通信装置
【課題】近接無線転送機能を搭載し、ディジタルカメラなどに挿入して用いられるメモリーカードを提供する。
【解決手段】遠方界の放射利得に寄与している、高周波結合器内で縦方向に流れる電流量を低減するために、グランド14のパターンの縦長の長さを短縮する。結合用電極11とグランド14が一体となって半波長ダイポール・アンテナのように動作することはなくなる。横方向に放射される遠方界の放射電磁界の強度を電波法の基準以下に抑制できるとともに、送信電力を近傍界の誘導電界を利用した近接無線転送に効率的に割り当てて十分な通信性能を確保することができる。
【解決手段】遠方界の放射利得に寄与している、高周波結合器内で縦方向に流れる電流量を低減するために、グランド14のパターンの縦長の長さを短縮する。結合用電極11とグランド14が一体となって半波長ダイポール・アンテナのように動作することはなくなる。横方向に放射される遠方界の放射電磁界の強度を電波法の基準以下に抑制できるとともに、送信電力を近傍界の誘導電界を利用した近接無線転送に効率的に割り当てて十分な通信性能を確保することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する技術は、非接触通信を行なう通信装置に係り、特に、微弱なUWB信号を用いた近接無線転送による通信を行なう通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触通信は、0〜数十cm程度の伝送距離でデータ伝送を行なう無線技術であり、周辺に存在する反射物からの反射波が小さいため干渉の影響が少ない、伝送路上でハッキングの防止や秘匿性の確保を考慮する必要がない、といった利点がある。非接触通信方法には、静電結合方式、電磁誘導方式、電波通信方式などが挙げられる。
【0003】
高速通信に適用可能な非接触通信技術として、近接無線転送技術「TransferJet(登録商標)」(例えば、非特許文献1を参照のこと)を挙げることができる。この近接無線転送技術は、基本的に、誘導電界の結合作用を利用して信号を伝送する方式であり、その通信装置は、高周波信号の処理を行なう通信回路部と、グランドに対しある程度の高さで離間して配置された結合用電極と、結合用電極に高周波信号を効率的に供給する共振部で構成される。結合用電極、又は結合用電極と共振部を含んだ部品のことを、本明細書では「高周波結合器」若しくは「カプラー」とも呼ぶ。
【0004】
近接無線転送技術の1つの特徴として、微弱なUWB(Ultra Wide Band)信号を用いて、100Mbps程度の超高速データ伝送を実現することが挙げられる。また、近接無線転送技術の他の特徴として、UWB通信であり送信電力が低いことが挙げられる。このため、無線設備から3メートルの距離での電界強度(電波の強さ)が所定レベル以下、すなわち近隣に存在する他の無線システムにとってノイズ・レベル程度となる微弱無線であることから、ユーザーは免許を取得せずにこれを使うことができる(例えば、非特許文献2を参照のこと)。
【0005】
他方、パーソナル・コンピューター(PC)やディジタルカメラ、携帯電話、PDA(Personal Digital Assistant)など多くの情報機器は、メモリースティック(登録商標)やSD(Secure Digital)カードなどのカートリッジ式の外部メモリーを挿入するスロットを備え、記憶容量の増大を実現している。さらには、無線通信機能を内蔵するメモリーカードについて提案がなされている(例えば、特許文献1、2を参照のこと)。ディジタルカメラなどの情報機器は、自身では通信インターフェースを装備していなくても、無線通信機能付きのメモリーカードをスロットに取り付けることで、内部メモリー又はメモリーカードの記録した静止画や動画などの大容量データを、直接且つ簡単に無線送信することができる(例えば、非特許文献3を参照のこと)。
【0006】
また、メモリーカードに上記の近接無線転送技術を搭載することも考えられる(例えば、特許文献3を参照のこと)。メモリーカード内に近接無線転送技術を搭載する場合、グランドと結合用電極を同一のメモリーカード基板上の配線パターンとして形成することによって、高周波結合器を簡易に製作することができる(例えば、特許文献4を参照のこと)。
【0007】
ここで、金属製の筐体でできた情報機器のスロットにメモリーカードを挿入した状態では、送信電力の低い近接無線転送技術では十分な通信性能を発揮できなくなることが懸念される。とりわけ、ディジタルカメラは、小型・薄型でも落下に耐える強度が必要であることから、筐体を金属製にすることが多い。
【0008】
このため、メモリーカードに近接無線転送技術を搭載するには、情報機器のスロットにメモリーカードを挿入したときに、外界に露出するメモリーカード端面部分で、送信電力すなわち誘導電界の結合作用を向上させる必要がある。ところが、誘導電界強度を増大することに付随して、放射電磁界の強度も大きくなると、近隣に存在する他の無線システムに影響を与え易くなり、これを使用するのに免許の取得が必要になってしまう。また、近接無線転送では使用しない放射電磁界が放射され、電力が消費されてしまうと、本来の近接無線転送に必要な近傍界の誘導電界強度が弱くなってしまう。
【0009】
メモリーカードを金属製の筐体内に挿入すれば、放射電磁界は筐体で遮られて外部に放出されなくなる。このことから、メモリーカードを挿入した後のディジタルカメラとして、電波法の認証を取得するという方法も考えられる。例えば、特定機種のディジタルカメラに特化して、近接無線転送技術を搭載したメモリーカードの設計を最適化することができる。しかしながら、近接無線転送技術を搭載したメモリーカードを製造・販売するベンダーは、メモリーカード単体ではなく、ディジタルカメラの機種毎に電波法の認証を取得し、あるいはディジタルカメラの機種毎にメモリーカードを開発・製造しなければならなくなり、負担は課題である。要言すれば、メモリーカード単体で電波法の規制を満足するとともに、メモリーカードを金属製の機器筐体内に挿入した状態でも近接無線転送の十分な性能を確保できることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−77878号公報
【特許文献2】特開2006−216011号公報
【特許文献3】特開2010−67060号公報
【特許文献4】特許第4345891号公報、図23
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】www.transferjet.org/en/index.html(平成23年6月14日現在)
【非特許文献2】電波法施行規則(昭和二十五年電波監理委員会規則第十四号)第六条第一項第一号
【非特許文献3】www.eyefi.co.jp(平成23年6月14日現在)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本明細書で開示する技術の目的は、微弱なUWB信号を用いた近接無線転送による通信を行なうことができる、優れた通信装置を提供することにある。
【0013】
本明細書で開示する技術のさらなる目的は、例えばメモリーカードのような形態で構成され、ディジタルカメラなどの他の情報機器に挿入して用いられ、微弱なUWB信号を用いた近接無線転送による通信を行なうことができる、優れた通信装置を提供することにある。
【0014】
本明細書で開示する技術のさらなる目的は、ディジタルカメラなどの他の情報機器に挿入されて微弱なUWB信号を用いた近接無線転送による通信を行なうこととともに、電波法の認証を取得することが容易な、優れた通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願は、上記課題を参酌してなされたものであり、請求項1に記載の技術は、
基板と、
前記基板上に導体パターンとして形成された結合用電極及びグランドからなる高周波結合器と、
前記結合用電極で送受信する高周波信号を処理する通信回路部と、
前記結合用電極に流れ込む電流量を増大するための共振部と、
を具備し、
前記高周波結合器は、縦長が横長よりも短く構成される、
通信装置である。
【0016】
本願の請求項2に記載の技術によれば、請求項1に記載の通信装置は、前記結合用電極に蓄えられた電荷の中心と前記グランドに蓄えられた鏡像電荷の中心を結ぶ線分からなる微小ダイポールを形成し、前記微小ダイポールの方向となす角θがほぼ0度となるように対向して配置された通信相手に向けて前記高周波信号を伝送するように構成されている。
【0017】
本願の請求項3に記載の技術によれば、請求項1に記載の通信装置の高周波結合器の縦長は、前記高周波信号の半波長よりも十分短く構成されている。
【0018】
本願の請求項4に記載の技術によれば、請求項1に記載の通信装置において、結合用電極とグランドは、前記基板上の同一の表面に形成されている。
【0019】
本願の請求項5に記載の技術によれば、請求項1に記載の通信装置の基板は多層構造である。そして、前記結合用電極と前記グランドは、前記基板上の別の層に形成されている。
【0020】
本願の請求項6に記載の技術によれば、請求項1に記載の通信装置は、基板上に、前記高周波結合器の前記グランドとは分離された、第2のグランドをさらに備えている。
【0021】
本願の請求項7に記載の技術によれば、請求項6に記載の通信装置において、前記高周波結合器の前記グランドと前記第2のグランドは、前記基板上の同一の表面に形成され、スリットで分離されている。
【0022】
本願の請求項8に記載の技術によれば、請求項6に記載の通信装置において、第2のグランドには、前記共振部以外の前記基板上に実装された回路コンポーネントの接地に用いられる。
【0023】
本願の請求項9に記載の技術によれば、請求項1に記載の通信装置はメモリーカードに内蔵されている。そして、前記基板は、メモリー及びメモリーカード用の回路コンポーネントが実装されたメモリーカード基板である。
