとして軌道位置データを求めて、検査値データとの対応付けを行う工程と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、車両が停止したときに角速度センサからの角速度及び加速度センサからの加速度、またはGPS装置からの速度がほぼ一定値になることを利用する。
【0021】
即ち、検査値データと同期して、または検査値データとして取得されて保存される角速度データ及び加速度データ若しくはそれらの変化量、または速度データが一定値から所定範囲内にあるデータを車両停止位置として決定することで、この車両停止位置を基準として、2つの車両停止位置の間の走行距離を求めることで、その2つの車両停止位置間に取得された検査値データを軌道位置データと対応付けることができるようになる。
【0022】
よって、車両が停車場に停車したときに、作業員がその入力を行う必要がないので、人為的ミスの発生要因を低減させることができ、作業員による測定作業も軽減することができる。
【0023】
2つの車両停止位置は、予めテーブルに格納されている停車場の位置と対応させることができるため、この2つの停車場間での走行距離を軌道位置データと対応付けることで、停車場において軌道位置データと対応付けられる走行距離をリセットすることができるから、算出される走行距離の誤差が累積していくことを防ぐことができる。
【0024】
2つの車両停止位置間において、進行方向の加速度データを二重時間積分するか、またはGPS装置からの位置の変化量を距離に換算して積算することで、走行距離を求めることができて、軌道位置データと検査値データとを対応付けることができる。
【0025】
また、進行方向の加速度データを時間積分するか、またはGPS装置からの速度データを取得することで、速度と検査値データとの対応付けも行うことができるようになる。
【0026】
2つの停車場との間だけでなく、より間隔の短い停車場と既定物との間、または2つの既定物同士の間で、走行距離を求めることで、より一層、走行距離と軌道位置データとの対応付けの精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による軌道位置データ付与方法を実施した軌道位置データ付与システムの全体図を示す概略説明図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るデータ記録装置の機能ブロック図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るデータ解析装置の機能ブロック図である。
【図4】軌道位置変換テーブルの一例である。
【図5】本発明の第1実施形態に係るデータ解析装置における軌道位置データ付与処理を表すフローチャートである。
【図6】本発明の第2実施形態に係るデータ記録装置の機能ブロック図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るデータ解析装置における軌道位置データ付与処理を表すフローチャートである。
【図8】本発明の第3実施形態に係るデータ記録装置の機能ブロック図である。
【図9】本発明の第4実施形態に係るデータ記録装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0029】
(第1実施形態)
図1は、本発明による軌道位置データ付与方法を実施した軌道位置データ付与システムの全体図を示す概略説明図である。
【0030】
図において、軌道位置データ付与システム10は、大別して、車両上に設置されて角速度、加速度等を測定し、測定によって取得された角速度データ、加速度データ等を記録するデータ記録装置12と、地上においてデータ記録装置12で記録されたデータを解析するデータ解析装置14及び充電器16と、に大別することができる。
【0031】
データ記録装置12は、センサ部20と、収録回路22と、バッテリ28とを備えて、可搬性を持った装置となっている。
【0032】
センサ部20は、車両の進行方向の加速度a、車両の左右方向の加速度a、車両の上下方向の加速度a、車両のロール角変化であるロール角速度r、車両のピッチ角変化であるピッチ角速度r、車両のヨー角変化であるヨー角速度rを検出する。例えば、センサ部20は、3軸の加速度と2軸の角速度を出力する加速度センサと角速度センサとからなるマイクロ慣性センサ(東京計器株式会社製「MESAG」(登録商標))を2個直交して配置することにより、これらの3つの加速度及び3つの角速度を検出することができる。またはセンサ部20は、個別の3個の加速度センサと3個の角速度センサとから構成することもできる。
