説明

農用作業車の静電散布装置

【課題】所定間隔毎に噴霧ノズルを備えている後側散布ブームと前側散布ブームを左右方向に沿わせて前後に並列配設した多量散布装置において、構成を簡単化し軽量化した静電散布装置を提供する。
【解決手段】所定間隔毎に噴霧ノズルを備えている後側散布ブーム及び前側散布ブームを左右方向に沿わせて前後に並列配設し、後側散布ブームの散布ノズルの後方下方部位に後高電圧電導体を所定間隔空けて並列配設し、前側散布ブームの散布ノズルの前方下方部位に前高電圧電導体を並列配設し、後側散布ブームの噴霧ノズルと前側散布ブームの噴霧ノズルとの中間部位に単一の中間高電圧電導体を並列配置し、これら前後中間高電圧電導体に高電圧を印加するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液等を作物に散布する散布装置を備えた農用作業車の静電散布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
農作物等の静電散布装置において、支持杆の長手方向に並設されている噴霧ノズル夫々が、この長手方向に交差する方向に液体を噴霧するように構成し、2本の導電部は噴霧ノズルから噴霧される液体の拡散範囲に介在して互いに略並行に、支持杆の長手方向に離間配置し、導電部と導電部に高電圧を印加する電源装置としてのインバータを接続したものは、公知である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−194673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
背景技術のものは、単一の散布ブームの噴霧ノズルの下方に長手方向に沿った直線状の前後高電圧電導体を配設して静電散布装置を構成し、噴霧ノズルから単一の噴霧薬液を前後高電圧電導体により帯電させ作物への付着を均一化しようとするものである。
【0005】
本発明は、所定間隔毎に噴霧ノズルを備えている後側散布ブームと前側散布ブームを左右方向に沿わせて所定間隔空けて並列配設した多量散布装置において、静電散布装置を構成するにあたり、簡単な構成で軽量化しコストの低減を図ろうとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、所定間隔毎に噴霧ノズル(3,…)を備えている後側散布ブーム(4Ca,4La,4Ra)と前側散布ブーム(4Cb,4Lb,4Rb)を左右方向に沿わせて並列配設し、該後側散布ブーム(4Ca,4La,4Ra)の噴霧ノズル(3,…)の後方下方部位に後高電圧電導体(61r)を所定間隔空けて並列配設し、該前側散布ブーム(4Cb,4Lb,4Rb)の噴霧ノズル(3,…)の前方下方部位に前高電圧電導体(61f)を所定間隔空けて並列配設し、前記後側散布ブーム(4Ca,4La,4Ra)の噴霧ノズル(3,…)と前側散布ブーム(4Cb,4Lb,4Rb)の噴霧ノズル(3,…)との間に単一の中間高電圧電導体(61c)を並列配置し、これら前後中間高電圧電導体(61f,61r,61c)に高電圧を印加するように構成したことを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記後側散布ブーム(4Ca,4La,4Ra)の噴霧ノズル(3,…)と前側散布ブーム(4Cb,4Lb,4Rb)の噴霧ノズル(3,…)との中間に前記中間高電圧電導体(61c)を並列配置するにあたり、
前記後側散布ブーム(4Ca,4La,4Ra)の噴霧ノズル(3,…)の後方下方部位に配設している前記後高電圧電導体(61r)と前記前側散布ブーム(4Cb,4Lb,4Rb)の噴霧ノズル(3,…)の前方下方部位に配設している前記前高電圧電導体(61f)との中間位置に前記中間高電圧電導体(61c)を並列配置したことを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記後側散布ブーム(4Ca,4La,4Ra)の噴霧ノズル(3,…)と前側散布ブーム(4Cb,4Lb,4Rb)の噴霧ノズル(3,…)との中間に前記中間高電圧電導体(61c)を並列配置するにあたり、
