説明

酢酸ビニル触媒および支持体

酢酸ビニル触媒を製造するための微小球状支持体において、この支持体はシリカと0.5〜5重量%(支持体の全重量に対し)の酸化アルミニウムとの混合物の実質上不活性な微小球状粒子から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸ビニルの製造に有用な触媒および触媒支持体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、酢酸ビニルモノマーは、固定床反応器にて支持触媒の存在下にエチレンと酢酸と酸素とを反応させることにより気相にて製造される。この種類の反応器において、たとえばシリカもしくはアルミナのような支持体材料には、たとえばパラジウムのような触媒金属を金およびアルカリ金属塩と組合せて典型的には酢酸塩の形態で含浸させる。固定床反応器プロセスの要件は、支持触媒をたとえばボールのような比較的大きい構造形状に成形し、直径2〜5mmもしくはそれ以上とすることができる。
【0003】
最近、酢酸ビニルモノマーが流動床プロセスを用いて製造されており、ここではエチレンと酢酸と酸素とを小さい支持触媒粒子の流動床と連続的に接触させる。典型的には、これら支持触媒粒子はパラジウムと金物質とで構成される。流動床酢酸ビニルプロセスの利点は多管状固定床反応器よりも簡単な流動床反応器設計を含み、より高い生産速度を達成することができる。何故なら、より高い酸素レベルが安全に流動床反応器に供給され、可燃性混合物を形成することがないからである。米国特許第5,591,688号明細書、米国特許第5,665,667号明細書および米国特許第5,710,318号明細書は流動床酢酸ビニル触媒の製造、または酢酸ビニルを製造するための流動床プロセスに向けられる。流動床反応は100〜250℃の範囲の温度にて50〜200psigの圧力で行うことができる。この反応は酢酸ビニル生成物を生産し、副生物として水をも生成する。
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,591,688号明細書
【特許文献2】米国特許第5,665,667号明細書
【特許文献3】米国特許第5,710,318号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
より有利な活性特性および/または増大した触媒寿命を有する酢酸ビニル触媒につき絶えざるニーズが存在する。本発明の触媒および触媒支持体は、向上した熱水作用(hydrothermal)安定性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って本発明は酢酸ビニル触媒を製造するための微小球状支持体を提供し、この支持体はシリカと0.5〜5重量%(支持体の全重量に対し)の酸化アルミニウムとの混合物の実質上不活性な微小球状粒子よりなることを特徴とする。
【0007】
酸化アルミニウムは、たとえばヒュームドアルミナのようなアルミナとすることができる。
【0008】
微小球状支持体は、固定床もしくは流動床のいずれかの酢酸ビニルプロセスにて、好ましくは流動床プロセスにて用いられる触媒の作成に使用することができる。
【0009】
微小球状と言う用語は本明細書の全体にわたり、シリカおよび/または支持体粒子の少なくとも90%が300μm未満の平均直径を有することを意味する。
【0010】
本発明の1実施形態において、微小球状支持体は次のプロセスにより作成することができ、このプロセスは工程:
(i)シリカの実質上不活性な予備形成された微小球状粒子にアルミニウム塩の溶液を含浸させ;
(ii)含浸された粒子を乾燥させて乾燥固体材料を形成させ;
(iii)乾燥固体材料を焼成して実質上不活性な微小球状支持体を形成させる
ことからなり、実質上不活性な微小球状支持体は0.5〜5重量%(支持体の全重量に対し)のアルミニウムをその酸化型にて含むことを特徴とする。
【0011】
予備成形された微小球状シリカ粒子にはアルミニウム塩の溶液を含浸させる。アルミニウム塩物質は、適する溶剤媒体(好ましくは水)に完全に溶解すべきである。好ましくは、可溶性アルミニウム物質での含浸はたとえば10〜40℃、一般に20〜30℃の周囲温度にて行われる。アルミニウム溶液を含浸させる好適方法は初期湿潤化技術であって、過剰溶液なしにシリカ粒子の気孔を満たすよう測定された塩溶液の量を使用する。適するアルミニウム塩は硝酸アルミニウムおよび酢酸アルミニウムを包含する。
