説明

金属ボール、金属ボールの作製方法、めっき構造物および半田付け方法

【課題】 半田付けしたときの強度を保持し、かつ、半田付けするときの融点を低温化できる金属ボールを提供する。
【解決手段】 金属ボール10は、コアボール1と、反応抑制層2と、めっき層3とを備える。コアボール1は、直径が50μm〜1000μmの範囲である銅(Cu)からなる。反応抑制層2は、ニッケル(Ni)からなり、0.1〜5μmの範囲の膜厚を有する。めっき層3は、錫インジウム(Sn−In合金)からなり、0.1μm〜100μmの範囲の膜厚を有する。そして、めっき層3は、錫(Sn)が最内周から最外周へ向かって減少し、インジウム(In)が最内周から最外周へ向かって増加するように電気めっきにより作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子部品の実装に用いられる金属ボール、金属ボールの作製方法、めっき構造物および半田付け方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品の表面実装においては、BGA(Ball Grid Array)およびCSP(Chip Scale Package)等の実装方法が用いられている。そして、これらの実装方法は、半田、銅 アルミニウム、および外層が半田で覆われた銅コアおよび樹脂コア等の金属ボールを接続端子として用いる方法である。
【0003】
従来、半導体パッケージにおける半導体素子の内部接続電極に用いる複合マイクロボールが知られている(特許文献1)。この複合マイクロボールは、コアボールと、コアボールを覆う下地層と、下地層上に形成された半田被覆層とからなる。
【0004】
コアボールは、直径が30μm〜120μmの範囲である銅からなり、下地層は、コバルトおよびニッケルから選択された少なくとも一種からなり、半田被覆層は、膜厚が20μm以上である電気半田めっき層からなる。そして、電気半田めっき層の材料は、鉛-錫であり、複合マイクロボールの外径は、50μm〜200μmの範囲である。
【特許文献1】特許第3314269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、半田に関しては、鉛フリー化が要求されているため、Sn−Ag−Cu合金、Sn−Ag合金およびSn−Cu合金等の従来のSn−Pb合金系よりも融点の高い合金、またはSn−Bi合金、Sn−Zn合金、Sn−In合金、Sn−Zn−Bi合金およびSn−Ag−Bi−In合金等の従来のSn−Pb合金系よりも融点の低い合金が用いられている。
【0006】
そして、半田めっきの分野においても、同じ鉛フリー化が要求されており、Sn、Sn−Ag合金、Sn−Cu合金、Sn−Bi合金、Sn−Zn合金およびSn−In合金等のめっきが使用されており、BGAおよびCSP等の実装技術において用いられる金属ボールとして表面をSn−Ag合金からなるめっき層で覆った銅コアボールが主流になりつつある。
【0007】
しかし、Sn−Ag合金からなるめっき層を用いた場合、銅コアボールを半田付けするときの融点が高くなるという問題がある。
【0008】
一方、Sn−Bi合金は低融点であるため、銅コアボールをSn−Bi合金からなるめっき層で覆うことにより、銅コアボールを半田付けするときの融点を低温化できる。
【0009】
しかし、Biの組成比が大きくなると、Sn−Bi合金が脆くなり、半田付けした銅コアボールが接合材料として不適切になるという問題がある。
【0010】
この問題は、銅基板に金属ボールを半田付けする場合にも生じる。
【0011】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、半田付けしたときの強度を保持し、かつ、半田付けするときの融点を低温化できる金属ボールを提供することである。
【0012】
また、この発明の別の目的は、半田付けしたときの強度を保持し、かつ、半田付けするときの融点を低温化できる金属ボールの作製方法を提供することである。
【0013】
さらに、この発明の別の目的は、半田付けしたときの強度を保持し、かつ、半田付けするときの融点を低温化できるめっき構造物を提供することである。
【0014】
さらに、この発明の別の目的は、半田付けしたときの強度を保持し、かつ、半田付けするときの融点を低温化できるめっき構造物を用いた半田付け方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明による金属ボールは、電子部品の実装に用いられる金属ボールであって、コアボールと、めっき層とを備える。コアボールは、金属からなる。めっき層は、半田付け用の合金を構成する第1および第2の金属元素からなり、コアボールを覆う。第2の金属元素の組成比は、めっき層の最内周から最外周へ向かって第1の組成比から第2の組成比へ増加する。第1の組成比は、当該金属ボールが半田付けされたときのめっき層の強度を基準強度以上に設定する組成比である。第2の組成比は、めっき層の融点を基準融点よりも低い温度に設定する組成比である。第2の金属元素は、鉛フリーのめっき合金を構成し、かつ、Bi以外の元素である。
【0016】
好ましくは、金属ボールは、反応抑制層をさらに備える。反応抑制層は、コアボールとめっき層との間に挿入される。
【0017】
好ましくは、反応抑制層は、Ni、Ni−P合金、Ni−B合金、CoおよびPtのいずれかからなる。
【0018】
好ましくは、第1の金属元素は、Snであり、第2の金属元素は、Inである。
【0019】
好ましくは、第1の組成比は、18〜20%の範囲であり、第2の組成比は、34〜38%の範囲である。
【0020】
好ましくは、コアボールは、Cuからなる。
【0021】
また、この発明によれば、めっき構造物は、基体と、めっき層とを備える。めっき層は、半田付け用の合金を構成する第1および第2の金属元素からなり、基体の一主面上に形成される。第2の金属元素の組成比は、めっき層と基体との界面からめっき層の表面へ向かって第1の組成比から第2の組成比へ増加する。第1の組成比は、他の物質がめっき層を介して基体に半田付けされたときのめっき層の強度を基準強度以上に設定する組成比である。第2の組成比は、めっき層の融点を基準融点よりも低い温度に設定する組成比である。
【0022】
好ましくは、めっき構造物は、反応抑制層をさらに備える。反応抑制層は、基体とめっき層との間に挿入される。
【0023】
好ましくは、反応抑制層は、Ni、Ni−P合金、Ni−B合金、CoおよびPtのいずれかからなる。
【0024】
好ましくは、第1の金属元素は、Snであり、第2の金属元素は、BiまたはInである。
【0025】
好ましくは、第1の組成比は、2〜21%の範囲であり、第2の組成比は、30〜55%の範囲である。
【0026】
好ましくは、基体は、Cu基板からなる。
【0027】
さらに、この発明によれば、金属ボールの作製方法は、電子部品の実装に用いられる金属ボールの作製方法である。金属ボールは、コアボールと、めっき層とを備える。コアボールは、金属からなる。めっき層は、半田付け用の合金を構成する第1および第2の金属元素からなり、コアボールを覆う。第2の金属元素の組成比は、めっき層の最内周から最外周へ向かって第1の組成比から第2の組成比へ増加する。第1の組成比は、当該金属ボールが半田付けされたときのめっき層の強度を基準強度以上に設定する組成比である。第2の組成比は、めっき層の融点を基準融点よりも低い温度に設定する組成比である。第2の金属元素は、鉛フリーのめっき合金を構成し、かつ、Bi以外の元素である。
【0028】
そして、金属ボールの作製方法は、コアボールを第1および第2の金属元素を含むめっき浴に浸漬する第1の工程と、第2の金属元素の組成比がめっき層の最内周から最外周へ向かって第1の組成比から第2の組成比へ増加するようにめっき層を形成する第2の工程とを備える。
【0029】
好ましくは、第2の工程は、電気めっきによりめっき層を形成する。
【0030】
好ましくは、第2の工程は、第1の金属元素を含む第1の化合物のめっき浴への滴下量を減少させ、第2の金属元素を含む第2の化合物のめっき浴への滴下量を増加または減少させながら、所定の時間、電気めっきを行なうことによりめっき層を形成する。
【0031】
好ましくは、電気めっきにおける電流密度は、所定の時間、一定である。
【0032】
好ましくは、第1の金属元素は、Snであり、第2の金属元素は、Inである。
【0033】
好ましくは、第1の組成比は、18〜20%の範囲であり、第2の組成比は、34〜38%の範囲である。
【0034】
好ましくは、金属ボールの作製方法は、第1の工程の前、コアボールを覆うように反応抑制層を形成する第3の工程をさらに備える。
【0035】
好ましくは、第3の工程は、Ni、NiP合金、NiB合金、CoおよびPtのいずれかからなる反応抑制層を形成する。
【0036】
さらに、この発明によれば、半田付け方法は、基体の一主面に形成されためっき層を溶融して他の物質を基体に半田付けする半田付け方法である。めっき層は、半田付け用の合金を構成する第1および第2の金属元素からなる。第2の金属元素の組成比は、めっき層と基体との界面からめっき層の表面へ向かって第1の組成比から第2の組成比へ増加する。第1の組成比は、他の物質がめっき層を溶融して基体に半田付けされたときのめっき層の強度を基準強度以上に設定する組成比である。第2の組成比は、めっき層の融点を基準融点よりも低い温度に設定する組成比である。
【0037】
そして、半田付け方法は、基体を第1および第2の金属元素を含むめっき浴に浸漬する第1の工程と、第2の金属元素の組成比が界面から表面へ向かって第1の組成比から第2の組成比へ増加するようにめっき層を基体に形成する第2の工程と、めっき層を溶融して他の物質を前記基体に半田付けする第3の工程とを備える。
