説明

配筋情報取得装置及び配筋情報取得方法

【課題】簡単に精度よく異形鉄筋の配筋情報を取得する。
【解決手段】400万画素以上の設定が可能であり、かつ、オートフォーカス機能を切れるデジタルカメラを決定し(S701、S702)、異形鉄筋を含む撮影対象部位を決定する(S705)。次に、撮影対象となる複数の異形鉄筋のうち、両端2本にマーカを付与し(S707)、デジタルカメラを用いて2m離れた位置から撮影する(S708)。そして、デジタルカメラから携帯端末へ撮影された異形鉄筋の画像データを転送し、携帯端末を用いて画像処理を実行する(S714)。画像処理においては、画像データにおける1ピクセルあたりの長さである1ピクセル長を特定し、画像データにおける異形鉄筋の径長のピクセル数をカウントし、径長のピクセル数と、1ピクセル長とを乗ずることによって、径長を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設現場における鉄筋の本数、径長、間隔、材質等の配筋情報を取得する配筋情報取得装置及び配筋情報取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設現場においては、各種の工事について施工精度を確認するための検査を実施している。そして、事後の確認や検証等に供するために、着手前の状況、施工状況、完成状況等の多種多様な工事写真を撮影する必要がある。
【0003】
その中でも、鉄筋コンクリート構造物における鉄筋工事は、完成後の確認が非常に難しいことや、その完成度が構造耐力に大きく影響することにより、検査及び撮影の実施頻度が高く、管理業務において大きな割合を占めていた。特に、写真撮影においては、撮影した写真と、その関連情報(日時、撮影場所、撮影部位、設計情報、部材情報等)とを紐付ける手段として、当該関連情報を黒板に記述し、同一写真上に収める方法が一般的である。そして、関連情報の記述、それに係る図面、出来形の確認に膨大な時間を費やしているのが現状である。
【0004】
これを解消する手段として、例えば、工事写真をデジタルカメラで撮像し、取得したデジタル画像と、そのデジタル画像から画像処理技術等により自動的に生成される関連情報とを紐付けて出力する方法が知られている。その一例が特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2005−16108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この方法には、以下のような問題点があるため、実際の現場においては、黒板を用いる方法が実施されている。
【0006】
(1)デジタルカメラで工事写真を撮影し、画像処理によって配筋情報(鉄筋の本数、径長、間隔、材質等)を取得しようとする場合には、種々の撮影条件を設定する必要がある。デジタルカメラ側の条件には、撮影画素数、焦点距離等があり、撮影者側の条件には、対象との距離、撮影角度(水平、垂直)等がある。これらの条件は、特に画像処理を実行した場合に得られる情報の精度に対するパラメータとして作用する可能性があるが、これらの条件を一体的に定義した方法論はなく、取得された配筋情報の信頼性に問題があった。
【0007】
(2)鉄筋工事において、現状最も一般的に使用されている鉄筋は異形鉄筋と呼ばれるものであり、コンクリートとの付着性を向上させるために、鉄筋表面に節、リブと呼ばれる凹凸が存在する。節は、鉄筋の軸線に直交する(斜交する場合もある)突起部である。リブは、鉄筋の軸線に沿って延在する突起部である。従って、鉄筋径を取得しようとする場合には、節、リブによる径長の分布を考慮しなければならないが、これを解決する方法論がなかった。
【0008】
(3)撮像時の測距方法として、従来の場合には、光波距離計等の計測機器を別途備えるか、画像処理によって行う場合には、ステレオカメラ等により複数の画像を同時に取得する必要があるので、測距装置の大型化、高額化を招いていた。
【0009】
(4)鉄筋径は、構造耐力にも大きな影響を及ぼす配筋出来形情報における重要な要素の一つであるが、見た目上の判別が非常に難しい。鉄筋径の正当性を写真上で証明するためには、スケールを入れて相当な近距離で撮影する必要があり、撮影前後の手順を含む作業全体に手間がかかっていた。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、簡単に精度よく異形鉄筋の配筋情報を取得することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、異形鉄筋の径長を含む配筋情報を取得する配筋情報取得装置であって、撮影された前記異形鉄筋の画像データを取得する手段と、前記画像データにおける1ピクセルあたりの長さである1ピクセル長を特定する手段と、前記画像データにおける前記異形鉄筋の径長のピクセル数をカウントする手段と、前記径長のピクセル数と、前記1ピクセル長とを乗ずることによって、前記径長を算出する手段と、を備えることを特徴とする。
