金属錯体及びそれからなる分離材
【課題】優れたガス分離性能を有する金属錯体を提供すること。
【解決手段】5−ニトロイソフタル酸と、ニッケルイオンと、下記一般式(I);
【化1】
(式中、R1〜R8は明細書に定義されるとおりである。)とからなる金属錯体によって上記課題を解決する。
【解決手段】5−ニトロイソフタル酸と、ニッケルイオンと、下記一般式(I);
【化1】
(式中、R1〜R8は明細書に定義されるとおりである。)とからなる金属錯体によって上記課題を解決する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体及びそれからなる分離材に関する。さらに詳しくは、5−ニトロイソフタル酸と、ニッケルイオンと、該ニッケルイオンに二座配位可能な特定の有機配位子とからなる金属錯体に関する。本発明の金属錯体は、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材として好ましく、特に、メタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンなどの分離材として好ましい。
【背景技術】
【0002】
これまで、脱臭、排ガス処理などの分野で種々の吸着材が開発されている。活性炭はその代表例であり、活性炭の優れた吸着性能を利用して、空気浄化、脱硫、脱硝、有害物質除去など各種工業において広く使用されている。近年は半導体製造プロセスなどへ窒素の需要が増大しており、かかる窒素を製造する方法として、分子ふるい炭を使用して圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により空気から窒素を製造する方法が使用されている。また、分子ふるい炭は、メタノール分解ガスからの水素精製など各種ガス分離精製にも応用されている。
【0003】
圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により混合ガスを分離する際には、一般に、分離吸着材として分子ふるい炭やゼオライトなどを使用し、その平衡吸着量または吸着速度の差により分離を行っている。しかしながら、平衡吸着量の差によって混合ガスを分離する場合、これまでの吸着材では除去したいガスのみを選択的に吸着することができないため分離係数が小さくなり、装置の大型化は不可避であった。また、吸着速度の差によって混合ガスを分離する場合、ガスの種類によっては除去したいガスのみを吸着できるが、吸着と脱着を交互に行う必要があり、この場合も装置は依然として大型にならざるを得なかった。
【0004】
一方、より優れた吸着性能を与える吸着材として、外部刺激により動的構造変化を生じる高分子金属錯体が開発されている(非特許文献1、非特許文献2参照)。この新規な動的構造変化高分子金属錯体をガス吸着材として使用した場合、ある一定の圧力まではガスを吸着しないが、ある一定圧を越えるとガス吸着が始まるという特異な現象が観測されている。また、ガスの種類によって吸着開始圧が異なる現象が観測されている。
【0005】
この現象を、例えば圧力スイング吸着方式のガス分離装置における吸着材に応用した場合、非常に効率良いガス分離が可能となる。また、圧力のスイング幅を狭くすることができ、省エネルギーにも寄与する。さらに、ガス分離装置の小型化にも寄与し得るため、高純度ガスを製品として販売する際のコスト競争力を高めることができることは勿論、自社工場内部で高純度ガスを用いる場合であっても、高純度ガスを必要とする設備に要するコストを削減できるため、結局最終製品の製造コストを削減する効果を有する。
【0006】
しかしながら、さらなる装置小型化によるコスト削減が求められているのが現状であり、これを達成するために吸着性能や吸蔵性能のさらなる向上が求められている。
【0007】
イソフタル酸誘導体と金属イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、イソフタル酸誘導体の例として5−ニトロイソフタル酸は開示されておらず、また、金属イオンが吸着性能に与える効果についても何ら言及されていない。
【0008】
5−ニトロイソフタル酸と亜鉛イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体が知られている(特許文献2参照)。しかしながら、亜鉛イオン以外の金属イオンが吸着性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0009】
イソフタル酸誘導体と金属イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、イソフタル酸誘導体の例として5−ニトロイソフタル酸は開示されておらず、また、金属イオンが吸着性能に与える効果についても何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−247884公報
【特許文献2】特開2010−158617公報
【特許文献3】特開2010−180202公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】植村一広、北川進、未来材料、第2巻、44〜51頁(2002年)
【非特許文献2】松田亮太郎、北川進、ペトロテック、第26巻、97〜104頁(2003年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、従来よりも高い選択性を発現するガス分離材として使用できる金属錯体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討し、5−ニトロイソフタル酸と、ニッケルイオンと、該ニッケルイオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体により、上記目的を達成することができることを見出し、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
(1)5−ニトロイソフタル酸と、ニッケルイオンと、下記一般式(I);
【0015】
【化1】
【0016】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはハロゲン原子であるか、R2とR3、或いはR6とR7は一緒になって置換基を有していてもよいアルケニレン基を形成してもよい。)で表される該ニッケルイオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる金属錯体。
(2)(1)に記載の金属錯体からなる分離材。
(3)該分離材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材である(3)に記載の分離材。
(4)該分離材が、メタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンを分離するための分離材である(3)に記載の分離材。
