説明

除振装置

【課題】 必要に応じて除振装置の弾性支持機能を無くして除振対象物を基部側に固定することにより、該除振対象物の静止状態を維持する。
【解決手段】 基部21上に除振対象物20を弾性支持する除振装置1において、除振対象物20と基部21との間に、該除振対象物20を基部21に固定自在な固定手段30を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は除振装置に関し、とりわけ、通常は弾性支持部分によって除振対象物を除振する一方、必要に応じて除振対象物を固定して静止状態を維持するようにした除振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、精密機器の製造設備においては、床スラブや基礎等の基部と、装置類や該装置類を載置する上床等の除振対象物との間に除振装置を介在させることにより、外部からの振動が除振対象物に伝播しないようになされている。
【0003】
例えば集積回路の製造設備においては、引上げ法(CZ法)によりシリコンの単結晶を円柱状に成長形成し、これを円板状にスライスすることで基板となるウエハが得られる。こうしたシリコンウエハは表面の平坦度及び比抵抗の均一性が重要であるが、シリコン単結晶の成長過程で振動が加わった場合、その成長形成に不均一性が生じてしまう。こうした振動の原因としては例えば周辺地域からの交通振動や、装置周辺での人間等の移動により生じるいわゆる生活振動等があげられる。こうした交通振動や生活振動は微少な振動ではあるが、このような微少振動であってもシリコン単結晶の均一成長にとっては重大な妨げとなる。そのため、こうした製造設備においては、上述のように基部と除振対象物との間に除振装置を介在させて振動を抑制するようになされている。
【0004】
除振装置は、除振対象物を載置する上床と基部との間に弾性体を設けて上床を除振台とした構成でなり、該弾性体によって除振台を上下方向に除振支持して振動エネルギーを吸収することにより、外部から伝播する振動を抑制する。精密機器の製造設備における除振装置では、微少振動の吸収抑制という観点から例えば弾性体として空気バネ等が用いられている。また通常、こうした弾性体を複数配設して各弾性体で振動エネルギーを分散吸収することで、振動の抑制効果をより向上するようになされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、かかる従来の除振装置にあっては、除振対象物としてシリコン単結晶の製造設備を用いた場合は、上述したように該単結晶の成長過程では振動を遮断することが望ましいが、シリコン単結晶の生成完了後、これを炉から引き上げて製造設備外方に取り出すことになるが、このとき除振装置によって弾性支持された状態では製造設備が不安定状態にある。このため、シリコン単結晶の取り出し時に製造設備が揺れた場合には、シリコン単結晶が該製造設備に干渉する恐れがあり、このように干渉した場合にはシリコン単結晶が破損されるなどして商品価値が低下されてしまうという課題があった。
【0006】
そこで、本発明はかかる従来の課題に鑑みて成されたもので、必要に応じて除振装置の弾性支持機能を無くして除振対象物を固定することにより、該除振対象物の静止状態を維持できるようにした除振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、本発明の請求項1に示す除振装置では、基部上に除振対象物を弾性支持する除振装置において、除振対象物と基部との間に、該除振対象物を基部に固定自在な固定手段を設ける。
【0008】
従って、上記固定手段を非固定状態にしておくことにより、除振対象物は除振装置の本来の弾性支持機能によって、基部から除振対象物に伝播される振動が遮断される一方、該固定手段を固定状態にすることにより除振対象物は基部に固定されて、該除振対象物の静止状態を維持することができる。
【0009】
また、本発明の請求項2に示す除振装置では、上記請求項1に示す除振装置に、上記除振対象物と上記基部との間に複数配設され、上記除振対象物及び上記基部にそれぞれ固結して該固結部から伝達される上記除振対象物及び上記基部の上下方向相対変位を水平方向変位に変換する変位変換手段と、各変位変換手段にそれぞれ固結して上記変位変換手段を相互に連結し、上記水平方向変位を各変位変換手段間で相互に伝達する変位伝達手段と、前記除振対象物と前記基部との間に前記変位変換手段と並列に配設されてなる上下方向弾性支持手段と、前記除振対象物と前記基部との間に前記変位変換手段と直列に配設され、それぞれの自由端部を相互に連結してなる水平方向除振手段とを備える。
【0010】
