説明

金属複合有機樹脂粒子、金属複合有機樹脂粒子の製造方法

【課題】粒子径が極めて均一な金属複合有機樹脂粒子を提供する。また、該金属複合有機樹脂粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】金属、金属酸化物又は金属塩を多孔質有機樹脂粒子の細孔内に有する金属複合有機樹脂粒子であって、前記多孔質有機樹脂粒子は、個数基準粒子径の変動係数が10%以下である金属複合有機樹脂粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子径が極めて均一な金属複合有機樹脂粒子に関する。また、本発明は、該金属複合有機樹脂粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属、金属酸化物又は金属塩を有機樹脂バインダーに分散させて得られる塗工組成物が、例えば、基板等の上に塗工された後、乾燥、脱脂、焼成工程を経ることにより、電極材料、色素増感太陽電池用電極、透明電極、触媒担体、電子材料用セラミックス、紫外線吸収剤、熱線反射材料等の様々な構造体を得るために用いられている。このような構造体が、広い表面積、高い平滑性、緻密性等を有し、高い電極効率、触媒効率、透明性等を得るためには、塗工組成物中で、更には、得られる構造体中で、金属、金属酸化物又は金属塩を極めて均一に分散させる必要がある。
【0003】
金属、金属酸化物又は金属塩を有機樹脂バインダーに分散させる方法として、例えば、粉砕又は析出法により得られた金属等の固体粉末と、有機樹脂バインダーと、有機溶剤とを3本ロール、ビーズミル等の混練装置を用いて分散させる方法が挙げられる。
しかしながら、この方法では、非常に過酷な混練条件を用いなければ金属等の固体粉末を極めて均一に分散させることは困難である。また、この方法で得られた塗工組成物は貯蔵安定性が悪く、使用する前に再度混練して金属等の固体粉末を再分散させる必要があり、生産性に問題がある。
【0004】
これに対して、金属等の固体粉末の代わりに、重合性モノマーと金属等の固体粉末とを溶媒中に分散させ、重合を行うことにより得られる金属複合有機樹脂粒子を用いる方法が検討されている。
例えば、特許文献1には、所定の磁性体微粒子を分散させた単量体を含む重合組成物を、懸濁保護剤の存在下、水性溶媒中で攪拌して所定の大きさの油滴に分散し、この状態で懸濁重合を行なって所定の磁性重合体粒子を得る方法が記載されている。特許文献1に記載のような金属複合有機樹脂粒子においては、有機樹脂が金属等の固体粉末を取り囲んでいることから、このような金属複合有機樹脂粒子は有機樹脂バインダーとの相溶性が高く、塗工組成物中で良好に分散することができる。そのため、金属等の固体粉末もまた、塗工組成物中で良好な分散状態をとることができる。
しかしながら、従来、金属複合有機樹脂粒子は形状及び粒子径にばらつきがあることから、金属等の固体粉末が充分に均一に分散した塗工組成物を得ることは困難であった。
【0005】
また、別の金属複合有機樹脂粒子として、例えば、重合性油溶性モノマーとシランカップリング剤とを共存反応、重合させることで得られる金属複合有機樹脂粒子も挙げられる。
しかしながら、この方法で得られる金属複合有機樹脂粒子では、含有する金属がケイ素に限定され、また、金属系成分比率が有機樹脂に比較して高々5%程度と少ないことが問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−221302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、粒子径が極めて均一な金属複合有機樹脂粒子を提供することを目的とする。また、本発明は、該金属複合有機樹脂粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、金属、金属酸化物又は金属塩を多孔質有機樹脂粒子の細孔内に有する金属複合有機樹脂粒子であって、前記多孔質有機樹脂は、個数基準粒子径の変動係数が10%以下である金属複合有機樹脂粒子である。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、金属、金属酸化物又は金属塩を、所定の個数基準粒子径の変動係数を有する多孔質有機樹脂粒子の細孔内に有することにより、粒子径が極めて均一な金属複合有機樹脂粒子が得られることを見出した。本発明者らは、該金属複合有機樹脂粒子を用いることにより、例えば、金属、金属酸化物又は金属塩が極めて均一に分散した塗工組成物を得ることができ、このような塗工組成物を用いることにより、例えば、金属、金属酸化物又は金属塩が極めて均一に分散した構造体を容易に製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の金属複合有機樹脂粒子は、金属、金属酸化物又は金属塩を多孔質有機樹脂粒子の細孔内に有する。
上記多孔質有機樹脂粒子の平均粒子径は特に限定されないが、好ましい下限が0.5μm、好ましい上限が50μmである。上記多孔質有機樹脂粒子の平均粒子径が0.5μm未満であると、得られる金属複合有機樹脂粒子を用いて製造した構造体において、金属、金属酸化物又は金属塩の含有量が低下することがある。上記多孔質有機樹脂粒子の平均粒子径が50μmを超えると、得られる金属複合有機樹脂粒子は、塗工組成物中での分散性が低下することがあり、このような塗工組成物を用いて製造した構造体は、金属、金属酸化物又は金属塩の分散性が低下することがある。上記多孔質有機樹脂粒子の平均粒子径は、より好ましい下限が1μm、より好ましい上限が30μmである。
【0011】
上記多孔質有機樹脂粒子の個数基準粒子径の変動係数は、上限が10%である。上記多孔質有機樹脂粒子の個数基準粒子径の変動係数が10%を超えると、得られる金属複合有機樹脂粒子は、粒子径の均一性が低下し、このような金属複合有機樹脂粒子を用いて製造した構造体は、金属、金属酸化物又は金属塩の分散性が低下する。上記多孔質有機樹脂粒子の個数基準粒子径の変動係数は、好ましい上限が7%、より好ましい上限が5%である。