この構成によれば、簡単に精度よく異形鉄筋の径長を取得することができる。
【0012】
また、本発明は、配筋情報取得装置であって、円形のパターンが付与された前記異形鉄筋の画像データから前記円形の最大直径のピクセル数を抽出する手段をさらに備えることを特徴とする。
この構成によれば、円形のパターンを用いるため、どの方向からパターンを見ても最大直径が一定になるので、パターンの向きが変わっても、最大直径に対するピクセル数をカウントすることによって、1ピクセル当たりの長さを特定することができる。
【0013】
また、本発明は、配筋情報取得装置であって、前記異形鉄筋が、当該鉄筋の軸線に直交又は斜交する突起部である節と、当該鉄筋の軸線に沿って延在する突起部であるリブとを備え、前記異形鉄筋の軸線方向に沿って連続的に所定数の径長を取得する手段と、前記異形鉄筋の向きごとに、前記異形鉄筋の種類に対応する前記径長の代表値が取り得る下限値及び上限値を示す鉄筋種類情報を予め記憶する手段と、前記径長の分布から、前記異形鉄筋の向きを特定する手段と、前記異形鉄筋の向きに係る前記鉄筋種類情報から、前記径長の代表値が前記下限値と、前記上限値との間にある当該異形鉄筋の種類を特定する手段と、をさらに備えることを特徴とする。
この構成によれば、異形鉄筋の向きに対応した鉄筋種類情報を用いるので、節やリブのある異形鉄筋をどの角度から撮影したとしても、精度よく異形鉄筋の種類を取得することができる。
【0014】
なお、本発明は、配筋情報取得方法を含む。その他、本願が開示する課題及びその解決方法は、発明を実施するための最良の形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡単に精度よく異形鉄筋の配筋情報を取得することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態を説明する。本発明の実施の形態に係る配筋情報取得システムは、建設現場において、両端の2本の異形鉄筋にマーカ(パターン)を付し、デジタルカメラを用いて当該2本を含む異形鉄筋を撮影し、携帯端末(配筋情報取得装置)を用いて撮影画像から異形鉄筋の本数、径長及びピッチ(間隔)等の配筋情報を求め、径長の分布から各鉄筋の種類(規格、公称直径や呼び径)を推定するものである。これによれば、現場で簡単に精度よく配筋情報を取得できるので、設計図面情報と比較、照合することにより、その場で出来形の正当性を判断することができる。
【0017】
≪システムの構成と概要≫
図1は、配筋情報システム1の構成を示す図である。配筋情報取得システム1は、建設現場におけるデジタルカメラ3及び携帯端末4と、事務所における管理サーバ5とを備える。デジタルカメラ3と、携帯端末4との間は、USB(Universal Serial Bus)ケーブル等による接続でデータの送受信が可能である。携帯端末4と、管理サーバ5との間は、無線通信等によりデータの送受信が可能である。
【0018】
デジタルカメラ3は、鉄筋を含む柱、梁、床、壁等の撮影対象部位2を撮影するものであって、画素数が400万画素以上であり、オートフォーカス機能をオフにできるものが用いられる。携帯端末4は、携帯型情報処理機器であり、デジタルカメラ3から撮影したデジタル画像を取り込んで配筋情報を生成し、管理サーバ5から設計図面情報を受信し、配筋情報と、設計図面情報とを比較、照合することにより、出来形が正当か否かを判定する。なお、携帯端末4は、PC(Personal Computer)やサーバで代用してもよい。管理サーバ5は、設計図面情報や工事写真情報を記憶する記憶部55を備え、それらの情報を携帯端末4と送受信する。
【0019】
≪装置の構成≫
