説明

連続除染、滅菌装置及び方法

【課題】パッケージの外装面を除染、滅菌して当該パッケージを無菌作業室に搬送するに際し、高い除染、滅菌効果と高い生産性を有しており、また、除染、滅菌効果の信頼性と安全性を高く維持すると共に、装置の初期費用とメンテナンス費用を低く抑えることができる連続除染、滅菌装置及び方法を提供する。
【解決手段】除染室120と、滅菌室130と、収納体10を搬送する搬送手段20、70とを有しており、除染室は、搬送手段に沿って除染室の内部を循環する複数のチャンバー40と、これらのチャンバーを循環させながら、当該チャンバーの内部に収納体の底面及び側面外装部を収容する収容機構53及び取出す取出機構54を具備する循環手段50と、チャンバーの内部に収容された収納体の底面及び側面外装部に除染用ガスを供給する除染用ガス供給手段Gとを備え、滅菌室は、収納体の上面外装部に電子線を照射する電子加速器60、61を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滅菌済みの物品を収納したパッケージの外装面を除染、滅菌して、この除染、滅菌後のパッケージを無菌環境の作業室に搬送する連続除染、滅菌装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療現場での利便性から前もって医薬品を充填したプレフィルドシリンジやバイアルなどが製造されている。これらのシリンジやバイアルなどに医薬品を充填する作業は、無菌環境下の充填作業室(以下、無菌作業室という)で行われる。この作業に使用するシリンジやバイアルなどは、1つ1つが小さなものであり、また、処理される数量も多く必要とされる。そこで、これらのシリンジやバイアルなどは、それぞれの製造段階でγ線照射、電子線照射、EOG(エチレンオキサイドガス)などで滅菌され所定個数をまとめてパッケージに収納した状態で無菌作業室に搬入される。
【0003】
このパッケージには、例えば、下記特許文献1に提案され或いは従来技術として記載される医療用器具パッケージなどがある。これらのパッケージは、一般に、剥き開きパッケージ(peel−open package)とよばれ、内部に収納されるシリンジやバイアルなどの物品の形状に合わせて成形されたプラスチック製タブと気体透過可能な上面シールとを備えている。この上面シールには、一般に高密度ポリエチレン極細繊維からなる不織布、タイベック(商標)が使用され、このタイベック(商標)が有する微細孔を通してプラスチック製タブ内部への気体の透過は可能であるが、微生物の侵入は阻止される。
【0004】
このように構成されたパッケージは、更にその外部を包装袋で包装されて流通、運搬される。しかし、流通や運搬の際、或いは、無菌作業室に搬入するためにその包装袋から取り出される際に、プラスチック製タブ及び上面シールの外装面が汚染される。従って、この汚染された外装面を除染或いは滅菌しなければ無菌作業室に搬入することはできない。そこで、無菌作業室に連設された除染装置或いは滅菌装置によりプラスチック製タブ及び上面シールの外装面を除染或いは滅菌してから無菌作業室に搬送し、無菌作業室内でプラスチック製タブから上面シールを剥き開き、内部の滅菌されたシリンジやバイアルに対して充填作業が行われる。
【0005】
これらの除染装置、滅菌装置には、EOG(エチレンオキサイドガス)、過酸化水素低温ガス、オゾンガス、プラズマ、γ線照射、紫外線照射或いは電子線照射など種々の方法が目的に合わせて採用されている。これらの中で、最も一般的な方法の一つに過酸化水素低温ガスによる除染方法がある。
【0006】
過酸化水素低温ガスによる方法では、要求されるレベルの除染効果を得ることができるが、パッケージの全体を除染するにはある程度の処理時間を要し、また、過酸化水素低温ガスがタイベック(商標)からなる上面シールを通してプラスチック製タブ内部に侵入した場合には、内部で凝縮した過酸化水素の除去に時間を要するという問題があった。
【0007】
そこで、プレフィルドシリンジの製造のように、単位時間当たりに数多くの物品を処理する必要がある除染装置或いは滅菌装置においては、短時間処理で除染、滅菌効果の高い方法が望まれる。そこで、下記非特許文献1には、一般的な過酸化水素低温ガスなどによる装置に比べ、高い滅菌効果が得られ、しかも、生産性が高く残留物質のない安全な装置として、小型の電子線照射装置(小型電子加速器)を組み込んだ滅菌装置が紹介されている。
【0008】
この滅菌装置は、プレフィルドシリンジを収納したパッケージの処理に実際に稼働するもので、予め滅菌処理されたシリンジが入ったパッケージは、その外装面を電子線で滅菌されて無菌作業室にコンベアで搬送される。この装置は、それぞれ120度の角度で配置された3台の小型電子加速器で3方向からパッケージの全面を照射する。
【0009】
なお、この装置においては、照射する電子線の線量を制御することにより、プラスチック製タブと上面シールとを効率的に滅菌することができる。下記非特許文献1によると、この装置により、1時間当たり3600個ものシリンジを処理することが可能となり高い生産性が実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4237489号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】財団法人放射線利用振興協会、放射線利用技術データベース、データ番号:010306(作成:2007/10/03、関口正之)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上記非特許文献1の滅菌装置においては、医療用器具パッケージの外装面全体を滅菌するために、それぞれ120度の角度で配置された3台の小型電子加速器が同時に稼働する。この小型電子加速器は、1台当りの価格が高価であり、また、その使用積算時間による使用限界(寿命)がある。従って、3台同時に稼働することにより、装置の初期費用とメンテナンス費用が高くなるという問題があった。
【0013】
また、小型電子加速器の使用限界(寿命)が3台毎に不規則に到来すると、その都度、交換に相当の時間を必要として滅菌の作業性が大幅に低下するだけでなく、滅菌効果の信頼性と安全性が阻害されるという問題があった。この問題に対処して、所定使用時間で3台同時に交換することが考えられるが、この場合にはメンテナンス費用が更に高くなるという問題があった。
【0014】
