説明

過電力検知装置および無線通信装置

【課題】瞬時的な変動を伴う信号を処理する回路の過電力を簡易な構成で検知することが可能な過電力検知装置および無線通信装置を提供する。
【解決手段】過電力検知装置51は、対象装置において送信または受信される信号の、各タイミングにおける電力の指標値を取得するための電力情報取得部61と、電力情報取得部61によって取得された指標値と評価閾値とを比較するための比較部62と、比較部62による各タイミングの比較結果を示す値を累積するための比較結果累積部63と、比較結果累積部63による累積結果に基づいて、対象装置における回路の過電力を判定するための過電力判定部64とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過電力検知装置および無線通信装置に関し、特に、対象装置における回路の過電力を検知する過電力検知装置および無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速通信を行なうためには、必然的に広帯域な信号が求められる。このような要求に従う形でW−CDMA(Wide Band Code Division Multiple Access)およびOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex)等の通信方式が開発されてきた。
【0003】
これらの通信方式を採用する無線通信装置においては、増幅器等の過出力検知が行われる場合がある。過出力検知の目的は、たとえば、法的な規制に対処するため、あるいは機器内部の熱的ストレスによる破損を防止するためである。
【0004】
ここで、広帯域な信号を増幅する構成において、増幅される信号は、瞬時的な変動を伴った信号となる。このため、出力電力が規定された増幅器を動作させる場合には、当該増幅器の平均電力を測定する必要がある。また、増幅器からの出力電力が適正か否かを検査する場合においても同様に、瞬時電力ではなく、平均電力を測定する必要がある。
【0005】
上記のような通信方式において扱われる広帯域な信号は、平均電力対ピーク電力比が大きいという特徴を持っている。このため、平均電力の計測および過出力の検知等を行なうには、何らかの演算機能が必要となる。
【0006】
すなわち、広帯域な信号の電力を測定するためには、瞬時電力の変動を平均化しなければならない。たとえば、OFDMでは、PAPR(Peak to Average Power Ratio)が10dB近くになることが知られている。このため、瞬時電力が規定電力を超えるか否かで平均電力を判定することはできない。
【0007】
このような平均電力を計算する方法の一例として、たとえば、「科学計測のための波形データ処理」、CQ出版社、南茂夫著、pp.86-97、1986年4月発行(非特許文献1)には、(5−15)式において、複数サンプルの平均値を用いる再帰法の移動平均計算アルゴリズムが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「科学計測のための波形データ処理」、CQ出版社、南茂夫著、pp.86-97、1986年4月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、平均電力を計算するために、非特許文献1に記載のアルゴリズムを回路で実現すると、少なくとも複数のフリップフロップ、および加算器が必要となり、回路規模が大きくなってしまうという問題点があった。
【0010】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、その目的は、瞬時的な変動を伴う信号を処理する回路の過電力を簡易な構成で検知することが可能な過電力検知装置および無線通信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる過電力検知装置は、対象装置において送信または受信される信号の、各タイミングにおける電力の指標値を取得するための電力情報取得部と、上記電力情報取得部によって取得された上記指標値と評価閾値とを比較するための比較部と、上記比較部による上記各タイミングの比較結果を示す値を累積するための比較結果累積部と、上記比較結果累積部による累積結果に基づいて、上記対象装置における回路の過電力を判定するための過電力判定部とを備える。
【0012】
このような構成により、簡易な構成で、瞬時的な変動を伴う信号の平均電力を得ることができる。すなわち、フリップフロップおよびメモリ等を多数用いることなく、たとえば比較器およびアップダウンカウンタによる簡易な構成で、瞬時的な変動を伴う信号を処理する回路の過電力検知を行なうことができる。上記指標値としては、たとえば、直交変調におけるI信号の振幅をIとし、Q信号の振幅をQとすると、√(I2+Q2)、(I2+Q2)、または(I2+Q2nである。
