説明

釣り用履き物

【課題】容易に製造されてかつ軽量な防水性の釣り用履き物2の提供。
【解決手段】釣り用履き物2は、アッパー20を含む本体6と、その全部又は一部がこの本体に収容されたインナー10と、この本体6に収容されかつインナー10と接合されたインソール8とを備えている。インナー10とインソール8とは、一体としてソックス形状を呈している。インナー10は、アッパー20の開口部24の近傍において、本体6と接合されている。本体6は、エチレン−酢酸ビニル共重合体を基材とする。本体6は、多数の独立気泡を含む。本体6は、射出成形によって得られる。インナー10は、ポリクロロプレンを基材とする軟質ゴム層を含む。インソール8は、エチレン−酢酸ビニル共重合体を基材とする。インソール8は、多数の独立気泡を含む。インソール8は、インナー10よりも硬質である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣り人に着用される履き物に関する。詳細には、本発明は、防水性を備えた釣り用履き物に関する。
【背景技術】
【0002】
船釣りでは、汲み上げられた海水がバケツ、生け簀等に蓄えられる。この海水がこぼれ出して、釣り人の靴にかかることがある。波の高い時には、海水が直接デッキに達し、釣り人の靴にかかることがある。さらに、雨天時に釣りがなされることもある。釣り人は、足がぬれることを防止する目的で、防水靴や防水ブーツを着用する。船以外の場所においても、釣り人は防水靴や防水ブーツを着用する。
【0003】
特開平11−70002号公報には、防水ブーツが開示されている。この防水ブーツは、ゴム製の本体と、この本体の内側において本体と積層された裏地とからなる。このブーツでは、ゴムが防水性に寄与し、裏地が履きやすさに寄与する。このブーツの製造では、まずラストに裏地が被せられる。次に、この裏地に未架橋のゴムシートが貼り付けられ、予備成形体が得られる。この予備成形体が加熱されることでゴムが架橋され、ブーツが得られる。
【特許文献1】特開平11−70002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このブーツの製造には、手間がかかる。しかも、ゴムの比重が大きいので、このブーツは概して重い。このブーツを着用した釣り人は、疲れやすい。本発明の目的は、容易に製造されてかつ軽量な防水性の釣り用履き物の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る釣り用履き物は、アッパーを含む本体と、その全部又は一部がこの本体に収容されたインナーと、この本体に収容されかつインナーと接合されたインソールとを備える。インナーとインソールとは、一体としてソックス形状を形成する。この本体は、多数の独立気泡を含むポリマー成形体からなる。このインナーは、軟質ゴム層を備える。このインソールは、インナーよりも硬質である。
【0006】
好ましくは、インナーは、軟質ゴム層に積層されたジャージー層をさらに備える。好ましくは、アッパーの開口部の近傍において、インナーが本体と接合される。好ましくは、この履き物は、本体の底面に接合されたアウトソールをさらに備える。
【0007】
好ましくは、本体の基材ポリマーは、エチレン−酢酸ビニル共重合体である。好ましくは、軟質ゴム層の基材ポリマーは、ポリクロロプレンである。
【0008】
本発明に係る釣り用履き物の製造方法は、
(1)発泡剤を含むポリマー組成物が金型に充填される工程、
(2)この発泡剤の発泡によりポリマー組成物が膨張し、アッパーを含む本体が得られる 工程、
(3)軟質ゴム層を備えたインナーにこのインナーよりも硬質なインソールが接合され、 ソックス形状が形成される工程
並びに
(4)このインナー及びインソールが本体に収容され、インナーが本体と接合される工程を含む。好ましくは、インナーは、アッパーの開口部の近傍において本体と接合される。
【発明の効果】
【0009】
この履き物では、本体が多数の独立気泡を含むポリマー成形体からなるので、軽量である。この履き物は、ラストが用いられた作業を経ることなく製造されうる。この製造方法は簡便であり、かつ低コストである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0011】
