説明

防振壁および防振方法

【課題】解析容易であり、低コストで、かつ振動を確実に低減できる防振壁および防振方法を提供すること。
【解決手段】防振壁20は、振動源12から地中を伝播して建物11に到達する振動を低減する。防振壁20は、振動源12と建物11との間の地中に設けられ、振動源12から建物11に向かう方向に積層配置される複数の壁部21を備え、これら複数の壁部21は、土およびセメントを主成分とするソイルセメント壁部211と、土およびベントナイトを主成分とするスラリー壁部212と、で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振壁および防振方法に関する。詳しくは、振動源から地中を伝播して対象物に到達する振動を低減する防振壁および防振方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、精密機械の生産施設や研究施設では、地中に防振壁が設けられる場合がある。これは、敷地内や敷地外の道路を大型車両が通行することで振動が発生するため、この振動によって製品の生産や開発に支障をきたさないように、建物に伝わる振動をできるだけ低減する必要があるからである。
また、線路沿いの建物や高速道路沿いの建物についても、車両の運行に伴って振動が発生するため、防振壁を設けて、住民の生活環境が悪化するのを防止する場合がある。
【0003】
これらの防振壁は、地盤のインピーダンス(剛性と質量の積)と、防振壁のインピーダンス(剛性と質量の積)との差分が大きいほど、地中を伝播する波動が反射される、という波動の性質を利用して、振動を低減する。
【0004】
以上の防振壁を用いた防振方法としては、以下のようなものが提案されている。
(a)地盤の柱状改良や山留壁としてソイルセメント連続地中壁が知られているが、このソイルセメント連続地中壁を防振壁として利用する。
(b)山留壁として用いられる鋼矢板(シートパイル)や鋼管杭を、防振壁として利用する(特許文献1参照)。
(c)プレキャストコンクリートからなるプレキャスト擁壁を、防振壁として利用する。
(d)(b)のシートパイルと風船状のエアチューブとを組み合わせて、防振壁として利用する。
【特許文献1】特開平11−200360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、以上の提案には、次のような問題点がある。
(a)〜(c)の方法では、既存の施工機械を利用して施工できるため、低コストであるが、せいぜい数dB程度の振動低減効果であり、しかも、人間が感じやすい数Hz〜10Hz程度の低振動数域では、低減効果が期待できない場合が多い。
また、(d)の方法では、防振壁の施工に際して、精度の高い解析を行うことにより、振動低減効果を事前に評価するが、エアチューブをモデル化することが困難であり、解析精度が低下するおそれがある。また、エアチューブの施工には、特殊な施工機械が必要であり、コスト高となる。
【0006】
本発明は、解析容易であり、低コストで、かつ振動を確実に低減できる防振壁および防振方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 振動源から地中を伝播して対象物に到達する振動を低減する防振壁であって、前記振動源と前記対象物との間の地中に設けられ、前記振動源から前記対象物に向かう方向に積層配置される複数の壁部を備え、これら複数の壁部は、土およびセメントを主成分とするソイルセメント壁部と、土、および、ベントナイトまたはポリマーを主成分とするスラリー壁部と、で構成されることを特徴とする防振壁。
【0008】
ここで、ベントナイトとは、粘土状の物質であり、粘土鉱物を含むものである。
この発明によれば、土およびセメントを主成分とするソイルセメント壁部と、土、および、ベントナイトまたはポリマーを主成分とするスラリー壁部とを、積層配置して防振壁を形成した。
土およびセメントを主成分とするソイルセメントは、地盤よりも剛性が高く、土、および、ベントナイトまたはポリマーを主成分とするスラリーは、地盤よりも剛性が低い。そのため、ソイルセメント壁部、スラリー壁部、および地盤は、互いにインピーダンスが異なることとなる。よって、地盤とソイルセメント壁部との境界面、ソイルセメント壁部とスラリー壁部との境界面、および、スラリー壁部と地盤との境界面、の3種類の境界面において、波動を反射できる。
したがって、防振壁を単一の壁部で形成した場合に比べて、境界面を多く形成できるから、振動源から伝播する振動を確実に低減できる。
【0009】
また、セメント、ベントナイト、およびポリマーは、土と攪拌されて、液状化対策工法における半液体(スラリー)状のスラリーウォール連続壁に利用されるほか、山留め工事のSMW工法におけるソイルセメント連続壁にも利用される。
このように、セメント、ベントナイト、およびポリマーは既存の他の工法に利用されるため、既存の施工機械を利用して施工でき、コストを低減できる。
【0010】
また、ソイルセメント壁部やスラリー壁部は、有限要素法や薄層法による振動予測解析が可能であるため、解析が容易である。
【0011】
(2) 前記複数の壁部は、前記ソイルセメント壁部、前記スラリー壁部、前記ソイルセメント壁部の順に積層された3層構造であることを特徴とする(1)に記載の防振壁。
【0012】