そこで、本発明は、上記の諸問題に対処して、パッケージの外装面を除染、滅菌して当該パッケージを無菌作業室に搬送するに際し、高い除染、滅菌効果と高い生産性を有しており、また、除染、滅菌効果の信頼性と安全性を高く維持すると共に、装置の初期費用とメンテナンス費用を低く抑えることができる連続除染、滅菌装置及び方法を提供することを目的とする。
【0015】
ここで、「除染」とは、「無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針」(いわゆる日本版無菌操作法ガイドライン)によると、「再現性のある方法で生存微生物や微粒子を除去、または予め指定されたレベルまで減少させること」と定義されている。
【0016】
一方、「滅菌」とは、上記日本版無菌操作法ガイドラインによると、「病原体、非病原体を問わず、全ての種類の微生物を殺滅し、または除去することで、目的とする物質の中に微生物が全く存在しない状態を得るための方法」と定義されている。
【0017】
しかし、確率的な概念からは菌数をゼロにすることはできないので、実務上は、無菌性保証水準(SAL:Sterility Assurance Level)が採用される。そこで、上記目的を考慮して、本発明において「除染」とは、収容体の外装部から生存微生物を減少させることであって、SAL≦10-6のレベルを保証することとする。このレベルを保証することのできる除染方法としては、例えば、過酸化水素ガスによる方法が利用できる。
【0018】
一方、本発明において「滅菌」とは、収容体の外装部から全ての種類の微生物を殺滅し、または除去することであって、SAL≦10-12のレベルを保証することとする。このレベルを保証することのできる滅菌方法としては、例えば、電子線照射において必要線量を例えば、25kGyとする方法(ISO‐13409参照)などが利用できる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、電子線照射による滅菌と過酸化水素ガス処理による除染とを組み合わせ、パッケージのプラスチック製タブと上面シールの部分とを異なる方法で効率よく除染、滅菌することにより、高価な小型電子加速器を複数台使用しなくても生産性の高い安全な除染、滅菌を行えることを見出して本発明の完成に至った。
【0020】
即ち、本発明に係る連続除染、滅菌装置は、請求項1の記載によれば、
無菌作業室(200)に連設されて、滅菌済みの物品を収納してなる収納体(10)の外装部を除染、滅菌して、当該収納体を上記無菌作業室の内部に搬送する連続除染、滅菌装置(100)において、
上記収納体の底面及び側面外装部を除染する除染室(120)と、
上記収納体の上面外装部を滅菌する滅菌室(130)と、
上記除染室と上記滅菌室とを経由して上記収納体を上記無菌作業室に搬送する搬送手段(20、70)とを有しており、
上記除染室は、
上記搬送手段に沿って上記除染室の内部を循環する複数のチャンバー(40)と、
上記複数のチャンバーを循環させながら、当該チャンバーの内部に上記収納体の上記底面及び側面外装部を収容する収容機構(53)及び取出す取出機構(54)を具備する循環手段(50)と、
上記チャンバーの内部に収容された上記底面及び側面外装部に除染用ガスを供給する除染用ガス供給手段(G)とを備え、
上記滅菌室は、
上記収納体の上面外装部に電子線を照射する電子加速器(60、61)を備えていることを特徴とする。
【0021】
上記構成によれば、連続除染、滅菌装置は、除染室と滅菌室とに区画されており、これら両室を経由して収納体を搬送する搬送手段を備えている。このことにより、複数の収納体が搬送手段により搬送されて、無菌作業室の外部から除染室及び滅菌室を経由して無菌作業室の内部に連続して搬送される。
【0022】
この間、除染室では、各収納体の底面及び側面外装部が除染用ガスにより除染される。収納体の底面及び側面外装部は、プラスチック成型品などで構成されており、また、その後の薬液充填工程においては、充填後の無菌保証に直接影響しない部分であることから、SAL≦10-6のレベルを保証する除染が行われる。
【0023】
この除染室では、まず、その内部に備えられた複数のチャンバーが各収納体の底面及び側面外装部をそれぞれ収容する。その後、各収納体の底面及び側面外装部は、除染用ガスにより十分に除染される。このとき、従来の除染装置のように、除染室全体に除染用ガスが供給されることがなく、チャンバー毎にそれぞれ局所的に除染用ガスが供給される。このことにより、除染用ガスの供給及び排気の効率がよく、高い生産性を維持することができる。また、収納体の底面及び側面外装部のみが処理されるので、収納体の蓋(上面シールなど)が微細孔を有するものであっても、この蓋(上面シールなど)を通して収納体の内部に除染用ガスが侵入することがない。
【0024】
続いて、滅菌室では、各収納体の上面外装部が電子線照射により滅菌される。収納体の上面外装部は、微細孔を有する材料で構成されることもあり、また、その後の薬液充填工程においては、充填後の無菌保証に直接影響する部分であることから、SAL≦10-12のレベルを保証する滅菌が行われる。
【0025】
この滅菌室では、チャンバーから取り出された収納体の上面外装部が電子線照射により十分に滅菌される。このように、収納体の上面外装部のみに電子線照射すればよいので、稼働する電子加速器の台数は1台となり、装置の初期費用が安価であり、また、交換作業が簡単になりメンテナンス費用が安く抑えられる。また、この1台の電子加速器を使用限界(寿命)までフルに使用することができるので、メンテナンス費用が安く、更に、除染効果の信頼性と安全性を高く維持することができる。
【0026】
更に、この滅菌室で電子線照射される間に、前段階の除染室で使用された除染用ガスを除去するエアレーションを兼ねることができるので、全体の処理時間を短縮することができ、高い生産性を維持することができる。
【0027】
よって、本発明は、パッケージの外装面を除染、滅菌して当該パッケージを無菌作業室に搬送するに際し、高い除染、滅菌効果と高い生産性を有しており、また、除染、滅菌効果の信頼性と安全性を高く維持すると共に、装置の初期費用とメンテナンス費用を低く抑えることができる連続除染、滅菌装置を提供することができる。
【0028】
また、本発明に係る連続除染、滅菌装置は、請求項2の記載によれば、
無菌作業室(200)に連設されて、滅菌済みの物品を収納してなる収納体(10)の外装部を除染、滅菌して、当該収納体を上記無菌作業室の内部に搬送する連続除染、滅菌装置(150)において、
上記収納体の底面及び側面外装部を除染すると共に、当該収納体の上面外装部を滅菌する除染、滅菌室(170)と、