図2は、携帯端末4のハードウェア構成を示す図である。携帯端末4は、通信部41、表示部42、入力部43、処理部44及び記憶部45を備える。通信部41は、デジタルカメラ3や管理サーバ5とデータ通信を行う部分であり、例えば、USBポートやNIC(Network Interface Card)等によって実現される。表示部42は、処理部44からの指示によりデータを表示する部分であり、例えば、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)等によって実現される。入力部43は、オペレータがデータ(例えば、鉄筋規格情報等のデータ)を入力する部分であり、例えば、キーボードやマウス等によって実現される。処理部44は、各部間のデータの受け渡しを行うととともに、携帯端末4全体の制御を行うものであり、CPU(Central Processing Unit)が所定のメモリに格納されたプログラムを実行することによって実現される。記憶部45は、処理部44からデータを記憶したり、記憶したデータを読み出したりするものであり、例えば、フラッシュメモリやハードディスク装置等の不揮発性記憶装置によって実現される。
【0020】
図3は、管理サーバ5のハードウェア構成を示す図である。管理サーバ5は、通信部51、表示部52、入力部53、処理部54及び記憶部55を備える。通信部51は、無線ネットワークを介して携帯端末4とデータ通信を行う部分であり、例えば、NIC等によって実現される。表示部52は、処理部54からの指示によりデータを表示する部分であり、例えば、液晶ディスプレイ等によって実現される。入力部53は、オペレータがデータ(例えば、設計図面情報等のデータ)を入力する部分であり、例えば、キーボードやマウス等によって実現される。処理部54は、各部間のデータの受け渡しを行うととともに、管理サーバ5全体の制御を行うものであり、CPUが所定のメモリに格納されたプログラムを実行することによって実現される。記憶部55は、処理部54からデータを記憶したり、記憶したデータを読み出したりするものであり、例えば、フラッシュメモリやハードディスク装置等の不揮発性記憶装置によって実現される。
【0021】
≪データの構成≫
図4は、配筋情報取得システム1に記憶されるデータの構成を示す図である。図4(a)は、携帯端末4の記憶部45に記憶されるデータの構成を示す。記憶部45は、画像処理プログラム451及び鉄筋規格情報452を記憶する。画像処理プログラム451は、デジタルカメラ3で撮影された画像データから配筋情報を取得し、設計図面情報との適合性を判定する処理を行うプログラムであり、当該処理の必要に応じて処理部44の指示により記憶部45から読み出される。鉄筋規格情報(鉄筋種類情報)452は、径長の分布から鉄筋の規格(種類)を求めるために用いられるテーブル情報である。その詳細は、別途説明する。
【0022】
図4(b)は、管理サーバ5の記憶部55に記憶されるデータの構成を示す。記憶部55は、設計図面情報551及び工事写真情報552を予め記憶する。設計図面情報551は、鉄筋等、建造物の設計に係る図面情報(異形鉄筋の径長を含む)であり、管理者により記憶部55に登録され、必要に応じて管理サーバ5から携帯端末4に送信される。工事写真情報552は、実際の建設現場における建造物の写真情報であり、デジタルカメラ3で撮影された写真情報が、携帯端末4経由で管理サーバ5に送信され、記憶部55に記憶される。
【0023】
図5は、異形鉄筋の状態を定義する図である。異形鉄筋は、建物の構造用材料の一つであり、鉄製の棒を圧延して表面に凹凸を設けた棒状の鋼材である。凹凸として、図5に示すように、節と、リブとが設けられている。鉄筋の軸線に対して垂直な方向から見た(撮影した)場合、リブの位置(角度)によって異形鉄筋の径長が異なる。以下、リブが正面に向いた状態をリブ位置0°として、3つの状態について説明する。
【0024】
図5(a)は、リブ位置0°の状態を示す。この状態のリブは、正面に位置するので、径長には影響しない。図面に向かって右側の節と、左側の節とは、軸線方向に沿って交互に設けられている。従って、異形鉄筋の径長としては、節を含まない径長d0と、1つの節を含む径長d1とが抽出される。
【0025】
図5(b)は、リブ位置90°の状態を示す。この状態のリブは両端に位置し、節はリブに含まれるので、異形鉄筋の径長としては、両端のリブを含む径長d2が抽出される。
【0026】
図5(c)は、リブ位置60°の状態を示す。この状態のリブは、突起の高さによっては径長に影響を与える。図面に向かって右側の節は見えるが、左側の節は見えない。従って、異形鉄筋の径長としては、節を含まない径長d3と、1つの節を含む径長d4とが抽出される。なお、図11は、実際の異形鉄筋の例を示す図である。
【0027】
