説明

鉄道沿線監視システム

【課題】転倒センサや傾斜センサ等のセンサ手段の動作をも含めた監視センサ全体の健全性をも把握できる鉄道沿線監視システムを提供する。
【解決手段】姿勢変化を検出して検出情報を出力する傾斜センサ20と前記検出情報を第1のトリガとして固有の周波数を持つ低周波磁界用の信号を発信する発信回路50とその出力で励磁され低周波磁界信号を発信する送信コイル60を有する監視センサ10と、低周波磁界信号の受信コイルと受信信号の周波数の解析装置を有する制御装置とで構成され、周波数解析により複数の監視センサの姿勢変化を識別する。監視センサに一定周期で第2のトリガを出力するタイマ回路30と、第2のトリガ出力によって傾斜センサに所定時間だけ姿勢変化を与えてそれを検出させる駆動装置40を備え、姿勢変化により監視センサから一定周期で発信された低周波磁界信号を検出することで監視センサの正常動作を確認する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道沿線の地盤の変状や、植生または構造物の姿勢変化を検出して報知するための鉄道沿線監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
目本の鉄道は、海岸沿いや山間など様々な地形のなかを走っており、特に斜面沿いを走っている地域では、検査員による定期的な斜面調査や災害監視設備などによる監視が実施されている。
【0003】
災害監視設備では、有線型の災害監視設備の場合は斜面崩壊やがけ崩れにより検出信号伝送用のケーブルが断線または損傷する可能性があり、無線型の災害監視設備が多く利用されている。
【0004】
無線型の災害監視設備では、無線伝送路中の立木、降雪、濃霧や崩壊土砂による監視装置の土中埋没などで、電波が減衰し通信不能となる可能性があり、監視機能を満足できなくなるおそれがあるため、伝送信号のやり取りに低周波磁界を用いて自然環境の制約を回避した災害監視設備が提供されている。
【0005】
例えば、特許文献1には以下のような土砂災害監視装置が提案されている。土砂災害監視装置は、傾斜状態を検出する転倒センサの出力をトリガとして低周波磁界信号を送出する検知装置と検知装置が送出した低周波磁界信号を受信して斜面の変動や崩壊を感知し警報を発生する受信処理装置とで構成される。この土砂災害監視装置は特に、検知装置がタイマを内蔵することで定期的に低周波磁界信号を送出する機能と、送出する低周波磁界信号を各検知装置固有のID情報で変調する機能とを有する。一方、受信処理装置においては受信した低周波磁界信号を復調してID情報を識別し、各検知装置からの定期的な低周波磁界信号の送出の有無を判定することで、検知装置の発信部と送信アンテナ等の送信部の健全性を把握するようにしている。
【0006】
【特許文献1】特開2007−262851
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記土砂災害監視装置では健全性の把握は発信部と送信部に留まり、転倒センサの健全性を把握することができないという課題があった。つまり、転倒センサに異常が発生した際にこれを把握できないと、検知装置視に傾斜が発生した場合でも内蔵された転倒センサはトリガを出力することができず、土砂災害発生を示す低周波磁界信号を発信できなくなるという不具合が発生する場合がある。
【0008】
そこで、本発明の課題は災害監視設備の信頼性を向上させるべく、転倒センサや傾斜センサ等のセンサ手段の動作をも含めた監視センサ全体の健全性をも把握することのできる鉄道沿線監視システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による鉄道沿線監視システムは、鉄道沿線の地盤の変状や、植生または構造物の姿勢変化を検出して検出情報を出力するセンサ手段と該センサ手段の検出情報を第1のトリガとして低周波磁界用の信号を発信する発信回路と該発信回路の出力で励磁されて低周波磁界信号を発信する送信コイルとを有する監視センサと、前記送信コイルが発信した低周波磁界信号を受信する受信コイルと該受信コイルが受信した信号を解析する解析回路とを有する制御装置とで構成され、複数の前記監視センサの前記発信回路の発信周波数を個別に変え、前記制御装置において受信した低周波磁界信号を周波数解析することで、複数の前記監視センサの姿勢変化を識別する。特に、本鉄道沿線監視システムは、前記監視センサに、一定周期で第2のトリガを出力するタイマ回路と、前記第2のトリガ出力によって前記センサ手段に所定時間だけ姿勢変化を与えてそれを検出させる駆動装置を備え、該駆動装置による前記センサ手段の姿勢変化によって前記監視センサから前記一定周期で発信された低周波磁界信号を前記制御装置で検出することで前記監視センサの正常動作が確認できるようにしたことを特徴とする。