【0012】
含浸工程に使用する可溶性アルミニウム塩物質の量は、0.5〜5重量%(たとえば1〜5重量%)(支持体の全重量に対し)のアルミニウムを最終支持体にてその酸化型で与えるのに充分とする。
【0013】
含浸されたシリカ粒子を乾燥させて乾燥固体材料を形成させる。乾燥は任意適する温度で行われるが、典型的には40〜100℃、たとえば50〜80℃の範囲の温度にて行うことができる。乾燥された固体材料を次いで焼成して、本発明の実質上不活性な微小球状支持体を形成させる。
【0014】
焼成は好ましくは200〜750℃、好ましくは300〜660℃の温度まで、好適には空気もしくは酸素中で加熱して行われる。
【0015】
支持体を酢酸ビニルの製造につき固定床プロセスにて使用する場合、支持体は好適には支持体1g当たり0.2〜3.5mlの気孔容積を有し、好適には支持体1g当たり5〜800mの(BET)表面積を有する。
【0016】
好ましくは、予備形成された微小球状シリカ粒子は、シリカゾルと微粒子シリカとの水性混合物を形成された後に噴霧乾燥および焼成して微小球状シリカ粒子を形成させることにより作成される。
【0017】
好ましくは、シリカゾルおよび微粒子シリカの水性混合物は20重量%〜100重量%未満のシリカゾルと80重量%〜0重量%より大の固体微粒子シリカとの間で形成される。好ましくは、少なくとも25重量%、好適には少なくとも50重量%のシリカゾルを微粒子シリカと混合する。
【0018】
得られた支持体粒子にて所望の気孔容積を得るのに充分な微粒子シリカをシリカゾルに添加する。好ましくは、10〜50重量%の微粒子シリカをシリカゾルと混合する。
【0019】
シリカゾルと微粒子シリカとの水性混合物は125〜280℃、好ましくは130〜240℃の範囲の高められた温度にて噴霧乾燥される。噴霧乾燥された支持体を次いで好ましくは550〜700℃、たとえば600〜660℃の範囲の温度で焼成して、微小球状シリカ支持体粒子を形成させる。
【0020】
代案実施形態において、本発明の実質上不活性な微小球状支持体は、微粒子酸化アルミニウム(たとえばヒュームドアルミナ)を微小球状シリカの作成に一体化させて作成することができる。このように作成された実質上不活性な微小球状支持体は、酢酸ビニルの流動床製造に使用するのに適する。
【0021】
従って本発明は工程:
(a)100%未満〜20重量%の実質上不活性な微小球状シリカ粒子からなる水性ゾルを0%より大〜80重量%の固体の実質上不活性な微粒子シリカ材料と混合して第一水性混合物を生成させ;
(b)この水性混合物を0.5〜5重量%(支持体の全重量に対し)の酸化アルミニウムと混合して第二水性混合物を形成させ;
(c)第二水性混合物を噴霧乾燥して乾燥微小球状粒子を形成させ;
(d)乾燥された微小球状粒子を焼成して実質上不活性な微小粒子状シリカを形成させる
ことからなる実質上不活性な微小球状支持体の製造方法を提供する。
【0022】
シリカゾルと微粒子シリカとの水性混合物は、20重量%〜100重量%未満のシリカゾルと80重量%〜0重量%より大の固体微粒子シリカとの間で形成される。好ましくは、少なくとも10重量%、好適には少なくとも50重量%のシリカゾルを微粒子シリカと混合する。
【0023】
得られる支持体粒子における所望の気孔容積を得るのに充分な微粒子シリカをシリカゾルに添加する。好ましくは10〜50重量%の微粒子シリカをシリカゾルと混合する。この水性混合物には0.5〜5重量%の酸化アルミニウムを添加する。
【0024】
酸化アルミニウムを含む水性混合物を次いで115〜280℃、好ましくは130〜240℃の高められた温度にて噴霧乾燥して微小球状粒子を形成させ、次いでこれを好適には空気もしくは酸素中で好ましくは550〜700℃、たとえば600〜660℃で焼成して、本発明の実質上不活性な微小球状支持体を形成させる。
【0025】
