説明

鉄系水蒸気吸着剤

【課題】 本発明は、水蒸気を吸脱着できるものであり、さらに、100℃以下の温度で再生が可能で繰り返し使用できる水蒸気吸着剤を提供する。
【解決手段】 鉄及びアルミニウムを含有する含水酸化鉄(α−FeO(OH)・鉄系層状化合物を主成分とする水蒸気吸着剤であって、鉄原料・アルミニウム検量とアルカリ原料を用いてpH6〜10の中性から弱アルカリ性領域の水溶液中で反応させて得ることができ、前記水蒸気吸着剤は、100℃以下の温度で脱離・再生することも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中の水蒸気を吸着する組成物である。具体的には、25℃において相対湿度96%で自重の35wt%以上の水蒸気を吸着するものであり、しかも、60℃以上で脱離・再生が可能で繰り返し使用ができる鉄系水蒸気吸着剤を提供する。
【背景技術】
【0002】
近年、デシカント空調用ローターおよび調湿壁等に使用する水蒸気吸着材料が数多く提案されているが、単位容積当たりの吸着容量が大きく、多様な吸着特性を持ち、安価で、環境に大きな負荷が小さく、低温で脱着できる材料は現在のところ知られていない。
【0003】
従来、デシカント空調用ローターおよび調湿壁等にシリカゲル・活性アルミナ・ゼオライト・活性炭などが使用されている。
【0004】
しかしながら、ゼオライトや活性アルミナなどは低湿度領域での吸着特性は優れているものの、単位容積当たりの水蒸気吸着容量が小さく、低温での水蒸気脱離(再生)が困難であった。またその合成には、高価なオートクレーブや熱処理炉等が必要なために、安価に合成することが困難であった。活性炭は単位容積当たりの水蒸気吸着容量が小さく、可燃性・黒色・生体内での分解が困難であるために、デシカント空調用ローターおよび調湿壁等に使用することが困難であった。
【0005】
また、シリカゲルについても、低温での水蒸気脱離(再生)が困難であることや中湿度領域での水蒸気吸着容量が小さいために、デシカント空調用ローターおよび調湿壁等に使用することが困難であった。
【0006】
従来、除湿剤として、シリカゲルと酸化鉄もしくは他の金属酸化物との混合物(特許文献1)、調湿剤として、鉄及びチタンの水酸化物及び酸化物の少なくとも一方を主成分とするもの(特許文献2)等が知られている。また、水和含鉄アルミニウム酸化物を消臭剤又は調湿剤等に用いることが知られている(特許文献3)。一方、含水酸化鉄を溶液中のリン及び/又はフッ素を吸着除去する吸着剤として用いることが知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−9231号公報
【特許文献2】特開2004−243206号公報
【特許文献3】特開2002−154825号公報
【特許文献4】特開2006−305551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
水蒸気の吸着剤であり、単位容積当たりの吸着容量が大きく、多様な吸着特性を持ち、安価で、環境に大きな負荷が小さく、低温で脱着できる材料は現在のところ知られていない。
【0009】
即ち、前出特許文献1乃至2には、各種鉄化合物を用いて水蒸気を吸着することが記載されているが、単位容積当たりの吸着容量が大きいとは言い難いものである。
【0010】
また、前出特許文献3には、鉄を含有する水和アルミニウム酸化物が記載されているが、水和アルミニウム酸化物を主成分とするものであり、アルミニウムを多量に含有するものであるから、水蒸気の吸着性が十分とは言い難いものである。
【0011】
また、前出特許文献4には、含水酸化鉄を溶液中のリン及び/又はフッ素を吸着除去する吸着剤が記載されているが、アルミニウムを含有するものではなく、水蒸気の吸着性が十分とは言い難いものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0013】
即ち、本発明は、鉄系水蒸気吸着剤であって、前記吸着剤はアルミニウムを2〜10wt%含有し、細孔容積0.4ml/g以上の含水酸化鉄粒子であることを特徴とする鉄系水蒸気吸着剤である(本発明1)。
【0014】
