説明

通気機構を持つ靴

【目的】靴内部の通気性を向上させることで足のムレを防止するとともに、雨天時においても靴内への水の浸入を防ぐ構造を持つ靴を提供する事にある。
【構成】外部開口(4)が設けられたアウトソール(2)、水の浸入を防ぐための迂回路(16)が設けられたミッドソールA(5)、迂回路(16)と空気通路(8)を持つミッドソールB(6)、先端には内部開口(10)、表面にはスリット(11)が刻まれたインソール(9)、一般的なアッパー(1)、などから成る構成の靴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通気性を有する構造の靴に関する。
【従来技術】
【0002】
従来の靴は、通気性と防水性をその素材性能に頼ってきた。本皮製の靴は通気性に優れるが、雨の日には履けない。ゴム製の靴底を採用した靴は雨には強いが、通気性に劣り、蒸れやすい。アッパー部分にメッシュ素材を用いた靴は、晴れの日には快適だが、雨の日に履く事はできない。このように、通気性と防水性は相反する要素であり、これらの要求を同時に満たす事は難しい。
【0003】
この問題を解決するために、特許文献1の「むれを防ぐ構造の靴」では、中底のつま先部分と踵部分が互いに連通するような空気室を設けることによって通気性を向上させようと試みた。特許文献2の「靴」は、ポンプ作用によって空気の取り込みと排出を行い、靴内の強制換気を行おうとした。特許文献3の「通気靴底」は、靴着用者の着地圧力による伸縮材の伸縮作用で、靴外部の空気を取り込むと共に、遮蔽板や立体メッシュなどを用いる事で、雨天時における靴内への水の浸入を防ごうとした。また、市販されているビジネスシューズでは、防水性と透湿性を両立させたハイテク素材、ゴアテックスをインナーに採用し、アウトソールの一部に開口を設けることで、水を浸入させずに汗の水蒸気だけを外部に放出させる構造としたものが存在する。
【0004】
特許文献1の「むれを防ぐ構造の靴」における発明は、通気構造が靴内の空気循環だけで完結してしまう点に問題が存在する。靴外部からの新鮮な空気の流入が不足し、足裏の汗が靴外部に排出されないことで、靴内はやがて蒸れてしまう事となる。
【0005】
特許文献2の「靴」と、特許文献3の「通気靴底」における発明は、「人が歩行運動をしなければその機能が働かない」という点において、重大な欠陥を有している。内勤者がサンダル履きをする事からも分かる通り、人間の足は歩行中以外でも多量の汗をかく。しかるに、通気機構は、歩行中も歩行時以外も常に有効に機能するものでなければならない。
【0006】
ゴアテックスを採用した靴の場合、アッパーをナイロン素材にした登山靴のような商品であれば、その通気性は確保されやすくなる。しかし、アッパー素材が革で、外部開口はアウトソールの一部に付くのみといったビジネスシューズの場合、その効果は限定的とならざるを得ない。なぜなら、「水蒸気は通すが雨は通さない」というゴアテックスの素材性能が発揮されるのは、外部開口が設けられた周辺部分に限られるからであり、靴内全てにおいてその効果が発揮される訳ではないからだ。
【特許文献1】公開特許公報 特開平7−100002
【特許文献2】公開特許公報 特開平10−85002
【特許文献3】公開特許公報 特開平6−141906
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで考案されてきた「通気機能靴」は、その機能に不完全な面があったばかりでなく、靴の見た目(デザイン)への配慮に欠けていた点も見逃す事ができない。外部に通気機構が見えてしまう事や、いかにも「通気機能靴」らしい外観となってしまう事は、靴のファッション性を低下させ、靴のデザイン的自由を奪う事になる。結果、それらの技術がファッション性の高い女性靴や高級紳士靴のラインナップにも採用され、一般に広く普及されるまでには至らなかった。
【0008】
この問題を解決するには、「一般的な靴」の形状を深く研究する必要がある。ビジネスシーンにおいて、伝統的に人々から「一般的な靴」として認識されているデザインを損なう事なく、「通気」と「防水」という相反する要素を同時に付加する必要があるのだ。この要求を満たすためには、人間の足に関する生物学的分析と熱力学的観点からも研究していく必要がある。防水性を考える上では、デザインと構造の両側面から解決を図っていかなければならない。これらにより、女性用パンプスや男性用高級ビジネスシューズにも採用できる汎用性の高い新技術を提供する事を、本発明の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためには、まず通気性を確保することが最優先事項となる。このためには、靴内部と靴外部において十分な空気交換が行われる方法をとるものとし、通気干渉が起きないように、換気を吸気と排気とに分けて考えるものとする。