(5)5−ニトロイソフタル酸と、ニッケル塩と、該ニッケルイオンに二座配位可能な有機配位子(I)とを溶媒中で反応させ、析出させる、(1)に記載の金属錯体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、5−ニトロイソフタル酸と、ニッケルイオンと、該ニッケルイオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる金属錯体を提供することができる。
【0018】
本発明の金属錯体は、各種ガスの分離性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気などを分離するための分離材として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図2】比較合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図3】比較合成例2で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図4】比較合成例3で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図5】比較合成例4で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図6】合成例1で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=60:40からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における破過曲線を測定した結果である。
【図7】比較合成例1で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=60:40からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における破過曲線を測定した結果である。
【図8】比較合成例2で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=60:40からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における破過曲線を測定した結果である。
【図9】比較合成例3で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=60:40からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における破過曲線を測定した結果である。
【図10】比較合成例4で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=60:40からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における破過曲線を測定した結果である。
【図11】合成例1で得た金属錯体について、容量比でメタン:エタン=90:10からなるメタンとエタンの混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における破過曲線を測定した結果である。
【図12】比較合成例3で得た金属錯体について、容量比でメタン:エタン=90:10からなるメタンとエタンの混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における破過曲線を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の金属錯体は、5−ニトロイソフタル酸と、ニッケルイオンと、該ニッケルイオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる。
【0021】
金属錯体は、5−ニトロイソフタル酸と、ニッケル塩と、二座配位可能な有機配位子(I)とを、常圧下、溶媒中で数時間から数日間反応させ、析出させて製造することができる。例えば、ニッケル塩の水溶液または有機溶媒溶液と、5−ニトロイソフタル酸及び二座配位可能な有機配位子(I)を含有する有機溶媒溶液とを、常圧下で混合して反応させることにより得ることができる。
【0022】
金属錯体の製造に用いるニッケル塩としては、酢酸塩、ギ酸塩などの有機酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩などの無機酸塩を使用することができる。
【0023】
本発明に用いられる二座配位可能な有機配位子(I)は下記一般式(I);
【0024】
【化2】
【0025】
で表される。式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはハロゲン原子であるか、R2とR3、或いはR6とR7が一緒になって置換基を有していてもよいアルケニレン基を形成してもよい。
【0026】
上記R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8を構成することのできる置換基の内、アルキル基の炭素原子数は1〜5が好ましい。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖または分岐を有するアルキル基が、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が、それぞれ挙げられる。また、該アルキル基が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。アルキル基の置換基の数は、1〜3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0027】
上記アルケニレン基の炭素数は、2が好ましい。アルケニレン基の炭素数が2の場合、R2とR3、或いはR6とR7はそれらが結合している炭素原子と一緒になって6員環(ベンゼン)を構成する。
【0028】
また、該アルケニレン基が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。
【0029】
二座配位可能な有機配位子(I)としては、例えば、4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジン及びジアザピレンを挙げることができ、中でも4,4’−ビピリジルが好ましい。ここで、二座配位可能な有機配位子とは非共有電子対でニッケルイオンに対して配位する部位を2箇所持つ中性配位子を意味する。
【0030】
金属錯体を製造するときの5−ニトロイソフタル酸と二座配位可能な有機配位子(I)との混合比率は、5−ニトロイソフタル酸:二座配位可能な有機配位子(I)=1:5〜8:1のモル比の範囲内が好ましく、1:3〜6:1のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下し、副反応も増えるために好ましくない。
【0031】
金属錯体を製造するときのニッケル塩と二座配位可能な有機配位子(I)の混合比率は、ニッケル塩:二座配位可能な有機配位子(I)=3:1〜1:3のモル比の範囲内が好ましく、2:1〜1:2のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲では目的とする金属錯体の収率が低下し、また、未反応の原料が残留して得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0032】
