説明

軟骨腫・軟骨肉腫治療剤

【課題】軟骨種・軟骨肉腫細胞のアポトーシスを誘導する新規な軟骨腫・軟骨肉腫治療剤の提供。
【解決手段】副甲状腺関連ペプチドとその受容体との結合を阻害する抗副甲状腺関連ペプチド(1−34)抗体を含む、軟骨種・軟骨肉腫細胞のアポトーシス誘導剤であって、抗副甲状腺関連ペプチド(1−34)抗体のL鎖V領域が配列番号48〜55で表されるいずれか一のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含み、かつH鎖V領域が配列番号56で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むヒト型化抗副甲状腺関連ペプチド(1−34)抗体であるアポトーシスを誘導する軟骨腫・軟骨肉腫治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副甲状腺ホルモン関連ペプチド(Parathyroid hormone related protein(PTHrP))とその受容体との結合を阻害する物質を含む、軟骨腫・軟骨肉腫治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
副甲状腺ホルモン関連ペプチド(Parathyroid Hormone related Peptide、以下「PTHrP」という。)は、悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症において、腫瘍細胞が産生する液性因子として発見されたペプチドで、破骨細胞の骨吸収や腎尿細管でのカルシウム再吸収を促進することにより、腫瘍性の高カルシウム血症(Humoral hypercalcemia of malignancy、以下「HHM」という。)を惹起する。
【0003】
PTHrPは、様々な腫瘍組織で産生されるほか、皮膚、中枢神経、子宮、胎盤、授乳中の乳腺、甲状腺、副甲状腺、副腎、肝、腎、膀胱をはじめ、胎児から成人に至る、種々の正常組織でも産生されることが報告されている(例えば、非特許文献1及び2参照)。
【0004】
PTHrPは、細胞の分化・増殖の制御、平滑筋の弛緩、経胎盤カルシウム輸送の促進、アポトーシスの促進等の生理的作用を有し、HHMに代表される高カルシウム血症や低リン血症等の臨床症状を引き起こす。こうしたPTHrPの作用は、主に骨と腎に存在するPTH/PTHrP受容体にPTHrPが結合し、複数の細胞内シグナル伝達系を活性化することによって発揮される。
【0005】
一方、発明者らは、PTHrPは前肥大期から肥大期にかけての軟骨細胞の分化を抑制することを既に報告している。この軟骨細胞の分化調節には、PTHrPの細胞内シグナル伝達とインディアンヘッジホッグ間のフィードバックの関与が示唆されているが、PTHrPが骨形成に影響を及ぼすメカニズムについては未だわかっていない(例えば、非特許文献3及び4参照)。
【0006】
脊椎動物の骨格を形成する骨の多くは、内軟骨性骨形成と呼ばれる骨化プロセスによってつくられる。内軟骨性骨形成では、増殖した軟骨細胞が、分化を続けながら骨が形成されやすい環境をつくり上げ、最終的に自身は死滅して骨に置き換わる。この内軟骨性骨形成における軟骨細胞の死滅のメカニズムとして、アポトーシスが提唱されている(例えば、非特許文献5及び6参照)。
【0007】
アポトーシスは、いくつかの細胞系では、細胞死抑制因子 Bcl-2と細胞死誘導因子 Baxの発現比率によって制御されている。つまり、細胞内におけるBaxとBcl-2の比率によって、その細胞が生きるか死ぬかが決定される。最近、軟骨細胞の成熟を制御するシグナル経路で、Bcl-2遺伝子がPTHrP遺伝子の下流に位置し、PTHrPがBcl-2の発現を増加させることがわかってきた(例えば、非特許文献7参照)。
【0008】
ところで、軟骨肉腫細胞では、PTHrPとBcl-2の発現がともに高いことが報告されている(例えば、非特許文献8及び9参照)。軟骨肉腫は、軟骨形成性の悪性腫瘍で、骨肉腫に次いで2番目に多い骨腫瘍であるが、化学療法や放射線療法に対する応答が悪いため、専ら外科的切除により治療されている。しかし、軟骨肉腫の予後は、グレードIやIIの場合は比較的良い(5年生存率65%)ものの、グレードIIIの間葉性脱分化軟骨肉腫では良くない。それゆえ、軟骨肉腫の予後をより向上させる新たな治療方法が望まれている。
【0009】
一方、PTHrPに対する抗体(以下「抗PTHrP抗体」と言う。)が、PTHrPに起因するHHMや悪液質の治療に有用であること(例えば、特許文献1及び非特許文献10参照)や、癌の骨転移の進展を抑制することが既に知られている。しかしながら、軟骨腫や軟骨肉腫等に対しては、PTHrPの影響はほとんど解明されていないばかりか、これまで軟骨腫や軟骨肉腫の治療にPTHrPや抗PTHrP抗体を利用したという報告もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−80025号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Burtis, W. J. Clin. Chem. 1992; 38:p2171-2183
【非特許文献2】Stewart, A. F. & Broadus, A. E. J. Clin. Endocrinol. 1991; 71:p1410-1414
【非特許文献3】Nakase T., et al., Histochem. Cell Biol. 2001; 116:p277-284
【非特許文献4】Suda N., et al., Oral Dis. 1997; 3:p229-231
【非特許文献5】Famum C.E., et al., Am. J. Anat. 1989; 186:p346-358
【非特許文献6】Lewinson D., et al., Anat. Rec. 1992; 233:p504-514
【非特許文献7】Amling M., et al., J. Cell Biol. 1997; 136:p205-213
【非特許文献8】Amling M., et al., Verh. Dtsch. Ges. Pathol. 1998; 82:p160-169
【非特許文献9】Bovee J.V., et al., Lab. Invest. 2000; 80:p1925-1934
【非特許文献10】Sato et al, J. bone & Mine. Res. 1993; 8:p849-860
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、軟骨腫や軟骨肉腫の予後を向上させるための、新規な軟骨腫・軟骨肉腫治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、PTHrPを阻害して軟骨肉腫細胞におけるBcl-2の発現を減少させれば、当該細胞のアポトーシスが誘起され、軟骨肉腫の治療が可能になると考えた。そして、PTHrPとその受容体との結合を阻害する物質を利用することにより、軟骨腫及び軟骨肉腫を効果的に抑制し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(9)を提供する。
(1) 副甲状腺ホルモン関連ペプチドとその受容体との結合を阻害する物質を含む、軟骨腫・軟骨肉腫治療剤。
(2) 物質が副甲状腺ホルモン関連ペプチド受容体に対するアンタゴニストである、上記(1)記載の治療剤。
(3) 物質が抗副甲状腺ホルモン関連ペプチド抗体である、上記(1)記載の治療剤。
(4) 物質が抗副甲状腺ホルモン関連ペプチド抗体断片及び/又はその修飾物である上記(1)記載の治療剤。
(5) 抗体がモノクローナル抗体である、上記(3)又は(4)記載の治療剤。
【0015】
(6) 抗体がヒト型化又はキメラ化されたものである、上記(3)又は(4)記載の治療剤。
(7) ヒト型化抗体がヒト型化#23-57-137-1抗体(ハイブリドーマクローン#23-57-137-1(FERM BP-5631として、1996年8月15日付で、(独)産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)にブダペスト条約に基づき国際寄託されている)が産生するヒト型化抗体)である、上記(6)記載の治療剤。
(8) 副甲状腺ホルモン関連ペプチドとその受容体との結合を阻害する物質を投与することにより、軟骨腫・軟骨肉腫細胞にアポトーシスを誘起する方法。
(9) 物質が抗副甲状腺ホルモン関連ペプチド抗体である、上記(8)記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、anti-PTHrP MoAbの細胞生存能力に対する効果を示すグラフである。
【図2】図2は、anti-PTHrP MoAb処理細胞の生存能力に対するカスパーゼ-3阻害剤(DEVD-CHO)の効果を示すグラフである。
【図3】図3は、ウェスタンブロッティングの結果を示す。a)PARP、b)プロカスパーゼ-3、c)Bcl-2、d)Bax、e)コラーゲン type X、f)β-アクチン; 各列はそれぞれ左からanti-PTHrP MoAb濃度0, 10, 30, 50, 100, 200μg/mlである。
【図4】図4は、抗コラーゲンtype X抗体を用いた免疫細胞化学の結果を示す。A:未処理、B:10μg/ml anti-PTHrP MoAb処理、C:100μg/ml anti-PTHrP MoAb処理、D-F:200μg/ml anti-PTHrP MoAb処理(A-D:200倍、E:400倍)
【図5】図5は、TUNEL染色の結果を示す。A:未処理、B:10μg/ml anti-PTHrP MoAb処理、C:100μg/ml anti-PTHrP MoAb処理、D-F:200μg/ml anti-PTHrP MoAb処理(A-D:200倍、E:400倍、F:600倍)
【図6】図6は、anti-PTHrP MoAb処理及び未処理細胞におけるRT-PCRの結果を示す(縦軸はanti-PTHrP MoAb濃度)。
【図7】図7は、anti-PTHrP MoAb処理及び未処理細胞におけるDNAフラグメントアッセイの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
1.軟骨腫・軟骨肉腫治療剤
本発明は、副甲状腺ホルモン関連ペプチド(Parathyroid hormone related protein:PTHrP)とその受容体(PTHrP受容体)との結合を阻害する物質を有効成分として含む、軟骨腫・軟骨肉腫治療剤を提供する。
【0018】
本明細書中において、「軟骨腫・軟骨肉腫」とは、軟骨形成性の良性又は悪性の腫瘍を意味する。「軟骨腫(chondroma)」とは、軟骨に分化する中胚葉細胞から生じる良性腫瘍で、骨の髄腔から発生する内軟骨腫、軟部組織内に発生してその下の骨あるいは骨膜とは連絡をもたない骨外性軟骨腫、骨膜や骨膜の結合組織から発生する骨膜性軟骨腫、及び傍骨性軟骨腫等が含まれる。また、「軟骨肉腫(chondrosarcoma)」とは、軟骨細胞に由来する悪性腫瘍で、骨の中心部に発生する中心性軟骨肉腫、骨軟骨腫の軟骨キャップから発生する末梢性軟骨肉腫、及び軟骨分化能を有する未分化間葉系細胞由来の軟骨肉腫等が含まれる。軟骨肉腫の中には軟骨腫から移行するものもあり、従ってその境界が明らかでない場合もあるため、本明細書中ではこれらを一括して「軟骨腫・軟骨腫瘍」と呼ぶこととする。
【0019】
本明細書中において、「PTHrP受容体」とは、例えば特表平6-506598号公報に記載されているような、PTHrPと結合する受容体を意味し、標的器官上(例えば、骨や腎臓)に存在するPTHrP受容体か否かを問わない。
【0020】
また、「PTHrPとPTHrP受容体との結合を阻害する物質」とは、PTHrPに結合することにより、PTHrPがPTHrP受容体と結合することを阻害する物質、及び、PTHrP受容体に結合することにより、PTHrPがPTHrP受容体と結合することを阻害する物質のいずれか一方又は両方を意味する。前者に該当する物質としては、例えば抗PTHrP抗体が、また、後者に該当する物質としては、例えばPTHrP受容体に対するアンタゴニスト(PTHrPアンタゴニストともいう)が挙げられる。
【0021】
前記「抗PTHrP抗体」は、PTHrPに結合して組織分解を抑制する効果を有するものであれば、その由来、種類(モノクローナル、ポリクローナル)及び形状を問わない。該抗PTHrP抗体としては、例えばヒト型化抗体、ヒト抗体(WO96/33735号公報)、キメラ抗体(特開平4-228089号公報)、マウス抗体(例えば、ハイブリドーマ#23-57-137-1によって産生される抗体(#23-57-137-1抗体))等が挙げられる。なお、抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよいが、本発明の目的のためにはモノクローナル抗体がより好ましい。
【0022】
また、前記「PTHrPアンタゴニスト」は、一般にはポリペプチド又は低分子物質であるが、これらに限定されるものではない。該PTHrPアンタゴニストとしては、例えば、特開平7-165790号公報、特表平5-509098号公報、Peptides(UNITED STATES)1995, 16(6)1031-1037、Biochemistry(UNITED STATES)Apr.281992, 31(16)4026-4033等に記載の、PTHrPアンタゴニスト活性を有するポリペプチドが挙げられる。これらのポリペプチドにおいて少なくとも1個のアミノ酸が欠失、置換、付加、挿入されたポリペプチドも、同等のPTHrPアンタゴニスト活性を有する限り、本発明のPTHrPアンタゴニストに含まれる。
【0023】
以下、本発明の「PTHrPとPTHrP受容体との結合を阻害する物質」の好適な例として抗PTHrP抗体について説明する。
【0024】
1−1 抗PTHrP抗体
本発明で使用される抗PTHrP抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。特に、本発明で使用される抗PTHrP抗体としては、哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。
【0025】
前記哺乳動物由来のモノクローナル抗体には、ハイブリドーマより産生されるもの、及び遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主により産生されるものが含まれる。これらの抗体は、PTHrPと結合することにより、PTHrPがPTH/PTHrP受容体に結合することを阻害してPTHrPのシグナル伝達を遮断し、PTHrPの生物学的活性を阻害することができる。
【0026】
このような抗体の好適な例として、例えばハイブリドーマクローン#23-57-137-1により産生される#23-57-137-1抗体等を挙げることができる。
なお、ハイブリドーマクローン#23-57-137-1 は、mouse-mouse hybridoma #23-57-137-1 として、(独)産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に、1996年8月15日付で、FERM BP-5631としてブダペスト条約に基づき国際寄託されている。
【0027】
1−2 抗体産生ハイブリドーマ
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、常法に従い、例えば以下のようにして作製できる。すなわち、PTHrPを感作抗原としてマウス等の動物を免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
【0028】
抗体取得の感作抗原として使用されるヒトPTHrPは、Suva, L. J. et al., Science(1987)237, 893に開示されたPTHrP遺伝子/アミノ酸配列を基に作製することができる。すなわち、PTHrPをコードする遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中又は培養上清中から目的のPTHrPタンパク質を公知の方法で精製する。
【0029】
感作抗原としては、前記PTHrPタンパク質のほか、PTHrPのN末端の34個のペプチドを、化学合成して用いてもよい。
【0030】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されず、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましい。一般的にはげっ歯類の動物(例えばマウス、ラット、ハムスター等)、あるいはウサギ、サル等が使用される。
【0031】
感作抗原による動物の免疫は、公知の方法に従って行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内又は皮下に注射する方法が挙げられる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当に希釈、懸濁した後、所望により、通常のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントを適量混合・乳化したものを、哺乳動物に4-21日毎に数回投与する。また、感作抗原免疫時には適当な担体を使用してもよい。
【0032】
このように免疫し、血清中の抗体レベルが所望のレベルまで上昇するのを確認した後、当該動物から免疫細胞を採取して、これを細胞融合に付すが、好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
【0033】
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としては、一般に哺乳動物のミエローマ細胞が用いられる。このミエローマ細胞としては、公知の種々の細胞株、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J. Immnol.(1979)123, 1548-1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81, 1-7)、NS-1(Kohler. G. and Milstein, C. Eur. J. Immunol.(1976)6, 511-519)、MPC-11(Margulies. D. H.et al., Cell(1976)8, 405-415)、SP2/0(Shulman, M. et al., Nature(1978) 276, 269-270)、FO(de St. Groth, S. F. et al., J. Immunol. Methods(1980)35, 1-21)、S194(Trowbridge, I. S. J. Exp. Med.(1978)148, 313-323)、R210(Galfre, G. et al., Nature(1979)277, 131-133)等が好適に使用される。
【0034】
前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合は、基本的には公知の方法、例えば、ミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C.、Methods Enzymol.(1981)73, 3-46)等に準じて行うことができる。