この発明によれば、防振壁を、前記ソイルセメント壁部、前記スラリー壁部、前記ソイルセメント壁部の順に積層された3層構造とした。よって、インピーダンスが変化する境界面を多数形成でき、振動源から伝播する振動をより確実に低減できる。
【0013】
(3) 前記複数の壁部は、前記ソイルセメント壁部および前記スラリー壁部が積層された2層構造であることを特徴とする(1)に記載の防振壁。
【0014】
この発明によれば、防振壁を、ソイルセメント壁部およびスラリー壁部を積層して構成したので、地盤とソイルセメント壁部との境界面、ソイルセメント壁部とスラリー壁部との境界面、および、スラリー壁部と地盤との境界面、の3種類の境界面を全て形成できるから、幅広い帯域で波動を低減できる。
【0015】
(4) 前記振動源側には、前記スラリー壁部が配置され、前記対象物側には、前記ソイルセメント壁部が配置されることを特徴とする(3)に記載の防振壁。
【0016】
(5) 振動源から地中を伝播して対象物に到達する振動を低減する防振方法であって、前記振動源から前記対象物に向かう方向に、土およびセメントを主成分とするソイルセメント壁部と、土、および、ベントナイトまたはポリマーを主成分とするスラリー壁部とを、積層配置することを特徴とする防振方法。
【0017】
この発明によれば、上述の(1)と同様の効果がある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、地盤とソイルセメント壁部との境界面、ソイルセメント壁部とスラリー壁部との境界面、および、スラリー壁部と地盤との境界面、の3種類の境界面において、波動を反射できる。したがって、防振壁を単一の壁部で形成した場合に比べて、境界面を多く形成できるから、振動源から伝播する振動を確実に低減できる。
また、セメント、ベントナイト、およびポリマーは既存の他の工法に利用されるため、既存の施工機械を利用して施工でき、コストを低減できる。
また、ソイルセメント壁部やスラリー壁部は、有限要素法や薄層法による振動予測解析が可能であるため、解析が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態の説明にあたって、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
[第1実施形態]
図1および図2は、本発明の第1実施形態に係る防振壁が埋設された敷地10の断面図および平面図である。
図1中、敷地10の右側には、対象物としての建物11が設置され、敷地10の左側には、振動源12がある。この振動源12は、具体的には、例えば、道路と車両であり、車両の通行により振動を発生する。
振動源12と建物11との間の地中には、防振壁20が埋設されている。この防振壁20は、振動源12から地中を伝播して建物11に到達する振動を低減する。
【0020】
図3は、防振壁20の斜視図である。
防振壁20は、振動源12から建物11に向かう方向に積層配置される複数の壁部21を備える。
これら複数の壁部21は、土およびセメントを主成分とするソイルセメント壁部211と、土およびベントナイトを主成分とするスラリー壁部212と、からなる。なお、このスラリー壁部212は、土およびポリマーを主成分として形成してもよい。
具体的には、本実施形態では、複数の壁部21は、ソイルセメント壁部211、スラリー壁部212、ソイルセメント壁部211の順に積層された3層構造である。
【0021】
ソイルセメント壁部211は、土およびセメントを主成分とするソイルセメントで形成され、地盤よりも剛性が高い。これに対し、スラリー壁部212は、土およびベントナイトを主成分とするスラリーで形成され、地盤よりも剛性が低い。そのため、ソイルセメント壁部、スラリー壁部、および地盤は、互いにインピーダンスが異なる。
【0022】
ソイルセメント壁部211と地盤との境界面を、境界面22Aとし、ソイルセメント壁部211とスラリー壁部212との境界面を、境界面22Bとし、スラリー壁部212と地盤との境界面を、境界面22Cとすると、これら3種類の境界面22A、22B、22Cにおいて、インピーダンスが変化する。
防振壁20は、振動源12側から順に、境界面22A、22B、22B、22Cの4つの境界面を有し、これら4つの境界面において、地中を伝わる波動を反射して、振動を低減する。
【0023】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)土およびセメントを主成分とするソイルセメント壁部211と、土およびベントナイトを主成分とするスラリー壁部212とを、積層配置して防振壁20を形成した。
したがって、防振壁20を単一の壁部で形成した場合に比べて、境界面を多く形成できるから、振動源から伝播する振動を確実に低減できる。
【0024】
また、セメントやベントナイトは、土と攪拌されて、液状化対策工法における半液体(スラリー)状のスラリーウォール連続壁に利用されるほか、山留め工事のSMW工法におけるソイルセメント連続壁にも利用される。
このように、セメントやベントナイトは既存の工法に利用されるため、既存の施工機械を利用して施工でき、コストを低減できる。
【0025】
また、ソイルセメント壁部やスラリー壁部は、有限要素法や薄層法による振動予測解析が可能であるため、解析が容易である。
【0026】