【0010】
本発明による鉄道沿線監視システムにおいては、前記第2のトリガ出力を前記発信回路にも与え、該発信回路は前記第2のトリガに同期して前記第1のトリガを受信したときには該第1のトリガを受信している間だけ前記低周波磁界用の信号を発信する一方、前記第1のトリガのみを受信したときには継続して前記低周波磁界用の信号を発信することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明による鉄道沿線監視システムでは、監視センサに内蔵したセンサ手段に定期的に姿勢変化を与えて監視センサから定期的に低周波磁界信号を送信させ、制御装置において各監視センサから送信された低周波磁界の受信信号を周波数解析して、周波数で各監視センサからの送信の有無を識別し、監視センサからの定期的な低周波磁界信号の送信の有無から監視センサの健全性を判定する。
【0012】
これにより、発信部、送信部に加えてセンサ手段の動作をも含めた監視センサ全体の健全性を把握することが可能となり、低周波磁界は土中、水中、空気中を一貫して伝搬する特性を有して雪、雨、土砂、立木等の影響を受けないことから、災害監視設備としての信頼性を向上できる効果は大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に実施例を挙げ、本発明について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明による鉄道沿線監視システムのうち監視センサの構成例を示す図である。
【0014】
監視センサ10は傾斜センサ(センサ手段)20を内蔵している。傾斜センサ20は傾斜角度が閾値以上となった場合に第1のトリガを出力する。本実施例における傾斜センサ20には45度といった傾斜角度の閾値が設定されているが、これに限定されない。また、姿勢変化を検出するセンサであればどのようなセンサであっても良い。
【0015】
監視センサ10はまた、タイマ回路30、駆動装置40を内蔵している。タイマ回路30は所定の間隔で第2のトリガを所定の時間出力する。本実施例ではタイマ回路30は24時間間隔で5秒間、第2のトリガを出力しているが、第2のトリガの出力間隔が第2のトリガの出力時間より長い時間であれば、第2のトリガの出力間隔と出力時間はこれに限定されない。
【0016】
駆動装置40は制御回路41とロータリーソレノイド42を有する。制御回路41は第2のトリガが出力されている間はロータリーソレノイド42を動作させて傾斜センサ20に45度以上の傾斜を与える。ロータリーソレノイド42は制御回路41からの信号が無くなると元の位置に復旧する。したがって、傾斜センサ20は24時間間隔で5秒間、第1のトリガを出力することになる。本実施例における駆動装置40では傾斜センサ20に傾斜を与える機構としてロータリーソレノイド42を採用しているが、サーボモータ等のほかの機構を利用しても同様の効果が得られることはいうまでもない。
【0017】
監視センサ10は更に、発信回路50、送信コイル60を内蔵している。発信回路50は第1のトリガおよび第2のトリガを受け、あらかじめ割り当てられた固有の周波数信号を発信する。
【0018】
図2は第1のトリガの波形及び第2のトリガの波形と発信回路50の発信動作を示すものである。
【0019】
第2のトリガに同期して第1のトリガが出力されている場合、第1のトリガがオンとなると発信回路50は発信し、第1のトリガがオフとなるとともに発信回路50は発信を停止する。つまり、駆動装置40によって傾斜センサ20に傾斜が与えられた場合には5秒間、発信回路50は発信する(図2中A)。
【0020】
一方、第2のトリガに同期しない第1のトリガが出力されている場合、第1のトリガがオンとなると発信回路50は発信するが、第1のトリガがオフとなっても発信を継続する。つまり、駆動装置40によらず、監視センサ10本体が傾斜して傾斜センサ20に45度以上の傾斜が与えられた場合には発信回路50は発信を継続する(図2中B)。
【0021】
以上より、監視センサ10は24時間間隔で5秒間、監視センサ10固有の周波数の低周波磁界信号を送信し、災害によって45度以上に傾いた際には監視センサ10固有の周波数の低周波磁界信号を送信し続けることになる。
【0022】
なお、図1に示す監視センサ10の発信回路50には送信コイル60を励磁するために必要な電流を流すための電流増幅回路が含まれている。また、図1には示していないが、監視センサ10には傾斜センサ20、タイマ回路30、駆動装置40、発信回路50を動作させるバッテリ等の電源が含まれている。
