説明

金属−黒鉛複合材料の製造方法および金属−黒鉛複合材料

【課題】高価な炭素繊維を用いず、得られた高熱伝導性の金属−黒鉛複合材料から黒鉛粉が離脱すると言う問題がなく簡便で高効率、低コストに複合材料の製造方法を提供する。
【解決手段】金属パイプまたは少なくとも一方が開いた孔を1つ以上有する金属棒に、黒鉛粉末と金属粉末からなる複合粉原料を充填し両端を封じた後、延伸ダイスを用いて引抜を1回以上行ない、断面積を減少させることを特徴とする金属−黒鉛複合材料の製造方法。また外面が金属で覆われ、内部が、黒鉛粉末と金属粉末からなり相対密度が80%以上でしかも、黒鉛粉末が、最大外面に対して平行に配向している金属−黒鉛複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子機器の放熱等に応用される高熱伝導性の金属−黒鉛複合材料を製造するに好適な製造方法および高熱伝導性の金属−黒鉛複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、黒鉛と金属の複合化による高熱伝導材料には炭素繊維が用いられていたが、高熱伝導炭素繊維は高コストであり製造に高温を必要とするなどの問題点があった(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、比較的安価な黒鉛粉を使用する場合、配向性を与えることが困難であり、焼結法などで成形する場合には表面に露出した黒鉛粉などが脱離することが懸念され、このような導電性粒子が電子機器への悪影響を及ぼす可能性が指摘される。(例えば特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3406696号公報
【特許文献2】特開2002−80280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前者の炭素繊維は高価であり、また後者の黒鉛粉を使うものは表面から粉末が離脱すると言う問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、このような問題点を克服した簡易で高効率、低コストに高熱伝導材料を作製する方法および黒鉛−金属複合材料を提供することについて鋭意検討し特定の方法を採用することで上記問題が解決することを見出し本発明を完成した。
即ち、本発明は、金属パイプまたは少なくとも一方が開いた孔を1つ以上有する金属棒に、黒鉛粉末と金属粉末からなる複合粉原料を充填し両端を封じた後、延伸ダイスを用いて引抜を1回以上行ない、断面積を減少させることを特徴とする金属−黒鉛複合材料の製造方法である。
【0007】
本発明は、外面が金属で覆われ、内部が、黒鉛粉末と金属粉末からなり相対密度が80%以上でしかも、前記黒鉛粉末において、第1の方向の方向ベクトルに対し、前記黒鉛粉末のab面の傾きが10°以下のものが50%以上であり、かつ20°以上のものが10%以上であり、前記第1の方向の方向ベクトルと垂直な面上における黒鉛粉末のab面の傾きは無配向である金属−黒鉛複合材料である。
【発明の効果】
【0008】
この発明の方法によって簡単に安価な材料を用いて高い熱伝導率の複合材料を製造することができ工業的に極めて価値がある。また、本発明の方法によって製造することができる外面が金属で覆われ、内部が、黒鉛粉末と金属粉末からなり相対密度が80%以上でしかも、黒鉛粉末が、最大外面に対して平行に配向している金属−黒鉛複合材料は、表面が金属被覆されているので粉が表面から離脱することがなく、内部の、黒鉛粉末は結晶のab面方向が配向しており延伸方向に対して優れた熱伝導率を発現するという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の金属パイプに複合粉原料を充填しついでダイスで圧縮延伸したものの断面を示す図面である。
【図2】実施例4の貫通孔を3本通した金属棒に複合粉原料を充填しついでダイスで圧縮延伸したものの断面を示す図面である。
【図3】金属−黒鉛複合材料の製造方法を説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