上記除染、滅菌室を経由して上記収納体を上記無菌作業室に搬送する搬送手段(20)とを有しており、
上記除染、滅菌室は、
上記搬送手段に沿って上記除染室の内部を循環する複数のチャンバー(40)と、
上記複数のチャンバーを循環させながら、当該チャンバーの内部に上記収納体の上記底面及び側面外装部を収容する収容機構(53)及び取出す取出機構(54)を具備する循環手段(50)と、
上記チャンバーの内部に収容された上記底面及び側面外装部に除染用ガスを供給する除染用ガス供給手段(G)と、
上記収納体の上面外装部に電子線を照射する電子加速器(62)とを備えていることを特徴とする。
【0029】
上記構成によれば、連続除染、滅菌装置は、除染が行われる除染室と滅菌が行われる滅菌室とを区画することなく、除染と滅菌とが同じ室で同時に行われる。すなわち、収納体の底面及び側面外装部が除染されている間に、同時に収納体の上面外装部が滅菌される。このことにより、除染と滅菌の処理時間が重複し、より短時間で収納体の除染、滅菌を行うことができ、高い生産性を発揮することができる。よって、請求項2に記載の発明においては、請求項1に記載の発明と同様の作用効果を達成することができる。
【0030】
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項1又は2に記載の連続除染、滅菌装置であって、
上記除染用ガスは、過酸化水素ガス或いは過酸化水素を含有するガスであることを特徴とする。
【0031】
上記構成に用いられる過酸化水素ガスは、各種除染用ガスのうち除染剤としての適性バランスが良く、収納体の底面及び側面外装部を十分に除染することができる。よって、請求項3に記載の発明においては、請求項1又は2に記載の発明と同様の作用効果をより一層達成することができる。
【0032】
また、本発明は、請求項4の記載によれば、請求項3に記載の連続除染、滅菌装置であって、
上記底面及び側面外装部に供給する上記過酸化水素ガス或いは過酸化水素を含有するガスの温度は、40℃〜60℃の範囲内にあることを特徴とする。
【0033】
通常、除染に使用される過酸化水素ガスは低温ガスであり、その温度は、ほぼ室温であるが、上記構成によれば、40℃〜60℃という高温の過酸化水素ガス或いは過酸化水素を含有するガスを用いて収納体の底面及び側面外装部を除染することができる。
【0034】
除染効果或いは滅菌効果を表す値に滅菌(除染)処理単位:D値(Decimal reduction value)がある。ここで、D値は、初期の菌数を1/10にするのに必要な過酸化水素ガスの濃度・温度・時間であり、例えば、濃度を一定にした場合には、室温の過酸化水素ガスによるD値(処理時間)より、40℃〜60℃の過酸化水素ガスによるD値(処理時間)は小さな値を示す。このことにより、収容体の底面及び側面外表面を除染する過酸化水素ガス或いは過酸化水素を含有するガスの温度を40℃〜60℃にすることにより、より効果的で且つ短時間の除染が可能となる。よって、請求項4に記載の発明においては、請求項3に記載の発明と同様の作用効果をより一層達成することができる。
【0035】
また、本発明に係る連続除染、滅菌方法は、請求項5の記載によれば、
滅菌済みの物品を収納してなる収納体を無菌作業室の内部に搬送する搬送工程中に当該収納体の外装部を除染、滅菌する連続除染、滅菌方法において、
上記収納体の底面及び側面外装部をチャンバーの内部に収容する収容工程と、
上記チャンバーの内部に収容された上記底面及び側面外装部に除染用ガスを供給して当該底面及び側面外装部を除染する除染工程と、
上記チャンバーの内部から上記底面及び側面外装部を取出す取出工程と、
上記収納体の上面外装部に電子線を照射して当該上面外装部を滅菌する滅菌工程とを備えていることを特徴とする。
【0036】
上記構成によれば、上記請求項1及び2において説明したと同様の理由で、パッケージの外装面を除染、滅菌して当該パッケージを無菌作業室に搬送するに際し、高い除染、滅菌効果と高い生産性を有しており、また、除染、滅菌効果の信頼性と安全性を高く維持すると共に、装置の初期費用とメンテナンス費用を低く抑えることができる連続除染、滅菌方法を提供することができる。
【0037】
また、本発明は、請求項6の記載によれば、請求項5に記載の連続除染、滅菌方法であって、
上記除染用ガスは、過酸化水素ガス或いは過酸化水素を含有するガスであることを特徴とする。
【0038】
上記構成においても、上記請求項3において説明したと同様の理由で、請求項5に記載の発明と同様の作用効果をより一層達成することができる。
【0039】
また、本発明は、請求項7の記載によれば、請求項6に記載の連続除染、滅菌方法であって、
上記底面及び側面外装部に供給する上記過酸化水素ガス或いは過酸化水素を含有するガスの温度は、40℃〜60℃の範囲内にあることを特徴とする。
【0040】
上記構成においても、上記請求項4において説明したと同様の理由で、請求項6に記載の発明と同様の作用効果をより一層達成することができる。
【0041】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本実施形態に係る連続除染、滅菌装置の第1実施形態の概要を示す縦断面図である。
【図2】本実施形態に係る連続除染、滅菌装置の第2実施形態の概要を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明に係る連続除染、滅菌装置の各実施形態を図面に従って説明する。
(第1実施形態)
図1に示すように、本第1実施形態に係る連続除染、滅菌装置100は、無菌作業室200に連設している。この連続除染、滅菌装置100は、ステンレス製金属板からなる壁部で構成された箱体からなり、その内部は、前室110と除染室120と滅菌室130とに各壁部で区画されている。
【0044】
前室110の前壁部には、上下方向に開閉可能なシャッター110aが設けられている。前室110と除染室120との間の共通の壁部には、上下方向に開閉可能なシャッター120aが設けられている。除染室120と滅菌室130との間の共通の壁部には、上下方向に開閉可能なシャッター130aが設けられている。また、滅菌室130と無菌作業室200との間の共通の壁部には、上下方向に開閉可能なシャッター130bが設けられている。
【0045】
連続除染、滅菌装置100の各室及び無菌作業室200は、それぞれ外部環境と遮断された無菌状態を維持しているが、特に、充填作業が行われる無菌作業室200への菌の侵入を阻止するために、各室の内部空気圧を吸気装置(図示せず)からの吸気によって調節する。つまり、無菌作業室200の空気圧が高く、順次、前室110に向けて空気圧を下げながら、無菌作業室200>滅菌室130>除染室120>前室110となるように維持している。