【0038】
好ましくは、第2の工程は、電気めっきによりめっき層を形成する。
【0039】
好ましくは、第2の工程は、第1の金属元素を含む第1の化合物のめっき浴への滴下量を減少させ、第2の金属元素を含む第2の化合物のめっき浴への滴下量を増加させながら、所定の時間、電気めっきを行なうことによりめっき層を形成する。
【0040】
好ましくは、第1の金属元素は、Snであり、第2の金属元素は、Biである。
【0041】
好ましくは、第1の組成比は、2〜21%の範囲であり、第2の組成比は、30〜55%の範囲である。
【発明の効果】
【0042】
この発明においては、第1および第2の金属元素からなる半田付け用の合金によりめっき層を構成し、めっき層中における第2の金属元素の組成比を最内周から最外周へ向かってめっき層の強度を基準強度以上に設定する組成比から半田付けするときの融点を基準融点よりも低くする組成比へ変化させて電気めっきによりめっき層を形成する。そうすると、金属ボールを半田付けするとき、めっき層が基準融点よりも低い融点でリフローし、金属ボールは、低温で半田付けされるとともに、半田付け後の強度が基準強度以上に保持される。
【0043】
したがって、この発明によれば、金属ボールを半田付けしたときの強度を保持し、かつ、半田付けするときの融点を低温化できる。
【0044】
また、この発明においては、第1および第2の金属元素からなる半田付け用の合金によりめっき層を構成し、めっき層中における第2の金属元素の組成比を最内周から最外周へ向かってめっき層の強度を基準強度以上に設定する組成比から半田付けするときの融点を基準融点よりも低くする組成比へ変化させて電気めっきによりめっき層を形成する。そうすると、他の物質を基体に半田付けするとき、めっき層が基準融点よりも低い融点でリフローし、他の物質は、低温で半田付けされるとともに、半田付け後の強度が基準強度以上に保持される。
【0045】
したがって、この発明によれば、他の物質を基体に半田付けしたときの強度を保持し、かつ、半田付けするときの融点を低温化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0047】
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1による金属ボールの構成を示す断面図である。図1を参照して、この発明の実施の形態1による金属ボール10は、コアボール1と、反応抑制層2と、めっき層3とを備える。
【0048】
コアボール1は、銅(Cu)からなり、直径が50μm〜1000μmの範囲である。そして、コアボール1の融点は、600〜1600℃の範囲である。
【0049】
反応抑制層2は、Ni、NiP合金、NiB合金、CoおよびPtのいずれかからなり、コアボール1とめっき層3との間に形成される。そして、反応抑制層2の膜厚は、0.1μm〜5μmの範囲である。反応抑制層2は、コアボール1を構成する銅とめっき層3を構成する錫(Sn)およびインジウム(In)との反応を抑制する。
【0050】
めっき層3は、電気めっきにより形成され、コアボール1および反応抑制層2を覆う。そして、めっき層3は、Sn−In合金からなり、膜厚が0.1μm〜100μmの範囲である。めっき層3において、Inの組成比は、めっき層3の最内周から最外周へ向けて第1の組成比から第2の組成比まで増加する。
【0051】
ここで、第1の組成比は、金属ボール10が半田付けされたときのめっき層3の強度を基準強度以上に設定する組成比であり、第2の組成比は、めっき層3の融点を基準融点よりも低い温度に設定する組成比である。
【0052】
反応抑制層2およびめっき層3は、電気めっきにより形成される。図2は、図1に示す金属ボール10を作製するバレルめっき装置の概略図である。図2を参照して、バレルめっき装置100は、めっき槽20と、枠板30と、バレルドラム40と、歯車50,60と、モータ70と、陰極80と、陽極90と、ノズル110,120と、直流電源130とを備える。
【0053】
めっき槽20には、めっき浴140が入れられる。枠板30は、バレルドラム40を略水平状態で回転可能に保持する。バレルドラム40は、6個の側板41と、6個の網材42とからなる。6個の側板41は、六角柱形状に組まれる。そして、6個の網材42は、それぞれ、6個の側板41に張着される。したがって、バレルドラム40は、六角柱形状からなり、内部に被めっき物品(=コアボール1)を収納する。
【0054】
歯車50は、枠板30を介してバレルドラム40に連結される。歯車60は、歯車50と噛合うように枠板30に取り付けられる。モータ70は、シャフト71を介して歯車60に連結される。
【0055】
そして、枠板30、バレルドラム40および歯車50,60は、枠板30およびバレルドラム40の一部がめっき浴140に浸漬されるようにめっき槽20内に収納される。
【0056】
モータ70は、シャフト71および歯車60,50を介してバレルドラム40を矢印21の方向に一定の回転速度で回転させる。陰極80は、その先端部がバレルドラム40の内部においてめっき浴140に浸漬されるように枠板30に取り付けられる。陽極90は、その先端部がめっき浴140に浸漬される。
【0057】
ノズル110,120は、その先端部がめっき浴140上に位置するように支持部材(図示せず)によって支持される。直流電源130は、陰極80と陽極90との間に接続され、陰極80および陽極90を介してめっき浴140に一定の電流密度の電流を流す。
【0058】
上述したように、バレルドラム40は、網材42が張着された側板41を略六角柱形状に組付けた構造からなり、一部がめっき浴140に浸漬される。そして、めっき浴140に浸漬された側板41に被めっき物品が溜まる。また、陰極80の先端は、めっき浴140に浸漬された側板41に近接して配置される。
【0059】
したがって、めっき浴140は、浸漬された網材42を介してバレルドラム40の内部に入り、一定の電流密度の電流が陰極80と陽極90との間に流れることにより、電気めっきされ、被めっき物品の表面に析出する。
【0060】
また、バレルドラム40は、モータ70によって一定の回転速度で矢印21の方向へ回転されるので、めっき浴140に浸漬される側板41が順次変えられ、バレルドラム40内の被めっき物品は、回転されながらめっきされる。これにより、球形状からなるコアボール1の表面に反応抑制層2およびめっき層3を均一に形成できる。
【0061】
めっき浴140は、硫酸、硫酸錫、硫酸インジウム、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルおよびピロカテコールからなる。ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルおよびピロカテコールは、めっき層3の光沢剤として用いられる。
【0062】
めっき浴140は、硫酸錫および硫酸インジウムを含み、硫酸錫および硫酸インジウムから反応抑制層2が形成されたコアボール1に錫およびインジウムからなる半田合金(Sn−In合金)をめっきする。
【0063】
ノズル110は、硫酸錫を含む溶液をめっき浴140に導入するノズルであり、ノズル120は、硫酸インジウムを含む溶液をめっき浴140へ導入するノズルである。
【0064】
この発明においては、電気めっきによりめっき層3を形成するとき、硫酸錫を含む溶液の滴下量を徐々に減少させ、かつ、硫酸インジウムを含む溶液の滴下量を徐々に増加または減少させながら電気めっきによりめっき層3を形成する。つまり、この発明においては、めっき層3を構成するSn−In合金におけるInの組成比がめっき層3の最内周から最外周に向かって第1の組成比から第2の組成比まで増加するように電気めっきによりめっき層3を形成する。
【0065】
図3は、Sn−In合金におけるInの組成比の変化を示す図である。図3において、横軸は、めっき層3の膜厚方向を表し、縦軸は、Inの組成比を表す。図3を参照して、直線k1は、Inの組成比を、めっき層3の最内周における第1の組成比からめっき層3の最外周における第2の組成比まで一定の増加率で増加させる場合を示す。
【0066】
また、曲線k2は、めっき層3の最内周と最外周との間でInの組成比の増加率を変化させながら、Inの組成比を第1の組成比から第2の組成比まで増加させる場合を示す。
【0067】
さらに、曲線k3は、めっき層3の最内周と最外周との間でInの組成比の増加率を2つの増加率に変化させながら、Inの組成比を第1の組成比から第2の組成比まで増加させる場合を示す。
【0068】
この発明においては、Inの組成比は、直線k1および曲線k2,k3のいずれかに従って変化される。なお、Inの組成比を直線k1および曲線k2,k3のいずれかに従って変化させる場合、曲線k4に示すように、階段状にInの組成比を増加させてもよい。
【0069】
図3に示す直線k1および曲線k2,k3のいずれかに従ってInの組成比が変化するめっき層3を形成するために、硫酸錫を含む溶液の滴下量を徐々に減少させ、かつ、硫酸インジウムを含む溶液の滴下量を徐々に増加させながら、電気めっきによりめっき層3を形成する。
【0070】
図4は、図1に示す金属ボール10の作製方法を示すフローチャートである。金属ボール10を作製する動作が開始されると、銅からなるコアボール1がニッケルめっき用のめっき浴に浸漬される(ステップS1)。すなわち、図2に示すバレルめっき装置100において、所定量の硫酸ニッケル、所定量の塩素ニッケルおよび所定量のホウ酸とからなるめっき浴140にコアボール1が浸漬される。
