説明

野菜汁及び/又は果汁の製造方法

【課題】ミネラル吸収性を促進する作用に優れ、かつ飲み易い野菜汁及び/又は果汁の製造方法を提供すること。
【解決手段】野菜及び/又は果実を、次の処理(A)及び処理(B):
(A)25〜60℃でセルラーゼ及びペクチナーゼを用いる酵素処理、
(B)機械的剪断処理
を同時に行う工程を含み、処理(A)における酵素総量が野菜及び/又は果実の食物繊維量1gに対して0.15〜0.4gであり、かつ酵素総量中のセルラーゼ量が10〜70質量%である、野菜汁及び/又は果汁の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜汁及び/又は果汁の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜汁及び/又は果汁には、ビタミンC、リコピン、β−カロチン等の機能性成分が含まれているため、飲料として広く飲用されている。しかしながら、一般的な野菜汁及び/又は果汁には、水に溶けない食物繊維、タンパク質、脂質などの不溶性固形分が多く含まれることから、粘性が高く、どろどろした喉越し感があり、飲用時に飲み難いと感じることがある。
【0003】
粘性を低くした飲み易い野菜汁及び/又は果汁を得る方法として、例えば、濾過や遠心力などを用いて機械的に不溶性固形分を除去する方法が知られている。この方法によれば、粘性の低く喉越しが良好な野菜汁及び/又は果汁が得られるものの、食物繊維とともに機能性成分も除去されてしまう。
【0004】
このような課題を解決する方法として、例えば、野菜又は果実等の農産物を破砕した後、攪拌機内で混練と剪断を行うことによって無酸素状態下で均一化しつつ、同時に添加酵素を作用せしめてペースト状にする方法(特許文献1)、植物性農水産物に水及び酵素を添加して溶液中で磨砕処理する方法(特許文献2)、予め粘度を調整したトマトジュースに植物組織崩壊酵素を添加し、103〜106-1の剪断速度範囲で処理する方法(特許文献3)、野菜汁及び/又は果汁に対し、高圧ホモジナイザー処理、次いで植物組織崩壊酵素処理を行う方法(特許文献4)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−162150号公報
【特許文献2】特開2001−61434号公報
【特許文献3】特開2008−301811号公報
【特許文献4】特開2009−11287号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】細谷憲政監修、「消化・吸収−基礎と臨床−」、第一出版株式会社、2002年3月15日発行、275ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの従来技術は、酵素により軟化した組織又は軟化途中の組織をせん断処理することでペースト状やパウダ状の食材を製造する技術であるが、これらの技術を適用して飲料の形態にすると、舌触りにざらつき感があり、飲み易さの点で十分と言い難く改善の余地がある。また、舌触りと飲み易さを向上させると、コクが低下するという課題があった。
【0008】
また、一般に食物繊維はカルシウムなどのミネラルの陽イオンと結合し、ミネラルの吸収を阻害することが知られていることから(非特許文献1)、本発明者らはミネラルの吸収を低下させることなく、食物繊維を摂取することができる野菜汁や果汁の開発を試みた。
従って本発明の課題は、ミネラルの吸収性を向上させ、かつ飲み易く、コクのある野菜汁及び/又は果汁の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、食物繊維を含有する野菜汁及び/又は果汁を飲用した際のミネラル吸収性と、野菜汁及び/又は果汁中に含まれる不溶性固形分表面積には一定の相関関係があることを見出した。すなわち、ミネラル吸収性を高めるには、野菜及び/又は果実に酵素処理や機械的剪断処理をすることが有効であるが、過度の処理においては逆にミネラル吸収性が低下することが見出された。そして高いミネラル吸収性を得るためには、固形分の平均粒径と表面積により規定される不溶性固形分表面積を増大させることが重要であることを見出した。
そして更に検討を続けたところ、一定の温度で酵素処理と機械的剪断処理を同時に行う工程を行い、当該酵素中にセルラーゼを一定量含有させ、かつ酵素総量を一定の範囲に調整することにより、不溶性固形分表面積が一定以上となるためミネラル吸収性が向上し、かつ舌触りなどの飲用感も良好な野菜汁及び/又は果汁が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、野菜及び/又は果実を、次の処理(A)及び処理(B):
(A)25〜60℃でセルラーゼ及びペクチナーゼを用いる酵素処理、
(B)機械的剪断処理
を同時に行う工程を含み、処理(A)における酵素総量が野菜及び/又は果実の食物繊維量1gに対して0.15〜0.4g、かつ酵素総量中のセルラーゼ量が10〜70質量%である野菜汁及び/又は果汁の製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、不溶性固形分を0.4〜5質量%含有し、不溶性固形分の体積平均粒径が5〜60μm、不溶性固形分表面積が65cm2/(g−野菜汁及び/又は果汁)以上である、野菜汁及び/又は果汁を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明方法によれば、食物繊維を含有しつつミネラル吸収性が向上し、かつ舌触り等の飲用性の良好でコクのある野菜汁及び/又は果汁が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1〜6及び比較例1〜5で得られた野菜汁又は果汁の不溶性固形分表面積とCa吸収率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の野菜汁及び/又は果汁の製造方法は、野菜及び/又は果実を、処理(A)及び処理(B)を同時に含む工程に付することを特徴とする。処理(A)及び処理(B)は野菜及び/又は果実中の不溶性食物繊維を破砕又は分解して粘度を低下させるとともに、不溶性固形分表面積を一定範囲とするための処理である。ここで、本明細書において「不溶性固形分」とは「不溶性食物繊維」を包含する概念であり、具体的には、不溶性食物繊維、たんぱく質、脂質などが含まれる。