【0013】
(2)好ましくは、上記比較結果累積部は、上記指標値が上記評価閾値より大きい場合には、前回までの累積結果に正または負の第1の制御値を加算し、上記指標値が上記評価閾値より小さい場合には、前回までの累積結果に上記第1の制御値と反対の符号の第2の制御値を加算する。
【0014】
このように、第1の制御値および第2の制御値をゼロに設定せず、第1の制御値および第2の制御値の符号を異ならせる構成により、対象信号の電力が通常値である場合において、比較結果累積部における累積結果、たとえばアップダウンカウンタにおけるカウント値を、ある値に収束させることができる。これにより、対象信号の電力の移動平均を得ることができる。すなわち、対象信号の電力が所定の閾値を超えた時から最低限のサンプル数が得られた時点で、過電力を検知することが可能となる。また、移動平均が得られることから、ある一定の期間ごとに平均電力の算出を行なう構成と比べて、過電力の期間が短い場合に当該過電力の検知漏れが生じる可能性を低くすることができる。また、たとえばアップダウンカウンタにおけるカウント値が、ノイズ等の影響により少しずつ加算されていき、過電力アラームが誤って出力されてしまうことを防ぐことができる。また、この誤検出を防ぐために、たとえばアップダウンカウンタのカウント値を定期的または所定条件でリセットする必要がなくなり、構成の簡易化を図ることができる。
【0015】
(3)より好ましくは、上記第1の制御値の絶対値と上記第2の制御値の絶対値とが等しい。
【0016】
このような構成により、過電力検知の早さおよび誤検出確率のバランスを良好に保つことができる。
【0017】
(4)より好ましくは、上記第1の制御値の絶対値および上記第2の制御値の絶対値は1である。
【0018】
このような構成により、比較結果累積部を、1を増減するだけの単純な回路、たとえばアップダウンカウンタで実現することが可能となる。
【0019】
(5)好ましくは、上記比較結果累積部は、上記指標値と上記評価閾値との大小関係に基づいてカウントアップまたはカウントダウンするためのアップダウンカウンタを含む。
【0020】
このような構成により、比較結果累積部を汎用的な回路で実現し、構成の簡易化を図ることが可能となる。
【0021】
(6)より好ましくは、上記評価閾値は、上記信号の電力が過電力を生じさせない値である場合には上記アップダウンカウンタのカウント値が収束し、上記信号の電力が過電力を生じさせる値である場合には上記アップダウンカウンタのカウント値が上記収束値から上昇または下降するような値に設定される。
【0022】
このような構成により、対象信号の電力の移動平均を簡易な構成で得ることができる。また、たとえば比較結果累積部がアップダウンカウンタである場合において、対象信号の電力が通常値であるときにはある値、たとえば0に収束していることから、カウント値をリセットする必要がなくなり、構成の簡易化を図ることができる。
【0023】
(7)好ましくは、上記過電力判定部は、上記累積結果と累積結果閾値とを比較し、上記累積結果と上記累積結果閾値との大小関係に基づいて過電力を判定する。
【0024】
このような構成により、閾値を用いた簡易な構成で、過電力の判定を行なうことができる。
【0025】
(8)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる無線通信装置は、送信される無線信号または受信された無線信号を増幅するための増幅器と、上記増幅器の過出力を検知するための過電力検知部とを備え、上記過電力検知部は、上記増幅器によって増幅される前の信号または増幅された後の信号の、各タイミングにおける電力の指標値を取得するための電力情報取得部と、上記電力情報取得部によって取得された上記指標値と評価閾値とを比較するための比較部と、上記比較部による上記各タイミングの比較結果を示す値を累積するための比較結果累積部と、上記比較結果累積部による累積結果に基づいて、上記増幅器における過電力を判定するための過電力判定部とを含む。
【0026】
このような構成により、簡易な構成で、瞬時的な変動を伴う信号の平均電力を得ることができる。