金属錯体を製造するための混合溶液における5−ニトロイソフタル酸のモル濃度は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.05〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0033】
金属錯体を製造するための混合溶液におけるニッケル塩のモル濃度は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.05〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では未反応のニッケル塩が残留し、得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0034】
金属錯体を製造するための混合溶液における二座配位可能な有機配位子(I)のモル濃度は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.05〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0035】
金属錯体の製造に用いる溶媒としては、有機溶媒、水またはそれらの混合溶媒を使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、水またはこれらの混合溶媒を使用することができる。反応温度としては、253〜423Kが好ましい。
【0036】
結晶性の良い金属錯体は、純度が高くて吸着性能が良い。反応が終了したことはガスクロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーにより原料の残存量を定量することにより確認することができる。反応終了後、得られた混合液を吸引濾過に付して沈殿物を集め、有機溶媒による洗浄後、373K程度で数時間真空乾燥することにより、本発明の金属錯体を得ることができる。
【0037】
以上のようにして得られる本発明の金属錯体は、ジカルボン酸化合物(I)とニッケルイオンとからなる一次元鎖が、二座配位子により連結された二次元シートが形成されている。そして、これらの二次元シートが集積することにより、細孔(一次元チャンネル)を有する三次元構造をとる。
【0038】
金属錯体における三次元構造は、合成後の結晶においても変化できるため、その変化に伴って、細孔の構造や大きさも変化する。この構造が変化する条件は、吸着される物質の種類、吸着圧力、吸着温度に依存する。すなわち、細孔表面と物質の相互作用の差に加え(相互作用の強さは物質のLennard−Jonesポテンシャルの大きさに比例)、吸着する物質により構造変化の程度が異なるため、高い選択性が発現する。本発明では、5−ニトロイソフタル酸を用いて細孔表面の電荷密度を制御すると共に、ニッケルイオンを用いることで、構造変化のし易さを制御し、高い混合ガス分離性能を発現させることができる。吸着された物質が脱着した後は、元の構造に戻るので、細孔の大きさも元に戻る。
【0039】
前記の選択吸着メカニズムは推定ではあるが、例え前記メカニズムに従っていない場合でも、本発明で規定する要件を満足するのであれば、本発明の技術的範囲に包含される。
【0040】
本発明の金属錯体は、各種ガスの分離性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど)、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン(ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなど)、水蒸気または有機蒸気などを分離するための分離材として好ましく、特に、メタン中の二酸化炭素、水素中の二酸化炭素、窒素中の二酸化炭素、メタン中のエタンまたは空気中のメタンなどを、圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により分離するのに適している。有機蒸気とは、常温、常圧で液体状の有機物質の気化ガスを意味する。このような有機物質としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;トリメチルアミンなどのアミン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類;炭素数5〜16の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;塩化メチル、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例および比較例における分析および評価は次のようにして行った。
【0042】
(1)粉末X線回折パターンの測定
X線回折装置を用いて、回折角(2θ)=5〜50°の範囲を走査速度1°/分で走査し、対称反射法で測定した。測定条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社リガク製RINT2400
X線源:CuKα(λ=1.5418Å) 40kV 200mA
ゴニオメーター:縦型ゴニオメーター
検出器:シンチレーションカウンター
ステップ幅:0.02°
スリット:発散スリット=0.5°
受光スリット=0.15mm
散乱スリット=0.5°
【0043】
(2)破過曲線の測定
ガス流量計とバルブ類を備えたステンレスチューブでボンベと接続した内容積10mLの耐圧ガラス容器を用意した。測定は、耐圧ガラス容器に試料を入れ、373K、7Paで3時間乾燥し、吸着水などを除去した後に、混合ガスを流通させることで行った。このとき、出口ガスを2分おきにサンプリングし、ガスクロマトグラフィーで分析することで出口ガスの組成を算出した(入口ガスの組成はあらかじめガスクロマトグラフィーを用いて測定)。測定条件の詳細を以下に示す。
<測定条件>
装置:株式会社島津製作所製GC−14B
カラム:ジーエルサイエンス株式会社製Unibeads C 60/80
カラム温度:200℃
キャリアガス:ヘリウム
注入量:1.0mL
検出器:TCD
【0044】
<合成例1>
窒素雰囲気下、硝酸ニッケル六水和物12.3g(42mmol)、5−ニトロイソフタル酸8.92g(42mmol)及び4,4’−ビピリジル6.60g(42mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド500mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、エタノールで3回洗浄した。続いて、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体17.4g(収率97%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図1に示す。
【0045】
<比較合成例1>