【0015】
本発明においては、前記の工程を行う前に、野菜及び/又は果実を、洗浄、更に必要により皮剥き等の準備処理、破砕処理及びブランチング処理等に付することができる。
本発明で使用する野菜及び果実は特に限定されないが、人参、大根、アスパラガス、たまねぎ、ビート、しょうが、紫芋、ごぼうなどの根菜;セロリ、ほうれん草、白菜、キャベツ、メキャベツ、ブロッコリー、小松菜、パセリ、ケール、クレソン、モロヘイヤ、あしたば、レタスなどの葉菜;トマト、ピーマン、赤ピーマン、なす、かぼちゃなどの果菜;バナナ、りんご、メロン、みかん、ブドウなどの果実などが例示される。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0016】
これら野菜及び果実には食物繊維が含まれているが、食物繊維には水に溶ける水溶性食物繊維と、水に溶けない不溶性食物繊維とが存在する。本発明においては、不溶性食物繊維を多く含む野菜又は果実を使用することが好ましく、具体的には、野菜又は果実100g当たり不溶性食物繊維を0.5g以上、更に0.9g以上、特に1.4g以上含むものを使用することが好ましい。野菜又は果実100g当たりの不溶性食物繊維量の上限は、不溶性固形分表面積制御の観点から、7g、更に6.5g、より更に6g、特に5gが好ましい。
【0017】
破砕処理は、処理(A)及び処理(B)を効率良く行うための処理である。例えば、ごぼうなどのように不溶性食物繊維を多く含み、硬く強固な根菜の場合、加熱、処理(A)及び処理(B)の前に破砕処理すると、一層効率よく野菜及び/又は果実を加熱することができる。その結果、不溶性食物繊維を十分軟化させることが可能になる。一方、小松菜などの葉菜の場合、処理(A)及び処理(B)の前に破砕処理すると、加熱により軟化された不溶性食物繊維を、処理(A)や処理(B)においてより一層効率よく微細化することができる。
【0018】
破砕処理する方法としては野菜及び果実の種類により適宜選択することが可能であり、物体を摩擦により微細化しても、剪断応力の働きにより微細化してもよい。例えば、包丁、ハンドミキサー及びコミトロールなどを必要により適宜組み合わせて機械的剪断処理する方法などを採用することができる。
破砕処理された野菜及び/又は果実の形態としては、微粒状、さいの目状、短冊状、ペースト状等が例示されるが、加熱効率や不溶性固形分表面積制御の観点から、ペースト状であることが好ましい。ペースト状に破砕処理された野菜及び/又は果実の粘度は特に限定されないが、100〜3000mPa・sであることが好ましく、必要により濃縮又は希釈して所望の粘度に調整してもよい。破砕処理後の野菜及び/又は果実を上記粘度範囲にすることで、処理(B)においてより一層大きな剪断応力を付与することが可能になり、その結果不溶性食物繊維をより一層効率よく微細化することができる。なお、本明細書において「粘度」とは、レオメーターを用いて20℃で測定された値をいい、具体的には、ローターはクエットCC27を使用し、20℃にてずり速度0.1s-1から1000s-1の範囲で測定し、ずり速度100s-1における数値を読み取った値をいう。レオメーターとして、例えば、PHYSICA MCR300(Anton Paar(株)製)を使用することができる。
【0019】
ブランチング処理は、野菜及び/又は果実中に含まれる酵素を失活させるための処理である。ブランチング処理には、スチームブランチング処理、マイクロ波照射処理、湯通し処理等が含まれる。
【0020】
スチームブランチング処理は、例えば、飽和水蒸気又は過熱水蒸気を、野菜及び/又は果実に接触させて加熱するものである。なお、スチームブランチング処理には、例えば、スチーム機能を搭載する市販のオーブンレンジや、クッカーなどの市販の蒸煮装置を使用することができる。過熱水蒸気の温度は、常圧で100℃超から500℃、更に200〜400℃、特に250〜350℃であることが好ましい。
【0021】
マイクロ波照射処理は、例えば、周波数2450MHzのマイクロ波を野菜及び/又は果実に照射し、加熱するものである。なお、マイクロ波照射処理には、例えば、市販の電子レンジを使用することができる。
本処理に付する時間は野菜及び果実の種類により適宜設定することが可能であるが、加熱臭等の風味劣化や色調変化の抑制の観点から、0.5〜30分、更に1〜20分、更に1〜15分であることが好ましい。
【0022】
湯通しは、野菜及び/又は果実に温水を接触させて加熱するものである。この場合、流水を用いてもよく、温水中に野菜及び/又は果実を浸漬させてもよい。
【0023】
ブランチング処理においては、上記ブランチング処理のうちの少なくとも1種を適宜選択して行うことができるが、熱伝導率がより一層高く、野菜及び/又は果実の不溶性食物繊維をより確実に均一に軟化でき、野菜及び果実中の機能性成分の漏出を抑制する点から、スチームブランチング処理が好ましい。
ブランチング処理後においては、冷却プレート等を用いて野菜及び/又は果実を冷却すると、色を鮮やかに保持することができるため好ましい。
【0024】
〔処理(A)〕
処理(A)は、25〜60℃でセルラーゼ及びペクチナーゼの両方を用いる酵素処理である。これにより、不溶性食物繊維を酵素で分解して粘度を低下させるとともに、不溶性食物繊維を微細化させることができる。
【0025】