従って、上記固定手段を非固定状態にした状態では除振装置に本来の除振機能が発揮される。すなわち、入力振動によって基部と除振対象物との間に振動負荷が加わったとき、基部及び除振対象物とそれぞれ固結した各変位変換手段は、基部及び除振対象物間に上下方向相対変位を生じせしめる上下方向振動負荷を、これに応じた水平方向振動負荷に変換して変位伝達手段に伝達する。変位伝達手段は各変位変換手段を相互に連結しているため、こうした水平方向振動負荷を変位変換手段の相互間で伝達する。各変位変換手段では、相互に伝達された水平方向振動負荷が上下方向振動負荷に変換される。すなわち、ロッキング振動を生じせしめるばらつきのある上下方向振動負荷を水平方向振動負荷に変換し、この変位伝達手段を介して各変位変換手段相互間で伝達することで一様に均すことができ、全ての変位変換手段の基部及び除振対象物との固結位置において、平均化した同等量の上下方向振動負荷とし得る。殊に、変位変換手段を基部及び除振対象物と固結し、且つ、この変位変換手段と変位伝達手段とを固結したことにより、構造上の遊びが無く、入力振動に対してガタ無く瞬時に応動することができる。
【0011】
また、上下方向弾性支持手段は、基部から除振対象物に伝播される上下方向振動エネルギーを吸収して、除振対象物への上下方向振動の伝播を抑制するとともに、水平方向除振手段は、基部から除振対象物に伝播される水平方向振動エネルギーを吸収して、除振対象物への水平方向振動の伝播を抑制することができる。更に、該水平方向除振手段の自由端部は相互に連結されることにより、個々の自由端部の挙動を規制できるため、各水平方向除振手段が独自に傾いて局部的な沈み込みを防止できるようになり、延いては、除振対象物に偏心荷重が作用した場合にもその傾斜を確実に防止することができる。
【0012】
さらに、本発明の請求項3に示す除振装置では、前記除振対象物と前記基部との間に設けられ、前記水平方向除振手段が水平方向に変形した際に該基部に摺動自在に着座可能な着座手段を備えていて、この着座手段は、大振幅の振動入力により水平方向除振手段が大きく水平変形した場合に、これが基部に着座して水平方向除振手段のそれ以上の沈み込みを阻止するとともに、着座手段が着座した状態で更に水平変位が入力されることにより基部に対して摺動し、このときの摩擦により減衰力を発生して振動減衰する。
【発明の効果】
【0013】
以上の構成により本発明の請求項1に示す除振装置にあっては、基部上に除振対象物が弾性支持されており、これら除振対象物と基部との間に固定手段を設けて、該振対象物を基部に固定自在としたので、該固定手段を固定状態にすることにより除振対象物は基部に固定されて、該除振対象物の静止状態を維持することができる。また、上記固定手段を非固定状態にしておくことにより、除振対象物は除振装置の本来の弾性支持機能によって、基部から除振対象物に伝播される振動を効果的に遮断することができる。
【0014】
本発明の請求項2に示す除振装置にあっては、除振対象物と基部との間に複数配設され、除振対象物及び基部にそれぞれ固結して該固結部から伝達される上記除振対象物及び上記基部の上下方向相対変位を水平方向変位に変換する変位変換手段と、各変位変換手段にそれぞれ固結する変位伝達手段とを設けたので、各変位変換手段では、相互に伝達された水平方向振動負荷が上下方向振動負荷に変換でき、この変位伝達手段を介して各変位変換手段相互間で伝達することで一様に均すことができるため、全ての変位変換手段の基部及び除振対象物との固結位置において、平均化した同等量の上下方向振動負荷としてロッキング振動を防止できる。
【0015】
また、上記除振対象物と前記基部との間に前記変位変換手段と並列に配設されてなる上下方向弾性支持手段を設けたので、基部から除振対象物に伝播される上下方向振動エネルギーを吸収して、除振対象物への上下方向振動の伝播を抑制する一方、前記除振対象物と前記基部との間に前記変位変換手段と直列に配設され、それぞれの自由端部を相互に連結してなる水平方向除振手段を設けたので、基部から除振対象物に伝播される水平方向振動エネルギーを吸収して、除振対象物への水平方向振動の伝播を抑制することができる。
【0016】
更にまた、上記水平方向除振手段の自由端部を相互に連結したので、個々の水平方向除振手段の自由端部の挙動を規制できるため、各水平方向除振手段が独自に傾いて局部的に沈み込むことを防止できるようになり、延いては、除振対象物に偏心荷重が作用した場合にもその傾斜を確実に防止することができる。
【0017】