【0035】
より具体的には、前記細胞融合は、例えば細胞融合促進剤の存在下、通常の栄養培養液中にて実施される。該融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウィルス(HVJ)等が使用され、更に所望により、融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加して使用してもよい。
【0036】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定することができる。一般には、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1-10倍とすることが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0037】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞の所定量を前記培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温したPEG溶液(例えば平均分子量1000-6000程度)を通常30-60%(w/v)の濃度で添加し、混合すればよい。これにより、目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。続いて、ここに適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことにより、ハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去する。
【0038】
このようにして得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む培養液)で培養して選択を行う。このHAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間(通常、数日〜数週間)継続する。ついで、通常の限界希釈法を用いて、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニング及び単一クローニングを行う。
【0039】
上述のように、ヒト以外の動物をPTHrPで免疫してハイブリドーマを得る方法のほか、ヒトリンパ球をin vitroでPTHrPに感作させ、得られた感作リンパ球をヒト由来の永久分裂能を有するミエローマ細胞と融合させて、PTHrP結合活性を有するヒト抗体産生ハイブリドーマを得ることもできる(特公平1-59878号公報参照)。さらに、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物にPTHrPを投与して抗PTHrP抗体産生細胞を取得し、これを不死化させた細胞からPTHrPに対するヒト抗体を取得してもよい(国際公開番号WO 94/25585 号公報、WO 93/12227 号公報、WO 92/03918 号公報、WO 94/02602 号公報参照)。
【0040】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することも可能である。
【0041】
これらのハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法に従って培養し、その培養上清から得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水から得る方法等が採用できる。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
【0042】
1−3 組換え型抗体
本発明では、モノクローナル抗体として、ハイブリドーマからクローニングした抗体遺伝子を適当なベクターに組み込み、これを宿主に導入して産生させた、組換え型抗体を用いることができる(例えば、Vandamme, A. M. et al., Eur. J. Biochem.(1990)192, 767-775, 1990参照)。
【0043】
具体的には、抗PTHrP抗体を産生するハイブリドーマから、抗PTHrP抗体の可変(V)領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry(1979)18, 5294-5299)、AGPC法(Chomczynski, P.et al., Anal. Biochem.(1987)162, 156-159)等で調製した全RNAから、mRNA Purification Kit(Pharmacia)等を使用して行うことができる。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia)を用いることにより、目的とするmRNAを直接調製することもできる。
【0044】
次に、得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社)等を用いて行うことができる。また、cDNAの合成及び増幅は、5'-Ampli FINDER RACE Kit(Clontech)及びPCRを用いた5'-RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1988)85, 8998-9002、Belyavsky, A. et al., Nucleic Acids Res.(1989)17, 2919-2932)等により行うことができる。
【0045】
さらに、得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。こうして作製した組換えベクターを大腸菌等に導入し、生成するコロニーから所望の組換えベクターを調製する。そして、目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法等により確認する。
【0046】
目的とする抗PTHrP抗体のV領域をコードするDNAが得られたら、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを含有する発現ベクターに組み込む。
この際、前記抗体遺伝子は、発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで適切に発現されるよう、発現ベクターに組み込まれなくてはならない。この発現ベクターで宿主細胞を形質転換すれば、目的とする抗体遺伝子が発現させる。
【0047】
抗体遺伝子の発現は、抗体重鎖(H鎖)又は軽鎖(L鎖)をコードするDNAを、別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖及びL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換させてもよい(WO 94/11523 号公報参照)。
【0048】
組換え型抗体の産生には、上述した宿主細胞だけではなく、トランスジェニック動物を使用することができる。例えば、乳汁中に固有に産生される蛋白質(ヤギβカゼイン等)をコードする遺伝子に抗体遺伝子を挿入し、融合遺伝子を調製する。この抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁からは、所望の抗体を得ることができる。このとき、トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適当なホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology(1994)12, 699-702)。
【0049】
1−4 改変抗体(キメラ抗体、ヒト型化抗体)
本発明では、さらに上記抗体のほかに、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト型化(Humanized)抗体を使用できる。これらの改変抗体は、以下の方法を用いて製造することができる。
【0050】
本発明に有用なキメラ抗体は、前記のようにして得られた抗体V領域をコードするDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し、発現させることによって得ることができる。
【0051】
ヒト型化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR; complementarity determining region)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものを意味する。該ヒト型化抗体は、一般的な遺伝子組換え手法(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報、WO 96/02576 号公報参照)に基づいて作製することができる。
【0052】
具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)とを連結するように設計したDNA配列を、CDR及びFR両方の末端領域にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCR法により増幅する。得られたDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結して発現べクターに組み込み、宿主に導入して、発現させることにより、所望のヒト型化抗体を得ることができる(EP 239400号公報、WO 96/02576 号公報参照)。
【0053】
前記CDRを介して連結されるヒト抗体のフレームワーク領域は、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものを選択する。必要に応じて、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように、抗体の可変領域におけるフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato, K.et al., Cancer Res.(1993)53, 851-856)。
【0054】
キメラ抗体及びヒト型化抗体のC領域には、ヒト抗体のものが使用され、例えばH鎖では、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4を、L鎖ではCκ、Cλを使用することができる。また、抗体又はその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域は適宜修飾してもよい。
【0055】
キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来の定常領域からなる。一方、ヒト型化抗体は、ヒト以外の哺乳動物に由来する抗体の相補性決定領域と、ヒト抗体由来のフレームワーク領域及びC領域とからなる。ヒト型化抗体はヒト体内における抗原性が低下されているため、本発明の抑制剤の有効成分として有用である。
【0056】
本発明に使用できるヒト型化抗体としては、ヒト型化#23-57-137-1抗体が挙げられる。ヒト型化#23-57-137-1抗体は、マウス由来の#23-57-137-1抗体の相補性決定領域を、L鎖についてはヒト抗体HSU03868(GEN-BANK, Deftos Mら, Scand. J. Immunol., 39, 95-103, 1994)由来の3つのFR断片(FR1、FR2及びFR3)及びヒト抗体S25755(NBRF-PDB)由来のFR断片(FR4)に連結したものであり、H鎖についてはヒト抗体S31679(NBRF-PDB、Cuisinier AMら, Eur. J. Immunol., 23, 110-118, 1993)のフレームワーク領域と連結し、抗原結合活性を有するようにフレームワーク領域のアミノ酸残基を一部置換したものである。
【0057】
なお、ヒト型化#23-57-137-1抗体のL鎖又はH鎖をコードするDNAを含むプラスミドを有する大腸菌は、(独)産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に、1996年8月15日付で、H鎖をコードするDNAを含むプラスミドを有する大腸菌であるEscherichia coli JM109( hMBC1HcDNA/pUC19 )についてはFERM BP-5629として、L鎖をコードするDNAを含むプラスミドを有する大腸菌であるEscherichia coli JM109( hMBC1Lqλ/pUC19)についてはFERM BP-5630として、ブダペスト条約に基づきそれぞれ国際寄託されている。
【0058】
1−5 抗体修飾物
本発明で使用される抗体は、PTHrPに結合し、PTHrPの活性を阻害するかぎり、抗体の断片又はその修飾物であってもよい。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab')2、Fv、又はH鎖若しくはL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)が挙げられる。該断片は、抗体を酵素、例えばパパイン、ペプシンで処理して生成させるか、又は、該抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させて作製する(例えば、Co, M.S. et al., J. Immunol.(1994)152, 2968-2976、Better, M. & Horwitz, A. H. Methods in Enzymology(1989)178, 476-496, Academic Press, Inc.、Plueckthun, A. & Skerra, A. Methods in Enzymology(1989)178, 476-496, Academic Press, Inc.、Lamoyi, E., Methods in Enzymology(1989)121, 652-663、Rousseaux, J. et al., Methods in Enzymology(1989)121, 663-669、Bird, R. E. et al., TIBTECH(1991)9, 132-137参照)。
【0059】
前記scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域とを連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域は、リンカー、好ましくはペプチドリンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.(1988)85, 5879-5883)。scFvにおけるH鎖V領域及びL鎖V領域は、本明細書に抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えばアミノ酸12-19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
【0060】
scFvをコードするDNAは、前記抗体のH鎖又はH鎖V領域をコードするDNA、及びL鎖又はL鎖V領域をコードするDNAのうち、それらの配列の全部又は所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を鋳型として調製される。すなわち、該配列の両端を規定するプライマー対を用いてPCR増幅した後、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNA、及びその両端が各々H鎖、L鎖と連結されるよう規定されたプライマー対を用いて増幅することにより得られる。
【0061】
こうして、一旦scFvをコードするDNAが作製されると、それらを含有する発現ベクター、及び該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができる。そして、この宿主を用いることにより、常法に従ってscFvを得ることができる。
【0062】
また、前記抗体の断片も、同様にしてその遺伝子を取得し、これにより形質転換された宿主から産生させることができる。本発明における「抗体」には、これらの抗体の断片も包含される。
【0063】
抗体の修飾物は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。こうした抗体の修飾方法は、この分野においてすでに確立されている。該抗体修飾物としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗PTHrP抗体等を挙げることができる。本発明における「抗体」には、これらの抗体修飾物も包含される。
【0064】
1−6 組換え型抗体又は改変抗体の発現及び産生
組換え型抗体又は改変抗体の発現及び産生は、前記のようにして構築した抗体遺伝子を公知の方法により発現させて、取得することができる。そのような発現系としては、例えば真核細胞又は原核細胞系を使用することができる。
【0065】
真核細胞としては、例えば樹立された哺乳類細胞系、昆虫細胞系、真糸状菌細胞及び酵母細胞等の動物細胞等が挙げられる。また、原核細胞としては、例えば大腸菌細胞等の細菌細胞が挙げられる。
【0066】
大腸菌の場合、目的とする遺伝子の導入・発現のためのベクターとして、例えば、大腸菌由来のプラスミド(pBR322, pBR325, pUC18, pUC119, pTrcHis, pBlueBacHis 等)、λファージ等が用いられる。
【0067】
大腸菌内での、当該遺伝子の発現のためには、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列、及び発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させなければならない。該プロモーターとしては、例えばlaczプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。laczプロモーターを使用する場合はWardらの方法(Nature(1098)341, 544-546;FASEB J.(1992)6, 2422-2427)により、あるいはaraBプロモーターを使用する場合はBetterらの方法(Science(1988)240, 1041-1043)により発現することができる。
【0068】
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合であれば、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol.(1987)169, 4379 )を用いればよい。該ペリプラズムに産生された抗体は、分離した後、抗体の構造を適切に組み直して(refold)使用する。
【0069】
その他、発現ベクターは、必要に応じて、選択マーカーを含むことができる。該選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子や、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子等を挙げることができる。
【0070】
好ましくは、本発明で使用される抗体は、哺乳類細胞、例えばCHO、COS、ミエローマ、BHK、Vero、HeLa細胞中で発現される。