すなわち、フリップフロップおよびメモリ等を多数用いることなく、たとえば比較器およびアップダウンカウンタによる簡易な構成で、瞬時的な変動を伴う信号を処理する回路の過電力検知を行なうことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、瞬時的な変動を伴う信号を処理する回路の過電力を簡易な構成で検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係る無線通信装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るリモートラジオヘッドの機能ブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る過電力検知部の機能ブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るリモートラジオヘッドにおける、I信号およびQ信号の振幅と出現確率との関係を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る過電力検知部における、包絡線の大きさと評価閾値との関係を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る過電力検知部における、評価閾値と各ケースにおけるアップダウンカウンタの値との関係を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る過電力検知部における、評価閾値と各ケースにおけるアップダウンカウンタの値との関係の実験結果を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る過電力検知部における過電力検知動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0030】
図1は、本発明の実施の形態に係る無線通信装置の構成を示す図である。
【0031】
図1を参照して、無線通信装置201は、1または複数のリモートラジオヘッド(RRH)101と、本体装置102とを備える。
【0032】
リモートラジオヘッド101は、移動体通信において用いられる無線基地局装置から、無線信号の送受信を行なう部分を独立させた装置である。リモートラジオヘッド101は、ビルの屋上等に設置されたアンテナポール104に取り付けられる。また、このアンテナポール104にアンテナ103が取り付けられる。
【0033】
リモートラジオヘッド101は、アンテナ103経由で無線端末装置301から受信した無線信号をデジタル信号に変換し、光ファイバ105経由で本体装置102へ出力する。また、リモートラジオヘッド101は、光ファイバ105経由で本体装置102から受けたデジタル信号を無線信号に変換し、アンテナ103経由で無線端末装置301へ送信する。
【0034】
図2は、本発明の実施の形態に係るリモートラジオヘッドの機能ブロック図である。
【0035】
図2を参照して、リモートラジオヘッド101は、インタフェース部80と、デジタル周波数変換部81と、デジタル/アナログ変換器(DAC)82,83と、直交変調部84と、ハイパワーアンプ85と、過電力検知部51とを備える。
【0036】
インタフェース部80は、光ファイバ105経由で本体装置102から受けた光信号から電気信号であるI信号およびQ信号を再生し、デジタル周波数変換部81へ出力する。このI信号およびQ信号は、それぞれ振幅情報を含む。
【0037】
デジタル周波数変換部81は、インタフェース部80から受けたベースバンド帯のI信号およびQ信号を、回転行列を用いた演算によってIF(Intermediate Frequency)帯の信号に周波数変換し、変換後のI信号およびQ信号をデジタル/アナログ変換器82,83へそれぞれ出力する。
【0038】
デジタル/アナログ変換器82,83は、デジタル周波数変換部81から受けたデジタル信号であるI信号およびQ信号をアナログ信号に変換し、直交変調部84へ出力する。
【0039】
直交変調部84は、デジタル/アナログ変換器82,83から受けたアナログ信号であるI信号およびQ信号を直交変調するとともにRF(Radio Frequency)帯の信号に変換し、ハイパワーアンプ85へ出力する。
【0040】
ハイパワーアンプ85は、直交変調部84から受けた信号を増幅してアンテナ103へ出力する。
【0041】
過電力検知部51は、インタフェース部80から受けたI信号およびQ信号に基づいて、リモートラジオヘッド101における過電力、たとえばハイパワーアンプ85の過出力を検知する。なお、点線の矢印で示すように、過電力検知部51は、デジタル周波数変換部81から受けたI信号およびQ信号に基づいて、リモートラジオヘッド101における過電力を検知する構成であってもよい。
【0042】
図3は、本発明の実施の形態に係る過電力検知部の機能ブロック図である。
【0043】
図3を参照して、過電力検知部51は、電力情報取得部61と、比較部62と、比較結果累積部63と、過電力判定部64とを含む。
【0044】
電力情報取得部61は、対象装置において送信または受信される信号(以下、対象信号とも称する。)の、各タイミングにおける電力の指標値を取得する、すなわち、対象信号の瞬時的な電力の指標値を取得する。ここでは、対象装置はリモートラジオヘッド101であり、対象信号はI信号およびQ信号である。
【0045】
