説明

透明導電膜用エッチング液およびエッチング方法

【課題】ハロゲン酸や酸化剤からなるエッチング液において、高微細パターンのエッチング入りを向上させ、エッチング残りおよびオーバーエッチングのない恒常的に安定して高精細・高輝度のフラットディスプレイに対応した高微細精度の透明導電膜の回路パターンが得られるエッチング液およびエッチング方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも下記(a)群から選ばれる少なくとも1種のハロゲン酸および/または下記酸化剤(b)とを水に含有してなる透明導電膜用エッチング液において、下記の一般式(1)で表される化合物(W)を含有することを特徴とする透明導電膜用エッチング液。
・(a)群;塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸
・酸化剤(b);塩化第二鉄または硝酸
(Rf1SO2)(Rf2SO2)NX (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネルなどに使用される透明導電膜の回路パターンの製造に使用される透明導電膜用エッチング液(以下、単に「エッチング液」という場合がある)に関する。さらに詳しくは、高微細パターンのエッチング入りを向上させ、恒常的に安定して、高精細・高輝度のフラットディスプレイに対応した高微細精度の透明導電膜の回路パターンが得られるエッチング液およびエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイやエレクトロルミネッセンスなどのフラットパネルディスプレイのタッチパネルが急速に普及してきている。上記のタッチパネルには、ITO膜などの透明導電膜からなる画素の透明電極が用いられている。上記透明電極は、ITOなどの金属酸化物からなる透明導電膜をフォトリソ法により酸成分からなる酸性エッチング液を用いてエッチングしてパターン化して製造している。
【0003】
上記フラットディスプレイは、目視で画像あるいは文字などを認識するデバイスとして、画素数を増やした高微細精度、および開孔率を大きくした高輝度が求められている。このために各画素間および電極の配線部分を極力狭める必要があり、さらに、これを実現するためには、高精細・高輝度のフラットディスプレイに対応した設計図面通りの高微細精度の透明導電膜の回路パターンを得るための精巧な微細エッチングが必要となる。
【0004】
前記透明導電膜のエッチングに使用される酸性エッチング液としては、ハロゲン酸や酸化剤からなるエッチング液が検討されており、とくに、近年、安価で経済的に有利とされる塩酸や塩化第二鉄系のエッチング液が検討されている。上記ハロゲン酸や酸化剤からなるエッチング液は、従来、各種金属、例えば、鉄、ステンレス、ニッケル、ニッケル−鉄合金、銅、銅合金、金属酸化物などのエッチングに使用されていた。
【0005】
しかしながら、従来のハロゲン酸や酸化剤からなるエッチング液は、ITOなどの透明導電膜をエッチングして高微細精度を有する回路パターンなどを製造した場合に、高微細精度を必要とする高微細回路パターン部へのエッチング入りが充分でないために、エッチングされないエッチング残りが発生し易い。
【0006】
一方、上記エッチング液は、エッチング後、不要となったエッチング液を直ちに水にて洗浄除去する際に、エッチングされた高微細回路パターン部に残ったエッチング液の水洗による水洗除去が迅速に充分に行われ難いために、水洗によるエッチング停止もジャストタイミングでできなくなり、不要となった残留エッチング液によりオーバーエッチングが発生し易い。
【0007】
また、上記エッチング液は、ITO導電膜をエッチングした場合に、イオン化傾向が比較的大きい卑金属などに比べてエッチング条件が厳格となり、ハロゲン酸として塩酸を用いた場合に塩酸の濃度が高くなると、エッチング速度が上昇するが塩化水素の発生が多くなり酸性臭気による環境問題が発生しやすい。また、オーバーエッチングが発生しやすくなる。とくに、エッチング液温度を高くするとエッチング速度が速過ぎてエッチングを制御することが困難となり、また、逆に、上記エッチング液を水で希釈するとエッチンク液の疲労が増大してエッチングに悪影響を及ぼす。
【0008】
