説明

間隙型増容量弛度抑制電線

【課題】 既存ACSRとほぼ同等の弛度を有しながら、電流容量の増大を図った鋼心アルミ撚線からなる間隙型増容量弛度抑制電線を提供する。
【解決手段】 この架空送電線1は、断面扇形を有する複数のアルミニウム素線40を撚り合わせてなるアルミニウム素線層4Aを鋼心部2のすぐ外周に隙間を設けて配置し、アルミニウム素線40として連続許容温度が210℃以上の超耐熱アルミニウム合金系素線を用い、アルミニウム素線層4Aと鋼心部2との間に0.8〜2mmの隙間3を設け、その隙間3に所定の粘性係数を有する充填材6を充填した鋼心アルミ撚線からなる間隙型増容量弛度抑制電線である。210℃以上の高温で使用してもアルミニウム素線の強度低下が発生しないので、電流容量を既設ACSRと比べて2倍以上に増加させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空送電線に用いられる鋼心アルミニウム撚線(鋼心アルミ撚線;ACSR:Aluminum Conductor Steel Reinforced)に関し、特に電流容量の増加により電線温度が上昇しても電線全体の伸びを抑制できる間隙型増容量弛度抑制電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の架空送電線として、鋼心部の外周にアルミニウム撚線からなるアルミニウム素線層を配置した鋼心アルミ撚線を用いたものが知られている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0003】
特許文献1に記載された鋼心アルミ撚線は、鋼心部の外周に隙間を設けて断面扇形の連続許容温度が150℃の複数のアルミニウム素線を撚り合わせたアルミニウム素線層を配置したものである。
【0004】
従来送電線に使用されてきたACSRに適用される硬アルミニウム素線では、連続許容温度が90℃である。連続許容温度と電流容量は、ほぼ比例する関係にあり、耐熱温度の高いアルミニウム材料を使うことによって、電線の電流容量を増加させることができる。一方、通常ACSRに用いられる鋼心部とアルミニウム内層の間に隙間がない構造では、張力をアルミニウム素線層と鋼心部の両方で分担するため、電線全体の線膨張係数は19〜20×10-6/℃と比較的大きく、この構造に耐熱アルミニウム素線を適用し高温で使用した場合、伸びが大きく、送電線の地上離隔高を確保しにくい。
【0005】
このため、特許文献1では、鋼心部の外層に隙間を設けて電線張力を鋼心部にのみに分担させる構造にした。鋼心部の線膨張係数は、11.5×10-6/℃であるので、高温域で使用しても、電線が伸びにくい。これにより、電流容量を従来の送電線(400mm)の約835Aよりも大きい約1340Aを流しても、電線の伸びを抑制でき、既設ACSRと同等の地上離隔高を確保することができる。
【0006】
特許文献2に記載された鋼心アルミ撚線は、鋼心部に粘性を有するグリスを塗布し、その鋼心部の外周に隙間を設けてアルミニウム素線層を配置したものである。これにより、特許文献1と同様に電流容量を増大させることができるとともに、送電線の微風振動によりアルミニウム素線層と鋼心部が衝突してもグリスの減摩効果によりアルミニウム素線、鋼線ともに磨耗し難くなる。また、雨水により鋼線の腐食を防止することができる。
【特許文献1】実公昭54−32206号公報
【特許文献2】実公昭54−25630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の鋼心アルミ撚線からなる間隙型増容量弛度抑制電線によると、アルミニウム素線に連続許容温度が150℃のものを用いているため、使用温度を150℃より上げることができず、既設ACSRと比べて約1.6倍にまでしか電流容量を増加させることができない。もし、電流容量を約2倍に上げようとした場合、電線の使用温度を210℃まで上げる必要があるが、210℃まで上げると、高温使用によってアルミニウム素線がなまされて、機械的強度を保持できなくなり、アルミニウム素線の断面扇形の側面形状が崩れてしまう。この結果、扇形形状によるブリッジ効果が無くなり、アルミニウム素線と鋼心部との間の隙間が無くなるため、鋼心部が自由に動かなくなるという事象が起こる。
【0008】
また、従来の鋼心アルミ撚線からなる間隙型増容量弛度抑制電線では、アルミニウム素線層と鋼心部との間の隙間を適正値に管理していないため、アルミニウム素線層と鋼心部との間の隙間が大き過ぎた場合に、アルミニウム素線のブリッジを保つのが難しく、アルミニウム素線層が崩れ易くなる。逆に、隙間が小さ過ぎた場合に、アルミニウム素線の内側と鋼心部とが接触し易くなり、鋼心部のスムースな引抜きを阻害するとともに、鋼心部にのみ張力を分担させることが困難になる。
【0009】
さらに、アルミニウム素線層の内径、アルミニウム素線層の素線数及びアルミニウム素線の厚さの各パラメータの関係を規定していないため、これらのパラメータの値が不適当であった場合に、アルミニウム素線内層のブリッジ効果が弱くなり、アルミニウム素線層が崩れて、鋼心部との隙間がなくなることがある。この結果、鋼心部とアルミニウム素線が接触してしまい、アルミニウム素線層にも分担張力が加わる結果となり、鋼心部のみへの張力負荷作用が困難になり、局部的に弛度抑制効果が失われてしまうことがある。また、アルミニウム素線層が崩れた場合に、隙間が小さくなる結果、隙間に充填材を入れても、その粘性抵抗も影響して鋼心部がスムースに引き抜けない事象も発生する。
【0010】
従って、本発明の目的は、既存ACSRとほぼ同等の弛度を有しながら、電流容量の増大を図った鋼心アルミ撚線からなる間隙型増容量弛度抑制電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するため、側面で面接触する断面形状を有する複数のアルミニウム素線を撚り合わせてなるアルミニウム素線層を鋼心部のすぐ外周に隙間を設けて配置した鋼心アルミニウム撚線からなる間隙型増容量弛度抑制電線において、前記アルミニウム素線として連続許容温度が210℃以上の超耐熱アルミニウム合金系素線を用い、前記アルミニウム素線層と前記鋼心部との間に0.8〜2mmの隙間を設けたことを特徴とする間隙型増容量弛度抑制電線を提供する。
【0012】
上記間隙型増容量弛度抑制電線によれば、アルミニウム素線に連続許容温度が210℃以上の超耐熱アルミニウム合金系素線を用いることにより、210℃以上の高温で使用してもアルミニウム素線の強度低下が発生しないので、アルミニウム素線の断面形状が崩れることなく、使用することが可能になる。この結果、間隙型増容量弛度抑制電線の電流容量を同一アルミニウム素線層断面積の既設ACSRと比べて約2倍に増加させることができる。
【0013】
これらの超耐熱アルミニウム合金系素線には、日本電線工業会規格 JCS1405「亜鉛めっきインバ心超耐熱アルミ合金より線」に規定されている連続許容温度が210℃の超耐熱アルミ合金線や、同JCS1404「アルミ覆インバ心特別耐熱アルミ合金より線」に規定されている連続許容温度が230℃の特別耐熱アルミ合金線を用いることができる。また、アルミニウム素線の側面で面接触する断面形状として、例えば、断面扇形や断面扇形の一方の側面に凹部や谷部を形成し、他方の側面に凹部や谷部に嵌合する凸部や山部を形成したものでもよい。
【0014】
アルミニウム素線層と鋼心部との間に0.8〜2mmの隙間を設けることにより、電線を緊線する際に、鋼心部のみに張力を分担させるために、鋼心部を長手方向にスムースに引張ることができる。また、延線時に電線が金車上を越えていく際に、側圧によりアルミニウム素線層が潰れようとするが、アルミニウム素線の円状のブリッジが完全に崩れないので、残った隙間で鋼心部をスムースに引き抜くことができる。
【0015】
更に、アルミニウム素線の厚さをt、アルミニウム素線層の内径をD、アルミニウム素線の素線数をnとしたとき、
【数2】

