説明

難燃性防振ゴム組成物

【課題】 赤リンを難燃剤として使用し、防振ゴム物性の防振特性や発熱耐久性を損なうことなく、かつ有毒ガスの発生の抑制、低発煙性さらに難燃性を付与した難燃性防振ゴム組成物に関する。
【解決手段】結晶繊維の繊維長の平均が200nm以下であり、アスペクト比の平均が10以下、及び繊維長200nm以下の結晶繊維数が25μm当たり90以上であり、かつ融点が170℃以上である特定のシンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン結晶繊維(a)1〜30質量%、及びシス−ポリブタジエンゴム(b)99〜70質量%からなるビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A)90〜5質量%と、(A)以外の加硫可能なゴム(B)10〜95質量%とからなるゴム成分(A)+(B)100質量部に対しゴム補強剤(C)30〜80質量部、ノンハロゲン系難燃剤(D)2〜50質量部を配合してなるゴム成分であることを特徴とする難燃性防振ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は赤リンを難燃剤として使用し、防振ゴム物性の防振特性や発熱耐久性を損なうことなく、かつ有毒ガスの発生の抑制、低発煙性さらに難燃性を付与した難燃性防振ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に自動車・オートバイ等の交通手段や産業機械等の騒音や振動を防止するために、いわゆる防振ゴムが使用されており、防振ゴムの特性としては、
1)大きな静荷重を支える必要上、硬いことであり、必要に応じた静的バネ定数が要求されること、及び
2)高速(高振動数)で動荷重を受けたときの外力の伝達係数が小さいこと、即ち動的バネ定数は小さいことが要求されること、などがある。
この両特性を表すパラメーターとして一般に静動比(動的バネ定数/静的バネ定数)が用いられており、静動比が小さい程防振特性に優れていると言える。
【0003】
また、防振ゴムは自動車・オートバイ等の交通手段や産業機械等による使用から、過剰な震動を吸収することによる発熱、特に燃焼の危険性も孕んでおり、より安全性の高い材料として難燃化の特性を付与することも要求される。
【0004】
そこで従来から使用されているハロゲン元素含有難燃剤は、ゴムに対する混練性に優れているが、燃焼したときには発煙性があり、有毒ガスを発生するという難点がある。これに対して、ハロゲンを含まない難燃剤は、低発煙性、低有毒ガス性という点で近年注目を集めている。
【0005】
ハロゲンを含まない難燃剤としての赤リンは、一般的にマトリックスの炭化を促進し、表面炭化層を形成することにより酸素を遮断し難燃性をもたらす。さらにリンがメタリン酸を経て、ポリリン酸になり、この粘繹で不揮発性の保護皮膜が酸素を遮断し難燃性をもたらすというメカニズムが提唱されている。すなわち、赤リンの難燃効果は炭化促進と皮膜効果の併用によって発現する。
【0006】
しかし、赤リンは難燃効果が高いものの、ハロゲン系難燃剤ほどの難燃効果は得られない。そこで高い難燃効果を期待する場合は、多量配合をしなければならず、その結果、ゴム組成物のゴムとしての物性低下は避けられない問題がある。
【0007】
特許文献1では、赤リンに水酸化アルミニウムのコーティングを施した平均粒径15μm程度の難燃剤を用いている。しかしながら、赤リンはゴムに対する補強性がないため、単なる破壊核となり、配合重量部が多くなると、ゴムとしての物性を大きく損なう原因となっている。
【0008】
そこで、特許文献2では赤リンの微粒径化を行い、さらに赤リンとゴムのマスターバッチを製造することで天然ゴムとしての物性を損なうことなく、難燃性を付与する改善を図っている。
【0009】
一方、ゴム組成物として使用されるものとしては、ポリブタジエンがある。ポリブタジエンは、いわゆるミクロ構造として、1,4−位において重合により生成した結合部分(1,4−構造)と1,2−位において重合により生成した結合部分(1,2−構造)とが分子鎖中に共存する。1,4−構造は、さらにシス構造とトランス構造の2種に分けられる。一方、1,2−構造は、ビニル基を側鎖とする構造をとる。
【0010】
重合触媒や重合条件によって、上記のミクロ構造が異なったポリブタジエンが製造されることが知られており、それらの特性によって種々の用途に使用されている。
【0011】
あらゆる実用性の観点から、ポリブタジエンゴムは、一般に高硬度、高反発性、及び耐衝撃性と共に加工性の優れたものが要求される。高反発性と加工性とを両立させることを目的として、ポリブタジエンの改良が試みられ種々の提案がなされている。
【0012】
例えば、特許文献3には、n−ブタン、シス2−ブテン、トランス−2−ブテン及びブテン−1などのC4留分を主成分とする不活性有機溶媒中において、特定の構造を有するビニル・シス−ポリブタジエンゴム(以下、「VCR」とする)を用いることよる方法が開示されている。この方法により製造されたゴム組成物が含有する1,2−ポリブタジエンは短繊維結晶であり、その短繊維結晶の長軸長さの分布は繊維長さの98%以上が0.6μm未満であり、70%以上が0.2μm未満であることが記載され、得られたゴム組成物は、シス−1,4−ポリブタジエンゴム(以下、「BR」とする)の成形性や引張応力、引張強さ、耐屈曲亀裂成長性などのゴム物性を改良することが記載されている。
【0013】
しかしながら、難燃剤を防振ゴム成分に混合することで難燃性は高まり、また、VCRを使用することでゴム物性は高まるものの、難燃性と高い物性の並存は難しく防振ゴムに用いる場合には、より実用性の高いものが求められていた。
【0014】
【特許文献1】特開平5−125229号公報
【特許文献2】特開平5−230289号公報