また、上記エッチング液を用いたエッチング工程において、スプレー方式により連続エッチングを行った場合、前工程からの処理液がエッチング区域に持ち込まれ、また、現エッチング区域から後工程へエッチング処理されたエッチング液が持ち出されたりするなど、エッチング液組成が微妙に変動し安定したエッチングが困難となる。
【0009】
さらに、上記エッチング液は、エッチング工程で回収されたエッチング液をポンプなどを用いて循環して使用されるのでその濃度減少などの変動があり、新たなエッチンク液を補充する必要が生じためにエッチンク液の組成が安定して一定になりにくい。
【0010】
前記のハロゲン酸や酸化剤を用いたエッチング液として、これまでに、特許文献1、特許文献2、および特許文献3などが開示されている。例えば、上記特許文献1に開示のエッチング液は、塩酸と塩化第二鉄の二成分系水溶液からなっており、該塩酸の遊離酸としての濃度がエッチング液全量に対して18重量%以上含まれている。しかしながら、上記エッチング液は、塩酸濃度が高く、また、エッチング液の温度が35℃〜60℃にするのがよいとされているが、エッチング工程で塩化水素ガスの発生が多くなり環境負荷が伴う。さらに、塩酸濃度を高くすることにより、エッチング速度を速くしているがエッチング液温度を高くするとエッチング速度が速過ぎてエッチングを制御することが困難となり、オーバーエッチングの発生など安定して精度有るエッチングができない。また、塩酸の遊離酸としての高濃度をエッチング工程で維持することは化学的安定性として不安定となり、一定な良好なエッチングができない。
【0011】
また、特許文献2に開示のエッチング液は、塩酸と塩化第二鉄および水の混合水溶液からなるエッチング液を用いてエッチングを行う場合に、該エッチング液に大気雰囲気下における酸素の平衡濃度よりも多くの酸素を含有しているものである。しかしながら、上記エッチング液は、上記エッチング液中に酸素を供給することによってエッチング速度を向上させているが、エッチング工程において、エッチング液中の酸素の濃度を常に一定に保ってエッチングするのは管理上難しく、恒常的に精度有るエッチングができない。
【0012】
また、特許文献3に開示のエッチング液は、塩酸と塩化第二鉄の水溶液からなり、塩酸および塩化第二鉄からなるエッチング液の濃度を色々と特別に規定して、塩化水素の発生を少なくし、また透明導電膜のアンダーカットが少ないようにしている。しかしながら、上記規定よりエッチング液濃度が低くなると充分なエッチング速度が得られない。また、上記規定よりエッチング液濃度が高くなると、塩化水素ガスの酸性臭気が多くなる。また、上記規定よりエッチング液濃度が高いと透明導電膜のアンダーカットが大きくなるなど、エッチング工程において、そのエッチング液の濃度管理が複雑となり、定常的に安定した精度有るエッチングができない。
【0013】
また、前記開示のハロゲン酸や酸化剤を用いたエッチング液は、エッチング終了後、不要となったエッチング液を直ちに水洗除去する必要があるが、エッチングされた微細パターン部に残留したエッチング液の水洗が充分に行なわれにくく、水洗によるエッチング停止もジャストタイミングでできなくなり、不要となった残留エッチング液によるオーバーエッチングを発生する危険性がある。
【0014】
上述のことから、ハロゲン酸や酸化剤を用いたエッチング液において、その濃度、および温度に比較的に左右されず、高微細パターンのエッチング入りを向上させエッチング残りおよびオーバーエッチングのない恒常的に安定して設計図面通りに高微細精度の透明導電膜の回路パターンが得られるエッチング液およびエッチング方法が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭61−199080号公報
【特許文献2】特開平2−135619号公報
【特許文献3】特開2009−231427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、本発明の目的は、ハロゲン酸や酸化剤からなるエッチング液において、高微細パターンのエッチング入りを向上させ、エッチング残りおよびオーバーエッチングのない恒常的に安定して高精細・高輝度のフラットディスプレイに対応した高微細精度の透明導電膜の回路パターンが得られるエッチング液およびエッチング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、少なくとも後述の特定のハロゲン酸および/または酸化剤を水に含有するエッチング液において、特定の化合物(W)を含有することにより、その液温をあまり高くせず、高微細パターンのエッチング入りを向上させ、エッチング残りおよびオーバーエッチングの発生がなく透明導電膜を恒常的に安定してエッチングができ、高精細・高輝度のフラットディスプレイに対応した高微細精度の透明導電膜の回路パターンが得られることを見出した。