比較部62は、電力情報取得部61によって取得された指標値と評価閾値Pthとを比較する。
【0046】
比較結果累積部63は、比較部62による各タイミングの比較結果を示す値を累積する。
【0047】
過電力判定部64は、比較結果累積部63による累積結果に基づいて、対象装置における回路の過電力を判定する。
【0048】
より詳細には、電力情報取得部61は、対象信号の振幅すなわち包絡線の大きさを算出する。
【0049】
比較部62は、電力情報取得部61によって算出された包絡線の大きさと評価閾値Pthとを比較し、比較結果情報を比較結果累積部63へ出力する。
【0050】
比較結果累積部63は、比較部62から受けた比較結果情報に基づいて、包絡線の大きさが評価閾値Pthより大きい場合には、前回までの累積結果に制御値αを加算し、包絡線の大きさが評価閾値Pthより小さい場合には、前回までの累積結果に制御値βを加算する。たとえば、比較結果累積部63は、包絡線の大きさが評価閾値Pthより大きい場合には、前回までの累積結果に正または負の制御値αを加算し、包絡線の大きさが評価閾値Pthより小さい場合には、前回までの累積結果に制御値αと反対の符号の制御値βを加算する。
【0051】
具体的には、比較結果累積部63は、指標値である包絡線の大きさと評価閾値Pthとの大小関係に基づいてカウントアップまたはカウントダウンするアップダウンカウンタを含む。すなわち、このアップダウンカウンタは、上記大小関係に基づいてカウント値を増減する。比較結果累積部63は、このカウント値を累積結果として出力する。
【0052】
過電力判定部64は、比較結果累積部63から受けた累積結果と累積結果閾値AThとを比較し、当該累積結果と累積結果閾値AThとの大小関係に基づいて過電力を判定する。すなわち、過電力判定部64は、比較結果累積部63から受けた累積結果であるカウント値と累積結果閾値AThとを比較し、カウント値が累積結果閾値AThより大きい場合には、過電力アラームを出力する。
【0053】
なお、比較部62が、比較結果情報として制御値αおよび制御値βを比較結果累積部63へ出力する構成であってもよい。たとえば、比較部62は、包絡線の大きさが評価閾値Pthより大きい場合には制御値αとして+1を比較結果累積部63へ出力し、包絡線の大きさが評価閾値Pthより小さい場合には制御値βとして−1を比較結果累積部63へ出力する。比較結果累積部63におけるアップダウンカウンタは、比較部62から受けた+1または−1の値に応じてカウント値を増減する。
【0054】
次に、本発明の実施の形態に係る過電力検知部における評価閾値および累積結果閾値の決定方法を説明する。
【0055】
図2に示すハイパワーアンプ85は、出力信号の平均電力が所定値以上となる状態が所定時間以上継続すると、熱破損する場合がある。ここでは、ハイパワーアンプ85の過出力を検知する場合について説明する。
【0056】
この場合、電力情報取得部61は、ハイパワーアンプ85によって増幅される前の信号の各タイミングにおける電力の指標値を取得する。
【0057】
比較部62は、電力情報取得部61によって取得された指標値と評価閾値Pthとを比較する。
【0058】
比較結果累積部63は、比較部62による各タイミングの比較結果を示す値を累積する。
【0059】
過電力判定部64は、比較結果累積部63による累積結果に基づいて、ハイパワーアンプ85の過出力を判定する。
【0060】
以下、ハイパワーアンプ85の出力レベルが通常値である場合をケースA、ハイパワーアンプ85の出力レベルが通常値よりたとえば3dB大きい過出力値である場合をケースBとする。上記通常値は、たとえば、ハイパワーアンプ85の規定出力レベル範囲の最大値である。
【0061】
図4は、本発明の実施の形態に係るリモートラジオヘッドにおける、I信号およびQ信号の振幅と出現確率との関係を示す図である。
【0062】
図4を参照して、横軸は、包絡線の大きさ、すなわちI信号の振幅およびQ信号の振幅の2乗和の平方根を示す。数式で示すと、I信号の振幅をIとし、Q信号の振幅をQとした場合の、Sqrt(I^2+Q^2)すなわち√(I2+Q2)である。縦軸は、出現確率である。また、グラフAはケースAに対応し、グラフBはケースBに対応する。
【0063】
無線通信装置201において用いられるI信号およびQ信号が正規分布で表される信号とすれば、包絡線の大きさは、図4に示すようなレイリー分布となる。
【0064】
図4に示す各グラフにおいて、平均電力量が小さいケースAに対応するグラフAの頂点における包絡線の大きさは5400前後であり、平均電力量が大きいケースBに対応するグラフBの頂点における包絡線の大きさは6000前後である。
【0065】
評価閾値および累積結果閾値の決定においては、まず、評価閾値PThを変えていき、各評価閾値PThにおいて、ケースAおよびケースBにおけるアップダウンカウンタの値をそれぞれ記録する。