前記後側散布ブーム(4Ca,4La,4Ra)の噴霧ノズル(3,…)と前記前側散布ブーム(4Cb,4Lb,4Rb)の噴霧ノズル(3,…)との中間位置に前記中間高電圧電導体(61c)を並列配置したことを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3の発明において、車速センサの検出情報に基づき散布量制御をする散布制御用コントローラ(48)を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明は、後側散布ブーム(4Ca,4La,4Ra)、前側散布ブーム(4Cb,4Lb,4Rb)の静電散布装置を3本の高電圧電導体(61f,61r,61c)で構成することができ、構成を簡単にでき軽量化とコストの低減を図ることができる。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明の前記効果に加えて、後側散布ブーム(4Ca,4La,4Ra)の噴霧ノズル(3,…)の後方下方部位に配設している後高電圧電導体(61r)と前側散布ブーム(4Cb,4Lb,4Rb)の噴霧ノズル(3,…)の前方下方部位に配設している前高電圧電導体(61f)との中間位置に中間高電圧電導体(61c)を並列配置したので、後側散布ブーム(4Ca,4La,4Ra)の噴霧ノズル(3,…)から噴霧する薬液と前側散布ブーム(4Cb,4Lb,4Rb)の噴霧ノズル(3,…)から噴霧する薬液を中間高電圧電導体(61c)により略均一に帯電させることができ、作物に薬液を略均等に散布することができる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1の発明の前記効果に加えて、後側散布ブーム(4Ca,4La,4Ra)の噴霧ノズル(3,…)と前側散布ブーム(4Cb,4Lb,4Rb)の噴霧ノズル(3,…)との中間位置に中間高電圧電導体(61c)を並列配置したので、後側散布ブーム(4Ca,4La,4Ra)の噴霧ノズル(3,…)から噴霧する薬液と前側散布ブーム(4Cb,4Lb,4Rb)の噴霧ノズル(3,…)から噴霧する薬液を中間高電圧電導体(61c)により均一に帯電させることができ、作物に薬液を均等に散布することができる。
【0013】
請求項4の発明によると、請求項1から請求項3の発明の効果に加えて、車速センサの検出情報に基づき散布量制御をする散布制御用コントローラ(48)を設けたので、散布作業が開始されると、車速センサにより車速が検出され、散布制御用コントローラ(48)の散布制御手段により検出車速の散布量と設定散布量とが一致するように流量制御弁を開閉制御し、散布流量の制御がなされ、多量散布をしながら静電散布装置により噴霧薬液を均一に帯電させ作物に薬液を均一に散布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】農用作業車の側面図。
【図2】農用作業車の正面図。
【図3】噴霧装置の平面図。
【図4】噴霧装置のブロック図。
【図5】静電散布装置の背面図、側面図、平面図。
【図6】農用作業車の平面図。
【図7】農用作業車の正面図。
【図8】農用作業車の正面図。
【図9】農用作業車の前側部の側面図。
【図10】農用作業車の中間部の平面図。
【図11】農用作業車の前側部の側面図。
【図12】静電散布装置の側面図。
【図13】農用作業車の前側部の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の静電散布装置を備えた薬液を散布する農用作業車の散布装置について説明する。まず、農用作業車の全体構成について説明する。
農用作業車1には、薬液を収納する薬液タンク2と、噴霧ノズル3,…を備えた散布ブーム4と、前記薬液タンク2内の薬液を噴霧ノズル3まで送る防除ポンプ6等からなる散布装置7を車体に装着している。
【0016】