【0018】
従って、上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、少なくとも下記(a)群から選ばれる少なくとも1種のハロゲン酸および/または下記酸化剤(b)とを水に含有してなる透明導電膜用エッチング液において、下記の一般式(1)で表される化合物(W)を含有することを特徴とする透明導電膜用エッチング液を提供する。
・(a)群;塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸
・酸化剤(b);塩化第二鉄または硝酸
(Rf1SO2)(Rf2SO2)NX (1)
(上記式(1)中のRf1およびRf2は、アルキル基の水素の全部をフッ素で置き換えた炭素数が1〜6の直鎖のフッ化炭素基、または炭素数が3〜6の分岐を有するフッ化炭素基であり、Xは、カリウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、またはアンモニウムイオンのいずれかである。)
【0019】
また、本発明の好ましい実施形態としては、下記のことが挙げられる。前記化合物(W)が、前記式(1)においてRf1およびRf2のフッ化炭素基の炭素数がいずれも4であり、Xがカリウムイオンであること、前記の化合物(W)の濃度が、0.01質量%〜0.1質量%であること、前記ハロゲン酸の濃度が、0〜58質量%であること、前記酸化剤(b)の濃度が、0〜68質量%であること、前記ハロゲン酸が、塩酸であること、前記塩酸濃度が、0〜35質量%であること、前記酸化剤(b)が、塩化第二鉄であること、前記塩化第二鉄濃度が、0質量%〜38質量%であること、前記塩酸(x)と前記塩化第二鉄(y)との混合物(x+y)の濃度が、10≦(x+y)≦40(質量%)であること、前記透明導電膜が、結晶質ITO膜であること、前記水が、イオン交換水、純水、軟水、蒸留水から選ばれる少なくとも1種であること、表面張力が、15〜25mN/mであること、である。
【0020】
また、本発明は、前記の本発明のエッチング液を25℃〜50℃のエッチング液温度にして、導電膜用基板上に形成された透明導電膜(結晶質ITO膜)をパターンエッチングし透明導電膜の回路パターンを形成することを特徴とする導電膜のエッチング方法を提供する。
【0021】
前記エッチング液温度が、25℃〜35℃である導電膜のエッチング方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明のエッチング液は、透明導電膜を比較的安価で経済的にエッチングして、高精細・高輝度のフラットディスプレイに対応した高微細精度の透明導電膜の回路パターンを安定して製造するのに有効である。とくに、結晶質ITOを用いた回路パターンの製造に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に発明を実施するための好ましい形態を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。本発明を主として特徴づける化合物(W)は、下記の一般式(1)で表される化合物である。
(Rf1SO2)(Rf2SO2)NX (1)
(上記式(1)中のRf1およびRf2は、アルキル基の水素の全部をフッ素で置き換えた炭素数が1〜6の直鎖のフッ化炭素基、または炭素数が3〜6の分岐を有するフッ化炭素基であり、Xは、カリウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、またはアンモニウムイオンである。)
上記の化合物(W)は、単独でも、あるいは2種以上を混合しても、使用することができる。
【0024】
上記の化合物(W)は、前記一般式(1)に示されるようにそれらを構成するRf1およびRf2は、アルキル基の水素の全部をフッ素で置き換えた炭素数が1〜6の直鎖のフッ化炭素基、または炭素数が3〜6の分岐を有するフッ化炭素基であり、好ましくはRf1およびRf2のフッ化炭素基の炭素数がいずれも4であるものが挙げられる。