【特許文献3】特開2002−194140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、赤リンを難燃剤として使用し、防振ゴム物性の防振特性や発熱耐久性を損なうことなく、かつ有毒ガスの発生の抑制、低発煙性さらに難燃性を付与した難燃性防振ゴム組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、結晶繊維の繊維長の平均が200nm以下であり、アスペクト比の平均が10以下、及び繊維長200nm以下の結晶繊維数が25μm当たり90以上であり、かつ融点が170℃以上である特定のシンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン結晶繊維(a)1〜30質量%、及びシス−ポリブタジエンゴム(b)99〜70質量%からなるビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A)90〜5質量%と、(A)以外の加硫可能なゴム(B)10〜95質量%とからなるゴム成分(A)+(B)100質量部に対しゴム補強剤(C)30〜80質量部、ノンハロゲン系難燃剤(D)2〜50質量部を配合してなるゴム成分であることを特徴とする難燃性防振ゴム組成物に関する。
【0017】
(A)以外の加硫可能なゴム(B)が、天然ゴム及び/又はポリイソプレンであることを特徴とする上記の難燃性防振ゴム組成物に関する。
【0018】
ゴム補強剤(C)がカーボンブラックであることを特徴とする上記の難燃性防振ゴム組成物に関する。
【0019】
該ノンハロゲン系難燃剤(D)が平均粒径10μm以下である赤リンであることを特徴とする、上記の難燃性防振ゴム組成物に関する。
に関する。
【0020】
上記の難燃性防振ゴム組成物をゴム基材として用いることを特徴とする難燃性防振ゴムに関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、有毒ガスの発生を抑制し、低発煙性、難燃性であって、防振ゴム物性の防振特性や発熱耐久性を損なうことの無い、難燃性防振ゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明においては、難燃剤としてノンハロゲン系難燃剤を用いることが望ましい。ノンハロゲン系難燃剤としては、水和金属化合物系、無機化合物系、リン系、シリコーン系、窒素化合物系、有機金属化合物系などが上げられる。
一般には、上記のどの種類を用いても良いが、特にリン系難燃剤が好ましく、その中でもコストや取り扱い方法の観点から赤リンが望ましい。
【0023】
ノンハロゲン系難燃剤の水和金属化合物系物質としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等があげられる。
【0024】
ノンハロゲン系難燃剤の無機化合物系物質としては、アンチモン化合物、硼酸亜鉛、錫酸亜鉛、Mo化合物、ZrO、硫化亜鉛、ゼオライト、酸化チタン、ナノフィラー(MMT,ナノ水和金属化合物,シリカ)、カーボンナノチューブ、炭酸カルシウムなどがあげられる。
【0025】
ノンハロゲン系難燃剤のリン系物質としては、(1)芳香属リン酸エステル類、例えばTPP,CDP,TCP,TXP,トリス(t-ブチール化フェニール)、フォスフェート,トリス(i-プロピール化フェニール)フォスフェート,2-エチールヘキシール、ジフェニールフォスフェート、(2)芳香属縮合型リン酸エステル類、例えばBDP,RDB、1,3フェニレン,ビス(ジフェニールフォスフェート)、(3)Intumescent類としては、例えばFP-2200,クラリアントOP、(4)赤燐類としては、赤燐、赤燐と膨張性黒鉛の混合物、(5)リン酸エステルアミドなどがある。
【0026】
ノンハロゲン系難燃剤のシリコーン系物質としては、ジメチルシリコーン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーンなどが上げられる。
【0027】
ノンハロゲン系難燃剤の窒素化合物系としては、ヒンダートアミン化合物、メラミンシアニュレート,トリアジン化合物、グアニジン化合物などがある。
【0028】
ノンハロゲン系難燃剤の有機金属化合物系としては、エチレンジアミン4酢酸銅,パーフルオロブタンスルフォン酸カルシウムがあげられる。
【0029】
難燃剤は、赤リンの単独使用が望ましいが、作業性や安全性の観点から水和金属化合物系難燃剤との混合や赤リンをコーティングした形で用いても良い。また、より効果的な難燃効果を発揮させるために、異種の難燃剤同士を組み合わせて使用しても良い。さらに、難燃剤のゴム組成物への混入の際、ハンドリング性を考慮し、樹脂組成物を用いてマスターバッチ化して使用してもよい。
【0030】
マスターバッチ化する際の樹脂組成物としては、ジエン系ゴムを主成分とするゴム組成物、例えば天然ゴム、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、ポリイソプレン、トランス−ポリイソプレン、及びその他の変性ポリイソプレン、ブチルゴム、クロロプレンゴム、ハイシス-ポリブタジエン、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエンゴム等を用いることが出来る。さらに、これらを単独で使用しても、複数種を混合して使用しても良い。
【0031】
本発明の難燃性マスターバッチは、赤リン30〜60重量%とマスターバッチ化する際の樹脂組成物70〜40重量%との混合物であり、これをゴム組成物に対して1〜50重量%配合することが出来る。
【0032】
難燃性マスターバッチ中の赤リンは難燃化後のゴム組成物全体に対して常に0.3〜30重量%含有するが、0.5〜25重量%含有が好ましく、1〜20重量%含有が特に好ましい。
【0033】
マスターバッチを用いない場合であっても、赤リンは難燃化後のゴム組成物全体に対して0.3〜30重量%含有、好ましくは0.5〜25重量%含有、特に好ましくは1〜20重量%含有。
【0034】
本発明に係る防振用ゴム組成物をなすビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A)は、一般に次のような構成となっている。即ち、融点が170℃以上であるシンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン(以下、「1,2−ポリブタジエン」とする)結晶繊維(b)1〜30質量%、及びシス−ポリブタジエンゴム(a)99〜70質量%からなる。
【0035】
上記1,2−ポリブタジエンの結晶繊維(b)としては、結晶繊維の繊維長の平均が200nm以下、好ましくは150nm以下であり、また、平均のアスペクト比が10以下、好ましくは4以下であり、繊維長200nm以下の結晶繊維数が25μm当たり90以上、好ましくは100以上であり、かつ融点が170℃以上、好ましくは190〜220℃である。