また、本発明は、含水酸化鉄粒子がα−FeO(OH)及び/又は層状化合物であることを特徴とする本発明1記載の鉄系水蒸気吸着剤である(本発明2)。
【0015】
また、本発明は、鉄原料及びアルミニウム原料と、アルカリ原料として炭酸アルカリ水溶液又は炭酸アルカリ・水酸化アルカリ混合水溶液とを用いて反応溶液のpHが6.0〜10.0の領域で合成した含水酸化鉄粒子及び/又は層状化合物であることを特徴とする本発明1又は2記載の鉄系水蒸気吸着剤である(本発明3)。
【0016】
また、本発明は、含水酸化鉄粒子及び/又は層状化合物がアルミニウム、マンガン、チタン、ジルコニウム、リンから選ばれる1種又は2種以上の元素を含有することを特徴とする本発明1乃至3のいずれかに記載の鉄系水蒸気吸着剤である(本発明4)。
【0017】
また、本発明は、本発明1乃至4のいずれかに記載の鉄系水蒸気吸着剤であって、25℃において相対湿度96%で自重の50wt%以上の水蒸気を吸着することを特徴とする鉄系水蒸気吸着剤である(本発明5)。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る鉄系水蒸気吸着剤は、広い相対湿度の範囲で水蒸気を吸着できるので、デシカント空調用ローター、調湿壁、結露防止剤、床下除湿剤として好適である。また、本発明に係る鉄系水蒸気吸着剤の製造は、高価で複雑な処理工程を必要としない。更に、硫化水素、メチルメルカプタン等の悪臭物質の除去に対しても本発明に係る鉄系水蒸気吸着剤は有効である。
【0019】
さらに、本発明に係る鉄系水蒸気吸着剤は無害な元素または化合物から構成されているので、該吸着剤自体を埋め立て処分した場合も、環境への負荷は小さい。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0021】
先ず、本発明に係る鉄系水蒸気吸着剤(以下、「吸着剤」とする。)について述べる。
【0022】
本発明に係る吸着剤は、アルミニウムを含有する含水酸化鉄粒子粉末であり、例えば、α−FeO(OH)(ゲータイト)、鉄含有層状化合物等である。
【0023】
本発明に係る吸着剤のアルミニウム含有量は、2〜10wt%である。2wt%未満の場合には、水蒸気の吸着が十分ではない。10wt%を超える場合にも、水蒸気の吸着が十分ではない。好ましいアルミニウムの含有量は3〜9wt%であり、より好ましくは4〜8wt%である。
【0024】
本発明に係る吸着剤の細孔容積は0.4ml/g以上である。細孔容積が0.4ml/g未満の場合、水蒸気の吸着量が少なくなる。好ましい細孔容積は0.45ml/g以上、より好ましくは0.5〜1.0ml/gである。
【0025】
本発明に係る吸着剤の粒子形状は針状、薄片状、樹枝状、板状等が好ましい。
【0026】
本発明に係る吸着剤のBET比表面積値は150〜500m/gが好ましい。BET比表面積値が150m/g未満の場合には、単位重量当たりの水蒸気を吸着する細孔の容積が小さくなるので好ましくない。400m/gを超える場合には、水蒸気の吸着には問題ないが、工業的に生産するには困難であり、取扱いにおいても困難である。より好ましいBET比表面積は180〜450m/gであり、更により好ましくは200〜430m/gである。
【0027】
本発明に係る吸着剤の平均1次粒子径は2〜500nmが好ましく、より好ましくは5〜200nmである。
【0028】
本発明に係る吸着剤はMn、Ti、Zr及びPから選ばれる1種以上の元素を含有してもよく、前記元素を含有することによって水蒸気の吸着能が向上する。Pの含有量は0.1〜5wt%が好ましく、より好ましくは1.0〜4wt%である。Mn、Ti、Zrの含有量は0.1〜10wt%が好ましく、より好ましくは0.5〜8wt%である。Mn、Ti、Zrは含水酸化鉄及び鉄系層状化合物中に固溶して存在させることが好ましい。
【0029】
本発明に係る吸着剤はPの含有量はFeに対するモル比(P/Fe)で1/50〜1/3が好ましい。Mn、Ti、Zrの含有量はFeに対するモル比((Mn、Ti、Zr)/Fe)で1/50〜1/3が好ましい。
【0030】
次に、本発明に係る吸着剤の製造法について述べる。
【0031】
