説明

防災遮断システム

【課題】新たに大容量の電源ケーブルや大容量のコンプレッサーを設置することなく、簡易で施工も容易な構造によって耐震性等の防災機能を補強することができる、防災遮断システムを提供する。
【解決手段】LNG受入基地における防災遮断システム20である。LNG配管2中に設けられる防災遮断弁21と、防災遮断弁21を閉じてLNG配管2を遮断するための閉止装置22とを備える。閉止装置22は、LNG配管2から分岐し、LNG配管2を流れるLNGの一部を分流させてLNGを気化させる気化配管23と、気化配管23の下流側に設けられた電磁弁25と、気化配管23から流入する気化ガスによって作動するアクチュエータ26と、アクチュエータ26の作動により防災遮断弁21を閉止する閉止機構27とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LNG受入基地における、防災遮断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LNG(液化天然ガス)の受入基地では、既設設備の老巧化や手狭化等に伴い、新規設備の増設が行われている。また、今後についても、LNGの需要が増大する傾向にあることから、新規設備について多くの増設が見込まれている。
ところで、新規の設備については、新たな基準のもとで耐震設計を行っており、したがって十分な耐震性を備えるように施工されている。しかし、既設の設備では、必ずしも新たな基準を満たしているとは限らず、したがって、より耐震性を高めることが要望されている。
【0003】
例えば、従来、LNGを流すLNG配管については、特にLNGが可燃性であることから、LNG配管中に遮断弁を所定間隔毎に設置し、地震等の災害時にこれら遮断弁を閉じ、その流失を未然に防ぐといったことがなされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−237175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、遮断弁を自動的に閉じるためにはアクチュエータが必要になるが、既設設備では、アクチュエータを動作させるための電源ケーブルや、計装コンプレッサー、計測用の光ファイバ網が設置されていない。すなわち、既設設備では信号として用いられる電気配線は設置されているものの、動力として使用可能な大容量の電源ケーブルや、容量の大きいコンプレッサーなどは設置されていない。そして、これらを新規に設置しようとしても、コストの点や設置場所の問題があり、容易に設置できないのが現状である。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、新たに大容量の電源ケーブルや大容量のコンプレッサーを設置することなく、簡易で施工も容易な構造によって耐震性等の防災機能を補強することができる、防災遮断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の防災遮断システムは、LNG受入基地における防災遮断システムであって、
LNG配管中に設けられる防災遮断弁と、該防災遮断弁を閉じて前記LNG配管を遮断するための閉止装置と、を備え、
前記閉止装置は、LNG配管から分岐して該LNG配管を流れるLNGの一部を分流させ、分流させたLNGを気化させる気化配管と、該気化配管の下流側に設けられた電磁弁と、前記気化配管から流入する気化ガスによって作動するアクチュエータと、前記アクチュエータの作動により前記防災遮断弁を閉止する閉止機構と、を有することを特徴としている。
【0008】
この防災遮断システムによれば、気化配管により液化されているLNGを気化して高圧ガスにし、この高圧ガスを動力としてアクチュエータを作動させ、防災遮断弁を閉止するようにしているので、新たに大容量の電源ケーブルや大容量のコンプレッサーを設置することなく、耐震性等の防災機能を補強することが可能になる。また、単に気化配管を設け、さらにこれに電磁弁、アクチュエータ及び閉止機構を設けるだけでシステムを構築できるので、施工が容易で構造も簡易になる。また、電磁弁については遠隔操作できるように構成しておくことで、地震等の災害時に、コントロールセンター等から遠隔操作によって防災遮断弁を閉止することができる。
【0009】
また、前記防災遮断システムにおいては、前記LNG配管とは別に戻りガス母管が設けられ、前記アクチュエータには流入した気化ガスを排気する排気管が設けられ、前記排気管は前記戻りガス母管に接続しているのが好ましい。
このようにすれば、アクチュエータに流入した可燃性の気化ガスを、既存の戻りガス母管に戻すことができ、したがって環境に負荷を与えることなく、リサイクルすることが可能になる。
【0010】
また、前記防災遮断システムにおいて、前記気化配管には、その前記LNG配管側に、メンテナンス用遮断弁が設けられているのが好ましい。