【0033】
図2に示すように、収録回路22は、メモリ32と、角速度データ、加速度データを含む検査値データをメモリ32に格納する制御部34と、入力部38とを備える。必要に応じてセンサ部20と制御部34との間にA/D変換器を設けることができる。
【0034】
メモリ32は、データ記録装置12とは一体または別体となった任意の記録媒体とすることができ、一定周期毎の角速度データ、加速度データを含む検査値データを時系列的に格納する。
【0035】
入力部38は、測定/記録の開始、終了/記録の終了の指令を入力するためのものである。
【0036】
尚、前記制御部34、入力部38の少なくとも一部は、キーボード、マウスといった入力手段を備えたノート型パソコンのような携帯型コンピュータで構成することもできる。
【0037】
この例では、データ記録装置12は、軌道位置データを付与するための機能と、軌道保守のために必要な検査を行う機能とを兼用しており、検査装置も兼ねている。センサ部20から得られる検査値データは、動揺測定を行うものとして使用される。データ記録装置12が軌道位置データを付与するための機能のみを持つ場合には、センサ部20は、少なくとも1軸の角速度データと少なくとも1軸の加速度データのみを出力するものでよい。
【0038】
データ解析装置14は、CPUを有するコンピュータで構成され、データ解析装置14に格納された軌道位置データ付与プログラムを実行することにより、コンピュータであるデータ解析装置14は、図3に示すように、停車位置決定手段140、速度算出手段142、走行距離算出手段144、軌道位置データ対応付け手段146、繰り返し判断処理手段150として機能する。またデータ解析装置14は、メモリ32がセットされることによって、またはメモリ32のデータがダウンロードされることによって、データ保存手段としても機能する。このデータ解析装置14を構成するコンピュータは、データ記録装置12の一部を構成するコンピュータと同じものであってもよく、または別のものであってもよい。
【0039】
また、データ解析装置14には、軌道上の停車場データ、及びその停車場からの距離と、軌道位置データとしてのキロ程との対応付けが記録された軌道位置変換テーブル42と、検査値データと軌道位置データとしてのキロ程とを対応付けたデータ出力テーブル48が格納される。
【0040】
図4に示すように、軌道位置変換テーブル42では、停車場名及び停車場からの走行距離と、キロ程との対応付けが一レコードとして記録されている。但し、このテーブルにおいて、停車場からの走行距離とキロ程との対応付けは省略可能である。
【0041】
以上のように構成される軌道位置データ付与システム及び軌道位置データ付与方法の手順を説明する。
【0042】
1. 測定前の準備
予め、データ記録装置12のバッテリ28を充電器16により充電し、データ記録装置12には、記録可能な容量を持つメモリ32をセットしておく。
【0043】
2. 車両上での測定
角速度データを含む検査値データを取得するために、データ記録装置12を車両に運び、車両の任意の場所、例えば床上や座席に、データ記録装置12を設置する。このときに、センサ部20の方向と車両の座標とを一致させるようにして設置する。
【0044】
測定前に入力部38から測定開始地点であることを表す任意の測定基準データ、または測定開始地点のキロ程及び/または停車場名、線路名、上り下りの入力を行う。但し、測定開始地点のキロ程等の情報は、測定前後において既知の情報であるため、後述の地上の処理において、データ解析装置14において入力するようにしてもよい。
【0045】
データ記録装置12は、入力部38からの測定/記録開始指令の入力があると、測定及び記録を開始し、車両の停止/走行に関係なく、一定周期でセンサ部20からのデータを時系列的にメモリ32に格納し、入力部38からの測定/記録終了指令の入力があると、測定及び記録を終了する。
【0046】
