説明

長尺袋体、表土流出防止用堰、及び植物育成設備

【課題】容易に曲線状に配置でき、排水性にも優れ、且つ迅速に設置及び撤去が可能な長尺袋体を提供する。
【解決手段】長尺袋体1は、長手方向に連続して形成された複数の大径部2及び小径部3を有する筒状織物からなる袋体として形成される。また、この袋体内に土や砂などの粒状物が充填された後も、長尺袋体1は通気性及び通水性を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状織物からなる長尺袋体、この長尺袋体を備え表土の流出を防止するための表土流出防止用堰、及びこの長尺袋体を備え植物の育成空間を形成するための植物育成設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水害時の防護用として又は土木工事などでの止水用として用いることができる防護擁壁に関する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この防護擁壁は、接続部材を用いて互いに連結した2本のチューブの上にチューブを積み重ね、これら積み重ねられたチューブ内に水を満たして形成されるものであり、仮設の堰として用いられるものである。
【0003】
また、凝集剤を含有した土を主成分とする流出防止材を用いた堰に関する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。この技術は、水道水や工業用水等の浄化時に生成される凝集剤を含有した土を主成分とする流出防止材を用いるもので、赤土等の表土の流出を防止するために、この流出防止材を詰めた土嚢袋を積み上げて仮設の堰として利用したり、そのまま盛土のようにして積み上げて堰として利用したりするものである。また、この流出防止材は、そのまま土壌の表面に所定の厚さ堆積させることにより赤土等の表土の流出を防止しようとするものでもある。
【0004】
【特許文献1】特開2000−226824号公報
【特許文献2】特開2004−52327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された、水害時の防護用として又は土木工事などでの止水用として用いることができる防護擁壁は、チューブ内に水が満たされると曲げたときの曲がる位置が一定でなく、また、チューブが鋭角に折れ曲がるので、この防護擁壁を曲線状に配置することは容易でない。一方、このような防護擁壁の設置は、周囲の状況によって曲線状に配置する必要がある場合がある。
【0006】
また、このような防護擁壁を土木工事などでの止水用として用いる場合、防護擁壁からの漏水はできるだけ少ないほうが好ましいが、水害時の防護用として用いる場合には、上流側の溢水などを防止するために、流れてくるもの全てを堰き止めるのではなく、濁水の流れる勢いは止めるが、濁水自体は少しずつ下流側に排水されていくことが好ましい場合もある。しかし、この防護擁壁は、長手方向の断面が一定のいわゆるストレート状のチューブを積み重ねて形成されたものであるため、下流側への排水はあまり期待できない。
【0007】
また、特許文献2に記載された凝集剤を含有した土を主成分とする流出防止材を用いた堰は、まず、この流出防止材を詰めた土嚢を仮設の堰として利用する場合は、この土嚢を積み上げるのに多くの人手がかかり、人手が確保できない場合には迅速に仮設の堰を作り上げることができない。
【0008】
次に、この流出防止材をそのまま積み上げて堰として利用する場合は、勢いのある濁水の流れに耐えうるように締め固める必要があり、上記の流出防止材を詰めた土嚢を仮設の堰として利用する場合と同様、積み上げた流出防止材をつなぐのに手間がかかる。
【0009】
また、この流出防止材をそのまま土壌の表面に所定の厚さ堆積させることにより赤土等の表土の流出を防止しようとする場合は、この流出防止材で土壌表面を覆う範囲が小さければよいが、範囲が広い場合には、多くの量の流出防止材及び作業の手間がかかる。また、この流出防止材により土壌の性質を変えてしまうことにもなりかねない。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、容易に曲線状に配置でき、排水性にも優れ、且つ迅速に設置及び撤去が可能な長尺袋体を提供することにある。また、上記長尺袋体を備え、且つその特徴を生かした表土の流出を防止するための表土流出防止用堰ならびに植物の育成空間を形成するための植物育成設備を合わせて提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0011】