【0071】
その後、モータ70は、シャフト71および歯車60,50を介してバレルドラム40を矢印21の方向に一定の回転速度で回転させ、直流電源130は、陰極80と陽極90との間に一定の電流密度の電流を流す。そうすると、コアボール1は、その表面がニッケルによってめっきされ、コアボール1を覆うように反応抑制層2が形成される(ステップS2)。
【0072】
そして、反応抑制層2が形成されたコアボール1を錫−インジウムめっき用のめっき浴140に浸漬させる(ステップS3)。すなわち、図2に示すバレルめっき装置100において、所定量の硫酸、所定量の硫酸錫、所定量の硫酸インジウム、所定量のポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルおよび所定量のピロカテコールからなるめっき浴140に、反応抑制層2が形成されたコアボール1が浸漬される。
【0073】
その後、モータ70は、シャフト71および歯車60,50を介してバレルドラム40を矢印21の方向に一定の回転速度で回転させ、直流電源130は、陰極80と陽極90との間に一定の電流密度の電流を流す。また、ノズル110を介してめっき浴140に供給する硫酸錫を含む溶液の量を徐々に減少させ、ノズル120を介してめっき浴140に供給される硫酸インジウムを含む溶液の量を徐々に増加させる。
【0074】
そうすると、Inの組成比が最内周から最外周に向かって第1の組成比から第2の組成比まで増加するめっき層3が反応抑制層2の表面に形成される(ステップS4)。すなわち、Inの組成比が図3に示す直線k1および曲線k2,k3のいずれかに従って増加するめっき層3が反応抑制層2の表面に形成される。これにより、金属ボール10の作製が終了する。
【0075】
このように、金属ボール10は、バレルめっき装置100を用い、電気めっき中にめっき浴140に供給する硫酸錫および硫酸インジウムの量を制御して、Inの組成比が最内周から最外周へ向かって増加するめっき層3(=Sn−In合金)をコアボール1の表面に形成することによって作製される。
【0076】
図5は、Sn−In合金中におけるIn濃度とSn−In合金の状態との関係を示す図である。図5において、横軸は、In濃度を表し、縦軸は、温度を表す。図5を参照して、曲線k5は、各In濃度におけるSn−In合金の固相と液相との境界を示す。たとえば、In濃度が約40[mass%]である場合、Sn−In合金は、約150℃の温度において液相となる。
【0077】
In濃度が0[mass%]であるSnが液相になる温度(=融点)は、約230℃であり、Sn−In合金の融点は、Snに添加するIn濃度が増加するに従って低下し、In濃度が約55[mass%]のときに最も低くなる。そして、Sn−In合金の融点は、In濃度が55[mass%]以上である領域においては、In濃度の増加に伴って高くなる。
【0078】
一方、In濃度が50[mass%]以上に増加すると、Sn−In合金が脆くなる。そこで、この発明においては、強度が基準強度以上であり、融点が基準融点(=例えば、200℃)よりも低いSn−In合金を形成するために、めっき層3の最内周においてIn濃度を18〜20[mass%]の範囲に設定し、めっき層3の最外周においてIn濃度を34〜38[mass%]の範囲に設定し、さらに、最内周から最外周へ向かってIn濃度を増加させながら電気めっきによりめっき層3を形成する。
【0079】
すなわち、めっき層3の最内周部を融点が200℃以上であるSn−In合金により形成し、めっき層3の最外周部を融点が200℃よりも低いSn−In合金により形成する。つまり、めっき層3は、最内周部で強度を保持し、かつ、最外周部で融点を低下させる組成のSn−In合金により形成される。
【0080】
図6は、図2に示すバレルめっき装置100を用いてIn濃度を最内周から最外周へ向かって増加させながら電気めっきした金属ボール10の電子顕微鏡写真である。図6において、曲線k6は、めっき層3の深さ方向におけるIn量の変化を表し、曲線k7は、めっき層3の深さ方向におけるSn量の変化を示す。なお、めっき層3の深さ方向におけるIn量およびSn量は、EDX(Energy Dispersive X−ray Spectrometry)の線分析によって測定された。
【0081】
図6を参照して、めっき層3において、In量は、最内周から最外周へ向かって増加しており、Sn量は、最内周から最外周へ向かって減少しており、In組成比が最内周から最外周へ向かって増加するめっき層3を有する金属ボール10が作製されていることが確認された。
【0082】
次に、強度を基準強度以上に保持し、かつ、融点を基準融点よりも低くするSn−In合金の実験結果について説明する。この発明による金属ボール10として2種類の金属ボール(実施例1,2)を作製し、比較例として2種類の金属ボール(比較例1,2)を作製した。
【0083】
表1は、この発明による金属ボール10としての金属ボール10A(実施例1)および金属ボール10B(実施例2)と、比較例としての金属ボール20A(比較例1)および金属ボール20B(比較例2)とを電気めっきにより作製するときのめっき浴140を示す。
【0084】
【表1】

【0085】
金属ボール10A(実施例1)を電気めっきにより作製する場合、めっき浴140は、80g/Lの硫酸と、5g/Lのポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルと、0.1g/Lのピロカテコールと、濃度が所定範囲A1で変化する硫酸Snと、濃度が所定範囲B1で変化する硫酸Inとからなる。
【0086】
そして、所定範囲A1は、電気めっきの開始時における11g/Lから電気めっきの終了時における3g/Lまでの範囲であり、所定範囲B1は、電気めっきの開始時における25g/Lから電気めっきの終了時における22g/Lまでの範囲である。
【0087】
また、金属ボール10B(実施例2)を電気めっきにより作製する場合、めっき浴140は、80g/Lの硫酸と、5g/Lのポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルと、0.1g/Lのピロカテコールと、濃度が所定範囲A2で変化する硫酸Snと、濃度が所定範囲B2で変化する硫酸Inとからなる。
【0088】
そして、所定範囲A2は、電気めっきの開始時における9g/Lから電気めっきの終了時における4g/Lまでの範囲であり、所定範囲B2は、電気めっきの開始時における24g/Lから電気めっきの終了時における27g/Lまでの範囲である。
【0089】
金属ボール10A(実施例1)、および金属ボール10B(実施例2)を電気めっきにより作製する場合、直径が400μmであるコアボール(=Cuボール)を図2に示すバレルドラム40の中に所定数入れ、モータ70によりバレルドラム40を所定の回転数で回転させ、直流電源130により0.2A/dmの電流密度からなる電流を陰極80および陽極90を介してめっき浴140に流し、ノズル110を介してめっき浴140に注入される硫酸Snおよびノズル120を介してめっき浴140に注入される硫酸Inの濃度を表1に示す範囲で変化させながら電気めっきを行なう。この場合、電気めっきの時間は、たとえば、4時間である。
【0090】
このように、金属ボール10A(実施例1)、および金属ボール10B(実施例2)は、硫酸Snの濃度を徐々に減少し、硫酸Inの濃度を徐々に減少または増加させながら電気めっきを行なうことにより作製される。そして、硫酸Snおよび硫酸Inの濃度は、上述しためっき時間において直線的に変化された。この場合、硫酸Snおよび硫酸Inの濃度を相対的に多く変化させて金属ボール10A(実施例1)を作製し、硫酸Snおよび硫酸Inの濃度を相対的に少なく変化させて金属ボール10B(実施例2)を作製する。
【0091】
なお、金属ボール10A(実施例1)は、反応抑制層2を有さず、金属ボール10B(実施例2)は、ニッケルからなる反応抑制層2を有する。
【0092】
また、金属ボール20A(比較例1)を電気めっきにより作製する場合、めっき浴140は、80g/Lの硫酸と、5g/Lのポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルと、0.1g/Lのピロカテコールと、12g/Lの硫酸Snと、23g/Lの硫酸Inとからなる。そして、硫酸Snおよび硫酸Inは、めっき浴140中における濃度がそれぞれ12g/Lおよび23g/Lになるようにノズル110,120を介して補充される。
【0093】
さらに、金属ボール20B(比較例2)を電気めっきにより作製する場合、めっき浴140は、80g/Lの硫酸と、5g/Lのポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルと、0.1g/Lのピロカテコールと、5g/Lの硫酸Snと、25g/Lの硫酸Inとからなる。そして、硫酸Snおよび硫酸Inは、めっき浴140中における濃度がそれぞれ5g/Lおよび25g/Lになるようにノズル110,120を介して補充される。
【0094】
金属ボール20A(比較例1)および金属ボール20B(比較例2)を作製する場合、直径が400μmであるコアボール(=Cuボール)を図2に示すバレルドラム40の中に所定数入れ、モータ70によりバレルドラム40を所定の回転数で回転させ、直流電源130により0.2A/dmの電流密度からなる電流を陰極80および陽極90を介してめっき浴140に流し、ノズル110を介してめっき浴140に注入される硫酸Snの濃度およびノズル120を介してめっき浴140に注入される硫酸Inの濃度を一定に保持しながら電気めっきを行なう。この場合、電気めっきの時間は、たとえば、4時間である。