なお、本明細書中、多孔質有機樹脂粒子の平均粒子径と、個数基準粒子径の変動係数とは、以下のようにして求められる。
多孔質有機樹脂粒子について、走査型電子顕微鏡により1視野に約100個が観察できる倍率で観察し、任意に選択した50個の多孔質有機樹脂粒子についてノギスを用いて最長径を測定する。得られた最長径の数平均値を多孔質有機樹脂粒子の平均粒子径とする。多孔質有機樹脂粒子の個数基準粒子径の変動係数(CV)は、得られた平均粒子径mと標準偏差σから、下記式(1)により算出することができる。
CV=σ/m×100(%) (1)
【0012】
上記多孔質有機樹脂粒子を製造する方法は特に限定されないが、シード重合法が好ましい。
上記シード重合法は特に限定されないが、非架橋ポリマーを含有する種粒子を、水を含有する分散媒中に分散させた種粒子分散液と、ラジカル重合性モノマーと、油溶性溶剤と、油溶性重合開始剤とを混合し、上記種粒子に上記ラジカル重合性モノマーと、上記油溶性溶剤と、上記油溶性重合開始剤とを吸収させて膨潤粒子液滴の分散液を調製する工程と、上記膨潤粒子液滴中の上記ラジカル重合性モノマーを重合させる工程とを有する方法(以下、方法(1)ともいう)が好ましい。
以下、上記方法(1)について説明する。
【0013】
上記方法(1)では、まず、非架橋ポリマーを含有する種粒子を、水を含有する分散媒中に分散させた種粒子分散液と、ラジカル重合性モノマーと、油溶性溶剤と、油溶性重合開始剤とを混合し、上記種粒子に上記ラジカル重合性モノマーと、上記油溶性溶剤と、上記油溶性重合開始剤とを吸収させて膨潤粒子液滴の分散液を調製する工程を行う。
なお、上記方法(1)では、非架橋ポリマーを含有する種粒子を、水を含有する分散媒中に分散させた種粒子分散液を調製する工程を別途行ってもよい。
【0014】
上記非架橋ポリマーを構成する非架橋性モノマーは特に限定されず、例えば、スチレン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸等が挙げられる。
【0015】
上記種粒子は、非架橋性モノマーを重合して非架橋ポリマーを構成する際に、少量の架橋性モノマーを併用してもよい。少量の架橋性モノマーを併用することにより、得られる種粒子の強度が向上する。上記架橋性モノマーは特に限定されず、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
上記架橋性モノマーを配合する場合、上記非架橋性モノマーと上記架橋性モノマーとの合計に占める上記架橋性モノマーの配合量は特に限定されないが、好ましい上限は5重量%である。上記架橋性モノマーの配合量が5重量%を超えると、得られる種粒子へのラジカル重合性モノマー等の吸収性が低下し、膨潤粒子液滴が形成されないことがある。上記架橋性モノマーの配合量のより好ましい上限は1重量%である。
【0016】
上記種粒子の重量平均分子量は特に限定されないが、好ましい上限は50万である。上記種粒子の重量平均分子量が50万を超えると、得られる種粒子へのラジカル重合性モノマー等の吸収性が低下し、膨潤粒子液滴が形成されないことがある。上記種粒子の重量平均分子量のより好ましい上限は10万である。
また、上記種粒子の重量平均分子量の下限は特に限定されないが、1000未満であると、実質的に粒子を形成できないことがある。
【0017】
上記種粒子の形状は特に限定されないが、球状であることが好ましい。上記種粒子の形状が球状でない場合には、ラジカル重合性モノマー等を吸収する際に等方的な膨潤がなされず、得られる多孔質有機樹脂粒子の形状にばらつきが生じることがある。
【0018】
上記種粒子の平均粒子径は特に限定されないが、好ましい下限は目的とする多孔質有機樹脂粒子の平均粒子径の1/10、好ましい上限は目的とする多孔質有機樹脂粒子の平均粒子径の1/1.05である。上記種粒子の平均粒子径が目的とする多孔質有機樹脂粒子の平均粒子径の1/10未満であると、所望の多孔質有機樹脂粒子の粒子径を得るために、吸収性能の限界を超えた多くのラジカル重合性モノマー等を吸収する必要があり、吸収残りが発生したり、得られる多孔質有機樹脂粒子の個数基準粒子径の変動係数が増大したりすることがある。上記種粒子の平均粒子径が目的とする多孔質有機樹脂粒子の平均粒子径の1/1.05を超えると、ごく微量のラジカル重合性モノマー等しか吸収する余地がなく、高い空隙率を有する多孔質有機樹脂粒子が得られないことがある。上記種粒子の平均粒子径は、目的とする多孔質有機樹脂粒子の平均粒子径の1/8以上であることがより好ましく、1/1.5以下であることがより好ましい。
【0019】
上記種粒子は、体積基準粒子径の変動係数の好ましい上限が30%である。上記種粒子の体積基準粒子径の変動係数が30%を超えると、膨潤した種粒子の粒子径が均一にならず、得られる多孔質有機樹脂粒子の個数基準粒子径の変動係数が増大することがある。上記種粒子の体積基準粒子径の変動係数のより好ましい上限は、20%である。
なお、本明細書中、種粒子の平均粒子径とは、粒子径測定装置により測定される体積平均粒子径を意味する。また、種粒子の体積基準粒子径の変動係数(CV)は、得られた平均粒子径mと標準偏差σから、下記式(2)により算出することができる。
CV=σ/m×100(%) (2)
【0020】
上記種粒子を製造する方法は特に限定されず、例えば、ソープフリー乳化重合、乳化重合、分散重合等の方法が挙げられる。
【0021】
上記分散媒は、水を含有する分散媒であれば特に限定されず、水、又は、水にメタノール、エタノール等の水溶性有機溶剤を添加した混合分散媒等が挙げられる。
上記分散媒は、必要に応じて、分散剤を含有してもよい。上記分散剤は特に限定されず、例えば、アルキル硫酸スルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0022】
