説明

遺伝子の発現レベルを指標とした穀物の食味判定方法

【課題】穀物中に存在する遺伝子の発現レベルを指標として、穀物の食味を判定する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
本願発明者らは上記課題を解決するために、まず、イネ成熟種子胚乳(米粒)内で発現する遺伝子の転写量に着目し、良食味米と非良食味米との間で胚乳内転写量に差が認められる遺伝子を多数選抜した。これら選抜した遺伝子の中から食味と相関性が見られる遺伝子を選抜し、これら複数の遺伝子の発現量を用いて、クラスター解析により総合的に食味を評価する方法を開発した。この方法により少量(数グラム)の米サンプルで、多検体同時に、かつ短時間で官能検査と相関性の高い評価を下すことが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀物中に存在する遺伝子の発現レベルを指標として、穀物の食味を判定する方法に関するものである。また、上記の穀物の食味を判定する際に用いるオリゴヌクレオチド対、およびこれらのオリゴヌクレオチド対を含むキットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
米は小麦やトウモロコシと並び世界三大穀物と呼ばれており、世界の総人口のうち約半数の人が米を何らかの形で食べている。現在、日本では約200種をこえるウルチ米品種が栽培されている。農家が栽培する米の品種を選定する際には、地域の気象的要件や収量性、耐病性、食味などを考慮し総合的に判断されるが、最近では消費者の良食味嗜好を反映し、食味を第一に考えて選ばれる傾向が強くなっている。このため、特に美味しいとされているコシヒカリの需要が高く、全稲作面積の約40%を占めるようになり、また最近の新品種の多くはコシヒカリの血を引いた良食味品種となっている。
【0003】
米の食味に影響を及ぼす要因には品種といった遺伝的要素に加え、産地、栽培条件、収穫時期、収穫後の保存状態等が挙げられる。特に栽培時期の環境(気候)は毎年同一条件が継続しないため、実際には同じコシヒカリでも産地によって食味に差が生じ、同じ産地であっても毎年食味が異なる。それにもかかわらず、一部の米は産地名及び品種名だけがブランド化し、食味の良いものとされ高い評価を受けている。例えば魚沼産コシヒカリのようにブランド化した米は常に良食味とされ、他の米よりも高価格で販売されている。このような米のブランド化は産地偽装表示、過大評価などの問題を引き起こしている。実際に、魚沼産コシヒカリなどは生産量よりも出荷量の方が多く、両者が一致していなかったり、産地名を記すだけで高価格で取引されている。一方で無名米や新品種は魚沼産コシヒカリと同等あるいはそれ以上に良食味であっても評価されにくいのが現状である。このように実際の流通過程においては食味よりもブランド名が優先される傾向にあり、ブランド名、イコール良食味米という誤解を招いている。このような事実から迅速で信頼性の高い食味評価方法の開発、消費者への正しい情報提供、生産者の努力の評価を可能にできることが期待されている。また、収穫直後に食味を予測できれば、良食味米を素早く仕入れることができ、コメ卸業者等にとって大きな魅力となると考えられる。しかし従来の手法では困難である。
【0004】
現在食味を評価する方法として、大きく2種類の方法が行われている。1つめは官能検査で、実際に炊飯した米を人が食べて食味を評価する方法である。この方法は味、香り、色、粘り、硬さ、歯ごたえなど総合的に判断できるが、個人差が生じ、20数名のパネラーが必要、一度に試供できるサンプル数に限りがある、評価に多量の米(数キログラム)を必要とするなどの欠点もある。また、炊飯条件も食味に影響を及ぼすため、厳密にコントロールする必要がある。官能検査による評価は、直接味覚による評価であるため、信頼度は高いが、多検体同時に評価できないことやパネラーの人数を揃えることが困難なため、実施できるのは特定の機関に限定される。
【0005】
2つめの方法は理化学検査である。食味に及ぼす要因として、タンパク質含量、アミロース含量、脂肪の酸化度などが挙げられる。これらを測定し数値化することによって食味を評価する方法である。代表的なものに食味計がある。人による官能検査と異なり、パネラーによる主観が入らないため客観的データを得られる特性があるが、一方で正確に測定できない成分がある、機器メーカーによって評価の基準が異なるなどの欠点がある。さらに、食味計と官能検査による評価結果との間には明確な相関関係が認められない。この要因の1つとしては、米粒中のアミロースやタンパク質含量などが食味と無関係ではないが、実際には多様な因子が複雑に影響しあって食味が決定されるものであるためと考えられる。従って、理化学検査による米の食味評価方法には限界がある。
【0006】
最近、官能検査や理化学検査とは別にDNAマーカーを用いた食味判定方法(特許文献1)が開発された。この手法はSTS化プライマーまたはランダムプライマー共存化でPCR法により増幅して得られるDNAバンドのうち、食味評価と相関の高いDNAバンドを識別用DNAマーカーとして用い、PCR法によって増幅されたDNAのパターンによって食味を評価する方法である。この方法は官能検査結果との相関は高いが、遺伝的要因にのみ基づいているために、環境要因や栽培条件が食味に与える影響を評価することはできない。
【0007】
米の食味判定法として上記のような方法がいくつか試みられてきたが、簡便で迅速に行うことが出来、より正確であり、さらに異なる品種間だけでなく同一品種内においても評価を行うことのできる米の食味の評価法はこれまでに確立されてこなかった。
【0008】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【特許文献1】特開2003-79375
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、米を含む穀物中に存在する遺伝子の発現レベルを指標として、穀物の食味を、従来よりも簡便かつ正確に判定する方法を提供することである。さらに、上記の穀物の食味を判定する際に用いるオリゴヌクレオチド対、およびこれらのオリゴヌクレオチド対を含むキットを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、まず本願発明者らは、イネ成熟種子胚乳(米粒)内で発現する遺伝子の転写量に着目し、良食味米と非良食味米との間で胚乳内転写量に差が認められる遺伝子を多数選抜した。これら選抜した遺伝子の中から食味と相関性が見られる遺伝子を選抜し、これら複数の遺伝子の発現量を用いて、クラスター解析により総合的に食味を評価する方法を開発した。この方法により少量(数グラム)の米サンプルで、多検体同時に、かつ短時間で官能検査と相関性の高い評価を下すことが可能となった。
即ち、本発明者らは、穀物中に存在する遺伝子の発現レベルを指標として、穀物の食味を判定する方法を開発することに成功し、これにより本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、より具体的には、以下の(1)〜(11)を提供する。
(1)穀物中に存在する遺伝子の発現レベルを指標として、穀物の食味を判定する方法。
