説明

鉄道車両用引戸装置

【課題】鉄道車両のドア開口部の床面から引戸の下レールを無くすことによって、床面のフラット化を促進しつつ、引戸のガタツキ音を低減する。
【解決手段】引戸12の下レール18が、戸袋内から引戸12の全開状態における戸先端部位置12aまでの間Lにのみ、床面から突出するように設置されている。よって、引戸12の全開状態において、引戸開口部の床面からの突起物を無くすことができる。また、引戸12の下縁に沿って設けられたスリ板20は、引戸12の全閉状態において下レール18に掛る部分20Aのみ、他の部分20Bよりも軟質の材料が用いられている。よって、引戸12が全閉状態において振動しても、スリ板20の軟質の材料が用いられた部分20Aのみ下レール18に当たることとなり、引戸12のガタツキ音を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用引戸装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道車両におけるユニバーサルデザイン化の要請から、車内床面の凹凸を可能な限り排除する構造が採用されている。例えば、車内の側面や妻面に設けられた引戸の下レールは、従来、床面からの突起物となっていたため、引戸開口部の床面から下レールを無くし、戸袋内部にのみ下レールを設置する構造が推奨されている。
また、車内の快適性向上の観点から、引戸下部に発生するガタツキ音が問題視されるケースが増えている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記動向および課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、鉄道車両のドア開口部の床面から引戸の下レールを無くし、若しくは、必要最小限の範囲にのみ設置することによって、床面のフラット化を促進しつつ、引戸のガタツキ音を低減し、静かで快適な車内環境を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための、本発明に係る鉄道車両用引戸装置は、引戸の上・下にレールが設けられ、開閉動作の全行程に渡り、上レールによって引戸がガイドされる鉄道車両用引戸装置であって、下レールは、戸袋内から前記引戸の全開状態における戸先端部位置までの間、若しくは前記引戸の全閉状態における戸先端部位置から戸袋へと向う所定範囲の、少なくとも一方の場所において、床面から突出するように設置され、前記引戸の下縁に沿って、前記下レールに摺動案内されるスリ板が設けられ、該スリ板の、前記引戸の全閉状態において前記下レールに掛る部分に、他の部分よりも軟質の材料が用いられ、かつ、他の部分よりも前記下レールとの隙間が広くなるように形成されていることを特徴とするものである。
【0005】
本発明によれば、引戸の下レールが、戸袋内から前記引戸の全開状態における戸先端部位置までの間、若しくは前記引戸の全閉状態における戸先端部位置から戸袋へと向う所定範囲の、少なくとも一方の場所において、床面から突出するように設置されていることから、引戸の全開状態において、引戸開口部の床面からの突起物を、可能な限り無くすことができる。そして、引戸の下縁に沿って設けられたスリ板は、引戸の全閉状態において下レールに掛る部分に、他の部分よりも軟質の材料が用いられていることから、引戸が全閉状態で振動しても、スリ板の軟質の材料が用いられた部分のみ下レールに当たり、引戸のガタツキ音を低減することができる。
【0006】
また、スリ板の、引戸の全閉状態において前記下レールに掛る部分の、下レールとの隙間が、他の部分よりも広くなるように構成されていることから、引戸の開閉時、すなわち、引戸の全閉状態においてスリ板の下レールに掛る部分以外の部分が、下レールに摺動案内される時には、スリ板の軟質の材料が用いられた部分が下レールの側面に摺接することはない。よって、スリ板の軟質の材料が用いられた部分が、引戸の開閉によって摩耗することが回避される。
【0007】