本発明に係る長尺袋体は、長手方向を有する筒状の織物からなる長尺袋体に関する。そして、本発明に係る長尺袋体は、上記目的を達成するために以下のようないくつかの特徴を有している。すなわち、本発明の長尺袋体は、以下の特徴を単独で、若しくは、適宜組み合わせて備えている。
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係る長尺袋体における第1の特徴は、長手方向に連続して形成された複数の大径部及び小径部を有する筒状織物からなる袋体として形成され、前記袋体内に粒状物が充填された後も通気性及び通水性を有していることである。
【0013】
この構成によると、粒状物が充填された本発明に係る長尺袋体は、大径部よりも細い小径部で曲がりやすく、また、この小径部は上記長尺袋体の長手方向に複数形成されているため、例えば、上記長尺袋体を曲げようとした場合、この長尺袋体は各小径部で少しずつほぼ均等に曲がるので、上記長尺袋体は全体として容易に曲線状に曲げられる。よって、本発明に係る長尺袋体を容易に曲線状に配置することが可能となる。
【0014】
また、この長尺袋体を地面等に設置した場合、この長尺袋体は、その複数の大径部で地面等と接触することになり、大径部よりも細い複数の小径部と地面等との間には空間が形成される。ここで、例えば、この長尺袋体を、土砂等を含む流体を堰き止める堰として用いた場合、この長尺袋体により土砂等を含む流体が完全に堰き止められるのではなく、土砂等を含む流体の流速を減少させ、流速が減少したその流体は、複数の小径部と地面等との間に形成された上記空間から下流側に排水されていく。また、土砂の一部は、この長尺袋体からなる堰に堰き止められ、残りの土砂は、この長尺袋体により流速が減少させられる。よって、この長尺袋体を堰として用いることにより流速が減少するので、堰を通過後の流体は新たに表土を削る力が減少している。したがって、土砂の流出を抑制することができる。
【0015】
また、例えば、この長尺袋体を、盛土等がくずれてくることを防止するための堰として用いた場合には、この長尺袋体により盛土は維持され、一方、盛土に降った雨水等は、複数の小径部と地面等との間に形成された空間から外部に排水されていく。
【0016】
さらに、この長尺袋体は、粒状物が充填された後も通気性及び通水性を有するので、上記の土砂等を含む一部の流体や上記雨水の一部は、この長尺袋体自体にも吸収され、その後、下流側や外部ににじみ出ていく。よって、本発明に係る長尺袋体は、排水性に優れた袋体となっている。
【0017】
また、本発明に係る長尺袋体を、土砂等を含む流体を堰き止めるための仮設の堰や、盛土等がくずれてくることを防止するための仮設の堰として用いる場合には、土嚢のような多くの袋体を用いる場合に比べて迅速に設置及び撤去を行うことができる。
【0018】
また、本発明に係る長尺袋体における第2の特徴は、前記小径部の緯糸密度が、前記大径部の緯糸密度よりも小さいことである。
【0019】
緯糸の密度が小さいと、緯糸が経糸を拘束する力が減少するため、経糸が緯糸間を滑って動きやすい。よって、この構成によると、この長尺袋体は、大径部よりも小径部のほうがより柔軟な構造となり、粒状物が充填された長尺袋体を容易に曲線状に曲げることができる。
【0020】
また、本発明に係る長尺袋体における第3の特徴は、前記大径部の直径が、前記小径部の直径よりも50mm以上大きいことである。
【0021】
この構成によると、例えば、粒状物が充填された本発明に係る長尺袋体を地面等の上に設置した場合、設置後に人がこの長尺袋体の大径部の上に乗ることにより大径部が楕円状に変形しても、小径部が地面に接触することを防止でき、小径部と地面等との間の空間を確保できる。また、人が長尺袋体の小径部の上に乗ったとしても、同様に小径部が地面に接触することを防止でき、小径部と地面等との間の空間を確保できる。
【0022】
また、本発明に係る長尺袋体における第4の特徴は、前記袋体が、生分解性の繊維を用いて形成されていることである。
【0023】
この構成によると、例えば、本発明に係る長尺袋体を、土砂等を含む流体を堰き止めるための堰や、盛土等がくずれてくることを防止するための堰として用いた場合に、そのまま放置しておくと、この長尺袋体は時間の経過により自然界の微生物によって分解され、自然に還元される。よって、この長尺袋体の撤去作業が特に不要な場合には、撤去作業を省略することができる。
【0024】
また、本発明に係る長尺袋体における第5の特徴は、前記袋体の外面に沿って設けられ、内部に植生材料を収容可能であるとともに、外部に開放状態となるように形成された開口部を有するポケット部を備えていることである。
【0025】
この構成によると、上記ポケット部内に植生材料を収容することができる。ポケット部内に収容された植生材料に含まれる植物は、ポケット部を貫通して生育する。よって、植物の生育が妨げられにくく植生効率が向上する。また、ポケット部を外面に沿った状態として設けることにより、ポケット部に植生材料を充填する作業を容易に行うことが可能となる。