【0066】
図5は、本発明の実施の形態に係る過電力検知部における、包絡線の大きさと評価閾値との関係を示す図である。
【0067】
図5を参照して、包絡線の大きさは、I信号およびQ信号の瞬時レベルを示しているため、図5に示すような大きさの評価閾値Pthを設定した場合には、波形は、評価閾値Pthをまたいで変動する。
【0068】
包絡線の大きさが評価閾値Pthより大きい場合には、アップダウンカウンタの値に1が加えられ、包絡線の大きさが評価閾値Pthより小さい場合には、アップダウンカウンタの値から1が減じられる。
【0069】
過電力アラームは、包絡線の大きさが評価閾値Pthを超えて、アップダウンカウンタの値が累積結果閾値ATh以上となる場合に出力される。
【0070】
評価閾値Pthおよび累積結果閾値AThは、ハイパワーアンプ85の出力レベルが通常値であるケースAでは過電力アラームが出力されず、かつハイパワーアンプ85の出力レベルが過出力値であるケースBで過電力アラームが出力されるような値に調整される。
【0071】
図6は、本発明の実施の形態に係る過電力検知部における、評価閾値と各ケースにおけるアップダウンカウンタの値との関係を示す図である。
【0072】
図6を参照して、評価閾値PThが5100の場合には、ケースAにおけるカウント値は3000であり、ケースBにおけるカウント値は3000である。評価閾値PThが5200の場合には、ケースAにおけるカウント値は1500であり、ケースBにおけるカウント値は3000である。評価閾値PThが5300の場合には、ケースAにおけるカウント値は100であり、ケースBにおけるカウント値は3000である。評価閾値PThが5400の場合には、ケースAにおけるカウント値は10であり、ケースBにおけるカウント値は2500である。評価閾値PThが5500の場合には、ケースAにおけるカウント値は0であり、ケースBにおけるカウント値は2000である。
【0073】
カウント値を記録した後、図6に示す関係において、対象信号の電力がハイパワーアンプ85において過出力を生じさせない値である場合にはアップダウンカウンタのカウント値が収束し、対象信号の電力がハイパワーアンプ85において過出力を生じさせる値である場合にはアップダウンカウンタのカウント値が収束値から上昇または下降するような評価閾値Pthであって、かつケースAおよびケースBでカウント値の差が大きくなる評価閾値PThを選択する。
【0074】
また、累積結果閾値AThは、選択した評価閾値PThの場合におけるケースBのカウント値より少し小さい値を選択する。
【0075】
次に、選択した評価閾値PThおよび累積結果閾値AThを設定し、ハイパワーアンプ85の出力レベルが通常値であるケースAにおいて、誤ってアラームが出力されないことを確認する。また、ハイパワーアンプ85の出力レベルが過出力値であるケースBにおいて、正しくアラームが出力されることを確認する。
【0076】
図7は、本発明の実施の形態に係る過電力検知部における、評価閾値と各ケースにおけるアップダウンカウンタの値との関係の実験結果を示す図である。
【0077】
図7を参照して、この実験では、評価閾値PThを5000に設定すると、ケースAおよびケースBの両方においてアップダウンカウンタの値が3000になっている。
【0078】
これは、設定した評価閾値PThが低すぎるため、比較部62において、ケースAおよびケースBのいずれでも包絡線の大きさが評価閾値PThを上回るからである。
【0079】
一方、評価閾値PThをたとえば5400に設定すると、ケースAでは、比較部62において、包絡線の大きさが評価閾値PThを下回り、アップダウンカウンタの値はほとんど上昇せず、ケースBにおいてのみ、アップダウンカウンタの値が上昇する。
【0080】
確実に過電力を検知するために、アップダウンカウンタのばらつきを考慮して、累積結果閾値AThは、たとえば1500に設定する。
【0081】
すなわち、評価閾値PThを5400に決定し、累積結果閾値AThを1500に決定する(図7のポイントK)。
【0082】
図8は、本発明の実施の形態に係る過電力検知部における過電力検知動作を示す図である。
【0083】
図8を参照して、前述のように、広帯域な信号は瞬時変動を伴っていることから、瞬時的な電力を測定するだけでは、信号の平均電力を評価することは困難である。
【0084】
そこで、本発明の実施の形態に係る過電力検知部では、たとえば、対象信号の瞬時的な電力の指標値が評価閾値PTh以上である場合には比較部62から1を出力し、対象信号の瞬時的な電力の指標値が評価閾値PTh未満である場合には比較部62から0を出力する(方法1)。
【0085】
そして、この比較部62の出力を1000サンプルとり、比較結果累積部63においてこれらの累積値を算出する。この累積値は、0以上かつ1000以下となる。この累積値を1000で除算すると、この除算結果は、対象信号の瞬時的な電力の指標値が評価閾値PTh以上となる確率を示すことになる。