本発明で用いられるセルラーゼは、セルロースを加水分解する酵素の総称であり、セルロースをセロオリゴ糖に分解するものであれば特に限定されない。セルラーゼの起源に限定はないが、例えば、トリコデルマ(Trichoderma)属、アスペルギルス(Aspergillus)属等に属する微生物を挙げることができる。また、セルラーゼとしては、一般に市販されているセルラーゼ製剤や上記菌の培養物やその濾過液を使用することもできる。さらに、遺伝子組み換え技術、部分加水分解等による人工酵素であってもよい。
【0026】
セルラーゼの例としてはセルクラスト1.5L(ノボザイムズ社)等のトリコデルマ リーゼ(Trichoderma reesei)由来のセルラーゼ製剤やトリコデルマ ビリデ(Trichoderma viride)由来のセルラーゼ、アスペルギルス アクレアタス(Aspergillus acleatus)、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)、フミコーラ インソレンス(Humicola insolens)由来のセルラーゼ混合物が挙げられる。これらの中で、好ましくはトリコデルマ リーゼ(Trichoderma reesei)、トリコデルマ ビリデ(Trichoderma viride)、あるいはフミコーラ インソレンス(Humicola insolens)由来のセルラーゼ、例えばセルクラスト1.5L(ノボザイムズ社)、TP−60(明治製菓株式会社)、あるいはウルトラフロL(ノボザイムズ社)を用いることができる。
【0027】
本発明で用いられるペクチナーゼとしては、その起源は特に限定されないが、植物、細菌および菌類に広く分布しているものを使用でき、例えばバチルス属(Bacillus)などの細菌類;トリコスポロン属(Tricosporon)、エンドマイセス属(Endomyces)、エンドマイコプシス属(Endomycopsis)、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、ピヒア属(Pichia)、ハンセヌラ属(Hansenula)、デバリオマイセス属(Debaryomyces)、ハンセニアスポラ属(Hanseniaspora)、トルロプシス属(Torulopsis)、カンジダ属(Candida)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)などの酵母類;アスペルギルス属(Aspergillus)、リゾプス属(Rhizopus)などの糸状菌類などが挙げられる。このうちアスペルギルス属由来のペクチナーゼが特に好ましい。
【0028】
本発明ではこれら諸起源菌を使用したペクチナーゼとして、ペクチネックスウルトラSPL(ノボザイムズ社)、ペクチネックス3XL(ノボザイムズ社)、ペクチナーゼG「アマノ」(天野エンザイム社)、ペクチナーゼPL「アマノ」(天野エンザイム社)等を用いることができる。
【0029】
処理(A)における酵素の使用量は、不溶性食物繊維を微細化するとともに、不溶性固形分表面積を一定以上にする点から、酵素総量が野菜及び/又は果実の食物繊維量1gに対して0.15〜0.4gであり、好ましくは0.15〜0.35g、より好ましくは0.15〜0.3gである。酵素総量を食物繊維量1gに対して0.15g以上とすることで十分な加水分解を行うことができ、良好な飲料感を得ることができる。また、酵素総量を食物繊維量1gに対して0.4g以下にすることで、過剰の加水分解を避けることができ、不溶性固形分表面積の低下を抑制することができる。すなわち、十分な不溶性固形分表面積による高いミネラル吸収性を実現することができる。
なお、食物繊維量とは、実施例記載の方法により定量されるものであり、水溶性食物繊維量と不溶性食物繊維量の総量である。酵素は水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の両方に対して作用するため、食物繊維量に対して上記の量を用いる。
【0030】
処理(A)における酵素総量中のセルラーゼ量は10〜70質量%であり、20〜70質量%が好ましく、50〜70質量%が更に好ましい。酵素総量中のセルラーゼ量を10質量%以上にすることにより十分な微細化が可能であり、酵素総量中のセルラーゼ量を70質量%以下にすることにより過剰な加水分解を抑制し、十分な不溶性固形分表面積を実現することができる。
【0031】
野菜及び/又は果実の食物繊維量1gに対するセルラーゼ量は、0.015〜0.28gが好ましく、0.03〜0.25gがより好ましく、0.05〜0.2gが更に好ましく、0.1〜0.2gが特に好ましい。
また、野菜及び/又は果実の食物繊維量1gに対するセルラーゼ量(酵素活性基準)は、10〜200EGUが好ましく、20〜175EGUがより好ましく、30〜150EGUが更に好ましく、70〜150EGUが特に好ましい。ここで、EGUとはエンドグルカナーゼ活性を表し、実施例に記載の測定方法により求めることができる。
【0032】
処理(A)における酵素総量中のペクチナーゼ量は20〜90質量%であり、25〜80質量%が好ましく、30〜50質量%が更に好ましい。
【0033】
野菜及び/又は果実の食物繊維量1gに対するペクチナーゼ量は、0.05〜0.32gが好ましく、0.06〜0.25gがより好ましく、0.07〜0.2gが更に好ましく、0.07〜0.1gが特に好ましい。
また、野菜及び/又は果実の食物繊維量1gに対するペクチナーゼ量(酵素活性基準)は、200〜1200PGNUが好ましく、220〜1000PGNUがより好ましく、250〜800PGNUが更に好ましく、250〜400PGNUが特に好ましい。ここで、PGNUとはポリガラクチュロナーゼ活性を表し、実施例に記載の測定方法により求めることができる。
【0034】
酵素反応温度は、25〜60℃で行う。好ましくは25〜50℃、更に好ましくは30〜40℃である。25℃以上で行うことで十分な微細化がなされ、不溶性固形分表面積を高めることができる。60℃以下で行うことにより、過剰な加水分解を抑制し、不溶性固形分表面積の低減を抑制することができる。また、風味の点からも好ましい。