本発明の実質上不活性な微小球状支持体粒子の少なくとも90%は300μm未満の平均粒子直径を有する。好適には粒子の50%が105μm未満、好ましくは粒子の少なくとも75%が105μm未満、より好ましくは少なくとも85%が105μm未満である。本発明に有用な典型的支持体においては、105μmより大の粒子の1〜5重量%未満も存在することができる。更に典型的には、50%未満は44μm未満であり、好ましくは35%未満が44μm未満である。典型的支持体は44μm未満の粒子の約25〜30%を含有することができる。本発明に有用な典型的支持体は、44〜88μmの平均直径を有する少なくとも50%の粒子を有する。当業者が認識するように、44、88、105および300μmの粒子寸法は、これらが標準的篩い寸法に基づくと言う任意の尺度である。粒子寸法および粒子寸法分布は、たとえばマイクロトラック100のような自動化レーザー装置により測定することができる。
【0026】
実質上不活性な微小球状支持体粒子は、粒子まで拡散させると共に粒子内に一体化された触媒部位と接触するようガス状反応体を可能にするのに充分な多孔度を有する。すなわち気孔容積は、ガス状拡散を可能にするのに充分なレベルとすべきである。しかしながら、過度に高い気孔容積を有する粒子は典型的には充分な摩耗耐性を持たず、或いは触媒活性につき充分な表面活性を持たない。典型的には充分な微小球状粒子は約0.2〜0.7cc/gの範囲の気孔容積(窒素収着により測定)を有する。好適粒子は約0.3〜0.65cc/g、より好ましくは約0.4〜0.55cc/gの気孔容積を有する。
【0027】
本発明にて有用な平均直径および気孔容積を有する微小球状粒子のための表面積(BETにより測定)は典型的には約50m/gより高く、約200m/gまでの範囲とすることができる。典型的な測定表面積は約60〜約125m/gである。
【0028】
本発明の全ての実施形態にて使用するのに適する微粒子シリカはヒュームドシリカ、たとえばエアロシル(登録商標)(デグッサ・ケミカル・カンパニー社)である。典型的シリカ微粒子材料は高い表面積(たとえば約200m/g)を有するが、実質上ミクロポアを持たず、典型的には約10nm(たとえば7nmより大)の平均直径を有する個々の粒子の凝集体(数百ナノメータの平均直径を有する)である。好ましくはシリカはナトリウムフリーである。
【0029】
好適には本発明の全ての実施形態にて有用なシリカゾルはゾルにおけるシリカ粒子を含有し、これらは典型的には少なくとも20nm(たとえば約100nmもしくはそれ以上まで)の平均直径を有する。好適ゾルは約40〜80nmの平均直径を有するシリカ粒子を含有する。適するシリカゾルはたとえばナルコ・シリカゾル1060(ナルコ・ケミカル・カンパニー)のようなシリカゾルである。
【0030】
有利には、本発明の実質上不活性な微小球状支持体は熱、水、圧力およびアルカリ金属塩の存在などの条件下で極めて安定である。これら条件は典型的には酢酸ビニルの製造にて存在し、特に酢酸ビニルの流動床製造にて存在する。すなわち、本発明の実質上不活性な微小球状支持体は、酢酸ビニル触媒の製造に使用するのに適する。
【0031】
従って本発明は更に、パラジウムと少なくとも1種の金、セリウム、銅およびその混合物から選択される金属Mと第I族、第II族、ランタニド族および遷移金属プロモータから選択される少なくとも1種の金属Aとからなる酢酸ビニル触媒を提供し、これらは上記のように或いはそのように作成された実質上不活性な微小球状支持体に支持される。
【0032】
従って更に本発明は、式Pd−M−A[式中、Mは金、セリウム、銅およびその混合物から選択される少なくとも1種の金属であり、Aは第I族、第II族、ランタニド族および遷移金属プロモータから選択される少なくとも1種の金属である]の流動床酢酸ビニル触媒の製造方法をも提供し、この方法は:
(i)実質上不活性な本発明の微小球状支持体に、(a)パラジウム、Mの金属塩と第I族、第II族、ランタニド族および遷移金属プロモータから選択される少なくとも1種の金属Aの塩とからなる溶液、または(b)パラジウムおよびMの金属塩からなる溶液および第I族、第II族、ランタニド族および遷移金属プロモータから選択される少なくとも1種の金属Aの溶液もしくは固体塩のいずれかからなる溶液を含浸させ:
(ii)含浸された微小球状支持体を乾燥させて触媒を形成させる
ことを特徴とする。
【0033】
微小球状支持体には、触媒が典型的には少なくとも約0.1%、好ましくは少なくとも0.2重量%のパラジウム〜約5重量%、好ましくは4重量%までのパラジウムを含有するような、パラジウムの少なくとも1種の化合物を含浸させる。
【0034】