【0026】
例えば、本発明に係る長尺袋体を、土砂等を含む流体を堰き止めるための堰や、盛土等がくずれてくることを防止するための堰として用いた場合には、上記植物と一体化した長尺袋体が堰となるので、土砂等を含む流体の流速を減少させる効果や盛土等がくずれてくることを防止する効果がより高められる。
【0027】
さらに、この植物の根の一部は、長尺袋体内に侵入し、且つ長尺袋体の下部を貫通して地面に伸びていくため、長尺袋体は地面に強固に固定される。よって、土砂等を含む流体などによる外部からの力により長尺袋体が移動してしまうことを防止できる。
【0028】
また、本発明に係る表土流出防止用堰は、表土の流出を防止するための堰に関する。そして、本発明に係る表土流出防止用堰は、上記目的を達成するために以下のような特徴を有している。
【0029】
上記目的を達成するための本発明に係る表土流出防止用堰における特徴は、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の前記長尺袋体を備え、前記粒状物が充填された複数の前記長尺袋体が、前記大径部と前記小径部とが互いに対向するように並行して設置されていることである。
【0030】
この構成によると、本発明に係る表土流出防止用堰は、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載された複数の上記長尺袋体を備えているため、容易に曲線状に配置することができる。また、表土とともに流下してくる流体の流速を減少させ、排水性に優れたものとなっている。さらに、表土の流出を防止するために堰として用いられる土嚢のように多くの袋体を積み上げて用いる場合に比べて迅速に設置及び撤去を行うことができる。また、容易に配置を変えて流体の流れる方向を変えることもできる。
【0031】
また、大径部よりも細い複数の小径部と地面等との間には空間が形成され、この空間部を表土とともに流下してくる流体の多くは、さらに下流側に設置された上記長尺袋体の大径部に衝突するため、上記表土流出防止用堰は、1つの長尺袋体で表土の流出を防止するための堰を形成するよりも、この流体の流速を減少させる効果をより高めることができる。
【0032】
また、本発明に係る植物育成設備は、植物の育成空間を形成するための設備に関する。そして、本発明に係る植物育成設備は、上記目的を達成するために以下のようないくつかの特徴を有している。すなわち、本発明の植物育成設備は、以下の特徴を単独で、若しくは、適宜組み合わせて備えている。
【0033】
上記目的を達成するための本発明に係る植物育成設備における第1の特徴は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の前記長尺袋体と、透水性を有する保形ホースとを備え、前記粒状物が充填された前記長尺袋体が、空間を囲むように配置され、前記保形ホースが、前記小径部の下部から他の前記小径部の下部まで前記空間を横切るように配置されていることである。
【0034】
この構成によると、本発明に係る植物育成設備は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載された上記長尺袋体を備えているため、空間を囲むように容易に曲線状に配置される。また、この長尺袋体は、どこか一点にキンクが集中することなく各小径部で少しずつほぼ均等に曲がるので、景観の良い植物育成設備を形成することができる。
【0035】
また、この長尺袋体は、複数の大径部及び小径部を有し、且つ粒状物が充填された後も通気性及び通水性を有するので、雨水等の排水性に優れたものとなっている。よって、例えば、コンクリートなどの透水性の低い面上にこの植物育成設備を形成した場合でも、この植物育成設備内部には水が滞留しにくく、したがって、育成される植物は根腐れをおこしにくく育ちやすい。
【0036】
また、小径部の下部から他の小径部の下部まで植物育成空間を横切るように保形ホースを配置することにより、植物育成空間の外周を形成する長尺袋体からだけでなく、植物育成空間の内部からも保形ホースを介して雨水等を排水することができる。また、この植物育成空間の内部まで通気性を向上させることもできる。
【0037】
さらに、土嚢のように多くの袋体を積み上げて用いる場合に比べて迅速に設置及び撤去を行うことができるものである。
【0038】
また、本発明に係る植物育成設備における第2の特徴は、前記粒状物が充填された前記長尺袋体に囲まれた前記空間内に、前記小径部の高さまで土が入っていることである。
【0039】