【0071】
哺乳類細胞の場合、目的とする遺伝子の導入・発現のためのベクターとしては、SV 40、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等由来のものを用いることができる。
【0072】
宿主細胞内での抗体遺伝子の発現のためには、常用される有用なプロモーター、発現させる抗体遺伝子、その3'側下流にポリAシグナルを機能的に結合させなければならない。該プロモーター/エンハンサーとしては、例えばヒトサイトメガロウィルス前期プロモーター/エンハンサー( human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
【0073】
また、その他に本発明で使用される抗体発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レトロウィルス、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、シミアンウィルス40(SV 40)等のウィルスプロモーター/エンハンサー、あるいはヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)等の哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサー等が挙げられる。
【0074】
前記SV 40プロモーター/エンハンサーを使用する場合はMulliganらの方法(Nature(1979)277, 108)により、また、HEF1αプロモーター/エンハンサーを使用する場合はMizushimaらの方法(Nucleic Acids Res.(1990)18, 5322)により、容易に遺伝子発現を行うことができる。
【0075】
発現ベクターは、必要に応じて、選択マーカーとしてアミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、アデノシンデアミナーゼ(ADH)遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(HPH)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0076】
形質転換された宿主細胞は、in vitro又はin vivoで培養して、目的とする抗体を産生させる。宿主細胞の培養は公知の方法に従って行えばよい。例えば、培養液としては、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、必要であれば、これに牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用してもよい。
【0077】
1−7 抗体の分離、精製
前記のように発現、産生された抗体は、細胞、宿主動物から分離し、均一な抗体として精製する。本発明で使用される抗体の分離、精製はアフィニティーカラムを用いて行うことができる。このようなカラムとしては、例えば、プロテインAカラムを用いたカラムである、Hyper D、POROS、Sepharose F.F.(Pharmacia)等が挙げられる。その他、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を必要に応じて使用することができる。例えば、上記アフィニティーカラム以外のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせることにより、抗体を分離、精製することができる(Antibodies A Laboratory Manual. Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。
【0078】
1−8 抗体の活性の確認
本発明で使用される抗体の抗原結合活性(Antibodies A Laboratory Manual. Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)、リガンドレセプター結合阻害活性(Harada, A. et al., International Immunology(1993)5, 681-690)の測定には公知の手段を使用することができる。
【0079】
本発明で使用される抗PTHrP抗体の抗原結合活性を測定する方法としては、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)あるいは蛍光抗体法を用いることができる。例えば、酵素免疫測定法を用いる場合、PTHrP(1-34)をコーティングしたプレートに、抗PTHrP抗体を含む試料、例えば、抗PTHrP抗体産生細胞の培養上清や精製抗体を加える。アルカリフォスファターゼ等の酵素で標識した二次抗体を添加し、プレートをインキュベートし、洗浄した後、p-ニトロフェニル燐酸等の酵素基質を加えて吸光度を測定することで抗原結合活性を評価することができる。
本発明で使用される抗体の活性を確認するには、抗PTHrP抗体の中和活性を測定する。
【0080】
1−9 投与方法及び製剤
本発明の抗PTHrP抗体を有効成分として含有する軟骨腫・軟骨肉腫治療剤は、経口、非経口投与のいずれも可能であるが、非経口投与であることが好ましい。具体的には、経肺剤型(例えばネフライザー等の器具を用いた経肺投与剤)、経鼻投与剤型、経皮投与剤型(例えば軟膏、クリーム剤)、注射剤型等が好適な剤型として挙げられる。注射剤型の例としては、例えば点滴等の静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射等が挙げられ、これにより全身又は局部的に投与することができる。こうした投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択することもできる。
【0081】
本発明の治療剤の有効投与量は、通常、一回につき体重1kgあたり0.001mg から1000mgの範囲で選ばれる。あるいは、患者あたり0.01〜100000mg/bodyの範囲で選ばれる。しかしながら、本発明の抗PTHrP抗体を含有する軟骨腫・軟骨肉腫治療剤は、これらの投与量に制限されるものではない。
【0082】
本発明の治療剤を投与する対象となる疾患は、軟骨腫、軟骨肉腫であるが、当該疾患には他の疾患に合併あるいは併発されたものも含まれる。
【0083】
本発明の治療剤は、軟骨腫・軟骨肉腫細胞の分化及びアポトーシスを誘起し、これにより、当該細胞を死に至らしめ、軟骨腫・軟骨肉腫を抑制する。
【0084】
本発明の治療剤を投与する時期は、上記疾患の臨床症状が生ずる前後を問わず、予防的投与であっても維持的投与であってもよい。
【0085】
本発明の抗PTHrP抗体を有効成分として含有する治療剤は、常法に従って製剤化することができ(Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton,米国)、医薬的に許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。
【0086】
このような担体及び医薬添加物の例としては、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤等が挙げられる。
【0087】
実際の添加物は、本発明の治療剤の剤型に応じて上記の中から単独で又は適宜組み合わせて選ばれるが、これらに限定するものではない。例えば、注射用製剤として使用する場合、精製された抗PTHrP抗体を溶剤、例えば生理食塩水、緩衝液、ブドウ糖溶液等に溶解し、これに吸着防止剤、例えばTween80、Tween 20、ゼラチン、ヒト血清アルブミン等を加えたものを使用することができる。あるいは、使用前に溶解再構成する剤形とするために凍結乾燥したものであってもよく、凍結乾燥のための賦形剤としては、例えば、マンニトール、ブドウ糖等の糖アルコールや糖類を使用することができる。
【0088】
2.軟骨腫・軟骨肉腫細胞にアポトーシスを誘起する方法
本発明はまた、副甲状腺ホルモン関連ペプチドとその受容体との結合を阻害する物質を投与することにより、軟骨腫・軟骨肉腫細胞にアポトーシスを誘起する方法を提供する。
【0089】
本明細書中において、「アポトーシス」とは、生理的条件下で細胞自らが積極的に引き起こす細胞死を意味する。アポトーシスは、形態学的には細胞核の染色体凝集、細胞核の断片化、細胞質の凝集による、細胞の萎縮を特徴とし、細胞の内容物の放出は伴わない。この点で、アポトーシスは細胞の内容物の放出を伴うネクローシス(壊死)とは明確に区別される。
【0090】
本発明者の方法において、上記「副甲状腺ホルモン関連ペプチドとその受容体との結合を阻害する物質」は抗副甲状腺ホルモン関連ペプチド抗体が好ましい。該抗体には、その断片及び/又はその修飾物も含まれ、抗体はモノクローナル抗体であることが好ましい。さらに、ヒトの軟骨腫・軟骨肉腫細胞に用いる場合であれば、該抗体はヒト型化あるいはキメラ化されていることが好ましい。このような抗体の好適な例としては、例えば、ヒト型化#23-57-137-1抗体が挙げられる。 本発明の方法により、軟骨腫・軟骨肉腫細胞にアポトーシスが誘起されるメカニズムは明らかではないが、カスパーゼ-3の活性化、及び/又は、アポトーシスに密接に関連するBcl-2/Baxの発現制御が介在することが推測される。
【0091】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2002-334081号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【実施例】
【0092】
以下、実施例及び参考例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、これら実施例等にその技術的範囲を限定するものではない。
【0093】
〔実施例1〕抗PTHrP抗体の軟骨肉腫細胞(HTB-94)に対する効果
1.試験方法
1.1 細胞の培養
ヒト軟骨肉腫細胞 HTB-94(ATCC)は、10% FBS、L-グルタミン、ペニシリン−ストレプトマイシン(いずれも、GIBCO-BRL)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)に懸濁し、5%CO2湿潤条件下、37℃で培養し増殖させた。
【0094】
1.2 ヒトPTHrP(1-34)に対するマウスモノクローナル抗体の調製
ヒトPTHrP(1-34:PTHrPの1-34アミノ酸配列からなるペプチド)に対するマウスモノクローナル抗体(以下、「anti-PTHrP MoAb」という)は、ハイブリドーマ##23-57-137-1(FERM BP-5631、特開平11-092500号公報)より調製した。なお、ハイブリドーマ作製の概略を参考例1に記載する。
【0095】
1.3 細胞の生存能力
HTB-94細胞(1×104 cells/well in 100μL)はanti-PTHrP MoAb(0, 10, 100, or 200 μg/ml)を含むDMEM培地で、2日間インキュベートし、細胞の生存能力(viability)を、Premix WST-1 Cell Proliferation Assay Systm(宝酒造)により評価した。すなわち、生存細胞によるテトラゾリウム塩(WST-1)の還元率をOD450の増加から求め、細胞生存数の指標とした。
【0096】
同様にして、anti-PTHrP MoAb添加2時間前にカスパーゼ-3阻害剤 DEVO-CHO(20μM(Calviochem))で処理した細胞についても、その生存能力を評価した。
【0097】
1.4 ウェスタンブロッティング
HTB-94細胞はanti-PTHrP MoAb(0, 10, 30, 50, 100, 200μg/ml)で2日間処理した。但し、以下のコラーゲンtype-Xに関する実験では、細胞はさらに5日間(計7日間)anti-PTHrP MoAbで処理した。上記細胞の全細胞溶解物(タンパクとして50μg)を、12%ゲルを用いたSDS-PAGEによって分離し、ニトロセルロース膜(Bio-Rad Laboratories)にブロッティングした。ブロッキングした膜は、1/100に希釈した抗プロカスパーゼ-3抗体(和光純薬)、抗PARP抗体、抗Bcl-2抗体、抗Bax抗体(ともに、Santa Cruz Biotechnology)、及び抗コラーゲン type X抗体(Calbiochem-Novabiochem Corporation)、並びに1/1000に希釈したペルオキシダーゼ結合二次抗体(Amersham)とともにインキュベートした。
【0098】
なお、PARP(poly(ADP-ribose)polymerase)は細胞内生存に重要な酵素であり、カスパーゼ-3はこのPARPの切断を起こす。上記抗PARP抗体は、116kDa及び85DaのPARPフラグメントを認識するが、25kDaのフラグメントは認識しない抗体である。また、プロカスパーゼ-3はカスパーゼ活性をもたない不活性なカスパーゼである。
【0099】
検出は、ECLウェスタンブロティング検出システム(Amersham)を用いて行った。各ブロットは、さらに抗β-アクチン抗体(Santa Cruz Biotechnology)及びペルオキシダーゼ結合二次抗体を用いて、ECLで再検出した。結果を図3に示す。
【0100】
1.5 免疫細胞化学
1)抗コラーゲン type X抗体を用いた分析
免疫細胞化学は、histofine SAB-PO kit(ニチレイ)を用いて、ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ法により行った。すなわち、HTB-94細胞はチャンバースライド上で50%コンフルエントになるまで培養し、anti-PTHrP MoAb(0, 10, 100, or 200μg/ml)で処理してさらに7日間培養した。次いで、細胞は3%H2O2メタノール中に移して、内因性ペルオキシダーゼ活性をブロックし、PBS(pH7.2)で洗浄後、バックグラウンドを最小にするため、同種由来の10%正常血清(二次抗体)を含むPBSでブロックし、抗コラーゲン type X抗体(一次抗体)とともに室温で2時間インキュベートした。細胞はPBSで洗浄後、湿潤チャンバー内にて室温で、20分間、二次抗体とともにインキュベートし、同様の条件下で、20分間、ペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジン(ニチレイ)とともにインキュベートした。最後に、3,3-diaminobenzidine tetrahydrochloride(DAB)試薬(Dojindo)を用いて発色反応を行った。細胞はヘマトキシリンで対比染色し、200倍及び400倍の倍率で顕微鏡観察を行った。結果を図4に示す。
【0101】
2)TUNEL染色
Apoptag Peroxidase Kit(Intergen Company)を用いてTUNEL染色を行った。すなわち、HTB-94細胞(0, 10, 100, or 200μg/ml)をanti-PTHrP MoAbで2日間の処理後、0.3%H2O2を含むメタノールで20分間処理し、末端ヌクレオチドトランスフェラーゼ(TdT)バッファー中、室温で15分間平衡化した。次いで、細胞をTdT反応混合物(TdT溶液+ジオキシゲニン-11-dUDP及びdATP)とともに37℃、60分間インキュベートし、さらにペルオキシダーゼ結合抗ジオキシゲニン抗体とともに、室温で、30分間インキュベートした。細胞はDABで染色後、マイヤーのヘマトキシリンで対比染色し、200倍、400倍及び600倍の倍率で顕微鏡観察を行った。結果を図5に示す。
【0102】
1.6 RT−PCR
HTB-94細胞(対照、及び100μg/ml anti-PTHrP MoAb2日間処理)からISOGENを用いて全RNAを抽出した。cDNAは、全RNA2μgを含む混合物より、(dT)12-18プライマー及びSuperScript II 逆転写酵素(GIBCO BRL)200 unitsを用いて37℃、60分間かけて合成した。
【0103】
cDNAのPCRは、Ready-to-Go PCR beads(Pharmacia)、及び以下のヒトBcl-2、Bax、Ihh、ColX(α1)、及びβ-アクチン増幅用プライマー(各12.5pmol)を用いて行った。
human Bcl-2(PCR産物 235bp)
sense: 5'-CAGATGCACC TGACGCCCTT-3' (配列番号76)
antisense: 3'-CCCAGCCGTG GTTATCCTGGA-3' (配列番号77)
human Bax(PCR産物224bp)
sense: 5'-GTCCACCAAG AAGCTGAGCG-3' (配列番号78)
antisense: 3'-TTGGTGCACA GGGCCTTGAG-3' (配列番号79)
human Collagen type X(PCR産物288bp)
sense: 5'-CAGGAAAACC AGGTCTCGAT G-3' (配列番号80)
antisense: 3'-TTGAGGCCCT TAGTTGCTAT G-3' (配列番号81)
human Collage type II(PCR産物351bp)
sense: 5'-AGAGTGCTGC CCCATCTGCC CAACTGACCT-3' (配列番号82)
antisense: 3'-CATTACTCCC AACTGGGCGC CACCAGCCTT-3' (配列番号83)
human β-actin: PCR産物320bp
sense: 5'-CGGACTCGTC ATACTCCTGC TT-3' (配列番号84)
antisense: 3'-CACTCTTCCA GCCTTCCTTC C-3' (配列番号85)
【0104】
増幅は、Perkin-Elmer/Cetus DNA Thermal Cycler(宝酒造)を用いて、94℃、0.5分; 55℃、0.5分; 72℃、0.5分を各30サイクル、最終伸長反応:72℃、7分間の条件で行った。
【0105】
得られたPCR産物(10μL)は、4%アガロースゲル中で電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色して観察した。結果を図6に示す。
【0106】
1.7 DNAフラグメントアッセイ
HTB-94細胞(1×107)は、anti-PTHrP MoAb(0, 10, 及び200μg/ml)で2日間処理した後、PBSで洗浄し、Apopladder Ex キット(宝酒造)を用いてDNAを単離した。つまり、細胞を溶解バッファーで溶解させてDNAを単離し、有機溶媒で抽出後、エタノール沈澱させた。沈澱したDNAは遠心(12,000g, 10min)後、80%エタノールで洗浄し、30μlのTEバッファーに溶かした。各サンプル(10μl)を1.2%アガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色した。結果を図7に示す。
【0107】
2.試験結果
2.1 細胞生存能力
HTB-94細胞の生存能力はanti-PTHrP MoAbの濃度依存的に阻害された(図1)。また、カスパーゼ-3の特異的阻害剤である、DEVD-CHOは、このanti-PTHrP MoAbの効果を阻害した。細胞の生存能力は、カスパーゼ-3処理しない細胞よりも、処理した細胞でより高かった。なお、図中、各濃度における生存細胞数は、対照(未処理)に対する%で示した。
【0108】