窒素雰囲気下、硝酸マンガン六水和物12.1g(42mmol)、5−ニトロイソフタル酸8.92g(42mmol)及び4,4’−ビピリジル6.60g(42mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド500mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、エタノールで3回洗浄した。続いて、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体16.0g(収率90%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図2に示す。
【0046】
<比較合成例2>
窒素雰囲気下、硝酸コバルト六水和物4.91g(17mmol)、5−ニトロイソフタル酸3.57g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.64g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、エタノールで3回洗浄した。続いて、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体6.68g(収率93%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図3に示す。
【0047】
<比較合成例3>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物12.6g(42mmol)、5−ニトロイソフタル酸8.92g(42mmol)及び4,4’−ビピリジル6.60g(42mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド500mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、エタノールで3回洗浄した。続いて、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体15.5g(収率85%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図4に示す。
【0048】
<比較合成例4>
窒素雰囲気下、硝酸ニッケル六水和物4.91g(17mmol)、5−メトキシイソフタル酸3.32g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.64g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、エタノールで3回洗浄した。続いて、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体6.54g(収率95%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図5に示す。
【0049】
<実施例1>
合成例1で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=60:40からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における分離性能を測定した。結果を図6に示す。
【0050】
<比較例1>
比較合成例1で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=60:40からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における分離性能を測定した。結果を図7に示す。
【0051】
<比較例2>
比較合成例2で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=60:40からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における分離性能を測定した。結果を図8に示す。
【0052】
<比較例3>
比較合成例3で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=60:40からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における分離性能を測定した。結果を図9に示す。
【0053】
<比較例4>
比較合成例4で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=60:40からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における分離性能を測定した。結果を図10に示す。
【0054】
図6と図7〜図10の比較より、本発明の金属錯体はメタンを99.5%以上にまで濃縮でき、かつ二酸化炭素の破過時間が長いので、メタンと二酸化炭素の分離材として優れていることは明らかである。
【0055】
<実施例2>
合成例1で得た金属錯体について、容量比でメタン:エタン=90:10からなるメタンとエタンの混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における分離性能を測定した。結果を図11に示す。
【0056】
<比較例5>
比較合成例3で得た金属錯体について、容量比でメタン:エタン=90:10からなるメタンとエタンの混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における分離性能を測定した。結果を図12に示す。
【0057】
図11と図12の比較より、本発明の金属錯体はメタンを99.5%以上にまで濃縮でき、かつエタンの破過時間が長いので、メタンとエタンの分離材として優れていることは明らかである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体及びそれからなる分離材に関する。さらに詳しくは、5−ニトロイソフタル酸と、ニッケルイオンと、該ニッケルイオンに二座配位可能な特定の有機配位子とからなる金属錯体に関する。本発明の金属錯体は、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材として好ましく、特に、メタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンなどの分離材として好ましい。
【背景技術】
【0002】
これまで、脱臭、排ガス処理などの分野で種々の吸着材が開発されている。活性炭はその代表例であり、活性炭の優れた吸着性能を利用して、空気浄化、脱硫、脱硝、有害物質除去など各種工業において広く使用されている。近年は半導体製造プロセスなどへ窒素の需要が増大しており、かかる窒素を製造する方法として、分子ふるい炭を使用して圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により空気から窒素を製造する方法が使用されている。また、分子ふるい炭は、メタノール分解ガスからの水素精製など各種ガス分離精製にも応用されている。
