説明

農業用フィルム

【課題】 本発明は、地温の上昇効果及び雑草の繁茂抑制効果に優れており、秋口から春先にかけて好適に用いることができる農業用フィルムを提供する。
【解決手段】 本発明の農業用フィルムは、熱可塑性樹脂100重量部、二酸化チタン0.25〜1.5重量部及び橙色系顔料0.5〜3重量部を含有していると共に、300〜550nmの波長領域での光線透過率が40%以下で且つ900nmでの光線透過率が50%以上である着色部を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地温上昇性能と雑草防除性に優れた農業用フィルムに関し、特に、日中地温の上昇と雑草防除を目的として、秋口から春先にかけて好適に用いられる農業用フィルム及び配色マルチフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、野菜などの作物を栽培する際に地温を上昇させるために畝などを農業用フィルムで被覆することが行われている。このような農業用フィルムとして透明フィルムが用いられており、確かに地温の上昇効果はあるものの、雑草が繁茂するのに必要な可視光線領域の光線も透過してしまい雑草が繁茂してしまうという問題点があった。
【0003】
そこで、雑草の繁茂を抑制するために一部において農薬が用いられてきたが、人体に有害なため昨今使用を禁止する団体も見られる。又、雑草の繁茂を抑制する目的として黒色の農業用フィルムが提案され、この黒色の農業用フィルムは可視光線を透過しにくくするために雑草の繁茂の抑制には効果的であるが、地温の上昇に必要な近赤外線も透過しにくくするため、地温を上昇させることができないという問題点がある。
【0004】
更に、特許文献1には、熱可塑性樹脂に500nmにおける吸光度 (A500)と800nmにおける吸光度 (A800)の比A500/A800が4.0以上である酸化鉄粒子、及び紫色、青色又は緑色から選ばれるいずれかの有機系顔料をそれぞれ1.0〜5.0wt%含有させている農業用フィルムが提案されているものの、地温の上昇効果と雑草の繁茂抑制効果の双方を充分に満足させるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−70712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、地温の上昇効果及び雑草の繁茂抑制効果に優れており、秋口から春先にかけて好適に用いることができる農業用フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の農業用フィルム1は、熱可塑性樹脂100重量部、二酸化チタン0.25〜1.5重量部及び橙色系顔料0.5〜3重量部を含有している着色部を有しており、この着色部は、300〜550nmの波長領域での光線透過率が40%以下で且つ900nmでの光線透過率が50%以上であることを特徴とする。
【0008】
上記着色部11を構成している熱可塑性樹脂としては、従来から農業用フィルムに用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などが挙げられ、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂がより好ましい。熱可塑性樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0009】
上記ポリエチレン樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。なお、α−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。
【0010】
又、上記ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、ホモポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。なお、α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。
【0011】
そして、上記着色部11は二酸化チタンを含有している。着色部11中における二酸化チタンの含有量は、少ないと、可視光線領域の光線透過率が高くなり、雑草の繁茂の防止効果が低下し、多いと、地温の上昇効果が低下して作物の生育が悪くなるので、熱可塑性樹脂100重量部に対して0.25〜1.5重量部に限定され、0.3〜1.4重量部が好ましい。
【0012】
更に、上記着色部11は橙色系顔料を含有している。橙色系顔料とは、アゾ系顔料の混合物をいう。このような橙色系顔料としては、ジスアゾイエローとポリアゾレッドとを混合させてなる顔料などが挙げられる。
【0013】
橙色系顔料がジスアゾイエローとポリアゾレッドとを混合させてなる場合、橙色系顔料中におけるジスアゾイエローの含有量は、少ないと、赤色味が強くなり、多いと、黄色味が強くとなるので、20〜80重量%が好ましい。同様の理由で、橙色系顔料中におけるポリアゾレッドの含有量は、80〜20重量%が好ましい。
【0014】
そして、着色部11中における橙色系顔料の含有量は、少ないと、可視光線領域の光線透過率が高くなり、雑草の繁茂の防止効果が低下し、多いと、地温の上昇効果が低下して作物の生育が悪くなるので、熱可塑性樹脂100重量部に対して0.5〜3重量部に限定され、0.5〜2重量部が好ましい。なお、橙色系顔料が複数種類の顔料を混合させて構成されている場合には、橙色系顔料を構成している顔料の総量をいう。
【0015】
更に、着色部11における300〜550nmの波長領域での光線透過率は、高いと、雑草の繁茂の防止効果が発現しにくくなるので、40%以下に限定され、0〜20%が好ましい。なお、着色部における300〜550nmの波長領域での光線透過率は、紫外・可視分光光度計を用いて測定されたものをいう。
【0016】
又、着色部11における900nmでの光線透過率は、低いと、地温の上昇効果が発現しにくくなるので、50%以上に限定され、55〜90%が好ましい。なお、着色部における900nmでの光線透過率は、分光光度計を用いて測定されたものをいう。
