説明

離型シート、離型シートの製造方法、及び合成皮革

離型シート(1)は、基材シート(2)と、この基材シート(2)に積層された熱可塑性樹脂層(3)と、を有する離型シート(1)であって、熱可塑性樹脂層(3)の表面に異なる2種類以上のエンボス柄が形成されていることを特徴とする。この離型シート(1)の製造方法は、基材シート(2)にエンボス加工を施す第1エンボス加工工程と、エンボス加工された基材シート2に熱可塑性樹脂層(3)を積層する積層工程と、積層した熱可塑性樹脂層(3)にエンボス加工を施す第2エンボス工程と、を有し、第1エンボス加工工程と第2エンボス加工工程で施されるエンボス柄の凹凸形状が互いに異なることを特徴とする。そして、合成皮革は離型シートを用いて製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型シート、離型シートの製造方法、及び合成皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリウレタン樹脂や塩化ビニル樹脂製の合成皮革等の製造には工程紙と呼ばれる離型シートが使用されている。
離型シートは、基紙(基材シート)の表面にポリプロピレン樹脂やポリメチルペンテン樹脂等の熱可塑性樹脂を積層(ラミネート)し、表面に微細な凹凸を設けたエンボスロールにより熱可塑性樹脂層にエンボス加工を施して製造され、例えば、図4Aのような構成を備えている。この離型シートは、基紙(基材シート)41上に積層された熱可塑性樹脂層42にのみエンボス柄が付与されている。
【0003】
表面にエンボス柄が転写された合成皮革は、このような離型シートの表面に、原料となるポリウレタン樹脂や塩化ビニル樹脂等を押出しながら塗工し、ポリウレタン樹脂や塩化ビニル樹脂等を乾燥、硬化した後、離型シートを剥離することで離型シート上のエンボス柄を転写し、製造される。
【0004】
その他、従来の離型シートの例としては、例えば特許文献1には、紙層とその上に設けられた熱可塑性樹脂からなるエンボス加工層とで構成される離型シートが開示されている。この特許文献1に開示される離型シートは、紙層及びエンボス加工層からなる離型シート全体が波状に湾曲したものであり、このような離型シートは、エンボス加工圧を紙層まで及ばせて製造することが出来る(例えば、図4B参照。符号43は紙層、符号44はエンボス加工層を示す)。
また、特許文献2には、光沢を抑えたマット調を有する成形品を製造するべく、基材シート上に、マット調の微細な凹凸が表面に形成されているマット化層が設けられ、このマット化層の表面に超微粒子を含有する離型性樹脂の塗膜層で形成された離型層が設けられた離型シートが開示されている。離型層にはエンボス加工が施されておらず、離型層表面にマット化層の微細な凹凸に起因するさらに微細な凹凸が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−296672号公報
【特許文献2】WO2006/006713
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の離型シートの熱可塑性樹脂層には、熱可塑性樹脂層に対してエンボス加工を施したことによる1種類のエンボス柄であったり、マット調の微細な凹凸が形成されたりしているのみで、エンボス柄のバリエーションが乏しく、より質感の高い合成皮革製品等を製造することが困難であった。
【0007】
本発明の目的は、質感の高い合成皮革を製造することの出来る合成皮革製造用の離型シート、及びその製造方法、並びにこの離型シートを用いて製造した合成皮革を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成を要旨とするものである。
〔1〕 基材シートと、この基材シートに積層された熱可塑性樹脂層と、を有する離型シートであって、前記熱可塑性樹脂層の表面に異なる2種類以上のエンボス柄が形成されていることを特徴とする離型シート。
【0009】
〔2〕 前記異なる2種類以上のエンボス柄の内、少なくとも一のエンボス柄の凹凸形状の深さが、他のエンボス柄の凹凸形状の深さよりも小さいことを特徴とする〔1〕に記載の離型シート。
【0010】
〔3〕 前記基材シート及び前記熱可塑性樹脂層に対してそれぞれエンボス加工が施され、前記基材シートに形成されたエンボス柄が、前記熱可塑性樹脂層の表面に浮き出ていることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の離型シート。
【0011】
〔4〕 前記熱可塑性樹脂層にエンボス加工が施されて形成されたエンボス柄の凹凸形状の深さが、前記基材シートに形成されたエンボス柄の凹凸形状の深さよりも小さいことを特徴とする〔3〕に記載の離型シート。