このようにすれば、メンテナンス時にこのメンテナンス用遮断弁を閉じることにより、下流側の気化配管やアクチュエータ、閉止機構のメンテナンスを容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の防災遮断システムにあっては、新たに大容量の電源ケーブルや大容量のコンプレッサーを設置することなく、耐震性等の防災機能を補強するようにし、また、施工が容易で構造も簡易にしたので、設置に要するイニシャルコストを十分に低減することができる。さらに、地震等の災害時に遠隔操作によって防災遮断弁を閉止することができ、したがって、操作が確実に行えるため高い信頼性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るLNG受け入れ基地の概略構成図である。
【図2】本発明の防災遮断システムの一実施形態の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の防災遮断システムについて詳しく説明する。
まず、本発明に係るLNG受け入れ基地について、図1を参照して説明する。図1に示すようにこのLNG受け入れ基地では、海外のLNG貯蔵基地からLNG船1によって輸送されたLNGが、桟橋を通り陸上に長く設けられたLNG配管(LNG受入母管)2を経て、LNGタンク3に貯蔵される。ここで、LNG船1からLNGタンク3まで設置されるLNG配管2は、例えば500m〜2000m程度の長さに形成されている。また、このLNG配管2内の圧力は、0.7MPa程度に調整されている。
【0014】
LNGタンク3に貯蔵されたLNGは、その一部がLNGポンプ4によりLNG配管5に送られ、気化器6で気化された後、導管7を通って工場等の消費地8に輸送される。導管7はベントスタック9側に分岐されており、緊急時には気化器6で気化されたLNGがこのベントスタック9側に流され、大気中に放出されるようになっている。
LNGポンプ4によってLNG配管5側に送られたLNGの残部は、LNGローリー10に充填され、消費地に出荷される。
【0015】
LNGタンク3に貯蔵されたLNGの一部は、LNG配管11に導かれ、その一部がリターンガスブロア12を経て戻りガスとされ、戻りガス母管13を通ってLNG船1に返送される。この戻りガス母管13内の圧力は、7kPa程度に調整されている。
LNG配管11に導かれたLNGの他の一部は、BOG(ボイルオフガス)圧縮機14を経て前記消費地8に輸送され、あるいはベントスタック9に送られるようになっている。
【0016】
LNG配管11に導かれたLNGの他の一部は、フレアスタック15に流され、ここで燃焼させられるようになっている。
なお、このようなLNG受け入れ基地において、LNG配管2やLNG配管5、LNG配管11等には、それぞれ所定の間隔毎に、地震等の防災用の遮断弁(図示せず)が設けられている。
【0017】
このような構成からなるLNG受け入れ基地において、特に既設設備に対して新規設備を増設し、例えば前記のLNG配管2やLNG配管5、LNG配管11を延長した場合、新規設備に接続する既設設備の前記LNG配管2、LNG配管5、LNG配管11等についても、例えばその耐震性が新たな耐震基準を満たすよう、前述したように防災性を補強しておくことが望まれている。
【0018】
特に、LNG船1からLNGタンク3にLNGを輸送するLNG受入母管となるLNG配管2については、長さが500m〜2000m程度と非常に長いことから、その間に所定間隔で多数の遮断弁を設ける必要上、配管全体についての防災性の補強が強く要望されている。
そこで、本発明では、特に前記LNG配管2中に新規に防災遮断弁を設け、あるいはこの新規な防災遮断弁を既存の防災遮断弁に代えて設けることにより、防災遮断システムを構築している。
【0019】
図2は、本発明の防災遮断システムの一実施形態を示す図であり、図2中符号20は防災遮断システムである。この防災遮断システム20は、特に図1中のAで示す位置、すなわちLNG配管2と戻りガス母管13とを含む位置に配設されたもので、LNG配管2中に設けられた防災遮断弁21と、この防災遮断弁21を閉じてLNG配管2を遮断するための閉止装置22と、を備えて構成されたものである。
【0020】
防災遮断弁21は、バタフライ弁21aを備えた低温仕様のもので、バタフライ弁21aを閉じることによってLNG配管2を閉止し、該LNG配管2中を流れる液状のLNGの流れを停止するためのものである。
【0021】
閉止装置22は、LNG配管2から分岐する気化配管23と、この気化配管23に設けられたメンテナンス用遮断弁24及び電磁弁25と、アクチュエータ26と、前記防災遮断弁21を閉止する閉止機構27と、を有して構成されたものである。
【0022】