【0025】
また、前記の化合物(W)を構成するXは、カリウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、またはアンモニウムイオンであり、好ましくはカリウムイオンが挙げられる。
【0026】
前記化合物(W)は、好ましくは前記式(1)においてRf1およびRf2のフッ化炭素基の炭素数がいずれも4であり、Xがカリウムイオンであるものがよい。
【0027】
上記Xから構成される化合物(W)は、得られるエッチング液中の特定の塩酸などのハロゲン酸および塩化第二鉄などの酸化剤に対する耐性と相溶性が良好であり、得られるエッチング液の高微細パターンのエッチング入り、およびエッチング後、不溶となったエッチング液の微細パターンからの水洗浄除去性を向上させ、オーバーエッチングもなく、高精細・高輝度のフラットディスプレイに対応した高微細精度の透明導電膜のパターンを得るのに効果がある。
【0028】
前記化合物(W)としては、例えば、ビスペルフルオロアルカンスルフォンイミドのカリウム塩、リチウム塩、ナトリウム塩、およびアンモニウム塩などが挙げられ、その具体例としては、ビスペルフルオロブタンスルフォンイミドのカリウム塩、リチウム塩、およびナトリウム塩など、好ましくは(C49SO22NKであるビスペルフルオロブタンスルフォンイミドのカリウム塩が挙げられる。上記化合物(W)は、単独でも、あるいは2種以上を混合した混合物としても、使用することができる。
【0029】
前記化合物(W)の濃度は、得られるエッチング液中において、好ましくは0.01質量%〜0.1質量%、より好ましくは0.01質量%〜0.08質量%である。上記化合物(W)の濃度が高過ぎても、得られるエッチング液のエッチング速度とエッチング入りの向上、およびエッチング後の不要となったエッチング液の水洗除去のそれ以上の効果が得られない。一方、その濃度が低過ぎると、得られるエッチング液の高微細パターンのエッチング入り、およびエッチング後の不要となったエッチング液の水洗除去性が不充分となり、高微細パターン部におけるエッチング残りやオーバーエッチングの発生などによって、高微細精度の透明導電膜の回路パターンが得られない。
【0030】
次に、本発明のエッチング液を構成するハロゲン酸について説明する。該ハロゲン酸としては、塩酸、臭化水素酸、およびヨウ化水素酸から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。上記ハロゲン酸は、単独でも、あるいは2種以上を併用して使用することができる。好ましくは塩酸が挙げられる。
【0031】
上記ハロゲン酸の濃度は、好ましくは得られるエッチング液中において0質量%〜58質量%、より好ましくは5質量%〜45質量%である。なお、エッチング成分としてハロゲン酸を単独で用いる場合にはその濃度は20質量%〜45質量%が好ましい。上記ハロゲン酸の濃度が上記上限を超えると、透明導電膜に対するエッチング速度が速すぎ、コントロールがし辛くなる。一方、上記ハロゲン酸濃度が低過ぎると、エッチング速度が低下して充分な生産性が得られない。
【0032】
前記ハロゲン酸の内で、好ましく用いられる塩酸の濃度は、好ましくは得られるエッチング液中において0質量%〜35質量%、より好ましくは5質量%〜30質量%である。なお、エッチング成分として塩酸を単独で使用する場合にはその濃度は20質量%〜30質量%が好ましい。上記塩酸の濃度が上記上限を超えると、透明導電膜に対するエッチング速度が速過ぎ、コントロールがし辛くなる。一方、上記塩酸濃度が低過ぎると、エッチング速度が低下し充分な生産性が得られない。
【0033】
次に、本発明のエッチング液を構成する酸化剤(b)について説明する。該酸化剤(b)は、塩化第二鉄または硝酸である。好ましくは塩化第二鉄が挙げられる。上記酸化剤(b)は、単独でも、あるいは各々を前記のハロゲン酸と併用して使用する。
【0034】