【0046】
前室110と除染室120との内部には、両室に亘って移動する移送リフト20が設けられ、前室110のシャッター110aを開放して搬入されるパッケージ10を把持して前室110から除染室120に向けて搬送する。この移送リフト20は、シャッター120aの開閉を妨げることなく前室110と除染室120との遮蔽を維持するように設置されている。
【0047】
パッケージ10は、上面が開放された矩形筒体のポリエチレン製タブと、この解放された上面を覆うタイベック(商標)からなる上面シールとを備え、ポリエチレン製タブと上面シールとは、ヒートシールにより密封されている。このパッケージ10の内部には、多数のシリンジ(図示せず)が滅菌された状態で収納されている。
【0048】
前室110は、上述の移送リフト20とHEPAフィルタ30とを備え、HEPAフィルタ30は、前室110の上部に設けられて、吸気装置(図示せず)から吸入した空気を浄化して、前室110の内部を上方から下方に向けて流れる一方向流の空気を形成している。この一方向流の空気は、前室110に搬入されたパッケージ10の外装部に沿って流れ、前室110の下方部に設けられた排気口(図示せず)から排気される。
【0049】
除染室120は、上述の移送リフト20と、HEPAフィルタ31と、複数のチャンバー40と、これらのチャンバー40を循環させる循環機構50と、各チャンバー40の内部に除染用ガスを供給する過酸化水素ガス供給機構G(図示せず)とを備えている。
【0050】
HEPAフィルタ31は、除染室120の上部に設けられて、吸気装置(図示せず)から吸入した空気を浄化して、除染室120の内部を上方から下方に向けて流れる一方向流の空気を形成している。この一方向流の空気は、前室110から除染室120に搬入されたパッケージ10の外装部に沿って流れ、除染室120の下方部に設けられた排気口(図示せず)から排気される。
【0051】
チャンバー40は、上面部が開放されたステンレス製金属板からなる箱体であって、各パッケージ10を下方から受承して、各パッケージ10の底面及び側面外装部をその内部に収容する。この状態で、パッケージ10の底面及び側面外装部は、チャンバー40の内壁部と共にパッケージ10の内部に閉鎖された空間を形成する。また、各チャンバー40の側面には、過酸化水素ガス供給機構Gの供給ノズル(図示せず)を内部に挿入するシール式の給気口及びシール式の排気口(いずれも図示せず)が設けられている。
【0052】
循環機構50は、2つのコンベア51、52と2つのチャンバー昇降機53、54とを備えている。上部コンベア51は、パッケージ10を下方から受承した状態のチャンバー40を図示左方向に搬送する。下部コンベア52は、パッケージ10を受承していない状態のチャンバー40を図示右方向に搬送する。
【0053】
2つのチャンバー昇降機53、54は、それぞれ、チャンバー40の下端部を受承する受承部材53a、54aとこの受承部材53a、54aを上下動させる可動部材53b、54bとを具備している。前部チャンバー昇降機53は、除染室120前部のシャッター120aの手前にあって、下部コンベア52から送られてくるチャンバー40を上部コンベア51に受け渡す。後部チャンバー昇降機54は、除染室120後部のシャッター130aの手前にあって、上部コンベア51から送られてくるチャンバー40を下部コンベア52に受け渡す。このことにより、複数のチャンバー40は、それぞれ、除染室120の内部を図示反時計回りに循環する。
【0054】
過酸化水素ガス供給機構Gは、供給ノズル及びエアレーションノズル(共に図示せず)を備え、供給ノズルは、除染室120の外部に配設された過酸化水素ガス発生装置(図示せず)から送られる過酸化水素ガスを各チャンバー40の内部に形成された閉鎖された空間に供給する。また、エアレーションノズルは、除染後の過酸化水素ガスを上記閉鎖された空間から排出する際にエアーを供給する。過酸化水素ガス発生装置は、通常のものを使用すればよく、一般に、蒸発装置と薬液タンクと送風機とを具備している。
【0055】
上記閉鎖された空間は、上述のように、パッケージ10の底面及び側面外装部とチャンバー40の内壁部とが形成するものであって、供給された過酸化水素ガスによってパッケージ10の底面及び側面外装部が除染される。具体的には、過酸化水素ガスは、上部コンベア51上の位置Aにあるチャンバー40の内部に供給され、位置Bにあるチャンバー40の内部から排気されると共にエアレーションが行われる。
【0056】
滅菌室130は、2台の電子加速器60、61と、除染室120から滅菌室130に搬入されたパッケージ10を搬送する搬送機構70とを備えている。また、滅菌室130では、内部の空気を下方に吸引するエアレーションが行われる。このエアレーションにより、パッケージ10の底面及び側面外装部を除染した過酸化水素ガスの除去が完全に行われ、残留する過酸化水素ガスが無菌作業室200に侵入することを防止している。
【0057】
2台の電子加速器60、61は、滅菌室130の上部から照射面を下方に向けて位置し、同一形式のものが2台直列に設けられている。一方の電子加速器60は、稼働状態にある装置であって、他方の電子加速器61は、稼働中の電子加速器60が使用限界(寿命)を迎えたときの予備の装置として配設されている。これらの電子加速器60、61は、一般に小型或いは低エネルギー型といわれるものを使用すればよく、例えば、放射線源:40〜200kV、3.5〜5mAであってもよい。
【0058】
搬送機構70は、コンベア71と2つのパッケージ積替機72、73とを備えている。コンベア71は、電子加速器60、61の照射面に対して下方にあり、パッケージ10を図示左方向に搬送する。この搬送中に電子加速器60或いは61から照射される電子線がパッケージ10の上面外装部を滅菌する。
【0059】
2つのパッケージ積替機72、73は、それぞれ、パッケージ10の側壁部を把持すると共にパッケージ10を前後方向に移動させる把持部材72a、73aとこの把持部材72a、73aを上下動させる可動部材72b、73bとを具備している。前部パッケージ積替機72は、滅菌室130前部のシャッター130aの手前にあって、パッケージ10を除染室120の後部から滅菌室130内のコンベア71上に積み替える。後部パッケージ積替機73は、滅菌室130後部のシャッター130bの手前にあって、電子線照射による滅菌後のパッケージ10を滅菌室130の後部から無菌作業室200内のコンベア81上に積み替える。