(但し、Pは鋼心アルミ撚線に加わる単位長さあたり設定圧潰荷重、Eaは超耐熱アルミニウム合金系素線の弾性係数を表す。)なる関係を有するのが好ましい。上記各パラメータを適正な関係となるようにすることにより、延線時に電線が金車の上を超えていく時の側圧が電線を圧潰させる大きな力となる。この場合、圧潰荷重により、アルミニウム素線がある程度潰れたとしても、鋼心部と接触するまで完全に潰れず、鋼心部を容易に引き抜くことができる。
【0016】
また、間隙型増容量弛度抑制電線の最内層部に配置するアルミニウム素線の素線数は、6〜13であることが好ましい。これにより、延線時に金車上を越えた際、アルミニウム素線によるブリッジがくずれるのを防ぐことができる。
【0017】
鋼心部とアルミニウム素線層との間の隙間に所定の粘性係数を有する充填材を充填してもよい。これにより、鋼心部とアルミニウム素線層間との摩擦抵抗が小さくなり、鋼心部の引き抜きが容易となる。充填材としては、高温でも軟化しないグリス、等が用いられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の鋼心アルミ撚線からなる間隙型増容量弛度抑制電線によれば、アルミニウム素線に連続許容温度が210℃以上の超耐熱アルミニウム合金系素線を用いることにより、電流容量の増大を図ることができる。また、アルミニウム素線層と鋼心部との間に0.8〜2mmの隙間を設けることにより、鋼心部のみに鋼心アルミ撚線の張力を分担させることができ、電線温度上昇時の電線全体の伸びを抑制して既存ACSRとほぼ同等の弛度を有することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る架空送電線の断面図である。この架空送電線1は、中心部に位置する鋼心部2と、鋼心部2のすぐ外周に隙間3を設けて配置されたアルミニウム素線内層4Aと、アルミニウム素線内層4Aの外周に接するように配置されたアルミニウム素線外層5Aと、隙間3に充填された所定の粘性係数を有するグリス等の充填材6とを備えた鋼心アルミ撚線からなる間隙型増容量弛度抑制電線を用いたものである。
【0020】
鋼心部2は、例えば、複数(ここでは7本)の特強亜鉛メッキ鋼線等の鋼素線20を撚り合わせて形成され、張力を受け持つように構成されている。
【0021】
本電線1の構造で重要なポイントの一つとして、鋼心部2とアルミニウム素線内層4Aとの間の隙間3が適正間隙を有しており、本電線1を緊線する時に、鋼心部2を容易に引くことができる必要がある。延線時に電線1が金車上を超える時に、延線張力により、電線1が金車に押え付けられる現象が起き、電線1に圧潰力が働く。その際に、アルミニウム素線内層4Aが潰れようとするが、円状をしたブリッジが完全に崩れてしまうことなく、また適正な間隙を有していて、鋼心部2を引き抜くことができることが重要である。このため、隙間3を0.8〜2mmの範囲とする。その根拠は後述する。
【0022】
アルミニウム素線内層4Aは、側面で面接触する断面扇形の複数のアルミニウム素線40を撚り合わせて形成され、アルミニウム素線層の最内層部として配置される。このアルミニウム素線内層4Aのアルミニウム素線40の素線数は、6〜13本が好ましい。その根拠は後述する。アルミニウム素線40は、超耐熱アルミニウム合金、あるいは特別耐熱アルミニウム合金からなり、日本電線工業会規格JCS0374「裸線許容電流の計算基準」表7に記載されている通り、連続許容温度210℃、あるいは230℃を有する。
【0023】
アルミニウム素線外層5Aは、断面扇形の複数のアルミニウム素線50を撚り合わせて形成されている。アルミニウム素線50は、アルミニウム素線内層4Aのアルミニウム素線40と同様に超耐熱アルミニウム合金あるいは特別耐熱アルミニウム合金からなる。
【0024】
表1は、JCS0374に記載の計算基準に基づき、ACSR400mmおよびそれと同等の本電線1に対する許容電流値等の計算結果の一例を示す。
【表1】