【0036】
本発明に係る防振用ゴム組成物を構成するビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A)は、マトリックス成分である上記シス−ポリブタジエンゴム(a)中に、繰り返し単位当たり少なくとも1個の不飽和二重結合を有する不飽和高分子物質(c)が1,2−ポリブタジエン結晶繊維(b)に吸着した状態で分散していることが好ましい。ビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A)の沸騰n−ヘキサン不溶分は、1,2−ポリブタジエン結晶繊維(b)と不飽和高分子物質(c)の一部又は全部であり、赤外吸収スペクトル分析により1,2−ポリブタジエン結晶繊維への不飽和高分子物質(c)の吸着割合(グラフト率)が算出できる。1,2−ポリブタジエン結晶繊維(b)への不飽和高分子物質(c)の吸着割合(グラフト率)は5〜200質量%、好ましくは10〜120質量%、特に好ましくは20〜90質量%である。この範囲内であることは、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン結晶繊維(b)分散性を向上させて、ビニル・シス−ポリブタジエンゴムに生じうる諸物性の低下を抑制する効果があるので好ましい。
なお、沸騰n−ヘキサン不溶分は、2gのビニル・シスポリブタジエンゴム(A)を200mlのn−ヘキサンにて4時間ソックスレー法によって沸騰抽出した抽出残部を質量%で示した値である。
【0037】
上記シス−ポリブタジエンゴム(a)は、高シス−1,4−ポリブタジエンそのもの及び高シス−1,4構造を主要な構造とするポリブタジエンの少なくとも1以上を主成分とするものである。また、シス−ポリブタジエンゴムは、以下の特性を有することが望ましい。即ち、シス−1,4構造含有率が一般に90mol%以上、好ましくは95mol%以上であり、ムーニー粘度(ML1+4,100℃。以下、「ML」という。)が10〜130、好ましくは15〜80であり、トルエン溶液粘度(以下、「T−cp」という。)が10〜200cp、好ましくは10〜150cpであり、実質的にゲル分を含有しないことが望ましい。
【0038】
前記ビニル・シス−ポリブタジエンゴムにおいて、上記1,2−ポリブタジエン結晶繊維(b)と上記シス−ポリブタジエンゴム(a)の割合は、シス−ポリブタジエンゴム(a)99〜70質量%に対して1,2−ポリブタジエン結晶繊維(b)が1〜30質量%である。1,2−ポリブタジエン結晶繊維(b)の割合が上記を超える場合、シス−ポリブタジエンゴム(a)中の1,2−ポリブタジエン結晶繊維(b)の短繊維結晶が大きくなりやすく、その分散性が悪くなるので好ましくない。また、1,2−ポリブタジエン結晶繊維(b)の割合が上記未満の場合、1,2−ポリブタジエン結晶繊維(b)による補強性が低下し、特長となる加工性、引張応力、引張強さ及び耐屈曲亀裂成長性などの優れた特性が発現し難くなるので好ましくない。上記不飽和高分子物質(c)の割合は、ビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A)の0.1〜30質量%、好ましくは1〜20質量%である。この範囲内であることは、1,2−ポリブタジエン結晶繊維(b)の分散性を向上させて、ビニル・シス−ポリブタジエンゴムに生じうる諸物性の低下を抑制する効果があるので好ましい。
【0039】
前記ビニル・シス−ポリブタジエンゴムは、例えば以下の製造方法により好適に製造される。
【0040】
前記ビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A)の製造においては、一般に炭化水素系溶媒を用いて1,3−ブタジエンの重合を行う。この炭化水素系溶媒としては、溶解度パラメーター(以下、「SP値」という。)が9.0以下である炭化水素系溶媒が好ましく、更に好ましくは8.5以下の炭化水素系溶媒である。SP値が9.0以下である炭化水素系溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素又は脂環族炭化水素であるn−ヘキサン(SP値:7.2)、n−ペンタン(SP値:7.0)、n−オクタン(SP値:7.5)、シクロヘキサン(SP値:8.1)、及びn−ブタン(SP値:6.6)などが挙げられる。中でも、シクロヘキサンなどが好ましく用いられる。
【0041】
これらの溶媒のSP値は、ゴム工業便覧(第四版、社団法人日本ゴム協会、平成6年1月20日発行、721頁)などの文献で公知である。
【0042】
SP値が9.0よりも小さい溶媒を使用することで、マトリックス成分であるシス−ポリブタジエンゴム中への1,2−ポリブタジエン短繊維結晶の分散性が向上し、その結果得られるビニル・シス−ポリブタジエンゴムは、加工性、引張応力、引張強さ及び耐屈曲亀裂成長性などの優れた特性を発現することができる。
【0043】
前記ビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A)の製造においては、まず、1,3−ブタジエンと上記炭化水素系溶媒とを混合し、次いで、得られた溶液中の水分の濃度を調節する。水分は、前記溶液中の、シス−1,4重合触媒として用いられる後記有機アルミニウム化合物1モル当たり、好ましくは0.1〜1.0モル、特に好ましくは0.2〜1.0モルの範囲である。この範囲では、充分な触媒活性が得られ、好適なシス−1,4構造含有率及び分子量が得られる。さらに、重合時のゲルの発生が抑制されるため重合槽などへのゲルの付着を防ぐことができ、連続重合時間を延ばすことができるので好ましい。水分の濃度を調節する方法は、公知の方法が適用できる。多孔質濾過材を通して添加・分散させる方法(特開平4−85304号公報)も有効である。
【0044】
水分の濃度を調節して得られた上記溶液には、シス−1,4重合触媒の一つとして、有機アルミニウム化合物を添加する。有機アルミニウム化合物としては、一般式AlRn3-nで表される化合物が好ましく用いられる。その具体例として、ジエチルアルミニウムモノクロライド、ジエチルアルミニウムモノブロマイド、ジイソブチルアルミニウムモノクロライド、ジシクロヘキシルアルミニウムモノクロライド、ジフェニルアルミニウムモノクロライド、及びジエチルアルミニウムセスキクロライドなどが好適である。有機アルミニウム化合物の使用量としては、1,3−ブタジエンの全量1モル当たり0.1ミリモル以上が好ましく、0.5〜50ミリモルであることがより好ましい。
