説明

透明導電性酸化スズ粉末及びその製造方法並びにそれを用いた膜組成物

【課題】アンチモン等の有害成分を含有せずに、アンチモン含有酸化スズ導電性粉末よりも優れた導電性を有する透明導電性酸化スズ粉末を安価で提供することを課題とする。
【解決手段】本発明のリン含有酸素欠陥型透明導電性酸化スズ粉末は、リンを酸化スズに対し0.1〜5重量%添加して水酸化スズを生成させ、該生成物に水溶性高分子を吸着させた後、特定の不活性ガスの流入法により雰囲気の制御をしながら400〜800℃で焼成処理することにより製造され、酸化スズに対し、リンを0.1〜5重量%含有し、比表面積が30〜90m/g、体積抵抗が0.5〜10Ω・cmであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチモン等の有害成分を含まずに高い安全性と導電性を有した透明性酸化スズ粉末及びその製造方法と、該酸化スズ粉末を配合した分散液及び膜組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性を有する酸化スズ粉末は、プリンター、複写機関連の帯電ローラー、感光ドラム、トナー、キャリア、静電ブラシ等に使用される荷電制御材、埃付着防止のディスプレイ用フィルター、電磁波遮蔽膜、近赤外反射膜、色素増感太陽電池、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどの内部電極や透明導電膜等に広く利用されている。
【0003】
従来の導電性酸化スズ粉末の市場では、導電性に優れているアンチモンを含有したアンチモンドープ酸化スズ(ATO)が使用されてきたが、欧州においてアンチモンの毒性が問題視されるようになり、アンチモンの代わりにニオブをドープした酸化スズ(NbTO)やフッ素をドープした酸化スズ(FTO)などが開発されてきた。また、酸化スズ以外の導電性金属酸化物粉末としては、スズドープ酸化インジウム(ITO)、酸化亜鉛系のアルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)等も開発されている。しかし、ITOは主原料となるインジウムの異常な価格の高騰や原料の枯渇が懸念されること、NbTO、FTO、AZO等は導電性が十分でなく用途が制限される等の問題点があり、安価で優れた導電性を有し、無害であり環境に対する負荷の少ない導電性材料が求められている。そこで本発明者らはアンチモンを含まずに高い導電性を有する安全性の高い酸化スズ粉末を得るという観点でリン含有酸化スズ(PTO)に着目した。
【0004】
従来のPTO導電性粉末には、(1)ATOに比べて、粉体の体積抵抗が大きく、透明樹脂膜に配合したときに、透明性及び表面抵抗が劣る;(2)粉体の保管期間が長くなると、酸化により粉体の体積抵抗が上昇する;(3)リンの触媒活性により、透明導電膜を劣化させる;等の問題点があった。これらを解決するため、リンを酸化スズ表面に吸着させて粒成長を抑え、窒素雰囲気下で焼成することにより体積抵抗を小さくする方法(特許文献1)、酸化スズ粒子表面に有機物化合物を被覆して導電性の経時安定性を改良する方法(特許文献2)、PTO粉末にアクリル酸エステルを表面処理してリンの触媒作用を抑制し塗膜やフィルムのリンによる劣化を抑制する方法(特許文献3)等が検討されてきた。しかしながら、これらの方法で得られたPTO導電性粉末は、体積抵抗がATOに比べて同等かあるいは劣っており、透明樹脂膜に配合したときに、優れた透明性及び良好な表面抵抗を有するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−172916号公報
【特許文献2】特開2006−202704号公報
【特許文献3】特開2009−018979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在でも多く使用されているATOは体積抵抗が小さいものの、アンチモンが有毒成分であるため、安全・環境の視点から使用用途が制限されるようになり、アンチモンフリーの導電性粉末が求められている。本発明は、アンチモン等の有害成分を含有せずに優れた導電性を有し、アンチモン含有酸化スズ導電性粉末よりも体積抵抗が優れる酸化スズ導電性粉末を安価で提供し、当該導電粉末の配合により優れた透明性及び良好な表面抵抗を有する透明導電膜を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、PTOについて検討した結果、リンを含んだ水酸化スズを生成させ、該生成物に水溶性高分子を吸着させた後、特定の雰囲気制御をしながら焼成処理することにより、比表面積が30〜90m/g、体積抵抗が0.5〜10Ω・cmとなる導電性酸化スズ粉が得られることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0008】