上記種粒子分散液における上記種粒子の配合量は特に限定されず、好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は50重量%である。上記種粒子の配合量が0.1重量%未満であると、多孔質有機樹脂粒子の生産効率が低くなることがある。上記種粒子の配合量が50重量%を超えると、種粒子が凝集してしまうことがある。上記種粒子の配合量のより好ましい下限は0.5重量%、より好ましい上限は30重量%である。
【0023】
上記ラジカル重合性モノマーは特に限定されず、例えば、単官能性モノマー、多官能性モノマーが挙げられる。
上記単官能性モノマーは特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、クミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の極性基含有(メタ)アクリル系モノマー、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン等のスチレン系モノマー、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン含有モノマー、ビニルピリジン、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、イタコン酸、フマル酸、エチレン、プロピレン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なかでも、重合する際の反応性が良好であることから、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸等のアクリル系モノマーが好ましい。
【0024】
上記多官能性モノマーは、得られる多孔質有機樹脂粒子の収縮を抑制し、耐圧縮強度を改善する目的で添加される。上記多官能性モノマーは特に限定されず、例えば、ジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリレート、テトラ(メタ)アクリレート、ペンタ(メタ)アクリレート、ヘキサ(メタ)アクリレート、ジアリル化合物、トリアリル化合物、ジビニル化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
上記ジ(メタ)アクリレートは特に限定されず、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記トリ(メタ)アクリレートは特に限定されず、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記テトラ(メタ)アクリレートは特に限定されず、例えば、テトラメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記ジビニル化合物は特に限定されず、例えば、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
これらのラジカル重合性モノマーは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
上記油溶性溶剤は、油溶性であり、かつ、上記ラジカル重合性モノマーと反応しなければ特に限定されない。
本明細書において、油溶性とは、logPow(オクタノール/水分配係数)が0以上であることを意味する。例えば、溶剤のlogPowは、以下のように求められる。
n−オクタノールと水とを充分に混合した混合液を24時間放置した後、混合液に溶剤を加えてさらに混合する。その後、オクタノール相中に含まれる溶剤の濃度(Co)と水相中に含まれる溶剤の濃度(Cw)とをガスクロマトグラフィーにより測定し、得られたCo及びCwを用いて、下記式(3)からlogPowを算出できる。
logPow=log(Co/Cw) (3)
【0027】
また、上記油溶性溶剤は、水に難溶性(23℃における水への溶解度が20重量%以下)であることが好ましい。
【0028】
上記油溶性溶剤は特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素や、ヘプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素や、シクロヘキサン等の環状炭化水素や、メチルイソブチルケトン等のケトン類や、酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの油溶性溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
上記油溶性溶剤の配合量は、目的とする多孔質有機樹脂粒子の粒子径により適宜調整すればよいが、上記ラジカル重合性モノマー100重量部に対する好ましい下限は10重量部、好ましい上限は300重量部である。上記油溶性溶剤の配合量が10重量部未満であると、得られる多孔質有機樹脂粒子にほとんど孔が形成されないことがある。上記油溶性溶剤の配合量が300重量部を超えると、得られる多孔質有機樹脂粒子の強度が著しく低下することがある。上記油溶性溶剤の配合量のより好ましい下限は20重量部、より好ましい上限は200重量部である。
【0030】
上記油溶性重合開始剤は、ラジカル重合を開始させるための開始剤であり、かつ、油溶性であれば特に限定されない。また、上記油溶性重合開始剤は、水に難溶性(23℃における水への溶解度が20重量%以下)であることが好ましい。
上記油溶性重合開始剤として、例えば、ベンゾイルパーオキサイド等の過酸化物や、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。これらの油溶性重合開始剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
上記油溶性重合開始剤の配合量は特に限定されず、上記ラジカル重合性モノマー100重量部に対する好ましい下限は0.01重量部、好ましい上限は20重量部である。上記油溶性重合開始剤の配合量が0.01重量部未満であると、多孔質有機樹脂粒子が形成されないことがある。上記油溶性重合開始剤の配合量が20重量部を超えて配合してもほとんど反応には寄与せず、ブリードアウト等の原因となることがある。上記油溶性重合開始剤の配合量のより好ましい下限は0.1重量部、より好ましい上限は10重量部である。