【0060】
ここで、上述のように構成した本第1実施形態に係る連続除染、滅菌装置100を用いてパッケージ10の外装部を除染、滅菌して、この除染、滅菌後のパッケージ10を無菌作業室200内に搬入する操作について説明する。
【0061】
図1において、無菌作業室200は、無菌環境下にありその内部ではプレフィルドシリンジの充填作業(図示せず)が行われている。このとき、シャッター130bは閉鎖され、無菌作業室200と連続除染、滅菌装置100とは、気密的に遮断されている。また、連続除染、滅菌装置100の各壁部に設けられた各シャッター110a、120a及び130aは、それぞれ閉鎖され、前室110、除染室120及び滅菌室130は、それぞれ気密的に遮断されている。
【0062】
ここで、外部環境にある作業者が前室110のシャッター110aを開放し、前室110内部の移送リフト20にパッケージ10を把持させる。その後、シャッター110aを閉鎖する。前室110内のパッケージ10は、移送リフト20の移動に伴って除染室120に向けて搬送される。
【0063】
次に、前室110と除染室120との間のシャッター120aを開放し、前室110後部に至ったパッケージ10は、移送リフト20の移動に伴って除染室120の内部に搬送される。その後、シャッター120aを閉鎖する。また、シャッター120aの開閉とシャッター110aの開閉とを連動させるようにすることが、パッケージ10の移動の点で好ましい。
【0064】
次に、除染室120の前部では、前部チャンバー昇降機53の可動部材53bが下方に降下した位置にあり、受承部材53aが下部コンベア52から送られてくるチャンバー40の下端部を受承している。この状態から、可動部材53bが上方に上昇することにより、前室110から除染室120に移動したパッケージ10は、上昇するチャンバー40によって受承され、パッケージ10のポリエチレン製タブの外装部がチャンバー40に収容される。
【0065】
次に、チャンバー40は、パッケージ10を受承した状態で上部コンベア51に移動する。この状態で、図示Aの位置に至ったチャンバー40の内部に過酸化水素ガスが供給される。この過酸化水素ガスの供給は、過酸化水素ガス供給機構Gの供給ノズル(共に図示せず)をチャンバー40の側壁部の給気口に挿入して行われる。このことにより、ポリエチレン製タブの外装部は、過酸化水素ガスによって除染される。
【0066】
ここで、過酸化水素ガス供給装置で蒸発させる過酸化水素水の濃度は、通常、30〜35%であるが、40〜60%の高濃度の過酸化水素水を使用するようにしてもよい。このような高濃度の過酸化水素水から発生した過酸化水素ガスはガス濃度が高く、D値(処理時間)が小さくなり、短時間で高い除染効果を得ることができる。また、チャンバー40に供給される過酸化水素ガスの温度は、D値(処理時間)を更に小さくするために、40〜60℃であることが好ましい。
【0067】
上述のように、通常、除染に使用される過酸化水素ガスは低温ガスであり、その温度は、ほぼ室温である。本第1実施形態のように、40℃〜60℃という高温の過酸化水素ガスを用いて除染することにより、より効果的で且つ短時間の除染が可能となる。例えば、供給ノズルから吐出される過酸化水素ガスの温度を40〜60℃とした場合には、チャンバー40内のポリエチレン製タブの外装部においては、1分以内でSAL≦10-6のレベルの除染効果があることを確認した。
【0068】
次に、過酸化水素ガスによる除染が行われている状態で、パッケージ10を受承したチャンバー40は、上部コンベア51の移動に伴って除染室120の内部を図示左方向に搬送される。その後、図示Bの位置に至ったチャンバー40の内部から過酸化水素ガスを除去するためにエアレーションが行われる。このエアレーションは、エアレーションノズル(図示せず)をチャンバー40の側壁部の給気口に挿入して清浄空気を供給することにより行われる。このとき、チャンバー40の側壁部の排気口から過酸化水素ガスが排出され、ポリエチレン製タブの外装部から過酸化水素ガスが除去される。
【0069】
次に、除染室120の後部では、後部チャンバー昇降機54の可動部材54bが上方に上昇した位置にあり、受承部材54aが上部コンベア51から送られてくるチャンバー40の下端部を受承する。この状態から、可動部材54bが下方に降下することにより、移送リフト20に把持されたパッケージ10は、降下するチャンバー40から取り出される。降下したチャンバー40は、下部コンベア52に移動する。このようにして、複数のチャンバー40は、それぞれ、除染室120の内部を図示反時計回りに循環する。
【0070】
次に、除染室120と滅菌室130との間のシャッター130aを開放し、後部チャンバー昇降機54の受承部材54a上のパッケージ10は、前部パッケージ積替機72によって滅菌室130のコンベア71に積み替えられる。すなわち、前部パッケージ積替機72は、把持部材72aの前部側を除染室120内に向け、可動部材72bが降下した状態にある。この状態から、可動部材72bが上昇すると、把持部材72aがパッケージ10の側壁部を把持して、移送リフト20の把持状態から解放する。
【0071】
次に、前部パッケージ積替機72は、パッケージ10を把持した状態で把持部材72aを駆動し、パッケージ10を把持部材72aの後部側の滅菌室130内に移動させる。次に、可動部材72bが降下すると、パッケージ10は、把持部材72aから解放されコンベア71上に移動する。その後、シャッター130aを閉鎖する。このとき、シャッター130aの開閉とシャッター120aの開閉とを連動させるようにしてもよい。
【0072】
次に、パッケージ10は、コンベア71の移動に伴って滅菌室130の内部を図示左方向に搬送される。この搬送の間に、パッケージ10の上面シールの外装部は、電子加速器60から照射される電子線で滅菌される。ここで、上面シールの外装部に照射される電子線の線量を25kGyに調整することにより、SAL≦10-12のレベルを保証することができる。
【0073】
次に、滅菌室130と無菌作業室200との間のシャッター130bを開放し、滅菌室130後部に至ったパッケージ10は、後部パッケージ積替機73によって無菌作業室200のコンベア81に積み替えられる。すなわち、後部パッケージ積替機73は、把持部材73aを滅菌室130側に向け、可動部材73bが降下した状態にある。この状態から、可動部材73bが上昇すると、把持部材73aがパッケージ10の側壁部を把持する。
【0074】