可溶性金属塩の含浸は任意公知の手順により行うことができる。好ましくは微小球状支持体は初期湿潤化技術により含浸され、ここでは過剰の溶液なしに支持体の気孔を満たすよう測定された量の塩溶液を使用する。典型的には、この技術においては支持体を含浸させるべき塩の溶液と接触させ、その量は支持体粒子の60〜120%の気孔容積、好ましくは気孔容積の70〜100%である。適する溶剤は水、カルボン酸(たとえば酢酸)、ベンゼン、トルエン、アルコール(たとえばメタノールもしくはエタノール)、ニトリル(たとえばアセトニトリルもしくはベンゾニトリル)、テトラヒドロフランまたは塩素化溶剤(たとえばジクロルメタン)とすることができる。好ましくは溶剤は水および酢酸である。好適にはパラジウムの酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物もしくはハロゲン含有パラジウム化合物、たとえばHPdClを支持体に含浸させ、これはしばしば[PdCl]2HClおよび第I族もしくはし第II族の塩、たとえばNaPdClをKPdClとも称される。好適な水溶性化合物はNaPdClである。好適な酢酸可溶性パラジウム化合物は酢酸パラジウムである。パラジウム化合物は、適する試薬からその場で作成することができる。
【0035】
触媒は更にたとえば金、セリウム、銅およびその混合物(好ましくは金)のような他の金属をも含む。これら金属は、最終触媒組成物に存在する各金属の0.1〜10重量%の量にて使用することができる。典型的には金の重量%は少なくとも約0.1重量%、好ましくは少なくとも0.2重量%〜約3重量%、好ましくは2重量%までの金である。
【0036】
使用しうる適する金化合物は金塩化物、ジメチル金アセテート、バリウムアセトアウレート、酢酸金、テトラクロル金酸(HAuCl、しばしばAuCl・HClと称される)およびテトラ金酸の第I族および第II族の塩(たとえばNaAuClおよびKAuCl)を包含する。好ましくは金化合物はHAuClである。金化合物は、適する試薬から現場で作成することができる。
【0037】
好適には支持体にはパラジウムと金との化合物からなる溶液を含浸させる。
【0038】
支持体には同時にパラジウム、MおよびAの溶液を含浸させ、或いはパラジウムおよびMの溶液を含浸させ、次いでAの溶液もしくは固体塩を含浸させる。
【0039】
含浸された支持体は必要に応じ還元工程にかけることができる。
【0040】
好ましくは、たとえばパラジウムおよび金物質のような支持体内に一体化された含浸金属物質は適する還元剤との接触により還元される。この還元は含浸パラジウム物質を触媒上活性なパラジウムのゼロ価型(たとえば結晶質およびパラジウム/金合金)まで変換させる。典型的な還元剤は水素、ハイドライド、アルケンおよびヒドラジンを包含する。好ましくはヒドラジン(特に好ましくは水性溶液中)は金属物質を還元すべく使用される。好ましくはヒドラジンの溶液は、アルカリ金属水酸化物によりアルカリ性にされてないヒドラジンの水溶液である。特に好ましくはヒドラジンの溶液は、他の任意の追加成分の存在なしのヒドラジンの水溶液である。
【0041】
好ましくは水溶液におけるヒドラジンの濃度は1〜20重量%、たとえば3〜20重量%、たとえば4〜20重量%である。
【0042】
含浸後の水性ヒドラジンでの還元が好ましい。
【0043】
好適には含浸支持体を、含浸支持体へのヒドラジン溶液の添加でなくヒドラジンの溶液に添加する。
【0044】
典型的には還元剤の過剰を使用して還元を完結させる。
【0045】
好ましくは含浸および還元された触媒支持体粒子をたとえば水のような適する溶剤で洗浄して過剰の還元剤および望ましくないアニオン類(たとえばハロゲン化イオン)を除去する。洗浄は洗浄溶剤の部分で数回にわたり、汚染物の所望レベルが達成されるまで行うことができる。典型的には洗浄粒子をたとえば40〜80℃の高められた温度にてゆっくり乾燥させる。
【0046】
含浸支持体をヒドラジンの水溶液で処理すべき場合、これを好ましくは50〜200℃、好ましくは100〜150℃の範囲の温度におけるヒドラジンでの処理の前に乾燥させる。
【0047】
たとえば空気、窒素のような乾燥ガスを200℃まで室温にて乾燥に際し含浸支持体に対し通過させることができる。
【0048】