【0032】
上記種粒子分散液と、上記ラジカル重合性モノマーと、上記油溶性溶剤と、上記油溶性重合開始剤とを混合すると、上記種粒子に上記ラジカル重合性モノマーと、上記油溶性溶剤と、上記油溶性重合開始剤とが吸収されて、均一な膨潤粒子液滴が形成される。
【0033】
上記種粒子分散液と、上記ラジカル重合性モノマーと、上記油溶性溶剤と、上記油溶性重合開始剤とを混合する際には、上記ラジカル重合性モノマーと、上記油溶性溶剤と、上記油溶性重合開始剤とを直接上記種粒子分散液に加えて混合してもよいが、いったん水を含有する分散媒に添加して乳化液を調製し、該乳化液を上記種粒子分散液に加えて混合する方法が好ましい。いったん乳化液としてから加えることにより、上記ラジカル重合性モノマー等をより均一に上記種粒子に吸収させることができる。
上記ラジカル重合性モノマー、上記油溶性溶剤、上記油溶性重合開始剤は、これらの混合物の乳化液を調製して上記種粒子分散液に加えて混合してもよいし、各々の乳化液を別個に調製して上記種粒子分散液に加えて混合してもよい。
【0034】
上記ラジカル重合性モノマー等の乳化液の分散媒は特に限定されず、上記種粒子分散液に用いた分散媒と同じ分散媒であってもよく、異なる分散媒であってもよい。
また、上記ラジカル重合性モノマー等の乳化液の分散媒は、乳化剤を含有することが好ましい。上記乳化剤は特に限定されず、例えば、アルキル硫酸スルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
更に、上記ラジカル重合性モノマー等の乳化液と上記種粒子分散液とを混合する際には、上記乳化液の全量を一括で加えて混合してもよいし、分割して加えて混合してもよい。分割して加える場合には、滴下することにより添加してもよい。
【0035】
上記種粒子に対する油性成分の添加量は特に限定されないが、上記種粒子100重量部に対する好ましい下限は15重量部、好ましい上限は100,000重量部である。上記油性成分の添加量が15重量部未満であると、ごく微量の油性成分しか吸収する余地がなく、高い空隙率を有する多孔質有機樹脂粒子が得られないことがある。上記油性成分の添加量が100,000重量部を超えると、上記種粒子に吸収し切れない上記油性成分が発生し、中実微粒子等の混入の原因となることがある。上記油性成分の添加量のより好ましい下限は230重量部、より好ましい上限は50,000重量部である。
なお、油性成分は、ラジカル重合性モノマー、油溶性溶剤、及び、油溶性重合開始剤を構成成分とする。
【0036】
上記方法(1)では、次いで、得られた膨潤粒子液滴中の上記ラジカル重合性モノマーを重合させる工程を行う。
上記ラジカル重合性モノマーを重合させることにより、上記油溶性溶剤と、上記ラジカル重合性モノマーを重合することにより得られたポリマーとからなるポリマー粒子分散液が得られる。なお、重合は、上記油溶性重合開始剤の種類等に従って、光を照射したり、加熱したりすることにより開始することができる。
【0037】
更に、得られたポリマー粒子を、遠心分離と純水添加とを繰り返し行って洗浄し、上記油溶性溶剤を揮発させることにより、上述した範囲の平均粒子径と、個数基準粒子径の変動係数とを有する多孔質有機樹脂粒子が得られる。このような多孔質有機樹脂粒子を用いることにより、粒子径が極めて均一な金属複合有機樹脂粒子が得られる。
【0038】
上記金属、金属酸化物又は金属塩は特に限定されないが、周期律表2a〜4b族のうちの少なくとも1種の金属、又は、該金属からなる金属酸化物若しくは金属塩であることが好ましい。
上記金属として、具体的には、例えば、白金、金、パラジウム、ニッケル、銅等が挙げられる。上記金属酸化物として、具体的には、例えば、酸化セリウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化亜鉛、ジルコニア、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化銅、酸化コバルト、酸化インジウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化錫等が挙げられる。上記金属塩として、具体的には、例えば、水酸化セリウム、水酸化チタン、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化(II)鉄、水酸化(III)鉄、水酸化ニッケル、硫酸銅、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0039】
上記金属、金属酸化物又は金属塩の含有量は特に限定されないが、好ましい下限が金属複合有機樹脂粒子全体の5重量%、好ましい上限が金属複合有機樹脂粒子全体の90重量%である。上記金属、金属酸化物又は金属塩の含有量が5重量%未満であると、得られる金属複合有機樹脂粒子を用いて、導電性、熱線反射性等の所望とする性能を充分に有する構造体を製造できないことがある。上記金属、金属酸化物又は金属塩の含有量が90重量%を超えると、得られる金属複合有機樹脂粒子は、塗工組成物中での分散性が低下することがあり、このような塗工組成物を用いて製造した構造体は、金属、金属酸化物又は金属塩の分散性が低下することがある。上記金属、金属酸化物又は金属塩の含有量は、より好ましい下限が金属複合有機樹脂粒子全体の10重量%、より好ましい上限が金属複合有機樹脂粒子全体の70重量%である。
【0040】
本発明の金属複合有機樹脂粒子は、金属、金属酸化物又は金属塩を多孔質有機樹脂粒子の細孔内に有することから、有機樹脂バインダーとの相溶性が高く、塗工組成物中で良好に分散することができる。更に、本発明の金属複合有機樹脂粒子は粒子径が極めて均一であることから、本発明の金属複合有機樹脂粒子を用いることで、金属、金属酸化物又は金属塩が極めて均一に分散した塗工組成物を得ることができ、このような塗工組成物を用いることで、金属、金属酸化物又は金属塩が極めて均一に分散した構造体を容易に製造することができる。