(2)以下の(a)〜(c)の工程を含む、(1)に記載の食味を判定する方法。
(a)被検穀物において、良食味の穀物と非良食味の穀物との間で発現量が実質的に異なる遺伝子群の発現量を定量する工程。
(b)被検穀物における該遺伝子群の発現を、良食味の穀物または非良食味の穀物における該遺伝子群の発現と比較する工程。
(c)被検穀物が、良食味または非良食味であるかを判定する工程。
(3)被検穀物が米である、(2)に記載の食味を判定する方法。
(4)良食味の穀物と非良食味の穀物との間で発現量が実質的に異なる遺伝子群が、配列番号1〜50およびこれらのホモログから選択される少なくとも1つの遺伝子である(2)または(3)に記載の食味を判定する方法。
(5)良食味の穀物と非良食味の穀物との間で発現量が実質的に異なる遺伝子群の発現量の定量にリアルタイムPCR法が用いられる、(2)〜(4)のいずれかに記載の食味を判定する方法。
(6)配列番号1〜50に記載のゲノムDNA配列のそれぞれにハイブリダイズする5〜50塩基のプライマー対の群から選択される少なくとも1組のプライマー対を用いて、リアルタイムPCR法を行う(5)に記載の食味を判定する方法。
(7)配列番号51と52、53と54、55と56、57と58、59と60、61と62、63と64、65と66、67と68、69と70、71と72、73と74、75と76、77と78、79と80、81と82、83と84、85と86、87と88、89と90、91と92、93と94、95と96、97と98、99と100、101と102、103と104、105と106、107と108、109と110、111と112、113と114、115と116、117と118、119と120、121と122、123と124、125と126、127と128、129と130、131と132、133と134、135と136、137と138、139と140、141と142、143と144、145と146、147と148、149と150から選択される少なくとも1組のプライマー対を用いて、リアルタイムPCR法を行う(5)に記載の食味を判定する方法。
(8)配列番号:59と60、63と64、67と68、69と70、73と74、77と78、79と80、133と134、137と138の9組のプライマー対を用いて、リアルタイムPCR法を行う(5)に記載の食味を判定する方法。
(9)(2)から(6)のいずれかに記載の食味を判定する方法に用いるPCRプライマー対であって、配列番号1〜50に記載のゲノムDNAのそれぞれにハイブリダイズする5〜50塩基のプライマー対。
(10)(2)から(6)のいずれかに記載の食味を判定する方法に用いるPCRプライマー対であって、配列番号51と52、53と54、55と56、57と58、59と60、61と62、63と64、65と66、67と68、69と70、71と72、73と74、75と76、77と78、79と80、81と82、83と84、85と86、87と88、89と90、91と92、93と94、95と96、97と98、99と100、101と102、103と104、105と106、107と108、109と110、111と112、113と114、115と116、117と118、119と120、121と122、123と124、125と126、127と128、129と130、131と132、133と134、135と136、137と138、139と140、141と142、143と144、145と146、147と148、149と150のいずれかに記載の、オリゴヌクレオチド対。
(11)(9)または(10)に記載のオリゴヌクレオチド対を含む、米の食味判定用キット。
【発明の効果】
【0012】
現在行われている食味判定法の一つである官能検査は多量のサンプルが必要で、長時間を要するという欠点がある。一方、理化学検査は官能検査との相関性が認められないという欠点がある。これに対し本発明の食味判定法は、少量のサンプル量で簡便かつ短時間で評価可能であり、官能検査結果とも高い相関を示す。また、全ての品種の精米及び玄米に使用可能であり、米以外の穀類(コムギ、オオムギ、ヒエ、アワ、トウモロコシ等)の評価にも適用できる可能性がある。本食味判定法は穀物の食味だけでなく、穀物の鮮度、米穀物の保存状態、ブレンドした穀物の食味予測(配合比率決定等)、穀物の栽培条件の評価、穀物の新品種開発時の良食味系統の選抜にも応用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、穀物中に存在する遺伝子の発現レベルを指標として、穀物の食味を判定する方法に関する。
【0014】
本発明における穀物としては、米、小麦、大麦、大豆、小豆、ヒエ、アワ、トウモロコシ等、世界中で食料または飼料として使用されているあらゆる穀物を挙げることができ、より好ましくは米を挙げることが出来る。また、本発明の方法は、様々な品種の穀物にも使用することができ、異なった品種のものが混合された状態の穀物にも使用することが出来る。
【0015】
また、本発明における方法は、穀物の精製過程におけるあらゆる状態のものにおいても、使用することが出来る。例えば、米の場合には、玄米、胚芽精米、精米等、精米過程におけるあらゆる状態の米においても本発明の方法を使用することが可能であり、精米過程の各段階の米が混合されたものに関しても使用することが可能である。
【0016】
また本発明の方法は、穀物の食味の他にも、穀物の保存状態、穀物の鮮度、穀物の保存状態、穀物の生育環境、異なった品種の穀物の混合状態(配合比)等を判定する際にも適用することが可能である。
【0017】
本発明における穀物の食味とは、穀物を一定の手法で調理した際の、穀物の美味しさを表す。穀物の美味しさは、国や地域、時代、季節、食事の環境等により変化することが知られているが、一定の手法で調理し、ある特定の国や地域の試験者を複数人集め、試食官能試験を行った場合には、嗜好性の傾向が現れることがわかっている。例えば、米は現在の日本では「軟らかくて粘りが強くつやのある米飯」が好まれるが、逆にインドでは「硬くてしっかりした歯ごたえのある粘りの少ない米飯」が好まれる傾向がある。このように、環境によって穀物の食味に対する基準が変化していくため、食味の評価を行う際には、評価する地域や時代毎に試食官能試験により嗜好性の傾向を決定する必要がある。
【0018】
本発明における穀物の食味とは、この嗜好性の傾向を示すものである。例えば、日本における米の嗜好性の傾向としては、本願発明者である日本穀物検定協会が旧農林水産省食糧研究所で開発された官能検査方法に基づいて、毎年実施し結果を公表している「米の食味ランキング」等を挙げることができる。本官能試験は、24名の試食者が、「総合評価」、「硬さ」、「粘り」、「外観」、「味」や「香り」等の項目毎に、一定の手法で調理された試料米飯と基準米を比較しながら、「劣る」、「同等」、「優れている」等の評価を行い、これらの評価値を、平均値との差の検定や2元配置分散分析等の統計処理によって食味評価を行うものである。
【0019】
穀物の嗜好性の傾向の決定は、穀物の種類によって、それぞれ適切な検査方法によって行うことが出来、本発明はそれらの検査方法によって決定された食味を基準として評価に適用することが出来る。