【0012】
〔5〕 エンボス柄を有する離型シートの製造方法であって、基材シートにエンボス加工を施す第1エンボス加工工程と、エンボス加工された前記基材シートに熱可塑性樹脂層を積層する積層工程と、積層した前記熱可塑性樹脂層にエンボス加工を施す第2エンボス工程と、を有し、前記第1エンボス加工工程と前記第2エンボス加工工程で施されるエンボス柄の凹凸形状が互いに異なることを特徴とする離型シートの製造方法。
【0013】
〔6〕 〔1〕から〔4〕までのいずれか一つに記載された離型シートを用いて製造したことを特徴とする合成皮革。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、離型シートの熱可塑性樹脂表面に異なる2種以上のエンボス柄が形成されているので、この離型シートを用いることにより、高い質感の合成皮革を製造することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る離型シートの断面図。
【図2】前記実施形態に係る離型シートの製造方法を示す概略図。
【図3A】前記実施形態に係る離型シートの製造工程を示す概略図。
【図3B】前記実施形態に係る離型シートの製造工程を示す概略図。
【図3C】前記実施形態に係る離型シートの製造工程を示す概略図。
【図3D】前記実施形態に係る離型シートの製造工程を示す概略図。
【図4A】従来技術に係る離型シートの断面図。
【図4B】従来技術に係る離型シートの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係る離型シートの断面図である。
この離型シート1は、基材シート2と熱可塑性樹脂層3とを備えている。熱可塑性樹脂層3は基材シート2上に積層されている。そして、熱可塑性樹脂層3の表面には、異なる2種類のエンボス柄(第1エンボス柄、及び第2エンボス柄)が形成されている。このエンボス柄については以下に詳説する。
【0017】
(基材シート)
本実施形態における基材シート2としては、熱可塑性樹脂層3を担持できる紙又はフィルム状の基材であれば特に制限はない。基材シート2の具体例としては、薄葉紙、クラフト紙、リンター紙、中質紙、上質紙、含浸紙、コート紙、アート紙、硫酸紙、グラシン紙等の紙基材;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂のフィルム;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のビニル系樹脂のフィルム;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂のフィルム;ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、三酢酸セルロース、セロハン、ポリカーボネート等のその他の合成樹脂のフィルム等が挙げられる。尚、耐熱性や熱成型性を考慮すると、紙基材の方が好ましく、さらにクラフト紙、中質紙、上質紙、含浸紙などが耐熱性や寸法安定性に優れるため好ましい。
【0018】
基材シート2の厚みや大きさ等には特に制限はなく、離型シート1の用途、基材シート2の種類等に応じて、所定の厚み、大きさのものを使用することが出来る。例えば、基材シート2が紙基材の場合には、その米坪量は好ましくは30〜200g/m、さらに好ましくは80〜140g/mであり、基材シート2が合成樹脂のフィルムの場合には、その厚みは好ましくは5〜500μm、さらに好ましくは15〜300μmである。また、帯状に連続したものやロール状に巻き取られた紙又はフィルムを基材シート2として用いることも出来る。
基材シート2の米坪量が30g/m又は厚みが5μm未満であると、基材シート2が薄くコシが弱くなるため次工程での加工においてハンドリング性や耐熱性が劣る場合があり、米坪量が200g/m又は厚みが500μmを超えると、一定の面積における重量が増すため、ロール状での巻メートル数や輸送時の重量制限などの問題が生じる場合がある。すなわち、ロール当りの重量制限がある場合、当該重量制限に適合させて巻き取ると、ロール状での巻メートル数が減少する問題が生じる。また、ロール径に制限がない場合に、所望の巻メートル数となるように巻き取ると、ロール当りの重量が大きくなるという問題が生じる。
【0019】
