説明

送風装置及び羽根車

【課題】風量特性を向上させ、かつ、騒音を低減することができる送風装置及びこれに搭載される羽根車を提供すること。
【解決手段】送風装置10は、ケーシング2と、このケーシング2内に配置された羽根車3と、羽根車3を回転駆動するモータ4とを備えている。各羽根5の上端部5aの内周側に傾斜部5bが設けられ、さらに、ボス部6に傾斜面6aが設けられている。これにより、従来のような乱流渦の発生を防止し、騒音を低減することができる。また、乱流渦が発生しないので、空気の流通抵抗が下がり、風量特性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に冷却用に用いられ、電子機器に搭載される送風装置及びこれに搭載される羽根車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来において、多翼送風機に搭載される羽根車は、一般的に、円板状の主板の外周縁に設けられた複数の翼を備えている(例えば、特許文献1参照。)。さらに、この特許文献1の羽根車の複数の翼は、主板側から側板側に延びるにしたがって、その翼弦長が階段状に小さくなる形状を有している。このような構成により、翼の回転方向の後方側に生じる気体流れの剥離に起因する騒音を低減することができる、といった効果ことがこの特許文献1では述べられている。
【特許文献1】特開2003−35294号公報(段落[0026]、[0037]、図5、図10、図11)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年では、電子機器に搭載されるIC(Integrated Circuit)、あるいは、プロジェクタに用いられる光源となるランプ等の発熱量は増加の一途をたどっている。このような発熱量の多大な部品を冷却するには、送風機の風量をさらに増加させる必要がある。また、風量が増加すると送風機の騒音も増加するため、この騒音を低減しなければならない。
【0004】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、風量特性を向上させ、かつ、騒音を低減することができる送風装置及びこれに搭載される羽根車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る送風装置は、気体の流入口を有するケーシングと、回転の軸方向で前記ケーシングの前記流入口から離れるにしたがって広がる傾斜面を有するボス部と、前記流入口側の端部と前記端部から前記回転の軸方向で前記回転の内周側へ向かって傾斜する傾斜部とをそれぞれ有し、前記ボス部の周囲に配置された複数の羽根と、前記ボス部及び前記各羽根を連結する連結部とを有する羽根車と、前記ボス部に接続され、前記羽根車を前記ケーシング内で回転させるモータとを具備する。
【0006】
本発明では、ボス部に傾斜面が設けられ、かつ、各羽根にそれぞれ傾斜部が設けられていることにより、流入口から吸入された気体が当該傾斜面及び傾斜部をスムーズに流れ、乱流渦の発生を抑制し、騒音を低減することができる。また、乱流渦の発生が抑制されることにより、風量特性が向上し、つまりケーシング内の気体の流通抵抗が下がり風量を増加させることができる。
【0007】
本発明において、前記傾斜部と前記軸方向との角度が、前記傾斜面と前記軸方向との角度の1/2以上であることが好ましい。
【0008】
本発明において、前記各羽根は、前記傾斜部の前記回転の径方向の長さの1/4以上が、前記流入口の開口縁から内周側に配置されるように設けられていることが好ましい。
【0009】
本発明において、前記連結部は、前記ボス部及び前記各羽根が前記軸方向の同じ位置で連結させる連結面を有し、前記軸方向における、前記各羽根の端部から前記傾斜面の前記流入口側の端部までの長さが、前記各羽根の端部から前記連結面までの長さの1/3以上1/2以下であることが好ましい。
【0010】