なお、前記下レールは矩形の断面形状をなし、前記スリ板は前記下レールを覆うコ字形の断面形状をなし、前記引戸の全閉状態において前記下レールに掛る部分の、少なくとも前記下レールの両側面と対向する部分に、他の部分よりも軟質の材料が用いられ、かつ、他の部分よりも前記下レールの側面との隙間が広くなるように形成されていることが望ましい。
この構成によれば、引戸の開閉時には、コ字形断面を有する引戸のスリ板が、矩形断面を有する下レールの両側面に摺動案内される。また、引戸の全閉状態においては、スリ板の、少なくとも下レールの両側面に対向する部分に、他の部分よりも軟質の材料が用いられ、かつ、他の部分よりも前記下レールの側面との隙間が広くなるように形成されていることで、引戸が全閉状態において振動しても、スリ板の軟質の材料が用いられた部分のみが下レールに当たることとなり、引戸のガタツキ音を低減することができる。
【0008】
また、前記スリ板の、他の部分よりも幅広かつ軟質に構成されている部分が、ゴムにより構成されていることにより、引戸のガタツキ音を低減することが可能となる。
さらに、前記スリ板の、他の部分よりも幅広かつ軟質に構成されている部分に、植毛が施されていることとすれば、植毛部分が下レールに当接することで、スリ板と下レールとが当接する際の衝撃を効果的に低減し、引戸のガタツキ音を、より効果的に低減することが可能となる。
【0009】
また、上記課題を解決するための、本発明に係る鉄道車両用引戸装置は、引戸の上・下にレールが設けられ、開閉動作の全行程に渡り、上レールによって引戸がガイドされる鉄道車両用引戸装置であって、下レールは矩形の断面形状をなし、戸袋内から前記引戸の全開状態における戸先端部位置までの間、若しくは前記引戸の全閉状態における戸先端部位置から戸袋へと向う所定範囲の、少なくとも一方の場所において、床面から突出するように設置され、前記引戸の下縁に沿って、前記下レールを覆うコ字形の断面形状をなし前記下レールに摺動案内される弾性変形可能なスリ板が設けられ、該スリ板の、前記引戸の全閉状態において前記下レールに掛る部分が、引戸の表面パネルに対し隙間を空けて支持され、なおかつ、前記下レールの両側面との対向面が、前記下レールの両側面と接触するように構成されていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明によれば、引戸の下レールが、戸袋内から前記引戸の全開状態における戸先端部位置までの間、若しくは前記引戸の全閉状態における戸先端部位置から戸袋へと向う所定範囲の、少なくとも一方の場所において、床面から突出するように設置されていることから、引戸の全開状態において、引戸開口部の床面からの突起物を、可能な限り無くすことができる。
そして、引戸の下縁に沿って、下レールを覆うコ字形の断面形状をなし下レールに摺動案内される弾性変形可能なスリ板の、引戸の全閉状態において下レールに掛る部分は、下レールの両側面との対向面が、下レールの両側面と接触するように構成されていることから、スリ板と下レールとは、引戸の全開状態において隙間無く当接し、スリ板と下レールとの衝突に起因する引戸のガタツキ音は発生し得ない。しかも、スリ板の、引戸の全閉状態において下レールに掛る部分は、引戸の表面パネルに対し隙間を空けて支持されていることから、スリ板はコ字形の断面を広げる方向に弾性変形することが可能となり、スリ板の偏磨耗や、引戸の開閉時の引っ掛り等の不具合を回避することができる。
【0011】
また、本発明において、前記スリ板の、前記引戸の全閉状態において前記下レールに掛る部分に空けられた、前記スリ板と前記引戸の表面パネルとの隙間に、緩衝材が配置されていることが望ましい。
この構成によれば、スリ板と引戸の表面パネルとの隙間に配置された緩衝材によって、スリ板のコ字形の断面を広げる方向への弾性変形を阻害することなく、当該隙間へのゴミ等の侵入を防ぐことが可能となる。なお、緩衝材としては、スポンジ、ゴム等を用いることが可能である。
【0012】
また、前記引戸の全閉状態において前記下レールに掛る部分を除き、前記スリ板と前記引戸の表面パネルとの間を塞ぐ押さえ金が設けられ、前記引戸の全閉状態において前記下レールに掛る部分は、前記引戸の表面パネル裏側に、前記押さえ金よりも薄い帯板が固定されていることが望ましい。
【0013】
