説明

送液装置及び送液方法

【課題】所望のボイド率を有する処理液を供給する。
【解決手段】送液装置は、気体を含む液体が流れる第1流路3aと、その第1流路3aに連通し第1流路3aの開口面積より小さい開口面積を有する第2流路3bとを備え、第1流路3aを流れる液体の第1圧力をP1、その第1流速をV1、第2流路3bを流れる液体の第2圧力をP2、その第2流速をV2、液体の密度をρ、重力加速度をg、急縮損失係数をfsc、液体の流量をQ、第1流路3aの開口面積をS1、第2流路3bの開口面積をS2とすると、第1圧力P1と第2圧力P2との差圧、流量Q、第1流路3aの開口面積S1及び第2流路3bの開口面積S2は、P1−P2=((1+fsc)×V2/2g−V1/2g)×ρg及びQ=V1×S1=V2×S2の関係式を満足しており、第2流路3bを流れる液体のレイノルズ数は、第2流路3bに乱流が生じる値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、送液装置及び送液方法に関する。
【背景技術】
【0002】
送液装置は、例えばタンクや配管などを備えており、そのタンク内の液体を配管に流し、供給対象装置、例えば加工装置や基板処理装置などに供給する装置である。加工装置は、ダイシングブレードやドリルなどの加工具により金属材や基板などの被加工物を加工する装置であり、その加工具により加工される被加工物の加工箇所には、潤滑、冷却及び洗浄を目的として、液体に気体を混入させた処理液が切削液として供給される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、基板処理装置は、半導体装置や液晶表示装置などの製造工程において、半導体ウェーハやガラス基板などの基板表面に処理液を流し、その基板表面を処理する装置であり、この基板処理装置には、液体に気体を溶解させた処理液が供給される。このような基板処理装置としては、例えば、処理液により基板表面を洗浄する洗浄装置や処理液により基板表面からレジスト膜を除去するレジスト除去装置などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−331088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述のように、液体に単に気体を混入あるいは溶解させた処理液を、そのまま供給対象装置に供給しただけでは、処理液による処理性能は十分に上がらないため、例えば、加工装置においては、処理液による潤滑や洗浄が不十分であり、加工具の寿命や加工性能はあまり向上しない。また、基板処理装置においても、処理液による洗浄やレジスト除去などが不十分であり、製品品質はあまり向上しない。したがって、処理液による処理性能を十分に上げるため、所望のボイド率を有する処理液を供給することが望まれている。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、所望のボイド率を有する処理液を供給することができる送液装置及び送液方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る送液装置は、気体を含む液体が流れる第1流路と、第1流路に連通し、第1流路の開口面積より小さい開口面積を有する第2流路とを備え、第1流路を流れる液体の第1圧力をP1とし、第1流路を流れる液体の第1流速をV1とし、第2流路を流れる液体の第2圧力をP2とし、第2流路を流れる液体の第2流速をV2とし、液体の密度をρとし、重力加速度をgとし、急縮損失係数をfscとし、第1流路に流す液体の流量をQとし、第1流路の開口面積をS1とし、第2流路の開口面積をS2とすると、第1圧力P1と第2圧力P2との差圧、第1流路に流す液体の流量Q、第1流路の開口面積S1及び第2流路の開口面積S2は、
P1−P2=((1+fsc)×V2/2g−V1/2g)×ρg
Q=V1×S1=V2×S2
の関係式を満足しており、第2流路を流れる液体のレイノルズ数は、第2流路に乱流が生じる値である。
【0008】
本発明の実施形態に係る送液方法は、第1流路と、第1流路に連通し、第1流路の開口面積より小さい開口面積を有する第2流路とに、気体を含む液体を流して送液を行う送液方法であって、第1流路を流れる液体の第1圧力をP1とし、第1流路を流れる液体の第1流速をV1とし、第2流路を流れる液体の第2圧力をP2とし、第2流路を流れる液体の第2流速をV2とし、液体の密度をρとし、重力加速度をgとし、急縮損失係数をfscとし、第1流路に流す液体の流量をQとし、第1流路の開口面積をS1とし、第2流路の開口面積をS2とすると、第1圧力P1と第2圧力P2との差圧、第1流路に流す液体の流量Q、第1流路の開口面積S1及び第2流路の開口面積S2を、