図1は本発明の一実施形態に係る釣り用履き物としての防水靴2が示された正面図であり、図2はその断面図であり、図3はその分解図である。この防水靴2は、アウトソール4、本体6、インソール8、インナー10、ストリップ12、引き紐14及びストッパー16を備えている。
【0012】
アウトソール4は、ゴム組成物が架橋されてなる。アウトソール4には、耐摩耗性及び耐滑性に優れたゴムが用いられる。好ましいゴムとしては、天然ゴム、ポリブタジエン及びスチレン−ブタジエン共重合体が例示される。アウトソール4の下面には、多数の溝18が形成されている。この溝18により、防水靴2に耐滑性が付与されている。アウトソール4が、フェルトから構成されてもよい。
【0013】
図2に示されるように、本体6は、アッパー20とミッドソール22とからなる。アッパー20とミッドソール22とは、一体的に成形されている。アッパー20は、ミッドソール22から上方に延びている。アッパー20は、開口部24を備えている。ミッドソール22の下面には、アウトソール4が積層されている。
【0014】
本体6は、エチレン−酢酸ビニル共重合体を基材ポリマーとする成形体である。本体6に、他のポリマーが用いられてもよい。他のポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリ塩化ビニルが例示される。強度、形状復元性、成形容易性及び低公害性の観点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましい。本体6は、非透水性である。本体6により、靴2に防水性能が付与される。
【0015】
本体6は、多数の独立気泡を含んでいる。独立気泡は、本体6の非透水性を阻害しない。さらに独立気泡は、保温性に寄与する。気泡は、熱分解型発泡剤の発泡によって形成されている。用いられる熱分解型発泡剤としては、アゾ化合物(例えばアゾジカルボンアミド)、ニトロソ化合物(例えばジニトロソペンタメチレンテトラミン)及びトリアゾール化合物が例示される。低沸点型の発泡剤が用いられてもよい。
【0016】
本体6の発泡倍率(気泡が存在する場合の密度に対する気泡が存在しない場合の密度の比)は、2以上20以下が好ましい。発泡倍率が2以上に設定されることにより、本体6の軽量化が達成される。この観点から、発泡倍率は3以上がより好ましい。発泡倍率が20以下に設定されることにより、本体6の強度が維持される。この観点から、発泡倍率は15以下がより好ましい。
【0017】
JIS−A型硬度計で測定された本体6の硬度Hsは、6以上15以下が好ましい。本体6の厚みは、2mm以上15mm以下が好ましい。
【0018】
図2に示されるように、インソール8は本体6に収容されている。インソール8は、シート状である。インソール8は、気泡を含むポリマー成形体である。インソール8に適したポリマーとしては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、天然ゴム及び各種合成ゴムが例示される。インソール8の気泡は、独立気泡でもよく、連続気泡でもよい。非透水性の観点から、独立気泡が好ましい。
【0019】
後に詳説されるように、インソール8はインナー10よりも硬質である。インソール8の硬度Hsは、15以上40以下が好ましい。インソール8の厚みは、1mm以上8mm以下が好ましい。
【0020】
図2に示されるように、インナー10は足部26、脛部28及び履き口29を備えている。脛部28は、足部26と一体的に形成されており、足部26から上方に延びている。足部26は本体6に収容されており、本体6の内周にほぼ沿っている。足部26は、着用者の足の甲、踵、内側部及び外側部に当接する。脛部28は、本体6の開口部24よりも上方に延びている。脛部28は、露出している。脛部28は、着用者の足首及び脛に当接する。
【0021】
足部26の周縁は、インソール8の周縁と接合されている。接合は、縫合により達成されている。接着剤により、接合がなされもよい。接合によって、フランジ状の接合部31が形成されている。接合部31にシームテープ(図示されず)が貼られることにより、接合部31の水密が達成されうる。接合により、インナー10とインソール8とが一体とされる。インナー10とインソール8とは、ソックス形状を呈する。
【0022】