この構成によれば、引戸の全閉状態において下レールに掛る部分を除き、スリ板と引戸の表面パネルとの間を塞ぐ押さえ金が設けられていることから、スリ板は、押さえ金によって引戸に固定され、かつ、押さえ金によって、引戸の下縁が補強される。一方、引戸の全閉状態において下レールに掛る部分は、押さえ金が設けられていないことから、スリ板と引戸の表面パネルとの間に隙間が生じ、スリ板はコ字形の断面を広げる方向に弾性変形することが可能となる。なお、引戸の全閉状態において下レールに掛る部分は、押さえ金に代えて、引戸の表面パネル裏側に、押さえ金よりも薄い帯板が固定されていることから、この帯板によって引き戸の下縁が補強される。また、この帯板によって、スリ板と引戸の表面パネルとの隙間の調整が可能となる。
【0014】
また、上記課題を解決するための、本発明に係る鉄道車両用引戸装置は、引戸の上・下にレールが設けられ、開閉動作の全行程に渡り、上レールによって引戸がガイドされる鉄道車両用引戸装置であって、下レールは、戸袋内から前記引戸の全開状態における戸先端部位置までの間、若しくは前記引戸の全閉状態における戸先端部位置から戸袋へと向う所定範囲の、少なくとも一方の場所において、床面から突出するように設置され、前記引戸の下縁に沿って、前記下レールに摺動案内されるスリ板が設けられ、該スリ板の、前記引戸の全閉状態において前記下レールに掛る部分に、前記下レールとの衝突により生ずる引戸のガタツキ音を低減するガタツキ音防止手段が設けられていることを特長とするものである。
【0015】
本発明によれば、引戸の下レールが、戸袋内から前記引戸の全開状態における戸先端部位置までの間、若しくは前記引戸の全閉状態における戸先端部位置から戸袋へと向う所定範囲の、少なくとも一方の場所において、床面から突出するように設置されていることから、引戸の全開状態において、引戸開口部の床面からの突起物を、可能な限り無くすことができる。そして、引戸の下縁に沿って、下レールに摺動案内されるスリ板が設けられ、該スリ板の、前記引戸の全閉状態において前記下レールに掛る部分に、下レールとの衝突により生ずる引戸のガタツキ音を低減するガタツキ音防止手段が設けられていることから、引戸の全閉状態において、引戸のガタツキ音を効果的に低減することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明はこのように構成したので、ドア開口部の床面から引戸の下レールを無くし、若しくは、必要最小限の範囲にのみ設置することによって、床面のフラット化を促進し、なおかつ、ドアのガタツキ音を低減して、静かな車内環境を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1から図4には、本発明の第1の実施の形態に係る引戸装置10を、鉄道車両の側引戸に採用した例を示している。引戸装置10は、引戸12の上・下にレールが設けられ、引戸12の開閉動作の全行程に渡り、上レール14によって引戸12が、確実にガイドされるものである。
上レール14は、図2の例ではG字形の断面形状を有しており、かつ、引戸12の開閉動作の全行程にわたり、引戸12の上縁に固定された戸車16がこの上レール14を走行することができるだけの長さを有している。
【0018】
一方、下レール18は、図2、図3に示すように矩形の断面形状をなし、戸袋内から引戸12の全開状態(図1に1点鎖線で示す)における戸先端部位置12a(図1、図4)までの間(図4に符号Lで示す。)にのみ、床面FLから突出するように設置されている。このとき、戸先端部位置12aと戸袋の開口端は一致していることから、下レール18は、その全長Lに渡り、戸袋内に収まっている。
また、引戸12の下縁に沿って、下レール18に摺動案内されるスリ板20が設けられている。スリ板20は、下レール18を覆うコ字形の断面形状をなしており、耐磨耗性を考慮して、例えばナイロン樹脂等、硬質の樹脂により構成されており、若干の弾性変形が可能となっている。しかしながら、スリ板20の一部、具体的には、引戸12の全閉状態(図1に実線で示す)において、下レールに掛る部分20A(図3(a)参照)は、他の部分20B(図3(b)参照)よりも軟質の材料、例えばゴム等、高弾性の材料が用いられている。さらに、スリ板20の、引戸の全閉状態において下レールに掛る部分20Aには、植毛22が施されている。植毛22は、不織布等によって形成されている。図3において、符号26で示される部分は、スリ板20と引戸12の表面パネル28との間を塞ぐ押さえ金である。この押さえ金26は、スリ板20を引戸12に固定すると共に、引戸12の下縁を補強するものである。