P1−P2=((1+fsc)×V2/2g−V1/2g)×ρg
Q=V1×S1=V2×S2
の関係式を満足する値にし、第2流路を流れる液体のレイノルズ数を、第2流路に乱流が生じる値にする。
【0009】
本発明の実施形態に係る送液装置は、気体を含む液体が流れる並列な複数の第1流路と、複数の第1流路にそれぞれ連通し、第1流路の開口面積より小さい開口面積を有する複数の第2流路と、複数の第2流路に連通する第3流路と、複数の第1流路を個別に開閉する複数の開閉弁とを備える。
【0010】
本発明の実施形態に係る送液方法は、並列な複数の第1流路と、複数の第1流路にそれぞれ連通し、第1流路の開口面積より小さい開口面積を有する複数の第2流路と、複数の第2流路に連通する第3流路とに、気体を含む液体を流して送液を行う送液方法であって、第3流路から吐出される液体の所望の吐出流量に応じて、液体を流す第2流路の本数を変える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、所望のボイド率を有する処理液を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る送液装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示す送液装置が備えるオリフィス部材の概略構成を示す断面図である。
【図3】ベルヌーイの定理に基づくボイド率の算出を説明するための説明図である。
【図4】絶対圧力と溶解度との相関関係を示すグラフである。
【図5】差圧とボイド率との相関関係を示すグラフである。
【図6】液吐出流量と設計オリフィス径との相関関係を示すグラフである。
【図7】ボイド率と剛性との相関関係を示すグラフである。
【図8】レイノルズ数と抵抗係数との相関関係を示すグラフである。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る送液装置の概略構成を示す図である。
【図10】ポンプ設定圧力と微小気泡の濃度との相関関係を示すグラフである。
【図11】液体を流すオリフィス部材の個数(貫通孔の個数)と吐出流量との相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について図1ないし図8を参照して説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る送液装置1は、液体を貯留するタンク2と、そのタンク2内の液体を加工装置(図示せず)に送液するための配管3と、その配管3を流れる液体に気体を混合する気液混合器4と、その気液混合器4に気体を供給する気体供給部5と、送液用のポンプ6と、配管3の端部に位置するオリフィス部材7とを備えている。
【0015】
タンク2は液体を貯留する貯留部であり、配管3はタンク2と加工装置とを接続する流路である。この配管3の断面形状は円形状であるが、その形状は限定されるものではなく、例えば、矩形状であっても良い。配管3としては、例えば、パイプやチューブなどを用いることが可能である。
【0016】
気液混合器4は、配管3の途中に設けられており、その内部を通過する液体中に気体を混合する。この気液混合器4としては、例えば、T字管やアスピレータなどを用いることが可能であるが、液体中に気体を混合することが可能な構造であれば良く、その構造は特に限定されるものではない。
【0017】
気体供給部5は、気体(ガス)が流れる気体流路となる配管5aにより気液混合器4に接続されており、その気液混合器4に配管5aを介して気体を供給する。この気体供給部5は、開閉弁や圧力レギュレータなどを有しており、所定の圧力及び流量で気体を供給可能に形成されている。なお、圧力や流量は、所望量の気体が液体中に混合するようにあらかじめ設定されている。気体としては、例えば、空気、あるいは、窒素(N)などの不活性ガス、また、酸素(O)などの酸化性ガスなど、各種のガスを用いることが可能である。
【0018】
ポンプ6は、配管3の途中であって気液混合器4より下流側(液体の流れ方向の下流側)に設けられており、タンク2内の液体を配管3に流すための駆動源である。このポンプ6は、タンク2内の液体を配管3に流して自身の位置まで吸い上げ、吸い上げた液体を自身の位置から加圧して配管3の先端に向かって流す。したがって、配管3においてポンプ6より下流側は加圧ラインとなる。ポンプ6としては、例えば、エア駆動ポンプや電動ポンプなどを用いることが可能である。
【0019】