この構成によると、長尺袋体の小径部とコンクリート面等との間に形成される空間だけでなく、小径部の上方空間からも雨水が排出されるので、長尺袋体により囲まれた植物の育成空間に水が溜まることをより防止でき、また、大径部は、この植物育成設備内に収容された土の表面よりも突出するので、雨水等による土の流出を防止できる。
【0040】
また、この長尺袋体のほぼ大径部の高さまで土を入れておけば、その土は重力により自然に圧蜜されて高さが低くなるので、この大径部の高さを良い目印として施工することができ、施工が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しつつ説明する。ここでは、まず、本発明に係る長尺袋体が、赤土からなる表土の流出を防止するための堰として用いられる一例に関して説明する。ここで、表土とは、土壌における最上層部の層のことである。尚、本発明に係る長尺袋体は、これに限らず、例えば、土砂及び各種表土の流出を防止するための堰、通気性や排水性が必要な花壇のための堰、ならびに水害時の各種水防工法に用いる堰等、種々の用途に用いることができる。そのあと、本発明に係る表土流出防止用堰、及び植物育成設備の一実施形態について説明することとする。
【0042】
図1は、本発明に係る長尺袋体の一実施形態を示す図である。図1に示すように、本実施形態の長尺袋体1は、長手方向に連続して形成された複数の大径部2及び小径部3を有する筒状織物からなる袋体として形成される。また、複数の大径部2は、ほぼ円形に形成されており、隣接する2つの大径部2が小径部3により連結されたような形状となっている。このような形状とすることで、土や砂などの粒状物が充填された長尺袋体1は、大径部2よりも細い小径部3で曲がりやすく、また、小径部3は長尺袋体1の長手方向に複数形成されているため、例えば、長尺袋体1を曲げようとした場合、長尺袋体1は各小径部3で少しずつほぼ均等に曲がるので、全体として容易に曲線状に曲げられる。すなわち、長尺袋体1を容易に曲線状に配置することが可能となる。
【0043】
ここで、大径部2の直径Dは、小径部3の直径dよりも50mm以上、大きくすることが好ましい。こうすることにより、土や砂などの粒状物が充填された長尺袋体1を地面等の上に設置した場合、設置後に人がこの大径部2の上に乗ることにより大径部2が楕円状に変形しても、小径部3が地面に接触することを防止でき、小径部3と地面等との間の空間を確保できる。また、人が小径部3の上に乗ったとしても、同様に小径部3が地面に接触することを防止でき、小径部3と地面等との間の空間を確保できる。ただし、小径部の柔軟性及び強度を考慮すると、大径部2の直径Dと小径部3の直径dとの差は、大径部2の直径Dが小径部3の直径dの約4倍の大きさとなる程度が上限である。
【0044】
本実施形態の長尺袋体1として、ポリエステル繊維の経糸1100T/2、緯糸1100T/4で織成され、大径部2の直径Dをφ300mm、小径部3の直径dをφ200とし、大径部2のピッチ(隣接する2つの大径部2の中心間距離)を300mmとして形成された筒状織物からなる袋体を用いた。尚、緯糸の密度は、大径部2で8本/cm、小径部3で5本/cmとし、経糸の密度は、大径部2で5.4本/cm、小径部3で8.2本/cmとした。
【0045】
上記のように、小径部3の緯糸の密度を大径部2の緯糸の密度より小さくすることで、大径部2よりも小径部3のほうが織物の目が粗くなる。したがって、長尺袋体1は、大径部2よりも小径部3のほうがより柔軟な構造となり、土や砂などの粒状物が充填された長尺袋体1をより容易に曲線状に曲げることができる。
【0046】
尚、長尺袋体1は、経糸とこの経糸にスパイラル状に連続して織り込まれる緯糸とで形成された円周方向に継ぎ目のない筒状織布からなる袋体とすることが好ましい。こうすることで、長尺袋体1の強度が高まり、例えば、土や砂などの粒状物を大量に充填したとしても長尺袋体1は容易に破れることがない。
【0047】
また、長尺袋体1の素材として、生分解性の繊維を用いることもできる。これにより、長尺袋体1を、赤土からなる表土の流出を防止するための堰として用いた場合に、この長尺袋体1の撤去作業が特に不要なときは、そのまま放置しておくと、この長尺袋体1は時間の経過により自然界の微生物によって分解され、自然に還元される。よって、撤去作業を省略することができる。
【0048】
また、長尺袋体1は、上記筒状織物を長さ20mに切断したものを用い、端部5は縫製して封鎖し、他の端部4は、土や砂などの粒状物を注入するための部位であり、ひも等の線状体で緩めたり締めたりすることにより開口部を開閉できる巾着状の構造としている。尚、この長尺袋体1に充填されるものは、乾燥した土や砂などの粒状物に限られることはなく、水分を多く含んだ土や砂などの粒状物の場合もあるので、端部5を巾着状としたり、バルブを介して開閉できる排水の排出口としたりしても良い。また、端部4は、面ファスナーを用いても良いし、単に外部に開口させているだけでも良く、巾着状の構造に限られるものではない。