【0095】
このように、金属ボール20A(比較例1)および金属ボール20B(比較例2)は、めっき浴140中の硫酸Snおよび硫酸Inの濃度を一定に保持しながら作製される。
【0096】
この場合、硫酸Inの濃度(=[硫酸In]/([硫酸Sn]+[硫酸In])、以下同じ)を相対的に高くして金属ボール20B(比較例2)を作製し、硫酸Inの濃度を相対的に低くして金属ボール20A(比較例1)を作製する。
【0097】
なお、金属ボール20A,20Bは、反応抑制層2を有しない。
【0098】
表2は、表1に示すめっき浴140を用いて作製した金属ボール10A,10Bと、金属ボール20A,20BとにおけるIn濃度、融点および膜厚を示す。
【0099】
【表2】

【0100】
なお、In濃度は、めっき層における濃度であり、[In]/([Sn]+[In])により計算された。また、融点温度は、金属ボール10A,10B,20A,20Bを半田付けするときの融点である。
【0101】
金属ボール20A(比較例1)および金属ボール20B(比較例2)は、それぞれ、14.5%および35.7%のIn濃度を有し、210℃および157℃の融点を有する。また、金属ボール20A(比較例1)および金属ボール20B(比較例2)は、それぞれ、10.7μmおよび9.2μmの膜厚からなるめっき層を有する。
【0102】
したがって、In濃度が一定であるめっき層を有する金属ボール20A(比較例1)および金属ボール20B(比較例2)において、めっき層中のIn濃度が増加すると、金属ボール20A,20Bを半田付けするときの融点が低下する。そして、めっき層中のIn濃度が35.7%である金属ボール20Bにおいては、半田付けするときの融点が200℃よりも低くなる。
【0103】
一方、金属ボール10A(実施例1)は、最内周および最外周においてそれぞれ18.7%および38.0%のIn濃度を有し、25.8%のInの平均濃度を有する。また、金属ボール10A(実施例1)は、150℃の融点を有する。そして、金属ボール10A(実施例1)において、めっき層3(Sn−In合金)の膜厚は、11.0μmである。
【0104】
また、金属ボール10B(実施例2)は、最内周および最外周においてそれぞれ19.8%および34.0%のIn濃度を有し、23.9%のInの平均濃度を有する。また、金属ボール10B(実施例2)は、150℃の融点を有する。そして、金属ボール10B(実施例2)において、めっき層3(Sn−In合金)の膜厚は、9.7μmであり、反応抑制層2(=Ni)の膜厚は、2.0μmである。
【0105】
このように、この発明による金属ボール10A(実施例1)および金属ボール10B(実施例2)は、比較例である金属ボール20A(比較例1)および金属ボール20B(比較例2)とほぼ同じ膜厚のめっき層(=Sn−In合金)を有し、金属ボール20A,20Bよりも低い融点を有する。
【0106】
したがって、めっき層3中のIn濃度を最内周および最外周においてそれぞれ18.0%〜20.0%の範囲および34.0%〜38.0%の範囲に設定することによって金属ボール10A,10Bの融点を150℃まで大幅に低温化できる。
【0107】
また、金属ボール10A(実施例1)、金属ボール10B(実施例2)、金属ボール20A(比較例1)および金属ボール20B(比較例2)についてプル強度を測定するとともに、半田付けした金属ボール10A,10B,20A,20Bの基板からの剥離モードを解析した。なお、プル強度は、Dage社製のボンドテスター シリーズ4000を用いて行なわれた。
【0108】
図7は、プル強度を測定する方法を説明するための概念図である。図7を参照して、ツィーザ11は、金属ボール10を両側から挟む。プル強度を測定する場合、基板13上に半田付けした金属ボール10をツィーザ11によって挟み、ツィーザ11を矢印12の方向へ移動させる。この場合、ツィーザ11を矢印12の方向へ引っ張る力を金属ボール10が基板13から剥離するまで徐々に強くする。そして、金属ボール10が基板から剥離したときにツィーザ11を引っ張る力をプル強度として検出する。
【0109】
図8は、金属ボール10が基板から剥離する剥離モードの概念図である。図8を参照して、半田付けした金属ボール10が基板13から剥離する場合、金属ボール10、ランド14および半田15が一体的に基板13から剥離するモード(図8の(a)参照)、金属ボール10および半田15が一体的にランド14から剥離するモード(図8の(b)参照)、および半田15がちぎれて半田15A,15Bが形成され、金属ボール10が基板13から剥離するモード(図8の(c)参照)が存在する。
【0110】
そして、図8の(a),(b)に示す剥離モードは、“界面剥離”であり、図8の(c)に示す剥離モードは、“半田ちぎれ”である。
【0111】
図9は、界面剥離および半田ちぎれを示す写真である。図9の(a)は、半田ちぎれを示し、図9の(b)は、界面剥離を示す。剥離モードが半田ちぎれである場合、半田付けによって金属ボールのめっき層が脆くなり、金属ボールの直径が小さくなっている。(図9の(a)参照)。
【0112】
一方、剥離モードが界面剥離である場合、半田付けによって金属ボールのめっき層の強度が保持されており、金属ボールの直径が小さくならない(図9の(b)参照)。
【0113】
半田付けした金属ボール10A,10B,20A,20Bのプル強度を図7に示す方法によって測定するとともに、半田付けした金属ボール10A,10B,20A,20Bの剥離モードを解析した。
【0114】
図10は、プル強度の測定結果を示す図である。図10において、横軸は、金属ボールの種類を表し、縦軸は、プル強度を表す。なお、図10に示すプル強度は、220℃のリフロー温度で半田付けした金属ボール10A,10B,20A,20Bについて測定された。また、プル強度の測定に用いられた金属ボール10A,10B,20A,20Bの個数は、20個である。
【0115】
金属ボール20A(比較例1)は、約90[gf]〜約220[gf](平均値:約135[gf])の範囲のプル強度を有し、金属ボール20B(比較例2)は、約400[gf]〜約1275[gf](平均値:約760[gf])の範囲のプル強度を有する。
【0116】
一方、金属ボール10A(実施例1)は、約540[gf]〜約1250[gf](平均値:約800[gf])の範囲のプル強度を有し、金属ボール10B(実施例2)は、約670[gf]〜約1200[gf](平均値:約900[gf])の範囲のプル強度を有する。
【0117】
図11は、剥離モードの解析結果を示す図である。図11において、横軸は、金属ボールの種類を表し、縦軸は、剥離モードの割合を示す。なお、図11に示す剥離モードは、220℃のリフロー温度で半田付けした金属ボール10A,10B,20A,20Bについて解析された。
【0118】
図11を参照して、金属ボール20A(比較例1)においては、全てが“界面剥離”のモードMD2である。
【0119】
また、金属ボール20B(比較例2)においては、剥離モードが“半田ちぎれ”のモードMD1である割合が25%であり、剥離モードが“界面剥離”のモードMD2である割合が75%である。
【0120】
一方、金属ボール10A(実施例1),10B(実施例2)の各々において、全てが“界面剥離”のモードMD2である。
【0121】
したがって、めっき層3中におけるIn組成比を最内周から最外周へ向かって増加させることによって、剥離モードが全て“界面剥離”である金属ボール10を作製することができる。
【0122】
また、表2、図10および図11に示す結果から、In濃度を最内周から最外周へ向かって増加させながら電気めっきによりめっき層3を形成することによって、プル強度が400[gf](=基準強度)以上であり、かつ、融点が200℃(=基準融点)よりも低く、さらに、剥離モードが“界面剥離”となる金属ボール10を作製できる。
【0123】
上記においては、めっき層3は、Sn−In合金から構成されると説明したが、この発明においては、これに限らず、めっき層3は、Sn−Zn合金またはSn−Cu合金から構成されてもよく、一般的には、鉛フリーのめっき合金を構成し、かつ、Bi以外の元素とSnとの合金から構成されていればよい。
【0124】
また、この発明においては、一般的には、めっき層3は、第1および第2の金属元素からなり、第2の金属元素の組成比は、めっき層3の最内周から最外周へ向かって強度を基準強度以上に保持する組成比から融点を基準融点よりも低くする組成比まで増加されていればよい。
【0125】
そして、第2の金属元素の組成比を最内周から最外周へ向かって増加させる方法は、図3に示す直線k1および曲線k2,k3以外の直線または曲線に従って増加させる方法であってもよい。
【0126】
さらに、上記においては、コアボール1は、銅からなると説明したが、この発明においては、これに限らず、コアボール1は、アルミニウム(Al)からなっていてもよい。
【0127】
さらに、上記においては、反応抑制層2は、電気めっきにより形成されると説明したが、この発明においては、これに限らず、反応抑制層2は、スパッタリング法により形成されてもよい。
【0128】
さらに、上記においては、金属ボール10は、反応抑制層2を備えると説明したが、この発明においては、これに限らず、金属ボール10は、反応抑制層2を備えていなくてもよい。
【0129】
実施の形態1によれば、金属ボール10は、In組成比が最内周から最外周へ向かって強度を基準強度以上に保持する組成比から融点を基準融点よりも低くする組成比まで増加するめっき層3を備えるので、金属ボール10を半田付けしたとき、強度を保持し、かつ、融点を低下させることができる。