パイプの形状としては発明の趣旨からも明白なように断面が完全な円である必要はなく楕円であっても角があるなど制限はないが、成形性の点から円あるいは楕円であることが好ましいことがある。としても特に制限はないが、真円〜楕円率5の楕円断面、特に真円〜楕円率2の楕円断面が好ましく利用できる。金属の厚さとしては面方向長さの1/3〜1/100、特に1/5〜1/10が好ましく、具体的には1mm程度が延伸性、延伸時の強度の点から好ましい。長さとしても連続的に生産するという点では幾ら長くてもの良いが、中に複合粉原料を充填すると言う意味から好ましいサイズが定まることがある。通常0.1〜10m程度である。パイプは両端が開放されている必要はなく少なくとも一方が開いていれば良く、開口部の大きさについても複合粉原料を挿入し、封止することができれば良く制限はない。金属棒の大きさとしても直径として同等のものが利用できる。孔としても最大パイプの内径から小さいものでは目的に応じて適宜定めることができる。また数も目的に応じて適宜定めれば良い。
【0011】
本発明において、金属パイプまたは少なくとも一方が開いた孔を1つ以上有する金属棒の成分としては延伸可能で熱伝導性が良好であればどのような金属でも良いが延伸性と安価であることからアルミニウムとか銅が好ましく用いられる。このような金属としては純粋なものであれ、その他の金属を含有する合金であっても良い。
【0012】
複合粉原料を構成する黒鉛粉末としては、黒鉛の粉末として市場で入手できるものが利用でき、面方向長さとしては50〜1000μm、特に100〜500μm、厚さとしては1〜50μmが好ましく利用できる。特に好ましくは、鱗状黒鉛粉末と称せられる高い配向性を有すものが好ましく利用でき、10以上のアスペクト比、特に30〜100の平均アスペクト比を有し、平均面方向長さとして50〜1000μmのものが好ましく利用される。焼結体の熱伝導率を高くすると言う観点からは、高い結晶性を有するものが好ましく、学振法によって決定される鱗状黒鉛粉末のd002値は0.3345〜0.3360nmのものが好ましく利用される。
金属粉としては上記パイプを構成する金属と同じであっても異なっても良く特に制限はないが、他の金属成分としては、黒鉛表面との密着性を改善できるチタンや珪素あるいは磁性を付与する遷移金属を含有しても良い。特に、比較的軽い銅粉、アルミニウム粉などを使用するのが好ましい。金属粉の形状としては板状〜鱗状などの異方性のあるものが好ましく利用できる。特に、鱗状粉末であることが好ましく、面方向ながさとしては1/100〜1/5である。充填量としては、金属粉と上記鱗状黒鉛粉末の合計を100として80〜20体積比率とするのが一般的である。また、複合粉原料としては、さらに炭素繊維あるいはカーボンナノファイバーを含んでも良くさらには、黒鉛粉のすべてを針状黒鉛である炭素繊維とすることも可能である。
【0013】
上記黒鉛粉末と金属粉末を混合して複合粉原料とする方法については、粉体同士を混合する公知の方法が利用でき特に制限はないが、混合時に、それぞれの粉体の形状が壊れないものが好ましく、湿式あるいは乾式のボールミルで混合するのが一般的である。湿式で混合した場合には混合後に乾燥して溶媒などを除いた後に複合粉原料とされる。
本発明において開口部を封じるとは、複合粉原料を充填した金属パイプまたは少なくとも一方が開いた孔を1つ以上有する金属棒の開講部を閉じることを意味し、少なくとも複合粉原料は外に飛び出さないことが必要であるが、封じ込まれた空気などは次の工程で圧縮延伸される際に開口部より外にでることは問題がない。
【0014】
本発明において延伸ダイスとは、超硬合金などの高強度素材からなる孔を有する工具であり、孔の入口と出口は相似断面となっており、出口側が小さく、孔の壁がテーパーを有することによりこの孔に被加工材を通過させ出口側より被加工材を引き抜くことによって被加工材の断面積を小さくすると同時に被加工材が引き抜き方向に延ばされる機能を有するものである。
【0015】
本発明において延伸ダイスによる圧縮延伸条件としては被加工材の特性と断面積減少率にもよるが、出口側の引き抜き速度として0.01〜0.5m/secである。
【0016】
ダイスに挿入するまえに予め加熱する場合には、予熱温度として金属の融点の50〜90%の温度(絶対温度として)とするのが好ましい。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