本発明の請求項3に示す除振装置にあっては、前記除振対象物と前記基部との間に設けられ、前記水平方向除振手段が水平方向に変形した際に該基部に摺動自在に着座可能な着座手段を備えたので、大振幅の振動入力により水平方向除振手段が大きく水平変形した場合に、これが基部に着座して水平方向除振手段のそれ以上の沈み込みを阻止できるとともに、着座手段が着座した状態で更に水平変位が入力されることにより基部に対して摺動し、このときの摩擦により減衰力を発生して振動減衰することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の除振装置を図面に基づいて詳述する。図1〜図10は本実施形態の除振装置を示し、図1は除振装置全体を示す正面図、図2は図1中A−A線断面図、図3は除振装置の要部を概略的に示す側面図、図4は除振装置に用いられる変位変換手段の平面図、図5は図1中B−B線断面図、図6は図1中C−C線断面図、図7は除振装置に対する変位変換手段の配置構成を示す平面図、図8は一方の変位変換手段に偏荷重が作用した場合の作動状態を示す概略構成図、図9は他方の変位変換手段に偏荷重が作用した場合の作動状態を示す概略構成図、図10は両方の変位変換手段に偏荷重が相対する方向に作用した場合の作動状態を示す概略構成図である。
【0019】
本発明の基本構成は、基部21上に除振対象物20を弾性支持する除振装置1において、除振対象物20と基部21との間に、該除振対象物20を基部21に固定自在な固定手段30を設けてある。
【0020】
上記除振装置1は、上記除振対象物20と上記基部21との間に複数配設され、上記除振対象物20及び上記基部21にそれぞれ固結して、該固結部から伝達される上記除振対象物20及び上記基部21の上下方向相対変位を水平方向変位に変換する変位変換手段2,3と、各変位変換手段2,3にそれぞれ固結して上記変位変換手段2,3を相互に連結し、上記水平方向変位を各変位変換手段2,3間で相互に伝達する変位伝達手段4と、前記除振対象物20と前記基部21との間に前記変位変換手段2,3と並列に配設されてなる上下方向弾性支持手段13,14と、前記除振対象物20と前記基部21との間に前記変位変換手段2,3と直列に配設され、それぞれの自由端部を相互に連結してなる水平方向除振手段17,18と、該水平方向除振手段17,18の自由端部の連結部分に、該水平方向除振手段17,18が所定量の水平変形した際に基部21に摺動自在に着座する柔軟着座手段32とを備える。
【0021】
即ち、本実施形態の除振装置1は、図1に示すように基部としての基礎21上に設置され、該除振装置1は図2に示すようにその平面形状が全体として矩形状を成す。その矩形状各辺には図3にも示すように固定手段30と、変位変換手段としての弾性支持部2,3と、変位伝達手段としての連結部材4と、上下方向弾性支持手段としての空気ばね13,14と、水平方向除振手段としての積層ゴム17,18と、柔軟着座手段32とが配置される。上記基礎21はレベル調整用のノンシュリンクモルタルを所定厚さに打設し、その上面は高精度の水平度を保って形成される。
【0022】
上記弾性支持部2,3は、連結部材4を用いて連結した形状でなる。弾性支持部2は鋼材を用いて形成した板ばね部材5,6の長手方向の両端部を所定の角度で平行に折曲げて、一方の折曲げ端部5a,6aを重ね合わせた形状でなる。同様に弾性支持部3は鋼材を用いて形成した板ばね部材7,8の長手方向の両端部を所定の角度で平行に折曲げて、一方の折曲げ端部7a,8aを重ね合わせた形状でなる。また連結部材4は鋼材を用いて形成した中空でなる角柱部材であり、長手方向の両端にプレート片9,10がそれぞれ突出した形状でなる。ここで連結部材4には後述する要因から、圧縮力に対して座屈を生じることのない十分な剛性を有する部材を用いている。
【0023】
プレート片9は、板ばね部材5,6の一方の端部5a,6aの間に挟み込み、またプレート片10は、板ばね部材7,8の一方の端部7a,8aの間に挟み込み、折曲げ端部5a,6a及びプレート片9、折曲げ端部7a,8a及びプレート片10をボルト等を用いて固結することで、弾性支持部2,3を連結部材4で連結した形状に形成している。また折曲げ端部5a,6a、連結部材4、折曲げ端部7a,8aには、これらの間に亘る長手方向の両側面にプレート部材11,12を溶接等によって固結しており、固結部及び連結部材4の剛性を高めるようになされている。
【0024】
弾性支持部2,3の他方の折曲げ端部5b,7bは、台座支持部15の底部にボルト等によつて固結すると共に、弾性支持部2,3の他方の折曲げ端部6b,8bを、除振装置1の四隅に配置されるエアタンク16に同じくボルト等によつて固結しており、台座支持部15上に除振台19を載置して、該除振台19上に除振対象物20を載置するようになされている。
【0025】