農用作業車1は、前後方向に沿った左右主フレーム8,8を左右平行に設け、左右主フレーム8,8の前側部に左右前輪9,9を、後側部に左右後輪11,11を設けている。この左右主フレーム8,8上にはオペレータが足を置くフロア12を設け、フロア12上には左右のブレーキぺダル13,13等を設けている。
【0017】
車体前側部のボンネット16内にはエンジン17を搭載し、エンジン17の動力をミッションケース18に伝達し、ミッションケース18内の静油圧式の無段変速装置及びギヤ式の副変速装置(図示省略)で変速した動力を前輪9,9及び後輪11,11に伝達し、ミッションケース18内には走行伝動軸(図示省略)の回転数から車速を検出する車速センサ(図示省略)を設けている。
【0018】
運転席19の前方にはボンネット16の後側部から突設しているハンドル21を設け、ボンネット16の後側部に表示パネル23を設け、運転席19の左側には無段変速装置操作用の無段変速レバー24を設け、無段変速レバー24の基部に操作位置を検出する無段変速レバーセンサ(図示省略)を設け、運転席19の右側には散布量や散布幅を設定する散布操作ボックス27を設けている。
【0019】
散布ブーム4は、農用作業車1の左右主フレーム8の前側部に設けたブーム支持部材42により支持されている。このブーム支持部材42は油圧シリンダ43により散布高さが調整できるように構成されていて、散布ブーム4には略所定間隔毎に噴霧ノズル3,…を設け、この左右散布ブーム4L,4Rは左右両側に突出した散布状態と、農用作業車1の左右側部に沿った収納状態とに回動調節できる構成である。
【0020】
また、図4に示すように、運転席19の左右両側に左右薬液タンク2a,2bを配設し、その底部を連通パイプ2cにより連通し、左右薬液タンク2a,2bには薬液を投入する投入口を設け、左薬液タンク2aと防除ポンプ6とを供給ホース28により連通している。防除ポンプ6は例えば電気モータにより駆動するように構成し、防除ポンプ6から吐出した薬液は、吐出ホース29を経由して調圧装置30に送られ、吐出薬液の一部は撹拌ホース37を経由して右薬液タンク2bに還流し、沈殿した薬液を撹拌するようにしている。
【0021】
前記調圧装置30を次のように構成している。調圧装置30の調圧マニホールド30aには、調圧制御弁31、エアチャンバ32、リリーフバルブ33(調圧制御弁31の上手側に設けている)、流量制御弁34を設けている。しかして、リリーフバルブ33からの余分の薬液は戻しホース36を経由して薬液タンク2に還流し、調圧制御弁31で調整された吐出薬液を前圧力センサ40aで検出し、吐出ホース29の終端側に送り、流量センサ41で流量を検出し、後圧力センサ40bで散布圧力を検出し、噴霧マニホールド35、開閉コック38,…を経て複数の高圧ホース39,…から散布ブーム4の中央散布ブーム4C、左右散布ブーム4L,4Rに送り薬液を散布する。
【0022】
また、噴霧マニホールド35から外部取出用の吐水ホース51を分岐し、機体後部に後部散布マニホールド52を設け、機体後部にはロータリ除草機(図示省略)を取り付け、後部散布マニホールド52に吐水ホース51の終端側を接続している。後部散布マニホールド52から複数の後部散布ホース53,…を延出し、後部散布コック54の開閉により吐水ホース51から薬液を導き、ロータリ除草機の除草跡に噴霧ノズル3,…から薬液を散布するようにしている。
【0023】
次に、図6乃至図10に基づき他の実施例について説明する。
農用作業車1の前側部に中央散布ブーム4Cを機体幅に略等しい長さとして左右方向に沿わせて設けている。この中央散布ブーム4C3を後側の基準中央散布ブーム4caと、前側のサブ中央散布ブーム4Cbとを同じ長さにして左右方向に沿わせて配設し、互いに長手方向に移動しないように着脱自在に配設している。
【0024】