酸化スズに導電性を発現させるメカニズムとしては、酸化スズ粒子へドーパントを添加することにより酸化スズ粒子SnO(2−x)中に酸素欠陥が生成しこの酸素欠陥を通って伝送電子が移動するために導電性が得られることが知られている。その導電性の度合いは酸化スズ粒子へのドーパントの種類及び添加量の効果と酸化スズ粒子SnO(2−x)中での酸素欠陥量により決定される。ATOの場合は、アンチモンのドーパント効果が高いため、大気中の焼成処理でも導電性が発現する。これに対し、リンは、アンチモン元素に比べてドーパント効果が弱く、酸化スズ内部に侵入するよりも、粒界や粒子の表面近傍に止まり、粒成長した酸化スズの表面層で酸素欠陥を生成させていると考えられ、PTOの場合、酸素分圧が低くなる900℃以上の高温で焼成しないと良好な導電性が発現しない。しかしながら、高温での焼成は、酸化スズの粒成長を促進し、粒子による光の反射率が高くなり、透明導電膜用途にとっては不利となる。したがって、透明性を重視し、酸化スズの粒成長を抑えながら焼成する場合には、不活性ガス中で焼成して酸素欠陥を発生させる必要がある。しかしながら、従来不活性ガスの具体的な雰囲気制御の方法等については詳しい検討がなされていなかった。
【0009】
本発明者らは、この焼成処理において、不活性ガスの他に有機物が酸化スズの近傍に存在すると、該有機物の酸化に酸素が消費されるため、酸化スズの酸素欠陥の発生に寄与すると考えられる現象を見いだした。すなわち、還元促進剤となる水溶性高分子を吸着させた後、酸素欠陥を発生させるために不活性ガス中で焼成する工程において、不活性ガスの流量を小さくした状態で雰囲気制御を行うことにより目的とする導電粉が得られることが判ったものである。具体的には、加水分解反応にて得られるリンを含む水酸化スズを洗浄する際、水溶性高分子を吸着させ、ろ過、乾燥した後、焼成処理工程において、昇温前に不活性ガスで雰囲気を置換した後、目的温度までの昇温及び目的温度で保持する間は不活性ガスを流入させず、冷却時に不活性ガスを流す方法である。焼成処理時に不活性ガスを流入させないことにより、添加した有機物から生成した導電性の発現に寄与する還元性ガスの効率を高めた。これらの焼成処理方法を適用することにより、比表面積が30〜90m/g、体積抵抗が0.5〜10Ω・cmとなるリン含有酸素欠陥型導電性酸化スズ粉末が得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は毒性上の問題のあるアンチモンを使用することなく種々の分野に利用できる導電性に優れた透明性の高い導電性粉末を、比較的容易に製造するものであり、工業的に高い利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のリン含有酸素欠陥型導電性酸化スズ粉末について詳しく説明する。
(製造方法)
本発明にかかる導電性粉末は、酸化スズに対しリンを0.1〜5重量%添加した水酸化スズを生成させ、該生成物に水溶性高分子を吸着させながら洗浄し、雰囲気制御しながら焼成処理することにより製造することができる。焼成処理は、典型的には、不活性ガスによる雰囲気空気の置換、焼成温度までの昇温、焼成温度における焼成、焼成温度から室温への冷却の各工程からなる。該焼成処理の際、昇温前の雰囲気空気の置換工程及び焼成後の冷却工程において不活性ガスを流すが、酸素欠陥を発生させる昇温工程及び焼成工程では不活性ガスの流入を停止することにより、雰囲気制御を行う。400〜800℃の焼成温度で焼成することにより、比表面積が30〜90m/g、体積抵抗が0.5〜10Ω・cmであることを特徴とするリン含有酸素欠陥型導電性酸化スズ粉末が得られる。
(加水分解反応)
リン含有水酸化スズは、公知の加水分解法で得られ、スズ塩あるいはスズ酸塩の溶液にリン化合物を溶解し、アルカリもしくは酸を同時添加することにより得られる。このとき、反応温度は50〜90℃、pHは2〜9の範囲で反応させることが好ましい。
【0012】
スズ塩としては、例えば、塩化スズ、硫酸スズ、硝酸スズ等を使用することができる。また、スズ酸塩としては、例えば、スズ酸ナトリウム、スズ酸カリウム等を使用することができる。
【0013】
アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、アンモニア水、アンモニアガス等、酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸等を使用することができる。
【0014】
リン化合物としては、例えば、三塩化リン、五塩化リンなどのハロゲン化物、オルトリン酸、リン酸水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素アンモニウム、亜リン酸、亜リン酸二水素ナトリウム、亜リン酸三ナトリウム、ピロリン酸、ヘキサメタリン酸、トリリン酸、ポリリン酸などのリン酸若しくはそれらの塩を用いることができる。
【0015】
リンの添加は、あらかじめ、スズ塩あるいはスズ酸塩の溶液に溶解しておき、スズの加水分解反応中にリンの生成物を形成する方法が好ましい。水酸化スズを生成した後に、リン化合物を添加する方法では、焼成処理工程において粒成長が進行し易く、透明性が低下し易い。
【0016】
リン化合物の添加量はSnOに対して、Pとして0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜4重量%である。リン添加量が、0.1重量%より少ないとリンの焼結防止効果が小さくなり、焼成工程での粒成長により透明性が悪くなる、5重量%を越えると粒界あるいは粒子表面に厚いP層が形成され、酸素の揮発が押さえられるため、酸素欠陥量が少なくなる。
(第三元素の添加)
加水分解反応物中にリン以外の第三元素を添加することにより導電粉粒子を微細化し、粒度分布が良好な粒子を得ることができる。第三元素の化合物は、加水分解反応時に、スズ溶液あるいはアルカリもしくは酸に溶解させると良い。第三元素としてはケイ素、ジルコニウム、及びチタニウムのうちの一種又は二種以上を添加することができる。これらの元素の中でもケイ素を用いるのがより好ましい。ケイ素の添加量はSnOに対して、Siとして0.5〜10重量%、好ましくは1.0〜3重量%である。ケイ素の添加量が0.5重量%より少ないと粒子成長の抑制効果が小さくなり十分に微細な導電粉が得られず、5重量%より多いと粒界あるいは粒子表面に厚いSiO層が形成されるため十分な導電性が得られなくなる。
(水溶性高分子化合物の添加)
本発明の導電性粉末の製造方法には、加水分解反応で得られたリン含有水酸化スズの洗浄工程が含まれる。洗浄は、処理懸濁液を純水で希釈し水溶性高分子化合物を添加して凝集させた後、デカンテーションして洗浄を行うことにより、懸濁液中の電解質濃度を低下させると共に水溶性高分子化合物を水酸化スズの凝集体上に吸着させる方法が好ましい。当該洗浄物をろ過、乾燥した後、次の焼成工程において、吸着した高分子化合物が分解して生成する還元性のガスによって、リン含有酸化スズ粒子SnO(2−x)中に最適量の酸素欠陥が生成され、良好な導電性を発現させることができる。このような水溶性高分子化合物は、従来公知の方法で製造することができ、また市場から入手することもできる。
【0017】
水溶性高分子化合物としては、カチオン化水溶性高分子、及びアニオン化水溶性高分子が挙げられる。
カチオン化水溶性高分子の例として、カチオン化デンプンとしては、ハイモ(株)のハイマックスNC−10、PC−6500;カチオン化グアガムでは三晶(株)のメイプロボンド9806;カチオン化アクリルアミドとしては、荒川化学工業(株)のポリマロン351、360、ポリストロン311、619、アラフィックス251;カチオン化ポリアクリル酸エステルとしては、ハイモ(株)のハイモロックMP−184、MP−284、MP−384、MP−484、MP−584、MP−684、MP−784、MP−984、MP−173H、MP−373H、MP−373L、MP−473H、MP−405、MP−180、MP−380、MP−558、MS−882、MS−884、MX−0120、MX−0210、MX−8170、MX−8130、MX−6170、MX−6144、MX−4173、MX−2100、MX−4054、MX−3310、MX−2050、E−305、E−315、E−195、E−395、E−775、E−755、E−555、E−950、E−513、E−515、E−510;カチオン化ビニルホルムアミドとしては、ハイモ(株)のハイモロックZP−700;カチオン化ポリアクリルアミドとしてはハイモ(株)のハイモNeo−600;カチオン化ポリアミンとしてはハイモ(株)のハイモロックQ−101、Q−311、Q−501(以上商品名)などが挙げられる。
【0018】