酵素反応時間は、3時間以内、更に30分以上2時間以内が好ましい。
【0035】
〔処理(B)〕
処理(B)は、機械的剪断処理である。これにより、不溶性食物繊維を機械的に破砕して粘度をより一層低下させるとともに、不溶性食物繊維をより一層微細化させることができる。
剪断処理に用いる装置としては特に限定されないが、例えば、回転カッター式装置を使用することができる。ここで、本明細書において「回転カッター式装置」とは、回転する刃又は櫛状の歯を有する破砕装置を指し、磨砕ではなく、剪断応力の働きにより物体を微細化するものをいう。
剪断装置により付与される剪断速度は103〜106-1であるのが好ましく、不溶性食物繊維の微細化の観点から、2×103〜106-1、特に1×104〜106-1であることが好ましい。なお、本明細書において「剪断速度」とは、回転カッター式装置の回転体の最高周速をv(m/s)、最高周速部分と壁面との距離をd(m)とした場合にv/d(1/s)で計算される値をいう。当該剪断速度は、回転体の回転速度、及び、回転体と壁面との距離を調節することにより調整することができる。剪断速度を上記範囲内とすることで十分な剪断応力が確保される。
【0036】
本処理においては、2枚以上の刃又は多層櫛歯を備えた回転カッター式装置を用いた破砕処理を行うことが好ましい。刃を回転させる装置では、刃の数を2枚以上とすることで効率よく剪断を行うことができる。かかる観点から、特に2〜4枚の刃を備えることが好ましい。多層櫛歯とは、回転軸の円周方向に複数の歯(これを歯列という)を有するものであり、かつ、半径方向に多層の歯列を備えるものをいう。かかる構造により、効率よく剪断を行うことが可能になり、その結果短時間で粘度を低下させるとともに不溶性食物繊維を微細化し、かつ不溶性食物繊維の浮上を抑制することができる。刃又は歯の材質は特に限定されないが、金属製又はセラミック製が、強度や切れ味の点から好ましい。
【0037】
具体的には、ジューサー、カッターミル、ホモミキサー等の2枚以上の刃を備える回転カッター式装置;ディスパー、マイルダー等の多層櫛歯を備えた回転カッター式装置などが例示される。具体的には、ジューサーミキサー(MX−1500、(株)エフ・エム・アイ製)、マイルダー(MDN303V、太平洋機工(株)製)、ホモミクサー(T.K.ホモミクサーMARKII 2.5型、プライミクス(株)製)などの市販の破砕装置を使用することができる。
【0038】
回転カッターの周速の下限は、12m/s、更に15m/s、特に20m/sであることが好ましく、他方上限は、80m/s、特に60m/sであることが好ましい。回転カッターの周速を上記範囲内とすることで、攪拌機に大きな負荷を加えることなく効率よく、剪断処理することができる。
剪断処理の温度は、野菜及び果実の風味劣化抑制の観点から、0〜60℃、特に0〜40℃であることが好ましい。
【0039】
本発明においては、処理(A)と処理(B)とを同時に行う工程が含まれる。処理(A)と処理(B)の全処理を同時に行ってもよい。処理(A)を行い、その後その処理物を酵素失活処理をせずに、(B)機械的剪断処理に付してもよい。処理(B)を行い、その途中に処理(A)の条件に合致した酵素を添加してもよい。処理(A)と処理(B)が同時に行われている時間は、前記処理(A)の処理において記載した時間であることが好ましい。
【0040】
処理(A)及び処理(B)終了後、又は全工程終了後においては、加熱等により酵素を失活させることが好ましい。失活処理は、処理物になるべく悪影響をもたらさずに酵素を失活させることが可能であれば如何なる方法でもよいが、高温短時間の失活操作が好ましく、特に70〜98℃の温度で1〜5分間加熱して失活させる方法が好ましい。
さらに殺菌処理を施すことで、酵素を失活させることと殺菌を同時に行ってもよい。殺菌条件は、例えば、加熱殺菌に適用されるべき法規(日本国にあっては食品衛生法)に定められた条件で行うことができる。
【0041】
本発明方法により得られる野菜汁及び/又は果汁は、ミネラル吸収性及び飲用性の点から、不溶性固形分表面積が65cm2/(g−野菜汁及び/又は果汁)以上であるのが好ましく、65〜500cm2/(g−野菜汁及び/又は果汁)であるのがより好ましく、66〜300cm2/(g−野菜汁及び/又は果汁)であるのが更に好ましく、80〜200cm2/(g−野菜汁及び/又は果汁)であるのが特に好ましい。ここで、本明細書において「ミネラル」とは、医学、栄養学又は食品化学の分野で、生体を構成する元素のうち炭素、窒素、水素及び酸素の4元素以外の元素の総称であり、例えば、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛等の金属元素が例示される。
【0042】
本発明方法により得られる野菜汁及び/又は果汁の不溶性固形分量は、不溶性食物繊維を摂取するという点から、また、飲用する際の風味であるコクの点から0.4〜5質量%が好ましく、0.5〜3質量%がより好ましく、0.6〜2.5質量%以上が特に好ましい。
【0043】
また、本発明方法により得られる野菜汁及び/又は果汁の不溶性固形分の体積平均粒径は、ミネラル吸収性の向上、飲用性の点から60μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、40μm以下が特に好ましく、30μm以下が更に好ましく、25μm以下が殊更好ましい。また、飲用する際の風味であるコクの点から5μm以上が好ましく、6μm以上がより好ましく、8μm以上が更に好ましく、10μm以上が特に好ましく、12μm以上が殊更好ましい。
【0044】
また、本発明方法により得られる野菜汁及び/又は果汁の粘度は、のど越しの観点より、20℃において1〜40mPa・sが好ましく、2〜30mPa・sがより好ましく、3〜20mPa・sが更に好ましく、4〜15mPa・sが特に好ましい。
【0045】