【0019】
また、引戸12の全閉状態において下レールに掛る部分20Aは、他の部分20Bよりも、下レール18との隙間が広くなるように形成されている。図示の例では、下レール18の側面間の幅に対し、スリ板の他の部分20Bの、内側側面間の幅がその全長に渡り0.5mm大きく形成されている。一方、引戸の全閉状態において下レールに掛る部分20Aは、植毛22の先端間の距離で、下レール18の側面間の幅に対し1.0mm大きく形成されている。よって、引戸12の開閉時には、植毛22が下レール18に接触することはない。なお、植毛の長さは0.5mmである。
【0020】
上記構成をなす本発明の第1の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。まず、引戸12の下レール18が、戸袋内から引戸12の全開状態における戸先端部位置12aまでの間L(図4参照)にのみ、床面FLから突出するように設置されていることから、引戸12の全開状態において、引戸開口部の床面からの突起物を無くすことができる。そして、引戸12の下縁に沿って設けられたスリ板20は、引戸12の全閉状態において下レール18に掛る部分20Aのみ、他の部分20Bよりも軟質の材料が用いられていることから、引戸12が全閉状態において振動しても、スリ板20の軟質の材料が用いられた部分20Aのみ下レール18に当たることとなり、引戸12のガタツキ音を低減することができる。
【0021】
また、スリ板20の、引戸の全閉状態において下レール18に掛る部分20Aの、下レール20との隙間が、他の部分よりも広くなるように構成されていることから、引戸12の開閉時には、引戸12の全閉状態においてスリ板20の下レールに掛る部分以外の部分20Bが、下レール18に摺動案内され、スリ板20の軟質の材料が用いられた部分20Aは、下レール18の側面に摺接することはない。よって、スリ板20の軟質の材料が用いられた部分20Aが、引戸12の開閉によって摩耗することが回避される。
【0022】
なお、本発明の実施の形態に係る下レール18は、全て戸袋内に収まっていることから、引戸開口部において実際に人が通過する範囲の床面には、下レール18が突起物として存在せず、床面はフラットな状態となる。
【0023】
また、本発明の実施の形態では、下レール18は矩形の断面形状をなし、スリ板20は下レール18を覆うコ字形の断面形状をなし、引戸12の全閉状態において下レール18に掛る部分20Aの、少なくとも下レールの両側面と前記引戸の表面パネル対向する部分に、下レール18との衝突により生ずる引戸12のガタツキ音を低減するガタツキ音防止手段として、他の部分20Bよりも軟質の材料が用いられ、かつ、他の部分20Bよりも下レール18の側面との隙間が広くなるように形成されている。したがって、引戸12の開閉時には、コ字形断面を有するスリ板20が、矩形断面を有する下レール18の両側面に摺動案内される。また、引戸12の全閉状態においては、スリ板20の、少なくとも下レールの両側面に対向する部分20Aに、他の部分20Bよりも軟質の材料が用いられ、かつ、他の部分20Bよりも下レール18の側面との隙間が広くなるように形成されていることで、引戸12が全閉状態において振動しても、スリ板20の軟質の材料が用いられた部分20Aのみが下レール18の側面に当たることとなり、引戸12のガタツキ音を低減することができる。
なお、必要に応じ、下レール18およびスリ板20の断面形状を他の形状(例えば、半円形や台形等。)に変更することも可能である。また、スリ板20の下レールに掛る部分20Aを、下レール18の両側面に対向する、左右別々の帯状の部材とすることも可能である。
【0024】