図6は、携帯端末4の鉄筋規格情報452の構成例を示す図である。鉄筋規格情報452は、撮影した鉄筋画像における径長の分布からリブ位置を推定し、さらに該当する鉄筋の規格(種類)を特定するためのテーブル情報であり、呼び径4521、公称直径4522及びリブ位置4523を含むレコードから構成される。呼び径4521は、異形鉄筋の呼び径を示す。公称直径4522は、呼び径4521の異形鉄筋について一般に言われる直径(径長)を示す。リブ位置4523は、リブが正面の状態を0°とした場合のリブの位置(角度)を示すものであり、そのリブ位置4523が0〜60[°]、60〜75[°]及び75〜90[°]の3つの場合に対してそれぞれ径長の下限値及び上限値が示されている。なお、節やリブの形状や大きさに応じて径長の見え方が変わるので、リブ位置4523の範囲は、2つに分けてもよいし、4つ以上に分けてもよい。
【0028】
鉄筋径の推定においては、まず、径長の分布から3つのリブ位置4523のうち、1つが推定され、径長の中央値(median)を下限値及び上限値の範囲と比較、照合し、呼び径4521及び公称直径4522の鉄筋規格を特定する。その詳細は、後記する。
【0029】
≪システムの処理≫
図7は、鉄筋画像の撮影方法を示すフローチャートである。これは、建設現場において、撮影者がデジタルカメラ3を用いて鉄筋を撮影し、その撮影画像を携帯端末4に転送し、携帯端末4を用いて撮影画像から配筋情報を取得する手順を示すものである。
【0030】
まず、撮影者は、デジタルカメラ3を決定する(S701)。その際、400万画素以上の設定が可能であり、かつ、オートフォーカス機能を切れるものか否かを確認し(S702)、その条件が合わなければ(S702のNO)、再度デジタルカメラ3を選び直す(S701)。当該条件が合えば(S702のYES)、決定したデジタルカメラ3のオートフォーカス機能をオフにし、撮影対象部位2と、デジタルカメラ3との間の距離が2mで焦点が合うように調節する(S703)。これ以降は、焦点距離を一定とする。そして、キャリブレーションボードを撮影し、カメラパラメータを取得する(S704)。これは、カメラキャリブレーションと呼ばれるもので、格子模様や等間隔ドットを印刷した紙であるボードを撮影することにより、デジタルカメラ3の歪み等を検出するものである。
【0031】
次に、撮影者は、鉄筋を含む撮影対象部位2を決定する(S705)。その際、デジタルカメラ3で撮影対象部位2を撮影した場合に、同一方向に配筋された鉄筋が前後に並んでいて、前の鉄筋が後ろの鉄筋と重なって見えるか否かを確認する(S706)。
【0032】
重ならなければ(S706のNO)、撮影対象の複数の鉄筋からなる鉄筋群のうち、両端2本にマーカを取り付ける(S707)。マーカは、自然界に存在しない特徴的な形状であり、事前にその大きさ(寸法)が分かっているものであって、マーカの大きさと、撮影した画像におけるマーカ内のピクセル数とから1ピクセル当たりの長さ(1ピクセル長)を求め、一方、2つのマーカ間をスキャンすることで両端の間にある鉄筋を認識し、さらには、撮影対象部位2と、デジタルカメラ3との間の距離を推定するために用いられる。図10は、マーカの例を示す図である。クロスマーカ及び円形マーカが示されている。鉄筋にマーカを付与することにより、デジタルカメラ3から同一の距離にあるマーカ及び鉄筋を撮影できるため、撮影された画像データにおいて、マーカと鉄筋との間で1ピクセル当たりの長さが等しくなるので、精度よく径長やピッチを求めることができる。そして、対象を2m離れた位置からデジタルカメラ3で撮影し(S708)、撮影画像を携帯端末4に転送し、画像処理を実行する(S714)。なお、デジタルカメラ3の撮影方向の垂直角度は約0°とし、水平角度は任意とする。
【0033】
S706において鉄筋が重なっていれば(S706のYES)、撮影者は、重なっている鉄筋の間に白いボードを設置する(S709)。これによれば、白いボードで後ろの鉄筋を見えなくすることで、前の鉄筋を鮮明に撮影することができる。続いて、一回の撮影対象となる鉄筋群のうち、両端2本にマーカを取り付ける(S710)。このとき、2つのマーカは、デジタルカメラ3から見えるように取り付ける。そして、対象を2m離れた位置からデジタルカメラ3で撮影する(S711)。その後、撮影対象部位2に含まれる鉄筋が全て撮影できたか否かを確認する(S712)。全て撮影できていなければ(S712のNO)、撮影方向を変更し(S713)、撮影できていない鉄筋を鮮明に撮影できるように鉄筋の間に白いボードを再度設置する(S709)。このように、一つの撮影対象部位2に含まれる鉄筋を一度に撮影できない場合には、複数回に分けて全ての鉄筋を撮影する。