また、左右散布ブーム4L,4Rを後側の基準左右散布ブーム4La,4Raと、前側のスライド左右散布ブーム4Lb,4Rbとで構成し、スライド左右散布ブーム4Lb,4Rbを左右方向にスライド調節できるように構成している。そして、スライド左右散布ブーム4Lb,4Rbを内側に収納し、基準左右散布ブーム4La,4Raの後側に位置するようにし、例えば、基準、サブ中央散布ブーム4Ca,4Cb、及び、基準左右散布ブーム4La,4Ra、スライド左右散布ブーム4Lb,4Rbから標準散布量(100リットル/10アール)の薬液を散布するようにし、一度に多量の薬液を散布するようにしている。
【0025】
しかして、基準、サブ中央散布ブーム4Ca,4Cbを前後に並列配置し、また、基準左右散布ブーム4La,4Ra、スライド左右散布ブーム4Lb,4Rbを前後に並設し、これらの散布ブームから同時に標準量の薬液を散布すると、一度に広い散布幅としながら多量(200リットル/10アール)の薬液を散布することができる。
【0026】
例えば、多量散布を必要とするにんにくの防除を能率的に行なうことができる。また、散布ブーム4の散布幅が狭くなるので、左右散布ブーム4L,4Rの揺れが低減し、作物の高さに合わせて散布むらを防止しながら適正な薬液散布をすることができる。また、多量散布用の噴霧ノズルに切り換える必要もなく、操作を簡単にしながら多量散布をすることができる。
【0027】
また、図8に示すように、基準中央散布ブーム4Caの送液上手側端部に散布切換用の開閉アームを設け、開閉アーム58を開調節すると、基準、サブ中央散布ブーム4Ca,4Cbにおける全体の噴霧ノズル3,…を薬液散布状態とし、閉調節をすると、基準、サブ中央散布ブーム4Ca,4Cbにおける全体の噴霧ノズル3,…を薬液散布停止状態とするようにしてもよい。
【0028】
また、基準左右散布ブーム4La,4Raの送液上手側端部に散布切換用の開閉アーム58を設け、開調節すると、基準左右散布ブーム4La,4Ra、スライド左右散布ブーム4Lb,4Rbにおける全体の噴霧ノズル3,…を薬液散布状態とし、閉調節をすると、基準左右散布ブーム4La,4Ra、スライド左右散布ブーム4Lb,4Rbにおける噴霧ノズル3,…を薬液散布停止状態とするようにしてもよい。
【0029】
前記構成によると、個々の噴霧ノズル3,…にそれぞれ切換コックを設ける必要がなく、構成を簡単にすることができる。
また、運転席19の近傍の散布操作ボックス27に基準左右散布ブーム4La,4Ra及びスライド左右散布ブーム4Lb,4Rbの噴霧ノズル3,…を一挙に開閉切換できる開閉アーム(図示省略)を設けてもよい。
【0030】
また、基準中央散布ブーム4Caに対してサブ中央散布ブーム4Cbを若干左右両側方にスライドさせてオフセットすると、散布幅を若干広げた状態で多量散布をすることができ、防除効果を高めることができる。
【0031】
また、次のように構成してもよい。前記噴霧マニホールド35に開閉コック38,…を設け、複数の高圧ホース39,…を経由して中央散布ブーム4C、左右散布ブーム4L,4Rに薬液を送るように構成している。そして、機体の後側に位置している基準中央散布ブーム4Caに切換コック(図示省略)を設け、基準中央散布ブーム4Ca及びサブ中央散布ブーム4Cbにおける噴霧ノズル3,…の双方の噴霧停止を切り換え可能に構成している。また、機体の後側に位置している基準左右散布ブーム4La,4Raに切換コック(図示省略)をそれぞれ設け、基準左右散布ブーム4La,4Ra及びスライド左右散布ブーム4Lb,4Rbの噴霧停止を切り換え可能に構成している。前記構成によると、農用作業車1の散布操作ボックス27に前記切換コックの操作具を配設することができ、散布切換操作が容易になる。
【0032】
なお、機体の後側に位置している基準中央散布ブーム4Ca及びに基準左右散布ブーム4La,4Raに開閉コック38,…及び切換コックを並列配置してもよい。
また、前記中央散布ブーム4Cとサブ中央散布ブーム4Cbを左右方向に沿わせて前後に並設するにあたり、サブ中央散布ブーム4Cbを基準中央散布ノズル4Caの側方に常時配設した構成とすると、通常散布作業と多量散布作業の切り換えを迅速に行なうことができる。
【0033】
次に、図11について説明する。