図4は、図1の防水靴2の一部が示された拡大断面図である。この図4には、本体6及びインナー10が示されている。インナー10は、軟質ゴム層30と、この軟質ゴム層30の両面に積層されたジャージー層32とを備えている。軟質ゴム層30には、基材ポリマーとして、ポリクロロプレンが用いられている。軟質ゴム層30に、他のゴムが用いられてもよい。軟質ゴム層30は、非透水性である。軟質ゴム層30は、靴2の防水性に寄与する。軟質ゴム層30は、本体6よりも柔軟である。この軟質ゴム層30により、防水靴2の着用感が高められている。軟質ゴム層30はさらに、保温性にも寄与する。軟質ゴム層30の硬度Hsは、6以上15以下が好ましい。軟質ゴム層30の厚みは、1mm以上15mm以下が好ましい。
【0023】
ジャージー層32は、伸縮性である。典型的には、ジャージー層32は、ナイロン糸からなる。軟質ゴム層30をジャージー層32が覆うことにより、インナー10と着用者の足との摩擦係数が低減される。足とインナー10との滑りがよいので、この防水靴2は履きやすく、かつ脱ぎやすい。ジャージー層32により、ぬくもり感も発揮される。
【0024】
図4において符号34で示されているのは、接着層である。接着層34は、本体6のアッパー20とインナー10の脛部28との間に位置している。この接着層34は、接着剤からなる。接着剤はジャージー層32に浸透し、軟質ゴム層30にまで至っている。この接着層34により、アッパー20と脛部28が接合されている。図4から明らかなように、接着層34は開口部24の近傍にある。換言すれば、本体6とインナー10とは、開口部24の近傍のみにおいて接合されている。インナー10の足部26は、本体6とは接合されていない。インソール8(図2参照)も、本体6とは接合されていない。足部26及びインソール8は、本体6に対して移動しうる。 図示されていないが、接着層34は、開口部24に沿って環状に形成されている。この接着層34により、本体6とインナー10との間への水の進入が抑制される。
【0025】
この防水靴2を履くとき、着用者は、まず足を履き口29からインナー10に入れる。このとき着用者がストリップ12を上方に引っ張れば、足が円滑にインナー10に入る。前述のようにインナー10の内側はジャージー層32なので、スリップによって足は容易に防水靴2に収まる。次に着用者は、引き紐14を引っ張ってインナー10の履き口29を絞り、ストッパー16で固定する。これにより、靴2の内部への水の進入が抑制される。
【0026】
この防水靴2を脱ぐとき、着用者は、まずストッパー16を解除し引き紐14を弛める。次に着用者は、防水靴2から足を抜く。このとき、仮にインソール8が足に連れて浮き上がったりずれたりすれば、このインソール8は変形を余儀なくされる。前述の通り、インソール8は比較的硬質であり、形状保持性を備えるので、浮き上がり及びずれが防止される。この防水靴2では、インソール8が本体6と接合されていないにもかかわらず、着用者が靴2を脱ぐときにインソール8が位置ずれを起こさない。このインソール8によってインナー10が引っ張られるので、着用者が靴2を脱ぐときにインナー10が本体6から抜けてしまうこともない。着用者は、容易に靴2を脱ぐことが出来る。
【0027】
このように、この防水靴2では、本体6が強度に寄与し、軟質ゴム層30が着用感に寄与し、インソール8が脱ぎやすさに寄与する。強度と着用感との両立の観点から、本体6の硬度Hsと軟質ゴム層30の硬度Hsとの差は2以上が好ましく、5以上がより好ましい。着用感と脱ぎやすさとの両立の観点から、インソール8の硬度Hsと軟質ゴム層30の硬度Hsとの差は5以上が好ましく、10以上がより好ましい。
【0028】
この防水靴2が得られるには、まず基材ポリマー(典型的にはエチレン−酢酸ビニル共重合体)、発泡剤、発泡助剤、着色剤及び他の添加剤が混練され、ポリマー組成物が得られる。次にこのポリマー組成物が射出成形機のシリンダー内で溶融され、外型及び内型からなる金型に充填される。この段階では、発泡剤は分解していない。次に、金型を通じてポリマー組成物が昇温される。昇温により発泡剤が発泡し、多数の気泡が得られる。金型内ではポリマー組成物が拘束されているので、気泡の体積は小さい。気泡は、高圧状態にある。次に、金型が開かれ、ポリマー組成物が大気圧下に解放される。ポリマー組成物は急激に膨張し、同時に脱型する。こうして、多数の独立気泡を含む本体6が得られる。ポリマー組成物が膨張するので、本体6から内型が容易に抜かれる。この本体6に、接着剤によってアウトソール4が接合される。