パラジウム並びに金、銅およびセリウムから選択される金属に加え、微小球状支持体には第I族、第II族、ランタニド族および遷移金属促進剤(好ましくはカドミウム、バリウム、カリウム、ナトリウム、マンガン、アンチモン、ランタンもしくはその混合物)の1種もしくはそれ以上を含浸させ、これらは最終触媒組成物中に塩(典型的には酢酸塩)として存在する。一般にカリウムが存在する。これら化合物の適する塩類は酢酸塩であるが、任意可溶性の塩も使用することができる。これらプロモータは、最終触媒組成物に存在する各プロモータ塩の重量の0.1〜15%、好ましくは3〜9重量%の量で使用することができる。プロモータ塩は、支持体を制限量の溶剤の存在下にプロモータ金属の固体塩と配合して含浸させることができる。
【0049】
一実施形態において第I族、第II族、ランタニド族および遷移金属の1種もしくはそれ以上の塩を別々に支持体に含浸させ、好ましくは次いでパラジウムおよびM元素の塩類からなる溶液を支持体に含浸させ、更に適する還元剤で還元する。
【0050】
好ましくは第I族、第II族、ランタニド族および遷移金属の1種もしくはそれ以上の塩による支持体の含浸の後、40〜150℃の範囲の温度にて乾燥させる。
【0051】
触媒作成の好適実施形態において、パラジウムおよび金の化合物の溶液による支持体の含浸に続き含浸支持体の乾燥が行われ、次いで乾燥された含浸支持体を、ヒドラジンの水溶液に添加する。ヒドラジンでの還元の後、(i)カリウムの固体塩を固体支持体材料に添加し次いで混合するか、或いは(ii)還元された固体支持体材料にカリウム塩の溶液を含浸させる。(i)または(ii)の後、材料を乾燥させて最終触媒を形成させる。
【0052】
流動床プロセスに有用な典型的触媒は次の粒子寸法分布を有することができる:
0〜20μm 0〜30重量%
20〜44μm 0〜60重量%
44〜88μm 10〜80重量%
88〜106μm 0〜80重量%
>106μm 0〜40重量%
>300μm 0〜5重量%
【0053】
本発明の支持体を含む触媒は固定床もしくは流動床プロセス、好ましくはエチレンおよび酢酸と分子状酸素含有ガス(たとえば酸素)との酢酸ビニルを生成させる反応につき流体床プロセスに使用することができる。反応温度は好適には100〜250℃の範囲、好ましくは130〜190℃の範囲とすることができる。反応圧力は好適には50〜200psig(3〜14barg)の範囲、好ましくは75〜150psig(5〜10barg)の範囲である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下、本発明を次の実施例を参照して説明する。
【0055】
支持体作成
支持体A
予備形成された微小球状シリカ粒子をナルコ(ナルコ・ケミカル・カンパニー)シリカゾル1060とエアロシル(登録商標)200シリカ(デグッサ・ケミカル・カンパニー)との混合物の噴霧乾燥により作成した。乾燥支持体にて、シリカの80%はゾルから、およびシリカの20%はエアロシルから生じた。噴霧乾燥された微小球体を空気中で640℃にて4時間にわたり焼成した。
【0056】
支持体1
支持体1を、5.72gの支持体Aに水15mlに溶解された2.217gの硝酸アルミニウム水和物で初期湿潤技術により含浸させて作成した。この混合物を撹拌すると共に、室温に1時間にわたり放置した。次いで含浸固体を1晩にわたり120℃の温度にて乾燥させた。乾燥固体を空気中で4時間にわたり300℃にて焼成し、次いで4時間にわたり640℃にて焼成した。得られた微小球状支持体は5重量%のアルミナを含有した。
【0057】
支持体2
ナルコ(ナルコ・ケミカル・カンパニー)シリカゾル1060とエアロシル(登録商標)200シリカ(デグッサ・ケミカル・カンパニー)とヒュームドアルミナオキサイドC(デグッサ・ケミカル・カンパニー)との混合物を噴霧乾燥して支持体2を作成した。乾燥支持体において、シリカの79.2%はゾルから生ずると共にシリカの19.8%はエアロシルから生じ、更に支持体の1%は酸化アルミニウムから生じた。噴霧乾燥された微小球体を空気中で640℃にて4時間にわたり焼成した。得られた微小球状支持体は1重量%のアルミナを含有した。
【0058】
支持体3(ヒュームドアルミナから5重量%)
ナルコ(ナルコ・ケミカル・カンパニー)シリカゾル1060とエアロシル(登録商標)200シリカ(デグッサ・ケミカル・カンパニー)との混合物およびヒュームドアルミナオキサイドC(デグッサ・ケミカル・カンパニー)を噴霧乾燥して支持体3を作成した。乾燥支持体においてシリカの76%はゾルから生じ、シリカの19%はエアロシルから生じ、更に支持体の5%は酸化アルミニウムから生じた。噴霧乾燥された微小球体を空気中で640℃にて4時間にわたり焼成した。得られた微小球状支持体は5重量%のアルミナを含有した。