【0049】
次に、長尺袋体1に土や砂などの粒状物を充填する方法について説明する。まず、巾着状の構造とした端部4側を上にして、レッカー車等で長尺袋体1を高さ2mまで吊り上げ、油圧ショベル等により土や砂などの粒状物を投入する。その後、レッカー車で端部4側をさらに吊り上げ土や砂などの粒状物を長尺袋体1の内部に落としこむ。この作業を繰り返し行い、充填完了後、端部4を閉じる。尚、この長尺袋体1に土や砂などの粒状物を充填する作業は、長尺袋体1の使用時に行うのではなく、あらかじめ事前に他の場所で行っておくことが好ましい。また、土や砂などの粒状物が充填された長尺袋体1の設置や撤去においては、小径部3にベルトやロープを引っ掛けてクレーン等で吊り上げることができるので、安全に施工ができる。
【0050】
図2は、図1の長尺袋体1が赤土の表土を有する畑等の斜面101に設置された状態を示す図である。例えば、赤土の表土を有する畑等の斜面101に強い降雨があった場合、地表の赤土は雨水と共に流出し生活環境や自然環境に悪影響をおよぼす場合がある。そこで、図2に示すように、土や砂などの粒状物が充填された本発明に係る長尺袋体1が、赤土の表土を有する畑等の斜面101の下部に設置され、表土の流出を防止するための堰として用いられる。図2における矢印は、降雨、及び雨水が表土とともに斜面101を流れている方向を示している。
【0051】
赤土の表土を有する畑等の斜面101に降った強い雨は、地表の赤土と一緒に斜面101の下方向に流下していく。ここで、長尺袋体1は、長手方向に連続して形成された複数の大径部2及び小径部3を有する筒状織物からなる袋体として形成され、且つ、土や砂などの粒状物が充填された後も通気性及び通水性を有している。これより、大径部2よりも細い複数の小径部3と地面等との間には空間が形成されている。
【0052】
そして、地表の赤土と一緒に斜面101の下方向に流下してきた雨水は、長尺袋体1に衝突し、長尺袋体1により完全に堰き止められるのではなく、その流速が減少させられ、複数の小径部と地面等との間に形成された上記空間から下流側に排水されていく。したがって、長尺袋体1からなる堰の上流側に雨水が大量に溜まっていくことはない。また、流下してきた地表の赤土の一部は長尺袋体1により堰き止められ、堰き止められなかった一部の赤土は、長尺袋体1によりその流速が減少させられる。よって、この長尺袋体1を堰として用いることにより、地表の赤土の流出を抑制することができ、赤土が道路100に流れ出すことを防止することができる。
【0053】
尚、長尺袋体1は、図2に示すように直線状に配置されるだけでなく、地形に合わせて、適宜、曲線状に配置することも可能である。
【0054】
図3は、内部に植生材料を収容可能なポケット部12を備えた本発明に係る長尺袋体の一実施形態を示す図である。図3に示す長尺袋体30は、図1に示す長尺袋体1の外面に沿って上記ポケット部12を設けたものである。ポケット部12は、カバー部材10と複数の大径部2及び小径部3を有する袋体14との間であって、外部に開放状態となるように形成された開口部である。カバー部材10は、ポリエステル繊維製であり、縫製又は接着等により袋体14に固定されている。
【0055】
ポケット部12には、例えばヨシの地下茎を含む肥料等の植生材料11が収容される。ポケット部12内に収容された植生材料11に含まれる植物は、カバー部材10を貫通して生育する。さらに、この植物の根の一部は、袋体14内に侵入し、やがて袋体14の下部を貫通して地面に伸びていくため、本実施形態の長尺袋体30は地面に強固に固定される。よって、赤土からなる表土の流出流れが衝突することにより長尺袋体30が移動してしまうことを防止できる。また、上記植物と一体化した長尺袋体30が堰となるので、表土と共に流れてくる雨水の流速を減少させる効果がより高められる。
【0056】
図4は、植物の種を含む土を内部に充填した図1の長尺袋体1を地面50に設置した状態を示す図である。本発明に係る長尺袋体に植生するには、図3に示すように植生用のポケット部12を設けても良いが、植物の種を含む土や砂などの粒状物を、直接、長尺袋体1に充填しても良い。図4に示すように、長尺袋体1内の植物の種は発芽して成長し、植物15の茎や根は、やがて長尺袋体1を貫通して生育する。
【0057】
上記長尺袋体30と同様、本実施形態の長尺袋体1は、この植物15により地面に強固に固定される。また、この植物15と一体化した長尺袋体1が堰となるので、表土と共に流れてくる雨水の流速を減少させる効果がより高められる。