【0010】
吸気を行うための方法は、請求項1記載のものである。本発明で講じた手段は、以下の通りである。
【0011】
図1に示した通り、靴底はアウトソール(2)、ミッドソールA(5)、ミッドソールB(6)、インソール(9)などからなるものとする。アウトソール(2)外部に、通気用の外部開口(4)を設ける。この際に最も適した場所は、アウトソール(2)中、傾斜がついた部位(3)の中で、ヒール(12)に隣接する場所である。ここは、靴外部のうち、最も人目につきにくい場所にあるため、靴のファッション性を損なうことがない。また、地上から高い位置にあるため、降雨時の浸水を受けにくく、傾斜角がついている事で、水たまり等を歩行した際に靴内に浸入しようとする水を自然排出する。前方歩行した際には、アウトソール(2)の傾斜角が増大する事によって、水は強制的に外部に排出される。
【0012】
図2は、図1のアウトソール(2)の外部開口(4)、ミッドソールA(5)に設けられた開口(7)、ミッドソールB(6)に設けられた開口(8)がそれぞれ同通する様子を表した概念図である。アウトソール(2)の外部開口(4)から取り入れられる空気は、空気導入通路(14)によって迂回させられた後、靴内部へと導かれる。雨天時における靴内への水の浸入は、この空気導入通路(14)における迂回路(16)とその段差(15)、アウトソールの傾斜角、外部開口(4)における段差(15)によって防がれる。
【0013】
靴底内部に導かれた空気は、ミッドソールA(5)に設けられた開口(7)およびミッドソールB(6)に設けられた開口(8)を通じて靴前方へと移動し、インソール(9)の先端に設けられた内部開口(10)によって靴内部に開放される。ここまでを吸気工程とする。
【0014】
この吸気工程の中で、ミッドソールB(6)に空気導入通路(14)が存在する事は、インソール(9)下部に空気層が形成される事を意味する。インソール(9)に皮革など吸湿性の高い素材を用いた場合、足裏の汗をよく吸収するが、その湿ったインソール(9)を乾かす役割を果たすのが、この空気層である。インソール(9)は、靴外部から新鮮な空気の供給を受け続ける事で、常に乾いた状態に保たれる。
【0015】
排気を行うための方法は、請求項2記載のものである。本発明で講じた手段は以下の通りである。
【0016】
排気工程は、インソール(9)の働きによって行われる。
【0017】
本発明でまず着目したのは、足の表面温度である。図3にある通り、人間の足の表面温度は部位によって差がある。つま先(18)と踵(19)の表面温度が一番低く、次いで足裏からつまの股にわたる部分(22)の温度が低い。表面温度が一番高いのは、甲から足首周辺(24)にかけての部分である。それらの温度差は、最大で約18度にも達する。
【0018】
次に、熱力学の応用を考える。空気の移動は、温度差のあるところに発生する。空気は、冷たいところから暖かいところに向って進行する。換気量は、開口部の解放面積に比例する。
【0019】
最後に、足の形状に着目する。人間の足裏は水平ではない。足の外側部分が比較的水平に近い形状を成しているのに対し、足の内側部分の土踏まず(20)部分はアーチを形成しその側面は足の上方に向ってなだらかに収束するカーブを描く(図4−21)。
【0020】
上記から、靴内から靴外へ排気を行う際には、下記の要領で行えば良いという結論が導かれる。
【0021】
図4に示した通り、靴内のつま先部分に存在する空気(25)は、つま先から踵に向けて進行するようにする。ただし、その空気の流れを生じさせるのは、踵の手前までとする。靴の上下方向においては、下から上へと空気が流れるようにする。足とインソール(9)の間に効果的に空気を流し、そして靴外部に開放するためには、土踏まず部分の開いた空間を利用する。
【0022】
上記から、インソール(9)は、図5の形状をとるものとする。インソール(9)には、つま先部分から土踏まず部分へ向ってなだらかな弧を描く複数本のスリット(11)が刻まれる。つま先部分にある空気(25)は、このスリット(11)を通り、土踏まず方向へと移動する。土踏まず部分(20)に到達した空気は、熱法則に従って上方へと向い、靴と足の間に存在する隙間(26)から靴外へと排出される。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に係る中底の構造により、靴外部の乾いた空気を、常時靴内部に取り入れる事が可能となる。防水方法においては、透過性シートやゴアテックスなど、空気抵抗となる防水素材を不要とする構造とした事で、それらを用いた商品に比べてより多くの空気を取り込む事ができる。この事で、靴内の足の蒸れや悪臭が防止され、快適な靴内環境がつくられる。
【0024】
請求項2の係るインソール(9)の構造によると、足裏に新鮮な空気が流れ、その空気が靴外に排出されるものであるため、靴内部の足裏の蒸れや悪臭が防止され、快適な靴内環境がつくられる。