基準、サブ中央散布ブーム4Ca,4Cbを前後に並設し、前記高圧ホース39,…から分配ホース45a,45bを経由して基準、サブ中央散布ブーム4Ca,4Cbに薬液を供給するように構成している。そして、分配ホース45a,45bに切換用の散布コック46a,46bをそれぞれ設け、基準、サブ中央散布ブーム4Ca,4Cbの散布切り換えをするようにしている。
【0034】
前記構成によると、一方の散布コック46aを開調節し、他方の散布コック46bを閉調節すると、通常散布とすることができ、また、両方の散布コック46a,46bを共に開調節すると、多量散布に切り換えることができ、散布コック46a,46bの切換操作だけで行なうことができ、切換操作が簡単になる。
【0035】
また、基準、サブ中央散布ブーム4Ca,4Cbを前後に並設し、基準左右散布ブーム4La,4Raとスライド左右散布ブーム4Lb,4Rbを前後に並設した多量散布構成において、車速センサの検出情報に基づき散布量制御をするように構成してもよい。
【0036】
散布制御用コントローラ48に通常散布(100リットル/10アール)、多量散布(200リットル/10アール)切換用の散布量設定スイッチを接続し、オペレータが散布量設定スイッチで散布量の多量少量の設定をする。散布作業が開始されると、車速センサにより車速(m/s)が検出され、コントローラ48内の散布制御手段により検出車速に基づく散布量を算出し、設定散布量と算出散布量とが一致するように流量制御弁を開閉制御し、散布流量を変化させる。しかして、多量散布においても薬液の均一散布をすることができる。
【0037】
また、前記散布量制御装置において、基準、サブ中央散布ブーム4Ca,4Cbが前後に並設しているか否かを検出する中央前後並列検出センサを設け、基準左右散布ブーム4La,4Ra、スライド左右散布ブーム4Lb,4Rbが前後に並設しているか否かを検出する左右前後並列検出センサを設け、これら並列検出センサが前後並列状態を検出すると、通常散布量の2倍の多量散布量に設定するように構成してもよい。このようにすると、オペレータの散布量設定操作を簡単にし、多量散布を適正に実行することができる。
【0038】
また、前記散布量制御装置において、自動/手動切換スイッチを設け、自動/手動切換スイッチを手動側に切換かえ、オペレータが散布量増減スイッチを操作することにより、好みの散布量に増減調節できるようにしてもよい。
【0039】
次に、図5に基づき静電散布装置について説明する。
静電散布装置は効率的に薬液を作物に散布する目的で、散布ブーム4に略所定間隔毎に設けている噴霧ノズル3,…の下方部位に、左右方向に沿った棒状の前後高電圧電導体61,61を前後両側に配設し、前後高電圧電導体61,61には電源装置(図示省略)から高電圧を印加するように構成している。そして、散布ブーム4の噴霧ノズル3,…の直下部位における高電圧電導体61,61のみを、平面視で前記噴霧ノズル3,…から前後左右に遠ざかる円環部61a,…に構成し、左右に隣接する円環部61a,…を左右方向に沿った直線状部61b,…で接続するように構成し、散布ブーム4から垂下したステー62により直線状部61b,…を支持している。
【0040】
なお、高電圧電導体61,61の円環部61a,61a及び直線状部61b,61bを合成樹脂により被覆し、また、円環部61a,61aを除いた直線状部61b,…を合成樹脂により被覆し、オペレータの安全を図っている。
【0041】
散布ブーム4の噴霧ノズル3,…における下方前後両側に左右方向に沿った直線状の棒状の前後高電圧電導体61,61を配設しただけの構成では、噴霧ノズル3,…から側面視円錐状で且つ平面視円形状の薬液が散布されると、前後高電圧電導体61,61の近い前後の噴霧部と遠い左右の噴霧部では帯電する電化量に差が生じ、作物への薬液の付着むらという不具合が発生する。
【0042】
しかし、前記構成によると、散布ブーム4の噴霧ノズル3,…の直下部位の前後高電圧電導体61,61を、平面視で噴霧ノズル3,…から略均等に前後左右に遠ざかる円環部61a,61aに構成したので、噴霧ノズル3,…からの噴霧部周辺に略均等な電化量を帯電させることができ、作物の茎葉部周辺に均等に薬液を付着させることができる。