【0130】
[実施の形態2]
図12は、この発明の実施の形態2によるめっき構造物の構成を示す断面図である。図12を参照して、この発明の実施の形態2によるめっき構造物200は、基板201と、配線202と、反応抑制層203と、めっき層204とを備える。
【0131】
基板201上に形成された配線202は、銅(Cu)からなり、厚さが100μm以下である。
【0132】
反応抑制層203は、Ni、NiP合金、NiB合金、CoおよびPtのいずれかからなり、配線202とめっき層204との間に形成される。この場合、反応抑制層203は、配線202の凹部2021を覆うように、配線202の表面の一部に形成される。そして、反応抑制層203の膜厚は、5μm以下である。反応抑制層203は、配線202を構成する銅とめっき層204を構成する錫(Sn)およびビスマス(Bi)との反応を抑制する。
【0133】
めっき層204は、電気めっきにより反応抑制層203上に形成される。そして、めっき層204は、Sn−Bi合金からなり、膜厚が5μm〜100μmの範囲である。めっき層204において、Biの組成比は、めっき層204と反応抑制層203との界面204Aから表面204Bへ向けて第1の組成比から第2の組成比まで増加する。
【0134】
ここで、第1の組成比は、めっき層204を溶融して金属ボール(図示せず)が配線202に半田付けされたときのめっき層204の強度を基準強度以上に設定する組成比であり、第2の組成比は、めっき層204の融点を基準融点よりも低い温度に設定する組成比である。
【0135】
反応抑制層203およびめっき層204は、電気めっきにより形成される。図13は、図12に示すめっき構造物200を作製するめっき装置の概略図である。図13を参照して、めっき装置300は、めっき槽310と、ノズル320,330と、陽極340と、陰極350と、直流電源360とを備える。
【0136】
めっき槽310には、めっき浴370が入れられる。ノズル320,330は、その先端部がめっき浴370上に位置するように支持部材(図示せず)によって支持される。陽極340は、めっき物である基板201からなり、全体がめっき浴370に浸漬される。陰極350は、その先端部がめっき浴370に浸漬される。
【0137】
直流電源360は、陽極340と陰極350との間に接続され、陽極340および陰極350を介してめっき浴370に一定の電流密度の電流を流す。めっき浴370は、反応抑制層203を作製するためのめっき浴370Aと、めっき層204を作製するためのめっき浴370Bとからなる。
【0138】
なお、反応抑制層203およびめっき層204は、配線202の一部(凹部2021を覆う領域)に形成されるが、このように、反応抑制層203およびめっき層204を配線202の一部に形成するには、基板201の表面にレジストをスピンコート等によって塗布し、凹部2021が露出するようにレジストをパターンニングする。
【0139】
そして、パターンニングされたレジストを有する基板201を陰極350としてめっき浴370A中に浸漬し、電気めっきにより反応抑制層203を形成し、その後、めっき浴370Bに浸漬して電気めっきによりめっき層204を形成する。その後、レジストを除去する。
【0140】
電気めっきにより反応抑制層203およびめっき層204を形成した場合、反応抑制層203およびめっき層204は、レジスト上にも形成されるが、電気めっき後にレジストを除去することにより、リフトオフによってレジスト上に形成された反応抑制層203およびめっき層204も除去される。
【0141】
このように、レジストのパターンニング技術を用いれば、電気めっきにより反応抑制層203およびめっき層204を配線202の一部に形成できる。
【0142】
めっき浴370Aは、硫酸ニッケル、塩化ニッケルおよびホウ酸からなる。めっき浴370Bは、硫酸、硫酸錫、硫酸ビスマス、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルおよびピロカテコールからなる。ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルおよびピロカテコールは、めっき層204の光沢剤として用いられる。
【0143】
めっき浴370Bは、硫酸錫および硫酸ビスマスを含み、硫酸錫および硫酸ビスマスを電気分解して反応抑制層203が形成された配線202に錫およびビスマスからなる半田合金(Sn−Bi合金)をめっきする。
【0144】
ノズル320は、硫酸錫を含む溶液をめっき浴370Bに導入するノズルであり、ノズル330は、硫酸ビスマスを含む溶液をめっき浴370Bへ導入するノズルである。
【0145】
この発明においては、電気めっきによりめっき層204を形成するとき、硫酸錫を含む溶液の滴下量を徐々に減少させ、かつ、硫酸ビスマスを含む溶液の滴下量を徐々に増加させながら電気めっきによりめっき層204を形成する。つまり、この発明においては、めっき層204を構成するSn−Bi合金におけるBiの組成比が界面204Aから表面204Bに向かって第1の組成比から第2の組成比まで増加するように電気めっきによりめっき層204を形成する。そして、Sn−Bi合金におけるBiの組成比を界面204Aから表面204Bに向かって第1の組成比から第2の組成比まで増加させる場合、Biの組成比は、図3に示す直線k1および曲線k2,k3のいずれかに従って増加される。そして、Biの組成比を直線k1および曲線k2,k3のいずれかに従って増加させる場合、曲線k4に示すように、階段状にBiの組成比を増加させてもよい。
【0146】
図3に示す直線k1および曲線k2,k3のいずれかに従ってBiの組成比が変化するめっき層204を形成するために、硫酸錫を含む溶液の滴下量を徐々に減少させ、かつ、硫酸ビスマスを含む溶液の滴下量を徐々に増加させながら、電気めっきによりめっき層204を形成する。
【0147】
図14は、図12に示すめっき構造物200の作製方法を示すフローチャートである。めっき構造物200を作製する動作が開始されると、基板201にレジストがスピンコート等によって塗布され(ステップS11)、その塗布されたレジストが所定のパターンにパターンニングされる(ステップS12)。これによって、基板201上に形成された配線202の凹部2021が露出する。
【0148】
その後、パターンニングされたレジストを有する基板201がニッケルめっき用のめっき浴に浸漬される(ステップS13)。すなわち、図13に示すめっき装置300において、所定量の硫酸ニッケル、所定量の塩素ニッケルおよび所定量のホウ酸とからなるめっき浴370Aに基板201が陰極350として浸漬される。
【0149】
その後、直流電源360は、陽極340と陰極350との間に一定の電流密度の電流を流す。そうすると、基板201は、その表面がニッケルによってめっきされ、凹部2021およびレジスト上に反応抑制層203が形成される(ステップS14)。
【0150】
そして、反応抑制層203が形成された基板201を錫−ビスマスめっき用のめっき浴370Bに浸漬させる(ステップS15)。すなわち、図13に示すめっき装置300において、所定量の硫酸、所定量の硫酸錫、所定量の硫酸ビスマス、所定量のポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルおよび所定量のピロカテコールからなるめっき浴370Bに、反応抑制層203が形成された基板201が陰極350として浸漬される。
【0151】
その後、直流電源360は、陽極340と陰極350との間に一定の電流密度の電流を流す。また、ノズル320を介してめっき浴370Bに供給する硫酸錫を含む溶液の量を徐々に減少させ、ノズル330を介してめっき浴370Bに供給される硫酸ビスマスを含む溶液の量を徐々に増加させる。
【0152】
そうすると、Biの組成比がめっき層204と反応抑制層203との界面204Aから表面204Bに向かって第1の組成比から第2の組成比まで増加するめっき層204が反応抑制層203の表面に形成される(ステップS16)。すなわち、Biの組成比が図3に示す直線k1および曲線k2,k3のいずれかに従って増加するめっき層204が反応抑制層203の表面に形成される。そして、レジストが除去される(ステップS17)。これにより、めっき構造物200の作製が終了する。
【0153】
このように、めっき構造物200は、めっき装置300を用い、電気めっき中にめっき浴370に供給する硫酸錫を含む溶液および硫酸ビスマスを含む溶液の量を制御して、Biの組成比が界面203Aから表面203Bへ向かって増加するめっき層204(=Sn−Bi合金)を基板201の表面に形成することによって作製される。
【0154】
図15は、Sn−Bi合金中におけるBi濃度とSn−Bi合金の状態との関係を示す図である。図15において、横軸は、Bi濃度を表し、縦軸は、温度を表す。図15を参照して、曲線k8は、各Bi濃度におけるSn−Bi合金の固相と液相との境界を示す。たとえば、Bi濃度が約60[mass%]である場合、Sn−Bi合金は、約150℃の温度において液相となる。
【0155】
Bi濃度が0[mass%]であるSnが液相になる温度(=融点)は、約230℃であり、Sn−Bi合金の融点は、Snに添加するBi濃度が増加するに従って低下し、Bi濃度が約60[mass%]のときに最も低くなる。そして、Sn−Bi合金の融点は、Bi濃度が60[mass%]以上である領域においては、Bi濃度の増加に伴って高くなる。
【0156】