【0029】
一方、インナー10とインソール8とが用意され、両者が接合されてソックスが得られる。接合部には、シームテープが貼られる。次に、このソックスが本体6に収容される。次に、本体6の内側であって開口部24の近傍に接着剤が塗布され、この接着剤によって本体6とインナー10とが接合される。
【0030】
この製造方法では、ラストが用いられた成形は不要である。しかもこの製造方法では、インナー10が部分的に本体6と接合されるので、インナー10の全面が接合される場合に比べて手間がかからない。前述のようにインソール8が形状保持性を備えるので、インナー10と本体6との接合が部分的であっても、インナー10は本体6に対してずれにくい。射出成形では、ラストが用いられた成形と異なり、成形時に本体6の内面にインナー10を積層するには困難を伴う。本発明に係る製造方法により、インナー10が容易に本体6と接合されうる。この製造方法は、効率的である。
【0031】
本発明に係る釣り用履き物は、軽量であり、履きやすく、脱ぎやすく、着用感に優れ、低コストで得られる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る釣り用履き物は、種々の釣り場において利用されうる。この履き物には、ブーツ、足袋等が含まれる。本発明に係る履き物が、ウェーダーに装着されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る釣り用防水靴が示された正面図である。
【図2】図2は、図1の防水靴が示された断面図である。
【図3】図3は、図1の防水靴が示された分解図である。
【図4】図4は、図1の防水靴の一部が示された拡大断面図である。
【符号の説明】
【0034】
2・・・防水靴(釣り用履き物)
4・・・アウトソール
6・・・本体
8・・・インソール
10・・・インナー
20・・・アッパー
22・・・ミッドソール
24・・・開口部
26・・・足部
28・・・脛部
30・・・軟質ゴム層
32・・・ジャージー層
34・・・接着層
36・・・履き物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アッパーを含む本体と、その全部又は一部がこの本体に収容されたインナーと、この本体に収容されかつインナーと接合されたインソールとを備えており、
インナーとインソールとが一体としてソックス形状を形成しており、
この本体が多数の独立気泡を含むポリマー成形体からなり、
このインナーが軟質ゴム層を備えており、
このインソールがインナーよりも硬質である釣り用履き物。
【請求項2】
上記インナーが、軟質ゴム層に積層されたジャージー層をさらに備えている請求項1に記載の釣り用履き物。
【請求項3】
上記アッパーの開口部の近傍において、インナーが本体と接合されている請求項1又は2に記載の釣り用履き物。
【請求項4】
上記本体の底面に接合されたアウトソールをさらに備えた請求項1から3のいずれかに記載の釣り用履き物。
【請求項5】
上記本体の基材ポリマーがエチレン−酢酸ビニル共重合体である請求項1から4のいずれかに記載の釣り用履き物。
【請求項6】
上記軟質ゴム層の基材ポリマーがポリクロロプレンである請求項1から5のいずれかに記載の釣り用履き物。
【請求項7】
発泡剤を含むポリマー組成物が金型に充填される工程と、
この発泡剤の発泡によりポリマー組成物が膨張し、アッパーを含む本体が得られる工程と、
軟質ゴム層を備えたインナーにこのインナーよりも硬質なインソールが接合され、ソックス形状が形成される工程と、
このインナー及びインソールが本体に収容され、インナーが本体と接合される工程と
を含む釣り用履き物の製造方法。
【請求項8】
上記インナーが、アッパーの開口部の近傍において本体と接合される請求項7に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−181211(P2006−181211A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379697(P2004−379697)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】