【0086】
この確率は、対象信号の平均電力に対して単調に増加する。このため、予め過出力に相当する確率を決めておき、当該確率を閾値とし、算出した確率が当該閾値以上になった場合に、過電力であると判定することができる。この確率閾値に対応するカウント値が、前述の累積結果閾値AThである。
【0087】
すなわち、本発明の実施の形態に係る過電力検知部では、信号の特徴量、たとえば包絡線の大きさと評価閾値Pthとの比較結果を用いてこれを蓄積する。これにより、直接的に平均電力を求めなくても間接的に平均電力を得ることができる。
【0088】
ところが、方法1では、0番目〜1000番目のサンプルによる過電力検知を行なった後、1001番目〜2000番目のサンプルによる過電力検知を行なう、という手順になる。このため、過電力を時間的に連続して、すなわちサンプリング時間単位で連続して検知することができない。
【0089】
たとえば、x番目のサンプリングタイミングにおいて過電力が発生し、これが継続したとする。この場合、0番目〜1000番目のサンプルによる過電力検知では、除算結果が規定の確率を超えないことから、過電力を検知することができない。そして、1001番目〜2000番目のサンプルによる過電力検知によって、初めて過電力を検知することができ、過電力アラームが出力されることになる。
【0090】
そこで、方法1を改良し、対象信号の瞬時的な電力の指標値が評価閾値PTh以上である場合には比較部62から1を出力し、対象信号の瞬時的な電力の指標値が評価閾値PTh未満である場合には比較部62から−1を出力する。そして、この比較部62の出力を、比較結果累積部63においてたとえばアップダウンカウンタを用いて累積する(方法2)。
【0091】
そして、図4〜図7において説明したように評価閾値Pthを選択することにより、比較結果累積部63における累積値は、過電力が生じていない場合にはある値で収束する。これにより、対象信号の瞬時的な電力の指標値の移動平均を得ることができる。すなわち、対象信号の瞬時的な電力の指標値が評価閾値Pthを超えた時から最低限のサンプル数たとえば1000サンプルが得られた時点で、過電力を検知することが可能となる。具体的には、x番目のサンプリングタイミングにおいて過電力が発生したとすれば、(x+999)番目のサンプルが得られた時点で、過電力を検知することができ、過電力アラームを出力することができる。
【0092】
このように、方法2では、比較結果累積部63における累積値を、各サンプリングタイミングで累積結果閾値AThと比較することにより、サンプリング時間単位で連続して過電力を検知することができる。
【0093】
ところで、前述のように、広帯域な信号は瞬時変動を伴っていることから、増幅器等の出力電力を評価するには、瞬時的な電力ではなく、平均電力を求める必要がある。そして、非特許文献1に記載の構成では、平均電力を計算するために、フリップフロップおよびメモリ等が多数必要となり、回路規模が大きくなってしまうという問題点があった。たとえば、100個の瞬時電力値の平均を計算する場合には、100個の瞬時電力値を記憶する大容量のメモリが必要であった。
【0094】
これに対して、本発明の実施の形態に係る過電力検知部では、電力情報取得部61は、対象装置において送信または受信される信号の、各タイミングにおける電力の指標値を取得する。比較部62は、電力情報取得部61によって取得された指標値と評価閾値Pthとを比較する。比較結果累積部63は、比較部62による各タイミングの比較結果を示す値を累積する。そして、過電力判定部64は、比較結果累積部63による累積結果に基づいて、対象装置における回路の過電力を判定する。
【0095】
このように、本発明の実施の形態に係る過電力検知部では、対象信号の特徴量、たとえば包絡線の大きさと評価閾値との比較結果を用いることにより、平均電力を直接的に求めることなく、間接的に平均電力を得る。たとえば、平均電力算出の代替手段として、包絡線の大きさが一定時間に評価閾値PThを超えた割合に基づいて過電力アラームを出力する。
【0096】
このような構成により、簡易な構成で、瞬時的な変動を伴う信号の平均電力を得ることができる。すなわち、フリップフロップおよびメモリ等を多数用いることなく、たとえば比較器およびアップダウンカウンタによる簡易な構成で、瞬時的な変動を伴う信号を処理する回路の過電力検知を行なうことができる。
【0097】
また、本発明の実施の形態に係る過電力検知部では、比較結果累積部63は、指標値が評価閾値Pthより大きい場合には、前回までの累積結果に正または負の制御値αを加算し、指標値が評価閾値Pthより小さい場合には、前回までの累積結果に制御値αと反対の符号の制御値βを加算する。