【0045】
次いで、有機アルミニウム化合物を添加した混合溶液に、シス−1,4重合触媒として、可溶性コバルト化合物を添加して、1,3−ブタジエンをシス−1,4重合する。可溶性コバルト化合物としては、用いる炭化水素系溶媒又は液体1,3−ブタジエンに可溶なものであるか、又は、均一に分散できる、例えばコバルト(II)アセチルアセトナート、コバルト(III)アセチルアセトナートなどコバルトのβ−ジケトン錯体、コバルトアセト酢酸エチルエステル錯体などコバルトのβ−ケト酸エステル錯体、コバルトオクトエート、コバルトナフテネート、コバルトベンゾエートなど炭素数6以上の有機カルボン酸コバルト塩、塩化コバルトピリジン錯体、塩化コバルトエチルアルコール錯体などのハロゲン化コバルト錯体などが好適である。可溶性コバルト化合物の使用量は、1,3−ブタジエンの1モル当たり0.001ミリモル以上が好ましく、0.005ミリモル以上であることがより好ましい。また、可溶性コバルト化合物に対する有機アルミニウムクロライドのモル比(Al/Co)は10以上であり、特に50以上であることが好ましい。また、可溶性コバルト化合物以外にも、ニッケルの有機カルボン酸塩、ニッケルの有機錯塩、有機リチウム化合物、ネオジウムの有機カルボン酸塩、及びネオジウムの有機錯塩を使用することも可能である。
【0046】
シス−1,4重合の温度は、0℃を超えて100℃以下、好ましくは10〜100℃、更に好ましくは20〜100℃までの範囲である。重合時間(平均滞留時間)は、10分〜2時間の範囲が好ましい。シス−1,4重合後のポリマー濃度が5〜26質量%となるように、シス−1,4重合を行うことが好ましい。重合槽は、1槽又は2槽以上の槽を連結して行われる。重合は、重合槽(重合器)内にて溶液を攪拌混合して行う。重合に用いる重合槽としては、高粘度液攪拌装置付きの重合槽、例えば特公昭40−2645号公報に記載された装置を用いることができる。
【0047】
前記ビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造において、シス−1,4重合時に、公知の分子量調節剤、例えばシクロオクタジエン、アレン、メチルアレン(1,2−ブタジエン)などの非共役ジエン類、又はエチレン、プロピレン、ブテン−1などのα−オレフィン類を使用することができる。また、重合時のゲルの生成を更に抑制するために、公知のゲル化防止剤を使用することができる。また、重合生成物のシス−1,4構造含有率は、80mol%以上、好ましくは90mol%以上で、ムーニー粘度は、10〜130、好ましくは15〜80であり、実質的にゲル分を含有しないようにする。
【0048】
上記の如くして得られたシス−1,4重合反応混合物に、シンジオタクチック−1,2重合(以下、「1,2重合」という。)触媒として、少なくとも一般式AlRで表せる有機アルミニウム化合物及び、必要に応じて上記の可溶性コバルト化合物及び二硫化炭素を添加して、これらの存在下、1,3−ブタジエンを1,2重合させて、ビニル・シス−ポリブタジエンゴムを製造する。この際、前記重合反応混合物に1,3−ブタジエンを添加してもよいし、添加せずに未反応の1,3−ブタジエンを反応させてもよい。一般式AlRで表せる有機アルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリn−ヘキシルアルミニウム、及びトリフェニルアルミニウムなどを好適に挙げることができる。有機アルミニウム化合物は、1,3−ブタジエン1モル当たり0.1ミリモル以上、特に0.5〜50ミリモル以上が好ましい。二硫化炭素は、特に限定されないが、水分を含まないものであることが好ましい。二硫化炭素の濃度は、20ミリモル/L以下、特に好ましくは0.01〜10ミリモル/Lである。二硫化炭素の代替として、公知のイソチオシアン酸フェニルやキサントゲン酸化合物を使用してもよい。
【0049】
1,2重合の温度は、−5〜100℃、好ましくは−5〜70℃、更に好ましくは0〜50℃の温度範囲である。1,2重合を行う際の重合系には、前記のシス−1,4重合反応混合物100質量部当たり1〜50質量部、好ましくは1〜20質量部の1,3−ブタジエンを添加することにより、1,2重合時の1,2−ポリブタジエンの収量を増大させることができる。重合時間(平均滞留時間)は、10分〜2時間の範囲が好ましい。1,2重合後のポリマー濃度が9〜29質量%となるように、1,2重合を行うことが好ましい。重合槽は、1槽又は2槽以上の槽を連結して行われる。重合は、重合槽(重合器)内にて重合溶液を攪拌混合して行う。1,2重合に用いる重合槽としては、1,2重合中に更に高粘度となりポリマーが付着しやすいので、高粘度液攪拌装置付きの重合槽、例えば特公昭40−2645号公報に記載された装置を用いることができる。
【0050】
上記のようにシス−1,4重合、次いで1,2重合を行ってビニル・シス−ポリブタジエンゴムを製造するにあたり、繰り返し単位当たり少なくとも1個の不飽和二重結合を有する不飽和高分子物質(c)を、ビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造系内に添加する工程を含むことが好ましい。ビニル・シス−ポリブタジエンゴム製造後、例えば配合時に、前記不飽和高分子物質を添加しても本願発明の効果は得られない。前記不飽和高分子物質の製造系内への添加は、前記シス−1,4重合を行う前から、前記1,2重合を行う際までの間の任意の時点で重合反応混合物中に添加することが好ましく、シス−1,4重合の前及び/又は後に添加するのがさらに好ましく、前記1,2重合を行うときに添加することがより好ましい。
【0051】
前記不飽和高分子物質(c)としては、ポリイソプレン、融点170℃未満の結晶性ポリブタジエン、液状ポリブタジエン、及びそれらの誘導体から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0052】