上記酸化剤(b)の濃度は、好ましくは得られるエッチング液中において0質量%〜68質量%、より好ましくは9質量%〜52質量%である。なお、エッチング成分として、該酸化剤(b)を単独で用いる場合にはその濃度は20質量%〜52質量%が好ましい。上記酸化剤(b)の濃度が上記上限を超えると、それ以上のエッチング速度効果が得られず、また、エッチング後、処理物に付着した不要となったエッチング液の水洗除去性が低下しオーバーエッチングが発生しやすい。一方、上記酸化剤(b)の濃度が上記下限未満であると、透明導電膜に対するエッチング速度が低下し、エッチング生産性が低下する。
【0035】
前記酸化剤(b)の内で、好ましく用いられる塩化第二鉄の濃度は、好ましくはエッチング液中において0質量%〜38質量%、より好ましくは9質量%〜30質量%である。なお、エッチング成分として塩化第二鉄を単独で使用する場合にはその濃度は20質量%〜30質量%が好ましい。上記塩化第二鉄の濃度が上記上限を超えると、それ以上のエッチング速度効果が得られず、また、エッチング後処理物に付着した不要となったエッチング液の水洗除去性が低下しオーバーエッチングが発生しやすい。一方、上記塩化第二鉄の濃度が上記下限未満であると、透明導電膜に対するエッチング速度が低下し、生産性が低下する。
【0036】
前記塩酸と塩化第二鉄とを併用する場合に、好ましくは得られるエッチング液中の塩酸(x)と塩化第二鉄(y)との混合物(x+y)の濃度が、前記塩酸の濃度および塩化第二鉄の濃度の数値範囲において10≦(x+y)≦40(質量%)であるのがよい。上記混合物の濃度が、上記上限を超えると、透明導電膜に対するエッチング速度が速過ぎ、また、エッチング後の不要となったエッチング液の水洗除去性が低下しオーバーエッチングが発生しやすい。一方、上記混合物の濃度が上記下限未満であると、透明導電膜に対する充分なエッチング効果が得られない。
【0037】
上記塩酸と塩化第二鉄との2成分の混合物としては、より好ましくは得られるエッチング液中の塩酸濃度が5質量%〜15質量%、および塩化第二鉄の濃度が9質量%〜15質量%である混合物がよい。
【0038】
前記ハロゲン酸および/または前記酸化剤(b)の濃度が、前記濃度範囲内であると、前記化合物(W)との相乗効果により安定した透明導電膜用エッチング液として優れたエッチング効果を発揮する。
【0039】
本発明のエッチング液は、前記ハロゲン酸および/または前記酸化剤(b)と、化合物(W)と、水とを適宜に配合し、好ましくは各々の成分が、前記濃度範囲内になるように配合して公知の方法で均一に混合溶解して調製する。上記エッチング液を構成するエッチング成分である上記ハロゲン酸または酸化剤(b)は各々単独でも、あるいは該ハロゲン酸と酸化剤(b)との2成分の混合物であってもよく、好ましくは2成分の混合物がよい。
【0040】
上記の水としては、好ましくはイオン交換水、純水、軟水、蒸留水から選ばれる少なくとも1種、より好ましくはイオン交換水が挙げられる。硬水など金属イオンを含むものはエッチンク後、残渣として残るので好ましくない。
【0041】
本発明のエッチング液は、その表面張力が、好ましくは15〜25mN/m、より好ましくは19〜22mN/mである。上記表面張力の値が、上記上限を超えると、得られるエッチング液の微細パターンへのエッチング入りが低下して、高微細精度の回路パターンが得られない。一方、上記表面張力の値が、上記下限未満であると、それ以上の効果はなく、経済的でなくなり、液温低下により、前記化合物(W)の析出を招く。
【0042】
本発明のエッチング液のエッチングの対象となる透明導電膜としては、液晶ディスプレイやELなどの表示素子に用いられる透明導電膜、例えば、酸化錫、酸化インジウム、酸化インジウムと酸化錫との二成分系(ITO:インジウム・チン・オキサイド)、酸化インジウム亜鉛、酸化亜鉛などの導電膜成分からなる透明導電膜、好ましくは酸化インジウムと酸化錫との二成分系のITOからなる透明導電膜のITO膜が挙げられる。
【0043】
上記ITO膜は、酸化インジウムに8〜12mol%の酸化錫を添加した透明高導電性薄膜であり、その製膜の際の温度条件により結晶質ITO膜と非結晶質ITO膜のものがあり、好ましくは結晶質ITO膜が挙げられる。上記結晶質ITO膜としては、該膜成分を構成する酸化インジウムが70質量%以上のものがよく、例えば、酸化インジウム80〜90質量%、酸化錫10〜20質量%の二成分系からなるITO膜が挙げられる。
【0044】