また、スリ板20の、他の部分よりも幅広かつ軟質に構成されている部分20Aが、ゴムにより構成されていることにより、ゴムの高弾性によって、引戸12のガタツキ音を効果的に低減することが可能となる。さらに、スリ板20の、他の部分よりも幅広かつ軟質に構成されている部分20Aに、下レール18との衝突により生ずる引戸12のガタツキ音を低減するガタツキ音防止手段として、植毛22が施されていることから、植毛22の部分が下レール18に当接することで、スリ板20と下レール18とが当接する際の衝撃を効果的に低減し、引戸12のガタツキ音を、より効果的に低減することが可能となる。
【0025】
図5には、引戸12の下レール18近傍における騒音の測定結果の一例を示している。ここで、(ア)は、スリ板20の、引戸12の全閉状態において下レール18に掛る部分20Aが、他の部分20Bと同様に硬質の樹脂によって形成されている場合の測定結果を示している。一方(イ)は、本発明の実施の形態に係る引戸装置10の測定結果を示している。(ウ)は、参考として引戸12の下レール18近傍における暗騒音(ガタツキ音を除いた場合のその測定環境における騒音)を示している。このように、本発明の実施の形態によれば、引戸12のガタツキ音は、250〜1250Hzの周波数帯域(車内騒音として特に問題となる音域)で約10dB、オールパスでも約10dBの騒音低減効果を得ることが可能となる。
【0026】
なお、図示は省略するが、戸袋内から引戸12の全開状態における戸先端部位置12aまでの間Lの下レール18に代えて、若しくは、この下レール18と共に、引戸12の全閉状態における戸先端部位置12aから戸袋へと向う所定範囲にも、床面FLから突出するように下レール18を設置することとしても良い。この場合は、スリ板20の、引戸の全閉状態において戸先端部側に設けた下レール18に掛る部分についても、他の部分20Bよりも幅広かつ軟質に構成されている部分20Aとすることにより、戸先下縁が下レールによってより確実にガイドされ、かつ、上記作用効果を得ることが可能となる。なお、このように、引戸12の全閉状態における戸先端部位置12aに下レール18を設ける場合には、戸先下縁のガイド機能を発揮し、かつ、床面FLからの下レール18の突出を可能な限り抑えるために、戸先側の下レール18は、必要最小限の範囲にのみ(例えば、引戸12の全閉状態における戸先端部位置から50mm程度。)設けることとする。
また、引戸の全閉状態において下レールに掛る部分20Aと、他の部分20Bとの段差を緩やかにつなぐように、他の部分20Bの、引戸の全閉状態において下レールに掛る部分20Aとの境界近傍に、テーパーを設けることが望ましい。そして、このテーパーにより、引戸12の開閉時におけるスリ板20と下レール18との引っ掛かりを防止することができる。また、植毛22の長さは必要に応じてその長さを調整することとし、場合によっては植毛22を省略することも可能である。
【0027】
また、本発明の実施の形態に係る引戸装置10は、上記の側引戸のみならず、妻引戸その他の引戸にも用いることが可能である。妻引戸は、全開状態でその全体が戸袋に引き込まれず、戸先先端部の近傍が引戸開口部に若干飛出すような構造を採用する場合もあるが、かかる場合にも、下レールは、全開時の戸先端部位置に合わせて、戸袋内から前記引戸の全開状態における戸先端部位置までの間にのみ、床面から突出するように設置される。よって、下レールの戸袋から飛出した部分は、引戸の全開時においても引戸自体によって覆い隠されるため、ドア開口部の床面から引戸の下レールが突出することはない。
さらに、本発明の実施の形態に係る引戸装置10は、片引戸のみならず両引戸にも採用可能である。また、図示の例では、引戸12の上部に電動式のドアエンジン24が設けられているが、他の形式のドアエンジンが用いられた引戸装置にも、当然に採用可能である。
また、本発明の実施の形態に係る下レール18およびスリ板20は、鉄道車両の新造時に、引戸装置10に装着されるに留まらず、既存の鉄道車両の引戸装置にも、簡単に装着することが可能である。よって、新造車両のみならず既存の鉄道車両についても、ドア開口部の床面から引戸の下レールを無くし、若しくは、必要最小限の範囲にのみ設置することによって、床面のフラット化を促進しつつ、引戸のガタツキ音を低減し、静かで快適な車内環境を実現することが可能となる。