本発明により得られる野菜汁及び/又は果汁は、このまま飲料とすることもできるが、必要により濃縮又は希釈してもよい。
本発明の野菜汁及び/又は果汁には、野菜汁や果汁由来にあわせて、酸化防止剤、香料、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、pH調整剤、品質安定剤などの添加剤を単独で又は併用して配合してもよい。
【0046】
本発明方法により得られる野菜汁及び/又は果汁はミネラル吸収性を向上させるので、ミネラル吸収促進剤として使用することが可能であり、またミネラル吸収促進作用に基づき骨粗鬆症の予防又は改善剤として使用することができ、更にこれらの剤を製造するために使用することもできる。ここで、本明細書において「骨粗鬆症の改善」には、骨粗鬆症における骨量減少、腰痛、背部痛、骨折等の症状の改善や治療の概念が包含される。
また、本発明のミネラル吸収促進剤等は、ミネラル吸収促進、骨粗鬆症等の予防又は改善するための飲食品、医薬部外品、医薬品等として使用可能である。また、ミネラル吸収促進剤等は、ミネラル吸収促進、骨粗鬆症等の予防又は改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した飲食品、例えば病者用食品、特定保健用食品等の機能性飲食品として使用することができる。
【0047】
本発明のミネラル吸収促進剤等を医薬品、医薬部外品として用いる場合の投与形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与又は注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、外用剤等による非経口投与が例示される。
このような種々の剤型の医薬製剤を調製する場合には、本発明の野菜汁及び/又は果汁を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて用いることができる。これらの投与形態のうち、好ましい形態は経口投与である。
【0048】
経口投与用製剤として用いる場合、該製剤中の本発明の野菜汁及び/又は果汁の含有量は、0.01〜100質量%、更に0.1〜100質量%、特に1〜100質量%とすることが好ましい。
【0049】
本発明のミネラル吸収促進剤等を食品として用いる場合、その形態としては、例えば、パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、ゼリー類、冷凍食品、アイスクリーム類、乳製品、飲料などの各種食品の他、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)が例示される。
種々の形態の食品を調製するには、本発明の野菜汁及び/又は果汁を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることができる。当該食品中の本発明の野菜汁及び/又は果汁の含有量は、0.01〜100質量%、更に0.1〜100質量%、特に1〜100質量%とすることが好ましい。
【0050】
本発明のミネラル吸収促進剤等を医薬品として使用する場合、成人1人当たりの単回投与又は摂取量は、(b)不溶性食物繊維量として、1日あたり0.01mg〜10g、更に0.05mg〜5g、特に0.1mg〜3gとすることが好ましい。
また、本発明のミネラル吸収促進剤等は、摂食・摂餌時又は摂食・摂餌前に投与又は摂取することが好ましく、特に摂食・摂餌前5〜30分以内に投与又は摂取することが好ましい。
【実施例】
【0051】
1.不溶性固形分の平均粒径の測定
試料を、粒径分布測定装置(SALD−2100、(株)島津製作所製)を用いて、フローセルを使用し水を溶媒として体積基準の粒径分布及び平均粒径(メジアン径)を測定した。
【0052】
2.食物繊維量の測定
試料中の不溶性食物繊維量は、プロスキー変法(酵素−重量法)(分析実務者が書いた五訂日本食品標準成分表 分析マニュアルの解説、編集者:財団法人 日本食品分析センター、発行者:中央法規出版(株)、2001年発行、66〜72頁)により定量分析した。
【0053】
3.不溶性固形分表面積の測定
不溶性固形分の定量は、25℃に恒温したサンプルを良く攪拌し均一な状態にし、10gを遠沈管に定量し、高速冷却遠心機(HITACHI himac CR20G)を用いて、処理温度20℃、最大遠心加速度4×105〜5.2×105[m/s2]の範囲に設定して10分間遠心した。保留粒子径が1μm(ADVANTEC No.5C、直径90mm)の濾紙の乾燥質量を測定した後、遠沈管内の遠心後の上清固形分を減圧濾過により集めた。次に遠沈管中にイオン交換水を加えて攪拌し、再び同条件で10分間遠心した。遠沈管内の遠心後の上清固形分を該濾紙上に減圧濾過により集めた。更に遠沈管中にイオン交換水を加えて攪拌し、同条件で10分間遠心した。遠沈管内の遠心後の上清固形分を該濾紙上に減圧濾過により集めた。残った固形分も該濾紙上に集めて水洗し、減圧濾過した。水洗に用いたイオン交換水は全量で100mLとした。該濾紙を乾燥後に質量を測定した。(不溶性固形分量(質量%))=((乾燥後の濾紙質量(g))−(濾紙の初期乾燥質量(g)))/10(g)×100とした。
【0054】
不溶性固形分表面積は、粒子の形状が球形と仮定し、不溶性固形分量及び不溶性固形分の粒径分布から算出した。粒径分布の測定範囲を50分割し、最大粒子径をd1(μm)、最小粒子径をd51(μm)とする。50分割された各粒子径区間[dj, dj+1](j=1,2,・・・,50)の不溶性固形分表面積Sjは、飲料の比重を1g/cm3とすると、
【0055】
【数1】

【0056】
であり、更に各粒子径区間[dj, dj+1]の体積基準の粒子量(差分%)をqj(j=1,2,・・・,50)
【0057】
【数2】

【0058】
飲料の不溶性固形分量をX(質量%)とすると、飲料の不溶性固形分表面積は全区間の不溶性固形分表面積であることから、
【0059】
【数3】

【0060】