【0043】
また、前後高電圧電導体61,61を円環部61a,…と直線状部61b,…とで構成し、散布ブーム4から垂下しているステー62により直線状部61b,…を支持する構成としたので、前後高電圧電導体61,61の支持構成を簡単化することができる。
【0044】
次に、図12に基づき静電散布装置の他の実施例について説明する。
図12(A)に示すように、中央散布ブーム4Cのフレーム部後側に基準中央散布ブーム4Caを左右方向に沿わせて配設し、フレーム部の前側にサブ中央散布ブーム4Cbを並列状に配設している。この基準中央散布ブーム4Caの噴霧ノズル3,…の後方下側に後高電圧電導体61rを所定間隔空けて並列配設し、サブ中央散布ブーム4Cbの噴霧ノズル3,…の前方下側に所定間隔空けて前高電圧電導体61fを並列配設し、基準中央散布ブーム4Caとサブ中央散布ブーム4Cbとの間に単一の中間高電圧電導体61cを並列配置している。そして、これら前後、中間高電圧電導体61f,61r,61cを散布ブーム4のフレーム部から垂下したステー62,…により支持している。
【0045】
また、図12(B)に示すように、後側の基準左右散布ブーム4La,4Raの噴霧ノズル3,…の後方下側に所定間隔空けて後側高電圧電導体61rを並列配置し、前側のスライド左右散布ブーム4Lb,4Rbの噴霧ノズル3,…の前方下側に所定間隔空けて前側高電圧電導体61fを並列配置し、基準、スライド左右散布ブーム4La,4Raの噴霧ノズル3,…とスライド左右散布ブーム4Lb,4Rbの噴霧ノズル3,…との間に単一の中間高電圧電導体61cを並列配置している。そして、基準、スライド左右散布ブーム4La,4Ra、スライド左右散布ブーム4Lb,4Rbのフレーム部から垂下したステー62,…により、これら前後、中間高電圧電導体61f,61r,61cを支持している。
【0046】
なお、基準左右散布ブーム4La,4Raのフレーム部にスライド左右散布ブーム4Lb,4Rbをそれぞれ長手方向に移動自在に支持し、例えば、移動手段である左右移動チエーンを左右移動モータで駆動し、スライド左右散布ブーム4Lb,4Rbを長手方向に伸縮調節できるように構成している。また、前記前後、中間高電圧電導体61f,61r,61cを図5の実施例と同様に円環部61a,…と直線状部61b,…とで構成してもよい。
【0047】
前記構成によると、中央散布ブーム4Cにおける基準中央散布ブーム4Ca、サブ中央散布ブーム4Cbの静電散布装置を3本の前側後側中間高電圧電導体61f,61r,61cで構成することができ、軽量化とコストの低減を図ることができる。
【0048】
また、左右散布ブーム4L,4Rにおける基準、スライド左右散布ブーム4La,4Raとスライド左右散布ブーム4Lb,4Rbの静電散布装置を同様に3本の前側後側中間高電圧電導体61f,61r,61cで構成でき、軽量化とコストの低減を図ることができる。
【0049】
また、基準左右散布ブーム4La,4Raの噴霧ノズル3,…とスライド左右散布ブーム4Lb,4Rbの噴霧ノズル3,…の中間に単一の中間高電圧電導体61cを並列配置するにあたり、基準左右散布ブーム4La,4Raの後方に並列配置している後高電圧電導体61rとスライド左右散布ブーム4Lb,4Rbの前方に並列配置している前高電圧電導体61fの中間位置に中間高電圧電導体61cを並列配置している。
【0050】
しかして、基準左右散布ブーム4La,4Raの噴霧ノズル3,…から噴霧する薬液とスライド左右散布ブーム4Lb,4Rbの噴霧ノズル3,…から噴霧する薬液を中間高電圧電導体61cにより略均一に帯電させることができ、作物に薬液を略均等に散布することができる。
【0051】
また、基準左右散布ブーム4La,4Raの噴霧ノズル3,…とスライド左右散布ブーム4Lb,4Rbの噴霧ノズル3,…の中間に単一の中間高電圧電導体61cを並列配置するにあたり、基準左右散布ブーム4La,4Raの噴霧ノズル3,…とスライド左右散布ブーム4Lb,4Rbの噴霧ノズル3,…の前後方向中間位置に中間高電圧電導体61cを並列配置している。