本発明に係る吸着剤は、鉄原料及びアルミニウム原料と少なくとも炭酸アルカリを含むアルカリ原料とを混合し、反応溶液のpHを6.0〜10.0に制御して酸化反応を行って得ることができる。
【0032】
本発明における鉄原料としては、硫酸第一鉄水溶液、塩化第一鉄水溶液等を使用することができる。アルミニウム原料としては、硫酸アルミニウム水溶液、塩化アルミニウム水溶液、アルミン酸ナトリウム水溶液等を使用することができる。
【0033】
アルカリ原料は、炭酸アルカリ水溶液としては炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸アンモニウム水溶液・尿素水溶液等であり、水酸化アルカリ水溶液として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を使用することができる。
【0034】
炭酸アルカリ水溶液、又は炭酸アルカリ及び水酸化アルカリの混合水溶液の使用量は、FeとAlに対する当量比として1.2〜3、好ましくは1.3〜2.5である。
【0035】
反応時のpHは6.0〜10.0が好ましい。pHが6.0未満の場合には、BET比表面積値が低下し、吸着剤として好ましくない。pH10.0を越える場合にも、BET比表面積値が低下し、吸着剤として好ましくない。
【0036】
反応温度は、通常、含水酸化鉄粒子が生成する45℃以下の温度で行えば良い。45℃を超える場合には、BET比表面積値が低下し、吸着剤として好ましくない。
【0037】
酸化反応の前に窒素吹き込みによる脱炭酸反応を伴う熟成を行い、炭素含有量を調整してもよい。
【0038】
前記含水酸化鉄粒子の生成反応における酸化手段は、酸素含有ガス(例えば空気)を液中に通気することにより行う。
【0039】
本発明において、Mnを含有する含水酸化鉄粒子粉末を製造する際は、前記反応において、Mn原料を添加して混合、熟成すればよい。Mn原料としては、硫酸マンガンなどである。
【0040】
本発明において、Tiを含有する含水酸化鉄粒子粉末を製造する際は、前記反応において、Ti原料を添加して混合、熟成すればよい。Ti原料としては、オキシ硫酸チタニウム、四塩化チタニウムなどの水溶性チタニウム塩である。
【0041】
本発明において、Zrを含有する含水酸化鉄粒子粉末を製造する際は、前記反応において、Zr原料を添加して混合、熟成すればよい。Zr原料としては、オキシ硫酸ジルコニウムなどの4価のジルコニウム塩である。
【0042】
本発明において、リンを含有する含水酸化鉄粒子及び/又は鉄系層状化合物粉末を製造する際は、前記反応において、リン原料を添加して混合、熟成すればよい。また前記含水酸化鉄粒子及び/又は鉄系層状化合物粉末にリン化合物を添加・混練してもよい。リン原料としては、オルトリン酸、リン酸水素二ナトリウムなどである。
【0043】
また、前記含水酸化鉄粒子及び/又は鉄系層状化合物に、有機化合物及び無機化合物などを添加処理することによって、成型物の強度を向上させることができる。有機化合物としては、アクリル酸系バインダー、セルロース系バインダー・植物系繊維・合成樹脂繊維等を挙げることができる。無機化合物としては、水ガラス、コロイダルシリカ、ベーマイト等を挙げることができる。上記の添加剤の添加量は、含水酸化鉄粒子又は鉄系層状化合物に対して各々0.5〜20重量%が好ましい。
【0044】
本発明に係る吸着剤は、成型体又は造粒物としてもよい。
【0045】
本発明に係る吸着剤の成型体の製造方法について述べる。
【0046】
なお、本発明では、造粒の核となるような第3成分を加えて、含水酸化鉄粒子及び/又は鉄系層状化合物粉末と有機高分子樹脂成分とを核の周囲に複合化して形成することで吸着剤成分の使用量を低減することも可能である。
【0047】
本発明では、含水酸化鉄粒子及び/又は鉄系層状化合物粉末と有機高分子樹脂成分により形成されるのが好ましいが、形成された造粒物の表面が完全に樹脂成分で覆われてしまうと、含水酸化鉄粒子及び/又は鉄系層状化合物粉末の吸着機能が発現しない場合がある。
【0048】
次に、前記含水酸化鉄粒子及び/又は鉄系層状化合物粉末と有機高分子樹脂との複合造粒物からなる吸着剤の製造法について述べる。
【0049】