アニオン化水溶性高分子の例として、アニオン化ポリアクリルアミドとしては、ハイモ(株)のハイモロックSS−200H、SS−200、SS−300、SS−500、SS−100、SS−120、SS−130、SS−140、AP−105、AP−107、AP−115、AP−120、V−330、V−320、V−310、OK−107、OK−307、OK−507、L−113、Neo−200;アニオン化ポリアクリル酸ソーダとしては、ハイモ(株)のハイモロックSS−190(以上商品名)などが挙げられる。
【0019】
また、これらの高分子化合物は、洗浄時に添加する代わりに、焼成工程の直前、途中或いは、直後に添加しても良く。たとえばポリビニルアルコール等を使用することもできる。ポリビニルアルコールは従来公知の方法で製造することができ、また市場から入手することもできる。ポリビニルアルコールの例としては、信越化学工業(株)のポバールC−05GP、C−10GP、C−25GP、PA−10GP、PA−15GP;(株)クラレのPVA−217、PVA−224(以上商品名)などが挙げられる。
【0020】
これらの高分子化合物の添加量は、スズの加水分解反応生成物に対してカーボン量換算で0.02〜0.5重量%が好ましく、0.02重量%より低い場合には、還元効果が小さく、導電性の向上がみられず、0.5重量%より高い場合には最適量の酸素欠陥量が得られないために導電性が低下する。
(焼成処理)
焼成処理は、前述のとおり、典型的には、不活性ガスによる雰囲気空気の置換、焼成温度までの昇温、焼成温度における焼成、焼成温度から室温への冷却の各工程からなる。焼成は、非酸化性雰囲気において行う必要がある。
【0021】
したがって、焼成処理の際は、まず、不活性ガスを昇温前に十分に吹き込んで雰囲気中の空気を不活性ガスに置換する。次に、昇温及び焼成時は不活性ガスの吹き込みを止め、添加した有機物から生成する導電性の発現に寄与する還元性ガスを逃がさないようにして還元性ガスの滞留時間を長くする方法で焼成を行う。焼成工程が終了し、冷却工程を行う時は再び不活性ガスを流して空気の侵入を防止する。以上の方法により不活性ガスの量を制御することで、リン含有酸化スズ粒子SnO(2−x)中の酸素欠陥を最適量とすることができ、良好な導電性が得られるものと推定する。
【0022】
焼成する際の温度は500〜700℃が好ましく、500℃より低い場合には導電性の向上がみられず、700℃より高い場合には焼結や粒成長が起こり、透明性が低下する恐れがある。
【0023】
非酸化性雰囲気とするためには、不活性ガスが使用できる。不活性ガスとしては例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン、炭酸ガス等を使用することができる。窒素ガスなどの不活性ガス量を調整して雰囲気を制御して焼成処理を行うことにより、導電性が安定した酸化スズ粒子が得られる。
(有機物表面処理)
本発明のリン含有酸素欠陥型導電性酸化スズ粉末を樹脂中に分散させる場合、樹脂への分散を良くするために導電粉の表面に有機物による処理を行うことが好ましい。また、表面に有機物処理をすることにより、体積抵抗を劣化させる要因である空気中の酸素が遮断されるので、体積抵抗の経時安定化にも寄与する。有機物表面処理法としては、公知の方法が適用でき、例えば、酸化スズ粉末にカップリング剤、多価アルコール等の有機化合物を被覆処理することができる。表面処理に用いるカップリング剤の種類は、導電粉末の使用目的に応じて適宜選択することが出来るが、シラン系、チタネート系、ジルコネート系、アルミネート系及びジルコアルミネート系からなる群から選択された一種以上を使用することが出来る。カップリング剤の添加量は、好ましくは0.05〜10重量%、さらに好ましくは0.1〜8重量%である。添加量が0.05重量%より少なすぎると経時安定性及び分散性を改善する効果が得られず、10重量%より多すぎると逆にカップリング剤処理層が絶縁層となって導電性能の低下を引き起こし、更にコストの上昇にもつながる。また、表面処理に用いる多価アルコールもカップリング剤と同様に適宜選択することが出来るが、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、マンニトール及びソルビトールから選択された一種以上を選択することが出来る。多価アルコールの添加量は、好ましくは0.05〜20重量%、さらに好ましくは0.1〜15重量%であり、当該範囲を外れるとカップリング剤と同様の理由で好ましくない。
【0024】