【0024】
本願の請求項10に記載の技術によれば、請求項1に記載の通信装置は情報機器に内蔵されている。そして、前記基板は、前記情報機器の主要回路コンポーネントが実装された主要回路基板である。
【発明の効果】
【0025】
本明細書で開示する技術によれば、例えばメモリーカードのような形態で構成され、ディジタルカメラなどの他の情報機器に挿入して用いられ、微弱なUWB信号を用いた近接無線転送による通信を行なうことができる、優れた通信装置を提供することができる。
【0026】
また、本明細書で開示する技術によれば、例えばメモリーカードのような形態で構成され、近傍の誘導電界での送信出力を向上することにより、ディジタルカメラなどの他の情報機器に挿入されても近接無線転送を好適に行なうことができるとともに、電波法の認証を取得することが容易な、優れた通信装置を提供することができる。
【0027】
本明細書で開示する技術によれば、近傍界の性能がよい高周波結合器を基板上に形成することができる。したがって、この高周波結合器並びに通信モジュールが内蔵されたメモリーカードを金属製の筐体からなるディジタルカメラなどに挿入した際に、高周波結合器の近傍界の性能が劣化しても、ディジタルカメラで撮影した画像などのデータを近接無線転送により高速且つ安定して伝送することができる。
【0028】
また、本明細書で開示する技術によれば、遠方界の放射利得が小さい高周波結合器を基板上に形成することができる。したがって、送信出力を大きくしても、遠方に漏洩する電界強度が小さいので、他の通信システムに影響を与えないで済む。また、送信出力を大きくすることで、本来の近接無線転送を行なう近傍界の誘導電界の強度が強くなるので、金属製の筐体からなるディジタルカメラなどに挿入した場合であっても、安定した通信が可能になる。
【0029】
また、本明細書で開示する技術によれば、縦長が横長よりも短い高周波結合器を構成し、横方向に電波を放射しない。このため、この高周波結合器並びに通信モジュールが内蔵されたメモリーカードから見て横方向にあるディジタルカメラの金属製の筐体からの反射波により干渉の影響を低減することができる。
【0030】
本明細書で開示する技術のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、グランド及び結合用電極を同一のメモリーカード基板上の配線パターンとして形成して高周波結合器をメモリーカード内に設置した構成例を示した図である。
【図2】図2は、図1に示した高周波結合器内で縦方向に流れる電流量が増大して、放射電磁界が発生する様子を示した図である。
【図3】図3は、半波長ダイポール・アンテナの構成例を示した図である。
【図4】図4は、グランド及び結合用電極を同一のメモリーカード基板上の配線パターンとして形成して高周波結合器をメモリーカード内に設置した、他の構成例を示した図である。
【図5】図5は、図1に示したメモリーカード基板12上での共振部やその他の回路の配置例を示した図である。
【図6A】図6Aは、メモリーカード基板12上に形成した高周波結合器の横長を一定にして、縦長を変化させたときの、近傍界の結合強度と遠方界の放射利得の変化を示した図である。
【図6B】図6Bは、高周波結合器の「縦長」及び「横長」の定義を示した図である。
【図7】図7は、図5に示したメモリーカード基板12上での共振部やその他の回路の配置例を示した図である。
【図8】図8は、主要基板上に結合用電極及びグランドの導体パターンを形成して成る高周波結合器を備えたパーソナル・コンピューターを例示した図である。
【図9】図9は、近接無線転送に用いられる高周波結合器の基本的構成を模式的に示した図である。
【図10】図10は、平面導体の外部に点電荷Qを置き、平面導体内に鏡像電荷−Qが配置される様子を示した図である。
【図11】図11は、微小ダイポールによる電界を表した図である。
【図12】図12は、容量装荷型アンテナの周りに発生する電界を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら本明細書で開示する技術の実施形態について詳細に説明する。
【0033】
ディジタルカメラなどの情報機器は、自身が近接無線転送機能を装備していなくても、近接無線転送技術を搭載したメモリーカードを情報機器に挿入することで、撮影した静止画や動画などの大容量データを、直接且つ簡単に無線送信することができる。まず、近接無線転送技術の原理について説明しておく。
【0034】
近接無線転送には、アンテナ・エレメントとして、図9に示すような高周波結合器が用いられる。高周波結合器90は、平板状の結合用電極91と、直列インダクター92並びに並列インダクター93からなる共振部を備え、高周波信号伝送路95を介して通信回路部96に接続される。
【0035】
結合用電極91には、高周波の通信信号が流れ込んで、電荷を蓄える。このとき、直列インダクター92及び並列インダクター93からなる共振部の共振作用によって、伝送路を介して結合用電極91に流れ込む電流は増幅され、より大きな電荷が蓄えられる。また、結合用電極91に電荷Qが蓄えられると、グランド94には鏡像電荷−Qが蓄えられる。
【0036】
ここで、平面導体の外部に点電荷Qを置くと、平面導体内には(表面電荷分布を置き換えた仮想的な)鏡像電荷−Qが配置されるが、このことは、例えば溝口正著「電磁気学」(裳華房、第94頁乃至第57頁)にも記載されているように、当業界で周知である。図10には、平面導体の外部に点電荷Qを置き、平面導体内に鏡像電荷−Qが配置される様子を示している。図中の平面導体はグランド94に相当し、平面導体の外部に置かれる点電荷Qは結合用電極91の蓄積電荷に相当する。理論上の平面導体は無限に広いが、実際問題としては、無限に広い平面でなくても、点電荷Qから導体表面の端までの距離が点電荷Qから導体表面までの(最短)距離に比べて十分遠ければよい。
【0037】
上述のように点電荷Q及び鏡像電荷−Qが蓄えられた結果、結合用電極91に蓄えられた電荷Qの中心とグランド94に蓄えられた鏡像電荷−Qの中心を結ぶ線分からなる微小ダイポールが形成される(厳密に言うと、電荷Qと鏡像電荷−Qは体積を持ち、微小ダイポールが電荷Qの中心と鏡像電荷−Qの中心を結ぶように形成される)。ここで言う「微小ダイポール」は、「電気ダイポールの電荷間の距離が非常に短いもの」を指す。例えば虫明康人著「アンテナ・電波伝搬」(コロナ社、16頁〜18頁)にも、「微小ダイポール」が記載されている。そして、微小ダイポールによって、電界の横波成分Eθ、電界の縦波成分ER、微小ダイポール回りの磁界Hφが発生する。
【0038】
図11には、微小ダイポールによって発生する電界を図解している。図示のように、電界の横波成分Eθは伝搬方向と垂直な方向に振動し、電界の縦波成分ERは伝搬方向と平行な向きに振動する。また、微小ダイポール回りには磁界Hφが発生する(図示しない)。下式(1)〜(3)は、微小ダイポールによって生成される電磁界を表している。同式中、距離Rの3乗に反比例する成分は静電磁界、距離Rの2乗に反比例する成分は誘導電磁界、距離Rに反比例する成分は放射電磁界である。誘導電磁界は、距離減衰が大きいので、「近傍界」に相当する。これに対し、放射電磁界は、距離減衰が小さいので、「遠方界」に相当する。
【0039】
【数1】
【0040】
但し、上式(1)〜(3)において、微小ダイポールのモーメントp及び距離Rはそれぞれ下式(4)、(5)で定義される。
【0041】
【数2】
【0042】
周辺システムへの妨害波を抑制するには、放射電磁界の成分を含む横波Eθを抑制しながら、放射電磁界の成分を含まない縦波ERを利用することが好ましいと考えられる。何故ならば、上式(1)、(2)から分かるように、電界の横波成分Eθは遠方界に相当する放射電磁界を含むのに対して、縦波成分ERは放射電磁界を含まないからである。
【0043】
上式(2)から、縦波ER成分は微小ダイポールの方向となす角θ=0度で極大となることが分かる。したがって、電界の縦波ERを効率的に利用して近接無線転送を行なうには、微小ダイポールの方向となす角θがほぼ0度となるように対向して通信相手側の高周波結合器を配置して、高周波の電界信号を伝送することが好ましい。また、直列インダクター92と並列インダクター93からなる共振部によって、結合用電極91に流れ込む高周波信号の電流量を増やし、より大きくの電荷Qが貯まるようにすることができる。この結果、結合用電極91に蓄積される電荷Qとグランド94側の鏡像電荷−Qによって形成される微小ダイポールのモーメントpを大きくすることができ、微小ダイポールの方向となす角θがほぼ0度となる伝搬方向に向かって、縦波ERからなる高周波の電界信号を効率的に放出することができる。
【0044】
また、図9に示した高周波結合器90は、図12に示すように、アンテナ素子の先端に金属片を取り付けて静電容量を持たせ、アンテナの高さを短縮させる「容量装荷型」のアンテナと構造が類似する。図示の容量装荷型アンテナは、アンテナの放射エレメントの周囲B1及びB2方向に電波を放射するが、A方向は電波を放射しないヌル点となる。アンテナの周りに発生する電磁界を詳細に検討すると、アンテナからの距離に反比例して減衰する放射電磁界と、アンテナからの距離の2乗に反比例して減衰する誘導電磁界と、アンテナからの距離の3乗に反比例して減衰する静電磁界が発生する。アンテナの放射エレメントの周囲B1及びB2方向に放射される電波は、主に放射電磁界の成分を含む横波Eθに相当する。
【0045】
図9に示す高周波結合器90の遠方界利得を抑制するには、図12に示すような容量装荷型アンテナとして動作しないようにする必要がある。したがって、結合用電極91に垂直な方向への電流量を抑制する必要がある。例えば、グランド94に対する結合用電極11の高さを、使用するUWB信号の波長に対して無視し得る程度にすることで、垂直な方向への電流量を抑制し、高周波結合器90が容量装荷型アンテナとして動作しないようにすることができる。