ここで、配管3においてポンプ6より下流側は加圧ラインとなるため、気液混合器4はポンプ6より上流側に設けられている。これは、加圧前の液体に対して気体を供給した方が、その気体が液体に混合、すなわち溶解しやすいためである。ただし、液体に対する気体溶解量が減少しても問題がない場合には、気液混合器4とポンプ6の順番を逆にしても良い。また、気体の溶解度は液体の温度変化に依存し、液体の温度上昇に伴って減少するものである。したがって、液体の温度を制御することによって気体の溶解度を所望の値に調整することも可能である。
【0020】
オリフィス部材7は、ポンプ6より下流側(液体の流れ方向の下流側)に位置付けられて配管3の途中、例えば、タンク2と反対側の端部に設けられている。このオリフィス部材7の設置箇所は、前述の端部に限られるものではなく、気体を含む液体(気液混合流体)が流れる流路に設けられれば良い。なお、前述のようにオリフィス部材7が配管3の端部に設けられている場合には、オリフィス部材7の開口から液体が吐出され、被加工物の加工箇所に供給される。
【0021】
このような構成の送液装置1において、ポンプ6が駆動されると、タンク2内の液体が配管3内を流れ、それに合わせて気体が気体供給部5から配管5aを介して気液混合器4に供給される。気液混合器4はその内部を通過する液体中に気体供給部5から供給された気体を混合する。その気体を含む液体は配管3内を流れ、ポンプ6を通過してオリフィス部材7に流入し、オリフィス部材7の開口から被加工物の加工箇所に向けて吐出される。吐出された液体は潤滑液として機能し、加工動作中の加工具と被加工物との間に入り込み、それらの摩擦抵抗を低減する。
【0022】
次に、前述のオリフィス部材7について詳しく説明する。
【0023】
図2に示すように、オリフィス部材7は、例えば一つの貫通孔7aを有している。この貫通孔7aの断面形状は円形状であるが、その形状は限定されるものではなく、例えば、矩形状であっても良い。このオリフィス部材7が配管3内に設けられている。これにより、配管3は、気体を含む液体が流れる第1流路3aと、その第1流路3aに連通する第2流路3bとを有することになる。この第2流路3bは、オリフィス部材7の貫通孔7aにより構成されており、第1流路3aの開口面積より小さい開口面積を有している。
【0024】
このオリフィス部材7は、気体を含む液体に対して減圧開放及び乱流発生を行うことで、その液体に圧縮性及び摩擦低減特性を与える(詳しくは、後述する)。オリフィス部材7の貫通孔7aの設計値は、ボイド率及びレイノルズ数を用いて決定される。ボイド率(気相体積率)は流体のある体積での気相の占める割合である。また、レイノルズ数は流体の流れの状態を示す無次元数であり、慣性力と粘性力との比で定義される。なお、所望のボイド率を有する流体は非ニュートン流体として挙動する。
【0025】
まず、ボイド率の算出について説明する。
【0026】
図3に示すように、第1流路3aの開口直径をD1とし、第2流路3bの開口直径をD2とすると、第1流路3aの開口面積S1及び第2流路3bの開口面積S2は、
S1=π(D1/2)=πD1/4
S2=π(D2/2)=πD2/4
となる。
【0027】
また、第1流路3aに流す液体の流量(単位時間あたり)をQとすると、第1流路3aを流れる液体の第1流速V1及び第2流路3bを流れる液体の第2流速V2は、
V1=Q/S1=4Q/(πD1
V2=Q/S2=4Q/(πD2
となる。
【0028】
次に、第1流路3aを流れる液体の第1圧力をP1とし、第2流路3bを流れる液体の第2圧力をP2とし、液体の密度をρとし、重力加速度をgとし、急縮損失係数をfscとしてベルヌーイの定理を用いると、
V1/2g+P1/ρg=(1+fsc)×V2/2g+P2/ρg
の関係式が求められる。
【0029】
ここで、V1/2gは第1流路3aの速度水頭であり、P1/ρgは第1流路3aの圧力水頭であり、V2/2gは第2流路3bの速度水頭であり、P2/ρgは第2流路3bの圧力水頭であり、fsc×V2/2gは第2流路3bの急縮損失水頭である。
【0030】
最後に、前述の関係式から第1圧力P1と第2圧力P2との差圧として、
P1−P2=((1+fsc)×V2/2g−V1/2g)×ρg
の関係式が求められる。
【0031】
次いで、この関係式及び図4に示す相関関係(絶対圧力と溶解度との関係)を用いてボイド率を算出する。図4では、気体が空気であり、液体が水である場合の相関関係が示されており、絶対圧力と溶解度とは単調増加の関係にあり、傾きは温度に応じて異なる。
【0032】
最初に、第2圧力P2を大気開放としてP2=0にすると、前述の関係式は、
P1=((1+fsc)×V2/2g−V1/2g)×ρg[N/m