また、上記台座支持部15と上記エアタンク16との間に、上記空気ばね13,14が配設され、該空気ばね13,14によって台座支持部15を含む上方の除振台19および除振対象物20の荷重を支持し、該空気ばね13,14は専ら上下方向のばね作用を発揮する。
【0026】
エアタンク16は全体として上下端が閉止された筒状に形成され、上記空気ばね13,14に供給する圧縮空気を十分に蓄溜する容量を備えるとともに、図外のバルブ回路を介してエアタンク16からそれぞれに対応する空気ばね13,14に圧縮空気を供給し、かつ、空気ばね13,14から空気を排出できるようになっている。
【0027】
エアタンク16,16の下端と上記基礎21との間に上記積層ゴム17,18が配設され、これら積層ゴム17,18は1つのエアタンク16または16に対して複数個が安定良く配置される。該積層ゴム17,18は、自由端部となる上端部が該エアタンク16,16の下面に取り付けられるとともに、固定端部となる下端部が基礎21が支持され、該積層ゴム17,18によって除振装置1のエアタンク16,16上方の荷重が支持される。
【0028】
積層ゴム17,18は専ら水平方向のばね作用を発揮し、基礎21側から除振対象物20へと入力される振動を吸収する。このとき、隣設するエアタンク16,16どうしは梁部材34を介して互いに連結され、延いては、該梁部材34によって積層ゴム17,18の自由端部が互いに連結される。上記梁部材34は、矩形状となる除振装置1の外側に沿って上記台座支持部15と上下平行に配置され、その両端部が対向するエアタンク16,16にボルト結合される。そして、上記柔軟着座手段32は梁部材34の中央部に設けられるとともに、上記固定手段30は該柔軟着座手段32の両側に位置して上記台座支持部15に設けられる。また、上記固定手段30及び上記柔軟着座手段32が配置される基礎21の上面には、ステンレスなどで形成される滑り板36が予め敷設されている。
【0029】
上記固定手段30は、上記台座支持部15の下側に溶接などにより固定されるとともに、上記梁部材34を相対移動自在に貫通して垂下され、その垂下された先端部にソマライトなどの摩擦材38が取り付けられ、この摩擦材38と上記滑り板36との間に所定の間隙δ1が設けられるようになっている。固定手段30の下端部にはアジャスタハンドル30aを備えた間隙調整部30bが設けられ、該アジャスタハンドル30aを回転することにより、上記間隙δ1が微調整できるようになっている。
【0030】
上記柔軟着座手段32は梁部材34にボルト結合などにより固定されて垂下され、その垂下された先端部にテフロンなどの滑動材40が取り付けられ、この滑動材40と上記滑り板36との間に所定の間隙δ2が設けられる。また、該柔軟着座手段32にあっても、下端部にアジャスタハンドル32aを備えた間隙調節部32bが設けられ、上記間隙δ2を微調整できる。更に、柔軟着座手段32の上方に位置して梁部材34と台座支持部15との間に、上下振動吸収用の粘性ダンパー42が設けられるとともに、図示省略したが上記エアタンク16と基礎21との間に水平振動吸収用の粘性ダンパーが設けられる。
【0031】
以上の構成になる除振装置1は、除振対象物20を載置する除振台19は、弾性支持部2,3と、空気ばね13,14と、積層ゴム17,18とによって弾性支持され、(i)微振動の水平振動に対しては積層ゴム17,18によって除振し、(ii)微振動の上下振動に対しては空気ばね13,14によって除振し、(iii)微振動のロッキングに対しては弾性支持部2,3によって抑制する。また、(iv)地震時の水平動に対しては積層ゴム17,18で除振し、このときの水平変位が更に進むと積層ゴム17,18の傾倒により沈み込みが発生し、柔軟着座手段32が基礎21に着座してそれ以上の沈み込みを阻止する。(v)地震時の上下動に対しては空気ばね13,14と弾性支持部2,3との合成ばねで除振し、かつ、粘性ダンパー42によって減衰させる。
【0032】
このように上記除振装置1は弾性支持されることにより除振機能を備え、除振対象物20に交通振動や生活振動が伝播されるのを遮断して、該除振対象物20として集積回路の製造設備を適用した場合には、商品価値の高い均一なシリコン単結晶を生成させることができる。このように、上記除振対象物20としては振動を嫌う上記集積回路の製造設備や精密機器に適用してその効果を著しく向上できるが、これに限ることなく研究室,実験室及び手術室などの床の水平及び上下の除振、かつ、塔状比の大きい家具,什器及び美術展示品などの転倒防止、更には、住宅や塔状比の大きな板状建築物の除振に提供できる。
【0033】
