説明

通風性防虫ネット

【課題】 ネット部の目合いが1mm以上であると、通風性は確保できるものの、体長1mm以下の体躯の小さい害虫をビニルハウス等に入れてしまう可能性がある。ネット部に紫外線吸収剤を保持させたものは、その染み出し及び変質によって長期的な防虫性能が劣化する可能性がある。そこで長期的に安定して防虫性能を発揮するとともに通風性を兼ね備えた通風性防虫ネットを提供する。
【解決手段】 ネット部2の目合いが1〜10mmである通風性防虫ネット1であって、ネット部2の帯電量が10kV/m2〜30kv/m2であることを特徴とする。
またネット部2の体積抵抗率が1010Ω・m以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目合いが1〜10mmである通風性防虫ネットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ビニルハウス等では内部空間に対する通風性を確保するため、ビニルの一部に防虫ネットを設けることが一般的であるが、そのネット部の目合いが0.4mm程度であると、実質的に通風性を確保することができない。一方、ネット部の目合いが1mm以上であると、通風性は確保できるものの、コナジラミ類やアザミウマ類をはじめとした体長1mm以下の体躯の小さい害虫をビニルハウス等に入れてしまう可能性がある。
【0003】
これに対し、通風性と防虫性を兼ね備えた通風性防虫ネットとして特開2000−217446号公報(特許文献1)に記載されている技術が知られている。
【0004】
これは、熱接着性繊維からなる糸条が、編織物に形成され、さらに前記糸条の交点が熱接着されて得られる、ネット部の目合いが0.4〜3mmである防虫ネットであって、熱接着性繊維に1〜15重量%の紫外線吸収剤を含有させることで、物理的に害虫の侵入を防止するだけでなく、害虫忌避効果をも併せ持ち、ビニルハウス等の農業施設内への害虫侵入が抑制される通風性防虫ネットを提供するものである。
【特許文献1】特開2000−217446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ネット部に紫外線吸収剤を保持させたものは、その染み出し及び変質によって長期的な防虫性能が劣化する可能性がある。
【0006】
本願発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、長期的に安定して防虫性能を発揮するとともに通風性を兼ね備えた通風性防虫ネットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載された発明は、ネット部の目合いが1〜10mmである通風性防虫ネットであって、ネット部の帯電量が10kV/m2〜30kv/m2であることを特徴とする通風性防虫ネットである。
【0008】
また請求項2に記載された発明は、請求項1に記載の通風性防虫ネットであって、ネット部の体積抵抗率が1010Ω・m以上であることを特徴とする。
【0009】
また請求項3に記載された発明は、請求項1に記載の通風性防虫ネットであって、ネット部の周縁部に設けられる絶縁材と、ネット部に臨んで設けられるイオン発生装置と、を備えるとともに、ネット部の体積抵抗率が10-6Ω・m以下であることを特徴とする。
【0010】
ここで、ネット部の目合いとは、防虫ネットを構成する糸条が作り出す隙間の大きさを表すもので、隣接する糸条間の距離をいう。
【0011】
また、ネット部の帯電量とは、ネット部を構成する糸条の表面積当たりの電位をいう。
【0012】
また、ネット部の体積抵抗率とは、ネット部を構成する糸条の体積抵抗率をいう。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載された発明によれば、ネット部の目合いが1〜10mmであるため、通風性を確保することができ、一方、ネット部の帯電量が10kV/m2〜30kv/m2であるため、網目を通過しようとする虫を静電的に補足することができる。さらに薬品を用いていないので、その染み出し及び変質によって長期的な防虫性能が劣化する可能性が少ない。
【0014】
請求項2に記載された発明によれば、ネット部の体積抵抗率が1010Ω・m以上であるので、帯電が容易となる。
【0015】