また基材シート2として紙基材を使用する場合には、その裏面側(熱可塑性樹脂層が形成される面とは反対側の面側)にカール防止加工が施された紙基材を使用するのが好ましい。カール防止加工を施すことにより、基材シート2が熱又は水分の吸湿・乾燥によりカールして離型シート1が変形するのを防止出来る。カール防止加工の方法としては、例えば、当該紙基材の裏面側に、アクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体等の合成樹脂を塗布したり、ポリオレフィン樹脂等のフィルムをラミネートする方法が挙げられる。
【0020】
本実施形態における基材シート2には、下地エンボス柄が形成されている(図3B参照)。この下地エンボス柄の深さh1(凸部分の山頂点と凹部分の谷底辺との距離)は、第2エンボス柄の凹凸形状の深さh3よりも大きい方が好ましい(図3B,図3D参照)。基材シート2に形成された下地エンボス柄の凹凸形状に対して、熱可塑性樹脂層3が積層されると、当該下地エンボス柄が熱可塑性樹脂層3の表面に浮き出て第1エンボス柄は形成されることになる。そのため、基材シート2に対して第1エンボス柄の形状に応じた下地エンボス柄を形成しておく。
【0021】
(熱可塑性樹脂層)
本実施形態における熱可塑性樹脂層3とは合成皮革となる樹脂に対し良好な塗工性と離型性とを兼ね備えた樹脂からなり、このような樹脂としては、ポリオレフィン系重合体を用いることが出来る。ポリオレフィン系重合体としては、α‐オレフィンの単独重合体や共重合体等が挙げられる。α‐オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、2−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、2,2−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、3−メチル−1−ヘキセン、2,2−ジメチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、2,2,3−トリメチル−1−ブテン、1−オクテン、2,2,4−トリメチル−1−オクテン等が挙げられる。この中で特に好ましいのは、エチレンやプロピレン、4−メチル−1−ペンテンの重合体である。
【0022】
熱可塑性樹脂層3の厚みや大きさ等には特に制限はなく、離型シート1の用途、熱可塑性樹脂層3の種類等に応じて、所定の厚み、大きさのものを使用することが出来る。
熱可塑性樹脂層3の厚みとしては5〜200μmが好ましく、10〜100μmがさらに好ましい。熱可塑性樹脂層3の厚みが5μm未満であると、第2エンボス柄の意匠柄の選択の幅が少なくなったり、薄いために均一な製膜ができない場合がある。熱可塑性樹脂層3の厚みが200μmを超えると溶融樹脂を固化させるために時間を要するので、生産性が低下したり、第1エンボス柄が埋もれてしまう場合がある。
【0023】
(第1エンボス柄、第2エンボス柄)
基材シート2の下地エンボス柄の上に熱可塑性樹脂層3が形成されているので、第1エンボス柄は、当該下地エンボス柄に対応した凹凸形状で形成されている。このとき、第1エンボス柄の凹凸形状の深さh2は、下地エンボス柄の凹凸形状の深さh1とほぼ同じである。
第2エンボス柄は、第1エンボス柄よりも細やかな凹凸形状であるとともに、第1エンボス柄が形成された領域内で第1エンボス柄の凹凸形状に沿って形成されている。
そして、第1エンボス柄の凹凸形状の深さh2の方が第2エンボス柄の凹凸形状の深さh3よりも大きい方が好ましい(図3C,図3D参照)。
【0024】
(離型シートの製造方法)
次に、離型シート1の製造方法について、図面を用いて説明する。
図2には離型シート製造装置10の概略が示されている。
この離型シート製造装置10は、第1エンボス柄加工部11と、押出機12と、第2エンボス柄加工部13とを備えている。
第1エンボス柄加工部11は、基材シート2のエンボス加工を行う部分であり、第1エンボスロール11a及び第1プレッシャーロール11bを備えている。第1エンボスロール11aは金属製ロールであって、その外表面には第1エンボス柄に対応した凹凸形状が形成されている(図2では第1エンボス柄の凹凸形状は省略してある)。第1プレッシャーロール11bはゴム製ロールであって、その外表面は略平滑である。
押出機12は、熱可塑性樹脂を押出して基材シート2上に熱可塑性樹脂を塗布するものであり、Tダイを備えている。熱可塑性樹脂は、このTダイから基材シート2上に押出されるとともに、ラミネートされる。
第2エンボス柄加工部13は、熱可塑性樹脂層3のエンボス加工を行う部分であり、第2エンボスロール13a及び第2プレッシャーロール13bを備えている。第2エンボスロール13aは金属製ロールであって、その外表面には第2エンボス柄に対応した凹凸形状が形成されている。また、第2エンボスロール13aの内部には冷却水が通水されており、第2エンボスロール13aは基材シート2上にラミネートされた熱可塑性樹脂層3を冷却・固化させるための冷却ロールとしての役割も担う。第2プレッシャーロール13bはゴム製ロールであって、その外表面は略平滑である。