表1から明らかなように、210℃で使用しても、アルミニウム素線40の機械的強度が弱まって筒状形状の保持に影響が出ることはない。このため、超耐熱アルミニウム合金系素線を用いた本電線1の場合、既存ACSRと比べて、同等の機械的特性を有し、約2倍の電流容量を有することが分かる。
【0025】
(1)アルミニウム素線内層4Aの素線数の根拠
次に、アルミニウム素線内層4Aを構成するアルミニウム素線40の素線数を6〜13とした根拠を以下に説明する。
【0026】
表2は、本発明の試作サンプルの構成を示す。
【表2】

本電線1が、延線時に金車上で加わる最大想定圧潰荷重を想定し、その荷重が加わった際に、アルミニウム素線40のブリッジが抗力を有するかどうかを見極める。
【0027】
図2は、金車通過試験時の張力と抱き角の関係の一例を示す。同図に示すように、金車10上で電線1がある範囲で曲げられ(本電線1が金車10上に接している部分の金車中心角を「抱き角」という。)、ある張力が加えられた場合に、電線1に圧潰力が加わり、電線1を潰そうとする。本電線1を、外径D(mm)の金車10上に、金車抱き角Φ(1ラジアン)、延線張力T(N)で引張った場合、電線1にかかる等価圧潰荷重P(N/mm)は、(1)式で表すことができる。
【数3】