ところで、このように除振対象物20の適用範囲を各種対象に広げることができるが、該除振対象物20を固定する必要がある場合、例えば、上記集積回路の製造設備でシリコン単結晶を炉から取り出す場合には、空気ばね13,14から徐々に空気を排除して収縮させ、該空気ばね13,14で支持される台座支持部15,除振台19及び除振対象物20を全体的に下降させる。すると、固定手段30の摩擦材38が基礎21の滑り板36に着座し、該固定手段30によって除振装置1全体を基礎21に支持することができる。
【0034】
このように除振装置1が着座した状態では、弾性支持部分つまり弾性支持部2,3、空気ばね13,14、積層ゴム17,18による弾性支持機能を無くして、除振対象物20を確実に固定でき、上記シリコン単結晶を周縁の構造物に干渉されることなく取り出し、また、これを所定の収納位置に衝撃無く載置できる。また、除振対象物20を手術室や展示品などに適用した場合にも、除振装置1からベッドや展示品を移動する際に上記固定手段30を用いることにより、安全かつスムーズに移動させることができる。勿論、上記空気ばね13,14には、エアタンク16,16から再度圧縮空気を供給することにより、空気ばね13,14は膨張して固定手段30を基礎21から持ち上げるため、弾性支持部2,3と、空気ばね13,14と、積層ゴム17,18との本来の弾性支持機能を備えた除振装置1として動作する。
【0035】
また、本実施形態では柔軟着座手段32を設けたことにより、上述したように積層ゴム17,18が大きく沈み込んだ際に該柔軟着座手段32が基礎21に着座してそれ以上の沈み込みを阻止できるが、この場合、柔軟着座手段32が着座した状態で更に水平変位が入力されることにより、滑り板36と滑動材40との間が摺動し、このときの摩擦により減衰力を発生して振動減衰することができる。
【0036】
更に、本実施形態では積層ゴム17,18の上端部、つまり積層ゴム17,18の自由端部に取り付けられる上記エアタンク16,16が梁部材34を介して連結されるため、積層ゴム17,18の自由端部側はエアタンク16,16及び梁部材34を介して連結されることになる。従って、積層ゴム17,18の自由端部の挙動を規制して各積層ゴム17,18が独自に傾いて局部的な沈み込みを防止することができる。このため、除振台19に偏心荷重が作用した場合にも、この除振台19が傾斜されるのを防止することができる。
【0037】
ところで、上記弾性支持部2,3は除振台19に生ずるロッキング回転振動を効果的に防止できる。即ち、除振台19と基礎21との間に、上下方向相対変位を生じせしめる入力振動があり、弾性支持部2,3に各々異なる上下振動負荷が生じた場合、これに応じて除振支持をしようとすることで各弾性支持部で上下方向相対変位が異なって生じることになり、除振台19にロッキング回転振動が生じようとするが、弾性支持部2,3にそれぞれ加わる上下方向振動負荷をそれに応じた水平方向振動負荷に変換することで、このロッキング回転振動を防止でき、以下その作動を詳述する。
【0038】
弾性支持部2,3は板ばね部材5〜8によってそれぞれ形成されており、各々一方の端部5b〜8bが台座支持部15及びエアタンク16とそれぞれ固結しているため、上下方向での弾性変形により板ばね部材5〜8の傾斜角が変化して水平方向に変位を生じ、これにより上下方向振動負荷を水平方向振動負荷に変換することができる。こうした変換により得られる水平方向振動負荷は、弾性支持部2,3とそれぞれ固結している連結部材4により、弾性支持部2,3の相互間で伝達される。ここで連結部材4に弾性支持部2,3からそれぞれ付勢される各水平方向振動負荷は、各々異なる振動負荷によるものであるためにばらつきがあるが、連結部材4による相互伝達により相殺し合って力の均衡をとることになり、結果として、一様に均されたものとなる。こうして均された水平方向振動負荷は、弾性支持部2,3にそれぞれ加わる上下方向振動負荷を平均化したものとして伝達される。
【0039】
弾性支持部2,3は図8に示すように、除振台19上でロッキング回転振動を生じせしめる振動負荷により、図中に実線の下向きの矢印で示す偏荷重W1が、弾性支持部3の台座支持部15(図示せず)と固結した折曲げ端部7bに加わつた場合、折曲げ端部8bがエアタンク16と固結した固定点となつているため、折曲げ端部7bは偏荷重W1によつて下方向に沈み込もうとする。この際、折曲げ端部7bの沈み込みに応じて弾性支持部3が変形しようとし、弾性支持部3の連結部材4との固結部分が水平方向に移動しようとするため、図中に左右方向への矢印で示す水平方向への引張力T1が連結部材4に付勢される。連結部材4は弾性支持部2とも固結しているため、連結部材4に付勢される水平方向への引張力T1は弾性支持部2との固結部分に伝達される。
【0040】