2.2 ウェスタンブロッティング
a)PARPの85kDaのフラグメントは、Anti-PTHrP MoAb処理したHTB-94細胞では濃度依存的に増加したが、未処理の細胞では確認されなかった。いずれの細胞でも低分子量のフラグメントがわずかに確認されたが、これらはPARPの自然分解物と思われた。
b)プロカスパーゼ-3(35kDa)も検出されたが、高濃度のanti-PTHrP MoAb(100及び200μg/ml)処理細胞では減少していた。これは、anti-PTHrP MoAb処理により、プロカスパーゼ-3が切断され、活性なヘテロダイマーになるためと思われる。
c)Bcl-2は、anti-PTHrP MoAbの濃度が増加するにつれて減少した。
d)Baxは、anti-PTHrP MoAbの濃度が増加するにつれて増加した。
e)コラーゲンtype Xは、Anti-PTHrP MoAb処理細胞では未処理の細胞よりも多く、anti-PTHrP MoAb 50μg/ml濃度で最大であった。
f)β-アクチンは、いずれの細胞でも発現量にほとんど違いがなかった。
【0109】
2.3 免疫細胞化学
1)抗コラーゲンtype X抗体を用いた分析
染色されたHTB-94細胞の割合はanti-PTHrP MoAbの濃度依存的に増加した。Anti-PTHrP MoAb(特に、高濃度)で処理した細胞では、丸く肥大した細胞が多くみられた(図4)。軟骨細胞は分化が進むにつれて肥大し、この肥大した軟骨細胞ではコラーゲンtype Xの発現が高いことが多数報告されている。従って、上記の結果は、HTB-94細胞の分化がanti-PTHrP MoAb処理によって促進されたことを示す。
【0110】
2)TUNEL染色
茶色に染色されたHTB-94細胞は、アポトーシスを起こした細胞である。その出現頻度は、anti-PTHrP MoAb濃度依存的に増加した。また、Anti-PTHrP MoAb処理後の細胞では、細胞の収縮と丸まりといった形態的変化も認められた(図5)。この形態的変化はアポトーシスに特徴的なものである。従って、上記の結果は、HTB-94細胞のアポトーシスがanti-PTHrP MoAb処理によって促進されたことを示す。
【0111】
2.4 RT−PCR
Bcl-2の発現量はanti-PTHrP MoAb処理によって減少したのに対し、Baxとコラーゲンtype IIの発現量は増加した。コラーゲンtype IIとβ-アクチンの発現量に変化はなかった。
【0112】
2.5 DNAフラグメントアッセイ
10μg/ml及び200μg/mlのanti-PTHrP MoAb処理した細胞では、アポトーシスに特異的なDNAのヌクレオソーム内フラグメント化が観察された。一方、未処理の細胞ではフラグメント化は観察されなかった。
【0113】
3.考察
以上の結果より、anti-PTHrP MoAb処理によってHTB-94細胞の分化及びアポトーシスが誘起されることが実証された。この効果は、anti-PTHrP MoAbが軟骨腫・軟骨肉腫の治療剤として有用でありうることを強く支持するものである。
【0114】
アポトーシスでは、活性化されたカスパーゼ-3が、PARPのような細胞維持に重要なタンパクを切断し、細胞を死に至らしめることが報告されている。すなわち、上記結果は、anti-PTHrP MoAbがBcl-2/Bax及びカスパーゼ-3介在性のアポトーシスを誘起して、HTB-94細胞の増殖を阻害することを示唆するものである。
【0115】
〔参考例1〕抗PTHrP(1-34)マウスモノクローナル抗体産生ハイブリドーマの作製
ヒトPTHrP(1-34)に対するモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ#23-57-154 及び#23-57-137-1 は、以下の通り作製した(Sato, K. et al., J. Bone Miner. Res. 8, 849-860, 1993)。なお、ヒトPTHrP(1-34)のアミノ酸配列を配列番号75に示す。
【0116】
免疫原として使用するために、PTHrP(1-34)(Peninsula 製)とキャリアータンパクであるサイログロブリンをカルボジイミド(Dojinn)を用いて結合した。サイログロブリンと結合したPTHrP(1-34)を透析し、タンパク濃度として2μg/mlとなるように調製した後、フロイントアジュバント(Difco)と1:1で混合し、エマルジョン作製後、16匹の雌性BALB/Cマウスの背部皮下又は腹腔内に動物あたり100 μgを11回免疫した。初回免疫は、フロイント完全アジュバントを用い、二回目以降の追加免疫にはフロイント不完全アジュバントを使用した。
【0117】
免疫したマウスの血清中の抗体価の測定は、以下の方法で行った。すなわち、マウス尾静脈より採血し、血清分離後RIAバッファーで希釈した抗血清と125I標識PTHrP(1-34)を混合し、結合活性を測定した。抗体価の上昇したマウスの腹腔に、キャリアータンパクを結合していないPTHrP(1-34)を動物あたり50μgを最終免疫した。
【0118】
最終免疫3日目にマウスを屠殺し、脾臓を摘出後、脾臓細胞とマウスミエローマ細胞株P3x63Ag8U.1 を50%ポリエチレングリコール4000を用いる常法に従って細胞融合した。細胞融合した細胞を2×104/ウェルの細胞数で85枚の96穴プレートに蒔き込んだ。ハイブリドーマの選別はHAT培地を用いて行った。
【0119】
ハイブリドーマのスクリーニングは、HAT培地中で生育の認められた穴の培養上清を固相化RIA法にてPTHrP認識抗体の有無を測定し選択することにより行った。抗体との結合能の認められた穴からハイブリドーマを回収し、15%FCSを含むRPMI-1640 培地にOPI-supplement(Sigma) を添加した培地に懸濁し、限界希釈法にてハイブリドーマの単一化を実施した。PTHrP(1-34)との結合能の強いクローン#23-57-154 及び#23-57-137-1 を得た。
【0120】
なお、前述したように、ハイブリドーマクローン#23-57-137-1 は、mouse-mouse hybridoma #23-57-137-1 として、(独)産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に、1996年8月15日に、FERM BP-5631としてブダペスト条約に基づき国際寄託されている。
【0121】
〔参考例2〕ヒトPTHrP(1-34)に対するマウスモノクローナル抗体のV領域をコードするDNAのクローニング
ヒトPTHrP(1-34)に対するマウスモノクローナル抗体#23-57-137-1 の可変領域をコードするDNAを次の様にしてクローニングした。
【0122】
(1) mRNAの調製
ハイブリドーマ#23-57-137-1 からのmRNAをQuick Prep mRNA Purification Kit(Pharmacia Biotech社) を用いて調製した。ハイブリドーマ#23-57-137-1 の細胞を抽出バッファー で完全にホモジナイズし、キット添付の処方に従い、oligo(dT)-Cellulose Spun Column にてmRNAを精製し、エタノール沈殿をおこなった。mRNA沈殿物を溶出バッファーに溶解した。
【0123】
(2) マウスH鎖V領域をコードする遺伝子のcDNAの作製及び増幅
(i) #23-57-137-1 抗体H鎖V領域cDNAのクローニング
ヒトPTHrPに対するマウスモノクローナル抗体のH鎖V領域をコードする遺伝子のクローニングは、5'-RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 8998-9002, 1988; Belyavsky, A. et al., Nucleic Acids Res. 17, 2919-2932, 1989) により行った。5'-RACE法には5'-Ampli FINDER RACE kit (CLONETECH社) を用い、操作はキット添付の処方に従って行った。cDNA合成に使用するプライマーは、マウスH鎖定常領域(C領域)とハイブリダイズするMHC2プライマー(配列番号1)を用いた。前記のようにして調製したmRNA約2μgを鋳型としてMHC2プライマー10pmole を加え、逆転写酵素と52℃、30分間反応させることによりcDNAへの逆転写を行った。
【0124】
6N NaOH でRNAを加水分解(65℃、30分間)した後、エタノール沈殿によりcDNAを精製した。T4RNAリガーゼで37℃で6時間、室温で16時間反応することにより、合成したcDNAの5'末端にAmpli FINDER Anchor(配列番号42) を連結した。これを鋳型としてPCRにより増幅するためのプライマーとしてAnchorプライマー(配列番号2)及びMHC-G1プライマー(配列番号3)(S.T.Jones, et al., Biotechnology, 9, 88, 1991) を使用した。
【0125】
PCR溶液は、その50μl中に10mM Tris-HCl(pH8.3)、50mM KCl、0.25mM dNTPs(dATP, dGTP, dCTP, dTTP)、1.5 mM MgCl2、2.5 ユニットのTaKaRa Taq(宝酒造)、10pmole のAnchorプライマー、並びにMHC-G1プライマー及びAmpli FINDER Anchor を連結したcDNAの反応混合物1μlを含有する。この溶液に50μlの鉱油を上層した。PCRはThermal Cycler Mode1 480J(Perkin Elmer) を用い、94℃にて45秒間、60℃にて45秒間、72℃にて2分間の温度サイクルで30回行った。
【0126】
(ii) #23-57-137-1 抗体L鎖V領域のcDNAのクローニング
ヒトPTHrPに対するマウスモノクローナル抗体のL鎖V領域をコードする遺伝子のクローニングは、5'-RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85, 8998-9002, 1988 ; Belyavsky, A. et al., Nucleic Acids Res. 17, 2919-2932, 1989)により行った。5'-RACE法には5'-Ampli Finder RACE Kit(Clonetech)を用い、操作は添付の処方に従った。cDNA合成に使用するプライマーは、oligo-dTプライマーを用いた。前記のように調製したmRNA約 2μgを鋳型としてoligo-dTプライマーを加え、逆転写酵素と52℃、30分間反応させることによりcDNAへの逆転写を行った。6N NaOHでRNAを加水分解(65℃、30分間)した後、エタノール沈殿によりcDNAを精製した。合成したcDNAの5'末端に前記Ampli FINDER Anchor をT4RNAリガーゼで37℃で6時間、室温で16時間反応させることにより連結した。
【0127】
マウスL鎖λ鎖定常領域の保存配列からPCRプライマーMLC(配列番号4)を設計し、394 DNA/RNA Synthesizer (ABI社)を用いて合成した。PCR溶液は、その100 μl中に10 mM Tris-HCl(pH8.3)、50mM KCl、0.25mM dNTPs(dATP, dGTP,dCTP,dTTP)、1.5Mm MgCl2 、2.5 ユニットの AmpliTaq (PERKIN ELMER)、50pmole のAnchorプライマー(配列番号2)、並びにMLC(配列番号4)及びAmpli FINDER Anchorを連結したcDNAの反応混合物1μlを含有する。この溶液に50μlの鉱油を上層した。PCRはThermal Cycler Model480J(Perkin Elmer)を用い、94℃にて45秒間、60℃にて45秒間、72℃にて2分間の温度サイクルで35回行った。
【0128】
(3) PCR生成物の精製及び断片化
前記のようにしてPCR法により増幅したDNA断片を、3%Nu Sieve GTGアガロース(FMC Bio. Products)を用いたアガロースゲル電気泳動により分離した。H鎖V領域として約550bp 長、L鎖V領域として約550bp 長のDNA断片を含有するアガロース片を切取り、GENECLEAN II Kit(BIO101)を用い、キット添付の処方に従いDNA断片を精製した。精製したDNAをエタノールで沈殿させた後、10mM Tris-HCl (pH7.4) 、1mM EDTA 溶液20μlに溶解した。得られたDNA溶液1μlを制限酵素XmaI(New England Biolabs)により37℃で1時間消化し、次いで制限酵素EcoRI (宝酒造)により37℃で1時間消化した。この消化混合物をフェノール及びクロロホルムで抽出し、エタノール沈殿によりDNAを回収した。
【0129】
こうして、5'-末端にEcoRI 認識配列を有し、3'-末端にXmaI認識配列を有するマウスH鎖V領域及びL鎖V領域をコードする遺伝子を含むDNA断片を得た。
【0130】
上記のようにして調製したマウスH鎖V領域及びL鎖V領域をコードする遺伝子を含むEcoRI-XmaI DNA断片と、EcoRI 及びXmaIで消化することにより調製したpUC19 ベクターとを、DNAライゲーションキットver.2 (宝酒造)を用い、添付の処方に従い16℃で1時間反応させ連結した。次に10μlの上記連結混合物を大腸菌JM109コンピテント細胞(ニッポンジーン)100 μlに加え、この細胞を氷上で15分間、42℃にて1分間、さらに氷上で1分間静置した。次いで300 μlのSOC培地(Molecular Cloning: A Labgoratory Manual, Sambrook,et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)を加え37℃にて30分間インキュベートした後、100 μg/ml又は50μg/mlのアンピシリン、0.1mM のIPTG、20μg/mlのX-galを含むLB寒天培地又は2xYT寒天培地(Molecular Cloning: A Labgoratory Manual, Sambrook,et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)上にこの大腸菌をまき、37℃にて一夜インキュベートして大腸菌形質転換体を得た。
【0131】
この形質転換体を100 μg/ml又は50μg/mlのアンピシリンを含有するLB培地又は2×YT培地2mlで37℃にて一夜培養し、菌体画分からプラスミド抽出機PI-100Σ(クラボウ)又はQIAprep Spin Plasmid Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドDNAを調製し、塩基配列の決定を行った。
【0132】
(4) マウス抗体V領域をコードする遺伝子の塩基配列決定
前記のプラスミド中のcDNAコード領域の塩基配列をDye Terminator Cycle Sequencing kit(Perkin-Elmer) を用い、DNA Sequencer 373A (ABI社Perkin-Elmer)により決定した。配列決定用プライマーとしてM13 Primer M4 (宝酒造)(配列番号5)及びM13 Primer RV (宝酒造)(配列番号6)を用い、両方向の塩基配列を確認することにより配列を決定した。
【0133】
こうして得られたハイブリドーマ#23-57-137-1 に由来するマウスH鎖V領域をコードする遺伝子を含有するプラスミドをMBC1H04 、L鎖V領域をコードする遺伝子を含有するプラスミドをMBC1L24 と命名した。プラスミドMBC1H04 及びMBC1L24 に含まれるマウス#23-57-137-1 抗体のH鎖V領域及びL鎖V領域をコードする遺伝子の塩基配列(対応するアミノ酸配列を含む)をそれぞれ配列番号57、65に示す。これらのアミノ酸配列を、H鎖V領域の断片については配列番号46、L鎖V領域の断片については配列番号45に示す。
【0134】
なお、前記プラスミドMBC1H04 及びMBC1L24 を有する大腸菌はEscherichia coli JM109(MBC1H04 )及びEscherichia coli JM109(MBC1L24 )として、(独)産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に、1996年8月15日に、Escherichia coli JM109 (MBC1H04)についてはFERM BP-5628、Escherichia coli JM109 (MBC1L24)についてはFERM BP-5627としてブダペスト条約に基づき国際寄託されている。
【0135】
(5) ヒトPTHrPに対するマウスモノクローナル抗体#23-57-137-1 のCDRの決定
H鎖V領域及びL鎖V領域の全般の構造は、互いに類似性を有しており、それぞれ4つのフレームワーク部分が3つの超可変領域、すなわち相補性決定領域(CDR)により連結されている。フレームワークのアミノ酸配列は、比較的よく保存されているが、一方、CDR領域のアミノ酸配列の変異性は極めて高い(Kabat, E. A. et al., 「Sequence of Proteins of Immunological Interest」US Dept. Health and Human Services, 1983)。
【0136】
このような事実に基づき、ヒトPTHrPに対するマウスモノクローナル抗体の可変領域のアミノ酸配列をKabat らにより作成された抗体のアミノ酸配列のデータベースにあてはめて、相同性を調べることによりCDR領域を表1に示すごとく決定した。
【0137】
なお、L鎖V領域のCDR1〜3のアミノ酸配列についてはそれぞれ配列番号59〜61に示し、H鎖V領域のCDR1〜3のアミノ酸配列についてはそれぞれ配列番号62〜64に示した。
【0138】
【表1】

【0139】
〔参考例3〕キメラ抗体の構築
(1) キメラ抗体H鎖の構築
(i) H鎖V領域の構築
ヒトH鎖C領域Cγ1のゲノムDNAを含む発現ベクターに連結するために、クローニングしたマウスH鎖V領域をPCR法により修飾した。後方プライマーMBC1-S1(配列番号7)はV領域のリーダー配列の5'-側をコードするDNAにハイブリダイズし、且つKozak コンセンサス配列(Kozak, M. et al., J. Mol. Biol., 196, 947-950, 1987)及び制限酵素Hind IIIの認識配列を有するように設計した。前方プライマーMBC1-a(配列番号8)はJ領域の3'-側をコードするDNA配列にハイブリダイズし、且つ、スプライスドナー配列及び制限酵素BamHIの認識配列を有するように設計した。PCRは、TaKaRa Ex Taq (宝酒造)を用い、50μlの反応混合液に鋳型DNAとして0.07μgのプラスミドMBC1H04 、プライマーとしてMBC1-a及びMBC1-S1 をそれぞれ50pmole 、2.5UのTaKaRa Ex Taq 、0.25mMのdNTP含む条件で添付緩衝液を使用して50μlの鉱油を上層し、94℃にて1分間、55℃にて1分間、72℃にて2分間の温度サイクルで30回行った。PCR法により増幅したDNA断片を3%Nu Sieve GTGアガロース(FMC Bio. Products)を用いたアガロースゲル電気泳動により分離した。
【0140】