【0028】
図3(a),(b)は、円筒形剛体に圧潰荷重が作用した場合の形状の変化を示す。次に、アルミニウム素線内層4Aのブリッジ構造を、図3(a)に示すような連続する剛体円筒に置き換えて、円筒を鉛直に潰そうとする外力P(N)が加わった時の、潰れ量δy(mm)と広がり量δx(mm)を求める。材料力学の曲げ梁の詳しい理論によると円筒の層心半径をr(mm)とした場合、各々の量は下記の(2)式、(3)式で表すことができる(文献:最新機械工学シリーズ14材料力学I:森北出版:渥美光、鈴木幸三、三ケ田堅次共著1984年改訂第1刷発行)。
【数4】

【数5】

ここでt(mm)は円筒の厚さ、Eaはアルミニウムの弾性係数(N/mm)、κは曲がり梁の断面係数を示し、断面係数は下式で表せる。
【数6】

今t/2r≪1の場合、(2)式、(3)式は、下記の(4)式、(5)式で表現できる。
【数7】

【数8】

また、δxとδyの比をとると、(6)式の通りとなる。
【数9】

【0029】
(4)式は、円筒が連続する剛体であると考えた場合の撓みを求める式であるが、本発明の構造は、扇形のアルミニウム素線40を組み合わせたブロックの集合が撚られている構造(撚り線構造)であることを考慮すると、変位量δy(mm)は、(4)式の右辺に示す圧潰因子に比例すると仮定して式(7)のように表わすことができる。
【数10】

【0030】
図3(a)に示す模式図は、円筒形の連続する剛体と仮定しているが、本電線1の構造では、扇形のアルミニウム素線40を組み合わせたブロックの集合体であるため、上部から圧潰荷重を加えた場合に、円筒が広がるように潰れが生じ、連続する円筒形状の剛体構造の撓みと比べて撓み易くなる。
【0031】
これを確認するため、表2に示す試作サンプルA〜Cを用いて、実際に金車抱き角(Φ)に1/3ラジアンを与え、一定張力T(N)で引張り、最終的にアルミニウム素線内層4Aの潰れ量を測定する金車通過試験を行った。張力T(N)には、一般的に延線、緊線時に加わる引張推定最大荷重、つまり電線の引張強さ(UTS)の15〜20%の張力を加えた。
【0032】
本電線1を金車10上で往復させ、全部で20回往復通過させた後、電線1を解体して試験前後でのアルミニウム素線40の潰れ量を測定した。この場合の潰れは、主にブロック間に隙間が生じる変形であり、一種の塑性変形の潰れである(隙間が生じた箇所は弾性的に元に戻らない)。しかし、塑性変形は、弾性変形の延長上にあると考えることができるため、(7)式は今回の例でも成り立つと考えることは妥当である。
【0033】
表3は、(7)式による圧潰因子の計算結果、実際の金車通過試検結果、および両者の比率、すなわち圧潰係数を示す。
【表3】

但し、短軸方向(y軸)の潰れ量と長軸方向(x軸)の潰れ量を平均化処理した理由は、(6)式から測定誤差を考慮し、潰れ量と広がり量は、ほぼ等しいと考えたからである。
【0034】
表3に示す3サンプルの試験結果から求められた圧潰係数として、平均値をとって2.50とする。試験結果から得られた圧潰量δeと(12P/Ea)・(r/t)の関係式から、計算で求められる計算圧潰量δは、(8)式の通りとなる。
【数11】

【0035】
次に、構造パラメータから決まる限界圧潰量を策定する式を考える。ここでいう限界圧潰量とは、ここまで潰すと、アルミニウム素線内層4Aのブロックが崩れてしまう限界値を示す。まず、このブロックの漬れ方を考えるために、剛体円筒に鉛直方向に圧潰荷重が加わった場合の曲げモーメントの分布がどうなるか考えてみる。前述の材料力学の曲げ梁の理論によると、曲げモーメントMは(9)式の通りであることが分かっている。
【数12】