【0034】
鉄筋が全て撮影できていれば(S712のYES)、撮影者は、撮影画像をデジタルカメラ3から携帯端末4に転送し、画像処理を実行する(S714)。携帯端末4による画像処理の詳細は、後記する。そして、携帯端末4の表示部42に配筋異常情報が表示されたか否かを確認する(S715)。配筋異常情報が表示されなければ(S715のNO)、配筋情報が正常であるとして、撮影作業を終了する。一方、配筋異常情報が表示されれば(S715のYES)、撮影者は、配筋の是正を現場の作業者に指示し(S716)、是正が実施された後、撮影対象部位2を再度決定する(S705)。
【0035】
図8は、携帯端末4による画像処理を示すフローチャートである。この処理は、携帯端末4がデジタルカメラ3から画像データを取得し、内蔵の画像メモリに格納したときに行われる。
【0036】
まず、携帯端末4は、画像処理プログラムを呼び出す(S801)。具体的には、処理部54が、記憶部55から画像処理プログラム451を読み出し、主記憶装置(メインメモリ)にロードし、プログラムカウンタ(制御ポインタ)を画像処理プログラム451の開始アドレスに位置付ける。これにより、携帯端末4の処理部44が画像処理プログラム451に従って処理を開始する。その処理フローがS802〜S814に示される。
【0037】
まず、携帯端末4(処理部44)は、デジタル画像、焦点距離Fp[pixel]及びマーカ内基準長Lm[mm]を取得する(S802)。デジタル画像は、デジタルカメラ3から、USBケーブルを経由して取得する。焦点距離Fp及びマーカ内基準長Lmは、撮影者の操作により入力部53を通じて取得する。なお、マーカ内基準長Lmは、マーカにおける基準となる長さであり、例えば、円形マーカならば、その円の直径の長さが適用される。次に、画像の補正及び二値化を行う(S803)。具体的には、S704のカメラパラメータを用いてデジタル画像の歪み等を補正し、補正したデジタル画像をピクセル値=0又は1の白黒画像に変換する。図12は、画像の二値化処理を行った結果の例を示す図である。4本の鉄筋が配筋され、両端の鉄筋にマーカが貼付されている。
【0038】
続いて、携帯端末4は、二値化された画像データから鉄筋の輪郭を検出し、両端の鉄筋にあるマーカの輪郭を検出する(S804)。図12を用いて説明すると、背景が白色(ピクセルの値=1)で、鉄筋やマーカが黒色(ピクセルの値=0)になっているので、例えば、画像データを水平右方向にスキャンしたときに、ピクセルの値が1から0に変化する箇所を左側輪郭(左側エッジ)として検出し、ピクセルの値が0から1に変化する箇所を右側輪郭(右側エッジ)として検出する。次に、マーカ間の対のエッジを鉄筋として認識し、鉄筋本数を取得する(S805)。図12では、マーカ間には、左側エッジ及び右側エッジの対が2つあるので、マーカ間には2本の鉄筋があり、マーカ貼付の両端鉄筋2本を加算して、合計4本の鉄筋があることが認識される。
【0039】
続いて、携帯端末4は、画像データ内におけるマーカ内基準長Lmの占有ピクセルLp[pixel]を抽出し、画像スケール(1ピクセル当たりの長さ)を取得する(S806)。具体的には、マーカである円形の直径のうち、最大の直径を特定し、その径長に含まれるピクセル数Lpをカウントする。そして、マーカ内基準長Lmをピクセル数Lpで除することにより、1ピクセル当たりの長さが求められる。これによれば、円形のマーカを用いることにより、どの方向からマーカを見ても最大直径が一定になるので、マーカの向きが変わっても精度よく1ピクセル当たりの長さを特定することができる。さらに、配筋ピッチ(鉄筋の間隔)を計測する(S807)。ここで、配筋ピッチは、隣り合う鉄筋の中心軸間の間隔を示すものであり、例えば、左側エッジ間距離及び右側エッジ間距離の平均値として算出される。
【0040】
さらに、携帯端末4は、各鉄筋の径を推定する(S808)。鉄筋径を推定することによって、鉄筋の種類を特定する。この処理の詳細は、サブルーチンの処理として別途説明する。
【0041】
続いて、携帯端末4は、デジタルカメラ3と、鉄筋との間の距離D[mm]を推定する(S809)。距離Dは、次の式1によって算出される。
D=Fp×(Lm/Lp) ・・・ 式1
【0042】