本発明に係る羽根車は、気体の流入口を有するケーシングを備えた送風装置に用いられる回転可能な羽根車であって、前記回転の軸方向で前記ケーシングの前記流入口から離れるにしたがって広がる傾斜面を有するボス部と、前記流入口側の端部と前記端部から前記回転の軸方向で前記回転の内周側へ向かって傾斜する傾斜部とをそれぞれ有し、前記ボス部の周囲に配置された複数の羽根と、前記ボス部及び前記各羽根を連結する連結部とを具備する。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、羽根車の周囲の気流の乱流渦の発生を抑制し、騒音を低減することができる。また、乱流渦の発生が抑制されることにより、風量特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施の形態に係る送風装置を示す平面図である。図2は、図1におけるA−A線断面図である。
【0014】
送風装置10は、ケーシング2と、このケーシング2内に配置された羽根車3と、羽根車3を回転駆動するモータ4とを備えている。ケーシング2には、空気を当該ケーシング2内に吸入する流入口2aがケーシング2の上壁2bに設けられている。また、ケーシング2には、羽根車3の回転の周方向の接線方向に沿うように形成された通風路2cを内部に有し、通風路2cの端部にはケーシング2内の空気が流出される流出口2dが設けられている。この流出口2dは、縦方向に開口され、つまりY−Z平面に沿って開口面を有する。この送風装置10は、いわゆる遠心型の多翼送風装置である。
【0015】
羽根車3は、モータ4の回転軸4aに接続されたボス部6と、このボス部6の周囲に環状に並んで配置された複数の羽根5と、ボス部6及び各羽根5を連結する連結板7とを有する。この羽根車3は、一体成型で製造されることが、製造コストや製造の容易さの観点から望ましい。しかし、必ずしも一体成型に限らず、ボス部6、羽根5及び連結板7が別々の部品であって、あるいは、羽根5のみがボス部6及び連結板7とは別体であって、組み立てにより羽根車3が作製されてもよい。
【0016】
羽根車3の材料としては、例えば樹脂が最も好ましいが、樹脂以外にも金属やセラミックスが考えられる。しかし、これらの材料に限られない。ケーシング2は、樹脂、金属、またはセラミックスでなるが、これらの材料に限られない。
【0017】
各羽根5は、連結板7の連結面7aからほぼ垂直に延びるように設けられている。図2中、連結面の位置は符号Bで示している。また、各羽根5は、ケーシング2の流入口2a側の端部5a(以下、「上端部」という。)から回転軸4a方向で内周側へ向かって傾斜する傾斜部5bを有する。図3は、各羽根5の一部、例えば3枚の羽根5の上端部5aの付近を拡大して示した斜視図である。
【0018】
なお、羽根5の形状は、図3に示すように、曲面部5cを有する形状であるが、曲面ではなく直線で折れ曲がるような形状であってもよい。また、各羽根5のすべての上端部5aを連結するようにリング状の連結部材が設けられる場合もある。
【0019】
図2に示すように、ボス部6は、ケーシング2の流入口2aから離れるにしたがって広がる傾斜面6aを有する。すなわち、ボス部6は、円錐形状の一部の形状を有している。傾斜面6aの上部は、連結面7aに対してほぼ垂直な側面6bを有する円筒形状に構成される。しかし、この円筒部は必ずしもなくてもよく、ボス部6の最上部から傾斜面6aが設けられていてもよい。また、ボス部6は、連結面7aにおいて、回転軸4a方向で各羽根5との連結位置Bと同じ高さ位置Bで連結されている。
【0020】
以上のように構成された送風装置10の動作を説明する。モータ4が羽根車3を回転駆動することにより、ケーシング2内外で圧力差が発生し、ケーシング2の外部の空気が流入口2aを介してケーシング2内に流入する。ケーシング2内に流入した空気は、ボス部6と各羽根5との間の空間である空気の吸い込み領域C(破線で示す。)内に空気が吸い込まれ、吸い込まれた空気は、各羽根5の側面5dに沿って外周側へ流れる。外周側へ流れた空気は、ケーシング2の内周面2eに沿って回転周方向に流れ、通風路2cを通り、流出口2dを介してケーシング2の外部へ流出する。
【0021】
ボス部6が傾斜面6aを有することにより、吸い込み領域C内に吸い込まれた空気は、各羽根5に向かって、つまり外周側へスムーズに流れるので、騒音を抑制することができる。また、各羽根5は傾斜部5bを有するので、羽根車3が回転するときに、当該各羽根5の上端部5aの周囲で乱流渦の発生を防止することができ、騒音が低減される。
【0022】