ここで、M:曲げモーメント
P:圧潰荷重
r:円筒の層心半径
φ:断面上の中心角(図4参照)
【0036】
図4は、円筒形剛体に圧漬荷重が作用した場合のB・M・D図を示す。対称性から1/4円弧で考慮した。M=0となる場合の中心角をφoとすると、ここを境として表4に示すように円筒の内外面に対し、圧縮と引張が逆転することが分かる。
【表4】

この内容を踏まえ、実際のアルミニウム素線内層4Aのブロックの崩れ方を考えてみる。図5は、その崩れ方を示す。内層4Aのブロックの頂点に圧潰荷重Pが作用すると、前述の議論から点Aは、圧縮方向に力がかかり、またその隣の扇形のアルミニウム素線40の点Bにも圧縮方向に力がかかると仮定する。この場合、点Bには圧縮方向に力がかかるためには、点Bの中心角φが0≦φ≦φにあることが必要である。
即ち、
【数13】

これより、内層4Aの素線数(分割数)nは、(11)式を満たすことが分かる。
【数14】

ここで、κ≪1であるので、(11)式は、(12)式に帰着する。
【数15】

通常アルミニウム素線内層4Aの素線数は、10前後であることから、(12)式を満たすことが分かり、点Bは圧縮方向に力がかかると考えるのは妥当である。つまり、素線数(n)は、6〜13の範囲であることが望ましいことが分かる。
【0037】
(2)構造パラメータの関係
次に、内層4Aの内径Do、厚さt、素線数nの構造パラメータの関係について説明する。点Aと点B共に圧縮方向に力がかかることから、点Aと点Bを支点として図5(b)に示すように潰れると考えることができる。この時、限界圧潰量δmax(mm)は、AC間が垂直になり、∠CADがπ/nになる場合、すなわち頂部ブロックを支えている隣接ブロックのブリッジ効果がなくなった時として定義することができる。実際扇形のアルミニウム素線40は、撚られているため、電線1の長手方向に一様にブリッジ効果がなくなることはないが、長手方向のポイント、ポイントで局所的にブリッジ効果がなくなる部分が発生していると考えられ、このポイント(弱い部分)が一番先に大きく潰れると考えることができる。
【0038】
図5から点AB間の距離Lと∠BAC(=ξ)が変形前後で変わらないとすればぱ、限界圧潰量δmax(mm)は(13)式で示される。但し、π/n≪ξであるとした。
【数16】

近似による(13)式から分かることは、限界圧潰量δmaxは、素線数nとアルミニウム素線内層4Aの内径Dに依存し、厚さtにはよらないということである。
【0039】
次に、(8)式から求められる計算圧潰量と、(13)式から求められる限界圧潰量の計算結果を表5に示す。また、一般的に工事に用いられる金車径600mmΦの金車を用いて、金車通過をさせた際に、ある張力をかけた時の計算圧潰量が、限界圧潰量と等しくなるところの張力(T’)が電線1の引張強さの何%の値[何%UTS]になるかを求めてみた。この結果も表5に示す。
【表5】

表5より内層4Aと鋼心部2との間の隙間3は、少なくとも限界圧潰量よりも小さくする必要がある。また、サンプル各点で35.5%UTS、35.8%UTS、65.8%UTS以上の張力を加えた場合、限界圧潰量を超えて、アルミニウム素線40のブリッジが崩れてしまうが、実際に使用される領域は20%UTS以内であるので、内層4Aのブリッジが崩れることは無いことが分かる。
【0040】
試験に用いた電線1の内層4Aと鋼心部2との間の隙間は、表2に示すようにサンプル各々で1.30mm、1.45mm、1.31mmである。この隙間は、限界圧潰量よりも小さい。つまり、この隙間を設けた本電線1は、想定される張力が加わっても、扇形のアルミニウム素線40のブロックが潰れることなく、円筒形状を形成し続けるといえる。
ここで、「計算圧潰量≦限界圧潰量」となることが必要であるので、構造パラメータ、すなわち内層径D、厚さt及び素線数nに制限を設けることができる。すなわち(14)式の関係式があることが分かる。
【数17】