【0025】
請求項1と請求項2の発明により、靴外部の乾いた空気を取り込み、足裏に流し、そして外部に排出するという、靴内における恒常的な空気の流れをつくる事ができる。この事で、靴内部は常に快適な状態が保たれ、足の蒸れや足の悪臭問題が解消される事となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
請求項1と請求項2は、それぞれ単独でも効果を発揮するが、同時に使用した時に、最大の効果を発揮する。なぜなら、排気量が増えれば吸気量もそれに伴って増大し、吸気量が増えれば排気量もまた同時に増加するからだ。また、請求項1と請求項2を単独で使用した場合、靴内で吸気と排気の干渉が起こりやすくなるが、請求項1と請求項2を同時に使用した場合は、空気の流れが一定方向となり、安定した性能を発揮する事が可能となる。
【0027】
請求項1のミッドソールA(5)、ミッドソールB(6)を形成する素材としては、高級靴を製作する際に一般に使用する皮革やコルクを用いることが望ましい。しかし、価格の低い一般的な靴や運動靴の場合は、その他の天然素材や合成素材などを用いることでも代用できる。また、防水手段として設けられた迂回路(16)周辺部分は、素材の表面を防水加工することが望ましい。
【0028】
請求項1の発明は、男性用、女性用を問わず、ビジネス用、普段着用、スポーツ用など多種多様な靴に用いる事ができる。構造的な問題から、長靴のような水たまりの中を積極的に歩く用途の靴には適さないが、その履く主たる目的が「見た目」であるロングブーツには、積極的に採用すべきである。
【0029】
請求項2のインソール(9)に用いる素材としては、皮革が優れている。皮革の表面をスリット巾ですくか、スリット巾で切り出した皮革をインソール(9)の下側から貼り付けることで、インソール(9)に凹凸をつくり出す。他の素材からインソール(9)を形成する場合も、同様な方法で製作することが可能であるが、合成素材から製造する場合は、型を造り成型しても良い。
【実施例】
【0030】
図6において、本発明の実施形態の概要を説明する。これは、皮製のビジネスシューズを想定した場合の分解傾斜図である。上部から順番にアッパー(1)、インソール(9)、ミッドソールB(6)、ミッドソールA(5)、アウトソール(2)で構成される。アウトソール(2)に設けられた外部開口(4)、ミッドソールA(5)に設けられた開口(7)、ミッドソールB(6)に設けられた開口(8)、インソール(9)に設けられた内部開口(10)が連通し、足裏に面するインソール(9)にはスリット(11)が刻まれる。シャンク(13)を使用する靴の場合、ミッドソールB(6)に設ける開口(8)の数は2本でも良い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る靴を切欠した傾斜断面図である。
【図2】本発明に係る空気導入通路の概念を示す傾斜図である。
【図3】足の表面温度をエリア分けした説明図である。
【図4】本発明に係る靴内の排気工程を説明する断面図である。
【図5】本発明に係るインソールの形状を示す平面図である。
【図6】本発明に係る実施形態の概要を示す分解傾斜図である。
【符号の説明】
【0032】
1 アッパー
2 アウトソール
3 アウトソールの傾斜部
4 アウトソールに設けられた外部開口
5 ミッドソールA
6 ミッドソールB
7 ミッドソールAに設けられた開口(空気通路)
8 ミッドソールBに設けられた開口(空気通路)
9 インソール
10 インソールに設けられた内部開口
11 インソールに設けられたスリット
12 ヒール
13 シャンク
14 空気導入通路
15 空気導入通路に設けられた段差
16 迂回路
17 足
18 つま先
19 踵
20 土踏まず
21 土踏まずの形状を示す線
22 足裏からつまの股にわたる部分
23 足裏と甲の間の中間部分
24 甲と足首の周辺部分
25 靴内のつま先部分に存在する空気
26 靴と足の間に存在する隙間
27 靴内の空気の流れを示す線
28 靴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気機構を持つ靴底の仕組み。
【請求項2】
通気機構を持つインソールの仕組み。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−268857(P2009−268857A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−140137(P2008−140137)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(507299024)
【Fターム(参考)】