ポリイソプレンとしては、通常の合成ポリイソプレン(シス構造90mol%以上のシス−1,4−ポリイソプレン等)、液状ポリイソプレン、トランス−ポリイソプレン、及びその他の変性ポリイソプレン等が挙げられる。
【0053】
融点170℃未満の結晶性ポリブタジエンは、好ましくは融点0〜150℃の結晶性ポリブタジエンであり、例えば、低融点1,2−ポリブタジエン、トランス−ポリブタジエン等が挙げられる。
【0054】
液状ポリブタジエンとしては、固有粘度[η]=1以下の極低分子のポリブタジエン等があげられる。ここで、固有粘度[η]は、試料ゴム0.1gとトルエン100mlを三角フラスコに入れて30℃で完全溶解させ、その後、30℃に維持された恒温水槽中で、キャノンフェンスケ動粘度計に上記溶液10mlを入れ、溶液の落下時間(T)を測定し、下記式により求めた値とする。
【0055】
ηsp=T/T−1(T:トルエンだけの落下時間)
ηsp/c=[η]+k’[η]2
(ηsp:比粘度、k’:ハギンズ定数(0.37)、c:試料濃度(g/ml))
【0056】
また、これらの誘導体としては、たとえば、イソプレン・イソブチレン共重合体、イソプレン・スチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、液状エポキシ化ポリブタジエン、及び液状カルボキシル変性ポリブタジエン等、並びにこれら誘導体の水添物等が挙げられる。
【0057】
上記の各不飽和高分子物質のうち、イソプレン、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、及び融点70〜110℃の1,2−ポリブタジエンが好ましく用いられる。また、上記の各不飽和高分子物質は、単独で用いることも、2種以上を混合して用いることもできる。
【0058】
上記のように不飽和高分子物質(c)を添加すると、得られるビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A)において、不飽和高分子物質(c)の相溶効果により、融点が170℃以上の1,2−ポリブタジエンの、マトリックス成分であるシス−ポリブタジエンゴム中への分散性が著しく向上する。その結果得られるビニル・シス−ポリブタジエンゴムは、加工性、引張応力、引張強さ及び耐屈曲亀裂成長性などの物性に優れたものとなる。
【0059】
上記不飽和高分子物質の添加量は、得られるビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A)に対して0.1〜30質量%の範囲であることが好ましく、1〜20質量%の範囲であることが更に好ましい。また、いずれの時点で添加する場合でも、添加後10分〜3時間攪拌することが好ましく、10分〜30分間攪拌することが更に好ましい。
【0060】
また、ビニル・シス−ポリブタジエンゴムを製造するにあたり、1個以上の酸素結合を含有する有機化合物及び高分子化合物の少なくとも1以上を添加することができる。これらの化合物は、エーテル基、エポキシ基、カルボキシル基、エステル基、水酸基、又はカルボニル基を含有する化合物であることが好ましい。具体的化合物として、例えば、酸無水物、脂肪族アルコール、芳香族アルコール、脂肪族エーテル・芳香族エーテル、脂肪族カルボン酸・芳香族カルボン酸・不飽和カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステル・芳香族カルボン酸エステル・不飽和カルボン酸エステル、フェノール樹脂、ナイロン樹脂、ポリウレタン、ポリエチレングリコール、エポキシ化ポリブタジエン、ポリエステル、エポキシ化スチレンブタジエン共重合体、及びポリアリールエーテルなどが挙げられる。
【0061】
上記1個以上の酸素結合を含有する有機化合物及び高分子化合物の少なくとも1以上を重合系に添加することにより、ビニル・シス−ポリブタジエンゴムのマトリックス成分であるシス−ポリブタジエンと1,2−ポリブタジエン樹脂の界面親和性が変化し、結果として、1,2−ポリブタジエン樹脂の繊維結晶の単分散化及びビニル・シス−ポリブタジエンゴムの上記物性の向上に効果がある。
【0062】
重合反応が所定の重合率に達した後、常法に従って公知の老化防止剤を添加することができる。老化防止剤としては、フェノール系の2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)、リン系のトリノニルフェニルフォスファイト(TNP)、硫黄系の4.6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、及びジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート(TPL)などが挙げられる。これらを単独でも2種以上組み合わせて用いてもよく、老化防止剤の添加は、ビニル・シス−ポリブタジエンゴム100質量部に対して0.001〜5質量部である。次に、重合停止剤を重合系に加えて、重合反応を停止させる。その方法として、例えば、重合反応終了後、重合反応混合物を重合停止槽に供給し、この重合反応混合物にメタノール及びエタノールなどのアルコール、又は水などの極性溶媒を大量に投入する方法、並びに塩酸及び硫酸などの無機酸、酢酸及び安息香酸などの有機酸、又は塩化水素ガスを重合溶液に導入する方法などは、公知である。次いで、通常の方法に従い、生成したビニル・シス−ポリブタジエンゴムを分離回収し、洗浄、乾燥して目的のビニル・シス−ポリブタジエンゴムを取得する。
【0063】
上記のビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造方法においては、生成したビニル・シス−ポリブタジエンゴムを分離取得した残余の、未反応の1,3−ブタジエン、炭化水素系溶媒及び二硫化炭素などを含有する重合反応混合物母液から、通常、蒸留により1,3−ブタジエン及び炭化水素系溶媒を分離し、また、二硫化炭素の吸着分離処理、あるいは二硫化炭素付加物の分離処理によって二硫化炭素を分離除去して、二硫化炭素を実質的に含有しない1,3−ブタジエン及び炭化水素系溶媒を回収する。また、前記重合反応混合物母液から、蒸留によって3成分を回収して、この蒸留物から上記の吸着分離あるいは二硫化炭素付着物分離処理によって二硫化炭素を分離除去することによっても、二硫化炭素を実質的に含有しない1,3−ブタジエン及び炭化水素系溶媒を回収することもできる。上記のようにして回収された二硫化炭素と炭化水素系溶媒とは、新たに補充した1,3−ブタジエンを混合して再使用することができる。