こうして伝達される引張力T1によつて、弾性支持部2では連結部材4との固結部分が水平方向に移動しようとする。ここで折曲げ端部6bが折曲げ端部8bと同様にエアタンク16と固結した固定点であるため、弾性支持部2の連結部材4との固結部分が移動しようとすることで弾性支持部2が変形しようとし、台座支持部15(図示せず)と固結した折曲げ端部5bが沈み込もうとすることになる。かくして、折曲げ端部7bに上下方向相対変位を生じせしめようとする偏荷重W1は、連結部材4での相互伝達によって平均化され弾性支持部2,3の相互に半分ずつ伝達されることになり、折曲げ端部5b及び7bを連動して同じ変位量で沈み込ませる。
【0041】
また図9に示すように、除振台19上でロッキング回転振動を生じせしめる振動負荷により、図中に実線の下向きの矢印で示す偏荷重W2が、弾性支持部2の台座支持部15(図示せず)と固結した折曲げ端部5bに加わつた場合、弾性支持部2が折曲げ端部6bがエアタンク16と固結した固定点となつているため、折曲げ端部5bは偏荷重W2によつて下方向に沈み込もうとする。ここで、折曲げ端部5bの沈み込みに応じて弾性支持部2が変形しようとし、弾性支持部2の連結部材4との固結部分が水平方向に移動しようとすることになり、図中に左右方向への矢印で示す水平方向への圧縮力C1が連結部材4に付勢される。連結部材4は弾性支持部3とも固結しているため、連結部材4に付勢される水平方向への圧縮力C1は弾性支持部3との固結部分に伝達される。
【0042】
こうして伝達される圧縮力C1によつて、弾性支持部3では連結部材4との固結部分が水平方向に移動しようとする。ここで折曲げ端部8bが折曲げ端部6bと同様にエアタンク16と固結した固定点であるため、弾性支持部3の連結部材4との固結部分が移動しようとすることにより弾性支持部3が変形しようとし、台座支持部15(図示せず)と固結した折曲げ端部7bが沈み込もうとすることになる。かくして、折曲げ端部5bに上下方向相対変位を生じせしめようとする偏荷重W2は、連結部材4での相互伝達によって平均化され弾性支持部2,3の相互に半分ずつ伝達されることになり、折曲げ端部5b,7bを連動して同じ変位量で沈み込ませる。
【0043】
さらに図10に示すように、除振台19上にロッキング回転振動を生じせしめる振動負荷により、図中に実線矢印で示す上向きの偏荷重W3が弾性支持部2の折り曲げ端部5bに、また図中に実線矢印で示す下向きの偏荷重W4が弾性支持部3の折曲げ端部7bにそれぞれ加わつた場合、折曲げ端部5bは上方向に浮き上がろうとし又折曲げ端部7bは下方向に沈み込もうとする。ここで、折曲げ端部5bが浮き上がろうとすることに応じて弾性支持部2が変形しようとし、弾性支持部2の連結部材4との固結部分が水平方向に移動しようとすることになり、図中に左右方向への実線矢印で示す水平方向への引張力T2を連結部材4に付勢する。
【0044】
一方、折曲げ端部7bが沈み込もうとすることに応じて弾性支持部3が変形しようとし、弾性支持部3の連結部材4との固結部分が水平方向に移動しようとすることになり、図中に左右方向への実線矢印で示す水平方向への引張力T2を連結部材4に付勢する。ここで相対する水平方向への引張力T2が等しい場合、すなわち弾性支持部2に加わる偏荷重W3と弾性支持部3に加わる偏荷重W4とが等しい場合、連結部材4では相対する向きでなる引張力T2が互いに相殺し合うことになり、どちらの方向にも移動を起こさず、従って折曲げ端部5b,7bは上下方向のどちらにも動かないことになる。
【0045】
また弾性支持部2の方向への引張力が大である場合、すなわち偏荷重W3が偏荷重W4に比して大である場合、連結部材4は弾性支持部3の方向への引張力によつて相殺された分を除く引張力により水平方向に移動し、これによつて連結部材4に見かけ上、弾性支持部2側への引張力のみが付勢された状態となつて、折曲げ端部5b,7bはともに上向きに浮き上がることになる。
【0046】
さらに弾性支持部3の方向への引張力が大である場合、すなわち偏荷重W4が偏荷重W3に比して大である場合、連結部材4は弾性支持部2の方向への引張力によつて相殺された分を除く引張力により水平方向に移動し、これによつて連結部材4に見かけ上、弾性支持部3側への引張力のみが付勢された状態となつて、折曲げ端部5b,7bはともに下向きに沈み込むことになる。
【0047】
また、除振台19上にロッキング回転振動を生じせしめる振動負荷によって、図中に破線矢印で示す下向きの偏荷重W3が弾性支持部2の折り曲げ端部5bに、また図中に破線矢印で示す上向きの偏荷重W4が弾性支持部3の折曲げ端部7bにそれぞれ加わつた場合、折曲げ端部5bは下方向に沈み込もうとし又折曲げ端部7bは上方向に浮き上がろうとする。この際、折曲げ端部5bが沈み込もうとすることに応じて弾性支持部2が変形しようとし、弾性支持部2の連結部材4との固結部分が水平方向に移動しようとすることになり、図中に左右方向への破線矢印で示す水平方向への圧縮力C2を連結部材4に付勢する。