また、図3A〜図3Dには離型シート1の製造工程が、各工程時の基材シート2,熱可塑性樹脂層3の断面状態を用いて示されている。
【0025】
・第1エンボス工程
第1エンボス柄加工部11を構成する第1エンボスロール11aと第1プレッシャーロール11bとが上下対向して配置されており、離型シート製造装置10に供給された基材シート2(図3A参照)は略水平方向に送られるとともに、第1エンボスロール11aと第1プレッシャーロール11bとの間で挟み込まれる。エンボス加工時の圧力や温度等の条件は基材シート2の材質や第1エンボスロール11aの凹凸形状に応じて適宜設定する。また、第1エンボスロール11aのロール内に、熱した水蒸気や熱風等を通してロール表面を加熱できるような機構を設けておくことが好ましい。
第1エンボスロール11aと当接した基材シート2の表面には第1エンボスロール11aの表面に予め形成されている凹凸形状が転写形成される(図3B参照)。なお、この凹凸形状は、熱可塑性樹脂層3の表面に形成される第1エンボス柄の下地エンボス柄となる。下地エンボス柄を形成するときは、第1エンボスロール11aのロール表面を加熱して、基材シート2に熱を加えながら行うことが好ましい。基材シート2に熱を加えながら下地エンボス柄を形成することで、下地エンボス柄の凹凸形状をより鮮明に基材シート2に対して転写することが出来る。
【0026】
基材シート2の製造工程とエンボス加工工程とを組み合わせてインラインで行うことも出来る。すなわち、離型シート製造装置10の第1エンボス加工工程の前に基材シート2の製造装置を設けることで、当該インラインタイプの離型シート製造装置が構成される。インラインで行うことによって、離型シート1の製造効率を向上させることが出来る。
例えば、基材シート2が紙基材の場合には、抄紙工程とエンボス加工工程とを組み合わせて、インラインで行うことが出来る。
この場合、抄紙法に特に制限はなく、例えば、パルプを水に均一に分散させた紙料(パルプスラリー)を、円網抄紙機、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、単層傾斜抄紙機等を単独又は複合(抄合わせて)して抄紙することが出来る。
エンボス加工を行うタイミングとしては、例えば、ドライヤーパートの後に、紙基材を加熱しながらエンボス加工を行っても良いし、ドライヤーパートの前に、紙基材が半乾きの状態でエンボス加工を行っても良い。後者の場合は、エンボス加工後に乾燥工程を設ける必要がある。
【0027】
さらに、紙基材が樹脂含浸紙である場合は、抄紙工程中のサイズプレスなどで樹脂を紙に含浸させ、樹脂が含浸した状態でエンボス加工を行った後、加熱乾燥を行っても良い。含浸に用いる樹脂には特に制限はなく、例えば、SBR(スチレン−ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、MBR(メチルメタクリレート−ブタジエンゴム)、塩化ビニル樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル樹脂、EVA(エチレン−酢酸ビニル)樹脂、ポリビニルアルコール、デンプンなどを目的に応じて、単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することが出来る。これらの樹脂は、水性エマルション又は水溶液若しくは有機溶剤溶液として含浸することが出来るが、作業性、安全性等の点で、水性エマルション又は水溶液を使用することが好ましい。さらに、含浸用の樹脂液に、サイズ剤、ワックス、架橋剤、着色剤、消泡剤等を添加することも出来る。
その他、抄紙工程と第1エンボス加工工程を同時に一つの工程で行い、別工程にて熱可塑性樹脂の積層工程と第2エンボス加工工程を行うようにしても良い。
【0028】
また、基材シート2が樹脂からなるフィルム基材の場合には、例えば、フィルム基材としての樹脂シートの押出成形工程と第1エンボス加工工程とを組み合わせて、インラインで行うことが出来る。この場合、第1エンボスロール11aには冷却機能を設け、押出機から押出されたフィルム基材の原料である溶融熱可塑性樹脂を冷却しながら凹凸形状を形成すればよい。
【0029】
・積層工程
第1エンボス加工工程を経た基材シート2に対して、溶融した熱可塑性樹脂を押出機12のダイから押し出してラミネートし、熱可塑性樹脂層3が形成される。このとき、熱可塑性樹脂層3は基材シート2の表面上に形成された凹凸形状に対応してラミネートされ、第1エンボス柄が形成される(図3C参照)。