次に、後部パッケージ積替機73は、パッケージ10を把持した状態で把持部材73aを駆動し、パッケージ10を把持部材73aの後部側の無菌作業室200内に移動させる。次に、可動部材73bが降下すると、パッケージ10は、把持部材73aから解放されコンベア81上に移動する。その後、シャッター130bを閉鎖する。このとき、シャッター130bの開閉とシャッター130aの開閉とを連動させ、前部パッケージ積替機72の作動と後部パッケージ積替機73の作動とを連動するようにしてもよい。
【0075】
このようにしてパッケージ10が搬送された無菌作業室200内では、パッケージ10のポリエチレン製タブから上面シールを剥き開き、内部の滅菌されたシリンジに対して充填作業が行われる。
【0076】
以上説明したように、本第1実施形態に係る連続除染、滅菌装置100では、まず、除染室においては、パッケージの底面及び側面外装部、すなわち、ポリエチレン製タブの外装部が過酸化水素ガスにより除染される。このときの除染レベルは、SAL≦10-6のレベルを保証する除染が行われる。
【0077】
この除染室では、まず、その内部に備えられた複数のチャンバーのそれぞれに収容された各ポリエチレン製タブの外装部が収容された状態で局所的に過酸化水素ガスにより十分に除染される。従って、従来の除染装置のように、除染室全体に過酸化水素ガスが供給されることがなく、除染の効率がよく、高い生産性を維持することができる。
【0078】
また、除染用ガスとして使用される過酸化水素ガスは、各種除染用ガスのうち除染剤としての適性バランスが良く、ポリエチレン製タブの外装部を十分に除染することができる。また、通常の除染に使用される過酸化水素ガスは低温ガスであり、その温度は、ほぼ室温であるが、本第1実施形態においては、40℃〜60℃という高温の過酸化水素ガスを用いることができる。このように、40℃〜60℃という高温の過酸化水素ガスを用いることにより、短時間の除染で高い除染効果を得ることができる。
【0079】
更に、ポリエチレン製タブの外装部のみが処理されるので、微細孔を有するタイベック(商標)で構成された上面シールを通してポリエチレン製タブの内部に過酸化水素ガスが侵入することがない。
【0080】
続く滅菌室では、各パッケージの上面シールの外装部が電子線照射により滅菌される。上面シールは、微細孔を有するタイベック(商標)で構成されており、また、その後の薬液充填工程においては、充填後の無菌保証に直接影響する部分であることから、SAL≦10-12のレベルを保証する滅菌が行われる。
【0081】
この滅菌室では、チャンバーから取り出されたパッケージの上面シールの外装部みに電子線照射すればよいので、稼働する電子加速器の台数は1台となり、装置の初期費用が安価であり、また、交換作業が簡単になりメンテナンス費用が安く抑えられる。また、この1台の電子加速器を使用限界(寿命)までフルに使用することができるので、メンテナンス費用が安く、更に、除染効果の信頼性と安全性を高く維持することができる。
【0082】
また、本第1実施形態では、稼働する電子加速器に直列に予備の電子加速器を配設している。このことにより、電子加速器が稼働中に寿命を迎えた場合でも、交換作業に時間を要することなく、速やかに予備の電子加速器に稼働を切り替えることができる。よって、滅菌効果の信頼性と安全性を高く維持することができる。
【0083】
更に、この滅菌室で電子線照射される間に、前段階の除染室で使用された過酸化水素ガスを除去するエアレーションを兼ねることができるので、全体の処理時間を短縮することができ、高い生産性を維持することができる。
【0084】
このように、本第1実施形態においては、パッケージの外装面を除染、滅菌して当該パッケージを無菌作業室に搬送するに際し、高い除染、滅菌効果と高い生産性を有しており、また、除染、滅菌効果の信頼性と安全性を高く維持すると共に、装置の初期費用とメンテナンス費用を低く抑えることができる連続除染、滅菌装置及び方法を提供することができる。
(第2実施形態)
図2に示すように、本第2実施形態に係る連続除染、滅菌装置150は、無菌作業室200に連設している。この連続除染、滅菌装置150は、ステンレス製金属板からなる壁部で構成された箱体からなり、その内部は、前室160と除染、滅菌室170とに区画されている。
【0085】
前室160の前壁部には、上下方向に開閉可能なシャッター160aが設けられている。前室160と除染、滅菌室170との間の共通の壁部には、上下方向に開閉可能なシャッター170aが設けられている。また、除染、滅菌室170と無菌作業室200との間の共通の壁部には、上下方向に開閉可能なシャッター170bが設けられている。
【0086】
連続除染、滅菌装置150及び無菌作業室200は、それぞれ外部環境と遮断された無菌状態を維持しているが、特に、充填作業が行われる無菌作業室200への菌の侵入を阻止するために、各室の内部空気圧を吸気装置(図示せず)からの吸気によって調節する。つまり、無菌作業室200の空気圧が高く、順次、前室160に向けて空気圧を下げながら、無菌作業室200>除染、滅菌室170>前室160となるように維持している。
【0087】
前室160と除染、滅菌室170との内部には、両室に亘って移動する移送リフト20が設けられ、前室160のシャッター160aを開放して搬入されるパッケージ10(上記第1実施形態と同様の構造)を把持して前室160から除染、滅菌室170に向けて搬送する。この移送リフト20は、シャッター170aの開閉を妨げることなく前室160と除染、滅菌室170との遮蔽を維持するように設置されている。
【0088】
前室160は、上述の移送リフト20とHEPAフィルタ30とを備え、HEPAフィルタ30は、前室160の上部に設けられて、吸気装置(図示せず)から吸入した空気を浄化して、前室160の内部を上方から下方に向けて流れる一方向流の空気を形成している。この一方向流の空気は、前室160に搬入されたパッケージ10の外装部に沿って流れ、前室160の下方部に設けられた排気口(図示せず)から排気される。
【0089】
除染、滅菌室170は、上述の移送リフト20と、HEPAフィルタ31と、複数のチャンバー40(上記第1実施形態と同様の構造)と、これらのチャンバー40を循環させる循環機構50と、各チャンバー40の内部に除染用ガスを供給する過酸化水素ガス供給機構G(図示せず)と、1台の電子加速器62(上記第1実施形態と同様の型式)と、1つのパッケージ積替機74(上記第1実施形態と同様の構造)とを備えている。
【0090】