【0003】
圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により混合ガスを分離する際には、一般に、分離吸着材として分子ふるい炭やゼオライトなどを使用し、その平衡吸着量または吸着速度の差により分離を行っている。しかしながら、平衡吸着量の差によって混合ガスを分離する場合、これまでの吸着材では除去したいガスのみを選択的に吸着することができないため分離係数が小さくなり、装置の大型化は不可避であった。また、吸着速度の差によって混合ガスを分離する場合、ガスの種類によっては除去したいガスのみを吸着できるが、吸着と脱着を交互に行う必要があり、この場合も装置は依然として大型にならざるを得なかった。
【0004】
一方、より優れた吸着性能を与える吸着材として、外部刺激により動的構造変化を生じる高分子金属錯体が開発されている(非特許文献1、非特許文献2参照)。この新規な動的構造変化高分子金属錯体をガス吸着材として使用した場合、ある一定の圧力まではガスを吸着しないが、ある一定圧を越えるとガス吸着が始まるという特異な現象が観測されている。また、ガスの種類によって吸着開始圧が異なる現象が観測されている。
【0005】
この現象を、例えば圧力スイング吸着方式のガス分離装置における吸着材に応用した場合、非常に効率良いガス分離が可能となる。また、圧力のスイング幅を狭くすることができ、省エネルギーにも寄与する。さらに、ガス分離装置の小型化にも寄与し得るため、高純度ガスを製品として販売する際のコスト競争力を高めることができることは勿論、自社工場内部で高純度ガスを用いる場合であっても、高純度ガスを必要とする設備に要するコストを削減できるため、結局最終製品の製造コストを削減する効果を有する。
【0006】
しかしながら、さらなる装置小型化によるコスト削減が求められているのが現状であり、これを達成するために吸着性能や吸蔵性能のさらなる向上が求められている。
【0007】
イソフタル酸誘導体と金属イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、イソフタル酸誘導体の例として5−ニトロイソフタル酸は開示されておらず、また、金属イオンが吸着性能に与える効果についても何ら言及されていない。
【0008】
5−ニトロイソフタル酸と亜鉛イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体が知られている(特許文献2参照)。しかしながら、亜鉛イオン以外の金属イオンが吸着性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0009】
イソフタル酸誘導体と金属イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、イソフタル酸誘導体の例として5−ニトロイソフタル酸は開示されておらず、また、金属イオンが吸着性能に与える効果についても何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−247884公報
【特許文献2】特開2010−158617公報
【特許文献3】特開2010−180202公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】植村一広、北川進、未来材料、第2巻、44〜51頁(2002年)
【非特許文献2】松田亮太郎、北川進、ペトロテック、第26巻、97〜104頁(2003年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、従来よりも高い選択性を発現するガス分離材として使用できる金属錯体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討し、5−ニトロイソフタル酸と、ニッケルイオンと、該ニッケルイオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体により、上記目的を達成することができることを見出し、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
(1)5−ニトロイソフタル酸と、ニッケルイオンと、下記一般式(I);
【0015】
【化1】
【0016】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはハロゲン原子であるか、R2とR3、或いはR6とR7は一緒になって置換基を有していてもよいアルケニレン基を形成してもよい。)で表される該ニッケルイオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる金属錯体。
(2)(1)に記載の金属錯体からなる分離材。
(3)該分離材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材である(3)に記載の分離材。
(4)該分離材が、メタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンを分離するための分離材である(3)に記載の分離材。
(5)5−ニトロイソフタル酸と、ニッケル塩と、該ニッケルイオンに二座配位可能な有機配位子(I)とを溶媒中で反応させ、析出させる、(1)に記載の金属錯体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、5−ニトロイソフタル酸と、ニッケルイオンと、該ニッケルイオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる金属錯体を提供することができる。
【0018】
本発明の金属錯体は、各種ガスの分離性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気などを分離するための分離材として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図2】比較合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図3】比較合成例2で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図4】比較合成例3で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図5】比較合成例4で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図6】合成例1で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=60:40からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における破過曲線を測定した結果である。
【図7】比較合成例1で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=60:40からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における破過曲線を測定した結果である。