一方、Bi濃度が増加すると、Sn−Bi合金が脆くなる。そこで、この発明においては、強度が基準強度以上であり、融点が基準融点(=例えば、200℃)よりも低いSn−Bi合金を形成するために、めっき層204と反応抑制層203との界面204AにおいてBi濃度を2〜21[mass%]の範囲に設定し、めっき層204の表面204BにおいてBi濃度を30〜55[mass%]の範囲に設定し、さらに、界面204Aから表面204Bへ向かってBi濃度を増加させながら電気めっきによりめっき層204を形成する。
【0157】
すなわち、めっき層204の最内部(=界面204A)を融点が200℃以上であるSn−Bi合金により形成し、めっき層204の最外部(=表面204B)を融点が200℃よりも低いSn−Bi合金により形成する。つまり、めっき層204は、最内部(=界面204A)で強度を保持し、かつ、最外部(=表面204B)で融点を低下させる組成のSn−Bi合金により形成される。
【0158】
次に、強度を基準強度以上に保持し、かつ、融点を基準融点よりも低くするSn−In合金の実験結果について説明する。この実験においては、めっき構造物200に金属ボールを半田付けしたときのプル強度が測定され、金属ボールの剥離モードが解析された。
【0159】
図16は、プル強度の測定および剥離モードの解析を行なう試料を説明するための図である。図16を参照して、金属ボール220は、コアボール221と、めっき層222,223とからなる。
【0160】
コアボール221は、銅からなる。めっき層222は、コアボール221を覆い、ニッケルめっきからなる。めっき層223は、めっき層222を覆い、金(Au)めっきからなる。
【0161】
めっき構造物200のめっき層204を溶融して金属ボール220を基板201に半田付けし、図7において説明したプル強度の測定方法を用いてプル強度が測定された。
【0162】
また、解析された剥離モードは、図8において説明したとおりである。
【0163】
実験においては、この発明によるめっき構造物200として2種類のめっき構造物(実施例3,4)を作製し、比較例として2種類のめっき構造物(比較例3,4)を作製した。
【0164】
表3は、この発明によるめっき構造物200としてのめっき構造物200A(実施例3)およびめっき構造物200B(実施例4)と、比較例としてのめっき構造物210A(比較例3)およびめっき構造物210B(比較例4)とを電気めっきにより作製するときのめっき浴370Bを示す。
【0165】
【表3】

【0166】
めっき構造物200A(実施例3)を電気めっきにより作製する場合、めっき浴370Bは、80g/Lの硫酸と、5g/Lのポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルと、0.1g/Lのピロカテコールと、濃度が所定範囲A3で変化する硫酸Snと、濃度が所定範囲B3で変化する硫酸Biとからなる。
【0167】
そして、所定範囲A3は、電気めっきの開始時における24g/Lから電気めっきの終了時における18g/Lまでの範囲であり、所定範囲B3は、電気めっきの開始時における0.5g/Lから電気めっきの終了時における6g/Lまでの範囲である。
【0168】
また、めっき構造物200B(実施例4)を電気めっきにより作製する場合、めっき浴370Bは、80g/Lの硫酸と、5g/Lのポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルと、0.1g/Lのピロカテコールと、濃度が所定範囲A4で変化する硫酸Snと、濃度が所定範囲B4で変化する硫酸Biとからなる。
【0169】
そして、所定範囲A4は、電気めっきの開始時における19g/Lから電気めっきの終了時における17g/Lまでの範囲であり、所定範囲B4は、電気めっきの開始時における3g/Lから電気めっきの終了時における10g/Lまでの範囲である。
【0170】
めっき構造物200A(実施例3)およびめっき構造物200B(実施例4)を電気めっきにより作製する場合、基板を図13に示すめっき装置300に入れ、直流電源360により0.2A/dmの電流密度からなる電流を陽極340および陰極350を介してめっき浴370Bに流し、ノズル320を介してめっき浴370Bに注入される硫酸Snおよびノズル330を介してめっき浴370Bに注入される硫酸Biの濃度を表3に示す範囲で変化させながら電気めっきを行なう。この場合、電気めっきの時間は、たとえば、4時間である。そして、このめっきを所定回数繰り返し、所定数のめっき構造物200A(実施例3)およびめっき構造物200B(実施例4)を作製する。
【0171】
このように、めっき構造物200A(実施例3)およびめっき構造物200B(実施例4)は、硫酸Snの濃度を徐々に減少し、硫酸Biの濃度を徐々に増加させながら電気めっきを行なうことにより作製される。そして、硫酸Snおよび硫酸Biの濃度は、上述しためっき時間において直線的に変化された。
【0172】
なお、めっき構造物200A(実施例3)およびめっき構造物200B(実施例4)は、反応抑制層203を備えていない。
【0173】
また、めっき構造物210A(比較例3)を電気めっきにより作製する場合、めっき浴370Bは、80g/Lの硫酸と、5g/Lのポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルと、0.1g/Lのピロカテコールと、20g/Lの硫酸Snと、3g/Lの硫酸Biとからなる。そして、硫酸Snおよび硫酸Biは、めっき浴370B中における濃度がそれぞれ20g/Lおよび3g/Lになるようにノズル320,330を介して補充される。
【0174】
さらに、めっき構造物210B(比較例4)を電気めっきにより作製する場合、めっき浴140は、80g/Lの硫酸と、5g/Lのポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルと、0.1g/Lのピロカテコールと、15g/Lの硫酸Snと、7g/Lの硫酸Biとからなる。そして、硫酸Snおよび硫酸Biは、めっき浴370B中における濃度がそれぞれ15g/Lおよび7g/Lになるようにノズル320,330を介して補充される。
【0175】
めっき構造物210A(比較例3)およびめっき構造物210B(比較例4)を作製する場合、基板を図13に示すめっき装置300に入れ、直流電源360により0.2A/dmの電流密度からなる電流を陽極340および陰極350を介してめっき浴370Bに流し、ノズル320を介してめっき浴370Bに注入される硫酸Snの濃度およびノズル330を介してめっき浴370Bに注入される硫酸Biの濃度を一定に保持しながら電気めっきを行なう。この場合、電気めっきの時間は、たとえば、4時間である。そして、このめっきを所定回数繰り返し、所定数のめっき構造物210A(比較例3)およびめっき構造物210B(比較例4)を作製する。
【0176】
このように、めっき構造物210A(比較例3)およびめっき構造物210B(比較例4)は、めっき浴370B中の硫酸Snおよび硫酸Biの濃度を一定に保持しながら作製される。
【0177】
なお、めっき構造物210A(比較例3)およびめっき構造物210B(比較例4)は、反応抑制層2を有しない。
【0178】
表4は、表3に示すめっき浴370Bを用いて作製しためっき構造物200A,200Bと、めっき構造物210A,210BとにおけるBi濃度、融点および膜厚を示す。
【0179】
【表4】

【0180】
なお、Bi濃度は、めっき層における濃度であり、[Bi]/([Sn]+[Bi])により計算された。また、融点温度は、めっき構造物200A,200B,210A,210Bを半田付けするときの融点である。
【0181】
めっき構造物210A(比較例3)およびめっき構造物210B(比較例4)は、それぞれ、20.1%および43.2%のBi濃度を有し、203℃および142℃の融点を有する。また、めっき構造物210A(比較例3)およびめっき構造物210B(比較例4)は、それぞれ、23.2μmおよび22.4μmの膜厚からなるめっき層を有する。
【0182】
したがって、Bi濃度が一定であるめっき層を有するめっき構造物210A(比較例3)およびめっき構造物210B(比較例4)において、めっき層中のBi濃度が増加すると、めっき構造物210A,210Bを半田付けするときの融点が低下する。そして、めっき層中のBi濃度が43.2%であるめっき構造物210Bにおいては、半田付けするときの融点が200℃よりも低くなる。
【0183】
一方、めっき構造物200A(実施例3)は、最内部(=界面204A)および最外部(=表面204B)においてそれぞれ2.0%および30.2%のBi濃度を有し、23.8%のBiの平均濃度を有する。また、めっき構造物200A(実施例3)は、150℃の融点を有する。そして、めっき構造物200A(実施例3)において、めっき層204(Sn−Bi合金)の膜厚は、23.5μmである。
【0184】
また、めっき構造物200B(実施例4)は、最内部(=界面204A)および最外部(=表面204B)においてそれぞれ20.5%および55.0%のBi濃度を有し、29.5%のBiの平均濃度を有する。また、めっき構造物200B(実施例4)は、140℃の融点を有する。そして、めっき構造物200B(実施例4)において、めっき層204(Sn−Bi合金)の膜厚は、25.3μmである。
【0185】
このように、この発明によるめっき構造物200A(実施例3)およびめっき構造物200B(実施例4)は、比較例であるめっき構造物210A(比較例3)およびめっき構造物210B(比較例4)とほぼ同じ膜厚のめっき層(=Sn−Bi合金)を有し、めっき構造物210A,210Bの融点と同等またはそれよりも低い融点を有する。
【0186】