より求めた。
【0061】
4.粘度
レオメーター(PHYSICA MCR300(Anton Paar(株)製))を用いて、ローターはクエットCC27を使用し、20℃にてずり速度0.1s-1から1000s-1の範囲で測定し、ずり速度100s-1における数値を読み取った値とした。
【0062】
5.Ca吸収性試験
Ca吸収性はラットへの45Ca経口投与後の血漿中45Ca放射活性を指標に評価した。SD−IGS雄性ラット(7週令又は8週令、日本チャールズリバー(株))を馴化した後、試験前日から19時間絶食させて試験に用いた。試験前日の各ラットの体重を測定して体重のばらつきが一定になるように群分けを行い、更に平均体重当たりのサンプル投与量及び45CaCl2投与量(1μCi)を決定した。ジエチルエーテルにて吸入麻酔したラットに、サンプルを経口ゾンデ投与し、直後に45CaCl2水溶液(1.5Ci/mmol〜2.5Ci/mmol(株)パーキンエルマー)を経口ゾンデ投与した。投与30分、2時間後に、ジエチルエーテル吸入麻酔下で頚静脈より約0.5mLの血液を採取し、ヘパチンリチウム含有血漿用採血管に入れて遠心処理(3000rpm、15分)を行い、血漿を分離した。血漿100μLに対して液体シンチレーションカクテル(ULTIMA GOLD XR(株)パーキンエルマー)を3mL加えて、十分に混和した後、液体シンチレーションカウンター(TRI−CARB3100TR(株)パーキンエルマー)にて45Caの放射活性の測定を行った。
また、試料中のカルシウム濃度を測定し、必要に応じて塩化カルシウムを用いてサンプルと対照サンプルのカルシウム濃度が同じになるように調製した。
【0063】
サンプル使用量
(実施例1及び比較例1)
平均体重あたり2.5mLのサンプル(Ca濃度 0.72mg/mL)をゾンデで経口投与し、更に放射能量が1μCiとなるように濃度調製した45CaCl2水溶液1.0mLを投与した。
【0064】
(実施例2及び3、比較例2)
平均体重あたり2.5mLのサンプル(Ca濃度 0.66mg/mL)をゾンデで経口投与し、更に放射能量が1μCiとなるように濃度調製した45CaCl2水溶液1.0mLを投与した。
【0065】
(実施例4及び比較例5)
平均体重あたり1.5mLのサンプル(Ca濃度 0.48mg/mL)をゾンデで経口投与し、更に放射能量が1μCiとなるように濃度調製した45CaCl2水溶液1.0mLを投与した。
【0066】
(実施例5及び比較例3)
平均体重あたり1.5mLのサンプル(Ca濃度 0.15mg/mL)をゾンデで経口投与し、更に放射能量が1μCiとなるように濃度調製した45CaCl2水溶液1.0mLを投与した。
【0067】
(実施例6及び比較例4)
平均体重あたり2.5mLのサンプル(Ca濃度 0.31mg/mL)をゾンデで経口投与し、更に放射能量が1μCiとなるように濃度調製した45CaCl2水溶液1.0mLを投与した。
【0068】
Ca吸収性上昇率
カルシウムの吸収性評価は、処理(A)及び処理(B)を行う前の野菜と、本実施例の野菜汁について実施した。処理(A)及び処理(B)を行う前の野菜については、ペースト状に破砕されていない場合は適宜破砕してから試験に供した。なお、実施例1については、処理(A)及び処理(B)を行う前の野菜についても、1.5倍に加水してから試験に供した。
Ca吸収性上昇率は、処理(A)及び処理(B)を行う前の野菜と、本実施例の野菜汁について、投与前から投与30分後及び投与2時間後の血漿中の45Ca濃度を算出し、下記式より算出した値である投与30分後のCa吸収性上昇率及び投与2時間後のCa吸収性上昇率から求めた平均値をCa吸収性上昇率とした。
【0069】
【数4】

【0070】
6.Ca濃度の測定
試料中のCa濃度の測定は、MXB法を用いたキット(和光純薬工業(株)カルシウムE−テストワコー)を用いて行った。
【0071】
7.官能評価
各実施例及び比較例で得られた野菜汁について、評価パネラー5名により飲み易さ(舌触り、のど越し及び総合点)を下記の基準で評価し、その後協議により最終スコアを決定した。
【0072】
(舌触りの評価基準)
1:舌にざらつきを感じ、極めて口に残る
2:舌にざらつきを感じ、口に残る
3:舌にざらつきはあまり感じないが、口に残る
4:舌にざらつきは感じないが、わずかに口に残る
5:舌にざらつきは全く感じず、口に残らない
【0073】
(のど越しの評価基準)
1:ドロドロとしており、喉に通りづらく、後味が極めて残る
2:ドロドロとしており、喉に引っかかり、後味が残る
3:さらさらとしているが、喉に少し残り、後味が僅かに残る
4:さらさらとしており、喉に引っかからず、後味が残らない
5:さらさらとしており、喉に全く引っかからず、後味が全く残らない
【0074】
(コクの評価基準)
1:コクがない
2:ややコクがない
3:普通
4:ややコクがある
5:コクがある
【0075】
8.エンドグルカナーゼ活性の測定方法
基質としてCMC(カルボキシメチルセルロース)3.11%(質量/体積)溶液を用い、反応pH6.0、反応温度40℃で30分間反応させる。その後、CMCの分解による基質溶液粘度低下とノボザイムズ社スタンダード酵素の検量線をもとに、単位をEGUとして活性を決定する。
【0076】
9.ポリガラクチュロナーゼ活性の測定方法
基質として0.25%(質量/体積)のポリガラクチュロン酸溶液を用い、pH4.5、反応温度40℃で10分間反応させる。その後、ポリガラクチュロン酸の分解による還元糖増加を3,5−ジニトロサリチル酸にて反応させて540nmにて吸光度測定を行い、ポリガラクチュロン酸濃度を変えた検量線をもとに、単位をPGNUとして活性を決定する。
【0077】
実施例1