437bp 長のDNA断片を含有するアガロース片を切取り、GENECLEAN II Kit(BIO101)を用い、キット添付の処方に従いDNA断片を精製した。精製したDNAをエタノール沈殿で回収した後、10mM Tris-HCl (pH7.4) 、1mM EDTA 溶液20μlに溶解した。得られたDNA溶液1μlを制限酵素BamHI、Hind III(宝酒造)により37℃1時間消化した。この消化混合物をフェノール及びクロロホルムで抽出し、エタノール沈殿によりDNAを回収した。
【0141】
上記のようにして調製したマウスH鎖V領域をコードする遺伝子を含むHind III-BamHI DNA断片を、Hind III及びBamHIで消化することにより調製したpUC19 ベクターにサブクローニングした。このプラスミドの塩基配列を確認するためプライマーM13 Primer M4 及びM13 Primer RV をプライマーとして、Dye Terminator Cycle Sequencing kit(Perkin-Elmer) を用い、DNA Sequencer 373A (Perkin-Elmer)により塩基配列を決定した。正しい塩基配列を有するハイブリドーマ#23-57-137-1 に由来するマウスH鎖V領域をコードする遺伝子を含有し、5'-側にHind III認識配列及びKozak 配列、3'-側にBamHI認識配列を持つプラスミドをMBC1H/pUC19 と命名した。
【0142】
(ii) cDNAタイプのマウス−ヒトキメラH鎖の作製のためのH鎖V領域の構築
ヒトH鎖C領域Cγ1のcDNAと連結するために、上記のようにして構築したマウスH鎖V領域をPCR法により修飾した。H鎖V領域のための後方プライマーMBC1HVS2(配列番号9)はV領域のリーダー配列の最初をコードする配列の2番のアスパラギンをグリシンに変換し、且つKozak コンセンサス配列(Kozak, M. et al., J. Mol. Biol., 196, 947-950, 1987)並びにHind III及びEcoRI 認識配列を有するように設計した。H鎖V領域のための前方プライマーMBC1HVR2(配列番号10)はJ領域の3'-側をコードするDNA配列にハイブリダイズし、且つ、C領域の5'-側の配列をコードしApaI及びSmaI認識配列を有するように設計した。
【0143】
PCRはTaKaRa Ex Taq (宝酒造)を用い、50μlの反応混合液に鋳型DNAとして0.6 μgのプラスミドMBC1H/pUC19 、プライマーとしてMBC1HVS2及びMBC1HVR2をそれぞれ50pmole 、TaKaRa Ex Taq を2.5U、0.25mMのdNTPを含む条件で添付の緩衝液を使用して50μlの鉱油を上層して94℃1分間、55℃1分間、72℃1分間の温度サイクルで30回行った。PCR法により増幅したDNA断片を1%Sea Kem GTG アガロース(FMC Bio.Products) を用いたアガロースゲル電気泳動により分離した。456bp 長のDNA断片を含有するアガロース片を切取り、GENECLEAN II Kit(BIO101)を用い、キット添付の処方に従いDNA断片を精製した。精製したDNAをエタノール沈殿させた後、10mM Tris-HCl(pH7.4)、1mM EDTA 溶液20μlに溶解した。
【0144】
得られたDNA溶液1μlを制限酵素EcoRI 及びSmaI(宝酒造)により37℃で1時間消化した。この消化混合物をフェノール及びクロロホルムで抽出し、エタノール沈殿によりDNAを回収した。上記のようにして調製したマウスH鎖V領域をコードする遺伝子を含むEcoRI-SmaI DNA断片を、EcoRI 及びSmaIで消化することにより調製したpUC19 ベクターにサブクローニングした。このプラスミドの塩基配列を確認するため、プライマーM13 Primer M4 及びM13 Primer RV をプライマーとして、Dye Terminator Cycle Sequencing kit(Perkin-Elmer) を用い、DNA Sequencer 373A(Perkin-Elmer) により塩基配列を決定した。正しい塩基配列を有するハイブリドーマ#23-57-137-1 に由来するマウスH鎖V領域をコードする遺伝子を含有し、5'-側にEcoRI 及びHind III認識配列並びにKozak 配列、3'-側にApaI及びSmaI認識配列を持つプラスミドをMBC1Hv/pUC19と命名した。
【0145】
(iii) キメラ抗体H鎖の発現ベクターの構築
ヒト抗体H鎖C領域Cγ1を含むcDNAは、以下のようにして調製した。すなわち、ヒト型化PM1抗体H鎖V領域及びヒト抗体H鎖C領域IgG1のゲノムDNA(N. Takahashi, et al., Cell 29, 671-679 1982)をコードする発現ベクターDHFR-△E-RVh-PM-1-f(WO92/19759参照)と、ヒト型化PM1抗体L鎖V領域及びヒト抗体L鎖κ鎖C領域のゲノムDNAをコードする発現ベクターRV1-PM1a(WO92/19759参照)とを導入したCHO細胞よりmRNAを調製し、RT-PCR法でヒト型化PM1抗体H鎖V領域及びヒト抗体C領域Cγ1を含むcDNAをクローニングし、pUC19 のHind IIIとBamHI部位にサブクローニングした。塩基配列を確認した後、正しい配列を持つプラスミドをpRVh-PM1f-cDNAと命名した。
【0146】
DHFR-△E-RVh-PM-1-f上のSV40プロモーターとDHFR遺伝子との間にあるHind III部位、及びEF-1αプロモーターとヒト型化PM1抗体H鎖V領域との間にあるEcoRI 部位を欠失した発現ベクターを作製し、ヒト型化PM1抗体H鎖V領域及びヒト抗体C領域Cγ1を含むcDNAの発現ベクターの構築のために使用した。
【0147】
pRVh-PM1f-cDNAをBamHIで消化した後、Klenowフラグメントで平滑化し、さらにHind IIIで消化し、Hind III-BamHI平滑化断片を調製した。このHind III-BamHI平滑化断片を、上記のHind III部位及びEcoRI 部位が欠失したDHFR-△E-RVh-PM1-f をHind III及びSmaIで消化することにより調製した発現ベクターに連結し、ヒト型化PM1抗体H鎖V領域及びヒト抗体C領域Cγ1をコードするcDNAを含む発現ベクターRVh-PM1f−cDNAを構築した。
【0148】
ヒト型化PM1抗体H鎖V領域及びヒト抗体C領域Cγ1をコードするcDNAを含む発現ベクターRVh-PM1f−cDNAをApaI及びBamHIで消化した後、H鎖C領域を含むDNA断片を回収し、ApaI及びBamHIで消化することにより調製したMBC1Hv/pUC19に導入した。こうして作製したプラスミドをMBC1HcDNA /pUC19 と命名した。このプラスミドはマウス抗体のH鎖V領域及びヒト抗体C領域Cγ1をコードするcDNAを含み、5'-末端にEcoRI 及びHind III認識配列、3'-末端にBamHI認識配列を持つ。
【0149】
プラスミドMBC1HcDNA/pUC19 をEcoRI 及びBamHIで消化し、得られたキメラ抗体のH鎖をコードする塩基配列を含むDNA断片を、EcoRI 及びBamHIで消化することにより調製した発現ベクターpCOS1に導入した。こうして得られたキメラ抗体の発現プラスミドをMBC1HcDNA/pCOS1と命名した。なお、発現ベクターpCOS1は、HEF-PMh-gγ1(WO92/19759参照)から、EcoRI 及びSmaI消化により抗体遺伝子を削除し、EcoRI-NotI-BamHI アダプター(宝酒造)を連結することにより構築した。
【0150】
さらにCHO細胞での発現に用いるためのプラスミドを作製するため、プラスミドMBC1HcDNA/pUC19 をEcoRI 及びBamHIで消化し、得られたキメラ抗体H鎖配列を含むDNA断片を、EcoRI 及びBamHIで消化することにより調製した発現プラスミドpCHO1に導入した。こうして得られたキメラ抗体の発現プラスミドをMBC1HcDNA/pCHO1 と命名した。なお、発現ベクターpCHO1は、DHFR-△E-rvH-PM1-f (WO92/19759参照)から、EcoRI 及びSmaI消化により抗体遺伝子を削除し、EcoRI-NotI-BamHI Adaptor(宝酒造)を連結することにより構築した。
【0151】
(2) ヒトL鎖定常領域の構築
(i) クローニングベクターの作製
ヒトL鎖定常領域を含むpUC19 ベクターを構築するために、Hind III部位欠失pUC19 ベクターを作製した。pUC19 ベクター2μgを20mM Tris-HCl(pH8.5 )、10mM MgCl2、1mM DTT、100 mM KCl、8Uの Hind III (宝酒造)を含有する反応混合液20μl中で37℃にて1時間消化した。消化混合液をフェノール及びクロロホルムで抽出し、DNAをエタノール沈殿により回収した。
【0152】
回収したDNAを50mM Tris-HCl(pH7.5)、10mM MgCl2、1mM DTT、100mM NaCl、0.5mM dNTP、6UのKlenowフラグメント(GIBCO BRL)を含有する50μlの反応混合液中で室温にて20分間反応させ、末端を平滑化させた。反応混合液をフェノール及びクロロホルムで抽出し、ベクターDNAをエタノール沈殿により回収した。
【0153】
回収したベクターDNAを50mM Tris-HCl(pH7.6)、 10mM MgCl2、1mM ATP、1mM DTT、5%(v/v) ポリエチレングリコール-8000 、0.5 UのT4 DNAリガーゼ(GIBCO BRL)を含有する反応混合液10μl中で16℃で2時間反応させ、自己連結させた。反応混合液5μlを大腸菌JM109 コンピテント細胞(ニッポンジーン)100 μlに加え、氷上で30分間静置した後、42℃にて1分間、さらに氷上で1分間静置した。SOC培地500 μlを加えて、37℃で1時間インキュベーションした後、X-gal とIPTGを表面に塗布した2×YT寒天培地(50μg/mlアンピシリン含有)(Molecular Cloning: A Labgoratory Manual, Sambrook,et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)にまき、37℃で一夜培養して形質転換体を得た。
【0154】
形質転換体を、50μg/mlアンピシリンを含有する2×YT培地20mlで37℃一夜培養し、菌体画分からPlasmid Mini Kit(QIAGEN)を用いて、添付の処方に従ってプラスミドDNAを精製した。精製したプラスミドをHind IIIで消化し、Hind III部位が欠失していることを確認したプラスミドをpUC19 ΔHind IIIと命名した。
【0155】
(ii) ヒトL鎖λ鎖定常領域をコードする遺伝子の構築
ヒト抗体L鎖λ鎖C領域は、Mcg+ Ke+ Oz- 、Mcg- Ke- Oz- 、Mcg- Ke- Oz+ 、Mcg- Ke+ Oz- の少なくとも4種類のアイソタイプが知られている(P.Dariavach, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 9074-9078, 1987) 。#23-57-137-1 マウスL鎖λ鎖C領域と相同性を有するヒト抗体L鎖λ鎖C領域をEMBLデータベースで検索した結果、アイソタイプがMcg+ Ke+ Oz- (accession No.X57819)(P. Dariavach, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 9074-9078, 1987) のヒト抗体L鎖λ鎖が最も高い相同性を示し、#23-57-137-1 マウスL鎖λ鎖C領域との相同性はアミノ酸配列で64.4%、塩基配列で73.4%であった。
【0156】
そこで、このヒト抗体L鎖λ鎖C領域をコードする遺伝子の構築をPCR法を用いて行った。各プライマーの合成は、394 DNA/RNA synthesizer(ABI 社) を用いて行った。HLAMB1(配列番号11)及びHLAMB3(配列番号13)はセンスDNA配列を有し、HLAMB2(配列番号12)及びHLAMB4(配列番号14)はアンチセンスDNA配列を有し、それぞれのプライマーの両端に20から23bpの相補的配列を有する。
【0157】
外部プライマーHLAMBS(配列番号15)、HLAMBR(配列番号16)はHLAMB1、HLAMB4とそれぞれ相同な配列を有しており、またHLAMBSはEcoRI 、Hind III、BlnI認識配列を、HLAMBRはEcoRI 認識配列をそれぞれ含んでいる。第一PCRでHLAMB1-HLAMB2 とHLAMB3-HLAMB4 の反応を行った。反応後、それらを等量混合し、第二PCRでアセンブリを行った。さらに外部プライマーHLAMBS及びHLAMBRを添加し、第三PCRにより全長DNAを増幅させた。
【0158】
PCRはTaKaRa Ex Taq (宝酒造)を使い、添付の処方に従って行った。第一PCRでは、5pmole のHLAMB1及び 0.5pmole のHLAMB2と5UのTaKaRa Ex Taq (宝酒造)とを含有する100 μlの反応混合液、あるいは0.5pmoleのHLAMB3及び5pmole のHLAMB4と5UのTaKaRa Ex Taq (宝酒造)とを含有する100 μlの反応混合液を用い、50μlの鉱油を上層して94℃にて1分間、60℃にて1分間、72℃にて1分間の温度サイクルで5回行った。
【0159】
第二PCR は、反応液を50μlずつ混合し、50μlの鉱油を上層して94℃にて1分間、60℃にて1分間、72℃にて1分間の温度サイクルで3回行った。
【0160】
第三PCRは、反応液に外部プライマーHLAMBS及びHLAMBRを各50pmole ずつ添加し、94℃にて1分間、60℃にて1分間、72℃にて1分間の温度サイクルで30回行った。
【0161】
第三PCR産物のDNA断片を3%低融点アガロースゲル(NuSieve GTG Agarose, FMC) で電気泳動した後、GENECLEANII Kit(BIO101) を用い、添付の処方に従ってゲルから回収、精製した。
【0162】
得られたDNA断片を50mM Tris-HCl(pH7.5)、10mM MgCl2、1mM DTT、100mM NaCl 、8UのEcoRI (宝酒造)を含有する20μlの反応混合液中で37℃にて1時間消化した。消化混合液をフェノール及びクロロホルムで抽出、DNAをエタノール沈殿で回収した後、10mM Tris-HCl(pH7.4)、1mM EDTA 溶液8μlに溶解した。
【0163】
プラスミドpUC19 ΔHind III 0.8μgを同様にEcoRI で消化し、フェノール及びクロロホルムで抽出、エタノール沈殿により回収した。消化したプラスミドpUC19 ΔHind IIIを50 mM Tris-HCl(pH9.0)、1mM MgCl2、アルカリホスファターゼ(E.coli C75, 宝酒造)を含有する反応混合液50μl中で37℃、30分間反応させ脱リン酸処理(BAP処理)した。反応液をフェノール及びクロロホルムで抽出、DNAをエタノール沈殿により回収した後、10mM Tris-HCl(pH7.4)、1mM EDTA 溶液10μlに溶解した。
【0164】
上記のBAP処理したプラスミドpUC19 ΔHind III 1μlと先のPCR産物4μlをDNA Ligation Kit Ver.2(宝酒造)を用いて連結し、大腸菌JM109 コンピテント細胞に形質転換した。得られた形質転換体を50μg/mlアンピシリンを含有する2×YT培地2mlで一夜培養し、菌体画分からQIAprep Spin Plasmid Kit (QIAGEN) を用いてプラスミドを精製した。
【0165】
上記プラスミドについて、クローニングされたDNAの塩基配列の確認を行った。塩基配列の決定には373A DNA sequencer (ABI 社) を用い、プライマーにはM13 Primer M4 及びM13 Pricer RV (宝酒造)を用いた。その結果、クローニングされたDNAの内部に12bpの欠失があることが判明した。このDNAを含むプラスミドをCλΔ/pUC19 と命名した。そこで、その部分を補うためのプライマーHCLMS (配列番号17)、HCLMR(配列番号18)を新たに合成し、PCRで再度正しいDNAの構築を行った。
【0166】
第一PCRで欠失DNAを含むプラスミドCλΔ/pUC19 を鋳型とし、プライマーHLAMBSとHCLMR 、HCLMS とHLAMB4で反応を行った。PCR産物をそれぞれ精製し、第二PCRでアセンブリを行った。さらに外部プライマーHLAMBS及びHLAMB4を添加し、第三PCRにより全長DNAを増幅させた。
【0167】
第一PCRでは、鋳型としてCλΔ/pUC19 0.1μg、プライマーHLAMBS及びHCLMR 各50pmole 、あるいはHCLMS 及びHLAMB4各50pmole 、5UのTaKaRa Ex Taq (宝酒造)を含有する100 μlの反応混合液を用い、50μlの鉱油を上層して94℃にて1分間、60℃にて1分間、72℃にて1分間の温度サイクルで30回行った。
【0168】
PCR産物HLAMBS-HCLMR(236bp) 、HCLMS-HLAMB4(147bp) をそれぞれ3%低融点アガロースゲルで電気泳動した後、GENECLEANII Kit(BIO101) を用いてゲルから回収、精製した。第二PCRでは精製DNA断片各40ng、1UのTaKaRa Ex Taq (宝酒造)を含有する20μlの反応混合液を用い、25μlの鉱油を上層して94℃にて1分間、60℃にて1分間、72℃にて1分間の温度サイクルを5回行った。
【0169】
第三PCRでは、第二PCR反応液2μl、外部プライマーHLAMBS、HLAMB4各50pmole 、5UのTaKaRa Ex Taq (宝酒造)を含有する100 μlの反応混合液を用い、50μlの鉱油を上層した。PCRは、94℃にて1分間、60℃にて1分間、72℃にて1分間の温度サイクルで30回行った。第三PCR産物である357bp のDNA断片を3%低融点アガロースゲルで電気泳動した後、GENECLEANII Kit(BIO101) を用いてゲルから回収、精製した。
【0170】
得られたDNA断片0.1μgをEcoRI で消化した後、BAP処理したプラスミド pUC19ΔHind IIIにサブクローニングした。大腸菌JM109コンピテント細胞に形質転換し、50μg/mlアンピシリンを含有する2×YT培地2mlで一夜培養し、菌体画分からQIAprep Spin Plasmid Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドを精製した。
【0171】
精製したプラスミドについて塩基配列をM13 Primer M4、M13 Primer RV(宝酒造)を用い、373A DNA sequencer (ABI 社)にて決定した。欠失のない正しい塩基配列を有していることが確認されたプラスミドをCλ/pUC19 とした。
【0172】
(iii) ヒトL鎖κ鎖定常領域をコードする遺伝子の構築
プラスミドHEF-PM1k-gk (WO92/19759)からL鎖κ鎖C領域をコードするDNA断片をPCR法を用いてクローニングした。394 DNA/RNA synthesizer(ABI 社)を用いて合成した前方プライマーHKAPS (配列番号19)はEcoRI 、Hind III、BlnI認識配列を、後方プライマーHKAPA (配列番号20)はEcoRI 認識配列を有するように設計した。
【0173】