また、本発明の金属複合有機樹脂粒子を含有する塗工組成物は、金属、金属酸化物又は金属塩の凝集が抑制され、貯蔵安定性にも優れることから、使用する前に再度混練して再分散する必要がない。
【0041】
本発明の金属複合有機樹脂粒子の用途は特に限定されないが、例えば、本発明の金属複合有機樹脂粒子、有機樹脂バインダー、溶剤等を混合して塗工組成物を作製し、該塗工組成物を用いて、電極材料、色素増感太陽電池用電極、透明電極、触媒担体、電子材料用セラミックス、紫外線吸収剤、熱線反射材料等を製造することができる。本発明の金属複合有機樹脂粒子を用いることで、これらの構造体は、金属、金属酸化物又は金属塩が極めて均一に分散していることから、広い表面積、高い平滑性、緻密性等を有し、高い電極効率、触媒効率、透明性等を得ることができる。
【0042】
本発明の金属複合有機樹脂粒子を製造する方法は特に限定されないが、水を主成分とする媒体中に多孔質有機樹脂粒子と金属イオンとを共存させた分散液を調製する工程と、前記金属イオンを中和、還元若しくは酸化するか、又は、前記金属イオンの溶解度を低下させることにより、前記多孔質有機樹脂粒子の細孔内に金属、金属酸化物又は金属塩を析出させる工程とを有する方法が好ましい。このような本発明の金属複合有機樹脂粒子の製造方法もまた、本発明の1つである(第1の本発明の金属複合有機樹脂粒子の製造方法)。
また、本発明の金属複合有機樹脂粒子を製造する方法として、多孔質有機樹脂粒子と金属アルコキシドとを共存させた分散液を調製する工程と、前記金属アルコキシドを加水分解及び/又は脱水縮合することにより、前記多孔質有機樹脂粒子の細孔内に金属、金属酸化物又は金属塩を析出させる工程とを有する方法も好ましい。このような本発明の金属複合有機樹脂粒子の製造方法もまた、本発明の1つである(第2の本発明の金属複合有機樹脂粒子の製造方法)。
【0043】
第1の本発明の金属複合有機樹脂粒子の製造方法では、まず、水を主成分とする媒体中に上述した多孔質有機樹脂粒子と金属イオンとを共存させた分散液を調製する工程を行う。
上記水を主成分とする媒体は、水を主成分としていれば特に限定されず、例えば、水や、エタノール、メタノール、イソプロパノール、アセトン等と水との混合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
上記分散液中の上記多孔質有機樹脂粒子の配合量は特に限定されないが、好ましい下限が0.5重量%、好ましい上限が50重量%である。上記多孔質有機樹脂粒子の配合量が0.5重量%未満であると、上記多孔質有機樹脂粒子の細孔外で析出する金属、金属酸化物又は金属塩の量が増加し、分散性が悪化することがある。上記多孔質有機樹脂粒子の配合量が50重量%を超えると、多孔質有機樹脂粒子が凝集することがある。上記分散液中の上記多孔質有機樹脂粒子の配合量は、より好ましい下限が1重量%、より好ましい上限が30重量%である。
【0045】
上記金属イオンは、本発明の金属複合有機樹脂粒子に含まれる上記金属、金属酸化物又は金属塩を形成する金属のイオンであれば特に限定されず、具体的には、例えば、パラジウムイオン、ニッケルイオン、セリウムイオン、白金イオン、金イオン、セリウムイオン、亜鉛イオン、ジルコニウムイオン、鉄イオン、マグネシウムイオン、銅イオン、コバルトイオン、アルミニウムイオン、錫イオン等が挙げられる。
【0046】
上記分散液中の上記金属イオンの配合量は特に限定されないが、好ましい下限が0.001モル%、好ましい上限が10モル%である。上記金属イオンの配合量が0.001モル%未満であると、得られる金属複合有機樹脂粒子は、金属、金属酸化物又は金属塩の含有量が低下することがある。上記金属イオンの配合量が10モル%を超えると、上記多孔質有機樹脂粒子の細孔外で析出する金属、金属酸化物又は金属塩の量が増加し、得られる金属複合有機樹脂粒子との分離が困難になることがある。上記分散液中の上記金属イオンの配合量は、より好ましい下限が0.01モル%、より好ましい上限が5モル%である。
【0047】
上記分散液を調製する方法は特に限定されず、例えば、上記多孔質有機樹脂粒子を分散させた分散液と、上記金属イオンを含有する溶液とを混合する方法、上記多孔質有機樹脂粒子の乾燥体と、上記金属イオンを含有する溶液とを混合する方法、上記多孔質有機樹脂粒子を分散させた分散液と、上記金属イオンからなる金属塩の乾燥体とを混合する方法等が挙げられる。
なお、上記分散液には、上記多孔質有機樹脂粒子の分散性を向上させるために、界面活性剤等の他の添加剤が添加されてもよい。
【0048】
第1の本発明の金属複合有機樹脂粒子の製造方法では、次いで、上記金属イオンを中和、還元若しくは酸化するか、又は、上記金属イオンの溶解度を低下させることにより、上記多孔質有機樹脂粒子の細孔内に金属、金属酸化物又は金属塩を析出させる工程を行う。これにより、粒子径が極めて均一な金属複合有機樹脂粒子が得られる。
上記金属イオンを中和する方法は特に限定されず、例えば、塩化マグネシウム水溶液に水酸化ナトリウムを添加する、硝酸セリウムにアンモニアを添加する、炭酸ナトリウム水溶液に二酸化炭素を添加する、塩化カルシウム水溶液に炭酸ナトリウムを添加する等の酸性物質にアルカリ性物質を添加したり、アルカリ性物質に酸性物質を添加したりする方法等が挙げられる。
上記金属イオンを還元する方法は特に限定されず、例えば、アンモニア等の還元剤を反応させる方法等が挙げられる。
【0049】
第2の本発明の金属複合有機樹脂粒子の製造方法では、まず、上述した多孔質有機樹脂粒子と金属アルコキシドとを共存させた分散液を調製する工程を行う。
【0050】
上記分散液中の上記多孔質有機樹脂粒子の配合量は特に限定されず、第1の本発明の金属複合有機樹脂粒子の製造方法で用いられた配合量と同様の配合量を用いることができる。
【0051】