【図8】比較合成例2で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=60:40からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における破過曲線を測定した結果である。
【図9】比較合成例3で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=60:40からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における破過曲線を測定した結果である。
【図10】比較合成例4で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=60:40からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における破過曲線を測定した結果である。
【図11】合成例1で得た金属錯体について、容量比でメタン:エタン=90:10からなるメタンとエタンの混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における破過曲線を測定した結果である。
【図12】比較合成例3で得た金属錯体について、容量比でメタン:エタン=90:10からなるメタンとエタンの混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における破過曲線を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の金属錯体は、5−ニトロイソフタル酸と、ニッケルイオンと、該ニッケルイオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる。
【0021】
金属錯体は、5−ニトロイソフタル酸と、ニッケル塩と、二座配位可能な有機配位子(I)とを、常圧下、溶媒中で数時間から数日間反応させ、析出させて製造することができる。例えば、ニッケル塩の水溶液または有機溶媒溶液と、5−ニトロイソフタル酸及び二座配位可能な有機配位子(I)を含有する有機溶媒溶液とを、常圧下で混合して反応させることにより得ることができる。
【0022】
金属錯体の製造に用いるニッケル塩としては、酢酸塩、ギ酸塩などの有機酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩などの無機酸塩を使用することができる。
【0023】
本発明に用いられる二座配位可能な有機配位子(I)は下記一般式(I);
【0024】
【化2】
【0025】
で表される。式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはハロゲン原子であるか、R2とR3、或いはR6とR7が一緒になって置換基を有していてもよいアルケニレン基を形成してもよい。
【0026】
上記R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8を構成することのできる置換基の内、アルキル基の炭素原子数は1〜5が好ましい。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖または分岐を有するアルキル基が、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が、それぞれ挙げられる。また、該アルキル基が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。アルキル基の置換基の数は、1〜3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0027】
上記アルケニレン基の炭素数は、2が好ましい。アルケニレン基の炭素数が2の場合、R2とR3、或いはR6とR7はそれらが結合している炭素原子と一緒になって6員環(ベンゼン)を構成する。
【0028】
また、該アルケニレン基が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。
【0029】
二座配位可能な有機配位子(I)としては、例えば、4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジン及びジアザピレンを挙げることができ、中でも4,4’−ビピリジルが好ましい。ここで、二座配位可能な有機配位子とは非共有電子対でニッケルイオンに対して配位する部位を2箇所持つ中性配位子を意味する。
【0030】
金属錯体を製造するときの5−ニトロイソフタル酸と二座配位可能な有機配位子(I)との混合比率は、5−ニトロイソフタル酸:二座配位可能な有機配位子(I)=1:5〜8:1のモル比の範囲内が好ましく、1:3〜6:1のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下し、副反応も増えるために好ましくない。
【0031】
金属錯体を製造するときのニッケル塩と二座配位可能な有機配位子(I)の混合比率は、ニッケル塩:二座配位可能な有機配位子(I)=3:1〜1:3のモル比の範囲内が好ましく、2:1〜1:2のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲では目的とする金属錯体の収率が低下し、また、未反応の原料が残留して得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0032】
金属錯体を製造するための混合溶液における5−ニトロイソフタル酸のモル濃度は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.05〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0033】
金属錯体を製造するための混合溶液におけるニッケル塩のモル濃度は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.05〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では未反応のニッケル塩が残留し、得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0034】
金属錯体を製造するための混合溶液における二座配位可能な有機配位子(I)のモル濃度は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.05〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0035】
金属錯体の製造に用いる溶媒としては、有機溶媒、水またはそれらの混合溶媒を使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、水またはこれらの混合溶媒を使用することができる。反応温度としては、253〜423Kが好ましい。
【0036】