アルミニウム粉末として、平均面方向長さ30μm、黒鉛質炭素材料として、平均面方向長さ300μm、厚さ約10μmの天然黒鉛粉を使用した。これらの原料について、完全圧密化した場合に両者の体積比が1:1となる量に配合した。配合は固相体積と同体積のエタノールを溶媒として用い、混合粉質量の約2倍の直径10mmステンレスボールと共に、ポリエチレンポットにて約1時間、10rpmのスピードで混合を行った。得られた混合物はスラリー状となっており、数日間の風乾後、約70℃の温風乾燥にて複合粉原料とした。
【0018】
外径10mm、内径8mmのアルミニウムパイプを準備し、上記複合粉原料を内部に充填した。充填量は完全圧密状態に対して50%程度の見かけ密度となる分量を充填した。充填後にパイプ両端を潰し、カシメにより封じた。
【0019】
これを延伸ダイスにより引き抜き加工(余熱450℃、引き抜き速度0.1m/sec)を行なった。第一段階では外径9mm、第二段階では外径8mm、第三段階では外径7.3mm、最終段階では外径6.6mmとした。各段の断面積減少率はほぼ17%であり、初期状態からの断面積は、約56%減少した。
【0020】
得られた金属被覆金属−黒鉛複合材料は、外皮にアルミニウムが存在し、内部はアルミニウムと黒鉛粉との複合物であった。ここで黒鉛粉は、その面(ab面)が作成時の延伸方向に強く配向したものとなった。
【0021】
(実施例2)
アルミニウム粉末に代えて平均面方向長さ5μmの銅粉末を用いた他は実施例1と同様にして複合粉原料を製造した。
【0022】
得られた複合粉原料を外径10mm、内径8mmの銅パイプに実施例1と同様に、充填しさらに、パイプ両端を潰し、カシメにより封じた。
【0023】
これを延伸ダイスにより引き抜き加工を行なった。第一段階では外径9mm、第二段階では外径8mm、第三段階では外径7.3mm、最終段階では外径6.6mmとした。各段の断面積減少率はほぼ17%であり、初期状態からの断面積は、約56%減少した。
【0024】
得られた金属被覆金属−黒鉛複合材料は、外皮に銅が存在し、内部は銅と黒鉛粉との複合物であった。ここで黒鉛粉は、その面(ab面)が作成時の延伸方向に強く配向したものとなった。
【0025】
(実施例3)
実施例1で用いた黒鉛粉末に代えて、直径10μm、長さ1mmのピッチ系炭素繊維の短繊維を用いた他は実施例1と同様にして複合粉原料を製造した後、得られた複合粉原料を同様のアルミニウムパイプに充填しカシメにより封じた。
【0026】
これを延伸ダイスにより、材料を実施例1と同様にして引き抜き加工を行なった。第一段階では外径9mm、第二段階では外径8mm、第三段階では外径7.3mm、最終段階では外径6.6mmとした。各段の断面積減少率はほぼ17%であり、初期状態からの断面積は、約56%減少した。
【0027】
得られた金属被覆金属−黒鉛複合材料は、外皮にアルミニウムが存在し、内部はアルミニウムとピッチ系炭素繊維との複合物であった。ここでピッチ系炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維の長さ方向が作成時の延伸方向に強く配向したものとなった。
【0028】
(実施例4)
実施例1のアルミニウムパイプの代わりに、外径10mmのアルミニウム棒材にドリルにより直径3mmの貫通孔を等間隔に3箇所、棒材長手方向に穿孔した基材を用い、その内部に、実施例1で得た複合粉原料を、管の内側の体積に相当する真密度の複合粉原料の重量の50%相当を充填し、さらに基材の両端を潰し、カシメにより封じた。
【0029】
これを延伸ダイスにより引き抜き加工を行なった。第一段階では外径9mm、第二段階では外径8mm、第三段階では外径7.3mm、最終段階では外径6.6mmとした。各段の断面積減少率はほぼ17%であり、初期状態からの断面積は、約56%減少した。
【0030】
得られた金属被覆金属−黒鉛複合材料は、表面がアルミニウムであり、内部に3本の線状のアルミニウムと黒鉛との複合物が存在した。ここで各複合物中の黒鉛粉は、その面(ab面)が作成時の延伸方向に強く配向したものとなった。
【0031】
(実施例5:黒鉛の配向性の測定1)