本発明における含水酸化鉄粒子及び/又は鉄系層状化合物粉末と有機高分子樹脂成分との混合・複合化は、含水酸化鉄粒子及び/又は鉄系層状化合物粉末100重量部に対して、エチレンビニルアルコール共重合樹脂又はポリビニルアセタール樹脂を含む溶液を樹脂固形分換算で3.0重量部〜12.0重量部加え、混合、混練及び造粒をワンプロセスで行うか、混合、混練プロセスと、押し出しなどによる造粒を別プロセスで行うことができる。
樹脂溶液の溶媒としては、水/アルコール混合液あるいはアルコールが好ましい。樹脂溶液の濃度としては5〜30wt%が好ましい。必要に応じて、界面活性剤などの添加剤を加えてもよい。
【0050】
混合、混練及び造粒をワンプロセスで行う乾式装置としては、攪拌混合造粒機、流動層造粒機などがある。また、含水酸化鉄粒子と樹脂成分をスラリー化して、湿式の噴霧造粒機や真空凍結造粒機を使用することも可能である。混合及び混練を行う装置としては、リボンミキサー、ニーダ、パグミル、サンドミル、ヘンシシェルミキサーなどの固定容器型、コンクリートミキサーなどの回転容器型、ロールミルなどのロール型混練機を用いることができる。造粒プロセスを行う装置としては、転動造粒機、押出し造粒機、破砕造粒機、ロールプレス圧縮造粒機、タブレッティング圧縮造粒機などが挙げられる。
【0051】
含水酸化鉄粒子及び/又は鉄系層状化合物粉末と樹脂成分とを混合・複合化した後、引き続き、乾燥処理を行い、吸着剤中の水又は/及びアルコール溶媒を十分に取り除く。乾燥温度は40〜120℃が好ましい。
【0052】
なお、本発明に係る吸着剤は、造粒の核となるような第3成分を加えて、含水酸化鉄粒子及び/又は鉄系層状化合物粉末と樹脂成分を核の周囲に複合化して形成することでこれらの使用量を低減することも可能である。第3成分としては0.1〜2mm程度の所望のサイズのセラミックビーズや樹脂製のビーズまたは円柱などのその他の形状のものを用いることができる。その複合化の方法は、含水酸化鉄粒子及び/又は鉄系層状化合物粉末と樹脂成分の総量が100重量部に対して、第3成分を50〜2000重量部添加し、攪拌混合造粒機などの装置を用いて高速混合、分散及び造粒をワンプロセスで行うとよい。
【0053】
また、本発明に係る吸着剤の形状は、球形状・円柱状・ハニカム状に成型して、吸着剤として使用することができる。成型体の大きさは、0.5〜100mmが好ましい。また本発明の水蒸気吸着剤を紙・布・紙布・樹脂フィルム・金属板・木製板・セラミック板・石膏ボード・土壁等を塗布して使用することができる。
【0054】
また、本発明に係る吸着剤は、閉鎖系及び流通系で使用することができる。使用できる用途はデシカント空調用ローター吸着剤・屋外機器用結露防止剤・住宅用調湿壁・住宅用二重サッシ用結露防止剤・ヒートポンプ・空調用脱湿剤・床下湿度調整剤等に使用することができる。
【0055】
<作用>
本発明において重要な点は、本発明に係る鉄系水蒸気吸着剤は、水蒸気を広範囲の相対湿度にわたって、吸着できるという事実である。
【0056】
本発明に係る鉄系水蒸気吸着剤が水蒸気に対して、高い吸着能を有する理由は未だ明らかではないが、後出実施例及び比較例に示すとおり、吸着剤を構成する含水酸化鉄粒子粉末及び/又は鉄系層状化合物の粒子内及び粒子間に大きさの異なる細孔が多く存在することによるものと本発明者は推定している。
【0057】
本発明に係る鉄系水蒸気吸着剤は、悪臭成分であるオキシカルボン酸類等の酸性物質や硫化水素等の硫黄化合物に対して吸着能を有するので、悪臭物質を除去できる能力を有する。
【0058】
本発明に係る水蒸気吸着剤は、1〜20nmの領域の細孔を多く含み、水蒸気の吸着は物理吸着が主たるメカニズムであるので、100℃以下の温度での水蒸気吸着剤として再利用が可能である。
【実施例】
【0059】
本発明の代表的な実施の形態は次の通りである。
【0060】
本発明に係る吸着剤の結晶相の同定は、「X線回折装置RINT2500(理学電機(株)製)」(管球:Cu、管電圧:40kV、管電流:300mA、ゴニオメーター:広角ゴニオメーター、サンプリング幅:0.010°、走査速度:4.00°/min、発散スリット:1/2°、散乱スリット:1/2°、受光スリット:0.15mm)を使用して行った。