【0020】
本発明の穀物の食味を判定する方法は以下の三つの工程により行うことが出来る。まず第一の工程において、被検穀物において、良食味の穀物と非良食味の穀物との間で発現量が実質的に異なる遺伝子群の発現量を定量する。
【0021】
良食味の穀物と非良食味の穀物との間で発現量が実質的に異なる遺伝子群は、上記の官能試験により食味を決定されたサンプル穀物からRNAを抽出し、マイクロアレイ(Higgins JP, Wang L, Kambham N, Montgomery K, Mason V, Vogelmann SU, Lemley KV, Brown PO, Brooks JD, van de Rijn M. Gene expression in the normal adult human kidney assessed by complementary DNA microarray..Mol Biol Cell. 2004. Feb;15(2):649-56., Schwamborn J, Lindecke A, Elvers M, Horejschi V, Kerick M, Rafigh M, Pfeiffer J, Prullage M, Kaltschmidt B, Kaltschmidt C. Microarray analysis of tumor necrosis factor alpha induced gene expression in U373 human glioblastoma cells. BMC Genomics. 2003. Nov 25;4(1):46., Reimertz C, Kogel D, Rami A, Chittenden T, Prehn JH. Gene expression during ER stress-induced apoptosis in neurons: induction of the BH3-only protein Bbc3/PUMA and activation of the mitochondrial apoptosis pathway. J Cell Biol. 2003. Aug 18;162(4):587-97., Marin K, Suzuki I, Yamaguchi K, Ribbeck K, Yamamoto H, Kanesaki Y, Hagemann M, Murata N. Identification of histidine kinases that act as sensors in the perception of salt stress in Synechocystis sp. PCC 6803. Proc Natl Acad Sci U S A. 2003 Jul 22;100(15):9061-6.)等の当業者に公知の方法により発現量の差を検出することで決定することが出来る。本遺伝子群を決定する際のサンプルとしては、同一品種の中からサンプルを選んでもよいし、他品種の中からサンプルを選んでもよい。本発明において良食味の穀物と非良食味の穀物との間で発現量が実質的に異なる遺伝子とは、良食味穀物と、非良食味穀物の間で2倍以上(例えば、2,3,4または5倍以上)の遺伝子発現差が見られた遺伝子のことをいう。ここでいう発現の差とは、発現量が増加している場合、減少している場合のどちらも含むものである。
【0022】
本発明を米の食味判定に適用する場合には、良食味の米と非良食味の米との間で発現量が実質的に異なる遺伝子として、配列番号:1〜50に記載の塩基配列およびこれらのホモログから選択される少なくとも1つの遺伝子を使用することが出来る。
【0023】
ホモログには、配列番号:1〜50に記載の塩基配列にコードされるタンパク質と同等の機能を有し、かつ高い相同性を持つタンパク質をコードする塩基配列等も含まれる。高い相同性とは、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%,96%,97%,98%,99%以上)の配列の同一性を指す。さらにホモログには、配列番号:1〜50に記載の塩基配列からなるDNAにハイブリダイズするDNAも含まれる。ハイブリダイゼーションにおける条件は当業者であれば適宜選択することができるが、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、5×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、5×SSC 、0.1%SDSの条件である。より好ましいハイブリダイゼーションの条件としては、例えば65℃、0.1×SSC及び0.1%SDSの条件である。
【0024】
本発明の、良食味の穀物と非良食味の穀物との間で発現量が実質的に異なる遺伝子群の発現量を定量する際には、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、該生合成酵素のmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法、またはRT-PCR法を実施することによって該遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。さらに、DNAアレイ技術を用いて、該生合成酵素の発現レベルを測定することも可能である。
【0025】
また、該生合成酵素を含む画分を定法に従って回収し、該生合成酵素の発現をSDS-PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うこともできる。
【0026】
また、該生合成酵素に対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法を実施し、該生合成酵素の発現を検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うことも可能である。該生合成酵素の検出に用いる抗体としては、検出可能な抗体であれば、特に制限はないが、例えばモノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体の両方を利用することができる。該抗体は、当業者に公知の方法により調製することが可能である。ポリクローナル抗体であれば、例えば、次のようにして取得することができる。該生合成酵素、あるいはGSTとの融合タンパク質として大腸菌等の微生物において発現させたリコンビナントタンパク質、またはその部分ペプチドをウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、該生合成酵素や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。また、モノクローナル抗体であれば、例えば、該生合成酵素またはその部分ペプチドをマウス等の小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、該細胞とマウスミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の試薬を用いて融合させ、これによりできた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、該生合成酵素に結合する抗体を産生するクローンを選択する。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、該生合成酵素や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することで、調製することが可能である。