測定後に入力部38から測定終了地点であることを表す任意の測定基準データ、またはキロ程及び/または停車場名の入力を行う。但し、ここでも、測定終了地点のキロ程等の情報は、測定前後において既知の情報であるため、後述の地上の処理において、データ解析装置14において入力するようにしてもよい。
【0047】
この例では、メモリ32に記録される検査値データは、進行方向加速度データ、左右方向加速度データ、上下方向加速度データ、ロール角速度データ、ピッチ角速度データ、ヨー角速度データであり、これらは同期して記録される。また、メモリ32には、測定開始地点及び測定終了地点を表す測定基準データが記録される。この時点で、加速度データ及び角速度データは、共通のデータID(または通し番号)と対応付けられる。測定開始地点及び測定終了地点を表す測定基準データもデータIDと対応付けられる。
【0048】
測定中に、車両が停車場に停車すると、センサ部20からのデータは、走行中とは明らかに異なるデータとなる。即ち、停車中は、細かい車両の振動はあるものの基本的には、以下のように、3軸の加速度はほぼ一定値を示し、特に進行方向及び左右方向の加速度はほぼ0、上下方向の加速度はほぼ1Gとなり、角速度もほぼ一定値でほぼ0となる。
【0049】
進行方向の加速度a・・・ほぼ0
左右方向の加速度a・・・ほぼ0
上下方向の加速度a・・・1G
ロール角速度r・・・ほぼ0
ピッチ角速度r・・・ほぼ0
ヨー角速度r・・・ほぼ0
【0050】
但し、停車場において車両が傾斜して停車する場合には、上下方向の加速度は1Gよりもやや小さくなり、左右方向の加速度が0よりもやや大きくなる場合もあるが、その場合にも、停車している限り、加速度は、予め既知となる傾斜に応じたほぼ一定値を示す。
また、各加速度及び各角速度の変化量も、ほぼ0の一定値を示す。
【0051】
3. 地上での処理
測定終了後に、地上において、データ解析装置14による軌道位置データ付与プログラムにより、メモリ32に記録されたデータに対して、図5に示した処理を行い、停車時における加速度及び角速度の傾向を用いて停車位置を求め、この停車位置を基準として、検査値データを軌道位置データと対応付ける。
【0052】
まず、センサ20から出力された加速度値が所定条件を満たすデータの範囲を求める(ステップS12)。ここで、求めるデータの範囲としては、進行方向の加速度a、左右方向の加速度a、上下方向の加速度aの少なくとも一つがある一定値から所定範囲内にある範囲とすることができる。具体的には、一定値とは、進行方向の加速度a、左右方向の加速度aであれば原則0、上下方向の加速度aであれば原則1Gであるが、予め車両が停車場で傾いて停車することが分かっている場合には、一定値は、その停車する可能性のある傾斜に応じた一つ以上の一定値とすることができる。
【0053】
または、求めるデータの範囲としては、進行方向の加速度a、左右方向の加速度a、上下方向の加速度aの時間変化量の少なくとも一つがある一定値から所定範囲内にある範囲とすることができる。具体的には、一定値は0である。
【0054】
次に、センサ20から出力された角速度値が所定条件を満たすデータの範囲を求める(ステップS14)。ここで、求めるデータの範囲としては、ロール角速度r、ピッチ角速度r、ヨー角速度rの少なくとも一つがある一定値から所定範囲内にある範囲とすることができる。一定値とは、具体的には原則0である。
【0055】
または、求めるデータの範囲としては、ロール角速度r、ピッチ角速度r、ヨー角速度rの時間変化量の少なくとも一つがある一定値から所定範囲内にある範囲とすることができる。具体的には、一定値は0である。
【0056】
ステップS12及びステップS14において所定範囲とは、データのノイズ等を含む0に近い値とすることができ、予め実験による停車時におけるデータから求めておくことができる。
【0057】
ステップS12とステップS14とで求めた範囲が一致するデータの範囲を求める(ステップS16)。この範囲にあるデータについては、車両が停車位置にあり、暫定的に車両が停車場の位置にあるときのデータと見なす。ここで、求めるデータの範囲は、停車場での停車時間に相当する所定時間範囲において継続している範囲とすることができる。
【0058】
ステップS16において停車場の位置にあると見なされた隣り合う2つの停車場位置間にあるデータIDに対応して、進行方向の加速度の時間積分を行って速度を求め(ステップS18)、さらに速度を時間積分して一方の停車場位置からの走行距離を求める(ステップS19)。