鋳型となるプラスミドHEF-PM1k-gk 0.1 μg、プライマーHKAPS 、HKAPA 各50pmole 、5UのTaKaRa Ex Taq (宝酒造)を含有する100 μlの反応混合液を用い、50μlの鉱油を上層した。94℃にて1分間、60℃にて1分間、72℃にて1分間の反応を30サイクル行った。360bp のPCR産物を3%低融点アガロースゲルで電気泳動した後、GENECLEANII Kit(BIO101) を用いてゲルから回収、精製した。
【0174】
得られたDNA断片をEcoRI で消化した後、BAP処理したプラスミドpUC19 ΔHind IIIにクローニングした。大腸菌JM109コンピテント細胞に形質転換し、50μg/mlアンピシリンを含有する2×YT培地2mlで一夜培養し、菌体画分からQIAprep Spin Plasmid Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドを精製した。
【0175】
精製したプラスミドの塩基配列をM13 Primer M4 、M13 Primer RV (宝酒造)を用い、373A DNA sequencer(ABI社)にて決定した。正しい塩基配列を有していることが確認されたプラスミドをCκ/pUC19 とした。
【0176】
(3) キメラ抗体L鎖発現ベクターの構築
キメラ#23-57-137-1 抗体L鎖発現ベクターを構築した。プラスミドCλ/pUC19 、Cκ/pUC19 のヒト抗体定常領域の直前にあるHind III、BlnI部位に、#23-57-137-1 L鎖V領域をコードする遺伝子を連結することによって、それぞれキメラ#23-57-137-1 抗体L鎖V領域及びL鎖λ鎖又はL鎖κ鎖定常領域をコードするpUC19 ベクターを作製した。EcoRI 消化によってキメラ抗体L鎖遺伝子を切り出し、HEF発現ベクターへサブクローニングを行った。
【0177】
すなわち、プラスミドMBC1L24 から#23-57-137-1 抗体L鎖V領域をPCR法を用いてクローニングした。各プライマーの合成は、394 DNA/RNA synthesizer(ABI 社)を用いて行った。後方プライマーMBCCHL1 (配列番号21)はHind III認識配列とKozak 配列(Kozak,M.et al.,J.Mol.Biol.196,947-950,1987) を、前方プライマーMBCCHL3 (配列番号22)はBglII 、EcoRI 認識配列を有するように設計した。
【0178】
PCRは、10mM Tris-HCl(pH8.3)、50mM KCl、1.5mM MgCl2 、0.2mM dNTP、0.1 μgのMBC1L24 、プライマーとしてMBCCHL1 及びMBCCHL3 を各50pmole 、1μlの AmpliTaq(PERKIN ELMER) を含有する100μlの反応混合液を用い、50μlの鉱油を上層して94℃にて45秒間、60℃にて45秒間、72℃にて2分間の温度サイクルで30回行った。
【0179】
444bpのPCR産物を3%低融点アガロースゲルで電気泳動した後、GENECLEAN II kit(BIO101)を用いてゲルから回収、精製し、10mM Tris-HCl (pH7.4) 、1mM EDTA 溶液20μlに溶解した。PCR産物1μlをそれぞれ10mM Tris-HCl (pH7.5)、10mM MgCl2、1mM DTT、50mM NaCl 、8UのHind III(宝酒造)及び8UのEcoRI (宝酒造)を含有する反応混合液20μl中で37℃にて1時間消化した。消化混合液をフェノール及びクロロホルムで抽出、DNAをエタノール沈殿で回収し、10mM Tris-HCl (pH7.4)、1mM EDTA 溶液8μlに溶解した。
【0180】
プラスミドpUC19 1μgを同様にHind III及びEcoRI で消化し、フェノール及びクロロホルムで抽出、エタノール沈殿により回収し、アルカリホスファターゼ(E.coli C75 ,宝酒造)でBAP処理した。反応液をフェノール及びクロロホルムで抽出、DNAをエタノール沈殿で回収した後、10mM Tris-HCl (pH7.4) 、1mM EDTA 溶液10μlに溶解した。
【0181】
BAP処理したプラスミドpUC19 1μlと先のPCR産物4μlをDNA Ligation Kit Ver.2 (宝酒造)を用いて連結し、大腸菌JM109コンピテント細胞(ニッポンジーン)に前述と同様に形質転換した。これを50μg/mlアンピシリンを含有する2×YT寒天培地にまき、37℃で一夜培養した。得られた形質転換体を、50μg/mlアンピシリンを含有する2×YT培地2mlで37℃で一夜培養した。菌体画分からQIAprep Spin Plasmid Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドを精製した。塩基配列を決定後、正しい塩基配列を有するプラスミドをCHL/pUC19 とした。
【0182】
プラスミドCλ/pUC19 、Cκ/pUC19 各1μgをそれぞれ20mM Tris-HCl(pH8.5)、10mM MgCl2、1mM DTT、100mM KCl、8Uの Hind III(宝酒造)及び 2UのBlnI(宝酒造)を含有する反応混合液20μl中で37℃にて1時間消化した。消化混合液をフェノール及びクロロホルムで抽出、DNAをエタノール沈殿で回収した後、37℃で30分間BAP処理を行った。反応液をフェノール及びクロロホルムで抽出し、DNAをエタノール沈殿で回収し、10mM Tris-HCl(pH7.4)、1mM EDTA 溶液10μlに溶解した。
【0183】
#23-57-137-1 L鎖V領域を含むプラスミドCHL/pUC19 から8μgを同様にHind III及びBlnIで消化した。得られた409bp のDNA断片を3%低融点アガロースゲルで電気泳動した後、GENECLEANII Kit(BIO101) を用いてゲルから回収、精製し、10mM Tris-HCl(pH7.4)、1mM EDTA 溶液10μlに溶解した。
【0184】
このL鎖V領域DNA 4μlをBAP処理したプラスミドCλ/pUC19 又はCκ/pUC19 各1μlにサブクローニングし、大腸菌JM109コンピテント細胞に形質転換した。50μg/mlアンピシリンを含有する2×YT培地3mlで一夜培養し、菌体画分からQIAprep Spin Plasmid Kit (QIAGEN) を用いてプラスミドを精製した。これらをそれぞれプラスミドMBC1L(λ)/pUC19 、MBC1L(κ)/pUC19 とした。
【0185】
プラスミドMBC1L(λ)/pUC19 及びMBC1L(κ)/pUC19 をそれぞれEcoRI で消化し、3%低融点アガロースゲルで電気泳動した後、743bp のDNA断片をGENECLEANII Kit(BIO101) を用いてゲルから回収、精製し、10mM Tris-HCl(pH7.4)、1mM EDTA 溶液10μlに溶解した。
【0186】
発現ベクターとしてプラスミドHEF-PM1k-gk 2.7 μgをEcoRI で消化し、フェノール及びクロロホルムで抽出、DNAをエタノール沈殿で回収した。回収したDNA断片をBAP処理した後、1%低融点アガロースゲルで電気泳動し、6561bpのDNA断片をGENECLEANII Kit(BIO101) を用いてゲルから回収、精製し、10mM Tris-HCl(pH7.4)、1mM EDTA 溶液10μlに溶解した。
【0187】
BAP処理したHEFベクター2μlを上記プラスミドMBC1L(λ) 又はMBC1L(κ) EcoRI 断片各3μlと連結し、大腸菌JM109コンピテント細胞に形質転換した。50μg/mlアンピシリンを含有する2×YT培地2mlで培養し、菌体画分からQIAprep Spin Plasmid Kit (QIAGEN) を用いてプラスミドを精製した。
【0188】
精製したプラスミドを、20mM Tris-HCl (pH8.5) 、10mM MgCl2、1mM DTT、100mM KCl 、8UのHind III(宝酒造)及び2UのPvuI(宝酒造)を含有する反応混合液20μl中で37℃にて1時間消化した。断片が正しい方向に挿入されていれば5104/2195bp 、逆方向に挿入されていれば4378/2926bp の消化断片が生じることより、正しい方向に挿入されていたプラスミドをそれぞれMBC1L(λ)/neo 、MBC1L(κ)/neo とした。
【0189】
(4) COS-7細胞のトランスフェクション
キメラ抗体の抗原結合活性及び中和活性を評価するため、前記発現プラスミドをCOS-7細胞で一過性に発現させた。
【0190】
すなわちキメラ抗体の一過性発現は、プラスミドMBC1HcDNA/pCOS1とMBC1L(λ)/neo又はMBC1HcDNA/pCOS1とMBC1L(κ)/neoの組み合わせで、Gene Pulser装置(Bio Rad)を用いてエレクトロポレーションによりCOS-7細胞に同時形質導入した。PBS(-)中に1x107 細胞/mlの細胞濃度で懸濁されているCOS-7細胞0.8mlに、各プラスミドDNA 10μgを加え、1,500V,25μFの静電容量にてパルスを与えた。室温にて10分間の回復期間の後、エレクトロポレーション処理された細胞を2%のUltra Low IgGウシ胎児血清(GIBCO)を含有するDMEM培地(GIBCO)に懸濁し、10cm培養皿を用いてCO2インキュベーターにて培養した。72時間の培養の後、培養上清を集め、遠心分離により細胞破片を除去し、ELISAの試料に供した。
【0191】
また、COS-7細胞の培養上清からのキメラ抗体の精製は、AffiGel Protein A MAPSIIキット(BioRad)を用いてキット添付の処方に従って行った。
【0192】
(5) ELISA
(i) 抗体濃度の測定
抗体濃度測定のためのELISAプレートを次のようにして調製した。ELISA用96穴プレート(Maxisorp, NUNC)の各穴を固相化バッファー(0.1M NaHCO3、0.02% NaN3)で1μg/mlの濃度に調製したヤギ抗ヒトIgG抗体(TAGO)100μlで固相化し、200μlの希釈バッファー(50mM Tris-HCl、1mM MgCl2、0.1M NaCl、0.05% Tween20、0.02% NaN3、1% 牛血清アルブミン(BSA)、pH7.2)でブロッキングの後、キメラ抗体を発現させたCOS細胞の培養上清あるいは精製キメラ抗体を段階希釈して各穴に加えた。1時間室温にてインキュベートしPBS-Tween20で洗浄後、アルカリフォスファターゼ結合ヤギ抗ヒトIgG抗体(TAGO)100μlを加えた。1時間室温にてインキュベートしPBS-Tween20で洗浄の後、1mg/mlの基質溶液(Sigma104、p−ニトロフェニルリン酸、SIGMA)を加え、次に405nmでの吸光度をマイクロプレートリーダー(Bio Rad)で測定した。濃度測定のスタンダードとして、Hu IgG1λ Purified(The Binding Site)を用いた。
【0193】
(ii) 抗原結合能の測定
抗原結合測定のためのElISAプレートでは、次のようにして調製した。ELISA用96穴プレートの各穴を固相化バッファーで1μg/mlの濃度に調製したヒトPTHrP(1-34)(ペプチド研究所)100μlで固相化した。200μlの希釈バッファーでブロッキングの後、キメラ抗体を発現させたCOS細胞の培養上清あるいは精製キメラ抗体を段階希釈して各穴に加えた。室温にてインキュベートしPBS-Tween20で洗浄後、アルカリフォスファターゼ結合ヤギ抗ヒトIgG抗体(TAGO)100μlを加えた。室温にてインキュベートしPBS-Tween20で洗浄の後、1mg/mlの基質溶液(Sigma104、p−ニトロフェニルリン酸、SIGMA)を加え、次に405nmでの吸光度をマイクロプレートリーダー(Bio Rad)で測定した。
【0194】
その結果、キメラ抗体は、ヒトPTHrP(1-34)に対する結合能を有しており、クローニングしたマウス抗体V領域の正しい構造を有することが示された。また、キメラ抗体においてL鎖C領域がλ鎖あるいはκ鎖のいずれであっても抗体のPTHrP(1-34)に対する結合能は変化しないことから、ヒト型化抗体のL鎖C領域は、ヒト型化抗体L鎖λ鎖を用いて構築した。
【0195】
(6) CHO安定産生細胞株の樹立
キメラ抗体の安定産生細胞株を樹立するため、前記発現プラスミドをCHO細胞(DXB11)に導入した。
【0196】
すなわちキメラ抗体の安定産生細胞株樹立は、CHO細胞用発現プラスミドMBC1HcDNA/pCHO1とMBC1L(λ)/neo又はMBC1HcDNA/pCHO1とMBC1L(κ)/neoの組み合わせで、Gene Pulser装置(Bio Rad)を用いてエレクトロポレーションによりCHO細胞に同時形質導入した。それぞれの発現ベクターを制限酵素PvuIで切断して直鎖DNAにし、フェノール及びクロロホルム抽出後、エタノール沈殿でDNAを回収してエレクトロポレーションに用いた。PBS(-)中に1x107細胞/mlの細胞濃度で懸濁されているCHO細胞0.8mlに、各プラスミドDNA 10μgを加え、1,500V,25μFの静電容量にてパルスを与えた。室温にて10分間の回復期間の後、エレクトロポレーション処理された細胞を10%ウシ胎児血清(GIBCO)を添加したMEM-α培地(GIBCO)に懸濁し、3枚の96穴プレート(Falcon)を用いてCO2インキュベーターにて培養した。培養開始翌日に、10%ウシ胎児血清(GIBCO)及び500mg/mlのGENETICIN(G418Sulfate、GIBCO)添加、リボヌクレオシド及びデオキリボヌクレオシド不含MEM-α培地(GIBCO)の選択培地を交換し、抗体遺伝子の導入された細胞を選択した。選択培地交換後、2週間前後に顕微鏡下で細胞を観察し、順調な細胞増殖が認められた後に、上記抗体濃度測定ELISAにて抗体産生量を測定し、抗体産生量の多い細胞を選別した。
【0197】
樹立した抗体の安定産生細胞株の培養を拡大し、ローラーボトルにて2%のUltra Low IgGウシ胎児血清添加、リボヌクレオシド及びデオキリボヌクレオシド不含MEM培地を用いて、大量培養を行った。培養3ないし4日目に培養上清を回収し、0.2μmのフィルター(Millipore)により細胞破片を除去した。
【0198】
CHO細胞の培養上清からのキメラ抗体の精製は、POROSプロテインAカラム(PerSeptive Biosystems)を用いて、ConSep LC100(Millipore)にて添付の処方に従って行い、中和活性の測定及び高カルシウム血症モデル動物での薬効試験に供した。得られた精製キメラ抗体の濃度及び抗原結合活性は、上記ELISA系にて測定した。
【0199】
〔参考例4〕ヒト型化抗体の構築
(1) ヒト型化抗体H鎖の構築
(i) ヒト型化H鎖V領域の構築
ヒト型化#23-57-137-1抗体H鎖を、PCR法によるCDR-グラフティングにより作製した。ヒト抗体S31679(NBRF-PDB、Cuisinier A.M.ら、Eur. J. Immunol., 23, 110-118, 1993)由来のFRを有するヒト型化#23-57-137-1抗体H鎖(バージョン"a")の作製のために6個のPCRプライマーを使用した。CDR-グラフティングプライマーMBC1HGP1(配列番号23)及びMBC1HGP3(配列番号24)はセンスDNA配列を有し、そしてCDRグラフティングプライマーMBC1HGP2(配列番号25)及びMBC1HGP4(配列番号26)はアンチセンスDNA配列を有し、そしてそれぞれプライマーの両端に15から21bpの相補的配列を有する。外部プライマーMBC1HVS1(配列番号27)及びMBC1HVR1(配列番号28)はCDRグラフティングプライマーMBC1HGP1及びMBC1HGP4とホモロジーを有する。
【0200】
CDR-グラフティングプライマーMBC1HGP1、MBC1HGP2、MBC1HGP3及びMBC1HGP4は尿素変性ポリアクリルアミドゲルを用いて分離し(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Sambrookら,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)、ゲルからの抽出はcrush and soak法(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Sambrookら,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)にて行った。
【0201】
すなわち、それぞれ1nmoleのCDR-グラフティングプライマーを6%変性ポリアクリルアミドゲルで分離し、目的の大きさのDNA断片の同定をシリカゲル薄層板上で紫外線を照射して行い、crush and soak法にてゲルから回収し20μlの10mM Tris-HCl(pH7.4), 1mM EDTA溶液に溶解した。PCRは、TaKaRa Ex Taq(宝酒造)を用い、100μlの反応混合液に上記の様に調製したCDR-グラフティングプライマーMBC1HGP1、MBC1HGP2、MBC1HGP3及びMBC1HGP4をそれぞれ1μl、0.25mMのdNTP、2.5UのTaKaRa Ex Taqを含む条件で添付緩衝液を使用して94℃にて1分間、55℃にて1分間、72℃にて1分間の温度サイクルで5回行い、さらに50pmoleの外部プライマーMBC1HVS1及びMBC1HVR1を加え、同じ温度サイクルを30回行った。PCR法により増幅したDNA断片を4%Nu Sieve GTGアガロース(FMC Bio.Products)を用いたアガロースゲル電気泳動により分離した。
【0202】
421bp長のDNA断片を含有するアガロース片を切取り、GENECLEANII Kit(BIO101)を用い、キット添付の処方に従いDNA断片を精製した。精製したDNAをエタノールで沈殿させた後、10mM Tris-HCl(pH7.4),1mM EDTA溶液20μlに溶解した。得られたPCR反応混合物をBamHI及びHindIIIで消化することにより調製したpUC19にサブクローニングし、塩基配列を決定した。正しい配列を有するプラスミドをhMBCHv/pUC19と命名した。
【0203】
(ii) ヒト型化H鎖cDNAのためのH鎖V領域の構築
ヒトH鎖C領域Cγ1のcDNAと連結するために、上記のようにして構築したヒト型化H鎖V領域をPCR法により修飾した。後方プライマーMBC1HVS2はV領域のリーダー配列の5'-側をコードする配列とハイブリダイズし、且つKozakコンセンサス配列(Kozak,M,ら、J.Mol.Biol.196,947-950,1987)、HindIII及びEcoRI認識配列を有するように設計した。H鎖V領域のための前方プライマーMBC1HVR2はJ領域の3'-側をコードするDNA配列にハイブリダイズし、且つC領域の5'-側の配列をコードしApaI及びSmaI認識配列を有するように設計した。
【0204】
PCRはTaKaRa Ex Taq(宝酒造)を用い、鋳型DNAとして0.4μgのhMBCHv/pUC19を用い、プライマーとしてMBC1HVS2及びMBC1HVR2をそれぞれ50pmole、2.5UのTaKaRa Ex Taq、0.25mMのdNTPを含む条件で添付緩衝液を使用し、94℃にて1分間、55℃にて1分間、72℃にて1分間の温度サイクルで30回行った。PCR法により増幅したDNA断片を3% Nu Sieve GTGアガロース(FMC Bio.Products)を用いたアガロースゲル電気泳動により分離した。