【0017】
本発明の農業用フィルム1において、着色部11は全面的に形成されていても或いは部分的に形成されていてもよい。農業用フィルム1中において着色部11は、畝や地面を農業用フィルムで被覆した際に着色部11による被覆が必要な箇所に相当する農業用フィルム部分にのみ形成されていてもよい。
【0018】
具体的には、図1に示したように、農業用フィルム1において所定幅を有する着色部11を所定間隔毎に繰返し形成してもよいし、図2及び図3に示したように、農業用フィルム1の一半部或いは一半部の一部のみに着色部11を形成してもよい。
【0019】
そして、本発明の農業用フィルム1において、着色部11以外の残余部分については特に限定されず、透明或いは半透明であってもよいし、着色部の呈する橙色以外の色、例えば、黒色などに着色されていてもよい。
【0020】
農業用フィルムの着色部11以外の残余部分を構成する熱可塑性樹脂としては、着色部11を構成している熱可塑性樹脂と同様であるのでその説明は省略する。又、農業用フィルム1の着色部11以外の残余部分が着色されている場合、着色部11以外の残余部分に含有される顔料としては、特に限定されず、例えば、カーボンブラックなどが挙げられる。
【0021】
又、農業用フィルム1には、着色部11及びこの着色部11以外の残余部分に、その物性を損なわない範囲において、ヒンダードアミン系光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防霧剤、滑剤などが含有されていてもよい。
【0022】
上記ヒンダードアミン系光安定剤としては、特に限定されず、例えば、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ポリ{〔6−[(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ]−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル〕[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]}などが挙げられる。ヒンダードアミン系光安定剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0023】
又、上記熱安定剤としては、特に限定されず、例えば、カルボン酸の金属塩、フェノール系抗坑酸化剤、有機亜燐酸エステルなどのキレーターが挙げられる。
【0024】
そして、上記酸化防止剤としては、特に限定されないが、通常は上記熱安定剤としての効果を兼ね備えるものが多く、例えば、カルボン酸の金属塩、フェノール系抗酸化剤、有機亜燐酸エステルなどのキレーターが挙げられる。
【0025】
紫外線吸収剤としては、特に限定されず、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸エステル系、シアノアクリレート系のものが挙げられる。具体的には、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤として、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノンなどが挙げられるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤として、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールなどが挙げられる。紫外線吸収剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0026】
上記防霧剤としては、特に限定されず、例えば、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。上記滑剤としては、特に限定されず、例えば、ステアリン酸アマイドなどの飽和脂肪酸アマイド、エルカ酸アマイド、オレイン酸アマイドなどの不飽和脂肪酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイドなどのビスアマイドなどが挙げられる。
【0027】
又、農業用フィルムの一面には、露水を流滴させるために、コロイダルシリカを主成分とする防曇塗布剤を塗布、乾燥させて成形した防曇層や、ポリビニルアルコールなどの親水性樹脂からなる防曇層が設けられてもよい。これらの防曇剤を塗布する方法としては、例えば、グラビアコーターなどのロールコート法、バーコード法、ディップコート法、スプレー法、はけ塗り法などが挙げられる。
【0028】
農業用フィルムの厚さは、薄いと、農業用フィルムの機械的強度が低下して破損し易くなり、厚いと、農業用フィルムの裁断、接合、展張作業などが困難になって、農業用フィルムの取り扱い性が低下するので、10〜100μmが好ましく、20〜50μmがより好ましい。
【0029】
なお、農業用フィルム1は、単層の熱可塑性樹脂層から形成されていても、複数層の熱可塑性樹脂層が積層一体化されていてもよい。農業用フィルム1が単層の熱可塑性樹脂層から形成されている場合、着色部11は農業用フィルム1の全厚みに亘って形成されていることが好ましい。
【0030】
又、農業用フィルム1が複数層の熱可塑性樹脂層が積層一体化されて形成されている場合、複数層の熱可塑性樹脂層のうちの一部の熱可塑性樹脂層においてのみ着色部11が形成されていてもよいし、全ての熱可塑性樹脂層において着色部11が形成されていてもよい。なお、各熱可塑性樹脂層に形成されている着色部11は、各熱可塑性樹脂層の全厚みに亘って形成されていることが好ましい。
【0031】
次に、本発明の農業用フィルム1の製造方法を説明する。本発明の農業用フィルム1は、公知の製造方法によって製造することができる。具体的には、農業用フィルム1の製造方法としては、例えば、熱可塑性樹脂、二酸化チタン及び橙色系顔料を含有する熱可塑性樹脂組成物を押出機に供給して溶融混練し、インフレーション法、Tダイ法、カレンダー法などの公知の方法で成形して農業用フィルムを製造する方法が挙げられる。