【0098】
このように、制御値αまたは制御値βをゼロに設定せず、制御値αおよび制御値βの符号を異ならせる構成により、対象信号の電力たとえばハイパワーアンプ85の出力レベルが通常値である場合において、比較結果累積部63における累積結果、たとえばアップダウンカウンタにおけるカウント値を、ある値に収束させることができる。これにより、対象信号の電力の移動平均を得ることができる。すなわち、対象信号の電力が所定の閾値を超えた時から最低限のサンプル数が得られた時点で、過電力を検知することが可能となる。
【0099】
また、移動平均が得られることから、ある一定の期間ごとに平均電力の算出を行なう構成と比べて、過電力の期間が短い場合に当該過電力の検知漏れが生じる可能性を低くすることができる。
【0100】
また、たとえばアップダウンカウンタにおけるカウント値が、ノイズ等の影響により少しずつ加算されていき、過電力アラームが誤って出力されてしまうことを防ぐことができる。また、この誤検出を防ぐために、たとえばアップダウンカウンタのカウント値を定期的または所定条件でリセットする必要がなくなり、構成の簡易化を図ることができる。
【0101】
ここで、比較結果累積部63において、包絡線の大きさが評価閾値Pthより大きい場合に加算する制御値αの絶対値を、包絡線の大きさが評価閾値Pthより小さい場合に加算する制御値βの絶対値より大きく設定する場合を考える。この場合、比較結果累積部63における累積値の上昇が速くなるため、過電力を早期に検知することができる一方で、誤検出確率が増加してしまう。
【0102】
反対に、制御値αの絶対値を、制御値βの絶対値より小さく設定する場合を考える。この場合、比較結果累積部63の累積値の上昇が遅くなるため、誤検出確率が減少する一方で、過電力を早期に検知することができなくなる。
【0103】
これに対して、本発明の実施の形態に係る過電力検知部では、制御値αの絶対値と制御値βの絶対値とが等しい。
【0104】
このような構成により、過電力検知の早さおよび誤検出確率のバランスを良好に保つことができる。
【0105】
また、本発明の実施の形態に係る過電力検知部では、制御値αの絶対値および制御値βの絶対値は1である。
【0106】
このような構成により、比較結果累積部63を、1を増減するだけの単純な回路、たとえばアップダウンカウンタで実現することが可能となる。
【0107】
また、本発明の実施の形態に係る過電力検知部では、比較結果累積部63は、指標値と評価閾値Pthとの大小関係に基づいてカウントアップまたはカウントダウンするためのアップダウンカウンタを含む。
【0108】
このような構成により、比較結果累積部63を汎用的な回路で実現し、構成の簡易化を図ることが可能となる。
【0109】
また、本発明の実施の形態に係る過電力検知部では、評価閾値Pthは、対象信号の電力が過電力を生じさせない値である場合にはアップダウンカウンタのカウント値が収束し、対象信号の電力が過電力を生じさせる値である場合にはアップダウンカウンタのカウント値が収束値から上昇または下降するような値に設定される。
【0110】
このような構成により、対象信号の電力の移動平均を簡易な構成で得ることができる。また、たとえば比較結果累積部63がアップダウンカウンタである場合において、対象信号の電力が通常値であるときにはある値、たとえば0に収束していることから、カウント値をリセットする必要がなくなり、構成の簡易化を図ることができる。
【0111】
また、本発明の実施の形態に係る過電力検知部では、過電力判定部64は、累積結果と累積結果閾値AThとを比較し、累積結果と累積結果閾値AThとの大小関係に基づいて過電力を判定する。
【0112】
このような構成により、閾値を用いた簡易な構成で、過電力の判定を行なうことができる。
【0113】
なお、本発明の実施の形態に係る過電力検知部では、電力情報取得部61は、I信号およびQ信号の包絡線の大きさすなわち√(I2+Q2)を取得する構成であるとしたが、これに限定するものではない。電力情報取得部61は、対象信号の、各タイミングにおける電力の指標値を取得する構成であればよい。たとえば、電力情報取得部61は、I信号およびQ信号の電力値すなわち(I2+Q2)を取得する構成であってもよいし、その他、I信号の振幅値およびQ信号の振幅値に所定の演算を施した値たとえば(I2+Q2nを取得する構成であってもよい。
【0114】
また、本発明の実施の形態に係る過電力検知部では、比較結果累積部63における制御値αを1とし、制御値βを−1としたが、これに限定するものではない。制御値αおよび制御値βの絶対値が1以外の値であってもよいし、制御値αおよび制御値βが異なる絶対値であってもよいし、制御値αまたは制御値βがゼロであってもよいし、制御値αおよび制御値βが同じ符号であってもよい。
【0115】