有機物による表面処理方法としては、公知の方法が適用できるが、例えばヘンシェルミキサー等の高速撹拌混合機中で乾式処理を行う方法、あるいは当該酸化スズ粉末を有機溶媒や水に分散させて懸濁液とし、その溶液中に有機物を添加して処理を行う方法等がある。有機物を表面に均一に処理する場合には後者の溶液中での処理が適しているが、有機溶媒系の場合には蒸留操作、粉砕等、水系の場合には固液分離、乾燥及び粉砕等の工程が必要となり、製造の容易さ、コストの点ではヘンシェルミキサー等の高速撹拌混合機を用いた方法が好ましい。
(無機物表面処理)
分散性を向上させる目的で本発明のリン含有酸素欠陥型導電性酸化スズ粉末表面に無機物による処理を行っても良い。粒子表面を被覆する無機物としてはアルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、チタニウム及びリン等のうちの一種又は二種以上が挙げられる。無機物の添加量は、0.05〜2重量%が好ましく、2重量%より多いと導電性能の低下を引き起こす。
(膜組成物)
本発明のリン含有酸素欠陥型導電性酸化スズ粉末は、塗料、インク、エマルジョン、繊維に配合することにより、導電性塗料、導電性インク、導電性エマルジョン、導電性繊維を製造することができる。また、サンドグラインダー等を用いて導電性酸化スズ粉末を含有した樹脂塗料を作製し、導電性あるいは制電性を付与したい基材上に塗布し、塗膜として使用することが出来る。塗膜成分としては、熱硬化性樹脂や紫外線硬化樹脂が好ましい。配合する導電性酸化スズの濃度は、その目的とする導電性能に応じて適宜調整する必要があるが、好ましい濃度範囲は塗膜成分に対して20〜80重量%、より好ましい濃度範囲は30〜75重量%である。配合する導電性酸化スズ粉末の量が少なすぎると所望する表面抵抗が得られず、多すぎると塗膜の強度が低下し、更にコストの上昇につながるために好ましくない。
【0025】
本発明のリン含有酸素欠陥型導電性酸化スズ粉末は、塗膜成分に対する含有量50〜80重量%および膜厚2μmの透明薄膜において、該薄膜の可視光の光透過率が80%以上および表面抵抗が1×10〜1×10Ω/□以下の良好な導電性塗膜が得られる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、以下の実施例は単に例示のために示すものであり、発明の範囲がこれによって制限されるものではない。
[実施例1]
スズ加水分解反応生成物の調整:水1.0リットルを70℃に加温保持した。別途用意した、塩化第二スズ(SnCl・5HO 98重量%)1628.4gを12N塩酸1.5リットルに溶解し、さらにオルトリン酸26.3gを溶解した溶液と10N苛性ソーダ溶液とを、懸濁液のpHを2〜3に保持する様に約2時間かけて、同時滴下した。その後、30分間撹拌保持した。
【0027】
洗浄工程:処理懸濁液を純水で希釈しアニオン化水溶性化合物ハイモ(株)製SS−120の0.5g/L水溶液を7.0L添加して凝集させた。尚、同添加量は加水反応生成物に対して0.5重量%に相当する量である。凝集した沈殿スラリーを数回デカンテーションして洗浄を行いろ過した。
【0028】
乾燥工程:得られた洗浄ケーキを110℃で乾燥した。
焼成処理:得られた乾燥粉末1.2kgを内容積15Lのアドバンテック東洋製バッチ式ロータリーキルン炉へ仕込み、各工程において以下に示す雰囲気条件aにて焼成処理を行い、焼成物を得た。
【0029】
雰囲気条件a
A工程:窒素ガス流量を1リットル/分で30分間流入する。
B工程:6.5℃/分の速度で600℃まで昇温する。窒素ガス流量は0リットル/分。
【0030】
C工程:600℃で60分間保持する。窒素ガス流量は0リットル/分。
D工程:5℃/分の速度で室温まで冷却する。窒素ガス流量は1リットル/分。
粉砕工程:焼成物に粉砕助剤としてトリメチロールエタンを0.5重量%添加して気流式にて粉砕を行い目的とする導電性粉末を得た。
[実施例2]
実施例1において、焼成処理温度を400℃とすることのほかは同例の場合と同様に処理して、目的とする導電性粉末を得た。
[実施例3]
実施例1において、焼成処理温度を700℃とすることのほかは同例の場合と同様に処理して、目的とする導電性粉末を得た。
[実施例4]
実施例1において、焼成処理温度を800℃とすることのほかは同例の場合と同様に処理して、目的とする導電性粉末を得た。
[実施例5]
実施例1において洗浄工程で添加する水溶性高分子化合物としてカチオン化水溶性化合物ハイモ(株)製MP−173Hの0.5g/L水溶液を7.0L添加した。