【0046】
また、図9に示す高周波結合器90の近傍界利得を向上させることは、容量装荷アンテナの先端の金属片(結合用電極91に相当)へ流れ込む電流量を大きくして、図12中のA方向から放射する、主に誘導電界の成分を含む電波の縦波ERを増大させることである。
【0047】
続いて、近接無線転送技術を搭載したメモリーカードの構成方法について考察する。
【0048】
近接無線転送技術を搭載したメモリーカードを実現するために、本出願人は、以下の2つの条件を挙げる。
【0049】
(1)近傍界である誘導電界での送信出力を向上し、ディジタルカメラなどの他の情報機器に挿入されても近接無線転送を好適に行なうことができる。
(2)遠方界である放射電磁界の発生による既存の他の通信システムへの影響を抑制する。
【0050】
メモリーカード内に近接無線転送技術を搭載する場合、グランドと結合用電極を同一のメモリーカード基板上の配線パターンとして形成することによって、高周波結合器を簡易に製作することができる。図1には、グランド14及び結合用電極11を同一のメモリーカード基板12上の配線パターンとして形成して高周波結合器10をメモリーカード内に設置した構成例を示している。
【0051】
但し、図1では、共振部や通信回路部、並びにその他の回路を省略して描いている。図5には、メモリーカード基板12上での回路の配置例を示している。グランド14は、結合用電極11に蓄積された点電荷Qに対する鏡像電荷−Qを得るための平面導体としてだけでなく、メモリーカード基板12上に実装される各回路コンポーネントのグランドとしても作用する。したがって、図5に示すように、グランド14上には、結合用電極11に流れ込む電流量を増大する共振部51や、近接無線転送により送受信する高周波信号の処理を行なう通信回路部52、メモリーカード全体の動作を制御する制御部53、メモリー54などの回路が実装され、各回路コンポーネントのGND端子はグランド14に接地されている。
【0052】
図1に示したメモリーカード基板12上で電界を発生させる作用について検討してみる。
【0053】
ディジタルカメラなどの情報機器のスロットにメモリーカードを挿入したときに、外界に露出するメモリーカード端面部分で、送信電力すなわち誘導電界の結合作用を向上させる必要がある。このため、結合用電極11の導体パターンは、メモリーカード基板12上で、スロットの挿入口に近い端縁(図示しない、コネクターとは反対側の端縁)に形成される。
【0054】
また、結合用電極11に電流を流し込んで電荷Qを蓄積し、図11に示したような微小ダイポールを形成する際、グランド14は図10中の平面導体に相当し、グランド14内に(表面電荷分布を置き換えた仮想的な)鏡像電荷−Qが配置される。理論上の平面導体は無限に広いが(前述)、図1に示した構成例では、実際問題として、メモリーカード基板14上で可能な限りの大きさのグランド14の導体パターンを形成している。
【0055】
ここで、近接無線転送技術を搭載するメモリーカードとして、SDカードを想定した場合、その寸法は32mm×24mmとカードの縦長は横長より長く、必然的にメモリーカード基板12の寸法も縦長が横長よりも長いものとなる。したがって、図1に示した構成例のように、メモリーカード基板12上で可能な限り大きさのグランド14の導体パターンを形成すると、高周波結合器10も縦長が横長よりも長くなる。
【0056】
このような場合、図2に示すように、高周波結合器10内で、とりわけグランド14上で縦方向に流れる電流量が増大する。これに伴い、同図中の点線で示すような、横方向に放射される放射電磁界の強度が大きくなる。その結果、近接無線転送では使わない放射電磁界が放射され、そちらに送信電力が消費されてしまうため、本来の近接無線転送に必要な近傍界の誘導電界強度が弱くなってしまう。このため、上記の条件(1)である「近傍界である誘導電界での送信出力を向上」することが困難となる。
【0057】
特に、微弱なUWB信号を使用するTransferJetでは、SDカードのサイズが使用周波数の半波長に近い長さとなる。このため、メモリーカード基板14上に形成された結合用電極11とグランド14が一体となって、図3に示すような半波長ダイポール・アンテナのような動作し、上述したような、横方向に、遠方界の強い電波を放射してしまうことになる。
【0058】
また、上記の条件(2)の「既存の他の通信システムへの影響を抑制」することを満足するには、放射電磁界の強度を抑制する必要がある。例えば、無線通信対応製品として商品化するためには、電波法の認証を取得するために、放射される電界の強度を基準以下に抑えなければならない。図1に示した高周波結合器10は、図2並びに図3を参照しながら説明したように、遠方界の放射利得が高い。電波法の基準を満たすには、送信電力を小さくせざるを得ない。その結果、本来の近接無線転送を行なう近傍界の誘導電界の強度も弱くなってしまい、安定した通信を行なうことができない。
【0059】
ディジタルカメラは、小型・薄型でも落下に耐える強度が必要であることから、筐体を金属製にすることが多い(前述)。図1に示したメモリーカードをディジタルカメラに挿入した状態では、高周波結合器10は周囲を金属で囲われて電界の放射が妨げられるため、結合器としての性能が低下し、通信が不安定になる。高周波結合器10の性能に配慮して、ディジタルカメラ側でメモリーカードのスロット付近の設計を行なうこともできる。しかしながら、一般には、近接無線転送機能を搭載するメモリーカードとディジタルカメラは異なる製造業者で設計・製作されるため、すべてのディジタルカメラ製造業者が近接無線通信機能付きメモリーカードに対応した製品を提供することは現実的でない。
【0060】
また、図2に示したようなメモリーカード基板12の横方向に放射される放射電磁界は、メモリーカードをディジタルカメラのスロットに挿入すると、周囲を金属で囲われて遠方界の放射利得が低下する。したがって、本来の近接無線転送を行なう近傍界の誘導電界の強度を得るための送信電力のままでも、メモリーカードをディジタルカメラに挿入した状態であれば、放射される電界の強度は、電波法の基準を満たすであろう。しかしながら、この場合、メモリーカード単体ではなく、メモリーカードをディジタルカメラに装着した状態で電波法の認証を取得しなければならなくなる。言い換えれば、ディジタルカメラの機種毎に電波法の認証を取得しなければならないことになり、近接無線転送技術を搭載したメモリーカードを製造・販売するベンダーにとって負担は課題である。
【0061】
図1に示した高周波結合器10の構成例において、上記をまとめると、高周波結合器10の縦長が横長よりも長いために、高周波結合器10内でとりわけグランド14上で縦方向に流れる電流量が増大し、横方向に放射される遠方界の放射電磁界の強度が大きくなる。逆に言えば、横方向に放射される遠方界の放射電磁界の強度が小さい高周波結合器10をメモリーカード基板12上に構成することができれば、その分、送信電力を上げても電波法の規制には抵触しない。したがって、送信電力を上げて、近傍界の誘導電界の強度を大きくすることによって、近接無線転送における十分な通信性能を確保することができる。
【0062】
そこで、遠方界の放射利得に寄与している、高周波結合器内で縦方向に流れる電流量を低減するために、図4に示すように、グランド14の導体パターンの縦長の長さを短縮した構成例について検討してみる。この場合、メモリーカードとしてのSDカードのサイズが使用周波数のほぼ半波長であるとしても、高周波結合器10の縦長の長さは半波長よりも十分短くなる。したがって、結合用電極11とグランド14が一体となって半波長ダイポール・アンテナ(図3を参照のこと)のように動作することはなくなり、横方向に放射される遠方界の放射電磁界の強度を抑制することができる。この結果、送信電力を近傍界の誘導電界を利用した近接無線転送に効率的に割り当てて十分な通信性能を確保することができるとともに、遠方界の放射電磁界の強度を電波法の基準以下に抑えることを期待できる。
【0063】
なお、図4に示す例では、結合用電極11とグランド14がメモリーカード基板12の同一の表面上に形成されているが、同じ多層基板中の別の層(図示しない)に形成するようにしてもよい。
【0064】
図6Aには、メモリーカード基板12上に形成した高周波結合器10の横長を一定(20mm)にして、縦長を変化させたときの、近傍界の結合強度[dB](図中、■でプロット)と、遠方界の放射利得[dBi](図中、◆でプロット)の変化をそれぞれ示している。但し、ここで言う高周波結合器10の「縦長」及び「横長」は、それぞれ図6Bで示した長さで定義されるものとする。
【0065】
高周波結合器10の「縦長」は、図11に示した微小ダイポールのモーメントの方向、若しくは、誘導電界を主成分とする縦波ERの振動方向の、高周波結合器の長さに相当する。また、高周波結合器10の「横長」は、縦長とは直交する方向の高周波結合器の長さである。図1や図4に示したように、メモリーカード基板12上に導体パターンとして形成する場合、高周波結合器10の「横長」は、メモリーカード基板12の幅方向と平行な方向の長さに相当する。
【0066】
図6A中で、点線で区切られた左側の領域では、高周波結合器10の縦長が横長よりも短く、右側の領域では、高周波結合器10の縦長が横長よりも長くなる。高周波結合器10の縦長が横長よりも短いときに、遠方界の放射利得は低く抑えられ、電波法の基準を満たすことが可能になる。また、高周波結合器10の縦長が横長よりも短いと、近傍界の結合強度は高く安定していることから、近接無線転送を安定して実施することができる。
【0067】
一方、高周波結合器10の縦長が横長よりも長くなると、遠方界の放射利得は増大し、電波法の基準を超えてしまい、認証を取得することが困難になる。また、送信電力が遠方界の放射利得のために送信電力が消費されてしまうことから、本来の近接無線転送に必要な近傍界の誘導電界の強度が弱くなってしまう。ここで、電波法の基準以下となるように送信電力を低下させると、近傍界の誘導電界の強度はさらに弱まるため、近接無線転送はいっそう不安定な通信となる。