【0064】
上記のビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A)を製造する際、上記の方法により得られたシス−ポリブタジエン(a−3)マトリックス中に1.2ポリブタジエン結晶繊維(b)が10〜60質量%、好ましくは20〜50質量%含有したビニル・シス−ポリブタジエン(e)溶液に、炭化水素系溶媒とシス−1,4構造含有率が80mol%以上であるシス−ポリブタジエン(f)溶液を溶液混合することによって、ビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A)を製造することもできる。
なお、シス−ポリブタジエン(a−3)の5質量%トルエン溶液粘度は、30〜250cp、好ましくは50〜200cp、より好ましくは100〜200cpである。
【0065】
溶液混合するシス−ポリブタジエン(f)は、上記のシス−1,4重合触媒を添加して1,3−ブタジエンをシス−1,4重合する工程と同様にして得ることができる。
【0066】
得られたシス−ポリブタジエン(f)は、シス−1,4構造含有率が80mol%以上、好ましくは90mol%以上、特に好ましくは95mol%以上であることが好ましい。また、ムーニー粘度は、10〜130、特に15〜80が好ましく、実質的にゲル分を含有せず、さらに、5質量%トルエン溶液粘度(Tcp)が、10〜250cp、好ましくは30〜200cpである。
【0067】
ビニル・シス−ポリブタジエン(e)とシス−ポリブタジエン(f)とを溶液混合して得られるビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A)における(e)と(f)の割合は(e):(f)=1:1〜9であることが好ましい。
【0068】
上記のビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A)の製造方法によれば、触媒成分の操作性に優れ、高い触媒効率で工業的に有利に、本発明に係る難燃性防振ゴム組成物をなすビニル・シス−ポリブタジエンゴムを連続的に長時間製造することができる。特に、重合槽内の内壁や攪拌翼、その他攪拌が緩慢な部分に重合溶液が付着することもなく、高い転化率で工業的に有利に連続製造できる。
【0069】
上記の方法により得られたビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A)は、一般に、融点が170℃以上である1,2−ポリブタジエン結晶繊維(b)1〜30質量%、シス−ポリブタジエンゴム(a)99〜70質量%からなる。また、前記シス−ポリブタジエンゴム(a)のミクロ構造は、80mol%以上がシス−1,4−ポリブタジエンであり、その残余がトランス−1,4−ポリブタジエン及びビニル−1,2−ポリブタジエンである。そして、前記融点が170℃以上である1,2−ポリブタジエン結晶繊維(b)は、融点が170〜220℃、結晶繊維の繊維長の平均が200nm以下、平均アスペクト比が10以下、及び繊維長200nm以下の結晶繊維数が25μm当たり90以上であるところの結晶繊維である。また、前記シス−ポリブタジエンゴム(a)のMLは、好ましくは10〜130、さらに好ましくは15〜80である。
【0070】
さらに、本発明に係る難燃性ゴム組成物を構成するビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A)は、以下の特性を有することが望ましい。
(イ)1.2ポリブタジエン結晶繊維(b)の分子量指標ηsp/cが0.5〜4の範囲にあること。
(ロ)シスーポリブタジエン(a)のミクロ構造中のシス構造含有量が90mol%以上であること。
(ハ)シスーポリブタジエン(a)のトルエン溶液粘度とムーニー粘度の関係がT−cp/ML≧1であること。
(二)シスーポリブタジエン(a)の固有粘度[η]の値が1.0〜5.0の範囲にあること。
【0071】
上記のようにして製造したビニル・シス−ポリブタジエンゴムが加工性、引張応力、引張強さ及び耐屈曲亀裂成長性など優れた物性を発現するためには、ビニル・シス−ポリブタジエンゴム中に分散した1,2−ポリブタジエン結晶繊維は、シス−ポリブタジエンゴムのマトリックス中に微細な結晶として単分散化した形態で部分的に分散し、凝集構造を有する大きな1,2−ポリブタジエン結晶繊維と共存していることが好ましい。また、上記融点が170℃以上である1,2−ポリブタジエン結晶繊維に加えて、上記の不飽和高分子物質がシス−ポリブタジエンゴムのマトリックス中に分散していることが好ましい。この不飽和高分子物質は、シス−ポリブタジエンゴムのマトリックス中で、1,2−ポリブタジエン結晶繊維と高い親和性を有し、1,2−ポリブタジエン結晶繊維近傍に物理的、化学的に吸着した状態で分散していることが好ましい。上記のように、融点が170℃以上である1,2−ポリブタジエン結晶繊維と不飽和高分子物質とが共存してシス−ポリブタジエンゴムのマトリックス中に分散されることによって、上記の諸物性が優れたものとなり好ましい。
【0072】
上記のようにして製造したビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A)90〜5質量部に対して、(A)以外のジエン系ゴム(B)10〜95質量部を配合する。加硫可能なゴム(B)としては、天然ゴム及びポリイソプレンのうち少なくとも1種以上であることが好ましい。
【0073】
本発明に係る難燃性防振ゴムに配合されるゴム補強剤(C)としては、各種のカーボンブラック、ホワイトカーボン、シリカ、活性化炭酸カルシウム、超微粒子珪酸マグネシウム等などが挙げられる。なかでも、カーボンブラック及びシリカのうち少なくとも1以上であることが好ましい。特に好ましくは、粒子径が90nm以下、ジブチルフタレート(DBP)吸油量が70ml/100g以上のカーボンブラックであり、例えば、FEF、FF、GPF、SAF、ISAF、SRF、HAF等が用いられる。
【0074】
また、ゴム補強剤(C)としては、特開2006−131819で開示されているような、フラーレンを用いてもよい。フラーレンとしては、C60、C70、C60とC70の混合物やその誘導体である。