HEPAフィルタ31は、除染、滅菌室170の前半部の上部に設けられて、吸気装置(図示せず)から吸入した空気を浄化して、除染、滅菌室170の前半部を上方から下方に向けて流れる一方向流の空気を形成している。この一方向流の空気は、前室160から除染、滅菌室170に搬入されたパッケージ10の外装部に沿って流れ、除染、滅菌室170の下方部に設けられた排気口(図示せず)から排気される。
【0091】
循環機構50は、2つのコンベア51、52と2つのチャンバー昇降機53、54とを備えており、上記第1実施形態と同様に、複数のチャンバー40をそれぞれ、除染、滅菌室170の内部を図示反時計回りに循環させる。
【0092】
過酸化水素ガス供給機構Gは、上記第1実施形態と同様に、パッケージ10の底面及び側面外装部とチャンバー40の内壁部とが形成する閉鎖された空間に過酸化水素ガスを供給し、パッケージ10の底面及び側面外装部を除染する。
【0093】
電子加速器62は、除染、滅菌室170の後半部の上部から照射面を下方に向けて位置し、移送リフト20で搬送されるパッケージ10の上面外装部に電子線を照射して、当該上面外装部を滅菌する。
【0094】
パッケージ積替機74は、除染、滅菌室170後部のシャッター170bの手前にあって、除染、滅菌後のパッケージ10を除染、滅菌室170の後部から無菌作業室200内のコンベア81上に積み替える。
【0095】
ここで、上述のように構成した本第2実施形態に係る連続除染、滅菌装置150を用いてパッケージ10の外装部を除染、滅菌して、この除染、滅菌後のパッケージ10を無菌作業室200内に搬入する操作について説明する。
【0096】
図2において、無菌作業室200は、上記第1実施形態と同様に無菌環境下にありその内部ではプレフィルドシリンジの充填作業(図示せず)が行われている。このとき、シャッター170bは閉鎖され、無菌作業室200と連続除染、滅菌装置150とは、気密的に遮断されている。
【0097】
ここで、外部環境にある作業者が前室160のシャッター160aを開放し、前室160内部の移送リフト20にパッケージ10を把持させる。その後、シャッター160aを閉鎖する。前室160内のパッケージ10は、移送リフト20の移動に伴って除染、滅菌室170に向けて搬送される。
【0098】
次に、前室160と除染、滅菌室170との間のシャッター170aを開放し、前室160後部に至ったパッケージ10は、移送リフト20の移動に伴って除染、滅菌室170の内部に搬送される。その後、シャッター170aを閉鎖する。また、シャッター170aの開閉とシャッター160aの開閉とを連動させるようにすることが、パッケージ10の移動の点で好ましい。
【0099】
次に、除染、滅菌室170の前部では、前部チャンバー昇降機53の可動部材53bが下方に降下した位置にあり、受承部材53aが下部コンベア52から送られてくるチャンバー40の下端部を受承している。この状態から、可動部材53bが上方に上昇することにより、前室160から除染、滅菌室170に移動したパッケージ10は、上昇するチャンバー40によって受承され、パッケージ10のポリエチレン製タブの外装部がチャンバー40に収容される。
【0100】
次に、チャンバー40は、パッケージ10を受承した状態で上部コンベア51に移動する。この状態で、図示Aの位置に至ったチャンバー40の内部に過酸化水素ガスが供給される。この過酸化水素ガスの供給は、過酸化水素ガス供給機構Gの供給ノズル(共に図示せず)をチャンバー40の側壁部の給気口に挿入して行われる。このことにより、ポリエチレン製タブの外装部は、過酸化水素ガスによって除染される。ここで、過酸化水素ガス供給機構Gからチャンバー40に供給される過酸化水素ガスの濃度及び温度は、上記第1実施形態と同様にして行われる。
【0101】
次に、過酸化水素ガスによる除染が行われている状態で、パッケージ10を受承したチャンバー40は、上部コンベア51の移動に伴って除染、滅菌室170の内部を図示左方向に搬送される。その後、図示Bの位置に至ったチャンバー40の内部から過酸化水素ガスを除去するためにエアレーションが上記第1実施形態と同様にして行われる。
【0102】
この過酸化水素ガスによる除染が行われているパッケージ10は、コンベア51による搬送の間に、上面シールの外装部を電子加速器62から照射される電子線で滅菌される。ここで、上面シールの外装部に照射される電子線の線量を25kGyに調整することにより、SAL≦10-12のレベルを保証することができる。
【0103】
次に、除染、滅菌室170の後部では、後部チャンバー昇降機54の可動部材54bが上方に上昇した位置にあり、受承部材54aが上部コンベア51から送られてくるチャンバー40の下端部を受承する。この状態から、可動部材54bが下方に降下することにより、移送リフト20に把持されたパッケージ10は、降下するチャンバー40から取り出される。降下したチャンバー40は、下部コンベア52に移動する。このようにして、複数のチャンバー40は、それぞれ、除染、滅菌室170の内部を図示反時計回りに循環する。
【0104】
次に、除染、滅菌室170と無菌作業室200との間のシャッター170bを開放し、除染、滅菌室170後部に至ったパッケージ10は、パッケージ積替機74によって無菌作業室200のコンベア81に積み替えられる。すなわち、パッケージ積替機74は、把持部材74aを除染、滅菌室170側に向け、可動部材74bが降下した状態にある。この状態から、可動部材74bが上昇すると、把持部材74aがパッケージ10の側壁部を把持して、移送リフト20の把持状態から解放する。
【0105】
次に、パッケージ積替機74は、パッケージ10を把持した状態で把持部材74aを駆動し、パッケージ10を把持部材74aの後部側の無菌作業室200内に移動させる。次に、可動部材74bが降下すると、パッケージ10は、把持部材74aから解放されコンベア81上に移動する。その後、シャッター170bを閉鎖する。このとき、シャッター170bの開閉とシャッター170aの開閉とを連動するようにしてもよい。
【0106】
このようにしてパッケージ10が搬送された無菌作業室200内では、パッケージ10のポリエチレン製タブから上面シールを剥き開き、内部の滅菌されたシリンジに対して充填作業が行われる。
【0107】
以上説明したように、本第2実施形態に係る連続除染、滅菌装置100では、除染、滅菌室において、ポリエチレン製タブの外装部に過酸化水素ガスが供給され、SAL≦10-6のレベルを保証する除染が行われると共に、上面シールの外装部に電子線が照射され、SAL≦10-12のレベルを保証する滅菌が行われる。このことにより、パッケージの外装部の除染、滅菌が効率よく行われ、全体の処理時間を短縮することができ、高い生産性を維持することができる。