(2)防振壁20を、ソイルセメント壁部211、スラリー壁部212、ソイルセメント壁部211の順に積層された3層構造とした。よって、インピーダンスが変化する境界面を多数形成でき、振動源から伝播する振動をより確実に低減できる。
【0027】
[第2実施形態]
図4は、本発明の第2実施形態に係る防振壁20Aが埋設された敷地10の断面図である。
本実施形態では、複数の壁部21Aは、ソイルセメント壁部211およびスラリー壁部212が積層された2層構造である点が、第1実施形態と異なる。
具体的には、振動源12側には、スラリー壁部212が配置され、建物11側には、ソイルセメント壁部211が配置される。
【0028】
防振壁20Aは、振動源12側から順に、境界面22C、22B、22Aの3種類の境界面を有し、これら3種類の境界面において、地中を伝わる波動を反射して、振動を低減する。
【0029】
本実施形態によれば、上述の(1)の効果に加え、以下のような効果がある。
(3)防振壁20Aを、ソイルセメント壁部211およびスラリー壁部212を積層して構成したので、地盤とソイルセメント壁部211との境界面22A、ソイルセメント壁部211とスラリー壁部212との境界面22B、および、スラリー壁部212と地盤との境界面22Cの3種類の境界面を全て形成できるから、幅広い帯域で波動を低減できる。
【0030】
[実施例]
上述のような防振壁について、振動予測解析を行った。解析条件は、以下の通りである。
地盤は、軟弱なシルト質の表層(層厚10m)と、表層より下の強固な砂礫層とからなる2層地盤とする。振動源は、地表面に配置された点加振源とし、この点加振源を10Hzで上下振動させる。防振壁は、深さは11m、長さは32mの連続地中壁とし、点加振源から水平距離10mの位置に配置する。
【0031】
図5は、防振壁の振動予測解析結果を示す。
図5において、縦軸は、振動加速度レベルであり、横軸は、加振源からの距離である。防振壁をソイルセメント壁のみで構成した場合、未対策である場合に比べて、加振源より10m以上離れた地点(すなわち、連続地中壁より遠方の地点)では、2、3dB程度、振動が低減している。一方、防振壁を2層あるいは3層にした場合は、未対策である場合に比べて、ほぼ10dB以上、振動が低減している。
したがって、防振壁を2層や3層にした場合は、ソイルセメント壁のみとした場合に比べて、大幅に振動を低減できることが判る。
【0032】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、第2実施形態では、振動源12側にスラリー壁部212を配置し、建物11側にソイルセメント壁部211を配置したが、これに限らず、振動源12側にソイルセメント壁部を配置し、建物11側にスラリー壁部を配置してもよく、ソイルセメント壁部とスラリー壁部の組合せや配置は、有限要素法や薄層法等による振動予測解析を行うことで、適宜決定してよい。
また、上述の第1、2実施形態では、防振壁を平面視で直線状としたが、これに限らず、曲線状や波型状としてもよいし、その他複雑な形状としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態に係る防振壁が埋設された敷地の断面図である。
【図2】前記実施形態に係る敷地の平面図である。
【図3】前記実施形態に係る防振壁の斜視図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る防振壁が埋設された敷地の断面図である。
【図5】本発明の防振壁の振動予測解析結果である。
【符号の説明】
【0034】
20、20A 防振壁
21、21A 壁部
211 ソイルセメント壁部
212 スラリー壁部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動源から地中を伝播して対象物に到達する振動を低減する防振壁であって、
前記振動源と前記対象物との間の地中に設けられ、前記振動源から前記対象物に向かう方向に積層配置される複数の壁部を備え、
これら複数の壁部は、土およびセメントを主成分とするソイルセメント壁部と、土、および、ベントナイトまたはポリマーを主成分とするスラリー壁部と、で構成されることを特徴とする防振壁。
【請求項2】
前記複数の壁部は、前記ソイルセメント壁部、前記スラリー壁部、前記ソイルセメント壁部の順に積層された3層構造であることを特徴とする請求項1に記載の防振壁。
【請求項3】
前記複数の壁部は、前記ソイルセメント壁部および前記スラリー壁部が積層された2層構造であることを特徴とする請求項1に記載の防振壁。
【請求項4】
前記振動源側には、前記スラリー壁部が配置され、前記対象物側には、前記ソイルセメント壁部が配置されることを特徴とする請求項3に記載の防振壁。
【請求項5】
振動源から地中を伝播して対象物に到達する振動を低減する防振方法であって、
前記振動源から前記対象物に向かう方向に、土およびセメントを主成分とするソイルセメント壁部と、土、および、ベントナイトまたはポリマーを主成分とするスラリー壁部とを、積層配置することを特徴とする防振方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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