【0028】
続いて、図6を参照しながら、本発明の第2の実施の形態に係る引戸装置を説明する。なお、本発明の第1の実施の形態と同一部分、若しくは相当する部分については同一符号で示し、詳しい説明を省略する。
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る引戸装置30の、下レール18およびスリ板20の拡大図であり、図3と同様に、(a)は、図1のA−A線に相当する部分における引戸12の断面図であり、(b)は図1のB−B線に相当する部分における引戸12の断面図である。
【0029】
本実施の第2の実施の形態における、第1の実施の形態との相違点は、図6(a)に示されるように、スリ板20の、引戸12の全閉状態において下レール18に掛る部分20Cが、引戸12の表面パネル28に対し隙間Sを空けて支持され、なおかつ、下レール18の両側面18aとの対向面20aが、下レール18の両側面18aと接触している点にある。
【0030】
すなわち、スリ板20の、引戸12の全閉状態において下レール18に掛る部分20Cは、図6(b)に示された、スリ板20の、引戸の全閉状態において下レール18に掛る部分以外の部分20Bよりも、肉厚に成形されている。そして、隙間Sは、スリ板20と引戸の表面パネル28との間に介在される押さえ金26(図6(b))を無くすことにより、確保されている(なお、本実施の形態では、押さえ金26の、スリ板20と引戸の表面パネル28との間の部分を切欠くことで、隙間Sを確保している。)。更に、押さえ金26を無くした部分については、引戸の表面パネル28の裏側に、押さえ金26よりも薄い帯板32が固定されている。隙間Sは0.5〜2.0mm程度、空けられている。
【0031】
なお、図6(b)に示された、スリ板20の、引戸12の全閉状態において下レール18に掛る部分以外の部分20Bについては、第1の実施の形態における該当部分と同じである。すなわち、スリ板20の下レール18の両側面との対向面20aと、下レール18の両側面18aとの間には、所定の隙間が設けられており、図6(a)との差を明らかにするために、かかる所定の隙間を、図3(a)よりも明確に示している。
【0032】
更に、図示は省略するが、スリ板20の、引戸12の全閉状態において下レール18に掛る部分20Cに空けられた、スリ板20Cと引戸12の表面パネル28との隙間Sに、緩衝材を配置することとしてもよい。
【0033】
上記構成をなす、本発明の第2の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能となる。まず、引戸12の下縁に沿って、下レールを覆うコ字形の断面形状をなし下レールに摺動案内される弾性変形可能なスリ板20の、引戸の全閉状態において下レールに掛る部分20C(図6(a))は、下レール18の両側面18aとの対向面20aが、下レール18の両側面18aと接触するように構成されていることから、スリ板20Cと下レール18とは、引戸12の全開状態において隙間無く当接し、スリ板20Cと下レール18との衝突に起因する引戸12のガタツキ音は発生し得ない(すなわち、スリ板20と下レール18との衝突により生ずる引戸12のガタツキ音を低減するガタツキ音防止手段として、肉厚のスリ板20Cが設けられている。)。
しかも、スリ板20の、引戸12の全閉状態において下レールに掛る部分20Cは、引戸12の表面パネル28に対し隙間Sを空けて支持されていることから、スリ板20Cはコ字形の断面を広げる方向に弾性変形することが可能となり、スリ板20Cの偏磨耗や、引戸12の開閉時の引っ掛り等の不具合を回避することができる。
【0034】
又、スリ板20の、引戸12の全閉状態において下レール18に掛る部分20Cに空けられた、スリ板20と引戸12の表面パネル28との隙間Sに、緩衝材を配置し、当該緩衝材によって、スリ板20Cのコ字形の断面を広げる方向への弾性変形を阻害することなく、隙間Sへのゴミ等の侵入を防ぐことが可能となる。なお、緩衝材としては、スポンジ、ゴム等、スリ板20Cの弾性変形を阻害しない弾性であれば用いることが可能である。また、緩衝材に防水処理等がされていれば、より好ましい。