となり、この式の圧力P1が、ポンプ6により発生させる必要加圧力(ゲージ圧力)となる。このP1を絶対圧力換算すると、前述の必要加圧力の絶対圧力pは、
p=0.0075×P1+735[mmHg]
となる。
【0033】
次に、図4に示すグラフから、絶対圧力と溶解度との関係を示す直線、例えば、温度が20℃である場合の直線を用い、ある絶対圧力値による加圧時の飽和気体量をq1とし、大気開放時、例えば、735mmHgの飽和気体量をq2とすると、それらの差である放出気体量qは、
q=q1−q2[cc/L]
となり、ボイド率αは、
α=q/1000=(q1−q2)/1000
となる。
【0034】
ここで、具体的に数値を代入すると前述の各式から、例えば、Q=2.2[L/min]=0.000037[m/s]、D1=10[mm]、D2=1.5[mm]である場合には、V1=0.47[m/s]、V2=20.75[m/s]、V1/2g=0.01[m]、V2/2g=21.97[m]となる。また、fsc=0.40とすると、fsc×V2/2g=8.80[m]、P1=301436[N/m]=3.07[kgf/cm]となり、その値からp=2996[mmHg]となる。なお、適宜、四捨五入を行う(これ以降も同様である)。
【0035】
次いで、図4に示すグラフ(温度が20℃である場合の直線)から、絶対圧力p=2996[mmHg]の場合には、q1=71.9[cc/L]となり、絶対圧力p=735[mmHg]の場合には、q2=17.6[cc/L]となり、それらからq=54.3[cc/L]となり、最後にα=0.054となる。このようにボイド率αは0.054と求められる。
【0036】
このボイド率の算出を用いて、ボイド率を所望のボイド率にするため、例えば、第2流路3bの開口直径D2の値を変化させ、オリフィス部材7の貫通孔7aの設計値を求める。実際には、所望のボイド率を設定し、逆算により第2流路3b(貫通孔7a)の開口直径D2の値を求める。このとき、開口直径D2以外の変数はあらかじめ所定値(例えば設計値など)に設定されており、変化しないものとする。
【0037】
一方、前述の逆算以外にも、図5及び図6に示すような相関関係を用いてオリフィス部材7の貫通孔7aの設計値(設計オリフィス径)を求めることが可能である。図5では、差圧とボイド率との相関理論値がグラフ化されており、図6では、液吐出流量と設計オリフィス径との相関理論値がグラフ化されている。
【0038】
ボイド率を5%強にしたい場合には、図5に示す相関関係からオリフィス部材7の貫通孔7aの前後の差圧(P1−P2)=0.3[MPa]が求められる。次に、図6に示す曲線から、差圧が0.3MPaの曲線が選択され、液吐出流量を2[L/min]にしたい場合には、設計オリフィス径(直径)は1.4mmとなる。なお、設計オリフィス径は、オリフィス部材7の貫通孔7a、すなわち第2流路3bの開口直径D2の値である。
【0039】
ここで、図7に示すように、ボイド率が0である場合には、液体の剛性は100であり、ボイド率が0.05である場合には、液体の剛性は20である。したがって、ボイド率を0から0.05に増加させることで、液体の剛性は100から20まで低下することになる。これにより、液体のボイド率を増加させることによって、液体に圧縮性を与えることができる。
【0040】
次に、レイノルズ数の算出について説明する。
【0041】
レイノルズ数Reは、
Re=UL/(μ/ρ)=UL/ν
で表される。ここで、Uは特性速度[m/s]で、Lは特性長さ[m]で、μは粘度又は粘性係数[Pa・s]で、ρは密度[kg/m]で、νは動粘度又は動粘性係数[m/s]である。
【0042】
オリフィス部材7では、前述の特性速度Uが第2流路3bの流速V2となり、特性長さLが貫通孔7a(第2流路3b)の開口直径D2となるため、
Re=(V2×D2)/ν
となる。
【0043】
なお、大気圧下での水(純水)の密度、粘性係数及び動粘性係数は温度に応じて変化する。例えば、温度が20℃である場合には、密度ρは0.9982×10[kg/m]で、粘性係数μは1.002×10−3[Pa・s]で、動粘性係数νは1.004×10−6[m/s]である。また、温度が25℃である場合には、密度ρは0.9970×10[kg/m]で、粘性係数μは0.890×10−3[Pa・s]で、動粘性係数νは0.893×10−6[m/s]である。
【0044】
前述のレイノルズ数Reが4000以上(Re=(V2×D2)/ν≧4000)となるように、オリフィス部材7の貫通孔7a、すなわち第2流路3bの流速V2及び第2流路3bの開口直径D2が求められる。これは、レイノルズ数Reが4000以上となると、層流が乱流に確実に遷移するためである。したがって、第2流路3bの流速V2及び第2流路3bの開口直径D2は、(V2×D2)/ν≧4000の関係式を満足することになる。