【0041】
(3)内層4Aと鋼心部2との間の適正隙間3
次に、内層4Aと鋼心部2との間の適正隙間3を決定したい。本電線1の弛度特性を十分発揮するためには、施工時にアルミニウム素線内層4Aの分担張力を0にし、鋼心部2のみに張力を与える必要がある。具体的施工手順は、下記内容による。
(1)電線1の片端Aは通常通りクランプを取り付ける。
(2)電線1のもう一方の片端Bは、アルミカムアロングで、通常の電線と同じようにアルミニウム素線内層4Aおよび外層5Aと鋼心部2を一緒にある張力(14%UTS程度)まで引張り、電線1を切断する。
(3)アルミニウム素線内層4Aおよび外層5Aを剥ぎ、鋼心力ムアロングで鋼心部2を指定弛度(20%UTS程度)となるまで引張り上げ、アルミニウム素線内層4Aおよび外層5Aの分担張力が0のままで約半日(約12時間)放置し、電線1全長に渡り鋼心部2のみで張力分担を終えるのを待つ。
(4)その後、鋼クランプを取り付け、アルミニウム素線内層4Aおよび外層5Aを戻しアルミクランプを取り付け完了する。
【0042】
上記(2)と(3)の手順で、アルミニウム素線内層4Aおよび外層5Aの分担張力が0になる際、アルミニウム素線内層4Aおよび外層5は縮む方向に弾性力が働くが内層4Aと鋼心部2との間の隙間3には、充填材6が充填されており、この粘性抵抗が縮む方向と逆向きの方向に働くと考えられる。この内層4Aおよび外層5Aの移動に対する運動方程式は(15)式で表すことができる。(但し、この移動に対し片端Aは鋼心部2と内層4Aおよび外層5Aは一緒に固定されていることから、内層4Aおよび外層5Aの伸び量xに対し、内層4Aおよび外層5Aの重心の移動量は、x/2であることに注意する。)
【数18】

Wa:単位長さあたりのアルミニウム層の質量(kg/m)
L:電線1の長さ(m)
Ea:アルミニウムの弾性係数(61800N/mm
Aa:アルミニウム素線内層4Aの総断面頼(mm
F:速度に比例する充填材の粘性抵抗(N)
この粘性抵抗は(16)式で表すことができる。
【数19】

ここで
μ:粘性率(=490Pa.s)
u:アルミニウム素線内層4Aの速度[=d/dt(x/2)]
L:電線1の長さ(m)(標準最大長さ=1500m(=300m×5径間)
Ds:鋼心部2の外径(mm)
△:金車通週後(変形後)の隙間(トータル径)mm
【0043】
(15)式の解は、(17)式の通りとなる。
【数20】

ここで、ω/γ≪1として近似した。各パラメータは下記の通りとなる。
【数21】

通常アルミニウム素線内層4Aの分担張力を0にするため、約半日(12時間)放置することから、半日後にどの程度の伸びが残存しているかを(17)式で確認することができる。但し、アルミニウム素線内層4Aと鋼心部2の隙間3は、金車通過後扇形素線層が潰れた後の隙間を用いるものとする。
【0044】
表6は、各サンプルの初期状態からの伸びの残存率を示す。
【表6】

表6から、12時間も放置しておけばアルミニウム素線内層4Aの伸びの残量は、十分0となり、アルミニウム素線内層4Aの分担張力を十分開放することができることが分かる。
【0045】
図6は、サンプルAの伸びの残存率と経過時間の関係を示す。サンプルAで間隙型(ギャップ)電線の弛度特性を十分発揮している事実から、t=2γ/ωが5055秒以内となるような隙間△に制限を設けることができる。
【0046】
これを最小隙間△minとして表7に記載する。
【表7】

最終的に変形後に△min確保する必要があることにより、隙間の適正値は0.8〜2.0mmの範囲にあれば良いことが分かる。
【0047】
(第1の実施の形態の効果)
表1に示すACSR400mmと、それと同等サイズの本電線1の架線状態を比較するために、弛度計算を行った。その結果を、最大連続許容電流の計算結果と共に表8に示す。
【表8】

