説明

防護柵用ボルト、この製造方法および防護柵

【課題】再帰反射する光の入射角度範囲が広く、しかも、光の反射性能に優れた頭部を有する防護柵用ボルトを提供する。
【解決手段】ボルト頭部の表面上に形成された化成処理層2と、化成処理層2の上に形成されたプライマー層3と、プライマー層3の上に形成された再帰反射下地層4と、再帰反射下地層4の上に形成された再帰反射用ビーズ層5とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、防護柵用ボルト、この製造方法および防護柵、特に、夜間における優れた視線誘導機能を得ることができる防護柵用ボルト、このボルトの製造方法およびこのボルトを使用した防護柵に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、防護柵は、車両の道路外への逸脱防止やドライバーの視線誘導等を目的として道路や橋梁等に設置されているが、近年、推進されている環境美化に伴い、周辺の景観と融和し、風景の一部として違和感を感じさせないように、色彩や形状の工夫がなされることが求められ、これらを基本方針に含んだ「景観に配慮した防護柵の整備ガイドライン」(以下、「景観ガイドライン」と呼ぶ)が国土交通省監修のもとで示された。
【0003】
この「景観ガイドライン」においては、色彩については、ダークブラウン、グレーベージュ、ダークグレー、オフホワイトの4色が基本色として指定され、使用される地域の景観に応じて適宜、選定されることを基本としている。
【0004】
これらの景観に配慮した色彩の中で、ダークブラウンは、防護柵を新規に設置する場合、従来の白色に代わり、現在、主流になっている色彩である。
【0005】
しかしながら、ダークブラウンやダークグレー等の濃色は、昼間においては、周辺の景観と融和するので、「景観ガイドライン」の目的は、達成されるが、夜間においては、白色の防護柵に匹敵するようなドライバーの視線誘導効果が得られないといった問題があった。
【0006】
そこで、夜間における防護柵の視線誘導効果を高める1つの手段として、車両のヘッドライト光を効率よくドライバー側に反射させる機能を有する公知の再帰反射板(視線誘導標)若しくは再帰反射テープを防護柵に設置すること若しくは施すことが行われている。
【0007】
しかしながら、このような再帰反射板若しくはテープを防護柵に施すには、時間と労力を要するといった問題があった。
【0008】
上記問題を解決する手段として、頭部に反射塗膜を形成したボルトを防護柵の構築に使用することが考えられる。すなわち、頭部に反射塗膜を形成したボルトを使用すれば、ボルトは、支柱にガードレール等を固定するために、所定間隔毎に防護柵に取り付けられるので視線誘導効果が得られる。また、防護柵構築用のボルトが視線誘導効果を兼ねているので、前記再帰反射板若しくは再帰反射テープを別途施工する時間と労力が省けるため、防護柵設置費のコスト低減にもつながる。
【0009】
なお、頭部に反射塗膜を形成したボルトのみでは、別途、再帰反射板若しくはテープを防護柵に施す必要性が全くなくなるわけではないが、ある程度、設置数量を軽減することができるので、補助手段として有力であり、この分、防護柵への再帰反射板若しくはテープの形成に要する時間と労力を削減することができる。
【0010】
上記目的を達成するために提案されたボルトが特許文献1(特開平7−180121号公報)に開示されている。以下、このボルトを従来ボルトといい、図面を参照しながら説明する。
【0011】
図5は、従来ボルトを示す断面図である。
【0012】
図5に示すように、従来ボルトは、半球状のボルト頭部6の表面に形成された反射層7と、反射層7の外面を覆う透明な保護層8とからなっている。
【0013】
反射層7は、厚さ数十ミクロンのガラス板の片面あるいは両面にアルミニウムの薄膜を蒸着した後、これを粉砕した鏡ガラス粉からなっている。保護層8は、反射層7を保護するもので、透明な合成樹脂皮膜からなっている。
【0014】
