説明

農業用防虫ネット

【課題】 目合いが小さいにも拘らず、通風性がよい農業用の防虫ネットを提供すること。
【解決手段】 0.4mm以下の目合いの防虫ネットであって、鞘成分が、芯成分より融点の低い熱可塑性樹脂からなり、500T/m以上の撚りを施した芯鞘型複合マルチフィラメントからなる織物で、マルチフィラメントのフィラメント間および織物の糸条と糸条の交点が前記鞘成分により融着され、前記織物の交点は融着により平滑化されていることを特徴とする農業用防虫ネット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜類、花卉類、果樹類などの植物の栽培に使用する農業用防虫ネットに関する。
【背景技術】
【0002】
野菜類、花卉類、果樹類などの植物栽培において、葉や果実を害虫の食害から守る方法の一つとして、防虫ネットの使用は有用である。この防虫ネットは、基本的には、栽培している植物の上面全体をトンネル型にあるいはハウス型に覆って害虫の侵入を防ぐものである。したがって、対象とする害虫が通り抜けることができない大きさの目合いを有するネットの目合いのネットが用いられる。この点からは、目合いの小さい防虫ネットほど、いろいろな害虫の侵入を防ぐことができるので、防虫効果が大きい。
【0003】
そして、従来、防虫ネットには、通常寒冷紗などの織編物が用いられているが、使用時に織編物の糸がずれ、目ずれが生じやすい。目ずれ防止のために、糸条同士を熱接着させることは行われている(たとえば、特許文献1)。また目合いの小さい防虫ネットとしては、最近では、ポリエチレンモノフィラメントを用いた0.4mm以下のものも、市販されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−217497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、目合いが小さい防虫ネットの方がいろいろな害虫の侵入を防ぐことができ、防虫効果は高いが、特許文献1の防虫ネットは熱接着性モノフィラメントなどの熱接着性繊維を用いて糸条の交点を接着した編織物を用いているだけであるので、たとえば0.4mm以下といった小さな目合いの場合、風通しが悪く、防虫ネットが被覆された中で蒸れが生じ、栽培の対象となる作物の生育に悪影響を及ぼし、またハウス型の場合、作業者の環境が著しく悪化する。また、市販されている目合いの小さいポリエチレンモノフィラメントからなる防虫ネットも、通風性のうえで、十分なものは得られていない。
したがって、本発明では、目合いが小さいにも拘らず、風通しがよい農業用の防虫ネットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、0.4mm以下の目合いの防虫ネットであって、鞘成分が、芯成分より融点の低い熱可塑性樹脂からなり、500T/m以上の撚りを施した芯鞘型複合マルチフィラメントからなる織物で、マルチフィラメントのフィラメント間および織物の糸条と糸条の交点が前記鞘成分により融着され、前記織物の交点は融着により平滑化されていることを特徴とする農業用防虫ネットをその要旨とする。なかでも、厚みが0.2mm以下のものであることが好ましい。また芯成分はポリエステル系樹脂、鞘成分は変性ポリエステル系樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本願発明は、目合いが小さいにも拘らず、通風性がよい防虫ネットを得ることができる。また、防虫ネットとして、厚みが小さいものが得られ、収納や持ち運びに便利で、取り扱い性の優れたものが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の農業用防虫ネット(以下「防虫ネット」という)は、芯鞘型複合マルチフィラメントからなる織物である。
【0009】
本発明の織物の組織として、平織、朱子織などがあげられるが、軽く、携帯性の優れたものが得やすい点、薄く、通風性が優れる点から、平織が好ましい。
【0010】
本発明の織物は、鞘成分が芯成分より融点の高い芯鞘型複合マルチフィラメントからなり、鞘成分が融着することにより、マルチフィラメントのフィラメント間、織物の糸条と糸条の交点が融着により固定され、織物の交点は平滑化されている。
【0011】
以下、本発明の芯鞘型複合マルチフィラメントの好適な態様について説明する。
【0012】
芯成分としては、繊維形成性ポリマーの中でも、ポリエステル系樹脂が好適にあげられる。このようなポリエステル系樹脂は、たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等があげられるが、汎用的で入手しやすい等の点から、ポリエチレンテレフタレートが好適である。
【0013】