【0058】
次に、本発明に係る表土流出防止用堰の一実施形態について説明する。図5は、本発明に係る表土流出防止用堰の一実施形態が斜面101に設置された状態を示す図である。図5における矢印は、降雨、及び雨水が表土とともに斜面101を流れている方向を示している。図6は、本発明に係る表土流出防止用堰の作用効果を説明する図である。図6における矢印は、雨水が表土とともに斜面101を流れている方向を示している。
【0059】
図5に示すように、本実施形態に係る表土流出防止用堰は、長尺袋体1a、長尺袋体1b、及び長尺袋体1cで構成され、長尺袋体1a、長尺袋体1b、及び長尺袋体1cは、互いに並行してそれぞれ5m間隔で設置されている。また、図6に示すように、互いに隣り合って設置されている長尺袋体1a及び長尺袋体1bにおいて、長尺袋体1bの大径部2bと長尺袋体1aの小径部3aとは、互いに対向するように配置されている。尚、長尺袋体1の数量及び間隔は、図5に示す3本や上記記載の5mに限られることはなく、斜面101の大きさや角度、想定される雨水量、及び赤土の性質等の諸条件から、適宜、決定される。また、長尺袋体1には土や砂などの粒状物が充填されている。
【0060】
図6に示すように、赤土からなる表土を含む雨水は、まず、上流側に位置する長尺袋体1bに衝突する。図6における矢印の太さは、雨水の勢い(流速)を模式的に示すものであり、線の太さが細いほど雨水の勢い(流速)が小さいことを示している。
【0061】
ここで、長尺袋体1bの小径部3bと斜面101との間には空間が形成されているため、上記の赤土からなる表土を含む雨水は、長尺袋体1bにより完全に堰き止められるのではなく、長尺袋体1bにより流速が減少させられ、小径部3bと斜面101との間に形成された空間から下流側に流れていく。ここで、雨水に含まれる一部の赤土は、流速が減少することにより長尺袋体1bにより堰き止められる。
【0062】
長尺袋体1bの下流側に流れ、流速を落とした赤土からなる表土を含む雨水は、次に、長尺袋体1aに衝突する。ここにおいても同様に、上記の赤土からなる表土を含む雨水は、長尺袋体1aにより完全に堰き止められるのではなく、長尺袋体1aにより流速がさらに減少させられ、小径部3aと斜面101との間に形成された空間から下流側に流れていく。また、雨水に含まれる一部の赤土は、流速が減少することにより長尺袋体1bにより堰き止められる。このようにして、斜面101の上流側に雨水を滞留させることがないので、斜面101は水はけが良く、且つ、斜面101の表土の流出を防止することができる。
【0063】
また、このような本発明に係る表土流出防止用堰を用いることにより、緊急な豪雨時には、多くの土嚢等を積み上げて堰を形成することに比較して、少ない人手で堰を迅速に形成することができる。しかも、容易に配置を変えて雨水の流れる方向を変えることもできる。
【0064】
次に、本発明に係る植物育成設備の一実施形態について説明する。図7は、本発明に係る植物育成設備の一実施形態を示す図である。図7に示すように、本実施形態に係る植物育成設備は、土や砂などの粒状物が充填された長尺袋体1と透水性を有する保形ホース55とを備え、長尺袋体1が空間を囲むようにコンクリートで舗装されたコンクリート地面103上に配置されている。また、保形ホース55は、小径部3の下部から他の小径部3‘の下部まで、長尺袋体1により囲まれた上記空間を横切るように配置されている。さらに、長尺袋体1により囲まれた上記空間内には、小径部3(3’)の高さまで土60が入れられている。そして、このようにして形成された植物の育成空間に植物102が植えられている。
【0065】
ここで、長尺袋体1は各小径部で少しずつほぼ均等に曲がるので、全体として容易に曲線状に曲げられる。よって、長尺袋体1を容易に曲線状に配置することができ、配置された長尺袋体1の景観も良い。また、長尺袋体1は、粒状物が充填された後も通気性及び通水性を有するので、夏場の高温時においても土60中の温度は不必要に上がりにくく、植物102の育成に有効である。
【0066】
また、本実施形態に係る植物育成設備は、透水性の低いコンクリート地面103上に形成されているが、長尺袋体1の小径部3とコンクリート地面103との間には空間もあるので、この植物育成設備内部には水が滞留しにくい。
【0067】