請求項3に記載された発明によれば、イオン発生装置がネット部に臨んで設けられているので、通風性防虫ネットを取付け後にも、帯電量を調節することが可能であり、帯電量の設定を任意に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本願発明の第一実施形態として、本願の請求項1及び2に対応した通風性防虫ネットについて図1及び図3により説明する。
【0017】
本実施形態の通風性防虫ネット1は、図1及び図3に示す如く、ネット部2の目合いが1〜10mmである通風性防虫ネット1であって、ネット部2の帯電量が10kV/m2〜30kv/m2であることを特徴とする。
【0018】
またネット部2の体積抵抗率が1010Ω・m以上であることを特徴とする。
【0019】
以下、本実施形態による通風性防虫ネット1を、より具体的詳細に説明する。
【0020】
最初に、通風性防虫ネット1であるが、これは後述するネット部2と、ネット部2の周縁部に設けられる取付用枠材5とで構成される。
【0021】
ここでネット部2は、糸条を構成する熱接着性繊維を編織物に形成し、この熱接着性を利用し糸条の交点を熱接着することで構成される。
【0022】
糸条を構成する繊維は、体積抵抗率が1010Ω・m以上であれば、汎用のものを使用することができるが、生産性の高さから熱接着性複合モノフィラメントが好ましい。
【0023】
ここで熱接着性複合モノフィラメントとは、少なくとも融点差が10℃以上ある低融点樹脂と高融点樹脂とからなり、繊維表面の少なくとも一部が連続する低融点樹脂により形成された二種以上の樹脂からなる熱接着性複合モノフィラメントである。熱接着性複合モノフィラメントの構造は、たとえば鞘芯型、並列型、海島型などのいずれも使用できる。中でも鞘芯型構造の熱接着性複合モノフィラメントは熱接着性が良好で一定しており好ましい。
【0024】
前記熱接着性複合モノフィラメントを構成する低融点樹脂および高融点樹脂としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドなどの熱可塑性樹脂を例示することができるが、とくに好ましくはポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂である。前記低融点樹脂および高融点樹脂の組合せの例としては、低融点樹脂/高融点樹脂で表わす場合、高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、直鎖状低密度ポリエチレン/ポリプロピレン、低密度ポリエチレン/ポリプロピレン、プロピレンと他のαオレフィンとの二元共重合体または三元共重合体/ポリプロピレン、直鎖状低密度ポリエチレン/高密度ポリエチレン、各種のポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレート、プロピレンと他のαオレフィンとの二元共重合体または三元共重合体/ポリエチレンテレフタレート、低融点熱可塑性ポリエステル/ポリエチレンテレフタレート、各種のポリエチレン/ナイロン6、ポリプロピレン/ナイロン6、プロピレンと他のαオレフィンとの二元共重合体または三元共重合体/ナイロン6、ナイロン6/ナイロン66、ナイロン6/熱可塑性ポリエステルなどを挙げることができる。
【0025】
前記の組合せの中では、ポリオレフィン同士もしくはポリオレフィンとポリエステルからなる組合せが好ましく、具体例としては、高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、エチレン・プロピレン・ブテン−1三元共重合体/ポリプロピレン、エチレン・プロピレン二元共重合体/ポリプロピレン、エチレン・プロピレン・ブテン−1三元共重合体/ポリエチレンテレフタレートおよび高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレートなどを挙げることができる。さらに、前記の組合せの中でポリオレフィン同士、たとえば高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、エチレン・プロピレン・ブテン−1三元共重合体/ポリプロピレン、エチレン・プロピレン二元共重合体/ポリプロピレンなどが耐薬品性の面から特に好ましい。
【0026】
前記熱接着性複合モノフィラメントの体積抵抗率は1010Ω・m以上であり、これを満たす範囲内で、安定剤、難燃剤、抗菌剤、着色剤などを添加し含有させることができる。
【0027】