結晶性の良い金属錯体は、純度が高くて吸着性能が良い。反応が終了したことはガスクロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーにより原料の残存量を定量することにより確認することができる。反応終了後、得られた混合液を吸引濾過に付して沈殿物を集め、有機溶媒による洗浄後、373K程度で数時間真空乾燥することにより、本発明の金属錯体を得ることができる。
【0037】
以上のようにして得られる本発明の金属錯体は、ジカルボン酸化合物(I)とニッケルイオンとからなる一次元鎖が、二座配位子により連結された二次元シートが形成されている。そして、これらの二次元シートが集積することにより、細孔(一次元チャンネル)を有する三次元構造をとる。
【0038】
金属錯体における三次元構造は、合成後の結晶においても変化できるため、その変化に伴って、細孔の構造や大きさも変化する。この構造が変化する条件は、吸着される物質の種類、吸着圧力、吸着温度に依存する。すなわち、細孔表面と物質の相互作用の差に加え(相互作用の強さは物質のLennard−Jonesポテンシャルの大きさに比例)、吸着する物質により構造変化の程度が異なるため、高い選択性が発現する。本発明では、5−ニトロイソフタル酸を用いて細孔表面の電荷密度を制御すると共に、ニッケルイオンを用いることで、構造変化のし易さを制御し、高い混合ガス分離性能を発現させることができる。吸着された物質が脱着した後は、元の構造に戻るので、細孔の大きさも元に戻る。
【0039】
前記の選択吸着メカニズムは推定ではあるが、例え前記メカニズムに従っていない場合でも、本発明で規定する要件を満足するのであれば、本発明の技術的範囲に包含される。
【0040】
本発明の金属錯体は、各種ガスの分離性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど)、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン(ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなど)、水蒸気または有機蒸気などを分離するための分離材として好ましく、特に、メタン中の二酸化炭素、水素中の二酸化炭素、窒素中の二酸化炭素、メタン中のエタンまたは空気中のメタンなどを、圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により分離するのに適している。有機蒸気とは、常温、常圧で液体状の有機物質の気化ガスを意味する。このような有機物質としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;トリメチルアミンなどのアミン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類;炭素数5〜16の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;塩化メチル、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例および比較例における分析および評価は次のようにして行った。
【0042】
(1)粉末X線回折パターンの測定
X線回折装置を用いて、回折角(2θ)=5〜50°の範囲を走査速度1°/分で走査し、対称反射法で測定した。測定条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社リガク製RINT2400
X線源:CuKα(λ=1.5418Å) 40kV 200mA
ゴニオメーター:縦型ゴニオメーター
検出器:シンチレーションカウンター
ステップ幅:0.02°
スリット:発散スリット=0.5°
受光スリット=0.15mm
散乱スリット=0.5°
【0043】
(2)破過曲線の測定
ガス流量計とバルブ類を備えたステンレスチューブでボンベと接続した内容積10mLの耐圧ガラス容器を用意した。測定は、耐圧ガラス容器に試料を入れ、373K、7Paで3時間乾燥し、吸着水などを除去した後に、混合ガスを流通させることで行った。このとき、出口ガスを2分おきにサンプリングし、ガスクロマトグラフィーで分析することで出口ガスの組成を算出した(入口ガスの組成はあらかじめガスクロマトグラフィーを用いて測定)。測定条件の詳細を以下に示す。
<測定条件>
装置:株式会社島津製作所製GC−14B
カラム:ジーエルサイエンス株式会社製Unibeads C 60/80
カラム温度:200℃
キャリアガス:ヘリウム
注入量:1.0mL
検出器:TCD
【0044】
<合成例1>
窒素雰囲気下、硝酸ニッケル六水和物12.3g(42mmol)、5−ニトロイソフタル酸8.92g(42mmol)及び4,4’−ビピリジル6.60g(42mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド500mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、エタノールで3回洗浄した。続いて、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体17.4g(収率97%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図1に示す。
【0045】
<比較合成例1>
窒素雰囲気下、硝酸マンガン六水和物12.1g(42mmol)、5−ニトロイソフタル酸8.92g(42mmol)及び4,4’−ビピリジル6.60g(42mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド500mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、エタノールで3回洗浄した。続いて、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体16.0g(収率90%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図2に示す。
【0046】
<比較合成例2>
窒素雰囲気下、硝酸コバルト六水和物4.91g(17mmol)、5−ニトロイソフタル酸3.57g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.64g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、エタノールで3回洗浄した。続いて、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体6.68g(収率93%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図3に示す。
【0047】