ただし、制御値αまたは制御値βがゼロである場合、および制御値αおよび制御値βが同じ符号である場合には、たとえばアップダウンカウンタのカウント値を定期的または所定条件でリセットする必要がある。
【0116】
また、本発明の実施の形態に係る過電力検知部は、自己の無線通信装置201における回路の過電力を検知する構成であるとしたが、これに限定するものではない。過電力検知部51は、他の装置の過電力を検知する別個の装置であってもよい。たとえば、過電力検知部51は、他の装置である無線通信装置の過電力を検知する構成であってもよい。
【0117】
また、本発明の実施の形態に係る過電力検知部は、過出力検知を行なう、たとえば無線通信装置201から送信される信号を増幅する回路の過電力を検知する構成であるとしたが、これに限定するものではない。過電力検知部は、過入力検知を行なう、たとえば他の装置から無線通信装置201へ入力される信号を増幅する回路の過電力を検知する構成であってもよい。この場合、電力情報取得部61は、たとえば、無線通信装置201によって受信された無線信号を増幅器が増幅し、増幅後の信号をアナログ/デジタル変換した後の信号の、各タイミングにおける電力の指標値を取得する。
【0118】
上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0119】
51 過電力検知部
61 電力情報取得部
62 比較部
63 比較結果累積部
64 過電力判定部
80 インタフェース部
81 デジタル周波数変換部
82,83 デジタル/アナログ変換器
84 直交変調部
85 ハイパワーアンプ
101 リモートラジオヘッド
102 本体装置
201 無線通信装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象装置において送信または受信される信号の、各タイミングにおける電力の指標値を取得するための電力情報取得部と、
前記電力情報取得部によって取得された前記指標値と評価閾値とを比較するための比較部と、
前記比較部による前記各タイミングの比較結果を示す値を累積するための比較結果累積部と、
前記比較結果累積部による累積結果に基づいて、前記対象装置における回路の過電力を判定するための過電力判定部とを備える、過電力検知装置。
【請求項2】
前記比較結果累積部は、前記指標値が前記評価閾値より大きい場合には、前回までの累積結果に正または負の第1の制御値を加算し、前記指標値が前記評価閾値より小さい場合には、前回までの累積結果に前記第1の制御値と反対の符号の第2の制御値を加算する、請求項1に記載の過電力検知装置。
【請求項3】
前記第1の制御値の絶対値と前記第2の制御値の絶対値とが等しい、請求項2に記載の過電力検知装置。
【請求項4】
前記第1の制御値の絶対値および前記第2の制御値の絶対値は1である、請求項3に記載の過電力検知装置。
【請求項5】
前記比較結果累積部は、前記指標値と前記評価閾値との大小関係に基づいてカウントアップまたはカウントダウンするためのアップダウンカウンタを含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の過電力検知装置。
【請求項6】
前記評価閾値は、前記信号の電力が過電力を生じさせない値である場合には前記アップダウンカウンタのカウント値が収束し、前記信号の電力が過電力を生じさせる値である場合には前記アップダウンカウンタのカウント値が前記収束値から上昇または下降するような値に設定される、請求項5に記載の過電力検知装置。
【請求項7】
前記過電力判定部は、前記累積結果と累積結果閾値とを比較し、前記累積結果と前記累積結果閾値との大小関係に基づいて過電力を判定する、請求項1から6のいずれか1項に記載の過電力検知装置。
【請求項8】
送信される無線信号または受信された無線信号を増幅するための増幅器と、
前記増幅器の過出力を検知するための過電力検知部とを備え、
前記過電力検知部は、
前記増幅器によって増幅される前の信号または増幅された後の信号の、各タイミングにおける電力の指標値を取得するための電力情報取得部と、
前記電力情報取得部によって取得された前記指標値と評価閾値とを比較するための比較部と、
前記比較部による前記各タイミングの比較結果を示す値を累積するための比較結果累積部と、
前記比較結果累積部による累積結果に基づいて、前記増幅器における過電力を判定するための過電力判定部とを含む、無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−142699(P2012−142699A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292596(P2010−292596)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】