【0027】
さらに、本発明ではリアルタイムPCR法を用いて、遺伝子群の発現定量を行うことが出来る。リアルタイムPCR法とは、PCRの増幅量をリアルタイムでモニターし解析する方法であり、電気泳動が不要で迅速性と定量に優れている測定法である(Yoshida N, Omoto Y, Inoue A, Eguchi H, Kobayashi Y, Kurosumi M, Saji S, Suemasu K, Okazaki T, Nakachi K, Fujita T, Hayashi S. Prediction of prognosis of estrogen receptor-positive breast cancer with combination of selected estrogen-regulated genes. Cancer Sci. 2004 Jun;95(6):496-502., Furukawa M, Nishimura M, Ogino D, Chiba R, Ikai I, Ueda N, Naito S, Kuribayashi S, Moustafa MA, Uchida T, Sawada H, Kamataki T, Funae Y, Fukumoto M. Cytochrome P450 gene expression levels in peripheral blood mononuclear cells in comparison with the liver. Cancer Sci. 2004 Jun;95(6):520-9., Peinnequin A, Mouret C, Birot O, Alonso A, Mathieu J, Clarencon D, Agay D, Chancerelle Y, Multon E. Rat pro-inflammatory cytokine and cytokine related mRNA quantification by real-time polymerase chain reaction using SYBR green. BMC Immunol. 2004 Feb 5;5(1):3., Cummings TJ, Strum JC, Yoon LW, Szymanski MH, Hulette CM. Recovery and expression of messenger RNA from postmortem human brain tissue. Mod Pathol. 2001 Nov;14(11):1157-61., Livak KJ, Schmittgen TD. Analysis of relative gene expression data using real-time quantitative PCR and the 2(-Delta Delta C(T)) Method. Methods. 2001 Dec;25(4):402-8.)。本方法では、まず段階希釈した既知量のDNAをスタンダードとしてPCRを行い、増幅が指数関数的に起こる領域で一定の増幅産物量になるサイクル数(threshold;Ct値)を横軸に、初発のDNA量を縦軸にプロットし、検量線を作成する。その後、被検試料についても同様の条件下で反応を行いCt値を求め、検量線から被検試料におけるRNAを測定し、発現定量を行うものである。通常、リアルタイムPCRのモニターは、蛍光試薬を用い、サーマルサイクラーと分光蛍光光度計を一体化した装置にて行う。
【0028】
本発明において、リアルタイムPCR法を行う場合は、良食味の穀物と非良食味の穀物との間で発現量が実質的に異なる遺伝子をPCR反応によって増幅するために、適当なプライマーを選択する必要がある。
【0029】
本発明において、プライマーとは、標的の核酸分子(例えば、DNA分子)の増幅または重合化の際に、ヌクレオチドモノマーの共有結合により伸長する、一本鎖または二本鎖のオリゴヌクレオチドのことを指す。プライマーとしては、標的の核酸分子に、選択的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを挙げることが出来る。選択的にハイブリダイズするとは、あらかじめ定められた配列をもつ分子(すなわち第2のポリペプチド)がDNAまたはRNAの試料中に存在する場合、適切にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の下で、ハイブリダイズする、二本鎖になる、または本質的に互いにのみ結合する核酸分子を指す。ストリンジェントな条件とは、例えば、通常、42℃、 2×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、2×SSC 、0.1%SDSの条件であり、さらに好ましくは、65℃、0.1×SSCおよび0.1%SDSの条件であるが、これらの条件に特に制限されない。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで最適なストリンジェンシーを実現することが可能である。プライマーの設計には、プライマー設計支援サイトPrimer3等を利用することが出来る。プライマーは、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成機により作製してもよいし、制限酵素処理等によって取得される二本鎖DNA断片として作製してもよい。プライマーのサイズは様々であってよく、例えば、約5〜約500塩基、約5〜約100塩基、約5〜約50塩基、約5〜約25塩基、約5〜約10塩基、約5〜約6塩基のサイズを挙げることが出来、好ましくは5〜50塩基のサイズである。
【0030】
本発明を米の食味判定に適用する場合には、リアルタイムPCRにおいて、配列番号1〜50に記載のゲノムDNA配列のそれぞれにハイブリダイズする5〜50塩基のプライマー対の群から選択される少なくとも1組のプライマー対を用いることが出来る。また、好ましくは、配列番号51と52、53と54、55と56、57と58、59と60、61と62、63と64、65と66、67と68、69と70、71と72、73と74、75と76、77と78、79と80、81と82、83と84、85と86、87と88、89と90、91と92、93と94、95と96、97と98、99と100、101と102、103と104、105と106、107と108、109と110、111と112、113と114、115と116、117と118、119と120、121と122、123と124、125と126、127と128、129と130、131と132、133と134、135と136、137と138、139と140、141と142、143と144、145と146、147と148、149と150から選択される少なくとも1組のプライマー対を用いることが出来る。さらに、より好ましくは、配列番号:59と60、63と64、67と68、69と70、73と74、77と78、79と80、133と134、137と138の9組のプライマー対を用いることが出来る。