<比較合成例3>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物12.6g(42mmol)、5−ニトロイソフタル酸8.92g(42mmol)及び4,4’−ビピリジル6.60g(42mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド500mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、エタノールで3回洗浄した。続いて、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体15.5g(収率85%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図4に示す。
【0048】
<比較合成例4>
窒素雰囲気下、硝酸ニッケル六水和物4.91g(17mmol)、5−メトキシイソフタル酸3.32g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.64g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、エタノールで3回洗浄した。続いて、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体6.54g(収率95%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図5に示す。
【0049】
<実施例1>
合成例1で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=60:40からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における分離性能を測定した。結果を図6に示す。
【0050】
<比較例1>
比較合成例1で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=60:40からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における分離性能を測定した。結果を図7に示す。
【0051】
<比較例2>
比較合成例2で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=60:40からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における分離性能を測定した。結果を図8に示す。
【0052】
<比較例3>
比較合成例3で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=60:40からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における分離性能を測定した。結果を図9に示す。
【0053】
<比較例4>
比較合成例4で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=60:40からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における分離性能を測定した。結果を図10に示す。
【0054】
図6と図7〜図10の比較より、本発明の金属錯体はメタンを99.5%以上にまで濃縮でき、かつ二酸化炭素の破過時間が長いので、メタンと二酸化炭素の分離材として優れていることは明らかである。
【0055】
<実施例2>
合成例1で得た金属錯体について、容量比でメタン:エタン=90:10からなるメタンとエタンの混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における分離性能を測定した。結果を図11に示す。
【0056】
<比較例5>
比較合成例3で得た金属錯体について、容量比でメタン:エタン=90:10からなるメタンとエタンの混合ガスを用い、273K、0.7MPaG、空間速度6min−1における分離性能を測定した。結果を図12に示す。
【0057】
図11と図12の比較より、本発明の金属錯体はメタンを99.5%以上にまで濃縮でき、かつエタンの破過時間が長いので、メタンとエタンの分離材として優れていることは明らかである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5−ニトロイソフタル酸と、ニッケルイオンと、下記一般式(I);
【化1】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはハロゲン原子であるか、R2とR3、或いはR6とR7は一緒になって置換基を有していてもよいアルケニレン基を形成してもよい。)とからなる金属錯体。
【請求項2】
請求項1に記載の金属錯体からなる分離材。
【請求項3】
該分離材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材である請求項2に記載の分離材。
【請求項4】
該分離材が、メタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンを分離するための分離材である請求項2に記載の分離材。
【請求項5】
5−ニトロイソフタル酸と、ニッケル塩と、該ニッケルイオンに二座配位可能な有機配位子とを溶媒中で反応させ、析出させる、請求項1に記載の金属錯体の製造方法。
【請求項1】
5−ニトロイソフタル酸と、ニッケルイオンと、下記一般式(I);
【化1】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはハロゲン原子であるか、R2とR3、或いはR6とR7は一緒になって置換基を有していてもよいアルケニレン基を形成してもよい。)とからなる金属錯体。
【請求項2】
請求項1に記載の金属錯体からなる分離材。
【請求項3】
該分離材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材である請求項2に記載の分離材。
【請求項4】
該分離材が、メタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンを分離するための分離材である請求項2に記載の分離材。
【請求項5】
5−ニトロイソフタル酸と、ニッケル塩と、該ニッケルイオンに二座配位可能な有機配位子とを溶媒中で反応させ、析出させる、請求項1に記載の金属錯体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−180321(P2012−180321A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45232(P2011−45232)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発」「化学品原料の転換・多様性を可能とする革新グリーン技術の開発」「気体原料の高効率利用技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発」「化学品原料の転換・多様性を可能とする革新グリーン技術の開発」「気体原料の高効率利用技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
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