【0045】
図8に示すように、レイノルズ数Reが1000以上となると、抵抗係数(抗力係数)Cが1より小さく安定していることがわかる。その後、レイノルズ数Reが300000(3×10)付近で急激に減少するが、このときのレイノルズ数Reが遷移レイノルズ数(臨界レイノルズ数)である。この遷移レイノルズ数は、層流から乱流への遷移が生じるレイノルズ数であり、条件により変化する値であるが、レイノルズ数Reが4000以上であれば、その範囲に遷移レイノルズ数が含まれることになり、層流から乱流への遷移が確実に発生するということがいえる。なお、層流から乱流への遷移はある地点で急に生じるわけではなく、ある範囲で徐々に生じる。このときの領域は遷移領域と呼ばれる。
【0046】
したがって、レイノルズ数Reが4000以上である場合には、乱流が確実に発生しており、このとき、抵抗係数Cにおける粘性抵抗の占める割合は小さくなるため、液体の境界層の流速は速くなり、結果として、その液体の粘性抵抗(摩擦抵抗)は小さくなる。ここで、レイノルズ数Reは、Re=(物体の慣性抵抗)/(液体の粘性抵抗)として定義可能であり、レイノルズ数Reが大きくなると液体の粘性抵抗は小さくなることがわかる((液体の粘性抵抗)=(物体の慣性抵抗)/Re)。
【0047】
このようにレイノルズ数Reを4000以上にすることで、乱流を確実に発生させることが可能となり、この乱流の発生により、前述のように液体の粘性抵抗(摩擦抵抗)を小さくすることができ、さらに、液体中に気泡を発生させて細分化し、多量の気泡を生成することができる。その結果、タンク2内の液体に摩擦低減特性及び高い圧縮性を与えることができる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1圧力P1と第2圧力P2との差圧(P1−P2)、第1流路3aに液体の流量Q、第1流路3aの開口面積S1及び第2流路3bの開口面積S2は、
P1−P2=((1+fsc)×V2/2g−V1/2g)×ρg
Q=V1×S1=V2×S2
の関係式を満足しており、第2流路3bを流れる液体のレイノルズ数Reは、第2流路3bに乱流が生じる値になっている。
【0049】
このため、気体を含む液体がオリフィス部材7により減圧開放され、所望のボイド率を有する液体が生成される。この液体は圧縮性を有するため、その圧縮性を有する液体が被加工物の加工箇所に供給されると、その液体が加工具と被加工物との間のクッション体(緩衝体)として機能し、加工具の摩耗を抑えることが可能となる。これにより、加工具の寿命を延ばすことができる。また、オリフィス部材7の貫通孔7aである第2流路3bには、乱流が生じる。この乱流により、液体の粘性抵抗(摩擦抵抗)が低くなり、その液体は加工具と被加工物との狭い隙間にも入り込みやすくなる。これにより、加工具と被加工物との摩擦抵抗を確実に低減することが可能となるので、加工具と被加工物との良好な潤滑を可能にし、加工性能の向上及び加工具の高寿命化を実現することができる。特に、潤滑液として機能する液体の粘性抵抗が低下するため、加工具と被加工物との摩擦抵抗を確実に低減することができる。これは、潤滑液となる液体の摩擦抵抗が加工具と被加工物との摩擦抵抗となることから、液体の粘性抵抗の低下が加工具と被加工物との摩擦抵抗の低下につながるためである。
【0050】
また、レイノルズ数Reを4000以上とすることによって、オリフィス部材7の貫通孔7aである第2流路3bに乱流を確実に生成することが可能となる。このレイノルズ数が4000以上である場合の乱流により、液体の粘性抵抗を確実に低くすることができ、その結果、加工具と被加工物との良好な潤滑を可能にし、加工性能の向上及び加工具の高寿命化を確実に実現することができる。加えて、前述の乱流により液体中に気泡を発生させて細分化し、多量の気泡を生成することが可能となるため、液体中に所望量の気泡を発生させることができる。また、乱流による摩擦帯電により気泡がマイナスに帯電する。これにより、マイナス帯電の気泡はプラス帯電の有機物に付着し、その有機物を浮上により除去するので、ゴミ(例えば加工屑)などの異物の除去率が高くなり、洗浄力を向上させることができる。
【0051】