気化配管23は、LNG配管2における、前記防災遮断弁21より上流側(図1に示すLNG船1側)にて分岐して配設されたもので、このLNG配管2を流れるLNGの一部を分流させ、分流させたLNGを気化させるものである。例えば、この気化配管23は蛇行した状態に折曲されて経路が長く形成され、大気との間で十分に熱交換が行えるように構成されている。このような構成によって気化配管23は、マイナス162℃に冷却されている低温液化ガスとしてのLNGを、気化させるようになっている。なお、この気化配管23には、必要に応じてヒータを設け、気化を促進するように構成してもよい。
【0023】
この気化配管23の前記LNG配管2側、すなわち上流側には、例えばアイソレーションバルブ(隔離弁)からなるメンテナンス用遮断弁24が設けられている。このメンテナンス用遮断弁24は、LNG配管2の運転中、すなわちLNG配管2内にLNGを流している間は、常時開いた状態に制御されるもので、基本的にはメンテナンス時にのみ、閉じられるものである。したがって、このメンテナンス用遮断弁24については、その開閉が手動式のものが好適に用いられる。
【0024】
また、気化配管23の下流側には、電磁弁25が設けられている。この電磁弁25は、通常時には気化配管23を遮断し、LNG配管2から気化配管23を通って気化したLNGがアクチュエータ26に流入するのを、停止させるものである。また、この電磁弁25は、大容量の電源ケーブルを必要とすることなく、既設設備にも配備されている一般的な100Vの電源から送られる電気信号で作動するもので、その作動が遠隔操作で制御されるように構成されたものである。すなわち、この電磁弁25は、例えばコントロールセンターに電気的に接続されたもので、ここからの遠隔操作により、地震等の災害時に電磁弁25を開くことができるようになっている。
【0025】
アクチュエータ26は、気化配管23から流入する気化ガスによって作動するよう構成されたもので、電源や空気源を動力とせず、したがって大容量の電源ケーブルや容量の大きいコンプレッサーなどを必要としないものである。すなわち、このアクチュエータ26は、気密に形成されたシリンダ28内に可動体29を軸支し、これによって可動体29を正逆方向に回動可能に配置したものである。
【0026】
また、このアクチュエータ26には、前記気化配管23と反対の側に排気管30が接続されており、後述するようにシリンダ28内に流入した気化LNGが、この排気管30から排気されるようにしている。
なお、このアクチュエータ26には、後述するように気化LNGによって可動体29が正方向に回動した後、これを復旧させるための手動式の操作ハンドル(図示せず)が設けられている。
【0027】
閉止機構27は、前記アクチュエータ26の可動体29に連結する軸27a等を有したもので、可動体29の回動動作を前記防災遮断弁21のバタフライ弁21aに機械的に伝達するよう構成されたものである。なお、これらアクチュエータ26と閉止機構27と防災遮断弁21とは一体に構成され、LNG配管2と気化配管23とにそれぞれ連結されて配設されている。
【0028】
また、前記排気管30中には、メンテナンス用の遮断弁31が設けられており、この遮断弁31も、前記メンテナンス用遮断弁24と同様、基本的にメンテナンス時にのみ閉じられるようになっている。そして、排気管30は、図1に示した戻りガス母管13に接続されている。
【0029】
このような構成の防災遮断システム20にあっては、通常時には、電磁弁25が閉じていることで閉止装置22が作動せず、したがって防災遮断弁20は開いた状態となり、LNG配管2中を液状のLNGが流れるようになっている。なお、メンテナンス用遮断弁24も、前述したようにLNG配管2の運転中は開いている。したがって、気化配管23内には前記電磁弁25の直前までLNGが滞留しており、この滞留したLNGはほとんど気化した状態になっている。
【0030】
このような状況において、地震等の災害が発生した時には、コントロールセンター等からの遠隔操作により、電磁弁25を開く。
すると、LNG配管2内は0.7MPa程度の高圧になっているので、ここを流れるLNGの一部が気化配管23内に流入し、気化配管23内で気化して高圧ガス(高圧のLPGガス)となる。また、この気化配管23内に滞留していた気化状態のLNGは、電磁弁25が開くと同時に流れ始め、高圧ガスとしてアクチュエータ26内に流入する。したがって、電磁弁25が開くと、LNG配管2から気化配管23を経て気化された高圧ガスが、アクチュエータ26内に連続的に流入するようになる。
【0031】
このようにしてアクチュエータ26内に高圧ガスが流入すると、可動体29が回動し、閉止機構27の軸27a等が作動して可動体29の回動動作が防災遮断弁21のバタフライ弁21aに伝達されることにより、防災遮断弁21はLNG配管2を閉止する。したがって、LNG配管2中を流れるLNGの流れが遮断され、これによってLNG配管2からのLNGの流出が防止される。