【0061】
本発明に係る吸着剤のBET比表面積値はBET法により測定した値で示した。本発明に係る吸着剤の細孔容積は細孔分布測定機TriStar3000(SHIMADZU)で測定して求めた。
【0062】
本発明に係る吸着剤のFe、Al、Ti、Zr、Mnなどの金属元素含有量の分析は、該粉末を塩酸で溶解し、「プラズマ発光分光分析装置 SPS4000(セイコー電子工業(株))」で測定して求めた。
【0063】
本発明に係る吸着剤の炭素含有量(重量%)、硫黄含有量(重量%)は、カーボン・サルファーアナライザー:EMIA−2200(HORIBA製)により測定した。
【0064】
実施例1:吸着剤の製造
反応容器中に、0.67mol/lのNaCO水溶液25lを投入した後、Fe2+0.64mol/lとAl3+0.16mol/lの硫酸塩水溶液15l(NaCO量は、Feに対し1.4当量に該当する。)を添加・混合し、温度42℃の懸濁液を調製した。
【0065】
上記懸濁液中に、毎秒100lの割合で空気を流しながら、温度42℃で、3時間通気して黄褐色沈澱粒子を生成させた。黄褐色沈澱粒子は、濾別、水洗、乾燥、粉砕した。
【0066】
得られた黄褐色粒子粉末は、X線回折の結果、ゲータイトであり、BET比表面積が194m/gの樹枝状を呈した粒子からなり、鉄の含有量(T−Fe)が42.6wt%、アルミニウムの含有量(T−Alが5.6)炭素量(T−C)が0.35wt%、硫黄量(T−S)が0.05wt%であった。また得られた黄褐色粒子粉末の細孔容積は0.70ml/gであった。
【0067】
実施例2:吸着剤の製造
反応容器中に、0.62mol/lのNaCO水溶液25lを投入した後、Fe2+0.64mol/lとAl3+0.16mol/lの硫酸塩水溶液15l(NaCO量は、Feに対し1.3当量に該当する。)を添加・混合し、温度30℃の懸濁液を調製した。
【0068】
上記懸濁液中に、毎秒120lの割合で空気を流しながら、温度30℃で、4時間通気して黄褐色沈澱粒子を生成させた。得られた黄褐色懸濁液の半分を濾別、水洗、乾燥、粉砕した。
【0069】
得られた黄褐色粒子粉末は、X線回折の結果、非晶質であり、BET比表面積が379m/gの薄片状を呈した粒子からなり、鉄の含有量(T−Fe)が37.6wt%、アルミニウムの含有量(T−Alが4.8wt%)炭素量(T−C)が0.42wt%、硫黄量(T−S)が0.08wt%であった。また得られた黄褐色粒子粉末の細孔容積は0.65ml/gであった。得られた薄片状を呈した粒子の側面を透過型電子顕微鏡で観察した結果、約1nmの周期構造を有していた。
【0070】
実施例3〜8、比較例1〜2
水蒸気吸着剤の生成反応におけるアルカリ水溶液の種類、濃度及び使用量、第一鉄塩水溶液の種類、濃度及び使用量、鉄置換原料の種類、濃度、使用量を種々変化させた以外は、実施例1又は2と同様にして含水酸化鉄粒子及び/又は鉄系層状化合物を生成した。
【0071】
このときの製造条件を表1に、得られた含水酸化鉄粒子及び鉄系層状化合物の諸特性を表3に示す。
【0072】
吸着剤の製造(リン処理):実施例2−2
実施例2で得られた残り半分の黄褐色懸濁液に8.5wt%のオルトリン酸溶液をゆっくり滴下して、懸濁液のpHを5.7に調整した。そして懸濁液のpHを5.7に1時間保持した後、濾別、水洗、乾燥、粉砕した。
【0073】
得られた黄褐色粒子粉末は、X線回折の結果、非晶質であり、BET比表面積が414m/gの薄片状を呈した粒子からなり、鉄の含有量(T−Fe)が28.5wt%、アルミニウムの含有量(T−Alが3.7wt%)リンの含有量が3.2wt%炭素量(T−C)が0.02wt%、硫黄量(T−S)が0.01wt%であった。また得られた黄褐色粒子粉末の細孔容積は0.73ml/gであった。
【0074】
実施例3−2、4−2、5−2
黄褐色粒子粉末の種類(黄色懸濁液)、オルトリン酸の使用量及び処理のpH、処理温度及び処理時間を種々変化させた以外は、実施例2−2と同様にしてリン処理した含水酸化鉄粒子及び鉄系層状化合物を生成した。
【0075】
このときの製造条件を表2に、得られた含水酸化鉄粒子及び鉄系層状化合物の諸特性を表3に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