ここで、Lm/Lpは、1ピクセル当たりの長さであり、それを焦点距離Fp[pixel]に乗ずることで、実際の距離D[mm]が求められる。次に、デジタルカメラ3の座標(位置)、姿勢及び設計図面情報を取得する。デジタルカメラ3の座標は、例えば、GPS(Global Positioning System)機器を接続することにより、撮影画像に付与される位置情報として取得する。デジタルカメラ3の姿勢は、撮影時のカメラ姿勢を検知する機能(デジタルカメラ3又は接続機器の機能)により取得する。設計図面情報は、携帯端末4が、管理サーバ5の記憶部55に記憶された設計図面情報551を受信することにより、取得する。そして、撮影された画像の対象部位(工事箇所)を特定し、該当する設計図面情報との適合性を判定する(S811)。例えば、推定した異形鉄筋の径長と、設計図面情報に含まれる異形鉄筋の径長との適合性を判定する。
【0043】
図面通りできていれば(S812のYES)、携帯端末4は、設計図面情報及び認識情報を表示部42に出力する(S813)。設計図面情報は、図面上の鉄筋の対象部位、座標、本数、ピッチ、径長等である。認識情報は、実際の鉄筋の本数、ピッチ及び径長である。図面通りできていなければ(S812のNO)、異常内容を示す配筋異常情報、設計図面情報及び認識情報を表示部42に出力する(S814)。なお、適合性の判定結果を表示部42に出力するのではなく、通信部41を通じて他の装置に送信することも可能である。
【0044】
図9は、携帯端末4による鉄筋径推定の処理を示す図である。これは、画像処理プログラムのうち、鉄筋径の推定サブルーチンの処理であり、二値化した画像データから、各鉄筋の連続的な径長を抽出し、その径長データを整形してデータの個数及び最頻値を求め、最頻値を個数で除した値(径長データのばらつきの指標値)に応じて鉄筋の規格を特定するものである。
【0045】
まず、携帯端末4は、配筋方向に1pixelずつの連続的な径長[pixel]を抽出する(S901)。図12で説明すると、鉄筋が垂直方向に立っているが、その垂直方向(高さ方向、配筋方向)に基準点を1pixelずつずらしながら、その基準点を通る水平な直線のうち、鉄筋内に含まれる部分(ピクセルの値=1)のピクセル数をカウントする。
【0046】
次に、携帯端末4は、データの整形として、配筋方向にマーカから±500[pixel]における径長を抜き出す(S902)。そして、抜き出した1000個の径長の中央値Mを取得する(S903)。この場合、中央値Mは、500番目の径長と、501番目の径長との平均値になる。さらに、データの整形として、1000個の径長データのうち、0.8M〜1.2Mに該当するデータを抜き出す(S904)。そして、抜き出した径長データの個数Nを取得する(S905)。さらに、データの整形として、N×0.01個未満のデータを削除する(S906)。これによれば、径長データの個数Nの1%に満たない個数のデータを除外するので、測定誤差等によって極端に大きい、又は、極端に小さい径長データ等を排除することができる。その後、整形終了後のデータ個数Ni及び最頻値Ymaxを取得する(S907)。
【0047】
そこで、Ymax/Niの値を求め、その値に応じて鉄筋の状態(リブ位置)を推定する。これは、異形鉄筋には節及びリブが設けられているため、鉄筋の向きによって節及びリブの見え方が変わり、抽出される径長データの分布も変わるので、逆に径長データのばらつきの指標値から鉄筋の向きを推定するものである。
【0048】
まず、Ymax/Niの値が0.35未満の場合(S908のYES)、鉄筋の状態(リブ位置)が0°〜60°であり(S909)、データ整形後の中央値Miを取得し(S910)、記憶部45の鉄筋規格情報452(図6参照)におけるリブ位置4523のうち、0〜60の欄を参照する(S911)。Ymax/Niの値が0.35以上、かつ、0.45未満の場合(S912のYES)、鉄筋の状態(リブ位置)が60°〜75°であり(S913)、データ整形後の中央値Miを取得し(S914)、記憶部45の鉄筋規格情報452におけるリブ位置4523のうち、60〜75の欄を参照する(S915)。Ymax/Niの値が0.45以上の場合(S912のNO)、鉄筋の状態(リブ位置)が75°〜90°であり(S916)、データ整形後の中央値Miを取得し(S917)、記憶部45の鉄筋規格情報452におけるリブ位置4523のうち、75〜90の欄を参照する(S918)。
【0049】
鉄筋規格情報452を参照した結果、中央値Miに対応する鉄筋規格(呼び径4521及び公称直径4522)が存在するか否かを判定する(S919)。具体的には、中央値Miを含む径長の下限値と上限値の組合せが各欄にあるか否かを判定する。存在すれば(S919のYES)、該当した鉄筋規格を取得する。存在しなければ(S919のNO)、計測が失敗したことになる(S921)。これによれば、鉄筋のリブ位置(向き)に対応した鉄筋規格情報452を用いるので、どの角度から撮影したとしても、精度よく鉄筋規格を取得することができる。