上記の透明導電膜は、導電膜用基板上に、公知の蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法など、好ましくはスパッタリング法により上記導電膜成分を20nm〜500nm、好ましくは20nm〜50nmの厚みに形成したものである。
【0045】
上記の導電膜用基板としては、例えば、液晶ディスプレイ用のアルカリガラス、ソーダライムガラス、フロートガラスなどのガラス基板、石英、シリコーン基板、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、芳香族ポリアミド、ポリイミドなどのプラスチック基板などが挙げられる。
【0046】
[エッチング方法]
本発明のエッチング液を用いた導電膜のエッチング方法について説明する。本発明のエッチング方法は、浸漬法あるいはスプレー噴射法いずれにも適用することができ、本発明の透明導電膜用エッチング液を25℃〜50℃のエッチング液温度、好ましくは25℃〜35℃のエッチング液温度、より好ましくは25℃〜30℃のエッチング液温度にして、前記導電膜用基板に形成された透明導電膜を上記いずれかの方法でパターンエッチングし透明導電膜の回路パターンを形成するものである。
【0047】
上記[エッチング方法]の具体例としては、例えば、前記導電膜用基板に形成された結晶質ITO膜上に、ポジ型感光性樹脂組成物を公知の塗布方法で塗布、乾燥し、0.5μm〜1.2μm(乾燥厚み)の感光性樹脂の塗膜を形成する。上記ポジ型感光性樹脂組成物としては、例えば、AZエレクトロニックマテリアルズ社製のAZ−TFP−210K、あるいはロームアンドハース社製のマイクロポジットSC−500などのポジ型感光性樹脂組成物が挙げられる。
【0048】
次に、上記透明導電膜上に形成された感光性樹脂の塗膜に所望のタッチパネル用などの回路パターンを紫外線、レーザー光線などの活性エネルギーにより露光描画させる。
【0049】
露光描画後、公知のアルカリ現像水溶液、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、炭酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウムなどの現像水溶液を使用してスプレー法、あるいは浸漬法などの公知の現像方法により現像を行い、エッチングマスクを形成する。必要に応じて、得られたエッチングマスクをベーキング硬化する。
【0050】
上記エッチングマスクが形成された基板を、本発明の透明導電膜用エッチング液を前記エッチング液温度にして、浸漬法あるいはスプレー噴射法のいずれかの方法でパターンエッチングし、エッチングマスクで覆われていない結晶質ITO膜をエッチングし、該薄膜を溶解除去して導電膜用基板を露出させる。
【0051】
エッチング終了後、直ちに上記導電膜用基板に付着する不要となったエッチング液を超純水を用いて洗浄し、エッチング停止をジャストタイミングで行う。次に、エッチングマスクが剥離できる公知のアルカリ性剥離液を使用してエッチングマスクを洗浄除去し、さらに超純水を用いてさらに水洗して透明導電膜の回路パターンを形成する。
【実施例】
【0052】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。文中「部」または「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0053】
[実施例1〜9](エッチング液M1〜M9)
ハロゲン酸(a)と、酸化剤(b)と、化合物(W)と、イオン交換水とを用いて表1のように各々の成分を配合し、均一に撹拌混合して本発明のエッチング液M1〜M9を調製した。
なお、上記ハロゲン酸(a)、酸化剤(b)、および化合物(W)は下記のものを使用した。
・ハロゲン酸(a);
a1:塩酸(試薬35%塩酸)
a2:臭化水素酸(47%水溶液)
a3:ヨウ化水素酸(58%水溶液)
・酸化剤(b);
b1:塩化第二鉄(38%水溶液)
b2:硝酸(68%水溶液)
・化合物(W);
(C49SO22NK(ビスペルフルオロブタンスルフォンイミドのカリウム塩)
【0054】

上記表中の各々の成分配合の数値は配合部数を表わす。なお、上記表中のハロゲン酸、酸化剤、および化合物(W)の各濃度(%)は、固形分換算の濃度である。
【0055】
[比較例1〜8](エッチング液N1〜N8)
実施例1〜3、および5〜9において、化合物(W)を使用しない以外は、表2のように各々の成分を配合し、均一に撹拌混合してエッチング液N1〜N8を調製した。