また、キャビテーション(空洞現象)が液体中に生じるようにレイノルズ数Reを決定することによって、キャビテーションにより多量の微小気泡(例えば、マイクロバブルやマイクロナノバブル、ナノバブルなど)を発生させること可能となり、さらに、その微小気泡を迅速に発生させることが可能となる。これにより、多量の微小気泡を含む液体を確実に被加工物の加工箇所に供給することができる。また、多量の微小気泡を有する液体が被加工物の加工箇所に供給されると、微小気泡は加工具や被加工物の表面を覆うように流れるため、潤滑液として機能する液体と加工具及び被加工物との摩擦抵抗が小さくなり、結果として、加工具と被加工物との摩擦抵抗を低減することができる。さらに、微小気泡の消滅時に発生する衝撃波(キャビテーション効果)により、加工具や被加工物に付着したゴミ(例えば加工屑)などの異物を除去することが可能になるので、洗浄力を向上させることができる。
【0052】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態について図9ないし図11を参照して説明する。
【0053】
本発明の第2の実施形態は基本的に第1の実施形態と同様である。第2の実施形態では、第1の実施形態との相違点について説明し、第1の実施形態で説明した部分と同一部分は同一符号で示し、その説明も省略する。
【0054】
図9に示すように、配管3はポンプ6の下流側で四本(この本数は例示であり、これに限るものではない)に枝分れして並列となり、その後、元の一本に戻る。並列部分の四本の配管には、それぞれ開閉弁8及びオリフィス部材7が設けられており、特に、開閉弁8はオリフィス部材7の上流側に位置付けられている。
【0055】
このような構成により、四本の第1流路3aが並列に存在し、それらの第1流路3aに個別に連通する四本の第2流路3b(オリフィス部材7の貫通孔7a:図2参照)が存在することになり、さらに、それらの第2流路3bに連通する一本の第3流路3cが存在することになる。
【0056】
開閉弁8は、対応する第1流路3aを開閉する動作を行う。この開閉弁8としては、例えば、電磁弁やエア駆動弁などを用いることが可能である。このような各開閉弁8を個別に制御するため、切替部9が設けられている。この切替部9は、第3流路3cから吐出される液体の所望の吐出流量に応じて各開閉弁8を動作させ、液体を流すオリフィス部材7の個数、すなわち、液体を流す第2流路3bの本数を切り替える。所望の吐出流量は切替部9に予め設定されており、その変更も可能である。
【0057】
なお、本実施形態では、切替部9により各開閉弁8を動作させて自動的に前述の切替を行っているが、これに限るものではなく、その切替部9を設けずに人が手動で各開閉弁8を動作させて前述の切替を行っても良い。この場合には、切替部9が不要となるため、装置構成の簡略化及びコスト削減を実現することができる。
【0058】
ここで、図10に示すように、ポンプ6の設定圧力(供給圧力)を変えることにより、生成される微小気泡の個数が変化することが分かる。すなわち、ポンプ6の設定圧力を調整し、第3流路3cから吐出される液体の吐出流量を可変させると、オリフィス部材7の貫通孔7a(第2流路3b)のコンダクタンス(流れやすさ)は一定であるため、貫通孔7aの前後の差圧が変わり、生成される微小気泡の濃度(単位体積当たりのバブル個数)が変わってしまう。
【0059】
なお、図10では、ポンプ6の設定圧力は、第1圧力P1と第2圧力P2との差圧をΔP(=P1−P2)とすると、そのΔPが0.2、0.3又は0.4(MPa)となるように設定され、それらの条件における微小気泡の個数(十万個/cc)が算出されて示されている。この個数の算出では、ヘンリーのガス溶解特性から、加圧して開放時に放出する気体を40μm粒径で個数換算している。
【0060】
図10に示すように、ポンプ6の設定圧力、すなわちΔPと微小気泡の個数は比例関係にあり、ΔPが増えると、それに応じて微小気泡の個数が増加し、一方、ΔPが減ると、それに応じて微小気泡の個数が減少することが分かる。このようなポンプ6の設定圧力の変更に起因する微小気泡の濃度変化を抑止するためには、前述のように第1流路3aを並列に設け、さらに、それらの第1流路3aに開閉弁8及びオリフィス部材7を設け、液体を流すオリフィス部材7の個数、すなわち、液体を流す第2流路3bの本数を切り替える。これにより、第3流路3cから吐出される液体の吐出流量を変えるためにポンプ6の設定圧力を変更する必要は無くなるので、生成される微小気泡の濃度を変えることなく、第3流路3cから吐出される液体の吐出流量を変化させることが可能となる。
【0061】