【0048】
一方、折曲げ端部7bが浮き上がろうとすることに応じて弾性支持部3が変形しようとし、弾性支持部3の連結部材4との固結部分が水平方向に移動しようとすることになり、図中に左右方向への破線矢印で示す水平方向への圧縮力C2を連結部材4に付勢する。ここで相対する水平方向への圧縮力C2が等しい場合、すなわち弾性支持部2に加わる偏荷重W3と弾性支持部3に加わる偏荷重W4とが等しい場合、連結部材4では相対する向きでなる圧縮力C2が互いに相殺し合うことになり、どちらの方向にも移動を起こさず、従って折曲げ端部5b,7bは上下方向のどちらにも動かないことになる。
【0049】
また弾性支持部3の方向への圧縮力が大である場合、すなわち偏荷重W3が偏荷重W4に比して大である場合、連結部材4は弾性支持部2の方向への圧縮力によつて相殺された分を除く圧縮力により水平方向に移動し、これによつて連結部材4に見かけ上、弾性支持部3側への圧縮力のみが付勢された状態となつて、折曲げ端部5b,7bはともに下向きに沈み込むことになる。さらに弾性支持部2の方向への圧縮力が大である場合、すなわち偏荷重W4が偏荷重W3に比して大である場合、連結部材4は弾性支持部3の方向への圧縮力によつて相殺された分を除く圧縮力により水平方向に移動し、これによつて連結部材4に見かけ上、弾性支持部2側への引張力のみが付勢された状態となつて、折曲げ端部5b,7bはともに上向きに浮き上がることになる。
【0050】
このように、除振装置1は上下振動に対する除振時に、入力振動による振動負荷が弾性支持部2,3で異なることによって上下方向相対変位にばらつきが生じ、除振台19上にロッキング振動を生じせしめる偏荷重が生じた場合、弾性支持部2は板ばね部材5,6によって、また弾性支持部3は板ばね部材7,8によって、偏荷重により台座支持部15と基部16との間に上下方向相対変位を生じせしめる上下方向振動負荷を水平方向振動負荷に容易に変換することができ、また当該水平方向振動負荷を引張力又は圧縮力として連結部材4に付勢して弾性支持部の相互間で伝達することにより、各弾性支持部から伝達される水平方向振動負荷を均して、上下方向振動負荷を平均化して各変位変換手段に伝達することができる。
【0051】
また除振装置1は、弾性支持部2,3の一方の端部5b〜8bを台座支持部15及びエアタンク16と各々固結し、且つ、他方の端部5a〜8aと連結部材4とを固結しているため、構造上の遊びが無く、弾性支持部2,3、並びに連結部材4が入力振動に対してガタ無く瞬時に応動することができる。
【0052】
また連結部材4には偏荷重によつて弾性支持部2,3の両者から圧縮力が付勢される場合があるため(図9)、上述の構成で述べたように、こうした圧縮力に対して十分な強度を有する部材を用いて形成するようになされており、圧縮によつて座屈を生じさせないようにしている。また弾性支持部2,3に相異なる方向に偏荷重が加わった場合(図10)、連結部材4に付勢される引張力T2又は圧縮力C2が等しければ互いに相殺され、折曲げ端部5b,7bは動かないが、実際上は各部材が有する弾性歪み分だけ若干量上下動が生じ得る。こうした問題を回避するために、除振装置1では、各部材に断面性能の高い部材を用いるようになされている。
【0053】
従って、除振装置1は、ばね13,14によって上下方向の除振を又積層ゴム17,18によって水平方向の除振を行い得ると共に、弾性支持部2,3に連結部材4を固結して相互に連結した状態で除振台19の各側辺に沿つて配して、各弾性支持部に加わる振動負荷を連結部材4を介して相互に伝達するようにしたことにより、上下振動に対する除振時に入力振動による振動負荷が各弾性支持部で異なることによって上下方向相対変位にばらつきが生じて、除振台19上にロッキング振動を生じせしめようとする。
【0054】
この場合、台座支持部15と基部16との間に上下方向相対変位を生じせしめようとする上下方向振動負荷を、弾性支持部2,3の板ばね部材5〜8によって、水平方向振動負荷に容易に変換することができ、また当該水平方向振動負荷を引張力又は圧縮力として連結部材4に付勢して弾性支持部の相互間で伝達することで、各弾性支持部から伝達される水平方向振動負荷を均して、上下方向振動負荷を平均化することができ、全ての弾性支持部を連動して平均化した変位量で上下方向での伸縮を生じせしめることができる。これにより上下方向及び水平方向での除振を行い得ると共に、簡易な構成で、予測困難なロッキング振動の阻止を実現し得る。
【0055】