【0050】
以上本発明の実施の形態について説明したが、図1に示す配筋情報取得システム1の各装置を機能させるために、各装置の処理部で実行されるプログラムをコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録し、その記録したプログラムをコンピュータに読み込ませ、実行させることにより、本発明の実施の形態に係る配筋情報取得システム1が実現されるものとする。なお、プログラムをインターネット等のネットワーク経由でコンピュータに提供してもよいし、プログラムが書き込まれた半導体チップ等をコンピュータに組み込んでもよい。
【0051】
以上説明した本発明の実施の形態によれば、建設現場において、撮影対象部位2に含まれる異形鉄筋の画像をデジタルカメラ3で撮影し、携帯端末4で画像処理を行うことによって、径長やピッチを含む配筋情報を取得するので、その場で施工状況を確認することができる。一方、撮影画像を携帯端末4や管理サーバ5に記憶することによって、必ずしもその場ではなく、後になって施工状況を確認することもできる。次に、マーカや、デジタルカメラ3、携帯端末4等を用いることで、簡単に精度よく配筋情報を取得することができる。そして、携帯端末4の鉄筋規格情報452を参照することにより、径長の分布から鉄筋の向きを推定し、異形鉄筋の種類(呼び径4521及び公称直径4522)を特定することができる。さらに、デジタルカメラ3の焦点距離、位置及び姿勢を取得し、焦点距離から、デジタルカメラ3と異形鉄筋との間の距離を特定し、当該距離、デジタルカメラ3の位置及び姿勢から、異形鉄筋の位置を特定することができるので、管理サーバ5の設計図面情報551と比較、照合することによって、実際の施工状況と設計図面との適合性を確認することができる。
【0052】
さらなる効果として、画像処理を前提とした工事写真撮影時の最適条件(デジタルカメタ3の撮影角度、焦点距離等)を明らかにしたことにより、円滑な撮影作業が可能になるとともに、出力された配筋出来形情報に関しても一定の信頼性を持たせることができる。
【0053】
次に、通常の出来形写真と同一の写真上で鉄筋径を算出できるので、必ずしも近距離で撮影する必要はなく、撮影前後の手順を含む作業全体にかかる手間を大幅に減らすことができる。
【0054】
さらに、白いボードやマーカといった比較的安価なツールによって自動測距が可能であり、また、撮影するだけでよいので、他の測定機器のような測距のみを目的とした特別な行為が不要である。この測距情報と、既存の技術(GPS機能、デジタルコンパス等)によるカメラ状態情報とを組合せることにより、撮影対象の唯一化が可能になる。そして、撮影対象に係る情報と、CAD(Computer Aided Design)情報等と連携させることにより、即時検査や自動アルバム作成等の新たなアプリケーションを実現することが可能になる。
【0055】
≪その他の実施の形態≫
以上、本発明を実施するための最良の形態について説明したが、上記実施の形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。例えば、上記実施の形態においては、図9のS903で1000個の径長データから中央値を取得するものとしたが、他の代表値(例えば、最頻値等)を取得するようにしてもよい。また、マーカは円形に限らず、例えば、正面から見たときに四角形のものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】配筋情報システム1の構成を示す図である。
【図2】携帯端末4のハードウェア構成を示す図である。
【図3】管理サーバ5のハードウェア構成を示す図である。
【図4】配筋情報取得システム1に記憶されるデータの構成を示す図であり、(a)は携帯端末4の記憶部45に記憶されるデータの構成を示し、(b)は管理サーバ5の記憶部55に記憶されるデータの構成を示す。
【図5】異形鉄筋の状態を定義する図であり、(a)はリブ位置0°の状態を示し、(b)はリブ位置90°の状態を示し、(c)はリブ位置60°の状態を示す。
【図6】携帯端末4の鉄筋規格情報452の構成例を示す図である。
【図7】鉄筋画像の撮影方法を示すフローチャートである。
【図8】携帯端末4による画像処理を示すフローチャートである。
【図9】携帯端末4による鉄筋径推定の処理を示す図である。