糸条を構成する繊維の繊度は、100〜5000dtex、好ましくは300〜2800dtexである。繊度が100dtex未満では、前記ネット部2の強度が小さく、ネット部2にかかる圧力によって目合いが広がる可能性がある。繊度が5000dtexを超えると、ネット部2の剛性が高くなって作業性が悪くなり、通風性防虫ネット1自体の重量が大きくなって運搬や取付が困難となる可能性がある。
【0028】
ネット部2の目合いは1〜10mm、より好ましくは1〜3mmである。目合いが1mm未満では、通気性が悪くなり、ビニルハウス等の被覆された施設内の作物に蒸れの被害が発生することがある。目合いが10mmを超えると、帯電していても害虫が侵入しやすくなり防虫性が低下する。
【0029】
また、ネット部2は、上述の如く、前記の熱接着性繊維からなる糸条をネット状に編織したものである。編織と同時に、もしくは編織後に、得られた編織物を熱接着性繊維からなる糸条の交点が熱接着しうる温度以上に加熱することにより、前記の糸条の交点が熱接着されていてもよい。糸条の交点を加熱し熱接着させるための装置としては、熱風型加熱機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機、高圧蒸気加熱機、超音波型加熱機、熱ロール型加熱機、熱圧着ロール型加熱機などを挙げることができ、これらは単独でも複数組合わせて使用してもよい。とりわけ、熱風型加熱機と熱ロール型加熱機、または熱風型加熱機と熱圧着ロール型加熱機を組合わせた装置を使用すると、交点の接着強度の高い通風性防虫ネット1を得ることができる。
【0030】
さらに、ネット部2は、前記の編織において、織りパターンなどが限定されることはない。すなわち、経糸や緯糸に用いられる熱接着性繊維からなる糸条の配列、単位長さ当りの糸条本数などは、任意に設定できる。織り構造としては、平織り、綾織り、朱子織り、絡み織り、ラッセル織りなどが挙げられるが、編織性、目合いの調節しやすさ、防虫性などを考慮した場合、平織りが好ましい。熱接着性繊維からなる糸条の打ち込み本数は、本発明のネット部2が利用される作物の種類、害虫の種類と大きさなどにより適宜決定される。
【0031】
得られたネット部2は、図1及び図3に示す如く、絶縁材で構成される取付用枠材5に装着され、通風性防虫ネット1として、ビニルハウスの天窓や側面の開口部6に装着される。
【0032】
取り付けられた通風性防虫ネット1の帯電であるが、汎用の方法を使用できる。本第一実施形態では、図1に示す如く、取付用枠材5の一辺に沿ってレール7を設置し、これにイオン発生装置4が移動自在に備えられている。イオン吹き付けにあたっては、イオン発生装置4がレール7上を移動し、さらに吹き付け角度を任意のものに変更することでネット部2の全面を帯電させることとしている。
【0033】
帯電量は、10kV/m2〜30kv/m2であることが必要である。10kV/m2以下では害虫の補足が困難であり、30kv/m2では帯電装置のコストが大きくなると同時に、ネット部2の劣化が早くなる可能性がある。
【0034】
イオン発生装置は、たとえば正負の電荷を付与するための針電極と、それに接続される交流高電圧源(例えば、7〜10kV)と、送風機とからなるコロナ放電式のイオンブロワーなどがよく、1つのイオン発生装置にはイオンブロワーが複数配置されていてもよい。
【0035】
続いて、本願発明の第二実施形態として、本願の請求項1及び3に対応した通風性防虫ネットについて図2及び図4により説明する。
【0036】
本第二実施形態の通風性防虫ネット1は、図2及び図4に示す如く、ネット部2の目合いが1〜10mmである通風性防虫ネット1であって、ネット部2の帯電量が10kV/m2〜30kv/m2であることを特徴とする。
【0037】
また、ネット部2の周縁部に設けられる絶縁材3と、ネット部2に臨んで設けられるイオン発生装置4と、を備えるとともに、ネット部2の体積抵抗率が10-6Ω・m以下であることを特徴とする。
【0038】
以下、本第二実施形態による通風性防虫ネット1を、より具体的詳細に説明するが、第一実施形態と相違する、ネット部2、絶縁材3及びイオン発生装置4について説明する。
【0039】
最初に、ネット部2であるが、これは糸条を構成する金属繊維を編織物に形成したものである。糸条を構成する金属繊維の材質としては、鉄、ステンレス、銅、スチール、アルミニウム、タングステン、クロム、ニクロム、マグネシウム、真鍮、チタン、ニッケル等を挙げることができる。
【0040】
ネット部2の目合い、織りパターン等は、第一実施形態と同様である。
【0041】