鞘成分としては、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などがあげられるが、ポリエステル系樹脂が好ましい。鞘成分は、芯成分より、融点が高い樹脂からなり、たとえば、イソフタル酸やスルホイソフタル酸等で変性した変性ポリエステルからなるものが好ましい。
【0014】
芯成分と鞘成分の樹脂の好適な組み合わせとしては、芯成分にポリエステル系樹脂、鞘成分に変性ポリエステル系樹脂が好ましく、特に、芯成分にポリエチレンテレフタレート、鞘成分にイソフタル酸などを共重合した変性ポリエステルが好ましい。
【0015】
鞘成分の融点は芯成分の融点より高い。すなわち、上記芯鞘型複合マルチフィラメントを用いて製織した後、熱セットにより鞘成分のみを融解し、マルチフィラメントのフィラメント間や、織物の糸条と糸条の交点が融着により平滑化できるような融点の差があればよい。具体的には、たとえば、鞘成分の融点は、芯成分の融点より20℃以上高いものが好ましい。
【0016】
上記芯鞘型複合マルチフィラメントのフィラメント数は、2〜36本が好ましい。また単糸繊度は、1〜100dtexが好ましく、トータル繊度は、40〜400dtex、なかでも、50〜200dtexが好ましい。なお、通風性を良好に保つ点からは、織物の厚みが小さい方が好ましく、この点からは、トータル繊度は200dtex以下が好ましく、より好ましくは150dtex以下であり、さらに好ましくは100dtex以下である。
【0017】
上記芯鞘型複合マルチフィラメントは、そのままあるいは複数本束ねて、糸条として用いることができる。また他のマルチフィラメントと合撚して合撚糸を糸条として用いてもよい。柔らかな防虫ネットを得やすい点からは、上記芯鞘型複合マルチフィラメントと他のマルチフィラメントとを合撚した合撚糸を用いるのが好適である。なお、これらを織物に用いる際の糸条繊度は、40〜400dtex程度が好ましい。なお、通風性を保つ点からは、織物の厚みが小さい方が好ましく、好ましくは、200dtex以下、より好ましくは150dtex以下、さらに好ましくは100dtex以下である。
【0018】
次に、本発明の防虫ネットは、上記芯鞘型複合マルチフィラメントに撚りを施したものから構成される。この撚り数は、500T/m以上が好適である。より好ましくは、700T/m以上であり、より好ましくは1000〜2000T/mである。上限は、製織上の取り扱いのし易さを考慮すると、3000T/m程度が好ましい。
【0019】
すなわち、本発明の防虫ネットは、織物の糸条に用いるマルチフィラメントに一定以上の撚りを施すことにより、糸条の見掛けの太さが細くなり、0.4mm以下などの小さい目合いの場合に起こる空気を通過する抵抗が低減され、通風性が優れたものとなる。また、上記のように鞘成分を融解させた芯鞘型マルチフィラメントを用いて、フィラメント間が融着されているので、フィラメント間に生じる空気抵抗が低減される。また芯鞘型複合マルチフィラメントを融着して、撚りをかけた糸条の表面を平滑化しているので、さらに、空気抵抗が低減され、通風性が優れたものが得られると考えられる。
【0020】
また、上記芯鞘型複合マルチフィラメントに一定以上、撚りをいれて、低融点成分を融着させて平滑化することにより、生地の厚みが薄くなり、従来になかった厚さ0.2mm以下あるいは0.15mm以下の防虫ネットが得られる。このような厚みが小さいものであれば、薄くて、軽く、折りたたみやすく、持ち運びやすく携帯性などの取り扱い性に優れている。加えて、このような厚みの小さいものであれば、送風された場合でも、空気の抵抗が低減され、通風性が改善されたものが得られる。厚さは、0.2mm以下が好ましく、0.15mm以下がより好ましい。
【0021】
一方、本発明の防虫ネットの開口率は、40〜80%が好ましく、さらに好ましくは、50〜70%である。この範囲であると、防虫ネットの物性を保ちながら、上記芯鞘型複合マルチフィラメントを用いて、目合いの小さく、風通しのよいものが得られやすい。
【0022】
なお、一般に、開口率が大きくなれば、通風性は、良好であると考えられるが、目合いが小さいものは、開口率を大きく保持するのは難しく、良好な通風性を得にくい傾向がある。本発明によれば、開口率は同じであっても、上記芯鞘型複合マルチフィラメントを用い、一定の芯鞘型マルチフィラメントに、撚りを付与したうえで、鞘成分を融着させて、見掛けの織物を構成する糸の太さを小さくし単位面積あたりの糸の占める面積を小さくすること、厚みを小さくすること、織物の交点を平滑化することにより、空気抵抗を低減できるため、通風性を良好とすることができる。
【0023】
次に本発明の防虫ネットを構成する織物は、上記芯鞘型複合マルチフィラメントを、織物全体に対し、20%以上用いることが好ましい。50%以上がより好ましく、さらに好ましくは、70%以上である。
【0024】
上記織物が平織の場合、経緯少なくともいずれか一方に、上記芯鞘型複合マルチフィラメントを1本配置し、別のマルチフィラメントを含む糸を1本配置し、交互に配置してもよい。n本ずつ配置してもよいが、1本づつ交互に配置することが好ましい。