【図10】マーカの例を示す図である。
【図11】実際の異形鉄筋の例を示す図である。
【図12】鉄筋画像の二値化処理を行った結果の例を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1 配筋情報取得システム
2 撮影対象部位
3 デジタルカメラ
4 携帯端末(配筋情報取得装置、情報処理装置)
44 処理部
45 記憶部
451 鉄筋規格情報(鉄筋種類情報)
5 管理サーバ
D 距離
Fp 焦点距離
Lm マーカ内基準長
Lp 占有ピクセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異形鉄筋の径長を含む配筋情報を取得する配筋情報取得装置であって、
撮影された前記異形鉄筋の画像データを取得する手段と、
前記画像データにおける1ピクセルあたりの長さである1ピクセル長を特定する手段と、
前記画像データにおける前記異形鉄筋の径長のピクセル数をカウントする手段と、
前記径長のピクセル数と、前記1ピクセル長とを乗ずることによって、前記径長を算出する手段と、
を備えることを特徴とする配筋情報取得装置。
【請求項2】
請求項1に記載の配筋情報取得装置であって、
円形のパターンが付与された前記異形鉄筋の画像データから前記円形の最大直径のピクセル数を抽出する手段
をさらに備えることを特徴とする配筋情報取得装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の配筋情報取得装置であって、
前記異形鉄筋は、当該鉄筋の軸線に直交又は斜交する突起部である節と、当該鉄筋の軸線に沿って延在する突起部であるリブとを備え、
前記異形鉄筋の軸線方向に沿って連続的に所定数の径長を取得する手段と、
前記異形鉄筋の向きごとに、前記異形鉄筋の種類に対応する前記径長の代表値が取り得る下限値及び上限値を示す鉄筋種類情報を予め記憶する手段と、
前記径長の分布から、前記異形鉄筋の向きを特定する手段と、
前記異形鉄筋の向きに係る前記鉄筋種類情報から、前記径長の代表値が前記下限値と、前記上限値との間にある当該異形鉄筋の種類を特定する手段と、
をさらに備えることを特徴とする配筋情報取得装置。
【請求項4】
異形鉄筋の径長を含む配筋情報を取得する方法であって、
デジタルカメラを用いて、異形鉄筋を撮影するステップと、
撮影された前記異形鉄筋の画像データを前記デジタルカメラから情報処理装置に転送するステップと、
前記情報処理装置を用いて、前記画像データにおける1ピクセルあたりの長さである1ピクセル長を特定するステップと、
前記情報処理装置を用いて、前記画像データにおける前記異形鉄筋の径長のピクセル数をカウントするステップと、
前記情報処理装置を用いて、前記径長のピクセル数と、前記1ピクセル長とを乗ずることによって、前記径長を算出するステップと、
を実行することを特徴とする配筋情報取得方法。
【請求項5】
請求項4に記載の配筋情報取得方法であって、
前記デジタルカメラから前記異形鉄筋を見た場合、2以上の前記異形鉄筋が重なるとき、白いボードを前方の前記異形鉄筋と、後方の前記異形鉄筋との間に設置した後、前方の前記異形鉄筋を撮影するステップと、
前記デジタルカメラの撮影方向を変更して、未撮影の前記異形鉄筋を撮影するステップと、
をさらに実行することを特徴とする配筋情報取得方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の配筋情報取得方法であって、
前記情報処理装置を用いて、前記異形鉄筋の径長を含む設計図面情報を予め記憶するステップと、
前記情報処理装置を用いて、算出した前記異形鉄筋の径長と、記憶した前記設計図面情報に含まれる前記異形鉄筋の径長との適合性を判定するステップと、
前記情報処理装置を用いて、前記適合性を判定した結果を出力するステップと、
をさらに実行することを特徴とする配筋情報取得方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図1】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−122008(P2010−122008A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294623(P2008−294623)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(504454060)株式会社アプライド・ビジョン・システムズ (11)
【Fターム(参考)】