このように構成されている従来ボルトを使用して防護柵を構築すれば、ボルト頭部6に照射された車両のヘッドライト光は、鏡ガラス粉により反射するので、ドライバーの視線誘導に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平7−180121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述したように、従来ボルトによれば、ボルト頭部に照射された車両のヘッドライト光は、鏡ガラス粉により反射するので、ドライバーの視線誘導に寄与するが、粉砕した鏡ガラス粉を使用しているので、反射する光の入射角度範囲が狭く、しかも、反射光が乱反射するため、ドライバーに戻る光量が少なく反射効率が悪いといった問題があった。
【0017】
従って、この発明の目的は、光の入射角度範囲が広く、しかも、光の反射性能に優れた頭部を有する防護柵用ボルト、このボルトの製造方法およびこのボルトを使用した防護柵を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明は、上記目的を達成するためになされたものであって、下記を特徴とする。
【0019】
[1] ボルト頭部の表面上に形成された再帰反射下地層と、前記再帰反射下地層の上に形成された再帰反射用ビーズ層とを備えていることを特徴とする防護柵用ボルト。
【0020】
[2] 光の入射角(θ)が0<θ≦40°の範囲内で一定の反射性能が得られることを特徴とする、前記[1]に記載の防護柵用ボルト。
【0021】
[3] 観測角が1.5°の場合には、1.1から1.2の範囲内の反射性能(cd/lx・m2)を有し、観測角が0.2°の場合には、12から14の範囲内の反射性能(cd/lx・m2)を有していることを特徴とする、前記[1]または[2]に記載の防護柵用ボルト。
【0022】
[4] 前記再帰反射下地層と前記再帰反射用ビーズ層との合計の厚みは、90から120μmの範囲内であることを特徴とする、前記[1]から[3]の何れか1つに記載の防護柵用ボルト。
【0023】
[5] 前記再帰反射下地層の下にプライマー層が形成され、前記プライマー層の下に化成処理層が形成されていることを特徴とする、前記[1]から[4]の何れか1つに記載の防護柵用ボルト。
【0024】
[6] 前記[1]から[5]の何れか1つに記載の防護柵用ボルトを使用したことを特徴とする防護柵。
【0025】
[7] ボルト頭部の表面上に再帰反射下地層を形成した後、前記再帰反射下地層の上に再帰反射用ビーズ層を形成することにより防護柵用ボルトを製造する方法において、前記ボルト頭部にリン酸亜鉛からなる化成処理層を形成し、次いで、前記化成処理層の上にエポキシ樹脂を塗布してプライマー層を形成し、次いで、前記プライマー層の上にマイカを混入させた合成樹脂を塗布して前記再帰反射下地層を形成し、そして、前記再帰反射下地層がウエット状態のときに前記再帰反射下地層の上に再帰反射ビーズを吹き付けて前記再帰反射用ビーズ層を形成することを特徴とする、防護柵用ボルトの製造方法。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、光の入射角度範囲が広く、しかも、光の反射性能に優れた頭部を有する防護柵用ボルトを提供することができるので、この発明のボルトにより防護柵を構築すれば、夜間における優れた視線誘導機能を得ることができる。すなわち、この発明のボルトは、ヘッドライト光に対する再帰反射機能により、車両の遠近移動に対して充分に反射光の強さを広範囲にカバーできるので、ドライバーへの視線誘導効果に優れ、安心感が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の防護柵用ボルトを示す断面図である。
【図2】この発明の防護柵用ボルトを示す部分拡大断面図である。
【図3】反射性能試験の説明図(「JIS−Z−9117」から転載)である。
【図4】入射角と反射性能との関係を示すグラフであり、同図(A)は、観測角が1.5°のときの入射角と反射性能との関係を示すグラフであり、同図(B)は、観測角が0.2°のときの入射角と反射性能との関係を示すグラフである。
【図5】従来ボルトを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
この発明の防護柵用ボルトの一実施態様を、図面を参照しながら説明する。
【0029】
図1は、この発明の防護柵用ボルトを示す断面図、図2は、この発明の防護柵用ボルトを示す部分拡大断面図である。