<室温における水蒸気吸脱着試験>
使用例1〜12、比較使用例1〜5
前処理として、ガラス製ベセル中で試料200mgを120℃、4時間真空脱気した後、ベルソープaqua(日本ベル製)を使用して、25℃における水蒸気等温吸着曲線を測定した。25℃下で、相対湿度を0〜96%まで変化させ、相対湿度10%、50%、96%における単位重量あたりの水蒸気吸着量(mg/g)で示した。また、前記測定で相対湿度を96%にした後、相対湿度を低下させて、相対湿度80%及び60%のときの吸着量を測定して、脱着量とした。
【0080】
このときの諸特性を表3に示す。
【0081】
【表4】

【0082】
本発明に係る鉄系水蒸気吸着剤は、25℃、相対湿度50%の環境下で8mg/g以上の水蒸気を吸着することができ、25℃、相対湿度96%の環境下では30mg/g以上の水蒸気を吸着することが確認できた。しかも、本発明に係る鉄系水蒸気吸着剤は、25℃、相対湿度80%の環境下で25mg/g以上の水蒸気を脱着でき、25℃、相対湿度60%の環境下では10mg/g以上の水蒸気を脱着することが確認できた。比較例では、脱離が難しいものであった。
【0083】
<60℃における水蒸気吸脱着試験>
使用例13〜24、比較使用例6〜10
前処理として、ガラス製ベセル中で試料200mgを120℃、4時間真空脱気した後、ベルソープaqua(日本ベル製)を使用して、60℃における水蒸気等温吸着曲線を測定した。60℃下で、相対湿度を60%まで上昇させ、相対湿度10%、15%、60%における単位重量あたりの水蒸気吸着量(mg/g)で示した。また、前記測定で相対湿度を60%にした後、相対湿度を低下させて、相対湿度15%及び10%のときの吸着量を測定して、脱着量とした。
【0084】
【表5】

【0085】
本発明に係る鉄系水蒸気吸着剤は、60℃、相対湿度10%の環境下で3.0mg/g以上の水蒸気を吸着することができ、60℃、相対湿度60%の環境下では7.5mg/g以上の水蒸気を吸着することが確認できた。しかも、本発明に係る鉄系水蒸気吸着剤は、25℃、相対湿度10%の環境下では3mg/g以上の水蒸気を脱着することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係る鉄系水蒸気吸着剤は、広い相対湿度範囲の水蒸気分圧で単位重量当たり多量の水蒸気を吸着できるので、調湿剤等の水蒸気吸着剤として好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気を吸着する鉄系吸着剤であって、前記吸着剤はアルミニウムを2〜10wt%含有し、細孔容積0.4ml/g以上の含水酸化鉄粒子であることを特徴とする鉄系水蒸気吸着剤。
【請求項2】
含水酸化鉄粒子がα−FeO(OH)及び/又は層状化合物であることを特徴とする請求項1記載の鉄系水蒸気吸着剤。
【請求項3】
鉄原料及びアルミニウム原料と、アルカリ原料として炭酸アルカリ水溶液又は炭酸アルカリ・水酸化アルカリ混合水溶液とを用いて反応溶液のpHが6.0〜10.0の領域で合成した含水酸化鉄粒子及び/又は層状化合物であることを特徴とする請求項1又は2記載の鉄系水蒸気吸着剤。
【請求項4】
含水酸化鉄粒子及び/又は層状化合物がアルミニウム、マンガン、チタン、ジルコニウム、リンから選ばれる1種又は2種以上の元素を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の鉄系水蒸気吸着剤。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の鉄系水蒸気吸着剤であって、25℃において相対湿度96%で自重の50wt%以上の水蒸気を吸着することを特徴とする鉄系水蒸気吸着剤。

【公開番号】特開2012−213695(P2012−213695A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79863(P2011−79863)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】