【0068】
このように、高周波結合器10の縦長が横長よりも短く形成することで、近傍界の性能がよい高周波結合器をメモリーカード基板12上に配置することができる。したがって、この高周波結合器10並びに通信モジュールが内蔵されたメモリーカードを金属製の筐体からなるディジタルカメラなどに挿入した際に、高周波結合器の近傍界の性能が劣化しても、ディジタルカメラで撮影した画像などのデータを近接無線転送により高速且つ安定して伝送することができる。
【0069】
メモリーカード基板12上に形成された高周波結合器10は、縦長が横長よりも短いことから、遠方界の放射利得が小さい。したがって、送信出力を大きくしても、遠方に漏洩する電界強度が小さいので、他の通信システムに影響を与えないで済む。また、送信出力を大きくすることで、本来の近接無線転送を行なう近傍界の誘導電界の強度が強くなるので、金属製の筐体からなるディジタルカメラなどに挿入した場合であっても、安定した通信が可能になる。
【0070】
また、メモリーカード基板12上に形成された高周波結合器10は、縦長が横長よりも短いことから、横方向に電波を放射しない。このため、この高周波結合器10並びに通信モジュールが内蔵されたメモリーカードから見て横方向にあるディジタルカメラの金属製の筐体からの反射波により干渉の影響を低減することができる。
【0071】
ところで、メモリーカード基板12上に形成されるグランド14は、結合用電極11に蓄積された点電荷Qに対する鏡像電荷−Qを得るための平面導体としてだけでなく、メモリーカード基板12上に実装される各回路コンポーネントのグランドとしても作用する。図4に示したようにグランド14の導体パターンの縦長の長さを短縮した場合、他の回路コンポーネントのグランドとしては面積が小さくなってしまう。
【0072】
そこで、高周波結合器用のグランドと他の回路コンポーネント用のグランドを一体化した導体パターンとして形成するのではなく、図7に示すように、グランド14の導体パターンにスリット14Cを入れて、高周波結合器用の第1のグランド部分14Aと、他の回路コンポーネント用の第2のグランド部分14Bに分離するようにしてもよい。そして、高周波結合器用の第1のグランド部分14Aの縦長を横長よりも短くすることにより、遠方界の放射利得を低く抑えて電波法の基準を満たすようにするとともに、近傍界の結合強度を高く安定して近接無線転送を行なうことができるようになる。第1のグランド部分14Aには、共振部51が実装される。また、第2のグランド部分14B上には、通信回路部52、制御部53、メモリー54などの回路が実装され、各回路コンポーネント52〜54のGND端子は第2のグランド部分14Bに接地されている。
【0073】
なお、図7に示す例では、第1のグランド部分14Aと第2のグランド部分14Bがメモリーカード基板12の同一の表面上に形成されているが、同じ多層基板中の別の層(図示しない)に形成するようにしてもよい。
【0074】
勿論、他の回路コンポーネントをメモリーカード基板12上に配置しないときには、グランド14にスリットを設けて第1のグランド部分14Aから分離した第2のグランド部分14Bを形成する必要はなく、単にグランド14の縦長を短縮するだけでよい。
【0075】
なお、本明細書の開示の技術は、以下のような構成をとることも可能である。
(1)基板と、前記基板上に導体パターンとして形成された結合用電極及びグランドからなる高周波結合器と、前記結合用電極で送受信する高周波信号を処理する通信回路部と、前記結合用電極に流れ込む電流量を増大するための共振部と、
を具備し、前記高周波結合器は、縦長が横長よりも短く構成される、通信装置。
(2)前記結合用電極に蓄えられた電荷の中心と前記グランドに蓄えられた鏡像電荷の中心を結ぶ線分からなる微小ダイポールを形成し、前記微小ダイポールの方向となす角θがほぼ0度となるように対向して配置された通信相手に向けて前記高周波信号を伝送する、上記(1)に記載の通信装置。
(3)前記高周波結合器の縦長は、前記高周波信号の半波長よりも十分短い、上記(1)に記載の通信装置。
(4)前記結合用電極と前記グランドは、前記基板上の同一の表面に形成される、上記(1)に記載の通信装置。
(5)前記基板は多層構造であり、前記結合用電極と前記グランドは、前記基板上の別の層に形成される、上記(1)に記載の通信装置。
(6)前記基板上に、前記高周波結合器の前記グランドとは分離された、第2のグランドをさらに備える、上記(1)に記載の通信装置。
(7)前記高周波結合器の前記グランドと前記第2のグランドは、前記基板上の同一の表面に形成され、スリットで分離される、上記(6)に記載の通信装置。
(8)前記第2のグランドには、前記共振部以外の前記基板上に実装された回路コンポーネントの接地に用いられる、上記(6)に記載の通信装置。
(9)前記通信装置はメモリーカードに内蔵され、前記基板は、メモリー及びメモリーカード用の回路コンポーネントが実装されたメモリーカード基板である、上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の通信装置。
(10)前記通信装置は情報機器に内蔵され、前記基板は、前記情報機器の主要回路コンポーネントが実装された主要回路基板である、上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の通信装置。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本明細書で開示する技術について詳細に説明してきた。しかしながら、本明細書で開示する技術の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0077】
本明細書では、メモリーカード基板上に形成した結合用電極及びグランドの導体パターンにより高周波結合器を構成した実施形態を中心に説明してきたが、本明細書で開示する技術の要旨はこれに限定されるものではない。メモリーカード以外の任意の回路基板上に結合用電極及びグランドの導体パターンを形成してなる高周波結合器により、近接無線転送による通信を行なう通信装置を実現することができる。
【0078】
例えば、図8に示すように、主要回路基板(マザーボード)上に、縦長が横長よりも短くなる結合用電極及びグランドの導体パターンを形成して、遠方界の放射利得を低く抑えるとともに安定して近接無線転送を行なうことができる高周波結合器を有する通信装置をパーソナル・コンピューター内に装備することができる。
【0079】
要するに、例示という形態で本技術を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本技術の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【符号の説明】
【0080】
10…高周波結合器
11…結合用電極
12…メモリーカード基板
14…グランド
14A…第1のグランド部分、14B…第2のグランド部分
14C…スリット
51…共振部
52…通信回路部
53…制御部
54…メモリー
90…高周波結合器
91…結合用電極
92…直列インダクター
93…並列インダクター
94…グランド
95…高周波信号伝送路
96…通信回路部
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する技術は、非接触通信を行なう通信装置に係り、特に、微弱なUWB信号を用いた近接無線転送による通信を行なう通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触通信は、0〜数十cm程度の伝送距離でデータ伝送を行なう無線技術であり、周辺に存在する反射物からの反射波が小さいため干渉の影響が少ない、伝送路上でハッキングの防止や秘匿性の確保を考慮する必要がない、といった利点がある。非接触通信方法には、静電結合方式、電磁誘導方式、電波通信方式などが挙げられる。
【0003】
高速通信に適用可能な非接触通信技術として、近接無線転送技術「TransferJet(登録商標)」(例えば、非特許文献1を参照のこと)を挙げることができる。この近接無線転送技術は、基本的に、誘導電界の結合作用を利用して信号を伝送する方式であり、その通信装置は、高周波信号の処理を行なう通信回路部と、グランドに対しある程度の高さで離間して配置された結合用電極と、結合用電極に高周波信号を効率的に供給する共振部で構成される。結合用電極、又は結合用電極と共振部を含んだ部品のことを、本明細書では「高周波結合器」若しくは「カプラー」とも呼ぶ。
【0004】
近接無線転送技術の1つの特徴として、微弱なUWB(Ultra Wide Band)信号を用いて、100Mbps程度の超高速データ伝送を実現することが挙げられる。また、近接無線転送技術の他の特徴として、UWB通信であり送信電力が低いことが挙げられる。このため、無線設備から3メートルの距離での電界強度(電波の強さ)が所定レベル以下、すなわち近隣に存在する他の無線システムにとってノイズ・レベル程度となる微弱無線であることから、ユーザーは免許を取得せずにこれを使うことができる(例えば、非特許文献2を参照のこと)。
【0005】
他方、パーソナル・コンピューター(PC)やディジタルカメラ、携帯電話、PDA(Personal Digital Assistant)など多くの情報機器は、メモリースティック(登録商標)やSD(Secure Digital)カードなどのカートリッジ式の外部メモリーを挿入するスロットを備え、記憶容量の増大を実現している。さらには、無線通信機能を内蔵するメモリーカードについて提案がなされている(例えば、特許文献1、2を参照のこと)。ディジタルカメラなどの情報機器は、自身では通信インターフェースを装備していなくても、無線通信機能付きのメモリーカードをスロットに取り付けることで、内部メモリー又はメモリーカードの記録した静止画や動画などの大容量データを、直接且つ簡単に無線送信することができる(例えば、非特許文献3を参照のこと)。