上記金属アルコキシドは、本発明の金属複合有機樹脂粒子に含まれる上記金属、金属酸化物又は金属塩を形成する金属のアルコキシドであれば特に限定されず、具体的には、例えば、オルトテトラケイ酸エチル、チタンテトライソプロポキシド等が挙げられる。
【0052】
上記分散液中の上記金属アルコキシドの配合量は特に限定されないが、好ましい下限が0.001モル%、好ましい上限が10モル%である。上記金属アルコキシドの配合量が0.001モル%未満であると、得られる金属複合有機樹脂粒子は、金属、金属酸化物又は金属塩の含有量が低下することがある。上記金属アルコキシドの配合量が10モル%を超えると、上記多孔質有機樹脂粒子の細孔外で析出する金属、金属酸化物又は金属塩の量が増加し、得られる金属複合有機樹脂粒子との分離が困難になることがある。上記分散液中の上記金属アルコキシドの配合量は、より好ましい下限が0.01モル%、より好ましい上限が5モル%である。
【0053】
上記分散液を調製する方法は特に限定されず、例えば、上記多孔質有機樹脂粒子を分散させた分散液と、上記金属アルコキシドを含有する溶液とを混合する方法、上記多孔質有機樹脂粒子の乾燥粉体と、上記金属アルコキシドを含有する溶液とを混合する方法、上記多孔質有機樹脂粒子の乾燥粉体をエタノール等の水と容易に分散する水以外の溶媒に分散させた多孔質有機樹脂粒子分散液と、上記金属アルコキシドを含有する溶液とを混合する方法等が挙げられる。
なお、上記分散液には、上記多孔質有機樹脂粒子の分散性を向上させるために、界面活性剤等の他の添加剤が添加されてもよい。
【0054】
第2の本発明の金属複合有機樹脂粒子の製造方法では、次いで、上記金属アルコキシドを加水分解及び/又は脱水縮合することにより、上記多孔質有機樹脂粒子の細孔内に金属、金属酸化物又は金属塩を析出させる工程を行う。これにより、粒子径が極めて均一な金属複合有機樹脂粒子が得られる。
上記加水分解及び/又は脱水縮合する方法は特に限定されず、例えば、アンモニアを反応させる方法、硝酸を反応させる方法等が挙げられる。
【0055】
第1及び第2の本発明の金属複合有機樹脂粒子の製造方法では、上述のようにして金属複合有機樹脂粒子を得た後、更に、得られた金属複合有機樹脂粒子に対して各工程を繰り返して行ってもよい。
より具体的には、例えば、第1の本発明の金属複合有機樹脂粒子の製造方法により得られた金属複合有機樹脂粒子と、新たな金属イオンとを、水を主成分とする媒体中に共存させた分散液を調製する工程を行い、次いで、上記新たな金属イオンを中和、還元又は酸化することにより、多孔質有機樹脂粒子の細孔内に新たな金属、金属酸化物又は金属塩を析出させる工程を行ってもよい。
【0056】
また、第1及び第2の本発明の金属複合有機樹脂粒子の製造方法では、上述のようにして金属複合有機樹脂粒子を得た後、析出した金属、金属酸化物又は金属塩を、更に酸化してもよい。
上記酸化する方法は特に限定されず、例えば、金属複合有機樹脂粒子を空気中で加熱する方法等が挙げられる。
【0057】
第1及び第2の本発明の金属複合有機樹脂粒子の製造方法によれば、粒子径が極めて均一な、本発明の金属複合有機樹脂粒子が得られる。本発明の金属複合有機樹脂粒子を用いることで、金属、金属酸化物又は金属塩が極めて均一に分散した塗工組成物を得ることができ、このような塗工組成物を用いることで、金属、金属酸化物又は金属塩が極めて均一に分散した構造体を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0058】
本発明によれば、粒子径が極めて均一な金属複合有機樹脂粒子を提供することができる。また、本発明によれば、該金属複合有機樹脂粒子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0059】
(実施例1)
(多孔質有機樹脂粒子の製造)
スチレン100重量部、過硫酸カリウム3重量部、n−オクチルメルカプタン25重量部、水2500重量部を混合し、攪拌しながら70℃で24時間反応させて、体積平均粒子径0.5μm、体積基準粒子径の変動係数15%、かつ、球状の非架橋のポリスチレン粒子が1.5重量%の濃度で水に分散された種粒子分散液を調製した。
【0060】
ラジカル重合性モノマーとしてジビニルベンゼン100重量部、油溶性溶剤としてノルマルヘプタン30重量部、及び、油溶性重合開始剤として過酸化ベンゾイル1重量部を均一に溶解した混合液に、乳化剤としてラウリル硫酸トリエタノールアミン2重量部と水とを加えて混合し、乳化液を調製した。
【0061】
得られた種粒子分散液と、ポリスチレン粒子重量の200倍の油性成分となるように乳化液とを混合し、24時間撹拌して、ラジカル重合性モノマー、油溶性溶剤、油溶性重合開始剤を吸収した種粒子の膨潤粒子液滴の分散液を得た。なお、油性成分は、ラジカル重合性モノマー、油溶性溶剤、及び、油溶性重合開始剤を構成成分とする。
得られた膨潤粒子液滴の分散液を撹拌しながら85℃で、10時間反応させることにより、ヘプタンとポリジビニルベンゼンとからなるポリマー粒子分散液を得た。得られたポリマー粒子について、遠心分離と純水添加とを繰り返し行って洗浄し、真空乾燥してヘプタンを揮発させて、多孔質有機樹脂粒子を作製した。
【0062】
得られた多孔質有機樹脂粒子について、走査型電子顕微鏡により1視野に約100個が観察できる倍率で観察し、任意に選択した50個の多孔質有機樹脂粒子についてノギスを用いて最長径を測定した。得られた最長径の数平均値を平均粒子径とし、上記式(1)により個数基準粒子径の変動係数を算出したところ、平均粒子径は3.2μm、個数基準粒子径の変動係数は2.5%であった。
【0063】
(金属複合有機樹脂粒子及び塗工体の製造)
得られた多孔質有機樹脂粒子のエタノール分散液と、界面活性剤水溶液と、硫酸パラジウムと、2−アミノピリジン水溶液とを混合して、多孔質有機樹脂粒子が3重量%、パラジウムイオンが1モル%で共存した分散液を調製した。この分散液に対して、ジメチルアミンボランを添加することにより還元を行い、パラジウムが多孔質有機樹脂粒子の細孔内に析出したパラジウム複合粒子を作製した。