【0032】
着色部11が部分的に形成されてなる農業用フィルム1の製造方法としては、例えば、熱可塑性樹脂、二酸化チタン及び橙色系顔料を含有する第一熱可塑性樹脂組成物を第一押出機に供給して溶融混練すると共に、熱可塑性樹脂に必要に応じて着色剤及びその他の添加剤を含有させてなる第二熱可塑性樹脂組成物を第二押出機に供給して溶融混練し、第一押出機及び第二押出機から押出された第一、第二熱可塑性樹脂組成物を同一のダイに供給して共押出成形することによって農業用フィルムを製造することができる。なお、第一、第二押出機から押出された第一、第二熱可塑性樹脂組成物をそれぞれ必要に応じて複数に分岐させた上でダイに供給してもよい。
【0033】
このようにして製造された農業用フィルム1は、畝やその他の土壌を被覆するために用いられる。そして、農業用フィルムで畝やその他の土壌を被覆するにあたって、農業用フィルムの着色部が、地温の上昇効果及び雑草の繁茂の防止効果を必要とする畝又はその他の土壌部分を被覆するように調整することによって、雑草の繁茂を抑制しながら作物の生育を促進することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の農業用フィルムは、上述の如く、二酸化チタン及び橙色系顔料をそれぞれ所定量づつ含有する着色部を有しており、着色部においては、雑草の繁茂の原因となる波長領域の光線透過率を所定量以下に限定していると共に、地温の上昇に必要な波長領域の光線透過率を所定量以上に限定しているので、地温の上昇によって作物の生育に適した環境に整えることができると共に、雑草の繁茂を抑制して、作物の生育を促進し且つ雑草の除去の手間を軽減しており、作物の順調な生育を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の農業用フィルムの一例を示した平面模式図である。
【図2】本発明の農業用フィルムの一例を示した平面模式図である。
【図3】本発明の農業用フィルムの一例を示した平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0037】
(実施例1〜4、比較例1、2)
線状低密度ポリエチレン(密度:0.920g/cm3、メルトフローレイト:1.0g/10分)、低密度ポリエチレン及び二酸化チタン、並びに、ジスアゾイエロー50重量%及びポリアゾレッド50重量%を含有する橙色系顔料(東京インキ社製 商品名「PEX 4AJ151 ORANGE」)を農業用フィルム中における各成分量が表1となるように調整しながら押出機に供給して溶融混練しインフレーション法によって厚みが20μmで且つ全体的に橙色である単層の農業用フィルムを製造した。なお、線状低密度ポリエチレンのメルトフローレイトは、JIS K7210に準拠して温度190℃、荷重21.18Nにて測定された値である。
【0038】
得られた農業用フィルムについて、300〜550nmの波長領域での光線透過率、900nmでの光線透過率、地温上昇性及び雑草防除性について下記に要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0039】
(地温上昇性)
鉄骨ハウス(縦6m×横6m×高さ4m)内に、土を充填したプランター(縦70cm×横40cm×高さ50cm)を二つ配設した。一方のプランターの土壌全面に農業用フィルムを被覆すると共に、他方のプランターの土壌全面に市販の全面が黒色の黒色フィルムを被覆した。
【0040】
次に、各プランター内の土壌の深さ10cmの位置に熱電対を配設して土壌の温度を1週間に亘って1時間毎に測定した。プランター毎に測定温度の相加平均値を算出し、この相加平均値を平均土壌温度とした。そして、農業用フィルムで被覆したプランターの平均土壌温度と、黒色フィルムの土壌の平均土壌温度とを比較し、下記基準に基づいて判断した。
○:農業用フィルムで被覆したプランターの平均土壌温度が、黒色フィルムで被覆した
プランターの平均土壌温度よりも2℃以上高かった。
△:農業用フィルムで被覆したプランターの平均土壌温度が、黒色フィルムで被覆した
プランターの平均土壌温度よりも0.5℃以上で且つ2℃未満高かった。
×:農業用フィルムで被覆したプランターの平均土壌温度が、黒色フィルムで被覆した
プランターの平均土壌温度よりも0.5℃未満高かった。
【0041】
(雑草防除性)
積水フィルム九州株式会社出水工場内の農地で平成20年10月3日に農業用フィルムを敷設し、30日後の雑草の繁茂状況を目視観察した。
○:雑草の繁茂は認められなかった。
△:雑草が少量繁茂したが殆ど問題にならなかった。
×:雑草が多量に繁茂した。
【0042】
【表1】


【符号の説明】
【0043】
1 農業用フィルム
11 着色部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂100重量部、二酸化チタン0.25〜1.5重量部及び橙色系顔料0.5〜3重量部を含有している着色部を有しており、この着色部は、300〜550nmの波長領域での光線透過率が40%以下で且つ900nmでの光線透過率が50%以上であることを特徴とする農業用フィルム。
【請求項2】
熱可塑性樹脂は、低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンを含有していることを特徴とする請求項1に記載の農業用フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−213667(P2010−213667A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67259(P2009−67259)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(596111276)積水フイルム株式会社 (133)
【Fターム(参考)】