したがって、めっき層204中のBi濃度を最内部および最外部においてそれぞれ2.0%〜21.0%の範囲および30.0%〜55.0%の範囲に設定することによってめっき構造物200A,200Bの融点を140℃まで大幅に低温化できる。
【0187】
また、めっき構造物200A(実施例3)、めっき構造物200B(実施例4)、めっき構造物210A(比較例3)およびめっき構造物210B(比較例4)についてプル強度を測定するとともに、半田付けしためっき構造物200A,200B,210A,210Bの基板201からの剥離モードを解析した。なお、プル強度は、実施の形態1と同じように、Dage社製のボンドテスター シリーズ4000を用いて行なわれた。
【0188】
金属ボール220を半田付けしためっき構造物200A,200B,210A,210Bのプル強度を図7に示す方法によって測定するとともに、金属ボール220を半田付けしためっき構造物200A,200B,210A,210Bの剥離モードを解析した。
【0189】
図17は、プル強度の測定結果を示す図である。図17において、横軸は、めっき構造物の種類を表し、縦軸は、プル強度を表す。なお、図17に示すプル強度は、220℃のリフロー温度で金属ボール220を半田付けしためっき構造物200A,200B,210A,210Bについて測定された。また、プル強度の測定に用いられためっき構造物200A,200B,210A,210Bの個数は、20個である。
【0190】
めっき構造物210A(比較例3)は、約360[gf]〜約960[gf](平均値:約570[gf])の範囲のプル強度を有し、めっき構造物210B(比較例4)は、約790[gf]〜約1560[gf](平均値:約1180[gf])の範囲のプル強度を有する。
【0191】
一方、めっき構造物200A(実施例3)は、約800[gf]〜約1650[gf](平均値:約1230[gf])の範囲のプル強度を有し、めっき構造物200B(実施例4)は、約740[gf]〜約1500[gf](平均値:約1190[gf])の範囲のプル強度を有する。
【0192】
図18は、剥離モードの解析結果を示す図である。図18において、横軸は、めっき構造物の種類を表し、縦軸は、剥離モードの割合を示す。なお、図18に示す剥離モードは、220℃のリフロー温度で金属ボール220を半田付けしためっき構造物200A,200B,210A,210Bについて解析された。
【0193】
図18を参照して、めっき構造物210A(比較例3)においては、全てが“界面剥離”のモードMD2である。
【0194】
また、めっき構造物210B(比較例4)においては、剥離モードが“半田ちぎれ”のモードMD1である割合が55%であり、剥離モードが“界面剥離”のモードMD2である割合が45%である。
【0195】
一方、めっき構造物200A(実施例3),200B(実施例4)の各々において、全てが“界面剥離”のモードMD2である。
【0196】
したがって、めっき層204中におけるBi組成比を最内部から最外部へ向かって増加させることによって、剥離モードが全て“界面剥離”であるめっき構造物200を作製することができる。
【0197】
また、表4、図17および図18に示す結果から、Bi濃度を最内部から最外部へ向かって増加させながら電気めっきによりめっき層204を形成することによって、プル強度が600[gf](=基準強度)以上であり、かつ、融点が200℃(=基準融点)よりも低く、さらに、剥離モードが“界面剥離”となるめっき構造物200を作製できる。
【0198】
このように、金属ボール220を基板201に半田付けする場合、基板201の表面に、Bi組成比が最内部(=界面204A)から最外部(=表面204B)へ向かって増加するめっき層204を形成することにより、金属ボール220の保持強度を基準強度以上の保持強度に向上でき、かつ、半田付けするときの融点を基準融点以下の融点に低温化でき、さらに、金属ボール220の剥離モードを界面剥離の剥離モードに設定できる。
【0199】
したがって、めっき構造物200は、電子部品をCu基板等へ半田付けする場合に適している。
【0200】
図19は、めっき構造物200を用いて金属ボール220を基板201に半田付けするときの半田付け方法を説明するためのフローチャートである。一連の動作が開始されると、基板201上に反応抑制層203を形成し、その形成した反応抑制層203上に傾斜めっきによりめっき層204を形成する(ステップS21)。
【0201】
なお、ステップS21の詳細な動作は、図14に示すフローチャートに従って実行される。
【0202】
そして、ステップS21の後、めっき層204を溶融して金属ボール220を基板201に半田付けする(ステップS22)。これにより、一連の動作が終了する。
【0203】
上記においては、めっき層204は、Sn−Bi合金から構成されると説明したが、この発明においては、これに限らず、めっき層204は、Sn−In合金から構成されてもよい。図5に示すように、Sn−In合金における融点のIn濃度に対する変化傾向は、Sn−Bi合金における融点のBi濃度に対する変化傾向とほぼ同様である。したがって、めっき層204をSn−In合金に代え、めっき層204におけるIn組成比を最内部(=界面204A)から最外部(=表面204B)へ向かって増加させることによって、上述したように、めっき層204の強度を基準強度以上に保持し、かつ、融点を基準融点よりも低くしためっき構造物200を作製することができる。
【0204】
また、この発明においては、一般的には、めっき層204は、第1および第2の金属元素からなり、第2の金属元素の組成比は、めっき層204の最内部(=界面204A)から最外部(=表面204B)へ向かって強度を基準強度以上に保持する組成比から融点を基準融点よりも低くする組成比まで増加されていればよい。
【0205】
そして、第2の金属元素の組成比を最内周から最外周へ向かって増加させる方法は、図3に示す直線k1および曲線k2,k3以外の直線または曲線に従って増加させる方法であってもよい。
【0206】
さらに、上記においては、配線202は、銅からなると説明したが、この発明においては、これに限らず、配線202は、アルミニウム(Al)からなっていてもよい。
【0207】
さらに、上記においては、反応抑制層203は、電気めっきにより形成されると説明したが、この発明においては、これに限らず、反応抑制層203は、スパッタリング法により形成されてもよい。
【0208】
さらに、上記においては、めっき構造物200は、反応抑制層203を備えると説明したが、この発明においては、これに限らず、めっき構造物200は、反応抑制層203を備えていなくてもよい。
【0209】
さらに、上記においては、金属ボール220を基板201に半田付けする場合について説明したが、この発明においては、これに限らず、金属ボール220以外の電子部品を配線202に半田付けしてもよい。配線202は、Cu基板に限らず、プリント基板であってもよく、プリント基板に形成されためっき構造物200を用いて各種の電子部品をプリント基板に半田付けしてもよい。
【0210】
さらに、この発明においては、2つの物質A,Bを半田付けする場合、物質Aの表面にめっき層204を形成してめっき構造物200を作製し、その作製しためっき構造物200を用いて物質Bを物質Aに半田付けしてもよい。
【0211】
なお、基板201は、「基体」を構成する。したがって、この発明によるめっき構造物は、一般的には、基体と、基体の表面に形成されためっき層とからなる。
【0212】
実施の形態2によれば、めっき構造物200は、Bi組成比またはIn組成比が最内部から最外部へ向かって強度を基準強度以上に保持する組成比から融点を基準融点よりも低くする組成比まで増加するめっき層204を備えるので、めっき層204を介して金属ボール220を基板201に半田付けしたとき、強度を保持し、かつ、融点を低下させることができる。
【0213】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0214】
この発明は、半田付けしたときの強度を保持し、かつ、半田付けするときの融点を低温化できる金属ボールに適用される。また、この発明は、半田付けしたときの強度を保持し、かつ、半田付けするときの融点を低温化できる金属ボールの作製方法に適用される。さらに、この発明は、半田付けしたときの強度を保持し、かつ、半田付けするときの融点を低温化できるめっき構造物に適用される。さらに、この発明は、半田付けしたときの強度を保持し、かつ、半田付けするときの融点を低温化できるめっき構造物を用いた半田付け方法に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0215】
【図1】この発明の実施の形態1による金属ボールの構成を示す断面図である。
【図2】図1に示す金属ボールを作製するバレルめっき装置の概略図である。
【図3】Sn−In合金におけるInの組成比の変化を示す図である。
【図4】図1に示す金属ボールの作製方法を示すフローチャートである。
【図5】Sn−In合金中におけるIn濃度とSn−In合金の状態との関係を示す図である。
【図6】図2に示すバレルめっき装置を用いてIn濃度を最内周から最外周へ向かって増加させながら電気めっきした金属ボールの電子顕微鏡写真である。
【図7】プル強度を測定する方法を説明するための概念図である。
【図8】金属ボールが基板から剥離する剥離モードの概念図である。
【図9】界面剥離および半田ちぎれを示す写真である。
【図10】プル強度の測定結果を示す図である。
【図11】剥離モードの解析結果を示す図である。
【図12】この発明の実施の形態2によるめっき構造物の構成を示す断面図である。