[実施例6]
実施例1において洗浄工程でアニオン化水溶性化合物ハイモ(株)製SS−120を添加する代わりに、焼成処理工程の前に乾燥品に対して信越化学工業(株)のポバールC−05GPを0.5重量%添加し、焼成処理を行った。
[実施例7]
実施例1において、スズ加水分解反応生成物の調整の段階で添加するオルトリン酸の添加量を78.9gとした。これは(SnOに対してPが3重量%)
[実施例8]
実施例1においてスズ加水反応生成物の調整で添加する10N苛性ソーダ溶液中にSnOに対して、Siとして1.0重量%のケイ酸ナトリウムを添加した。
[比較例1]
焼成処理時に空気を1リットル/分で常時吹き込みながら行い雰囲気を空気中とする(雰囲気条件b)ことのほかは、実施例1と同様に処理した。
[比較例2]
焼成処理時に窒素ガスを1リットル/分で常時吹き込みながら行う(雰囲気条件c)ことのほかは、実施例1と同様に処理した。
【0031】
処理条件、粉末および薄膜の特性を表1に示した。粉末の体積抵抗、比表面積、薄膜の光透過率および表面抵抗は以下の方法によって測定した。
(体積抵抗の測定方法)
試料を230kgf/cmにて加圧成形した状態(直径25.4mm)で敬誠製LCRメーターAR-480D型を接続し、抵抗値を測定する。そのときの試料の厚さを測定し、体積比抵抗値を算出した。
(比表面積の測定方法)
試料を窒素中150℃30分間の脱気処理を行った後、マイクロメトリックス社製ジェミニ2360型にてBET 1点法によって比表面積を測定した。
(導電性塗膜の作製)
導電性粉末を大日本塗料製の透明アクリル樹脂アクリディックA−168(樹脂分50重量%)とともにキシレン−トルエン混合溶液に添加し、ペイントシェーカーを用いて60分間ビーズ分散して分散液を作成した。この分散液をドクターブレードを用いてPETフィルムに塗布し、1時間風乾し酸化スズ含有量70%、膜厚2μmの透明塗膜を形成した。
(光透過率の測定)
この薄膜について、スガ試験機製直読ヘーズコンピユーター分光光度計HGM−2DP型を用いて可視光透過率を測定した。この結果を表1に示した。
(表面抵抗の測定方法)
酸化スズ含有量70重量%、膜厚2μmの薄膜について、横河ヒューレットパッカード社製表面抵抗測定装置HP4339A型を用いて表面抵抗を測定した。
【0032】
【表1】

【0033】
*1:aは、窒素ガスを流入した後、昇温・焼成時に窒素ガスを止め、冷却時に窒素ガスを1リットル/分流入する。bは、空気を1リットル/分流入する。cは、窒素ガスを1リットル/分常時流入する。
【0034】
この結果から、本発明の実施例によれば、良好な体積抵抗を有するものが得られ、良好な光透過率及び表面抵抗を有する塗膜が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化スズに対しリンを0.1〜5重量%含有し、比表面積が30〜90m/g、体積抵抗が0.5〜10Ω・cmであることを特徴とするリン含有酸素欠陥型導電性酸化スズ粉末。
【請求項2】
リンを含有したスズ水酸化物に対し、水溶性高分子化合物をカーボン量換算で0.02〜0.5重量%吸着させた後、雰囲気制御をしながら400〜800℃の温度で焼成することを特徴とする、請求項1記載のリン含有酸素欠陥型導電性酸化スズ粉末の製造方法。
【請求項3】
雰囲気制御の方法として、不活性ガスを昇温前の雰囲気空気の置換時及び焼成後の冷却時には流すが、置換後の焼成温度までの昇温時及び昇温後の焼成時には不活性ガスの流入を停止することを特徴とする、請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
ケイ素を0.1〜5重量%含有する、請求項1記載のリン含有酸素欠陥型導電性酸化スズ粉末。
【請求項5】
導電性酸化スズ粉末の塗膜成分に対する含有量50〜80重量%および膜厚2μmの透明薄膜において、該薄膜の可視光の光透過率が80%以上および表面抵抗が1×10〜1×10Ω/□となる請求項1記載のリン含有酸素欠陥型導電性酸化スズ粉末を分散させた膜組成物。

【公開番号】特開2012−41245(P2012−41245A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186087(P2010−186087)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000109255)チタン工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】