得られたパラジウム複合粒子10重量部と、エチルセルロース30重量部と、トルエン30重量部と、メチルエチルケトン(MEK)30重量部とを、3本ロールで5分間混練し、バーコーターにより乾燥厚み20μmとなるように塗工し、乾燥させて、塗工体を作製した。
【0064】
(実施例2)
(金属複合有機樹脂粒子及び塗工体の製造)
実施例1で得られたパラジウム複合粒子を、硫酸ニッケル水溶液に投入し、パラジウム複合粒子が3重量%、ニッケルイオンが1モル%で共存した分散液を調製した。この分散液に対して、ホスフィン酸ナトリウムを添加することにより還元を行い、ニッケルが多孔質有機樹脂粒子の細孔内に析出したニッケル複合粒子を作製した。
得られたニッケル複合粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして、塗工体を作製した。
【0065】
(実施例3)
(金属複合有機樹脂粒子及び塗工体の製造)
実施例1で得られた多孔質有機樹脂粒子の水分散液と、別途作製した硝酸アンモニウムセリウム(IV)水溶液とを混合して、多孔質有機樹脂粒子が3重量%、セリウムイオンが1モル%で共存した分散液を調製した。この分散液に対して、アンモニアを添加することにより還元を行い、水酸化セリウムが多孔質有機樹脂粒子の細孔内に析出した水酸化セリウム複合粒子を作製した。
得られた水酸化セリウム複合粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして、塗工体を作製した。
【0066】
(実施例4)
(金属複合有機樹脂粒子及び塗工体の製造)
実施例3で得た水酸化セリウム複合粒子を、空気中で、150℃で24時間加熱することにより、酸化セリウムが多孔質有機樹脂粒子の細孔内に析出した酸化セリウム複合粒子を作製した。
得られた酸化セリウム複合粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして、塗工体を作製した。
【0067】
(実施例5)
(金属複合有機樹脂粒子及び塗工体の製造)
実施例1で得られた多孔質有機樹脂粒子の水分散液と、別途作製したオルトテトラケイ酸エチルのエタノール溶液と混合して、多孔質有機樹脂粒子が3重量%、オルトテトラケイ酸エチルが1モル%で共存した分散液を調製した。この分散液に対して、アンモニアを添加することにより加水分解を行い、酸化ケイ素が多孔質有機樹脂粒子の細孔内に析出した酸化ケイ素複合粒子を作製した。
得られた酸化ケイ素複合粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして、塗工体を作製した。
【0068】
(実施例6)
(金属複合有機樹脂粒子及び塗工体の製造)
実施例1で得られた多孔質有機樹脂粒子の水分散液と、別途作製したチタンテトライソプロポキシドのエタノール溶液と混合して、多孔質有機樹脂粒子が3重量%、チタンテトライソプロポキシドが1モル%で共存した分散液を調製した。この分散液に対して、硝酸を添加することにより加水分解を行い、酸化チタンが多孔質有機樹脂粒子の細孔内に析出した酸化チタン複合粒子を作製した。
得られた酸化チタン複合粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして、塗工体を作製した。
【0069】
(比較例1)
(塗工体の製造)
平均粒子径20nmの酸化チタン10重量部と、エチルセルロース30重量部と、トルエン30重量部と、MEK30重量部とを、3本ロールで1時間混練し、バーコーターにより乾燥厚み20μmとなるように塗工し、乾燥させて、塗工体を作製した。
【0070】
(比較例2)
(金属複合有機樹脂粒子及び塗工体の製造)
平均粒径20nmの酸化チタン30重量部を、スチレン30重量部、ジビニルベンゼン40重量部、過酸化ベンゾイル1重量部からなる油性物質に分散させた分散液を調製した。この分散液を、イオン交換水400重量部、ポリビニルアルコール1重量部を溶解させた水系溶液に懸濁させ、懸濁重合を行うことにより、酸化チタン複合粒子を作製した。
得られた酸化チタン複合粒子10重量部と、エチルセルロース30重量部と、トルエン30重量部と、MEK30重量部とを、3本ロールで5分間混練し、バーコーターにより乾燥厚み20μmとなるように塗工し、乾燥させて、塗工体を作製した。
【0071】
(比較例3)
(金属複合有機樹脂粒子及び塗工体の製造)
スチレン40重量部、ジビニルベンゼン30重量部、シランカップリング剤(KBM5103、アクリル基含有シランカップリング剤)30重量部、過酸化ベンゾイル1重量部からなる油性物質を、イオン交換水400重量部、ポリビニルアルコール1重量部を溶解させた水系溶液に懸濁させ、懸濁重合を行うことにより、有機ケイ素複合粒子を作製した。
得られた有機ケイ素複合粒子10重量部と、エチルセルロース30重量部と、トルエン30重量部と、MEK30重量部とを、3本ロールで5分間混練し、バーコーターにより乾燥厚み20μmとなるように塗工し、乾燥させて、塗工体を作製した。
【0072】
(比較例4)
(多孔質有機樹脂粒子の製造)
ジビニルベンゼン100重量部、ノルマルヘプタン30重量部、過酸化ベンゾイル1重量部を溶解させて油系溶液とし、イオン交換水900重量部、ポリビニルアルコール5重量部を溶解させた水系溶液に添加し、超音波ホモジナイザーにより10分間乳化させた。セパラブルフラスコに乳化液を投入し、75℃12時間反応させて多孔質有機樹脂粒子スラリーを得た。吸引濾過により水系溶液を概略除去し、更にイオン交換水を加えて吸引濾過を繰り返し、イオン交換水で洗浄されたウェットケーキ状の多孔質有機樹脂粒子を得た。得られたウェットケーキを70℃の熱風オーブンにて24時間乾燥させ、多孔質有機樹脂粒子を作製した。
【0073】
得られた多孔質有機樹脂粒子について、走査型電子顕微鏡により1視野に約100個が観察できる倍率で観察し、任意に選択した50個の多孔質有機樹脂粒子についてノギスを用いて最長径を測定した。得られた最長径の数平均値を平均粒径とし、上記式(1)により個数基準粒子径の変動係数を算出たところ、平均粒子径は3μm、個数基準粒子径の変動係数は45%であった。