【0006】
また、メモリーカードに上記の近接無線転送技術を搭載することも考えられる(例えば、特許文献3を参照のこと)。メモリーカード内に近接無線転送技術を搭載する場合、グランドと結合用電極を同一のメモリーカード基板上の配線パターンとして形成することによって、高周波結合器を簡易に製作することができる(例えば、特許文献4を参照のこと)。
【0007】
ここで、金属製の筐体でできた情報機器のスロットにメモリーカードを挿入した状態では、送信電力の低い近接無線転送技術では十分な通信性能を発揮できなくなることが懸念される。とりわけ、ディジタルカメラは、小型・薄型でも落下に耐える強度が必要であることから、筐体を金属製にすることが多い。
【0008】
このため、メモリーカードに近接無線転送技術を搭載するには、情報機器のスロットにメモリーカードを挿入したときに、外界に露出するメモリーカード端面部分で、送信電力すなわち誘導電界の結合作用を向上させる必要がある。ところが、誘導電界強度を増大することに付随して、放射電磁界の強度も大きくなると、近隣に存在する他の無線システムに影響を与え易くなり、これを使用するのに免許の取得が必要になってしまう。また、近接無線転送では使用しない放射電磁界が放射され、電力が消費されてしまうと、本来の近接無線転送に必要な近傍界の誘導電界強度が弱くなってしまう。
【0009】
メモリーカードを金属製の筐体内に挿入すれば、放射電磁界は筐体で遮られて外部に放出されなくなる。このことから、メモリーカードを挿入した後のディジタルカメラとして、電波法の認証を取得するという方法も考えられる。例えば、特定機種のディジタルカメラに特化して、近接無線転送技術を搭載したメモリーカードの設計を最適化することができる。しかしながら、近接無線転送技術を搭載したメモリーカードを製造・販売するベンダーは、メモリーカード単体ではなく、ディジタルカメラの機種毎に電波法の認証を取得し、あるいはディジタルカメラの機種毎にメモリーカードを開発・製造しなければならなくなり、負担は課題である。要言すれば、メモリーカード単体で電波法の規制を満足するとともに、メモリーカードを金属製の機器筐体内に挿入した状態でも近接無線転送の十分な性能を確保できることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−77878号公報
【特許文献2】特開2006−216011号公報
【特許文献3】特開2010−67060号公報
【特許文献4】特許第4345891号公報、図23
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】www.transferjet.org/en/index.html(平成23年6月14日現在)
【非特許文献2】電波法施行規則(昭和二十五年電波監理委員会規則第十四号)第六条第一項第一号
【非特許文献3】www.eyefi.co.jp(平成23年6月14日現在)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本明細書で開示する技術の目的は、微弱なUWB信号を用いた近接無線転送による通信を行なうことができる、優れた通信装置を提供することにある。
【0013】
本明細書で開示する技術のさらなる目的は、例えばメモリーカードのような形態で構成され、ディジタルカメラなどの他の情報機器に挿入して用いられ、微弱なUWB信号を用いた近接無線転送による通信を行なうことができる、優れた通信装置を提供することにある。
【0014】
本明細書で開示する技術のさらなる目的は、ディジタルカメラなどの他の情報機器に挿入されて微弱なUWB信号を用いた近接無線転送による通信を行なうこととともに、電波法の認証を取得することが容易な、優れた通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願は、上記課題を参酌してなされたものであり、請求項1に記載の技術は、
基板と、
前記基板上に導体パターンとして形成された結合用電極及びグランドからなる高周波結合器と、
前記結合用電極で送受信する高周波信号を処理する通信回路部と、
前記結合用電極に流れ込む電流量を増大するための共振部と、
を具備し、
前記高周波結合器は、縦長が横長よりも短く構成される、
通信装置である。
【0016】
本願の請求項2に記載の技術によれば、請求項1に記載の通信装置は、前記結合用電極に蓄えられた電荷の中心と前記グランドに蓄えられた鏡像電荷の中心を結ぶ線分からなる微小ダイポールを形成し、前記微小ダイポールの方向となす角θがほぼ0度となるように対向して配置された通信相手に向けて前記高周波信号を伝送するように構成されている。
【0017】
本願の請求項3に記載の技術によれば、請求項1に記載の通信装置の高周波結合器の縦長は、前記高周波信号の半波長よりも十分短く構成されている。
【0018】
本願の請求項4に記載の技術によれば、請求項1に記載の通信装置において、結合用電極とグランドは、前記基板上の同一の表面に形成されている。
【0019】
本願の請求項5に記載の技術によれば、請求項1に記載の通信装置の基板は多層構造である。そして、前記結合用電極と前記グランドは、前記基板上の別の層に形成されている。
【0020】
本願の請求項6に記載の技術によれば、請求項1に記載の通信装置は、基板上に、前記高周波結合器の前記グランドとは分離された、第2のグランドをさらに備えている。
【0021】
本願の請求項7に記載の技術によれば、請求項6に記載の通信装置において、前記高周波結合器の前記グランドと前記第2のグランドは、前記基板上の同一の表面に形成され、スリットで分離されている。
【0022】
本願の請求項8に記載の技術によれば、請求項6に記載の通信装置において、第2のグランドには、前記共振部以外の前記基板上に実装された回路コンポーネントの接地に用いられる。
【0023】
本願の請求項9に記載の技術によれば、請求項1に記載の通信装置はメモリーカードに内蔵されている。そして、前記基板は、メモリー及びメモリーカード用の回路コンポーネントが実装されたメモリーカード基板である。
【0024】
本願の請求項10に記載の技術によれば、請求項1に記載の通信装置は情報機器に内蔵されている。そして、前記基板は、前記情報機器の主要回路コンポーネントが実装された主要回路基板である。
【発明の効果】
【0025】
本明細書で開示する技術によれば、例えばメモリーカードのような形態で構成され、ディジタルカメラなどの他の情報機器に挿入して用いられ、微弱なUWB信号を用いた近接無線転送による通信を行なうことができる、優れた通信装置を提供することができる。
【0026】
また、本明細書で開示する技術によれば、例えばメモリーカードのような形態で構成され、近傍の誘導電界での送信出力を向上することにより、ディジタルカメラなどの他の情報機器に挿入されても近接無線転送を好適に行なうことができるとともに、電波法の認証を取得することが容易な、優れた通信装置を提供することができる。
【0027】
本明細書で開示する技術によれば、近傍界の性能がよい高周波結合器を基板上に形成することができる。したがって、この高周波結合器並びに通信モジュールが内蔵されたメモリーカードを金属製の筐体からなるディジタルカメラなどに挿入した際に、高周波結合器の近傍界の性能が劣化しても、ディジタルカメラで撮影した画像などのデータを近接無線転送により高速且つ安定して伝送することができる。
【0028】
また、本明細書で開示する技術によれば、遠方界の放射利得が小さい高周波結合器を基板上に形成することができる。したがって、送信出力を大きくしても、遠方に漏洩する電界強度が小さいので、他の通信システムに影響を与えないで済む。また、送信出力を大きくすることで、本来の近接無線転送を行なう近傍界の誘導電界の強度が強くなるので、金属製の筐体からなるディジタルカメラなどに挿入した場合であっても、安定した通信が可能になる。
【0029】
また、本明細書で開示する技術によれば、縦長が横長よりも短い高周波結合器を構成し、横方向に電波を放射しない。このため、この高周波結合器並びに通信モジュールが内蔵されたメモリーカードから見て横方向にあるディジタルカメラの金属製の筐体からの反射波により干渉の影響を低減することができる。
【0030】
本明細書で開示する技術のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、グランド及び結合用電極を同一のメモリーカード基板上の配線パターンとして形成して高周波結合器をメモリーカード内に設置した構成例を示した図である。
【図2】図2は、図1に示した高周波結合器内で縦方向に流れる電流量が増大して、放射電磁界が発生する様子を示した図である。
【図3】図3は、半波長ダイポール・アンテナの構成例を示した図である。
【図4】図4は、グランド及び結合用電極を同一のメモリーカード基板上の配線パターンとして形成して高周波結合器をメモリーカード内に設置した、他の構成例を示した図である。
【図5】図5は、図1に示したメモリーカード基板12上での共振部やその他の回路の配置例を示した図である。
【図6A】図6Aは、メモリーカード基板12上に形成した高周波結合器の横長を一定にして、縦長を変化させたときの、近傍界の結合強度と遠方界の放射利得の変化を示した図である。
【図6B】図6Bは、高周波結合器の「縦長」及び「横長」の定義を示した図である。
【図7】図7は、図5に示したメモリーカード基板12上での共振部やその他の回路の配置例を示した図である。
【図8】図8は、主要基板上に結合用電極及びグランドの導体パターンを形成して成る高周波結合器を備えたパーソナル・コンピューターを例示した図である。