ところで、本実施形態では固定手段30を空気ばね13,14の収縮により基礎21に着座させる構造とすることにより、固定手段30の全体構成を簡略化できるが、これに限ることなく他に設けた油圧シリンダなどのジャッキを設けて固定手段を着座させる構成とすることもできる。また、上述の実施例においては、積層ゴム17,18の自由端部はエアタンク16,16及び梁部材34を介して連結した場合を開示したが、これらを介すことなく積層ゴム17,18の上端部を鋼板などを介して直接連結することもできる。更に、弾性支持部2,3を連結部材4によつて連結した除振装置1の場合について述べたが、本発明はこれに限らず、3つ以上の弾性支持手段を相互に連結する場合に適用してもよく、この場合も実施例の場合と同様の効果を得ることができる。更にまた、上述の実施例においては、プレート片9を折曲げ端部5a,6aの間に、またプレート片10を折曲げ端部7a,8aの間に挟み込んで接合することにより、弾性支持部2,3を連結部材4によつて相互に連結した除振装置1の場合について述べたが、本発明はこれに限らず、プレート形状の突出部を有さない角柱形状の連結部材を用いてもよい。すなわち角柱形状の連結部材の長手方向の両側端を直接、折曲げ端部5a,6aの間と、折曲げ端部7a,8aの間とにそれぞれ挟み込んで接合するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態を示す除振装置の全体の正面図である。
【図2】本発明の一実施形態を示す図1中A−A線断面図である。
【図3】本発明の一実施形態を示す除振装置の要部の概略的側面図である。
【図4】本発明の一実施形態を示す除振装置に用いられる変位変換手段の平面図である。
【図5】本発明の一実施形態を示す図3中B−B線断面図である。
【図6】本発明の一実施形態を示す図3中C−C線断面図である。
【図7】本発明の一実施形態を示す除振装置に対する変位変換手段の配置構成の平面図である。
【図8】本発明の一実施形態を示す一方の変位変換手段に偏荷重が作用した場合の作動状態の概略構成図である。
【図9】本発明の一実施形態を示す他方の変位変換手段に偏荷重が作用した場合の作動状態の概略構成図である。
【図10】本発明の一実施形態を示す両方の変位変換手段に偏荷重が相対する方向に作用した場合の作動状態の概略構成図である。
【符号の説明】
【0057】
1 除振装置
2、3 弾性支持部
4 連結部材
5、6、7、8 板ばね部材
9、10 プレート片
11、12 プレート部材
13、14 空気ばね(上下方向弾性支持手段)
15 台座支持部
16 エアタンク
17、18 積層ゴム(水平方向除振手段)
19 除振台
20 除振対象物
21 基礎(基部)
30 固定手段
32 柔軟着座手段
34 梁部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部上に除振対象物を弾性支持する除振装置において、除振対象物と基部との間に、該除振対象物を基部に固定自在な固定手段を設けたことを特徴とする除振装置。
【請求項2】
上記除振装置は、
上記除振対象物と上記基部との間に複数配設され、上記除振対象物及び上記基部にそれぞれ固結して該固結部から伝達される上記除振対象物及び上記基部の上下方向相対変位を水平方向変位に変換する変位変換手段と、
各変位変換手段にそれぞれ固結して上記変位変換手段を相互に連結し、上記水平方向変位を各変位変換手段間で相互に伝達する変位伝達手段と、
前記除振対象物と前記基部との間に前記変位変換手段と並列に配設されてなる上下方向弾性支持手段と、
前記除振対象物と前記基部との間に前記変位変換手段と直列に配設され、それぞれの自由端部を相互に連結してなる水平方向除振手段とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の除振装置。
【請求項3】
上記除振装置は、前記除振対象物と前記基部との間に設けられ、前記水平方向除振手段が水平方向に変形した際に該基部に摺動自在に着座可能な着座手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載の除振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−29593(P2006−29593A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263729(P2005−263729)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【分割の表示】特願平10−314380の分割
【原出願日】平成10年11月5日(1998.11.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】