押出機12の加熱温度等の条件は熱可塑性樹脂層3を構成する熱可塑性樹脂の融点やメルトフローレート等に応じて適宜設定する。
【0030】
・第2エンボス加工工程
第2エンボス柄加工部13を構成する第2エンボスロール13aと第2プレッシャーロール13bとが水平対向して配置されており、積層工程を経た基材シート2(図3C参照)は略下方向に送られるとともに、第2エンボスロール13aと第2プレッシャーロール13bとの間で挟み込まれる。エンボス加工時の圧力や温度等の条件は熱可塑性樹脂の材質や第2エンボスロール13aの凹凸形状に応じて適宜設定する。
第2エンボスロール13aと当接した熱可塑性樹脂層3には第2エンボスロール13aの表面に予め形成されている凹凸形状が転写される。それとともに、熱可塑性樹脂層3は冷却される。この転写及び冷却によって第2エンボス柄が形成される(図3D参照)。第2エンボス柄は、第1エンボス柄の凹凸形状に沿って形成される。
このようにして、離型シート1が製造される。
【0031】
・その他の工程
第2エンボス加工工程を経て製造された離型シート1は、巻き取り機(図示せず)によってロール状に巻き取られる。巻き取られた離型シート1は、適宜、用途に応じたサイズに裁断されて使用される。
【0032】
(合成皮革の製造方法)
離型シート1の熱可塑性樹脂層3の表面にポリウレタン樹脂や塩化ビニル樹脂等の合成皮革用樹脂を塗工する。塗工した合成皮革用樹脂を乾燥、硬化させた後、当該合成皮革用樹脂の表面に接着剤を介して基布を貼り合わせ、乾燥、熟成させる。その後、離型シート1を剥離することで、合成皮革が得られる。離型シート1を剥離した後の合成皮革には、熱可塑性樹脂層3の第1エンボス柄及び第2エンボス柄が転写されている。
尚、基布を貼り合わせずに、製膜した合成皮革用樹脂層単体で用いても良い。
【0033】
(実施形態の効果)
以上のような本実施形態によれば、次のような効果がある。
(1)離型シート1の熱可塑性樹脂層3の表面には、第1エンボス柄及び第2エンボス柄という異なる2種類のエンボス柄が形成されているため、この離型シート1を用いることにより、従来の離型シートでは表現されない、複数の柄を有する高い質感の合成皮革を製造することが出来る。
【0034】
(2)また、離型シート1の第1エンボス柄の凹凸形状の深さの方が第2エンボス柄の凹凸形状の深さよりも大きいので、2種類のエンボス柄を鮮明に表現することが出来る。
【0035】
(3)加えて、第2エンボス柄が、第1エンボス柄を形成した領域内で第1エンボス柄の凹凸形状に沿って形成されているので、従来の離型シートに比べて、天然皮革や木目調等の模様にさらに近づいた模様を表現することが出来る。
【0036】
(4)さらに、離型シート1の基材シート2に下地エンボス柄を形成しているので、熱可塑性樹脂層3の表面に浮き出る第1エンボス柄が当該下地エンボス柄の凹凸形状によって支えられていることとなる。そのため、第2エンボス柄を形成する際に、第1エンボス柄に対して熱や圧力が加えられても、第1エンボス柄がつぶされてしまうのを防ぐことが出来る。
【0037】
[実施形態の変形]
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、以下に示すような変形をも含むものである。
基材シート2の下地エンボス柄に応じた第1エンボス柄を、基材シート2を介して熱可塑性樹脂層3に形成するようにしたが、このような形態に限られず、基材シート2には下地エンボス柄を形成せずに、熱可塑性樹脂層3に直接、第1エンボス柄と第2エンボス柄とを形成するようにしてもよい。例えば、熱可塑性樹脂層3を積層した後のエンボス加工工程で、異なる第1エンボス柄と第2エンボス柄とを一緒に予め成形したエンボスロールを用いることで実現できる。
【0038】
また、離型シート1の表面のエンボス柄は2種類に限られず、3種類以上としても良い。より種類の多いエンボス柄を熱可塑性樹脂層3に形成すれば、2種類のエンボス柄よりも天然皮革等にさらに近い模様を表現することが出来る。例えば、エンボス柄を3種類とする場合、基材シート2に対して第1エンボス柄の下地エンボス柄を形成し、熱可塑性樹脂層3に対して第2エンボス柄及び第3エンボス柄を形成するようにすればよい。その他、熱可塑性樹脂層3を中間層と表面層とで構成される積層型として、基材シート2に第1エンボス柄の下地エンボス柄を形成し、中間層に第2エンボス柄の下地エンボス柄を形成し、表面層に第3エンボス柄を形成するようにしてもよい。この際、凹凸形状の深さは、(第1エンボス柄)>(第2エンボス柄)>(第3エンボス柄)、とするのがよい。
【0039】