絶縁材3は、ネット部2の周縁部に設けられて、他の構造物(ハウスの枠体、地面等)が接触により電荷がネット部2から逃げるのを防ぐもので、体積抵抗率は1010Ω・m以上であるプラスチック等の樹脂、ガラス、セラミック等の無機物を使用することができる。
【0042】
イオン発生装置4は、ネット部2の近傍、例えばネット部2の隅部に固定して設置され、イオンをネット部2に吹き付けネット部2の全体を帯電させる。ネット部2を構成する糸条の体積抵抗率が10-6Ω・m以下であることから、イオンの吹き付けがネット部2の一部であっても、糸条を通ってネット部2の全面が帯電するので、イオン発生装置4を移動自在に備える必要がなくなる。
【0043】
イオン発生装置4は、第一実施形態と同様にコロナ放電式のイオンブロワーなどがよく、1つのイオン発生装置にはイオンブロワーが複数配置されていてもよい。また、イオン発生装置が1ケの通風性防虫ネット1に対して複数設置されていてもよい。
【0044】
ここで、目合い及び帯電量と、通風性及び防虫性の測定結果について、本願発明の実施例1〜4、比較例1〜7について、説明する。
【0045】
ここで表1は、目合い、帯電量のそれぞれについて、通風性及び防虫性を求めたものである。
【0046】
【表1】

【0047】
帯電量は、キーエンス社製静電気センサSK−030、SK−200によりネット部2の糸条の表面の電位を測定することで評価した。
【0048】
通気性は、空隙率をもって評価した。なお、表2に示す如く、予備実験によって空隙率が60%以上である場合には、風下/風上風速比が75%を超えることが確認されたので、空隙率が60%以上の場合には、判定を○とし、60%を下回る場合には判定を×とした。
【0049】
【表2】

【0050】
防虫性は、実施例及び比較例の防虫ネットで蓋をした箱の中シルバーリーフコナジラミを100頭入れ、箱内部から見える位置に紫外線ランプを設置し、24時間後に箱内部に残った虫の割合を調べて確認した。防虫性が90%以上の場合には、判定を○とし、90%を下回る場合には判定を×とした。
【0051】
以上に示すごとく、実施例1〜4と比較例1〜7の結果から明らかなように、本第一及び第二実施形態によれば、目合いが1〜10mmであるため、通風性を確保することができ、一方、帯電量が10kV/m2〜30kv/m2であるため、網目を通過しようとする虫を静電的に補足することができる。さらに薬品を用いていないので、その染み出し及び変質によって長期的な防虫性能が劣化する可能性が少ない。
【0052】
また、本第一実施形態によれば、体積抵抗率が1010Ω・m以上であるので、帯電が容易となる。
【0053】
さらに、本第二実施形態によれば、イオン発生装置4がネット部2に臨んで設けられているので、通風性防虫ネットを取付け後にも、帯電量を調節することが可能であり、帯電量の設定を任意に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本願発明の第一実施形態における通風性防虫ネットの斜視図
【図2】本願発明の第二実施形態における通風性防虫ネットの斜視図
【図3】本願発明の第一実施形態における通風性防虫ネットの取付時の斜視図
【図4】本願発明の第二実施形態における通風性防虫ネットの取付時の斜視図
【符号の説明】
【0055】
1 通風性防虫ネット
2 ネット部
3 絶縁材
4 イオン発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネット部の目合いが1〜10mmである通風性防虫ネットであって、ネット部の帯電量が10kV/m2〜30kv/m2であることを特徴とする通風性防虫ネット。
【請求項2】
ネット部の体積抵抗率が1010Ω・m以上であることを特徴とする請求項1に記載の通風性防虫ネット。
【請求項3】
ネット部の周縁部に設けられる絶縁材と、ネット部に臨んで設けられるイオン発生装置と、を備えるとともに、ネット部の体積抵抗率が10-6Ω・m以下であることを特徴とする請求項1に記載の通風性防虫ネット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−37505(P2007−37505A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227514(P2005−227514)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】