【0075】
フラーレン誘導体としては、PCBM(Phenyl C61-butyric acid methyl ester)、PCBNB(Phenyl C61-butyric acid n-butyl ester)、PCBIB(Phenyl C61-butyric acid I-butyl ester)、C70PCBM(Phenyl C71-butyric acid methyl ester)などがある。その他、水酸化フラーレン、酸化フラーレン、水素化フラーレンなども用いることができる。
【0076】
本発明に係る難燃性防振ゴム組成物において、上記ゴム補強剤(C)の配合量は、上記ビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A)及びジエン系ゴム(B)からなるゴム成分100質量部に対して20〜70質量部、好ましくは30〜60質量部である。
【0077】
本発明に係る難燃性防振ゴム組成物は、上記各成分を通常行われているバンバリー、オープンロール、ニーダー、二軸混練り機などを用いて混練りすることで得られる。
【0078】
本発明に係る難燃性防振ゴム組成物には、必要に応じて、加硫剤、加硫助剤、老化防止剤、充填剤、プロセスオイル、亜鉛華、ステアリン酸など、通常ゴム業界で用いられる配合剤を混練してもよい。
【0079】
加硫剤としては、公知の加硫剤、例えば硫黄、有機過酸化物、樹脂加硫剤、酸化マグネシウムなどの金属酸化物などが用いられる。ゴム成分100重量部に対して0.5〜3量部程度を配合することが好ましい。
【0080】
加硫助剤としては、公知の加硫助剤、例えばアルデヒド類、アンモニア類、アミン類、グアニジン類、チオウレア類、チアゾール類、チウラム類、ジチオカーバメイト類、キサンテート類などが用いられる。
【0081】
老化防止剤としては、アミン・ケトン系、イミダゾール系、アミン系、フェノール系、硫黄系及び燐系などが挙げられる。
【0082】
充填剤としては、炭酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、クレー、リサージュ、珪藻土等の無機充填剤、再生ゴム、粉末ゴム等の有機充填剤が挙げられる。
【0083】
プロセスオイルは、アロマティック系、ナフテン系、パラフィン系のいずれを用いてもよい。
【0084】
難燃剤をゴム組成物と混合する際は、ゴム補強剤などを混練する段階で混入できる。

【実施例】
【0085】
以下、実施例及び比較例を示して、本発明について具体的に説明する。実施例及び比較例において、ビニル・シス−ポリブタジエンゴムの素ゴムの物性、並びに得られた難燃化ゴム組成物の配合物及び加硫物の物性は、以下のようにして測定した。

【0086】
[素ゴム物性]
ムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、JIS−K6300に準拠し、100℃にて
予熱1分測定4分の値をムーニー粘度計(島津製作所製、SMV−202)により測定した。
【0087】
固有粘度[η]は、試料ゴム0.1gとトルエン100mlを三角フラスコに入れて30℃で完全溶解させ、その後、30℃に維持された恒温水槽中で、キャノンフェンスケ動粘度計に上記溶液10mlを入れ、溶液の落下時間(T)を測定し、下記式により求めた値とする。
ηsp=T/T−1(T:トルエンだけの落下時間)
ηsp/c=[η]+k’[η]2
(ηsp:比粘度、k’:ハギンズ定数(0.37)、c:試料濃度(g/ml))
【0088】
トルエン溶液粘度(T−cp)は、ポリマー2.28gをトルエン50mlに溶解した後
、標準液として粘度計校正用標準液(JIS−Z8809)を用い、キャノンフェンスケ粘度計No.400を使用して、25℃で測定した。
【0089】
ミクロ構造は、赤外吸収スペクトル分析によって行った。シス740cm−1、トランス967cm−1、ビニル910cm−1の吸収強度比からミクロ構造を算出した。
【0090】
ηsp/cは、1.2ポリブタジエン結晶繊維の分子量の目安として、0.20g/dlのo−ジクロロベンゼン溶液から135℃で還元粘度を測定した。
【0091】
1.2ポリブタジエン結晶繊維の融点及び含有量は、示差走査熱量計(島津製作所製、DSC−50)を使用し、昇温速度10℃/minで吸熱曲線を求め、そのピーク温度を融点とし、吸熱量から含有量を算出した。
【0092】
結晶繊維の平均繊維長、繊維長200nm以下の結晶繊維の数、及び結晶繊維の平均アスペクト比は、次のように求めた。ビニル・シス−ポリブタジエンゴムを一塩化硫黄と二硫化炭素の混合溶液中で加硫を行い、その加硫物からウルトラミクロトーム(ライカ社製)により超薄切片を切出した。その切片を透過型電子顕微鏡(日立製作所社製H−7100FA型)で観察し、5000倍の写真を撮影した。その写真を画像解析ソフト(Win ROOF(三谷商事社製))を使用して、25μm範囲で二値化を行い、結晶繊維の繊維長さ、アスペクト比、面積を求めた。次に、平均の繊維長さ、アスペクト比を、それぞれの結晶繊維の値に面積分率を乗じて平均し、結晶繊維の平均繊維長、及び結晶繊維の平均アスペクト比とした。結晶繊維の数は繊維長200nm以下の繊維数を1.2ポリブタジエン結晶繊維含有量1質量%当たりで計算して求めた。
【0093】
[配合物物性]
ムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、JIS−K6300に準拠し、100℃にて
予熱1分測定4分の値をムーニー粘度計(島津製作所製、SMV−202)により測定した。数値が小さいほど粘度が低く、流動性が良好なことを示す。
【0094】
ダイ・スウェルは、配合物の寸法安定性の目安として、加工性測定装置(モンサント社製、MPT)を用いて、100℃、100sec−1のせん断速度で、押出時の配合物の断面積とダイオリフィス断面積(但し、L/D=1.5mm/1.5mm)の比を測定した。数値が小さいほど押出加工性が良好なことを示す。
【0095】
[加硫物物性]
硬度は、JIS−K6253に規定されている測定法に従って測定した。
【0096】
引張応力は、JIS−K6251に準拠して100%引張応力を測定した。数値が大きいほど引張応力が高いことを示す。
【0097】
引張強度は、JIS−K6301に準拠して、破断時の引張強さを測定した。数値が大きいほど引張強度が高いことを示す。