【図9】図9は、近接無線転送に用いられる高周波結合器の基本的構成を模式的に示した図である。
【図10】図10は、平面導体の外部に点電荷Qを置き、平面導体内に鏡像電荷−Qが配置される様子を示した図である。
【図11】図11は、微小ダイポールによる電界を表した図である。
【図12】図12は、容量装荷型アンテナの周りに発生する電界を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら本明細書で開示する技術の実施形態について詳細に説明する。
【0033】
ディジタルカメラなどの情報機器は、自身が近接無線転送機能を装備していなくても、近接無線転送技術を搭載したメモリーカードを情報機器に挿入することで、撮影した静止画や動画などの大容量データを、直接且つ簡単に無線送信することができる。まず、近接無線転送技術の原理について説明しておく。
【0034】
近接無線転送には、アンテナ・エレメントとして、図9に示すような高周波結合器が用いられる。高周波結合器90は、平板状の結合用電極91と、直列インダクター92並びに並列インダクター93からなる共振部を備え、高周波信号伝送路95を介して通信回路部96に接続される。
【0035】
結合用電極91には、高周波の通信信号が流れ込んで、電荷を蓄える。このとき、直列インダクター92及び並列インダクター93からなる共振部の共振作用によって、伝送路を介して結合用電極91に流れ込む電流は増幅され、より大きな電荷が蓄えられる。また、結合用電極91に電荷Qが蓄えられると、グランド94には鏡像電荷−Qが蓄えられる。
【0036】
ここで、平面導体の外部に点電荷Qを置くと、平面導体内には(表面電荷分布を置き換えた仮想的な)鏡像電荷−Qが配置されるが、このことは、例えば溝口正著「電磁気学」(裳華房、第94頁乃至第57頁)にも記載されているように、当業界で周知である。図10には、平面導体の外部に点電荷Qを置き、平面導体内に鏡像電荷−Qが配置される様子を示している。図中の平面導体はグランド94に相当し、平面導体の外部に置かれる点電荷Qは結合用電極91の蓄積電荷に相当する。理論上の平面導体は無限に広いが、実際問題としては、無限に広い平面でなくても、点電荷Qから導体表面の端までの距離が点電荷Qから導体表面までの(最短)距離に比べて十分遠ければよい。
【0037】
上述のように点電荷Q及び鏡像電荷−Qが蓄えられた結果、結合用電極91に蓄えられた電荷Qの中心とグランド94に蓄えられた鏡像電荷−Qの中心を結ぶ線分からなる微小ダイポールが形成される(厳密に言うと、電荷Qと鏡像電荷−Qは体積を持ち、微小ダイポールが電荷Qの中心と鏡像電荷−Qの中心を結ぶように形成される)。ここで言う「微小ダイポール」は、「電気ダイポールの電荷間の距離が非常に短いもの」を指す。例えば虫明康人著「アンテナ・電波伝搬」(コロナ社、16頁〜18頁)にも、「微小ダイポール」が記載されている。そして、微小ダイポールによって、電界の横波成分Eθ、電界の縦波成分ER、微小ダイポール回りの磁界Hφが発生する。
【0038】
図11には、微小ダイポールによって発生する電界を図解している。図示のように、電界の横波成分Eθは伝搬方向と垂直な方向に振動し、電界の縦波成分ERは伝搬方向と平行な向きに振動する。また、微小ダイポール回りには磁界Hφが発生する(図示しない)。下式(1)〜(3)は、微小ダイポールによって生成される電磁界を表している。同式中、距離Rの3乗に反比例する成分は静電磁界、距離Rの2乗に反比例する成分は誘導電磁界、距離Rに反比例する成分は放射電磁界である。誘導電磁界は、距離減衰が大きいので、「近傍界」に相当する。これに対し、放射電磁界は、距離減衰が小さいので、「遠方界」に相当する。
【0039】
【数1】
【0040】
但し、上式(1)〜(3)において、微小ダイポールのモーメントp及び距離Rはそれぞれ下式(4)、(5)で定義される。
【0041】
【数2】
【0042】
周辺システムへの妨害波を抑制するには、放射電磁界の成分を含む横波Eθを抑制しながら、放射電磁界の成分を含まない縦波ERを利用することが好ましいと考えられる。何故ならば、上式(1)、(2)から分かるように、電界の横波成分Eθは遠方界に相当する放射電磁界を含むのに対して、縦波成分ERは放射電磁界を含まないからである。
【0043】
上式(2)から、縦波ER成分は微小ダイポールの方向となす角θ=0度で極大となることが分かる。したがって、電界の縦波ERを効率的に利用して近接無線転送を行なうには、微小ダイポールの方向となす角θがほぼ0度となるように対向して通信相手側の高周波結合器を配置して、高周波の電界信号を伝送することが好ましい。また、直列インダクター92と並列インダクター93からなる共振部によって、結合用電極91に流れ込む高周波信号の電流量を増やし、より大きくの電荷Qが貯まるようにすることができる。この結果、結合用電極91に蓄積される電荷Qとグランド94側の鏡像電荷−Qによって形成される微小ダイポールのモーメントpを大きくすることができ、微小ダイポールの方向となす角θがほぼ0度となる伝搬方向に向かって、縦波ERからなる高周波の電界信号を効率的に放出することができる。
【0044】
また、図9に示した高周波結合器90は、図12に示すように、アンテナ素子の先端に金属片を取り付けて静電容量を持たせ、アンテナの高さを短縮させる「容量装荷型」のアンテナと構造が類似する。図示の容量装荷型アンテナは、アンテナの放射エレメントの周囲B1及びB2方向に電波を放射するが、A方向は電波を放射しないヌル点となる。アンテナの周りに発生する電磁界を詳細に検討すると、アンテナからの距離に反比例して減衰する放射電磁界と、アンテナからの距離の2乗に反比例して減衰する誘導電磁界と、アンテナからの距離の3乗に反比例して減衰する静電磁界が発生する。アンテナの放射エレメントの周囲B1及びB2方向に放射される電波は、主に放射電磁界の成分を含む横波Eθに相当する。
【0045】
図9に示す高周波結合器90の遠方界利得を抑制するには、図12に示すような容量装荷型アンテナとして動作しないようにする必要がある。したがって、結合用電極91に垂直な方向への電流量を抑制する必要がある。例えば、グランド94に対する結合用電極11の高さを、使用するUWB信号の波長に対して無視し得る程度にすることで、垂直な方向への電流量を抑制し、高周波結合器90が容量装荷型アンテナとして動作しないようにすることができる。
【0046】
また、図9に示す高周波結合器90の近傍界利得を向上させることは、容量装荷アンテナの先端の金属片(結合用電極91に相当)へ流れ込む電流量を大きくして、図12中のA方向から放射する、主に誘導電界の成分を含む電波の縦波ERを増大させることである。
【0047】
続いて、近接無線転送技術を搭載したメモリーカードの構成方法について考察する。
【0048】
近接無線転送技術を搭載したメモリーカードを実現するために、本出願人は、以下の2つの条件を挙げる。
【0049】
(1)近傍界である誘導電界での送信出力を向上し、ディジタルカメラなどの他の情報機器に挿入されても近接無線転送を好適に行なうことができる。
(2)遠方界である放射電磁界の発生による既存の他の通信システムへの影響を抑制する。
【0050】
メモリーカード内に近接無線転送技術を搭載する場合、グランドと結合用電極を同一のメモリーカード基板上の配線パターンとして形成することによって、高周波結合器を簡易に製作することができる。図1には、グランド14及び結合用電極11を同一のメモリーカード基板12上の配線パターンとして形成して高周波結合器10をメモリーカード内に設置した構成例を示している。
【0051】
但し、図1では、共振部や通信回路部、並びにその他の回路を省略して描いている。図5には、メモリーカード基板12上での回路の配置例を示している。グランド14は、結合用電極11に蓄積された点電荷Qに対する鏡像電荷−Qを得るための平面導体としてだけでなく、メモリーカード基板12上に実装される各回路コンポーネントのグランドとしても作用する。したがって、図5に示すように、グランド14上には、結合用電極11に流れ込む電流量を増大する共振部51や、近接無線転送により送受信する高周波信号の処理を行なう通信回路部52、メモリーカード全体の動作を制御する制御部53、メモリー54などの回路が実装され、各回路コンポーネントのGND端子はグランド14に接地されている。
【0052】
図1に示したメモリーカード基板12上で電界を発生させる作用について検討してみる。
【0053】
ディジタルカメラなどの情報機器のスロットにメモリーカードを挿入したときに、外界に露出するメモリーカード端面部分で、送信電力すなわち誘導電界の結合作用を向上させる必要がある。このため、結合用電極11の導体パターンは、メモリーカード基板12上で、スロットの挿入口に近い端縁(図示しない、コネクターとは反対側の端縁)に形成される。
【0054】
また、結合用電極11に電流を流し込んで電荷Qを蓄積し、図11に示したような微小ダイポールを形成する際、グランド14は図10中の平面導体に相当し、グランド14内に(表面電荷分布を置き換えた仮想的な)鏡像電荷−Qが配置される。理論上の平面導体は無限に広いが(前述)、図1に示した構成例では、実際問題として、メモリーカード基板14上で可能な限りの大きさのグランド14の導体パターンを形成している。
【0055】
ここで、近接無線転送技術を搭載するメモリーカードとして、SDカードを想定した場合、その寸法は32mm×24mmとカードの縦長は横長より長く、必然的にメモリーカード基板12の寸法も縦長が横長よりも長いものとなる。したがって、図1に示した構成例のように、メモリーカード基板12上で可能な限り大きさのグランド14の導体パターンを形成すると、高周波結合器10も縦長が横長よりも長くなる。
【0056】