図4は、従来の一般的な送風装置を示す断面図である。従来の送風装置100では、羽根車103のボス部106の側面106aが連結板107から垂直に延びるように設けられ、また、各羽根105には、図2に示すような傾斜部は設けられていない。このような送風装置100では、羽根車103が回転すると、各羽根105の上端105a付近に乱流渦が発生し、これが騒音の原因の1つとなる。また、このような従来の送風装置100では、空気の吸い込み領域Dの下部の領域においても乱流渦が発生し、騒音の原因となる。各羽根105の上端105a付近に乱流渦が発生する原因としては、流入口102aからに流入する空気が、羽根105の上端105aの内周側にぶつかるからであると考えられる。また、このような2つの乱流渦によって、空気の流通抵抗が増加し、風量が抑制されてしまう。
【0023】
これに対し、上記本実施の形態に係る送風装置10では、各羽根5の上端部5aの内周側に傾斜部5bが設けられ、さらに、ボス部6に傾斜面6aが設けられているので、従来のような乱流渦の発生を防止し、騒音を低減することができる。また、乱流渦が発生しないので、空気の流通抵抗が下がり、風量を増加させることができる。つまり、風量特性を向上させることができる。
【0024】
また、本実施の形態では、羽根車3が一体成型で作製される場合、容易に金型で作製することができ、安価な送風装置10を提供することが可能となる。
【0025】
以下、上記傾斜部5b及び傾斜面6aの長さ等の関係についての具体的な例について説明する。
【0026】
図5を参照して、各羽根5の傾斜部5bの傾斜方向と回転軸4a方向との角度をa、ボス部6の円筒部の側面6bと、傾斜面6aとの角度をbとする。この場合、a/b≧1/2、つまり、aは、bの1/2以上であることが好ましい。
【0027】
あるいは、図6を参照して、傾斜部5bの回転径方向の長さをc、流入口2aの開口縁2fから径方向に突出する部分の径方向の長さをdとすると、d/c≧1/4であることが好ましい。すなわち、各羽根5は、傾斜部5bの径方向の長さcの1/4以上が、流入口2aの開口縁2fから回転内周側に配置されるように設けられることが好ましい。
【0028】
あるいは、図7を参照して、回転軸4a方向における、各羽根5の上端部5aから、ボス部6の傾斜面6aの流入口2a側端部までの長さをe、各羽根5の上端部5aから連結面7aまでの長さをfとすると、e/f≧1/3〜1/2であることが好ましい。つまり、eは、1/3以上1/2以下であることが好ましい。
【0029】
図8は、風量と騒音との関係(騒音特性)をシミュレーションしたグラフであり、図4に示した従来例と、図1及び図2等に示した本実施の形態に係る送風装置10とを比較した例を示す。このグラフから分かるように、例えば、一般的に使用される風量領域である160(L/min)において、従来の送風装置100から発生する騒音は、33.3(dBA)(「A」はA特性補正のもの)であったのに対し、本実施の形態に係る送風装置10は、30.4(dBA)と、約3(dBA)の騒音の低減が見られた。
【0030】
図9は、角度aと風量(L/min)との関係を示すシミュレーションによるグラフである。図10は、角度bと風量(m3/min)との関係を示すシミュレーションによるグラフである。図9及び図10から、a/bの値が大きいほど風量が大きくなることが分かる。図11は、ボス部6の径と風量(L/min)との関係を示すシミュレーションによるグラフである。この結果より、ボス部6の径が大きいほど風量が大きくなることが分かる。
【0031】
図12は、図4に示した従来例に係る送風装置、各羽根5に傾斜部5bが形成されており、かつ、ボス部6には傾斜面6aは形成されてない、つまり垂直な側面を有するボス部を備える送風装置、及び、図2に示す本実施の形態に係る送風装置10の各騒音を示すグラフである。本実施の形態に係る送風装置10による騒音が最も小さいことがわかる。
【0032】
本発明は以上説明した実施の形態には限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0033】
上記送風装置10として、空気を送風する装置を例に挙げたが、空気以外の、窒素、ヘリウム、アルゴン等、その他の気体を送風する送風装置としても本発明は適用可能である。
【0034】
各羽根5の傾斜部5bやボス部6の傾斜面6aは、図2で見て直線状に形成されたが、曲線状に形成されてもよい。
【0035】