【0059】
そして、求めた走行距離から軌道位置変換テーブル42を参照して、該当する一方の停車場からの距離とキロ程の間の対応付けから、データIDとキロ程との間の対応付けを行う(ステップS20)。または、求めた走行距離から軌道位置変換テーブル42を参照して、該当する一方の停車場に対応するキロ程に、求めた走行距離を加算したものを、その求めた走行距離に対応するデータIDに対応するキロ程とすることもできる。
【0060】
車両が停車場間で(停止信号等をうけて)途中停車を行った場合には、ステップS19による二重時間積分により2つの停車場(即ちステップS16で停車場とみなした2つの隣り合う停車場)間の走行距離を求めたときに、求めた走行距離と予め軌道位置変換テーブル42に格納されている2つの停車場間の距離との誤差が所定範囲を超えることが考えられる。そのように誤差が所定範囲を超える場合には、みなした停車場は、真の停車場ではないとし、順次、次に停車場とみなされたデータとの間で処理を行って、求めた2つの停車場間の走行距離と予め軌道位置変換テーブル42に格納されている2つの停車場間の距離との誤差が所定範囲内に収まるようにする。
【0061】
また、誤差が所定範囲内にあるときにも、二重時間積分によって得られた2つの停車場間の走行距離が、予め軌道位置変換テーブル42に格納されている2つの停車場間の距離になるように走行距離の伸縮処理を行って走行距離の補正を行い、各データIDに対応する補正後の走行距離に対応するキロ程を決定するとよい。
【0062】
検査値データ及び求めた速度とキロ程とを対応付けてデータ出力テーブル48に格納する(ステップS22)。
【0063】
検査値データとキロ程との対応付けは、測定を開始し、または最初の停車場とその次の停車場とみなされたデータの範囲から開始して、順次、その次の停車場の間に対して繰り返し行っていく(ステップS18〜S24)。そして、データ出力テーブル48に格納されたテーブルに基づき必要に応じて解析結果を帳票として出力する(ステップS26)。
【0064】
こうして、停車場での停止を自動的に判断することにより、車両上での測定中に駅停止信号の入力を行う必要がなく、人為的ミスの発生要因を低減させることができ、作業員による測定作業も軽減することができる。
【0065】
2つの停車場間での走行距離を軌道位置データと対応付けることで、停車場において軌道位置データと対応付けられる走行距離をリセットすることができるため、算出される走行距離の誤差が累積していくことを防ぐことができる。
【0066】
進行方向の加速度を時間積分して速度を算出することで、速度と検査値データとの対応付けも可能となり、その相関関係の解析に供することができる。
【0067】
(第2実施形態)
図6は、第2実施形態にかかるデータ記録装置12の機能ブロック図を表す。同図において、第1実施形態と同様の部材は同一の符号を付してその説明を省略する。
【0068】
この例では、データ記録装置12は、さらにGPS装置26を備えている。GPS装置26は、GPSアンテナと受信機とからなり、緯度・経度からなる位置データと、速度データを出力する。
【0069】
この実施形態では、測定中、メモリ32が一定周期でセンサ部20からのデータ及び同一または異なる別の一定周期でGPS装置26からのデータを時系列的に格納するようになっており、センサ部20からのデータと同様に、GPS装置26からの位置及び速度のデータも、データIDと対応付けられる。一般的に、GPS装置26のデータ取得周期は、センサ20のデータ取得周期よりも長いため、位置及び速度データは、加速度、角速度データよりも、間歇的となる。
【0070】
この実施形態におけるデータ解析装置14による軌道位置データ付与プログラムによる処理を図7に示す。
【0071】
この実施形態では、ステップS12〜S16の処理を行った後、隣り合う2つの停車位置間にあるデータIDに対応して、GPS装置26からの緯度・経度を次の緯度・経度と比較し、緯度・経度の変化量を求め、この変化量から既知の換算式を用いて距離に変換し、その距離を積算して、一方の停車場位置からの走行距離を求める(ステップS30)。以下の処理は、第1実施形態と同一であり、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0072】