【0052】
しかして、基準左右散布ブーム4La,4Raの噴霧ノズル3,…から噴霧する薬液とスライド左右散布ブーム4Lb,4Rbの噴霧ノズル3,…から噴霧する薬液を中間高電圧電導体61cにより均一に帯電させることができ、作物に薬液を均等に散布することができる。
【0053】
また、基準中央散布ブーム4Ca、サブ中央散布ブーム4Cbを前後に並設し、後側の基準中央散布ブーム4Caの後方下側に後高電圧電導体61rを並列配設し、前側のサブ中央散布ブーム4Cbの前方下側に前高電圧電導体61fを並列配設し、基準中央散布ブーム4Caとサブ中央散布ブーム4Cbとの間における下側に単一の中間高電圧電導体61cを並列配置し、後側の基準左右散布ブーム4La,4Raの後方下側に後側高電圧電導体61rを並列配置し、前側のスライド左右散布ブーム4Lb,4Rbの前方下側に前側高電圧電導体61fを並列配置し、基準左右散布ブーム4La,4Raとスライド左右散布ブーム4Lb,4Rbとの間における下側に単一の中間高電圧電導体61cを並列配置した静電散布装置において、車速センサの検出情報に基づき散布量制御をするように構成してもよい。
【0054】
散布制御用コントローラ48に通常散布(例えば100リットル/10アール)、多量散布(200リットル/10アール)切換用の散布量設定スイッチを接続し、オペレータが散布量設定スイッチで多量散布の設定をする。散布作業が開始されると、車速センサにより車速(m/s)が検出され、コントローラ48内の散布制御手段により検出車速に対応した散布量を算出し、設定散布量と算出散布量が一致するように流量制御弁を開閉制御し、散布流量を変化させる。しかして、多量散布においても静電散布装置により噴霧薬液を均一に帯電させながら作物に薬液を均一に散布することができる。
【0055】
また、基準中央散布ブーム4Ca、サブ中央散布ブーム4Cbを前後に並設し、基準中央散布ブーム4Caの後方下側に後高電圧電導体61rを並列配設し、サブ中央散布ブーム4Cbの前方下側に前高電圧電導体61fを並列配設し、基準中央散布ブーム4Caとサブ中央散布ブーム4Cbとの間における下側に単一の中間高電圧電導体61cを並列配置し、後側の基準左右散布ブーム4La,4Raの後方下側に後側高電圧電導体61rを並列配置し、前側のスライド左右散布ブーム4Lb,4Rbの前方下側に前側高電圧電導体61fを並列配置し、基準左右散布ブーム4La,4Raとスライド左右散布ブーム4Lb,4Rbの間における下側に単一の中間高電圧電導体61cを並列配置した静電散布装置を備えた薬液散布装置において、通常散布をするときには、例えば、基準中央散布ブーム4Ca、基準左右散布ブーム4La,4Ra側の散布コックを閉にし、後側の基準中央散布ブーム4Ca,基準左右散布ブーム4La,4Raの後方下側の後側高電圧電導体61r,…への高電圧印加を切りにし散布作業を行なう。
【0056】
しかして、少量散布作業においても、前側高電圧電導体61f及び中間高電圧電導体61cにより、サブ中央散布ブーム4Cbの噴霧ノズル3,…から噴霧する薬液及びスライド左右散布ブーム4Lb,4Rbの噴霧ノズル3,…から噴霧する薬液を前側高電圧電導体61f及び中間高電圧電導体61cにより均一に帯電させ、作物に薬液を均等に散布することができる。
【0057】
また、前側のサブ中央散布ブーム4Cb、スライド左右散布ブーム4Lb,4Rbの散布コックを閉にし、前側のサブ中央散布ブーム4Cb,スライド左右散布ブーム4Lb,4Rbの前方下側の前側高電圧電導体61f,…への電圧を切りにして散布作業を行なっても、前記と同様の効果が期待できる。
【0058】
また、前記静電散布装置を備えた薬液散布装置において、散布ブーム4の噴霧ノズル3,…を「通常噴霧ノズル」、「少量噴霧ノズル」、「除草剤噴霧ノズル」に切り換え可能に構成し、これら3種類の噴霧ノズル設定用の噴霧ノズル設定スイッチを設けると、噴霧ノズル3,…の切り換えによる散布量の増減切換が容易となり、静電散布を速やかに開始することができる。