上記の送風装置10は、例えば、様々な電子機器に搭載することが可能である。例えば、電子機器として、ディスプレイ装置、プロジェクタ、あるいはコンピュータ等がある。ディスプレイ装置としては、液晶、プラズマ、EL(Electro-Luminescence)(有機または無機のどちらでもよい。)を利用した装置がある。液晶の場合、特にバックライト等の発熱体に送風装置10により送風して冷却することができる。プロジェクタの場合、光源となるランプ等の発熱体に送風装置10により送風して冷却することができる。プロジェクタには、リアプロジェクションディスプレイの概念も含まれる。発熱体として、上記したものに限られず、IC等の回路素子や、回路パネル基板であってもよく、発熱するものなら何でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施の形態に係る送風装置を示す平面図である。
【図2】図1におけるA−A線断面図である。
【図3】各羽根の一部の上端部付近を拡大して示した斜視図である。
【図4】従来の一般的な送風装置を示す断面図である。
【図5】傾斜部及び傾斜面の長さ等の関係についての具体的な例を説明するための図である。
【図6】同じく、傾斜部及び傾斜面の長さ等の関係についての具体的な例を説明するための図である。
【図7】同じく、傾斜部及び傾斜面の長さ等の関係についての具体的な例を説明するための図である。
【図8】風量と騒音との関係(騒音特性)をシミュレーションしたグラフである。
【図9】羽根の傾斜部の角度と風量との関係を示すシミュレーションによるグラフである。
【図10】ボス部の傾斜面の角度と風量との関係を示すシミュレーションによるグラフである。
【図11】ボス部の径と風量との関係を示すシミュレーションによるグラフである。
【図12】図4に示した従来例に係る送風装置、各羽根に傾斜部が形成されており、かつ、ボス部には傾斜面は形成されてない送風装置、及び、図2に示す本実施の形態に係る送風装置の各騒音を示すグラフである。
【符号の説明】
【0037】
2…ケーシング
2a…流入口
2c…通風路
2d…流出口
2e…内周面
2f…開口縁
3…羽根車
4…モータ
4a…回転軸
5…羽根
5a…端部
5b…傾斜部
6…ボス部
6a…傾斜面
7…連結板(連結部)
7a…連結面
10…送風装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体の流入口を有するケーシングと、
回転の軸方向で前記ケーシングの前記流入口から離れるにしたがって広がる傾斜面を有するボス部と、前記流入口側の端部と前記端部から前記回転の軸方向で前記回転の内周側へ向かって傾斜する傾斜部とをそれぞれ有し、前記ボス部の周囲に配置された複数の羽根と、前記ボス部及び前記各羽根を連結する連結部とを有する羽根車と、
前記ボス部に接続され、前記羽根車を前記ケーシング内で回転させるモータと
を具備することを特徴とする送風装置。
【請求項2】
請求項1に記載の送風装置であって、
前記傾斜部と前記軸方向との角度が、前記傾斜面と前記軸方向との角度の1/2以上であることを特徴とする送風装置。
【請求項3】
請求項1に記載の送風装置であって、
前記各羽根は、
前記傾斜部の前記回転の径方向の長さの1/4以上が、前記流入口の開口縁から内周側に配置されるように設けられていることを特徴とする送風装置。
【請求項4】
請求項1に記載の送風装置であって、
前記連結部は、前記ボス部及び前記各羽根が前記軸方向の同じ位置で連結させる連結面を有し、
前記軸方向における、前記各羽根の端部から前記傾斜面の前記流入口側の端部までの長さが、前記各羽根の端部から前記連結面までの長さの1/3以上1/2以下であることを特徴とする送風装置。
【請求項5】
気体の流入口を有するケーシングを備えた送風装置に用いられる回転可能な羽根車であって、
前記回転の軸方向で前記ケーシングの前記流入口から離れるにしたがって広がる傾斜面を有するボス部と、
前記流入口側の端部と前記端部から前記回転の軸方向で前記回転の内周側へ向かって傾斜する傾斜部とをそれぞれ有し、前記ボス部の周囲に配置された複数の羽根と、
前記ボス部及び前記各羽根を連結する連結部と
を具備することを特徴とする羽根車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−303340(P2007−303340A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−131591(P2006−131591)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】