このような場合、図2に示すように、高周波結合器10内で、とりわけグランド14上で縦方向に流れる電流量が増大する。これに伴い、同図中の点線で示すような、横方向に放射される放射電磁界の強度が大きくなる。その結果、近接無線転送では使わない放射電磁界が放射され、そちらに送信電力が消費されてしまうため、本来の近接無線転送に必要な近傍界の誘導電界強度が弱くなってしまう。このため、上記の条件(1)である「近傍界である誘導電界での送信出力を向上」することが困難となる。
【0057】
特に、微弱なUWB信号を使用するTransferJetでは、SDカードのサイズが使用周波数の半波長に近い長さとなる。このため、メモリーカード基板14上に形成された結合用電極11とグランド14が一体となって、図3に示すような半波長ダイポール・アンテナのような動作し、上述したような、横方向に、遠方界の強い電波を放射してしまうことになる。
【0058】
また、上記の条件(2)の「既存の他の通信システムへの影響を抑制」することを満足するには、放射電磁界の強度を抑制する必要がある。例えば、無線通信対応製品として商品化するためには、電波法の認証を取得するために、放射される電界の強度を基準以下に抑えなければならない。図1に示した高周波結合器10は、図2並びに図3を参照しながら説明したように、遠方界の放射利得が高い。電波法の基準を満たすには、送信電力を小さくせざるを得ない。その結果、本来の近接無線転送を行なう近傍界の誘導電界の強度も弱くなってしまい、安定した通信を行なうことができない。
【0059】
ディジタルカメラは、小型・薄型でも落下に耐える強度が必要であることから、筐体を金属製にすることが多い(前述)。図1に示したメモリーカードをディジタルカメラに挿入した状態では、高周波結合器10は周囲を金属で囲われて電界の放射が妨げられるため、結合器としての性能が低下し、通信が不安定になる。高周波結合器10の性能に配慮して、ディジタルカメラ側でメモリーカードのスロット付近の設計を行なうこともできる。しかしながら、一般には、近接無線転送機能を搭載するメモリーカードとディジタルカメラは異なる製造業者で設計・製作されるため、すべてのディジタルカメラ製造業者が近接無線通信機能付きメモリーカードに対応した製品を提供することは現実的でない。
【0060】
また、図2に示したようなメモリーカード基板12の横方向に放射される放射電磁界は、メモリーカードをディジタルカメラのスロットに挿入すると、周囲を金属で囲われて遠方界の放射利得が低下する。したがって、本来の近接無線転送を行なう近傍界の誘導電界の強度を得るための送信電力のままでも、メモリーカードをディジタルカメラに挿入した状態であれば、放射される電界の強度は、電波法の基準を満たすであろう。しかしながら、この場合、メモリーカード単体ではなく、メモリーカードをディジタルカメラに装着した状態で電波法の認証を取得しなければならなくなる。言い換えれば、ディジタルカメラの機種毎に電波法の認証を取得しなければならないことになり、近接無線転送技術を搭載したメモリーカードを製造・販売するベンダーにとって負担は課題である。
【0061】
図1に示した高周波結合器10の構成例において、上記をまとめると、高周波結合器10の縦長が横長よりも長いために、高周波結合器10内でとりわけグランド14上で縦方向に流れる電流量が増大し、横方向に放射される遠方界の放射電磁界の強度が大きくなる。逆に言えば、横方向に放射される遠方界の放射電磁界の強度が小さい高周波結合器10をメモリーカード基板12上に構成することができれば、その分、送信電力を上げても電波法の規制には抵触しない。したがって、送信電力を上げて、近傍界の誘導電界の強度を大きくすることによって、近接無線転送における十分な通信性能を確保することができる。
【0062】
そこで、遠方界の放射利得に寄与している、高周波結合器内で縦方向に流れる電流量を低減するために、図4に示すように、グランド14の導体パターンの縦長の長さを短縮した構成例について検討してみる。この場合、メモリーカードとしてのSDカードのサイズが使用周波数のほぼ半波長であるとしても、高周波結合器10の縦長の長さは半波長よりも十分短くなる。したがって、結合用電極11とグランド14が一体となって半波長ダイポール・アンテナ(図3を参照のこと)のように動作することはなくなり、横方向に放射される遠方界の放射電磁界の強度を抑制することができる。この結果、送信電力を近傍界の誘導電界を利用した近接無線転送に効率的に割り当てて十分な通信性能を確保することができるとともに、遠方界の放射電磁界の強度を電波法の基準以下に抑えることを期待できる。
【0063】
なお、図4に示す例では、結合用電極11とグランド14がメモリーカード基板12の同一の表面上に形成されているが、同じ多層基板中の別の層(図示しない)に形成するようにしてもよい。
【0064】
図6Aには、メモリーカード基板12上に形成した高周波結合器10の横長を一定(20mm)にして、縦長を変化させたときの、近傍界の結合強度[dB](図中、■でプロット)と、遠方界の放射利得[dBi](図中、◆でプロット)の変化をそれぞれ示している。但し、ここで言う高周波結合器10の「縦長」及び「横長」は、それぞれ図6Bで示した長さで定義されるものとする。
【0065】
高周波結合器10の「縦長」は、図11に示した微小ダイポールのモーメントの方向、若しくは、誘導電界を主成分とする縦波ERの振動方向の、高周波結合器の長さに相当する。また、高周波結合器10の「横長」は、縦長とは直交する方向の高周波結合器の長さである。図1や図4に示したように、メモリーカード基板12上に導体パターンとして形成する場合、高周波結合器10の「横長」は、メモリーカード基板12の幅方向と平行な方向の長さに相当する。
【0066】
図6A中で、点線で区切られた左側の領域では、高周波結合器10の縦長が横長よりも短く、右側の領域では、高周波結合器10の縦長が横長よりも長くなる。高周波結合器10の縦長が横長よりも短いときに、遠方界の放射利得は低く抑えられ、電波法の基準を満たすことが可能になる。また、高周波結合器10の縦長が横長よりも短いと、近傍界の結合強度は高く安定していることから、近接無線転送を安定して実施することができる。
【0067】
一方、高周波結合器10の縦長が横長よりも長くなると、遠方界の放射利得は増大し、電波法の基準を超えてしまい、認証を取得することが困難になる。また、送信電力が遠方界の放射利得のために送信電力が消費されてしまうことから、本来の近接無線転送に必要な近傍界の誘導電界の強度が弱くなってしまう。ここで、電波法の基準以下となるように送信電力を低下させると、近傍界の誘導電界の強度はさらに弱まるため、近接無線転送はいっそう不安定な通信となる。
【0068】
このように、高周波結合器10の縦長が横長よりも短く形成することで、近傍界の性能がよい高周波結合器をメモリーカード基板12上に配置することができる。したがって、この高周波結合器10並びに通信モジュールが内蔵されたメモリーカードを金属製の筐体からなるディジタルカメラなどに挿入した際に、高周波結合器の近傍界の性能が劣化しても、ディジタルカメラで撮影した画像などのデータを近接無線転送により高速且つ安定して伝送することができる。
【0069】
メモリーカード基板12上に形成された高周波結合器10は、縦長が横長よりも短いことから、遠方界の放射利得が小さい。したがって、送信出力を大きくしても、遠方に漏洩する電界強度が小さいので、他の通信システムに影響を与えないで済む。また、送信出力を大きくすることで、本来の近接無線転送を行なう近傍界の誘導電界の強度が強くなるので、金属製の筐体からなるディジタルカメラなどに挿入した場合であっても、安定した通信が可能になる。
【0070】
また、メモリーカード基板12上に形成された高周波結合器10は、縦長が横長よりも短いことから、横方向に電波を放射しない。このため、この高周波結合器10並びに通信モジュールが内蔵されたメモリーカードから見て横方向にあるディジタルカメラの金属製の筐体からの反射波により干渉の影響を低減することができる。
【0071】
ところで、メモリーカード基板12上に形成されるグランド14は、結合用電極11に蓄積された点電荷Qに対する鏡像電荷−Qを得るための平面導体としてだけでなく、メモリーカード基板12上に実装される各回路コンポーネントのグランドとしても作用する。図4に示したようにグランド14の導体パターンの縦長の長さを短縮した場合、他の回路コンポーネントのグランドとしては面積が小さくなってしまう。
【0072】
そこで、高周波結合器用のグランドと他の回路コンポーネント用のグランドを一体化した導体パターンとして形成するのではなく、図7に示すように、グランド14の導体パターンにスリット14Cを入れて、高周波結合器用の第1のグランド部分14Aと、他の回路コンポーネント用の第2のグランド部分14Bに分離するようにしてもよい。そして、高周波結合器用の第1のグランド部分14Aの縦長を横長よりも短くすることにより、遠方界の放射利得を低く抑えて電波法の基準を満たすようにするとともに、近傍界の結合強度を高く安定して近接無線転送を行なうことができるようになる。第1のグランド部分14Aには、共振部51が実装される。また、第2のグランド部分14B上には、通信回路部52、制御部53、メモリー54などの回路が実装され、各回路コンポーネント52〜54のGND端子は第2のグランド部分14Bに接地されている。
【0073】
なお、図7に示す例では、第1のグランド部分14Aと第2のグランド部分14Bがメモリーカード基板12の同一の表面上に形成されているが、同じ多層基板中の別の層(図示しない)に形成するようにしてもよい。
【0074】
勿論、他の回路コンポーネントをメモリーカード基板12上に配置しないときには、グランド14にスリットを設けて第1のグランド部分14Aから分離した第2のグランド部分14Bを形成する必要はなく、単にグランド14の縦長を短縮するだけでよい。
【0075】
なお、本明細書の開示の技術は、以下のような構成をとることも可能である。