弛度計算を実施するにあたり、次に示す計算条件を用いた。
最大使用張力:49.43kN(気温10℃)
最大使用張力時の風圧:2.7kN/m
径間長:350m
この計算結果から、本電線1を使用することにより、弛度を既設ACSRと同等に保ちながら、許容電流を約2倍に上げることが可能になることが分かる。
【0048】
[第2の実施の形態]
図7は、本発明の鋼心アルミ撚線からなる間隙型増容量弛度抑制電線を用いた第2の実施の形態に係る架空送電線の断面図である。この第2の実施の形態に係る架空送電線1は、第1の実施の形態において、最外層のアルミニウム素線外層5Bを断面円形の複数のアルミニウム素線51を撚り合わせて形成したものであり、他は第1の実施の形態と同様に構成されている。この第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に電流容量を増大させることができる。
【0049】
[第3の実施の形態]
図8は、本発明の鋼心アルミ撚線からなる間隙型増容量弛度抑制電線を用いた第3の実施の形態に係る架空送電線の断面図である。この第3の実施の形態に係る架空送電線1は、第2の実施の形態において、アルミニウム素線内層4Bを断面扇形の一方の側面に凹部41aを有し、他方の側面に凹部41aに嵌合する凸部41bを有するアルミニウム素線41を用いたものであり、他は第2の実施の形態と同様に構成されている。この第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に電流容量を増大させることができるとともに、アルミニウム素線41の側面の凹部41aと凸部41bによる嵌合構造によりブロック効果が高まり、鋼心部2とアルミニウム素線内層4Bの隙間保持効果をより一層発揮することができる。
【0050】
[第4の実施の形態]
図9は、本発明の鋼心アルミ撚線からなる間隙型増容量弛度抑制電線を用いた第4の実施の形態に係る架空送電線の断面図である。この第4の実施の形態に係る架空送電線1は、第2の実施の形態において、アルミニウム素線内層4Cを断面扇形の一方の側面に谷部42aを有し、他方の側面に谷部42aに嵌合する山部42bを有するアルミニウム素線42を用いたものであり、他は第2の実施の形態と同様に構成されている。この第4の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に電流容量を増大させることができるとともに、アルミニウム素線42の側面の谷部42aと山部42bによる嵌合構造によりブロック効果が高まり、鋼心部2とアルミニウム素線内層4Cの隙間保持効果をより一層発揮することができる。
【0051】
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、その発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形実施が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の鋼心アルミ撚線からなる間隙型増容量弛度抑制電線を用いた第1の実施の形態に係る架空送電線の断面図である。
【図2】金車通過試験時の張力と抱角の関係の一例を示す図である。
【図3】(a),(b)は円筒形剛体に圧潰荷重が作用した場合の形状の変化を示す図である。
【図4】円筒形剛体に圧漬荷重が作用した場合のB・M・D図である。
【図5】(a),(b)は電線が圧潰荷重により潰された場合の扇形内層素線の動きの一例を示す図である。
【図6】サンプルAの伸びの残存比率と経過時間の関係を示す図である。
【図7】本発明の鋼心アルミ撚線からなる間隙型増容量弛度抑制電線を用いた第2の実施の形態に係る架空送電線の断面図である。
【図8】本発明の鋼心アルミ撚線からなる間隙型増容量弛度抑制電線を用いた第3の実施の形態に係る架空送電線の断面図である。
【図9】本発明の鋼心アルミ撚線からなる間隙型増容量弛度抑制電線を用いた第4の実施の形態に係る架空送電線の断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 架空送電線
2 鋼心部
3 隙間
4A,4B,4C アルミニウム素線内層
5A,5B アルミニウム素線外層
6 充填材
10 金車
20 鋼素線
40,41,42 アルミニウム素線
41a 凹部
41b 凸部
42a 谷部
42b 山部
50,51 アルミニウム素線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面で面接触する断面形状を有する複数のアルミニウム素線を撚り合わせてなるアルミニウム素線層を鋼心部のすぐ外周に隙間を設けて配置した鋼心アルミニウム撚線からなる間隙型増容量弛度抑制電線において、
前記アルミニウム素線として連続許容温度が210℃以上の超耐熱アルミニウム合金系素線を用い、
前記アルミニウム素線層と前記鋼心部との間に0.8〜2mmの隙間を設けたことを特徴とする間隙型増容量弛度抑制電線。
【請求項2】
前記アルミニウム素線の厚さをt、前記アルミニウム素線層の内径をD、前記アルミニウム素線の素線数をnとしたとき、
【数1】

(但し、Pは鋼心アルミニウム撚線に加わる単位長さあたり設定圧潰荷重、Eaは超耐熱アルミニウム合金系素線の弾性係数を表す。)なる関係を有することを特徴とする請求項1に記載の間隙型増容量弛度抑制電線。
【請求項3】
前記電線の最内層部に配置するアルミニウム素線の素線数は、6〜13であることを特徴とする請求項2に記載の間隙型増容量弛度抑制電線。
【請求項4】
前記隙間に所定の粘性係数を有する充填材を充填したことを特徴とする請求項1に記載の間隙型増容量弛度抑制電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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