この実施形態では、GPS装置26から緯度・経度情報が得られるので、入力によらずに測定開始位置及び測定終了位置の特定を行ってもよく、また、停車位置にあると判断されたデータに対応する位置データから停車場を特定するようにしてもよく、これによって、途中停車と停車場における停車との識別を行うようにしてもよい。この目的のために、停車場と位置(緯度・経度)情報とが対応付けられたテーブルをデータ解析装置14で用意しておくとよい。
【0073】
GPS装置のデータ取得周期が、検査値データのデータ取得周期よりも長い場合には、GPS装置のデータ取得周期の間のデータに対しては、第1実施形態と同様に、進行方向の加速度の二重時間積分を行って走行距離を求めることで、補間を行うこととしてもよい。
【0074】
また、GPS装置の速度データを取得することで、速度と検査値データとの対応付けも可能となり、その相関関係の解析に供することができる。
【0075】
任意には、ステップS12〜S16の処理を行う代わりに、GPS装置26からの出力された速度値がある一定値から所定範囲内にあるデータについては、車両が停車位置にあり、暫定的に車両が停車場の位置にあるときのデータと見なすこともできる。一定値とは、具体的には原則0である。所定範囲とは、データのノイズ等を含む0に近い値とすることができ、予め実験による停車時におけるデータから求めておくことができる。また、停車場での停車時間に相当する所定時間範囲において継続するデータのみ停車場の位置にあるデータと見なすこともできる。
【0076】
(第3実施形態)
図8は、第3実施形態にかかるデータ記録装置12の機能ブロック図を表す。同図において、第1実施形態と同様の部材は同一の符号を付してその説明を省略する。
【0077】
この例では、第1実施形態に加えて、データ記録装置12の収録回路22は、マーキング部36をさらに備える。マーキング部36は、手動で操作可能であり、この操作が行われたときに、メモリ32にセンサ部20からのデータと対応付けられて既定物データが格納される。
【0078】
また、データ解析装置14は、既定物テーブル46をさらに備える(図3参照)。既定物テーブル46には、停車場以外の既定物の情報を記録しており、例えば既定物として、橋梁、踏切、トンネル、分岐器のキロ程との対応付けを含めることができる。また、この既定物テーブル46は、軌道位置変換テーブル42と別に設ける代わりに、軌道位置変換テーブル42と一体化することもできる。
【0079】
この実施形態では、測定中に、上記既定物を停車または通過するときに、作業者がマーキング部36を操作する。これによって、上記メモリ32に、上記センサ部20で得られる角速度データ及び加速度データを含む検査値データと同期して、データIDと対応付けられて既定物データが記録される。
【0080】
また、この実施形態におけるデータ解析装置14による軌道位置データ付与プログラムによる処理においては、ステップS16によって停車場の位置にあるときのデータと見なされたデータIDと、既定物データと対応付けられたデータIDと、の間にあるデータIDに対応して、走行距離を求める(ステップS18)。
【0081】
第3実施形態によれば、隣り合う2つの停車場との間だけではなく、より間隔の短い停車場と既定物との間、または隣り合う2つの既定物同士の間で、走行距離を求めるために、より一層、走行距離とキロ程との対応付けの精度を高めることができる。
【0082】
また、第3実施形態では、既定物を通過時に作業者の操作を要求することになるものの、停車場においては、入力を省略することができるので、人為的な作業を低減することができる。
【0083】
(第4実施形態)
図9は、第4実施形態にかかるデータ記録装置12の機能ブロック図を表す。同図において、前実施形態と同様の部材は同一の符号を付してその説明を省略する。
【0084】
この例では、第3実施形態と比較して、データ記録装置12がGPS装置26を備えている。
【0085】
この実施形態におけるデータ解析装置14による軌道位置データ付与プログラムによる処理においては、ステップS16によって停車場の位置にあるときのデータと見なされたIDデータと、既定物データと対応付けられたIDデータと、の間にあるデータIDに対応して、GPS装置26からの位置データにより走行距離を求める(ステップS30)。