【0031】
本発明の穀物の食味判定方法は第二の工程として、被検穀物における該遺伝子群の発現を、良食味の穀物または非良食味の穀物における良食味の穀物と非良食味の穀物との間で発現量が実質的に異なる遺伝子群の発現と比較する。発現の比較においては、まず初めにそれぞれの米の発現量をlog2比で表し、クラスター解析を行う。クラスター解析は、クラスター解析ソフトウエアEPCLUST(http://ep.ebi.ac.uk/EP/EPCLUST)を用いて行うことが可能である。
【0032】
本発明の穀物の食味判定方法は第三の工程として、被検穀物が、良食味または非良食味であるかを判定する。被検穀物において良食味の穀物と非良食味の穀物との間で発現量が実質的に異なる遺伝子群の発現パターンが、食味値が高い穀物の発現パターンと非常に似ている場合には、被検穀物は食味値が高い米(良食味の穀物)であると判定し、逆に被検穀物の発現パターンが、食味値が低い穀物の発現パターンと非常に似ている場合には、被検穀物は食味値が低い米(非良食味の穀物)であると判定する。
【0033】
本発明は、米の食味を判定する方法に用いるPCRプライマー対に関する。
本プライマー対としては、配列番号1〜50に記載のゲノムDNAのそれぞれにハイブリダイズする5〜50塩基のプライマー対を上げることが出来る。ハイブリダイズの条件については、上記の記載のハイブリダイズ条件を適用することが可能である。
【0034】
また、本プライマー対としては、より好ましくは、配列番号51と52、53と54、55と56、57と58、59と60、61と62、63と64、65と66、67と68、69と70、71と72、73と74、75と76、77と78、79と80、81と82、83と84、85と86、87と88、89と90、91と92、93と94、95と96、97と98、99と100、101と102、103と104、105と106、107と108、109と110、111と112、113と114、115と116、117と118、119と120、121と122、123と124、125と126、127と128、129と130、131と132、133と134、135と136、137と138、139と140、141と142、143と144、145と146、147と148、149と150のいずれかに記載の、オリゴヌクレオチド対を挙げることが出来る。
【0035】
本発明は、上記に記載のオリゴヌクレオチド対を含む、米の食味判定用キットに関する。このようなキットには、上記に記載の食味判定の、遺伝子発現定量工程や発現比較工程に使用されるものを含みうる。また、被検試料からRNAを抽出する際に用いる試薬等も含む。例えば、リアルタイムPCR法を行う際の、蛍光基質、ポリメラーゼ、緩衝液等を挙げることができる。その他、蒸留水、塩、緩衝液、タンパク質安定剤、保存剤等が含まれていてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0037】
官能試験により食味評価が行われた2002年産及び2003年産の精米及び玄米を(財)日本穀物検定協会で食味検定を行ったのち、以降の実験に使用した。
【0038】
〔実施例1〕米からのRNA抽出
2 mlチューブ(Eppendorf社製)に12〜15粒の玄米または精米、0.5 ml抽出バッファー(1 M KCL、100 mM Tris-HCl、10 mM EDTA、1% β-メルカプトエタノール)、4 mm径のジルコニア製ボール1個を入れ、粉砕装置ミキサーミルMM300(Retch社製)を用いて、300 Hzで2分間×2回粉砕した。これに0.3 ml 酸性フェノール、0.14 ml クロロホルム、0.03 ml 3M 酢酸ナトリウム(pH 5.2)を加えてよく混合した。これを15000 rpm×10分間遠心分離し、上清を新しいチューブに移した。再び15000 rpm×10分間遠心分離を行い、上清を新しいチューブに移し、等量のイソプロパノールを加えてよく混合した。-20℃に1時間静置後、15000 rpm×30分間遠心分離を行った。上清を捨て、70%エタノールで沈殿を洗浄した。乾燥後、DEPC水に溶解した。これに終濃度が2 MとなるようにLiClを加え、よく混合した。一晩4℃に静置後、15000 rpm×30分間遠心分離を行った。上清を捨て、70%エタノールで沈殿を2回洗浄した。乾燥後、DEPC水に溶解し、全RNAを得た。mRNAの精製は得られた全RNAを用い、Oligotex-MAG mRNA Purification Kit(TaKaRa)を使用し、付属のプロトコールに従って行った。
【0039】
〔実施例2〕マイクロアレイによる、米の食味関連遺伝子の同定
当社の作製したイネの3'末端特異的cDNAライブラリーから約2600クローンを選び、鋳型として大腸菌培養液を3μl、反応液の全量を100μlとし、96ウェルプレート(AB gene)でPCRを行った。反応液の組成は終濃度が10 mM Tris-HCl(pH 8.3)、50 mM KCl、0.2 mM dNTPs、1.5 mM MgCl2、0.2μM Primer mix、0.025 U/μl AmpliTaq Gold DNA polymerase(Applied Biosystems)となるように調整した。PCR条件は95℃で10分間熱変性後、95℃:30秒間、55℃:1分間、72℃:1分間の反応を40回繰り返し、最後に72℃、7分間の反応を行った。反応後、等量のイソプロパノールを加え、よく混合した。-20℃に一晩静置後、4℃で3000 rpm×1時間遠心分離を行った。上清を捨て乾燥後、50% DMSOに溶解した。これをSpotArray24(PerkinElmer)を用いてDNAマイクロアレイ用コートグラスDMSO対応TYPE1高密度化アミノ基導入タイプ(松浪硝子)に個々のクローンを2回ずつスポットした。スポット後、室温で30分間以上放置し、完全に乾燥させ、UVクロスリンカー(STRATAGENE)を用いて250 mJoulesのエネルギーでUVクロスリンクし、cDNAをスライドに固定した。スライドをスライド・ラックに移し、1% SDS を含む3×SSCで1分間穏やかに振とう洗浄した。スライドを滅菌蒸留水中に移し、室温で5分間静置して洗浄した。この操作を2回行った。次にスライドを沸騰させた蒸留水に2分間浸した。スライドを速やかに取り出し、室温で遮光しながら完全に乾くまで静置した。これをrice cDNA Chipとした。使用するまでは遮光・乾燥させ、室温で保存した。
【0040】