【0059】
支持体4(硝酸アルミニウムから2重量%)
支持体4を52.32gの支持体Aに水33.6gに溶解された7.87gの硝酸アルミニウム水和物で初期湿潤化技術により含浸させて作成した。この混合物を撹拌すると共に室温にて1時間にわたり放置した。含浸された固体を次いで1晩にわたり120℃の温度で乾燥させた。乾燥固体を空気中で4時間にわたり300℃にて焼成し、次いで4時間にわたり640℃にて焼成した。得られた微小球状支持体は2重量%のアルミナを含有した。
【0060】
支持体試験例1〜2および比較実験A
一連のオートクレーブ実験を行って、100%微小球状シリカ支持体(支持体A)および微小球状シリカ支持体(5重量%および1重量%のアルミナを含む)(それぞれ支持体1および2)の多孔度の変化を示した。
【0061】
各支持体1.5gの試料の多孔度を窒素ポロシメトリーにより監視した。支持体試料を次いでそれぞれ15mlの水中でPTFEライニングされたパール・オートクレーブ(23ml)にて24時間にわたり175℃で加熱し、その後多孔度を再び監視した。実験の結果を図1〜3に示す。各図は、それぞれオートクレーブ中で加熱する前および後の支持体の多孔度を示す。支持体における気孔の拡大が小さいほど熱水作用条件に対する支持体の安定性が大となる。
【0062】
図1から見られるように、100%シリカ支持体は熱水作用条件の適用後にずっと減少した多孔度を有する。これは500A未満の半径を有する気孔の多孔度の損失により示される。しかしながら、図2(1重量%アルミナ)および図3(5重量%アルミナ)の検査から見られるように、熱水作用条件の適用後には本発明の支持体の多孔度および気孔拡大の極めて僅かな変化しか存在しない。
【0063】
触媒作成
パラジウムと金とカリウムとからなる酢酸ビニル触媒を支持体Aおよび支持体1にパラジウムと金との溶液を含浸させて作成し、60℃にて1晩乾燥させた。乾燥固体材料を次いで液体還元剤で処理し、60℃にて1晩乾燥させた。乾燥固体材料には次いでカリウムの溶液を含浸させた。
【0064】
触媒試験例3および4、並びに比較実験BおよびC
触媒試料を試験して、オートクレーブ試験およびミクロ反応器試験により熱水作用条件に対する安定性を決定した。オートクレーブ実験にて、各触媒の1.5g試料の多孔度を窒素ポロシメトリーにより監視した。次いで触媒試料をそれぞれ15mlの水でPTFEライニングされたパール・オートクレーブ(23ml)にて24時間にわたり175℃で加熱し、その後多孔度を再び監視した。支持体Aから作成された触媒につきオートクレーブ実験(比較B)の結果を図4に示し、支持体1(すなわち本発明による支持体)から作成された触媒につきオートクレーブ実験(実施例3)の結果を図5に示す。
【0065】
ミクロ反応器実験においては、触媒試料を40ccのミクロ反応器にて6時間にわたり150℃にて10%水および90%窒素の流れの下で8bargの圧力下に流動化させた。支持体Aから作成された触媒につきミクロ反応器実験(比較C)の結果を図6に示し、支持体1(すなわち本発明による支持体)から作成された触媒につきオートクレーブ実験(実施例4)の結果を図5に示す。これらの結果が示すように、本発明により作成された支持体(支持体1)は支持体Aよりも顕著に大きい気孔容積を保持する。
【0066】
酢酸ビニル試料5〜8および比較実験DおよびEの作成
一連の実験を行って、100%シリカ支持体(支持体A)(比較実験DおよびE)および本発明による支持体から作成された触媒を用いて酢酸ビニルを作成した。実施例5および6は支持体3を使用し、実施例7は支持体4を使用し、実施例8は支持体1を用いた。
【0067】
2gの各触媒を28mlの希釈剤と混合し、流動床ミクロ反応器に充填した。各反応体を7580のガス空時速度にて7.8モル%酸素、29.4モル%窒素、10.9モル%酢酸および51.9モル%のエチレンにおける反応器入口の組成にてミクロ反応器に供給した。各ガスはマス・フローコントローラを介しシリンダから供給した。酢酸は注射器ドライブを介して供給し、反応器に流入する前に蒸発させた。反応は115psiの圧力および150℃の温度にて行った。反応器出口流の分析はガスクロマトグラフィーにより行った。反応選択率は、酢酸ビニルおよび二酸化炭素へのエチレン変換率に基づき計算した。計算された選択率を、16〜20時間オンストリームで得られた数値の平均値として現す。触媒の活性および選択率を下表1に示す。実験の結果から、本発明による支持体から作成された触媒は100%シリカ支持体から作成されたものと比較して増大した活性を示す。