【0086】
第4実施形態によれば、第3実施形態と同様に、隣り合う2つの停車場との間だけではなく、より間隔の短い停車場と既定物との間、または隣り合う2つの既定物同士の間で、走行距離を求めるために、より一層、走行距離とキロ程との対応付けの精度を高めることができる。また、既定物の通過時に作業者の操作を要求することになるものの、停車場においては、入力を省略することができるので、作業員による作業を軽減することができる。
【0087】
既定物としては、前述のように、マーキング部36から直接手動により入力される停車場、橋、トンネルといった既定物を通過したことを表すデータとする他に、別途のセンサにより自動的に通過したことを検出したことを表すデータとすることもできる。または、他のATSやデーターデポ(登録商標)(東京計器レールテクノ株式会社製)といった軌道に沿って間隔をあけて配置された地上子の通過を自動的に検知するデータとすることもできる。
【0088】
また、第4実施形態において、既定物の緯度・経度とキロ程との対応テーブルを備えることもでき、GPS装置26からの位置データと該対応テーブルの緯度・経度とを照合することにより手動によらずに既定物の通過を判定するようにしてもよい。
【0089】
尚、以上の説明例では、検査値データは、角速度及び加速度を検出するセンサによって共通に検出されるデータであったが、これに限るものではなく、検査値データは、別のセンサによって検出される別の測定値のデータとすることもできる。
【符号の説明】
【0090】
10 軌道位置データ付与システム
12 データ記録装置
14 データ解析装置
26 GPS装置
42 軌道位置変換テーブル
140 停車位置決定手段
142 速度算出手段
144 走行距離算出手段
146 軌道位置データ対応付け手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与システムであって、
前記検査値データと同期して、または検査値データとして、車両上に設置された角速度センサ及び加速度センサにより少なくとも1軸の角速度データと少なくとも1軸の加速度データを順次取得し、時系列的に保存するデータ記録装置と、
前記データ記録装置で記録されたデータを解析するデータ解析装置とを備え、前記データ解析装置は、
停車場の位置と軌道位置データとの対応付けがなされたテーブルと、
前記保存した角速度データまたは角速度データの変化量が一定値から所定範囲内にあり、且つ前記保存した加速度データまたは加速度データの変化量が一定値から所定範囲内にあるデータを車両停止位置にあるときのデータとして決定する停車位置決定手段と、
2つの車両停止位置間にある検査値データに対して、一方の車両停止位置からの走行距離を求める走行距離算出手段と、
求めた走行距離から前記テーブルを参照して車両停止位置が停車場の位置と一致するものとして軌道位置データを求めて、検査値データとの対応付けを行う軌道位置データ対応付け手段と、
を備えることを特徴とする軌道位置データ付与システム。
【請求項2】
前記走行距離算出手段は、時系列的に保存された進行方向の加速度データの二重時間積分を行って一方の車両停止位置からの走行距離を求めることを特徴とする請求項1記載の軌道位置データ付与システム。
【請求項3】
前記データ記録装置は、前記検査値データと同期して、車両上に設置されたGPS装置により位置データを順次取得し、時系列的に保存しており、
前記走行距離算出手段は、2つの車両停止位置間において、時系列的に保存されたGPS装置の位置データの変化量を順に求めて、その変化量を距離に換算して、距離を積算して一方の車両停止位置からの走行距離を求めることを特徴とする請求項1記載の軌道位置データ付与システム。
【請求項4】
軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与システムであって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置されたGPS装置により速度データを順次取得し、時系列的に保存するデータ記録装置と、
前記データ記録装置で記録されたデータを解析するデータ解析装置とを備え、前記データ解析装置は、
停車場の位置と軌道位置データとの対応付けがなされたテーブルと、