蛍光標識プローブはコシヒカリ、ひとめぼれ、あきたこまちについてそれぞれ最も食味値が高い米と低い米のmRNA 0.5μgを鋳型とした。これらをLabelStar Array Kit(QIAGEN)を使用し、付属のプロトコールに従い、それぞれCy3またはCy5(Perkin Elmer)で蛍光標識を行った。標識後、同一品種の良食味米と非良食味米との組み合わせで反応液を混合し、キット内のカラムを使用してプローブを精製、濃縮し、30μlの蛍光標識cDNAプローブを得た。これに20×SSC(300 mM 塩化ナトリウム、300 mM クエン酸ナトリウム)を終濃度が5×SSCとなるように加え、95℃で3分間熱変性を行った。熱変性後直ちに4℃で急冷し、終濃度が0.5%となるように10 %(w/v) SDSを加え、よく混合した。rice cDNA Chipのスポットした表面全体を覆うようにエタノールで洗浄したギャップカバーグラス(24×50mm)(松浪硝子)を乗せた。ギャップカバーグラスの隙間から空気が入らないように注意して精製したプローブ液を注いだ。SYNTHTECH OVEN HA-1(BM機器)で65℃、18時間インキュベーションした。インキュベーション後、0.1% SDS を含む2×SSC溶液内でギャップカバーグラスを静かにはがし、0.1% SDS を含む2×SSCで20 分間、0.1% SDS を含む0.2×SSCで20 分間、0.2×SSCで数十秒、0.05×SSCで数十秒の順に洗浄した。洗浄は全て暗室で行った。洗浄後300 rpmで軽く遠心分離を行い、室温で乾燥させた。その後ScanArray Express(PerkinElmer)で蛍光パターンを読み取り、それぞれのシグナル強度を数値化した。この値を同一品種の良食味米と非良食味米との間で比較することによって遺伝子発現差を調べた。本実験は精米及び玄米についてそれぞれ4回行うことにより、再現性の確認を行った。これらの解析結果から、良食味米と非良食味米との間で2倍以上の遺伝子発現差が認められた遺伝子を50個選抜した。これら50個の食味関連遺伝子および本遺伝子のプライマー対の一覧を以下に示す。また、本遺伝子の塩基配列を配列番号:1から50に、本遺伝子のプライマーの塩基配列を配列番号:51から150に示す。
【0041】
マイクロアレイで選抜された遺伝子(相同性検索結果)
配列番号:1 putative oxysterol binding protein(プライマー:配列番号51、52)
配列番号:2 branching enzyme-I precursor; 1,4-alpha-glucan branching enzyme(プライマー:配列番号53、54)
配列番号:3 α-amylase(プライマー:配列番号55、56)
配列番号:4 putative membrane associated protein {Arabidopsis thaliana}(プライマー配列番号57、58)
配列番号:5 metallothionein-like protein [Oryza sativa]; metallothionein-like type 2(プライマー:配列番号59、60)
配列番号:6 Thiazole biosynthetic enzyme 1-1 chloroplast precursor. (プライマー:配列番号61、62)
配列番号:7 heat shock protein 90(プライマー:配列番号63、64)
配列番号:8 Oryza sativa QM gene(プライマー:配列番号65、66)
配列番号:9 Oryza sativa glycine-rich protein (OSGRP1) mRNA(プライマー:配列番号67、68)
配列番号:10 60S ribosomal protein L30(プライマー:配列番号69、70)
配列番号:11 60S acidic ribosomal protein P0(プライマー:配列番号71、72)
配列番号:12 Oryza sativa Zn-induced protein (RezA) mRNA(プライマー:配列番号73、74)
配列番号:13 similar to SP|Q9ARD5|LT02_HORVU Low-temperature induced protein lt101.2. [Barley] {Hordeum vulgare}(プライマー:配列番号75、76)
配列番号:14 Emp1(プライマー:配列番号77、78)
配列番号:15 Oryza sativa D-ribulose-5-phosphate 3-epimerase mRNA(プライマー:配列番号79、80)
配列番号:16 Ubiquitin conjugating enzyme (Ubiquitin-conjugating enzyme E2) (Ubiquitin-protein ligase) (Ubiquitin carrier protein) (プライマー:配列番号81、82)
配列番号:17 Bowman-Birk proteinase inhibitor; Bowman Birk trypsin inhibitor [Oryza sativa] (プライマー:配列番号83、84)
配列番号:18 GP|12328560|dbj|BAB21218. putative DNA binding protein RAV2 {Oryza sativa (japonica cultivar-group)} (プライマー:配列番号85、86)
配列番号:19 putative nifU-like protein(プライマー:配列番号87、88)
配列番号:20 calcium-dependent protein kinase(プライマー:配列番号89、90)
配列番号:21 proline rich protein homolog WCOR518 - wheat (fragment), partial (36%)(プライマー:配列番号91、92)
配列番号:22 preprolamin (AA -19 to 137); 13kDa prolamin(プライマー:配列番号93、94)
配列番号:23 Oryza sativa pyruvate decarboxylase 2 (Pdc2) mRNA(プライマー:配列番号95、96)
配列番号:24 putative EREBP-type transcription factor {Oryza sativa}(プライマー:配列番号97、98)
配列番号:25 Oryza sativa mRNA for LIP9(プライマー:配列番号99、100)
配列番号:26 Oryza sativa endosperm lumenal binding protein (BiP) mRNA(プライマー:配列番号101、102)
配列番号:27 weakly similar to PIR|S71277|S71277 serine/threonine-specific receptor protein kinase (EC 2.7.1.-) - Arabidopsis thaliana, partial (4%)(プライマー:配列番号103、104)
配列番号:28 Oryza sativa proteinase inhibitor (Rgpi9) gene(プライマー:配列番号105、106)
配列番号:29 GP|20330755|gb|AAM19118.1 Putative potassium/proton antiporter-like protein {Oryza sativa (japonica cultivar-group)} (プライマー:配列番号107、108)