(1)基板と、前記基板上に導体パターンとして形成された結合用電極及びグランドからなる高周波結合器と、前記結合用電極で送受信する高周波信号を処理する通信回路部と、前記結合用電極に流れ込む電流量を増大するための共振部と、
を具備し、前記高周波結合器は、縦長が横長よりも短く構成される、通信装置。
(2)前記結合用電極に蓄えられた電荷の中心と前記グランドに蓄えられた鏡像電荷の中心を結ぶ線分からなる微小ダイポールを形成し、前記微小ダイポールの方向となす角θがほぼ0度となるように対向して配置された通信相手に向けて前記高周波信号を伝送する、上記(1)に記載の通信装置。
(3)前記高周波結合器の縦長は、前記高周波信号の半波長よりも十分短い、上記(1)に記載の通信装置。
(4)前記結合用電極と前記グランドは、前記基板上の同一の表面に形成される、上記(1)に記載の通信装置。
(5)前記基板は多層構造であり、前記結合用電極と前記グランドは、前記基板上の別の層に形成される、上記(1)に記載の通信装置。
(6)前記基板上に、前記高周波結合器の前記グランドとは分離された、第2のグランドをさらに備える、上記(1)に記載の通信装置。
(7)前記高周波結合器の前記グランドと前記第2のグランドは、前記基板上の同一の表面に形成され、スリットで分離される、上記(6)に記載の通信装置。
(8)前記第2のグランドには、前記共振部以外の前記基板上に実装された回路コンポーネントの接地に用いられる、上記(6)に記載の通信装置。
(9)前記通信装置はメモリーカードに内蔵され、前記基板は、メモリー及びメモリーカード用の回路コンポーネントが実装されたメモリーカード基板である、上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の通信装置。
(10)前記通信装置は情報機器に内蔵され、前記基板は、前記情報機器の主要回路コンポーネントが実装された主要回路基板である、上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の通信装置。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本明細書で開示する技術について詳細に説明してきた。しかしながら、本明細書で開示する技術の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0077】
本明細書では、メモリーカード基板上に形成した結合用電極及びグランドの導体パターンにより高周波結合器を構成した実施形態を中心に説明してきたが、本明細書で開示する技術の要旨はこれに限定されるものではない。メモリーカード以外の任意の回路基板上に結合用電極及びグランドの導体パターンを形成してなる高周波結合器により、近接無線転送による通信を行なう通信装置を実現することができる。
【0078】
例えば、図8に示すように、主要回路基板(マザーボード)上に、縦長が横長よりも短くなる結合用電極及びグランドの導体パターンを形成して、遠方界の放射利得を低く抑えるとともに安定して近接無線転送を行なうことができる高周波結合器を有する通信装置をパーソナル・コンピューター内に装備することができる。
【0079】
要するに、例示という形態で本技術を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本技術の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【符号の説明】
【0080】
10…高周波結合器
11…結合用電極
12…メモリーカード基板
14…グランド
14A…第1のグランド部分、14B…第2のグランド部分
14C…スリット
51…共振部
52…通信回路部
53…制御部
54…メモリー
90…高周波結合器
91…結合用電極
92…直列インダクター
93…並列インダクター
94…グランド
95…高周波信号伝送路
96…通信回路部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に導体パターンとして形成された結合用電極及びグランドからなる高周波結合器と、
前記結合用電極で送受信する高周波信号を処理する通信回路部と、
前記結合用電極に流れ込む電流量を増大するための共振部と、
を具備し、
前記高周波結合器は、縦長が横長よりも短く構成される、
通信装置。
【請求項2】
前記結合用電極に蓄えられた電荷の中心と前記グランドに蓄えられた鏡像電荷の中心を結ぶ線分からなる微小ダイポールを形成し、前記微小ダイポールの方向となす角θがほぼ0度となるように対向して配置された通信相手に向けて前記高周波信号を伝送する、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記高周波結合器の縦長は、前記高周波信号の半波長よりも十分短い、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項4】
前記結合用電極と前記グランドは、前記基板上の同一の表面に形成される、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項5】
前記基板は多層構造であり、
前記結合用電極と前記グランドは、前記基板上の別の層に形成される、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項6】
前記基板上に、前記高周波結合器の前記グランドとは分離された、第2のグランドをさらに備える、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項7】
前記高周波結合器の前記グランドと前記第2のグランドは、前記基板上の同一の表面に形成され、スリットで分離される、
請求項6に記載の通信装置。
【請求項8】
前記第2のグランドには、前記共振部以外の前記基板上に実装された回路コンポーネントの接地に用いられる、
請求項6に記載の通信装置。
【請求項9】
前記通信装置はメモリーカードに内蔵され、
前記基板は、メモリー及びメモリーカード用の回路コンポーネントが実装されたメモリーカード基板である、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項10】
前記通信装置は情報機器に内蔵され、
前記基板は、前記情報機器の主要回路コンポーネントが実装された主要回路基板である、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項1】
基板と、
前記基板上に導体パターンとして形成された結合用電極及びグランドからなる高周波結合器と、
前記結合用電極で送受信する高周波信号を処理する通信回路部と、
前記結合用電極に流れ込む電流量を増大するための共振部と、
を具備し、
前記高周波結合器は、縦長が横長よりも短く構成される、
通信装置。
【請求項2】
前記結合用電極に蓄えられた電荷の中心と前記グランドに蓄えられた鏡像電荷の中心を結ぶ線分からなる微小ダイポールを形成し、前記微小ダイポールの方向となす角θがほぼ0度となるように対向して配置された通信相手に向けて前記高周波信号を伝送する、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記高周波結合器の縦長は、前記高周波信号の半波長よりも十分短い、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項4】
前記結合用電極と前記グランドは、前記基板上の同一の表面に形成される、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項5】
前記基板は多層構造であり、
前記結合用電極と前記グランドは、前記基板上の別の層に形成される、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項6】
前記基板上に、前記高周波結合器の前記グランドとは分離された、第2のグランドをさらに備える、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項7】
前記高周波結合器の前記グランドと前記第2のグランドは、前記基板上の同一の表面に形成され、スリットで分離される、
請求項6に記載の通信装置。
【請求項8】
前記第2のグランドには、前記共振部以外の前記基板上に実装された回路コンポーネントの接地に用いられる、
請求項6に記載の通信装置。
【請求項9】
前記通信装置はメモリーカードに内蔵され、
前記基板は、メモリー及びメモリーカード用の回路コンポーネントが実装されたメモリーカード基板である、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項10】
前記通信装置は情報機器に内蔵され、
前記基板は、前記情報機器の主要回路コンポーネントが実装された主要回路基板である、
請求項1に記載の通信装置。
【図6A】
【図8】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6B】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図8】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6B】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−5352(P2013−5352A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136773(P2011−136773)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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