前記保存した速度データが所定値以下の範囲内にあるデータを車両停止位置にあるときのデータとして決定する停車位置決定手段と、
2つの車両停止位置間にある検査値データに対して、一方の車両停止位置からの走行距離を求める走行距離算出手段と、
求めた走行距離から前記テーブルを参照して車両停止位置が停車場の位置と一致するものとして軌道位置データを求めて、検査値データとの対応付けを行う軌道位置データ対応付け手段と、
を備えることを特徴とする軌道位置データ付与システム。
【請求項5】
前記データ記録装置は、前記検査値データと同期して、または前記検査値データとして、車両上に設置された角速度センサ及び加速度センサにより少なくとも1軸の角速度データと少なくとも1軸の加速度データを順次取得し、時系列的に保存しており、
前記走行距離算出手段は、時系列的に保存された進行方向の加速度データの二重時間積分を行って一方の車両停止位置からの走行距離を求めることを特徴とする請求項4記載の軌道位置データ付与システム。
【請求項6】
前記データ記録装置は、併せてGPS装置からの位置データを時系列的に保存しており、
前記走行距離算出手段は、2つの車両停止位置間において、時系列的に保存されたGPS装置の位置データの変化量を順に求めて、その変化量を距離に換算して、距離を積算して一方の車両停止位置からの走行距離を求めることを特徴とする請求項4記載の軌道位置データ付与システム。
【請求項7】
前記データ記録装置は、前記検査値データと同期して、軌道位置データと関連する軌道近傍の既定物の通過を表す既定物データを保存し、
前記走行距離算出手段は、2つの車両停止位置間、2つの既定物間、または既定物と車両停止位置との間で、一方の車両停止位置または既定物からの走行距離を求めることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の軌道位置データ付与システム。
【請求項8】
軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与方法であって、
前記検査値データと同期して、または検査値データとして、車両上に設置された角速度センサ及び加速度センサにより少なくとも1軸の角速度データと少なくとも1軸の加速度データを順次取得し、時系列的に保存する工程と、
前記保存した角速度データまたは角速度データの変化量が一定値から所定範囲内にあり、且つ前記保存した加速度データまたは加速度データの変化量が一定値から所定範囲内にあるデータを車両停止位置にあるときのデータとして決定する工程と、
2つの車両停止位置間にある検査値データに対して、一方の車両停止位置からの走行距離を求める工程と、
求めた走行距離から、停車場の位置と軌道位置データとの対応付けがなされたテーブルを参照して車両停止位置が停車場の位置と一致するものとして軌道位置データを求めて、検査値データとの対応付けを行う工程と、
を備えることを特徴とする軌道位置データ付与方法。
【請求項9】
軌道上を走行する車両に設置されたセンサによって時系列的に取得される検査値データを、軌道位置データと対応付ける軌道位置データ付与方法であって、
前記検査値データと同期して、車両上に設置されたGPS装置により速度データを順次取得し、時系列的に保存する工程と、
前記保存した速度データが所定値以下の範囲内にあるデータを車両停止位置にあるときのデータとして決定する工程と、
2つの車両停止位置間にある検査値データに対して、一方の車両停止位置からの走行距離を求める工程と、
求めた走行距離から、停車場の位置と軌道位置データとの対応付けがなされたテーブルを参照して車両停止位置が停車場の位置と一致するものとして軌道位置データを求めて、検査値データとの対応付けを行う工程と、
を備えることを特徴とする軌道位置データ付与方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−245920(P2011−245920A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119007(P2010−119007)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000003388)東京計器株式会社 (103)
【出願人】(504412451)東京計器レールテクノ株式会社 (14)