【0035】
また、スリ板20の引戸12の全閉状態において下レールに掛る部分20Cを除き、スリ板20と、引戸12の表面パネル28との間を塞ぐ押さえ金26が設けられていることから、スリ板20は、押さえ金26によって引戸12に固定され、かつ、押さえ金26によって、引戸12の下縁が補強される(この点は、第1の実施の形態においても同じである。)。一方、スリ板20の引戸12の全閉状態において下レール18に掛る部分20Cは、押さえ金26が設けられていないことから、スリ板20Cと引戸12の表面パネル28との間に隙間Sが生じ、スリ板20Cはコ字形の断面を広げる方向に弾性変形することが可能となる。更に、引戸12の全閉状態において下レールに掛る部分は、押さえ金26に代えて、引戸の表面パネル28の裏側に、押さえ金26よりも薄い帯板32が固定されていることから、この帯板32によって引き戸12の下縁が補強される。また、この帯板32によって、スリ板20Cと引戸の表面パネル28との隙間Sの調整が可能となる。なお、引戸12の下縁の補強が必要ない場合には、帯板32をスリ板20Cに固定して、スリ板20Cと引戸の表面パネル28との隙間Sの調整をすることとしても良い。
その他、本発明の第1の実施の形態と同様の作用効果については、説明を省略する。
【0036】
本発明の第1、第2の実施の形態は、以上の構成を有しており、これらをまとめると、次の構成となる。
すなわち、引戸12の上・下にレール12、14が設けられ、開閉動作の全行程に渡り、上レール14によって引戸12がガイドされる鉄道車両用引戸装置であって、下レール12は矩形の断面形状をなし、戸袋内から引戸12の全開状態における戸先端部位置12aまでの間、若しくは引戸12の全閉状態における戸先端部位置12aから戸袋へと向う所定範囲の、少なくとも一方の場所において、床面FLから突出するように設置され、引戸12の下縁に沿って、下レール18を覆うコ字形の断面形状をなし下レール18に摺動案内される弾性変形可能なスリ板20が設けられ、スリ板20の、引戸12の全閉状態において下レール18に掛る部分20A、20Cに、下レール12との衝突により生ずる引戸12のガタツキ音を低減するガタツキ音防止手段(ゴム等の軟質材料からなるスリ板20A、植毛22、下レール18と接触する肉厚のスリ板20C)が設けられていることを特長とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る、引戸装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】(a)は図1のA−A線における断面図であり、(b)は図1のB−B線における断面図である。
【図3】(a)は図2(a)の下レールおよびスリ板の拡大図であり、(b)は図2(b)の下レールおよびスリ板の拡大図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る、引戸の全閉状態における、下レールと引戸の下縁との関係を示す説明図であり、下レールは平面図、引戸は側面図として図示されている。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る引戸装置における、ガタツキ音の低減効果を示すグラフである。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る引戸装置における、下レールおよびスリ板の拡大図であり、(a)は、図1のA−A線に相当する部分における断面図、(b)は図1のB−B線に相当するに部分おける断面図である。
【符号の説明】
【0038】
10:引戸装置、12:引戸、12a戸先端部位置、14:上レール、16:戸車、18:下レール、20:スリ板、22:植毛、26:押さえ金、28:表面パネル、30:引戸装置、32:帯板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引戸の上・下にレールが設けられ、開閉動作の全行程に渡り、上レールによって引戸がガイドされる鉄道車両用引戸装置であって、