実施例1および2により作成した金属−黒鉛複合材料における黒鉛の配向性を測定した。
【0032】
金属−黒鉛複合材料を、作成時の延伸方向に対し平行に切断し、切断面を研磨した。該研磨面を走査型電子顕微鏡(30倍、日立ハイテクノロジーズ製、S−4800)で撮影し、黒鉛の配向性を観察した。延伸方向の方向ベクトルを基準に黒鉛結晶面(ab面)の該研磨面内の傾きを100個の位置で観察した。表1にその結果を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に明らかなとおり、本発明により得られた金属−黒鉛複合材料において、黒鉛は延伸方向に対し平行に配向していることが認められた。
【0035】
(実施例6:黒鉛の配向性の測定2)
ついで、実施例1および2により作成した金属−黒鉛複合材料を、作成時の延伸方向に対して垂直に切断し、該切断面における黒鉛の配向性を実施例5と同様に測定した。任意に選択した底面の一つの直径を基準として、黒鉛結晶面(ab面)の傾きを100個の位置で観察した。結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
上記のとおり、本発明により得られた金属−黒鉛複合材料では、黒鉛は延長方向に垂直な面上においては、配向性を示さない(無配向)結果となった。
【0038】
(実施例7:金属−黒鉛複合材料の物性)
実施例1〜4により作成された金属−黒鉛複合材料の諸特性を表3に示す。長手方向熱伝導率とは、作成時の延伸方向に対し平行な方向の熱伝導率を測定したものであり、横手方向熱伝導率とは作成時の延伸方向に対して垂直方向の熱伝導率を測定したものである。
【0039】
【表3】

【0040】
いずれの場合においても、黒鉛の配向が見られた長手方向熱伝導率が向上した。
【符号の説明】
【0041】
1 金属パイプ由来の金属
2 複合粉原料
3 金属棒由来の金属
4 複合粉原料
5 黒鉛粉末
6 金属粉末
7 金属パイプ
8 封止された金属パイプ
9 ダイス
10 金属パイプ由来の金属
11 複合粉原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属パイプまたは少なくとも一方が開いた孔を1つ以上有する金属棒に、黒鉛粉末と金属粉末を含む複合粉原料を充填し開口部を封じた後、延伸ダイスを用いて引抜を1回以上行ない、断面積を減少させることを特徴とする金属−黒鉛複合材料の製造方法。
【請求項2】
断面積の減少を30%以上とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
延伸時の余熱温度が金属の融点の50%〜95%の温度(絶対温度)であることを特徴とする金属−黒鉛複合材料の製造方法。
【請求項4】
金属パイプまたは少なくとも一方が開いた孔を1つ以上有する金属棒がアルミニウムあるいは銅である請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
黒鉛粉末が鱗状であり、面方向長さ/厚さが10以上であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
使用する金属粉末が鱗状であり、面方向長さ/厚さが10以上であり、その面方向長さが黒鉛粉末の面方向長さの1/100〜1/5であることを特徴とする請求項1あるいは請求項5に記載の製造方法
【請求項7】
外面が金属で覆われ、内部が、黒鉛粉末と金属粉末からなり相対密度が80%以上でしかも、前記黒鉛粉末において、第1の方向の方向ベクトルに対し、前記黒鉛粉末のab面の傾きが10°以下のものが50%以上であり、かつ20°以上のものが10%以上であり、前記第1の方向の方向ベクトルと垂直な面上における黒鉛粉末のab面の傾きは無配向である金属−黒鉛複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−275605(P2010−275605A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130694(P2009−130694)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【Fターム(参考)】