【0032】
なお、アクチュエータ26には排気管30が設けられ、この排気管30は戻りガス母管13に接続しているので、アクチュエータ26に流入した高圧ガス(可燃性の気化ガス)は、戻りガス母管13内が7kPaと比較的低圧であることにより、この戻りガス母管13内に戻されるようになる。
また、このような地震等の災害が収まった後の復旧時には、電磁弁25を閉じ、さらにアクチュエータ26の図示しない操作ハンドルを手動で操作して、バタフライ弁21aを閉じる。
【0033】
この防災遮断システム1にあっては、地震等の災害発生時に、電磁弁25を開くことで気化配管23によりLNGを気化して高圧ガスにし、この高圧ガスを動力としてアクチュエータ26を作動させ、防災遮断弁21を閉止するようにしているので、新たに大容量の電源ケーブルや大容量のコンプレッサーを設置することなく、耐震性等の防災機能を補強することができる。また、単に気化配管23を設け、さらにこれに電磁弁25、アクチュエータ26及び閉止機構27を設けるだけでシステムを構築できるので、施工が容易で構造も簡易になる。したがって、設置に要するイニシャルコストを十分に低減することができる。
【0034】
さらに、電磁弁25については遠隔操作できるように構成しておくことで、地震等の災害時にコントロールセンター等から遠隔操作で防災遮断弁21を閉止することができ、したがって操作を確実に行えるため高い信頼性を確保することができる。
また、アクチュエータ26に排気管30を設け、この排気管30を戻りガス母管13に接続しているので、アクチュエータ26に流入した高圧ガス(可燃性の気化ガス)を戻りガス母管13内に戻すことができ、したがって環境に負荷を与えることなく、LPGの気化ガスをリサイクルすることができる。
また、気化配管23のLNG配管2側にメンテナンス用遮断弁24を設けたので、メンテナンス時にこのメンテナンス用遮断弁24を閉じることにより、気化配管23やアクチュエータ26、閉止機構27のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0035】
なお、本発明の防災遮断システム1は前記実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、前記実施形態ではアクチュアータ26に設けられた排気管30を戻りガス母管13に接続したが、この排気管30を戻りガス母管13に接続することなく、ベントスタックに通じるように配管してもよい。
また、アクチュエータ26や閉止機構27の構成については、前記の構成に限定されることなく、従来公知の種々の構成を採用することができる。
さらに、LNG受入基地についても図1に示したものに限定されることなく、したがって図2に示した防災遮断弁21を設けるLNG配管についても、図1に示したLNG配管2以外の箇所のLNG配管に適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
2…LNG配管、20…防災遮断システム、21…防災遮断弁、22…閉止装置、23…気化配管、24…メンテナンス用遮断弁、25…電磁弁、26…アクチュエータ、27…閉止機構、30…排気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LNG受入基地における防災遮断システムであって、
LNG配管中に設けられる防災遮断弁と、該防災遮断弁を閉じて前記LNG配管を遮断するための閉止装置と、を備え、
前記閉止装置は、LNG配管から分岐して該LNG配管を流れるLNGの一部を分流させ、分流させたLNGを気化させる気化配管と、該気化配管の下流側に設けられた電磁弁と、前記気化配管から流入する気化ガスによって作動するアクチュエータと、前記アクチュエータの作動により前記防災遮断弁を閉止する閉止機構と、を有することを特徴とする防災遮断システム。
【請求項2】
前記LNG配管とは別に戻りガス母管が設けられ、
前記アクチュエータには流入した気化ガスを排気する排気管が設けられ、
前記排気管は前記戻りガス母管に接続していることを特徴とする請求項1記載の防災遮断システム。
【請求項3】
前記気化配管には、その前記LNG配管側に、メンテナンス用遮断弁が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の防災遮断システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−99500(P2011−99500A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254092(P2009−254092)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】