【0030】
図1および図2において、1は、ほぼ半球状のボルト頭部、2は、ボルト頭部1の表面上に、塗膜の密着性の向上等を目的として形成されたリン酸亜鉛等からなる化成処理層、3は、化成処理層2上に、後述する再帰反射下地層の密着性の向上等を目的として形成されたエポキシ樹脂等からなるプライマー層、4は、プライマー層3の上に形成された再帰反射下地層、5は、再帰反射下地層4の上に形成された再帰反射用ビーズ層である。
【0031】
再帰反射下地層4は、マイカを混入させたアクリルウレタン樹脂等からなり、再帰反射用ビーズ層5を形成するビーズの密着性の確保と色彩を、例えば、シルバー色にするものである。再帰反射用ビーズ層5を形成するビーズは、例えば、チタンバリウム系ガラスからなり、屈折率が1.93、比重が4.2、粒径が90から106μmのものである。再帰反射下地層4を含めた再帰反射用ビーズ層5の厚さは、90から120μmである。
【0032】
この再帰反射による効果は、ビーズの再帰反射性能と再帰反射下地層4のマイカでの反射により、生ずるものである。
【0033】
次に、この発明の防護柵用ボルトの再帰反射性能を評価する際の反射性能試験について、図3を参照しながら説明する。
【0034】
図3において、照射軸、観測軸、観測角、入射角の定義は、以下の通りである。
【0035】
照射軸:投光器と試験片表面中心とを結ぶ軸。
観測軸:受光器と試験片表面中心とを結ぶ軸。
観測角:照射軸と観測軸との間の角度。
入射角:照射軸と試験片表面中心の法線との間の角度。
【0036】
この発明において、再帰反射性能とは、投光器方向に光が反射する性能である。従って、観測角が小さいほど再帰反射性能の値は、大きくなる。
【0037】
また、この発明では、観測角を0.2°と1.5°の2水準として再帰反射性能を評価した。これは、自動車のヘッドライトからの光(図3の照射軸)と運転者の視線(図3の観測軸)との間の観測角は、運転者の目(図3の受光器)と反射体(図3の試験片表面)との距離によって変化するので、「視線誘導標設置基準・同解説(社団法人 日本道路協会 発行)」に用いられている最も小さい角度0.2°と、最も大きい角度1.5°の両方で評価した。
【0038】
上述した、この発明の防護柵用ボルトによれば、図4(A)に示すように、光の入射角(θ)が0<θ≦40°の範囲内で観測角が1.5°の場合には、1.1から1.2(cd/lx・m2)の一定の再帰反射性能が得られることが分かった。同様に、図4(B)に示すように、観測角が0.2°の場合には、12から14(cd/lx・m2)の一定の再帰反射性能が得られることが分かった。なお、観測角が1.5°の場合は、後述する「再帰反射輝度係数の測定方法」の「測定法1」で、観測角が0.2°の場合は、「測定法2」の方法で得られた値である。
【0039】
この発明の防護柵用ボルトによれば、光の入射角度範囲が広く、しかも、光の反射性能に優れた頭部を有する防護柵用ボルトを提供することができるので、この発明のボルトにより道路用あるいは橋梁用の防護柵を構築すれば、夜間における優れた視線誘導機能を得ることができることが分かる。
【0040】
なお、以上は、半球状のボルト頭部を有する防護柵用ボルトであるが、ボルト頭部の形状は、これに限定されるものでないことは勿論である。
【実施例】
【0041】
次に、この発明の防護柵用ボルトを実施例によりさらに説明する。
【0042】
先ず、図1に示すような半球状のボルト頭部1を有する、予め、亜鉛めっきが施されたボルトを用意した。このボルトは、ガードレールを支柱に固定する際に使用する通常のボルトである。
【0043】
このボルト頭部1にリン酸亜鉛からなる化成処理を行って、化成処理層2を形成した。次に、化成処理層2の上にエポキシ樹脂を塗布し、15μmの厚さのプライマー層3を形成した。次に、プライマー層3の上にマイカを混入させたシルバー色のアクリルウレタン樹脂を塗布して、再帰反射下地層4を形成した。そして、再帰反射下地層4がウエットの状態のときに再帰反射下地層4の上に静電吹き付けによりビーズを吹き付けて、再帰反射下地層4の上に再帰反射用ビーズ層5を形成した。このとき用いたビーズは、タンバリウム系ガラスからなり、屈折率が1.93、比重が4.2、粒径が90から106μmのものである。再帰反射下地層4を含めた再帰反射用ビーズ層5の厚さは、90から120μmとした。