【0023】
図3は本発明のうち受信側となる制御装置の構成例を示す図である。
【0024】
制御装置100は、受信コイル110、解析装置(解析回路)120を備える。複数の監視センサ10−1、10−2、・・・、10−nからそれぞれ固有の周波数f、f、・・・、fで送信された低周波磁界信号は受信コイル110で受信され、解析装置120に入力される。解析装置120では受信信号に対して常時周波数の識別を行っている。周波数の識別にはFFT(高速フーリエ変換)演算など、1秒間程度の時間で解析できる手法が用いられるが、これに限定されない。図3には示していないが、制御装置100には解析装置120を動作させるバッテリ等の電源が含まれている。
【0025】
解析装置120には複数の監視センサに割り当てられた固有の発信周波数が予め登録されており、図4に示すように、受信信号に、登録された監視センサの発信周波数の成分が含まれていた場合に、当該監視センサが低周波磁界による信号を送信していると判定する。
【0026】
ここで、図4に示すように、解析装置120は監視センサの発信周波数成分の有無を判定する際に背景雑音レベル以上の検出閾値を設定し、この検出閾値を超えた信号を受信したときに監視センサが発信した低周波磁界信号を受信したと判定している。
【0027】
各監視センサが送信する低周波磁界信号の周波数は個々に異なることから、複数の監視センサが同時に低周波磁界信号を送信した場合においても、制御装置100では受信信号の周波数解析結果から監視センサの識別を行うことができる。
【0028】
既に説明したように監視センサ10は24時間間隔で5秒間、監視センサ固有の周波数の低周波磁界信号を送信し、災害によって45度以上に傾いた際に監視センサ固有の周波数の低周波磁界信号を送信し続けるが、解析装置120においてこの2つのケースを識別する方法を説明する。
【0029】
解析装置120は予め登録された監視センサの送信周波数を、5秒間を超えて連続して検出した際に当該監視センサ本体に災害によって45度以上の傾斜が発生したと判定する。解析装置120はまた、予め登録された監視センサの送信周波数を24時間ごとに5秒間検出した際には駆動装置40によって当該監視センサの傾斜センサ20に45度以上の傾斜が与えられたと判定する。解析装置120はさらに監視センサ10の傾斜センサ20、タイマ回路30、駆動装置40、発信回路50、送信コイル60及び内蔵された電源が正常であれば、監視センサ10は24時間間隔で5秒間、低周波磁界信号を送信し統けることから、解析装置120は予め登録された監視センサの送信周波数を24時問ごとに5秒間検出することで当該監視センサが正常に動作をしていると判断できる。
【0030】
なお、監視センサ10の変形例として以下のようにしても良い。第2のトリガを発信回路50に与えず、発信回路50は第1のトリガのみで発信動作を行う。この場合、解析装置120は、予め登録された監視センサの送信周波数を24時間ごとに5秒間検出した際に駆動装置40によって当該監視センサの傾斜センサ20に45度以上の傾斜が与えられたと判定する。一方、解析装置120は、予め登録された監視センサの送信周波数を24時間間隔以外のタイミングで検出した際に当該監視センサ本体に災害によって45度以上の傾斜が発生したと判定する。なお、災害によって監視センサ本体に45度以上の傾斜が発生した場合には、通常、傾斜センサ20が元の状態に復旧することはなく、第1のトリガが5秒以上継続して出力されるので、予め登録された監視センサの送信周波数を24時間間隔以外のタイミングで5秒以上継続して検出した際に当該監視センサ本体に災害によって45度以上の傾斜が発生したと判定するようにしても良い。また、各監視センサには固有の発信周波数が識別情報として割り当てられるが、たとえばセンサ番号を示す情報を識別情報として割り当て、これを低周波磁界信号にのせて送信するようにしても良い。
【0031】
図5は本発明による鉄道沿線監視システムを鉄道沿線に設置した例を示すものである。
【0032】
監視センサ10は監視対象となる鉄道沿線の斜面や植生、落石防護柵などの構造物に設置する。監視対象が変状して監視センサ10に45度以上の傾斜が与えられた場合に監視センサ10は固有の周波数の低周波磁界信号を送信する。
【0033】
制御装置100は監視対象区域外の安全な場所に配置する。制御装置100には予め登録された全ての監視センサの発信周波数に対応させて、監視センサを示すためのIDも登録されており、常時受信状態で1秒間ごとに受信信号の周波数解析を繰り返している。
【0034】