さらに、前記実施形態では、第1エンボス柄及び第2エンボス柄はそれぞれ略等間隔で規則的に凹凸形状が形成されているがこれに限られない。第1エンボス柄及び第2エンボス柄は不規則的に形成されていてもよく、天然皮革等の形状により近似させるために適宜その凹凸の間隔や形状を変更することが出来る。
【0040】
そして、エンボス加工は、エンボスロールを用いる方法の他、例えば、エンボス柄に対応した凹凸形状が形成された平板を備えた平板プレス機を用いる方法も採用することが出来る。
【0041】
加えて、前記実施形態では、第2エンボスロール13aと第2プレッシャーロール13bとが左右対向して配置されているが、第1エンボスロール11a及び第1プレッシャーロール11bのように上下対向して配置されていてもよい。この場合、第1エンボス加工工程を経た基材シート2上に熱可塑性樹脂を押出機12でラミネートして熱可塑性樹脂層3を形成し、略水平方向に基材シート2を送りながら第2エンボスロール13aとプレッシャーロール13bとの間に挟みこませるようにすれば良い。
【0042】
その他、前記実施形態では、エンボスロール11a,13aと対にして用いたプレッシャーロール11b,13bはいずれもゴム製ロールであったが、金属製ロールや合成樹脂性又は金属製の平板状テーブルなども基材シートや熱可塑性樹脂シートの材質に応じて、適宜用いることが出来る。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、凹凸形状の深さの測定は、表面粗さ計(ACCRETECH社製、型番:SURCOM480A)によって行った。
(実施例1)
基材シートとして、米坪量120g/mの樹脂含浸紙(リンテック製、型番:FLEX−A)を使用した。この樹脂含浸紙を前記実施形態で示した離型シート製造装置へ供給した。第1エンボス加工工程では、第1エンボスロール(リンテック製、型番:R−101、「キップ」と呼ばれる牛の皮を模した柄)の表面温度を130℃とし、樹脂含浸紙の表面に下地エンボス柄を形成した。第1エンボスロールの表面に形成された凹凸形状の深さは、60μmであり、樹脂含浸紙に形成された下地エンボス柄の凹凸形状の深さは60μmであった。
次に、押出機を用いて、下地エンボス柄が形成された樹脂含浸紙に、ポリプロピレン(サンアロマー製、PHA03A)と低密度ポリエチレン(サンアロマー製、PH800C)との混合樹脂をラミネートした(積層工程)。押出機の温度を290℃とし、熱可塑性樹脂層の厚みを35μmとした。このとき熱可塑性樹脂層の表面には下地エンボス柄の凹凸形状に対応した第1エンボス柄が形成された。第1エンボス柄の凹凸形状の深さは60μmであった。
そして、第2エンボス加工工程では、第2エンボスロール(リンテック製、型番:R−70−1、「カーフ」と呼ばれる牛の皮を模した柄)の表面温度を290℃とし、当該共重合体樹脂で形成された熱可塑性樹脂層を冷却しながら第2エンボス柄を形成した。このようにして表面にキップ柄とカーフ柄の2種類のエンボス柄を有する離型シートを得た。なお、第2エンボスロール表面に形成された凹凸形状の深さは、30μmであり、第2エンボス柄の凹凸形状の深さは30μmであった。
【0044】
このように製造した離型シートを用いて合成皮革を製造した。離型シートの熱可塑性樹脂層の表面にポリウレタン樹脂(富仁化工製、型番:FB930)を塗工した。塗工したポリウレタン樹脂を乾燥させた後、ポリウレタン樹脂表面に接着剤(富仁化工製、型番:FB7500)を介して基布(欣禾実業製、厚み:0.55mm)を貼り合わせ、乾燥、熟成後、離型シートを剥離して、合成皮革を得た。離型シートを剥離した後の合成皮革には、熱可塑性樹脂層の第1エンボス柄(キップ模様)及び第2エンボス柄(カーフ模様)が転写されていた。
【0045】
(実施例2)
実施例1において、熱可塑性樹脂をポリメチルペンテン(三井化学製、TPX(登録商標)、型番:DX231)に変更し、押出機の温度を290℃とし、第2エンボス加工工程で用いたエンボスロールを第2エンボスロール(リンテック製、型番:R−135、「キッド」と呼ばれるヤギ皮に似せた牛の皮を模した柄)に変更した以外は、実施例1と同様にして離型シート及び合成皮革を製造した。このようにして表面にキップ模様とキッド模様の2種類のエンボス柄を有する離型シート及び合成皮革を得た。
第1エンボスロールの表面に形成された凹凸形状の深さは、60μmであり、樹脂含浸紙に形成された下地エンボス柄の凹凸形状の深さは60μmであった。第1エンボス柄の凹凸形状の深さは60μmであった。第2エンボスロール表面に形成された凹凸形状の深さは、30μmであり、第2エンボス柄の凹凸形状の深さは30μmであった。
【0046】