【0108】
このように、本第2実施形態においても、パッケージの外装面を除染、滅菌して当該パッケージを無菌作業室に搬送するに際し、高い除染、滅菌効果と高い生産性を有しており、また、除染、滅菌効果の信頼性と安全性を高く維持すると共に、装置の初期費用とメンテナンス費用を低く抑えることができる連続除染、滅菌装置及び方法を提供することができる。
【0109】
なお、本発明の実施にあたり、上記各実施形態に限らず、次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)上記第1実施形態においては、同一形式の電子加速器を2台直列に設けて1台を予備としたが、これに限るものではなく、予備の装置は特に設けなくてもよい。
(2)上記各実施形態においては、外部から前室の内部に搬入するパッケージの数量は1個としたが、これに限るものではなく、複数個を同時に搬入するようにしてもよい。
(3)上記各実施形態においては、前室から除染室或いは除染、滅菌室の内部に搬送されるパッケージの数量は1個としたが、これに限るものではなく、複数個を同時に搬送するようにしてもよい。複数個を同時に搬送する場合には、チャンバー昇降機で受承できるチャンバーの個数を多くする、或いは、複数台のチャンバー昇降機を並列に配設するなどで対応するようにする。
(4)上記第1実施形態においては、除染室から滅菌室の内部に搬送されるパッケージの数量は1個としたが、これに限るものではなく、複数個を同時に搬送するようにしてもよい。複数個を同時に搬送する場合には、チャンバー昇降機で受承できるチャンバーの個数を多くする、或いは、複数台のチャンバー昇降機を並列に配設すると共に、前部パッケージ積替機で積み替えることのできるパッケージの数量を多くするようにする。
(5)上記各実施形態においては、滅菌室或いは除染、滅菌室から無菌作業室の内部に搬送されるパッケージの数量は1個としたが、これに限るものではなく、複数個を同時に搬送するようにしてもよい。複数個を同時に搬送する場合には、パッケージ積替機で積み替えることのできるパッケージの数量を多くするようにする。
【符号の説明】
【0110】
100、150…連続除染、滅菌装置、110、160…前室、120…除染室、130…滅菌室、170…除染、滅菌室、110a、120a、130a、130b、160a、170a、170b…シャッター、200…無菌作業室、10…パッケージ、20…移送リフト、30、31…HEPAフィルタ、40…チャンバー、50…循環機構、51、52…コンベア、53、54…チャンバー昇降機、60、61、62…電子加速器、70…搬送機構、71…コンベア、72、73、74…パッケージ積替機、81…コンベア。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無菌作業室に連設されて、滅菌済みの物品を収納してなる収納体の外装部を除染、滅菌して、当該収納体を前記無菌作業室の内部に搬送する連続除染、滅菌装置において、
前記収納体の底面及び側面外装部を除染する除染室と、
前記収納体の上面外装部を滅菌する滅菌室と、
前記除染室と前記滅菌室とを経由して前記収納体を前記無菌作業室に搬送する搬送手段とを有しており、
前記除染室は、
前記搬送手段に沿って前記除染室の内部を循環する複数のチャンバーと、
前記複数のチャンバーを循環させながら、当該チャンバーの内部に前記収納体の前記底面及び側面外装部を収容する収容機構及び取出す取出機構を具備する循環手段と、
前記チャンバーの内部に収容された前記底面及び側面外装部に除染用ガスを供給する除染用ガス供給手段とを備え、
前記滅菌室は、
前記収納体の上面外装部に電子線を照射する電子加速器を備えていることを特徴とする連続除染、滅菌装置。
【請求項2】
無菌作業室に連設されて、滅菌済みの物品を収納してなる収納体の外装部を除染、滅菌して、当該収納体を前記無菌作業室の内部に搬送する連続除染、滅菌装置において、
前記収納体の底面及び側面外装部を除染すると共に、当該収納体の上面外装部を滅菌する除染、滅菌室と、
前記除染、滅菌室を経由して前記収納体を前記無菌作業室に搬送する搬送手段とを有しており、
前記除染、滅菌室は、
前記搬送手段に沿って前記除染室の内部を循環する複数のチャンバーと、
前記複数のチャンバーを循環させながら、当該チャンバーの内部に前記収納体の前記底面及び側面外装部を収容する収容機構及び取出す取出機構を具備する循環手段と、
前記チャンバーの内部に収容された前記底面及び側面外装部に除染用ガスを供給する除染用ガス供給手段と、
前記収納体の上面外装部に電子線を照射する電子加速器 とを備えていることを特徴とする連続除染、滅菌装置。
【請求項3】
前記除染用ガスは、過酸化水素ガス或いは過酸化水素を含有するガスであることを特徴とする請求項1又は2に記載の連続除染、滅菌装置。
【請求項4】
前記底面及び側面外装部に供給する前記過酸化水素ガス或いは過酸化水素を含有するガスの温度は、40℃〜60℃の範囲内にあることを特徴とする請求項3に記載の連続除染、滅菌装置。
【請求項5】
滅菌済みの物品を収納してなる収納体を無菌作業室の内部に搬送する搬送工程中に当該収納体の外装部を除染、滅菌する連続除染、滅菌方法において、
前記収納体の底面及び側面外装部をチャンバーの内部に収容する収容工程と、
前記チャンバーの内部に収容された前記底面及び側面外装部に除染用ガスを供給して当該底面及び側面外装部を除染する除染工程と、
前記チャンバーの内部から前記底面及び側面外装部を取出す取出工程と、
前記収納体の上面外装部に電子線を照射して当該上面外装部を滅菌する滅菌工程とを備えていることを特徴とする連続除染、滅菌方法。
【請求項6】
前記除染用ガスは、過酸化水素ガス或いは過酸化水素を含有するガスであることを特徴とする請求項5に記載の連続除染、滅菌方法。
【請求項7】
前記底面及び側面外装部に供給する前記過酸化水素ガス或いは過酸化水素を含有するガスの温度は、40℃〜60℃の範囲内にあることを特徴とする請求項6に記載の連続除染、滅菌方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−29859(P2012−29859A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171863(P2010−171863)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(599053643)株式会社エアレックス (29)
【Fターム(参考)】