制御装置100は、監視センサからの発信周波数の受信信号が5秒間以上検出された場合、当該監視センサに傾斜が生じたと判定し、監視対象の変状警報と傾斜した監視センサのIDをリアルタイムに外部出力する。制御装置100はまた、第2のトリガの出力間隔、つまり上記例の場合24時間以内に、登録されている監視センサの発信周波数が検出されない場合、当該監視センサに装置障害が発生したと判定し、障害発生と判定した監視センサのID及びその異常警報を外部出力する。
【0035】
監視対象の変状や監視センサの異常警報はリアルタイムに携帯電話や、その他の有線、無線端末装置を利用した通報装置で遠隔の監視局に設置した表示用コンピュータに通報することができる。
【0036】
監視局では、複数の監視センサの設置位置を把握しておくことで、災害によって傾斜が生じた監視センサの分布を判断することができ、災害の範囲や程度を時系列に把握できることから、事後の対策工の立案・施工を迅速に行うことが可能となる。また、監視対象の変状を検出する傾斜センサを含めた監視センサ全体の異常も判定できることから災害監視設備としての信頼性も高いものとなる。
【0037】
以上説明してきたように、本鉄道沿線監視システムは、監視センサに内蔵した傾斜センサに定期的に傾斜を与えて監視センサから定期的に低周波磁界信号を送信させ、制御装置において各監視センサから送信された低周波磁界の受信信号を周波数解析して、周波数で各監視センサからの送信の有無を識別し、監視センサからの定期的な低周波磁界の送信の有無から監視センサの健全性を判定する。これにより、傾斜センサの動作をも含めた監視センサ全体の健全性を把握することが可能となり、低周波磁界は土中、水中、空気中を一貫して伝搬する特性を有して雪、雨、土砂、立木等の影響を受けないことから、災害監視設備としての信頼性を向上できる効果は大である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は本発明による鉄道沿線監視システムにおける監視センサの構成例を示す図である。
【図2】図2は図1に示した監視センサの第1、第2のトリガ波形と発信回路の動作を示す図である。
【図3】図3は本発明による鉄道沿線監視システムにおける制御装置の構成例を示す図である。
【図4】図4は図3に示した制御装置の解析装置における監視センサからの送信信号の検出方法を説明するための図である。
【図5】図5は鉄道沿線監視システムの設置例を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
10、10−1、10−2、10−n 監視センサ
20 傾斜センサ
30 タイマ回路
40 駆動装置
50 発信回路
60 送信コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道沿線の地盤の変状や、植生または構造物の姿勢変化を検出して検出情報を出力するセンサ手段と、前記センサ手段の検出情報を第1のトリガとして低周波磁界用の信号を発信する発信回路と、前記発信回路の出力で励磁されて低周波磁界信号を発信する送信コイルを有する監視センサと、
前記送信コイルが発信した低周波磁界信号を受信する受信コイルと、前記受信コイルが受信した信号を解析する解析回路を有する制御装置とで構成され、
複数の前記監視センサの前記発信回路の発信周波数を個別に変え、前記制御装置において受信した低周波磁界信号を周波数解析することで、複数の前記監視センサの姿勢変化を識別する監視システムにおいて、
前記監視センサに、一定周期で第2のトリガを出力するタイマ回路と、前記第2のトリガ出力によって前記センサ手段に所定時間だけ姿勢変化を与えてそれを検出させる駆動装置を備え、
前記駆動装置による前記センサ手段の姿勢変化によって前記監視センサから前記一定周期で発信された低周波磁界信号を前記制御装置で検出することで前記監視センサの正常動作が確認できることを特徴とした鉄道沿線監視システム。
【請求項2】
前記第2のトリガ出力を前記発信回路にも与え、該発信回路は前記第2のトリガに同期して前記第1のトリガを受信したときには該第1のトリガを受信している間だけ前記低周波磁界用の信号を発信する一方、前記第1のトリガのみを受信したときには継続して前記低周波磁界用の信号を発信することを特徴とする請求項1に記載の鉄道沿線監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−236551(P2009−236551A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80256(P2008−80256)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(390027177)坂田電機株式会社 (16)
【Fターム(参考)】