【0044】
再帰反射性能は、JIS−Z−9117に準じた、下記の2種類の方法により再帰反射輝度係数(cd/lx・m2)を測定することにより評価した。
【0045】
測定法1:光源として250Wのハロゲン電球を用い、この光源を被測定物から距離4mの位置に設置し、受光器としてミノルタ社製輝度計「CS−100(同社の商品名)を被測定物から距離3.5mの位置に設置して、再帰反射輝度係数(cd/lx・m2)を測定した。反射光の観測角は、1.5°とした。このときの被測定物における照度は、800Luxであった。
【0046】
測定法2:スガ試験機社製再帰反射性能測定器「NS−1(同社の商品名)」を使用し、観測角0.2°として再帰反射輝度係数(cd/lx・m2)を測定した。
【0047】
このようにして製作した防護柵用ボルトのボルト頭部に光を照射して、光の入射角と反射性能を調べた結果、図4(A)、(B)に示すように、光の入射角(θ)が0<θ≦40°の範囲内で測定法1による観測角が1.5°の場合には、1.1から1.2(cd/lx・m2)の反射性能が得られ、測定法1による観測角が0.2°の場合には、12から14(cd/lx・m2)の反射性能が得られることが分かった。
【0048】
なお、上記実施例以外にもビーズの材質、屈折率が異なっても(例えば、1.8から2.2)再帰反射性能を有したものであれば良いし、実施例に限定されるものではない。また、ビーズ外表面を親水性・防汚作用のある光触媒塗装(TiO2)を施しても良い。
【符号の説明】
【0049】
1:ボルト頭部
2:化成処理層
3:プライマー層
4:再帰反射下地層
5:再帰反射用ビーズ層
6:ボルト頭部
7:反射層
8:保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト頭部の表面上に形成された再帰反射下地層と、前記再帰反射下地層の上に形成された再帰反射用ビーズ層とを備えていることを特徴とする防護柵用ボルト。
【請求項2】
光の入射角(θ)が0<θ≦40°の範囲内で一定の反射性能が得られることを特徴とする、請求項1に記載の防護柵用ボルト。
【請求項3】
観測角が1.5°の場合には、1.1から1.2の範囲内の反射性能(cd/lx・m2)を有し、観測角が0.2°の場合には、12から14の範囲内の反射性能(cd/lx・m2)を有していることを特徴とする、請求項1または2に記載の防護柵用ボルト。
【請求項4】
前記再帰反射下地層と前記再帰反射用ビーズ層との合計の厚みは、90から120μmの範囲内であることを特徴とする、請求項1から3の何れか1つに記載の防護柵用ボルト。
【請求項5】
前記再帰反射下地層の下にプライマー層が形成され、前記プライマー層の下に化成処理層が形成されていることを特徴とする、請求項1から4の何れか1つに記載の防護柵用ボルト。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1つに記載の防護柵用ボルトを使用したことを特徴とする防護柵。
【請求項7】
ボルト頭部の表面上に再帰反射下地層を形成した後、前記再帰反射下地層の上に再帰反射用ビーズ層を形成することにより防護柵用ボルトを製造する方法において、前記ボルト頭部にリン酸亜鉛からなる化成処理層を形成し、次いで、前記化成処理層の上にエポキシ樹脂を塗布してプライマー層を形成し、次いで、前記プライマー層の上にマイカを混入させた合成樹脂を塗布して前記再帰反射下地層を形成し、そして、前記再帰反射下地層がウエット状態のときに前記再帰反射下地層の上に再帰反射ビーズを吹き付けて前記再帰反射用ビーズ層を形成することを特徴とする、防護柵用ボルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−107491(P2012−107491A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221530(P2011−221530)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000231110)JFE建材株式会社 (150)
【出願人】(599056530)株式会社小松プロセス (18)
【Fターム(参考)】