ここで、図11に示すように、液体を流すオリフィス部材7の個数(貫通孔7aの個数、すなわち第2流路3bの本数)を変えることにより、第3流路3cから吐出される液体の吐出流量が変化することが分かる。図11では、液体を流すオリフィス部材7の個数と第3流路3cから吐出される液体の吐出流量とは比例関係にあり、ΔPが0.2、0.3又は0.4(MPa)である場合の比例関係が示されている。どの比例関係でも、液体を流すオリフィス部材7の個数が増えると、それに応じて第3流路3cから吐出される液体の吐出流量も増加し、逆に、液体を流すオリフィス部材7の個数が減ると、それに応じて第3流路3cから吐出される液体の吐出流量は減少する。このようにポンプ6の設定圧力を一定とし、液体を流すオリフィス部材7の個数、すなわち、液体を流す第2流路3bの本数を切り替えて吐出流量を変化させることが可能である。
【0062】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、第3流路3cから吐出される液体の所望の吐出流量に応じて複数の開閉弁8を動作させ、液体を流す第2流路3bの本数を切り替えることによって、生成される微小気泡の濃度を変えることなく、第3流路3cから吐出される液体の吐出流量を変化させることができる。その結果、所望のボイド率を有する処理液を所望の吐出流量で供給することができる。また、切替部9を設けることによって各開閉弁8の切替が自動化されるため、操作性を向上させることができる。
【0063】
ここで、前述のように並列な第1流路3aの本数が四本である場合には、第3流路3cから吐出する液体の吐出流量の調整は四段階となる。このため、並列な第1流路3aの本数を増やし、その増加分の第1流路3aに開閉弁8及びオリフィス部材7を設けた場合には、調整の段階数が増加するので、液体の吐出流量をより細かく調整することができる。
【0064】
また、前述の実施形態では、複数の第2流路3bの各々の開口面積を同じにしているが、これに限るものではなく、複数の第2流路3bの各々の開口面積を異ならせても良い。この場合には、切替部9は、第3流路3cから吐出される液体の所望の吐出流量に応じて複数の開閉弁8を動作させ、複数の第2流路3bの中から液体を流す第2流路3bを選択する。これにより、液体を流す第2流路3bの本数に加え、液体を流す第2流路3bの開口面積も選択することが可能となるので、液体の吐出流量の微調整を行うことができる。なお、複数の第2流路3bの各々の開口面積が同じである場合には、どの第2流路3bを選択しても良く、所定の本数だけランダムにあるいは所定の条件で第2流路3bを選択することになる。
【0065】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1 送液装置
3a 第1流路
3b 第2流路
3c 第3流路
8 開閉弁
9 切替部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体を含む液体が流れる第1流路と、
前記第1流路に連通し、前記第1流路の開口面積より小さい開口面積を有する第2流路と、
を備え、
前記第1流路を流れる前記液体の第1圧力をP1とし、
前記第1流路を流れる前記液体の第1流速をV1とし、
前記第2流路を流れる前記液体の第2圧力をP2とし、
前記第2流路を流れる前記液体の第2流速をV2とし、
前記液体の密度をρとし、
重力加速度をgとし、
急縮損失係数をfscとし、
前記第1流路に流す前記液体の流量をQとし、
前記第1流路の開口面積をS1とし、
前記第2流路の開口面積をS2とすると、
前記第1圧力P1と前記第2圧力P2との差圧、前記第1流路に流す前記液体の流量Q、前記第1流路の開口面積S1及び前記第2流路の開口面積S2は、
P1−P2=((1+fsc)×V2/2g−V1/2g)×ρg
Q=V1×S1=V2×S2
の関係式を満足しており、
前記第2流路を流れる前記液体のレイノルズ数は、前記第2流路に乱流が生じる値であることを特徴とする送液装置。
【請求項2】
前記レイノルズ数が4000以上であることを特徴とする請求項1記載の送液装置。
【請求項3】
前記レイノルズ数はキャビテーションが発生するように決定されていることを特徴とする請求項1又は2記載の送液装置。
【請求項4】
第1流路と、前記第1流路に連通し、前記第1流路の開口面積より小さい開口面積を有する第2流路とに、気体を含む液体を流して送液を行う送液方法であって、
前記第1流路を流れる前記液体の第1圧力をP1とし、
前記第1流路を流れる前記液体の第1流速をV1とし、
前記第2流路を流れる前記液体の第2圧力をP2とし、
前記第2流路を流れる前記液体の第2流速をV2とし、
前記液体の密度をρとし、
重力加速度をgとし、
急縮損失係数をfscとし、
前記第1流路に流す前記液体の流量をQとし、
前記第1流路の開口面積をS1とし、
前記第2流路の開口面積をS2とすると、