配列番号:30 GP|23616947|dbj|BAC20650. putative allergenic protein {Oryza sativa (japonica cultivar-group)} (プライマー:配列番号109、110)
配列番号:31 Oryza sativa cultivar Rexmont granule-bound starch synthase (Waxy) gene(プライマー:配列番号111、112)
配列番号:32 probable type 1 membrane protein [imported] - Arabidopsis thaliana, partial (28%)(プライマー:配列番号113、114)
配列番号:33 xylose isomerase; xylose isomerase [Oryza sativa] (プライマー:配列番号115、116)
配列番号:34 prolamin; 10 kD prolamin; prolamin (AA 1-134); 10KD prolamin; 10 kDa prolamin [Oryza sativa] (プライマー:配列番号117、118)
配列番号:35 seed allergen RA17 [Oryza sativa (japonica cultivar-group)]; allergenic protein; major allergenic protein (RAP) (プライマー:配列番号119、120)
配列番号:36 polyubiquitin 6(プライマー:配列番号121、122)
配列番号:37 similar to GP|22135471|gb|AAM93216.1 histone H1-like protein HON101 {Zea mays}, partial (86%)(プライマー:配列番号123、124)
配列番号:38 Oryza sativa mRNA for MADS box-like protein(プライマー:配列番号125、126)
配列番号:39 Oryza sativa subsp. japonica class III chitinase (chib1) gene(プライマー:配列番号127、128)
配列番号:40 homologue to UP|AAR32118 (AAR32118) MADS-box protein, partial (9%)(プライマー:配列番号129、130)
配列番号:41 SP|Q9ZSS3|P2A1_ORYSA Serine/threonine protein phosphatase PP2A-1 catalytic subunit. {Oryza sativa;} (プライマー:配列番号131、132)
配列番号:42 EST(プライマー:配列番号133、134)
配列番号:43 EST(プライマー:配列番号135、136)
配列番号:44 EST(プライマー:配列番号137、138)
配列番号:45 EST(プライマー:配列番号139、140)
配列番号:46 EST(プライマー:配列番号141、142)
配列番号:47 EST(プライマー:配列番号143、144)
配列番号:48 EST(プライマー:配列番号145、146)
配列番号:49 EST(プライマー:配列番号147、148)
配列番号:50 EST(プライマー:配列番号149、150)
【0042】
〔実施例3〕リアルタイムPCRによる米の食味関連遺伝子の確認
全RNA 40μgに10UのDNaseI(RNase-free)(TaKaRa)、10×DNaseIバッファー、DEPC水を加え、全量を50μlとした。これを37℃、30分間処理した。反応後、250μl DEPC水、200μl酸性フェノール、100μlクロロホルムを加え、よく混合した。12000 rpm×10分間遠心分離を行い、上清を新しいチューブに移した。この操作を2回行った。上清の2.5倍量のエタノールと1/10量の3M 酢酸ナトリウム(pH 5.2)を加えてよく混合した。-20℃で1時間静置後、15000 rpm×30分間遠心分離した。上清を捨て、70%(v/v)エタノールで沈殿を洗浄した。乾燥後、DEPC水に溶解した。DNaseI処理した全RNAを以下の実験に使用した。
【0043】
全RNA 1μgを用いてReverTra Dash(TOYOBO)に付属のプロトコールに従って逆転写反応を行い(ランダムプライマー使用)、cDNAを合成した。マイクロアレイ実験により選抜された50遺伝子についてそれぞれ遺伝子特異的なプライマーを設計し、このcDNAを2倍希釈したものを鋳型として、ABI PRISM 7000 Sequence Detection System(Applied Biosystems)でリアルタイムPCRを行った。プライマー設計には、プライマー設計支援サイトPrimer3(http://frodo.wi.mit.edu/cgi-bin/primer3/primer3_www.cgi)を利用した。また内部標準として18S rRNAを用い、cDNAを60倍希釈したものを鋳型とした。反応液の組成は終濃度が10 mM Tris-HCl(pH 8.3)、50 mM KCl、0.2 mM dNTPs、2.5 mM MgCl2、0.3μM Primer mix、0.2×SYBR GreenI(SIGMA)、0.16 pmol/μl 5-ROX、0.0225 U/μl AmpliTaq Gold DNA Polymerase(Applied Biosystems)となるように調整した。PCR条件は95℃で10分間熱変性後、94℃:20秒間、53℃:20秒間、72℃:1分間の反応を38回繰り返した。反応後、同社の解析ソフトABI PRISM7000 SDS Softwareで遺伝子発現解析を行った。遺伝子の発現量は内部標準遺伝子18S rRNAの発現量で標準化し、この値を同一品種の良食味米と非良食味米との間で比較した。マイクロアレイ実験と結果が一致し、かつ良食味米と非良食味米との間で2倍以上遺伝子発現に差が認められた遺伝子25個を選抜した。
【0044】
次に食味の異なるコシヒカリ(精米)23種類についてリアルタイムPCRを行った。上記と同様に各米の遺伝子発現量は内部標準遺伝子18S rRNAの発現量で標準化した。遺伝子発現解析を行った米の中から食味値が中間の米を基準米に選び、基準米に対するそれぞれの米の発現量をlog2比で表し、クラスター解析を行った。その結果、基準米と比較して食味値が高い米は遺伝子発現量が低く、逆に食味値が低い米は遺伝子発現量が高いという特徴をもつ遺伝子が9個認められた。各米についてこれら9遺伝子の遺伝子発現結果をもとに食味を評価した。(財)日本穀物検定協会の官能試験による食味値との比較を行った結果、ほぼ一致することがわかった(図1)。
【0045】
食味判定に用いた9個の食味関連遺伝子(相同性検索結果)
配列番号:5 metallothionein-like protein [Oryza sativa]; metallothionein-like type 2
配列番号:7 heat shock protein 90