【0098】
引裂強度は、JIS−K6252に準拠して測定した。数値が大きいほど引裂応力が高いことを示す。
【0099】
静動比は、静バネ定数はJIS K6301に準じて定伸長応力より求め、動バネ定数はレオメトリック社製粘弾性測定装置を用い、温度30℃、周波数10Hz、動歪0.5%で測定し、静動比を計算し、比較例1を100として指数で示した。数値が小さいほど防振特性が良好なことを示す。
【0100】
発熱耐久性は、JIS K6265に準じてフレクソメーターにより、100℃×25分間で上昇した発熱量を測定し、比較例1を100として指数で示した。数値が小さいほど発熱耐久性が良好なことを示す。
【0101】
酸素指数の測定は、JIS K7201−2に準拠し、キャンドル式燃焼試験機により測定した、酸素指数は大きいほど難燃性は良好である。
【0102】
製造例1(ビニル・シス−ポリブタジエンゴム:サンプルA−1の製造)
窒素ガスで置換した内容量5Lの撹拌機つきステンレス製反応槽中に、重合溶液3.5L(ブタジエン:30質量%、シクロヘキサン:70質量%)を入れ、水5.3mmol、ジエチルアルミニウムクロライド10.5mmol、二硫化炭素1.8mmol、シクロオクタジエン32mmol、及びコバルトオクトエート0.03mmolを加え、50℃で30分間撹拌し、シス−1,4重合を行った(a−1)。得られた重合生成液に、ポリイソプレン(IR)(ML=87、シス−1,4構造=98mol%)を10質量%(得られるビニル・シス−ポリブタジエンゴムに対する百分率)加え、50℃で1時間攪拌を行った。その後、ブタジエン560ml、水4.5mmol、トリエチルアルムニウムクロライド13.4mmol、及びコバルトオクトエート0.07mmolを加え、50℃で30分間撹拌し、1,2重合を行った(b−1)。これに老化防止剤として4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾールのメタノール溶液を加え、重合を停止した。その後、未反応のブタジエン及び2−ブテン類を蒸発除去し、105℃で60分間真空乾燥して、ビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A−1)を得た。ビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A−1)の沸騰n−ヘキサン不溶分は、1,2−ポリブタジエン結晶繊維(b)と不飽和高分子の一部又は全部であり、赤外吸収スペクトル分析により1,2−ポリブタジエンへの不飽和高分子の吸着割合(グラフト率)が算出できる。沸騰n−ヘキサン不溶分は、2gのビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A−1)を200mlのn−ヘキサンにて4時間ソックスレー法によって沸騰抽出した抽出残部を質量%で示した値である(不飽和高分子物質添加系以外では、1,2−ポリブタジエン結晶繊維の含有量である)。得られたビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A−1)の沸騰n−ヘキサン不溶分の赤外吸収スペクトル分析より算出した1,2−ポリブタジエンへのポリイソプレンの吸着割合(グラフト率)は、67質量%であった。
【0103】
製造例2(ビニル・シス−ポリブタジエンゴム:サンプルA−2の製造)
炭化水素系溶媒としてシクロヘキサンをベンゼンに変更し、ポリイソプレン(不飽和高分子物質)を添加しなかったこと以外は、サンプルA−1の製造方法と同様にしてビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A−2)を得た。
【0104】
前記サンプルA−1〜A−2の物性を表1に示した。
【0105】
【表1】

*1:繊維長200nm以下の結晶繊維の数
【0106】
次に、上記サンプルA−1,A−2に、表2の配合表に示す天然ゴム、カーボンブラック及び赤燐等の加硫促進剤及び硫黄以外の配合剤を添加してバンバリーミキサーにより4分混練し、その後オープンロールを用いて加硫促進剤及び硫黄を配合し、実施例、比較例に係る配合物を得た。その配合物を所定の金型に入れ、150℃で30分間プレス加硫を行い加硫物を得た。実施例及び比較例に係る配合物、加硫物の物性を測定し、表2に示した。
【0107】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶繊維の繊維長の平均が200nm以下であり、アスペクト比の平均が10以下、及び繊維長200nm以下の結晶繊維数が25μm当たり90以上であり、かつ融点が170℃以上である特定のシンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン結晶繊維(a)1〜30質量%、及びシス−ポリブタジエンゴム(b)99〜70質量%からなるビニル・シス−ポリブタジエンゴム(A)90〜5質量%と、(A)以外の加硫可能なゴム(B)10〜95質量%とからなるゴム成分(A)+(B)100質量部に対しゴム補強剤(C)30〜80質量部、ノンハロゲン系難燃剤(D)2〜50質量部を配合してなるゴム成分であることを特徴とする難燃性防振ゴム組成物。
【請求項2】
(A)以外の加硫可能なゴム(B)が、天然ゴム及び/又はポリイソプレンであることを特徴とする請求項1に記載の難燃性防振ゴム組成物。
【請求項3】
ゴム補強剤(C)がカーボンブラックであることを特徴とする請求項1および2のいずれかに記載の難燃性防振ゴム組成物。
【請求項4】
該ノンハロゲン系難燃剤(D)が平均粒径10μm以下である赤リンであることを特徴とする、請求項1乃至3いずれかに記載の難燃性防振ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか記載の難燃性防振ゴム組成物をゴム基材として用いることを特徴とする難燃性防振ゴム。

【公開番号】特開2009−227695(P2009−227695A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70910(P2008−70910)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】