小松菜を洗浄し水切りした後、包丁で3cm程度の大きさに裁断し、蒸煮コンベアを用いて、100℃の飽和水蒸気で70秒間スチームブランチング処理を行った。その後、コミトロール((株)URSCHEL製)を用いてマイクロカッティング仕様のブレード212枚(開口0.127mm)を使用し、周速70m/sで粉砕処理を1回行った。これを87℃で90秒間殺菌した後、22℃の水槽で冷却し、小松菜ペーストを作製した。作製した小松菜ペーストの食物繊維量は1.4質量%であった。
この小松菜ペースト1000gに、セルラーゼ(セルクラスト1.5LFG、ノボザイムズ(株)製、700EGU/g)2gを10質量%水溶液として、またペクチナーゼ(ペクチネックスウルトラSPL、ノボザイムズ(株)製、3800PGNU/g)1gを10質量%水溶液として添加し、小松菜ペーストの食物繊維量1gあたりの酵素総量を0.21g、酵素総量に対するセルラーゼ量を67質量%とした。その後、ホモミクサー(T.K.ホモミクサーMARKII2.5型、プライミクス(株)製)を用いて、30℃にて剪断速度4.4×104-1で機械的剪断処理と酵素反応を同時に行った。1時間後、95℃において3分間保持することにより、酵素を失活し、小松菜汁を得た。
【0078】
実施例2
小松菜を洗浄し水切りした後、包丁で3cm程度の大きさに裁断し、95℃の湯で1分間小松菜を湯通しした後、20℃の水で冷却した。その後、コミトロールを用いて実施例1と同様の粉砕処理を1回行った後、殺菌、冷却を経て小松菜ペーストを作製した。作製した小松菜ペーストの食物繊維量は1.2質量%であった。
この小松菜ペーストに、実施例1と同様の酵素2種を実施例1と同量添加し、小松菜ペーストの食物繊維量1gあたりの酵素総量を0.25g、酵素総量に対するセルラーゼ量を67質量%とした。その後、マイルダー(303V−A、荏原(株)製)を用いて、30℃にて剪断速度8.6×105-1で機械的剪断処理と酵素反応を同時に行った。1時間後、実施例1と同様の方法で酵素を失活し、小松菜汁を得た。
【0079】
実施例3
実施例2と同様の小松菜ペーストに、更に90℃で10分間の撹拌処理を行った後、実施例1と同様の酵素2種を実施例1と同量添加し、小松菜ペーストの食物繊維量1gあたりの酵素総量を0.25g、酵素総量に対するセルラーゼ量を67質量%とした。その後、実施例2と同様の方法によりマイルダーを用いて、機械的剪断処理と酵素反応を同時に行い、酵素を失活し、小松菜汁を得た。
【0080】
実施例4
小松菜を洗浄し水切りした後、鍋で小松菜を3分間蒸し、ミクロマイスターミニ(4M7−10、増幸産業(株)製)にて目開き2.5mmの4枚刃を使用し、2500rpmで破砕処理を1回行った。これをミクロマイスター(3M7−40、増幸産業(株)製)にてブレードにS216(目開き0.08mm、9枚刃)を用いて9000rpmで破砕処理を1回行った。これを水で1.5倍に希釈し、小松菜ペーストを作製した。作製した小松菜ペーストの食物繊維量は1.1質量%であった。
この小松菜ペーストに、実施例1と同様の酵素2種を実施例1と同量添加し、小松菜ペーストの食物繊維量1gあたりの酵素総量を0.27g、酵素総量に対するセルラーゼ量を67質量%とした。その後、実施例1と同様の方法によりホモミクサーを用いて、機械的剪断処理と酵素反応を同時に行い、酵素を失活し、小松菜汁を得た。
【0081】
実施例5
人参を5cm長さに切断して100℃の飽和水蒸気(ウォーターオーブンAX−HT3−W、シャープ製)で9分間加熱処理を行った後、包丁で裁断した。これをジューサーミキサー(MX−152S、National)でペースト処理し、水で1.7倍に希釈し人参ペーストを作製した。作製した人参ペーストの食物繊維量は1.9質量%であった。
この人参ペーストに、実施例1と同様の酵素2種を実施例1と同量添加し、人参ペーストの食物繊維量1gあたりの酵素総量を0.16g、酵素総量に対するセルラーゼ量を67質量%とした。その後、実施例1と同様のホモミクサーを用いて、30℃にて剪断速度4.4×104-1で機械的剪断処理と酵素反応を同時に10分間行った後、直径7.5cmの2段撹拌翼を用いて30℃にて150rpmで50分間撹拌した。この操作を2回繰り返し、実施例1と同様の方法で酵素を失活し、人参汁を得た。
【0082】
実施例6
市販の濃縮トマトペースト(Bx28)を2.25倍に希釈し、トマトペーストを作製した。作製したトマトペーストの食物繊維量は1.9質量%であった。
このトマトペースト1000gに、実施例1と同様の酵素2種を、セルラーゼの10質量%水溶液10gと、ペクチナーゼの10質量%水溶液40gを添加し、トマトペーストの食物繊維量1gあたりの酵素総量を0.26g、酵素総量に対するセルラーゼ量を20質量%とした。その後、実施例1で使用したホモミクサーで、40℃にて剪断速度4.4×104-1で機械的剪断処理と酵素反応を同時に行った。90分後、実施例1と同様の方法により酵素を失活し、これを水で1.5倍に希釈してトマト汁を得た。
【0083】
比較例1
実施例1と同様の方法で小松菜ペーストを作製し、これを使用した。
【0084】
比較例2
実施例2と同様の方法で小松菜ペーストを作製し、これを使用した。
【0085】
比較例3
実施例5と同様の方法で人参ペーストを作製し、これを使用した。
【0086】
比較例4
実施例6と同様の方法でトマトペーストを作製し、これを水で1.5倍に希釈して使用した。
【0087】
比較例5
実施例4と同様の方法で小松菜ペーストを作製し、実施例4と同様の酵素2種を実施例4と同量添加した。
その後、直径7.5cmの2段撹拌翼を用いて30℃にて150rpmで60分間撹拌した後、実施例4と同様の方法で酵素を失活し、小松菜汁を得た。
【0088】
比較例6
実施例6と同様の方法で作製したトマトペースト1000gに、実施例6と同様のセルラーゼ5gを、10質量%水溶液として添加し、トマトペーストの食物繊維量1gあたりの酵素総量を0.26g、酵素総量に対するセルラーゼ量を100質量%とした。
その後、実施例6で使用したホモミクサーで、30℃にて剪断速度4.4×104-1で機械的剪断処理と酵素反応を同時に行った。120分後、実施例6と同様の方法により酵素を失活し、トマト汁を得た。