配列番号:9 Oryza sativa glycine-rich protein (OSGRP1) mRNA
配列番号:10 60S ribosomal protein L30
配列番号:12 Oryza sativa Zn-induced protein (RezA) mRNA
配列番号:14 Emp1
配列番号:15 Oryza sativa D-ribulose-5-phosphate 3-epimerase mRNA
配列番号:42 EST
配列番号:44 EST
【0046】
〔実施例4〕他品種(精米)の食味評価
あきたこまち6種類、ひとめぼれ7種類、ヒノヒカリ11種類、はえぬき2種類から全RNAを抽出し、実施例2に記載した方法に従って、コシヒカリ精米の食味判定に用いた9遺伝子の発現解析を行った。基準米の発現量に対するそれぞれの米の発現量をlog2比で表し、クラスター解析を行った。9遺伝子の発現パターンはコシヒカリと同様、基準米と比較して食味値が高い米では遺伝子発現量が低く、一方食味値が低い米では遺伝子発現量が高いという特長が認められた。これら9遺伝子の遺伝子発現解析結果から食味の評価を行い、(財)日本穀物検定協会の官能試験による食味値との比較を行った結果、ほぼ一致した。従って、本食味評価法は単一の品種内だけでなく、あきたこまち、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、はえぬきなどの異なる品種間においても利用可能であることが実証され、これら以外の品種にも適用できる可能性が示された。
【0047】
〔実施例5〕コシヒカリ玄米の食味評価
コシヒカリ玄米19種類から全RNAを抽出し、<リアルタイムPCRによる確認>に記載した方法に従って、コシヒカリ精米の食味判定に用いた9遺伝子の発現解析を行った。基準米の発現量に対するそれぞれの米の発現量をlog2比で表し、クラスター解析を行った。その結果、玄米においても精米同様、基準米と比較して食味値が高い米では遺伝子発現量が低く、食味値が低い米では高い傾向が認められた。これら9遺伝子の遺伝子発現解析結果からコシヒカリの食味評価を行い、(財)日本穀物検定協会の官能試験による食味値との比較を行った結果、ほぼ一致した。従って、本食味評価法は精米だけでなく、玄米にも利用できることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】リアルタイムPCRによる米の食味関連遺伝子の確認結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物中に存在する遺伝子の発現レベルを指標として、穀物の食味を判定する方法。
【請求項2】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、請求項1に記載の食味を判定する方法。
(a) 被検穀物において、良食味の穀物と非良食味の穀物との間で発現量が実質的に異なる遺伝子群の発現量を定量する工程。
(a) 被検穀物における該遺伝子群の発現を、良食味の穀物または非良食味の穀物における該遺伝子群の発現と比較する工程。
(c) 被検穀物が、良食味または非良食味であるかを判定する工程。
【請求項3】
被検穀物が米である、請求項2に記載の食味を判定する方法。
【請求項4】
良食味の穀物と非良食味の穀物との間で発現量が実質的に異なる遺伝子群が、配列番号1〜50およびこれらのホモログから選択される少なくとも1つの遺伝子である請求項2または3に記載の食味を判定する方法。
【請求項5】
良食味の穀物と非良食味の穀物との間で発現量が実質的に異なる遺伝子群の発現量の定量にリアルタイムPCR法が用いられる、請求項2〜4のいずれかに記載の食味を判定する方法。
【請求項6】
配列番号1〜50に記載のゲノムDNA配列のそれぞれにハイブリダイズする5〜50塩基のプライマー対の群から選択される少なくとも1組のプライマー対を用いて、リアルタイムPCR法を行う請求項5に記載の食味を判定する方法。
【請求項7】
配列番号51と52、53と54、55と56、57と58、59と60、61と62、63と64、65と66、67と68、69と70、71と72、73と74、75と76、77と78、79と80、81と82、83と84、85と86、87と88、89と90、91と92、93と94、95と96、97と98、99と100、101と102、103と104、105と106、107と108、109と110、111と112、113と114、115と116、117と118、119と120、121と122、123と124、125と126、127と128、129と130、131と132、133と134、135と136、137と138、139と140、141と142、143と144、145と146、147と148、149と150から選択される少なくとも1組のプライマー対を用いて、リアルタイムPCR法を行う請求項5に記載の食味を判定する方法。
【請求項8】
配列番号:59と60、63と64、67と68、69と70、73と74、77と78、79と80、133と134、137と138の9組のプライマー対を用いて、リアルタイムPCR法を行う請求項5に記載の食味を判定する方法。
【請求項9】
請求項2から6のいずれかに記載の食味を判定する方法に用いるPCRプライマー対であって、配列番号1〜50に記載のゲノムDNAのそれぞれにハイブリダイズする5〜50塩基のプライマー対。
【請求項10】
請求項2から6のいずれかに記載の食味を判定する方法に用いるPCRプライマー対であって、配列番号51と52、53と54、55と56、57と58、59と60、61と62、63と64、65と66、67と68、69と70、71と72、73と74、75と76、77と78、79と80、81と82、83と84、85と86、87と88、89と90、91と92、93と94、95と96、97と98、99と100、101と102、103と104、105と106、107と108、109と110、111と112、113と114、115と116、117と118、119と120、121と122、123と124、125と126、127と128、129と130、131と132、133と134、135と136、137と138、139と140、141と142、143と144、145と146、147と148、149と150のいずれかに記載の、オリゴヌクレオチド対。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載のオリゴヌクレオチド対を含む、米の食味判定用キット。

【図1】
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【公開番号】特開2006−101766(P2006−101766A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−293052(P2004−293052)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(500301371)株式会社植物ゲノムセンター (16)
【出願人】(503027296)財団法人日本穀物検定協会 (7)
【Fターム(参考)】