【0074】
(金属複合有機樹脂粒子及び塗工体の製造)
得られた多孔質有機樹脂粒子を用いたこと以外は実施例5と同様にして、酸化ケイ素が多孔質有機樹脂粒子の細孔内に析出した酸化ケイ素複合粒子、及び、塗工体を作製した。
【0075】
(評価)
実施例、比較例で得られた金属複合有機樹脂粒子、塗工体について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
(1)金属複合有機樹脂粒子の平均粒子径、個数基準粒子径の変動係数
得られた金属複合有機樹脂粒子について、走査型電子顕微鏡により1視野に約100個が観察できる倍率で観察し、任意に選択した50個の金属複合有機樹脂粒子についてノギスを用いて最長径を測定した。得られた最長径の数平均値を金属複合有機樹脂粒子の平均粒子径とした。金属複合有機樹脂粒子の個数基準粒子径の変動係数(CV)は、得られた平均粒子径mと標準偏差σから、下記式(4)により算出した。
CV=σ/m×100(%) (4)
【0077】
(2)金属、金属酸化物又は金属塩の粒子径
得られた金属複合有機樹脂粒子をエポキシ樹脂に包埋し、ウルトラミクロトームで断面切片を採取した後、この断面切片について、TEM/EDS装置にて元素マッピング画像を得た。得られた元素マッピング画像10点の金属、金属酸化物又は金属塩の個数平均粒子径を算出することにより、金属、金属酸化物又は金属塩の粒子径を評価した。
【0078】
(3)金属、金属酸化物又は金属塩の含有量(金属複合有機樹脂粒子)
得られた金属複合有機樹脂粒子を約1gはかりとり、800℃のマッフル炉で5時間加熱した。加熱前後の重量から、下記式(5)により、金属複合有機樹脂粒子全体に占める金属、金属酸化物又は金属塩の含有量を算出した。
含有量=(1−(加熱後の粒子重量/加熱前の粒子重量))×100(重量%) (5)
【0079】
(4)金属、金属酸化物又は金属塩の分散性
得られた塗工体について、ウルトラミクロトームで断面切片を採取した後、この断面切片について、TEM/EDS装置にて元素マッピング画像を得た。得られた元素マッピング画像1μm四方中の元素粒子の数、元素粒子径、凝集の数から、金属、金属酸化物又は金属塩の分散性を評価した。300nm以上の粒子又は凝集が存在する場合を「×」、存在しない場合を「○」とし、300nm以上の粒子又は凝集が存在せず、かつ、金属複合有機樹脂粒子の凝集が存在しない場合を「◎」とした。
【0080】
(5)金属、金属酸化物又は金属塩の含有量(塗工体)
得られた塗工体について、塗膜をはがして約1gはかりとり、800℃のマッフル炉で5時間加熱した。加熱前後の重量から、下記式(6)により、塗膜に占める金属、金属酸化物又は金属塩の含有量を算出した。
含有量=(1−(加熱後の塗膜重量/加熱前の塗膜重量))×100(重量%) (6)
【0081】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、粒子径が極めて均一な金属複合有機樹脂粒子を提供することができる。また、本発明によれば、該金属複合有機樹脂粒子の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属、金属酸化物又は金属塩を多孔質有機樹脂粒子の細孔内に有する金属複合有機樹脂粒子であって、
前記多孔質有機樹脂粒子は、個数基準粒子径の変動係数が10%以下である
ことを特徴とする金属複合有機樹脂粒子。
【請求項2】
金属、金属酸化物又は金属塩の含有量は、金属複合有機樹脂粒子全体の5〜90重量%であることを特徴とする請求項1記載の金属複合有機樹脂粒子。
【請求項3】
多孔質有機樹脂粒子は、平均粒子径が0.5〜50μmであることを特徴とする請求項1又は2記載の金属複合有機樹脂粒子。
【請求項4】
多孔質有機樹脂粒子は、
非架橋ポリマーを含有する種粒子を、水を含有する分散媒中に分散させた種粒子分散液と、ラジカル重合性モノマーと、油溶性溶剤と、油溶性重合開始剤とを混合し、前記種粒子に前記ラジカル重合性モノマーと、前記油溶性溶剤と、前記油溶性重合開始剤とを吸収させて膨潤粒子液滴の分散液を調製する工程と、
前記膨潤粒子液滴中の前記ラジカル重合性モノマーを重合させる工程とを有する
方法により得られることを特徴とする請求項1、2又は3記載の金属複合有機樹脂粒子。
【請求項5】
金属、金属酸化物又は金属塩は、周期律表2a〜4b族のうちの少なくとも1種の金属、又は、該金属からなる金属酸化物若しくは金属塩であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の金属複合有機樹脂粒子。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の金属複合有機樹脂粒子を製造する方法であって、
水を主成分とする媒体中に多孔質有機樹脂粒子と金属イオンとを共存させた分散液を調製する工程と、
前記金属イオンを中和、還元若しくは酸化するか、又は、前記金属イオンの溶解度を低下させることにより、前記多孔質有機樹脂粒子の細孔内に金属、金属酸化物又は金属塩を析出させる工程とを有する
ことを特徴とする金属複合有機樹脂粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1、2、3、4又は5記載の金属複合有機樹脂粒子を製造する方法であって、
多孔質有機樹脂粒子と金属アルコキシドとを共存させた分散液を調製する工程と、
前記金属アルコキシドを加水分解及び/又は脱水縮合することにより、前記多孔質有機樹脂粒子の細孔内に金属、金属酸化物又は金属塩を析出させる工程とを有する
ことを特徴とする金属複合有機樹脂粒子の製造方法。

【公開番号】特開2011−63762(P2011−63762A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217310(P2009−217310)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】