【0068】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】100%シリカ支持体は熱水作用条件の適用後にずっと減少した多孔度を示す。
【図2】(1重量%アルミナ)の検査から見られるような熱水作用条件の適用後における本発明の支持体の多孔度および気孔拡大の極めて僅かな変化を示す。
【図3】(5重量%アルミナ)の検査から見られるような熱水作用条件の適用後における本発明の支持体の多孔度および気孔拡大の極めて僅かな変化を示す。
【図4】支持体Aから作成された触媒につきオートクレーブ実験(比較B)の結果を示す。
【図5】支持体1(すなわち本発明による支持体)から作成された触媒につきオートクレーブ実験の結果を示す。
【図6】支持体Aから作成された触媒につきミクロ反応器実験(比較C)の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ビニル触媒を製造するための微小球状支持体において、シリカと0.5〜5重量%(支持体の全重量に対し)の酸化アルミニウムとの混合物の実質上不活性な微小球状粒子よりなることを特徴とする微小球状支持体。
【請求項2】
支持体が1〜5重量%の酸化アルミニウムを含む請求項1に記載の支持体。
【請求項3】
支持体が流動床酢酸ビニル触媒または固定床酢酸ビニル触媒の製造につき使用される請求項1または2に記載の支持体。
【請求項4】
支持体が流動床酢酸ビニル触媒を製造するためである請求項3に記載の触媒。
【請求項5】
微小球状粒子が0.2〜0.7cc/gの範囲の気孔容積および50〜200m/gの範囲の表面積を有する請求項1または2に記載の支持体。
【請求項6】
シリカ粒子が微小球状である請求項1または2に記載の支持体。
【請求項7】
微小球状シリカ粒子がシリカゾルと微粒子シリカとの混合物から作成される請求項6に記載の支持体。
【請求項8】
気孔容積が支持体1g当たり0.2〜0.35mlの範囲である、固定床酢酸ビニル触媒に使用するための請求項1または2に記載の支持体。
【請求項9】
支持体の表面積が支持体の5〜800m/gの範囲である請求項1〜8のいずれか一項に記載の支持体。
【請求項10】
酢酸ビニル触媒のための実質上不活性な微小球状支持体の製造方法において:
(i)シリカの実質上不活性な予備形成された微小球状粒子にアルミニウム塩の溶液を含浸させ、
(ii)含浸粒子を乾燥させて乾燥固体材料を形成させ;
(iii)乾燥固体材料を焼成して実質上不活性な微小球状支持体を形成させる
ことからなり;
更に実質上不活性な微小球状支持体が0.5〜5重量%(支持体の全重量に対し)のアルミナを酸化物型で含むことを特徴とする製造方法。
【請求項11】
乾燥工程を40〜100℃の範囲の温度にて行う請求項10に記載の方法。
【請求項12】
焼成工程を200〜750℃の範囲の温度にて行う請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
支持体を流動床酢酸ビニル触媒の製造に使用する請求項10に記載の方法。
【請求項14】
微小球状支持体粒子が0.2〜0.7cc/gの範囲の気孔容積を有する請求項10に記載の方法。
【請求項15】
気孔範囲が0.3〜0.65cc〜gの範囲である請求項10に記載の方法。
【請求項16】
表面積が50〜200m/gの範囲である請求項10に記載の方法。
【請求項17】
予備形成された微小球状シリカ粒子をシリカゾルと微粒子シリカとの水性混合物から作成する請求項10に記載の方法。
【請求項18】
水性混合物を20〜100重量%未満のシリカゾルと80〜0重量%より大の微粒子シリカから形成させる請求項17に記載の方法。
【請求項19】
水性混合物が10〜50重量%の微粒子シリカを含む請求項18に記載の方法。
【請求項20】
水性混合物を125〜280℃の範囲の温度で噴霧乾燥し、乾燥微小球状シリカ粒子を形成させる請求項17〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