【0205】
456bp長のDNA断片を含有するアガロース片を切取り、GENECLEANII Kit(BIO101)を用い、キット添付の処方に従いDNA断片を精製した。精製したDNAをエタノールで沈殿させた後、10mM Tris-HCl(pH7.4),1mM EDTA溶液20μlに溶解した。得られたPCR反応混合物をEcoRI及びSmaIで消化することで調製したpUC19にサブクローニングし、塩基配列を決定した。こうして得られたハイブリドーマ#23-57-137-1に由来するマウスH鎖V領域をコードする遺伝子を含有し、5'-側にEcoRI及びHindIII認識配列及びKozak配列、3'-側にApaI及びSmaI認識配列を持つプラスミドをhMBC1Hv/pUC19と命名した。
【0206】
(2)ヒト型化抗体H鎖の発現ベクターの構築
hPM1抗体H鎖 cDNAの配列を含むプラスミドRVh-PM1f-cDNAをApaI及びBamHIにて消化し、H鎖C領域を含むDNA断片を回収し、ApaI及びBamHIで消化することにより調製したhMBC1Hv/pUC19に導入した。こうして作製したプラスミドをhMBC1HcDNA/pUC19と命名した。このプラスミドはヒト型化#23-57-137-1抗体のH鎖V領域及びヒトH鎖C領域Cγ1を含み、5'-末端にEcoRI及びHindIII認識配列、3'-末端にBamHI認識配列を持つ。プラスミドhMBC1HcDNA/pUC19に含まれるヒト型化H鎖バージョン"a"の塩基配列及び対応するアミノ酸配列を配列番号58に示す。また、バージョンaのアミノ酸配列を配列番号56に示す。
【0207】
hMBC1HcDNA/pUC19をEcoRI及びBamHIで消化し、得られたH鎖配列を含むDNA断片をEcoRI及びBamHIで消化することにより調製した発現プラスミドpCOS1に導入した。こうして得られたヒト型化抗体の発現プラスミドをhMBC1HcDNA/pCOS1と命名した。
【0208】
さらにCHO細胞での発現に用いるためのプラスミドを作製するためhMBC1HcDNA/pUC19をEcoRI及びBamHIで消化し、得られたH鎖配列を含むDNA断片をEcoRI及びBamHIで消化することにより調製した発現プラスミドpCHO1に導入した。こうして得られたヒト型化抗体の発現プラスミドをhMBC1HcDNA/pCHO1と命名した。
【0209】
(3)L鎖ハイブリッド可変領域の構築
(i) FR1,2/FR3,4ハイブリッド抗体の作製
ヒト型化抗体とマウス(キメラ)抗体のFR領域を組み換えたL鎖遺伝子を構築し、ヒト型化のための各領域の評価を行った。CDR2内にある制限酵素AflII切断部位を利用することによって、FR1及び2はヒト抗体由来、FR3及び4はマウス抗体由来とするハイブリッド抗体を作製した。
【0210】
プラスミドMBC1L(λ)/neo及びhMBC1L(λ)/neo各10μgを10mM Tris-HCl(pH7.5), 10mM MgCl2, 1mM DTT, 50mM NaCl, 0.01%(w/v)BSA, AflII(宝酒造)10Uを含有する反応混合液100μl中で37℃にて1時間消化した。反応液を2%低融点アガロースゲルで電気泳動し、プラスミドMBC1L(λ)/neoから6282bpの断片(c1とする)及び1022bpの断片(c2とする)、プラスミドhMBC1L(λ)/neoから6282bpの断片(h1とする)及び1022bpの断片(h2とする)を、GENECLEANII Kit(BIO101)を用いてゲルから回収、精製した。
【0211】
回収したc1、h1断片各1μgについてBAP処理を行った。DNAをフェノール及びクロロホルムで抽出、エタノール沈殿で回収した後、10mM Tris-HCl(pH7.4), 1mM EDTA溶液10μlに溶解した。
【0212】
BAP処理したc1及びh1断片1μlをそれぞれh2、c2断片4μlに連結し(4℃、一夜)、大腸菌JM109コンピテント細胞に形質転換した。50μg/ml アンピシリンを含有する2×YT培地2mlで培養し、菌体画分からQIAprep Spin Plasmid Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドを精製した。
【0213】
精製したプラスミドを、10mM Tris-HCl(pH7.5), 10mM MgCl2, 1mM DTT, ApaLI(宝酒造)2U、又はBamHI(宝酒造)8U, HindIII(宝酒造)8Uを含有する反応混合液20μl中で37℃、1時間消化した。c1-h2が正しく連結されていれば、ApaLIで5560/1246/498bp、BamHI/HindIIIで7134/269bpの消化断片が生じることにより、プラスミドの確認を行った。
【0214】
これをヒトFR1,2/マウスFR3,4ハイブリッド抗体L鎖をコードする発現ベクターをh/mMBC1L(λ)/neoとした。一方、h1-c2のクローンが得られなかったので、pUCベクター上で組換えてからHEFベクターにクローニングした。その際、アミノ酸置換のないヒト型化抗体L鎖V領域を含むプラスミドhMBC1Laλ/pUC19、及びFR3内の91位(Kabatの規定によるアミノ酸番号87位)のチロシンをイソロイシンに置換したヒト型化抗体L鎖V領域を含むプラスミドhMBC1Ldλ/pUC19を鋳型として用いた。
【0215】
プラスミドMBC1L(λ)/pUC19、hMBC1Laλ/pUC19及びhMBC1Ldλ/pUC19の各10μgを10mM Tris-HCl(pH7.5), 10mM MgCl2, 1mM DTT, 50mM NaCl, 0.01%(w/v)BSA, HindIII 16U, AflII 4Uを含有する反応混合液30μl中で37℃、1時間消化した。反応液を2%低融点アガロースゲルで電気泳動し、プラスミドMBC1L(λ)/pUC19から215bp(c2')、プラスミドhMBC1Laλ/pUC19及びhMBC1Ldλ/pUC19からそれぞれ3218bp(ha1',hd1')のDNA断片をGENECLEANII Kit(BIO101)を用いてゲルから回収、精製した。
【0216】
ha1'、hd1'断片をそれぞれc2'断片に連結し、大腸菌JM109コンピテント細胞に形質転換した。50μg/mlアンピシリンを含有する2×YT培地2mlで培養し、菌体画分からQIAprep Spin Plasmid Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドを精製した。これらをそれぞれプラスミドm/hMBC1Laλ/pUC19、m/hMBC1Ldλ/pUC19とした。
【0217】
得られたプラスミドm/hMBC1Laλ/pUC19, m/hMBC1Ldλ/pUC19をEcoRIで消化した。それぞれ743bpのDNA断片を2%低融点アガロースゲルで電気泳動した後、GENECLEANII Kit(BIO101)を用いてゲルから回収、精製し、10mM Tris-HCl(pH7.4), 1mM EDTA溶液20μlに溶解した。
【0218】
各DNA断片4μlを前述のBAP処理したHEFベクター1μlに連結し、大腸菌JM109コンピテント細胞に形質転換した。50μg/mlアンピシリンを含有する2×YT培地2mlで培養し、菌体画分からQIAprep Spin Plasmid Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドを精製した。
【0219】
精製した各プラスミドを、20mM Tris-HCl(pH8.5), 10mM MgCl2, 1mM DTT, 100mM KCl, HindIII(宝酒造)8U, PvuI(宝酒造)2Uを含有する反応混合液20μl中で37℃にて1時間消化した。断片が正しい方向に挿入されていれば5104/2195bp、逆方向に挿入されていれば4378/2926bpの消化断片が生じることより、プラスミドの確認を行った。これらをそれぞれマウスFR1,2/ヒトFR3,4ハイブリッド抗体L鎖をコードする発現ベクターをm/hMBC1Laλ/neo、m/hMBC1Ldλ/neoとした。
【0220】
(ii) FR1/FR2ハイブリッド抗体の作製
CDR1内にあるSnaBI切断部位を利用することによって、同様にFR1とFR2のハイブリッド抗体を作製した。
【0221】
プラスミドMBC1L(λ)/neo及びh/mMBC1L(λ)/neoの各10μgを10mM Tris-HCl(pH7.9), 10mM MgCl2, 1mM DTT, 50mM NaCl, 0.01%(w/v)BSA, SnaBI(宝酒造)6Uを含有する反応混合液20μl中で37℃にて1時間消化した。次に20mM Tris-HCl(pH8.5), 10mM MgCl2, 1mM DTT, 100mM KCl, 0.01%(w/v)BSA, PvuI 6Uを含有する反応混合液50μl中で37℃にて1時間消化した。
【0222】
反応液を1.5%低融点アガロースゲルで電気泳動した後、プラスミドMBC1L(λ)/neoから4955bp(m1)及び2349bp(m2)、プラスミドh/mMBC1L(λ)/neoから4955bp(hm1)及び2349bp(hm2)の各DNA断片をGENECLEANII Kit(BIO101)を用いてゲルから回収、精製し、10mM Tris-HCl(pH7.4), 1mM EDTA溶液40μlに溶解した。
【0223】
m1、hm1断片1μlをそれぞれhm2、m2断片4μlに連結し、大腸菌JM109コンピテント細胞に形質転換した。50μg/mlアンピシリンを含有する2×YT培地2mlで培養し、菌体画分からQIAprep Spin Plasmid Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドを精製した。
【0224】
精製した各プラスミドを、10mM Tris-HCl(pH7.5), 10mM MgCl2, 1mM DTT, ApaI(宝酒造)8U、又はApaLI(宝酒造)2Uを含有する反応混合液20μl中で37℃にて1時間消化した。
【0225】
各断片が正しく連結されていれば、ApaIで7304bp、ApaLIで5560/1246/498bp(m1-hm2)、ApaIで6538/766bp、ApaLIで3535/2025/1246/498bp (hm1-m2)の消化断片が生じることにより、プラスミドの確認を行った。これらをそれぞれヒトFR1/マウスFR2,3,4ハイブリッド抗体L鎖をコードする発現ベクターをhmmMBC1L(λ)/neo、マウスFR1/ヒトFR2/マウスFR3,4ハイブリッド抗体L鎖をコードする発現ベクターをmhmMBC1L(λ)/neoとした。
【0226】
(4)ヒト型化抗体L鎖の構築
ヒト型化#23-57-137-1抗体L鎖を、PCR法によるCDR-グラフティングにより作製した。ヒト抗体HSU03868(GEN-BANK、Deftos Mら,Scand. J. Immunol., 39, 95-103, 1994)由来のFR1、FR2及びFR3、並びにヒト抗体S25755(NBRF-PDB)由来のFR4を有するヒト型化#23-57-137-1抗体L鎖(バージョン"a")の作製のために6個のPCRプライマーを使用した。
【0227】
CDR-グラフティングプライマーMBC1LGP1(配列番号29)及びMBC1LGP3(配列番号30)はセンスDNA配列を有し、そしてCDRグラフティングプライマーMBC1LGP2(配列番号31)及びMBC1LGP4(配列番号32)はアンチセンスDNA配列を有し、そしてそれぞれプライマーの両端に15から21bpの相補的配列を有する。外部プライマーMBC1LVS1(配列番号33)及びMBC1LVR1(配列番号34)はCDRグラフティングプライマーMBC1LGP1及びMBC1LGP4とホモロジーを有する。
【0228】
CDR-グラフティングプライマーMBC1LGP1、MBC1LGP2、MBC1LGP3及びMBC1LGP4は尿素変性ポリアクリルアミドゲルを用いて分離し(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Sambrookら,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)、ゲルからの抽出はcrush and soak法(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Sambrookら,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)にて行った。
【0229】
すなわち、それぞれ1nmoleのCDR-グラフティングプライマーを6%変性ポリアクリルアミドゲルで分離し、目的の大きさのDNA断片の同定をシリカゲル薄層板上で紫外線を照射して行い、crush and soak法にてゲルから回収し20μlの10mM Tris-HCl(pH7.4), 1mM EDTA溶液に溶解した。
【0230】
PCRは、TaKaRa Ex Taq(宝酒造)を用い、100μlの反応混合液に上記の様に調製したCDR-グラフティングプライマーMBC1LGP1、MBC1LGP2、MBC1LGP3及びMBC1LGP4をそれぞれ1μl、0.25mMのdNTP、2.5UのTaKaRa Ex Taqを含む条件で添付緩衝液を使用して94℃にて1分間、55℃にて1分間、72℃にて1分間の温度サイクルで5回行い、この反応混合液に50pmoleの外部プライマーMBC1LVS1及びMBC1LVR1を加え、さらに同じ温度サイクルで30回反応させた。PCR法により増幅したDNA断片を3%Nu Sieve GTGアガロース(FMC Bio.Products)を用いたアガロースゲル電気泳動により分離した。
【0231】
421bp長のDNA断片を含有するアガロース片を切取り、GENECLEANII Kit(BIO101)を用い、キット添付の処方に従いDNA断片を精製した。得られたPCR反応混合物をBamHI及びHindIIIで消化することにより調製したpUC19にサブクローニングし、塩基配列を決定した。こうして得られたプラスミドをhMBCL/pUC19と命名した。しかしながらCDR4の104位(Kabatの規定によるアミノ酸番号96位)のアミノ酸がアルギニンになっていたため、これをチロシンに修正するための修正プライマーMBC1LGP10R(配列番号35)を設計し、合成した。PCRはTaKaRa Taq(宝酒造)を用い、100μlの反応混合液に鋳型DNAとして0.6μgのプラスミドhMBCL/pUC19、プライマーとしてMBC1LVS1及びMBC1LGP10Rをそれぞれ50pmole、2.5UのTaKaRa Ex Taq(宝酒造)0.25mMのdNTPを含む条件で添付の緩衝液を使用して50μlの鉱油を上層して94℃にて1分間、55℃にて1分間、72℃にて1分間の温度サイクルで30回行った。PCR法により増幅したDNA断片を3% Nu Sieve GTGアガロース(FMC Bio.Products)を用いたアガロースゲル電気泳動により分離した。
【0232】
421bp長のDNA断片を含有するアガロース片を切取り、GENECLEANII Kit(BIO101)を用い、キット添付の処方に従いDNA断片を精製した。得られたPCR反応混合物をBamHI及びHindIIIで消化することにより調製したpUC19にサブクローニングした。
【0233】
M13 Primer M4プライマー及びM13 Primer RVプライマーを用いて塩基配列を決定した結果、正しい配列を得ることができたので、このプラスミドをHindIII及びBlnIで消化し、416bpの断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離した。GENECLEANII Kit(BIO101)を用い、キット添付の処方に従いDNA断片を精製した。得られたPCR反応混合物をHindIII及びBlnIで消化することにより調製したプラスミドCλ/pUC19に導入し、プラスミドhMBC1Laλ/pUC19と命名した。このプラスミドをEcoRI消化し、ヒト型化L鎖をコードする配列を含む配列をプラスミドpCOS1に導入し、EF1αプロモーターの下流にヒト型化L鎖の開始コドンが位置するようにした。こうして得られたプラスミドをhMBC1Laλ/pCOS1と命名した。ヒト型化L鎖バージョン"a"の塩基配列(対応するアミノ酸を含む)を配列番号66に示す。また、バージョンaのアミノ酸配列を配列番号47に示す。
【0234】
バージョン"b"をPCR法による変異導入を用いて作製した。バージョン"b"では43位(Kabatの規定によるアミノ酸番号43位)のグリシンをプロリンに、49位(Kabatの規定によるアミノ酸番号49位)のリジンをアスパラギン酸に変更するように設計した。変異原プライマーMBC1LGP5R(配列番号36)とプライマーMBC1LVS1によりプラスミドhMBC1Laλ/pUC19を鋳型としてPCRを行い、得られたDNA断片をBamHI及びHindIIIで消化し、pUC19のBamHI, HindIII部位にサブクローニングした。塩基配列決定後、制限酵素HindIII及びAflIIで消化し、HindIII及びAflIIで消化したhMBC1Laλ/pUC19と連結した。
【0235】
こうして得られたプラスミドをhMBC1Lbλ/pUC19とし、このプラスミドをEcoRIで消化し、ヒト型化L鎖をコードするDNAを含む断片をプラスミドpCOS1に導入し、EF1αプロモーターの下流にヒト型化L鎖の開始コドンが位置するようにした。こうして得られたプラスミドをhMBC1Lbλ/pCOS1と命名した。
【0236】
バージョン"c"をPCR法による変異導入を用いて作製した。バージョン"c"では84位(Kabatの規定によるアミノ酸番号80位)のセリンをプロリンに変更するように設計した。変異原プライマーMBC1LGP6S(配列番号37)とプライマーM13 Primer RVによりプラスミドhMBC1Laλ/pUC19を鋳型としてPCRを行い、得られたDNA断片をBamHI及びHindIIIで消化し、BamHI及びHindIIIで消化することにより調製したpUC19にサブクローニングした。
【0237】
塩基配列決定後、制限酵素BstPI及びAor51HIで消化し、BstPI及びAor51HIで消化したhMBC1Laλ/pUC19と連結した。こうして得られたプラスミドをhMBC1Lcλ/pUC19とし、このプラスミドを制限酵素EcoRI消化し、ヒト型化L鎖をコードする配列を含む配列をプラスミドpCOS1のEcoRI部位に導入し、EF1αプロモーターの下流にヒト型化L鎖の開始コドンが位置するようにした。こうして得られたプラスミドをhMBC1Lcλ/pCOS1と命名した。
【0238】
バージョン"d" 、"e" 及び"f" をPCR法による変異導入を用いて作製した。各バージョンとも順に"a" 、"b" 、"c" バージョンの91位(Kabatの規定によるアミノ酸番号87位)のチロシンをイソロイシンに変更するように設計した。変異原プライマーMBC1LGP11R(配列番号38)とプライマーM-S1(配列番号44)によりそれぞれhMBC1Laλ/pCOS1,hMBC1Lbλ/pCOS1,hMBC1Lcλ/pCOS1を鋳型としてPCRを行い、得られたDNA断片をBamHI及びHindIIIで消化し、BamHI及びHindIIIで消化することにより調製したpUC19にサブクローニングした。塩基配列決定後、HindIII及びBlnIで消化し、HindIII及びBlnIで消化することより調製したCλ/pUC19と連結した。