【図13】図12に示すめっき構造物を作製するめっき装置の概略図である。
【図14】図12に示すめっき構造物の作製方法を示すフローチャートである。
【図15】Sn−Bi合金中におけるBi濃度とSn−Bi合金の状態との関係を示す図である。
【図16】プル強度の測定および剥離モードの解析を行なう試料を説明するための図である。
【図17】プル強度の測定結果を示す図である。
【図18】剥離モードの解析結果を示す図である。
【図19】めっき構造物を用いて金属ボールを基板に半田付けするときの半田付け方法を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0216】
1,221 コアボール、2,203 反応抑制層、3,204,222,223 めっき層、10,220 金属ボール、11 ツィーザ、12,21 矢印、13 基板、14 ランド、15,15A,15B 半田、20,310 めっき槽、30 枠板、40 バレルドラム、41 側板、42 網材、50,60 歯車、70 モータ、71 シャフト、80,350 陰極、90,340 陽極、100 バレルめっき装置、111 開口部、110,120,320,330 ノズル、130,360 直流電源、140,370 めっき浴、200 めっき構造物、201 基板、202 配線、204A 界面、204B 表面、300 めっき装置、2021 凹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品の実装に用いられる金属ボールであって、
金属からなるコアボールと、
半田付け用の合金を構成する第1および第2の金属元素からなり、前記コアボールを覆うめっき層とを備え、
前記第2の金属元素の組成比は、前記めっき層の最内周から最外周へ向かって第1の組成比から第2の組成比へ増加し、
前記第1の組成比は、当該金属ボールが半田付けされたときの前記めっき層の強度を基準強度以上に設定する組成比であり、
前記第2の組成比は、前記めっき層の融点を基準融点よりも低い温度に設定する組成比であり、
前記第2の金属元素は、鉛フリーのめっき合金を構成し、かつ、Bi以外の元素である、金属ボール。
【請求項2】
前記コアボールと前記めっき層との間に挿入された反応抑制層をさらに備える、請求項1に記載の金属ボール。
【請求項3】
前記反応抑制層は、Ni、Ni−P合金、Ni−B合金、CoおよびPtのいずれかからなる、請求項2に記載の金属ボール。
【請求項4】
前記第1の金属元素は、Snであり、
前記第2の金属元素は、Inである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の金属ボール。
【請求項5】
前記第1の組成比は、18〜20%の範囲であり、
前記第2の組成比は、34〜38%の範囲である、請求項4に記載の金属ボール。
【請求項6】
前記コアボールは、Cuからなる、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の金属ボール。
【請求項7】
基体と、
半田付け用の合金を構成する第1および第2の金属元素からなり、前記基体の一主面上に形成されためっき層とを備え、
前記第2の金属元素の組成比は、前記めっき層と前記基体との界面から前記めっき層の表面へ向かって第1の組成比から第2の組成比へ増加し、
前記第1の組成比は、他の物質が前記めっき層を介して前記基体に半田付けされたときの前記めっき層の強度を基準強度以上に設定する組成比であり、
前記第2の組成比は、前記めっき層の融点を基準融点よりも低い温度に設定する組成比である、めっき構造物。
【請求項8】
前記基体と前記めっき層との間に挿入された反応抑制層をさらに備える、請求項7に記載のめっき構造物。
【請求項9】
前記反応抑制層は、Ni、Ni−P合金、Ni−B合金、CoおよびPtのいずれかからなる、請求項8に記載のめっき構造物。
【請求項10】
前記第1の金属元素は、Snであり、
前記第2の金属元素は、BiまたはInである、請求項7から請求項9のいずれか1項に記載のめっき構造物。
【請求項11】
前記第1の組成比は、2〜21%の範囲であり、
前記第2の組成比は、30〜55%の範囲である、請求項10に記載のめっき構造物。
【請求項12】
前記基体は、Cu基板からなる、請求項7から請求項11のいずれか1項に記載のめっき構造物。
【請求項13】
電子部品の実装に用いられる金属ボールの作製方法であって、
前記金属ボールは、
金属からなるコアボールと、
半田付け用の合金を構成する第1および第2の金属元素からなり、前記コアボールを覆うめっき層とを備え、
前記第2の金属元素の組成比は、前記めっき層の最内周から最外周へ向かって第1の組成比から第2の組成比へ増加し、
前記第1の組成比は、当該金属ボールが半田付けされたときの前記めっき層の強度を基準強度以上に設定する組成比であり、
前記第2の組成比は、前記めっき層の融点を基準融点よりも低い温度に設定する組成比であり、
前記第2の金属元素は、鉛フリーのめっき合金を構成し、かつ、Bi以外の元素であり、
前記作製方法は、
前記コアボールを前記第1および第2の金属元素を含むめっき浴に浸漬する第1の工程と、
前記第2の金属元素の組成比が前記めっき層の最内周から最外周へ向かって第1の組成比から第2の組成比へ増加するように前記めっき層を形成する第2の工程とを備える、金属ボールの作製方法。
【請求項14】
前記第2の工程は、電気めっきにより前記めっき層を形成する、請求項13に記載の金属ボールの作製方法。
【請求項15】
前記第2の工程は、前記第1の金属元素を含む第1の化合物のめっき浴への滴下量を減少させ、前記第2の金属元素を含む第2の化合物の前記めっき浴への滴下量を増加または減少させながら、所定の時間、前記電気めっきを行なうことにより前記めっき層を形成する、請求項14に記載の金属ボールの作成方法。
【請求項16】
前記電気めっきにおける電流密度は、前記所定の時間、一定である、請求項15に記載の金属ボールの作製方法。
【請求項17】
前記第1の金属元素は、Snであり、
前記第2の金属元素は、Inである、請求項13から請求項16のいずれか1項に記載の金属ボールの作製方法。
【請求項18】
前記第1の組成比は、18〜20%の範囲であり、
前記第2の組成比は、34〜38%の範囲である、請求項17に記載の金属ボールの作製方法。
【請求項19】
前記第1の工程の前、前記コアボールを覆うように反応抑制層を形成する第3の工程をさらに備える、請求項13から請求項18のいずれか1項に記載の金属ボールの作製方法。
【請求項20】
前記第3の工程は、Ni、NiP合金、NiB合金、CoおよびPtのいずれかからなる前記反応抑制層を形成する、請求項19に記載の金属ボールの作製方法。
【請求項21】
基体の一主面に形成されためっき層を溶融して他の物質を前記基体に半田付けする半田付け方法であって、
前記めっき層は、半田付け用の合金を構成する第1および第2の金属元素からなり、
前記第2の金属元素の組成比は、前記めっき層と前記基体との界面から前記めっき層の表面へ向かって第1の組成比から第2の組成比へ増加し、
前記第1の組成比は、前記他の物質が前記めっき層を溶融して前記基体に半田付けされたときの前記めっき層の強度を基準強度以上に設定する組成比であり、
前記第2の組成比は、前記めっき層の融点を基準融点よりも低い温度に設定する組成比であり、
前記半田付け方法は、
前記基体を前記第1および第2の金属元素を含むめっき浴に浸漬する第1の工程と、
前記第2の金属元素の組成比が前記界面から前記表面へ向かって第1の組成比から第2の組成比へ増加するように前記めっき層を前記基体に形成する第2の工程と、
前記めっき層を溶融して前記他の物質を前記基体に半田付けする第3の工程とを備える半田付け方法。
【請求項22】
前記第2の工程は、電気めっきにより前記めっき層を形成する、請求項21に記載の半田付け方法。
【請求項23】
前記第2の工程は、前記第1の金属元素を含む第1の化合物のめっき浴への滴下量を減少させ、前記第2の金属元素を含む第2の化合物の前記めっき浴への滴下量を増加させながら、所定の時間、前記電気めっきを行なうことにより前記めっき層を形成する、請求項22に記載の半田付け方法。
【請求項24】
前記第1の金属元素は、Snであり、
前記第2の金属元素は、Biである、請求項21から請求項23のいずれか1項に記載の半田付け方法。
【請求項25】
前記第1の組成比は、2〜21%の範囲であり、
前記第2の組成比は、30〜55%の範囲である、請求項24に記載の半田付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図19】
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【図6】
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【図9】
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【図11】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−44718(P2007−44718A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230271(P2005−230271)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(501003227)株式会社ミレニアムゲートテクノロジー (5)
【出願人】(000002129)住友商事株式会社 (42)