【0025】
上記芯鞘型複合マルチフィラメントと組み合わせて織成する糸としては、特に限定されないが、たとえば、芯成分と同じ成分のマルチフィラメントであることが好ましい。具体的な樹脂としては、ポリエステル系樹脂が好適に用いられる。
【0026】
また、この組み合わせる糸としては、単糸繊度、トータルデニール、糸条繊度、フィラメント数、撚数は、上記芯鞘型複合マルチフィラメントと同様の範囲が好適である。
具体的には、たとえば、単糸繊度が1〜100dtex、トータル繊度が40〜400(なかでも50〜200)dtexが好ましい。
そして、織物を構成する糸条繊度としては、40〜400dtex(なかでも200dtex以下、さらには150dtex以下)が好ましい。また、フィラメント数は2〜36本、撚数は500T/m以上(なかでも、1000〜2000T/m)が好ましい。
【0027】
次に、本発明の防虫ネットの製造方法の例を示す。
【0028】
上記複合マルチフィラメントを用いて製織して生機を得た後、鞘成分の融点以上芯成分の融点以下にて熱処理して、上記マルチフィラメントの鞘成分を融解して、マルチフィラメントの各フィラメント間や織物の糸条同士の交点を融着して固定する。その後、UV加工、撥水加工などを適宜施して、防虫ネットを得る。
【実施例】
【0029】
風速は、以下の測定方法により求めた。
水平な風を防虫ネット直前に27m/sとなるように送風した。防虫ネットを超えた1cm後と、10cm後の風速をそれぞれ測定した。
【0030】
(実施例1)
84dtex/24fの芯鞘型複合繊維マルチフィラメントA糸(芯:レギュラーポリエステル、鞘:共重合ポリエステル、KBセーレン株式会社製 ベルカップル(登録商標)84/24LHD)と、84dtex/36fのレギュラーポリエステルマルチフィラメントB糸(KBセーレン株式会社製,84/36SOD)を準備した。A糸をZ方向に1000T/Mの撚を施し、B糸をS方向に1000T/Mの撚を施した。経緯とも、A糸とB糸を交互に配置して、打ち込み本数、経60本/2.54cm、緯60本/2.54cmで平織にて製織し、生機を得た。この生機を洗った後、190℃で、15秒にてヒートセットして、A糸の鞘成分を熱融着させて、経糸と緯糸の交点を平滑化し、目ずれしないようにした。ついで、UV加工、撥水加工を施し、防虫ネットを得た。得られた防虫ネットは、目合い0.3mm、開口率51.6%、厚み0.15mmだった。
【0031】
(比較例1)
市販のポリエチレンモノフィラメント使用で、目合いが0.2×0.4mm(製品名:日本ワイドクロス社製、SL6500)の防虫ネットを準備した。この防虫ネットの開口率は48.0mm、厚みは0.29mmだった。
【0032】
(比較例2)
市販のポリエチレンモノフィラメント使用で、目合いが0.3mm(製品名:ダイオー化成社製、N5800)の防虫ネットを準備した。この防虫ネットの開口率は54.2mm、厚みは0.23mmだった。
【0033】
実施例および比較例の目合い、開口率、ネット前風速、ネット後風速(1cm、10cm)を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
上記のように、実施例1のものは、比較例のものに比べて、厚みが薄く、通風性に優れたものであった。
【0036】
本発明においては、一定の芯鞘型複合マルチフィラメントを、一定以上の撚り数で撚り、鞘成分を融着させることによって、防虫ネットの織物を構成する糸条のみかけの太さを細くすることにより、単位面積あたりの空気抵抗を低減し、また薄手のものとすることにより空気抵抗を低減し、加えて織物を平滑化することにより、送風した際の空気抵抗を低減して、目合いが小さいにも拘らず、通風性の優れた農業用の防虫ネットを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.4mm以下の目合いの防虫ネットであって、鞘成分が、芯成分より融点の低い熱可塑性樹脂からなり、500T/m以上の撚りを施した芯鞘型複合マルチフィラメントからなる織物で、マルチフィラメントのフィラメント間および織物の糸条と糸条の交点が前記鞘成分により融着され、前記織物の交点は融着により平滑化されていることを特徴とする農業用防虫ネット。
【請求項2】
厚みが0.2mm以下の請求項1記載の農業用防虫ネット。
【請求項3】
芯成分がポリエステル系樹脂、鞘成分が変性ポリエステル系樹脂である請求項1または2記載の農業用防虫ネット。

【公開番号】特開2008−237121(P2008−237121A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83114(P2007−83114)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(305037123)KBセーレン株式会社 (97)
【Fターム(参考)】