【0239】
こうして得られたプラスミドを順にhMBC1Ldλ/pUC19、hMBC1Leλ/pUC19、hMBC1Lfλ/pUC19とした。これらのプラスミドをEcoRI消化し、ヒト型化L鎖をコードする配列を含む配列をプラスミドpCOS1のEcoRI部位に導入し、EF1αプロモーターの下流にヒト型化L鎖の開始コドンが位置するようにした。こうして得られたプラスミドをそれぞれ順にhMBC1Ldλ/pCOS1、hMBC1Leλ/pCOS1、hMBC1Lfλ/pCOS1と命名した。
【0240】
バージョン"g" 及び"h" をPCR法による変異導入を用いて作製した。各バージョンとも順に"a" 、"d" バージョンの36位(Kabatの規定によるアミノ酸番号36位)のヒスチジンをチロシンに変更するように設計した。変異原プライマーMBC1LGP9R(配列番号39)及びM13 Primer RVをプライマーとして用いて、hMBC1Laλ/pUC19を鋳型としてPCRを行い、得られたPCR産物とM13 Primer M4をプライマーとして用いて、プラスミドhMBC1Laλ/pUC19を鋳型としてさらにPCRを行った。得られたDNA断片をHindIII及びBlnIで消化し、HindIII及びBlnIで消化することで調製したプラスミドCλ/pUC19にサブクローニングした。このプラスミドを鋳型として、プライマーMBC1LGP13R(配列番号40)とMBC1LVS1をプライマーとしたPCRを行った。得られたPCR断片をApaI及びHindIIで消化し、ApaI及びHindIIIで消化したプラスミドhMBC1Laλ/pUC19及びhMBC1Ldλ/pUC19に導入した。塩基配列を決定し、正しい配列を含むプラスミドを順にhMBC1Lgλ/pUC19及びhMBC1Lhλ/pUC19とし、これらのプラスミドを制限酵素EcoRI消化し、ヒト型化L鎖をコードする配列を含む配列をプラスミドpCOS1のEcoRI部位に導入し、EF1αプロモーターの下流にヒト型化L鎖の開始コドンが位置するようにした。こうして得られたプラスミドをそれぞれ順にhMBC1Lgλ/pCOS1及びhMBC1Lhλ/pCOS1と命名した。
【0241】
バージョン"i" 、"j" 、"k" 、"l" 、"m" 、"n" 及び"o" をPCR法による変異導入を用いて作製した。変異原プライマーMBC1LGP14S(配列番号41)とプライマーVlRV(λ)(配列番号43)によりプラスミドhMBC1Laλ/pUC19を鋳型としてPCRを行い、得られたDNA断片をApaI及びBlnIで消化し、ApaI及びBlnIで消化することにより調製したプラスミドhMBC1Lgλ/pUC19にサブクローニングした。塩基配列決定を行い、それぞれのバージョンに対応した変異が導入されたクローンを選択した。こうして得られたプラスミドをhMBC1Lxλ/pUC19(x=i,j,k,l,m,n,o)とし、このプラスミドをEcoRI消化し、ヒト型化L鎖をコードする配列を含む配列をプラスミドpCOS1のEcoRI部位に導入し、EF1αプロモーターの下流にヒト型化L鎖の開始コドンが位置するようにした。こうして得られたプラスミドをhMBC1Lxλ/pCOS1(x=i,j,k,l,m,n,o)と命名した。バージョン"j" 、"l" 、"m" 及び"o" の塩基配列(対応するアミノ酸を含む)をそれぞれ配列番号67、68、69、70に示す。また、これらの各バージョンのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号48、49、50、51に示す。
【0242】
バージョン"p" 、"q" 、"r" 、"s" 及び"t" は、バージョン"i" 、" j" 、"m" 、"l" 又は"o" のアミノ酸配列の87位のチロシンをイソロイシンに置換したバージョンであり、FR3内にある制限酵素Aor51MI切断部位を利用して、バージョン"h" を、各バージョン"i" 、"j" 、"m" 、"l" 又は"o" とつなぎ換えることにより作製したものである。すなわち、発現プラスミドhMBC1Lxλ/pCOS1(x=i,j,m,l,o)中、CDR3並びにFR3の一部及びFR4を含むAor51HI断片514bpを除き、ここに発現プラスミドhMBC1Lhλ/pCOS1中、CDR3並びにFR3の一部及びFR4を含むAor51HI断片514bpをつなぐことにより91位(Kabatの規定によるアミノ酸番号87位)のチロシンがイソロイシンとなるようにした。塩基配列決定を行い、各バージョン"i" 、"j" 、"m" 、"l" 及び"o" の91位(Kabatの規定によるアミノ酸番号87位)のチロシンがイソロイシンに置換されたクローンを選択し、対応するバージョンをそれぞれ"p" 、"q" 、"s" 、"r" 及び"t" とし、得られたプラスミドをhMBC1Lxλ/pCOS1(x=p,q,s,r,t)と命名した。バージョン"q" 、"r" 、"s" 及び"t" の塩基配列(対応するアミノ酸を含む)をそれぞれ配列番号71、72、73、74に示す。また、これらの各バージョンのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号52、53、54、55に示す。
【0243】
プラスミドhMBC1Lqλ/pCOS1をHindIII及びEcoRIで消化し、HindIII及びEcoRIで消化したプラスミドpUC19にサブクローニングし、プラスミドhMBC1Lqλ/pUC19と命名した。
【0244】
ヒト型化L鎖の各バージョンにおける置換アミノ酸の位置を表2に示す。
【0245】
【表2】

【0246】
表中、Yはチロシン、Pはプロリン、Kはリジン、Vはバリン、Dはアスパラギン酸、Iはイソロイシンを示す。
【0247】
なお、前記プラスミドhMBC1HcDNA/pUC19及びhMBC1Lqλ/pUC19を有する大腸菌はEscherichia coli JM109(hMBC1HcDNA/pUC19)及び Escherichia coli JM109(hMBC1Lqλ/pUC19)として、(独)産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に、1996年8月15日に、Escherichia coli JM109 (hMBC1HcDNA/pUC19)についてはFERM BP-5629、Escherichia coli JM109 (hMBC1Lqλ/pUC19)についてはFERM BP-5630としてブダペスト条約に基づき国際寄託されている。
【0248】
(5)COS-7細胞へのトランスフェクション
ハイブリッド抗体及びヒト型化#23-57-137-1抗体の抗原結合活性及び中和活性を評価するため、前記発現プラスミドをCOS-7細胞で一過性に発現させた。すなわちL鎖ハイブリッド抗体の一過性発現では、プラスミドhMBC1HcDNA/pCOS1とh/mMBC1L(λ)/neo、hMBC1HcDNA/pCOS1とm/hMBC1Laλ/neo、hMBC1HcDNA/pCOS1とm/hMBC1Ldλ/neo、hMBC1HcDNA/pCOS1とhmmMBC1L(λ)/neo、又はhMBC1HcDNA/pCOS1とmhmMBC1L(λ)/neoとの組み合わせを、Gene Pulser装置(Bio Rad)を用いてエレクトロポレーションによりCOS-7細胞に同時形質導入した。PBS(-)中に1×107細胞/mlの細胞濃度で懸濁されているCOS-7細胞0.8mlに、各プラスミドDNA 10μgを加え、1,500V, 25μFの静電容量にてパルスを与えた。室温にて10分間の回復期間の後、エレクトロポレーション処理された細胞を2%のUltra Low IgGウシ胎児血清(GIBCO)を含有するDMEM培養液(GIBCO)に懸濁し、10cm培養皿を用いてCO2 インキュベーターにて培養した。72時間の培養の後、培養上清を集め、遠心分離により細胞破片を除去し、ELISAの試料に供した。
【0249】
ヒト型化#23-57-137-1抗体の一過性発現では、プラスミドhMBC1HcDNA/pCOS1とhMBC1Lxλ/pCOS1(x=a〜t)のいずれかの組み合わせをGene Pulser装置(Bio Rad)を用いて、前記ハイブリッド抗体の場合と同様の方法によりCOS-7細胞にトランスフェクションし、得られた培養上清をELISAに供した。
【0250】
また、COS-7細胞の培養上清からのハイブリッド抗体又はヒト型化抗体の精製は、AffiGel Protein A MAPSIIキット(BioRad)を用いて、キット添付の処方に従って行った。
【0251】
(6)ELISA
(i) 抗体濃度の測定
抗体濃度測定のためのELISAプレートを次のようにして調製した。ELISA用96穴プレート(Maxisorp,NUNC)の各穴を固相化バッファー(0.1M NaHCO3、0.02% NaN3)で1μg/mlの濃度に調製したヤギ抗ヒトIgG抗体(TAGO)100μlで固相化し、200μlの希釈バッファー(50mM Tris-HCl、 1mM MgCl2、 0.1M NaCl、 0.05% Tween20、0.02% NaN3、1% 牛血清アルブミン(BSA)、pH7.2)でブロッキングの後、ハイブリッド抗体又はヒト型化抗体を発現させたCOS-7細胞の培養上清あるいは精製ハイブリッド抗体又はヒト型化抗体を段階希釈して各穴に加えた。1時間室温にてインキュベートしPBS-Tween20で洗浄後、アルカリフォスファターゼ結合ヤギ抗ヒトIgG抗体(TAGO)100μlを加えた。1時間室温にてインキュベートしPBS-Tween20で洗浄の後、1mg/mlの基質溶液(Sigma104、p−ニトロフェニルリン酸、SIGMA)を加え、次に405nmでの吸光度をマイクロプレートリーダー(Bio Rad)で測定した。濃度測定のスタンダードとして、Hu IgG1λ Purified(The Binding Site)を用いた。
【0252】
(ii) 抗原結合能の測定
抗原結合測定のためのELISAプレートを、次のようにして調製した。ELISA用96穴プレートの各穴を固相化バッファーで1μg/mlの濃度に調製したヒトPTHrP(1-34) 100μlで固相化した。200μlの希釈バッファーでブロッキングの後、ハイブリッド抗体又はヒト型化抗体を発現させたCOS-7細胞の培養上清あるいは精製ハイブリッド抗体又はヒト型化抗体を段階希釈して各穴に加えた。室温にてインキュベートしPBS-Tween20で洗浄後、アルカリフォスファターゼ結合ヤギ抗ヒトIgG抗体(TAGO) 100μlを加えた。室温にてインキュベートしPBS-Tween20で洗浄の後、1mg/mlの基質溶液(Sigma104、p−ニトロフェニルリン酸、SIGMA)を加え、次に405nmでの吸光度をマイクロプレートリーダー(Bio Rad)で測定した。
【0253】
(7)活性確認
(i) ヒト型化H鎖の評価
ヒト型化H鎖バージョン"a"とキメラL鎖を組み合わせた抗体は、キメラ抗体とPTHrP結合能が同等であった。この結果は、H鎖V領域のヒト型化はバージョン"a"で十分なことを示す。以下、ヒト型化H鎖バージョン"a"をヒト型化抗体のH鎖として供した。
【0254】
(ii) ハイブリッド抗体の活性
(ii-a) FR1,2/FR3,4ハイブリッド抗体
L鎖がh/mMBC1L(λ)の場合、活性は全く認められなかったが、m/hMBC1Laλあるいはm/hMBC1Ldλの場合はいずれもキメラ#23-57-137-1抗体と同等の結合活性を示した。これらの結果は、FR3,4はヒト型化抗体として問題ないが、FR1,2内に置換すべきアミノ酸残基が存在することを示唆する。
【0255】
(ii-b) FR1/FR2ハイブリッド抗体
L鎖がmhmMBC1L(λ)の場合、活性は全く認められなかったが、hmmMBC1L(λ)の場合はキメラ#23-57-137-1抗体と同等の結合活性を示した。これらの結果は、FR1, 2のうちFR1はヒト型化抗体として問題ないが、FR2内に置換すべきアミノ酸残基が存在することを示唆する。
【0256】
(iii) ヒト型化抗体の活性
L鎖としてバージョン"a" から"t" の各々一つを用いたヒト型化抗体について、抗原結合活性を測定した。その結果、L鎖バージョン"j" 、"l" 、" m" 、"o" 、"q" 、"r" 、"s" 、"t" を有するヒト型化抗体はキメラ抗体と同等のPTHrP結合能を示した。
【0257】
(8)CHO安定産生細胞株の樹立
ヒト型化抗体の安定産生細胞株を樹立するため、前記発現プラスミドをCHO細胞(DXB11)に導入した。
【0258】
すなわちヒト型化抗体の安定産生細胞株樹立は、CHO細胞用発現プラスミドhMBC1HcDNA/pCHO1とhMBC1Lmλ/pCOS1又はhMBC1HcDNA/pCHO1とhMBC1Lqλ/pCOS1あるいはhMBC1HcDNA/pCHO1とhMBC1Lrλ/pCOS1の組み合わせで、Gene Pulser装置(Bio Rad)を用いてエレクトロポレーションによりCHO細胞に同時形質導入した。それぞれの発現ベクターを制限酵素PvuIで切断して直鎖DNAにし、フェノール及びクロロホルム抽出後、エタノール沈殿でDNAを回収し、エレクトロポレーションに用いた。PBS(-)中に1x107細胞/mlの細胞濃度で懸濁されているCHO細胞0.8mlに、各プラスミドDNA 10μgを加え、1,500V, 25μFの静電容量にてパルスを与えた。室温にて10分間の回復期間の後、エレクトロポレーション処理された細胞を10%ウシ胎児血清(GIBCO)添加、MEM-α培地(GIBCO)に懸濁し、96穴プレート(Falcon)を用いてCO2 インキュベーターにて培養した。培養開始翌日に、10%ウシ胎児血清(GIBCO)及び500mg/mlのGENETICIN (G418 Sulfate、GIBCO)添加、リボヌクレオシド及びデオキシリボヌクレオシド不含MEM-α培地(GIBCO)の選択培地に交換し、抗体遺伝子の導入された細胞を選択した。選択培地交換後、2週間前後に顕微鏡下で細胞を観察し、順調な細胞増殖が認められた後に、上記抗体濃度測定ELISAにて抗体産生量を測定し、抗体産生能の高い細胞を選別した。
【0259】
樹立した抗体の安定産生細胞株の培養を拡大し、ローラーボトルにて2%のUltra Low IgGウシ胎児血清添加、リボヌクレオシド及びデオキシリボヌクレオシド不含MEM-α培地を用いて、大量培養を行った。培養3ないし4日目に培養上清を回収し、0.2μmのフィルター(Millipore)により細胞破片を除去した。 CHO細胞の培養上清からのヒト型化抗体の精製は、POROSプロテインAカラム(PerSeptive Biosystems)を用いて、ConSep LC100(Millipore)にて添付の処方に従って行い、中和活性の測定及び高カルシウム血症モデル動物での薬効試験に供した。得られた精製ヒト型化抗体の濃度及び抗原結合活性は、上記ELISA系にて測定した。
【0260】
〔参考例5〕中和活性の測定
マウス抗体、キメラ抗体及びヒト型化抗体の中和活性の測定は、ラット骨肉腫細胞株ROS17/2.8-5細胞を用いて行った。すなわち、ROS17/2.8-5細胞を、10%牛胎児血清(GIBCO)を含むHam'S F-12培地(GIBCO)中にて、CO2インキュベーターで培養した。ROS17/2.8-5細胞を96穴プレートに104 細胞/100μl/穴で蒔込み1日間培養し、4mMのHydrocortisoneと10%牛胎児血清を含むHam'S F-12培地(GIBCO)に交換する。さらに3ないし4日間培養した後、260μlのHam'S F-12培地(GIBCO)にて洗浄し、1mMのイソブチル-1-メチル キサンチン(IBMX、SIGMA)及び10%の牛胎児血清と10mMのHEPESを含む80μlのHam' s F-12を加え、30分間37℃でインキュベートした。
【0261】
中和活性を測定するマウス抗体、キメラ抗体又はヒト型化抗体を、あらかじめ10μg/ml、3.3μg/ml、1.1μg/ml及び0.37μg/mlの群、10μg/ml、2μg/ml、0.5μg/ml及び0.01μg/mlの群、又は10μg/ml、5μg/ml、1.25μg/ml、0.63μg/ml及び0.31μg/mlの群に段階希釈し、4ng/mlに調製したPTHrP(1-34)と等量混合し、各抗体とPTHrP(1-34)の混合液80μlを各穴に添加した。各抗体の最終濃度は上記抗体濃度の4分の1になり、PTHrP(1-34)の濃度は1ng/mlになる。10分間室温にて処理した後、培養上清を捨て、PBSにて3回洗浄したした後、100μlの0.3%塩酸95%エタノールにて細胞内のcAMPを抽出する。水流アスピレーターにて塩酸エタノールを蒸発させ、cAMP EIA kit(CAYMAN CHEMICAL'S)付属のEIAバッファー120μlを添加しcAMPを抽出後、cAMP EIA kit(CAYMAN CHEMICAL'S)添付の処方に従ってcAMPを測定した。その結果、キメラ抗体と同等の抗原結合を有するL鎖バージョンのうち、91位のチロシンをイソロイシンに置換したバージョン"q"、"r"、"s"、"t"を有するヒト型化抗体がキメラ抗体に近い中和能を示し、その中でも、バージョン"q"がもっとも強い中和能を示した。
【0262】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0263】
本発明により、副甲状腺ホルモン関連ペプチドとその受容体との結合を阻害する物質を有効成分として含有する軟骨腫・軟骨肉腫治療剤が提供される。本発明の治療剤は、軟骨腫・軟骨肉腫細胞のアポトーシスを誘起することにより、軟骨腫・軟骨肉腫を抑制する。
【配列表フリーテキスト】
【0264】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
副甲状腺関連ペプチドとその受容体との結合を阻害する抗副甲状腺関連ペプチド(1−34)抗体を含む、軟骨種・軟骨肉腫細胞のアポトーシス誘導剤であって、抗副甲状腺関連ペプチド(1−34)抗体のL鎖V領域が配列番号48〜55で表されるいずれか一のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含み、かつH鎖V領域が配列番号56で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むことを特徴とするヒト型化抗副甲状腺関連ペプチド(1−34)抗体であるアポトーシス誘導剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−195814(P2010−195814A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101514(P2010−101514)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【分割の表示】特願2004−553135(P2004−553135)の分割
【原出願日】平成15年8月22日(2003.8.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成14年8月25日 日本癌学会発行の「日本癌学会総会記事 第61回総会」に発表
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】