(比較例1)
実施例1において、第1エンボス加工工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして離型シートを製造した。第2エンボス柄の深さは30μmであった。また、実施例1と同様にして合成皮革を製造した。このようにして製造した離型シート及び合成皮革には、カーフ模様のエンボス柄1種類のみを有していた。
【0047】
実施例1及び実施例2の離型シートの表面には第1エンボス柄及び第2エンボス柄が形成され、しかも第2エンボス柄は、第1エンボス柄を形成した領域内で第1エンボス柄の凹凸形状に沿って形成されている。すなわち、深さの大きい柄の中に深さの小さい柄が形成されているため、比較例1のような1種類のエンボス柄が形成された離型シートと比べて、質感の高い合成皮革を製造し得る離型シートを得ることができた。そして、実際に実施例1及び実施例2の離型シートを用いて製造した合成皮革の表面には質感の高い模様が形成されていた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、離型シート、離型シートの製造方法、及び合成皮革に利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 離型シート
2 基材シート
3 熱可塑性樹脂層
10 離型シート製造装置
11 第1エンボス柄加工部
11a 第1エンボスロール
11b 第1プレッシャーロール
12 押出機
13 第2エンボス柄加工部
13a 第2エンボスロール
13b 第2プレッシャーロール
h1 下地エンボス柄の凹凸形状の深さ
h2 第1エンボス柄の凹凸形状の深さ
h3 第2エンボス柄の凹凸形状の深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートと、この基材シートに積層された熱可塑性樹脂層と、を有する離型シートであって、
前記熱可塑性樹脂層の表面に異なる2種類以上のエンボス柄が形成されていることを特徴とする離型シート。
【請求項2】
前記異なる2種類以上のエンボス柄の内、少なくとも一のエンボス柄の凹凸形状の深さが、他のエンボス柄の凹凸形状の深さよりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の離型シート。
【請求項3】
前記基材シート及び前記熱可塑性樹脂層に対してそれぞれエンボス加工が施され、前記基材シートに形成されたエンボス柄が、前記熱可塑性樹脂層の表面に浮き出ていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の離型シート。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂層にエンボス加工が施されて形成されたエンボス柄の凹凸形状の深さが、前記基材シートに形成されたエンボス柄の凹凸形状の深さよりも小さいことを特徴とする請求項3に記載の離型シート。
【請求項5】
エンボス柄を有する離型シートの製造方法であって、
基材シートにエンボス加工を施す第1エンボス加工工程と、
エンボス加工された前記基材シートに熱可塑性樹脂層を積層する積層工程と、
積層した前記熱可塑性樹脂層にエンボス加工を施す第2エンボス工程と、を有し、
前記第1エンボス加工工程と前記第2エンボス加工工程で施されるエンボス柄の凹凸形状が互いに異なることを特徴とする離型シートの製造方法。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載された離型シートを用いて製造したことを特徴とする合成皮革。
【請求項7】
請求項3に記載された離型シートを用いて製造したことを特徴とする合成皮革。
【請求項8】
請求項4に記載された離型シートを用いて製造したことを特徴とする合成皮革。

【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図1】
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【公表番号】特表2013−518738(P2013−518738A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550295(P2012−550295)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【国際出願番号】PCT/CN2010/070478
【国際公開番号】WO2011/094930
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】