乾燥微小球状シリカ粒子を550〜700℃の範囲の温度にて焼成する請求項20に記載の方法。
【請求項22】
酢酸ビニル触媒のための実質上不活性な微小球状支持体の製造方法において:
(a)100%未満〜20重量%の実質上不活性な微小球状シリカ粒子からなる水性ゾルを、0%より大〜80重量%の固体の実質上不活性な微粒子シリカ材料と混合して第一水性混合物を形成させ;
(b)この水性混合物を0.5〜5重量%(支持体の全重量に対し)の酸化アルミニウムと混合して第二水性混合物を形成させ;
(c)第二水性混合物を噴霧乾燥して乾燥微小球状粒子を形成させ;
(d)乾燥微小球状粒子を焼成して実質上不活性な微小球状支持体を形成させる
ことを特徴とする製造方法。
【請求項23】
微粒子シリカが実質上ミクロボアを持たない高表面積を有し、更に粒子が7nmより大きい平均直径を有する請求項17または22に記載の方法。
【請求項24】
シリカゾルが20〜100nmの範囲の平均寸法のシリカ粒子を含有する請求項17または22に記載の方法。
【請求項25】
粒子平均寸法が40〜80nmの範囲である請求項24に記載の方法。
【請求項26】
シリカ水性混合物が請求項23に記載の微粒子シリカと請求項24または25に記載のシリカゾルとからなる請求項17または22に記載の方法。
【請求項27】
請求項1に記載の支持体または請求項10もしくは22に記載のように作成された支持体を含む酢酸ビニル触媒。
【請求項28】
パラジウムと、金、セリウム、銅およびその混合物よりなる群から選択される少なくとも1種の金属Mと、第I族、第II族、ランタニド族および遷移金属プロモータよりなる群から選択される少なくとも1種の金属Aとを含む請求項27に記載の触媒。
【請求項29】
式Pd−M−A[ここでMは金、セリウム、銅およびその混合物から選択される少なくとも1種の金属であり、Aは第I族、第II族、ランタニド族および遷移金属プロモータから選択される少なくとも1種の金属である]の流動床酢酸ビニル触媒の製造方法において:
(i)請求項1の微小球支持体または請求項10もしくは22で作成された実質上不活性な微小球支持体を(a)パラジウムの金属塩Mと第I族、第II族、ランタニド族および遷移金属プロモータから選択される少なくとも1種の金属Aの塩とを含む溶液、または(b)パラジウムおよびMの金属塩と第I族、第II族、ランタニド族、遷移金属プロモータから選択される少なくとも1種の金属Aの溶液もしくは固体塩で含浸させ;
(ii)含浸された微小球状支持体を乾燥して触媒を形成させる
ことを特徴とする流動床酢酸ビニル触媒の製造方法。
【請求項30】
Mが金である請求項29に記載の方法。
【請求項31】
Aが第I族金属である請求項29に記載の方法。
【請求項32】
第I族金属がカリウムである請求項31に記載の方法。
【請求項33】
支持体が(a)パラジウムおよび金化合物の溶液で含浸され、(b)次いで含浸された乾燥支持体を還元剤の水溶液に添加し、(c)次いで還元剤での還元にかけ、これは(i)カリウムの固体塩を支持体に添加し次いで混合し、または(ii)還元した固体支持体材料にカリウム塩の溶液を含浸させ、更に(d)(i)もしくは(ii)に続いて材料を乾燥させて最終触媒を形成させる請求項29に記載の方法。
【請求項34】
エチレン、酢酸および分子状酸素含有ガスを、請求項27に記載の触媒または請求項29もしくは33で作成された触媒の存在下に接触させることからなる酢酸ビニルの製造方法。
【請求項35】
プロセスが流動床プロセスである請求項34に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−546526(P2008−546526A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−517573(P2008−517573)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際出願番号】PCT/GB2006/002100
【国際公開番号】WO2006/136781
【国際公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(591001798)ビーピー ケミカルズ リミテッド  (66)
【氏名又は名称原語表記】BP CHEMICALS LIMITED
【Fターム(参考)】