前記第1圧力P1と前記第2圧力P2との差圧、前記第1流路に流す前記液体の流量Q、前記第1流路の開口面積S1及び前記第2流路の開口面積S2を、
P1−P2=((1+fsc)×V2/2g−V1/2g)×ρg
Q=V1×S1=V2×S2
の関係式を満足する値にし、
前記第2流路を流れる前記液体のレイノルズ数を、前記第2流路に乱流が生じる値にすることを特徴とする送液方法。
【請求項5】
前記レイノルズ数を4000以上とすることを特徴とする請求項4記載の送液方法。
【請求項6】
前記レイノルズ数をキャビテーションが発生するように決定することを特徴とする請求項4又は5記載の送液方法。
【請求項7】
気体を含む液体が流れる並列な複数の第1流路と、
前記複数の第1流路にそれぞれ連通し、前記第1流路の開口面積より小さい開口面積を有する複数の第2流路と、
前記複数の第2流路に連通する第3流路と、
前記複数の第1流路を個別に開閉する複数の開閉弁と、
を備えることを特徴とする送液装置。
【請求項8】
前記複数の第2流路の各々の開口面積は異なっていることを特徴とする請求項7記載の送液装置。
【請求項9】
前記第3流路から吐出される前記液体の所望の吐出流量に応じて前記複数の開閉弁を動作させ、前記液体を流す前記第2流路の本数を切り替える切替部を備えることを特徴とする請求項7又は8記載の送液装置。
【請求項10】
前記切替部は、前記第3流路から吐出される前記液体の所望の吐出流量に応じて前記複数の開閉弁を動作させ、前記複数の第2流路の中から前記液体を流す前記第2流路を選択することを特徴とする請求項9記載の送液装置。
【請求項11】
前記第1流路を流れる前記液体の第1圧力をP1とし、
前記第1流路を流れる前記液体の第1流速をV1とし、
前記第2流路を流れる前記液体の第2圧力をP2とし、
前記第2流路を流れる前記液体の第2流速をV2とし、
前記液体の密度をρとし、
重力加速度をgとし、
急縮損失係数をfscとし、
前記第1流路に流す前記液体の流量をQとし、
前記第1流路の開口面積をS1とし、
前記第2流路の開口面積をS2とすると、
前記第1圧力P1と前記第2圧力P2との差圧、前記第1流路に流す前記液体の流量Q、前記第1流路の開口面積S1及び前記第2流路の開口面積S2は、
P1−P2=((1+fsc)×V2/2g−V1/2g)×ρg
Q=V1×S1=V2×S2
の関係式を満足しており、
前記第2流路を流れる前記液体のレイノルズ数は、前記第2流路に乱流が生じる値であることを特徴とする請求項7ないし10のいずれか一に記載の送液装置。
【請求項12】
並列な複数の第1流路と、前記複数の第1流路にそれぞれ連通し、前記第1流路の開口面積より小さい開口面積を有する複数の第2流路と、前記複数の第2流路に連通する第3流路とに、気体を含む液体を流して送液を行う送液方法であって、
前記第3流路から吐出される前記液体の所望の吐出流量に応じて、前記液体を流す前記第2流路の本数を変えることを特徴とする送液方法。
【請求項13】
前記複数の第2流路の各々の開口面積は異なっており、
前記第3流路から吐出される前記液体の所望の吐出流量に応じて、前記複数の第2流路の中から前記液体を流す前記第2流路を選択することを特徴とする請求項12記載の送液方法。
【請求項14】
前記第1流路を流れる前記液体の第1圧力をP1とし、
前記第1流路を流れる前記液体の第1流速をV1とし、
前記第2流路を流れる前記液体の第2圧力をP2とし、
前記第2流路を流れる前記液体の第2流速をV2とし、
前記液体の密度をρとし、
重力加速度をgとし、
急縮損失係数をfscとし、
前記第1流路に流す前記液体の流量をQとし、
前記第1流路の開口面積をS1とし、
前記第2流路の開口面積をS2とすると、
前記第1圧力P1と前記第2圧力P2との差圧、前記第1流路に流す前記液体の流量Q、前記第1流路の開口面積S1及び前記第2流路の開口面積S2を、
P1−P2=((1+fsc)×V2/2g−V1/2g)×ρg
Q=V1×S1=V2×S2
の関係式を満足する値にし、
前記第2流路を流れる前記液体のレイノルズ数を、前記第2流路に乱流が生じる値にすることを特徴とする請求項12又は13記載の送液方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−10173(P2013−10173A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218521(P2011−218521)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002428)芝浦メカトロニクス株式会社 (907)
【Fターム(参考)】