【0059】
次に、図13について説明する。
基準中央散布ブーム4Ca、サブ中央散布ブーム4Cbを左右方向に沿わせて前後に並設し、後側の基準中央散布ブーム4Caには標準散布型噴霧ノズル3,…を所定間隔毎に設け、前側のサブ中央散布ブーム4Cbには「通常噴霧ノズル」、「少量噴霧ノズル」、「除草剤噴霧ノズル」に切り換えできる切換型の噴霧ノズル3,…を所定間隔毎に設けている。
【0060】
前記構成によると、通常散布と多量散布との切り換えが容易になり、また、多量散布に切り換える際にも、散布量の種々の増減調節が容易になる。
【符号の説明】
【0061】
1 農用作業車
3 噴霧ノズル
4 散布ブーム
4Ca 後側散布ブーム(基準中央散布ブーム)
4La 後側散布ブーム(基準左散布ブーム)
4Ra 後側散布ブーム(基準右散布ブーム)
4Cb 前側散布ブーム(サブ中央散布ブーム)
4Lb 前側散布ブーム(スライド左散布ブーム)
4Rb 前側散布ブーム(スライド右散布ブーム)
48 散布制御用コントローラ
61 前高電圧電導体
61 後高電圧電導体
61r 後高電圧電導体
61f 前高電圧電導体
61c 中間高電圧電導体
62 支持手段(ステー)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定間隔毎に噴霧ノズル(3,…)を備えている後側散布ブーム(4Ca,4La,4Ra)と前側散布ブーム(4Cb,4Lb,4Rb)を左右方向に沿わせて並列配設し、該後側散布ブーム(4Ca,4La,4Ra)の噴霧ノズル(3,…)の後方下方部位に後高電圧電導体(61r)を所定間隔空けて並列配設し、該前側散布ブーム(4Cb,4Lb,4Rb)の噴霧ノズル(3,…)の前方下方部位に前高電圧電導体(61f)を所定間隔空けて並列配設し、前記後側散布ブーム(4Ca,4La,4Ra)の噴霧ノズル(3,…)と前側散布ブーム(4Cb,4Lb,4Rb)の噴霧ノズル(3,…)との間に単一の中間高電圧電導体(61c)を並列配置し、これら前後中間高電圧電導体(61f,61r,61c)に高電圧を印加するように構成したことを特徴とする農用作業車の静電散布装置。
【請求項2】
前記後側散布ブーム(4Ca,4La,4Ra)の噴霧ノズル(3,…)と前側散布ブーム(4Cb,4Lb,4Rb)の噴霧ノズル(3,…)との中間に前記中間高電圧電導体(61c)を並列配置するにあたり、前記後側散布ブーム(4Ca,4La,4Ra)の噴霧ノズル(3,…)の後方下方部位に配設している前記後高電圧電導体(61r)と前記前側散布ブーム(4Cb,4Lb,4Rb)の噴霧ノズル(3,…)の前方下方部位に配設している前記前高電圧電導体(61f)との中間位置に前記中間高電圧電導体(61c)を並列配置したことを特徴とする請求項1に記載の農用作業車の静電散布装置。
【請求項3】
前記後側散布ブーム(4Ca,4La,4Ra)の噴霧ノズル(3,…)と前側散布ブーム(4Cb,4Lb,4Rb)の噴霧ノズル(3,…)との中間に前記中間高電圧電導体(61c)を並列配置するにあたり、前記後側散布ブーム(4Ca,4La,4Ra)の噴霧ノズル(3,…)と前記前側散布ブーム(4Cb,4Lb,4Rb)の噴霧ノズル(3,…)との中間位置に前記中間高電圧電導体(61c)を並列配置したことを特徴とする請求項1に記載の農用作業車の静電散布装置。
【請求項4】
車速センサの検出情報に基づき散布量制御をする散布制御用コントローラを設けたことを特徴とする請求項1から請求項3に記載の農用作業車の静電散布装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−115163(P2012−115163A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265320(P2010−265320)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】