【0056】

上記表中の各々の成分配合の数値は配合部数を表わす。なお、上記表中のハロゲン酸、酸化剤、および化合物(W)の各濃度(%)は、固形分換算の濃度である。
【0057】
前記の実施例および比較例のエッチング液を用いて、下記のエッチング方法により導電膜用基板上の結晶質ITO膜をエッチングして透明導電膜のテスト回路パターンを形成した。この際に使用した各々のエッチング液の表面張力、ジャストエッチング時間、およびエッチング後の不要となったエッチング液の洗浄除去性と、得られたテスト回路パターンのエッチング残りおよびエッチング精度について下記の測定方法により評価した。評価結果を表3および表4に示す。
【0058】
(エッチング方法)
厚さ0.7mmの液晶ディスプレイ用ガラス基板表面にスパッタリング方法により150nmの結晶質ITO膜(酸化インジウム90質量%、酸化錫10質量%)を形成し、該ITO膜表面にナフトキノンジアジドタイプのポジ型レジスト(ロームアンドハース社製、マイクロポジットSC−500)を1μm(乾燥厚み)になるように塗布し、乾燥後、該塗膜面をテスト回路用のフォトマスクパターンを介して超高圧水銀灯により露光描画し、露光後、アルカリ現像水溶液(2.38%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液)にてスプレー現像しエッチングマスクを形成した。次に上記エッチングマスクを、前記の実施例または比較例のエッチング液を使用して、エッチング液温度が30℃に調整されたエッチング槽中に浸漬してエッチングを行い、エッチングマスクで覆われていない上記ITO膜をエッチングし、エッチング後、直ちに超純水を用いて洗浄してエッチング停止をジャストタイミングで行った。次に、エッチングマスクを公知のアルカリ性剥離液を用いて洗浄除去し、さらに純水を用いて水洗してテスト回路パターンを形成した。
【0059】
(表面張力)
前記エッチング液をエレクトロ平衡式法(白金板吊下げ法)により25℃の条件下で測定した。(測定値の値が小さいほど濡れ性がよく、一方、その測定値の値が大きいほど濡れ性が低下する。)
【0060】
(ジャストエッチング時間)
前記(エッチング方法)により、結晶質ITO膜をエッチングする工程で、エッチングされる部分を三菱化学アナリテック(株)製、Hiresta UP MCP−HT450の表面抵抗計を使用して表面抵抗値を測りながらその表面抵抗値が1010を越えるまでのエッチング時間を測定した。上記エッチング時間は、エッチングが完了して液晶ディスプレイ用ガラス基板面が表れる状態を表す。
【0061】
(エッチング液の洗浄除去性)
前記(エッチング方法)の工程において、エッチング後、不要となったエッチング液を超純水を用いて水洗してテスト回路パターンを形成する際の上記エッチング液の洗浄除去性に関して下記評価法により評価した。
○:エッチング後の不要エッチング液が、テスト回路パターンの微細部からも速やかに容易に洗浄除去できる。
△:エッチング後の不要エッチング液が、テスト回路パターンの微細部にわずかに残りやすく、洗浄除去性がやや劣る。
×:エッチング後の不要エッチング液が、テスト回路パターンの微細部に残りやすく、洗浄除去性が劣る。
【0062】
(エッチング残り)
得られたテスト回路パターンを1000倍の顕微鏡で目視し、上記パターンの設計図面通りにエッチングされずに液晶ディスプレイ用ガラス基板上に残った結晶質ITO膜を測定し、下記の評価法により評価した。
○:結晶質ITO膜のエッチング残りが、認められない。
△:結晶質ITO膜のエッチング残りが、部分的に認められる。
×:結晶質ITO膜のエッチング残りが、全体的に認められる。
【0063】
(エッチング精度)
前記エッチング方法により得られたテスト回路パターンの設計寸法8μmのラインの線幅のばらつきの絶対値σ(μm)をレーザ顕微鏡(オリンパス(株)製、OLS1100)にて測定し、オーバーエッチングの度合いとした。上記の絶対値σ(μm)が、大きいほどオーバーエッチングの度合が高い。
【0064】

【0065】

【0066】