さらに、保形ホース55が設置されているので、この保形ホース55の表面から水分は吸収され、吸収された水分は、保形ホース55の外部に開口した端部55aから排出される。よって、植物育成空間の外周を形成する長尺袋体1からだけでなく、植物育成空間の内部からも保形ホース55を介して不必要な雨水等を外部に排水することができる。尚、保形ホース55は、図7に示すように、植物育成空間の中心部近傍を通るように配置することが、より好ましい。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することが可能なものである。例えば、図8は、図1の長尺袋体1を格子状に複数積み上げて斜面101に設置した状態を示す図である。図8に示すように、複数の長尺袋体1の小径部を互いに交差して隣接させることにより、より大きくて頑丈な堰を形成することができる。
【0069】
また、本発明に係る長尺袋体を水害時に国土交通省や各自治体が実施する各種水防工法に用いる堰としても利用することができる。水害時の各種水防工法としては、例えば、月の輪工法や釜段工法と呼ばれる水防工法がある。月の輪工法とは、河川の堤防裏側に漏水により水が吹き出した場合に、半円状に土嚢等を積んで水を溜め、その水圧で堤防からの漏水を抑える工法である。釜段工法とは、環状に土嚢等を積み上げる点を除き上記の月の輪工法と同様の工法である。これら工法の土嚢の代わりに、本発明に係る長尺袋体を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係る長尺袋体の一実施形態を示す図である。
【図2】図1の長尺袋体が斜面に設置された状態を示す図である。
【図3】本発明に係る長尺袋体の一実施形態を示す図である。
【図4】植物の種を含む土を内部に充填した図1の長尺袋体を地面に設置した状態を示す図である。
【図5】本発明に係る表土流出防止用堰の一実施形態が斜面に設置された状態を示す図である。
【図6】本発明に係る表土流出防止用堰の作用効果を説明する図である。
【図7】本発明に係る植物育成設備の一実施形態を示す図である。
【図8】図1の長尺袋体を格子状に積み上げて斜面に設置した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1 長尺袋体
2 大径部
3 小径部
11 ポケット部
55 保形ホース
60 土

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に連続して形成された複数の大径部及び小径部を有する筒状織物からなる袋体として形成され、
前記袋体内に粒状物が充填された後も通気性及び通水性を有していることを特徴とする、長尺袋体。
【請求項2】
前記小径部の緯糸密度が、前記大径部の緯糸密度よりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載の長尺袋体。
【請求項3】
前記大径部の直径が、前記小径部の直径よりも50mm以上大きいことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の長尺袋体。
【請求項4】
前記袋体が、生分解性の繊維を用いて形成されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の長尺袋体。
【請求項5】
前記袋体の外面に沿って設けられ、内部に植生材料を収容可能であるとともに、外部に開放状態となるように形成された開口部を有するポケット部を備えていることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の長尺袋体。
【請求項6】
表土の流出を防止するための堰であって、
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の前記長尺袋体を備え、
前記粒状物が充填された複数の前記長尺袋体が、前記大径部と前記小径部とが互いに対向するように並行して設置されていることを特徴とする、表土流出防止用堰。
【請求項7】
植物の育成空間を形成するための設備であって、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の前記長尺袋体と、
透水性を有する保形ホースとを備え、
前記粒状物が充填された前記長尺袋体が、空間を囲むように配置され、
前記保形ホースが、前記小径部の下部から他の前記小径部の下部まで前記空間を横切るように配置されていることを特徴とする、植物育成設備。
【請求項8】
前記粒状物が充填された前記長尺袋体に囲まれた前記空間内に、前記小径部の高さまで土が入っていることを特徴とする、請求項7に記載の植物育成設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−63834(P2008−63834A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243122(P2006−243122)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】