下レールは、戸袋内から前記引戸の全開状態における戸先端部位置までの間、若しくは前記引戸の全閉状態における戸先端部位置から戸袋へと向う所定範囲の、少なくとも一方の場所において、床面から突出するように設置され、
前記引戸の下縁に沿って、前記下レールに摺動案内されるスリ板が設けられ、該スリ板の、前記引戸の全閉状態において前記下レールに掛る部分に、他の部分よりも軟質の材料が用いられ、かつ、他の部分よりも前記下レールとの隙間が広くなるように形成されていることを特徴とする鉄道車両用引戸装置。
【請求項2】
前記下レールは矩形の断面形状をなし、
前記スリ板は前記下レールを覆うコ字形の断面形状をなし、前記引戸の全閉状態において前記下レールに掛る部分の、少なくとも前記下レールの両側面と対向する部分に、他の部分よりも軟質の材料が用いられ、かつ、他の部分よりも前記下レールの側面との隙間が広くなるように形成されていることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両用引戸装置。
【請求項3】
前記スリ板の、前記引戸の全閉状態において前記下レールに掛る部分は、ゴムにより構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の鉄道車両用引戸装置。
【請求項4】
前記スリ板の、前記引戸の全閉状態において前記下レールに掛る部分に、植毛が施されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の鉄道車両用引戸装置。
【請求項5】
引戸の上・下にレールが設けられ、開閉動作の全行程に渡り、上レールによって引戸がガイドされる鉄道車両用引戸装置であって、
下レールは矩形の断面形状をなし、戸袋内から前記引戸の全開状態における戸先端部位置までの間、若しくは前記引戸の全閉状態における戸先端部位置から戸袋へと向う所定範囲の、少なくとも一方の場所において、床面から突出するように設置され、
前記引戸の下縁に沿って、前記下レールを覆うコ字形の断面形状をなし前記下レールに摺動案内される弾性変形可能なスリ板が設けられ、該スリ板の、前記引戸の全閉状態において前記下レールに掛る部分が、引戸の表面パネルに対し隙間を空けて支持され、なおかつ、前記下レールの両側面との対向面が、前記下レールの両側面と接触するように構成されていることを特徴とする鉄道車両用引戸装置。
【請求項6】
前記スリ板の、前記引戸の全閉状態において前記下レールに掛る部分に空けられた、前記スリ板と前記引戸の表面パネルとの隙間に、緩衝材が配置されていることを特徴とする請求項5記載の鉄道車両用引戸装置。
【請求項7】
前記引戸の全閉状態において前記下レールに掛る部分を除き、前記スリ板と前記引戸の表面パネルとの間を塞ぐ押さえ金が設けられ、
前記引戸の全閉状態において前記下レールに掛る部分は、前記引戸の表面パネル裏側に、前記押さえ金よりも薄い帯板が固定されていることを特徴とする請求項5又は6記載の鉄道車両用引戸装置。
【請求項8】
引戸の上・下にレールが設けられ、開閉動作の全行程に渡り、上レールによって引戸がガイドされる鉄道車両用引戸装置であって、
下レールは、戸袋内から前記引戸の全開状態における戸先端部位置までの間、若しくは前記引戸の全閉状態における戸先端部位置から戸袋へと向う所定範囲の、少なくとも一方の場所において、床面から突出するように設置され、
前記引戸の下縁に沿って、前記下レールに摺動案内されるスリ板が設けられ、該スリ板の、前記引戸の全閉状態において前記下レールに掛る部分に、前記下レールとの衝突により生ずる引戸のガタツキ音を低減するガタツキ音防止手段が設けられていることを特長とする鉄道車両用引戸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−328943(P2006−328943A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123972(P2006−123972)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)
【Fターム(参考)】