上記の評価結果より、本発明のエッチング液は、結晶質ITO膜などの透明導電膜をエッチングして回路パターンを形成する際に、高微細パターンのエッチング入りがよくジャストタイムでエッチングすることができ、さらに、エッチング後の不要となったエッチング液の微細回路パターンからの洗浄除去性が優れており、オーバーエッチングのない設計図通りの微細精度を有する電気特性に優れた透明導電膜の回路パターンが得られることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、本発明のエッチング液は、高精細・高輝度のフラットディスプレイに対応した結晶質ITOなどの透明導電膜からなる高微細精度の回路パターンが経済的に製造できることから、液晶テレビ、ELテレビ、携帯電話、カーナビ、産業用モニター、電卓などのフラットディスプレイのタッチパネルの透明画素電極などを製造するのに有効に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記(a)群から選ばれる少なくとも1種のハロゲン酸および/または下記酸化剤(b)とを水に含有してなる透明導電膜用エッチング液において、下記の一般式(1)で表される化合物(W)を含有することを特徴とする透明導電膜用エッチング液。
・(a)群;塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸
・酸化剤(b);塩化第二鉄または硝酸
(Rf1SO2)(Rf2SO2)NX (1)
(上記式(1)中のRf1およびRf2は、アルキル基の水素の全部をフッ素で置き換えた炭素数が1〜6の直鎖のフッ化炭素基、または炭素数が3〜6の分岐を有するフッ化炭素基であり、Xは、カリウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、またはアンモニウムイオンのいずれかである。)
【請求項2】
前記化合物(W)が、前記式(1)においてRf1およびRf2のフッ化炭素基の炭素数がいずれも4であり、Xがカリウムイオンである請求項1に記載の透明導電膜用エッチング液。
【請求項3】
前記化合物(W)の濃度が、0.01質量%〜0.1質量%である請求項1に記載の透明導電膜用エッチング液。
【請求項4】
前記ハロゲン酸の濃度が、0〜58質量%である請求項1に記載の透明導電膜用エッチング液。
【請求項5】
前記酸化剤(b)の濃度が、0〜68質量%である請求項1に記載の透明導電用エッチング液。
【請求項6】
前記ハロゲン酸が、塩酸である請求項1または4に記載の透明導電膜用エッチング液。
【請求項7】
前記塩酸濃度が、0〜35質量%である請求項6に記載の透明導電膜用エッチング液。
【請求項8】
前記酸化剤(b)が、塩化第二鉄である請求項1または5に記載の透明導電膜用エッチング液。
【請求項9】
前記塩化第二鉄濃度が、0質量%〜38質量%である請求項8に記載の透明導電膜用エッチング液。
【請求項10】
前記塩酸(x)と前記塩化第二鉄(y)との混合物(x+y)の濃度が、10≦(x+y)≦40(質量%)である請求項6〜9のいずれか1項に記載の透明導電膜用エッチング液。
【請求項11】
前記透明導電膜が、結晶質ITO膜である請求項1に記載の透明導電膜用エッチング液。
【請求項12】
前記水が、イオン交換水、純水、軟水、蒸留水から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の透明導電膜用エッチング液。
【請求項13】
表面張力が、15〜25mN/mである請求項1〜12のいずれか1項に記載の透明導電膜用エッチング液。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の透明導電膜用エッチング液を25℃〜50℃のエッチング液温度にして、導電膜用基板上に形成された透明導電膜をパターンエッチングし透明導電膜の回路パターンを形成することを特徴とする導電膜のエッチング方法。
【請求項15】
前記エッチング液温度が、25℃〜35℃である請求項14に記載の導電膜のエッチング方法。

【公開番号】特開2012−134455(P2012−134455A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233536(P2011−233536)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000183923)株式会社DNPファインケミカル (268)
【Fターム(参考)】