【0089】
比較例7
実施例6と同様の方法で作製したトマトペースト1000gに、実施例6と同様のペクチナーゼ5gを、10質量%水溶液として添加し、トマトペーストの食物繊維量1gあたりの酵素総量を0.26g、酵素総量に対するセルラーゼ量を0質量%とした。
その後、実施例6で使用したホモミクサーで、30℃にて剪断速度4.4×104-1で機械的剪断処理と酵素反応を同時に行った。60分後、実施例6と同様の方法により酵素を失活し、トマト汁を得た。
【0090】
比較例8
実施例6と同様の方法でトマトペーストを作製し、これを実施例6で使用したホモミキサーで、40℃にて剪断速度4.4×104-1で機械的剪断処理を90分間行った。その後、機械的剪断処理を行ったトマトペースト1000gに、実施例6と同様の酵素2種を実施例6と同量添加し、直径7.5cmの2段撹拌翼を用いて40℃にて250rpmで撹拌した。90分後、実施例6と同様の方法により酵素を失活し、トマト汁を得た。
【0091】
比較例9
実施例6と同様の方法でトマトペーストを作製し、実施例6と同様の酵素2種を実施例6と同量添加した。これを直径7.5cmの2段撹拌翼を用いて40℃にて250rpmで90分間撹拌した後、実施例6と同様の方法により酵素を失活した。酵素失活したトマトペーストを、実施例6で使用したホモミクサーを用いて40℃にて剪断速度4.4×104-1で機械的剪断処理を90分間行い、トマト汁を得た。
【0092】
比較例10
実施例6と同様の方法で作製したトマトペースト1000gに、実施例6と同様の酵素2種を、セルラーゼ1.6gを10質量%水溶液として、またペクチナーゼ6.4gを10質量%水溶液として添加し、トマトペーストの食物繊維量1gあたりの酵素総量を0.42g、酵素総量に対するセルラーゼ量を20質量%とした。
その後、実施例6で使用したホモミクサーで、40℃にて剪断速度4.4×104-1で機械的剪断処理と酵素反応を同時に行った。90分後、実施例6と同様の方法により酵素を失活し、トマト汁を得た。
【0093】
比較例11
実施例6と同様の方法で作製したトマトペースト1000gに、実施例6と同様の酵素2種を、セルラーゼ0.38gを10質量%水溶液として、またペクチナーゼ1.52gを10質量%水溶液として添加し、トマトペーストの食物繊維量1gあたりの酵素総量を0.10g、酵素総量に対するセルラーゼ量を20質量%とした。その後、実施例6と同様の方法によりホモミクサーを用いて、機械的剪断処理と酵素反応を同時に行い、酵素を失活し小松菜汁を得た。
【0094】
比較例12
実施例6と同様の方法でトマトペーストを作製し、実施例6と同様の酵素2種を実施例6と同量添加した。その後、実施例6で使用したホモミクサーで、20℃にて剪断速度4.4×104-1で機械的剪断処理と酵素反応を同時に行った。90分後、実施例6と同様の方法により酵素を失活し、トマト汁を得た。
【0095】
実施例1〜6について前処理条件、食物繊維量、酵素処理条件、及び剪断処理条件、並びに得られた野菜汁の物性値、カルシウム吸収性、及び食感の評価結果を表1に示した。また、比較例1〜12について、同様に表2に示した。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【0098】
実施例1〜6及び比較例1〜5で得られた野菜汁の不溶性固形分表面積とCa吸収率の関係を図1に示す。
図1、表1及び2から、本発明方法により得られた野菜汁又は果汁は飲み易く、かつ不溶性固形分表面積が高くCa吸収性が向上していることがわかる。
セルラーゼのみ、又はペクチナーゼのみを用いて処理をした場合(比較例6、7)、平均粒径が大きく舌触りが不十分であり、粘度が高くのど越しが不十分であった。また、酵素処理と剪断処理を同時に行わなかった場合(比較例8、9)、粒径が大きく、不溶性固形分表面積が低かった。また粘度が高く、のど越しが不十分であった。
また、酵素量が多すぎる場合(比較例10)、不溶性固形分が低下し、コクが不十分となった。一方、酵素量が不足の場合(比較例11)、粒径が大きく、粘度が高くのど越しが不十分であった。酵素処理の温度が低い場合(比較例12)、粘度が高くのど越しが不十分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜及び/又は果実を、次の処理(A)及び処理(B):
(A)25〜60℃でセルラーゼ及びペクチナーゼを用いる酵素処理、
(B)機械的剪断処理
を同時に行う工程を含み、処理(A)における酵素総量が野菜及び/又は果実の食物繊維量1gに対して0.15〜0.4gであり、かつ酵素総量中のセルラーゼ量が10〜70質量%である、野菜汁及び/又は果汁の製造方法。
【請求項2】
得られる野菜汁及び/又は果汁の不溶性固形分表面積が65cm2/(g−野菜汁及び/又は果汁)以上である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
得られる野菜汁及び/又は果汁の不溶性固形分の体積平均粒径が60μm以下である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
不溶性固形分を0.4〜5質量%含有し、不溶性固形分の体積平均粒径が5〜60μm、不溶性固形分表面積が65cm2/(g−野菜汁及び/又は果汁)以上である、野菜汁及び/又は果汁。
【請求項5】
20℃における粘度が1〜40mPa・sである、請求項4記載の野菜汁及び/又は果汁。

【図1】
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【公開番号】特開2012−125179(P2012−125179A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279344(P2010−279344)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】